〔発明が解決しようとする課題〕
電動機が車両の駆動源の少なくとも一部を構成する車両においては、燃費を向上させる目的で、電動機を回生発電機として機能させることにより回生制動が行われるようになっている。回生制動においては、車輪に回生制動力が付与され、発生する電気にてバッテリが充電されるので、バッテリは回生制動が行われる度に充電される。
しかし、バッテリの充電容量は有限であるため、バッテリの充電量が基準値以上になると、回生制動による充電が制限されることにより、バッテリの過充電が防止されるようになっている。即ち、バッテリの充電量が基準値以上である場合には、電動機の目標トルクが制動トルクである状況において、目標トルクの大きさが充電を制限するための制限基準値より大きくなると、目標トルクはその大きさが制限基準値よりも大きくならないよう、制限される。
回生制動による制振が行われる際に発電されバッテリに充電される電力は、後に詳細に説明するように、制振トルクの大きさが大きいほど大きくなるだけでなく、制振トルクの周波数が高いほど大きくなる。ばね上の振動は高周波成分を含み、これに対応して制振トルクも高周波成分を含むので、バッテリの過充電を効果的に防止するためには、制振トルクが高周波成分を含まない場合に比して、回生制動が制限されなければならない。
そのため、制限基準値は、制振トルクが高周波成分を含まない場合に妥当な制限基準値に比して、大きさが小さい値に設定されなければならない。従って、制動トルクであるときの目標トルクの大きさは、厳しい制限基準値によって制限されるので、制動トルクが制限されることに起因して制振トルクが不足し、ばね上の振動が効果的に行われない場合が生じる。
本発明は、回生制動が行われる車両において電動機の制駆動トルクの制御による制振制御を行う従来の制振制御装置における上述の問題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の主要な課題は、ばね上の振動が高周波成分を含む場合にも、バッテリの過充電を効果的に防止しつつ、ばね上の振動をできるだけ効果的に制振することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、上述の主要な課題を達成すべく、充放電可能なバッテリと、バッテリからの電気を使用して駆動トルクを発生することにより車輪に駆動力を付与する電動機と、電動機を回生発電機として機能させ回生制動トルクを発生することにより車輪に制動力を付与すると共に発生する電気にてバッテリを充電する回生制動装置と、車両の走行中におけるばね上の振動を制振するための目標制振トルクを演算し、電動機の駆動トルク及び回生制動トルクにより発生される実際の制振トルクが目標制振トルクになるように、車両を走行させるための電動機の目標走行駆動トルクと目標制振トルクとの和である目標トルクに基づいて電動機及び回生制動装置を制御する制御手段と、を含む車両の制振制御装置が提供される。
制振制御装置は、バッテリの充電量を検出する充電量検出装置と、目標トルクが制動トルクであるか否かを示す目標トルクの指標値を演算する指標値演算装置と、目標制振トルクを示す信号をローパスフィルタ処理するフィルタ装置と、を含んでいる。制御手段は、バッテリの充電量が基準値以上であり且つ目標トルクの指標値が制動トルクであるときには、目標制振トルクをローパスフィルタ処理後の信号により示される値に修正するように構成されている。なお、「目標トルクの指標値」は、目標トルクが制動トルクであるか否かを判定するために使用され、目標走行駆動トルクとローパスフィルタ処理後の信号により示される値との和、目標トルク、目標トルクを示す信号がローパスフィルタ処理された値、の何れであってもよい。
上記の構成によれば、バッテリの充電量が基準値以上であり且つ目標トルクの指標値が制動トルクであるときには、目標制振トルクはローパスフィルタ処理により高周波成分が除去された値に修正される。よって、目標制振トルクに高周波成分が含まれている場合に比して、バッテリに充電される電力を低下させることができるので、バッテリの過充電を効果的に防止することができる。
また、目標制振トルクがローパスフィルタ処理されない場合に比して、バッテリへの充電量を低減することができるので、バッテリの過充電を効果的に防止するための制限基準値の大きさが大きくてもよい。よって、目標トルクが制動トルクである状況において、制限基準値による制限を受けない目標トルクの大きさの最大値を大きくすることができる。従って、目標制振トルクがローパスフィルタ処理されない場合に比して、目標トルクが制動トルクである状況において、許容される目標トルクの大きさの最大値を大きくし、制振の必要性が高い低周波のばね上振動を効果的に低減することができる。
