以下、本発明の印刷用紙の実施の形態を詳説する。
本発明の印刷用紙には、原紙中に填料としてシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子が内添されている。当該印刷用紙は、パルプ及び填料等を含むパルプスラリーを抄紙して得られる。
<パルプ>
上記パルプとしては、公知のものを用いることができ、バージンパルプ、古紙パルプ又はこれらの組み合わせたものを適宜用いることができる。
上記パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的又は機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを使用することができる。
本発明で好適に用いることができるパルプとしては、NBKP及びLBKPが好ましく、NBKPとLBKPとの質量比としては、0:100から25:75が好ましく、10:90から20:80がより好ましく、12:88から18:82がさらに好ましい。LBKPを主成分とすることでカール抑制効果や印刷適性の向上を図ることができる。パルプ全量に対するNBKPの質量比が上記上限を超える場合、パルプ繊維の寸法安定性が低いNBKPが多くなるため、地合が悪化し、カールの抑制効果が低下する共に印刷適性が低下するおそれがある。逆に、パルプ全量に対するNBKPの質量比が上記下限未満の場合、剛度が低下し、印刷作業性が低下するおそれがある。
本発明に用いられる古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ(DIP)又は離解・脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。
然しながら、古紙パルプ由来の機械パルプによる原料パルプのイオン性の変動(アニオン化)がシリカ複合重質炭酸カルシウムの歩留りや分散性に悪影響を及ぼすため、原料パルプにおける古紙パルプの含有量としては、30質量%以下が好ましく、含有させないことが特に好ましい。原料パルプ中の古紙パルプの含有量を上記上限以下とするか、又は古紙パルプを使用しないことで、当該印刷用紙のシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の均一な分散性及び地合を高めることができ、カールの発生を抑制することができる。また、印刷用紙の寸法安定性や印刷適性の向上が図れ、カール改善と共に優れた作業適性を持つ印刷用紙を得ることができる。
<填料>
当該印刷用紙には、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を填料として含有させる。なお、当該印刷用紙には、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子以外に従来一般に製紙用途で使用されている填料を含有させることができ、当該印刷用紙は、例えばタルク、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン、ホワイトカーボン、再生粒子、脱墨フロスを原料に脱水、燃焼、粉砕にて得られる再生粒子、再生粒子にシリカを複合させたシリカ複合再生粒子等を含んでもよい。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を填料として使用する場合、填料の合計量に対する上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の含有量としては、50質量%以上100質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量%以下がより好ましい。シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の含有量が上記下限未満の場合、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子に起因する水分保持性(表層の水分保持時間)や平行水分率等によるカール抑制や原料パルプに対する分散性の向上効果が小さくなるおそれがある。逆に、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の含有量が上記上限を超える場合、スラリー中での均一分散性が低下し、歩留り向上効果やカール発生の抑制効果が低下するおそれがある。
<シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子>
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子は、重質炭酸カルシウム粒子とこの重質炭酸カルシウム粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシリカとを備える。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子は、シリカのみが複合されていてもよいが、シリカに加えて酸化アルミニウムが複合されているとより好ましい。酸化アルミニウムはカチオン性であるため、酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウムはアニオン性のパルプ原料に対し自己定着性を有し、パルプ原料に添加した際にシリカ複合重質炭酸カルシウムの歩留りが向上しやすい。また、シリカ複合重質炭酸カルシウムの平均粒子径がシャープな粒度分布になるため、均一に分散しやすい。したがって、当該印刷用紙の乾燥度合の異方性を抑えることができ、カールの発生を効果的に抑制することができる。シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子は、上述したように原料パルプに対する歩留まりや分散性が向上し、シャープな粒度分布を有するため、上記印刷用紙の表裏差を少なくすることができる。シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を含有しない場合、原料パルプに対する歩留まりが悪くなり抄紙時にワイヤーから抜けやすくなると共に、原料パルプに対する分散性も向上しないため、印刷用紙の表裏差が大きくなる。また、この酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の製造方法は後に詳述する。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子(以下、酸化アルミニウムを複合している場合も含む)のレーザー回折散乱法により測定した体積平均粒子径(D50)としては、2μm以上15μm以下が好ましく、3μm以上10μm以下がより好ましく、3.5μm以上8μm以下がさらに好ましい。シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の平均粒子径が上記下限未満の場合、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の歩留りの向上効果が十分に発揮されずカール抑制効果が発現し難いおそれがある。逆に、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径が上記上限を超える場合、粒径が大きいことでスラリー中での均一分散性が低下し、またしてもカール発生の抑制効果が低下するおそれや、不透明度及び吸油度が十分得られないおそれがある。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子における酸化物換算でのシリカの比率としては、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下が好ましい。シリカの比率が上記下限未満の場合、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の表面が十分に被覆されていないため、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の多孔性が低くなり、水分保持時間や平行水分率が低下しカールの発生の抑制効果が小さくなるおそれがあり、また白色度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、シリカの比率が上記上限を超える場合、重質炭酸カルシウムに起因する不定型な形状やシリカ複合によるシャープな粒度分布が得難くなり、本発明が課題とするカール抑制効果が小さくなるおそれがある。
