以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の可塑性油脂組成物は、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上、1.5未満であり、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、油脂全体の質量に対して30〜65質量%でありコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを、組成物全体の質量に対して、0.05〜2.5質量%含有し、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量が、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して、3.0質量%未満である。
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに、3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1、2、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。すなわち、上記「SUS型トリグリセリド」は、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合したトリグリセリドである。また、上記「SSU型トリグリセリド」は、1位及び2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合したトリグリセリドである。なお、本発明の油脂は、「SUS型トリグリセリド」と、「SSU型トリグリセリド」以外のトリグリセリドを含んでもよく、含まなくてもよい。このようなトリグリセリドとしては、特に限定されないが、例えば、1位、2位、及び3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合した「SSS型トリグリセリド」等が挙げられる。
組成物の全質量に対する可塑性油脂組成物中の油脂の含有量は、特に限定されず、例えば乳化剤等の量に応じて適宜設定してもよいが、好ましくは60〜99.95質量%、より好ましくは、70〜99.95質量%であり、さらに好ましくは、80〜99.95質量%である。
飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれる全ての種類の飽和脂肪酸を意味する。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記数値表記は、各脂肪酸の炭素数である。本発明の油脂中に含まれる各トリグリセリドを構成する飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれる全ての種類の不飽和脂肪酸を意味する。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等が挙げられる。なお、上記数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数である。本発明の油脂中に含まれる各トリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
本発明の可塑性油脂組成物は、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が、低い方が、可塑性がよくなる。これは、SSU型トリグリセリドが多いと、結晶化しやすくなるためであると考えられる。しかし、この質量比が低すぎると、可塑性に優れるものの、可塑性油脂組成物の保形性が低下し、油の染み出しが多くなり、また、可塑性油脂組成物が添加された食品のシトリが低下する。この観点で、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上が特に好ましい。また、別の観点で、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が高すぎると、他の油脂との相溶性が低下するため、可塑性油脂組成物の保形性が低下し、油の染み出しが多くなり、また、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、クリーミング性が低下し、ロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性が低下する。よって、この観点で、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比は、1.2以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.8以下が特に好ましい。すなわち、本発明の可塑性油脂組成物は、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上、1.5未満であることによって、保形性に優れ、油の染み出しが起こりにくく、これが添加された食品がシトリに優れ、また、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、クリーミング性に優れ、ロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性に優れる。
本発明の可塑性油脂組成物は、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、油脂全体の質量に対して多い方が、保形性に優れ、油の染み出しが起こりにくく、また、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、クリーミング性に優れる。この観点で、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、油脂全体の質量に対して、32質量%以上であるのが好ましく、40質量%以上であるのがより好ましく、50質量%以上であるのが最も好ましい。しかし、この合計含有量が、油脂全体の質量に対して、多すぎると、可塑性油脂組成物が添加された食品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリが低下し、可塑性油脂組成物がロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性が低下する。