(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る防食性能劣化検知センサーを備える給湯暖房システムの構成を示す概略図である。給湯暖房システム100は、例えば、熱源機で生成される熱を利用して、風呂、洗面室もしくは台所等への給湯、または部屋の暖房として機能するものである。
図1に示すように、給湯暖房システム100は、熱交換器等で構成される冷却対象材15、冷却対象材15に接続された循環路12、および、冷却対象材15と循環路12に循環液を循環させる循環ポンプ11から構成される。図1には、熱源および熱源との熱交換器は示されていない。冷却対象材15は、例えば、給湯タンクまたは暖房用の熱交換器である。循環液は、腐食因子である不純物が混入している可能性がある溶媒である。給湯暖房システム100は、バイパス路13、14を備える。バイパス路13、14は、循環路12の一部をバイパスし、防食性能劣化検知センサー10に接続されている。防食性能劣化検知センサー10は、循環液中への、腐食因子である不純物の混入を検知する。防食性能劣化検知センサー10は、データ送信ケーブル17を通して、コントローラー16に接続されている。
循環ポンプ11は、循環路12、およびバイパス路13、14に流れる循環液を循環させるものである。循環ポンプ11は、その吸引側が冷却対象材15の流出側に接続され、その吐出側が冷却対象材15の流入側と、バイパス路13を介した防食性能劣化検知センサー10とに接続されている。この循環ポンプ11は、例えば、容量制御可能なポンプ等で構成してもよい。
循環路12は、各種構成要素を接続する配管である。この循環路12は、バイパス路13、14を介して防食性能劣化検知センサー10にバイパス接続され、かつ冷却対象材15に接続されている。バイパス路13、14は、一方が循環路12に接続され、他方が防食性能劣化検知センサー10に接続されており、循環路12の一部をバイパスする配管である。冷却対象材15は、一方が循環ポンプ11の吸引側に接続され、他方が循環ポンプ11の吐出側と、バイパス路14を介した防食性能劣化検知センサー10とに接続されている。
基本的に、給湯暖房システム100は、循環液を流すための配管である循環路12に循環ポンプ11が接続されており、循環液が循環するというシステムとなっている。センサー近辺の部分については、循環ポンプ11の吐出側から送り込まれる循環液の一部が、バイパス路13を介して防食性能劣化検知センサー10に流れ込み、その後バイパス路14を介して循環路12に再び流れ込むようになっている。この際、防食性能劣化検知センサー10は、流れ込んだ循環液の防食性能をインピーダンス測定から検出し、検出結果はデータ送信ケーブル17を経てコントローラー16が受け取る。
コントローラー16は、受け取った検出結果に基づいて腐食因子の混入を知らせる表示機能を有してもよいし、またはアラーム音を発するデバイス等を適用してもよい。インピーダンス測定による検出の詳細については後述する。バイパス路13を通らない他の循環液については、循環路12をそのまま流れて、バイパス路14から流れ込む循環液と合流する。その後、合流した循環液は、循環路12を通り、冷却対象材15に流れ込む。そして、冷却対象材15を流れた循環液は、循環ポンプ11の吸引側に送り込まれる。
このような循環液の流れの結果、構成要素のうち循環液と接触する可能性があるものが、防食対象物(防食対象材料)となる。すなわち、循環液の循環回路を構成している、循環ポンプ11、循環路12、バイパス路13、14および冷却対象材15は、防食対象物である。なお、冷却対象材15は、例えば、温度の高い物体と低い物体との間で効率的に熱を移動させる室内外の熱交換器、温度や湿度を調整し送風機で空調場所へ送風するファンコイル、発生する過剰な熱を発散するラジエーター、または循環供給用の循環液を貯蔵する給湯タンク等に対応するものである(後述の実施例3参照)。
図2は、図1に示す防食性能劣化検知センサーの構成を示す概略図である。図2における点線で囲われた部分は、図1に示す防食性能劣化検知センサー10に対応している。防食性能劣化検知センサー10は、少なくとも、検知電極1と対極2とからなる一対の電極3と、電源4と、電源4と一対の電極3とを接続するリード線5と、一対の電極3とリード線5の一部を収納している筐体6とから構成されている。
図2には、防食性能劣化検知センサー10において、熱電対18をも含む構成にて示されているが、含まなくてもよい。後に実施の形態6にて詳細に述べるが、熱電対18は、検知電極1の近傍に設置され、循環液の温度を計測するものである。また、図2では、電源4からデータ送信ケーブル17を経て外部(コントローラー16)へと繋がっている接続構成を示しているが、他の構成要素を経由する接続構成でもよい。
防食性能劣化検知センサー10は、電気化学インピーダンス測定を利用して、循環液中に混入した不純物について、検知電極1に形成される電極表面被膜の状態の変化を検知する。さらに、直流電圧の印加と開放の操作を利用して、循環液に混入した不純物が腐食因子であるか否かを検知する。詳細な検知方法については、後に詳細に述べる。
防食性能劣化検知センサー10は、給湯暖房システム100の循環路12を流れる循環液が流入可能となっている。一対の電極3の間、すなわち検知電極1と対極2との間に流入する循環液は、循環路12内を流れる水系溶媒である。従って、この循環液は、前述したような防食対象物を構成する金属、および検知電極1を構成する金属の腐食を抑制する腐食抑制剤を含有している。なお、循環液には、寒冷地において凍結しないようにするための不凍液が添加されてもよい。
腐食抑制剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール(BTAH)もしくは8−キノリノール等の沈殿被膜型腐食抑制剤、テトラアルキルアンモニウム等の吸着被膜型腐食抑制剤、または、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウムもしくはポリ燐酸ナトリウム等の酸化被膜型腐食抑制剤を挙げることができる。腐食抑制剤は、給湯暖房システム100において使用されている防食対象物を構成する材料に応じ、最適な腐食抑制剤を用いればよい。つまり、防食対象物が銅で構成されている場合には、ベンゾトリアゾール等の沈殿被膜型の腐食抑制剤を採用すればよいし、防食対象物が鉄で構成されている場合には、亜硝酸ナトリウム等の酸化被膜型の腐食抑制剤を採用すればよい。
