一方、排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の種々のガス成分が含まれている。これら排ガスに含まれるガス成分のうち、HCとCOは空燃比が理論空燃比より燃料リッチ側(λ<1)になると浄化率が低下し、NOxは空燃比が理論空燃比よりリーン側(λ>1)になると浄化率が低下する。このため、HC,CO,NOxの各ガス成分について浄化率を最大とするためには、精密な空燃比の制御が必要になる。この酸素センサによる空燃比制御を精密に行うために、例えば、特許文献2に開示されているように、酸素センサから電流を引き込みまたは酸素センサへ電流を流し込みして、起電力が大きく変化する空燃比を所定の制御目標に移行させる方法が利用できる。
図16は、上記した空気割合λ(空燃比)とHC,CO,NOxの各浄化率の関係、および酸素センサから電流を引き込み(−)または酸素センサへ電流を流し込み(+)した場合の空気割合λ(空燃比)に対する酸素センサの起電力変化について、まとめて示した図である。例えばNOxを安定的に除去するためには、図16において左向きの白抜き矢印で示したように酸素センサから300μAの電流を引き込んで、酸素センサの起電力が大きく変化する空燃比をλ=0.9705付近に移行させて、空燃比の制御を行う。
酸素センサによる酸素濃度の検出精度を維持するためには、前述したように酸素センサのインピーダンスを正確に検出して、酸素センサの素子温度を適温に保つ必要がある。また、上述したように排ガスに含まれる各ガス成分について浄化率を最大とするためには、酸素センサによる精密な空燃比の制御が必要で、酸素センサから電流を引き込みまたは酸素センサへ電流を流し込みして、起電力が大きく変化する空燃比を所定の制御目標に正確に移行させる必要がある。
以上のように、酸素センサによる酸素濃度の検出精度維持と酸素センサによる空燃比制御の精密化については、それぞれ、個別の技術提案がなされてきている。しかしながら、これら2つの技術の具体的な組み合わせについては、まだ検討されていない。上記した2つの技術は、どちらも酸素センサに流れる電流の制御が必要であり、組み合わせに方よっては相互干渉が起きて、酸素濃度の検出精度や空燃比の制御精度に支障をきたしてしまう。
そこで本発明は、内燃機関の空燃比制御に用いられる酸素センサの制御装置であって、簡単な構成で酸素センサの正確なインピーダンス検出と酸素センサによる精密な空燃比制御を両立可能とし、排ガスの各ガス成分について高い浄化率の維持に寄与することのできる酸素センサの制御装置を提供することを目的としている。
本発明に係る酸素センサ制御装置は、内燃機関の空燃比制御に用いられる酸素センサの制御装置であって、酸素センサのインピーダンスを検出して温度を制御するため、該酸素センサに直列接続されるシャント抵抗と、シャント抵抗の高電位側に接続され、酸素センサのインピーダンス検出期間と酸素センサによる空燃比制御期間とで、シャント抵抗に流れる電流を切り替えるインピーダンス計測切替回路と、酸素センサの温度が所定の温度よりも高くなる活性化状態において、酸素センサの起電力が急変する空燃比を理論空燃比からリッチ側またはリーン側に移行させて制御するため、酸素センサから引き込みまたは酸素センサへ流し込みする電流を所定の値に設定する定電流回路とを有している。そして、インピーダンス計測切替回路は、スイッチを介することなく酸素センサに接続され、前記定電流回路が、酸素センサの高電位側とインピーダンス計測切替回路の間に接続されてなる構成としている。
上記酸素センサ制御装置は、酸素センサに直列接続されるシャント抵抗を有している。酸素センサは、一般的に出力電圧の温度依存性が大きく、酸素濃度の検出精度を良好に維持するためには、素子温度を適温(活性温度で、例えば約600℃以上)に保持する必要がある。該素子温度の制御は、通常、素子温度を検出して、酸素センサに付設されているヒータへの通電をフィードバック制御することで行う。
シャント抵抗は、上記したフィードバック制御をするため酸素センサの素子温度を検出するもので、酸素センサのインピーダンス(抵抗)が素子温度により変化することを利用している。該シャント抵抗は、酸素センサに直列接続されており、該シャント抵抗の両端電位を測定することで、シャント抵抗(従って、酸素センサ)に流れる電流を算出することができ、酸素センサの両端電位と合わせてインピーダンスを検出することができる。この検出されたインピーダンスから、酸素センサの素子温度を算出する。
また、上記酸素センサ制御装置は、シャント抵抗の高電位側に接続されるインピーダンス計測切替回路を有している。該インピーダンス計測切替回路は、酸素センサのインピーダンス検出期間と酸素センサによる空燃比制御期間とで、シャント抵抗に流れる電流を切り替えるものである。
酸素センサのインピーダンス検出期間においては、上記したように、直列接続されているシャント抵抗と酸素センサに電流を流すことによって、酸素センサの素子温度を検出することができる。一方、酸素センサは、理論空燃比(14.7:1、理論空燃比に必要な空気量に対する供給空気量の空気割合λ=1)相当の酸素濃度付近を境に起電力が大きく変化し、この酸素センサの起電力変化をECUが読み取って、最適の空燃比となるようにインジェクタの燃料噴射時間を決定している。従って、酸素センサによる空燃比制御期間においては、基本的には、酸素センサ(および直列接続されているシャント抵抗)に電流を流す必要はない。
しかしながら、排ガスに含まれる各ガス成分について個別に浄化率を高めるためには、前述したように、酸素センサに電流を流して、起電力が大きく変化する空燃比を燃料リッチ側またはリーン側の所定の制御目標に正確に移行させる必要がある。この場合には、インピーダンス検出期間だけでなく、空燃比制御期間においても、酸素センサに所定の電流を流すことが必要になる。