本発明におけるより効果的な構成として、上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子に酸化アルミニウムを複合する場合における酸化アルミニウムの含有率としては、8質量%以上38質量%以下が好ましく、10質量%以上20質量%以下がより好ましい。酸化アルミニウムの含有率が上記下限未満の場合、酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子のカチオン性向上効果が得られがたく分散性向上効果が小さくなり、カール発生の抑制効果が小さくなるおそれがあり、またシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子添加時の歩留まり向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、酸化アルミニウムの含有率が上記上限を超える場合、高コストになるのみでなく、シリカ複合重質炭酸カルシウム本来の効果が阻害され、原料パルプに対する分散性が低下すると共に、パルプ原料への定着効果が低下するおそれがある。なお、酸化アルミニウムの含有率は、例えばX線解析法によって測定することができる。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子のパルプスラリーへの添加量としては、得られる印刷用紙のJIS−P8251(2003)に準拠して、12%以上22%以下となるように原料パルプ中に含有させることが好ましい。シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の添加量が上記下限未満の場合、カール発生の抑制効果が小さくなるおそれや、当該シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子添加時の歩留まり向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の添加量が上記上限を超える場合、パルプ繊維間の密着性が低下することで、紙の強度が低下するおそれがある。
上記印刷用紙には、その他、例えば、澱粉類、ポリアクリルアミド、エピクロルヒドリン等の紙力増強剤、ロジン、アルキルケテンダイマー、ASA(アルケニル無水コハク酸)、中性ロジン等の内添サイズ剤、硫酸バンド、ポリエチレンイミン等の凝結剤、ポリアクリルアミドやその共重合体等の凝集剤などを含有することができる。
<塗工>
上記印刷用紙の両面には、表面サイズ剤または紙力向上剤と併用したクリアー塗工液を塗工してもよい。このようなクリアー塗工を行うことで、当該印刷用紙の柔軟性及び印刷適性等を高めることができる。
上記表面サイズ剤としては、特に限定されず、例えば、澱粉、スチレン系サイズ剤、アクリレート系サイズ剤、アルキルケテンダイマー等を挙げることができるが、これらの中でも、澱粉、スチレン系サイズ剤及びアクリレート系サイズ剤が好ましく、澱粉が特に好ましく、中でも酸化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、カチオン化澱粉、カチオン化酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、熱変性澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉などの種類の変性澱粉の中から、濃度が10%、液温30℃の時に60rpmのB型粘度が100mPa・s以下の澱粉を選定して使用することが好ましい。あるいはこれらの一般に入手できる変性澱粉を更に、酵素変性、酸化変性などの公知の方法による低分子化処理を施し、濃度が10%、液温30℃の時に60rpmのB型粘度が100mPa・s以下のものを使用することが、シリカ複合重質炭酸カルシウムの性状を阻害することなく、本発明の課題であるカールの発生を効果的に抑制可能な印刷用紙を提供する上で好ましい。
上記紙力向上剤としては、特に限定されず、例えば、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル系樹脂、ポリアミド・ポリアミン系樹脂、尿素・ホルマリン系樹脂、メラミン・ホルマリン系樹脂、ポリエチレンイミン等を挙げることができるが、これらの中でも、PAM、アクリル系樹脂及びPVAが好ましく、PAMがさらに好ましい。ポリアクリルアマイドは、イオン性、重合度、カルボキシル基含有量などに限定されないが、上記表面サイズ剤と共にクリアー塗工液として用いる場合は、表面サイズ剤と紙力向上剤の割合は、2:1から4:1の割合で併用することが、PAMの効果を保ちながらPAMに起因する被膜性を抑制しシリカ複合重質炭酸カルシウムの性状を阻害することなく、本発明の課題であるカールの発生を効果的に抑制可能な印刷用紙を提供する上で好ましい。
上記塗工における塗工液の塗工量としては、特に限定されないが、固形分換算で、片面あたり0.1g/m2以上1g/m2以下が好ましく、0.3g/m2以上0.7g/m2以下がより好ましい。この塗工量が上記下限未満の場合、上述した塗工による効果が十分に発揮されず、塗工ムラによる印刷用紙表面の水分保持性や平行水分率にムラが生じる場合や、印刷適性が低下する場合がある。逆に、この塗工量が上記上限を超える場合、この塗工により印刷用紙表面の被膜性が高くなり、印刷用紙表面の水分保持性や平行水分率が悪化しカール発生抑制効果の低下が発生する場合や、表面強度が高まって柔軟性が低下し印刷適性が低下する場合がある。
<印刷用紙の製造方法>
当該印刷用紙の製造方法としては、特に限定されず、公知の印刷用紙の製造方法を用いればよい。具体的には、例えば原料パルプスラリーを抄紙し、プレスパート及びプレドライヤーパートに供し、次いでカレンダー処理を施す方法等が挙げられる。
なお、当該印刷用紙は、片面又は両面に塗工層を設けることで塗工紙として用いることもできる。
<品質等>
当該印刷用紙の坪量としては、50g/m2以上100g/m2以下が好ましく、60g/m2以上80g/m2以下が本発明に基づくカール抑制効果を効果的に発現させる上でさらに好ましい。坪量が上記下限未満の場合、カールの問題が発現し難いが、紙の手触り感触が柔らかくなり、作業性が低下するおそれがある。一方で、坪量が上記上限を超える場合、印刷用紙が強直になり本件発明の効果が発現し難く、また、近年の軽量化、省資源に逆行することとなる。
当該印刷用紙の灰分としては、12%以上22%以下が好ましく、14%以上20%以下がさらに好ましい。灰分が上記下限未満の場合、本発明におけるシリカ複合重質炭酸カルシウムの効果が効果的に発現できず、印刷不透明度が低くなるおそれや、水分保持性が低下しカール抑制効果が損なわれるおそれがある。一方で、灰分が上記上限を超える場合、印刷不透明度は高くなるものの、パルプ繊維間の密着性が低下することで紙の強度が低下するおそれや、原料パルプ中のシリカ複合重質炭酸カルシウムの均一分散が損なわれ、水分保持性にムラが生じ、カール抑制効果が損なわれるとともに、印刷適性が低下するおそれがある。