腐食抑制剤は、循環液に溶出した検知電極1を構成する金属と反応することにより、検知電極1の表面に電極表面被膜を形成させる。そして、形成された電極表面被膜により、検知電極1のさらなる溶解(溶出)は抑制される。検知電極1の表面の電極表面被膜では、検知電極1の溶解反応と生成反応が繰り返されている。これらの反応が平衡状態にある間は、検知電極1からの金属溶出が抑制されるので、検知電極1は安定に存在できる。一方、循環液に含まれる腐食抑制剤が分解等によりその濃度が減少した場合、または検知電極1を腐食させる腐食イオンが混入する等の事態が生じた場合には、平衡状態が崩れて溶解反応が支配的になる。その結果、腐食反応が進行する。当該反応状況は、防食対象物にも同様に発生している状況である。
腐食抑制剤による検知電極1の表面の反応について、詳細に説明する。ここでは、防食対象物を構成する配管は銅で構成されており、防食性能劣化検知センサー10の検知電極1も銅で構成されているものとする。さらに、給湯暖房システム100を循環する循環液は水系溶媒であり、循環液には、不凍液としてのプロピレングリコールと、銅の腐食抑制剤としてのベンゾトリアゾールが添加されているものとする。
ベンゾトリアゾールは、BTAH→BTA−+H+の反応により循環液中で解離し、陰イオンBTA−となる。そして、循環液中に検知電極1または配管から溶解した銅イオンCu+と錯体を形成し、銅表面に無電荷の高分子錯体の沈殿被膜[Cu−BTA]nを形成する(nCu++nBTA−→−[Cu−BTA]n−)。この沈殿被膜が、電極表面被膜となり、給湯暖房システム100全体においても、配管等を構成する金属の銅の腐食を抑制する。
腐食抑制剤投入の制御については、製造会社が保守点検の際に行ってもよいし、運用者が手動で腐食抑制剤を添加してもよい。他の方法としては、所定の周期において、または別途接続しておいたシステム等が濃度低下を検知した際において、腐食抑制剤を添加する方法が挙げられる。この場合、送液ポンプと予め腐食抑制剤濃度の定められた溶液を収容した投液タンクとを循環路12へ接続しておく。このような添加システムにて、循環液中の腐食抑制剤濃度を適正に管理する。その結果、給湯配管の腐食による水漏れを抑制し、システムの長寿命化、信頼性向上を図ることができる。
防食性能劣化検知センサー10では、一対の電極3に対し電源4から交流電圧を印加し、その電流応答から抵抗成分(インピーダンス)を抽出する電気化学インピーダンス測定を利用する。この電気化学インピーダンス測定から、循環液への不純物混入に伴う電極表面被膜の状態の変化を検知する。電極表面被膜の状態の変化による不純物の検知後に、さらに当該電極表面被膜に対して電源4から直流電圧の印加と開放を行い、被膜の分解と再形成を促す。この再形成時に不純物が取り込まれ、電極表面に到達することから、不純物が電極材料、すなわち配管にとっての実際の腐食因子か否かを防食性能劣化検知センサー10が検知することができる。
前述したとおり、一対の電極3は、検知電極1と検知電極1へ通電する対極2とから構成されている。検知電極1は、給湯暖房システム100の循環液の循環回路(防食対象物)を構成する配管に使用される金属材料と同材料から構成されている。筐体6内において、腐食抑制剤が添加された循環液が流れ込むと、当該循環液に浸された検知電極1は、表面に厚さ数十nmから数百nm程度の電極表面被膜で覆われる。対極2は、循環液を介して検知電極1に電流を流すための電極である。この対極2は、検知電極1から所定の間隔を隔てて、対向配置されている。また、対極2は、化学的安定性が高く電流が流れても腐食しにくい金属から構成されている。例えば、金、白金、チタン、銅またはステンレス鋼等の電気化学的に貴な金属(自身で化学反応を起こしにくい金属)で構成すると好ましい。
電源4は、一対の電極3に対して交流電圧および直流電圧を印加(重畳印加も含む)・解放するものである。この電源4は、リード線5を介して一対の電極3に接続されている。電極表面変化を検知するために印加する交流電圧の値については、電圧が高いほど電流応答の感度がよくなるが、一方で電極反応が進行しやすくなる。そのため、電流応答感度と電極反応進行の抑制とを両立させるためには、印加電圧は10mV以上50mV以下であることが好ましい。
筐体6は、前述のとおり一対の電極3とリード線5の一部とを収納しているものである。筐体6では、外乱因子を入れず、または密閉空間を保つことにより、周囲からの二酸化炭素の溶け込みによる導電率上昇等が起こらないようにするとよい。例えば、ノイズフィルター、ノイズキャンセラー、電磁シールドまたはアース接続等の利用が有効である。これにより、防食性能劣化検知センサー10が、より正確なインピーダンス測定を行えるようになっている。以下、防食性能劣化検知センサー10の動作についてより詳細に説明する。
前述したように、防食性能劣化検知センサー10は、検知電極1および対極2に対し交流電圧を印加し、その電流応答から抵抗成分を抽出する電気化学インピーダンスを測定する。その測定結果から、不純物混入に伴う電極表面被膜の状態の変化を検知する。さらに、不純物混入検知後、直流電圧を印加および開放させることにより、電極表面被膜を分解および再形成させる。そして、再形成により取り込まれた不純物が、検知電極1、すなわち配管材料にとって腐食因子か否かを判断する。腐食因子であると判断された場合、循環液の交換等により混入した腐食因子の除去を促すことで、配管材料の腐食を抑制することが可能となる。
電流応答から抽出される抵抗成分は、その印加する交流電圧の周波数の高低によって、その大きさが変化する。ここで言う高周波数領域とは1kHzより高い領域を表し、低周波数領域とは1Hz未満の領域を表す。中周波数領域とは、これらの間(1Hzと1kHzとの間の領域内の周波数)を表す。高周波数領域における電流応答から抽出される抵抗成分は、電子の授受を伴わない電気的抵抗成分(溶液抵抗)が検出される。
一方、印加する交流電圧が低周波数領域に移行するにつれ、電流応答から抽出される抵抗成分として、電子の授受を伴う電極反応の抵抗成分(電荷移動抵抗)や、電極表面に到達する反応物質の拡散に依存する化学反応の抵抗成分(ワールブルグインピーダンス)が現れるようになる。
本実施の形態1の防食性能劣化検知センサー10では、電極表面被膜および検知電極1表面の変化を抵抗変化として検出するため、電源4から所定周波数の電圧を一対の電極3に印加する。前述したとおり、印加する交流電圧の周波数が高い分だけ電極表面において腐食反応等の電極反応を生じさせることを抑制し、電極表面被膜の電気的な抵抗を検出することができる。しかし、同時に、溶液抵抗の影響も考慮する必要がある。従って、周波数についてその最適値を設定する必要がある。このような周波数と抵抗変化との関係の詳細については、後に説明する。