上記酸素センサ制御装置は、前述したシャント抵抗とインピーダンス計測切替回路に加えて、酸素センサの起電力が急変する空燃比を理論空燃比からリッチ側またはリーン側に移行させるための定電流回路を有している。該定電流回路は、酸素センサから所定の値に設定された電流を引き込むことによって起電力が急変する空燃比をリッチ側に移行させ、あるいは酸素センサへ所定の値に設定された電流を流し込むことによって起電力が急変する空燃比をリーン側に移行させるものである。例えば、排ガスに含まれる炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)は、空燃比が理論空燃比よりリッチ側(λ<1)になると三元触媒による浄化率が低下するため、酸素センサへ電流を流し込んで、起電力が急変する空燃比をリーン側(λ>1)に移行させて制御する。一方、窒素酸化物(NOx)は、空燃比が理論空燃比よりリーン側なると浄化率が低下するため、酸素センサから電流を引き込むことによって、起電力が急変する空燃比をリーン側に移行させて制御する。
以上のように、排ガスに含まれる各ガス成分について個別に浄化率を高めるためには、酸素センサのインピーダンス検出期間だけでなく、酸素センサによる空燃比制御期間においても、酸素センサに電流を流すことが必要である。一方、酸素センサのインピーダンス検出に必要な電流と、空燃比をリッチ側またはリーン側に移行させるために必要な電流とでは、電流値が大きく異なり、後者において数桁小さい電流値の制御が必要になる。
以上に説明したインピーダンス(素子温度)検出による酸素センサの検出精度の維持、および酸素センサによる空燃比制御の精密化については、背景技術で説明したように、これまで個別の技術提案がなされてきている。しかしながら、これら2つの技術の組み合わせについては、これまで検討されてきていなかった。上記した2つの技術は、どちらも酸素センサに流れる電流の制御が必要であり、組み合わせに方よっては相互干渉が起きて、酸素濃度の検出精度や空燃比の制御精度に支障をきたしてしまう。
そこで、上記酸素センサ制御装置においては、酸素センサの正確なインピーダンス検出と酸素センサによる精密な空燃比制御を簡単な構成で両立させるため、空燃比をリッチ側またはリーン側に移行させるための定電流回路が、酸素センサの高電位側とインピーダンス計測切替回路の間に接続されてなる構成をとっている。
インピーダンス検出期間で酸素センサに流す電流と空燃比制御期間で酸素センサに流す電流は、それぞれ、必要な期間において、独立してON−OFF制御するようにしてもよい。しかしながら、上記酸素センサ制御装置では、上述した定電流回路の接続構成を採用して、インピーダンス検出期間と空燃比制御期間について、酸素センサに流れる電流値の切り替えをインピーダンス計測切替回路により同時に行わせるようにしている。これによって、簡単な回路構成で、酸素センサのインピーダンス検出と酸素センサによる空燃比制御の両立が可能となる。
上記酸素センサ制御装置は、特に、定電流回路が、シャント抵抗と酸素センサの間に接続されてなる構成をとることが好ましい。
これによれば、空燃比制御期間においてシャント抵抗には定電流回路の電流が流れない構成となるため、酸素センサの起電力を検出するにあたって定電流回路の電流によるシャント抵抗の両端電圧を考慮する必要がなく、起電力の測定精度を高めることができる。
一方、上記酸素センサ制御装置は、例えば、定電流回路が、インピーダンス計測切替回路とシャント抵抗の間に接続されてなる構成をとることもできる。
この場合には、空燃比制御期間においてシャント抵抗に定電流回路の電流が流れる構成となるため、酸素センサの起電力を検出するにあたって、定電流回路の電流によるシャント抵抗の両端電圧を差し引く必要がある。しかしながら、インピーダンス検出時には、シャント抵抗と酸素センサには同じ電流が流れて定電流回路の影響を受けにくいため、酸素センサのインピーダンスの測定精度が高められ、酸素センサをより正確に温度制御することができる。
上記酸素センサ制御装置においては、定電流回路が、定電流源と、前記定電流源を電流入力ラインに有し、電流出力ラインに接続された酸素センサから電流を引き込みまたは酸素センサへ電流を流し込む、カレントミラー回路とで構成されてなることが好ましい。カレントミラー回路を用いる上記回路構成によれば、酸素センサからの電流の引き込みや酸素センサへの電流の流し込みを種々の回路パターンで実現することができる。
上記定電流回路の構成を採用する場合、定電流源の電流の値が、変更可能に構成されてなることが好ましい。これによれば、酸素センサから引き込みする電流や酸素センサへ流し込みする電流の値を適宜変更することで、酸素センサの起電力が急変する空燃比を精密に制御することができる。
また、上記酸素センサ制御装置は、排ガスに含まれる任意のガス成分に対応できるよう、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みが、変更可能に構成されてなることが好ましい。
また、上記酸素センサ制御装置は、酸素センサのインピーダンス検出期間において、定電流回路による酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを停止させる、停止回路を有してなることが好ましい。
これによれば、定電流回路をシャント抵抗と酸素センサの間に接続する場合であっても、インピーダンス検出期間において、シャント抵抗に流れる電流がそのまま直列接続された酸素センサに流れる電流となる。このため、定電流回路による酸素センサからの引き込みまたは酸素センサへの流し込み電流を考慮する必要がなく、酸素センサのインピーダンスの測定精度を高めることができる。
停止回路は、例えば、カレントミラー回路を構成するトランジスタのゲートと電源電位または接地電位の間に挿入されたゲートトランジスタを有してなり、酸素センサのインピーダンス検出期間において、前記ゲートトランジスタがONして、カレントミラー回路を構成するトランジスタのゲートの電位を電源電位または接地電位に固定することにより、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを停止させる構成とすることができる。
また、カレントミラー回路の電流出力ラインと酸素センサの間にダイオードが挿入されると共に、電流出力ラインに出力制御トランジスタが挿入されてなり、酸素センサのインピーダンス検出期間において、出力制御トランジスタがONまたはOFFすることにより、前記ダイオードを介して、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを停止させる構成とすることもできる。
