本発明のタービン油組成物は、(A)多価アルコール残基と、直鎖飽和脂肪酸残基及び直鎖飽和ポリカルボン酸残基と、からなるコンプレックスエステルであり、40℃における動粘度が20〜100mm2/sであり、流動点が−40℃以下であるコンプレックスエステルと、(B)酸化防止剤と、を含有し、基油分中の(A)の含有割合が60質量%以上であることを特徴とするタービン油組成物である。
本発明のタービン油組成物は、基油分として、(A)多価アルコール残基と、直鎖飽和脂肪酸残基及び直鎖飽和ポリカルボン酸残基と、からなるコンプレックスエステル(以下、「(A)コンプレックスエステル」とも記載する。)を含有する。
本発明のタービン油組成物に係る(A)コンプレックスエステルは、アルコールとカルボン酸又はカルボン酸誘導体との反応により生成するエステルであり、アルコール由来のアルコール残基とカルボン酸由来の酸残基とからなり、アルコール残基が多価アルコール残基であり、酸残基が直鎖飽和脂肪酸残基及び直鎖飽和ポリカルボン酸残基である。つまり、(A)コンプレックスエステルは、アルコール残基として、多価アルコール残基を有し、且つ、酸残基として、直鎖飽和脂肪酸残基及び直鎖飽和ポリカルボン酸残基の両方を有するエステルである。
(A)コンプレックスエステルにおいて、多価アルコール残基は、炭素数が2〜12であり且つ価数が2〜9である多価アルコール残基である。多価アルコール残基の炭素数は、好ましくは3〜6である。多価アルコール残基の炭素数が1だと、コンプレックスエステルの分子量が小さいため揮発し易くなり、また、多価アルコール残基の炭素数が12を超えると、コンプレックスエステルの分子量が大き過ぎるため流動点及び粘度が高くなり過ぎる。また、多価アルコール残基の価数は、3〜6が好ましく、3が特に好ましい。多価アルコール残基の価数が上記範囲にあることにより、基油としての適度な粘度と低い流動点を得易く、また生分解性と熱酸化安定性を両立し易くなる。なお、本発明において、多価とは、2価以上ということを指し、また、多価アルコール残基の価数とは、多価アルコール残基が形成しているエステル結合の数を指す。
(A)コンプレックスエステルに係る多価アルコール残基としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等の2価アルコールの残基;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールノナン等の3価アルコールの残基;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の4価以上のアルコールの残基;エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イノシトール等の糖アルコールの残基などのアルコールの残基が挙げられる。これらのうち、多価アルコール残基としては、多価アルコール残基の価数が3〜6のものが、基油としての適度な粘度と低い流動点を得やすく、また生分解性と熱酸化安定性を両立し易い点で好ましく、3価の多価アルコール残基が特に好ましく、トリメチロールプロパン残基が更に好ましい。また、エステル基のβ位に水素がない構造となるヒンダードアルコールの残基が好ましい。このようなヒンダードアルコール残基としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールの残基が挙げられ、トリメチロールプロパン又はペンタエリスリトールの残基がより好ましく、トリメチロールプロパン残基が特に好ましい。多価アルコール残基が、エステル基のβ位に水素がない構造となるヒンダードアルコール残基であることにより、コンプレックスエステルの熱分解が起こり難くなる。多価アルコール残基は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
(A)コンプレックスエステルの合成において、カルボン酸又はカルボン酸誘導体との反応により多価アルコール残基となる多価アルコールは、炭素数が2〜12であり且つ水酸基の数が2〜9である多価アルコールである。多価アルコールの炭素数は、好ましくは3〜6である。また、多価アルコールの水酸基数は、2〜6が好ましい。多価アルコールの炭素数が1だと、例えば、メタンジオール、メタントリオール等のメタンポリオールだと、コンプレックスエステルの分子量が小さくなるため揮発し易くなり、また、多価アルコールの炭素数が12を超えると、コンプレックスエステルの分子量が大きくなり過ぎるため流動点及び粘度が高くなり過ぎる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等の2価アルコール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールノナン等の3価アルコール類;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の4価以上のアルコール類;エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イノシトール等の糖アルコール類などが挙げられる。