本実施の形態において、このように考慮された電源4からの交流電圧を、所定周波数(所定の周波数)の交流電圧とする。当業者であれば、後述する周波数と抵抗変化との関係の詳細説明を参照し、このような所定の交流電圧の値・周波数を調整することは容易であろう。交流電圧を、所定の印加周波数および所定の印加電圧の値にすることにより、抽出される抵抗値が電極表面の状態に対応する。すなわち、循環液中に腐食因子が混入していない状態にて、検知電極1の腐食を抑制する電極表面被膜が形成されている時期(腐食抑制時期)においては、その抵抗値は単純に高くなる。
逆に、循環液中に腐食因子となる不純物が混入した段階では、溶液抵抗より抵抗の大きい電極表面被膜の状態が変化していくので、腐食抑制時期と比較すると抵抗値が変化する。不純物の電極表面被膜への付着による抵抗変化について説明するため、まず、前述した検出インピーダンスの周波数依存性について説明する。
電気化学インピーダンス測定では、電極界面を模擬させた電気的等価回路モデルを組み立てて、電極の表面状態・電極反応を評価する。図3は、電極表面における電極反応を模擬させた一般的な電気的等価回路を示す図である。図3における電気的等価回路全体のインピーダンスZtotalは、以下に説明する、C、Rs、Rct、およびZwによるものが含まれる。Cは電気二重層形成に関する容量であり、表面被膜に蓄えられる電荷の影響を考慮したものである。Rsは溶液抵抗であり、電解液抵抗、銅電極抵抗および表面被膜抵抗を考慮したものである。Rctは電荷移動抵抗であり、電極反応のうち電子授受に関わる抵抗成分である。Zwはワールブルグインピーダンスであり、電極反応のうち物質移動・拡散移動に関わる抵抗成分である。図3に示す電気的等価回路に対して交流電圧を印加し、その電流応答からインピーダンスを検出する。この検出したインピーダンスについて、印加する角周波数ωに依存した以下の式が成立する。
上記式(1)および(2)より、以下の式が成り立つ。
式(3)において、角周波数ωを大きくするとZtotalはRsに近づき、角周波数ωを小さくするとZtotalはRs+Rct+Zwに近づく。すなわち、高周波数領域においては溶液抵抗に関する情報、中周波数領域においては溶液抵抗、電荷移動抵抗、ワールブルグインピーダンスおよび電気二重層形成のための容量成分に関する情報、低周波数領域においては溶液抵抗、電荷移動抵抗およびワールブルグインピーダンスに関する情報が得られることを意味している。
次に、不純物の電極表面被膜への付着による抵抗変化について説明する。図4は、腐食抑制剤により形成された電極表面被膜とインピーダンスの相関に係る簡易モデルを示す図である。図4に示す簡易モデルは、電極面積Aの電極に対して、誘電率ε、厚みlの誘電体で表される電極表面被膜と、当該電極表面被膜よりも誘電率のε値が大きい電解液とで構成されている。インピーダンス測定における電極表面被膜の抵抗変化は、その容量成分(キャパシタンス)で表すことができる。この系のキャパシタンスについては以下の式が成り立つ。
図4に示す電極−電極表面被膜モデルにおいて、表面被膜に腐食因子を含んだ不純物が付着すると、表面被膜とは誘電率が異なる不純物のために、電極表面の誘電率が変化する。例えば、表面被膜に不純物が付着した場合、表面被膜全体の誘電率は上昇し、式(4)において系のキャパシタンスCは増大することがわかる。Cが増大すると、前述した式(2)、(3)においてZc、Ztotalは減少する。すなわち、表面被膜に腐食因子を含んだ不純物が付着すると検出インピーダンスは減少する。
本実施の形態1では、不純物付着を検知したときに、この不純物が電極材料、すなわち配管にとって腐食因子か否かをも判断する。この際、意図的に電極表面被膜を分解しこの不純物を取り込みながら再形成させることにより、電極表面への腐食因子である不純物の付着を加速させる。電極表面被膜の分解と再形成を促す手段としては、直流電圧の印加と開放が有効である。
直流電圧の印加と開放を行うことによって、電極表面に形成された防食被膜を意図的に分解・再形成させ、不純物を取り込みながら被膜を再形成することができる。その結果、早期かつ正確に循環液への腐食因子の混入を検知することが可能となる。そもそも電極表面に付着した不純物が実際に電極を腐食するか否かを見極めることができればよいが、腐食因子ではない不純物が付着している場合でも検出インピーダンスは変化する。さらに、電極表面に防食被膜が存在する限り、不純物が防食被膜内を移動して電極に到着するためには所定の時間を要する。そのため、本実施の形態1のように、意図的に防食被膜の分解と再形成とを行うことが有効となる。
次に、防食被膜の分解と再形成について詳細に説明する。ここでは、前述した例と同様に、防食対象物を構成する配管(および検知電極1)は銅で構成されており、循環液には腐食抑制剤としてベンゾトリアゾールが添加されているものとする。図5は、実施の形態1に係る防食被膜のCu−BTA錯体の電位−pHを示す図である。図5に示すように、銅電極の自然電位が0.337V(vs標準水素電極[NHE])であるので、液性についてpH=0〜9付近までCu−BTA錯体として安定に存在できることがわかる。安定なCu−BTA錯体が形成された電極に対して酸化方向に電圧を印加すると、Cu−BTA錯体が、Cu2+もしくはCuOと、BTAHもしくはBTAH2+に分離する。すなわち、酸化分解される。
酸化分解を起こすための電圧値については、浸漬されている液性によって異なり、図5に示す電位−pH図に基づき定めることが可能である。例えば、pH=4.0の循環液の場合、印加する電圧値としてCu自然電位(0.337VvsNHE)に対してさらに0.27V以上に設定する。すると、Cu−BTA錯体領域からCu2+とBTAH共存領域に移行し(矢印A)、Cu−BTA被膜は酸化分解されることになる。
直流電圧を印加したまま保持すれば、分解したCu−BTA錯体は、Cu2+とBTAHのまま安定に電極表面上に存在することができる。一方、この直流電圧を開放すると、電極電位は元の自然電位に移行する(矢印B)。すると、Cu2+またはCuOと、BTAHまたはBTAH2+は、Cu−BTA錯体へ還元され、表面被膜を再形成する。ここで、循環液に腐食因子である不純物が混入していた場合には、この被膜再形成段階にて、Cu2+またはCuOとBTAHまたはBTAH2+と共に、当該不純物をも取り込みながら表面被膜を再形成することになる。
表面被膜の再形成について、さらに詳細に説明する。図6Aないし図6Cは、実施の形態1に係る電場の印加と開放による被膜の分解と不純物混入時の被膜再形成の様子を示す図である。図6Aに示すように、電場印加前の段階では、循環液21中には腐食抑制剤20と不純物19が混入している。しかし、銅材23表面(検知電極1表面に相当)に防食被膜22(Cu−BTA被膜)が安定に形成されているため、不純物19は循環液21中に分散しているのみである。