なお、上記の構成によれば、バッテリの充電量が基準値以上であっても、目標トルクの指標値が駆動トルクであるときには、目標制振トルクはローパスフィルタ処理された値に修正されない。よって、目標トルクの指標値が駆動トルクであるときには、高周波成分が除去されていない目標制振トルクに基づいて制振トルクを制御することができる。従って、目標トルクの指標値が制動トルクあるか否かに関係なくローパスフィルタ処理された値に修正される場合に比して、高周波のばね上の振動を効果的に制振することができる。
本発明によれば、上記の構成において、制御手段は、バッテリの充電量が基準値以上であり且つ目標トルクの指標値の大きさが処理基準値よりも大きい制動トルクであるときに、目標制振トルクをローパスフィルタ処理後の信号により示される値に修正するように構成されていてよい。
上記の構成によれば、目標トルクの指標値の大きさが処理基準値以下であるときには、目標制振トルクはローパスフィルタ処理後の信号により示される値に修正されないので、高周波成分は除去されない。よって、目標トルクの指標値の大きさの如何に関係なく目標制振トルクがローパスフィルタ処理後の信号に修正される場合に比して、高周波のばね上振動を効果的に低減することができる。更に、目標トルクの指標値の大きさが処理基準値以下であるときには、目標制振トルクに高周波成分が含まれていても、目標トルクの大きさは過剰に大きくならない。よって、目標制振トルクに高周波成分が含まれていることに起因してバッテリに充電される電力が過大になることはない。
本発明によれば、上記の構成において、制振制御装置は、バッテリの放電による電力の供給を制限すべき状況であるか否かを判定する制限判定装置を含み、制御手段は、バッテリの放電による電力の供給を制限すべき状況である場合には、目標トルクの指標値が駆動トルクであるときには、目標制振トルクをローパスフィルタ処理後の信号により示される値に修正するように構成されていてよい。
上記の構成によれば、バッテリの放電による電力の供給を制限すべき状況である場合には、目標トルクの指標値が駆動トルクであるときには、目標制振トルクはローパスフィルタ処理により高周波成分が除去された値に修正される。よって、目標トルクの指標値が駆動トルクである状況において、制振の必要性が低い高周波のばね上振動を低減するためにバッテリから電動機へ供給される電力を効果的に低減することができる。
なお、上記の各構成において、電動機は、ハイブリッドシステム搭載車、電気自動車、燃料電池車において、車両の駆動源の少なくとも一部を構成する電動機であってよい。また、フィルタ装置は、制御手段の一部であってよい。
また、上記の各構成において、バッテリの放電による電力の供給を制限すべき状況であるか否かを判定する制限判定装置は、バッテリから電動機への電力の供給を制限すべき状況であるか否かを判定するようになっていてよい。例えば、車両の消費エネルギーを低減するエコモードに車両の走行モードを設定するエコモードスイッチが設けられた車両の場合には、エコモードスイッチがオンであるときに、バッテリの放電による電力の供給を制限すべき状況であると判定されてよい。
以下に添付の図を参照しつつ、好ましい実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、ばね上の振動とは、路面から車両の車輪に与えられた力が、サスペンションを介してばね上としての車体へ伝達されることにより、車体に発生する振動、例えば、1〜4Hz、特に1.5Hz近傍の周波数成分を含む振動をいう。この車両のばね上の振動には、車両のピッチ振動及びバウンス振動(上下振動)が含まれる。更に、ばね上制振制御とは、車両のばね上の振動を低減する制御をいう。
図1は、ハイブリッドシステム搭載車に適用された本発明による車両の制振制御装置10の一つの実施形態を示す概略構成図である。図1に於いて、制振制御装置10は、車両12に搭載され、車両12の走行用の駆動力を発生する駆動源であるハイブリッドシステム14を含んでいる。ハイブリッドシステム14は、内燃機関であるエンジン16と、発電機としても機能することができる電動機18とを有している。更に、ハイブリッドシステム14は、エンジン16の出力を受けて発電を行う発電機(電動発電機)20を有しており、エンジン16及び発電機20は、動力分割機構22により互いに接続されている。
動力分割機構22及び電動機18は、減速機24を介して互いに接続されている。減速機24は、ディファレンシャル(図示せず)を含み、それぞれ駆動軸26L及び26Rを介して駆動輪としての左右の前輪28FL及び28FRに接続されている。なお、左右の前輪28FL及び28FRは、駆動輪であると共に操舵輪であり、図には示されていないステアリングホイールが運転者によって操作されることにより操舵機構を介して操舵される。
動力分割機構22は、エンジン16の出力を発電機20及び減速機24に分配する。減速機24は、動力分割機構22を介して伝達されたエンジン16の出力及び/又は電動機18の出力を減速して左右の前輪28FL及び28FRへ伝達する。減速機24には、該減速機の出力軸(図示せず)の回転速度を検出することにより車速Vを検出する車速センサ30が設けられている。動力分割機構22は、エンジン16の出力を、発電機20への出力と車両12の走行用の駆動力とに分割する駆動力分割手段としても機能する。
