ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等に幅広く利用されている。しかしながら、繊維が様々な用途で使用される現在において、その必要となる特性も多様なものとなり、その要求に応えるために、繊維の断面形態を制御して、風合い、嵩高性などといった感性的効果を付与する技術が提案されている。中でも、“繊維の極細化”は、繊維自体の特性や布帛とした後の特性に対する効果が大きく、繊維の断面形態制御という観点で、主流技術の一つである。
繊維の極細化には、単独紡糸を利用した場合、その紡糸条件を高精密に制御しても、得られる繊維の径は数μm程度とすることが限界であり、一般には、複合紡糸を利用して、海島繊維から極細繊維を発生させる方法が採用されてきた。この場合、繊維断面において、易溶解成分からなる海成分に難溶解成分からなる島成分を複数配置しておき、繊維あるいは繊維製品とした後に、海成分を除去することで、島成分からなる極細繊維を発生させるものである。この海島紡糸技術を追求することで、ナノオーダーの極限的な細さを有した極細繊維(ナノファイバー)を採取することも可能になってきた。
単繊維径が数百nmになると、一般の数十μmオーダーの繊維やミクロンオーダーの極細繊維(マイクロファイバー)では得ることができない独特の柔軟なタッチやきめ細やかさが生まれる。このため、人工皮革や新触感テキスタイル、また、繊維間隔の緻密さを利用し、防風性や撥水性を必要とするスポーツ衣料にも利用することができる。また、ナノファイバーは、細かい溝へ入り込み、かつ比表面積の増大や微細な繊維間空隙に汚れが捕捉する性能が極めて高く、この特性を利用して、精密機器などのワイピングクロスや精密研磨布等の産業資材用途でも利用されている。
以上のように、繊維の極細化を追求することで、優れた性能を発現するナノファイバーであるが、前述した性能の向上に反して、布帛の“張り”や“腰”といった力学特性が低下するという課題がある。これは、材料力学の観点から考えると、単純に繊維径の縮小化に伴い、繊維径の4乗に比例して断面2次モーメント(材料の剛性)が低下するためであり、単独のナノファイバーを繊維製品として利用できる用途は限られたものであった。
このような繊維の極細化に伴う課題に対し、特許文献1では、沸水収縮率が異なる2種類の繊維からなる混繊糸において、平均繊維径が50〜1500nmの極細繊維(ナノファイバー)を発生し得る海島繊維と単糸繊維繊度が1.0〜8.0dtex(2700〜9600nm程度)の一般的な繊維とを後混繊して利用する技術が提案されている。
確かに、特許文献1の技術においては、布帛とした場合の力学特性(例えば、張りや腰)を繊維径が大きい繊維が担うこととなり、布帛の力学特性を向上できる可能性がある。
しかしながら、特許文献1の技術では、繊維径が大きい繊維と海島繊維との混繊糸とし、この混繊糸を織編した後に、脱海処理を施すため、布帛の断面方向や平面方向で、ナノファイバーの存在数に大きく偏りが生じるものであった。この結果、特許文献1から得られる布帛では、部分的に力学特性(張り、腰など)や吸水性が異なることとなり、衣料用途に利用するには、課題があるものであり、特に、直接人肌に触れるような裏地用途では、ナノファイバーの独特の風合いも手伝って、なんともいえない不快な感覚を引き起こす場合があった。さらに、これらの布帛においては、当然表面特性に関しても、部分的に変動するものであり、高度な均質性が要求される高精度研磨やワイピングクロス用途に適用することは、大変困難なことであった。これは、布帛にした際の擬似的な拘束状態において、海島繊維(極細繊維の群)とその他の繊維が別々に混在する状態を一旦経由するために生じるものであり、後混繊を利用する場合には致し方のないことである。
以上のような後混繊の利用による極細繊維の偏りを予防するという観点では、特許文献2および特許文献3のように、予め海島繊維の断面において、繊維径(島径)が小さいものと大きいものとを混在するような海島繊維とし、この海島繊維を織編することで布帛とした後、脱海する方法が考えられる。
特許文献2では、海島繊維の断面において、外側に1.8デニール(13000nm)以上、内側に1デニール(10000nm)以下であり、かつ外側の繊維が内側の繊維と比較して繊度が3倍以上となる異デニール複合繊維に関する技術が提案されている。
特許文献2の技術では、脱海後に外側に繊維径が大きい繊維、内側に繊維径が小さい繊維が配置されていることとなり、混繊糸の断面においては、擬似的な多孔構造を形成させることができる。この多孔構造による毛細管現象を利用すれば、混繊糸の表面に存在する水分の移動が速やかに行われるため、この混繊糸からなる布帛は、快適なテキスタイルとして、利用できる可能性がある。
特許文献2の技術では、混繊糸の表面付近に存在する水分を混繊糸の内部に取り込む(吸収する)ものであり、初期においては衣服内の湿度を一端低くできるものの、高温多湿の雰囲気下では、混繊糸内部に水分が溜まっていくこととなる。このため、最終的には、衣服全体が湿気を帯び、じっとりとした不快感を奏でることとなる。また、その実施例を参照すると、断面の外側に繊維径が大きい繊維が存在するために、完全脱海、すなわち内部の海成分を除去(溶出)するためには、90℃に加熱した5.0wt%NaOH水溶液にて長時間処理する必要が生じ、残り成分の劣化を無視することができなくなる。特許文献2の技術においては、実質的に繊維径が大きい繊維(マイクロファイバー以上)を利用する技術であるため、残り成分の劣化を考慮していないが、ナノファイバーを利用するには、その比表面積の増大により、残り成分の劣化は、深刻なものとなり、力学特性の低下、ナノファイバーの脱落等による品位の低下が課題となる。
特許文献3の技術においては、芯部に単糸繊度が0.3〜10デニール(5500〜32000nm)のポリアミド繊維、鞘部に単糸繊度が0.5デニール(6700nm)以下のポリエステル繊維からなる複合糸(混繊糸)に関する技術が提案されている。
確かに特許文献3の技術においては、ポリアミド繊維を芯成分に配することにより、ポリアミド繊維特有のしなやかな風合いをもたらすと同時に、好ましい張り、腰を発現させるというような高機械的性能を発現できる。
しかしながら、特許文献3の技術においては、実質的にマイクロファイバー以上の繊維径を有した繊維を利用する技術であるために、極細繊維のしなやかさを活かすためには、芯成分をポリアミド繊維、鞘成分を極細のポリエステル繊維とする必要がある。このため、明細書中に記載されるように芯成分と鞘成分は結果的に収縮率差が生まれ、嵩高性が発現する一方で、繊維径が大きい芯成分が、繊維径が小さい鞘成分の中で、大きく移動(収縮)するため、特許文献3の技術においても、極細繊維の偏りによる布帛特性の変動が発生する場合がある。また、異なるポリマーにより混繊糸が形成されているために、場合によっては、鞘成分(極細繊維)と芯成分とのなじみが悪くなり、過度な摩擦などにより、鞘成分が毛羽立つといった耐久性という面で、改善の余地があるものであった。
特許文献4では、海島口金の応用技術により、異形断面(繊維径、繊維断面形状を含んだ)の島成分が混在する海島繊維を得るための口金に関する技術が提案されている。
特許文献4の技術では、口金内で海成分に被覆されている島成分と、被覆されていない島成分が、複合ポリマー流として、集合(圧縮)部に供給されることにより、海成分に被覆されていない島成分が隣接している島成分と融着して、1つの島成分を形成する。この現象をランダムに発生させることにより、繊維糸条に太デニール繊維糸条と細デニール繊維糸条が混在した混繊糸条を得るものである。これを成すために、特許文献4では、島成分と海成分の配置を制御しないことが特徴としている。このため、分流流路と導入孔の間に設置された流路幅によって、圧力を制御し、挿入する圧力を均一化することによって、吐出孔から吐出されるポリマー量を制御しているものの、繊維径の制御には限界がある。特許文献4の技術の活用により、島成分をナノオーダーとするには、少なくとも海成分側の導入孔毎のポリマー量が10−2g/min/holeから10−3g/min/holeと極めて少なくなることから、特許文献4の肝であるポリマー流量と壁間隔と比例関係にある圧損はほぼ0となり、ナノファイバーを高精度で得るには向かないものである。事実、実施例で得られた海島繊維から発生する極細糸は0.07〜0.08d程度(約2700nm)であり、ナノファイバーを得るには至っていない。
このため、ナノファイバーの独特の機能(風合い、機能など)を有しつつも、張りや腰といった布帛としての力学特性に優れた高機能風合い布帛を、高い品質安定性で得るのに適した混繊糸の開発が切望されていた。
以下、本発明について、望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明で言う混繊糸とは、2種類以上の異なる繊維径を有した繊維が混在している繊維束を言う。当該混繊糸は図1に模式的に示したように、その繊維束の繊維軸に対して垂直の断面において、繊維径が小さい繊維が、繊維径が大きい繊維を取り囲むように偏りなく存在する芯鞘構造を形成している。また、この鞘成分を構成する少なくとも1種類の繊維径が小さい繊維の繊維径は、10〜1000nmであり、繊維径バラツキが1〜20%であることが重要である。
