以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。
<ガスバリア性フィルム>
本発明の一形態に係るガスバリア性フィルムは、樹脂基材上に無機バリア層が積層されてなる。無機バリア層は、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させて、塗布液を調製する工程と、塗布液を基材上に塗布し、乾燥させて、塗膜を形成する工程と、塗膜に真空紫外光を照射して、改質処理を行う工程とを含む製造方法により形成されてなる。そして、塗布液に含まれる、数平均分子量が1000以上の標準ポリスチレンに相当する部分のポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnが6以下であることを特徴とする。
また、本発明の他の一形態によると、上述のような樹脂基材上に無機バリア層が積層されてなるガスバリア性フィルムの製造方法が提供される。当該製造方法は、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させて、無機バリア層形成用の塗布液を調製する工程と、塗布液を基材上に塗布し、乾燥させて、塗膜を形成する工程と、塗膜に真空紫外光を照射して、改質処理を行う工程とを含む。そして、塗布液に含まれる、数平均分子量が1000以上の標準ポリスチレンに相当する部分のポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnが6以下であることを特徴とする。
本発明のガスバリア性フィルムは、上記構成とすることにより、優れた保存安定性を発揮することができる。特に高温高湿条件下に曝した後であっても、高いガスバリア性能を維持することができる。すなわち、本発明のガスバリア性フィルムは耐湿熱性に優れる。
発明者らは、本発明の課題を解決すべく、鋭意研究を行った。そのなかで、無機バリア層を形成するための塗布液の調製方法と、ガスバリア性フィルムの保存安定性との関係に着目して詳細な検討を行った。そして、驚くべきことに、金属化合物の希釈液に原料ポリシラザンの希釈液を短時間で一気に添加した場合と、ある程度の時間をかけて少しずつ添加した場合とで、得られるガスバリア性フィルムの保存安定性に有意な差が見られることを見出した。そこで、これらの塗布液の性状について各種分析したところ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の結果より、金属化合物希釈液に原料ポリシラザン希釈液を少しずつ添加することによって調製した塗布液では、ポリシラザン化合物の分子量分布が、より低分子量範囲に偏っているということが判明した。また、一方で、ポリシラザン化合物の元素組成は、反応前のポリシラザン化合物とほとんど変化していないことも確認された。この結果より、ゆっくりと添加することにより、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とが何らかの反応をし、ポリシラザン化合物の低分子量化が起こるものと考えられた。
さらに、本発明者らは、金属化合物希釈液に原料ポリシラザン希釈液を添加することによって得られた塗布液中の、ポリシラザン化合物の分子量分布と、ガスバリア性フィルムの保存安定性との関係について検討したところ、数平均分子量が1000以上の標準ポリスチレンに相当する部分のポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnが6以下とすることにより、高温高湿条件に曝した後であっても十分なガスバリア性能を有するガスバリア性フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させた。
このように、上記Mw/Mnを6以下とすることによって、保存安定性に優れたガスバリア性フィルムが得られる詳細なメカニズムは定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。塗布液中の数平均分子量が1000以上の標準ポリスチレンに相当する部分のポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnが6以下であるということは、塗布液中にポリシラザン化合物の粗大分子が少ないということを意味しうる。このように、ポリシラザン化合物の粗大分子が少ないと、ポリシラザン化合物に対し、金属化合物がより均一に分散されうる。改質反応は、金属原子を基点として行われるため、ポリシラザン化合物の改質がより均一に進行し、より均質かつ緻密なガスバリア層が得られうる。そのため、高温高湿条件に曝した場合であっても、劣化が起こりにくく、高いガスバリア性能を維持することが可能となるものと考えられる。なお、上記のメカニズムは推定によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。以下、本発明のガスバリア性フィルムの基本的な層構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るガスバリア性フィルムの層構成を模式的に表す断面図概略図である。本発明では、図1のガスバリア性フィルム10のように、樹脂基材11上に特定の製造方法によって形成された無機バリア層12が積層された層構成を必須としている。これ以外にも、図1の形態では、樹脂基材11と無機バリア層12との間に、無機バリア層12とは別の、ガスバリア性を有する無機化合物層13を有している。すなわち、ガスバリア性フィルム10は、樹脂基材11上に、第1のバリア層としての無機化合物層13と、第2のバリア層としての無機バリア層12とが順次積層された構成を有する。なお、本発明では、無機化合物層13は任意の部材であるが、より高いレベルのガスバリア性能を付与するために、本発明に必須の無機バリア層12に加えて、1または2以上の無機化合物層13をバリア層として積層させることが好ましい。以下、本発明のガスバリア性フィルムの各構成要素について、詳細に説明する。
[樹脂基材]
本発明に係るガスバリア性フィルムでは、基材として、樹脂基材(プラスチックフィルムまたはシート)が用いられ、無色透明な樹脂からなるフィルムまたはシート(樹脂基材)が好ましく用いられる。なお、本明細書では、「樹脂基材」を単に「基材」とも称する。樹脂基材としては、無機バリア層や、任意に設けられるハードコート層等を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。樹脂基材を構成する樹脂材料として、具体的には、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、(メタ)アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
また、本発明において、特開2012−116101号公報の段落「0056」〜「0075」や特開2013−226758号公報の段落「0124」〜「0136」などに開示されている樹脂基材も適宜採用される。
本発明に係るガスバリア性フィルムに用いられる樹脂基材の厚みは、用途によって適宜選択されるため特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは5μm〜500μmであり、より好ましくは25〜250μmである。
樹脂基材は、表面の平滑性が高いものが好ましい。表面の平滑性としては、平均表面粗さ(Ra)が2nm以下であるものが好ましい。下限は特にないが、実用上、0.01nm以上である。必要に応じて、樹脂基材の両面、少なくともバリア層を設ける側を研摩し、平滑性を向上させておいてもよい。
また、樹脂基材上にアンカーコート層(易接着層)を形成してもよい。また、シランカップリング剤のように単分子レベル〜ナノレベルの薄膜を形成し、層界面で分子結合を形成できるような材料でアンカーコート層を設けることも、より高い密着性が期待できる点で好ましく用いることができる。また、樹脂基材上にさらに樹脂などから成る応力緩和層や樹脂基材の表面を平滑化するための平滑層、樹脂基材からのブリードアウトを防止するためのブリードアウト防止層などを別途設けてもよい。
本発明において、無機バリア層形成プロセスや取り扱い性向上といった、樹脂基材を機械的・熱的なダメージを低減する目的で、樹脂基材の無機バリア層とは反対側の面に、保護フィルムを貼りあわせて適宜使用することができる。保護フィルムは粘着性基材や粘着層を支持体に粘着層を塗工したフィルムとすることもできる。本発明においては、無機バリア層形成のプロセスにおいて、ロールツーロールの張力など搬送特性と、プロセス中の剥離抑制の両立といった視点から、支持体に粘着層を塗工した保護フィルムを好ましく用いることができる。
保護フィルムに用いられる基材フィルムを構成する樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレン、延伸ポリプロピレンなどが挙げられる。腰強度や該保護フィルムを剥離する際のフィルムの変形の有無等、取扱いの面を考慮すると、ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。その厚みは、取扱いの面から10〜200μmのものが好ましい。
粘着層を別途設ける場合、粘着剤の種類は特に限定されないが、アクリル系粘着剤は耐久性、透明性、粘着特性の調整の容易さなどの観点から好ましい。アクリル系粘着剤は、アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これに極性単量体成分を共重合したアクリル系ポリマーを用いたものである。上記アクリル酸アルキルエステルとはアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルであって、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。
本工程においては、上記のようにして得られる保護フィルムと支持体と貼付する。貼付の方法は特に制限されず、例えばラミネーターを用いる方法が挙げられる。また、後述の成膜ローラーを備えるプラズマCVD装置において、送り出しロールの手前に、保護フィルムと支持体とを貼付する装置を設けて貼付する方法も挙げられる。
また、上述したガスバリア性フィルムの樹脂基材ないしハードコート面と保護フィルムが有する粘着層との粘着力は、0.05〜0.20N/25mmであることが好ましく、0.08〜0.16N/25mm(180°剥離試験、JIS Z 0237)であることがより好ましい。この範囲であれば、真空プラズマ装置などで蒸着用フィルム(支持体+保護フィルム)を搬送する際、支持体と保護フィルムとが剥離しにくくなる。該粘着力は、粘着層に含まれる粘着剤の種類を適宜選択することにより制御することができる。また、該粘着力は、実施例に記載の方法により測定することができる。
[無機バリア層]
本発明のガスバリア性フィルムは、上記樹脂基材上に無機バリア層を有する。そして、当該無機バリア層が、以下の工程を含む製造方法によって製造されることを特徴とする。工程1:原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させて、塗布液を調製する工程
工程2:塗布液を基材上に塗布し、乾燥させて、塗膜を形成する工程
工程3:塗膜に真空紫外光を照射して、改質処理を行う工程
以下、各工程について詳細に説明する。
(工程1:原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させて、塗布液を調製する工程)
まず、工程1では、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させて、塗布液を調製する。ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させることによって、高分子量のポリシラザン化合物が低分子量化され、特定の分子量分布を有するポリシラザン化合物が得られる。
本発明において、ポリシラザン化合物とは、ケイ素−窒素結合を有するポリマーである。具体的に、その構造内にSi−N、Si−H、N−Hなどの結合を有し、SiO2、Si3N4、および両方の中間固溶体SiOxNyなどのセラミック前駆体無機ポリマーである。なお、本明細書において、「原料ポリシラザン化合物」とは、ポリシラザン化合物のうち、特に金属化合物と反応(接触)させる前のポリシラザン化合物を意味するものとする。また、本明細書では、「ポリシラザン化合物」を「ポリシラザン」とも略称する。
