(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1におけるフィルターデバイスについて説明する。なお、各実施の形態において先行する実施の形態と同様の構成をなすものは同じ符号を付して説明し、詳細な説明を省略する場合がある。また、本発明は以下の各実施の形態に限定されるものではない。
図1は本実施の形態におけるフィルターデバイスの上面図、図2は図1におけるフィルターデバイスの2−2断面図、図3は本実施の形態におけるフィルターデバイスの要部拡大SEM写真を示す図である。図1に示すように、本実施の形態のフィルターデバイス100は、第一のポート112と、第一の流路113とを備える。第一のポート112は、基板111に形成され、物質が含まれた溶液を投入するためのポートである。第一の流路113は、この第一のポート112につながる。さらに図2に示すように、この第一の流路113は、第一のポート112から流れてきた物質が含まれた溶液から特定の成分を分離するためのフィルター部114を備えている。フィルター部114は、例えば、全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液から赤血球を分離するためのフィルターである。このフィルター部114は、無機酸化物からなる複数の繊維状物質115からなる。図3に示すように、それぞれの繊維状物質115の直径にばらつきがなく、フィルター部114は、複数の繊維状物質115が絡み合うことによって空隙を有する。フィルター部114は、第一の流路113全体に形成されている。
フィルター部114は、複数の繊維状物質115が絡みあって形成される。これにより、溶液中に含まれる固体物質のうち、その最大直径が繊維状物質115間の空隙よりも大きいものがろ過物として繊維状物質115により捕捉される。そして、繊維状物質115間の空隙よりも小さいものが被検体として繊維状物質115間を通過していく。これにより、フィルター部114は、溶液中の被検体とろ過物とを分離することができる。ただし、繊維状物質115間の空隙よりも大きいものであっても、その溶質が容易に変形できるものであれば、被検体として抽出することが可能である。
図4は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの繊維状物質の直径分布を示す図である。なお、繊維状物質115の直径分布は、走査型電子顕微鏡にて繊維状物質115を測長し算出した。
図4に示すように、繊維状物質115はその直径分布の極大値が一つであり、直径にばらつきがなく、直径の大きく異なる複数の繊維状物質115が含まれないことが分かる。
また、このように、繊維状物質115の直径が一定であれば、フィルター部114の空隙の面積が一定に保持される。このため、繊維状物質115の直径を図4のように制御することで、フィルター部114のどの位置においても安定したフィルタリング効果を有する。
直径の大きく異なる繊維状物質、すなわち、太い繊維状物質と細い繊維状物質とを混合してフィルター部を形成させた場合では、それらの繊維状物質が上手く分散していない時に、大きな空隙を形成させる場合がある。そのように形成された大きな空隙が連続している場合、分離能が低下する。しかし、直径にばらつきがない極細の繊維状物質115によりフィルター部114が形成されていることによって、連続的につながった大きな空隙を形成しにくくなる。その結果、均一的な大きさの空隙を形成させることができる。
図5は、本実施の形態のフィルターデバイスの要部拡大SEM写真を示す図である。図3、図5に示すように、繊維状物質115がそれぞれ湾曲し、互いに絡み合っていることによって、第一の流路113内において、さまざまな方向からの隙間が埋まりやすいようにフィルター部114が形成されている。また、アスペクト比の高い繊維状物質115が互いに絡み合うように密集してフィルター部114が形成されている。そのために、繊維状物質115が多方向に空隙を有する。これにより、様々な角度からのろ過物を吸着させることが可能となり、フィルターデバイス100の信頼性を向上することが可能となる。
複数の繊維状物質115は、互いに絡み合うように密集し形成されているものだけでなく、図5に示すように、一本の繊維状物質115が屈曲することによって、一部が丸くなったものが混在して形成されていてもよい。このような構造を持つことによって、フィルター部114の強度が向上する。
なお、図5に示すように、繊維状物質115には、屈曲部、特に鋭角の屈曲部を複数持っているもの、コイル状のものも含まれる。繊維状物質115は、このような構造を持つことによって、屈曲部分において、ろ過物を捕捉させることが可能となる。
図6は、本実施の形態のフィルターデバイスの要部拡大SEM写真を示す図である。図6に示すように、複数の繊維状物質115は枝分かれし、枝分かれ部116を形成させていることが好ましい。特に複数の方向へ枝分かれを形成させていることが好ましい。枝分かれ部116において、ろ過物を捕捉させることが可能となる。
このように、複数の繊維状物質115は、互いに絡み合うように密集し形成されているものだけでなく、自由な方向へ枝分かれしているものが混在して形成されていてもよい。複数の繊維状物質115が互いに絡み合い、もしくは枝分かれをすることで、複数の繊維状物質115から形成されるフィルター部114が強固に構成される。
また、図6に示すように、繊維状物質115aと枝分かれ部116より成長した繊維状物質115bとからなる鋭角の空隙は、その空隙面が第一の流路113の上流方向(図1の第一のポート112の方向)に対向して形成されていることが好ましい。上記構成によって、第一の流路113を流れるろ過物が、鋭角の空隙に捕捉されやすくなり、フィルタリング効果を向上することができる。
図7Aは、本実施の形態におけるフィルターデバイスの要部拡大SEM写真を示す図、図7Bは、本実施の形態におけるフィルター部の空隙の形状の一例を示す図である。
図7Aに示すように、繊維状物質115と繊維状物質115とからなる空隙のアスペクト比が大きいことが好ましい。空隙のアスペクト比の算出は、画像解析装置などの装置を用いて繊維状物質115によって形成された空隙の二次元形状を読み取ることによって行われる。そして、図7Bに示すように、空隙内の面積が最も大きくなるような四角形を読み取る。そのときの長辺をA、短辺をBとするとき、A/Bがアスペクト比として算出できる。なお、図7Bに示すように、近接する空隙の内周線が100nm以下の場合は、被検体を通すことが不可能であるため、閉じた空間であると仮定する。また辺の長さはA>Bである、少なくともBは500nm以上としなければならない。
また、例えば、溶液として血液あるいは赤血球を含む生体由来溶液を用い、赤血球を被検体対象として抽出するようにフィルターデバイス100を用いる場合、球体形状の白血球に比べ扁平形状でかつ変形能の大きい赤血球のみがアスペクト比の大きい空隙を通り抜けることが可能となる。従って、繊維状物質115と繊維状物質115とからなる空隙の形状は、円形や正方形のようなアスペクト比が1に近いものよりも、楕円形や長方形のようなアスペクト比が1よりも大きいものの方が好ましい。空隙をこのような形状にすることで、白血球と赤血球をより確実に分離することができる。より好ましくは、繊維状物質115と繊維状物質115とからなる空隙のアスペクト比は2以上であることが好ましい。
なお、フィルター部114の、繊維状物質115と繊維状物質115とからなる空隙の大きさは、3μmから6μmであることが望ましい。例えば、溶液として血液あるいは赤血球を含む生体由来溶液を用い、赤血球を被検体対象として抽出するようにフィルターデバイス100を用いる場合、赤血球の大きさは直径が7μmから8μmであり、赤血球はそれ自身の直径の半分以下の径の狭い毛細血管にも入り込み通過することができる。白血球の大きさは6μmから30μmの球体形状であり、扁平形状の赤血球よりも変形性は小さい。空隙の大きさが、3μmから6μmの領域では、赤血球のみを通過させることが可能となる。空隙の大きさが6μmよりも大きい場合は、白血球もフィルター部114を通過してしまうため好ましくない。
第一の流路113に備えられた繊維状物質115は、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、といった無機酸化物からなり、それぞれの繊維状物質の太さは、0.01〜1μm程度である。
また、繊維状物質115は無機酸化物からなるため、耐熱性、耐薬品性に優れるので、高分子材料では耐えられない温度や、薬品であっても使用可能となる。
なお、繊維状物質115は、酸化珪素を主成分とした酸化物からなり、好ましくはアモルファス状態の二酸化シリコンからなることが好ましい。
アモルファス状態の二酸化シリコンからなる繊維状物質115は、単結晶の二酸化シリコンからなる繊維状物質に比べ高い柔軟性を有するため折れにくい。
さらに二酸化シリコンは、生体適合性が高く、化学的、熱的に安定な材料であるため、表面処理も行いやすい。
また、試薬をフィルター部114に塗布させるためには有機溶剤や高温での乾燥処理を伴うケースも存在する。フィルター部114が二酸化シリコンからなる繊維状材料の場合、耐薬品性に優れるため、様々な性質の試薬を塗布することができる。さらに、二酸化シリコンからなる繊維状材料は、耐熱性に優れるため、高温処理時にフィルター部114の形状が溶融し破損することなく、試薬を塗布することができる。このように、二酸化シリコンからなる繊維状材料の場合、有機ポリマーからなる繊維状材料に比べて耐薬品性および耐熱性に優れるため、吸着物質の塗布・固着が容易となる利点も有する。
二酸化シリコンの変形のしにくさを表す物性値の一つであるヤング率(縦弾性係数)は30〜75GPa程度と、高分子系のヤング率である0.01〜5GPaよりも高い。そのため、溶液の流れ等の外力が印加されても変形しにくいため、空隙構造がフィルタリング時にも維持される。その結果、溶液の流速等に依存しない安定的なフィルタリングが可能となる。
ここで、第一のポート112及び第一の流路113は、基板111にエッチング法などにより微細加工を施した溝を形成することにより構成される。基板111は、例えば、ガラスやシリコン、熱酸化SiO2、ポリシリコン、アモルファスシリコンなどの無機素材で形成することができる。あるいは、基板111は、ポリジメチルシロキンサン(PDMS)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状ポリオレフィンなどの樹脂や、それらの樹脂とガラスとの複合材料からも成形することができる。また、使用した基板111が疎水性の材料である場合は、親水化処理などの表面処理を施すことが好ましい。
第一の流路113の幅は、目的とする物質を抽出させるために適宜調整することができる。本実施の形態のフィルターデバイス100を全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液から赤血球を分離抽出するために用いる場合は、第一の流路113の幅は、10〜100μm程度が赤血球抽出の迅速性の観点から好ましい。
次に本実施の形態におけるフィルターデバイス100を用いて全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液から赤血球を抽出する方法について説明する。