当該印刷用紙の紙厚としては、56μm以上143μm以下が好ましい。紙厚が上記下限未満の場合、引張強度が低下するおそれがある。一方で、紙厚が上記上限を超える場合、軽量化の要請に反するおそれがある。なお、紙厚は、JIS−P8118(1998)に準拠して測定される値である。
当該印刷用紙の密度としては、0.7g/cm3以上0.9g/cm3以下が好ましく、0.75g/cm3以上0.85g/cm3以下がより好ましい。密度が上記下限未満の場合、当該印刷用紙への印刷時に裏抜けが発生するおそれがある。一方で、密度が上記上限を超える場合、剛度が低下して印刷適性が低下するおそれがある。なお、密度は、JIS−P8118(1998)に準拠して測定される値である。
当該印刷用紙は800秒以上の表面及び裏面の水分保持時間を有すると共に、当該印刷用紙の表面と裏面との水分保持時間差が80秒以内である。さらに、当該印刷用紙の表面の水分保持時間としては、900秒以上1200秒以下が好ましく、950秒以上1150秒以下がより好ましい。表面の水分保持時間が上記下限未満の場合、当該印刷用紙にカールが発生しやすくなるおそれがある。一方で、表面の水分保持時間が上記上限を超える場合、当該印刷用紙の印刷適性が低下するおそれがある。
当該印刷用紙は表面と裏面の水分保持時間差が80秒以内である。さらに、当該印刷用紙の表面と裏面の水分保持時間差をしては、60秒以内が好ましく、40秒以内がさらに好ましい。表面と裏面の水分保持時間差が80秒以内であることで、表裏面に含まれる水分が同等な乾燥速度で乾燥するため、表裏面の乾燥度合に伴う異方性が改善される。一方、上記表面と裏面の水分保持時間差が上記上限を超える場合、当該印刷用紙にカールが発生しやすくなるおそれがある。
当該印刷用紙の平衡水分率は、填料としてのシリカ複合重質炭酸カルシウムの含有量の調整により、5%以上10%以下になるように調整することが好ましく、6%以上8%以下になるように調整することがさらに好ましい。平衡水分率が上記下限未満の場合、当該印刷用紙の水分保持性が低下し、カールが発生しやすくなるおそれがある。一方で、平衡水分率が上記上限を超える場合、水分保持性が高くなりすぎて、当該印刷用紙の印刷適性が低下するおそれがある。なお、平衡水分率とは、JIS−P8111(1998)に規定の標準状態(温度23℃、湿度50%)の環境下で調湿し恒量になった時の印刷用紙の質量をW1、JIS−P8127(2010)に準じて105℃で乾燥し恒量になった時の印刷用紙の質量をW2としたときに(W1−W2)/W2×100より求められる値である。
本発明における構成により得られる当該印刷用紙の平均カール高さは、1.5mm以下、好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下に調整する事ができる。平均カール高さが上記上限を超える場合、オフセット印刷における給紙適性(印刷作業性)や印刷適性が低下するおそれがある。なお、平均カール高さとは、温度23℃、湿度50%の環境下に、抄紙方向を一辺とする100mm四方の正方形に切断した印刷用紙を凸側の面が接触するように平らな面に置き、測定した四隅の平均高さである。
当該印刷用紙の白色度としては、購読者の眼精疲労をきたさないように、80%以上95%以下が好ましく、83%以上95%以下がより好ましく、84%以上95%以下がさらに好ましい。なお、白色度は、JIS−P8148(2001)に準拠して測定される値である。
当該印刷用紙の印刷不透明度の下限としては、83%が好ましく、84%がより好ましく、85%がさらに好ましい。シリカ複合重質炭酸カルシウムの均一な分散性によりこのような印刷不透明度の印刷用紙を得ることができる。一方、当該印刷用紙の印刷不透明度の上限としては、96%が好ましい。印刷不透明度が上記下限未満の場合、裏抜けが生じやすくなるおそれがある。一方、印刷不透明度が上記上限を超える場合、必要な顔料が増大し、印刷用紙の表面強度が弱くなることで顔料の脱落による印刷時の紙紛が増加するおそれや、当該印刷用紙の見栄えが悪化するおそれがある。なお、印刷不透明度は、JAPAN TAPPI No.45に準拠して測定される値である。
<シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の製造方法>
以下、当該印刷用紙に用いるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の製造方法について詳説する。
当該印刷用紙に用いるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子は、重質炭酸カルシウム粒子にシリカを複合したものであり、具体的には、珪酸アルカリ塩及び鉱酸により重質炭酸カルシウム粒子にシリカを複合する工程により得られる。
また、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子は、さらにアルミニウム塩を用いて酸化アルミニウムを複合することが好ましい。上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子にカチオン性のアルミニウムが多く含まれているため、酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子はアニオン性のパルプ原料に対して自己定着性を有し、パルプ原料に添加した際に均一に分散しやすい。したがって、酸化アルミニウムを複合することにより、カールをより効果的に抑制することができ、パルプスラリーの増粘を抑えつつ、原料パルプへの歩留まりが高く、かつ白色度等を向上させることができるシリカ・酸化アルミ複合重質炭酸カルシウム粒子を得ることができる。このアルミニウム塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、アルミン酸ソーダ等を用いることができる。これらの中でも、炭酸カルシウム粒子を分解して酸化カルシウムを発生させることがなく、パルプスラリーに添加した際のスラリーの粘度を低減することができるアルミン酸ソーダが特に好ましい。
当該印刷用紙に好適に用いることができる上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子は、例えば、
(1)凝結剤により炭酸カルシウム粒子を凝結する粒子凝結工程、
(2)炭酸カルシウム粒子及び珪酸アルカリ塩を含有するスラリーを得るスラリー調製工程、
(3)上記スラリーに鉱酸を添加する第一反応工程、及び
(4)上記スラリーにアルミン酸ソーダ及び鉱酸を添加する第二反応工程
を有する製造方法によって得ることができる。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の製造方法に用いられる図1の装置は、凝結反応槽1、第一シリカ複合反応槽2、第二シリカ複合反応槽3、第一アルミニウム処理反応槽4、第二アルミニウム処理反応槽5、及び貯槽6をこの順に備える。
上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の原料となる重質炭酸カルシウム粒子X1は、予め微粒子状に粉砕された重質炭酸カルシウム粒子が使用される。重質炭酸カルシウム粒子X1は、そのままシリカを複合してもよいが、凝結反応槽1において凝結剤Gによって凝結されて重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2とすることが好ましい。この重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2は、第一シリカ複合反応槽2でスラリー調整工程が行われた後、第一シリカ複合反応槽2及び第二シリカ複合反応槽3で第一反応工程が行われて、シリカが複合されたシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3となる。その後、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3は、第一アルミニウム処理反応槽4及び第二アルミニウム処理反応槽5で第二反応工程が行われて、酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X4となり、貯槽6に貯留される。