本発明に用いられるポリシラザンの例としては、特に限定されず、公知のものが挙げられる。例えば、特開2013−022799号公報の段落「0043」〜「0058」や特開2013−226758号公報の段落「0038」〜「0056」などに開示されているものが適宜採用される。
また、ポリシラザン化合物は、有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、ポリシラザン溶液の市販品としては、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のNN120−10、NN120−20、NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120−20、NL150A、NP110、NP140、SP140などが挙げられる。
本発明で使用できるポリシラザン化合物の別の例としては、以下に制限されないが、例えば、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)などの、低温でセラミック化するポリシラザン化合物が挙げられる。
なかでも、ガスバリア性能が高く、屈曲時および高温高湿条件下であってもガスバリア性能が維持されることから、ポリシラザンがより好ましく、パーヒドロポリシラザン(PHPS)が特に好ましい。
本発明において、金属化合物は、ポリシラザン化合物の改質反応を促進させる機能を有する。金属化合物としては、例えば、金属アルコキシド化合物や金属キレート化合物は、が挙げられる。
金属アルコキシド化合物および金属キレート化合物を構成する金属は、特に制限されないが、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、およびコバルト(Co)等の金属が好ましい。これらの金属は、ポリシラザン中の窒素原子と配位結合を形成しやすい。また、ルイス酸性が高い点で、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ホウ素、(B)、鉄(Fe)、または銅(Cu)を金属として含む金属アルコキシドおよび金属キレート化合物であることがより好ましい。
金属アルコキシド化合物の具体的な例としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリn−プロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリn−ブチル、ホウ酸トリtert−ブチル、マグネシウムエトキシド、マグネシウムエトキシエトキシド、マグネシウムメトキシエトキシド、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリn−プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn−ブトキシド、アルミニウムトリsec−ブトキシド、アルミニウムトリtert−ブトキシド、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート、アルミニウムオキサイドイソプロポキサイドトリマー、アルミニウムオキサイドオクチレートトリマー、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド、カルシウムイソプロポキシド、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンジイソプロポキシジノルマルブトキシド、チタンジtert−ブトキシジイソプロポキシド、チタンテトラtert−ブトキシド、チタンテトライソオクチロキシド、チタンテトラステアリルアルコキシド、クロムn−プロポキシド、クロムイソプロポキシド、マンガンメトキシド、鉄メトキシド、鉄エトキシド、鉄n−プロポキシド、鉄イソプロポキシド、コバルトイソプロポキシド、銅メトキシド、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛エトキシエトキシド、亜鉛メトキシエトキシド、ガリウムメトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムイソプロポキシド、ゲルマニウムメトキシド、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムイソプロポキシド、ゲルマニウムn−ブトキシド、ゲルマニウムtert−ブトキシド、エチルトリエトキシゲルマニウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムtert−ブトキシド、インジウムイソプロポキシド、インジウムイソプロポキシド、インジウムn−ブトキシド、インジウムメトキシエトキシド、スズn−ブトキシド、スズtert−ブトキシドなどが挙げられる。なかでも、改質反応をより効率よく進行させ、緻密なガスバリア層を形成する観点から、上記アルミニウムアルコキシド類を使用することが好ましい。
これら金属アルコキシド化合物のなかでも、反応性、溶解性等の観点から分岐状のアルコキシ基を有する化合物が好ましく、2−プロポキシ基、またはsec−ブトキシ基を有する化合物がより好ましい。さらに好ましい金属アルコキシド化合物は、具体的には、アルミニウムトリsec−ブトキシド、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート、チタンテトライソプロポキシド、である。
一方、金属キレート化合物も、特に制限されないが、改質反応をより効率よく進行させ、緻密なガスバリア層を形成することができる点で、β−ジケトンを配位子として有する金属キレート化合物であることが好ましい。
β−ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、2,4−デカンジオン、2,4−トリデカンジオン、5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2−ジメチル−3,5−ノナンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,3−シクロペンタンジオン、1,3−シクロヘキサンジオン、1−シクロヘキシル−1,3−ブタンジオンなどが挙げられる。
β−ジケトンを配位子として有する金属キレート化合物のさらに具体的な例としては、例えば、マグネシウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジn−ブチレート、アルミニウムジエチルアセトアセテートモノn−ブチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ビス(エチルアセトアセテート)(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート、カルシウムアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、トリス(2,4−ペンタンジオナト)クロム、トリス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト、ニッケルアセチルアセトネート、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅、ガリウムアセチルアセトナート、テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム、パラジウムアセチルアセトネート、トリス(2,4−ペンタンジオナト)インジウム、スズアセチルアセトネートなどが挙げられる。
β−ジケトンを配位子として有する金属キレート化合物のなかでも、アセチルアセトナート基またはエチルアセトアセテート基を有する金属化合物が好ましい。これらの基は、カルボニル構造によりアルコキシド化合物の中心元素と相互作用を有するため、取り扱い性が容易になり好ましい。さらに好ましくは上記のアルコキシド基、エチルアセトアセテート基またはアセチルアセトナート基を複数種有する化合物が反応性や膜組成の観点からより好ましい。
さらに好ましい金属キレート化合物は、具体的には、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジn−ブチレート、アルミニウムジエチルアセトアセテートモノn−ブチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)(銅アセチルアセトネート)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)(鉄アセチルアセトネート)である。
金属アルコキシド化合物またはβ−ジケトンを配位子として有するキレート化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。市販品の具体的な例としては、例えば、
金属アルコキシド化合物としては、AMD(アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート)、ASBD(アルミニウムセカンダリーブチレート)、プレンアクト(登録商標)AL−M(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、味の素ファインケミカル株式会社製)、オルガチックスシリーズ(マツモトファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。市販されているβ−ジケトンを配位子として有する金属キレート化合物としては、ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、ALCH−TR(アルミニウムトリスエチルアセトアセテート)、アルミキレートM(アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、アルミキレートD(アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート)、アルミキレートA(W)(アルミニウムトリスアセチルアセトネート)(以上、川研ファインケミカル株式会社製)、オルガチックスシリーズ(マツモトファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
次に、以上のような原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させ、塗布液を調製する方法について説明する。原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させる方法は、反応後のポリシラザン化合物の分子量分布が特定の範囲(すなわち、
前記塗布液に含まれる、数平均分子量が1000以上の標準ポリスチレンに相当する部分のポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnが6以下)となるような方法であれば、特に制限されない。
上述のように、本発明者らは、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とをある条件で接触させると、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とが反応し、ポリシラザン化合物の粗大分子が低分子量化し(凝集やクロスリンクがほぐれ)、高分子量範囲の分散度が低減されることを見出した。本発明者らの検討の結果、このような低分子量化を起こさせる条件として、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを接触させる際の速度(すなわち添加速度)が重要であると考えている。詳細な理由は不明であるが、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを長時間かけて接触させた場合は、ポリシラザン化合物の低分子量化が確認されるのに対し、短時間で接触させた場合は、かえってポリシラザン化合物の分子が粗大化し、十分なガスバリア性能が得られないことが確認されている。