そのため、本発明の可塑性油脂組成物が添加された食品が口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリに優れ、可塑性油脂組成物がロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性に優れる点で、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量は、油脂全体の質量に対して、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が最も好ましい。すなわち、本発明の可塑性油脂組成物は、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、油脂全体の質量に対して30〜65質量%であることによって、保形性に優れ、油の染み出しが起こりにくく、可塑性油脂組成物が添加された食品が口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリに優れ、さらに、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、クリーミング性に優れ、ロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性に優れる。
なお、可塑性油脂組成物自体の口溶けが向上すると、この可塑性油脂組成物が添加された食品の口溶けも向上する。
本発明の可塑性油脂組成物がコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを含有することで、可塑性油脂組成物が添加された食品が口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリに優れ、さらに、可塑性油脂組成物が製パン練り込み用である場合、焼成前の生地にベタツキがなく、生地状態に優れる。コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルの、組成物全体の質量に対する含有量の下限は、0.05質量%以上であれば特に限定されず、例えば、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量以上、0.8質量%以上、1.3質量%以上、1.8質量%以上等であってよい。しかし、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルの組成物全体における含有量が多すぎると、本発明の可塑性油脂組成物が添加された食品の口溶け、歯切れ、ソフトさ、シトリ及び風味が低下する。そのため、本発明の可塑性油脂組成物が添加された食品が口溶け、歯切れ、ソフトさ、シトリ及び風味に優れる点で、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルの組成物全体の質量に対する含有量は、1.7質量%以下が好ましく、1.2質量%以下がより好ましい。すなわち、本発明の可塑性油脂組成物は、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを、組成物全体の質量に対して、0.05〜2.5質量%含有することによって、可塑性油脂組成物が添加された食品が口溶け、歯切れ、ソフトさ、シトリ及び風味に優れ、さらに、可塑性油脂組成物が製パン練り込み用である場合、生地状態に優れる。
コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルは、特に限定されないが、例えば、コハク酸モノグリセリンステアリン酸エステル、コハク酸モノグリセリンラウリン酸エステル、コハク酸モノグリセリンミリスチン酸エステル、コハク酸モノグリセリンパルミチン酸エステル、コハク酸モノグリセリンミリストレイン酸エステル、コハク酸モノグリセリンパルミトレイン酸エステル、コハク酸モノグリセリンオレイン酸エステル、コハク酸モノグリセリンリノール酸エステル、コハク酸モノグリセリンリノレン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、コハク酸モノグリセリンステアリン酸エステルが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量が、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して、多い方が、保形性と口溶けがよくなる。しかし、トランス酸の摂取量が多くなると、人体に摂取された際のLDLコレステロールが増加しうる。よって、これを抑制しやすい観点で、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して2.0質量%未満が好ましく、1.5質量%未満がより好ましく、1.0質量%未満が最も好ましい。なお、トランス酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定する。
本発明の可塑性油脂組成物は、構成脂肪酸に炭素数18以上の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸全体の質量に対して40質量%以上含むモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含んでもよい。これにより、可塑性油脂組成物が添加された食品の口溶けを損なうことなく、ソフトさを向上させることができ、さらに、可塑性油脂組成物が製パン練り込み用である場合、生地状態が良好となり、製菓練り込み用である場合、クリーミング性が向上する。これは、可塑性油脂組成物がモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことにより、これが添加された食品のソフトさが向上する一方で、その口溶けが低下しうるところ、モノグリセリンモノ脂肪酸エステルが、その構成脂肪酸に炭素数18以上の不飽和脂肪酸を40質量%以上含むことによって、口溶けの低下を抑制しつつ、食品にソフトさを付与することが可能であるからであると推定される。構成脂肪酸に炭素数18以上の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸全体の質量に対して40質量%以上含むモノグリセリンモノ脂肪酸エステルの、組成物全体の質量に対する含有量は、特に限定されず、例えば、0.1質量%以上(0.2質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1.0質量%以上等)等であってもよい。該モノグリセリンモノ脂肪酸エステルの組成物全体の質量に対する含有量が多すぎると、可塑性油脂組成物が添加された食品が硬くなったり、風味が低下する恐れがある。そのため、この含有量は、2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.2質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以下が最も好ましい。また、構成脂肪酸中の炭素数18以上の不飽和脂肪酸の構成脂肪酸全体の質量に対する含有量は、可塑性油脂組成物が添加された食品がよりソフトさに優れ、可塑性油脂組成物が製パン練り込み用である場合により生地状態に優れ、製菓練り込み用である場合によりクリーミング性に優れる点で、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