これらのうち、多価アルコールの水酸基の数が3〜6であることが、基油としての適度な粘度と低い流動点を得やすく、また生分解性と熱酸化安定性を両立させ易いという点で好ましく、3価アルコールが特に好ましく、トリメチロールプロパンが更に好ましい。また、エステル化したときに、エステル基のβ位に水素がない構造となるヒンダードアルコールが好ましい。このようなヒンダードアルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが挙げられ、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールがより好ましく、トリメチロールプロパンが特に好ましい。多価アルコールが、エステル基のβ位に水素がない構造となるヒンダードアルコールであることにより、コンプレックスエステルの熱分解が起こり難くなる。多価アルコールは、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
(A)コンプレックスエステルにおいて、直鎖飽和脂肪酸残基は、炭素数が3〜26であり且つ価数が1である直鎖飽和脂肪酸残基である。直鎖飽和脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは4〜24、特に好ましくは6〜16である。コンプレックスエステルの酸残基が、不飽和結合を有する酸残基であると、熱酸化安定性が低くなり、また、分岐鎖を有する飽和脂肪酸残基であると、生分解性が低くなる。また、直鎖飽和脂肪酸残基の炭素数が2以下だと、コンプレックスエステルの分子量が小さいため揮発し易くなり、また、直鎖飽和脂肪酸残基の炭素数が27を超えると、コンプレックスエステルの分子量が大き過ぎるため流動点及び粘度が高くなり過ぎ、更には、生分解性も低くなるおそれがある。直鎖飽和脂肪酸残基の価数は、1である。なお、本発明において、直鎖飽和脂肪酸残基の炭素数は、エステル結合を形成している炭素原子も含めた数である。また、本発明において、直鎖飽和脂肪酸残基の価数とは、直鎖飽和脂肪酸残基が形成しているエステル結合の数を指す。
(A)コンプレックスエステルに係る直鎖飽和脂肪酸残基としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ヤシ脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸等の1価の直鎖飽和脂肪酸の残基が挙げられる。直鎖飽和脂肪酸残基は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
(A)コンプレックスエステルの合成において、多価アルコールとの反応により直鎖飽和脂肪酸残基となるカルボン酸又はカルボン酸誘導体は、多価アルコールとの反応により酸残基となる部分の炭素数が3〜26であり且つ価数が1である直鎖飽和脂肪酸、直鎖飽和脂肪酸クロライド又は直鎖飽和脂肪酸エステル等のカルボン酸又はカルボン酸誘導体である。直鎖飽和脂肪酸残基となるカルボン酸又はカルボン酸誘導体としては、例えば、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ヤシ脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸等の1価の直鎖飽和脂肪酸、これらの1価の直鎖飽和脂肪酸のクロライド又はこれらの1価の直鎖飽和脂肪酸のエステル等が挙げられる。直鎖飽和脂肪酸残基となるカルボン酸又はカルボン酸誘導体の多価アルコールとの反応により酸残基となる部分の炭素数は、4〜24が好ましく、6〜16が特に好ましい。直鎖飽和脂肪酸残基となるカルボン酸又はカルボン酸誘導体は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
(A)コンプレックスエステルにおいて、直鎖飽和ポリカルボン酸残基は、炭素数が2〜14であり且つ価数が2以上である直鎖飽和ポリカルボン酸残基である。直鎖飽和ポリカルボン酸残基の炭素数は、好ましくは4〜10、特に好ましくは4〜8、更に好ましくは4〜6である。コンプレックスエステルの酸残基が、不飽和結合を有する酸残基であると、熱酸化安定性が低くなり、また、分岐鎖を有する飽和脂肪酸酸残基であると、生分解性が低くなる。また、直鎖飽和ポリカルボン酸残基の炭素数が14を超えると、コンプレックスエステルの分子量が大き過ぎるため流動点及び粘度が高くなり過ぎ、更には、生分解性も低くなるおそれがある。直鎖飽和ポリカルボン酸残基の価数は、2以上、好ましくは2〜6、特に好ましくは2である。なお、本発明において、直鎖飽和ポリカルボン酸残基の炭素数は、エステル結合を形成している炭素原子も含めた数である。また、本発明において、直鎖飽和ポリカルボン酸残基の価数とは、直鎖飽和ポリカルボン酸残基が形成しているエステル結合の数を指す。
(A)コンプレックスエステルに係る直鎖飽和ポリカルボン酸残基としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸の残基が挙げられる。直鎖飽和ポリカルボン酸残基は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