本発明では、本工程(1)で得られる塗布液に含まれる、数平均分子量が1000以上の標準ポリスチレンに相当する部分のポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnが6以下であること必須とする。なお、本明細書におけるポリシラザン化合物の質量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnとの比である分散度Mw/Mnの値は、後述の実施例に記載のGPCを用いた測定方法により求められる値を採用するものとする。当該Mw/Mnの値が6よりも大きいと、塗布液中に数平均分子量が1000超のポリシラザン化合物に粗大な分子量成分が多く存在するため、塗布液においてポリシラザン化合物と金属化合物とが均一に分散しない部分が残る場合がある。このような塗布液を用いて無機バリア層を形成すると、均質で緻密な膜とならない可能性があり、高温高湿条件下に曝した後のガスバリア性能が十分でなくなるおそれがある。高温高湿条件における保存安定性をより向上させる観点から、Mw/Mnの値は、好ましくは5以下であり、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは3以下である。一方でMw/Mnの下限は特に限定されないが1.2以上である。
この様にポリシラザン化合物を低分子量化させるための具体的な手段としては、(i)原料ポリシラザン化合物および/または金属化合物を十分に希釈した後に接触させる;(ii)原料ポリシラザン化合物(もしくは原料ポリシラザン化合物の希釈液)と、金属化合物(もしくは金属化合物の希釈液)とをゆっくり接触させる(添加時間を長くする);(iii)原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを接触させる際に、十分に攪拌する;等の方法が挙げられる。
(i)原料ポリシラザン化合物および/または金属化合物を十分に希釈した後に接触させる方法を採用する場合の、希釈の度合いは、塗布液を調製する際のスケールや使用する装置によって異なるため、当業者によって適宜調整されうる。通常は、原料ポリシラザン化合物の希釈液の濃度は、15質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。下限値は、特に制限されないが、最終的な塗布液中におけるポリシラザン化合物の必要濃度を考慮すると2質量%以上が好ましい。一方、金属化合物の希釈液の濃度は、通常15質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。下限値は、特に制限されないが、原料ポリシラザン化合物との反応性を考慮すると0.5質量%以上が好ましい。なお、原料ポリシラザン化合物および金属化合物は、いずれか一方を希釈液としてもよいし、両方を希釈液としてよいが、原料ポリシラザン化合物を十分に低分子量化するためには、原料ポリシラザン化合物および金属化合物の両方を希釈液とした後に接触させることが好ましい。
原料ポリシラザン化合物および/または金属化合物の希釈に用いられる溶媒は、これらの化合物を溶解できるものであれば特に制限されないが、ポリシラザン化合物と容易に反応してしまう水および反応性基(例えば、ヒドロキシル基、あるいはアミン基等)を含まず、ケイ素化合物に対して不活性の有機溶剤が好ましく、非プロトン性の有機溶剤がより好ましい。具体的には、溶剤としては、非プロトン性溶剤;例えば、ペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒;塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノ−およびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)等の脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類などを挙げることができる。上記溶剤は、ケイ素化合物の溶解度や溶剤の蒸発速度等の目的にあわせて選択され、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
(ii)原料ポリシラザン化合物(もしくは原料ポリシラザン化合物の希釈液)と、金属化合物(もしくは金属化合物の希釈液)とをゆっくり接触させる(添加時間を長くする)場合の添加時間は、塗布液を調製する際のスケールや使用する装置によって異なるため、当業者によって適宜調整されうる。通常は、小スケール(例えば、塗布液中のポリシラザン化合物(希釈液)の総量が10リットル以下)で行う場合は、添加開始から添加終了までの時間が1分間以上とすることが好ましく、5分間以上とすることがより好ましく、10分間以上とすることがさらに好ましい。大スケール(例えば、塗布液中のポリシラザン化合物(希釈液)の総量が10リットル以上)で行う場合は、添加時間をさらに長くすることが好ましく、具体的には、添加開始から添加終了までの時間が5分間以上とすることが好ましく、10分間以上とすることがより好ましく、15分間以上とすることがさらに好ましい。添加時間の上限は特に制限されないが、生産性を考慮すると、60分間以下とすることが好ましく、30分間以下とすることがより好ましい。なお、この場合の添加は、一定量ずつ連続して行ってもよいし、複数回に分割して添加しても構わない。
また、添加の順番も特に制限されず、原料ポリシラザン化合物の希釈液と、金属化合物の希釈液を、同時に混合する形態が好ましいが、原料ポリシラザン化合物(もしくは原料ポリシラザン化合物の希釈液)を仕込んだ後に、これに金属化合物(もしくは金属化合物の希釈液)をゆっくりと添加させてもよいし;金属化合物(もしくは金属化合物の希釈液)を仕込んだ後に、これに原料ポリシラザン化合物(もしくは原料ポリシラザン化合物の希釈液)をゆっくりと添加させてもよい。当モル反応の観点からは、原料ポリシラザン化合物(もしくは原料ポリシラザン化合物の希釈液)を仕込んだ後に、これに金属化合物(もしくは金属化合物の希釈液)をゆっくりと添加させる方法を採用することが好ましい。
(iii)原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを接触させる際に、十分に攪拌する場合の、攪拌方法も、塗布液を調製する際のスケールや使用する装置によって異なるため、当業者によって適宜調整されうる。通常は、攪拌装置を使用する場合の撹拌機の回転速度は、100〜1,000rpmであることが好ましく、200〜500rpmであることがより好ましい。この範囲であれば、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを十分に反応させることができる。
上記(i)〜(iii)の方法は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種または3種を組み合わせて用いても構わない。原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを十分に反応させ、ポリシラザン化合物の低分子量化を確実に行う観点から、(i)〜(iii)の方法のうち、2種または3種を組み合わせて用いることが好ましく、(i)〜(iii)の3種全てを組み合わせて用いることが最も好ましい。
上記の原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させる(接触させる)際の反応温度は、特に制限されない。本発明者らの検討によると、特に加熱や冷却を必要とせず、室温でも十分にポリシラザン化合物の低分子量化が起こることが確認されている。好ましい温度範囲としては、15〜35℃が挙げられるが、これ以外の温度でもポリシラザン化合物を所定の分子量分布とすることは可能である。
また、原料ポリシラザン化合物と金属化合物とを反応させた(接触させた)後に、さらに混合液を攪拌しながら一定時間加熱することが好ましい。混合液を加熱することによりポリシラザン化合物の末端に位置する−SiH3が脱離し、シランガスが発生し得る。これにより、継続的にシランガスが放出されることを抑制でき、性能の安定化と、工程の安全性を確保することができる。この際の加熱温度および加熱時間は、シランガスを十分に除去できれば特に制限されない。塗布液を調製するスケールにもよるが、好ましい加熱温度は60〜100℃であり、より好ましくは70〜90℃である。一方、加熱時間も、スケールにより適宜設定されうるが、好ましくは10〜180分であり、より好ましくは30〜90分時間である。
塗布液中に含まれる、ポリシラザン化合物の濃度は、特に制限されず、無機バリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%、特に好ましくは5〜10質量%である。このようなポリシラザン化合物の濃度とするためには、塗布液に使用する希釈溶媒の量を適宜調整すればよい。
また、塗布液を調製する際の(すなわち、ポリシラザン化合物と金属化合物との反応の際の)金属化合物の添加量は、使用する金属化合物やポリシラザン化合物の種類などに応じて、適宜調整されうる。ただし、ポリシラザン化合物の改質反応を十分に進行させ、高いガスバリア性能を有するガスバリア性フィルムを得る観点から、金属化合物に含まれる金属原子の割合は、ポリシラザン化合物に含まれるケイ素原子(Si)の総数に対し、2〜20%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、7〜10%であることがさらに好ましい。当該割合は、塗布液を調製する際のポリシラザン化合物および金属化合物の仕込み量によって調整される。なお、塗布液中の金属原子とケイ素原子との割合は、改質後も変化しないため、無機バリア層の元素組成をX線光電子分光法(XPS)を用いて分析することによっても確認することが可能である。
上記塗布液は、改質を促進するために、触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン等のアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒、N−複素環式化合物が挙げられる。これらのうち、アミン触媒を用いることが好ましい。この際添加する触媒の濃度としては、ポリシラザン化合物を基準としたとき、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%の範囲である。触媒添加量をこの範囲とすることで、反応の急激な進行による過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜欠陥の増大などを避けることができる。なお、塗布液を調製する際の触媒の添加方法は、特に制限されず、従来公知の手法を適宜採用することができる。
塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルもしくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネートもしくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
なお、以上の塗布液を調製する工程は、ポリシラザン化合物や金属化合物の分解等を防ぐために、実質的に酸素(O2)および水分を含まない雰囲気下で行うことが好ましい。具体的には、塗布液を調製する際の雰囲気中の酸素濃度は、0〜200ppmであることが好ましく、0〜100ppmであることが好ましく、0〜30ppmであることがさらに好ましい。同様に、塗布液を調製する際の雰囲気中の水分濃度は、0〜200ppmであることが好ましく、0〜100ppmであることが好ましく、0〜30ppmであることがさらに好ましい。
このような酸素や水分を含まない環境で塗布液を調製する方法としては、窒素やアルゴンで充填したグローブボックス内で調製する方法が好ましい。
(工程2:塗布液を基材上に塗布し、乾燥させて、塗膜を形成する工程)
次の工程2では、上記工程1で調製した塗布液を基材上に塗布し、乾燥させて、塗膜を形成する。塗布液を塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
塗布厚さは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、無機バリア層1層当たりの塗布厚さは、乾燥後の厚さが10nm〜1,000nm程度であることが好ましく、15nm〜500nmであることがより好ましく、20〜300nmであることがさらに好ましい。膜厚が10nm以上であれば十分なガスバリア性を得ることができ、1,000nm以下であれば、層形成時に安定した塗布性を得ることができ、かつ高い光線透過性を実現できる。