次に、図6Bに示すように、電場印加の段階では、防食被膜22(Cu−BTA被膜)は酸化分解され、Cu2+またはCuOと、BTAHまたはBTAH2+が、不純物19等と均一に分散する。そして、図6Cに示すように、電場印加を開放すると、Cu2+またはCuOと、BTAHまたはBTAH2+は、不純物19を取り込みながら防食被膜22(Cu−BTA被膜)を再形成する。そのため、被膜中に不純物19が分散している状態となる。このように取り込まれた不純物19は、銅材23表面(検知電極1表面)にも接している。なお、図6Aから図6Cに示す防食被膜22の分解(破壊)工程において、銅材23表面が損傷を受けることはない。
不純物19が腐食因子(例えば配管系の鉄錆)であり、検知電極1表面に到達した場合、検知電極1表面にて腐食反応が進行し、それに伴い検知電極1表面の交流インピーダンスが変化する。従って、当該交流インピーダンスを測定することにより検知することができる。このインピーダンス変化は、上述の式(1)または式(3)において、電荷移動抵抗Rct、またはワールブルグインピーダンスZwに反映されるため、主に低周波数領域のインピーダンス応答にあらわれる。特に、腐食因子の電極表面沖合いにおける拡散速度が支配するワールブルグインピーダンスよりも、電極表面の腐食反応に伴う電子の授受が支配する電荷移動抵抗Rctに対して、腐食因子の電極表面への到達に伴うインピーダンス変化がより大きく反映される。
インピーダンス変化に伴う腐食因子混入の検知について、詳細に説明する。図7は、循環液に腐食因子である不純物が混入している場合の電極表面被膜の分解と再形成の前後におけるインピーダンス応答の経時変化を示す図である。図7に示される例では、循環液のpHは7.0とし、腐食抑制剤としてベンゾトリアゾールが添加されている。また、一対の電極3(検知電極1は銅にて構成)に対して、10mVにて低周波数として1Hz、中周波数として100Hzの交流電圧を重畳印加している。それらのインピーダンス応答を同時にモニターしたものである。電極表面被膜の分解と再形成のための直流電圧の印加と開放は、一対の電極3に対して0.30V酸化側へ移行させた後に自然電位に戻す操作にて対応している。図7では、インピーダンス応答の値について、電極表面被膜が充分に形成された際のインピーダンス応答を1とした時の値にて示されている。
図7に示すように、まず、系内にて腐食抑制剤が電極表面に表面被膜を形成する段階である被膜形成期では、抵抗が上昇する。これは抵抗の大きい表面被膜が徐々に厚みを持って形成されるために、特に低周波数から中周波数領域にてインピーダンス値が上昇する。さらに、所定濃度の腐食抑制剤が投入された循環液では、表面被膜形成の安定に伴い、低周波数領域および中周波数領域それぞれの抵抗値は一定値を示す(図7に示す被膜安定期)。
所定の誘電率を有する腐食因子である不純物(ここでは鉄錆とする)が循環系内に混入し、電極表面被膜上に付着した場合、電極表面の誘電率は上昇する。それに伴い電極表面の全体の誘電率としても増加する。その結果、上述の式(4)より、電極のキャパシタンスも大きくなり、電極のインピーダンスZtotalは小さくなる。このインピーダンス変化は、電極キャパシタンス成分が影響する中周波数領域にて認められる現象である。低周波数領域では、このインピーダンス変化は認められず、一定のままである。これは、電極表面被膜が電極表面を被覆していることから、電極表面にて腐食反応による電荷移動は起こらないためである。
従って、中周波数領域のインピーダンス値が、被膜安定期におけるその値から下がった時点において不純物の混入とされる(図7に示す不純物混入)。インピーダンス値の低下率については、測定時のバラツキを考慮すると、5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10%以下であれば精度よく検知することが可能となる。
このように循環液に当該不純物が混入したことを検知した後、直流電圧を印加する。前述したように、Cu−BTA錯体はその液性に応じた電圧を酸化方向に印加することによって分解される。分解された後、電極表面皮膜が除去され検知電極1のみとなるので、電極表面被膜形状(主にその厚み)をあらわす中周波数領域の電極インピーダンスは一旦大きく低下する(図7に示す直流電圧印加)。次いで、表面被膜を分解除去された検知電極1に対して直流電圧の印加を開放させることにより、検知電極1の電位を自然電位に引き戻す。この操作により、循環液中に拡散した腐食因子となる不純物を取り込みながらCu−BTA錯体が再形成される。すなわち、図6Aから図6Cにて示したように、電極表面被膜がその内部に腐食因子である鉄錆を取り込みながら再形成される。電極表面被膜の再形成に伴い、直流電圧印加前の中周波数領域におけるインピーダンス値は再び上昇する(図7に示す直流電圧開放)。
前述したように、この再形成の際、取り込まれた鉄錆の一部は検知電極1表面と接触する(図6C参照)。その結果、接触した鉄錆により電極表面の腐食が進行する(図7に示す電極腐食進行期)。この段階になると、一対の電極3の腐食反応における電子授受に関わる抵抗成分、すなわち電荷移動抵抗Rctが減少する。上述の式(1)または式(3)より、Rctが減少すると、電極インピーダンスZtotalも減少する。このインピーダンス減少は、低周波数領域にてより顕著に現れる。従って、この低周波数領域でのインピーダンス減少を確認した時点にて、鉄錆、すなわち腐食因子である不純物混入の検知となる(図7に示す腐食因子混入検知)。インピーダンス値の低下率については、測定時のバラツキを考慮すると、5%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、10%以下であれば精度よく検知することが可能となる。なお、電極表面被膜の誘電率は、腐食因子の取り込みにより変化しているので、中周波数領域においてもインピーダンスが変化する。
一方、腐食因子とならない不純物が循環液に混入している場合について詳細に説明する。図8は、循環液に腐食因子とならない不純物が混入している場合の電極表面被膜の分解と再形成の前後におけるインピーダンス応答の経時変化を示す図である。なお、具体的な条件については、図7におけるものと同様とし、循環液には腐食因子とならない(電極腐食に影響を及ぼさない)粒状ガラスを混入させている。
当該粒状ガラスが循環液に混入していることをインピーダンス変化において検出する過程(図8に示す不純物混入)、ならびに直流電圧を印加および開放することにより、不純物を取り込みながら電極表面被膜を再形成する過程は、図7にて述べた内容と同様である(図8に示す直流電圧を印加または開放)。ここで、不純物である粒状ガラスは電極腐食に影響を及ぼさないので、図8に示すように、低周波数領域の電極インピーダンス応答には、直流電圧印加前と開放後において変化は現れない。従って、循環液への腐食因子混入として認識されることはない(図8に示す被膜安定期)。
