以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
本実施の形態では、基板と、基板の一方の側に形成された光学膜と、基板の一方の側の反対側である他方の側に形成され、光学膜及び基板を介して照射される波長λの電磁波を吸収する電磁波吸収層と、を有する積層基板について説明する。本実施の形態では、基板の一例としてシリコン基板を用いる場合を示し、電磁波の一例としてレーザ光を用いる場合を示し、電磁波吸収層の一例としてレーザ光を吸収する白金膜を示すが、これらに限定されるものではない。なお、便宜上、基板の電磁波吸収層が形成される側を表面側、光学膜が形成される側を裏面側と称する場合がある。
[積層基板の構造]
図1は、第1の実施の形態に係る積層基板を例示する断面図である。図1を参照するに、積層基板1は、シリコン基板10と、シリコン酸化膜(SiO2膜)11と、酸化チタン膜(TiOx膜)12と、白金膜(Pt膜)13と、光学膜14とを有する。積層基板1は、光学膜14側からレーザ光等の電磁波を照射することにより、白金膜13上に形成される被加熱膜の膜質を変化させるために用いることができる。
シリコン基板10は、各膜を形成する基体となる部分である。シリコン基板10の厚さは、例えば、500μm程度とすることができる。シリコン酸化膜11は、シリコン基板10の表面に形成されている。シリコン酸化膜11の膜厚は、例えば、600nm程度とすることができる。シリコン酸化膜11は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法や熱酸化法等により形成できる。
酸化チタン膜12は、シリコン酸化膜11上に積層されている。酸化チタン膜12の膜厚は、例えば、50nm程度とすることができる。酸化チタン膜12は、例えば、スパッタリング法やCVD法等により形成できる。
白金膜13は、酸化チタン膜12上に積層されている。白金膜13は、光学膜14側から照射される電磁波を吸収して白金膜13上に形成される被加熱膜を加熱する電磁波吸収層としての機能を有する。白金膜13の膜厚は、照射される電磁波を吸収するのに十分な厚さであればよく、例えば、100nm程度とすることができる。白金膜13は、例えば、スパッタリング法やCVD法等により形成できる。
なお、白金膜13に代わる電磁波吸収層として、融点が1000℃以上の他の耐熱性の膜を用いてもよい。他の耐熱性の膜としては、例えば、Ir、Pd、Rh、W、Fe、Ni、Ta、Cr、Zr、Ti、Auの何れかの金属を含む金属膜を挙げられる。又、前記何れかの金属の合金を含む金属合金膜、又は、前記金属膜若しくは前記金属合金膜を任意に選択して複数層積層した積層膜等を挙げられる。
光学膜14は、シリコン基板10の裏面(一方の側)に形成されている。光学膜14は、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制する反射率変動抑制膜としての機能を有する。光学膜14は、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制できればどのような膜を用いても構わないが、白金膜13に生じる熱がシリコン基板10側にも拡散するため、耐熱性が高い無機物膜を用いることが好ましい。
無機物膜の一例としては、酸化ジルコニア膜(ZrO2膜)等の無機酸化物膜を挙げることができる。酸化ジルコニア膜等の無機酸化物膜は、温度変化に対する膜特性変化が小さい点で特に好適だからである。但し、光学膜14として、例えば、Ti、Nb、Ta、Zr、Hf、Ce、Sn、In、Zn、Sb、Al、Siの何れかの元素を含む無機酸化物膜を用いても同様の効果を奏する。
光学膜14は、例えば、蒸着法(電子線蒸着法等)、スパッタリング法、CVD法等の物理成膜法により形成できる。光学膜14は、例えば、ゾルゲル法等の湿式法により形成してもよい。光学膜14の膜厚dfの好適な値については後述する。
[積層基板を用いた加熱方法]
次に、積層基板1を用いて、光学膜14側からレーザ光等の電磁波を照射することにより、白金膜13上に形成される膜を加熱し、膜質を変化させる方法について説明する。ここでは、一例として、白金膜13上にアモルファスPZT膜を形成し、光学膜14側から電磁波を照射することによりアモルファスPZT膜の膜質を変化させて結晶質PZTとする例を示す。
なお、PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、PbZrO3とPbTiO3の比率によって、PZTの特性が異なる。例えば、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O3、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を使用することができる。