塗布液を塗布した後は、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥することによって、塗膜中に含有される有機溶媒などの溶剤を除去することができる。この際、塗膜に含有される溶剤は、全てを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の溶剤を残存させる場合であっても、好適な無機バリア層が得られうる。なお、残存する溶剤は後に除去されうる。
塗膜の乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましい。例えば、ガラス転位温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を基材として用いる場合には、乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して適宜設定することが好ましい。上記温度は、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって設定されうる。乾燥時間は短時間に設定することが好ましく、例えば、80℃で1〜数分程度に設定することが好ましい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
塗布液を塗布して得られた塗膜は、改質処理前または改質処理中に水分を除去する工程を含んでいてもよい。水分を除去する方法としては、低湿度環境を維持して除湿する形態が好ましい。低湿度環境における湿度は温度により変化するので、温度と湿度の関係は露点温度の規定により好ましい形態が示される。好ましい露点温度は4℃以下(温度25℃/湿度25%)で、より好ましい露点温度は−5℃(温度25℃/湿度10%)以下であり、維持される時間は無機バリア層の膜厚によって適宜設定することが好ましい。無機バリア層の膜厚が1.0μm以下の条件においては、露点温度は−5℃以下で、維持される時間は1分以上であることが好ましい。なお、露点温度の下限は特に制限されないが、通常、−50℃以上であり、−40℃以上であることが好ましい。改質処理前、あるいは改質処理中に水分を除去することによって、添加したシラノールの脱水反応を促進することができる。
(工程3:塗膜に真空紫外光を照射して、改質処理を行う工程)
本工程では、上記工程2で形成した塗膜に真空紫外光(真空紫外線)を照射して、改質処理を行うことによって、ポリシラザン化合物を酸化ケイ素または酸窒化ケイ素等へと転化させる。ここで改質処理とは、ガスバリア性フィルムが全体としてガスバリア性(水蒸気透過率が、1×10−3g/m2・day以下)を発現するに貢献できるレベルの無機薄膜を形成する処理をいう。
本発明では、改質処理として、真空紫外線照射による処理(エキシマ照射処理)を行うことを特徴とする。真空紫外線照射による処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温(約200℃以下)で、酸化ケイ素膜の形成を行う方法である。
本発明においての放射線源は、100〜180nmの波長の光を発生させるものであれば良いが、好適には約172nmに最大放射を有するエキシマラジエータ(例えば、Xeエキシマランプ)、約185nmに輝線を有する低圧水銀蒸気ランプ、並びに230nm以下の波長成分を有する中圧および高圧水銀蒸気ランプ、および約222nmに最大放射を有するエキシマランプである。
このうち、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン塗膜の改質を実現できる。
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で、すなわち短い波長でエネルギーを照射するため、解射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどのフレシキブルフィルム材料に適している。
紫外線照射時の反応には、酸素が必要であるが、真空紫外線は、酸素による吸収があるため紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線の照射は、可能な限り酸素濃度および水蒸気濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素(O2)濃度は、200〜10,000体積ppmとすることが好ましく、より好ましくは500〜5,000体積ppmであり、さらに好ましくは700体積ppm〜2,000体積ppmである。また、転化プロセスの間の水蒸気濃度は、好ましくは1,000〜4,000体積ppmの範囲である。このような酸素濃度・水蒸気濃度であれば、ポリシラザン化合物の改質反応が十分に進行されうる。
真空紫外線照射時に用いられる、照射雰囲気を満たすガスとしては乾燥不活性ガスとすることが好ましく、アルゴンガスや窒素ガスが好ましいが、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。酸素濃度の調整は照射庫内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線照射工程において、ポリシラザン塗膜が受ける塗膜面での該真空紫外線の照度は1mW/cm2〜10W/cm2であると好ましく、30mW/cm2〜200mW/cm2であることがより好ましく、50mW/cm2〜160mW/cm2であるとさらに好ましい。1mW/cm2以上であれば、十分な改質効率が得られ、10W/cm2以下であれば、塗膜にアブレーションを生じにくく、基材にダメージを与えにくい。
塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量(積算光量)は、100〜10000mJ/cm2であることが好ましく、500〜8,000mJ/cm2であることがより好ましく、700〜6,000mJ/cm2であることがさらに好ましい。100mJ/cm2以上であれば、改質が十分に進行しうる。10,000mJ/cm2以下であれば、過剰改質によるクラック発生や、基材の熱変形が生じにくい。
また、改質に用いられる真空紫外光は、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガスで形成されたプラズマにより発生させてもよい(この場合は真空チャンバー中での照射を含む)。さらに、CO、CO2およびCH4の少なくとも一種を含むガス(以下、炭素含有ガスとも称する)は、炭素含有ガスを単独で使用してもよいが、希ガスまたはH2を主ガスとして、炭素含有ガスを少量添加することが好ましい。プラズマの生成方式としては容量結合プラズマなどが挙げられる。
なお、真空紫外光による改質処理の際の塗膜の温度としては、基材種によって適宜選択できるが、50〜250℃の範囲に適宜調整することが好ましく、50〜120℃の範囲であることがより好ましい。
[無機化合物層(他のガスバリア層)]
本発明のガスバリア性フィルムは、上記無機バリア層以外にも、ガスバリア層としての無機化合物層を有していてもよい。上記無機バリア層に代えて無機化合物層を積層させることにより、より高いレベルのガスバリア性能を有するガスバリア性フィルムとすることが可能となる。
無機化合物層が形成される位置は特に制限されず、樹脂基材の無機バリア層が形成されている面とは反対側であってもよいし、樹脂基材と無機バリア層との間であってもよいし、無機バリア層の樹脂基材が位置する面側とは反対の面側であってもよいし、それらの組み合わせであっても構わない。
また、それぞれの位置に形成される無機化合物層は、1層のみであってもよいし、2層以上であってもよい。
本発明においては、無機化合物層が形成される場合の好ましい層構成として、図1で示したような、樹脂基材上に、無機化合物層と、無機バリア層とが順次積層される形態が挙げられる。このような層構成の場合、本発明の効果がより一層顕著に発揮されるからである。すなわち、このような層構成のガスバリア性フィルムを製造する場合、樹脂基材上に形成された無機化合物層上に無機バリア層を形成することになるが、無機バリア層を形成する段階での改質処理において、既に形成されている無機化合物層の存在によって、樹脂基材を通して酸素(O2)や水分が塗膜に十分に供給されない可能性がある。そうすると、改質が均一に進行せずに、耐湿熱性のみならず、初期のガスバリア性能も十分ではなくなるおそれがある。しかしながら、本発明によれば、このような層構成であっても、より均質で緻密な無機バリア層とすることができるという利点を有する。実際、後述の実施例では、樹脂基材上に形成された無機化合物層(第1のガスバリア層)上に、無機バリア層(第2の無機バリア層)を形成しているが、十分なガスバリア性および耐湿熱性を有するガスバリア性フィルムが得られることが示されている。
無機化合物層の形成方法は、特に制限されず、物理気相成長法(PVD法)、化学気相成長法(CVD法)などの真空成膜法、または無機化合物を含む液、好ましくはケイ素化合物を含有する液を塗布して形成される塗膜を改質処理して形成する方法(以下、単に塗布法とも称する)などが挙げられる。これらのうち、無機化合物層は、物理気相成長法または化学気相成長法がより好ましく、化学気相成長法が特に好ましい。以下、真空成膜法(物理気相成長法および化学気相成長法)について説明する。
物理気相成長法(Physical Vapor Deposition、PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタ法(DCスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、およびマグネトロンスパッタ法等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
スパッタ法は、真空チャンバ内にターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴン)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、基材に付着させる方法である。このとき、チャンバ内に窒素ガスや酸素ガスを流すことにより、アルゴンガスによってターゲットからはじき出された元素と、窒素や酸素とを反応させて無機層を形成する、反応性スパッタ法を用いてもよい。
化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD法)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基材表面または気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、真空プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられる。特に限定されるものではないが、製膜速度や処理面積の観点から、プラズマCVD法を適用することが好ましい。
真空プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られる無機化合物層は、原材料(原料ともいう)である金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、目的の化合物を製造できるため好ましい。プラズマCVD法によるバリア層の形成条件の詳細については、例えば、国際公開第2012/067186の段落「0033」〜「0051」に記載される条件が適宜採用されうる。このような方法により形成される無機化合物層は、酸化物、窒化物、酸窒化物または酸炭化物を含む層であることが好ましい。
以下、CVD法のうち、好適な形態である真空プラズマCVD法について具体的に説明する。
図3は、本発明に係る無機化合物層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
図3において、真空プラズマCVD装置101は、真空槽102を有しており、真空槽102の内部の底面側には、サセプタ105が配置されている。また、真空槽102の内部の天井側には、サセプタ105と対向する位置にカソード電極103が配置されている。真空槽102の外部には、熱媒体循環系106と、真空排気系107と、ガス導入系108と、高周波電源109が配置されている。熱媒体循環系106内には熱媒体が配置されている。熱媒体循環系106には、熱媒体を移動させるポンプと、熱媒体を加熱する加熱装置と、冷却する冷却装置と、熱媒体の温度を測定する温度センサと、熱媒体の設定温度を記憶する記憶装置とを有する加熱冷却装置160が設けられている。図3に記載の真空プラズマCVD装置の詳細については、国際公開番号WO12/014653を参照することができる。