上記重質炭酸カルシウム粒子X1としては、天然石灰石を乾式あるいは湿式で機械粉砕して得られる重質炭酸カルシウム粒子を用いる。重質炭酸カルシウムは、生産コストが安価であるが、物理的な粉砕によって製造されるため不定型でブロードな粒度分布の構成を呈することからワイヤーの摩耗性が高く、内添用の填料として用いられることが少なかったが、複合粒子とすることで抄紙工程におけるワイヤーの摩耗を低減することが可能となり、当該印刷用紙の填料として好適に用いることができる。
本製造方法においては、重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径を凝結やシリカ及び酸化アルミニウム複合に好適な範囲とするための粒径調節工程を行うことが好ましい。この粒径調節工程においては、重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径が好適な範囲となるように粉砕、分級等を行う。重質炭酸カルシウム粒子X1の粉砕手段として用いられる粉砕機としては、例えばジェットミル、高速回転式ミル等の乾式粉砕機、又はアトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機等を用いることができる。
上記重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径は、特に限定されるものではないが、その下限としては、0.2μmが好ましく、1.0μmがさらに好ましい。一方、重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径の上限としては、10.0μmが好ましく、5.0μmがさらに好ましい。重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径が上記下限未満の場合は、十分な粒子径の凝結体を得るのに多数の粒子による凝結が必要となって凝結体が脆くなるため、抄紙工程において凝結体が崩れて複合粒子の歩留りが十分に得られないおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径が上記上限を超える場合は、重質炭酸カルシウム粒子X1の粒度分布がブロードになって、凝結を行ってもシャープな粒度分布が得られず、結果としてシリカ複合効果やアルミニウム塩によるアルミニウム複合効果が不十分となるおそれがあるほか、粗大な粒径の粒子の存在により本製造方法で得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を添加した紙の品質が十分に得られないおそれがある。なお、この重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径は、レーザー回折方式の粒度分布計(日機装株式会社製、型番:マイクロトラックMTII−3000)を使用して試料(重質炭酸カルシウム粒子X1)の粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(D50)を求め、この粒子径を体積平均粒子径とするものである。
[(1)粒子凝結工程]
(1)粒子凝結工程においては、凝結反応槽1にて上記重質炭酸カルシウム粒子X1を凝結剤Gによって凝結することによって、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2を得る。
本製造方法において用いる凝結剤Gとしては、特に限定されるものではなく、公知の合成系凝結剤を用いることができるが、重質炭酸カルシウム粒子X1を適度な粒子径へ凝結させ易いカチオン性の凝結剤が好ましい。このカチオン性凝結剤としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、カチオン性ポリアクリルアミド等を用いることができる。
上記凝結剤Gの質量平均分子量の下限としては、10万が好ましく、20万がさらに好ましい。一方、凝結剤Gの質量平均分子量の上限としては、150万が好ましく、80万がさらに好ましい。凝結剤Gの分子量を上記範囲とすることで、重質炭酸カルシウム粒子X1を好適に凝結させることができる。凝結剤Gの質量平均分子量が上記下限未満の場合は、十分な凝結力が得られないおそれがある。逆に、凝結剤Gの質量平均分子量が上記上限を超える場合は、過度に粒径が大きい重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2が形成され、粒度分布がブロードになって歩留まりが低下するおそれや、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2のスラリーに凝結剤Gを添加した場合に、粘度が高くなりすぎて作業性や歩留りが低下するおそれがある。特に、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2のスラリーの粘度が500cpsを超えると、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2のスラリーを移送するポンプの負荷が大きくなるおそれや、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子のパルプ原料との混合性が低下するおそれがある。また、抄紙系内の汚れが顕在化する不都合が生じるおそれがある。なお、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)を用いて測定した数値である。
また、上記凝結剤Gのカチオン電荷密度の下限としては、3meq/gが好ましく、5meq/gがさらに好ましい。一方、このカチオン電荷密度の上限としては、25meq/gが好ましく、20meq/gがさらに好ましい。凝結剤Gのカチオン電荷密度を上記範囲とすることで、重質炭酸カルシウム粒子X1を好適に凝結させることができる。凝結剤Gのカチオン電荷密度が上記下限未満の場合は、十分な凝結力が得られないおそれがある。逆に、凝結剤Gのカチオン電荷密度が上記上限を超える場合は、重質炭酸カルシウム粒子X1の表面全体がカチオン電荷を帯びることによって、電荷による反発で凝結が生じにくくなる場合があるほか、過度に粒径が大きい重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2が形成され、粒度分布がブロードになって歩留まりが低下するおそれがある。なお、このカチオン電荷密度は、凝結剤として複数の成分を用いる場合は、その凝結剤全体としてのカチオン電荷密度をいう。
本発明において、上記カチオン電荷密度は以下の方法で測定した値である。まず、試料をpH4.0の水溶液に調整した後、流動電位法に基づく粒子荷電測定装置(Muteck PCD−03)にて、1/1000規定のポリビニル硫酸カリウム水溶液を用いた滴定によって、アニオン要求量を測定する。得られたアニオン要求量を用いて下記式(1)によって、試料1gあたりのカチオン電荷密度(meq/g)を計算する。
カチオン電荷密度=A/B×1000 (1)
A:pH4.0に調整した凝結剤水溶液のアニオン要求量(μeq/l)
B:凝結剤水溶液の固形分濃度(g/l)
なお、このように重質炭酸カルシウム粒子X1の凝結においては、質量平均分子量とカチオン電荷密度との両方において上述の好ましい範囲を有する凝結剤Gを用いることが、重質炭酸カルシウム粒子X1の凝結性とスラリーの増粘抑制との両方を好適に達成することができるため好ましい。この理由は定かではないが、例えば、凝結に係る理由としては、重質炭酸カルシウム粒子X1の表面の電荷分布にバラツキがあるため、所定範囲の分子量及びカチオン電荷密度を有するカチオン性合成高分子を用いることで電気的な凝結作用が発揮できるためであると考えられる。