この場合には、所定の立ち上り時間を要する前述のゲートトランジスタを使用することなく、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを即時停止させることができる。
他にも、2つのカレントミラー回路の電流出力ラインが、直列に接続され、該接続点と酸素センサとが、1本の配線で接続されてなり、カレントミラー回路の一方の電流入力ラインに流れる電流の値が、変更可能に構成されてなり、酸素センサのインピーダンス検出期間において、2つのカレントミラー回路の電流出力ラインに流れる電流を等しくすることで、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを停止させる構成としてもよい。これによっても、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを即時停止させることができる。
上記酸素センサ制御装置は、例えば、インピーダンス計測切替回路が、電源電位と接地電位の間で直列された2つのトランジスタで構成されてなり、直列接続されたシャント抵抗と酸素センサが、前記2つのトランジスタの接続点と接地電位の間に挿入されてなる構成とすることができる。
また、インピーダンス計測切替回路が、交流電圧を出力するアンプと、該アンプの出力をON−OFFする切替スイッチとで構成されてなり、直列接続されたシャント抵抗と酸素センサが、前記アンプの出力ラインに接続されてなる構成であってもよい。
以上のようにして、上記した酸素センサ制御装置は、いずれも、内燃機関の空燃比制御に用いられる酸素センサの制御装置であって、簡単な構成で、酸素センサの正確なインピーダンス検出と酸素センサによる精密な空燃比制御が両立可能であり、排ガスの各ガス成分について高い浄化率の維持に寄与することのできる酸素センサの制御装置とすることができる。
以下、本発明を実施するための形態を、図に基づいて説明する。
図1(a),(b)は、本発明に係る酸素センサ制御装置の要部の構成例を示した図で、それぞれ、酸素センサ制御装置100,110のブロック図である。また、図2(a),(b)は、それぞれ、図1(a),(b)の酸素センサ制御装置100,110を具体化した例で、酸素センサ制御装置101,111の回路構成を示した図である。尚、図1と図2に示す各酸素センサ制御装置100,110,101,111において、図15(a)に示した酸素センサ制御装置90と同様の部分については、同じ符号を付した。
各酸素センサ制御装置100,110,101,111によるインピーダンス検出期間と空燃比制御期間のフロー図は、図14(b)と同様である。また、図2に示す酸素センサ制御装置101,111において、インピーダンス計測切替回路20を構成している2つのトランジスタSW1,SW2のタイミングチャートは、図15(b)と同様である。従って、以下では、図14(b)に示したフロー図と図15(b)に示したタイミングチャートも参照しながら、各酸素センサ制御装置100,110,101,111の動作を説明する。
図1と図2に示す酸素センサ制御装置100,110,101,111は、いずれも、内燃機関の空燃比制御に用いられる酸素センサ10の制御装置であって、シャント抵抗Rs、インピーダンス計測切替回路20、および定電流回路40を有している。
シャント抵抗Rsは、酸素センサ10のインピーダンスを検出して温度を制御するため、接続点P1で酸素センサ10に直列接続されている。インピーダンス計測切替回路20は、接続点P2でシャント抵抗Rsの高電位側に接続され、図14(b)と図15(b)に示した酸素センサ10のインピーダンス検出期間と酸素センサ10による空燃比制御期間とで、シャント抵抗Rsに流れる電流を切り替える。また、定電流回路40は、図16に示したように、酸素センサ10の起電力が急変する空燃比(空気割合λ)を理論空燃比(λ=1)からリッチ側またはリーン側に移行させて制御するため、酸素センサ10から引き込みまたは酸素センサ10へ流し込みする電流を所定の値に設定する。
尚、図1(a)および図2(a)の酸素センサ制御装置100,101と、図1(b)および図2(b)の酸素センサ制御装置101,111とでは、定電流回路40の接続位置が異なっている。図1(a),図2(a)の酸素センサ制御装置100,101は、定電流回路40がシャント抵抗Rsと酸素センサ10の間の接続点P1に接続された構成となっており、図1(b),図2(b)の酸素センサ制御装置110,111は、定電流回路40がインピーダンス計測切替回路20とシャント抵抗Rsの間の接続点P2に接続された構成となっている。
図1と図2に示す酸素センサ制御装置100,110,101,111は、いずれも、酸素センサ10に直列接続されるシャント抵抗Rsを有している。酸素センサ10は、一般的に出力電圧の温度依存性が大きく、酸素濃度の検出精度を良好に維持するためには、素子温度を適温(活性温度で、例えば約600℃以上)に保持する必要がある。素子温度の制御は、通常、酸素センサ10の素子温度を検出して付設されているヒータ(図示省略)への通電をフィードバック制御することで行う。
シャント抵抗Rsは、上記したフィードバック制御をするために酸素センサ10の素子温度を検出するもので、図14(a)で例示したように、酸素センサ10のインピーダンス(抵抗)Zが素子温度により変化することを利用している。シャント抵抗Rsは、接続点P1で酸素センサ10に直列接続されており、図2に示すように、シャント抵抗Rsの両端電位(AD信号1とAD信号2)を測定する。これによって、シャント抵抗Rs(従って、酸素センサ10)に流れる電流を算出することができ、酸素センサ10の両端電位(AD信号1とGND)と合わせてインピーダンスZを検出することができる。この検出されたインピーダンスZから、図14(a)で例示した関係により、酸素センサ10の素子温度を算出することができる。
また、図1と図2に示す酸素センサ制御装置100,110,101,111は、いずれも、シャント抵抗Rsの高電位側に接続されるインピーダンス計測切替回路20を有している。インピーダンス計測切替回路20は、図14(b)および図15(b)に示した酸素センサ10のインピーダンス検出期間と酸素センサ10による空燃比制御期間とで、シャント抵抗Rsに流れる電流を切り替えるものである。