また、本発明に係るCVD法により形成される無機化合物層の好適な一実施形態として、無機化合物層は構成元素に炭素、ケイ素、および酸素を含むことが好ましい。より好適な形態は、以下の(i)〜(ii)の要件を満たす層である。
(i)無機化合物層の膜厚方向における無機化合物層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有する、
(ii)炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値と最小値との差の絶対値が3at%以上である。
かような組成を有することで、ガスバリア性と屈曲性を高度に両立する観点から好ましい。
更に、無機化合物層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する各原子の平均原子比率が、下記式(A)又は(B)で表される序列の大小関係を有することが、屈曲耐性のさらに向上の点から好ましい。
以下、上記好適な実施形態について説明する。
(i)前記無機化合物層の膜厚方向における前記無機化合物層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することが好ましい。該無機化合物層は、前記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有することが好ましく、少なくとも4つの極値を有することがより好ましいが、5つ以上有してもよい。炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することで、炭素原子比率が濃度勾配を有して連続的に変化し、屈曲時のガスバリア性能が高まる。なお、炭素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。極値の数は、ガスバリア層の膜厚にも起因するため、一概に規定することはできない。
ここで、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記無機化合物層の膜厚方向における前記無機化合物層の表面からの距離(L)の差の絶対値(以下、単に「極値間の距離」とも称する)が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることが特に好ましい。このような極値間の距離であれば、無機化合物層中に炭素原子比が多い部位(極大値)が適度な周期で存在するため、無機化合物層に適度な屈曲性を付与し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において極値とは、前記無機化合物層の膜厚方向における前記無機化合物層の表面からの距離(L)に対する元素の原子比の極大値または極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、無機化合物層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が増加から減少に変わる点であって、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から無機化合物層の膜厚方向における無機化合物層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上減少していればよい。これは、無機化合物層の膜厚により変動する。例えば、無機化合物層が300nmである場合は、無機化合物層の膜厚方向における無機化合物層の表面からの距離を20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点が好ましい。さらに、本明細書において極小値とは、無機化合物層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から無機化合物層の膜厚方向における無機化合物層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上増加していればよい。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、極値間の距離が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されない。
さらに、該無機化合物層は、(ii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が3at%以上であることが好ましく、5at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましい。炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が3at%以上であることで、屈曲時のガスバリア性能が高まる。なお、本明細書において、「最大値」とは、各元素の分布曲線において最大となる各元素の原子比であり、極大値のなかで最も高い値である。同様にして、本明細書において、「最小値」とは、各元素の分布曲線において最小となる各元素の原子比であり、極小値のなかで最も低い値である。
また、無機化合物層の膜厚の90%以上(上限:100%)の領域で、(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順で多い(原子比がO>Si>C)ことが好ましい。かような条件となることで、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性や屈曲性が十分となる。ここで、上記炭素分布曲線において、上記(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)および(炭素の原子比)の関係は、ガスバリア層の膜厚の、少なくとも90%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましく、少なくとも93%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましい。ここで、ガスバリア層の膜厚の少なくとも90%以上とは、ガスバリア層中で連続していなくてもよく、単に90%以上の部分で上記した関係を満たしていればよい。
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線、および前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記無機化合物層の膜厚方向における前記無機化合物層の表面からの距離(L)に概ね相関することから、「無機化合物層の膜厚方向における無機化合物層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される無機化合物層の表面からの距離を採用することができる。なお、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線および酸素炭素分布曲線は、下記測定条件にて作成することができる。
(測定条件)
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+)
エッチング速度(SiO2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO2換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名"VG Theta Probe"
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポットおよびそのサイズ:800×400μmの楕円形。
上記のプラズマCVD法により形成される無機化合物層の膜厚(乾燥膜厚)は、特に制限されない。例えば、該無機化合物層の1層当たりの膜厚は、20〜3000nmであることが好ましく、50〜2500nmであることがより好ましく、30〜1000nmであることが特に好ましい。このような膜厚であれば、ガスバリア性フィルムは、優れたガスバリア性および屈曲時のクラック発生抑制/防止効果を発揮できる。なお、上記のプラズマCVD法により形成される無機化合物層が2層以上から構成される場合には、各無機化合物層が上記したような膜厚を有することが好ましい。
本発明において、膜面全体において均一でかつ優れたガスバリア性を有する無機化合物層を形成するという観点から、前記無機化合物層が膜面方向(無機化合物層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。ここで、無機化合物層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により無機化合物層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線および前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
さらに、本発明においては、前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。ここで、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記無機化合物層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該無機化合物層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式1で表される条件を満たすことをいう。
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、上記条件(i)〜(ii)を全て満たす無機化合物層は、1層のみを備えていてもよいし2層以上を備えていてもよい。さらに、このような無機化合物層を2層以上備える場合には、複数の無機化合物層の材質は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
本発明では、無機化合物層の形成方法は特に制限されず、従来と方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。無機化合物層は、好ましくは化学気相成長(CVD)法、特に、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD、PECVD(plasma-enhanced chemical vapor deposition)、以下、単に「プラズマCVD法」とも称する)により形成され、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により形成されることがより好ましい。
以下では、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により、基材上に無機化合物層を形成する方法を説明する。
本発明に係る無機化合物層を基材の表面上に形成させる方法としては、ガスバリア性の観点から、プラズマCVD法を採用することが好ましい。なお、前記プラズマCVD法はペニング放電プラズマ方式のプラズマCVD法であってもよい。
また、プラズマCVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに基材を配置して、一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に基材を配置して、かかる一対の成膜ローラー間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、通常のローラーを使用しないプラズマCVD法と比較して成膜レートを倍にでき、なおかつ、略同一である構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)〜(ii)を全て満たす層を形成することが可能となる。
また、このようにして一対の成膜ローラー間に放電する際には、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。さらに、このようなプラズマCVD法に用いる成膜ガスとしては、有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量未満であることが好ましい。また、本発明のガスバリア性フィルムにおいては、前記無機化合物層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