(A)コンプレックスエステルの合成において、多価アルコールとの反応により直鎖飽和ポリカルボン酸残基となるポリカルボン酸又はポリカルボン酸誘導体は、多価アルコールとの反応により酸残基となる部分の炭素数が2〜14であり且つ価数が2以上である直鎖飽和ポリカルボン酸、直鎖飽和ポリカルボン酸クロライド又は直鎖飽和ポリカルボン酸エステル等のポリカルボン酸又はポリカルボン酸誘導体である。直鎖飽和ポリカルボン酸残基となるポリカルボン酸又はポリカルボン酸誘導体としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸、これらの直鎖飽和ポリカルボン酸のクロライド又はこれらの直鎖飽和ポリカルボン酸のエステル等が挙げられる。直鎖飽和ポリカルボン酸残基となるポリカルボン酸又はポリカルボン酸誘導体の多価アルコールとの反応により酸残基となる部分の炭素数は、好ましくは4〜10、特に好ましくは4〜8、更に好ましくは4〜6である。直鎖飽和ポリカルボン酸残基となるポリカルボン酸又はポリカルボン酸誘導体は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
なお、ヤシ油脂肪酸のように天然由来の脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸を主成分とするものの、少量の不飽和結合が含まれている。このようなヤシ油脂肪酸等の天然由来の脂肪酸のように少量の不飽和結合が含まれているものであっても、エステル化前又はエステル化後に、水素化処理等の処理によって不飽和結合の影響が出ない程度に不飽和結合の量が減じられるのであれば、(A)コンプレックスエステルの製造原料として用いられる。つまり、コンプレックスエステルの製造原料として、不飽和結合が含まれる酸を用いて製造されたコンプレックスエステルであっても、ヨウ素価が2gI2/100g以下のものは、不飽和結合がほとんど存在しないものなので、不飽和結合の存在による熱酸化安定性の低下の影響はないため、本発明のタービン油組成物に係る(A)コンプレックスエステルである。
(A)コンプレックスエステルの40℃における動粘度が、20〜100mm2/sであり、且つ、流動点が−40℃以下であれば、多価アルコール残基、直鎖飽和脂肪酸残基及び直鎖飽和ポリカルボン酸残基の種類及び比率や、(A)コンプレックスエステルの分子量は、特に限定されない。また、(A)コンプレックスエステルの40℃における動粘度が、20〜100mm2/sであり、且つ、流動点が−40℃以下になるのであれば、(A)コンプレックスエステルの製造の反応条件やプロセスの種類は、特に限定されない。
(A)コンプレックスエステルの40℃における動粘度は、20〜100mm2/s、好ましくは30〜80mm2/s、特に好ましくは32〜68mm2/sである。コンプレックスエステルの40℃における動粘度が20mm2/s未満だと、添加剤を配合してタービン油組成物を調製したときの粘度が低くなり過ぎるので、充分な油膜を保持できない。また、コンプレックスエステルの40℃における動粘度が100mm2/sを超えると、添加剤を配合してタービン油を調製したときの粘度が高くなり過ぎるので、流動抵抗や撹拌抵抗が大きくなって動力の損失や、タービン軸受メタルの温度上昇などが起こる。
(A)コンプレックスエステルの流動点は、−40℃以下、好ましくは−45℃以下である。コンプレックスエステルの流動点が−40℃より高いと、添加剤を配合してタービン油組成物を調製したときの流動点が高くなり、低温時に流動抵抗や撹拌抵抗が大きくなって動力の損失や、タービン軸受メタルの温度上昇などが起こる。
(A)コンプレックスエステルのヨウ素価は、好ましくは2gI2/100g以下、特に好ましくは1gI2/100g以下である。コンプレックスエステルのヨウ素価が上記範囲にあることにより、熱酸化安定性が高くなる。
(A)コンプレックスエステルの酸価は、好ましくは5mgKOH/g以下、特に好ましくは3mgKOH/g以下、更に好ましくは1mgKOH/g以下である。コンプレックスエステルの酸価が上記範囲にあることにより、抗乳化性が高くなり、また、軸受等の金属材料の腐食の原因が少なくなる。
本発明のタービン油おいて、基油分中の(A)コンプレックスエステルの含有割合(((A)の含有量/全基油分量)×100)は、60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90%質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。なお、生分解性が良好となり且つタービン油として各種性能が良好になるという点で、(A)コンプレックスエステル以外の基油の含有量は少ない方が好ましく、基油分中の(A)コンプレックスエステルの含有割合が100質量%であることがより好ましい。