インピーダンス検出期間においては、上記したように直列接続されているシャント抵抗Rsと酸素センサ10に電流を流すことで、酸素センサ10の素子温度を検出することができる。一方、酸素センサ10は、図16で例示したように、理論空燃比(14.7:1、理論空燃比に必要な空気量に対する供給空気量の空気割合λ=1)相当の酸素濃度付近を境に起電力が大きく変化し、この起電力変化をECU30が読み取って、最適の空燃比となるようにインジェクタ(図示省略)の燃料噴射時間を決定している。従って、空燃比制御期間においては、基本的には、酸素センサ10(および直列接続されているシャント抵抗Rs)に電流を流す必要はない。
しかしながら、排ガスに含まれる各ガス成分について個別に浄化率を高めるためには、図16で例示したように、酸素センサ10に電流を流して、起電力が大きく変化する空燃比を燃料リッチ側またはリーン側の所定の制御目標に正確に移行させる必要がある。この場合には、インピーダンス検出期間だけでなく、空燃比制御期間においても酸素センサ10に所定の電流を流すことが必要になる。
図1と図2に示す酸素センサ制御装置100,110,101,111は、いずれも、前述したシャント抵抗Rsとインピーダンス計測切替回路20に加えて、酸素センサ10の起電力が急変する空燃比を理論空燃比からリッチ側またはリーン側に移行させるための定電流回路40を有している。該定電流回路40は、酸素センサ10から所定の値に設定された電流を引き込むことによって起電力が急変する空燃比をリッチ側に移行させ、あるいは酸素センサ10へ所定の値に設定された電流を流し込むことによって起電力が急変する空燃比をリーン側に移行させるものである。
例えば、図16に示したように、排ガスに含まれる炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)は、空燃比が理論空燃比よりリッチ側(λ<1)になると三元触媒による浄化率が低下するため、酸素センサ10へ電流を流し込んで(+)、起電力が急変する空燃比をリーン側(λ>1)に移行させて制御する。一方、窒素酸化物(NOx)は、空燃比が理論空燃比よりリーン側なると浄化率が低下するため、酸素センサ10から電流を引き込む(−)ことによって、起電力が急変する空燃比をリーン側に移行させて制御する。尚、図2(a),(b)に示す酸素センサ制御装置101,111は、窒素酸化物(NOx)の浄化率を高めるため、図中に矢印で示したように、酸素センサ10から所定の値に設定された電流I1を引き込む構成となっている。
以上のように、排ガスに含まれる各ガス成分について個別に浄化率を高めるためには、インピーダンス検出期間だけでなく、空燃比制御期間においても酸素センサ10に電流を流すことが必要である。一方、酸素センサ10のインピーダンス検出に必要な電流と空燃比をリッチ側またはリーン側に移行させるために必要な電流とでは、電流値が大きく異なり、後者において数桁小さい電流値の制御が必要になる。
以上に説明したインピーダンス(素子温度)検出による酸素センサ10の検出精度維持と酸素センサ10による空燃比制御の精密化については、背景技術で説明したように、これまで個別の技術提案がなされてきている。しかしながら、これら2つの技術の組み合わせについては、これまで検討されてきていなかった。上記した2つの技術は、どちらも酸素センサ10に流れる電流の制御が必要であり、組み合わせに方よっては、相互干渉が起きて酸素濃度の検出精度や空燃比の制御精度に支障をきたしてしまう。
そこで、図1と図2に示す酸素センサ制御装置100,110,101,111においては、酸素センサ10の正確なインピーダンス検出と酸素センサ10による精密な空燃比制御を簡単な回路で両立させるため、次の回路構成を採用している。すなわち、酸素センサ制御装置100,110,101,111では、空燃比をリッチ側またはリーン側に移行させるための定電流回路40が、酸素センサ10の高電位側とインピーダンス計測切替回路20の間に接続された回路構成をとっている。より詳しくは、図1(a),図2(a)の酸素センサ制御装置100,101では、定電流回路40がシャント抵抗Rsと酸素センサ10の間の接続点P1に接続された構成となっており、図1(b),図2(b)の酸素センサ制御装置101,111では、定電流回路40がインピーダンス計測切替回路20とシャント抵抗Rsの間の接続点P2に接続された構成となっている。
インピーダンス検出期間で酸素センサ10に流す電流と空燃比制御期間で酸素センサ10に流す電流は、それぞれ、必要な期間において、独立してON−OFF制御するようにしてもよい。しかしながら、図1(a),図2(a)の酸素センサ制御装置100,101および図1(b),図2(b)の酸素センサ制御装置101,111では、それぞれ上記した定電流回路40の接続構成を採用して、インピーダンス検出期間と空燃比制御期間について、酸素センサ10に流れる電流値の切り替えをインピーダンス計測切替回路20により同時に行わせる。これによって、簡単な回路構成で、酸素センサ10のインピーダンス検出と酸素センサ10による空燃比制御の両立が可能となる。
次に、図1(a),図2(a)に示す酸素センサ制御装置100,101と図1(b),図2(b)に示す酸素センサ制御装置110,111の違いについて説明する。
前述したように、定電流回路40が酸素センサ10の高電位側とインピーダンス計測切替回路20の間に接続されていれば、簡単な回路構成で、酸素センサ10の正確なインピーダンス検出と酸素センサ10による空燃比制御が両立可能である。しかしながら、酸素センサ10の起電力の測定精度を高めるには、図1(a),図2(a)の酸素センサ制御装置100,101のように、定電流回路40が、シャント抵抗Rsと酸素センサ10の間に接続されてなる構成をとることが好ましい。これによれば、空燃比制御期間においてシャント抵抗Rsには定電流回路40の電流が流れない構成となるため、酸素センサ10の起電力を検出するにあたって定電流回路40の電流によるシャント抵抗Rsの両端電圧を考慮する必要がなく、起電力の測定精度を高めることができる。