また、本発明に係るガスバリア性フィルムは、生産性の観点から、ロールツーロール方式で前記基材の表面上に前記無機化合物層を形成させることが好ましい。また、このようなプラズマCVD法により無機化合物層を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、かつ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図4に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロールツーロール方式で製造することも可能となる。
以下、図4を参照しながら、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法による無機化合物層の形成方法について、より詳細に説明する。なお、図4は、本製造方法より無機化合物層を製造するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図4に示す製造装置31は、送り出しローラー32と、搬送ローラー33、34、35、36と、成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、成膜ローラー39および40の内部に設置された磁場発生装置43、44と、巻取りローラー45とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、磁場発生装置43、44とが図示を省略した真空チャンバ内に配置されている。さらに、このような製造装置31において前記真空チャンバは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバ内の圧力を適宜調整することが可能となっている。装置に関する詳細は従来公知の文献、例えば、特開2011−73430号公報を参照することができる。
上記したように、本実施形態のより好ましい態様としては、本発明に係る無機化合物層を、図4に示す対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いたプラズマCVD法によって成膜する。これは、対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いて量産する場合に、可撓性(屈曲性)に優れ、機械的強度、特にロールツーロールでの搬送時の耐久性と、ガスバリア性能とが両立する無機化合物層を効率よく製造することができるためである。このような製造装置は、太陽電池や電子部品などに使用される温度変化に対する耐久性が求められるガスバリア性フィルムを、安価でかつ容易に量産することができる点でも優れている。
[アンカーコート層(アンカー層)]
本発明に係る樹脂基材の表面には、接着性(密着性)の向上を目的として、アンカーコート層(アンカー層)を易接着層として形成してもよい。このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1種または2種以上併せて使用することができる。上記アンカーコート剤は、市販品を使用してもよい。具体的には、シロキサン系UV硬化型ポリマー溶液(信越化学工業株式会社製、「X−12−2400」の3%イソプロピルアルコール溶液)を用いることができる。
これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。なお、市販の易接着層付き基材を用いてもよい。
または、アンカーコート層は、物理蒸着法または化学蒸着法といった気相法により形成することもできる。例えば、特開2008−142941号公報に記載のように、接着性等を改善する目的で酸化ケイ素を主体とした無機膜を形成することもできる。
また、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10.0μm程度が好ましい。
[ブリードアウト防止層]
本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層を設ける面とは反対側の基材面にブリードアウト防止層を有してもよい。
ブリードアウト防止層は、フィルムを加熱した際に、フィルム中から未反応のオリゴマー等が表面へ移行して、接触する面を汚染してしまう現象を抑制する目的で、設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば基本的に平滑層と同じ構成をとっても構わない。
ブリードアウト防止層の構成材料、形成方法、膜厚などは、特開2013−52561号公報の段落「0249」〜「0262」に開示される材料、方法などが適宜採用される。
本発明のガスバリア性フィルムは、上記アンカーコート層またはブリードアウト防止層以外にも、透明導電層、プライマー層等の他の機能層を有していてもよい。機能層については、上述したもののほか、特開2006−289627号公報の段落「0036」〜「0039」に記載されているものを好ましく採用できる。
<ガスバリア性フィルムの用途>
本発明のガスバリア性フィルムは、空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するに好ましく用いることができる。したがって、本発明は、電子デバイス本体と本発明に係るガスバリア性フィルムまたは本発明の方法によって製造されるガスバリア性フィルムとを含む、電子デバイスをも提供する。
デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子(LCD)、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等の電子デバイスを挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、有機EL素子または太陽電池に好ましく用いられ、有機EL素子に特に好ましく用いられる。
本発明のガスバリア性フィルムは、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、本発明は、電子デバイス本体と、本発明のガスバリア性フィルムとを含む電子デバイスをも提供する。具体的には、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のガスバリア性フィルムを設ける。なお、ガスバリア性フィルムを設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
本発明のガスバリア性フィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリア性フィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
(有機EL素子)
ガスバリア性フィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリア性フィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、IPS型(In-Plane Switching)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
(太陽電池)
本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明のガスバリア性フィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。なかでも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、有機太陽電池素子であることが好ましい。
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特表2013−554018号公報に記載のディスプレイ用光学部材等が挙げられる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。また、下記操作において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で行う。
(比較例1:ガスバリア性フィルム101の作製)
〔無機化合物層(第1のバリア層)の形成(プラズマCVD法)〕
株式会社きもと製のクリアハードコートを施したPET基材(125μm厚)を、図4に示されるような製造装置31にセットして、搬送させた。次いで、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に磁場を印加すると共に、成膜ローラー39と成膜ローラー40にそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電してプラズマを発生させた。次いで、形成された放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとして酸素ガス(放電ガスとしても機能する)との混合ガスを供給し、基材2上に、プラズマCVD法にてガスバリア性の薄膜(珪素、酸素、炭素を含む無機化合物層、第1のバリア層)を形成した。無機化合物層の厚みは、150nmであった。
成膜条件は、以下の通りとした;
(成膜条件)
原料ガスの供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、
0℃、1気圧基準)
酸素ガスの供給量:500sccm(0℃、1気圧基準)
真空チャンバー内の真空度:2Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:1.0m/min。
〔無機バリア層(第2のバリア層)の形成(塗布法)〕
(ポリシラザン含有塗布液の調製および成膜)
ポリシラザン含有塗布液の調製は窒素で充填したグローブボックス中(酸素濃度<10ppm、水分濃度<10ppmの環境)で行った。また、バリア層の塗布成膜は、通常大気環境下(具体的には、25℃、60%RHの環境下)で行った。
無触媒のパーヒドロポリシラザン(PHPS)を20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、アクアミカ(登録商標)NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン(TMDAH))を5質量%含むパーヒドロポリシラザン20質量%のジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、アクアミカ(登録商標)NAX120−20)とを、4:1の割合(質量比)で混合し(攪拌速度:200rpm)、さらにジブチルエーテルと2,2,4−トリメチルペンタンとの質量比が65:35となるように混合した溶媒で、塗布液の固形分(パーヒドロポリシラザンの濃度)が2.7質量%になるように調製し塗布液(1)とした。
パーヒドロポリシラザンの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
カラム:Tskgel G2000HxL(東ソー社製)を3本、同G4000を1本接続して使用する。
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standardポリスチレン(東ソー社製)、数平均分子量(Mn)=1.0×105〜1.0×102までの標準サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に選択した。
ここで上記塗布液(1)について前述の通りGPC測定を行った。
数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出した。
その結果、Mw/Mnは10であった。
上記で得られた塗布液を、スピンコーターにて、上記の無機化合物層上に、厚さ(乾燥膜厚)が80nmになるよう成膜し、80℃のホットプレートで1分間追加加熱処理を行い、ポリシラザン塗膜(前駆層)を形成した。
ポリシラザン塗膜を形成した後、下記の方法に従って、172nmの真空紫外線を6000mJ/cm2になるように照射して、無機バリア層(第2のバリア層)を無機化合物層(第1のバリア層)上に形成した。このようにして、ガスバリア性フィルム101を作製した。
〈真空紫外線照射条件・照射エネルギーの測定〉
