以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本発明における膨張弁である温度式膨張弁12の断面図である。この温度式膨張弁12は、車両用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の一部を構成しており、図1は、温度式膨張弁12と蒸気圧縮式冷凍サイクル10の各構成機器との接続関係についても模式的に図示している。
この蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、冷媒としてフロン系冷媒(例えば、R134a)が採用されている。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界サイクルを構成している。まず、図1に示す蒸気圧縮式冷凍サイクル10において、圧縮機14は、図示しない車両走行用エンジンから電磁クラッチ等を介して駆動力を得て、冷媒を吸入して圧縮するものである。
凝縮器16は、圧縮機14から吐出された高圧冷媒と図示しない冷却ファンにより送風される外気である車室外空気とを熱交換させて、高圧冷媒を放熱させて凝縮させる放熱用熱交換器である。凝縮器16の出口側は、例えば気液を分離する不図示のレシーバを介して温度式膨張弁12に接続されている。
温度式膨張弁12は、凝縮器16から流出した高圧冷媒を減圧膨張させるとともに、蒸発器18から流出した蒸発器流出冷媒の温度と圧力とに基づいて、その蒸発器流出冷媒の過熱度が予め定めた値に近づくように絞り通路面積を変化させて、蒸発器18入口側へ流出させる冷媒流量を調整するものである。なお、温度式膨張弁12の詳細構成については後述する。
蒸発器18は、温度式膨張弁12にて減圧膨張された低圧冷媒と、図示しない送風ファンによって送風された空気とを熱交換させ、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる吸熱用熱交換器である。さらに、蒸発器18の出口側は、温度式膨張弁12の内部に形成された第2冷媒通路38を介して、圧縮機14の吸入側に接続されている。
次に、温度式膨張弁12の詳細構成について説明する。図1に示すように、温度式膨張弁12は、ボデー部30、弁機構部32、およびパワーエレメント34等を有して構成されている。
ボデー部30は、温度式膨張弁12の外殻および温度式膨張弁12内の冷媒通路等を構成するもので、例えばアルミニウム合金等から成る円柱状あるいは角柱状の金属ブロックに穴開け加工等を施して形成されている。ボデー部30は、温度式膨張弁12の外形を成すハウジングであり、ボデー部30には、第1冷媒通路36、第2冷媒通路38、および弁室40等が形成されている。
第1冷媒通路36は、流通流体である冷媒が流れる第1の流路であってその冷媒を減圧させるために設けられた流路である。第1冷媒通路36は、その一端に第1流入口361を有し、他端に第1流出口362を有している。その第1流入口361は凝縮器16の出口側に接続されており、第1流出口362は蒸発器18の入口側に接続されている。
第2冷媒通路38は、冷媒が流れる流路であって第1冷媒通路36とは別個の第2の流路である。第2冷媒通路38は、その一端に第2流出口382を有し、他端に第2流入口381を有している。その第2流入口381は蒸発器18の出口側に接続されており、第2流出口382は圧縮機14の吸入側に接続されている。
弁室40は、第1冷媒通路36の途中に設けられて、その内部に後述する弁機構部32の球状弁321が収容されている空間である。具体的には、弁室40は、第1流入口361に直接連通し、絞り通路363を介して第1流出口362に連通している。絞り通路363は第1冷媒通路36の一部を構成し、冷媒流れを細く絞ることにより冷媒を減圧させる減圧流路である。すなわち、絞り通路363は、第1流入口361から弁室40へ流入した冷媒を、減圧膨張させながら弁室40側から第1流出口362側へ導く通路である。
弁機構部32は、球状弁321とストッパ322と作動棒323と防振バネ324とコイルバネ325とを備えており、ボデー部30内に収容されている。それら球状弁321とストッパ322と作動棒323と防振バネ324とコイルバネ325とは、一軸心CL1上に配置されており、球状弁321はその一軸心CL1方向に作動する。弁機構部32は、本発明における流量調節部に対応する。
球状弁321は、一軸心CL1方向に変位することによって、絞り通路363の冷媒通路面積を調節する弁体、すなわち弁開度を調節する弁体である。また、弁室40には、球状弁321と共に、防振バネ324およびコイルバネ325が収容されている。防振バネ324は、弁室40に対し摺動することで球状弁321の不要な振動を抑えている。コイルバネ325は、防振バネ324を介して、球状弁321に対し絞り通路363を閉弁させる側に付勢する荷重をかけている。なお、図1は、弁機構部32が絞り通路363を完全に閉じた状態すなわち第1冷媒通路36の全閉状態を表示している。
