以下に、本発明の成形品の製造方法、自動車ホイール用ディスクおよび液圧バルジ加工用金型を、前述のように規定した理由および好ましい範囲について説明する。
[本発明の成形品の製造方法]
本発明の成形品の製造方法は、前工程と後工程とを含み、その前工程では、前述のような液圧バルジ加工を行う。具体的には、前工程では、上下一対の液圧バルジ加工用金型に挟持された1枚または2枚の素材金属板に液圧をかけ、液圧バルジ加工用金型のキャビティー部内に素材金属板を膨出成形する。これにより、素材金属板のうちでキャビティー部内に膨出した部位の板厚を減少させる。
また、前工程で液圧バルジ加工用金型によって素材金属板を挟持する際に、素材金属板の一部を折り曲げた後でその折り曲げ部の周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化する。具体例としては、液圧バルジ加工用金型が備える複数のパッドを用い、素材金属板の一部を折り曲げた後でその折り曲げ部の周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化する。これにより、素材金属板のうちで折り曲げられた後で平坦化された部位の板厚を増加させる。
したがって、本発明の成形品の製造方法は、前工程で素材金属板の折り曲げられた後で平坦化された部位で板厚を増加させるとともに、キャビティー部内に膨出した部位で板厚を減少させる。このようにして所望の板厚分布に調整した素材金属板を後工程で成形し、所望の形状の成形品を得る。得られる成形品は、前工程で板厚分布を調整していることから、所望の板厚分布となる。
このような本発明の成形品の製造方法を、成形品がホイールディスクである場合を例にして、詳細に説明する。なお、以下の例では2枚の素材金属板を使用しているが、本発明の成形品の製造方法は1枚の素材金属板を用いてホイールディスクを製造することも可能である。
図5は、成形品がホイールディスクである場合の前工程の加工フロー例を模式的に示す断面図であり、同図(a)はブランクホールドした状態、同図(b)は素材金属板の一部を折り曲げた状態、同図(c)は素材金属板を挟持した状態、同図(d)は膨出成形終了時の状態をそれぞれ示す。同図には、液圧バルジ加工用金型30と、2枚の素材金属板70とを示す。
同図に示す液圧バルジ加工用金型30は、一対の上型50と下型40とで構成される。上型50には、凹状のキャビティー部(51a、51b)が下型40と素材金属板を介して当接する先端面に設けられる。また、下型40にも、凹状のキャビティー部(41a、41b)が上型50と素材金属板を介して当接する先端面に設けられる。流体を注入するための注入孔(図示なし)は、下型40に設けられる。その注入孔を囲繞するように環状の溝(図示なし)が設けられ、その溝にはシール材(図示なし)が配置される。
また、上型50には、素材金属板を挟持した状態でその素材金属板を介して下型40と当接する平坦部が設けられる。同図に示す上型50では、中心のキャビティー部51aと外側のキャビティー部51bの間の部分が平坦部となる。下型40にも、素材金属板を挟持した状態でその素材金属板を介して上型50と当接する平坦部が設けられる。同図に示す下型40では、中心のキャビティー部41aと外側のキャビティー部41bの間の部分が平坦部となる。
上型の平坦部には、上型側パッド32が設けられ、その上型側パッド32はパッド用加圧機構(例えばばねやゴム、ガスシリンダ、油圧シリンダ等)33を介して上型50に装着される。このように装着された上型側パッド32は上下方向にスライド可能である。一方、下型の平坦部には、2つの下型側パッド(31a、31b)が設けられ、その下型側パッド(31a、31b)はパッド用加圧機構33を介して下型40にそれぞれ装着される。このように装着された下型側パッド(31a、31b)は、いずれも上下方向にスライド可能である。
素材金属板の外周を保持するため、金型30には一対の外周ホルダー35が設けられ、その外周ホルダー35は、ホルダー用加圧機構36を介して上型50および下型40にそれぞれ装着される。これらの外周ホルダー35は、上下方向にそれぞれスライド可能である。
挟持する際に素材金属板に径方向の圧縮力を付与するため、金型30には圧縮用パッド37が設けられる。圧縮用パッド37は、素材金属板のエッジ部と当接し、パッド用加圧機構33によって径方向にスライド可能である。この圧縮用パッドは、所定の角度間隔で複数配置され、例えば90°間隔で4つ配置される。
2枚の素材金属板70は、重ねて配置され、その最外周(外周ホルダー35の外側)がシールされている。素材金属板70の最外周のシールは、溶接などで接合する方式やビード等によって押圧する方式を採用できる。また、2枚の素材金属板のうちで下型40と当接する素材金属板には、注入透過孔(図示なし)が下型の注入孔(図示なし)の位置する部位に設けられる。
このような金型を用いた液圧バルジ加工では、上型50と下型40とを離間させた状態で、上型50と下型40の間に素材金属板70を配置する。ここで、上型側パッド32は上型50から突き出るように配置されるとともに、下型側パッド(31a、31b)は下型40から突き出るように配置される。このため、上型50と下型40とを上下方向に相対移動させると、同図(a)に示すように上型50に装着された上型側パッド32と、下型40に装着された下型側パッド(31a、31b)とが素材金属板70に当接する。このようにして素材金属板70がホールドされる。