本発明のタービン油組成物は、基油分として、(A)コンプレックスエステル以外の基油を含有することができる。このような(A)コンプレックスエステル以外の基油としては、以下に述べる第二基油が挙げられる。第二基油としては、タービン油組成物の生分解性及び熱酸化安定性を損なわないものであれば、特に制限されない。第二基油としては、例えば、直鎖アルキル基を有する飽和型のエステル基油、ポリグリコールなどが挙げられる。エステル基油としては、例えば、直鎖飽和脂肪酸と直鎖飽和1価アルコールとからなるモノエステル、直鎖飽和脂肪酸と直鎖飽和2価アルコールとからなるジエステル、直鎖飽和ジカルボン酸と直鎖飽和1価アルコールとからなるジエステル、直鎖飽和脂肪酸とポリオールとからなるポリオールエステルなどが挙げられる。またポリグリコールとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドが挙げられる。
第二基油は、タービン油組成物の生分解性及び熱酸化安定性を損なわないものであれば、特に制限されない。第二基油としては、生分解性を有するもの、すなわち、OECD 301B、301C、301F、又はASTM D5864、D6731のうち、いずれか一つの試験法において、28日以内の生分解度が40%以上であるものが好ましい。また、第二基油としては、ヨウ素価が5gI2/100g以下のものが好ましい。また、第二基油としては、酸価が5mgKOH/g以下であるものが好ましい。
本発明のタービン油組成物に係る(B)酸化防止剤は、主に(A)コンプレックスエステル基油の酸化劣化を防止するために用いられる。(B)酸化防止剤としては、それ自身がスラッジ化することが少ない点で、無灰型酸化防止剤が好ましい。無灰型酸化防止剤は、ラジカルを吸収する連鎖停止剤であって、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキル化芳香族類、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、亜リン酸エステル類等が挙げられ、これらのうち、フェノール系、アミン系が好ましく、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系が特に好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、具体的な例としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−メチルフェノール、2,6−ジ−メチル−4−エチルフェノール、2,4−ジ−メチル−6−t−ブチル−フェノール等の単環フェノール類;4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−エチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、6,6’−メチレンビス(2−ジ−t−ブチル―4―メチルフェノール)等のビスフェノール類;4,4’チオビス−(2,6−ジ−t−ブチル−フェノール)、4,4’チオビス−(2−メチル−6−t−ブチル−フェノール)等の硫黄含有フェノール類;下記一般式(1)で表されるエステル基含有フェノール類;下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される硫黄及びエステル基含有フェノール類などが挙げられる。
一般式(1):
(式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R3は炭素数1〜18のアルキレン基であり、R4は炭素数1〜20のアルキル基であり、nは1〜4の整数である。)
一般式(2):
(式(2)中、R5は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R6は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R7は炭素数1〜18のアルキレン基であり、A1は硫黄原子又は炭素数1〜20のサルファイド基であり、nは1〜4の整数である。)
一般式(3):
(式(3)中、R8は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R9は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、R10は炭素数1〜20のアルキル基であり、A2は硫黄原子又は炭素数1〜20のサルファイド基であり、nは1〜4の整数である。)
これらのうち、フェノール系酸化防止剤としては、単環フェノール類、ビスフェノール類、又はエステル基含有フェノール類が好ましい。エステル基含有フェノール類の場合、一般式(1)において、R1及びR2は炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、イソアルキル基が特に好ましく、t−ブチル基が更に好ましい。一般式(1)中、R1及びR2が共に水素原子であるものは、ラジカルを補足した場合に安定化され難いので好ましくない。また、R3は炭素数1〜18のアルキレン基が好ましい。R3の炭素数が18より大きいと溶解性が劣る。また、R4は炭素数1〜18のアルキル基が好ましい。R4の酸素数が18より大きいと溶解性が劣る。また、nは1又は2が好ましい。nが4より大きいと油溶性が低くなる。
フェノール系酸化防止剤は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