また、膨張弁12は、球状弁321を絞り通路363の端部へコイルバネ325を介して押し付けるようにボデー部30に螺合された調整ネジ42を備えている。コイルバネ325が球状弁321に対し付勢する荷重は、その調整ネジ42を回転させることによって調整可能になっている。なお、調整ネジ42とボデー部30との間にはOリング421が設けられており、そのOリング421は、冷媒が弁室40から膨張弁12の外部に流れ出ることを防止している。
ストッパ322は、例えば円盤状の形状を成しており、一軸心CL1方向の一方に形成された押圧面322aにてパワーエレメント34の第2ダイヤフラム342に接触している。ストッパ322はこの押圧面322aにおいて第2ダイヤフラム342を一軸心CL1方向に押圧している。
また、作動棒323は例えば円柱状の形状を成しており、ストッパ322と球状弁321との間に介装されている。作動棒323の一端はストッパ322に接しており、作動棒323の他端は絞り通路363内に挿通されて球状弁321に突き当たっている。球状弁321、ストッパ322、および作動棒323は本発明の作動部材に対応し、一軸心CL1方向に変位することにより第1冷媒通路36の冷媒流量を増減する。
また、作動棒323が挿入されたOリング326が、止め輪327によりボデー部30に対して保持されている。そのOリング326は、第1冷媒通路36と第2冷媒通路38との間で冷媒が作動棒323とボデー部30との間の隙間を伝わって流通することを防止している。
パワーエレメント34は、ストッパ322に対して積層されストッパ322と共に、ボデー部30に形成された収容空間44内に収容されている。その収容空間44は、詳細には、ボデー部30とそのボデー部30に嵌め入れられカシメ接合された蓋部材46とによって形成されている。なお、蓋部材46とボデー部30との間にはOリング461が設けられており、そのOリング461は、冷媒が収容空間44から膨張弁12の外部に流れ出ることを防止している。パワーエレメント34は本発明における膨張部に対応する。
蓋部材46は、収容空間44の一部を構成しており、パワーエレメント34を膨張弁12外部の空間と隔てている。蓋部材46には、一軸心CL1方向においてパワーエレメント34の第1ダイヤフラム341に接触している接触面46aが形成されている。蓋部材46はこの接触面46aにおいて第1ダイヤフラム341を一軸心CL1方向に押圧している。
蓋部材46は、断熱性能の優れた材質が好ましく、例えば樹脂で構成されている。この接触面46aは、蓋部材46がボデー部30にカシメ接合されているので、一軸心CL1方向に移動不能な固定面となっている。
パワーエレメント34は、一軸心CL1方向において蓋部材46の接触面46aとストッパ322の押圧面322aとの間に挟まれており、それによって一軸心CL1方向に保持されている。パワーエレメント34は、ボデー部30により、一軸心CL1方向すなわち一軸心CL1の軸方向には拘束されていないが、一軸心CL1の径方向にはボデー部30との間にクリアランスを有してパワーエレメント34の移動が制限されている。つまり、パワーエレメント34は、そのクリアランスの範囲内で収容空間44内において径方向に移動可能となっている。
図2および図3に示すように、パワーエレメント34は、円盤状の第1ダイヤフラム341および第2ダイヤフラム342と、円環状の介装部材343と、平板で且つ円環状の第1カラー344および第2カラー345とを備えている。図2は、一軸心CL1方向から見たパワーエレメント34の平面図である。図3は、その図2のIII−III断面図である。
第1ダイヤフラム341および第2ダイヤフラム342は、薄肉のバネ部材から構成されており、一軸心CL1方向に積層されている。そして、第1ダイヤフラム341および第2ダイヤフラム342は、パワーエレメント34の内圧と収容空間44(図1参照)内の圧力との差圧に応じて、一軸心CL1方向の外側にそれぞれ膨らみ、パワーエレメント34はコイルバネ325からの押圧力に対抗する。要するに、第1ダイヤフラム341および第2ダイヤフラム342の中央部分が、その差圧に応じて変位する。なお、図1に示す収容空間44は、弁機構部32が何れのストローク位置にあっても収容空間44内の温度および圧力が第2冷媒通路38内と等しくなるように、第2冷媒通路38と連通している。