上型50と下型40とを上下方向にさらに相対移動させると、素材金属板のうちで上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間に位置する部位が、上型側パッド32および下型側パッド(31a、31b)とに沿って変形して折り曲げられる。この折り曲げに伴って素材金属板の一部が外側から中心側に移動し、具体的には、上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間にその外側に位置する部位が流入する。やがて、同図(b)に示すように、上型側パッド32は、素材金属板70を介して下型の平坦部と当接し、下型側パッド(31a、31b)は、素材金属板70を介して上型の平坦部と当接する。その結果、素材金属板のうちで上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間に位置する部位は、上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)とによって傾斜したような状態となる。
上型50と下型40とを上下方向にさらに相対移動させると、同図(c)に示すように、上型と下型とが素材金属板を介して当接することにより素材金属板が金型に挟持される。
その際、上型側パッド32が下型の平坦部によって押し込まれるとともに、下型側パッド(31a、31b)が上型の平坦部によって押し込まれる。これに伴い、素材金属板のうちで上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間に位置する部位は、周辺部を上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)によって拘束された状態で、傾きが小さくなる。やがて、上型の平坦部と下型の平坦部とが素材金属板を介して当接し、上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間に位置する部位は、上型の平坦部および下型の平坦部に沿う形状となって平坦化される。このように平坦化される過程で、上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間に位置する部位は、折り曲げた際に外側の部位が流入していることから、その板厚が増加する。
素材金属板70を挟持した状態で注入孔(図示なし)から金型30内へ流体を注入すると、2枚の素材金属板の間に流体が流入する。この流入した流体の圧力(液圧)が素材金属板にかかり、素材金属板70の一部がキャビティー部(41a、41b、51a、51b)に膨出する。さらに、注入孔から流体を注入すると、同図(d)に示すように、素材金属板70の一部が、金型30のキャビティー部(41a、41b、51a、51b)に押し当てられて所定の形状に膨出成形される。このように素材金属板の一部が膨出する過程で、その膨出する部位は断面線長が増加することから、膨出する部位の板厚が減少する。
このような加工フロー例を採用できる本発明の成形品の製造方法は、上型側パッド32および下型側パッド(31a、31b)を用いて素材金属板の一部を折り曲げた後で周辺部を拘束しつつ平坦化することにより、素材金属板の一部の板厚を増加させる。また、液圧バルジ加工によって素材金属板の一部の板厚を減少させる。このようにして所望の板厚分布に調整した素材金属板を後工程で成形し、所望の形状の成形品を得る。得られた成形品は、前工程で板厚分布を調整していることから、所望の板厚分布となる。
本発明の成形品の製造方法は、液圧バルジ加工用金型で素材金属板を挟持する際に部分的に板厚を増加させ、その後の液圧バルジ加工で部分的に板厚を減少させる。このように板厚を部分的に増加させる処理と板厚を部分的に減少させる処理とを同じ工程で、換言すると、同じ金型を用いて行うので、効率よく素材金属板を所望の板厚分布にできる。
本発明の成形品の製造方法は、液圧バルジ加工によって素材金属板の板厚を部分的に減少させることから、プレス成形で加工して板厚を減少させる場合と比べ、均一かつ安定的に素材金属板を変形させることができる。これは、液圧バルジ加工では、パンチに代えて流体を用いることから、素材金属板との摩擦が生じないためである。
前記図5に示す液圧バルジ加工用金型30は、上型側パッド32の全部が上型50の平坦部に配置されている。本発明の成形品の製造方法は、上型側パッド32をキャビティー部(51a、51b)と隣接させる場合、素材金属板の折り曲げや折り曲げ部の周辺部の拘束が実現できれば、上型側パッドの一部を上型の平坦部に配置する実施形態を採用できる。換言すると、上型側パッドの残部をキャビティー部(51a、51b)に配置する実施形態を採用できる。
また、前記図5に示す液圧バルジ加工用金型30は、下型側パッド(31a、31b)の全部が下型40の平坦部に配置されている。本発明の成形品の製造方法は、前記図5に示すように下型側パッド(31a、31b)をキャビティー部(41a、41b)と隣接させる場合、素材金属板の折り曲げや折り曲げ部の周辺部の拘束が実現できれば、下型側パッドの一部を下型の平坦部に配置する実施形態を採用できる。換言すると、下型側パッドの残部をキャビティー部(41a、41b)に配置する実施形態を採用できる。
本発明の成形品の製造方法は、素材金属板を液圧バルジ加工用金型で挟持する際に、圧縮用パッド37を用いて素材金属板の外周側から圧縮力を付与するのが好ましい。この圧縮用パッド37は、成形品がホイールディスクであれば、前記図5に示すように素材金属板に径方向の圧縮力を付与する。また、成形品がハット型であれば、素材金属板に幅方向の圧縮力を付与する。このような圧縮用パッド37を用いれば、素材金属板を折り曲げる際に上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)との間にその外側に位置する部位が流入するのを促進でき、板厚をより増加させることができる。
本発明の成形品の製造方法は、上型側パッド32および下型側パッド(31a、31b)で素材金属板の一部を折り曲げた際に、上型側パッド32と下型側パッド(31a、31b)の間に位置しない部位が過剰に反って変形するのを防止するため、適宜、ホルダーによって素材金属板を押さえてもよい。このホルダーは、前述の外周ホルダー35が該当する。