ここで言う繊維径および繊維径バラツキは、以下のように求めるものである。すなわち、混繊糸をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋し、この横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で150本以上の繊維が観察できる倍率として画像を撮影する。この際、金属染色を施せば、繊維のコントラストをはっきりさせることができる。混繊糸の断面が撮影された各画像から無作為に抽出した150本の繊維の繊維径を測定する。ここで言う繊維径とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の断面を切断面とし、この切断面に2点以上で外接する真円の径のことを意味する。また、この繊維径の値に関しては、nm単位で小数点1桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入するものである。また、繊維径バラツキとは、繊維径の測定結果をもとに繊維径バラツキ(繊維径CV%)=(繊維径の標準偏差/繊維径の平均値)×100(%)として算出される値であり、小数点以下を四捨五入するものである。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を本発明の繊維径および繊維径バラツキとした。
本発明の混繊糸では、繊維径が10nm未満の繊維を断面内に存在させることも可能であるが、繊維径を10nm以上とすることで、ナノファイバーの部分的な破断や脱落等を予防し、後加工工程の加工条件の設定を容易にする効果がある。一方、本発明の目的の一つである従来にはない高機能風合いを有した混繊糸あるいはそれからなる布帛とするためには、ナノオーダーの繊維の有するしなやかさ、吸水性、および払拭性能等といった機能が必要であり、本発明の混繊糸においては、実質的に鞘成分を構成する(布帛の表面に存在する)ナノファイバーが1000nm以下の径を有している。ナノファイバー特有の機能をより顕著にするという観点では、ナノファイバーの繊維径が、700nm以下とすることが好ましい。さらに後加工工程における工程通過性、繊維製品の取り扱い性までを考慮すると、ナノファイバーの繊維径は、100nm以上であることが好適であるため、本発明の混繊糸では、鞘成分を構成するナノファイバーの繊維径が100〜700nmであることがより好ましい範囲として挙げることができる。
また、このナノファイバーは、その繊維径バラツキが、1〜20%である。なぜなら、ナノファイバーは、その繊維径が極限的に小さいため、質量当りの表面積を意味する比表面積が、一般的な繊維やマイクロファイバーと比較して増大したものとなる。このため、ナノファイバー独特の機能は、一般に、繊維径の2乗に比例する比表面積に依存する部分が大きく、この繊維径バラツキが大きいと、混繊糸や布帛の特性が部分的に大きく変動することがある。よって、ナノファイバー特有の高機能な混繊糸およびそれからなる布帛を高い品質安定性で得ることを目的とする本発明においては、繊維径バラツキを係る範囲とすることが重要なのである。本発明の混繊糸および混繊糸からなる繊維製品において、その表面特性などの機能は、実質的に混繊糸等の表面を構成する繊維径が10〜1000nmのナノファイバーが担うために、品質安定性という観点から、当該繊維径バラツキはより小さいほど好ましく、1〜15%が好ましい範囲として挙げられる。また、高性能スポーツ衣料用として、ナノファイバーの高度な緻密性を利用した高密度織物や高精密研磨用として高精度な均質性が必要となる用途に適用することを考えると、当該繊維径バラツキは1〜7%であることがより好ましい。
次に、本発明の“2種類以上の異なる径の有する繊維が混在する混繊糸”および“繊維径が小さい繊維が、繊維径が大きい繊維を取り囲むように配された芯鞘構造”とは、後述する様態のことを意味し、図1に示した本発明の混繊糸の断面の一例を利用して説明する。図1では、繊維径が小さい繊維(繊維A 図1の1)と繊維径が大きい繊維(繊維B 図1の2)が混在している状態を示している。このような繊維束の断面を前述した方法にて、繊維径を評価した場合には、図2に例示するような2つの繊維径分布(図2の4、7)をとることとなる。ここで、各分布の範囲(分布幅)に入る繊維径を有した繊維の群を“1種類”とし、同一の繊維束断面の測定結果において、この繊維径分布が図2のように2個以上存在することが、本発明で言う“2種類以上の径が異なる繊維が混在する”ということを意味している。
ここで言う繊維径の分布幅(図2の6、9)とは、各繊維の群の中で最も存在数が多いピーク値(図2の5、8)の±30%の範囲を意味する。当該分布幅においては、前述した繊維製品の品位を向上させるといった観点から、1種類の島成分の径は、ピーク値±20%の範囲で分布していることが好ましく、さらに脱海処理等の後加工条件の設定の簡易化するという観点から、ピーク値±10%の範囲で分布していることがより好ましい。また、繊維Aと繊維Bの分布は、ピーク値が接近し、連続した分布をなす場合もある。しかしながら、繊維径が大きい繊維に混繊糸あるいは布帛の力学特性等を担わせ、布帛の表面特性に関しては、繊維径が小さい繊維に担わせるという本発明の目的をより効果的にするためには、繊維径の分布は不連続であり、独立した分布をなすことが好ましい。
本発明の混繊糸では、前述したような2種類以上の異なる径の繊維が繊維束の同一断面内において、繊維径が小さい繊維が、繊維径が大きい繊維を取り囲むように存在し、かつ各繊維が偏ることなく存在していることが重要である。
本発明においては、繊維径が小さい繊維(繊維A)および繊維径が大きい繊維(繊維B)が偏り無く繊維束断面において分散していることの指標として、図1中に示すように、近接する2つの繊維Bの中心間の距離を評価した。この評価は、前述した繊維径評価と同様の方法で、繊維束の断面を2次元的に撮影し、無作為に抽出した100箇所について、繊維B間の距離(繊維間距離 図1の3)を測定するものである。この繊維間距離バラツキとは、繊維間距離の平均値および標準偏差から、繊維間距離バラツキ(繊維間距離CV%)=(繊維間距離の標準偏差/繊維間距離の平均値)×100(%)として小数点以下は四捨五入して算出する。この値を同様に撮影した10画像について評価し、10画像の結果の単純な数平均を繊維間距離バラツキとして評価し、繊維が均質に分散していることの指標とした。本発明においては、この繊維間距離バラツキが、1〜20%であることが好ましく、係る範囲であれば、混繊糸の断面において、繊維Bが均等に配置されていることを意味し、本発明で言う“繊維径が小さい繊維が、繊維径が大きい繊維を取り囲むように配された芯鞘構造”を形成していることとなる。本発明の目的とする品質性の向上という観点では、この繊維間距離バラツキは小さいほど好ましく、1〜10%であれば、繊維Bがほぼ等間隔で配置されていることを意味し、より好ましい範囲として挙げることができる。
特許文献1に代表される後混繊を利用したような従来技術では、布帛の断面の状態を見た場合、ナノファイバー(あるいはマイクロファイバー)の存在数には随所に部分的な偏りが生じてしまい、布帛の特性において、部分的な偏りが生じ、品質安定性に課題がある。この課題の解決について、本発明者等は鋭意検討し、本発明の繊維径が大きい繊維の周囲に繊維径が極めて小さいナノファイバーが存在する芯鞘構造を構成していることで、前記した従来技術の課題が解消されることを見出したのである。
この課題の解決が可能な理由は、以下のように考える。すなわち、本発明の混繊糸の場合、後述する製造方法により、従来技術の課題であった繊維の偏りを大きく抑制された本発明の混繊糸およびこの混繊糸からなる布帛においては、繊維径が大きい繊維が布帛全体で均等に配されることで、骨格をなし、張りや腰というような力学特性を担い、高機能風合いを担うナノファイバーも、布帛全体に均等に配され、ナノファイバー独特のしなやかな風合い、緻密性、吸水性、払拭性能および研磨性能が布帛全体で均質なものとなる。また、ナノファイバーが織り成す空隙が均質であり、ナノファイバーからなる層が連続しているために、保水性能や徐放性能などの特性が発現する。これらの特性発現において、前述したナノファイバーの繊維径や繊維径バラツキの均質性が更に相乗的な効果を奏でることは言うまでもない。
また、工業的な観点では、繊維径が小さい繊維が、繊維径が大きい繊維を取り囲むように配された芯鞘構造を構成する本発明の混繊糸では、繊維径が大きい繊維に繊維径が小さい繊維が絡み合った構造で存在することとなり、後加工工程における工程通過性にも優れるという効果がある。すなわち、その繊維径が極限的に小さいナノファイバーは、後加工などの高応力下において、破断しやすく、これが、力学的に優れる繊維径が大きい繊維に拘束された状態となることは、ナノファイバーの脱落や布帛の破れ等を予防することができ、好適なのである。