本発明のタービン油組成物中のフェノール系酸化防止剤の含有量は、組成物全量に対し、好ましくは0.01〜3質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%である。タービン油組成物中のフェノール系酸化防止剤の含有量が、上記範囲未満だと酸化防止効果が小さくなり易く、また、上記範囲を超えると効果の向上が期待できない上、スラッジの発生原因になったり、生分解性が低くなり易い。
アミン系酸化防止剤としては、具体的な例としては、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類;下記一般式(4)で表されるアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン類;N,N−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン類;フェノチアジンなどの芳香族硫黄含有アミン系化合物等が挙げられ、これらはアミノ基が芳香族類やt−ブチル基等で遮蔽されたヒンダードアミン類である。
一般式(4):
(式(4)中、R11は水素原子又は炭素数1〜24のアルキル基であり、R12は水素原子又は炭素数1〜24のアルキル基である。)
これらのアミン系酸化防止剤のうち、ナフチルアミン類、ジフェニルアミン類又はフェニレンジアミン類が好ましく、ジフェニルアミン類が特に好ましい。ジフェニルアミン類の場合は、式(4)において、R11及びR12は、いずれも炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましく、いずれも炭素数1〜12のアルキル基であることが特に好ましい。R11又はR12の炭素数が24より大きいと流動性が低くなる。また、R11及びR12は、分岐鎖を有するアルキル基を含むことがより好ましい。
アミン系酸化防止剤は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
本発明のタービン油組成物中のアミン系酸化防止剤の含有量は、組成物全量に対し、好ましくは0.01〜3質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%である。本発明のタービン油組成物中のアミン系酸化防止剤の含有量が上記範囲未満だと、酸化防止効果が小さくなり易く、また、上記範囲を超えると、効果の向上が期待できない上、スラッジの発生原因になったり、生分解性が低くなり易い。
(B)酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤又はアミン系酸化防止剤のいずれかであってもよいし、両者の組み合わせであってもよい。(B)酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤を組み合わせる場合、両者の比率は、フェノール系:アミン系が、含有量比で、10:1〜1:10が好ましく、5:1〜1:5が特に好ましく、3:1〜1:3が特に好ましい。
また、(B)酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤以外の酸化防止剤、例えば、アルキル化芳香族類、亜リン酸エステル類等であってよい。本発明のタービン油組成物中の(B)酸化防止剤の含有量は、組成物全量に対し、好ましくは0.01〜3質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%である。
本発明のタービン油組成物は、(A)コンプレックスエステル及び(B)酸化防止剤に加え、更に、(C)抗乳化剤、(D)さび止め剤及び(E)腐食防止剤を含有することができる。
(C)抗乳化剤は、界面活性剤が主成分である。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、ポリアルキレングリコールが好ましい。主成分であるポリアルキレングリコールとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール又はブチレングリコールをモノマーとし、これらを単独で重合させたホモポリマーや、これらを組み合わせて重合させたコポリマーが挙げられる。ホモポリマーとコポリマーは、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。そして、ノニオン系界面活性剤としては、コポリマーが好ましく、エチレングリコールとプロピレングリコールを組み合わせて重合させたエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドコポリマ−が特に好ましい。界面活性剤の分子量は、100〜20,000が好ましく、1,000〜15,000が特に好ましい。主成分であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドコポリマ−の場合、エチレンオキサイド:プロピレンオキサイドの比率は、モル比で、20:1〜1:10が好ましく、10:1〜1:5が特に好ましい。