上記凝結剤Gによって重質炭酸カルシウム粒子X1を凝結させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、重質炭酸カルシウム粒子X1を水に分散させて重質炭酸カルシウム粒子スラリーとし、この重質炭酸カルシウム粒子スラリーに凝結剤Gを添加し、攪拌する方法を用いることができる。このとき使用する攪拌装置としては、例えば、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を用いることができる。
上述の重質炭酸カルシウム粒子スラリーに凝結剤Gを添加する方法を用いる場合は、重質炭酸カルシウム粒子スラリーにおける重質炭酸カルシウム粒子X1の固形分濃度としては、特に限定されるものではないが、10質量%以上30質量%以下が好ましい。重質炭酸カルシウム粒子スラリーの濃度を上記範囲とすることで、重質炭酸カルシウム粒子X1の凝結性の効率化とスラリー粘度の上昇の抑制との両立を図ることができる。重質炭酸カルシウム粒子スラリーの濃度が上記下限未満の場合は、凝結剤Gを添加しても、重質炭酸カルシウム粒子X1が好適なサイズにまで凝結しないおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウム粒子スラリーの濃度が上記上限を超える場合は、粘度が高すぎて作業性が低下したり、また、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の粒度分布がブロードになって、歩留まりが低下したりするおそれがある。
凝結剤Gは水溶液として重質炭酸カルシウム粒子スラリーに添加することが好ましい。また、凝結剤Gの添加量としては、重質炭酸カルシウム粒子X1の固形分に対して、固形分換算で100ppm以上3000ppm以下が好ましい。凝結剤Gの添加量が上記下限未満の場合は、重質炭酸カルシウム粒子X1を十分に凝集させることができず、歩留まりの向上効果が発揮されない場合がある。逆に、凝結剤Gの添加量が上記上限を超える場合は、スラリーの増粘が顕著に生じるおそれや、三次、四次凝集が生じ、本製造方法で得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を添加した紙の紙力が低下するおそれがある。
粒子凝結工程を経て得られる重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径としては、重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径の1.1倍以上10.0倍以下が好ましく、1.2倍以上8.0倍以下がさらに好ましく、1.3倍以上6.0倍以下が特に好ましい。また、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径の下限としては、0.45μmが好ましく、1.0μmがさらに好ましく、1.2μmが特に好ましい。一方、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径の上限としては、10.5μmが好ましく、8.4μmがさらに好ましく、6.2μmが特に好ましい。重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径を上記範囲とすることで、製造工程で得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の抄紙工程における歩留まりを効率的に向上させることができる。重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径が重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径の1.1倍未満又は0.45μm未満の場合は、シリカ及び酸化アルミニウム複合時に十分な粒度が得られないおそれがあるほか、シリカを複合させる際にガラス状に目詰まりするおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径が重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径の10.0倍を超える場合は、凝結体が脆くなるため、抄紙工程において凝結体が崩れて本製造方法によって得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の歩留りが十分に得られないおそれがある。また、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径が10.5μmを超える場合は、本製造方法で得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の粒子径が大きくなりパルプ繊維間の空隙に入り込めずに添加した紙の不透明度を低下させるおそれがある。なお、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の体積平均粒子径は、凝結剤Gの添加量、重質炭酸カルシウム粒子X1の体積平均粒子径等によって調節することができる。
[(2)スラリー調製工程]
(2)スラリー調製工程においては、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2と珪酸アルカリ塩とを含有するスラリーを調製する。このスラリーは、例えば、上述の粒子凝結工程で得られた重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2を含有するスラリーに珪酸アルカリ溶液Lを添加して調製してもよく、また、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2を珪酸アルカリ溶液Lに添加して分散させることによって調製してもよい。
本製造方法において用いる珪酸アルカリ溶液Lは、特に限定されるものではないが、珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)を用いることが入手性の点で好ましい。
珪酸アルカリ溶液L中の珪酸濃度の下限としては、6g/Lが好ましく、8g/Lがさらに好ましく、10g/L以下が特に好ましい。一方、珪酸濃度の上限としては、18g/Lが好ましく、16g/Lがさらに好ましく、14g/Lが特に好ましい。珪酸濃度が上記下限未満の場合は、シリカゾルが十分に生成されないため、シリカが複合されない重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2が生じるおそれがある。逆に、珪酸濃度が上記上限を超える場合は、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成され、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2がホワイトカーボンで被覆されることによって、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の多孔性が失われるため、本製造方法によって得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。