本発明の目的は、ナノファイバー独特の機能と力学特性に優れた混繊糸あるいはその混繊糸からなる布帛を得ることにある。本発明の効果をより顕著なものとするためには、同一断面に存在する繊維(群)の径の差(繊維径差)が300nm以上であることが好ましい。なぜならば、繊維径の大きい繊維には、布帛の力学特性を担う役割が期待されており、繊維径が小さい繊維と比較して、明瞭に剛性が高いことが好適であるためである。このような観点から、材料の剛性の指標である断面2次モーメントに着目すると、断面2次モーメントは、繊維径の4乗に比例するため、繊維径差が300nm以上であれば、繊維径が小さい繊維に対して、繊維径が大きい繊維が実質的に布帛の力学特性を担うこととなり、好ましいのである。一方、本発明の目的とするナノファイバーの優れた風合いをより活かすためには、混繊糸全体の剛性が過剰に高くなることを抑制することが好ましく、繊維径差は3000nm以下とすることが好ましい。係る範囲であれば、混繊糸およびその混繊糸からなる布帛の風合いを損なうことなく、本発明の目的を満足することができる。以上のように、繊維径が大きい繊維が力学特性を担い、繊維径が小さい繊維が風合いなどの表面特性を担うという考えを推し進めると、繊維径差が1000〜3000nm以下とすることが、より好ましく、繊維径差が2000〜3000nmとすることが特に好ましい。なお、ここで言う繊維径差とは、図2に示すような分布において、繊維径のピーク値(図2の5、8)の差を意味する。
また、以上のように繊維径が小さい繊維が、繊維径が大きい繊維を取り囲むように配された芯鞘構造を構成する混繊糸あるいはこの混繊糸からなる布帛においては、驚くことに、従来のナノファイバー単独の布帛の課題であった発色性を向上させることが見出された。これは、ナノファイバーからなる繊維製品を衣料用途に展開する際の難点の一つを解消するという点で好ましい特性であり、特に発色性豊かな布帛が好まれる高性能スポーツ衣料や婦人用衣料等において裏地だけでなく、表地に適用できるという点で重要な意味を持つ。すなわち、ナノファイバーは、その繊維径が可視光波長と同等になるため、ナノファイバー表面で光が乱反射するか通過することとなり、ナノファイバーからなる布帛は白ボケし、発色性に欠けるものであった。このため、ナノファイバーの用途を見ても、発色性の必要がない産業資材用途が主であり、衣料用途でも、その独特な風合いを利用した裏地に適用される場合が多い。一方、本発明の混繊糸においては、繊維径が大きい繊維に繊維径が小さい繊維が擬似的に絡みついた状態となっている。このため、表層に存在するナノファイバーは発色性に寄与しない場合でも、繊維径が大きい繊維が発色性を担うため、混繊糸の状態においても、発色性が向上するのである。これは、布帛にした場合に、明瞭な差として見て取ることができ、特に、本発明における繊維径が大きい繊維あるいは繊維径が小さい繊維が均等に配置されていることが発色性という観点で有効に作用するのである。また、本発明の混繊糸においては、繊維径が大きい繊維のまわりに存在するナノファイバーの断面形態が非常に均質であるために、ナノファイバーが織り成す擬似的な多孔構造が発色性の向上に寄与しているものとも考えられる。この傾向は、本発明の混繊糸によってはじめて発現するものであって、従来技術の後混繊などを利用した繊維の存在確率に偏りがある布帛では、逆に縦スジが発生するといった発色性に斑のある布帛になるという欠点がある。
本発明の混繊糸を繊維製品として使用するためには、一定以上の靭性を持つことが好適であり、具体的には、強度が0.5〜10.0cN/dtexであり、伸度が5〜700%であることが好ましい。ここで言う、強度とは、JIS L1013(1999年)に示される条件でマルチフィラメント(混繊糸)の荷重−伸長曲線を求め、破断時の荷重値を初期の繊度で割った値であり、伸度とは、破断時の伸長を初期試長で割った値である。また、初期の繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、もしくは、繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの重量を算出するものであり、小数点以下を四捨五入した値を意味する。本発明の混繊糸の強度は、後加工工程の工程通過性や実使用に耐えうるものとするためには、0.5cN/dtex以上とすることが好ましく、実施可能な上限値は10.0cN/dtexである。また、伸度についても、5%以上であることが好ましく、実施可能な上限値は700%である。強度および伸度は、目的とする用途に応じて、製造工程における条件を制御することにより、調整が可能である。
また、本発明の混繊糸をインナーやアウターなどの一般衣料用途に用いる場合には、強度が1.0〜4.0cN/dtex、伸度が20〜40%とすることが好ましい。また、使用環境が過酷であるスポーツ衣料用途などでは、強度が3.0〜5.0cN/dtex、伸度が10〜40%とすることが好ましい。産業資材用途、例えば、ワイピングクロスや研磨布としての使用を考えた場合には、加重下で引っ張られながら対象物に擦りつけられることになる。このため、強度が1.0cN/dtex以上、伸度10%以上とすれば、拭き取り中などに混繊糸が切れて脱落などすることなくなるため、好適である。
後述する方法で得た海島繊維を巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な中間体を、脱海処理するなどして本発明の混繊糸を発生させ、様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途や研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材用途や、縫合糸、スキャフォールド、人工血管、血液フィルター等の医療用途に使用することができる。
以下に本発明の混繊糸の製造方法の一例を詳述する。
本発明の混繊糸は、2種類以上のポリマーからなる海島繊維を利用することで製造可能である。ここで、この海島繊維を製糸する方法としては、溶融紡糸による海島複合紡糸が生産性を高めるという観点から好適である。当然、溶液紡糸などして、本発明に利用する海島繊維を得ることも可能である。ただし、この海島複合繊維を製糸する方法としては、繊維径および断面形状の制御に優れるという観点で、海島複合口金を用いる方法とすることが好ましい。但し、本発明の混繊糸を製造するための海島繊維は、従来公知のパイプ型の海島複合口金を用いて製造することは、島成分の断面形状を制御する点で困難なことである。それは、本発明の海島複合紡糸を達成するためには、10−1g/min/holeから10−5g/min/holeオーダーと従来技術で用いられている条件よりも数桁低い極小的なポリマー流量を制御する必要があり、これには、図3に例示するような海島複合口金を用いた方法が好適である。
図3に示した複合口金は、上から計量プレート10、分配プレート11および吐出プレート12の大きく3種類の部材が積層された状態で紡糸パック内に組み込まれ、紡糸に供される。ちなみに図3は、ポリマーA(島成分)およびポリマーB(海成分)といった2種類のポリマーを用いた例である。ここで、図3に示したような複合口金により得られた海島繊維から本発明の混繊糸を発生させるには、島成分を難溶解成分、海成分を易溶解成分とすれば良い。また、必要であれば、前記難溶解成分と易溶解成分以外のポリマーを含めた3種類以上のポリマーを用いて製糸しても良い。というのは、特性の異なる難溶解成分を島成分として使用することで、単独ポリマーからなる混繊糸では得ることができない特性が付与できるためである。以上の3種類以上の複合化技術では、特に従来のパイプ型の複合口金では、達成することが困難であり、やはり図3に例示したような微細流路を利用した複合口金を用いることが好ましい。
図3に例示した複合口金の部材では、計量プレート10が各吐出孔18および海と島の両成分の分配孔当たりのポリマー量を計量して流入し、分配プレート11によって、単(海島)繊維の断面における海島複合断面および島成分の断面形状を制御、吐出プレート12によって、分配プレート11で形成された複合ポリマー流を圧縮して、吐出するという役割を担っている。複合口金の説明が錯綜するのを避けるために、図示されていないが、計量プレート10より上に積層する部材に関しては、紡糸機および紡糸パックに合わせて、流路を形成した部材を用いれば良い。ちなみに、計量プレートを、既存の流路部材に合わせて設計することで、既存の紡糸パックおよびその部材がそのまま活用することができる。このため、特に該複合口金のために紡糸機を専有化する必要はない。また、実際には流路−計量プレート間あるいは計量プレート10−分配プレート11間に複数枚の流路プレート(図示せず)を積層すると良い。これは、口金断面方向および単繊維の断面方向に効率よく、ポリマーが移送される流路を設け、分配プレート11に導入される構成とすることが目的である。吐出プレート12より吐出された複合ポリマー流は、従来の溶融紡糸法に従い、冷却固化後、油剤を付与され、規定の周速になったローラで引き取られて、海島繊維となる。