図2は、第1の実施の形態に係る積層基板を用いた加熱方法を説明するための断面図である。まず、図2(a)に示す工程では、図1に示す積層基板1を準備し、電磁波吸収層である白金膜13の表面に被加熱膜であるアモルファスPZT膜15を形成する。アモルファスPZT膜15は、例えば、スパッタリング法やCSD(Chemical Solution Deposition)法等を用いて、白金膜13の表面に形成できる。なお、本実施の形態では、アモルファスPZT膜15は、電磁波吸収層である白金膜13の表面に直接形成されている。アモルファスPZT膜15の膜厚は、例えば、60nm程度とすることができる。
CSD法によりアモルファスPZT膜15を形成する場合には、まず、例えば、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を出発材料に使用し、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させて均一溶媒を作製する。この均一溶媒をPZT前駆体溶液と称する。PZT前駆体溶液の複合酸化物固体分濃度は、例えば、0.1〜0.7モル/リットルとすることができる。なお、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物の混合量は、所望のPZTの組成(PbZrO3とPbTiO3の比率)に応じて、当業者が適宜選択できるものである。例えば、前述のPZT(53/47)を用いることができる。
次に、例えば、スピンコート法等により、白金膜13の表面にPZT前駆体溶液を塗布して塗布膜を形成する。そして、塗布膜を例えば120℃程度のホットプレートで1分間程度熱処理した後、180℃〜500℃程度のホットプレートで1〜10分間程度熱処理することにより、白金膜13の表面にアモルファスPZT膜15が形成される。
次に、図2(b)に示す工程では、積層基板1の裏面側(光学膜14が形成されている側)から、光学膜14及びシリコン基板10等を介して、電磁波吸収層である白金膜13に電磁波を局部的に照射する。本実施の形態では、電磁波として連続発振のレーザ光71xを選択し、白金膜13に連続発振のレーザ光71xを局部的に照射する。
レーザ光71xの波長は、シリコン基板10、シリコン酸化膜11、酸化チタン膜12、及び光学膜14に対して透過性があり、白金膜13に吸収されやすい波長を適宜選択できる。本実施の形態では、一例として、波長1200nm以上(例えば、波長1470nm)を選択する。なお、レーザ光71xのスポット形状は、例えば、略長方形とすることができる。又、その場合の略長方形の大きさは、例えば、0.35mm×1mm程度とすることができる。
白金膜13は、波長1470nm付近の吸収係数が非常に大きく、およそ6×105cm−1である。又、例えば、膜厚100nmの白金膜13において、波長1470nm付近の光の透過率は1%以下である。従って、白金膜13に照射された波長1470nm付近のレーザ光71xの光エネルギーは殆ど白金膜13に吸収される。なお、図2(b)では、レーザ光71xを白金膜13に斜めに照射しているが、レーザ光71xを白金膜13に垂直に照射してもよい。
一般的に、アモルファスPZT膜の結晶化温度は約600℃〜850℃であり、白金の融点(1768℃)よりかなり低い。従って、白金膜13に入射するレーザ光71xのエネルギー密度及び照射時間の制御によって、白金膜13にダメージを与えることなく、アモルファスPZT膜15を局部的に加熱して結晶化できる。レーザ光71xのエネルギー密度は、例えば、1×102〜1×106W/cm2程度とすることができる。レーザ光71xの照射時間は、例えば、1ms〜200ms程度とすることができる。
図2(b)では、まず、図2(a)に示す構造体の紙面左端の領域に、シリコン基板10の裏面側(光学膜14が形成されている側)から、レーザ光71xを局部的に照射する。シリコン基板10、シリコン酸化膜11、酸化チタン膜12、及び光学膜14は波長1470nm付近の光に対して透過性がある。そのため、光学膜14を介してシリコン基板10に侵入したレーザ光71xの光エネルギーの90%以上は、白金膜13で構成した電磁波吸収層に吸収される。なお、酸化チタン膜12は絶縁膜であり、電磁波吸収層ではない。
白金膜13で構成した電磁波吸収層に吸収されたレーザ光71xの光エネルギーは、熱に変わって白金膜13を加熱する。白金膜13の熱は、白金膜13の表面に形成されているアモルファスPZT膜15に伝わり(拡散し)、アモルファスPZT膜15は、白金膜13側から局部的に加熱される。アモルファスPZT膜15の加熱された部分は膜質が変えられ(結晶化され)、結晶質PZT16となる。
更に、レーザ光71xと照射対象物である図2(a)に示す構造体とを相対的に移動させながらレーザ光71xを照射対象物に照射する。例えば、アモルファスPZT膜15を紙面左側前面の領域から紙面奥行き方向に順次結晶化する。これにより、点線で仕切られた紙面左側の1つが結晶化される。そして、同様な動作を紙面右側の部分についても順次実行する。これにより、アモルファスPZT膜15が順次結晶化し、最終的にアモルファスPZT膜15の全面が結晶化し、白金膜13上の全面に結晶質PZT16が形成される。