図3に示すように、介装部材343は、一軸心CL1方向において第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342との間に介装されている。そのため、パワーエレメント34には、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342と介装部材343とに囲まれて形成された閉空間34aが、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342との間に設けられている。この閉空間34aは、第2冷媒通路38の冷媒温度を感知する感温室であり、本発明における流体封入空間に対応する。
また、介装部材343は、環状の第1接触面343aを有しており、第1ダイヤフラム341が有する周縁部分341aに対しその第1接触面343aにおいて接している。その一方で、介装部材343は、第1接触面343aに対して一軸心CL1方向の反対側に環状の第2接触面343bを有しており、第2ダイヤフラム342が有する周縁部分342aに対しその第2接触面343bにおいて接している。なお、第1接触面343aは、本発明における介装部材の接触面に対応する。
また、介装部材343には、閉空間34a内へ冷媒と不活性ガスとの混合流体を導入するための流体導入路343cが形成されている。具体的には、介装部材343の径方向に貫通した細い貫通孔が流体導入路343cとして形成されている。そして、その流体導入路343cは、上記混合流体が閉空間34aへ導入された後にプラグ346によって閉塞されている。すなわち、この混合流体は、閉空間34a内に封入された封入流体である。なお、収容空間44内の温度は閉空間34a内の混合流体に伝達され、その混合流体の温度は収容空間44内の温度に一致するようになる。また、収容空間44内の圧力は、その混合流体の圧力に対する反力すなわちパワーエレメント34の内圧に対する反力となる。
第1カラー344は、第1ダイヤフラム341に対し一軸心CL1方向で介装部材343側とは反対側に配設されている。そして、第1カラー344は、第1カラー接触面344aを有しており、第1ダイヤフラム341の周縁部分341aに対しその第1カラー接触面344aにおいて接している。すなわち、第1ダイヤフラム341の周縁部分341aはその第1カラー接触面344aと介装部材343の第1接触面343aとに挟持されている。第1カラー344は本発明におけるカラーに対応し、第1カラー接触面344aは本発明におけるカラー接触面に対応する。
第2カラー345は、第2ダイヤフラム342に対し一軸心CL1方向で介装部材343側とは反対側に配設されている。そして、第2カラー345は、第2カラー接触面345aを有しており、第2ダイヤフラム342の周縁部分342aに対しその第2カラー接触面345aにおいて接している。すなわち、第2ダイヤフラム342の周縁部分342aはその第2カラー接触面345aと介装部材343の第2接触面343bとに挟持されている。
また、上記のようにして構成されたパワーエレメント34は、図3に示すように、その外形において、パワーエレメント34の中心を通り一軸心CL1に直交する仮想面FCxに対して対称的な形状を成している。
次に、図4を用いてパワーエレメント34の製造過程を説明する。図4では、(a)に示す状態から(e)示す状態にまで製造過程が順次進行する。
先ず、図4(a)に示すように、第1カラー344、第1ダイヤフラム341、介装部材343、第2ダイヤフラム342、第2カラー345が、一軸心CL1方向に順に積層される。
次に、図4(b)において、2つの矢印AR1wが示すように、第1ダイヤフラム341を挟んだ第1カラー344と介装部材343とが一軸心CL1の周方向に全周にわたって例えばレーザー溶接される。それと共に、2つの矢印AR2wが示すように、第2ダイヤフラム342を挟んだ第2カラー345と介装部材343とが一軸心CL1の周方向に全周にわたって例えばレーザー溶接される。このレーザー溶接は、気密性を有して接合するためである。
このレーザー溶接された部位は、図4および前述の図3において二点鎖線で示されている。図3から判るように、介装部材343の第1接触面343aは、その第1接触面343aの内周端343d(図6参照)よりも一軸心CL1の径方向外側で、第1ダイヤフラム341に対しレーザー溶接で接合される。また、第1カラー344は、第1カラー接触面344aの内周端344b(図6参照)よりも一軸心CL1の径方向外側で第1ダイヤフラム341に対しレーザー溶接で接合される。なお、第2ダイヤフラム342でも、第1ダイヤフラム341と同様にして、介装部材343および第2カラー345にレーザー溶接で接合される。
次に、図4(c)において矢印ARinで示すように、冷媒と不活性ガスとの混合流体が流体導入路343cから閉空間34a内に導入される。この混合流体に含まれる冷媒は、例えば気液二相の冷媒である。その冷媒は、第2冷媒通路38を流れる冷媒と異なっていても、同じであってもよい。