電動機18は、交流同期電動機であり、インバータ32から供給される交流電力によって駆動される。電動機18は、左右の前輪28FL及び28FRの回転によって駆動されることにより回生発電機としても機能し、前輪28FL及び28FRに回生制動力を付与する。電動機18の発電によって生成される電力は、インバータ32によって交流から直流に変換され、充放電可能なバッテリ34に充電される。車両12の制動時には、電動機18により発生される回生制動力、図には示されていない摩擦制動装置により発生される摩擦制動力、及びエンジンブレーキ力により、車両12が制動される。
インバータ32は、バッテリ34に蓄えられた電力を直流から交流に変換して電動機18へ供給すると共に、発電機20がエンジン16の出力によって駆動されることにより生成される電力を交流から直流に変換してバッテリ34に蓄えるようになっている。よって、バッテリ34は、電動機18を駆動するための電源として機能すると共に、発電機20により発電された電気を蓄電する蓄電手段として機能する。なお、発電機20は、上述の電動機18と同様に交流同期電動機としての構成を有し、主としてエンジン16の出力を受けて発電を行うが、必要に応じてバッテリ34からインバータ32を介して電力が供給されることにより電動機としても機能することができる。
エンジン16、電動機18、発電機20、動力分割機構22及び摩擦制動装置は、電子制御装置40により制御され、これにより車両の駆動力及び制動力が制御される。図1には詳細に示されていないが、電子制御装置40は、エンジン16及び動力分割機構22を制御するエンジン制御部40Aと、電動機18、発電機20及びインバータ32を制御する電動機制御部40Bと、バッテリ34の電気残量である充電量を監視するバッテリ制御部40Cとを含んでいる。更に、電子制御装置40は、車両の制動力を制御する制動制御部40Dを含んでいる。
以上の説明から解るように、電動機18、インバータ32、電動機制御部40B及びバッテリ制御部40Cは、回生制動により左右の前輪28FL及び28FRに制動力を付与し発生する電気にてバッテリ34を充電する回生制動装置として機能する。
図1に示されているように、電子制御装置40には、減速機24に設けられた車速センサ30から車速Vを示す信号が入力され、運転者により操作されるアクセルペダル42に設けられたアクセル開度センサ44からアクセル開度Aを示す信号が入力される。電子制御装置40には、左右の前輪28FL、28FR及び左右の後輪28RL、28RRに設けられた車輪速度センサ46FL、46FR、46RL及び46RRから、それぞれ対応する車輪の車輪速度VFL、VFR、VRL及びVRRを示す信号が入力される。
更に、車両12には、その消費エネルギーを低減するエコモードに車両の走行モードを設定するために車両の乗員によって操作されるエコスイッチ(ECO−SW)48が設けられている。電子制御装置40には、エコスイッチ48から該スイッチがオンであるか否かを示す信号も入力され、更には図には示されていないマスタシリンダ内の圧力Pmを示す信号なども入力される。
エンジン制御部40A、電動機制御部40B、バッテリ制御部40C及び制動制御部40Dは、必要に応じて統合制御部40Eにより制御され、これらの制御部は必要に応じて相互に情報及び指令の授受を行う。なお、電子制御装置40の上述の各制御部は、それぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含む装置であってよい。
統合制御部40Eは、車両の通常の走行時には、車速V及びアクセル開度Aなどに基づいて運転者の要求駆動力を演算し、車両の駆動力が要求駆動力になるよう、エンジン制御部40A及び電動機制御部40Bを介してエンジン16などの出力を制御する。また、統合制御部40Eは、車両の制動時には、図には示されていないマスタシリンダ内の圧力Pmなどに基づいて車両の目標減速度を演算し、車両の減速度が目標減速度になるよう、制動制御部40D及び電動機制御部40Bを介して摩擦制動力及び回生制動力を制御する。
車両の駆動力及び制動力の制御自体は本発明にとって重要ではなく、またハイブリッドシステム搭載車の駆動力及び制動力の制御は、当技術分野においてよく知られている。よって、車両の駆動力及び制動力の制御についてのこれ以上の詳細な説明を省略するが、必要ならば、例えば本願出願人の出願にかかる国際公開公報WO2010131341を参照されたい。
更に、統合制御部40Eは、車両12が走行しており且つ制動による減速が行われていない状況において、ばね上制振制御を行う。例えば、統合制御部40Eは、アクセル開度A及び車輪速度VFL〜VRRなどに基づいて、車両モデルを使用して車両12の運動状態およびばね上振動を推定し、推定されたばね上振動を抑制するために必要なハイブリッドシステム14のトルクとして目標制振トルクTdtを演算する。