なお、白金膜13上の全面に結晶質PZT16を形成した後、更に図2(a)及び図2(b)に示すプロセスを繰り返し実行することにより、膜厚60nm程度の結晶質PZT16を複数層積層することができる。例えば、図2(a)及び図2(b)のプロセスを30回程度繰り返すことにより、総厚2μm程度の厚い結晶質PZT16の膜を作製できる。
この際、シリコン基板10の裏面に光学膜14が形成されているため、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制でき、安定してアモルファスPZT膜15を加熱できる。その結果、結晶品質のよい(均一性のよい)結晶質PZT16を得ることができる。
なお、上記説明では、電磁波吸収層である白金膜13に連続発振のレーザ光71xを照射したが、連続発振のレーザ光71xに代えて、パルス発振のレーザ光を照射してもよい。又、アモルファスPZT膜15に代えて、PZT以外の材料、例えば、BaTiO3やSi等を用いてもよい。例えば、Siの微結晶にレーザ光を照射し、結晶粒の粒径を増大させることができる。
[光学膜の膜厚]
ここで、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制する観点における光学膜14の膜厚dfの好適な値について、比較例を交えながら説明する。
図3は、比較例に係る積層基板を例示する断面図である。図3を参照するに、比較例に係る積層基板1Xは、シリコン基板10の裏面(シリコン酸化膜11が形成されていない側の面)に光学膜14が形成されていない点が、積層基板1(図1参照)と相違する。
図4は、比較例に係る積層基板を用いた加熱方法を説明するための断面図である。図4を参照するに、積層基板1Xを用いた加熱方法は、レーザ光71xを光学膜14を介さずに直接シリコン基板10の裏面に照射する点が、積層基板1を用いた加熱方法(図2参照)と相違する。
シリコン基板10には、厚みばらつき(TTV:Total Thickness Variation)が存在する。例えば、現在の加工技術では、両面鏡面研磨される8インチのシリコン基板の厚みばらつき(TTV)は1μm程度、又はそれ以下である。
しかし、レーザ光71xの波長が例えば1470nmである場合、レーザ光71xに対するシリコン基板10の屈折率nSiが3.5程度である点を考慮すると、1μmの厚みばらつき(TTV)によって生じる光路差は、レーザ光71xの波長の2倍以上となる。このような光路差が生じると、干渉効果により、シリコン基板10の反射率が変動する。
シリコン基板10の反射率が変動すると、白金膜13に吸収されるレーザ光71xのエネルギー量も変わる。つまり、レーザ光71xの出力パワーが一定であったとしても、シリコン基板10の場所によって(厚みのばらつきに起因して)、被加熱膜が受けられるエネルギーが大きく変動するおそれがある。
図5は、シリコン基板の厚み変化に対するシリコン基板の反射率の1周期分の変化を例示する図(その1)である。図5において、実線は第1の実施の形態に係る積層基板1を用いた加熱方法の場合(図2参照)を、破線は比較例に係る積層基板1Xを用いた加熱方法の場合(図4参照)を示している。
なお、積層基板1及び1Xにおいて、シリコン基板10の厚さは約500μm、シリコン酸化膜11の膜厚は約600nm、酸化チタン膜12の膜厚は約50nm、白金膜13の膜厚は約100nmとした。
又、積層基板1において、光学膜14の膜厚df(物理的厚さ)は、レーザ光71xの波長をλ、光学膜14の屈折率をnfとした場合に、nf×df(光学的厚さ)=λ/4を凡そ満たすように設定した。具体的には、レーザ光71xの波長λ=1470nmとし、光学膜14として電子線蒸着法で蒸着した酸化ジルコニア膜(λ=1470nmに対する屈折率nf=1.85)を用い、光学膜14の膜厚df(物理的厚さ)を200nmとした。
図5に示すように、比較例に係る積層基板1Xを用いた加熱方法の場合(図4参照)には、シリコン基板10の厚み変化ΔT_subが僅か120nm程度であっても、反射率Rが約20%から約90%まで大きく変動している。一方、第1の実施の形態に係る積層基板1を用いた加熱方法の場合(図2参照)には、シリコン基板10の厚み変化ΔT_subが250nm程度であっても、反射率Rの変動は66%付近の約1%以内の範囲に抑制されている。
このように、シリコン基板10の裏面に所定の膜厚の光学膜14を形成することにより、シリコン基板10の厚み変化による反射率Rの変動を大幅に抑制できる。言い換えれば、シリコン基板10に厚み変化があっても、白金膜13に吸収されるレーザ光のエネルギー量は殆ど変わらなくなる。その結果、白金膜13上に形成される被加熱膜を安定して加熱することが可能となり、白金膜13上に均一性のよい膜を形成できる。