第一のポート112にサンプルとなる全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液を投入すると、投入された全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液は徐々に第一の流路113に流れていく。そして、第一の流路113内の、フィルター部114を全血が流れることによって、白血球は第一の流路113の第一のポート112に近い位置に捕捉される。ここで、フィルター部114には、無機酸化物からなり、その直径分布の極大値が一つである複数の繊維状物質115により3〜6μmの空隙が形成されている。一方、赤血球は第一の流路113を徐々に流動していき、最終的に白血球とは分離した状態で第一の流路113内にとどまる。その結果、赤血球と白血球とを分離、抽出することができる。
これは、3〜6μmの大きさの空隙を有したフィルター部114に向かって全血を流した場合に、白血球は変形が困難でその場にとどまり、一方で、赤血球は変形容易のため空隙をすり抜けていくことによる。フィルター部114に形成された空隙が6μmよりも大きい場合は、白血球もフィルター部114を通過してしまうため好ましくない。
本実施の形態のフィルターデバイス100を用いることによって、物質が含まれた溶液から特定物質のみを抽出させることが可能となる。特に、フィルターデバイス100は、直径分布にばらつきの少ない繊維状物質115からなるフィルター部114を有することによって、フィルター部114のどの位置においても安定したフィルタリング効果を有する。
フィルター部114は、その厚みが1mm以下であっても、繊維状物質115が上述の形状を有することにより、小型で十分な分離性能を有することができる。なお、フィルター部114は、その厚みが1mmよりも厚い場合は、小型化が困難となる。
第一のポート112を、その容量が少なくとも2mm3程度の大きさにすることにより、約2マイクロリットルの全血から約1000万個の赤血球を抽出することができる。
そして、このように全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液から赤血球のみを抽出させることによって、赤血球のみを対象としたギムザ染色を迅速かつ容易に行うことができる。これにより、マラリア原虫の核酸染色および検出において、全血に元々存在する白血球の核酸を染色して誤判定につながることを抑制できるため、測定精度を向上することができる。このように、高精度に抽出された赤血球を用いた高精度な測定を実現可能とすることで、自覚症状のない段階からマラリア感染などの感染症発症の有無を確認することが可能となり、感染症の早期発見につなげることができる。
また、全血から赤血球を分離するために遠心分離を行う場合は、少なくとも検査に必要とされる全血がより多く必要となったり、あるいは全血を溶媒などで希釈して容量を増大させてから遠心分離を行うために処理工程が多くなったりすることがあった。しかしながら、本発明のフィルターデバイスを用いれば遠心分離のような大掛かりな装置を用いる必要がないので、サンプル血液を多く採取する必要がない。したがって、指先などからわずか1マイクロリットル程度のサンプル血液を採取し、第一のポート112に注入することによって赤血球のみを用いて簡単に、さらに短時間で計測することができる。
さらに、遠心分離機のような大掛かりで高価な装置を必要としないので、家庭や空港、港においての簡易検査に適する。
なお、本実施の形態ではフィルター部114が第一の流路113の全体に形成される構成としたが、少なくとも第一の流路113の一部分に設けられていればよい。また、第一のポート112と第一の流路113との接続部より少なくとも500マイクロメートル以上に渡ってフィルター部114を設けていることが望ましい。
図8は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの上面図である。図8に示すように、フィルターデバイス100は、第一の流路113内にフィルター部114(114a、114b、114c)が複数ヶ所に形成された多段フィルターを備えてもよい。
さらに、複数ヶ所に形成されたフィルター部114(114a、114b、114c)は、それぞれのフィルター部114を構成する複数の繊維状物質の直径分布の極大値は一つだが、複数の繊維状物質からなる空隙は、それぞれのフィルター部114で異なり、第一の流路113の下流にいくに従って狭くなっているとなおよい。すなわち、フィルター部114は、フィルター部114a、フィルター部114b、フィルター部114cとだんだんと第一の流路113の下流にいくに従って空隙が狭くなっていることにより、目詰まりを防止しながら段階的にフィルタリング性能を向上させることが可能となる。
あるいは、一つのフィルター部114で、下流にいくに従って空隙が狭くなっているように形成されていても同様の効果を奏することが可能である。フィルター部114の上流でまず大きな物質を捕捉することによって、フィルター部114の下流に大きな物質が来なくなるので、目詰まりしにくくなる。
なお、本実施の形態では第一の流路113は、基板111上に流路を形成させる例で説明したが、必ずしも基板111上に流路を形成する必要はない。第一の流路113は、キャピラリ形状(筒状)となっており、第一の流路113の内壁部全面にフィルター部114が形成されている場合であっても実施することが可能である。
図9は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの上面図である。図9に示すように、基板111上に第一のポート112とフィルター部114が形成された第一の流路113とからなるフィルターデバイス100をそれぞれ独立させてアレイ状に形成させてもよい。このようにすると、複数の同様の操作を一度に行うことができるため、特定物質抽出における操作速度が向上し望ましい。また一度に複数の測定を行うことができ、測定時間の短縮化にもつながる。
なお、本実施の形態では、全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液から赤血球を抽出する方法について説明したが、本実施の形態のフィルターデバイス100はこれに限らず、マイクロリアクター、ケミカルチップ、バイオチップ、Lab−on−a−chip、ナノチップ等の一部において、溶液から特定物質である被検体のみを抽出するために用いることができる。
(実施の形態2)
以下、本実施の形態におけるフィルターデバイスについて図面を用いて説明する。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。本実施の形態が、実施の形態1と異なる点は特定物質を抽出するための第二のポート217を構成している点である。
図10は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの上面図である。本実施の形態のフィルターデバイス200は、第二のポート217を備えている。第二のポート217は、第一の流路213につながり溶液から被検体のみを抽出する。また、第一の流路213には、第二の流路218が備えられている。第二の流路218は、第一のポート212と第二のポート217との間に接続され、第三のポート219から緩衝液を流す。
第二の流路218は、基板211にエッチング法などにより微細加工を施した流路溝を形成することにより構成できる。基板211は、例えば、ガラスやシリコン、熱酸化SiO2、ポリシリコン、アモルファスシリコンなどの無機素材で形成することができる。あるいは、基板211は、PDMSやポリプロピレン、またはポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレンなどの樹脂で成形することもできる。
次に、本実施の形態におけるフィルターデバイス200を用いて、全血あるいは赤血球を含む生体由来溶液から赤血球を抽出する方法について説明する。
第一のポート212にサンプルとなる血液を注入すると、注入された血液は徐々に第一の流路213に流れていく。ここで、白血球は第一の流路213の第一のポート212に近い位置に捕捉される。一方、赤血球は第一の流路213を徐々に浸透していき、白血球とは分離した状態で第一の流路213内にとどまる。
繊維状物質215により形成されたフィルター部214から白血球が吸着している部分をさけて赤血球を抽出させるために、第三のポート219から緩衝液を流し込む。緩衝液は第二の流路218から赤血球がとどまる第一の流路213のフィルター部214に流れ込み、緩衝液と共に赤血球が第二のポート217に向かって流れ出す。第二のポート217から緩衝液と共にこの赤血球を取り出すことによって、別の感染症検査キットを用いてギムザ染色などにより感染症の有無、程度および種類などの解析を行うことができる。
このように、第一の流路213内にろ過物をとどめたまま、第二のポートへと被検体を抽出することによって、より効率的に検査や反応を行うことが可能となる。
なお、被検体を第二のポート217から抽出し別の検査キットで検査する方法でなくとも、第二のポート217内で直接反応を行うことも可能である。例えば、赤血球の検査の場合であれば、第二のポート217に予め染色液を入れておいてもよい。また、タンパク質、DNAなどの検査の場合であれば、第二のポート217に予め抗体を配置させておいてもよい。
なお、反応の観察方法としては、蛍光顕微鏡での観察には限定されない。例えば、第二のポート217を反応場とし、反応場の両脇に入出力電極を備えたSAWセンサを形成する。そして、第二のポート217内に被検体がある場合とない場合での周波数差を観測することによって観察してもよい。
なお、第二の流路218は、第一の流路213の第一のポート212と第二のポート217との中間部あるいは、中間部と第二のポート217との間に接続されるように設けることが望ましい。
なお、本実施の形態では緩衝液を流すための第三のポート219を用いて説明したが、第三のポート219は必ずしも形成する必要は無く、緩衝液を直接、第二の流路218に流し込んでもよい。
(実施の形態3)
以下、本実施の形態におけるフィルターデバイスについて図面を用いて説明する。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。本実施の形態が、実施の形態1と異なる点は、キャピラリ内に貫通孔を有するフィルターチップを形成している点である。
図11は本実施の形態におけるフィルターデバイスの斜視図、図12は同断面図である。図11に示すように、本実施の形態のフィルターデバイス300は、キャピラリ320と、フィルターチップ321とからなる。フィルターチップ321は、キャピラリ320の内部の一端に、キャピラリ320内に流れる溶液が接するように設けられている。図12に示すように、このフィルターチップ321は、板状の薄板322と、複数の貫通孔325とを備えている。複数の貫通孔325は、この薄板322の第一の表面323と第一の表面323に対向する第二の表面324とを貫通する。この第一の表面323と、複数の貫通孔325の第一の表面323に開口された開口部の上方とを被覆するように、フィルター部314が備えられている。フィルター部314は、無機酸化物からなる繊維状物質315からなる。