本発明に用いる複合口金の一例について、図面(図3〜図5)を用いて更に詳述する。
図3(a)〜(c)は、本発明に用いる海島複合口金の一例を模式的に説明するための説明図であって、図3(a)は海島複合口金を構成する主要部分の正断面図であり、図3(b)は分配プレートの一部の横断面図、図3(c)は吐出プレートの一部の横断面図である。図4は分配プレートの平面図、図5(a)から図5(d)は本発明に係る分配プレートの一部の拡大図であり、それぞれが一つの吐出孔に関わる溝および孔として記載したものである。
以下、図3に例示した複合口金を計量プレート10、分配プレート11を経て、複合ポリマー流となし、この複合ポリマー流が吐出プレート12の吐出孔から吐出されるまでを複合口金の上流から下流へとポリマーの流れに沿って順次説明する。
紡糸パック上流からポリマーAとポリマーBとが、計量プレートのポリマーA用計量孔13−(a)およびポリマーB用計量孔13−(b)に流入し、下端に穿設された孔絞りによって、計量された後、分配プレート11に流入される。ここで、ポリマーAおよびポリマーBは、各計量孔に具備する絞りによる圧力損失によって計量される。この絞りの設計の目安は、圧力損失が0.1MPa以上となることである。一方、この圧力損失が過剰になって、部材が歪むのを抑制するために、30.0MPa以下となる設計とすることが好ましい。この圧力損失は計量孔毎のポリマーの流入量および粘度によって決定される。
例えば、温度280℃、歪速度1000s−1での粘度で、100〜200Pa・sのポリマーを用い、紡糸温度280〜290℃、計量孔毎の吐出量が0.1〜5.0g/minで溶融紡糸する場合には、計量孔の絞りは、孔径0.01〜1.00mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)0.1〜5.0であれば、計量性よく吐出することが可能である。ポリマーの溶融粘度が上記粘度範囲より小さくなる場合や各孔の吐出量が低下する場合には、孔径を上記範囲の下限に近づくように縮小あるいは/または孔長を上記範囲の上限に近づくように延長すれば良い。逆に高粘度であったり、吐出量が増加する場合には、孔径および孔長をそれぞれ逆の操作を行えばよい。また、この計量プレート10を複数枚積層して、段階的にポリマー量を計量することが好ましく、2段階から10段階に分けて計量孔を設けることがより好ましい。この計量プレートあるいは計量孔を複数回に分ける行為は、10−1g/min/holeから10−5g/min/holeオーダーと従来技術で用いられている条件よりも数桁低い極小的なポリマー流量を制御するには好適なことである。但し、紡糸パック当りの圧損が過剰になることの予防や、滞留時間や異常滞留の可能性を削減するという観点から、計量プレートは2段階から5段階とすることが特に好ましい。
各計量孔13(図3の13−(a)および13−(b))から吐出されたポリマーは、分配プレート11の分配溝14に流入される。ここで、計量プレート10と分配プレート11との間には、計量孔13と同数の溝を配置して、この溝長を下流に沿って断面方向に徐々に延長していくような流路を設け、分配プレートに流入する以前にポリマーAおよびポリマーBを断面方向に拡張しておくと、海島複合断面の安定性が向上するという点で好ましい。ここでも、前述したように流路毎に計量孔を設けておくこともより好ましいことである。
分配プレート11では、計量孔13から流入したポリマーを溜める分配溝14(14−(a)および14−(b))とこの分配溝の下面にはポリマーを下流に流すための分配孔15(図5の15−(a)、15−(b)および15−(c))が穿設されている。分配溝14には、2孔以上の複数の分配孔が穿設されていることが好ましい。また、分配プレート11は、複数枚積層されることで、一部で各ポリマーが個別に合流−分配が繰り返されることが好ましい。これは、複数の分配孔−分配溝−複数の分配孔といった繰り返しを行う流路設計としておくと、部分的に分配孔が閉塞しても、ポリマー流は他の分配孔に流入することができる。このため、仮に分配孔が閉塞した場合でも、下流の分配溝で欠落した部分が充填されるためである。また、同一の分配溝に複数の分配孔が穿設され、これが繰り返されることで、閉塞した分配孔のポリマーが他の孔に流入しても、その影響は実質的に皆無となる。
さらに、この分配溝14を設けた効果は、様々な流路を経た、すなわち熱履歴を得たポリマーが複数回合流し、粘度バラツキの抑制という点でも大きい。このような分配孔−分配溝−分配孔の繰り返しを行う設計をする場合、上流の分配溝に対して、下流の分配溝を円周方向に1〜179°の角度をもって配置させ、異なる分配溝から流入するポリマーを合流させる構造とすると、異なる熱履歴等を受けたポリマーが複数回合流されるという点から好適であり、海島複合断面の制御に効果的である。また、この合流と分配の機構は、前述の目的からすると、より上流部から採用することが好ましく、計量プレートやその上流の部材にも施すことが好ましい。ここで言う分配孔15は、ポリマーの分割を効率的に進めるためには、分配溝14に対して2孔以上とすることが好ましい。また、吐出孔直前の分配プレートに関しては、分配溝当りの分配孔を2孔から4孔程度とすると、口金設計が簡易であることに加えて、極小的なポリマー流量を制御するといった観点から好適なことである。
このような構造を有した複合口金は、前述したようにポリマーの流れが常に安定化したものであり、本発明に必要となる高精度な超多島の海島繊維の製造が可能になるのである。ここでポリマーAの分配孔15−(a)および15−(c)(島数)は、理論的には各々1本からスペースの許す範囲で無限に作製することは可能である。実質的に実施可能な範囲として、総島数が2〜10000島が好ましい範囲である。本発明の混繊糸を無理なく満足する範囲としては、総島数が100〜10000島が更に好ましい範囲であり、島充填密度は、0.1〜20.0島/mm2の範囲であれば良い。この島充填密度という観点では、1.0〜20.0島/mm2が好ましい範囲である。ここで言う島充填密度とは、単位面積当たりの島数を表すものであり、この値が大きい程多島の海島繊維の製造が可能であることを示す。ここで言う島充填密度は、1吐出孔から吐出される島数を吐出導入孔の面積で除することによって求めた値である。この島充填密度は各吐出孔によって変更することも可能である。
複合繊維の断面形態ならびにその島成分の断面形状は、吐出プレート12直上の分配プレート11におけるポリマーAおよびポリマーBの分配孔15の配置により制御することができる。すなわち、ポリマーA・分配孔15−(a)、ポリマーB・分配孔15−(b)およびポリマーA・拡大分配孔15−(c)を図5(a)から図5(d)に例示するようにすれば、本発明の混繊糸を得るのに適した海島繊維になる複合ポリマー流を形成させることができる。
図5(a)にはポリマーA・分配孔15−(a)およびポリマーB・分配孔15−(b)が方形格子状に配置されたものであり、規則的にポリマーA・分配孔のみ孔径を拡大(拡大分配孔:15−(c))させてある。本発明に用いる複合口金の分配プレートは微細流路により構成されており、原則的に分配孔15による圧損にて、各分配孔の吐出量が規制されている。また、計量プレートによって、ポリマーAおよびポリマーBの流入量は、均一に制御されているため、分配プレートに穿設されている微細流路は圧力が均一になる。このため、例えば、図5(a)のように部分的に孔径が拡大した分配孔15−(c)が存在すると、その部分の圧損を稼ぐ(均一にする)ために、拡大分配孔15−(c)の吐出量は分配孔15−(a)比較して、自動的に吐出量が増加することとなる。これが、径が変更されつつも、高精度に制御された島成分を形成する原理原則であり、あとは、図5(a)に例示される通り、島成分同士が融着しないように、ポリマーB・分配孔15−(b)を規則的に配置すれば良い。この原理原則は、図5(b)に例示される孔配置が六角格子状とした場合でも同様である。以上のように、分配孔の多角格子状配置について例示したが、この他にも島成分用分配孔1孔に対し、円周上に配置することも良い。この孔配置は後述するポリマーの組み合わせとの関係で決定することが好適であるが、ポリマーの組み合わせの多様性を考えると、分配孔の配置は四角以上の多角格子状配置とすることが好ましい。また、図5(c)および図5(d)に例示するように、拡大分配孔を利用することなく、あらかじめポリマーA・分配孔15−(a)を複数接近した位置に配置しておき、分配孔から吐出された際のバラス効果を利用して、ポリマーA成分同士を融着させ、径が拡大された島成分を形成させる方法もある。この方法においては、分配孔の径をすべて同じにすることができるため、口金設計の簡易化という観点で好ましい。