本工程において重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2と珪酸アルカリ塩とを含有するスラリーにおける重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の濃度の下限としては、95g/Lが好ましく、100g/Lがさらに好ましく、105g/Lが特に好ましい。一方、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の濃度の上限としては、125g/Lが好ましく、120g/Lがさらに好ましく、115g/Lが特に好ましい。重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の濃度が上記下限未満の場合は、シリカ生成反応が鈍くなり複合粒子の生産性が悪化するおそれがある。逆に、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の濃度が上記上限を超える場合は、スラリーの粘度が上昇して重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の分散性が低下するおそれがある。
また、上記スラリー中の珪酸濃度(SiO2換算)としては、5質量%以上15質量%以下が好ましい。上記珪酸濃度が上記下限未満の場合は、シリカ複合効果が弱化し、本製造方法によって得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の白色度、不透明度及び吸油度の向上効果が小さくなるおそれがある。逆に、上記珪酸濃度が上記上限を超える場合は、本製造方法で得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子が添加された紙の塗工液の吸収能力が大きくなるため、塗工層を設ける場合に塗工層表面の平坦性が低下するおそれがある。
珪酸アルカリ溶液Lを重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2含有スラリーに添加する際、又は重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2を珪酸アルカリ溶液Lに添加する際の珪酸アルカリ溶液Lの温度としては、特に限定されないが、50℃以上が好ましい。珪酸アルカリ溶液Lを50℃以上に加温した状態で重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2を混合した場合、流動性の向上によってスラリーを容易に均質化することができる。
[(3)第一反応工程]
(3)第一反応工程においては、上記スラリーに鉱酸Nを添加し、スラリーのpHを低下させて、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面にシリカを析出させたシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3を得る。
本工程は具体的には、上記スラリーの液温が50〜90℃となるように加熱攪拌しながら、密閉容器内で所定の圧力に保持し、スラリーに含まれる珪酸アルカリ溶液Lが20〜50%中和される量の鉱酸Nを添加する。これによって、シリカの原料となる珪酸アルカリが、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸Nの希釈液と高温下で反応し、加水分解反応と珪酸の重合化によってシリカゾル微粒子が生成し、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面に析出する。なお、シリカゾル微粒子の粒子径は、反応時の攪拌条件、鉱酸Nの添加条件等によって調節することができる。そしてこの数nm程度のシリカゾル微粒子を重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面全体を被覆するように付着させることによって、シリカゾルの結晶が成長し、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面上のシリカゾル微粒子と重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2が含有するカルシウムとの間で結合が生じ、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面にシリカを析出させることができる。本製造方法においては、このように重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面にシリカを被覆させるため、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2が含有する酸化カルシウムが水中で水酸化カルシウムに反応することを抑制して、スラリーの増粘を抑えることができると考えられる。
本製造方法において用いる鉱酸Nとしては、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。これらの中でも、コスト及びハンドリングの観点から硫酸が特に好ましい。
本製造方法において用いる鉱酸Nの濃度としては、0.1mol/L以上5.0mol/L以下が好ましい。鉱酸Nの濃度が上記下限未満の場合は、シリカの生成速度が遅くなってシリカが十分形成されないおそれがある。逆に、鉱酸Nの濃度が上記上限を超える場合は、局部的な反応が生じて、シリカが偏在して形成され、カール発生の抑制効果が小さくなるおそれがあり、得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の歩留り向上効果等が小さくなるおそれがある。
本工程における攪拌時の上記スラリーの温度としては50℃以上90℃以下が好ましい。スラリーの温度はシリカゾルの生成及び成長に影響を及ぼすため、スラリーの温度が上記下限未満の場合は、シリカが生成されないおそれや、シリカゾルの生成及び成長の速度が遅くなってシリカが十分な強度で重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2と複合されないため、抄紙時にシリカが剥離するおそれがある。逆に、スラリーの温度が上記上限を超える場合は、製造が困難になるほか、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面に緻密にシリカが形成されるため、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の吸油度が低下するおそれがある。
本工程におけるスラリーのpHとしては8以上11以下が好ましい。pHが上記下限未満の場合は、シリカが不均質に析出し、本製造方法によって得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、pHが上記上限を超える場合は、珪酸アルカリ塩と鉱酸との反応が鈍って重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面にシリカが析出されにくくなるため、本製造方法によって得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の不透明度が低下するおそれがある。
本工程においては、ホワイトカーボンの析出を抑えて、シリカをより均質に重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面に析出させるために、上記スラリーに鉱酸Nを2段階で添加することが好ましい。この場合、第一段階でスラリーに含まれる珪酸アルカリ溶液Lが20〜50%中和される量の鉱酸Nを添加し、その後第一段階よりも液温を10℃以上上昇させて、最終反応液のpHが8以上11以下となるように鉱酸Nを添加することによって、均質なシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3を得ることができる。
[(4)第二反応工程]
(4)第二反応工程においては、上記スラリーにアルミン酸ソーダA及び鉱酸Nを添加し、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3の表面に酸化アルミニウムを析出させて、酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X4を得る。なお、シリカのみを複合した複合粒子を得る場合には、本工程は省略することができる。