このフィルター部314は、複数の繊維状物質315が絡みあって形成されている。溶液中に含まれる固体物質のうち、その最大直径が繊維状物質315間の空隙よりも大きいものがろ過物として繊維状物質315により捕捉され、繊維状物質315間の空隙よりも小さいものが被検体として繊維状物質315間を通過していく。このことにより、溶液中の被検体とろ過物とを分離することができる。ただし、その最大直径が繊維状物質315間の空隙よりも大きい固体物質であっても、その溶質が容易に変形できるものであれば、被検体として抽出することが可能である。さらに、フィルター部314の下方に備え付けられた貫通孔325を通過する際にその変形性を利用できるため、被検体が貫通孔325よりも大きい場合でも貫通孔325を通過することが可能となる。
繊維状物質315は、その直径分布の極大値が一つであり、直径にばらつきがなく、直径の大きく異なる複数の繊維状物質315が含まれない。また、このように、繊維状物質315の直径が一定であれば、空隙の面積が一定に保持される。このため、繊維状物質315の直径を制御することで、フィルター部314は、どの位置においても安定したフィルタリング効果を有する。
貫通孔325は、キャピラリ320の流れる溶液の流れ方向と平行になるように形成されていることが流路抵抗の発生を抑制できるため好ましい。
キャピラリ320は、例えば、ガラスやシリコン、熱酸化SiO2、ポリシリコン、アモルファスシリコンなどの無機素材で形成することができる。あるいは、キャピラリ320は、ポリジメチルシロキンサン(PDMS)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状ポリオレフィンなどの樹脂や、それらの樹脂とガラスとの複合材料で形成することができる。あるいは、キャピラリ320は、ゴムや、ゴムとガラスとの複合材料からも成形することができる。
なお、本実施の形態においてフィルターチップ321はキャピラリ320の一端に備えたが、キャピラリ320に流れる溶液と接するように形成されていればよい。貫通孔325がキャピラリ320に流れる溶液の流れ方向と平行になるように、キャピラリ320に流れる溶液の流れ方向と任意の角度を有した方向に薄板322が形成されるようにフィルターチップ321が備えられていることがより好ましい。
なお、任意の角度とは、直交していることが望ましいが、キャピラリ320に流れる溶液が薄板322の第一の表面323から第二の表面324に向かって移動する際には、必ず繊維状物質315間及び貫通孔325内を通らなければ移動出来ないように薄板322が構成されていなければならない。
ここで、溶液の流れ方向とは、流体の平均としての流れ方向のことを指す。特に、図12に示すように、キャピラリ320の壁面が互いに平行でキャピラリ320の流路幅が一定な場合は、溶液の流れ方向とは壁面と平行な方向のことを示す。一方、キャピラリ320の壁面が互いに平行ではなく、キャピラリ320の流路幅が一定でない場合、すなわち溶液の流れる方向に沿って徐々に狭くなる(図示せず)、あるいは溶液の流れる方向に沿って徐々に広くなる(図示せず)場合は、溶液の流れ方向は、流体の平均としての流れ方向を示す。
なお、本実施の形態において、フィルターチップ321はキャピラリ320の一端に一つ備えたが、図13に示すように、キャピラリ320の内部に複数個のフィルターチップ321(321a、321b、321c)を備えてもよい。
さらに、複数個備えられたフィルターチップ321(321a、321b、321c)は、それぞれのフィルター部314を構成する複数の繊維状物資315からなる空隙が、フィルターチップ321のそれぞれで異なり、キャピラリ320の下流にいくに従って空隙が狭くなるとなおよい。すなわち、フィルターチップ321は、フィルターチップ321a、フィルターチップ321b、フィルターチップ321cとだんだんとキャピラリ320の下流にいくに従って空隙が狭くなることにより、目詰まりを防止しながら段階的にフィルタリング性能を向上させることが可能となる。
あるいは、一つのフィルター部314において、下流にいくに従って空隙が狭くなるように形成されていても同様の効果を奏することが可能である。
フィルター部314の上流で、まず、大きな物質を捕捉することによって、フィルター部314の下流に大きな物質が来なくなるので、目詰まりしにくくなる。
また、フィルターチップ321は貫通孔325以外の部分でキャピラリ320にリーク無く接合されていればよく、キャピラリ320と直接接合されていても、接着層を介して接合されていてもよい。
フィルターチップ321を作製するための基材として、シリコン層がシリコン(100)からなるSOI(Silicon on Insulator)基板を用いることが望ましい。SOI基板は、シリコン層−二酸化シリコン層−シリコン層の3層構造からなる。SOI基板を用いた場合、図27に示すように、表面に二酸化シリコン層330を形成したシリコン層329からなる薄板322を形成することができる。
フォトリソグラフィーおよびエッチング技術を用いてSOI基板を微細加工することによって、一括して多数個の高精度なフィルターチップ321を作製することができるため、SOI基板を選択することが好ましい。SOI基板はエッチングプロセスの際、二酸化シリコン層330がエッチングストップ層としての役割を果たすことができるため、高精度なフィルターチップ321を作製することができる。また、この二酸化シリコン層330は親水性に富むことから測定時における気泡の発生の抑制と気泡の除去が容易となる。その結果、高精度な測定を実現することができる。
この二酸化シリコン層330の厚みは、エッチングストップ層として求められる厚みと生産性の観点から、0.5〜10μmが好ましい。
なお、フィルターチップ321には薄板322を保持するための保持部326を備えることが好ましい。SOI基板を用いた場合、シリコン層331により保持部326を形成することができる。この貫通孔325を有する薄板322は数μmの薄さとなることがあり、製造工程におけるハンドリングと実装性を考慮すると、保持部326が形成されていることが好ましい。
なお、保持部326を備えた場合は、図14のフィルターチップ321の上面図に示したように、保持部326の内壁に少なくとも一つ以上の突起部327を設けることが望ましい。あるいは、図15のフィルターチップ321の上面図に示したように、保持部326の内壁に少なくとも一つ以上の鋭角の窪み部328を設けることが望ましい。保持部326の内壁に突起部327や鋭角の窪み部328を備えることによって、保持部326に溶液が導入された際に、溶液中の気泡が突起部327あるいは鋭角の窪み部328を伝って流れやすくなるので、フィルターチップ321内部に気泡が残留しにくくなる。このように気泡を抑制することができるので、フィルタリング精度を向上することができる。
ただし、この保持部326は不可欠な構成要件ではなく、フィルターチップ321の形状と構造によって所定の寸法に適宜選択することが好ましい。この保持部326の形成には、SOI基板をエッチングする方法や貼り合わせなどが考えられるが、プロセスの一貫性からSOI基板からのエッチングを用いるのがよい。例えば、SOI基板のシリコン層331をフィルターチップ321の保持部326として用いることによって、機械的強度を保持する役割と液体を貯留しておくための機能を果たすことができる。
薄板322の厚みを大きくすれば、構造的に弱くなりやすい薄板322は割れにくくなるが、加工に必要な時間が長くなるために、工程のスループットの観点から薄板322は薄いほうが望ましい。また、薄板322の厚みを大きくすることで、貫通孔325の長さが長くなる。そのため、被検体が通りにくくなるので、フィルターチップ321通過後に採取したい被検体の収率が低下する。そのため、薄板322の厚みは、望ましくは、5〜100μm程度である。
ここでは、フィルターチップ321を作製するための基材として、シリコン層329がシリコン(100)からなるSOI基板を選択したが、シリコン(110)基板、シリコン(111)基板およびその他の面方位を有したシリコン基板、ガラス基板、フィルム樹脂等の他の基板を用いることも可能である。
つまり、フィルターチップ321を作製するための基材としては、シリコンと二酸化シリコンのように、エッチングレート差が大きな2種類以上の材料が積層された構造を用いることが望ましい。
加工性や汎用性の観点から、シリコン(100)を含む基板を用いることが好ましい。シリコン(100)を含む基板とは、少なくともシリコン(100)が含まれていればよく、シリコン(100)単体で構成されているものだけではない。シリコン層329がシリコン(100)を用いたSOI基板、一部または全体にボロン等の元素をドーピングされた基板、さらには、ガラス等にシリコン(100)が貼りあわされた基板などを用いてもよい。
なお、エッチングストップ層として機能する二酸化シリコン層は、熱酸化により形成した二酸化シリコン層が一般的ではあるが、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法やCSD(Chemical Solution Deposition)法などの他の方法により形成した二酸化シリコン層でもよい。また、二酸化シリコン層は、リンをドープしたいわゆるPSG(Phosphorus Silicon Glass)層、ボロンをドープしたいわゆるBSG(Boron Silicon Glass)層、あるいはリンとボロンをドープしたBPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)層などのドープトオキサイド層でもよい。また上記のような二酸化シリコンを主成分とする層に限らず、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウムなどのシリコンとのエッチングレート差の大きい、無機酸化物もしくは無機窒化物の層ならばよい。
貫通孔325の数は任意の数を選択することができる。これは、貫通孔325を形成する前に形成したレジストマスクにおいて、マスクホールの個数を変更することで、同様のプロセスを用いて作製が可能である。
貫通孔325の数が増加すると、被検体が通りやすくなるため、被検体量やフィルター時間を増やすことがなく、短時間で同量の試料をフィルターに通すことができる。このため、貫通孔325の数を増やすことは、フィルターの作業効率が向上するため好ましい。
なお、貫通孔325は複数設けられていることが望ましいが、少なくとも一つの貫通孔325が形成されていればよい。
なお、貫通孔325の直径は、溶液の流路抵抗の発生を抑制するのに適した直径に適宜調整して形成することが可能である。
例えば、溶液として血液あるいは赤血球を含む生体由来溶液を用い、赤血球を被検体対象として抽出するようにフィルターデバイス300を用いる場合、貫通孔325の大きさは直径3μm以上が望ましい。赤血球の大きさは直径が7μmから8μmであり、赤血球は自分の直径の半分以下の径の狭い毛細血管にも入り込み通過することができるが、3μm以下の貫通孔325では赤血球の通過効率が低下することがある。
貫通孔325の形状もまた、レジストマスク形成時におけるマスクホールの形状を変えることで、同様のプロセスを用いて作製が可能である。貫通孔325の形状は特に問わず、測定を行う被検体の種類、形状などによって、最適な形状を選択すればよい。
また、薄板322の第一の表面323における複数の貫通孔325の開口部の形状をハニカム状にすることが望ましい。これにより、薄板322の強度を損なうことなく、単位面積に対してより多くの貫通孔325を形成することが可能となる。