本発明に用いるのに適した海島繊維の断面形態を達成するためには、前述した分配孔の配置に加えて、ポリマーAおよびポリマーBの溶融粘度比(ポリマーA/ポリマーB)を0.1〜20.0とすることが好ましい。基本的には分配孔の配置によって、島成分の拡張範囲は制御されるものの、吐出プレート12の縮小孔17によって、合流し、断面方向に縮小されるため、その時のポリマーAおよびポリマーBの溶融粘度比、すなわち、溶融時の剛性比が断面の形成に影響を与える。このため、溶融粘度比は、0.5〜10.0とするのがより好ましい範囲である。また、本発明の混繊糸の製造方法では、基本的にポリマーAおよびポリマーBで組成が異なるため、融点や耐熱性が異なる。このため、理想的には各々のポリマーで溶融温度を変更し、紡糸することが好適ではあるが、溶融温度をポリマー毎に個別に制御するためには、特殊な紡糸装置を必要となる。よって、紡糸温度をある温度に設定して、紡糸することが一般であり、この紡糸条件(温度など)の設定の簡易性を考えれば、溶融粘度比は、0.5〜5.0とすることが特に好ましい範囲である。なお、以上のポリマーの溶融粘度に関しては、同種のポリマーであっても、分子量や共重合成分を調整することで、比較的自由に制御できるため、本発明においては、溶融粘度をポリマー組み合わせや紡糸条件設定の指標にしている。
分配プレート11から吐出されたポリマーAおよびポリマーBによって構成された複合ポリマー流は、吐出導入孔16から吐出プレート12に流入される。ここで、吐出プレート12には、吐出導入孔16を設けることが好ましい。吐出導入孔16とは、分配プレート11から吐出された複合ポリマー流を一定距離の間、吐出面に対して垂直に流すためのものである。これは、ポリマーAおよびポリマーBの流速差を緩和させるととともに、複合ポリマー流の断面方向での流速分布を低減させることを目的としている。この流速分布の抑制という点においては、分配孔15(図5の15−(a)、15−(b)および15−(c))における吐出量、孔径および孔数によって、ポリマーの流速自体を制御することが好ましい。但し、これを口金の設計に組み入れると、島数等を制限する場合がある。このため、ポリマー分子量を考慮する必要はあるものの、流速比の緩和がほぼ完了するという観点から、複合ポリマー流が縮小孔17に導入されるまでに10−1〜10秒(=吐出導入孔長/ポリマー流速)を目安として吐出導入孔を設計することが好ましい。係る範囲であれば、流速の分布は十分に緩和され、断面の安定性向上に効果を発揮する。
次に、複合ポリマー流は、所望の径を有した吐出孔に導入する間に縮小孔17によって、ポリマー流に沿って断面方向に縮小される。ここで、複合ポリマー流の中層の流線はほぼ直線状であるが、外層に近づくにつれ、大きく屈曲されることとなる。本発明に用いるのに適した海島繊維を得るためには、ポリマーAおよびポリマーBを合わせると無数のポリマー流によって構成された複合ポリマー流の断面形態を崩さないまま、縮小させることが好ましい。このため、この縮小孔17の孔壁の角度は、吐出面に対して、30°〜90°の範囲に設定することが好ましい。
この縮小孔17における断面形態の維持という観点では、吐出プレート直上の分配プレートに、図4に示すような分配孔を底面に穿設した環状溝19を設置するなどして、複合ポリマー流の最外層に海成分の層を設けることが好ましい。というのは、分配プレート11から吐出された複合ポリマー流は、縮小孔17によって断面方向に大きく縮小される。その際、複合ポリマー流の外層部では大きく流れが屈曲されることに加えて、孔壁とのせん断を受けることとなる。この孔壁−ポリマー流外層の詳細を見ると、孔壁との接触面においては、せん断応力によって流速が遅く、内層に行くにつれ流速が増加するというような流速分布に傾斜が生じる場合がある。すなわち、上記した孔壁とのせん断応力は、複合ポリマー流の最外層に配置した海成分(Bポリマー)からなる層に担わせることができ、複合ポリマー流、特に島成分の流動を安定化させることができるのである。このため、本発明に用いる海島繊維は、島成分(ポリマーA)の繊維径や繊維形状の均質性が格段に向上するのである。この複合ポリマー流の最外層に海成分(ポリマーB)を配置するのに、図4に示したような環状溝19を利用する場合には、環状溝19の底面に穿設した分配孔15は、同分配プレートの分配溝数および吐出量を考慮することが望ましい。目安としては、円周方向に3°当たり1孔設ければ良く、好ましくは1°当たり1孔設けることである。この環状溝19にポリマーを流入させる方法は、上流の分配プレートにおいて、海成分のポリマーの分配溝14(b)を断面方向に延長しておき、この両端に分配孔15を穿設するなどすれば、無理なく環状溝19にポリマーを流入させることができる。図4では環状溝19を1環配置した分配プレートを例示しているが、この環状溝は2環以上であっても良く、この環状溝間で異なるポリマーを流入させても良い。
分配プレート11で形成された複合ポリマー流は、分配孔15(図5の15−(a)、15−(b)および15−(c))の配置の通りの断面形態を維持して、吐出孔18から紡糸線に吐出される。この吐出孔18は、複合ポリマー流の流量、すなわち吐出量を再度計量する点と紡糸線上のドラフト(=引取速度/吐出線速度)を制御する目的がある。吐出孔18の孔経および孔長は、ポリマーの粘度および吐出量を考慮して決定するのが好適である。本発明に用いる海島繊維を製造する際には、吐出孔径Dは0.1〜2.0mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)は0.1〜5.0の範囲で選択することができる。
本発明の混繊糸を得るために適した海島繊維は以上のような複合口金を用いて製造することができ、生産性および設備の簡易性を鑑みると、溶融紡糸で実施することが好適であるが、該複合口金を使用すれば、溶液紡糸のような溶媒を使用する紡糸方法でも、本発明に利用できる海島繊維を製造することが可能であることは言うまでもない。
溶融紡糸を選択する場合、島成分および海成分として、例えば、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが挙げられる。特にポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高く、より好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。また、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいてもよい。また、脱海あるいは脱島処理を想定した場合には、ポリエステルおよびその共重合体、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニールアルコールなどの溶融成形可能で、他の成分よりも易溶解性を示すポリマーから選択することができる。易溶解成分としては、水系溶剤あるいは熱水などに易溶解性を示す共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニールアルコールなどが好ましく、特に、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独あるいは組み合わされて共重合したポリエステルやポリ乳酸を用いることが紡糸性および低濃度の水系溶剤に簡単に溶解するという観点から好ましい。また、脱海性および発生する極細繊維の開繊性という観点では、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独で共重合されたポリエステルが特に好ましい。
以上例示した難溶解成分および易溶解成分の組み合わせは、目的とする用途に応じて難溶解成分を選択し、難溶解成分の融点を基準に同紡糸温度で紡糸可能な易溶解成分を選択すれば良い。ここで前述した溶融粘度比を考慮して、各成分の分子量等を調整すると海島繊維の島成分の繊維径および断面形状といった均質性を向上させるという観点から好ましい。また、海島繊維から混繊糸を発生させるには、混繊糸の断面形状の安定性および力学物性保持という観点から、脱海に使用する溶剤に対する難溶解成分と易溶解成分の溶解速度差が大きいほど好ましく、3000倍までの範囲を目安に前述したポリマーから組み合わせを選択すると良い。本発明の混繊糸を採取するのに好適なポリマーの組み合わせとしては、融点の関係から海成分を5−ナトリウムスルホイソフタル酸が1〜10モル%共重合されたポリエチレンテレフタレート、島成分をポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、海成分をポリ乳酸、島成分をナイロン6、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好適な例として挙げられる。