本発明のタービン油組成物中の(C)抗乳化剤の含有量は、組成物全量に対し、好ましくは0.001〜0.2質量%、特に好ましくは0.005〜0.1質量%である。本発明のタービン油組成物中の(C)抗乳化剤の含有量が上記範囲未満だと効果が小さくなり易く、また、上記範囲を超えると効果の向上が期待できない上、乳化を促進する可能性がある。
(D)さび止め剤は、鉄系の材料が用いられる箇所のさびを防止する目的で含有される油溶性のさび止め剤である。さび止め剤は、油溶性を担うアルキル基と、金属面に吸着する官能基を有する構造を持つ。このような油溶性のさび止め剤としては、具体的には、スルホネート金属塩やナフテン酸金属塩などの金属石けん、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体、ラノリン化合物、ソルビタンモノオレエートやペンタエリスリトールモノオレエートなどの界面活性剤、ワックスや酸化ワックス、ペトロラタム、N−オレイルザルコシン、ロジンアミン、ドデシルアミンやオクタデシルアミン等のアルキル化アミン系化合物、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、フォスファイト等のリン系化合物等が挙げられ、これらのうち、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体、界面活性剤、アルキル化アミン系化合物が好ましく、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体が特に好ましく、アルケニルコハク酸ハーフエステルが更に好ましい。アルケニルコハク酸ハーフエステルは、酸価が100mgKOH/g以上のものが好ましい。これらのさび止め剤は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
本発明のタービン油組成物中の(D)さび止め剤の含有量は、組成物全量に対し、好ましくは0.001〜1質量%、特に好ましくは0.01〜0.5質量%である。本発明のタービン油組成物中の(D)さび止め剤の含有量が上記範囲未満だと効果が小さくなり易く、また、上記範囲を超えると効果の向上が期待できない上、スラッジの原因になったり、生分解性が低くなり易くなる。
(E)腐食防止剤は、主として非鉄金属材料、中でも銅系、鉛系の材料が用いられる箇所の腐食を防止する目的で添加されるものであり、金属不活性化剤とも呼ばれ、金属の触媒作用を抑えるので間接的に酸化防止剤としても機能している。(E)腐食防止剤は、金属表面上で被膜を形成することで腐食防止効果を発現する化合物であり、具体的な例としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、インダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、インドール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体等が挙げられ、これらのうち、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体が好ましい。また、(E)腐食防止剤のうち、ベンゾトリアゾール等の油溶性が低いものについては、脂肪酸やアミン系化合物、鉱油等により溶解させた混合物として用いられてもよい。これらの(E)腐食防止剤は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
本発明のタービン油組成物中の(E)腐食防止剤の含有量は、組成物全量に対し、好ましくは0.001〜0.5質量%、特に好ましくは0.01〜0.2質量%である。本発明のタービン油組成物中の(E)腐食防止剤の含有量が上記範囲未満だと効果が小さく、また、上記範囲を超えると効果の向上が期待できない上、スラッジの原因になったり、生分解性が低くなり易くなる。
本発明のタービン油組成物が、(B)、(C)、(D)及び(E)を含有する場合、本発明のタービン油組成物中の(B)、(C)、(D)及び(E)の合計含有量は、組成物全量に対して、好ましくは0.1〜5質量%、特に好ましくは0.5〜3質量%である。本発明のタービン油組成物中の(B)、(C)、(D)及び(E)の合計含有量が上記範囲未満だと、熱酸化安定性や腐食防止性などのタービン油としての性能が低くなり易く、また、上記範囲を超えると生分解性が低くなったり、スラッジの発生原因となり易くなる。
本発明のタービン油組成物の40℃動粘度は、好ましくは20〜100mm2/s、特に好ましくは32〜68mm2/s、更に好ましくは41.4〜50.6mm2/sである。41.4〜50.6mm2/sの40℃動粘度は、脂肪酸エステル系のタービン油組成物としては一般的な動粘度であるが、該動粘度の範囲で脂肪酸エステル系のタービン油組成物を調製しようとすると、前述の通り、従来のポリオールエステル系のタービン油では、生分解性、熱酸化安定性及び低流動点の全てを優れたものにすることが難しかったが、本発明によればこれを容易に達成することができる。