また、薄板322の第一の表面323における貫通孔325の開口部の形状を円形状にすることが好ましい。貫通孔325の開口部の形状を円形状にすると、被検体が貫通孔325を通過する際に、貫通孔325にひっかかることなく滑らかに貫通孔325を通過することが可能となる。例えば、赤血球を被検体として抽出させる場合は、赤血球は状態によっては柔軟性や弾力性が低くなるが、貫通孔325の開口部の形状を円形状にすることで、第二の表面324の下方から等方的に吸引させることができる。このため、被検体の特定の方向のみに力が生じてしまうのを抑制でき、結果として被検体へのダメージが小さくなり、貫通孔325を通過しやすくなる。
貫通孔325が複数形成されている場合、最近接する貫通孔325の中心間の距離は被検体の形状に応じて、被検体のもっとも長い寸法に合わせて選択すればよい。例えば、血液を用いて、被検体として赤血球を対象としてフィルターデバイス300を用いる場合は、貫通孔325の間隔は、10μm以上が抽出成功率の観点から望ましい。一般的に、赤血球の大きさは、10μm以上であり、貫通孔325の間隔が10μmより小さいと赤血球同士の干渉が生じるために抽出の成功率が減少する。細胞を被検体として用いる場合は、被検体の種類や培養条件等にもよるが、一般的に細胞の大きさは20μm程度であるため、貫通孔325の間隔は20μm以上が望ましい。
一方、貫通孔325の間隔を大きくすることで、構造的に弱い部分が密集しにくくなるため、フィルターチップ321の信頼性が向上する。
ただし、貫通孔325の間隔を大きく設定した場合において、被検体の抽出率やフィルタリング速度を向上させるためには、多くの孔数が必要となる。したがって、貫通孔325の形成に必要な領域が大きくなり、センサの小型化が困難になることや、低コスト化が困難になる等の課題を生じる。本実施の形態では、貫通孔325の間隔を十分大きくすることで被検体同士の干渉を防ぐために、貫通孔325の間隔を50μmとした。
また、薄板322としてシリコン単結晶等の特定に弱い方向を持つ材料を用いると、特定に弱い方向に貫通孔325が並んだ場合でも、構造的に弱くなることがある。そのため、最近接の貫通孔325がその特定の方向に並ばないように貫通孔325を配置するのが望ましい。ここで、特定の弱い方向とは、シリコン単結晶の場合、へき開面のことをいい、へき開面に沿わないように貫通孔325を配置すればよい。なお、貫通孔325は少なくとも最近接する貫通孔325の中心を結ぶ線分がへき開面に沿わないように配置されていれば、構造的な強度を保持することができる。
貫通孔325の間隔は等間隔がよく、配置は左右対称が望ましい。より望ましくは、薄板322の中心点において、貫通孔325は点対称に配置されていることが望ましい。
この場合、例えばキャピラリ320の一端から吸引する場合に、吸引する圧力に対称性が生まれるため、被検体が均一に貫通孔325を通過する。そのため、特定の場所に被検体が密集せず、それによってフィルター部314が詰まることが無くなり、フィルターチップ321の信頼性が向上する。
フィルターチップ321において、貫通孔325の密度を高くするためには、複数の貫通孔325の開口部の形状は正多角形となる形状が適している。
繊維状物質315は、薄板322に直接接合していることが望ましい。ここで、「直接接合」とは、薄板322上に繊維状物質315が直接形成され、薄板322と繊維状物質315を構成する原子または分子が直接結合している状態を指し、通常は分子間が共有結合をしている状態である。例えば、薄板322の表面にシリコンを用いた場合に、そのシリコンを原料として繊維状物質315を形成させる。これにより、薄板322の珪素原子と繊維状物質315中の珪素原子とが、繊維状物質315の形成雰囲気中の酸素分子を介して共有結合することにより直接接合を実現することができる。
繊維状物質315が互いに絡み合い、複数の枝分かれをしていることで、薄板322の第一の表面323に対しフィルター部314が強固に構成される。さらに、繊維状物質315がそれぞれ湾曲し、絡み合っていることによって、薄板322の第一の表面323の貫通孔325の開口部の上方を含めて、さまざまな方向からの隙間が埋まりやすいようにフィルター部314が形成されている。
繊維状物質315と繊維状物質315との間の空隙はその最短距離が、ろ過物の大きさよりも小さいものでなければならない。
例えば、溶液として血液あるいは赤血球を含む生体由来溶液を用い、赤血球を被検体対象として抽出するようにフィルターデバイス300を用いる場合、フィルター部314は3μmから6μmの空隙を有していることが望ましい。赤血球の大きさは直径が7μmから8μmであり、赤血球自身の直径の半分以下の径の狭い毛細血管にも入り込み通過することができる。白血球の大きさは6μmから30μmの球体形状であり、扁平形状の赤血球よりも変形性は小さい。フィルター部314の空隙の大きさが3μmから6μmの領域では、赤血球のみを通過させることが可能となる。空隙の大きさが6μmよりも大きい場合は、白血球もフィルター部314を通過してしまうため好ましくない。
なお、本実施の形態において繊維状物質315は、第一の表面323上と複数の貫通孔325の第一の表面323に開口された開口部の上方とを被覆するように形成されていることとしたが、図16に示すように、少なくとも第一の表面323あるいは第二の表面324のいずれか一方に備えられていればよい。第二の表面324上にのみ繊維状物質315が形成されていても同様の効果を奏する。なお、この時、第一の表面323は二酸化シリコン層330よりなることが好ましい。
また、図17に示すように、第一の表面323と第二の表面324のいずれの表面にも繊維状物質315が備えられていてもよい。
また、図18に示すように、貫通孔325の内部に繊維状物質315が備えられていてもよい。 あるいは、第一の表面323及び/あるいは第二の表面324、及び、貫通孔325の内部に繊維状物質315が備えられていてもよい。なお、第一の表面323上に繊維状物質315が形成されない場合は、第一の表面323は親水処理を施している必要があり、二酸化シリコン層330よりなることが好ましい。
さらに、図19に示すように、さらに保持部326の表面に繊維状物質315が備えられていてもよい。
上記いずれの場合も、本実施の形態と同様の効果を奏する。
次に、フィルターデバイス300の製造方法について、まず、フィルターチップ321の製造方法について示す。
ここでは、薄板322の第一の表面323に繊維状物質315からなるフィルター部314を有したフィルターチップ321の製造方法について示す。
図20〜図27は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの製造工程を示す断面図である。
まず、図20に示すように、フィルターチップ321を作製するための基材として、シリコン層329がシリコン(100)面からなるシリコン層−二酸化シリコン層−シリコン層の3層構造のSOI基板を準備する。
そして、シリコン層329の表面(図20における下面)に第一のレジストマスク332を形成する。このとき、一枚の基板で複数のフィルターチップ321を同時に形成させる場合は、個々のフィルターチップ321に対して、所望の複数の貫通孔325の横断面と略同形状の複数のマスクホール333をパターニングしておく。
次に、図21に示すように、シリコン層329をマスクホール333側からエッチングして貫通孔325を形成していく。このときのエッチング方法としては、高精度な微細加工が可能であることからドライエッチングが望ましい。ドライエッチングを行う場合、アスペクト比の高い、すなわち孔径に対し奥行きの深い貫通孔325を形成するために、エッチングを促進するガス(エッチングガス)とエッチングを抑制するガス(抑制ガス)とを交互に用いる。本実施の形態では、エッチングガスとしてSF6、抑制ガスとしてC4F8を用いる。ドライエッチング工程としては、外部コイルの誘導結合法によりプラズマを生成し、そこにエッチングガスとしてSF6を導入するとFラジカルが生成する。そして、生成したFラジカルがシリコン層329と反応してシリコン層329が化学的にエッチングされる。
このとき、シリコン層329に高周波を印加すると、シリコン層329にはマイナスのバイアス電圧が発生する。すると、エッチングガスに含まれるプラスイオン(SF5 +)がシリコン層329に向かって垂直に衝突し、このイオン衝撃によってシリコン層329が物理的にエッチングされる。このようにして、ドライエッチングがシリコン層329内を垂直方向に進行する。
一方、抑制ガスC4F8を用いる際には、シリコン層329に高周波を加えないでおく。そうすることによって、シリコン層329にはバイアス電圧が全く発生しない。したがって、抑制ガスC4F8に含まれるCF+が、偏向を受けることなくシリコン層329のドライエッチング穴の壁面に付着し、表面に均一なフロロカーボンからなる重合膜(図示せず)が形成される。
このフロロカーボン膜が、重合膜となってエッチングを抑制する。この重合膜は貫通孔325の壁面部分だけでなく底面にも形成される。貫通孔325の底面に形成された重合膜は、壁面に形成された重合膜に比較して、イオン衝撃により容易に除去されるため、エッチングは垂直方向に進む。このようなエッチングが繰り返し行われることによって、やがて二酸化シリコン層330の表面に到達し、エッチングの深さ方向への進行は二酸化シリコン層330の表出面でストップする。
なお、図21に示すように、貫通孔325の内部のシリコン層329と二酸化シリコン層330との境界付近に凹部334を設けることも可能である。二酸化シリコン層330は、前述したエッチング条件ではエッチングされにくい性質を有している。よって、エッチングが進んで、二酸化シリコン層330の表面に到達すると、前述のように、エッチングの深さ方向への進行は二酸化シリコン層330の表出面でストップする。
この後、さらにエッチングを行うと、表出した二酸化シリコン層330の表面にエッチングイオンが蓄積されていくことになり、エッチングイオンと二酸化シリコン層330の表面に蓄積したエッチングイオンとが反発し、エッチングイオンが横方向(水平方向)へと進行し始める。このため二酸化シリコン層330の近傍において、徐々にテーパ状に開口幅が広くなった凹部334を形成することができる。
このように、薄板322を、導電体であるシリコン層329と絶縁体である二酸化シリコン層330の積層構造とすることによって、二酸化シリコン層330の表面でエッチングが横方向(水平方向)へと進行しやすい状態となり、凹部334を形成することができる。
凹部334の深さは1μm程度である。この深さはエッチング時間によって制御することが可能である。
なお、エッチングガスとしては、SF6の他にCF4、抑制ガスとしては、C4F8の他にCHF3等を用いることもできる。
なお、このエッチングの方法によれば、シリコンは一般的にほぼ垂直にエッチングされるが、エッチング条件により、テーパを制御できる。ここでは、抑制ガス量を増加させるなど、エッチングの抑制が強い条件にすることでエッチング方向に向って広がっていく順テーパを形成することが望ましい。これにより、流路抵抗が低減し、流れが滑らかになる。
このエッチング方法を用いているかどうかは、スキャロップ形状を見れば判る。貫通孔325の内壁にはスキャロップと呼ばれる段差形状を生じる。スキャロップの段差は数nm〜数十nmのオーダーである。
なお、薄板322の貫通孔325の開口部には、窪み(図示せず)を設けてもよい。特に、ろ過物を保持する薄板322の貫通孔325の第一の表面323側に窪み形状を設けると、貫通孔325付近に被検体やろ過物を密集させやすくなるため、被検体の抽出効率、すなわちフィルター速度が向上する。