本発明に用いる海島繊維を紡糸する際の紡糸温度は、2種類以上のポリマーのうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下であれば、紡糸ヘッドあるいは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制されるため、好ましい。
本発明に用いる海島繊維を紡糸する際の吐出量は、安定して、吐出できる範囲としては、吐出孔当たり0.1g/min/hole〜20.0g/min/holeを挙げることができる。この際、吐出の安定性を確保できる吐出孔における圧力損失を考慮することが好ましい。ここで言う圧力損失は、0.1MPa〜40MPaを目安にポリマーの溶融粘度、吐出孔径、吐出孔長との関係から吐出量を係る範囲より決定することが好ましい。
本発明に用いる海島繊維を紡糸する際の難溶解成分と易溶解成分の重量比率は、吐出量を基準に海/島比率で5/95〜95/5の範囲で選択することができる。この海/島比率のうち、島比率を高めると混繊糸の生産性という観点から、好ましいこと言える。但し、海島複合断面の長期安定性という観点から、本発明の混繊糸を効率的に、かつ安定性を維持しつつ製造する範囲として、この海島比率は、10/90〜50/50がより好ましく、さらに脱海処理を迅速に完了させるという点および極細繊維の開繊性を向上させるといった観点を鑑みると、10/90〜30/70が特に好ましい範囲である。
このように吐出された海島複合ポリマー流は、冷却固化されて、油剤を付与されて周速が規定されたローラによって引き取られることにより、海島繊維となる。ここで、この引取速度は、吐出量および目的とする繊維径から決定すればよいが、本発明に用いる海島繊維を安定に製造するには、100〜7000m/minの範囲とすることが好ましい。この海島繊維は、高配向とし力学特性を向上させるという観点から、一旦巻き取られた後で延伸を行うことも良いし、一旦、巻き取ることなく、引き続き延伸を行うことも良い。
この延伸条件としては、例えば、一対以上のローラからなる延伸機において、一般に溶融紡糸可能な熱可塑性を示すポリマーからなる繊維であれば、ガラス転移温度以上融点以下の温度に設定された第1ローラと結晶化温度相当の温度とした第2ローラの周速比によって、繊維軸方向に無理なく引き伸ばされ、且つ熱セットされて巻き取られ、本発明に用いる海島繊維を得ることができる。また、ガラス転移を示さないポリマーの場合には、海島繊維の動的粘弾性測定(tanδ)を行い、得られるtanδの高温側のピーク温度以上の温度を予備加熱温度として、選択すればよい。ここで、延伸倍率を高め、力学物性を向上させるという観点から、この延伸工程を多段で施すことも好適な手段である。
このようにして得られた海島繊維から本発明の混繊糸を発生させるためには、易溶解成分が溶解可能な溶剤などに複合繊維を浸漬して易溶解成分を除去することで、難溶解成分からなる混繊糸を得ることができる。易溶出成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが共重合された共重合PETやポリ乳酸(PLA)等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることができる。この海島繊維をアルカリ水溶液にて処理する方法としては、例えば、海島繊維あるいはそれからなる繊維構造体とした後で、アルカリ水溶液に浸漬させればよい。この時、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めることができるため、好ましい。また、流体染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をすることができるため、生産性もよく、工業的な観点から好ましいことである。
以上のように、本発明の製造方法を一般の溶融紡糸法に基づいて説明したが、メルトブロー法およびスパンボンド法でも製造可能であることは言うまでもなく、さらには、湿式および乾湿式などの溶液紡糸法などによって製造することも可能である。
以下実施例を挙げて、本発明の混繊糸について具体的に説明する。実施例および比較例については、下記の評価を行った。
A.ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s−1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
B.繊度
繊維の単位長当りの重量を測定し、この値から10000mの重量を算出した値を繊度とした。この操作を10回繰り返し、その単純平均値の小数点以下を四捨五入した値を繊度とした。
C.繊維の力学特性
混繊糸をオリエンテック社製引張試験機 テンシロン UCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度100%/minの条件で応力−歪曲線を測定する。破断時の荷重を読みとり、その荷重を初期繊度で除することで強度を算出し、破断時の歪を読みとり、試料長で除した値を100倍することで、伸度を算出した。いずれの値も、この操作を水準毎に5回繰り返し、得られた結果の単純平均値を求め、強度は、小数点第2位を四捨五入した値であり、伸度は、小数点以下を四捨五入した値である。
D.繊維径および繊維径バラツキ(CV%)
混繊糸をエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)日立製作所製 H−7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて繊維が150本以上観察できる倍率で撮影した。この画像から無作為に選定した150本の繊維を抽出し、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての繊維径を測定し、平均値および標準偏差を求めた。これらの結果から下記式を基づき繊維径CV%を算出した。
繊維径バラツキ(CV%)=(標準偏差/平均値)×100
以上の値は全て10ヶ所の各写真について測定を行い、10ヶ所の平均値とし、小数点以下を四捨五入するものである。
E.繊維Bの配置評価(繊維B間距離バラツキ)
繊維Aおよび繊維Bが偏り無く繊維束断面において分散していることの指標として、図1の3に示すように、近接する2つの繊維Bの中心間の距離を評価した。この評価は、前述した繊維径評価と同様の方法で、繊維束の断面を2次元的に撮影し、無作為に抽出した100箇所について、繊維B間の距離を測定するものである。この繊維B間距離バラツキとは、繊維B間距離の平均値および標準偏差から、繊維B間距離バラツキ(繊維B間距離CV%)=(繊維B間距離の標準偏差/繊維B間距離の平均値)×100(%)として算出する。この値を同様に撮影した10画像について評価し、10画像の結果の単純な数平均の小数点以下は四捨五入し、繊維B間距離バラツキとした。
F.脱海処理時の繊維A(ナノファイバー)の脱落評価
各紡糸条件で採取した海島繊維からなる編地を海成分が溶解する溶剤で満たされた脱海浴(浴比100)にて海成分を99%以上溶解除去した。
ナノファイバーの脱落の有無を確認するため、下記の評価を行った。
脱海処理した溶剤を100ml採取し、この溶剤を保留粒子径0.5μmのガラス繊維ろ紙に通す。ろ紙の処理前後の乾燥重量差からナノファイバーの脱落の有無を下記の4段階で評価した。
◎(脱落なし):重量差が3mg未満
○(脱落少) :重量差が3mg以上7mg未満
△(脱落あり):重量差が7mg以上10mg未満
×(脱落多) :重量差が10mg以上。
G.風合い評価
得られた海島繊維を筒編地とし、海成分を除去可能な溶剤にて、海成分を99%以上除去(浴比1:100)し、混繊糸からなる筒編地サンプルを25℃×55%RHの雰囲気下に24時間以上放置した後に、下記の評価基準にて、5人の試験者がナノファイバー独特のヌメリ感を下記の4段階で官能評価した。5人の官能評価結果を平均し、評価した布帛の風合い評価結果とした。
◎(優良):ヌメリ感を強く感じ、編地全体が滑らかで風合いに優れている。
○(良) :ヌメリ感を感じ、風合いが良い。
△(可) :ヌメリ感があるが、部分的にシャリ感や引掛り感を感じる。
×(不可):ヌメリ感がなく、全体的にシャリ感や引掛り感じを感じる。
H.発色性評価
得られた海島繊維を筒編地とし、海成分が除去可能な溶剤にて、海成分を99%以上除去(浴比1:100)した混繊糸からなる筒編地を住友化学(株)製分散染料スミカロンBlack S−BB 10%owf・酢酸 0.5cc/l・酢酸ソーダ 0.2g/lからなる浴比1:30の130℃の水溶液中で60分間染色を行った後、常法に従い、・ハイドロサルファイト 2g/l・苛性ソーダ 2g/l・非イオン活性剤(サンデットG−900) 2g/lからなる80℃の水溶液中で20分間還元洗浄を行い、水洗、乾燥した。得られた染色後の筒編地布(15%減量品)を、分光測色計(ミノルタCM−3700D)により測定径8mmφ、光源D65,視野10°の条件でL*値を3回測定し、その平均値Lave *を下記の基準にて、3段階評価した。