本発明の成形品の製造方法は、膨出成形された素材金属板における断面線長と、成形品における断面線長とを略同じとするのが好ましい。これにより、後工程で膨出成形された素材金属板を所望の形状に成形して成形品得る際に、板厚の減少やしわの発生を抑制することができる。具体的には、膨出成形された素材金属板における断面線長(mm)に対し、成形品における断面線長(mm)が占める割合を百分率で90〜110%とするのが好ましい。
本発明において、断面線長とは、成形品がホイールディスクであれば、径方向の断面における板厚方向の中心に沿う線の長さを意味する。また、成形品がハット型であれば、幅方向の断面における板厚方向の中心に沿う線の長さを意味する。
上型側パッド32と上型50との間、および、下型側パッド(31a、31b)と下型40との間には、構造上隙間が生じる。これらの隙間が、素材金属板の板厚を超えると、液圧バルジ加工で素材金属板の一部を膨出成形する際に素材金属板が隙間に入り込み、せん断によって穴(切れ目)が生じるおそれがある。このため、本発明の成形品の製造方法は、上型側パッド32と上型50との隙間、および、下型側パッド(31a、31b)と下型40との隙間をいずれも素材金属板の板厚以下とするのが好ましい。
本発明の成形品の製造方法は、後工程で膨出成形された素材金属板を所望の形状に成形するが、その成形は、種々の成形法を用いて行うことができ、例えばプレス成形や液圧バルジ加工による膨出成形によって行うことができる。
[成形品をホイールディスクとする場合の実施態様]
本発明の成形品の製造方法は、前記図5の加工フロー例に示すように、成形品をホイールディスクとすることができる。このホイールディスクは、前記図1に示すように、ディスク中心側から順に、同心状に、ハブ取付け部、R部、内側湾曲部、ハット部、外側湾曲部およびフランジ部を有する。
成形品をホイールディスクとする場合、前工程で素材金属板を挟持する際に素材金属板の一部を折り曲げた後でその折り曲げ部の周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化することにより、後工程の成形でR部およびハット部となる部位で板厚を増加させる。また、前工程で液圧バルジ加工用金型のキャビティー部内に素材金属板を膨出成形することにより、後工程の成形でハブ取付け部となる部位で板厚を減少させる。
R部およびハット部となる部位における板厚増加は、例えば前記図5に示すようにパッドを配置することにより実現できる。具体的には、R部となる部位の内側に第1下型側パッド31aを配置するとともに、内側湾曲部となる部位に上型側パッド32を配置する。これにより、R部となる部位の板厚増加を実現できる。加えて、ハット部となる部位の外側に第2下型側パッド31bを配置する。この第2下型側パッド31bと前述の上型側パッド32とにより、ハット部となる部位の板厚増加を実現できる。
ハブ取付け部となる部位の板厚減少は、例えば前記図5に示すように、第1下型側パッド31aの内側に第1キャビティー部(41aおよび51a)を設けることにより実現できる。
このようにR部およびハット部となる部位で板厚を増加させることにより、得られる成形品でも、疲労強度に与える影響が大きいR部およびハット部の板厚を増加させることができる。また、ハブ取付け部となる部位で板厚を減少させることにより、得られる成形品でも、疲労強度に与える影響が小さいハブ取付け部の板厚を減少させることができる。このため、得られるホイールディスクで疲労強度を確保しつつ軽量化できる。
成形品をホイールディスクとする場合、液圧バルジ加工用金型のキャビティー部内に素材金属板を膨出成形することにより、さらに、外側湾曲部およびフランジ部で板厚を減少させるのが好ましい。外側湾曲部およびフランジ部となる部位の板厚減少は、例えば前記図5に示すように、第2下型側パッド31bの外側に第2キャビティー部(41bおよび51b)を設けることにより実現できる。これにより、得られるホイールディスクで疲労強度を確保しつつさらに軽量化できる。
ホイールディスクは、その形状が軸対称であることから、液圧バルジ加工で素材金属板のハブ取付け部となる部位を膨出成形する際に等二軸変形し易い。素材金属板が等二軸変形しつつ成形されると、ネッキングや割れが抑制されるため、不等二軸変形の場合と比べて板厚減少率を大きくすることが可能となる。このため、素材金属板の板厚を部分的に減少させる際に液圧バルジ加工を用いることにより、ハブ取付け部の板厚減少率大きくすることができ、ホイールディスクの軽量化の効果が顕著となる。
成形品をホイールディスクとする場合、下記図6に示すようなプレス加工用金型を用いて所望の形状にプレス成形するのが好ましい。
図6は、成形品がホイールディスクである場合の後工程のプレス成形の加工フロー例を模式的に示す断面図であり、同図(a)は第2金型側パッドが接触した状態、同図(b)は素材金属板を反らせた状態、同図(c)はハブ取付け部を成形した状態、同図(d)はR部と内側湾曲部とハット部の内側部分とを成形した状態、同図(e)はハット部の外側部分と外側湾曲部とフランジ部とを成形した状態をそれぞれ示す。同図には、プレス加工用金型60と、前工程で膨出成形された素材金属板70とを示す。同図に示す素材金属板70は、前記図5に示す液圧バルジ加工用金型を用いて膨出成形された素材金属板である。
同図に示すプレス加工用金型60は、下型である第1金型61と、その第1金型61に隣接する第1金型側パッド62と、上型である第2金型64と、その第2金型64に隣接する第2金型側パッド65とを備える。第1金型61と第2金型64とは、プレス機に装着され、プレス方向に相対移動可能に設けられる。
第1金型61は、素材金属板と当接し、具体的には、素材金属板の表面のうちで膨出成形時に流体によって加圧された側の面と当接する。その第1金型61は、ホイールディスクのR部、内側湾曲部、ハット部、外側湾曲部およびフランジ部に対応する形状を有する。