図6は、nf×df/λとシリコン基板の反射率変動との関係を例示する図である。図6に示すように、シリコン基板10の反射率変動(R_max/R_min)は、nf×df/λの値に対して周期的(周期=λ/2)に変化する。又、シリコン基板10の反射率変動(R_max/R_min)は、nf×df/λ=0.25、すなわち、nf×df(光学的厚さ)=λ/4付近で最小となる。
このことから、光学膜14の物理的厚さdfは、光学膜14側から照射される電磁波の波長をλ、光学膜14の屈折率をnfとした場合に、nf×df=λ/4を満たすように設定することが好ましいことがわかる。つまり、光学膜14の光学的厚さnf×dfをλ/4にすることが好ましいことがわかる。但し、実際には、nfやdf等のばらつきを考慮し、λ/4×0.9 < nf×df < λ/4×1.1を満たすように設定すればよい。nf×dfをこのような範囲に設定してもシリコン基板10の厚み変化による反射率変動を大幅に抑制できることは、図6から明らかである。
但し、nf×df=0の場合、及び、nf×df=λ/2の場合に、シリコン基板10の反射率変動(R_max/R_min)が最大値となる。そのため、0 < nf×df(光学的厚さ) < λ/2とすることにより、シリコン基板10の厚み変化による反射率変動を抑制する効果を、ある程度得ることができる。もちろん、光学的厚さnf×dfがλ/4に近い方がよい。
なお、シリコン基板10の反射率変動(R_max/R_min)は、nf×df/λの値に対して周期的(周期=λ/2)に変化するので、nf×df>λ/2の範囲にもシリコン基板10の反射率変動(R_max/R_min)を最小にする点が存在する。しかし、光学膜14は電磁波を透過させる膜なので薄い方が好ましく、このような点から、0 < nf×df(光学的厚さ) < λ/2が好適であるといえる。
図7は、光学膜の屈折率とシリコン基板の反射率変動との関係を例示する図である。但し、シリコン基板の反射率変動は、光学的厚さnf×dfがλ/4の場合の値を示している。図7に示すように、光学膜14の屈折率nfは空気の屈折率(n0=1)とシリコン基板10の屈折率(nSi=3.5)との間にあれば、シリコン基板10の反射率変動を抑制できる。つまり、レーザ光の波長λに対する光学膜14の屈折率nfを、空気の屈折率n0よりも大きく、レーザ光の波長λに対するシリコン基板10の屈折率nSiよりも小さくすることにより、シリコン基板10の反射率変動を抑制できる。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、シリコン基板に代えてサファイア基板を用いる例について説明する。なお、第2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部品についての説明は省略する。
図8は、第2の実施の形態に係る積層基板を例示する断面図である。図8を参照するに、積層基板1Aは、シリコン基板10がサファイア基板20に置換され、光学膜14が光学膜24に置換された点が、第1の実施の形態に係る積層基板1(図1参照)と相違する。
サファイア基板20は、各膜を形成する基体となる部分である。サファイア基板20の厚さは、例えば、500μm程度とすることができる。酸化チタン膜12は、サファイア基板20の表面に形成されている。
光学膜24は、サファイア基板20の裏面に形成されている。光学膜24は、サファイア基板20の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制する反射率変動抑制膜としての機能を有する。光学膜24は、サファイア基板20の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制できればどのような膜を用いても構わないが、白金膜13に生じる熱がサファイア基板20側にも拡散するため、耐熱性が高い無機物膜を用いることが好ましい。本実施の形態では、光学膜24としてシリコン酸化膜を用いる。
光学膜24は、例えば、蒸着法(電子線蒸着法等)、スパッタリング法、CVD法等の物理成膜法により形成できる。光学膜24は、例えば、ゾルゲル法等の湿式法により形成してもよい。なお、積層基板1Aを用いた加熱方法については、図2と同様であるため、その説明は省略する。
図9は、サファイア基板の厚み変化に対するサファイア基板の反射率の1周期分の変化を例示する図である。図9において、実線は光学膜24であるシリコン酸化膜(膜厚170nm)が形成されている場合を、破線は光学膜24が形成されていない場合を示している。
なお、積層基板1Aにおいて、サファイア基板20の厚さは約500μm、酸化チタン膜12の膜厚は約50nm、白金膜13の膜厚は約100nmとした。
又、積層基板1Aにおいて、光学膜24の膜厚df(物理的厚さ)は、レーザ光の波長をλ、光学膜24の屈折率をnfとした場合に、nf×df(光学的厚さ)=λ/4を凡そ満たすように設定した。具体的には、レーザ光の波長λ=980nmとし、光学膜24としてゾルゲル法で製膜したシリコン酸化膜(λ=980nmに対する屈折率nf=1.45)を用い、光学膜24の膜厚df(物理的厚さ)を170nmとした。