○(良) :14未満
△(可) :14以上16未満
×(不可):16以上。
実施例1
島成分として、ポリエチレンテレフタレート(PET1 溶融粘度:160Pa・s)と、海成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸8.0モル%共重合したPET(共重合PET1 溶融粘度:95Pa・s)を290℃で別々に溶融後、計量し、図3に示した本発明の複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出した。なお、吐出プレート直上の分配プレートには、1つの吐出孔当たり島成分用として、吐出孔1孔当り合計790の分配孔が穿設されており、内720孔が通常の分配孔15−(a)(孔径:φ0.20mm)、70孔が拡大分配孔15−(c)(孔径:φ0.65mm)とし、孔の配列パターンとしては、図5(a)の配列とした。図4の19に示している海成分用の環状溝には円周方向1°毎に分配孔が穿設されたものを使用した。また、吐出導入孔長は5mm、縮小孔の角度は60°、吐出孔径D0.5mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)は1.5のものである。海/島成分の複合比は、20/80とし、吐出された複合ポリマー流を冷却固化後油剤付与し、紡糸速度1500m/minで巻き取り、200dtex−15フィラメント(総吐出量30g/min)の未延伸繊維を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラ間で延伸速度800m/minにとし、4.0倍延伸を行った。得られた海島繊維は、50dtex−15フィラメントであった。なお、この海島繊維は、後述の通り断面構成は径が大きい島成分と径が小さい島成分が規則性を持って配置されたものであるため、10錘の延伸機で4.5時間サンプリングをおこなったが、糸切れ錘は0錘と延伸性に優れたものであった。
採取された海島繊維を90℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液にて、海成分を99%以上脱海した。この海島繊維は、複合断面において、島成分が均等に配置されているために、低濃度のアルカリ水溶液でも、脱海処理が効率的に進行した。このため、島成分を余計に劣化させることなく、脱海時のナノファイバーの脱落はなかった(脱落判定:◎)。また、脱海後に混繊糸の断面を観察すると、繊維Bの繊維間距離バラツキを評価したところ、平均で4%と繊維Bの間隔にバラツキがなく、配置されているものであり、繊維Aあるいは繊維Bの存在数に部分的な偏りがないものであった。このため、この混繊糸からなる筒編地は、張り、腰があるにも関わらず、ナノファイバー独特のヌメリ感を有したものであり、表面も非常に滑らかなものであった(風合い評価:◎)。また、この筒編地を染色すると、優れた発色性を有していることが分かった(発色性評価:○)。該混繊糸の断面を観察したところ、繊維Aは490nm、繊維径バラツキは5%、繊維Bは3000nmであった。これらの繊維径分布を取ると、図6のようになっており、繊維Aと繊維Bの繊維径は非常に狭い分布幅で存在していることがわかった。混繊糸の力学特性は、強度3.0cN/dtex、伸度30%であった。結果を表1に示す。
実施例2〜4
海島繊維の海/島成分の複合比を30/70(実施例2)、50/50(実施例3)、70/30(実施例4)に変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。これらの混繊糸の評価結果は、表1に示す通りであるが、実施例1と同様に海島繊維は、製糸性および後加工性に優れるものであり、混繊糸の断面においても、繊維Aあるいは繊維Bの存在数に部分的な偏りがないものであった。風合い評価に関しては、実施例3および実施例4において、微弱な引掛り感があったものの、問題の無いレベルであった。
実施例5
実施例1で用いた分配プレート10を用い、総吐出量12.5g/minで海/島複合比を80/20として紡糸し、得られた未延伸繊維を延伸倍率3.5倍で延伸したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例5で得られた混繊糸の断面では、繊維Aが170nmと非常に縮小された繊維径を有しているにも関わらず、繊維径バラツキが7%とバラツキが小さいものであり、繊維Aが繊維Bの間に規則正しく配置されていた。実施例1と比較すると繊維Aの径が大きく縮小されているため、脱海時に影響を受けたと考えられるナノファイバーが微量脱落していたが、問題がないレベルであった。結果を表2に示す。
実施例6
実施例1で用いた分配プレートを用い、総吐出量35.0g/minで海/島複合比を20/80として紡糸し、得られた未延伸繊維を延伸倍率3.0倍で延伸したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
結果、脱海後の混繊糸の断面観察では、3800nmの径を有した繊維Bの周りに繊維Aが均等に存在することが確認された。実施例6の混繊糸は、非常に優れた発色性を有しており、実施例1と比較しても、更に白っぽさが低下し、非常に深色な布帛を得ることができた。結果を表2に示す。
実施例7
分配プレートの孔配置を図5(a)に示したものとし、吐出孔1孔当り合計415孔の島成分用の分配孔が穿設されているものを用いたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。なお、実施例7で用いた分配プレート11には、ポリマーAの分配孔15−(a)(孔径:φ0.20mm)が410孔、拡大分配孔15−(c)(孔径:φ0.80mm)が5孔穿設されている。実施例7で得られた混繊糸には、繊維径4500nmの繊維Bの周囲に繊維径560nmの繊維Aが規則的に配置されているものであった。実施例7の混繊糸は、実施例1と比較して、張り、腰が強く、若干ナノファイバー独特のヌメリ感が低下したが、問題のないレベルであった。結果を表2に示す。
実施例8
海/島複合比を表に示したものとし、分配プレート11の孔配置を図5(b)に示したものとしたこと以外は実施例1に従い実施した。実施例8で用いた分配プレート11には、吐出孔1孔当り合計1550孔の島成分用の分配孔が穿設されており、内ポリマーAの分配孔15−(a)(孔径:φ0.15mm)は1500孔、拡大分配孔15−(c)(孔径:φ0.8mm)は50孔としている。実施例8で得られた混繊糸では、繊維Aと繊維Bの繊維径が10倍以上異なるものであったが、繊維B間に繊維Aが規則的に配置されたものであり、脱海後の混繊糸においては、繊維B間に繊維Aが充填され、且つ実施例1と比較して繊維A(ナノファイバー)からなる層が分厚く、布帛全体が柔軟性にとんだものであった。結果を表3に示す。
実施例9
分配プレートの孔配置を図5(c)に示したものとした。実施例9で用いた分配プレート11には、拡大分配孔は穿設せず、吐出孔1孔当り合計1000孔の島成分用の分配孔(孔径:φ0.2mm)が穿設されたものであり、この分配プレートを用いたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。なお、実施例9で用いた分配プレートでは、図5(c)に示す通り、部分的に4孔の島成分用分配孔を近接して穿設している。このため、分配プレートからドットで吐出されたポリマーは弾性的な緩和を起こすことで、隣り合った島成分と融着し、結果として、径の大きい島成分(島成分B)を形成するため、本発明の要件を満たした混繊糸となった。また、脱海後に繊維Bを良く観察してみると、繊維Bは吐出状況の履歴により、断面で見ると四つの凹部と有した、いわゆる四葉形状となっており、この凹部に繊維Aが固定された構造を有していた。このような構造になると、繊維Aと繊維Bが一体になるため、ヌメリ感の中に滑るような感覚を伴う布帛となり、繊維の断面形態により、布帛特性を制御できることがわかった。結果を表3に示す。
実施例10
実施例9で用いた分配プレートの設計思想を利用し、拡大分配孔は穿設せず、吐出孔1孔当りの島成分用分配孔(孔径:φ0.2mm)は1000孔としたまま、グループの中心部に島成分孔を100孔近接させて穿設し、その周りに残り900孔を規則的に配置した孔配置とした分配プレート11を利用して、実施例1の条件に従い、実施した。