第1金型側パッド62は、第1金型側パッド用加圧機構(例えばガスシリンダ、油圧シリンダ等)63を介して第1金型61に装着される。このような第1金型側パッド62は、プレス方向にスライド可能であるとともに、プレス方向の位置を制御可能である。また、第1金型側パッド62は、ホイールディスクのハブ取付け部と対応する形状を有する。
一方、第2金型64は、素材金属板と当接し、具体的には、第1金型が当接する面と反対側の面と当接する。その第2金型64は、ハット部の外側部分、外側湾曲部およびフランジ部に対応する形状を有する。同図に示す第2金型64では、ハット部の外側部分が、ハット部のうちで頂点14a(前記図1参照)より外側の部分となる。
第2金型側パッド65は、第2金型側パッド用加圧機構(例えばばねやゴム、ガスシリンダ、油圧シリンダ等)66を介して第2金型64に装着される。このような第2金型側パッド65は、プレス方向にスライド可能である。また、第2金型側パッド65は、ホイールディスクのハブ取付け部、R部、内側湾曲部およびハット部の内側部分と対応する形状を有する。同図に示す第2金型側パッド65では、ハット部の内側部分が、ハット部のうちで頂点14a(前記図1参照)より内側の部分となる。
このような金型を用いたプレス成形では、第1金型側パッド62を、引き込ませた状態で配置し、例えば第1金型61の素材金属板の当接する面と第1金型側パッドの素材金属板の当接する面とが連続するように配置する。また、第2金型側パッド65を、第2金型64の素材金属板の当接する面と第2金型側パッドの素材金属板の当接する面とが連続する位置よりも突き出るように配置する。このように第1金型側パッド62および第2金型側パッド65を配置するとともに第1金型61と第2金型64とを離間させた状態で、第1金型61と第2金型64の間に膨出成形済みの素材金属板70を配置する。そして、第1金型61と第2金型64とをプレス方向に相対移動させると、同図(a)に示すように第2金型側パッド65と第1金型61とが素材金属板70と接触する。
第1金型61と第2金型64とをプレス方向にさらに相対移動させると、同図(b)に示すように第2金型側パッド65と第1金型61とによって素材金属板70が反るように変形する。これに伴い、素材金属板70の中心の膨出部(液圧バルジ加工時に第1キャビティー部(41a、51a)に膨出した部分)が押し込まれる。
このように素材金属板70が反らされた状態で第1金型側パッド62を制御してプレス方向にスライドさせ、同図(c)に示すように第1金型側パッド62が素材金属板70を介して第2金型側パッド65と当接する状態とする。これにより、素材金属板にハブ取付け部が成形される。
第1金型側パッド62が素材金属板70を介して第2金型側パッド65と当接した状態で、第1金型61と第2金型64とをプレス方向にさらに相対移動させる。これに伴い、第1金型側パッド62を、第1金型61の素材金属板の当接する面と第1金型側パッドの素材金属板の当接する面とが連続する位置に戻るように制御する。このようにして同図(d)に示すように第2金型側パッド65が素材金属板70を介して第1金型61と当接する状態とする。これにより、素材金属板70にR部、内側湾曲部およびハット部の内側部分が成形される。
第1金型61と第2金型64とをプレス方向にさらに相対移動させると、同図(e)に示すように第1金型61が素材金属板70を介して第2金型64と当接する。これにより、素材金属板70にハット部の外側部分、外側湾曲部およびフランジ部が成形される。
このような第1金型、第1金型側パッド、第2金型および第2金型側パッドを備えるプレス加工用金型を用いるプレス成形は、ホイールディスクの内側から順に成形する。これにより、素材金属板の変形は曲げ変形が主体となり、板厚が特に減少し易いハット部での板厚減少を抑制でき、前工程で素材金属板に付与した板厚分布をプレス成形後も維持することができる。また、前記図6(b)に示すように素材金属板を反らした状態とすることにより、液圧バルジ加工で膨出成形した中心の膨出部の縦壁(前記図6(a)の二点鎖線で囲む部位)が座屈するのを防止できる。
ここで、ホイールディスクの素材金属板は主に熱延鋼板である。熱延鋼板は冷延鋼板に比べて表面が粗く表層の凹凸が大きい。このような熱延鋼板をプレス成形する場合、鋼板は、表裏面ともに金型が強く押し付けられて金型と擦れ合うので、表層の凹凸のうち、凸部は削られて平滑化され、これに伴って凹部は先鋭化した微小孔となる。平滑面に微小孔が存在すると、負荷を受けたときにその微小孔に応力が集中するため、プレス成形によって得られる成形品は、素材金属板(熱延鋼板)よりも疲労強度が低下し疲労特性が悪化する。このことは、非特許文献1に記述されている。
本発明の成形品の製造方法は、前工程で液圧バルジ加工によって素材金属板を膨出成形する。この液圧バルジ加工では、素材金属板は液圧によって膨出して金型に押し当てられて成形される。このため、後述する[成形品の表面性状を調査する基礎試験]欄で実証するように、素材金属板はほとんど平滑化されず、先鋭化した微小孔もほとんど発生しない。
また、第1金型、第1金型側パッド、第2金型および第2金型側パッドを備えるプレス加工用金型を用いるプレス成形では、前述の通り、素材金属板が主に曲げ変形によって成形される。このため、膨出成形された素材金属板における断面線長と、成形品における断面線長とが略同じとなり、プレス成形の過程で素材金属板が第1金型等と擦れ合うことがほとんどない。したがって、第1金型、第1金型側パッド、第2金型および第2金型側パッドを備えるプレス加工用金型を用いるプレス成形により、疲労強度を向上させることができる。
[成形品の表面性状を調査する基礎試験]
液圧バルジ加工で素材金属板がほとんど平滑化されず、先鋭化した微小孔もほとんど発生しないことを実証するために基礎試験を実施した。その基礎試験では、プレス成形による場合と、液圧バルジ加工による場合とで成形品の表面性状を調査した。