一方、酸素センサ10のインピーダンスZの測定精度を高めるため、図1(b),図2(b)の酸素センサ制御装置110,111のように、定電流回路40が、インピーダンス計測切替回路20とシャント抵抗Rsの間に接続されてなる構成をとることもできる。この場合には、空燃比制御期間においてシャント抵抗Rsに定電流回路40の電流が流れる構成となるため、酸素センサ10の起電力を検出するにあたって定電流回路40の電流によるシャント抵抗Rsの両端電圧を差し引く必要がある。しかしながら、酸素センサ10のインピーダンス検出時には、シャント抵抗Rsと酸素センサ10には同じ電流が流れて定電流回路40の影響を受けにくいため、インピーダンスZの測定精度が高められ、酸素センサ10をより正確に温度制御することができる。
次に、図2(a),(b)に示す酸素センサ制御装置101,111の細部について説明する。
図2の酸素センサ制御装置101,111においては、定電流回路40が、定電流源41と、定電流源41を電流入力ラインに有し、電流出力ラインに接続された酸素センサ10から電流を引き込む、カレントミラー回路C1とで構成されている。尚、以降に例示する各酸素センサ制御装置においても、定電流回路が、定電流源と、該定電流源を電流入力ラインに有し、電流出力ラインに接続された酸素センサから電流を引き込みまたは酸素センサへ電流を流し込む、カレントミラー回路とで構成された例となっている。カレントミラー回路を用いる上記回路構成によれば、酸素センサ10からの電流の引き込みや酸素センサ10への電流の流し込みを種々の回路パターンで実現することができる。
また、図2の酸素センサ制御装置101,111は、図15の酸素センサ制御装置90と同様に、インピーダンス計測切替回路20が、電源電位VCCと接地電位の間で直列された2つのトランジスタSW1,SW2で構成されている。そして、直列接続されたシャント抵抗Rsと酸素センサ10が、2つのトランジスタSW1,SW2の接続点P2と接地電位の間に挿入されている。前述したように、酸素センサ10のインピーダンスZは、図15(b)の掃引期間において酸素センサ10に印加する電圧を掃引し、図15(a)中に示した算出式によって検出される。
図2の酸素センサ制御装置101,111は、図15の酸素センサ制御装置90と同様に、酸素センサ10の起電力を分圧して読み出すための抵抗R1,R2が、接続点P2とシャント抵抗Rsの間に接続されている。図15(b)の空燃比制御期間では、該抵抗R1,R2を介して酸素センサ10の起電力が読み出され、ECU30により最適の空燃比となるようにインジェクタの燃料噴射時間が決定される。
図2に示す酸素センサ制御装置101,111のインピーダンス計測切替回路20は、別の構成であってもよい。図3は、インピーダンス計測切替回路の別の構成例を示す図で、(a)は別構成のインピーダンス計測切替回路21を有する酸素センサ制御装置102の回路図であり、(b)は(a)の等価回路図と酸素センサ10のインピーダンスZの算出式を示す図である。尚、図3に示す酸素センサ制御装置102において、図1(a),図2(a)の酸素センサ制御装置100,101と同様の部分については、同じ符号を付した。
図3(a)に示すインピーダンス計測切替回路21は、交流電圧を出力するアンプA1と、該アンプA1の出力をON−OFFする切替スイッチSW3とで構成されている。そして、直列接続されたシャント抵抗Rsと酸素センサ10が、接続点P2で、アンプA1の出力ラインに接続された構成となっている。酸素センサ制御装置102では、インピーダンス検出期間に切替スイッチSW3をONして、アンプA1からインピーダンス検出用の交流信号を出力し、シャント抵抗Rsと酸素センサ10の接続点P1の電位をモニタする。そして、図3(b)に示す算出式により、酸素センサ10のインピーダンスZを検出する。
次に、図1と図2に示す酸素センサ制御装置100,110,101,111の変形例について説明する。
図4(a)は、図1(a)に示した酸素センサ制御装置100の変形例で、酸素センサ制御装置100aのブロック図である。また、図4(b)は、図4(a)の酸素センサ制御装置100aを具体化した例で、酸素センサ制御装置103の回路構成を示した図である。また、図5は、図4に示した酸素センサ制御装置100a,103について、酸素センサ10のインピーダンス検出期間と酸素センサ10による空燃比制御期間のフローの一例を示した図である。
図4(a)に示す酸素センサ制御装置100aでは、図1(a)に示した酸素センサ制御装置100の回路構成に加えて、停止回路50を有する回路構成となっている。停止回路50は、酸素センサ10のインピーダンス検出期間において、定電流回路40による酸素センサ10からの電流の引き込みまたは酸素センサ10への電流の流し込みを停止させる。例えば、図5のフロー図に示すように、インピーダンス検出期間においてインピーダンス計測を開始する前に停止回路50をON動作させて、定電流回路40による酸素センサ10からの電流の引き込みまたは酸素センサ10への電流の流し込みを停止させる。そして、酸素センサ10による空燃比制御において空燃比計測を開始する前に停止回路50をOFF動作させて、定電流回路40による酸素センサ10から引き込みまたは酸素センサ10へ流し込みする電流値を設定する。
図4(b)に示す酸素センサ制御装置103の例では、停止回路51が、OR素子51aとNチャネルのゲートトランジスタ51bで構成されている。OR素子51aは、インピーダンス計測切替回路20を構成するトランジスタSW1,SW2のゲート入力と同じ信号を入力し、トランジスタSW1,SW2のいずれか一方がONする図15(b)のインピーダンス検出期間において、H信号を出力する。ゲートトランジスタ51bは、OR素子51aからのH信号を入力し、カレントミラー回路C1を構成するトランジスタのゲートをGNDに固定して、定電流回路40による酸素センサ10からの電流I1の引き込みを停止させる。
図4に示す酸素センサ制御装置100a,103のように、停止回路50,51を有する場合には、定電流回路40をシャント抵抗Rsと酸素センサ10の間に接続する場合であっても、インピーダンス検出期間において、シャント抵抗Rsに流れる電流がそのまま直列接続された酸素センサ10に流れる電流となる。このため、定電流回路40による酸素センサ10からの引き込みまたは酸素センサ10への流し込み電流を考慮する必要がなく、酸素センサ10のインピーダンスZの測定精度を高めることができる。