前述までは、直流電圧の印加と開放操作を行い、電極被膜を再形成させる場合についてのインピーダンス応答について説明した。一方、直流電圧の印加と開放操作を行わない場合での一対の電極3のインピーダンス応答についても説明しておく。図9は、循環液に腐食因子である不純物が混入している場合の直流電圧の印加と開放操作なしでのインピーダンス応答の経時変化を示す図である。測定の条件等については、図7および図8において述べたものと同様であり、循環液には腐食因子である不純物の鉄錆を混入させているものとする。
当該錆鉄が循環液に混入していることをインピーダンス変化において検出する過程(図9に示す不純物混入)については、図7および図8と同様である。しかし、図9に示すように、その後のインピーダンス応答の変化について観察すると、中周波数領域の電極インピーダンス応答は鉄錆が電極表面被膜に付着することにより変化したものの、低周波数領域の電極インピーダンス応答は、図7と比較して、鉄錆付着後から抵抗が変化しない期間が極端に長くなり、インピーダンス応答が低下するまでに長期期間を要することがわかる(図9に示す不純物混入から腐食因子混入検知まで)。
前述したように、Cu−BTA錯体は一旦形成されるとそのまま変化せずに安定に存在するのではなく、Cu−BTA錯体の分解と生成の平衡反応が進行しており、常に分解と生成を繰り返すことにより安定に存在することができる。従って、図9において、腐食因子である鉄錆が電極表面被膜に付着してから電極表面まで移動する速度は、循環系内におけるCu−BTA錯体の分解と生成反応速度に支配されているものと考えられる。しかし、図7および図9に示すように、当該反応速度に応じた腐食因子の移動速度は、直流電圧の印加と解放の操作を行った場合での移動速度と比較すると、非常に遅いものと判断される。
さらに、腐食因子となる不純物が電極表面被膜に付着してから電極表面にまで移動する時間をTmとし、当該Tmの値についても検討した。まず、電極表面に防食被膜を形成させ、次いで腐食抑制剤および鉄錆を含まない循環液を電極表面にて循環させた。その後、当該循環系に鉄錆を添加し、その時点をT=0とした。なお、T=0におけるCu電極電位を測定しておいた。その後、鉄錆がCu電極に到達すると、鉄錆によって電位が上昇するので、T=0以降のCu電極電位の経時変化を測定した。その結果、2000時間 (約80日) 後にCu電極への鉄錆付着による電位上昇が確認された。
直流電圧の印加と開放の操作を行うと、このような電位上昇は数秒にて完了する。また、上述の場合では、防食被膜を形成させてはいるが、循環液には腐食抑制剤を含まない循環系にてTmを検討している。従って、実際に使用され得る腐食抑制剤を含有する循環系では、このTmは、2000時間よりもさらに長くなることが推定される。
本実施の形態1では、意図的に防食被膜の分解と再形成を直流電圧の印加と開放の操作にて行うことにより、直流電圧操作の前後における中周波数領域および低周波数領域の交流電圧印加でのインピーダンス応答変化から、腐食因子の循環系への混入を早期かつ高精度に検知することができる。
さらに、図7から図9の全てを考慮すると、中周波数領域または低周波数領域のいずれかの交流電圧印加でのインピーダンス応答変化からでも、腐食因子の循環系への混入を早期かつ高精度に検知することが可能であることが理解できる。例えば、図7および図8を参照すると、中周波数領域および低周波数領域の交流電圧印加でのインピーダンス応答には、直流電圧印加・開放操作の前後において、腐食因子となる不純物が混入していない限り、いずれも変化が現れないことがわかる。また、腐食因子となる不純物が混入している場合には、中周波数領域よりも低周波数領域での交流電圧印加のインピーダンス応答において、より早期に変化が現れるが、図9を考慮すると直流電圧の印加・開放操作を行うことにより、通常よりも腐食因子混入による中周波数領域での交流電圧印加のインピーダンス応答変化は早期に現れる。
このように、防食性能劣化検知センサー10において、中周波数領域もしくは低周波数領域のいずれかの交流電圧印加でのインピーダンス応答を測定・監視することにより、または、中周波数領域および低周波数領域の両方の交流電圧印加でのインピーダンス応答を測定・監視することにより、循環液への不純物混入の検知と該不純物が腐食因子であるか否かの判定が可能になる。中周波数領域および低周波数領域の両方の交流電圧印加において、両方のインピーダンス応答を同時に測定・監視する技術は、どのような方法を用いても構わない。例えば、中周波数領域および低周波数領域の両方の交流電圧を重畳して電源から印加し、それぞれの電流をフィルタにて分離することにより両方のインピーダンス応答を同時に計測することができる。
一方、中周波数領域と低周波数領域との交流電圧印加を切り替えながら、それぞれのインピーダンス応答を測定・監視することによっても当該検知と判定が可能である。これらの電圧印加、周波数切り替えおよびインピーダンス応答の測定・監視は、例えば、図2に示す電源4および図1に示すコントローラー16等が各機能を備えることによって行うことができる。
図10は、実施の形態1における中周波数領域と低周波数領域とを切り替えながら腐食因子の混入を検知する場合のフローチャートの一例である。不純物混入の検知に際し、防食性能劣化検知センサー10およびコントローラー16が行う「装置側の操作」と、系全体における給湯暖房システム100等の起動停止または配管の部品交換・清掃等の「人為的な操作」とについて整理して説明する。図10のフローチャートにおいて「装置側の操作」については破線枠で囲い、「人為的な操作」についてはその枠外として示している。まず、システムの運転が開始され(ステップS1)、防食性能劣化検知センサー10において中周波数領域の交流電圧印加でのインピーダンス応答を測定・データ習得・監視する(ステップS2)。中周波数領域でのインピーダンスが減少した場合(ステップS3;YES)、コントローラー16にて何らかの不純物が混入していると考えられるため、直流電圧の印加と開放の操作を行う(ステップS4)。この減少については、上述のように5%以上であれば検知可能である。さらに好ましくは、10%以上であればより精度よく検知できる。従って、これらの値を閾値として利用すればよい。一方、中周波数領域でのインピーダンスが減少しない(変化しない)場合(ステップS3;NO)、通常運転通り中周波数領域の交流電圧印加でのインピーダンス応答を測定・監視する。