なお、目標制振トルクTdtの演算要領も本発明にとって重要ではなく、また当技術分野においてよく知られている。よって、目標制振トルクTdtの演算についてのこれ以上の詳細な説明を省略するが、必要ならば、例えば本願出願人の出願にかかる特開2011−17303号公報を参照されたい。
また、統合制御部40Eは、バッテリ34の充電量Eb及びエコスイッチ48がオンであるか否かなどに基づいて、図2に示されたフローチャートに従って目標制振トルクTdtを修正することにより、修正後の目標制振トルクTdtaを演算する。統合制御部40Eは、運転者の駆動操作などに基づく車両の要求駆動力に基づいて、エンジン16の目標走行駆動トルクTvet及び電動機18の目標走行駆動トルクTvmtを演算し、目標走行駆動トルクTvetを示す信号をエンジン制御部40Aへ出力する。エンジン制御部40Aは、目標走行駆動トルクTvetに基づいてエンジン16の出力を制御する。更に、統合制御部40Eは、目標走行駆動トルクTvmtと修正後の目標制振トルクTdtaとの和として電動機18の目標トルクTmtを演算し、電動機18の出力トルクが目標トルクTmtになるよう、電動機18を制御する。
特に、統合制御部40Eは、目標制振トルクTdtを示す信号をローパスフィルタ処理することにより、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfを演算する。統合制御部40Eは、目標走行駆動トルクTvmtと目標制振トルクTdtfとの和として、電動機18の目標トルクが制動トルクであるか否かを示す目標トルクの指標値Tmiを演算する。統合制御部40Eは、バッテリ34の充電量Ebが過充電防止のための基準値Ebc(正の定数)以上であり且つ目標トルクの指標値Tmiが制動トルクであるときには、バッテリ34の過充電を防止するために回生制動を制限する。即ち、統合制御部40Eは、修正後の目標制振トルクTdtaをローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfに設定する。更に、統合制御部40Eは、目標トルクTmtの大きさが制限基準値Td0を越える場合には、目標トルクTmtを制限基準値Td0に修正する。
なお、制限基準値Td0は予め設定された負の定数であってもよいが、バッテリ34の充電量Ebが大きいほど大きさが小さくなるよう、充電量Ebに応じて可変設定されてもよい。制限基準値Td0の大きさは、該基準値が負の定数である場合及び可変設定される場合の何れの場合にも、回生制動装置に設けられ過電圧からバッテリ34などを保護する保護回路(図示せず)における保護基準値以下である。
以上の説明から解るように、制振制御装置10は、ハイブリッドシステム14、インバータ32、バッテリ34、電子制御装置40、車輪速度センサ46FL〜46RRなどにより構成されている。制振制御装置10は、上述の目標制振トルクTdtの演算及び修正を行うと共に、上述のハイブリッドシステム14の電動機18などを制御することにより、制振トルクの制御を行う。
次に、図2に示されたフローチャートを参照して実施形態における目標制振トルクTdtの修正制御ルーチンについて説明する。図2に示されたフローチャートによる制御は、車速センサ30により検出される車速Vが基準値V0(正の定数)以上であり且つ制動による減速が行われていない状況において、所定の時間毎に繰返し実行される。下記の説明においては、図2に示されたフローチャートによる目標制振トルクTdtの修正制御を単に「制御」と指称する。
なお、目標制振トルクTdt、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf、及び修正後の目標制振トルクTdtaは、駆動トルク及び制動トルクである場合にそれぞれ正の値及び負の値になるものとする。更に、目標制振トルクTdt及びローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfについての「+」及び「−」は、それぞれ駆動トルク及び制動トルクであることを意味する。
まず、ステップ10においては、目標走行駆動トルクTvmtを示す信号、目標制振トルクTdtを示す信号、車輪速度センサ46FL〜46RRにより検出された車輪速度VFL〜VRRなどを示す信号が読み込まれる。
ステップ20においては、目標制振トルクTdtがローパスフィルタ処理されることにより、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfが演算される。よって、このステップ20は、目標制振トルクを示す信号をローパスフィルタ処理するフィルタ装置として機能する。