図6は、別の例で、酸素センサ制御装置104の回路構成を示した図である。
図6に示す酸素センサ制御装置104は、定電流源41aと5段で構成されたカレントミラー回路Ca1〜Ca5からなる定電流回路40aを有している。そして、該定電流回路40aにより、酸素センサ制御装置104は、排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)と一酸化炭素(CO)のそれぞれのガス成分に対応して、酸素センサ10からの電流の引き込みまたは酸素センサ10への電流の流し込みが、変更可能に構成されている。
すなわち、図6に示す酸素センサ制御装置104は、NOx除去に適した空燃比の制御とCO除去に適した空燃比の制御を、制御ガス切替回路S1,S2で切り替える。制御ガス切替回路S1は、インバータ素子S1aとカレントミラー回路Ca3のゲートに接続するNチャネルのトランジスタS1bで構成されており、制御ガス切替回路S2は、インバータ素子S2aとカレントミラー回路Ca5のゲートに接続するPチャネルのトランジスタS2bで構成されている。そして、NOx除去に適した空燃比で制御するため、ECU30の端子NOx_SWからH信号が出ている状態で、制御ガス切替回路S1のトランジスタS1bのゲートには、インバータ素子S1aで反転されたL信号が印加される。このため、カレントミラー回路Ca3のゲート電位がGNDに固定されることなく、カレントミラー回路Ca1,Ca3により、酸素センサ10から右向き矢印の電流I1が引き込まれる。また、CO除去に適した空燃比で制御するため、ECU30の端子CO_SWからH信号が出ている状態で、制御ガス切替回路S2のトランジスタS2bのゲートには、インバータ素子S2aで反転されたL信号が印加される。このため、カレントミラー回路Ca5のゲート電位がVCCに固定されることなく、カレントミラー回路Ca2,Ca4,Ca5により、酸素センサ10に左向き矢印の電流I2が流し込まれる。
尚、図6に示す酸素センサ制御装置104の例では、停止回路52が、NOR素子52aとPチャネルのゲートトランジスタ52bで構成されている。NOR素子52aは、インピーダンス検出期間において、L信号を出力する。ゲートトランジスタ52bは、NOR素子52aからのL信号を入力し、カレントミラー回路Ca1,Ca2を構成するトランジスタのゲートをVCCに固定して、定電流回路40aによる酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みを停止させる。
また、図6の酸素センサ制御装置104において、定電流回路40aを構成している定電流源41aは、並列接続された3つの定電流源J1〜J3で構成され、定電流源41aの電流の値が、ECU30からの信号で変更可能になっている。従って、酸素センサ制御装置104では、切替回路S1によるNOx除去に適した空燃比、および切替回路S2によるCO除去に適した空燃比とHC除去に適した空燃比の各制御に対して、それぞれに適した電流値を設定することができる。
以上のように、図6に示す酸素センサ制御装置104は、排ガスに含まれる任意のガス成分に対応できるよう、酸素センサ10からの電流の引き込みまたは酸素センサ10への電流の流し込みが変更可能に構成されている。また、酸素センサ10から引き込みする電流I1や酸素センサ10へ流し込みする電流I2の値も適宜変更することが可能で、酸素センサ10の起電力が急変する空燃比を精密に制御することができる。
図7(a),(b)は、図6の定電流回路40aを構成している各定電流源J1〜J3について、好ましい構成例を示した図で、それぞれ定電流源Ja,Jbの回路構成図である。
図7(a)に示す定電流源Jaは、アンプA2とバンドギャップ基準電位(BGR)を用いた構成で、図中のV1=BGRとなる。図7(b)に示す定電流源Jbは、
PNPトランジスタT1とNPNトランジスタT2の両方を使うことで、PNPトランジスタT1とNPNトランジスタT2のVf温度特性がキャンセルされ、図中のV2≒BGRとなる。また、図7(a),(b)に示す定電流源Ja,Jbは、図中の抵抗Rv,Rwとして温度特性の少ない抵抗クロム−シリコン(Cr−Si)抵抗やポリシリコン抵抗を用いることで、温度特性が小さくなる。
図8は、図6に示した酸素センサ制御装置104の変形例で、酸素センサ制御装置105の回路構成を示した図である。尚、図8の酸素センサ制御装置105において、図6に示した酸素センサ制御装置104と同様の部分については、同じ符号を付した。
図8の酸素センサ制御装置105では、図6の酸素センサ制御装置104おける制御ガス切替回路S1,S2と停止回路52を、1つの停止回路53にまとめた構成となっている。すなわち、図8の酸素センサ制御装置105における停止回路53は、図のように接続されたNOR素子52aと2つのNAND素子53a,53b、およびカレントミラー回路Ca3のゲートに接続するNチャネルのゲートトランジスタ53dとカレントミラー回路Ca5のゲートに接続するPチャネルのゲートトランジスタ53cとで構成されている。これによって、図6に示した酸素センサ制御装置104と同様に、NOx除去に適した空燃比の制御とCO除去に適した空燃比の制御の切り替え機能、およびインピーダンス検出期間において定電流回路40bによる酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みの停止機能を持たせることができる。
また、図6の酸素センサ制御装置104では、酸素センサ10の低電位側がGND電位となっていた。これに対して、図8の酸素センサ制御装置105では、酸素センサ10の低電位側がアンプA3の出力に接続されて、所定の電位に持ち上げられている。このように、先に説明した各酸素センサ制御装置では、酸素センサ10の低電位側をGND電位から所定の電位だけ持ち上げて使用するようにしてもよい。
図9は、別の例で、酸素センサ制御装置106の回路構成を示した図である。