また、繊維状物質315からなるフィルター部314が形成されていない薄板322の貫通孔325の第二の表面324側に窪み形状を形成すると、流路抵抗を抑制することが可能となる。そのため、フィルター部314での目詰まりが起こりにくくなるため、フィルターの作業効率が向上し、結果として被検体の収率が向上する。
上述した窪みの形成には、量産性の観点から、アルカリ溶液によるウェットエッチングを用いるのが好ましい。この場合、エッチングの速度は、一般的にシリコン(100)面>シリコン(110)面>>シリコン(111)面であるため、ピラミッド形状の窪みが形成される。
また、窪みの形成には、SF6、CF4、Cl2、XeF2などのシリコンをエッチング可能なガスエッチングを用いてもよい。この方法によれば、窪みの形状を様々に制御することができる。
なお、第一のレジストマスク332の除去はこの時点で行ってもよいが、後に形成する第二のレジストマスク335と同時に除去する方が効率も良く好ましい。
次に、図22に示すように、シリコン層331表面(図22における上面)に、第二のレジストマスク335を形成する。その後、シリコン層329をエッチングした時と同じエッチング条件にてシリコン層331をエッチングすることによって保持部326を形成する。
このエッチングの深さ方向への進行も、二酸化シリコン層330の表出面でストップする。
なお、この時、特に、エッチングとデポジションのサイクルを繰り返してエッチングを行っているため、保持部326の内壁面は凹凸が形成されたスキャロップ形状(図示せず)になる場合がある。スキャロップの段差は数nm〜数十nmのオーダーである。
次に、図23に示すように、二酸化シリコン層330を上面側からドライエッチングする。このドライエッチングに用いるエッチングガスとしては、例えば、CHF3とArの混合ガスを用いる。CHF3とArの混合ガスは、プラズマ励起されたArガスにより直進性の高いエッチングガスとなる。Arイオンのようなスパッタを行うエッチング成分を多く使用することによって、保持部326の内部より直進して進入し、絶縁体である二酸化シリコン層330のみをエッチングすることができる。また、CHF3は二酸化シリコン層330の表面ではフロロカーボンからなる重合膜が形成されにくいが、シリコン層331の表面ではフロロカーボンからなる重合膜を形成する。シリコン層331表面に形成された重合膜によって、シリコン層331表面でのエッチングが進みにくくなり、二酸化シリコン層330のみをエッチングしやすくなる。
なお、この際に用いるエッチングガスとしては、CHF3とArの混合ガスの他にもCF4/H2やCHF3/SF6/Heなどを用いることもできる。
以上説明してきたように、シリコン層329、331と二酸化シリコン層330の二種類の材料の薄板322を積層体とすると、この二種類の材料が、同一のガスに対してそれぞれ異なったエッチングレートを有する。したがって、シリコン層329、331をエッチングする際には二酸化シリコン層330がエッチングされず、反対に、二酸化シリコン層330をエッチングする際にはシリコン層329、331がエッチングされない。このような性質を利用してエッチングすることによって、所望の貫通孔325の形状を容易に形成することができる。
なお、二酸化シリコン層330のエッチングには、HF、BHF、NH4F等を用いたウェットエッチングを用いてもよい。
そして、フィルターチップ321の第一の表面323上と複数の貫通孔325の第一の表面323に開口された開口部の上方とを被覆するように、繊維状物質315からなるフィルター部314を形成する。
繊維状物質315の形成方法としては、例えば、触媒層336を用いて、触媒層336を形成させた部分から繊維状物質315を形成させる方法がある。
図24に示すように、シリコン層329の第一の表面323すなわち貫通孔325の上方(図24における上面)より触媒層336を形成する。この時、第二のレジストマスク335が形成されている領域には、第二のレジストマスク335の上面に触媒層336が形成されることになる。触媒層336の厚みは一般的に100nm以下である。
触媒層336とは、例えば、Ptの他に、Fe、Co、NiまたはAu等の金属を用いることができ、特に金属の種類は限定されない。
なお、触媒層336を形成する方法としては、CVD法、スパッタリング法、CSD法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等の任意の方法を用いることが可能である。また、触媒層336は、有機物等の他の材料に分散された状態で存在していてもよい。
なお、触媒層336を形成させるのではなく、シリコン層329の繊維状物質315を形成させる面にあらかじめ触媒層336を注入させておいても構わない。この際、触媒材料は、シリコン層329に含有された形で存在している。これには、イオン注入法を用いるのが適している。イオン注入法とは、イオンを電気的に加速して個体にぶつけることで、特定の元素を基材内に注入する方法であり、深さ方向の濃度分布の制御性がよい。これにより、高精度に触媒を注入することができる。イオン注入以外にも、気相拡散あるいは、固相拡散といった熱拡散、プラズマによる注入法を用いてもよい。
触媒層336として、特に、Ptを用いた場合、高温下でもPt粒子の凝集が低減できる。繊維状物質315の直径は触媒層336の金属の粒径に依存するため、Ptを用いると、より微細な繊維状物質315を形成することができる。このため、フィルター性能が向上する。
繊維状物質315の形成方法として、VSD(Vaporized substrate deposition)法やVLS(Vapor Liquid Solid)法を用いた場合、繊維状物質315が形成された状態において、触媒材料は、主に繊維状物質315の先端や繊維状物質315と直接接合する基材の表面に存在する。これらをTEMなどの電子顕微鏡で観察することにより、触媒材料の判断が可能である。
次に、図25に示すように、第二のレジストマスク335を洗浄して剥離する。このとき、第二のレジストマスク335の上面に形成された触媒層336は、同時に洗浄される。これにより、シリコン層329の第一の表面323のみに選択的に触媒層336を形成することが可能となる。なお、この時、先に形成された第一のレジストマスク332も同時点で洗浄して剥離することができる。
なお、図26に示すように、フィルターチップ321はその周り、少なくとも、シリコン層329の下面及び貫通孔325の内壁面を、二酸化シリコン膜やシリコン窒化膜などの保護膜337で覆ってもよい。保護膜337の材料としては、任意のシリコン以外の材料であり、親水性の高い材料が望ましい。親水性の高い材料とは、表面に極性または電荷を有する材料のことを表す。
保護膜337でフィルターチップ321の周りを被覆することにより、親水性の向上およびフィルターチップ321の強度が増すことに加え、繊維状物質315のパターニング性を向上させることが可能となる。これは、繊維状物質315がシリコン上にのみ選択的に成長することが可能であるためである。
繊維状物質315をVSD法またはVLS法で形成する際に、保護膜337を用いると、繊維状物質315は、よりパターニング性が向上する。保護膜337の材料は、シリコンまたは一酸化珪素よりも蒸気圧の高い材料を用いることが望ましい。例えば、保護膜337の材料としては、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウムなどのシリコンとの蒸気圧差の大きい、無機酸化物もしくは無機窒化物ならばよい。これらを総合的に考慮すると二酸化シリコンを主成分とした材料を保護膜として用いるのが、望ましい。
なお、保護膜337として二酸化シリコン膜を用いた場合の形成方法として酸素ガスのみを導入し酸化させるドライ酸化を用いると生産性に優れるが、他の方法でも同様の効果が得られる。酸素ガスと水素ガスを1:2の割合で炉に送り込み、炉の導入口に近いところで水蒸気(H2O)を作る。そして、この水蒸気をシリコン表面に送り酸化させるウエット酸化や、HClあるいはCl2などのハロゲンを添加した雰囲気での酸化も使用することが可能である。これらの方法で、保護膜337として二酸化シリコン膜を形成した場合、結晶方位により二酸化シリコンの成長速度が異なるため、貫通孔325の開口部の形状は円形から徐々に角ばった形状となっていく。
なお、保護膜337としては、二酸化シリコン膜に限らず、リンをドープしたいわゆるPSG膜、ボロンをドープしたいわゆるBSG膜、あるいはリンとボロンをドープしたBPSGなどのドープトオキサイド膜でもよい。また、CVD法やスパッタ法やCSD法などの他の方法により形成した二酸化シリコン膜でもよい。
なお、保護膜337は貫通孔325の内壁部だけでなく、触媒層336が形成されていない部分、すなわち、後に繊維状物質315が形成される部分以外の場所に全体的に被覆されていても同様の効果を有する。
さらに、保護膜337が二酸化シリコン膜より形成された場合、保護膜337を軟化点以上の温度に熱処理することにより、保護膜337の表面が溶融し始め、表面が平滑化される(リフロー)。
このとき、貫通孔325の内壁の表面は通常のエッチングでは実現が困難な二乗平均粗さRq=5.0nm以下の非常に平滑性に優れた面となる。この二乗平均粗さRqは、表面粗さの分布を測定した際の、平均値から測定値までの偏差の二乗を平均した値の平方根で定義される。
熱処理を行い、貫通孔325の内壁の表面が平滑化されると、流路抵抗が小さくなるため、柔軟性や弾力性の低い被検体であっても貫通孔325を通過しやすい。
ドープされていない、熱酸化によって形成された二酸化シリコン膜の場合には、軟化温度が1160℃と比較的高いが、PSG膜の軟化点は1000℃前後、BSG膜やBPSG膜の軟化点は約900℃程度と軟化温度が低い。そのため、リフロー温度を低下させることができる。
PSG膜を用いる場合には、リン濃度が約6重量パーセントから約8重量パーセントである。BPSG膜を用いる場合には、ドーパント濃度は、ボロン濃度が約1重量パーセントから約4重量パーセント、および、リン濃度が約4重量パーセントから約6重量パーセントである。リン濃度が約7重量パーセントから約8重量パーセントより高くなると、酸化物中のリンと大気中の水分との間で反応する。また、ボロン濃度が約4重量パーセントより高くなると、高湿度においてガラスが不安定となる。
また、保護膜337として、CVD法により形成した二酸化シリコン膜を用いた場合には、軟化点が1000℃前後と、熱酸化により形成した二酸化シリコン膜よりも軟化点が低くなるため、約1000℃前後の熱で溶融させることができる。このため、省エネルギーかつ高精度なフィルターチップ321を形成できる。
さらに、CVD法により形成した二酸化シリコン膜は、400℃以上の温度において、重合物が膜表面での流動性による自己平坦化特性を併せ持つ。
CVD法で形成する際に用いる原料としては、TEOS−O3が特に自己平滑性に優れているが、SiH4−O2、TEOS−O2などのSiH4またはTEOSと酸化剤として作用するガスの組み合わせでもよい。
二酸化シリコン膜がCVD法により形成されたものか、熱酸化によるものかは、その屈折率あるいは密度を比較することで分かる。CVD法による二酸化シリコン膜は、その屈折率が約1.46であり、熱酸化による二酸化シリコン膜は、その屈折率が約1.48となる。なお、この屈折率は、波長が632.8nmのHe−Neレーザーを用い、エリプソメトリで測定した値である。