次に、図4(d)において矢印ARcで示すように、上記混合流体が閉空間34a内に導入された後、流体導入路343cがプラグ346によって閉塞される。そして、図4(e)において矢印ARwで示すように、プラグ346は、例えばプロジェクション溶接によって、流体導入路343cを閉塞した状態でその流体導入路343cの開口部分に接合される。このように流体導入路343cが閉塞されることにより、閉空間34aは上記混合流体が封入された流体封入空間になる。
次に、図5を用いて弁機構部32とパワーエレメント34との作動について説明する。図5は、弁機構部32が絞り通路363の冷媒通路面積を最大にした状態すなわち第1冷媒通路36の全開状態を表示している。
膨張弁12では、第2冷媒通路38を流れる冷媒の温度が上昇すると、それに伴い収容空間44内の温度およびパワーエレメント34の閉空間34a内に封入された混合流体の温度も上昇し、閉空間34aの内圧が高くなる。そして、その内圧によるパワーエレメント34の膨張力が、コイルバネ325等による反力に打ち勝てば、図5の矢印AR01のようにパワーエレメント34は一軸心CL1方向に膨張する。詳細には、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342とが、一軸心CL1方向の外側にそれぞれ膨らむ。
パワーエレメント34が矢印AR01のように膨張すると、ストッパ322および作動棒323が第2ダイヤフラム342に押されて矢印AR02のように移動する。それと共に、球状弁321が作動棒323に押されて矢印AR03のように移動する。すなわち、球状弁321が絞り通路363を開放する。そして、パワーエレメント34が球状弁321を押す荷重とコイルバネ325が球状弁321を押す荷重とのバランスにより、温度式膨張弁12の弁開度が調節される。
このとき、第1ダイヤフラム341は蓋部材46の接触面46aに押し当てられているので、第2ダイヤフラム342をその接触面46aに対して一軸心CL1方向に変位させ、それと共に、第2ダイヤフラム342は作動棒323を一軸心CL1方向に変位させる。従って、一軸心CL1方向における第1ダイヤフラム341の変形量および第2ダイヤフラム342の変形量の合計が、作動棒323のストローク量となる。すなわち、弁機構部32は、その第1ダイヤフラム341の変形量および第2ダイヤフラム342の変形量の合計に機械的に連動して第1冷媒通路36における冷媒の流量を調節する。
また、ストッパ322が矢印AR02方向に移動すると、一軸心CL1方向においてストッパ322のパワーエレメント34側とは反対側に形成されたストッパ面322bが、そのストッパ面322bに対向するボデー部30の突当て面30aに突き当たる。図5は、このストッパ面322bが突当て面30aに突き当たった状態を示しており、すなわち、第1冷媒通路36は、ストッパ面322bが突当て面30aに突き当たったときに、全開状態になる。
上述したように、本実施形態によれば、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342との間に介装部材343が介装され、それにより、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342との間に閉空間34aが形成されているので、その介装部材343の厚み等の形状に応じて閉空間34aの大きさを任意に定めることができる。従って、その閉空間34aの大きさに対し第1ダイヤフラム341及び第2ダイヤフラム342の形状に起因した制約を低減することが可能である。
また、本実施形態によれば、介装部材343の第1接触面343aは、その第1接触面343aの内周端343d(図6参照)よりも一軸心CL1の径方向外側で、第1ダイヤフラム341に対し接合されている。それと共に、第1カラー344は、第1カラー接触面344aの内周端344b(図6参照)よりも一軸心CL1の径方向外側で第1ダイヤフラム341に対しレーザー溶接で接合されている。
例えば、図3のVI部分を拡大した図6において、第1ダイヤフラム341は、一軸心CL1方向の外側へ膨らむときには、第1カラー接触面344aの内周端344bを支点として矢印ARex方向に曲がる。その一方で、第1ダイヤフラム341は、一軸心CL1方向の内側へ収縮するときには、第1接触面343aの内周端343dを支点として矢印ARcn方向に曲がる。
すなわち、第1ダイヤフラム341が変形するときには、第1ダイヤフラム341の溶接による接合部分に対してずれた位置を支点として曲がるので、第1ダイヤフラム341の変形時の応力集中箇所が上記接合部分から離れ、第1ダイヤフラム341の耐久性を向上させることができる。
また、第1ダイヤフラム341の接合構成と同様にして、第2ダイヤフラム342も介装部材343と第2カラー345とに接合されているので、第1ダイヤフラム341と同様に、第2ダイヤフラム342の耐久性も向上させることができる。