ステップ30においては、目標走行駆動トルクTvmtと目標制振トルクTdtfとの和として電動機18の目標トルクの指標値Tmiが演算される。よって、このステップ30は、目標トルクの指標値Tmiを演算する指標値演算装置として機能する。
ステップ40においては、バッテリ制御部40Cにより検出されたバッテリ34の充電量Ebが基準値Ebc以上であるか否かの判別、即ち、回生制動により発生される電力によるバッテリ34の充電が制限されるべきであるか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには制御はステップ110へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ50へ進む。
ステップ50においては、エコスイッチ48がオンであるか否かの判別、即ち車両12の消費エネルギーを低減するためにバッテリ34の放電による電力の供給が制限されるべきであるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには制御はステップ80へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ60へ進む。
ステップ60、80、120及び140においては、目標トルクの指標値Tmiが負であるか否かの判別、即ち電動機18の目標トルクが実質的に制動トルクであり、回生制動力が発生されるべきであるか否かの判別が行われる。ステップ60において、肯定判別が行われたときには制御はステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ70において修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdt(+)に設定される。
ステップ80において否定判別が行われたときには、ステップ90において修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf(+)に設定される。これに対し、ステップ80において肯定判別が行われたときには、ステップ100において修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf(-)に設定される。
ステップ110においても、ステップ50と同様に、エコスイッチ48がオンであるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには制御はステップ140へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ120へ進む。
ステップ120において、肯定判別が行われたときには制御はステップ160へ進み、否定判別が行われたときにはステップ130において修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdt(+)に設定される。
ステップ140において否定判別が行われたときには、ステップ150において修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf(+)に設定される。これに対し、ステップ140において肯定判別が行われたときには、ステップ160において修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdt(-)に設定される。
なお、ステップ70、90、100、130、150及び160が完了すると、図2に示されたフローチャートによる制御は一旦終了する。
以上の説明から解るように、目標制振トルクTdtは、バッテリ34の充電量Ebが基準値Ebc以上であるか否か(ステップ40)、エコスイッチ48がオンであるか否か(ステップ50、110)、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfが負であるか否か(ステップ60、80、120及び140)に応じて修正される。特に、ステップ50及び110は、バッテリ34の放電による電力の供給を制限すべき状況であるか否かを判定する制限判定装置として機能する。
次に、バッテリ34の充電量Ebなどについて、状況を場合分けして上述の実施形態の作動について説明する。なお、以下の説明においては、実施形態の理解が容易になるよう、目標走行駆動トルクTvmtは0であり、よって、目標トルクの指標値Tmiはローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfと同一であると仮定する。更に、目標制振トルクTdtは、図3に示されているように、数Hz程度の周波数が低い主要な成分とそれよりも周波数が高い高周波成分とを含んでいるとする。図4は、図3に示された目標制振トルクTdtがローパスフィルタ処理された目標制振トルクTdtfを示している。