なお、λ=980nmに対するシリコン酸化膜の屈折率nf=1.45は、空気の屈折率n0=1よりも大きく、λ=980nmに対するサファイア基板20の屈折率nSa=1.75よりも小さい。
図9に示すように、光学膜24が形成されていない場合(破線)には、サファイア基板20の厚み変化ΔT_subに対する反射率Rの変動範囲は約25%〜約70%である。一方、光学膜24として膜厚170nmのシリコン酸化膜を形成した場合(実線)には、サファイア基板20の厚み変化ΔT_subに対する反射率Rの変動範囲は約40%〜約55%に抑制されている。なお、光学膜24の種類及び膜厚の調整によって、反射率Rの変動範囲を更に抑制することが可能である。
このように、サファイア基板20の裏面に、所定の屈折率の光学膜24を所定の膜厚で形成することにより、サファイア基板20の厚み変化による反射率Rの変動を大幅に抑制できる。言い換えれば、サファイア基板20に厚み変化があっても、白金膜13に吸収されるレーザ光のエネルギー量は殆ど変わらなくなる。その結果、白金膜13に形成される被加熱膜を安定して加熱することが可能となり、白金膜13上に均一性のよい膜が形成できる。
〈第3の実施の形態〉
第3の実施の形態では、光学膜が多層膜から構成される例について説明する。なお、第3の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部品についての説明は省略する。
図10は、第3の実施の形態に係る積層基板を例示する断面図である。図10を参照するに、積層基板1Bは、光学膜14が光学膜34に置換された点が、第1の実施の形態に係る積層基板1(図1参照)と相違する。
光学膜34は、第1の光学膜34aと第2の光学膜34bが積層された2層構造である。シリコン基板10の裏面に第1の光学膜34aが形成され、第1の光学膜34a上(シリコン基板10と反対側)に第2の光学膜34bが積層されている。光学膜34は、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制する反射率変動抑制膜としての機能を有する。光学膜34を構成する第1の光学膜34a及び第2の光学膜34bは、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制できればどのような膜を用いても構わない。しかし、白金膜13に生じる熱がシリコン基板10側にも拡散するため、耐熱性が高い無機物膜を用いることが好ましい。
光学膜34を構成する第1の光学膜34a及び第2の光学膜34bは、例えば、蒸着法(電子線蒸着法等)、スパッタリング法、CVD法等の物理成膜法により形成できる。光学膜34を構成する第1の光学膜34a及び第2の光学膜34bは、例えば、ゾルゲル法等の湿式法により形成してもよい。なお、積層基板1Bを用いた加熱方法については、図2と同様であるため、その説明は省略する。
図11は、シリコン基板の厚み変化に対するシリコン基板の反射率の1周期分の変化を例示する図(その2)である。図11において、実線は第3の実施の形態に係る積層基板1を用いた加熱方法の場合(図2参照)を、破線は比較例に係る積層基板1Xを用いた加熱方法の場合(図4参照)を示している。
なお、積層基板1Bにおいて、シリコン基板10の厚さは約500μm、シリコン酸化膜11の膜厚は約600nm、酸化チタン膜12の膜厚は約50nm、白金膜13の膜厚は約100nmとした。
又、積層基板1Bにおいて、第1の光学膜34aの膜厚df1(物理的厚さ)は、レーザ光の波長をλ、第1の光学膜34aの屈折率をnf1とした場合に、nf1×df1(光学的厚さ)=λ/4を凡そ満たすように設定した。具体的には、レーザ光の波長λ=1470nmとし、第1の光学膜34aとして電子線蒸着法で蒸着した酸化チタン膜(λ=1470nmに対する屈折率nf1=2.5)を用い、第1の光学膜34aの膜厚df1(物理的厚さ)を150nmとした。
又、積層基板1Bにおいて、第2の光学膜34bの膜厚df2(物理的厚さ)は、レーザ光の波長をλ、第2の光学膜34bの屈折率をnf2とした場合に、nf2×df2(光学的厚さ)=λ/4を凡そ満たすように設定した。具体的には、レーザ光の波長λ=1470nmとし、第2の光学膜34bとして電子線蒸着法で蒸着したシリコン酸化膜(λ=1470nmに対する屈折率nf2=1.4)を用い、第2の光学膜34bの膜厚df2(物理的厚さ)を260nmとした。
なお、λ=1470nmに対する酸化チタン膜の屈折率nf1=2.5は、空気の屈折率n0=1よりも大きく、λ=1470nmに対するシリコン基板10の屈折率nSi=3.5よりも小さい。又、λ=1470nmに対するシリコン酸化膜の屈折率nf2=1.4は、空気の屈折率n0=1よりも大きく、λ=1470nmに対するシリコン基板10の屈折率nSi=3.5よりも小さい。