図7は、基礎試験の工程の概略を示す断面図である。図8は、基礎試験で得られた成形品の表裏面それぞれの外観を示す写真であり、図9は、その成形品の裏面の一部を拡大したミクロ観察写真である。これらの図7〜図9のいずれでも、(a)はプレス成形による場合を、(b)は液圧バルジ加工による場合をそれぞれ示す。
基礎試験では、図7に示すように、その素材金属板70に概ね半球状で高さが25mmの張り出し部を成形した。プレス成形の場合、素材として、2.3mmの板厚で150mm角サイズの440MPa級汎用熱延鋼板(SPH440)を採用し、液圧バルジ加工の場合、同じ板厚と鋼種で250mm角サイズの熱延鋼板を採用した。
また、プレス成形の場合、図7(a)に示すように、中央に直径が100mmの穴81aが形成された上型81と、中央に先端の曲率半径が50mmのパンチ83が収納された下型82とを用いた。その上型81と下型82とで素材金属板70の外周を挟持し、その状態で、パンチ83を素材金属板70の裏面に当てがい押し上げた。
一方、液圧バルジ加工の場合、図7(b)に示すように、中央に直径が100mmの穴50aが形成された上型50と、中央に液体が充満される凹部40aが形成された下型40とを用いた。その上型50と下型40とで素材金属板70の外周を挟持し、その状態で下型40の凹部40aに流体90を注入して素材金属板70に裏面から液圧をかけ、素材金属板70を膨らました。
図8(a)に示すように、プレス成形で得られた成形品は、パンチが接触する裏面において、特に、張り出し部の頂部から約20mmの同一円周上に白色の領域が点在しているのがわかる。この白色領域は、金型(パンチ)との擦れ合いによって表層の凸部が削られて平滑化していることを示す。その白色領域を拡大した図9(a)のミクロ観察写真にも白色の領域が広く認められる。このため、プレス成形によれば、金型と接触する金属板表層で平滑化が生じていることが確認できる。
これに対し、図8(b)、図9(b)に示すように、液圧バルジ加工で得られた成形品は、液圧が付与される裏面において、特異に白色がかった領域は認められない。このため、液圧バルジ加工によれば、液圧が付与される鋼板表層で平滑化が生じていないことが確認できる。
また、上記の基礎試験に先立ち、素材金属板の断面プロファイルを接触式表面粗さ計によって測定した。そして、その素材金属板をプレス成形して得られたプレス成形品、および液圧バルジ加工して得られたバルジ成形品について、それぞれの裏面(プレス成形品の場合はパンチと接触する面、バルジ成形品の場合は液圧が付与される面)の断面プロファイルを接触式表面粗さ計により測定した。さらに、各々の測定結果から、JIS B0601に準拠し、素材金属板、プレス成形品およびバルジ成形品それぞれの表面粗さとして算術平均粗さRaを求めた。
図10は、基礎試験の結果として素材金属板、プレス成形品およびバルジ成形品の裏面の断面プロファイルの一例を示す図であり、同図(a)は素材金属板の場合を、同図(b)はプレス成形品の場合を、同図(c)はバルジ成形品の場合をそれぞれ示す。図11は、その素材金属板、プレス成形品およびバルジ成形品の裏面の表面粗さをまとめた図である。なお、図11に示す表面粗さRaは、各対象材について、張り出し部の頂部から約20mmの位置において周方向に4箇所、半径方向に4箇所の合計8箇所でプロファイル測定を行い、その結果から求めた表面粗さRaの平均値である。
図10(a)、(b)に示すように、プレス成形品の場合、素材金属板と比較し、表層の凹凸のうちの凸部が削られて平滑化されていることがわかる。これに対し、図10(a)、(c)に示すように、バルジ成形品の場合は、表層の凹凸が素材金属板と同等でほとんど変わらないことがわかる。
また、図11に示すように、表面粗さRaは、素材金属板の場合に0.9μm程度である。ところが、プレス成形品の場合は素材金属板よりも著しく小さい0.5μm程度であり、0.7μmをはるかに下回る。バルジ成形品の表面粗さRaは、素材金属板よりも僅かに小さい0.8μm程度であり、0.7μmを超える。
これらの試験結果より、熱延鋼板からホイールディスクを成形するのに液圧バルジ加工を活用すれば、表裏面のうちの裏面は平滑化されずに素材金属板の表面粗さが維持される。具体的には、裏面の表面粗さが算術平均粗さRaで0.7μm以上に確保されることから疲労特性の向上が期待できる。すなわち、本発明の成形品の製造方法は、前工程で液圧バルジ加工を活用することから、後工程で、膨出成形された素材金属板として、液圧バルジ加工で液圧を付与された面の表面粗さが算術平均粗さRaで0.7μm以上である素材金属板を用いることができる。このため、本発明の成形品の製造方法は、プレス成形のみで素材金属板からホイールディスクを得る場合と比べ、疲労強度を向上させることができる。
[成形品をハット型とする場合の実施態様]
本発明の成形品の製造方法は、成形品をハット型の成形品とすることができる。このハット型の成形品は、前記図2に示すように、ウェブ部、縦壁部およびフランジ部を有する。
ハット型の成形品の場合、前工程で素材金属板を液圧バルジ加工用金型で挟持する際に素材金属板の一部を折り曲げた後でその折り曲げ部の周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化することにより、少なくとも、フランジ部と縦壁部とを繋ぐ稜線部で板厚を増加させる。このように稜線部で板厚を増加させるのは、プレス成形や絞り成形によって素材金属板からハット型の成形品を得る場合に稜線部で減肉し易いことによる。板厚を増加させる部位は、稜線部に限らず、後述するように他の部分を含んでもよい。
ハット型の成形品の場合も、液圧バルジ加工用金型に挟持された素材金属板に液圧をかけ、液圧バルジ加工用金型のキャビティー部内に素材金属板を膨出成形することにより、当該部位の板厚を減少させる。この板厚を減少させる部位は、ハット型の成形品の用途に応じて適宜設定すればよい。