図4及び後述の図5乃至図7において、Td0はバッテリ34の過充電を防止するための前述の制限基準値を示している。修正後の目標制振トルクTdtaは、目標制振トルクTdtの大きさが制限基準値Td0を越える場合には、制限基準値Td0に設定される。同様に、図3、図4及び図5において、Td0′は、従来の制振制御装置においてバッテリの過充電を防止するための制限基準値を示している。従来の制振制御装置においては、目標制振トルクTdtの大きさが制限基準値Td0′を越える場合には、回生制動による制動トルクの大きさが制限基準値Td0′よりも大きい値になることが阻止される。後に説明するように、制限基準値Td0の大きさは制限基準値Td0′の大きさよりも大きい。
<A−1.充電量Ebが基準値Ebc以上で、エコスイッチ48がオフの場合>
この場合には、ステップ40において肯定判別が行われるが、ステップ50において否定判別が行われる。よって、目標トルクの指標値Tmiが正又は0であるときには、ステップ60及び70により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdt(+)に設定される。これに対し、目標トルクの指標値Tmiが負であるときには、ステップ60及び100により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振Tdtf(-)に設定される。
従って、図5に示されているように、修正後の目標制振トルクTdtaは、駆動トルクの場合には、図3に示された目標制振トルクTdtの正の値になる。また、修正後の目標制振トルクTdtaは、制動トルクの場合には、図4に示されたローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfの負の値、即ち高周波成分を含まない値になる。図5には示されていないが、目標制振トルクTdtfの大きさが制限基準値Td0よりも大きい範囲に於いては、修正後の目標制振トルクTdtaはTd0に設定される。
<A−2.充電量Ebが基準値Ebc以上で、エコスイッチ48がオンの場合>
この場合には、ステップ40及び50において肯定判別が行われる。よって、目標トルクの指標値Tmiが正又は0であるときには、ステップ80及び90により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf (+)に設定される。これに対し、目標トルクの指標値Tmiが負であるときには、ステップ80及び100により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振Tdtf(-)に設定される。
従って、修正後の目標制振トルクTdtaは、駆動トルクの場合及び制動トルクの何れの場合にも、図4に示されたローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfの値、即ち高周波成分を全く含まない値になる。図4には示されていないが、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfが制動トルクであり、その大きさが制限基準値Td0よりも大きい範囲に於いては、修正後の目標制振トルクTdtaはTd0に設定される。
<B−1.充電量Ebが基準値Ebc未満で、エコスイッチ48がオフの場合>
この場合には、ステップ40及び110において否定判別が行われる。よって、目標トルクの指標値Tmiが正又は0であるときには、ステップ120及び130により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdt (+)に設定される。これに対し、目標トルクの指標値Tmiが負であるときには、ステップ120及び160により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振Tdt(-)に設定される。
従って、修正後の目標制振トルクTdtaは、図6に示されているように、駆動トルクの場合及び制動トルクの何れの場合にも、図3に示されたローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdtと同一の値、即ち高周波成分を含む値になる。図6には示されていないが、目標制振トルクTdtが制動トルクであり、その大きさが制限基準値Td0よりも大きい範囲に於いては、修正後の目標制振トルクTdtaはTd0に設定される。
<B−2.充電量Ebが基準値Ebc未満で、エコスイッチ48がオンの場合>
この場合には、ステップ40において否定判別が行われるが、ステップ110において肯定判別が行われる。よって、目標トルクの指標値Tmiが正又は0であるときには、ステップ140及び150により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf(+)に設定される。これに対し、目標トルクの指標値Tmiが負であるときには、ステップ140及び160により、修正後の目標制振トルクTdtaがローパスフィルタ処理前の目標制振Tdt(-)に設定される。