本工程は具体的には、上記第一反応工程と同様に、上記スラリーを加熱攪拌しながら、密閉容器内で所定の圧力に保持し、アルミン酸ソーダA及び鉱酸Nを添加する。これによって、上記第一反応工程で得られたシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3の表面に析出したシリカの外層に、酸化アルミニウムが析出する。この結果、表面がカチオン性を有する酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X4が得られる。
本工程においては、アルミン酸ソーダAを上記スラリーに添加した後に鉱酸Nを添加することが好ましい。このように先にアルミン酸ソーダAを添加し、その後に鉱酸Nを添加して中和することによって、酸化アルミニウムをシリカの外層に均質に析出させることができる。さらに、酸化アルミニウムをより均質にシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3の表面に析出させるために、上記スラリーに鉱酸Nを2段階で添加することがより好ましい。
なお、この第二反応工程は、上記第一反応工程において鉱酸Nを添加し終えた後に、5〜20分程度経過した後に行うことが好ましい。このように反応保留期間を設けることによって、第二反応工程の前に予め重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2の表面に均質にシリカを析出させることができる。
アルミン酸ソーダAの添加量の下限としては、重質炭酸カルシウム粒子100質量部に対して10質量部が好ましく、12質量部がさらに好ましく、15質量部が特に好ましい。一方で、アルミン酸ソーダAの添加量の上限としては、30質量部が好ましく、25質量部がさらに好ましく、22質量部が特に好ましい。アルミン酸ソーダAの添加量が上記下限未満の場合は、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3に酸化アルミニウムが十分に複合されず、パルプ原料との結合力が弱まり、歩留まりの向上効果が発揮されない場合がある。逆に、アルミン酸ソーダAの添加量が上記上限を超える場合は、生産コストが高くなるばかりで、歩留り向上の効果が頭打ちとなるおそれがある。
本工程における最終反応液は中性から弱アルカリ性の範囲が好ましく、pHは8以上11以下が好ましい。pHが上記下限未満の場合は、鉱酸の過剰添加により、重質炭酸カルシウム粒子が変質して本製造方法によって得られるシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、pHが上記上限を超える場合は、アルミン酸ソーダAと鉱酸Nとの反応が鈍って重質炭酸カルシウム粒子の表面に酸化アルミニウムが析出されにくくなるため、本製造方法によって得られる酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の不透明度が低下するおそれがある。
上記スラリー調製工程、第一反応工程及び第二反応工程は、所定の処理量毎にこれらの工程を繰り返すバッチ式、又は連続して各工程を実行する連続式で行うことができるが、生産効率の観点からは、連続式を採用することが好ましい。
上記スラリー調製工程、第一反応工程及び第二反応工程を連続式で行う場合は、例えば次のような手順で図1に従って酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X4を製造することができる。この手順では、第一反応工程及び第二反応工程で鉱酸Nを2段階で添加する。まず、第一シリカ複合反応槽2に連続的に重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2、珪酸アルカリ溶液L及び鉱酸Nを供給し、所定の温度及び圧力下でこれらを撹拌し、スラリー調整工程及び第一反応工程の一部を同時に行う。この第一シリカ複合反応槽2で得られたスラリーは、第二シリカ複合反応槽3に連続的に移送される。第二シリカ複合反応槽3に移送された上記スラリーはさらに鉱酸Nが添加され、連続的に第一アルミニウム処理反応槽4に移送される。第二シリカ複合反応槽3は一定の容積を有するため、上記スラリーが第一アルミニウム処理反応槽4に移送されるまでの間にシリカの生成及び成長が進行し、重質炭酸カルシウム粒子凝結体X2はシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3となって第一アルミニウム処理反応槽4に連続的に供給される。次に、この第一アルミニウム処理反応槽3には、アルミン酸ソーダA及び鉱酸Nが連続的に供給され、これらと上記シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3のスラリーとが混合されて第二反応工程の一部が行われる。このスラリーは連続的に第二アルミニウム処理反応槽5に移送され、さらに鉱酸Nが添加された後貯槽6に移送される。第二アルミニウム処理反応槽5は一定の容積を有するため、上記スラリーが貯槽6に移送されるまでの間に、反応が進行してシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X3の表面に酸化アルミニウムが析出し、酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X4が形成される。この酸化アルミニウムを複合したシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子X4を含有するスラリーは、貯槽6に貯留され、填料、顔料等として抄紙製造ラインに供給される。
なお、本製造方法においては、第二シリカ複合反応槽3と第二アルミニウム処理反応槽5で鉱酸Nの添加は行わず、第一反応工程及び第二反応工程における鉱酸Nの添加を1段階で行ってもよい。第一反応工程において鉱酸Nを1段階添加する場合、第一シリカ複合反応槽2において珪酸アルカリ溶液Lと同時に鉱酸Nを添加してもよいし、珪酸アルカリ溶液Lを添加した後に第二シリカ複合反応槽3において鉱酸Nを添加してもよい。同様に、第二反応工程において鉱酸Nを1段階添加する場合、第一アルミニウム処理反応槽4においてアルミン酸ソーダAと同時に鉱酸Nを添加してもよいし、アルミン酸ソーダAを添加した後に第二アルミニウム処理反応槽5において鉱酸Nを添加してもよい。
さらに、重質炭酸カルシウム粒子、珪酸アルカリ溶液及びアルミン酸ソーダを含有するスラリーを調製し、このスラリーに鉱酸を添加してシリカ及び酸化アルミニウムを重質炭酸カルシウム粒子に複合させてもよい。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例における各測定値は以下の方法にて測定した値である。
[填料の体積平均粒子径(単位:μm)]
体積を計測する填料のサンプル10mgを超音波分散機(出力:80W)で3分間分散させた。この溶液を用いて、レーザー粒径分布測定装置(日機装株式会社製、型番:マイクロトラックMTII−3000)により平均粒子径(D50)を測定した。
[坪量(単位:g/m2)]
JIS−P8124(2011)に記載の「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した。
[紙厚(単位:μm)]
JIS−P8118(1998)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
[灰分(単位:%)]
JIS−P8251(2003)に記載の「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に準拠して測定した。