炭素数18以上の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、特に限定されないが、モノグリセリンモノオレイン酸エステル、モノグリセリンモノリノール酸エステル、モノグリセリンモノリノレン酸エステル、モノグリセリンモノエイコセン酸エステル、モノグリセリンモノエルカ酸エステル、モノグリセリンモノセラコレイン酸エステル等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、モノグリセリンモノオレイン酸エステル又はモノグリセリンモノリノール酸エステルである。炭素数18以上の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、可塑性油脂組成物は、炭素数18未満の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含んでもよく、含まなくてもよい。さらに、可塑性油脂組成物は、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノグリセリンモノ脂肪酸エステルを含んでもよく、含まなくてもよい。
本発明の可塑性油脂組成物は、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルや、モノグリセリンモノ脂肪酸エステルの他に、さらに乳化剤を含んでもよく、含まなくてもよい。かかる乳化剤は、特に限定されないが、例えば、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、テトラグリセリン脂肪酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
本発明の可塑性油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸として、ラウリン酸をさらに含んでよく、含まなくてもよいが、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して0.9質量%以上含むことにより、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、口溶けを損なわずに、保形性を向上させることができる。これは、可塑性油脂組成物が油脂の構成脂肪酸として飽和脂肪酸を含むことにより、保形性が向上する一方で、その口溶けが低下しうるところ、ラウリン酸を0.9質量%以上含むことによって、口溶けの低下を抑制しつつ、可塑性油脂組成物の保形性を向上させることが可能であるからであると推定される。ラウリン酸の含有量は、構成脂肪酸全体の質量に対して、1.5質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上がさらに好ましく、5.0質量%以上が最も好ましい。ただし、ラウリン酸の含有量が、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して多すぎると、ラウリン酸の融点が低いため、可溶性油脂組成物は、保形性が低下する。この観点で、ラウリン酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して、15.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下がさらに好ましい。なお、ラウリン酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定する。
本発明の可塑性油脂組成物は、製菓製パン用である場合、構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリドの割合が5.0〜30質量%の範囲内であるのが好ましく、より好ましくは5.0〜25質量%の範囲内である。構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリドの割合がこの範囲内にあると、これを用いた可塑性油脂組成物が口溶けと保形性に優れ、また、この割合が5.0質量%以上であると可塑性油脂組成物の口溶けがよくなり、30質量%以下であると高温(35℃)での保形性が低下し、油が染み出すことを抑制できる。構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリドは、特に限定されないが、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸を構成脂肪酸として1種以上含み、これらの総炭素数が40〜48であってもよい。
本発明の可塑性油脂組成物は、ロールイン用である場合、構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリドの割合が5.0〜30質量%であるのが好ましく、10〜30質量%の範囲内であるのがより好ましく、さらに好ましくは10〜25質量%の範囲内である。構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリドの割合がこの範囲内にあると、ロールインした生地の伸展性が良好となり、この可塑性油脂組成物が添加された焼成品は歯切れのある食感が得られ、かつ焼成品の口溶けとフレーバーリリースも良好となる。
本発明の可塑性油脂組成物は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態のいずれの形態であってもよい。水相を含有する形態の場合、本発明の可塑性油脂組成物は、特に限定されないが、例えば、マーガリン類であってもよい。また、水相を含有する乳化形態は、特に限定されないが、例えば、油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型等が挙げられる。この場合の油相の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、好ましくは60〜99.4質量%であり、より好ましくは65〜98質量%である。また、水相の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、好ましくは0.6〜40質量%であり、より好ましくは2〜35質量%である。乳化形態は、特に口溶け及び保形性に優れ、かつ、油の染み出しが起こりにくいという点で、油中水型が好ましい。