本発明のタービン油組成物は、前記(A)〜(E)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を適量含有することができる。その他に含有される基油としては、例えば、灯油留分、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油等の鉱油系基油、ポリ−α―オレフィンやオレフィン−コポリマー、ポリブテン等のオレフィン系基油、ポリアルキレングリコール等のグリコール系基油、フェニルエーテル系基油等が挙げられる。また、その他に含有される添加剤としては、例えば、通常の潤滑油組成物に用いられる成分で、清浄剤、分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、消泡剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、極圧剤、油性剤、界面活性剤等が挙げられる。具体的には、清浄剤として、スルホネート、フェネート、サリシレート等、分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸イミドのホウ素化合物誘導体等、流動点降下剤として、ポリメタクリレート等、粘度指数向上剤として、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー等が挙げられる。また消泡剤としては、ジメチルシリコーンやフッ素変性シリコーン等のシリコーン系消泡剤、ポリアクリレートなどのエステル系消泡剤などが挙げられる。摩耗防止剤、極圧剤としては、ZnDTP、リン酸エステルなどが挙げられる。摩擦調整剤としては、脂肪酸、酸性リン酸エステル及びそれらのアミン塩、有機モリブデン化合物、多価アルコールハーフエステル、アミド化合物、などが挙げられる。界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸Naなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
本発明のタービン油組成物が、上記その他の添加剤を含有する場合、生分解性を低下させないことと、スラッジの発生等を防止する観点から、その他の添加剤としては、無灰型の添加剤が好ましい。消泡剤としては、ジメチルシリコーンが好ましい。消泡剤としては、25℃の動粘度が500〜100,000mm2/sのものが好ましく、1000〜50,000mm2/sのものが特に好ましい。消泡剤の含有量は、組成物全量に対して、好ましくは1〜50ppm、特に好ましくは2〜30ppmである。消泡剤の含有量が上記範囲未満だと効果が小さく、また、上記範囲を超えると凝集及び沈降し易くなる。また、本発明のタービン油組成物が、その他の添加剤を含有する場合は、(B)、(C)、(D)及び(E)成分と合わせた合計含有量が、10質量%を超えると、生分解性が低くなり易くなる。
以下に、実施例および比較例によりさらに具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例のタービン油で用いた各エステル基油の原料及び物性を表1に示す。なお、それぞれの性状試験は以下の試験法に基づき実施した。
・動粘度:JIS K 2283「動粘度試験方法」
・粘度指数:JIS K 2283「粘度指数算出方法」
・引火点:JIS K 2265−4「引火点試験方法(クリーブランド開放法)」
・流動点:JIS K 2269「流動点試験方法」
・酸価:JIS K 2501「中和価試験方法」
・ヨウ素価:JIS K 0070「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」
表1に示すエステル基油と、以下に示す(B)〜(E)成分である添加剤を、表2に示す割合で配合し、生分解性タービン油組成物を調製した。
(B)酸化防止剤
<アミン系酸化防止剤>
・アミン系−1:アルキル化ジフェニルアミン、一般式(4)においてR11とR12が炭素数4と8の混合物であるもの。
・アミン系−2:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物
<フェノール系酸化防止剤>
・フェノール系−1:イソオクチル− 3 − (3 , 5 − ジ− t− ブチル− 4 − ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト、一般式(1)においてR1、R2がともにt− ブチル基であり、R3がエチレン基であり、R4がイソオクチル基であり、nが1であるもの。
・フェノール系−2:DBPC(ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールの別名)
(C)抗乳化剤:主成分が(エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド)コポリマー、分子量が5000〜8000の間にあるもの。
(D)さび止め剤:アルケニルコハク酸ハーフエステル、酸価=175mgKOH/g
(E)腐食防止剤:ベンゾトリアゾール
その他の添加剤:消泡剤
表2に、それぞれの配合により調整した生分解性タービン油組成物の一般性状及び組成物としての生分解性試験を行った結果を示す。
・生分解性:エコマーク認定基準「生分解性潤滑油Version2.4」において指定される、OECD301B法で、試験期間を28日間として実施した。該基準に基づき28日間の試験で60%以上である場合には合格、60%未満の場合を不合格とした。