[灰分歩留り(単位:%)]
表1に示したパルプ配合、填料及び灰分条件の原料を検体として、パルプ濃度0.9重量%に水道水を用いて希釈、ブリット式ダイナミックジャーテスターにより歩留率を測定した。具体的には、次のような手順で測定を行った。まず、上記原料を回転数1000rpmで攪拌し、攪拌開始30秒後に10秒間白水を排出した後に30秒間白水を採取した。次に、採取した白水を濾紙(ワイヤー125Pスクリーン(200メッシュ相当)、ADVANTEC NO.2)にて濾過した。この濾紙を乾燥後、600℃で焼却し灰分を測定することにより填料の歩留率を算出した。
[表面及び裏面の水分保持時間(単位:秒)]
JIS−P8111(1998)に準拠する標準状態(温度23℃、湿度50%)の環境下で、A4サイズの印刷用紙の一方の面に90μlの蒸留水を滴下し、直径1.5cmの円柱状ガラス棒にて引き伸ばし塗布し、水塗布直後から水塗布後の紙の質量が水塗布前の紙の質量になるまでの時間である。
[平衡水分率(単位:%)]
JIS−P8111(1998)に規定の標準状態(温度23℃、湿度50%)の環境下で調湿し恒量になった時の印刷用紙の質量(W1)と、JIS−P8127(2010)に準じて105℃で乾燥し恒量になった時の印刷用紙の質量(W2)とを計測し、下記式(2)によって、平衡水分率を算出した。
平衡水分率=(W1−W2)/W2×100(%) (2)
[カール高さ(単位:mm)]
温度23℃、湿度50%の環境下に、抄紙方向を一辺とする100mm四方の正方形に切断した印刷用紙を凸側の面が接触するように平らな面に置き、測定した四隅の平均高さを測定した。
本実施例においては、以下の各品質について評価を行った。
(1)印刷作業性
オフセット印刷機(株式会社小森コーポレーション製、型番:小森SYSTEMC−20)を使用し、連続5000部の印刷を行った。このときのカールによる取り込み不良の有無を目視にて観察し、取り込み不良回数を計測した。
(シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の製造)
粗粉砕した石灰石を用い、ビーズミルを用いて体積平均粒子径(D50)が4.0μmとなるように微粉砕し、原料の重質炭酸カルシウムスラリーを得た。
上記重質炭酸カルシウム粒子スラリーに、凝結剤(ハイモ株式会社製 ハイマックスSC−100)を重質炭酸カルシウム粒子の固形分に対して固形分換算で200ppm添加した。凝結剤を添加後の重質炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径(D50)は4.6μmであった。
次に、凝結剤を添加した上記重質炭酸カルシウム粒子スラリーに、珪酸ナトリウム溶液(珪酸濃度12g/L)を重質炭酸カルシウム粒子スラリー中の珪酸濃度(SiO2換算)で8質量%になるように添加して、スラリーを調製した。このスラリーに濃度が0.1〜5mol/Lで反応後のpHが9となる量の希硫酸を2段階にわけて添加し、ミキサーを用いてスラリーを攪拌し第一反応工程を行った。スラリーの液温は、希硫酸添加の第一段階では70℃、第二段階では80℃とした。また、第一反応における第一段階の鉱酸の添加は、珪酸ナトリウム溶液の添加と同時に行った。その後、スラリーの液温を95℃に上昇させ、重質炭酸カルシウム粒子100質量部に対して8質量部のアルミン酸ソーダを添加して、pHが8となる量の希硫酸を再び2段階にわけて添加し、スラリーを撹拌してシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を得た。なお、第二反応工程における第一段階の鉱酸の添加は、アルミン酸ソーダの添加と同時に行った。
[実施例1]
原料パルプとして、バージンパルプのみを用い、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP 樹種:ラジアータマツ)及び広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP 樹種:ユーカリ)を15:85の質量比で配合した。このパルプ(絶乾量)に対して、各々固形分で、填料として上記の製造方法で得たシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子(実施例1では、酸化アルミを複合している)及び軽質炭酸カルシウム(奥多摩工業株式会社製 TP−121−6S)を1:1の質量比で灰分が17%となるように添加してパルプスラリーを得た。なお、填料におけるシリカ複合重質炭酸カルシウムの割合は60質量%である。
次に、ワイヤーパート、プレスパート、プレドライヤーパート、サイズプレスパート、アフタードライヤーパート、スキャッフドライヤーパート、カレンダーパート、及びリールパートを備える製紙システムを用いワインダーパートにて印刷用紙を得た。
具体的には、まず、上記パルプスラリーをワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供する。その後、アフタードライヤーパートで乾燥し、カレンダーパートにて、線圧200kN/m、速度1,500m/分で平坦化処理を施し、ワインダーパートに供して坪量64g/m2の印刷用紙を得た。なお、ワイヤーパートではギャップフォーマーを用いて抄紙し、サイズプレスパートではロッドメタリングサイズプレスコーターを用いた。またカレンダーパートでは、マルチニップカレンダーを用いた。上記パートが全て、オンマシンである抄紙システムを用いた。
なお、用いたシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の体積平均粒子径は6μm、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子における酸化アルミニウムの含有量は15質量%であった。
[実施例2〜16]
上記実施例1と同様の方法で、表1に示したパルプ配合、填料及び灰分条件を用いて印刷用紙を製造した。ただし、実施例2は、シリカ複合重質炭酸カルシウム粒子として、酸化アルミニウムを複合していないシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子を用いた。また、実施例16は、原料パルプに古紙(雑誌古紙)を30質量%配合した。
[比較例1及び2]
実施例1と同様の方法で、填料としてシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の代わりにシリカ複合軽質炭酸カルシウム粒子を用いて印刷用紙を製造した。なお、比較例1には酸化アルミニウムを複合したシリカ複合軽質炭酸カルシウム粒子を用い、比較例2には酸化アルミニウムを複合していないシリカ複合軽質炭酸カルシウム粒子を用いた。
[比較例3]
実施例1と同様の方法で、填料としてシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の代わりに重質炭酸カルシウム粒子(備北粉化工業株式会社製 ハイドロカーブ75)を用いて印刷用紙を製造した。
[比較例4]
実施例1と同様の方法で、填料としてシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の代わりに軽質炭酸カルシウム粒子(奥多摩工業株式会社製 TP−121−6S)を用いて印刷用紙を製造した。
[比較例5]
実施例1と同様の方法で、填料としてシリカ複合重質炭酸カルシウム粒子の代わりにタルク(富士タルク工業株式会社製 DN−37)を用いて印刷用紙を製造した。
実施例1〜16及び比較例1〜5の印刷用紙について、上述した方法で坪量、紙厚、灰分、表面及び裏面の水分保持時間、平衡水分率及びカール高さを測定し、さらに印刷作業性の評価を行った。測定及び評価を表1に示す。
表1に示すように、本発明の印刷用紙は、カールの低減効果を有し、印刷作業性に優れる。