図9の酸素センサ制御装置106における定電流回路40cは、定電流源42、カレントミラー回路Cb1〜Cb5およびスイッチSb1〜Sb3で構成され、これらが以下のように接続されている。すなわち、カレントミラー回路Cb1〜Cb4は並列接続されており、これらの接続構成が、スイッチSb1〜Sb3により切り替えられる。また、カレントミラー回路Cb4とカレントミラー回路Cb5の電流出力ラインは、直列に接続されており、その接続点P3と酸素センサ10の高電位側(酸素センサ10とシャント抵抗Rsの接続点P1)とが、1本の配線で接続されている。
尚、図9の酸素センサ制御装置106における停止回路52の構成は、図6に示した酸素センサ制御装置104と同様である。
先に説明した各酸素センサ制御装置では、酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みが、酸素センサ10の高電位側に接続する別々の配線を介して行われていた。これに対して、図9に示す酸素センサ制御装置106では、スイッチSb1〜Sb3によりカレントミラー回路Cb1〜Cb5の接続構成を切り替えて、酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みを、酸素センサ10の高電位側に接続する同じ1本の配線を介して、以下のように行う。
例えば、スイッチSb1〜Sb3が全てオープンの場合には、カレントミラー回路Cb4の電流出力ラインに入力ラインと同じI0の電流が流れ、カレントミラー回路Cb5には電流が流れないため、カレントミラー回路Cb4の電流出力ラインの電流I0が全て酸素センサ10へ流し込まれる(I2=I0)。また、例えば、スイッチSb1〜Sb3が全てクローズの場合には、カレントミラー回路Cb5の電流入力ラインに3×I0の電流が流れ、カレントミラー回路Cb5の電流出力ラインでは、カレントミラー回路Cb4からの電流I0が流れてくるため、不足分の電流2×I0が酸素センサ10から引き込まれる(I1=2×I0)。
一般的には、カレントミラー回路Cb5の電流入力ラインにあるトランジスタM1に流れる電流とカレントミラー回路Cb4の電流出力ラインにあるトランジスタM2に流れる電流について、次の関係が成り立つ。M1に流れる電流<M2に流れる電流とすることで、差分の電流I2が、酸素センサ10へ流し込まれる。また、M1に流れる電流>M2に流れる電流とすることで、差分の電流I1が、酸素センサ10から引き込まれる。
図10は、別の例で、酸素センサ制御装置107の回路構成を示した図である。
図10の酸素センサ制御装置107における定電流回路40dは、定電流源41a、およびカレントミラー回路Cc1〜Cc3で構成され、カレントミラー回路Cc3,Cc2の電流出力ラインと酸素センサ10の間には、それぞれ、ダイオードD1,D2が図の向きに挿入されている。また、酸素センサ制御装置107の停止回路54は、図のように接続されたNOR素子52a、AND素子54a、NAND素子54b、およびカレントミラー回路Cc2,Cc3の電流出力ラインにそれぞれ挿入された出力制御トランジスタ54c,54dとで構成されている。
先に説明した酸素センサ制御装置の停止回路は、いずれも、カレントミラー回路を構成するトランジスタのゲートと電源電位または接地電位の間に挿入されたゲートトランジスタを有していた。そして、酸素センサ10のインピーダンス検出期間において、該ゲートトランジスタがONして、カレントミラー回路を構成するトランジスタのゲートの電位を電源電位または接地電位に固定することにより、酸素センサ10からの電流の引き込みまたは酸素センサ10への電流の流し込みを停止させていた。このゲートトランジスタによる停止回路の場合には、ゲートトランジスタがON状態となるまでに、所定の立ち上り時間を要する。このため、ゲートトランジスタを用いた停止回路では、酸素センサ10からの電流の引き込みまたは酸素センサ10への電流の流し込みを即時停止させることはできない。
これに対して、図10に示す酸素センサ制御装置107では、酸素センサのインピーダンス検出期間において、出力制御トランジスタ54d,54cがそれぞれONまたはOFFすることにより、ダイオードD1,D2を介して、酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みを停止させる。
例えば、NOx除去に適した空燃比で制御する場合、AND素子54aの一方の入力端子に、H信号が入力される。また、AND素子54aのもう一方の入力端子は、酸素センサ10による空燃比制御期間にH信号が入力され、酸素センサ10のインピーダンス検出期間にL信号が入力される。従って、カレントミラー回路Cc3の電流出力ラインに挿入されているPチャネルの出力制御トランジスタ54cは、空燃比制御期間にONして図の上方からの電流出力ラインが切断状態となり、I1=I0の電流が、ダイオードD1を介して酸素センサ10から引き込まれる。一方、インピーダンス検出期間には、出力制御トランジスタ54cがOFFして、カレントミラー回路Cc3の電流出力ラインが電源電位VCCに短絡される。このため、空燃比制御期間においてダイオードD1を介して酸素センサ10から引き込まれていたI1=I0の電流が停止して、同じI0の電流がVCCからGNDに流れる。
また、CO除去に適した空燃比で制御する場合、NAND素子54bの一方の入力端子に、H信号が入力される。NAND素子54bのもう一方の入力端子は、酸素センサ10による空燃比制御期間にH信号が入力され、酸素センサ10のインピーダンス検出期間にL信号が入力される。従って、カレントミラー回路Cc2の電流出力ラインに挿入されているNチャネルの出力制御トランジスタ54dは、空燃比制御期間にOFFして、I2=I0の電流が、ダイオードD2を介して酸素センサ10へ流し込まれる。一方、インピーダンス検出期間には、出力制御トランジスタ54dがONして、カレントミラー回路Cc2の電流出力ラインがGNDに短絡される。このため、空燃比制御期間においてダイオードD2を介して酸素センサ10へ流し込まれていたI2=I0の電流が停止して、同じI0の電流がVCCからGNDに流れる。