図11に示すように、比較例に係る積層基板1Xを用いた加熱方法の場合(図4参照)には、シリコン基板10の厚み変化ΔT_subがわずか120nm程度であっても、反射率Rが約20%から約90%まで大きく変動している。一方、第3の実施の形態に係る積層基板1を用いた加熱方法の場合(図2参照)には、シリコン基板10の厚み変化ΔT_subが250nm程度であっても、反射率Rの変動は45%付近の約10%以内の範囲に抑制されている。
なお、光学膜34を構成する第1の光学膜34a及び第2の光学膜34bの種類及び膜厚の調整によって、反射率Rの変動範囲を更に抑制することが可能である。光学膜34を多層膜から構成することにより、各膜の種類及び膜厚等を任意に組み合わせることができるため、光学膜34全体としての特性を調整しやすい。その結果、シリコン基板10の厚み変化による反射率Rの変動を所望の範囲に抑制することが容易となる。
このように、シリコン基板10の裏面に、所定の屈折率の光学膜34を所定の膜厚で形成することにより、シリコン基板10の厚み変化による反射率Rの変動を大幅に抑制できる。言い換えれば、シリコン基板10に厚み変化があっても、白金膜13に吸収されるレーザ光のエネルギー量は殆ど変わらなくなる。その結果、白金膜13に形成される被加熱膜を安定して加熱することが可能となり、白金膜13上に均一性のよい膜が形成できる。なお、光学膜34は3層以上の構造としてもよい。
なお、この場合、λに対する光学膜34を構成する各層の屈折率を、空気の屈折率よりも大きく、λに対する基板の屈折率よりも小さくする必要がある。又、λに対する光学膜34を構成する各層の光学的厚さを、0よりも大きくλ/2よりも小さくする必要がある。又、λに対する光学膜34を構成する各層の光学的厚さを、λ/4×0.9よりも大きく、λ/4×1.1よりも小さくすることが好ましい。
〈第4の実施の形態〉
第4の実施の形態では、第1の実施の形態に係る積層基板を用いた圧電素子の例について説明する。なお、第4の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部品についての説明は省略する。
図12は、第4の実施の形態に係る圧電素子を例示する断面図である。図12を参照するに、圧電素子2は、積層基板1と、結晶質PZT16と、白金膜17とを有する。
圧電素子2において、積層基板1の白金膜13上の所定領域に結晶質PZT16が形成されている。結晶質PZT16の膜厚は、例えば、2μm程度とすることができる。結晶質PZT16上の所定領域には導電膜である白金膜17が形成されている。白金膜17の膜厚は、例えば、100nm程度とすることができる。
圧電素子2において、白金膜13が下部電極、結晶質PZT16が圧電膜、白金膜17が上部電極として機能する。すなわち、下部電極として機能する白金膜13と上部電極として機能する白金膜17との間に電圧が印加されると、圧電膜である結晶質PZT16が機械的に変位する。
結晶質PZT16を形成するには、例えば、積層基板1の白金膜13上の結晶質PZT16を形成する領域以外の領域にSAM(Self Assembled Monolayer)膜を形成する。具体的には、例えば、白金膜13をアルカンチオール等からなるSAM材料で浸漬処理する。これにより、白金膜13の表面(結晶質PZT16を形成する面)には、SAM材料が反応しSAM膜が付着し、白金膜13の表面を撥水化することができる。
アルカンチオールは、分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性が異なるが、通常、炭素数6〜18の分子を、アルコール、アセトン又はトルエン等の有機溶媒に溶解させて作製する。通常、アルカンチオールの濃度は数モル/リットル程度である。所定時間後に白金膜13が形成された積層基板1を取り出し、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し、乾燥する。
次に、結晶質PZT16を形成する領域を開口するマスクを介して、SAM膜に、例えば連続発振のレーザ光を照射する。レーザ光を照射された部分のSAM膜は、加熱されて消失する。これにより、積層基板1の白金膜13上の結晶質PZT16を形成する領域以外の領域にSAM膜が形成される。
白金膜13の表面のSAM膜が形成されている領域は、疎水性となる。一方、SAM膜が除去されて白金膜13の表面が露出している領域は、親水性となる。この表面エネルギーのコントラストを利用して、PZT前駆体溶液の塗り分けが可能となる。なお、所定パターンのSAM膜は、レーザ光を用いない周知の方法(例えば、フォトリソグラフィ法やドライエッチング法等を組み合わせた方法)で形成することもできる。
次に、白金膜13上に圧電膜である結晶質PZT16を形成する。具体的には、例えば、インクジェットヘッドから白金膜13の表面のSAM膜が存在しない領域(親水性の領域)に、最終的に結晶質PZT16となるPZT前駆体溶液を吐出させる。この際、表面エネルギーのコントラストにより、PZT前駆体溶液はSAM膜が存在しない領域(親水性の領域)のみに濡れ広がる。