図12は、ハット型の成形品において、稜線部の板厚を増加させるとともにウェブ部の板厚を減少させる場合の前工程の加工フロー例を模式的に示す断面図であり、同図(a)はパッドが接触した状態、同図(b)は素材金属板の一部を折り曲げた状態、同図(c)は素材金属板を挟持した状態、同図(d)は膨出成形終了時の状態をそれぞれ示す。同図は、前記図2に示す対称なハット型の成形品を対象とすることから、幅方向の左半分を省略した。
同図には、液圧バルジ加工用金型30と、1枚の素材金属板70とを示す。その液圧バルジ加工用金型30は、一対の上型50と下型40とで構成される。下型40には、凹状のキャビティー部41が上型50と素材金属板を介して当接する先端面に設けられる。このキャビティー部41は、ウェブ部となる部位に設けられ、同図に示す下型では幅方向の中央に設けられる。一方、上型50には、流体を注入するための注入孔(図示なし)が設けられる。
また、上型50の平面状の先端面は、素材金属板を介して下型40と当接し、その一部が平坦部として機能する。一方、下型40には、素材金属板を挟持した状態でその素材金属板を介して上型50と当接する平坦部が設けられる。より具体的には、キャビティー部41の外側から後述の上型側パッド32に当接する部位までが平坦部として機能する。
上型の平坦部には、上型側パッド32が設けられ、その上型側パッド32はパッド用加圧機構(例えばばねやゴム、ガスシリンダ、油圧シリンダ等)33を介して上型50に装着される。このように装着された上型側パッド32は上下方向にスライド可能である。一方、下型の平坦部には、下型側パッド31が設けられ、その下型側パッド31はパッド用加圧機構33を介して下型40に装着される。このように装着された下型側パッド31は、上下方向にスライド可能である。上型側パッド32は稜線部となる部位の外側に設けられ、下型側パッド31は稜線部となる部位の内側に設けられる。
図13は、ハット型の成形品において、ウェブ部および稜線部の板厚を増加させるとともに縦壁部の板厚を減少させる場合の前工程の加工フロー例を模式的に示す断面図であり、同図(a)はパッドが接触した状態、同図(b)は素材金属板の一部を折り曲げた状態、同図(c)は素材金属板を挟持した状態、同図(d)は膨出成形終了時の状態をそれぞれ示す。同図は、前記図2に示す対称なハット型の成形品を対象とすることから、幅方向の左半分を省略した。
同図には、液圧バルジ加工用金型30と、1枚の素材金属板70とを示す。同図に示す液圧バルジ加工用金型30は、前記図12に示す液圧バルジ加工用金型と基本構成を同じとし、キャビティー部41、上型側パッド32および下型側パッド(31aおよび31b)の配置を変更したものである。キャビティー部41は、縦壁部となる部位に設けられ、同図に示す下型では後述の第2下型側パッド31bの外側に設けられる。また、上型側パッド32は稜線部となる部位の内側に設けられる。さらに、下型側パッド(31a、31b)は、幅方向の中央に第1下型側パッド31aが設けられ、稜線部となる部位の外側に第2下型側パッド31bが設けられる。
ハット型の成形品の場合も、後工程で膨出成形された素材金属板を所望の形状に成形するが、その成形は、種々の成形法を用いて行うことができ、例えばプレス成形や液圧バルジ加工による膨出成形によって行うことができる。
図14は、ハット型の成形品において、後工程のプレス成形の加工フロー例を模式的に示す断面図であり、同図(a)は素材金属板を配置した状態、同図(b)はウェブ部等を成形した状態をそれぞれ示す。同図には、プレス加工用金型60と、前工程で膨出成形された素材金属板70とを示す。同図に示す素材金属板70は、前記図12に示す液圧バルジ加工用金型を用いて膨出成形された素材金属板である。同図は、前記図2に示す対称なハット型の成形品を対象とすることから、幅方向の左半分を省略した。
同図に示すプレス加工用金型60は、下型である第1金型61と、上型である第2金型64とを備える。第1金型61と第2金型64とは、プレス機に装着され、プレス方向に相対移動可能に設けられる。
第1金型61は、素材金属板と当接し、具体的には、素材金属板の表面のうちで膨出成形時にキャビティー部に押し当てられた側の面と当接する。その第1金型61は、ダイとして機能し、ハット型の成形品のウェブ部、縦壁部およびフランジ部に対応する形状を有する。一方、第2金型64は、素材金属板と当接し、具体的には、第1金型が当接する面と反対側の面と当接する。その第2金型64は、パンチとして機能し、ハット型の成形品のウェブ部、縦壁部およびフランジ部に対応する形状を有する。
以上にハット型の成形品を対象とする場合について、対称なハット型の成形品を例に説明したが、非対称の場合にも本発明の成形品の製造方法を適用できる。また、長手方向で断面形状が一定の場合に限らず、長手方向で断面形状が変化する場合にも本発明の成形品の製造方法を適用できる。さらに、長手方向に直線状に延びる場合に限らず、長手方向に湾曲する場合にも本発明の成形品の製造方法を適用できる。
[本発明のホイールディスク]
本発明のホイールディスクは、前記図1に示すように、1枚の素材金属板を成形してなり、ディスク中心側から順に、同心状に、ハブ取付け部、内側湾曲部、ハット部、外側湾曲部およびフランジ部を有する。本発明において「1枚の素材金属板を成形してなり」とは、成形品に溶接等による接合部がないことを意味する。このため、テーラードブランク工法により厚さの異なる金属板を溶接したものを素材として成形する場合は、「1枚の素材金属板を成形してなり」に該当しない。
そして、本発明のホイールディスクは、ハット部の板厚t1(mm)と、R部の板厚t2(mm)と、ハブ取付け部の板厚t3(mm)とが、前記(1)式および前記(2)式の関係をいずれも満足する。これにより、R部およびハット部の板厚を確保しつつそれら以外の部分の板厚を減少させた状態となる。このため、本発明のホイールディスクは、疲労強度を確保しつつ軽量化した状態となる。