本発明において、マーガリン類は、日本農林規格のマーガリン又はファットスプレッドに該当するものである。
水相を実質的に含有しない形態としては、ショートニングが挙げられる。本発明において、「実質的に含有しない」とは水相の含有量が0.5質量%以下のことを意味し、日本農林規格のショートニングに該当するものである。
可塑性油脂組成物の用途は、特に限定されないが、例えば、練り込み用(製菓練り込み用、製パン練り込み用等)、ロールイン用、バタークリーム用、スプレッド用、サンドクリーム用、フライ用、スプレー用等であってもよい。用途は、目的に応じて適宜設定してもよいが、本発明の可塑性油脂組成物は、クリーミング性に優れるという点で、その用途は、製菓練り込み用であるのが好ましく、生地状態に優れる点で、製パン練り込み用が好ましく、ロールインした生地の伸展性に優れる点で、ロールイン用が好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物は、水以外に、従来の公知の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、乳、乳製品、タンパク、糖類、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、着色成分、呈味素材、フレーバー等が挙げられる。乳としては、例えば、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。タンパクとしては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白等が挙げられる。糖類としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール、デンプン、デンプン分解物、多糖類等が挙げられる、抗酸化剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アナトー、アスタキサンチン等が挙げられる。フレーバーとしては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。
本発明において、トリグリセリドの構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「暫7−2003 2位脂肪酸組成」)により行う。また、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルとモノグリセリンモノ脂肪酸エステルの乳化剤の分析は、HPLC−MS/MSにより行う。
<可塑性油脂組成物の製造方法>
本発明の可塑性油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、水相を含有する形態のもの(マーガリン類等)は、本発明の油脂組成物を含む油相と水相とを、適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し、必要に応じて熟成(テンパリング)し得ることができる。特にロールイン用である場合、例えば、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状等の様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点等から、シート状とすることが好ましい。ロールイン用可塑性油脂組成物をシート状とした場合のサイズは、特に限定されないが、例えば、幅50〜1000mm、長さ50〜1000mm、厚さ1〜50mmとすることができる。水相を含有しない形態のもの(ショートニング)は、本発明の油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し、必要に応じて熟成(テンパリング)し得ることができる。
本発明の可塑性油脂組成物の製造に用いられる油脂としては、特に限定されないが、パーム系油脂、ヤシ油、パーム核油、豚脂(ラード)、牛脂、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、乳脂、それらの分別油又はそれらの加工油(硬化及びエステル交換のうち1以上の処理がなされたもの)等が挙げられる。油脂中のSSU型トリグリセリド及びSUS型トリグリセリドの合計含有量のバランスを適宜調整するために、これらの油脂としては、1種あるいは2種以上を選択して含有させることが好ましい。上記油脂に極度硬化油を含有させる場合、極度硬化油の添加量が油脂全体の質量に対して、5質量%以下であると、可塑性油脂組成物の口溶けを損なわない。この点で、可塑性油脂組成物の製造に用いられる油脂は、極度硬化油を、油脂全体の質量に対して5質量%以下含有することが好ましい。パーム系油脂とは、パーム油、パーム油の分別油又はそれらの加工油(硬化及びエステル交換のうち1以上の処理がなされたもの)であればいずれでもよく、具体的には、1段分別油であるパームオレイン、パームステアリン、パームオレインの2段分別油であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション、パームステアリンの2段分別油であるパームステアリン(ソフトステアリン)、パームステアリン(スーパーステアリン)等が挙げられる。また、ラウリン酸を含有させるために添加する油脂としては、特に限定されないが、ヤシ油やパーム核油、それらの分別油又はそれらの加工油(硬化及びエステル交換のうち1以上の処理がなされたもの)等が挙げられる。
上記油脂のうち、本発明の可塑性油脂組成物の製造には、エステル交換油脂を使用することが好ましく、エステル交換油脂の中でも、ラウリン系油脂とパーム系油脂とをエステル交換したものが好ましい。特に、高温や経時による油の染み出しや長期保存による硬さ変化が少なく、可塑性油脂組成物の保形性に優れるという点で、ラウリン系油脂とパーム系油脂のエステル交換油脂を含有することが好ましく、ラウリン系油脂5質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂70質量%超95質量%以下とをエステル交換したものが好ましく、さらに好ましくは、ラウリン系油脂10〜28質量%と、パーム系油脂72〜90質量%とをエステル交換したものである。ラウリン系油脂とパーム系油脂の質量%が、この範囲内であると、可塑性油脂組成物の口溶けがよくなり、低温から高温までの広温度域において可塑性を有する可塑性油脂組成物を得ることができる。