直流電圧の印加と開放の操作を行った後(ステップS4)、低周波数領域の交流電圧印加に切り替え、当該インピーダンス応答を測定・データ習得・監視する(ステップS5)。低周波数領域でのインピーダンスが減少した場合(ステップS6;YES)、コントローラー16にて混入不純物は腐食因子であると検知・判定されるため、その情報を外部に発信する。この減少についても、上述のように5%以上であれば検知可能である。さらに好ましくは、10%以上であればより精度よく検知できる。従って、これらの値を閾値として利用すればよい。この発信方法としてはアラーム音、アラームランプまたは警報表示等、システムにとって腐食因子が混入していることを認識できるものであればよい(ステップS7)。その後、系内のメンテナンスのためにシステムの運転を停止する(ステップS8)。その後、適宜、系内のメンテナンス手段として、循環液を交換する、電極を含めた配管を清掃する、または部品を交換する等の操作により、腐食因子である不純物を系内から除去する(ステップS9)。メンテナンスの完了後、再度、運転を開始し(ステップS1)、前述と同様に中周波数領域の交流電圧印加でのインピーダンス応答を測定・データ習得・監視する(ステップS2)。低周波数領域でのインピーダンスが減少しない(変化しない)場合(ステップS6;NO)、当該不純物は腐食因子ではないものと判定されるため、再度、中周波数領域の交流電圧印加でのインピーダンス応答を測定・監視するよう切り替えをする(ステップS2)。
(実施の形態2)
実施の形態1では、腐食因子か否か不明の不純物の混入を、インピーダンス応答の測定・監視によって検知した後に、電源4により直流電圧の印加と開放操作を行っている。この直流電圧の印加と開放操作は、所定の周期によって定期的に行ってもよい。本実施の形態2では、このような場合について述べる。
前述したように、腐食因子となる不純物が電極表面被膜に付着し、電極表面にまで移動する時間はCu−BTA錯体の分解と生成の平衡反応における反応速度に支配される。その反応速度は遅く、結果として当該移動に長時間を要する。そのため、電源4による直流電圧の印加と開放操作の周期が当該移動の時間よりも長い場合、腐食因子が電極表面に到達し、電極の腐食が進行しているにもかかわらず検知されないことになる。すなわち、直流電圧の印加と開放操作の周期は、当該移動の時間よりも短く設定する必要がある。
例えば、腐食因子となる不純物が電極表面被膜に付着してから電極表面にまで移動する時間をTmとする(前述の実施の形態1参照)。そこで、電源4での直流電圧の印加・開放操作の周期をTmよりも長く設定し、実際に、図1に示す給湯暖房システム100において、防食性能劣化検知センサー10を稼動させた。その結果、給湯暖房システム100の配管材料が腐食しているにもかかわらず、防食性能劣化検知センサー10にて腐食因子の混入を検知することができなかった(図示せず)。一方、電源4からの直流電圧を印加する周期をTmと同じ、またはTmよりも短く設定した場合には、腐食因子混入を検知できることを確認した(図示せず)。
このように、電極表面被膜の分解と再形成を促す電源4からの直流電圧の印加と開放の操作について、所定の周期で定期的に実施することも可能である。当該所定の周期については、腐食因子が電極表面被膜に付着してから電極表面に移動するまでの時間(Tm)以下であることが好ましい。
(実施の形態3)
本実施の形態3では、検知電極1表面への電極表面被膜の分解と再形成を促すため、直流電圧の印加と開放の代わりに、交流電圧の印加方式を変更する形態について述べる。実施の形態3では、電極表面被膜の分解と再形成を促す目的にて、所定の電圧値、所定の周波数および所定の周期数を有する交流電圧を印加する。本実施の形態3によれば、検知電極1に印加する電源4に対して、交流電圧と直流電圧の2種類についてそれぞれ対応する必要がなく、構成を簡略化することができる。
通常の不純物混入を検知するための交流電圧については、微小な電圧でよい。例えば、交流電圧は10〜50mVであることが好ましい。一方、電極表面被膜の分解と再形成を促す目的にて使用する交流電圧の当該所定の電圧値としては、検知電極1の自然電位から酸化方向へと印加することが好ましい。さらに好ましくは、酸化方向の下限値について0.27V以上に設定すると効果的である。上限値については、被膜が分解される下限値以上であれば自由に値を設定することが可能である。しかし、電圧値が高いほど銅材の分解(溶出)も加速されてしまうので、好ましくは1.0Vを上限にするとよい。
交流電圧の当該所定の印加周波数については、電圧印加による分解したCu2+またはCuOと、BTAHまたはBTAH2+が、循環液中の腐食因子(鉄錆)を取り込みながら形成させる時間が必要であることから、低周波数であるほど好ましい。さらに好ましくは交流電圧の周期にして1秒以上、すなわち上限として1Hz以下であるように設定するとよい。下限値については周波数が小さいほど腐食因子を取り込む時間が長くなり、より腐食因子を取り込むことができるが、検知時期も遅くなる。従って、好ましくは下限として0.01Hz以上とするとよい。同様に、交流電圧の当該所定の印加周期数を増やすと検知時期が遅くなるため、できるだけ早く完了させるには1周期印加での操作で充分である。
このような電極表面被膜の分解と再形成を促す交流電圧の一例として、当該所定の電圧値が0.30V、当該所定の印加周波数が0.1Hz、当該所定の印加周期数が1周期の条件にて、電源4から印加、その後開放の操作を行った。その結果、直流電圧の場合と同様に、腐食因子(鉄錆)を取り込みながら被膜が再形成され、取り込まれた鉄錆は、防食性能劣化検知センサー10における検知電極1によって検知できることが確認された(図示せず)。
(実施の形態4)
本実施の形態4は、防食性能劣化検知センサー10(検知電極1)を、給湯暖房システム100の配管系内において腐食しやすい所に配置するというものである。これにより、配管材料に対する腐食因子の循環液への混入をより早い段階にて高精度に検出することができる。
例えば、循環液の流れが速い部分近傍の配管材料においては、循環液の流れにより機械的に局部腐食が進行する。また、循環液の流れの遅い部分近傍の配管材料においても、循環液が滞り、溶存酸素分布に偏りが生じて酸素濃淡電池形成による腐食が進行する。そこで、このような循環液の流れの最も速い部分、および流れの最も遅い部分にそれぞれ配管材料の模擬電極として検知電極1を設置し、その防食性能劣化検知センサー10としての機能を検証した。その結果、どちらに配置した場合についても、循環系のどの部分の配管材料よりも早く腐食因子(例えば鉄錆)の付着を検知することがわかった。
特に、流れの速い部分に設置した検知電極1の場合、電極表面被膜の再形成もなかなか進まないために、低周波数領域の電極インピーダンス応答のみならず、中周波数領域の電極インピーダンス応答についても変化する。例えば、直流電圧の印加によって低下した中周波数領域の電極インピーダンスは、開放操作によっても元の値に戻ることないまま、腐食反応の進行を示す電極インピーダンスが低下することを確認できる。
(実施の形態5)