また、二酸化シリコン膜の密度は、直接測定することは困難な為、バッファードフッ酸(BHF)のエッチングレートから分析することができる。BHF(48%HFを10mlに対して、680mlのH2Oに11gNH4Fを加えた溶液から100ml取り出して加えた溶液)を用いた場合は、CVD法による二酸化シリコン膜は、そのエッチングレートが約20Å/minとなり、熱酸化による二酸化シリコン膜は、そのエッチングレートが約6.8〜7.3Å/minとなる。
フィルターチップ321を軟化点以上の温度に保持することによって、貫通孔325の形状は真円に近づくが、貫通孔325の形状は保持された温度および時間などの条件と、保護膜337の形成厚みとによって変化する。保護膜337の形成厚みが大きいほど、この傾向は強くなる。フィルターチップ321の保持された温度が高いまたは保持された時間が長い場合には、大きな形状変化を引き起こすため、貫通孔325は、ほぼ真円の形状となりやすい。一方、フィルターチップ321の保持された温度が低いまたは保持された時間が短い場合には、貫通孔325は熱処理前の形状が比較的保たれた形状となる。
次に、図27に示すように、VSD法を用いて、繊維状物質315からなるフィルター部314を形成する。
このとき、繊維状物質315は、触媒層336が形成されている場所に選択的に所望の位置にのみ形成される。繊維状物質315の厚みは、条件によって制御が可能であるが、一般的に1〜500μmである。
1000〜1500℃の高温かつ低酸素濃度での熱処理により、一酸化シリコンが蒸発した後に表面上に再付着して凝集し、二酸化シリコンが成長する。この時、一酸化シリコンはシリコン層329のシリコン表面に一体に広がるが、触媒層336が形成されている場所に選択的に再付着し、酸素と結合することによって、二酸化シリコンを主成分とした繊維状物質315が成長する。VSD法においては、基材より一酸化シリコンを形成させることが繊維状物質315を形成するために重要な要素である。
ここで、低酸素濃度とは、熱処理時の酸素分圧が低いことを示しており、雰囲気の圧力を大気圧より低くした減圧下であっても、他のガスによって置換されていてもよい。他のガスとは、例えば、N2、Ar、CO等であり、O2、O3、H2Oとは異なり、酸化性の低いガスである。なお、酸素分圧が低すぎると、一酸化珪素が生じることができなくなるので、望ましい酸素分圧は数千Paから10−2Paの範囲である。
ここでは、シリコンからなる薄板322の第一の表面323に繊維状物質315からなるフィルター部314を形成したフィルターチップ321の製造方法について説明した。しかしながら、熱処理の雰囲気を変えることで、図25のようにシリコン層329の上面にのみ繊維状物質315を形成することや、二酸化シリコン層330の上面のみに繊維状物質315を形成する(図示せず)ことを選択することができる。二酸化シリコン層330の上面のみに繊維状物質315を形成する場合は、図23の工程で行った二酸化シリコン層330のエッチングが不要となる。
例えば、二酸化シリコン層330の上面のみに繊維状物質315を形成する場合には、還元雰囲気により熱処理を行えばよい。還元雰囲気とは、NH3、H2、N2 +H2、CO、H2S、SO2、HCHO(ホルムアルデヒド)などのガスが存在する雰囲気のことを指す。
また、第一のレジストマスク332、第二のレジストマスク335およびその他のレジストマスクを形成する位置によって、触媒層336を形成する位置を任意に変更することができる。つまり、貫通孔325のみ、薄板322の第一の表面323のみ、薄板322の第二の表面324のみ、薄板322の両面のみなどと、触媒層336を形成させたところのみに繊維状物質315を形成できる。その結果、フィルターチップ321の任意の位置に繊維状物質315を形成することが可能となる。
これらを組み合わせることにより、図16から図19に示すように任意の位置に繊維状物質315を形成することが可能となる。
ただし、図19のように保持部326の内部に繊維状物質315からなるフィルター部314を形成した場合は、繊維状物質315が剥離しにくく、生産上好ましい。
ここでは、基材を繊維状物質315の原料として用いるVSD法によって繊維状物質315を形成する方法を説明したが、他の形成方法を選択することも可能である。例えば、繊維状物質315の材料を他から供給するVLS法やエレクトロスピニング法等を用いてもよい。
VSD法は、セラミックや石英で形成された筒状の炉体に、表層に繊維状物質315の原料となる層と触媒金属材料とが形成された基材を導入する方法であり、原料となる層上または触媒金属上のみに選択的に繊維状物質315が形成される。
炉体の一方から第一の原料となるガスおよび希釈ガス(例えば、N2、Ar、CO等)を供給し、他端から排気する。さらに、第二の原料および触媒金属材料を表層に備えた基材を、例えば、1000℃に加熱して、蒸発させる。その後に、第二の原料を、基板上の溶融した触媒に吸収させる。さらに、吸収した原料が触媒中で飽和され、第一の原料と結合することにより、繊維状物質315が形成される。
VSD法により、二酸化シリコンからなる繊維状物質315を形成する場合は、第一の原料がO2、O3、H2O等の酸化性のガスであり、第二の原料がシリコンを主成分とする材料である。
VLS法は、気相(Vapor)の半導体原料を、液状(Liquid)の触媒金属の微小な液滴に吸収させた後に、液滴の下に半導体共晶物の固体(Solid)を析出させる方法であり、触媒金属上に選択的に繊維状物質315が形成される。
VLS法では、two−zone furnaceと呼ばれる電気炉装置が主に用いられている。two−zone furnaceは、セラミックや石英で形成された筒状の炉体を備え、上流側の領域と下流側の領域を異なる温度で加熱することができるようになっている。
繊維状物質315を形成する場合には、炉体の一方から第一の原料となるガスと希釈ガス(例えば、N2、Ar、CO等)を供給し、他端から排気する。上流側の領域には、粉状の固体である第二の原料を収納し、上流側の領域を、例えば、1000℃に加熱して、第二の原料を蒸発させる。下流側の領域には、金属からなる触媒材料を表層に備えた基材を収納し、基板に形成された触媒金属が溶融する温度、例えば、500℃に加熱し、上流側領域で蒸発させた第二の原料を、基板上の溶融した金属に吸収させる。吸収した原料が金属中で飽和されると、第一の原料と結合することにより、繊維状物質315が形成される。
この場合もVSD法と同様に、二酸化シリコンからなる繊維状物質315を形成する場合は、第一の原料がO2、O3、H2O等の酸化性のガスであり、第二の原料がシリコンを主成分とする材料である。
エレクトロスピニング法は、高圧電源、ポリマー溶液・貯蔵タンク、紡糸口、および、アースされたコレクターからなる装置が用いられる。ポリマー溶液は、タンクから紡糸口まで一定の速度で押し出される。紡糸口では、10〜30kVの電圧が印加されており、電気引力がポリマー溶液の表面張力を越える時、ポリマー溶液のジェットがコレクターに向けて噴射される。この時、ジェット中の溶媒は徐々に揮発し、コレクターに到達する際には、ジェットサイズがナノレベルまで減少し、繊維状物質315が形成される。二酸化シリコンからなる繊維状物質315を得る際に用いられるポリマー溶液は、テトラエトキシシラン(TEOS)をエタノール、純水、塩化水素を混合したものが一般的に用いられる。
本実施の形態では、シリコンからなる基材を薄板322に用いているので、VSD法が簡易であり、高価な装置を必要とせず、パターニング性に優れた方法であるため望ましい。さらに、他の方法と比較して、微細かつ屈曲した繊維状物質315が得られるため、高い特性を持つフィルターデバイス300を得ることが可能である。
VSD法でシリコンから繊維状物質315を作った場合は、触媒層336が形成されていたシリコン層329の上面(第一の表面323)に結晶面方位に従った凹凸が残留するため、判定が可能となる。
なお、一枚の基板で複数のフィルターチップ321を同時に形成させる場合は、フィルターチップ321を個片化する必要がある。
フィルターチップ321の上方形状は正方形形状、平行四辺形形状、長方形形状、円形状、楕円形状などが考えられる。中でも、一般的なガラス管やチューブを用いることが可能な、円形状が生産性において好ましい。この場合、ブレードダイシングによる加工性が低減する。ただし、レーザーを用いたダイシングやフィルターチップ321間のエッチングを用いることでフィルターチップ321の加工性は向上し、任意の形状を選択することが可能となる。
レーザーを用いたダイシングを用いると、高速、チッピングレス、および高抗折強度な加工が可能となる。この場合、フィルターチップ321は薄く、小さくすることが可能である。レーザーダイシングによる加工は、熱による影響やデブリ汚染、フィルターチップ321表面方向への垂直なクラックの発生等により判別することができる。
図28は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの要部拡大斜視図である。エッチングにより個片化を行うと、図28に示すように、フィルターチップ321の外壁面にエッチングの跡が生じる。特に、エッチングとデポジションのサイクルを繰り返してエッチングを行っているため、この場合、フィルターチップ321の外壁面の側面の外周形状は、環状の凹部338と凸部339とからなる凹凸部340が形成されたスキャロップ形状と呼ばれる段差形状となる。段差は数nm〜数十nmのオーダーである。また、フィルターチップ321の外壁面が上記段差形状を有することにより、キャピラリ320とフィルターチップ321との単位長さ当たりの接合表面積が増大し、密着性が向上するため望ましい。
エッチングによる個片化は、図22および図23のエッチングの際に同時に行うことができ、生産性の観点からも望ましい。
次に、このように形成されたフィルターチップ321をキャピラリ320に挿入する。
挿入する方法は特には問わないが、液体をキャピラリ320に充填し、毛細管現象によりフィルターチップ321を吸引する方法がよい。
キャピラリ320は、例えば、ガラスを用いることができる。
フィルターチップ321とキャピラリ320との接合には、キャピラリ320であるガラスをバーナーであぶることにより、ガラスを溶融させ、フィルターチップ321と融着させる。この場合、充填する液体を揮発する材料として、例えば、水を用いることにより、フィルターチップ321とキャピラリ320との間は、直接接合される。直接接合とは、フィルターチップ321とキャピラリ320の間に共有結合が発生している場合を指す。また、陽極接合やArにより接合表面を活性化して接合する方法や、O2プラズマとN2プラズマを組み合わせてSiON結合により接合する方法を用いてもよい。その場合、フィルターチップ321やキャピラリ320に比較的、融点の低い材料を用いることが可能となる。
上記接合方法以外にも、接着層(図示せず)を用いて、フィルターチップ321はキャピラリ320を接合することが可能となる。
接着層の材質は特に問わないが、PDMSやUV硬化樹脂などの接着性の樹脂、SiO2等の無機材料、Au等の金属材料を用いればよい。金属材料を接着層として用いる場合には、共晶接合、Au−Au接合等を用いることが可能である。
なお、保持部326が下方になるようにフィルターチップ321を挿入してもよい。
以下、本実施の形態のフィルターデバイス300の効果について述べる。