可塑性油脂組成物の口溶けに優れるという点で、上記エステル交換油脂は、油脂配合中に5〜50質量%含有することが好ましい。上記エステル交換油脂を適宜添加することによって、油脂全体の質量に対する構成脂肪酸の総炭素数40〜48であるトリグリセリド量を調整することができる。
可塑性油脂組成物の口溶けがよく、低温から高温までの広温度域において可塑性を有する可塑性油脂組成物を得ることができる点で、上記エステル交換油脂のヨウ素価は、20〜45の範囲内であるのが好ましく、さらに好ましくは、20〜40の範囲内である。さらに、これらの範囲内のヨウ素価を持つ上記エステル交換油脂を原料に用いて得られた本発明の可塑性油脂組成物は、他の油脂との相溶性が極めてよいため、長期保存しても油の染み出しや硬さの変化等の極めて少ない安定性に優れた可塑性油脂を得ることができる。
<可塑性油脂組成物を添加した食品>
本発明は、可塑性油脂組成物を用いた食品を包含する。
食品は、特に限定されないが、穀粉を原料として加熱調理されたベーカリー製品が好ましい。ベーカリー製品としては、特に限定されないが、例えば、製菓(例えば、パイ、ケーキ(パウンドケーキ等)、クッキー、ビスケット、クラッカー、ワッフル、スコーン、シュー、ドーナツ等)、製パン(食パン、菓子パン、クロワッサン、デニッシュ、ベーグル、ロールパン、コッペパン等)等が挙げられる。
(エステル交換油脂の製造)
エステル交換油脂1
パーム核極度硬化油20質量%、パーム油55質量%、パーム油極度硬化油25質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラート添加し、減圧下で、エステル交換した。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色しエステル交換油脂1を得た。エステル交換油脂1のSUS含量は14.4質量%、SSU含量は28.9質量%、ヨウ素価30であった。
エステル交換油脂2
パームオレイン(ヨウ素価56)に触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換した。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭しエステル交換油脂2を得た。エステル交換油脂2のSUS含量は11.1質量%、SSU含量は22.3質量%であった。
(製パン練り込み用マーガリンの製造)
後述する表1に示す油脂配合で調合した油脂82.5質量%に、乳化剤を添加した油脂組成物を、75℃に調温して油相とした。一方、マーガリン全体が100質量%となるように水の量を適宜調整し、脱脂粉乳1.5質量%を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、製パン練り込み用マーガリンを得た(実施例1〜13、比較例1〜9)。
(製パン練り込み用ショートニングの製造)
後述する表2に示す油脂配合で調合した油脂に、乳化剤を添加した油脂組成物を、75℃に調温した後、コンビネーターによって急冷捏和して、製パン練り込み用ショートニングを得た(実施例14〜26、比較10〜18)。
(製菓練り込み用マーガリンの製造)
後述する表3に示す油脂配合で調合した油脂82.5質量%に、乳化剤を添加した油脂組成物を、75℃に調温して油相とした。一方、マーガリン全体が100質量%となるように水の量を適宜調整し、脱脂粉乳1.5質量%を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和し熟成して、製菓練り込み用マーガリンを得た(実施例27〜39、比較例19〜27)。
(ロールイン用マーガリンの製造)
後述する表4に示す油脂配合で調合した油脂82.5質量%に、乳化剤を添加した油脂組成物を、75℃に調温して油相とした。一方、マーガリン全体が100質量%となるように水の量を適宜調整し、脱脂粉乳2.0質量%、食塩1.0質量%を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和し25cm×21cm×1cmのシート状に成型して、ロールイン用マーガリンを得た(実施例40〜52、比較例28〜36)。
(食パンの製造)
後述する表1、2に示す実施例1〜26及び比較例1〜18の油脂組成物より製造した製パン練り込み用マーガリン、ショートニングを用いて、食パンを製造した。具体的には、まず、イーストを分散させた水、イーストフード、及び強力粉をミキサーボールに投入し、フックを使用し、低速4分、中低速1分でミキシングを行った。捏上げ温度は24℃であった。その後、27℃、湿度75%の条件で4時間発酵を行った。発酵の終点温度は29℃であり、発酵後、中種生地を得た。その後、製パン練り込み用マーガリン又はショートニング以外の材料及び中種生地を、低速3分、中高速3分でミキシングした後、製パン練り込み用マーガリン又はショートニングを投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングしパン生地を得た。捏上温度は28℃であった。その後、室温で20分フロアタイムをとった後、成型して、38℃、湿度80%のホイロで45分発酵させた後、200℃で40分間焼成して食パンを得た(実施例1〜26、比較例1〜18)。焼成したパンを室温で放冷させた後、20℃の恒温槽に保存した。食パンの配合は下記に示す。
〈食パンの配合〉
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
製パン練り込み用マーガリン又はショートニング 5質量部
水 25質量部
(パウンドケーキの製造)
後述する表3に示す実施例27〜39及び比較例19〜27の油脂組成物より製造した製菓練り込み用マーガリンを用いてパウンドケーキを製造した。
・ミキシング
シュガーバッター法で行った。製菓練り込み用マーガリンと上白糖をすり合わせホイップし、比重を0.75とした。その後、全卵を徐々に加え合わせ、最後に薄力粉とベーキングパウダーを加え合わせ、最終比重を0.8〜0.85とした。
・目付
パウンド型に350g目付けした。
・焼成
165℃で35分間焼成した。
〈パウンドケーキの配合〉
薄力粉 100質量部
上白糖 100質量部
製菓練り込み用マーガリン 100質量部
全卵 100質量部
ベーキングパウダー 2質量部
(デニッシュの製造)