真空紫外線照射は、図2に模式図で示した装置を用いて行った。図2において、21は装置チャンバであり、図示しないガス供給口から内部に窒素と酸素とを適量供給し、図示しないガス排出口から排気することで、チャンバ内部から実質的に水蒸気を除去し、酸素濃度を所定の濃度に維持することができる。ここでは酸素濃度を1,000体積ppmに調節して真空紫外線照射を行った。なお、チャンバ内の酸素濃度は、酸素濃度計(東レエンジニアリング社製ジルコニア型酸素濃度計LC−450A)を用いて測定した。22は172nmの真空紫外線を照射する二重管構造を有するXeエキシマランプ、23は外部電極を兼ねるエキシマランプのホルダーである。24は試料ステージである。試料ステージ24は、図示しない移動手段により装置チャンバ21内を水平に所定の速度で往復移動することができる。また、試料ステージ24は図示しない加熱手段により、所定の温度に維持することができる。ここでは100℃に設定した。25はポリシラザン塗膜が形成された試料である。試料ステージが水平移動する際、試料の塗布層表面と、エキシマランプ管面との最短距離が6mmとなるように試料ステージの高さが調整されている。26は遮光板であり、Xeエキシマランプ22のエージング中に試料の塗布層に真空紫外光が照射されないようにしている。
真空紫外線照射工程で塗膜表面に照射されるエネルギーは、浜松ホトニクス株式会社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025 UV POWER METERを用い、172nmのセンサヘッドを用いて測定した。測定に際しては、Xeエキシマランプ管面とセンサヘッドの測定面との最短距離が、6mmとなるようにセンサヘッドを試料ステージ24中央に設置し、かつ、装置チャンバ21内の雰囲気が、真空紫外線照射工程と同一の酸素濃度となるように窒素と酸素とを供給し、試料ステージ24を0.5m/minの速度(図2のV)で移動させて測定を行った。測定に先立ち、Xeエキシマランプ12の照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後に10分間のエージング時間を設け、その後試料ステージを移動させて測定を開始した。
この測定で得られた照射エネルギーを元に、試料ステージの移動速度を調整することで2.0J/cm2の照射エネルギーとなるように調整した。尚、改質処理時の真空紫外線照射に際しても、照射エネルギー測定時と同様に、10分間のエージング後に行った。
(比較例2:ガスバリア性フィルム102の作製)
比較例1において、塗布液(1)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(2)を使用した以外は、比較例1と同様にして、ガスバリア性フィルム102を作製した。
塗布液(2)は、ALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を0.2質量部に対し、ジブチルエーテル(関東化学社製)を17質量部入れ溶解させた。更に、パーヒドロポリシラザン(PHPS)を20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、アクアミカ(登録商標)NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン(TMDAH))を5質量%含むパーヒドロポリシラザン20質量%のジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、アクアミカ(登録商標)NAX120−20)とを、4:1の割合(質量比)で混合した液1.6質量部を一気に加え、攪拌(攪拌速度:200rpm)した。なお、ALCH由来のAl原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約10モル%であった。上記混合した液を撹拌しながら80℃に昇温し(昇温速度は3℃/分)、そのまま1時間撹拌反応させた後、冷却することで、固形分濃度約2.7質量%の塗布液(2)を調製した。
なお、上記反応は、水蒸気濃度及び酸素濃度がそれぞれ10体積ppm以下の雰囲気中で行った。ここで、反応系内の酸素濃度は、酸素濃度計(東レエンジニアリング社製ジルコニア型酸素濃度計LC−450A)を用いて測定した。また、反応系内の水蒸気濃度は、露点計(ヴァイサラ社製、DMT型露点計)を用いて露点を測定し、測定した露点から水蒸気濃度を求めた。
上記塗布液(2)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、7.0であった。
また、第2のバリア層について、下記のようにXPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約10モル%であった。
(XPS分析)
ガスバリア層の厚さ方向の組成を下記条件で測定した。
・装置:QUANTERASXM(アルバック・ファイ株式会社製)
・X線源:単色化Al−Kα
・測定領域:Si2p、C1s、N1s、O1s
・スパッタイオン:Ar(2keV)
・デプスプロファイル:1分間のスパッタ後に測定を繰り返す
・データ処理:MultiPak(アルバック・ファイ株式会社製)
・定量:バックグラウンドをShirley法で求め、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて定量した。
XPS分析における領域の厚さ方向の長さについては、以下の補正を行った。すなわち、はじめにXPS分析によりSiO2換算のエッチングレートからガスバリア層の厚さ方向の組成および厚さ方向の長さを求める。他方、同一試料についてTEM分析を行い、断面画像からガスバリア層の厚さを求める。そして、TEMの断面画像をXPS分析から求めたガスバリア層の厚さ方向の組成分布と対比して、厚さ方向の組成分布を特定した。
(実施例1:ガスバリア性フィルム103の作製)
比較例2において、塗布液(2)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(3)を使用した以外は、比較例2と同様にして、ガスバリア性フィルム103を作製した。
パーヒドロポリシラザン(PHPS)を20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、アクアミカ(登録商標)NN120−20)と、アミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン(TMDAH))を5質量%含むパーヒドロポリシラザン20質量%のジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、アクアミカ(登録商標)NAX120−20)とを、4:1の割合(質量比)で混合した液の5質量部にジブチルエーテル12質量部を加え希釈しA液とした。続けてALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)の0.035質量部に対し、ジブチルエーテル(関東化学社製)を17質量部加え溶解させB液とした。なお、ALCH由来のAl原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約0.5モル%であった。
次に、上記作製したA液を室温で撹拌(攪拌速度:400rpm)しながら、B液を10分かけて添加した。そのまま室温で10分間撹拌した後、反応液を80℃まで昇温し(昇温速度は3℃/分)、そのまま1時間撹拌した後、冷却して固形分約5質量%の液を作製した。更にジブチルエーテルを添加し、固形分を2.7質量%に調製し塗布液(3)とした。
上記塗布液(3)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、5.8であった。
また、第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約0.5モル%であった。
(実施例2:ガスバリア性フィルム104の作製)
実施例1において、塗布液(3)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(4)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム104を作製した。
塗布液(4)は塗布液(3)のALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を0.14質量部とした以外は塗布液(3)と同様に、固形分を2.7質量%とし作製した。なお、ALCH由来のAl原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約2.0モル%であった。
上記塗布液(4)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、3.5であった。
また、第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約2.0モル%であった。
(実施例3:ガスバリア性フィルム105の作製)
実施例1において、塗布液(3)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(5)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム105を作製した。
塗布液(5)は塗布液(3)のALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を0.7質量部とした以外は塗布液(3)と同様に、固形分を2.7質量%とし塗布液(5)作製した。なお、ALCH由来のAl原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約10モル%であった。
上記塗布液(5)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、2.1であった。
また、第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約10モル%であった。
(実施例4:ガスバリア性フィルム106の作製)
実施例1において、塗布液(3)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(6)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム106を作製した。
塗布液(6)は塗布液(3)のALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)に替えて、チタン(IV)イソプロポキシド(東京化成工業株式会社製)を0.73質量部とした以外は塗布液(3)と同様に、固形分を2.7質量%とし塗布液(6)を作製した。なお、チタン(IV)イソプロポキシド由来のTi原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約10モル%であった。
上記塗布液(6)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、4.7であった。
また、第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるTi原子の割合は、Si原子に対し、約10モル%であった。
(実施例5:ガスバリア性フィルム107の作製)
実施例1において、塗布液(3)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(7)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム107を作製した。
塗布液(7)は塗布液(3)のALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)に替えて、マグネシウムエトキシド(和光純薬工業株式会社製)を1.68質量部とした以外は塗布液(3)と同様に、固形分を2.7質量%とし塗布液(7)を作製した。なお、マグネシウムエトキシド由来のMg原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約10モル%であった。
上記塗布液(7)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、5.0であった。
また、第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるMg原子の割合は、Si原子に対し、約10モル%であった。