従って、修正後の目標制振トルクTdtaは、図7に示されているように、駆動トルクの場合には、図4に示されたローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfの正の値、即ち高周波成分を含まない値になり、制動トルクの場合には、図3に示された目標制振トルクTdtの負の値になる。なお、この場合、修正後の目標制振トルクTdtaは制限基準値Td0による制限を受けない。
上記四つの場合のうち、充電量Ebが基準値Ebc以上であり、回生制動によるバッテリ34の充電が制限される必要があるのは、A−1及びA−2の場合である。これらの場合には、修正後の目標制振トルクTdtaの負の値(制動トルク)は、高周波成分を含まない値であって、大きさが制限基準値Td0を越えないよう修正された値に設定される(図4、図5)。従って、制動トルクであるときの制振トルクの大きさが制限基準値Td0を越えることに起因してバッテリ34に対する回生制動による充電が過充電になることを効果的に防止することができる。
前述のように、バッテリ34に対する回生制動による充電量は、制振トルクTdtの大きさが大きいほど大きくなるだけでなく、制振トルクの周波数が高いほど大きくなる。例えば、制振トルクをTdとし、電動機18の回転角速度をωとすると、電動機18が回生発電機として機能することによるバッテリ34に対する充電率P(単位時間当りの充電量)は、下記の式(1)により表される。
P=Td・ω …(1)
電動機18の回転の慣性モーメントをIとし、電動機18の回転角加速度をωdとすると、電動機18が回転することによる制振トルクTdは、下記の式(2)により表される。
Td=I・ωd …(2)
制振トルクTdの周波数をfとすると、電動機18が制振トルクTdを発生するよう回転せしめられるときの回転角速度をωは、下記の式(3)により表されるので、回転角加速度ωdは、下記の式(4)により表される。
ω=2π・f …(3)
ωd=2π・2π・f=(2π)2・f …(4)
上記式(2)ないし(4)を上記式(1)に代入することにより、充電率Pは、下記の式(5)により表される。下記の式(5)から、充電率Pは、制振トルクの周波数fの2乗の関数であるので、制振トルクの周波数fが高いほど大きくなり、その増大率は比例の場合よりも大きいことが解る。
P=I・(2π)2・f・2π・f=I・(2π)3・f2 …(5)
上述の実施形態によれば、A−1及びA−2の場合には、制動トルクであるときの修正後の目標制振トルクTdtaは、高周波成分を含まない。よって、目標制振トルクTdtがローパスフィルタ処理されない従来の制振制御装置の場合に比して、制振トルクTdtの周波数fを低くすることができるので、バッテリ34に対する回生制動による充電率Pを低減することができる。従って、バッテリ34の過充電を防止するための制限基準値Td0の大きさを、従来の制振制御装置の場合の制限基準値Td0′よりも大きくすることができる。これにより制振トルクの大きさの制限を緩和することができるので、制振の必要性が高い低周波のばね上振動の制振効果を従来の制振制御装置の場合に比して向上させることができる。
また、上述の実施形態によれば、制動トルクであるときの目標制振トルクTdtaは制限基準値Td0を越えないよう修正される。よって、修正前の目標制振トルクTdtの大きさが制限基準値Td0を越える場合にも、回生制動装置の保護回路に印加される回生電流の電圧を制限基準値Td0に対応する電圧に制限することができる。よって、目標制振トルクに高周波成分が含まれ、高周波成分に起因して修正前の目標制振トルクの大きさが大きい値になる場合にも、回生制動装置の保護回路に回生電流の過大な電圧が印加されることを回避し、保護回路の耐久性を向上させることができる。
なお、上記の実施形態によれば、バッテリの充電量Ebが基準値Ebc以上であっても、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtfが正の値であり駆動トルクであるときには、目標制振トルクTdtはローパスフィルタ処理された値Tdtfに修正されない。よって、必要な制振トルクが駆動トルクであるときには、高周波成分が除去されていない目標制振トルクTdtに基づいて制振トルクを制御することができる。従って、目標制振トルクが制動トルクあるか否かに関係なくローパスフィルタ処理された値に修正される場合に比して、ばね上の振動を効果的に制振することができる。
また、上述の実施形態によれば、上記A−2及びB−2の場合、即ち、エコスイッチ48がオンである場合には、駆動トルクであるときの修正後の目標制振トルクTdtaは、ローパスフィルタ処理後の目標制振トルクTdtf(+)に設定される。よって、エコスイッチ48がオンである場合にも、制振トルクが高周波成分を含む目標制振トルクTdtに基づいて制御される場合に比して、制振トルクの制御により消費される電力を低減くすることができる。