下記の配合及び製造条件でデニッシュを製造した。具体的には、後述する表4に示す実施例40〜52、比較例28〜36の油脂組成物より製造したロールイン用マーガリン及び練り込み用マーガリン以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、練り込み用マーガリンを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地にロールイン用マーガリンを折り込み、3折り2回を加え−10℃にて20分リタードし、3折り1回を加え−10℃にて60分リタードさせた。その後ゲージ厚3mmとした後、10cm角(10cm×10cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
〈デニッシュの配合〉
強力粉 100質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.6質量部
脱脂粉乳 4質量部
練り込み用マーガリン
(アドフリー700ミヨシ油脂製乳化剤無添加マーガリン) 10質量部
イースト 4質量部
水 63質量部
ロールイン用マーガリン 生地100質量部に対して20質量部
〈デニッシュの製造条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速5分、(練り込み用マーガリン投入)、低速2分、
中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアタイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3折×2回 −10℃にてリタード20分
3折×1回 −10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm
ホイロ: 35℃ 75% 60分
焼成: 200℃ 15分
(評価)
製造したマーガリン、ショートニングについて、保形性、染み出し、トランス酸量、それぞれが添加された焼製品(食パン、パウンドケーキ、デニッシュ)の食感(口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリ)及び風味を評価した。製パン練り込み用マーガリン、製パン練り込み用ショートニングについては、それぞれが添加された焼成品の生地状態を評価した。製菓練り込み用マーガリンについては、クリーミング性を評価した。ロールイン用マーガリンについては、生地にロールインされた時の伸展性を評価した。
保形性については、マーガリン又はショートニングを3×3×3cm角にカットし、35℃の恒温槽にて3日保存したときの保形性を目視にて評価した。評価基準は、形状に全く変化がない場合、「5」とし、形状に若干変化がある場合、「4」とし、形状の崩れがある場合、「3」とし、形状の崩れが多くある場合、「2」とし、形状の崩れがかなり多くある場合、「1」とした。
染み出しについては、マーガリン又はショートニングを3×3×3cm角にカットし、35℃の恒温槽にて3日保存したときの油の染み出しを目視にて評価した。評価基準は、全く染み出しがない場合、「5」とし、若干染み出しがある場合、「4」とし、染み出しがある場合、「3」とし、染み出しが多くある場合、「2」とし、染み出しが大きく広がっている場合、「1」とした。
焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ、シトリについては、パネル12名により官能評価を行った。評価基準は、12名中10人以上が良好であると評価した場合、「5」とし、12名中8〜9人が良好であると評価した場合、「4」とし、12名中6〜7人が良好であると評価した場合、「3」とし、12名中4〜5人が良好であると評価した場合、「2」とし、12名中3人以下が良好であると評価した場合、「1」とした。
焼成品の風味については、パネル12名により官能評価を行った。評価基準は、12名中10人以上が「異味を全く感じない」と評価した場合、「5」とし、12名中8〜9人が「異味を全く感じない」と評価した場合、「4」とし、12名中6〜7人が「異味を全く感じない」と評価した場合、「3」とし、12名中4〜5人が「異味を全く感じない」と評価した場合、「2」とし、12名中3人以下が「異味を全く感じない」と評価した場合、「1」とした。
生地状態については、製パン練り込み用マーガリン又は製パン練り込み用ショートニングを添加した後の焼成品の生地状態を評価した。評価基準は、ベタツキが全くない場合、「5」とし、ベタツキがない場合、「4」とし、ややベタツキがある場合、「3」とし、ベタツキがあり、扱いにくい場合、「2」とし、ベタツキがかなりあり、非常に扱いにくい場合、「1」とした。
クリーミング性については、卓上ミキサー(Kitchen Aid社)を用いて、調温したマーガリン又はショートニング500gを多羽ホイッパーで速度4にてクリーミングし、マーガリン又はショートニングの比重が0.4よりも軽くなるまでの時間で評価した。評価基準は、5分以内である場合、「5」とし、5分〜6分30秒以内である場合、「4」とし、6分30秒〜8分以内である場合、「3」とし、8分超である場合、「2」とし、比重0.4よりは軽くならない場合、「1」とした。
伸展性については、約2kgの生地にロールイン用マーガリン400gをのせ、折り込み時のロールイン用マーガリンの伸展性を評価した。評価基準は、生地中で油脂が均一に伸び、伸展性が非常に良好である場合、「5」とし、生地中で油脂が均一に伸び、伸展性が良好である場合、「4」とし、生地中で油脂がやや不均一に伸びるが、伸展性が良好である場合、「3」とし、生地中で油脂が不均一に伸び、やや油脂切れがある場合、「2」とし、平均点が1.5未満である場合、「1」とした。
トランス酸の含有量については、マーガリン又はショートニングの油脂中のトランス酸量をガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。評価基準は、トランス酸量が3.0質量%未満である場合、「○」し、トランス酸量が3.0質量%以上である場合、「×」とした。
実施例、比較例の油脂組成物の作製に用いた乳化剤を以下に示す。
コハク酸モノグリセリンステアリン酸エステル:ポエムB10(理研ビタミン株式会社製)
ジアセチル酒石酸モノグリセリンステアリン酸エステル:ポエムW60(理研ビタミン株式会社製)
モノグリセリンモノオレイン酸エステル:エマルジーMO(理研ビタミン株式会社製、炭素数18以上の不飽和脂肪酸含量 60質量%)
モノグリセリンモノリノール酸エステル:エマルジーMU(理研ビタミン株式会社製、炭素数18以上の不飽和脂肪酸含量 84質量%)
製パン練り込み用マーガリンについての実施例1〜13及び比較例1〜9の組成及び評価について、下記の表1に示す。
製パン練り込み用ショートニングについての実施例14〜26及び比較例10〜18の組成及び評価について、下記の表2に示す。