また、本実施形態によれば、介装部材343には、閉空間34a内へ冷媒と不活性ガスとの混合流体を導入するための流体導入路343cが形成されているので、その流体導入路343cに相当する連通孔を第1ダイヤフラム341にも第2ダイヤフラム342にも形成する必要がない。そのため、混合流体が漏れ出ないようにその流体導入路343cを塞ぐことが容易である。
また、本実施形態によれば、パワーエレメント34は、図3に示す仮想面FCxに対して対称的な外形形状を成しているので、一軸心CL1方向におけるパワーエレメント34の組付け方向の制約を無くすことができる。また、各ダイヤフラム341、342の部品共通化と各カラー344、345の部品共通化とを図ることが可能である。
また、本実施形態によれば、パワーエレメント34は、ボデー部30により一軸心CL1方向には拘束されておらず、第1ダイヤフラム341は一軸心CL1方向の外側に膨らむと蓋部材46の接触面46aに押し当てられるので、第1ダイヤフラム341および第2ダイヤフラム342の両方の変形量を球状弁321の作動に用いることが可能である。従って、球状弁321の作動量を十分に確保しつつパワーエレメント34の小径化を図ることが可能である。
また、本実施形態によれば、パワーエレメント34は、膨張弁12外部の空間と隔てられボデー部30内に収容されているので、膨張弁12とその膨張弁12に隣接して配置される部材等との間における防水処理や遮音処理を容易に施すことが可能である。また、パワーエレメント34の作動が膨張弁12まわりの外気温の影響を受け難いという利点がある。また、パワーエレメント34を膨張弁12外部の空間と隔てている蓋部材46が樹脂製であるので、その蓋部材46が例えば金属製である場合と比較して、更に外気温の影響を受け難い。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。また、前述の実施形態と同一または均等な部分については省略または簡略化して説明する。後述の第3実施形態以降でも同様である。
図7は、本実施形態の温度式膨張弁12の断面図である。図7に示すように、本実施形態の温度式膨張弁12では、第1実施形態の温度式膨張弁12に対してパワーエレメント34が異なっている。詳細には、本実施形態のパワーエレメント34は、第1実施形態のパワーエレメント34に対し、外形においては同じであるが、第1実施形態における第1カラー344(図3参照)と第2カラー345とが介装部材343と一体となり1つの介装部材348で構成されている点が異なっている。
図8を用いて本実施形態のパワーエレメント34の製造過程を説明する。図8では、(a)に示す状態から(g)示す状態にまで製造過程が順次進行する。
先ず、図8(a)に示すように、第1ダイヤフラム341、介装部材348、第2ダイヤフラム342が、一軸心CL1方向に順に積層される。介装部材348は、図8(a)のように、介装部348aと介装部348aから延設された第1挟持部348bと介装部348aから延設された第2挟持部348cとから構成されている。図8(a)では、第1挟持部348bは、介装部348aから一軸心CL1方向の一方に突き出た円筒形状を成しており、第1ダイヤフラム341を嵌入できる内径を有している。また、第2挟持部348cは、介装部348aから一軸心CL1方向の他方に突き出た円筒形状を成しており、第2ダイヤフラム342を嵌入できる内径を有している。
次に、図8(b)に示すように、第1ダイヤフラム341が介装部348aに当接するまで第1挟持部348bの内側に嵌入され、それと共に、第2ダイヤフラム342が介装部348aに当接するまで第2挟持部348cの内側に嵌入される。これにより、介装部348aは、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342との間に介装される。
次に、図8(c)において、2つの矢印AR1bで示すように、第1挟持部348bが径方向内側に折り曲げられる。これにより、第1挟持部348bは、第1ダイヤフラム341を介して介装部348aと対向し、その介装部348aと共に第1ダイヤフラム341を挟持する。
また、これと同様に、2つの矢印AR2bで示すように、第2挟持部348cも径方向内側に折り曲げられる。これにより、第2挟持部348cは、第2ダイヤフラム342を介して介装部348aと対向し、その介装部348aと共に第2ダイヤフラム342を挟持する。このように構成されることから、第1挟持部348bは第1実施形態の第1カラー344に相当し、第2挟持部348cは第1実施形態の第2カラー345に相当する。
次に、図8(d)から図8(g)までに示す工程が順次行われる。この図8(d)から図8(g)までに示す工程は、第1実施形態の図4(b)から図4(e)までとそれぞれ同じである。