例えば、図3に示された目標制振トルクTdtの駆動トルクの二乗平均平方根(RMS)は、18.1Nmである。これに対し、図4及び図7に示された修正後の目標制振トルクTdtaの駆動トルクの二乗平均平方根は、23.4Nmである。よって、上述の実施形態によれば、図示の例の場合には、制振トルクを制御する際に、下記の式(6)により求められる23%の省エネルギー率を達成することができる。
(23.4−18.1)/23.4×100=23% …(6)
更に、上述の実施形態によれば、必要とされる制振トルクが制動トルクであるか否かの判別は、ステップ60、80、120及び140において、目標トルクの指標値Tmiが負であるか否かの判別によって行われる。よって、必要な制振トルクが制動トルクであるか否かの判別が、高周波成分を含む目標トルクTmtが負であるか否かの判別によって行われる場合に比して、高周波成分に起因して判定結果が頻繁に変化することを防止することができる。
以上においては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば、上述の実施形態においては、必要な制振トルクが制動トルクであるか否かの判別は、ステップ60、80、120及び140において、目標トルクの指標値Tmiが負であるか否かの判別によって行われる。換言すれば、処理基準値は0である。しかし、修正例として図8に示されているように、0よりも小さく制限基準値Td0よりも大きい負の値を処理基準値Tdpとして、ステップ60、80、120及び140の判別の基準値が処理基準値Tdpに変更されてもよい。
なお、処理基準値Tdpは、負の定数であってよいが、制限基準値Td0と同様に、バッテリ34の充電量Ebが大きいほど大きさが小さくなるよう、充電量Ebに応じて可変設定されてもよい。
この修正例によれば、目標トルクの指標値Tmiが負であり、大きさが0以上で処理基準値Tdp以下のときには、修正後の目標制振トルクTdtaは、図5に対応する図9に示されているように、高周波成分を含むローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdtに設定される。よって、目標トルクの指標値Tmiが負であり、大きさが0以上で処理基準値Tdp以下のときには、高周波成分についても制振することができる。なお、目標トルクの指標値Tmiが負であり、大きさが0以上で処理基準値Tdp以下のときには、修正後の目標制振トルクTdtaの大きさは過剰には大きくならないので、制振トルクが高周波成分を含むことに起因してバッテリ34の充電率が過剰に増大することはない。
また、上述の実施形態においては、バッテリの充電量Ebが基準値Ebc以上であり且つ目標トルクの指標値Tmiが制動トルクであるときには、目標トルクTmtは大きさが制限基準値Td0を越えないよう、必要に応じて修正される。しかし、目標トルクTmtが制動トルクであるときに制限基準値Td0にて行われる目標トルクTmtの大きさの制限は省略されてもよい。
また、上述の実施形態においては、必要とされる制振トルクが制動トルクであるか否かの判別は、目標トルクの指標値Tmiが負であるか否かの判別によって行われ、目標トルクの指標値Tmiは目標走行駆動トルクTvmtと目標制振トルクTdtfとの和である。しかし、目標トルクの指標値Tmiは、目標走行駆動トルクTvmtとローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdtとの和(Tmt)であってもよく、目標走行駆動トルクTvmtとローパスフィルタ処理前の目標制振トルクTdtとの和のローパスフィルタ処理後の値であってもよい。
また、上述の実施形態においては、車両12には、その消費エネルギーを低減するエコモードに車両の走行モードを設定するために車両の乗員によって操作されるエコスイッチ48が設けられている。しかし、本発明の制振制御装置10は、エコスイッチ48が設けられていない車両に適用されてもよい。その場合には、図2及び図8に示されたフローチャートにおけるステップ50、80及び90が省略され、ステップ110、140及び150が省略される。
また、上述の実施形態においては、車両12は、駆動源としてハイブリッドシステム14を有するハイブリッドシステム搭載車である。しかし、回生制動により制動トルクとして制振トルクを発生し、回生制動により生成した電力がバッテリに充電される限り、本発明の制振制御装置10は、電気自動車又は燃料電池車に適用されてもよい。
更に、上述の実施形態においては、ハイブリッドシステム14はツーモータ式のパラレル型のハイブリッドシステムである。しかし、本発明の制振制御装置10がハイブリッドシステム搭載車に適用される場合のハイブリッドシステムは、ワンモータ式のパラレル型のハイブリッドシステムであってもよく、シリーズ型のような他の型式のハイブリッドシステムであってもよい。