以上説明したように、図10の酸素センサ制御装置107は、出力制御トランジスタ54c、54dとダイオードD1,D2組み合わせ、電流の流れる経路を切り替えて、空燃比制御期間において酸素センサ10に流れていた電流I1,I2を停止させる。これによれば、所定の立ち上り時間を要する前述のゲートトランジスタを使用することなく、酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みを即時停止させることができる。
図11は、別の例で、酸素センサ制御装置108の回路構成を示した図である。
図11の酸素センサ制御装置108における定電流回路40eは、図のように接続された定電流源42、カレントミラー回路Cd1〜Cd7およびスイッチSb1〜Sb3で構成され、カレントミラー回路Cd6,Cd7の電流出力ラインと酸素センサ10の間には、それぞれ、ダイオードD1,D2が図の向きに挿入されている。また、酸素センサ制御装置108の停止回路55は、図のように接続されたNOR素子52a、インバータ素子55a、およびカレントミラー回路Cd7,Cd4の出力側トランジスタにそれぞれ並列接続された出力制御トランジスタ55b,55cとで構成されている。
図11に示す酸素センサ制御装置108は、図9に示した酸素センサ制御装置106と図10に示した酸素センサ制御装置107を組み合わせた構成となっている。図11に示す酸素センサ制御装置108では、スイッチSb1〜Sb3によりカレントミラー回路Cd1〜Cd7の接続構成を切り替えて、酸素センサ10からの電流I1の引き込みまたは酸素センサ10への電流I2の流し込みと該電流I1,I2の停止を、ダイオードD1,D2を介して、以下のように行う。
図11の酸素センサ制御装置108では、空燃比制御期間に、出力制御トランジスタ55bがOFFして、出力制御トランジスタ55cがONする。逆に、インピーダンス検出期間には、出力制御トランジスタ55bがONして、出力制御トランジスタ55cがOFFする。例えば、スイッチSb1〜Sb3が全てオープンの場合には、カレントミラー回路Cd6,Cd7には電流が流れず、空燃比制御期間に、ダイオードD2を介して酸素センサ10へ電流I2が流し込まれる。そして、インピーダンス検出期間になると、カレントミラー回路Cd5の電流出力ラインが出力制御トランジスタ55bでGNDに短絡されるため、ダイオードD2を介した酸素センサ10への電流I2の流し込みが即時停止される。
図12は、図9に示した酸素センサ制御装置106の変形例で、酸素センサ制御装置109の回路構成を示した図である。
図9に示した酸素センサ制御装置106の停止回路52は、図6に示した酸素センサ制御装置104と同様に、NOR素子52aとPチャネルのゲートトランジスタ52bで構成されていた。そして、図9の酸素センサ制御装置106では、該ゲートトランジスタ52bを用いて、カレントミラー回路Cb1〜Cb4を構成するトランジスタのゲートをVCCに固定して、酸素センサ10に流れる電流I1,I2を停止させる。
これに対して、図12の酸素センサ制御装置109における停止回路56は、NOR素子52a、およびスイッチSb1〜Sb3を切り替える図のように接続されたAND素子56a,56bとNAND素子56cとで構成されている。
図12の酸素センサ制御装置109では、例えば、空燃比制御期間においてスイッチSb1〜Sb3を全てクローズにして、I1=2×I0の電流を酸素センサ10から引き込む。また、インピーダンス検出期間には、スイッチSb3だけクローズにして、カレントミラー回路Cb5の電流出力ラインにあるトランジスタM3に流れる電流とカレントミラー回路Cb4の電流出力ラインにあるトランジスタM2に流れる電流を共にI0となるように等しくして、酸素センサ10からの電流の引き込みを停止する。
図12の酸素センサ制御装置109で例示したように、一般的に、2つのカレントミラー回路の電流出力ラインが、直列に接続され、該接続点と酸素センサとが、1本の配線で接続されてなり、カレントミラー回路の一方の電流入力ラインに流れる電流の値が、変更可能に構成されてなり、酸素センサのインピーダンス検出期間において、2つのカレントミラー回路の電流出力ラインに流れる電流を等しくすることで、酸素センサからの電流の引き込みまたは前記酸素センサへの電流の流し込みを停止させることができる。これによっても、酸素センサからの電流の引き込みまたは酸素センサへの電流の流し込みを即時停止させることができる。
図13は、図6に示した酸素センサ制御装置104の変形例で、酸素センサ制御装置112の回路構成を示した図である。
図13の酸素センサ制御装置112における定電流回路40fは、図6に示した酸素センサ制御装置104の定電流回路40aと同じ構成を有しているが、酸素センサ10への接続位置が異なっている。図6の酸素センサ制御装置104では、定電流回路40aが、シャント抵抗Rsと酸素センサ10の間(接続点P1)に接続されていた。これに対して、図13の酸素センサ制御装置112では、図2(b)に示した酸素センサ制御装置111のように、定電流回路40fが、インピーダンス計測切替回路20とシャント抵抗Rsの間(接続点P2)に接続されている。従って、図6の酸素センサ制御装置104では、酸素センサ10の起電力の測定精度を高めることができ、図13の酸素センサ制御装置112では、酸素センサ10のインピーダンスZの測定精度を高めることができる。
尚、図13の酸素センサ制御装置112は、図6の酸素センサ制御装置104における停止回路52を省いた回路構成となっている。図13の酸素センサ制御装置112のように、定電流回路40fをインピーダンス計測切替回路20とシャント抵抗Rsの間に接続する場合には、シャント抵抗Rsに流れる電流は、全て、直列接続された酸素センサ10に流れる。従って、図6の停止回路52を省いて定電流回路40fの電流が常に流れている状態であっても、酸素センサ10のインピーダンス測定精度が劣化することはない。
以上のようにして、上記した酸素センサ制御装置は、いずれも、内燃機関の空燃比制御に用いられる酸素センサの制御装置であって、簡単な構成で、酸素センサの正確なインピーダンス検出と酸素センサによる精密な空燃比制御が両立可能であり、排ガスの各ガス成分について高い浄化率の維持に寄与することのできる酸素センサの制御装置となっている。