本実施の形態のフィルターデバイス300は、フィルターチップ321部分を蓋などで覆う必要なく、かつ、溶液が通過する部分に必ず繊維状物質315をほぼ同じ密度で形成することができるので、キャピラリ320内に流入された溶液のろ過物を効率的に取り除くことができる。
そして、蓋を形成する等してフィルターチップ321部分を封止する必要性がないため、フィルターデバイス300の生産工程数を低減することも可能となる。
さらには、繊維状物質315が薄板322(基材)と直接接合して形成されているため、その構造強度が強固である。そして、アスペクト比の高い繊維状物質315が互いに絡み合うように密集してフィルター部314を形成しているので、繊維状物質315が多方向に空隙を有することができる。これによって、様々な角度からのろ過物を吸着させることが可能となり、フィルター部314の信頼性を向上することが可能となる。さらに、上記構成により、繊維状物質315間の空隙が細かく、表面処理などを施さなくとも容易に被検体とろ過物とを分離し、被検体のみを抽出することが可能となる。
また、本実施の形態の繊維状物質315の製造方法にて、繊維状物質315を形成した後に、エッチング処理を施すことがないため、繊維状物質315を破損する恐れがない。このため、フィルター部314の信頼性を向上することが可能となる。
また、フィルターチップ321は上方形状が円形に形成されているため、ガラス管やゴムチューブ等、通常円形筒状のキャピラリ320への接続が容易となる。
また、フィルターデバイス300のキャピラリ320先端を生体試料の含まれた容器等に固定することで、流路に生体試料をそのまま導入することができ、別途コネクタを用いる必要性がない。
また、キャピラリ320先端の生体試料の含まれた容器等への固定は、ワンタッチで行える操作のみであるため、操作が容易となる。
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4におけるフィルターデバイスについて図面を参照しながら説明する。
本実施の形態において、実施の形態3と同様の構成については同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
本実施の形態と実施の形態3との相違点は、フィルターチップ421を形成するための基材として、SOI基板を用い、シリコン層(図示せず)を全て繊維状物質415の原料として用い、使い切ることにより繊維状物質415を形成し、形成された繊維状物質415と、二酸化シリコン層430とが直接接合している点である。
図29及び図30は、本実施の形態のフィルターデバイスの要部拡大断面図である。
図29に示すように、本実施の形態のフィルターチップ421では、二酸化シリコン層430の下面に直接接合した繊維状物質415からなるフィルター部414が形成されている。この場合、SOI基板を用いて、シリコン層431及び二酸化シリコン層430とをエッチングし、保持部426を形成する。その後に、シリコン層(図示せず)の下面のみに触媒層(図示せず)を形成する。繊維状物質415の形成を行う際にVSD法を用いることにより、シリコン層(図示せず)が消費され繊維状物質415を形成することができる。
上記構成により、平行ではなく、絡み合って形成された繊維状物質415が二酸化シリコン層430に直接接合しているので、繊維状物質415がフィルターチップ421より剥離するのを抑制することが可能となる。これにより、繊維状物質415からなるフィルター部414の強度を保持できる。
さらに、フィルターチップ421は、薄板が形成されておらず、繊維状物質415のみで形成されているため、ろ過物の観察が容易なフィルターを得ることが可能となる。
本実施の形態の製造方法では、繊維状物質415を形成するために、シリコン層(図示せず)を全て消費しているため、繊維状物質415が破損される恐れがない。すなわち、あらかじめ繊維状物質を形成した後にエッチングなどにより貫通孔や凹部などを形成させてフィルターチップとする場合では、エッチングによって繊維状物質が破損してしまう恐れがあった。しかし本実施の形態の製造方法でフィルターチップを形成することにより、繊維状物質415は最終工程によって形成されるため、繊維状物質415がエッチングによって破損されることを阻止することが可能となる。
また、シリコン層(図示せず)は全て繊維状物質415の原料となるため、実施の形態3と比べて、シリコン層(図示せず)にエッチングにより貫通孔を形成する工程や、貫通孔内壁を保持膜で被覆する工程などをする必要がなくなるので、生産効率が向上する。
なお、原料となるシリコン層(図示せず)が厚ければ厚いほど、より多くの繊維状物質415を形成することができるため、フィルター効果を向上させることができる。その場合においても、フィルターチップ421そのものの強度を保持させるために、二酸化シリコン層430の厚みは5μm以上であることが好ましい。
なお、図30に示すように、二酸化シリコン層430からなる、貫通孔425を有する薄板422を形成し、薄板422の下面に繊維状物質415を直接接合して形成させることも可能である。
この場合は、SOI基板を用いて、シリコン層431をSOI基板の上方よりエッチングし保持部426を形成した後に、SOI基板の下方よりシリコン層(図示せず)と二酸化シリコン層430に貫通孔425を形成する。その後、シリコン層431の下面のみに触媒層(図示せず)を形成する。繊維状物質415の形成を行う際にVSD法を用いることにより、シリコン層431が消費され繊維状物質415を形成することができる。上記製造方法により、二酸化シリコン層430のみで形成された、貫通孔425を有する薄板422を形成することが可能となる。
なお、二酸化シリコン層430と二酸化シリコン層430に形成された複数の貫通孔425の下方とを被覆するように繊維状物質415を形成することも可能である。
上記構成の場合、薄板が二酸化シリコン層つまり透過性の材料から構成されているため、ろ過物の観察等が容易なフィルターを得ることが可能となる。
(実施の形態5)
以下、本発明の実施の形態5におけるフィルターデバイスについて図面を参照しながら説明する。
図31は、本実施の形態のフィルターデバイスの要部拡大断面図である。
本実施の形態において、実施の形態1、実施の形態3と同様の構成については同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
本実施の形態と実施の形態1から実施の形態4との相違点は、フィルターチップ521にテーパが形成された保持部526を有する点である。
図31に示すように、本実施の形態のフィルターチップ521は、薄板522と、複数の貫通孔525とを備えている。薄板522は、シリコンを主成分とする。複数の貫通孔525は、この薄板522の第一の表面523と、第一の表面523に対向する第二の表面524とを貫通する。また、この第一の表面523と複数の貫通孔525の第一の表面523に開口された開口部の上方とを被覆するように、繊維状物質515が備えられている。繊維状物質515は、アモルファスのシリコン酸化物からなる。
また、フィルターチップ521は、薄板522を保持するための保持部526を備える。
保持部526は、保持部526の上面から板状の薄板522に向かって、開口部が狭くなるようなテーパが形成されている。テーパが形成されていることにより、貫通孔525周辺により効率的に被検体を集めることが可能となる。その結果、フィルターチップ521は、被検体のフィルター速度を向上させることが可能となる。
フィルターチップ521を作製するための基材としてシリコン(100)からなるシリコン単結晶基板を用いる。シリコン単結晶基板の方位は特に問わないが、加工性や汎用性の観点から、シリコン(100)を含む基板を用いることが好ましい。
アルカリ溶液を用いてエッチングすることによりシリコンからなる保持部526を形成する場合、シリコンの方位によるエッチングレートの差から、保持部526の形状はシリコン(111)面で囲まれたピラミッド形状となる。この時、保持部526の側面と板状の薄板522との成す角度Xは約54°となっている。
そのため、貫通孔525は、保持部526の側面と板状の薄板522との成す角度と保持部526の上面における開口部の寸法を考慮し、総合的に配置するのが望ましい。
また、図39に示すように、フィルターチップ521を作製するための基材として、シリコンを主成分とするシリコン層541の厚み方向の上面(図39における下面)に、シリコンにボロンが高濃度にドープされたドープ層542が形成された基材を用いることも可能である。この場合、ドープ層542を薄板522として、シリコン層541を保持部526として用いることができる。
アルカリ溶液をドープ層542のウェットエッチングに用いた場合に、ドープ層542のエッチング速度が近似的にボロン濃度の4乗に比例して低下する。そのため、ドープ層542はアルカリ溶液によるシリコン層541のウェットエッチングの際に、ストップ層として機能する。これにより、高精度にフィルターチップ521の形状を制御することが可能となる。
また、ドープ層542としてボロンを用いた場合、その厚みは1〜30μmであり、ボロン濃度は2×1019cm−3以上である。シリコンへのボロン元素の注入には、イオン注入法を用いるのが適している。イオン注入法とはイオンを電気的に加速して個体にぶつけることで、特定の元素を基板内に注入する方法であり、深さ方向の濃度分布の制御性がよい。これにより、より高精度に所望の元素を添加することができる。その他にも、プラズマを用いた注入法や気相拡散あるいは、固相拡散といった熱拡散を用いることが可能である。これらの元素の注入法を実施した場合には、シリコン内部に添加した元素に濃度勾配が生じる。
本実施の形態では、ドープ層542にボロンを用いたが、ドープ層542としてシリコンにゲルマニウム、リン等のその他のアルカリ溶液に対してエッチングレートを低減させる元素やこれらを組み合わせたものをドープして用いてもよい。
ただし、ドープ層542は必ずしも形成されている必要はなく、エッチング処理時の時間管理によってエッチングストップを行うことも可能である。
ボロンがドープされているドープ層542を用いる場合、アルカリ溶液によりエッチングを行うとシリコン(110)方向に平行な細かい縞が直交する線上模様が発生する。これはドープ層542に生じている高い引っ張り応力によるものである。
次に、本実施の形態において、フィルターチップ521を作製するための基材として、シリコンを主成分とするシリコン層541の厚み方向の上面にドープ層542としてボロンドープ層が形成されたシリコン(100)単結晶基板を用いた場合の製造方法を示す。
図32〜図38は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの製造工程を示す断面図である。
図32に示すように、基材の一面に形成されたドープ層542の上面(図32における下面)に対し従来のフォトリソグラフィー技術を用いて第一のレジストマスク532を形成する。一枚の基材で複数のフィルターチップを同時に形成させる場合は、個々のフィルターチップに対して、所望する複数個の貫通孔の横断面と略同形状の複数個のマスクホール533をパターニングしておく。
次に、図33に示すように、ドープ層542のマスクホール533側から基材をエッチングして貫通孔525を形成していく。エッチング方法としては、高精度な微細加工が可能なドライエッチングが望ましい。ドライエッチングを行う場合、アスペクト比の高い(孔径に対し奥行きの深い)貫通孔525を形成するために、エッチングを促進するエッチングガスとエッチングを抑制する抑制ガスとを交互に用いる。