このように、表面エネルギーのコントラストを利用してPZT前駆体溶液をSAM膜が存在しない領域(親水性の領域)のみに形成する。これにより、塗布する溶液の使用量をスピンコート法等のプロセスよりも減らすことができると共に、工程を簡略化することが可能となる。
次に、白金膜13の表面にPZT前駆体溶液及びSAM膜が形成された積層基板1をホットプレート(図示せず)上に載置し、例えば、100〜300℃程度に加熱する。これにより、溶媒が蒸発し、PZT前駆体溶液は熱分解され、固体のアモルファスPZT膜となる。
次に、図2(b)で説明したように、積層基板1の裏面側(光学膜14が形成されている側)から電磁波吸収層である白金膜13に電磁波を局部的に照射する。これにより、アモルファスPZT膜は、白金膜13側から局部的に加熱される。アモルファスPZT膜の加熱された部分は膜質が変えられ(結晶化され)、結晶質PZT16となる。
更に、電磁波とアモルファスPZT膜とを相対的に移動させながら電磁波をアモルファスPZT膜に照射する。これにより、アモルファスPZT膜が順次結晶化し、最終的にアモルファスPZT膜の全面が結晶化し、白金膜13上の所定領域に結晶質PZT16が形成される。
なお、白金膜13上の所定領域に結晶質PZT16を形成した後、更に上記プロセスを繰り返し実行することにより、膜厚60nm程度の結晶質PZT16を複数層積層することができる。例えば、上記プロセスを30回程度繰り返すことにより、総厚2μm程度の厚い結晶質PZT16の膜を作製できる。
この際、シリコン基板10の裏面に光学膜14が形成されているため、シリコン基板10の厚みばらつきに起因する反射率変動を抑制でき、安定してアモルファスPZT膜を加熱できる。その結果、結晶品質のよい結晶質PZT16を得ることができる。なお、圧電膜としてPZT以外の材料、例えば、BaTiO3等を用いてもよい。
続いて、結晶質PZT16の所定領域に、例えば、スパッタリング法等により白金膜17を形成することにより、圧電素子2が完成する。なお、第2又は第3の実施の形態に係る積層基板を用いて圧電素子を形成しても同様の効果を奏する。
〈第5の実施の形態〉
第5の実施の形態では、第4の実施の形態に係る圧電素子を用いた液滴吐出ヘッドの例を示す。なお、第5の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部品についての説明は省略する。
図13は、第5の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドを例示する断面図である。図13を参照するに、液滴吐出ヘッド3は、圧電素子2と、ノズル板40とを有する。ノズル板40には、インク滴を吐出するノズル41が形成されている。ノズル板40は、例えばNi電鋳等で形成できる。
ノズル板40、シリコン基板10、及び振動板となるシリコン酸化膜11により、ノズル41に連通する圧力室10x(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等と称される場合もある)が形成されている。振動板となるシリコン酸化膜11は、インク流路の壁面の一部を形成している。換言すれば、圧力室10xは、ノズル41が連通してなり、シリコン基板10(側面を構成)、ノズル板40(下面を構成)、シリコン酸化膜11(上面を構成)で区画されてなる。
圧力室10xは、例えば、エッチングを利用してシリコン基板10を加工することにより作製できる。この場合のエッチングとしては、異方性エッチングを用いると好適である。異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。その後、シリコン基板10の下面に光学膜14を介してノズル41を有するノズル板40を接合する。なお、図13において、液体供給手段、流路、流体抵抗等についての記述は省略している。
圧電素子2は、圧力室10x内のインクを加圧する機能を有する。酸化チタン膜12は、下部電極となる白金膜13と振動板となるシリコン酸化膜11との密着性を向上する機能を有する。酸化チタン膜12に代えて、例えば、Ti、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等からなる膜を用いてもよい。但し、酸化チタン膜12は、圧電素子2の必須の構成要素ではない。
圧電素子2において、下部電極となる白金膜13と上部電極となる白金膜17との間に電圧が印加されると、圧電膜となる結晶質PZT16が機械的に変位する。結晶質PZT16の機械的変位にともなって、振動板となるシリコン酸化膜11が例えば横方向(d31方向)に変形変位し、圧力室10x内のインクを加圧する。これにより、ノズル41からインク滴を吐出させることができる。
なお、図14に示すように、液滴吐出ヘッド3を複数個並設し、液滴吐出ヘッド4を構成することもできる。