図8(a)から図8(g)までに示す工程を経て製造されたパワーエレメント34を図9および図10に示す。図9は、一軸心CL1方向から見た本実施形態のパワーエレメント34の平面図である。図10は、その図9のX−X断面図である。
この図9および図10に示すように、本実施形態のパワーエレメント34は、外形において第1実施形態と同じものになっている。そして、本実施形態はパワーエレメント34以外では第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態によれば、介装部材348は介装部348aと第1挟持部348bと第2挟持部348cとから構成されているので、前述の第1実施形態の第1カラー344および第2カラー345が不要になる。
また、本実施形態によれば、図8(b)に示すように、第1ダイヤフラム341は第1挟持部348bの内側に嵌入されるので、第1ダイヤフラム341と介装部材348とを接合する際にその両者の位置ずれを防止し易いという利点がある。このことは第2ダイヤフラム342と介装部材348との間においても同様である。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図11は、本実施形態の温度式膨張弁12の断面図である。図11に示すように、本実施形態の温度式膨張弁12では、第1実施形態のパワーエレメント34がパワーエレメント50に置き換わっている。そして、ストッパ322の配置、及び、作動棒323の長さも、第1実施形態に対して異なっている。
具体的に、本実施形態のパワーエレメント50は、第1実施形態のパワーエレメント34に相当するものであり、そのパワーエレメント34と比較して一軸心CL1方向に長くなっている。詳細には、本実施形態のパワーエレメント50は、第1実施形態の介装部材343に替えて介装部材501を備えており、その介装部材501が介装部材343に対して長くなっている。そして、本実施形態のパワーエレメント50は、図12および図13に示すような形状を備えている。図12は、一軸心CL1方向から見た本実施形態のパワーエレメント50の平面図である。図13は、その図12のXIII−XIII断面図である。
図12および図13に示すように、パワーエレメント50は介装部材501の他に、第1実施形態と同様に、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342と第1カラー344と第2カラー345とを備えている。また、パワーエレメント50は本発明における膨張部に対応する。
介装部材501は、第1ダイヤフラム341にレーザー溶接で接合された第1接合部501aと、第2ダイヤフラム342にレーザー溶接で接合された第2接合部501bと、第1接合部501aと第2接合部501bとの間に介装され細く括れた円筒形状を成す括れ部501cとから構成されている。この括れ部501cは本発明における流路配置部に対応する。
また、図13に示すように、パワーエレメント50には、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342と介装部材501とに囲まれて形成された閉空間50aが、第1実施形態の閉空間34aと同様に形成されている。この閉空間50aは、その閉空間34aと同様に、前述の混合流体が封入された流体封入空間である。そして、その混合流体を閉空間50a内へ導入するための流体導入路343cは、第2接合部501bに形成されており、第1実施形態と同様に、混合流体が閉空間50aへ導入された後にプラグ346によって閉塞されている。
また、図11に示すように、パワーエレメント50は、介装部材501の括れ部501cが第2冷媒通路38の冷媒流れを横切って第2冷媒通路38内に位置するように配設されている。これにより、第2冷媒通路38を流れる冷媒がパワーエレメント50に直接接触しつつ下流へ流れるので、パワーエレメント50を第2冷媒通路38の冷媒温度に応じて、第1実施形態よりも精度良く作動させることが可能である。
また、図13に示すように、パワーエレメント50は、第1実施形態のパワーエレメント34と同様に、パワーエレメント50の外形において、仮想面FCxに対し対称的な形状を成している。この対称的な形状とは、厳密なものではなく大凡の対称形を意味し、パワーエレメント50は、例えば微細なプラグ346の有無に関わらず対称的な形状である。
なお、本実施形態を前述の第2実施形態と組み合わせることも可能である。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第3実施形態と異なる点を主として説明する。
図14は、本実施形態の温度式膨張弁12の断面図である。図14に示すように、本実施形態の温度式膨張弁12では、第3実施形態の温度式膨張弁12に対してパワーエレメント50が異なっている。本実施形態のパワーエレメント50を一軸心CL1方向から見た平面図は、第3実施形態と同じ図12であり、本実施形態では、その図12のXIII−XIII断面図が図13ではなく図15となっている。