本実施の形態では、エッチングガスとしてSF6、抑制ガスとしてC4F8を用いる。貫通孔525の長さは、ドープ層542の厚み以上の長さで形成する。すなわち、ドープ層542だけでなくシリコン層541まで到達し、シリコン層541の一部に達するまで貫通孔525を形成する。通常、1〜50μmの深さを持つ深く垂直な貫通孔525を形成する。
なお、第一のレジストマスク532の除去はこの時点で行ってもよいが、後に形成する第二のレジストマスクと同時に除去する方が効率も良く好ましい。
次に、図34に示すようにCVD法等の方法を用いて、二酸化シリコンからなる保護膜537を貫通孔525の内部および第一のレジストマスク532の上面(図34における下面)に被覆する。保護膜537としては、二酸化シリコンの他、二酸化シリコンを主成分とする材料やシリコン窒化膜等からなるアルカリエッチングに耐性のある材料なら、特に材料やその形成方法は問わない。二酸化シリコンを主成分とした材料としては、二酸化シリコンにリンをドープしたいわゆるPSG膜、二酸化シリコンにボロンをドープしたいわゆるBSG膜、あるいは二酸化シリコンにリンとボロンをドープしたBPSG膜などのドープトオキサイド膜でもよい。また、CVD法の他、スパッタ法やCSD法などの他の方法により保護膜537を形成することもできる。シリコン窒化膜を保護膜537として用いた場合、保護膜537の厚みは数nm以上あればアルカリエッチングに対して、十分な耐性を持つ。
ここで、保護膜537を貫通孔525内部に被覆することは必須ではないが、特にドープ層542を形成しない場合には、フィルターチップ521の形状を高精度にするためには保護膜537を形成することが望ましい。
なお、必要に応じて保護膜537を軟化点以上の温度に熱処理してもよい。軟化点以上の温度に熱処理することにより、保護膜537の表面が溶融し始め、表面を平滑化する(図示せず)。
次に、図35に示すように、従来のフォトリソグラフィー技術を用いシリコン層541、すなわち基板のドープ層542と対向する面(図35における上面)に対して第二のレジストマスク535を形成する。
そして、図36に示すように、第二のレジストマスク535側からKOHまたはTMAH溶液等のアルカリ溶液による異方性ウェットエッチングを用いて、保持部526を形成する。保持部526の深さはエッチングの時間によって制御することができる。本実施の形態においては、ドープ層542をフィルターチップ521の薄板522として用いることによって、アルカリ溶液によるシリコン層541のウェットエッチングの際に、エッチングストップを規定することが可能となる。その結果、フィルターチップ521の形状を高精度に制御することができる。
このエッチングによって、シリコンの方位によるエッチングレートの差から、保持部526の形状をシリコン(111)面で囲まれたピラミッド形状とすることができる。このとき、シリコン層541の側面とドープ層542との成す角度Xは約54°となっている。
アルカリ溶液によるシリコンウエットエッチングの場合、エッチングの速度は、一般的にシリコン(100)>シリコン(110)>>シリコン(111)となる。つまり、保持部526のピラミッド形状は、基材面に対して垂直に見た場合、ピラミッド形状の上面の一辺が(110)方向を一辺として形成される正方形の形状となる。アルカリ溶液によるシリコンのウェットエッチングは、複数枚の一括処理がしやすく、装置が簡便であるだけでなく、ドープ層542を有する基材を用いることが可能となる。これにより、ドープ層542を有する基材はSOI基板に比べて安価に手に入れることができるため、コスト面においてもメリットを持つ。
アルカリ溶液によるシリコンのウェットエッチングには、KOHなどのアルカリ金属の水酸化物、EDP(エチレンジアミン、ピロカテコール、水の混合物)、TMAH、NaOH,CsOH,NH4OH,ヒドラジンなどが用いられる。EDPの標準的な組成は、水133mL、エチレンジアミン1L、ピロカテコール160g、ピラジン6gである。
この中でも、KOHはドープ層542のエッチング速度が他と比較して小さくなるため、高精度なチップ形状が得られるため望ましい。
また、シリコン(100)を低、中濃度のKOH(10mol/L以下、例えば、4mol/L程度)あるいはEPDを用いてエッチングした場合、その表面は粗面となりやすい。一方、高濃度のKOH溶液(10mol/L以上)を用いることによって、鏡面に近い(100)面を得ることが可能となる。これにより流路抵抗の小さなフィルターチップ521を得ることが可能となる。
なお、KOHは保護膜537として用いる二酸化シリコンとの選択比が比較的小さく、シリコン層541と二酸化シリコンのKOHによるエッチングレートは、150:1である。つまり、300μmのシリコン層541をエッチングしようとすると、保護膜537として必要な二酸化シリコンの厚みは約2μmである。
二酸化シリコンからなる保護膜537のKOHへの長時間の暴露によるエッチングを抑制するために、保護膜537の厚みを増加すればよい。保護膜537の厚みを増加することが生産上困難な場合には、KOHではなくEDPを用いるのが望ましい。EDPの二酸化シリコンのエッチング速度はKOHの約1/100であるため、KOHを用いた場合に比べ保護膜537のエッチングを抑制することが可能となる。
他にも、保持部526の形成は、SF6、CF4、Cl2、XeF2等による、シリコンをエッチング可能なガスエッチングを用いることも可能である。ただし、これらの場合、シリコンの方位によるエッチングレートの差が出にくいため、保持部526は、はっきりしたピラミット形状にならず、比較的丸みを帯びた形状となる。
特に、保持部526の上面からドープ層542によって形成されている薄板522に向かって、開口部が狭くなるようなテーパにするためには、これらのガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)を用いることが望ましい。
なお、高精度なテーパ形状の制御が必要な場合には、図21と同様にエッチングガスと抑制ガスとを交互に用いるエッチングを用いてもよい。
図36のように保持部526をウェットエッチングによって形成した後に、保護膜537を除去してもよい。特に図34のように、シリコン層541まで保護膜537が被覆されている場合は、貫通孔525が保護膜537により塞がった状態となる。そのために、この時点で保護膜537を除去しておくことが望ましい。
また、保護膜537の軟化点以上の温度に熱処理することによっても、貫通孔525を塞いだ保護膜537を除去することができる。これは保護膜537の軟化点以上の温度に熱処理することにより、保護膜537が溶融して、シリコン層541に形成された貫通孔525の形状に沿って保護膜537の形状が変形するためである。これにより、実施の形態3と同様に、図40に示すような貫通孔525の内壁に保護膜537を形成したフィルターチップ521を得ることが可能となる。なお、保護膜537の形成の前に第一のレジストマスク532の除去を行う場合には、薄板522の第二の表面524にも保護膜537が形成される場合がある。
次に、図37に示すように、薄板522の第一の表面523(図37における上面)すなわち貫通孔525の上方から触媒層536を形成する。この時、第二のレジストマスク535が形成されている領域には、第二のレジストマスク535の上面に触媒層536が形成されることになる。
次に、図38に示すように、第二のレジストマスク535を洗浄して剥離する。このとき、第二のレジストマスク535の上面に形成された触媒層536は、同時に洗浄される。これにより、薄板522の第一の表面523及び保持部526の内壁面にのみ選択的に触媒層536を形成することが可能となる。なお、この時、先に形成された第一のレジストマスク532も同時点で洗浄して剥離することができる。
図39および図40は、本実施の形態におけるフィルターデバイスの要部拡大断面図である。
次に、図39に示すように、VSD法を用いて繊維状物質515を形成する。このとき、繊維状物質515は触媒層536が形成されている場所に選択的に所望の位置にのみ形成される。この場合、繊維状物質515は、薄板522の第一の表面523上と貫通孔525の第一の表面523に開口された開口部の上方とを被覆するだけでなく、保持部526の内壁面にも形成することができる。そのため、フィルターチップ521さらにフィルター効果を向上することが可能となる。
なお、実施の形態3と同様に、第一のレジストマスク532、第二のレジストマスク535を形成する位置によって、触媒層536を形成する位置を任意に変更することができる。つまり、貫通孔525の内壁のみ、薄板522の第一の表面523のみ、薄板522の第二の表面524のみ、薄板522の両面(すなわち、薄板522の第一の表面523及び第二の表面524)等、触媒層536を形成したところのみに繊維状物質515を形成できる。このため、任意の位置に繊維状物質515を形成することが可能となる。
また、図40に示すように、保護膜537を形成してもよい。これらを組み合わせることにより、任意の位置に繊維状物質515を形成することが可能となる。
上記製造方法は、工数が少なく簡易な製造方法であることに加え、高価なSOIウエハではなく、安価なシリコンウエハを用いることによって、生産性に優れたフィルターデバイスを提供することが可能となる。
(実施の形態6)
以下、本実施の形態におけるフィルターデバイスを用いたセンサキットについて図面を用いて説明する。これまでの実施の形態と異なる点は、フィルターデバイスとセンサデバイスとが一体化したセンサキットとなっている点である。
図41および図42は、本実施の形態におけるセンサキットの上面図である。
図41に示すように、本実施の形態のセンサキット650は、物質が含まれた溶液を投入させるための第一のポート612と、この第一のポート612に接続された第一の流路613が備えられている。第一の流路613には、繊維状物質615よりなるフィルター部614と、フィルター部614より下流方向に反応部643とが備えられている。この反応部613では、フィルター部614で抽出された被検体を検査することが可能であるため、フィルター部514で抽出された被検体を簡易的かつ高速で検査させることが可能となる。
例えば、タンパク質、DNAなどの検査の場合であれば、反応部643に予め抗体を配置させておいてもよい。
なお、反応の観察方法としては、蛍光顕微鏡での観察には限定されない。例えば、反応部643の両脇に入出力電極を備えたSAWセンサを形成し、反応部643内に被検体がある場合とない場合での周波数差を観測することによって観察してもよい。
なお、図42に示すように、センサキット650の第一の流路613にはフィルター部614と反応部643とが交互に形成されていてもよい。すなわち、第一の流路613には上流から、フィルター部614a、反応部643a、フィルター部614b、反応部643b、フィルター部614c、反応部643cが形成されている。この時、例えば各フィルター部614a、614b、614cでのろ過物を異ならせることによって、1個のセンサキットのみで、複数のろ過物をろ過し、それぞれの反応部643a、643b、643cで異なる検査を行うことができる。
各フィルター部614a、614b、614cでろ過物を異ならせるとは、例えば、第一の流路613の上流から順にフィルター部614の空隙を小さくさせることにより達成できる。