製菓練り込み用マーガリンについての実施例27〜39及び比較例19〜27の組成及び評価について、下記の表3に示す。
ロールイン用マーガリンについての実施例40〜52及び比較例28〜36の組成及び評価について、下記の表4に示す。
比較例1〜36において、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量が、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して、3.0質量%未満であり、かつ、保形性、染み出し、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリの全てに優れるものは確認されなかった。これに対し、実施例1〜52においては、保形性、染み出し、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリが優れるのに加え、焼成品の評価が高いことが確認された。また、実施例1〜26(製パン練り込み用マーガリン、製パン練り込み用ショートニング)については、生地状態の評価が高いこと、実施例27〜39(製菓練り込み用マーガリン)については、クリーミング性の評価が高いこと、実施例40〜52(ロールイン用マーガリン)については、ロールインした生地の伸展性の評価が高いことが確認された。上記表1〜4に記載されたそれぞれの組成から明らかなように、これら実施例にかかる可塑性油脂組成物は、全て、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上、1.5未満であり、油脂全体における2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が30〜65質量%であり、組成物全体におけるコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、0.05〜2.5質量%であり、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量が、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して、3.0質量%未満である。一方、比較例1〜36においては、「SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上、1.5未満であること」、「油脂全体における2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が30〜65質量%であること」、「組成物全体におけるコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、0.05〜2.5質量%であること」、及び「油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量が、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して、3.0質量%未満であること」の要件全てを満たすものはない。
2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、30質量%未満である比較例5、14、23、32は、保形性、染み出しの評価が低かった。また、比較例23(製菓練り込み用マーガリン)は、クリーミング性の評価が低いことが確認された。この結果は、可塑性油脂組成物は、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量は、30質量%以上であることによって、保形性に優れ、油の染み出しが起こりにくくなり、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、クリーミング性が向上することを示す。一方、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、65質量%超である、比較例6、15、24、33は、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリの評価が低かった。また、比較例33(ロールイン用マーガリン)は、生地の伸展性の評価が低かったことが確認された。この結果は、可塑性油脂組成物は、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量は、65質量%以下であることによって、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリが向上し、可塑性油脂組成物がロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性が向上することを示す。
SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2未満である比較例7、16、25、34は、保形性、染み出し及び焼成品のシトリの評価が低かったことが確認された。一方、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が1.5以上である比較例8、17、26、35は、保形性、染み出しの評価が低いことが確認された。また、比較例26(製菓練り込み用マーガリン)は、クリーミング性の評価が低いこと、比較例35(ロールイン用マーガリン)は、生地の伸展性が低いことが確認された。この結果は、可塑性油脂組成物は、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上であることによって、焼成品のシトリが向上し、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が1.5未満であることにより、可塑性油脂組成物が製菓練り込み用である場合、クリーミング性が向上し、ロールイン用である場合、ロールインした生地の伸展性が向上し、さらに、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上であり、かつ、1.5未満であることにより、保形性に優れ、油の染み出しが起こりにくくなることを示す。
コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを、組成物全体の質量に対して、2.5質量%超含む比較例4、13、22、31は、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ、シトリ及び風味の評価が低かったことが確認された。一方、乳化剤を含まない比較例1、10、19、28と、乳化剤としてモノグリセリンモノオレイン酸エステルのみを含む比較例2、11、20、29においては、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリの評価が低かったことが確認された。また、比較例1、2、10、11(製パン練り込み用マーガリン、製パン練り込み用ショートニング)は、生地状態の評価が低いことが確認された。さらに、乳化剤としてジアセチル酒石酸モノグリセリンステアリン酸エステルとモノグリセリンモノオレイン酸エステルのみを含む比較例3、12、21、30は、焼成品の歯切れ及び風味の評価が低いことが確認された。これらの結果は、可塑性油脂組成物は、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを、組成物全体の質量に対して、0.05〜2.5質量%含むことで、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ、シトリ及び風味の評価が向上し、可塑性油脂組成物が製パン練り込み用マーガリン又は製パン練り込み用ショートニングである場合、生地状態が向上することを示す。
以上の結果より、可塑性油脂組成物において、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上、1.5未満であり、2飽和−1不飽和型トリグリセリドと3飽和型トリグリセリドとの合計含有量が、油脂全体の質量に対して30〜65質量%であり、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルを組成物全体の質量に対して、0.05〜2.5質量%含有することによって、油脂の構成脂肪酸中のトランス酸の含有量が油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して3.0質量%未満であっても、可塑性油脂組成物は、保形性に優れ、油の染み出しが起こりにくく、焼成品の口溶け、歯切れ、ソフトさ及びシトリに優れるのみではなく、焼成品の風味及び生地状態、クリーミング性又は生地の伸展性に優れることが示された。
乳化剤として、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルのみを含む実施例1、2、14、15、27、28、40、41は、乳化剤として、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルとモノグリセリンモノオレイン酸エステル又はモノグリセリンモノリノール酸エステルとを併用している実施例3〜5、16〜18、29〜31、42〜44とは、乳化剤以外の組成は同じであるが、実施例3〜5、16〜18、29〜31、42〜44の方が、焼成品のソフトさに優れていたことが確認された。特に、実施例3〜5、16〜18(製パン練り込み用マーガリン、製パン練り込み用ショートニング)は、生地状態においても優れており、実施例29〜31(製菓練り込み用マーガリン)は、クリーミング性においても優れていた。この結果は、可塑性油脂組成物は、乳化剤として、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルに加え、モノグリセリンモノオレイン酸エステル又はモノグリセリンモノリノール酸エステルも使用することで、焼成品がソフトさに優れ、可塑性油脂組成物が製パン練り込み用である場合、生地状態に優れ、製菓練り込み用である場合、クリーミング性に優れることを示す。なお、モノグリセリンモノオレイン酸エステル又はモノグリセリンモノリノール酸エステルは、実質的にはオレイン酸やリノール酸以外の脂肪酸も構成脂肪酸として含んでおり、いずれも構成脂肪酸に炭素数18以上の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸全体の質量に対して40質量%以上含むモノグリセリンモノ脂肪酸エステルである。口溶けを低下させずに、これらの結果が得られたのは、オレイン酸やリノール酸等の炭素数18以上の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノグリセリンモノ脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸よりも口溶けが良いためであると考えられる。
上記のとおり、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.2以上であり、かつ、1.5未満であることによって、可塑性油脂組成物は保形性が向上する。つまり、この範囲において、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比を、0.2、1.5に近づかないようにし、バランスのとれた数値とすることで、保形性向上効果はより一層高まると考えられる。ここで、油脂の構成脂肪酸として、ラウリン酸を、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して0.9質量%以上含む、実施例6、11、12(製パン練り込み用マーガリン)、19、24、25(製パン練り込み用ショートニング)、32、37、38(製菓練り込み用マーガリン)、45、50、51(ロールイン用マーガリン)は、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が、0.2、1.5に近かったため、保形性向上効果が比較的少なくなり、保形性の評価が「4」又は「3」であったと考えられる。一方で、ラウリン酸の含有量が0.9質量%未満である実施例7(製パン練り込み用マーガリン)、20(製パン練り込み用ショートニング)、33(製菓練り込み用マーガリン)、46(ロールイン用マーガリン)は、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比が0.62であり、この数値と同程度の数値を有する他の実施例では、保形性の評価が「5」である。しかし、実施例7、20、33、46においては、保形性の評価が「4」であることが確認された。実施例7、20、33、46においては、SSU型トリグリセリドに対するSUS型トリグリセリドの質量比の数値のバランスがよいにもかかわらず、このような結果となったのは、ラウリン酸の含有量が0.9質量%未満であったことに起因すると考えられる。以上より、可塑性油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸として、ラウリン酸を、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して0.9質量%以上含むことにより、口溶けを損なわずに保形性が向上することが示唆された。