図14及び図15に示すように、具体的に、本実施形態のパワーエレメント50は、第3実施形態と比較して、更に吸着材502と一対の保持部材503とを備えている。
吸着材502は、閉空間50a内に封入された冷媒を吸着材502の温度に応じて吸着し或いは放出する。吸着材502は、例えば熱伝導性が介装部材501と比較して悪い活性炭等で構成されている。吸着材502は、パワーエレメント50の閉空間50a内で括れ部501cに属する部位に設けられている。そして、吸着材502の配置位置は、吸着材502が一対の保持部材503によって一軸心CL1方向に挟まれることにより保持されている。保持部材503は通気性を有する部材であり、例えば金属メッシュまたはフィルタ等で構成されている。
本実施形態によれば、パワーエレメント50内に吸着材502が設けられているので、第2冷媒通路38を流れる冷媒の温度変化に対するパワーエレメント50の作動応答性を鈍くし、パワーエレメント50の過敏な作動を抑えることができる。
なお、本実施形態を前述の第2実施形態と組み合わせることも可能である。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第3実施形態と異なる点を主として説明する。
図16は、本実施形態の温度式膨張弁12の断面図である。図16に示すように、本実施形態の温度式膨張弁12では、第3実施形態の温度式膨張弁12に対してパワーエレメント50が異なっている。本実施形態のパワーエレメント50を一軸心CL1方向から見た平面図は、第3実施形態と同じ図12であり、本実施形態では、その図12のXIII−XIII断面図が図13ではなく図17となっている。
図16及び図17に示すように、具体的に、本実施形態のパワーエレメント50は、第3実施形態と比較して、更に壁部材504を備えている。
壁部材504は、金属製である介装部材501よりも熱伝導率の低い材質例えば樹脂で構成されており、円筒状に成形されている。そして、円筒状の括れ部501c内に嵌入されている。そのため、括れ部501cの内周面501dは壁部材504で覆われている。
本実施形態によれば、括れ部501cの内周面501dは熱伝導率の低い壁部材504で覆われているので、前述の第4実施形態と同様に、パワーエレメント50の過敏な作動を抑えることができる。
なお、本実施形態を前述の第2、4実施形態のうちの何れかと組み合わせることも可能である。
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図18は、本実施形態の温度式膨張弁12の断面図である。図18に示すように、本実施形態の温度式膨張弁12では、第1実施形態の温度式膨張弁12に対してパワーエレメント34が異なっている。詳細に言えば、第1カラー344及び第2カラー345が第1実施形態に対して異なっている。図18に示すパワーエレメント34の詳細図が図19および図20に表されている。図19は、本実施形態のパワーエレメント34を一軸心CL1方向から見た平面図であり、図20は、その図19のXX−XX断面図である。
図19および図20に示すように、第1カラー344は、第1ダイヤフラム341の周縁部分341aを介装部材343との間に挟んで固定しているダイヤフラム押え部344cと、そのダイヤフラム押え部344cから径方向内側に延設された延設部344dとを備えている。この延設部344dは本発明の制限部に対応する。
図20から判るように、ダイヤフラム押え部344cは第1実施形態の第1カラー344の全体に相当するので、本実施形態の第1カラー344は、第1実施形態の第1カラー344に延設部344dが加えられたものとなっている。
図19および図20に示すように、延設部344dの中心部分には、第1ダイヤフラム341が蓋部材46の接触面46a(図18参照)と接触することを妨げないように形成された貫通孔344eが形成されている。
第1カラー344の延設部344dは、第1ダイヤフラム341がある程度膨らむと第1ダイヤフラム341に接触するように配置されている。そして、第1ダイヤフラム341は、延設部344dに接触するまで膨らむと、その接触した状態以上には膨らまないように延設部344dによって制限される。
すなわち、延設部344dは、第1ダイヤフラム341が膨らむように変形することを制限する機能を備えている。そのため、第1ダイヤフラム341の変形を耐久性が損なわれないように抑えることができる。例えば、パワーエレメント34の製造過程において、パワーエレメント34が単体で存在する場合には、第1ダイヤフラム341の変形が蓋部材46およびストッパ322によって抑えられることがないので、延設部344dは、そのような場合に特に有効である。