圧電膜の材料としてPZT以外のABO3型ペロブスカイト型結晶質膜を用いてもよい。PZT以外のABO3型ペロブスカイト型結晶質膜としては、例えば、チタン酸バリウム等の非鉛複合酸化物膜を用いても構わない。この場合は、バリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することが可能である。
これら材料は一般式ABO3で記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、Ba)(Zr、Ti)O3、(Pb1−x、Sr)(Zr、Ti)O3、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
〈第6の実施の形態〉
第6の実施の形態では、液滴吐出ヘッド4(図14参照)を備えた液滴吐出装置の一例としてインクジェット記録装置を例示する。図15は、インクジェット記録装置を例示する斜視図である。図16は、インクジェット記録装置の機構部を例示する側面図である。
図15及び図16を参照するに、インクジェット記録装置5は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した液滴吐出ヘッド4の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を収納する。又、インクジェット記録装置5は、インクジェット記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。
記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができる。又、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93には、インクジェット記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。なお、インクジェット記録ヘッド94は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する。又、キャリッジ93は、インクジェット記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。又、インクジェット記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドを用いてもよい。
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
又、インクジェット記録装置5には、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104を設けている。更に、インクジェット記録装置5には、搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83をインクジェット記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。更に、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じてインクジェット記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェット記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。又、記録途中等に、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。又、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。更に、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、インクジェット記録装置5は、液滴吐出ヘッド4の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を搭載している。そのため、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質を向上できる。
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、本実施の形態に係る圧電素子は、前述のように、インクジェット記録装置等において使用する液滴吐出ヘッドの構成部品として用いることができるが、これには限定されない。本実施の形態に係る圧電素子を、例えば、マイクロポンプ、超音波モータ、加速度センサ、プロジェクター用2軸スキャナ、輸液ポンプ等の構成部品として用いてもよい。
又、電磁波吸収層に照射する光はレーザ光には限定されず、電磁波吸収層を加熱できる光(電磁波吸収層に吸収される光)であれば、どのようなものを用いてもよい。例えば、フラッシュランプ等を用いることができる。