本実施の形態5に係る防食性能劣化検知センサー10では、既存の配管の一部、例えば循環路12またはバイパス路13、14等を、一対の電極3の対極2として利用し、機能させる形態について説明する。
図11は、実施の形態5に係る防食性能劣化検知センサーの概要構成を示す図である。図11に示すように、検知電極1は、対極2として機能する円管からなるバイパス路13、14に対して等距離となるよう、円柱型の電極棒を用いている。電極間距離については、例えば、検知電極1となる電極棒の相当直径に対して95%とする。既存配管の一部を対極2として使用しているので、検知電極1と対極2(バイパス路13、14)との間には循環液が流れている(図11に示す矢印)。検知電極1および検知電極1側につながっているリード線5は、対極2として機能するバイパス路13、14とは電気的に絶縁されており、短絡することのないように設計されている。
このような防食性能劣化検知センサー10を用いて、循環液の防食性能劣化による検知電極1表面のインピーダンス応答の経時変化を測定した。その結果、前述した実施の形態1にて得られたインピーダンス応答の経時変化と同等の結果が得られた(図示せず)。従って、このように対極2に既存の配管の一部を用いた場合においても、早期かつ正確に腐食因子の混入を検知することが可能である。
(実施の形態6)
本実施の形態6では、給湯暖房システム100における防食性能劣化検知センサー10が、図2に示す熱電対18を含む構成となっている場合について詳細に説明する。
給湯暖房システム100は一定温度に制御されながら運転されることが多いが、状況によっては運転中に温度を変化させることも考えられる。防食性能劣化検知センサー10において測定される循環液および検知電極1でのインピーダンス応答は、温度依存性を有する。従って、当該インピーダンス応答が、循環液の液性および電極表面被膜に依るものか、または温度変化に依るものかを把握しなければ、防食性能劣化検知センサー10が誤作動を起こすことが懸念される。この問題を解決する手段としては、循環液の温度を確認し、当該温度が変化した場合にその温度変化に対応するインピーダンスの温度補償機能を搭載することが有効である。
防食性能劣化検知センサー10が測定する循環液および検知電極1表面のインピーダンスは、循環液の温度が1℃低下すると、その値は2%増加する。従って、図2に示すように、循環路12内を流れる循環液の温度を計測する熱電対18を、検知電極1の近傍に設置し、その温度変化を、例えばデータロガー(数値観測)機能を搭載したコントローラー16にて常時モニターする構成とする。このような構成にて、循環液の温度が検知初期値からt℃下降した場合に、中周波数領域および低周波数領域で、それぞれ検知した初期インピーダンス応答に対して0.02tの割合で増加させるように補正する。当該温度補償されたインピーダンス応答変化を、例えばコントローラー16にて監視・判断する。その結果、防食性能の劣化検知における温度変化の影響を取り除くことができる。
当該温度補償機能は、給湯暖房システム100の設計変更において高温にて動作させる場合についても対応することができる。前述した温度低下の場合と同様に、循環液の温度が検知初期値からt℃上昇した場合に、中周波数領域および低周波数領域で、それぞれ検知した初期インピーダンス応答に対して0.02tの割合で減少させるように補正する。当該温度補償されたインピーダンス応答変化を、例えばコントローラー16にて監視・判断する。
このような温度補償機能を有する防食性能劣化検知センサー10を搭載した給湯暖房システム100によれば、運転中に温度設定を変更した場合でも対応が可能となる。さらに、システムの障害等により温度を管理できなくなった場合でも、不純物をより高精度かつ早期に検出することができる。
(実施例1)
図1および図2において、もし、筐体6内に流れる循環液の水質(環境)と、給湯暖房システム100内を循環する循環液の水質とが対応していない場合、検知電極1での腐食因子の検知と、給湯暖房システム100を構成する循環路12の腐食が対応していないということになる。
例えば、図1によると、防食性能劣化検知センサー10は、循環路12からバイパスされて循環系に接続されている。ここで、バイパス部入り口に入り込んだ不純物等が流れを遮ると、防食性能劣化検知センサー10にて循環液の滞留が生じる可能性がある。すなわち、循環路12では腐食抑制剤が消費されている状態に対して、防食性能劣化検知センサー10では循環液が滞留しているために腐食抑制剤が消費されていないという状態が発生する。その場合、循環系内では防食性能が低下しているにもかかわらず、防食性能劣化検知センサー10が機能していない状態となってしまう。その結果、給湯暖房システム100の循環路12において、腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御し、腐食を未然に抑制するという目的を達成できなくなる恐れがある。
そこで、本実施例1では、給湯暖房システム100において検知電極1が曝される環境と、給湯暖房システム100の防食対象物が曝される環境とが、同等となるようにする調整について述べる。
検知電極1および給湯暖房システム100の防食対象物の腐食に影響を与える因子としては、循環液の温度、流速、溶存酸素濃度、腐食因子(ここでは鉄錆とする)、および腐食抑制剤(ここではベンゾトリアゾールとする)の濃度等が挙げられる。ここで、筐体6では、循環液の温度および流速に関して、保温方式・ポンプ流量・寸法設計を調整し、防食対象物が曝される環境と同様になるよう設定する。さらに、循環液の温度および流速に依存する溶存酸素濃度(溶解度)に関しては、同様に、循環液の温度および流速を調整して、防食対象物が曝される環境と同様になるように設定する。例えば、給湯暖房システム100が60℃にて運転される場合、循環液も60℃となることから、枝分かれした筐体6にて温度が60℃から下がることの無いようにヒーター・温度コントローラ・断熱材を取り付ければよい。
このような構成において、検知電極1が曝される環境と、給湯暖房システム100の循環路内の環境との両方における、鉄錆および腐食抑制剤の濃度を測定した。なお、防食性能劣化検知センサー10の筐体6内に流れる循環液の水質の調査にあたり、循環液サンプルの採取は、給湯暖房システム100の運転中に行った。鉄錆の濃度は、誘導結合高周波プラズマ(ICP:Inductively coupled Plasma)分析により測定した。循環液に含まれる腐食抑制剤の濃度に関しては、紫外吸収スペクトル分析により測定した。循環液サンプルの分析の結果、鉄錆および腐食抑制剤の濃度について、共に、防食性能劣化検知センサー10のサンプルと、防食対象物を流れる循環液について、同濃度であることを確認した。