また、図20に示すように、第2カラー345も上述した第1カラー344と同様である。すなわち、第2カラー345は、第1カラー344のダイヤフラム押え部344cに相当するダイヤフラム押え部345cと、第1カラー344の延設部344dに相当する延設部345dとを備えている。そして、第2カラー345の延設部345dには、第1カラー344の貫通孔344eに相当する貫通孔345eが形成されている。
なお、本実施形態を前述の第3〜5実施形態のうちの何れかと組み合わせることも可能である。
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図21は、本実施形態の温度式膨張弁12の断面図である。図21に示すように、本実施形態の温度式膨張弁12は、第1実施形態と同じパワーエレメント34を1つではなく2つ備えている点が第1実施形態と異なっている。
図21に示すように、2つのパワーエレメント34は互いに接するようにして、一軸心CL1方向に積層されて収容空間44内に設けられている。詳細には、その2つのパワーエレメント34は、一軸心CL1方向において、蓋部材46の接触面46aとストッパ322の押圧面322aとの間に介装されている。
本実施形態によれば、パワーエレメント34が一軸心CL1方向に積層されて複数設けられているので、前述の第1実施形態に対し、第2冷媒通路38を流れる冷媒の温度変化に対する作動棒323のストローク量が大きくなり、更にパワーエレメント34の小径化を図り易くなる。
なお、本実施形態を前述の第2〜6実施形態のうちの何れかと組み合わせることも可能である。
(他の実施形態)
(1)上述の第4実施形態の図17において、壁部材504は、括れ部501cの内周面501dを覆っているが、その内周面501dに加えて或いは内周面501dに替えて、括れ部501cの外周面501eを覆っていても差し支えない。
(2)上述の各実施形態において、流体導入路343cは、介装部材343、501に形成されているが、他の部材に形成されていても差し支えない。
(3)上述の各実施形態において、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342とがそれぞれ介装部材343、501に全周溶接されることによりパワーエレメント34、50の気密性が確保されているが、パワーエレメント34、50の気密性が確保されれば、第1ダイヤフラム341と第2ダイヤフラム342とがそれぞれ、溶接以外の方法によって介装部材343、501に接合されていても差し支えない。
(4)上述の各実施形態において、パワーエレメント34、50は仮想面FCxに対して対称的な外形形状を成しているが、対称的な外形形状でなくても差し支えない。
(5)上述の各実施形態において、膨張弁12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の一部を構成しているが、他の用途に用いられても差し支えない。
(6)上述の各実施形態において、膨張弁12は、パワーエレメント34、50が第2冷媒通路38の冷媒温度に応じて膨張するように構成されているが、その第2冷媒通路38の冷媒温度以外の他の温度によってパワーエレメント34、50が膨張するように構成されていても差し支えない。
(7)上述の各実施形態において、第2冷媒通路38には、第1冷媒通路36と同じ流体である冷媒が流れるが、第2冷媒通路38には、第1冷媒通路36を流れる流体とは異なる流体が流れても差し支えない。
(8)上述の各実施形態において、パワーエレメント34、50に形成された閉空間34a、50aは単一の空間となっているが、互いに独立した複数の空間に仕切られていていても差し支えない。
(9)上述の各実施形態において、パワーエレメント34、50の閉空間34a、50aに封入されている封入流体は、冷媒と不活性ガスとが混合された混合流体であるが、冷媒だけであっても差し支えない。更に言えば、その封入流体は、温度上昇に従って体積膨張する流体であれば特に限定はない。
(10)上述の第1実施形態の図1において、膨張弁12が有する2つのダイヤフラムのうち、蓋部材46側を第1ダイヤフラム341と呼びストッパ322側を第2ダイヤフラム342と呼んでいるが、逆に、蓋部材46側を第2ダイヤフラム342と呼びストッパ322側を第1ダイヤフラム341と呼んでも差し支えない。
(11)上述の第7実施形態では、第1実施形態のパワーエレメント34が一軸心CL1方向に2つ積層されているが、例えば第3実施形態のパワーエレメント50が一軸心CL1方向に2つ積層されていても差し支えない。また、そのパワーエレメント34、50の積層数は3つ以上であってもよい。また、その積層されている複数のパワーエレメントが互いに異なる形状であっても差し支えない。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。