実施例10で得られた混繊糸では、繊維径4900nmの繊維Bの周りに繊維径490nmの繊維Aが規則的に配置された芯鞘構造を形成していた。この混繊糸を得る際の脱海工程では、繊維Aと繊維Bの繊維径が大きく異なるために、繊維Aの脱落が懸念されたが、本発明の芯鞘構造を構成しているために、脱落も少なく問題のないレベルであった。繊維Bを良く観察すると、実施例9と同様に、吐出時の履歴と考えられる無数の凹部分を有したものであった。この混繊糸においては、海島繊維段階での規則的な配置も手伝い、繊維Bの表面に無数の繊維Aが固定された構造を有していた。実施例1と比較すると、ナノファイバー独特のヌメリ感が弱まる傾向にあったが、問題の無いレベルであった。一方、島成分Bに微細な凹部が存在すること、および鞘部分に配置された繊維A間の空隙により、擬似的な多孔構造を形成することの相乗効果により、光が表層で反射することなく、吸収されるため、発色性評価は、非常に優れ、深色の布帛が得られていた。結果を表3に示す。
比較例1
まず、後混繊するための海島繊維を得るために、特開2001−192924号公報で記載される従来公知のパイプ型海島複合口金(吐出孔1孔当たり島数:500)を使用し、紡糸条件などは、実施例1に従い、製糸した。紡糸に関しては、糸切れ等も無く、問題がなかったものの、延伸工程では、断面の不均一性に起因する糸切れが4.5時間のサンプリング中に2錘で見られた。また、製糸後の海島繊維の断面を観察すると、島比率が高すぎた(島比率:80%)ためか、大きな島合流が発生し、まともな海島断面を形成していなかった。この結果を受けて、島合流が起こらない条件を調べたところ、海/島成分の複合比が50/50の際に島合流がほぼ抑制されたため、複合比を50/50とし、その他の条件は全て実施例1に従い再度海島繊維を得た。再紡糸した結果では、島比率が低下しているために、島成分径はナノレベルのものとなったものの、島成分の吐出不安定性に基づく断面の乱れのため、繊維Aの繊維径バラツキは大きいものであった。
次に島成分に利用したPET1を利用して、φ0.3(L/D=1.5)−12holeの通常口金を利用して、紡糸速度1500m/minで紡糸した未延伸繊維を、実施例1の条件で、延伸倍率2.5倍として延伸し、40dtex−12フィラメントのPET1からなる単独糸を得た。
前述した海島繊維と単独糸を合わせて巻取り機を具備したローラに供給し、後混繊糸とした。後混繊工程においては、200m/minと低速で行ったが、しばしば供給ローラや巻取り機のガイドローラに単糸が巻きつくことがあった(後混繊糸物性:繊度90dtex、強度2.2cN/dtex、伸度24%)。
この後混繊糸を筒編地とし、脱海を行ったところ、繊維径バラツキに起因する脱落が多く見られた(脱落判定:×)。また、脱海後の混繊糸の断面を確認したところ、繊維径が小さい繊維Aが海島繊維の配置の履歴に応じて、部分的に集中して存在し、且つ本発明と比較すると繊維径が大きな繊維Bと繊維径が小さい繊維Aとのなじみが悪いものであった。このため、繊維Bが混繊糸の表面付近に浮き出てしまい、風合い評価では、ナノファイバー独特のヌメリ感が本発明と比較して大きく低下したものであった(風合い評価:×)。また、前述した繊維の偏りにより、布帛の部分で色目に濃淡があり、本発明と比較すると発色性は悪いものであった(発色性評価:×)。結果を表4に示す。
比較例2
特開平8−158144号公報に記載される各成分のノズル毎に滞留部と背圧付与部を設置した海島口金(島成分用プレート1枚:島数300、海成分用プレート1枚)を用い、海/島成分の複合比が50/50としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。ちなみに、比較例2では、複合比が20/80の場合には、複数の島成分が融着してしまい、1000nm以下の島成分を形成させることが困難であったため、島比率を50%まで低下させて実施している。また、海島断面における島成分の均質性が低いために、紡糸中1回の単糸流れ(切れ)、延伸工程においては、4錘の糸切れ錘があり、製糸性が低いものであった。
比較例2で得た海島繊維を筒編地とし、脱海したところ、繊維径バラツキが大きいため、脱海条件が定まらず、劣化して脱落する極細繊維が多量にあった(脱落判定:×)。実施例1と同様に風合いを行ったところ、繊維径が大きい繊維がメインで存在するために、ヌメリ感を感じることはなく、部分的に破断した繊維が混在していることで、布帛表面では、引掛り感を感じるものであった(風合い評価:×)発色性に関しては、繊維径が大きく、ランダムであるため、発色性評価では、○(良)であったが、布帛を良く見ると、スジが入っているものであった。結果を表4に示す。
実施例11
紡糸速度を3000m/minとし、延伸倍率を3.0倍としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
ちなみに、実施例11の海島繊維を紡糸する際には、その繊維断面における島成分の規則的な配列のために、製糸性が高く、総ドラフト(紡糸+延伸)を実施例1対比1.5倍に高めた場合においても、実施例1と同様に糸切れなく、製糸することができることがわかった。また、結果を表5に示したが、実施例11では、複合紡糸としては、比較的過酷な製糸条件であったにも関わらず、実施例1と同等の力学特性を有していることがわかった。結果を表5に示す。
実施例12
実施例1と比較して、吐出孔1孔当りのポリマーA用分配孔を100孔(孔径:φ0.2mm)、拡大分配孔を10孔(孔径:φ0.65mm)とし、口金当たりのグループ数を100に変更した分配プレートと、φ0.3(L/D=1.5)の吐出孔が100穿設された吐出プレートを用いたこと以外は全て実施例1に従い、実施した。
実施例12でも、海島複合繊維は、実施例1同等の製糸性を有しており、紡糸工程および延伸工程にて、単糸切れなどの問題なく、製糸することができた。結果を表5に示す。
実施例13
分配プレートの孔配置を図5(d)に示したアレンジを基本とし、吐出孔1孔当りの分配孔を1000孔(孔径:φ0.2mm)として、内繊維B用として、分配孔4孔が近接したもの、繊維C(繊維Bよりも繊維径が大きい繊維)用として、分配孔16孔が近接したものをそれぞれ10箇所と繊維A用の(単独)分配孔が800孔を規則正しく配置した分配プレートを用いた。また、海成分を5−ナトリウムスルホイソフタル酸5.0モル%共重合したPET(共重合PET2 溶融粘度:140Pa・s)とし、延伸倍率2.7倍としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例13の繊維径分布を確認すると、繊維A、繊維Bおよび繊維Cのそれぞれ分離した分布を確認することができた。結果を表5に示す。
実施例14
実施例13で使用した分配プレートに更に繊維D(繊維Cよりも繊維径が大きい繊維)用に、32孔近接した分配孔を5箇所加え、繊維A用の(単独)分配孔を640孔としたこと以外は、全て実施例12に従い実施した。
実施例14の繊維径径分布を確認すると、繊維A、繊維B、繊維Cおよび繊維Dのそれぞれ分離した分布を確認することができた。結果を表5に示す。
実施例15
島成分はナイロン6(N6 溶融粘度:190Pa・s)、海成分はポリ乳酸(PLA 溶融粘度:100Pa・s)とし、紡糸温度260℃、延伸倍率は2.5倍としたこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例15で採取した海島繊維は、規則正しく配置されたN6(島成分)が応力を担うことで、海成分がPLAであっても、良好な製糸性を示すものであった。さらに、海成分がPLAの場合でも、断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有しており、本発明の混繊糸を得ることができた。結果を表6に示す。
実施例16
島成分をポリブチレンテレフタレート(PBT 溶融粘度:120Pa・s)とし、海成分を実施例15で使用したポリ乳酸(PLA 溶融粘度:110Pa・s)とし、紡糸温度255℃、紡糸速度1300m/minで紡糸した。また、延伸倍率3.2倍とし、その他の条件は、全て実施例1に従い実施した。
実施例16では、問題なく紡糸および延伸可能であり、さらに、島成分がPBTの場合でも、断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有しており、本発明の混繊糸を得ることができた。結果を表6に示す。
実施例17
島成分をポリフェニレンサルファイド(PPS 溶融粘度:180Pa・s)とし、海成分を実施例1で用いたPETを220℃で固相重合して得た高分子量ポリエチレンテレフタレート(PET2 溶融粘度:240Pa・s)とし、紡糸温度310℃として紡糸した。また、未延伸繊維を90℃、130℃および230℃の加熱ローラ間で総延伸倍率3.0倍として2段延伸した以外は、全て実施例1に従い実施した。
実施例17では、問題なく紡糸および延伸可能であり、さらに、島成分がPPSの場合でも、断面の構成、均質性および後加工性に関しても実施例1と同等の性能を有しており、5重量%水酸化ナトリウム水溶液中で、海成分を99%以上脱海処理することで、本発明の混繊糸を得ることができた。この混繊糸では、島成分がPPSであるため、耐アルカリ性が高く、繊維径が大きいPPS繊維が支持体となり、その周りにPPSナノファイバーが存在する高性能フィルターに利用するのに適した構造を有していた。結果を表6に示す。