前記(1)式でt1/t3の下限を1.2とするのは、前述の特許文献2のようにプレス成形のみで板厚を増加させようとすると、しわや座屈が発生しやすく、t1/t3を1.2以上とするのが困難であることによる。軽量化の観点からt1/t3の下限は1.4とするのが好ましい。一方、t1/t3が3.0を超えると、ハブ取付け部で割れが発生するおそれがあるので、t1/t3は3.0以下とするのが好ましい。
前記(2)式でt2/t3の下限を1.2とするのは、前述の特許文献2のようにプレス成形のみで板厚を増加させる場合にt2/t3を1.2以上とするのが困難であることによる。軽量化の観点からt2/t3の下限は1.4とするのが好ましい。一方、t2/t3が3.0を超えると、ハブ取付け部で割れが発生するおそれがあるので、t2/t3は3.0以下とするのが好ましい。
本発明のホイールディスクは、ハット部の板厚t1(mm)と、R部の板厚t2(mm)と、外側湾曲部の板厚t4(mm)とが、前記(3)式および前記(4)式の関係をいずれも満足するのが好ましい。
t1/t4≧1.1 ・・・(3)
t2/t4≧1.1 ・・・(4)
本発明のホイールディスクは、ハット部の板厚t1(mm)と、R部の板厚t2(mm)と、フランジ部の板厚t5(mm)とが、前記(5)式および前記(6)式の関係をいずれも満足するのが好ましい。
t1/t5≧1.1 ・・・(5)
t2/t5≧1.1 ・・・(6)
t1/t4およびt1/t5の下限を1.1とするのは、前述の特許文献2のようにプレス成形のみで板厚を増加させようとすると、しわや座屈が発生しやすく、t1/t4およびt1/t5を1.1以上とするのが困難であることによる。軽量化の観点からt1/t4およびt1/t5の下限は1.2とするのがより好ましい。一方、t1/t4およびt1/t5が2.5を超えると、ハブ取付け部で割れが発生するおそれがあるので、t1/t4およびt1/t5は2.5以下とするのが好ましい。
t2/t4およびt2/t5の下限を1.1とするのは、前述の特許文献2のようにプレス成形のみで板厚を増加させる場合にt2/t4およびt2/t5を1.1以上とするのが困難であることによる。軽量化の観点からt2/t4およびt2/t5の下限は1.2とするのが好ましい。一方、t2/t4およびt2/t5が2.5を超えると、ハブ取付け部で割れが発生するおそれがあるので、t2/t4およびt2/t5は2.5以下とするのが好ましい。
本発明のホイールディスクにおいて、ハット部の板厚t1、R部の板厚t2、ハブ取付け部の板厚t3、外側湾曲部の板厚t4およびフランジ部の板厚t5は、以下の手順による測定するものとする。
(1)超音波厚さ計を用い、ホイールディスクの中心から外側エッジまで1mm間隔で板厚を測定する。
(2)得られた板厚分布から、ハブ取付け部、R部、ハット部、外側湾曲部およびフランジ部に該当する測定値をそれぞれ抽出する。
(3)抽出したハブ取付け部、R部、ハット部、外側湾曲部およびフランジ部の測定値群について、それぞれ平均値を算出し、ハブ取付け部、R部、ハット部、外側湾曲部およびフランジ部の板厚とする。
本発明のホイールディスクは、素材金属板として、例えば、板厚1.4〜8.0mm程度の熱延鋼板または冷延鋼板を使用できる。軽量化の観点から、高抗張力鋼板等を使用することもできる。
[本発明の液圧バルジ加工用金型]
本発明の液圧バルジ加工用金型は、上型と下型とで対をなし、挟持された状態の素材金属板を膨出成形する液圧バルジ加工用金型である。この液圧バルジ加工用金型は、キャビティー部と、平坦部とが設けられ、上型側パッドと、下型側パッドとを備える。その構成例は、前記図5、12および13に示す液圧バルジ加工用金型である。このような本発明の液圧バルジ加工用金型は、本発明の成形品の製造方法に関する説明で述べた好ましい態様を採用できる。その使用方法は、本発明の成形品の製造方法に関する説明で述べた通りである。
[ホイールディスク]
本発明の効果を検証するため、本発明の成形品の製造方法によってホイールディスクを得て、そのホイールディスクの板厚分布を調査する試験を行った。
本発明例1では、FEM解析を行った。その解析の前工程では、前記図5を用いて説明した加工フローに沿い、液圧バルジ加工用金型30を用いて素材金属板の一部を折り曲げた後で周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化し、その後、膨出成形した。その際、素材金属板は、板厚が2.3mmの440MPa級汎用熱延鋼板(SPH440)とした。上型および下型の中心の第1キャビティー部の深さは最も深い部分で約17.5mmとし、外側の第2キャビティー部の深さは最も深い部分で約11mmとした。また、上型側パッドおよび下型側パッドの突き出し量は、いずれも10mmとした。
後工程では、前記図6を用いて説明した加工フローに沿い、プレス加工用金型60を用いて膨出成形済みの素材金属板をプレス成形した。その際、同図(a)の第2金型側パッドが接触した状態から同図(b)は素材金属板を反らせた状態までにおける第1金型61と第2金型64との相対移動量は、約30mmとした。すなわち、第2金型側パッド65によって素材金属板70の中心の膨出部を約30mm押し込むことにより、素材金属板70を反らせた。
比較例1として、プレス成形のみで素材金属板からホイールディスクを得る試験を行った。その際、素材金属板およびホイールディスクの形状は、本発明例1と同じ条件とした。また、プレス成形では、複数のステップに分けて各部位を順に成形することにより、R部およびハット部の板厚減少の抑制を図った。
本発明例1では、膨出成形済みの素材金属板における中心からの半径方向の距離と板厚との関係を調査した。その結果、前工程によって第1キャビティー部および第2キャビティー部に膨出した部位で板厚が減少していることが確認できた。また、パッドにより折り曲げて平坦化した部位で板厚が増加していることが確認できた。より具体的には、前記図5に示す、第1下型側パッド31aと上型側パッド32との間の部位、および、上型側パッド32と第2下型側パッド31bとの間の部位で板厚が増加していることが確認できた。