また、給湯暖房システム100全体としても、防食性能劣化検知センサー10に接続されるバイパス路13、14、循環ポンプ11、および筐体6の寸法サイズについて、検知電極1近辺を流れる循環液と、防食対象物を流れる循環液との温度および流速が同じになるよう設定することにより、検知電極1が曝される環境と、給湯暖房システム100の循環路12内の環境とを略同様とすることができる。このように、本願に係る給湯暖房システム100は、防食性能劣化検知センサー10の検知電極1を模擬電極として確実に機能させることができる。
(実施例2)
本実施例2では、循環液の液性および印加と開放操作を行う直流電圧の電圧値による、検知電極1のインピーダンス応答に与える影響について検討しておく。
図5に示すように、電極表面に形成されたCu−BTA錯体は検知電極1の材料である銅の自然電位において、接触する溶媒の液性によってその状態が変化する。循環液の液性に対する、電極表面に形成されたCu−BTA錯体の分解と再形成を促す直流電圧の値について検討する。循環液として、溶液A:pH=4、溶液B:pH=7、および溶液C:pH=13を準備した。
それぞれの循環液を備えた防食性能劣化検知センサー10にて検知電極1表面に形成されたCu−BTA錯体の分解と再形成を促す直流電圧の印加と開放について、その電圧値による検知電極1のインピーダンス応答への影響を調べた。その結果、溶液Aと溶液Bについては、直流電圧0.30Vを印加し開放することにより、循環液に混入した腐食因子を検知することができた。これらの液性においては、分解されたCu2+またはCuOとBTAHまたはBTAH2+が循環液中の腐食因子(ここでは鉄錆とするとする)を取り込みながら形成することができたために、電極表面への腐食因子の付着を検知できたと考えられる。
一方、溶液Cについては、印加と開放操作する直流電圧について0.0Vから1.0Vまで、0.1Vきざみに電圧を電極に印加したが、いずれも循環液への腐食因子混入を検知することができなかった。これは、図5に示すように、pH=11.5よりも大きい領域において、銅電極の自然電位を起点として酸化方向についてはCuOとBTA−として存在しており、Cu−BTA錯体としては安定に存在できないことに起因すると考えられる。
従って、給湯暖房システム100に使用する循環液として、その液性について制御する必要があることがわかった。具体的には、その液性についてpH=10以下であるように、例えば、機器等によって制御する必要があることがわかった。
(実施例3)
本実施例3では、実際に給湯暖房システム100を運転した場合における防食性能劣化検知センサー10の効果について説明する。
図12は、実施例3に係る防食性能劣化検知センサーを備えた給湯暖房システムの概略を示す図である。図1ではシステム構成として、熱交換を行う部材を一体とし冷却対象材15と表したが、図12では本実施例3にて利用した図1に示す冷却対象材15の構成部材が例示されている。図12に示すように、給湯暖房システム100は、防食性能劣化検知センサー10と、循環ポンプ11と、循環路12と、屋外から冷媒を介して熱源となる室外機24と、室外機24から供給された冷媒と循環路12側の循環液との間で熱交換を行う熱交換器25と、熱交換器25によって加熱された循環液を貯蔵し温水として供給する給湯タンク26と、加熱された循環液により室内にて放熱を行うラジエーター27と、給湯タンク26とラジエーター27への循環液の供給を制御する切り替えバルブ28とを備えている。
防食性能劣化検知センサー10の配置については、循環路12の任意の位置に設置可能である。本実施例3では配管にとって腐食因子となる鉄錆等が生成しやすいラジエーター27の下流に設置することで、より早期に腐食因子である鉄錆の混入を検知することが可能となっている。
図12に示す給湯暖房システム100では、まず、給湯タンク26に水道水が供給され満水となった時点で、熱源である室外機24の運転が開始する。その後、室外機24から加熱された冷媒を用いられ熱交換器25が循環路12側の循環液を加熱し、循環ポンプ11によって加熱された循環液が循環路12内を循環する。循環ポンプ11が稼動し、循環路12内を循環液が循環した時点にて、同時に防食性能劣化検知センサー10が起動する。防食性能劣化検知センサー10の起動時に、検知電極1の電極インピーダンスが測定され、その初期値が基準とされる。その後、循環路12内への不純物混入の有無について、電極インピーダンスの経時変化と前述した基準値が照合されながら評価される。
防食被膜の分解と再形成を促す電場の印加と開放を、検知電極1表面への不純物の付着時に行うと共に、より正確に腐食因子の混入を検知するために、定期的な電極インピーダンス測定を導入した。本実施例3では、測定周期を1000時間とした。その他、防食性能劣化検知センサー10における、被膜の分解のために印加する電場の電圧値、インピーダンス測定における交流電圧値、および印加周波数の条件等については、前述の実施の形態1において述べたものと同様とした。
このような給湯暖房システム100の運転を継続した結果、最初のうちは腐食因子でない不純物の付着により図8に示したような検知電極1の中周波数領域の電極インピーダンス経時変化が測定された。そして、約10000時間(14ヶ月)後に、ラジエーター27の構成材料由来と考えられる鉄錆の混入について、図7に示したような低周波数領域のインピーダンス変化を検知することができた。この検知を元に、検知電極1の交換、防食剤の添加およびラジエーター27表面に形成された鉄錆の清掃除去を行い、給湯暖房システム100を構成する配管の鉄錆付着による腐食を未然に抑制することができる。最終的には、当該システムをより長寿命化することが可能となる。
前述の実施の形態および実施例に記載の内容は、適宜組み合わせて実施してもよい。また、本発明は、冷却水等の溶媒が循環する他の設備機器に適用することもできる。例えば、圧縮機、凝縮器、膨張手段および蒸発器等を配管で接続し冷媒を循環させる冷凍サイクルを備えた空調システム等の設備機器に適用してもよい。
上記実施の形態および実施例は、いずれも本発明の趣旨の範囲内で各種の変形が可能である。上記実施の形態は本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。本発明の範囲は実施形態よりも添付した請求項によって示される。請求項の範囲内、および発明の請求項と均等の範囲でなされた各種変形は本発明の範囲に含まれる。
本出願は、2013年8月7日に出願された、明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書を含む日本国特許出願2013−164374号に基づく優先権を主張するものである。この元となる特許出願の開示内容は参照により全体として本出願に含まれる。