(実施例6:ガスバリア性フィルム108の作製)
実施例1において、塗布液(3)の代わりに、以下の方法によって調製した塗布液(8)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム108を作製した。
塗布液(8)は塗布液(3)のALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)に替えて、ホウ酸トリイソプロピル(和光純薬工業株式会社製)を1.0質量部とした以外は塗布液(3)と同様に、固形分を2.7質量%とし塗布液(8)を作製した。なお、ホウ酸トリイソプロピル由来のB原子の量は、原料ポリシラザン化合物由来のSi原子の総モル数に対し、約10モル%であった。
上記塗布液(8)について前述の通りGPC測定を行い、数平均分子量が1,000以上の標準ポリスチレンに相当する部分の、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を算出したところ、5.2であった。
また、第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるB原子の割合は、Si原子に対し、約10モル%であった。
(実施例7:ガスバリア性フィルム109の作製)
実施例2において、図2における装置チャンバに対し、図示しないガス供給口から内部に窒素と酸素とを適量供給し、図示しないガス排出口から排気する量を調節することで、チャンバ内部の酸素濃度を100体積ppmに調節して真空紫外線照射を行った以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルム109を作製した。
第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約2.0モル%であった。
(実施例8:ガスバリア性フィルム110の作製)
実施例2において、図2における装置チャンバに対し、図示しないガス供給口から内部に窒素と酸素とを適量供給し、図示しないガス排出口から排気する量を調節することで、チャンバ内部の酸素濃度を200体積ppmに調節して真空紫外線照射を行った以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルム110を作製した。
第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約2.0モル%であった。
(実施例9:ガスバリア性フィルム111の作製)
前記作成した実施例2において、図2における装置チャンバに対し、図示しないガス供給口から内部に窒素と酸素とを適量供給し、図示しないガス排出口から排気する量を調節することで、チャンバ内部の酸素濃度を500体積ppmに調節して真空紫外線照射を行った以外は前記実施例2と同様にしてガスバリア性フィルム111を作製した。
第2のバリア層について、XPS分析を行い、元素組成を調べたところ、当該層に含まれるAl原子の割合は、Si原子に対し、約2.0モル%であった。
《ガスバリア性保持率の評価》
上記で作製されたたガスバリア性フィルムについて、60℃、90%RHの高温高湿下に500hr曝したサンプル(劣化試験後サンプル)を各々準備し、劣化試験前後のサンプルそれぞれに対して、下記に示すカルシウム腐食時間の評価を行い、以下の式に従って保持率(%)を求めた。
保持率の指標としては70%以上あれば許容とし、70%未満は不適合と判断した。劣化試験前後の保持率(%)について結果を表1に示した。
(金属カルシウム製膜装置)
蒸着装置:日本電子株式会社製、真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
(原材料)
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
(カルシウム腐食時間の評価方法)
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、作製したガスバリアフィルムの第2のバリア層表面に、マスクを通して12mm×12mmのサイズで金属カルシウムを蒸着させた。この際、蒸着膜厚は80nmとなるようにした。
その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムを蒸着させて仮封止をした。次いで、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下に移して、アルミニウム蒸着面に封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製)を介して厚さ0.2mmの石英ガラスを張り合わせ、紫外線を照射して樹脂を硬化接着させて本封止することで、水蒸気バリア性評価試料を作製した。
得られた試料を85℃、85%RHの高温高湿下で保存し、保存時間に対して金属カルシウムが腐食して行く様子を観察した。観察は12mm×12mmの金属カルシウム蒸着面積に対する金属カルシウムが腐食した面積が100%になる時間(カルシウム腐食時間)を観察結果から直線で外挿して求めた。
《有機薄膜電子デバイスの作製》
上記で作製されたたガスバリア性フィルムを封止フィルムとして用いて、有機薄膜電子デバイスである有機EL素子を作製した。
〔有機EL素子の作製〕
(第1電極層の形成)
無アルカリガラス上にスパッタ法により製膜した厚さ150nmのITO(インジウムチンオキシド)を、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、第1電極層を形成した。なお、パターンは発光面積が50mm平方になるようなパターンとした。
(正孔輸送層の形成)
第1電極層が形成された各ガスバリア性フィルムの第1電極層の上に、以下に示す正孔輸送層形成用塗布液を、25℃、相対湿度50%RHの環境下で、押出し塗布機で塗布した後、下記の条件で乾燥および加熱処理を行い、正孔輸送層を形成した。正孔輸送層形成用塗布液は乾燥後の厚みが50nmになるように塗布した。
正孔輸送層形成用塗布液を塗布する前に、ガスバリア性フィルムの洗浄表面改質処理を、波長184.9nmの低圧水銀ランプを使用し、照射強度15mW/cm2、距離10mmで実施した。帯電除去処理は、微弱X線による除電器を使用し行った。
〈正孔輸送層形成用塗布液の準備〉
ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製 Bytron P AI 4083)を純水で65%、メタノール5%で希釈した溶液を正孔輸送層形成用塗布液として準備した。
〈乾燥および加熱処理条件〉
正孔輸送層形成用塗布液を塗布した後、成膜面に向け高さ100mm、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度100℃で溶媒を除去した後、引き続き、加熱処理装置を用い温度150℃で裏面伝熱方式の熱処理を行い、正孔輸送層を形成した。
(発光層の形成)
上記で形成した正孔輸送層上に、以下に示す白色発光層形成用塗布液を、下記の条件により押出し塗布機で塗布した後、下記の条件で乾燥および加熱処理を行い、発光層を形成した。白色発光層形成用塗布液は乾燥後の厚みが40nmになるように塗布した。
〈白色発光層形成用塗布液〉
ホスト材として下記化学式H−Aで表される化合物1.0gと、ドーパント材として下記化学式D−Aで表される化合物を100mg、ドーパント材として下記化学式D−Bで表される化合物を0.2mg、ドーパント材として下記化学式D−Cで表される化合物を0.2mg、100gのトルエンに溶解し白色発光層形成用塗布液として準備した。
〈塗布条件〉
塗布工程を窒素ガス濃度99%以上の雰囲気で、塗布温度を25℃とし、塗布速度1m/minで行った。
〈乾燥および加熱処理条件〉
白色発光層形成用塗布液を塗布した後、成膜面に向け高さ100mm、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度60℃で溶媒を除去した後、引き続き、温度130℃で加熱処理を行い、発光層を形成した。
(電子輸送層の形成)
上記で形成した発光層の上に、以下に示す電子輸送層形成用塗布液を下記の条件により押出し塗布機で塗布した後、下記の条件で乾燥および加熱処理し、電子輸送層を形成した。電子輸送層形成用塗布液は、乾燥後の厚みが30nmになるように塗布した。
〈塗布条件〉
塗布工程は窒素ガス濃度99%以上の雰囲気で、電子輸送層形成用塗布液の塗布温度を25℃とし、塗布速度1m/minで行った。
〈電子輸送層形成用塗布液〉
電子輸送層は下記化学式E−Aで表される化合物を2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール中に溶解し0.5質量%溶液とし電子輸送層形成用塗布液とした。
〈乾燥および加熱処理条件〉
電子輸送層形成用塗布液を塗布した後、成膜面に向け高さ100mm、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度60℃で溶媒を除去した後、引き続き、加熱処理部で、温度200℃で加熱処理を行い、電子輸送層を形成した。
(電子注入層の形成)
上記で形成した電子輸送層上に、電子注入層を形成した。まず、基板を減圧チャンバに投入し、5×10−4Paまで減圧した。あらかじめ、真空チャンバにタンタル製蒸着ボートに用意しておいたフッ化セシウムを加熱し、厚さ3nmの電子注入層を形成した。
(第2電極の形成)
上記で形成した電子注入層の上であって、第1電極22の取り出し電極になる部分を除く部分に、5×10−4Paの真空下で、第2電極形成材料としてアルミニウムを使用し、取り出し電極を有するように蒸着法にて、発光面積が50mm平方になるようにマスクパターン成膜し、厚さ100nmの第2電極を積層した。
(封止)
準備したガスバリア性フィルムを所定のサイズにトリミングし、バリア層面側に熱硬化性接着剤を、ディスペンサを使用して厚み20μmで均一に塗布し、接着剤層を形成した。このとき、熱硬化性接着剤としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)、ジシアンジアミド(DICY)及びエポキシアダクト系硬化促進剤を含むエポキシ系接着剤を使用した。
第1の電極上にパターニングされた取り出し電極(ここでは第1の電極、および第2の電極の取出し電極を含む)が露出する様に、上記ガスバリア性フィルムを密着・配置して、真空ラミネーターを用い密着封止した。封止した後、110℃で15分間後硬化処理を行い、有機EL素子を作製した。
《有機EL素子の評価》
上記作製した有機EL素子について、下記の方法に従って、耐久性の評価を行った。
〔耐久性の評価〕
(加速劣化処理)
上記作製した各有機EL素子を、85℃、85%RHの環境下で500時間の加速劣化処理を施した後、下記のダークスポットに関する評価を行った。
(ダークスポット(DS、黒点)の評価)
加速劣化処理を施した有機EL素子に対し、1mA/cm2の電流を印加し、100倍のマイクロスコープ(株式会社モリテックス製MS−804、レンズMP−ZE25−200)でパネルの一部分を拡大し、撮影を行った。撮影画像を20mm四方スケール相当に切り抜き、ダークスポットの発生面積比率を求め、下記の基準に従って耐久性を評価した。評価ランクが、△であれば実用的な特性、○であればより実用的な特性、◎であれば全く問題のない好ましい特性であると判定した。
◎:ダークスポット発生率が、1%未満である
○:ダークスポット発生率が、1%以上2%未満である
△:ダークスポット発生率が、2%以上5%未満である
×:ダークスポット発生率が、5%以上である。
上記表1から明らかなように、本発明のガスバリア性フィルムは、高温高湿下に長時間曝された後であっても、ガスバリア性能が低下しにくく、保存安定性に優れることが示された。
また、実施例2、7〜9の結果より、改質処理の際の、雰囲気中の酸素(O2)含有量を200体積ppm以上とすることにより、保存安定性が一層向上することが分かった。
さらに、実施例1〜3の結果より、塗布液調製の際に使用される、金属化合物に含まれる金属原子の含有量が、原料ポリシラザン化合物に含まれるケイ素原子(Si)に対し、2%以上とすることにより、保存安定性が一層向上することが分かった。
また、上記表1より、本発明のガスバリア性フィルムを有機EL素子の封止フィルムとして用いることで、ダークスポットの発生が低減されることが分かった。このことから、本発明のガスバリア性フィルムは、各種電気デバイスに好適に使用できることが示された。