・ASTM色:JIS K 2580 「ASTM色試験方法」
実施例1〜4に示す通り、コンプレックスエステルA〜Cを基油として調製したタービン油組成物は、生分解率が全て70%以上と高く、財団法人 日本環境協会が指定する「生分解性潤滑油Version2.4」における、エコマーク認定基準である生分解率60%以上の基準を達成している。実施例1〜4は全て、40℃動粘度が20〜100mm2/sの間にあり、流動点が−50℃以下と低く、酸価も1mgKOH/gと低く、タービン油として良好な特性を有している。
比較例1は、ポリオールエステルD及びEを基油として用いており、該ポリオールエステルを構成する脂肪酸が直鎖であることから比較例1の生分解率は82%と高いが、該ポリオールエステルを構成する脂肪酸は不飽和結合を有することで流動性を向上させてはいるものの比較例1は流動点が−37.5℃となお高い。また、比較例2は、ポリオールエステルFを基油として用いており、該ポリオールエステルを構成する脂肪酸は分岐鎖を有することで−40℃の低い流動点を有するが、その分岐鎖の影響により生分解率が39%と低い。また、比較例3は市販の鉱油を基油とするタービン油であるが、流動点が−30.0℃と高い。
実施例1〜4と、比較例1〜3のタービン油組成物について、性能試験を行った結果を表3及び表4に示す。なお、タービン油組成物の性能については、以下の性能試験により把握することができる。
・静置熱安定性試験:試料を40mlのサンプル瓶に取り、120℃の回転盤付き恒温槽内で所定の時間(336h、1000h)静置し、試験後の色、酸価、動粘度、スラッジ発生量を測定した。スラッジを採取する際のフィルターは、孔径0.8μmのメンブレンフィルターを用いた。
・腐食酸化安定度試験:JIS K 2503「腐食酸化安定度試験方法」の修正法にて実施した。試験装置、温度、時間、空気吹き込み量等については試験法に準拠し、金属試験片については、タービン軸受等に用いられる事が多い材料で、WJ2(ホワイトメタル)、BC2(青銅)、C1100P(銅)、S45C(鋼)、SF45(炭素鋼鍛鋼)を用いた。
・加水分解安定性試験:ASTM D 2619−95「Standard Test Method for Hydrolytic Stability of Hydraulic Fluids(Beverage Bottle Method)」の修正法にて実施した。試験装置、温度等については試験法に準拠し、試料量と水分の割合及び試験時間については、長期使用における水分混入による影響度を模擬するため、試料100gに対し水分2000ppm、試験時間については240時間の条件で試験を行った。
・抗乳化性試験 :JIS K 2520 「抗乳化性試験方法」
・酸化安定度試験 :JIS K 2514 「回転ボンベ式酸化安定度試験方法」
・泡立ち試験 :JIS K 2518 「泡立ち試験方法」
コンプレックスエステルA〜Cと、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を組み合わせた実施例1〜4は全て、120℃の静置熱安定性試験において、色変化、スラッジ量、動粘度増加、酸価変化のいずれの項目も少なく、熱安定性が非常に高い。また、腐食酸化安定度試験においても、試料の性状変化が少なく、それと同時に、試験片の質量変化が無く、試験片の外観変化も非常に小さく、金属材料に対しての影響が非常に小さいことがわかる。また、実施例2、3、4の結果から、加水分解安定性試験においても、酸価増加や銅板変色の値が小さく、加水分解に対しても良好な性能を有していることがわかる。さらに、酸化安定度試験でも、圧力降下時間が800min以上と長く、抗乳化性や泡立ち性能についても良好な性能を有していることがわかる。
そして、これらの実施例はいずれも市販の鉱油系タービン油と比較し、いずれの基本性能も同等かそれ以上の性能であることがわかる。
一方、ポリオールエステルD及びEに酸化防止剤を組み合わせた比較例1は、静置熱安定性試験において、色変化、動粘度増加、酸価増加の値が大きく、腐食酸化安定度試験における動粘度増加も大きい。また、ポリオールエステルFに酸化防止剤を組み合わせた比較例2は、静置熱安定性試験の結果は良好であるが、酸化安定度試験の圧力降下時間が短く、酸化安定性に劣ることがわかる。
実施例3及び比較例1のタービン油組成物を、水力発電所の水力発電設備のタービン油として用いて、1年の実機試験を行った。実機試験を行った水力発電設備の仕様を表5に示す。試験開始から1年経過時の試験油を採取し、性状分析を行った。その結果を表6に示す。
表6に示すように、コンプレックスエステルBと、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を組み合わせた実施例3は、実際の発電設備用タービン油として長期間使用した際にも、発電機の差異や潤滑箇所の差異によらず、動粘度変化、酸価増加ともに非常に小さい値であり、タービン油として優れた性能を有していた。一方、ポリオールエステルD及びEに酸化防止剤を組み合わせた比較例1は、実際の発電設備用タービン油として長期間使用した際の動粘度変化、酸価増加が大きかった。