図15は、試験により得られたホイールディスクの板厚分布を示す図であり、同図(a)は中心からの半径方向の距離(mm)と高さ(mm)との関係、同図(b)は中心からの半径方向の距離(mm)と板厚変化率(%)との関係をそれぞれ示す。ここで、中心から半径方向の距離(mm)と高さ(mm)との関係は、成形品の形状を示す。また、板厚変化率r(%)は、素材金属板の板厚tb(mm)を基準として下記(7)式により算出した。下記(3)式において、tは成形品(ホイールディスク)の板厚(mm)である。
r=(t−tb)/tb×100 ・・・(7)
同図より、比較例1では、R部およびハット部の板厚減少の抑制を図り、R部およびハット部の板厚変化率は約0〜−3%となった。一方、ハブ取付け部、内側湾曲部、外側湾曲部およびフランジ部の板厚変化率は−5%より大きくなった。
比較例1の試験結果から、ハット部の板厚t1(mm)とハブ取付け部の板厚t3(mm)との比t1/t3を算出したところ、t1/t3=1.05となった。また、R部の板厚t2(mm)とハブ取付け部の板厚t3(mm)との比t2/t3を算出したところ、t2/t3=1.02となった。さらに、t1/t4=1.0、t2/t4=0.97、t1/t5=0.96、t2/t5=0.93となった。ここで、t4は、外側湾曲部の板厚(mm)であり、t5は、フランジ部の板厚(mm)である。
同図より、本発明例1では、R部およびハット部で板厚変化率が正の値となり、板厚が増加していることが確認できた。一方、ハブ取付け部、内側湾曲部、外側湾曲部およびフランジ部の大部分で板厚変化率が−5%以下となり、板厚が減少していることが確認できた。
本発明例1の試験結果から、ハット部の板厚t1(mm)とハブ取付け部の板厚t3(mm)との比t1/t3を算出したところ、t1/t3=1.7となった。また、R部の板厚t2(mm)とハブ取付け部の板厚t3(mm)との比t2/t3を算出したところ、t2/t3=1.5となった。したがって、本発明の成形品の製造方法によって前記(1)式および(2)式を満たすホイールディスクが得られることが確認できた。なお、本発明例1では、t1/t4=1.3、t2/t4=1.2、t1/t5=1.3、t2/t5=1.2となった。
[ハット型の成形品]
本発明の効果を検証するため、本発明の成形品の製造方法によってハット型の成形品を得て、その成形品の板厚分布を調査する試験を行った。
本発明例2では、FEM解析を行った。その解析の前工程では、前記図12を用いて説明した加工フローに沿い、液圧バルジ加工用金型30を用いて素材金属板の一部を折り曲げた後で周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化し、その後、膨出成形した。すなわち、ウェブ部の板厚を減少させるとともに稜線部の板厚を増加させた。その際、素材金属板は、板厚が1.6mmの590MPa級汎用冷延鋼板(SPC590)とした。下型の中央のキャビティー部の深さは最も深い部分で約40mmとした。また、上型側パッドおよび下型側パッドの突き出し量は、いずれも10mmとした。
後工程では、前記図14に示す加工フローに沿い、プレス加工用金型60を用いて膨出成形済みの素材金属板をプレス成形した。
本発明例3では、前工程で前記図13を用いて説明した加工フローに沿い、液圧バルジ加工用金型30を用いて素材金属板の一部を折り曲げた後で周辺部を拘束しつつ折り曲げ部を平坦化し、その後、膨出成形した。すなわち、縦壁部の板厚を減少させるとともにウェブ部および稜線部の板厚を増加させた。その際、下型のキャビティー部の深さは最も深い部分で約40mmとした。また、上型側パッドおよび下型側パッドの突き出し量は、いずれも10mmとした。後工程では、前記図14に示す加工フローと同様に、プレス加工用金型60を用いて膨出成形済みの素材金属板をプレス成形した。これら以外の試験条件は、本発明例2と同じ条件とした。
比較例2では、前記図14に示すプレス加工用金型を用い、プレス成形のみで素材金属板からハット型の成形品を得た。
図16は、本発明例2により得られたハット型の成形品の板厚分布を示す図であり、同図(a)は中央からの幅方向の距離(mm)と高さ(mm)との関係、同図(b)は中央からの幅方向の距離(mm)と板厚変化率(%)との関係を示す。ここで、中央からの幅方向の距離(mm)と高さ(mm)との関係は、成形品の形状を示す。また、板厚変化率r(%)は、素材金属板の板厚tb(mm)を基準として前記(3)式により算出した。また、同図(b)には、比較例2の板厚変化率を併せて示す。
同図より、比較例2では、素材金属板の稜線部で板厚変化率が負の値となり、板厚が減少していることが確認できた。一方、本発明例2では、稜線部の板厚変化率が正の値となり、板厚が増加していることが確認できた。また、本発明例2では、ウェブ部の板厚変化率が負の値となり、板厚が減少していることが確認できた。
図17は、本発明例3により得られたハット型の成形品の板厚分布を示す図であり、同図(a)は中央からの幅方向の距離(mm)と高さ(mm)との関係、同図(b)は中央からの幅方向の距離(mm)と板厚変化率(%)との関係を示す。ここで、中央からの幅方向の距離(mm)と高さ(mm)との関係は、成形品の形状を示す。また、板厚変化率r(%)は、素材金属板の板厚tb(mm)を基準として前記(3)式により算出した。また、同図(b)には、比較例2の板厚変化率を併せて示す。
同図より、本発明例3では、ウェブ部および稜線部の板厚変化率が正の値となり、板厚が増加していることが確認できた。また、本発明例3では、縦壁部の板厚変化率が負の値となり、板厚が減少していることが確認できた。