以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の発熱具は、その構成部材として、発熱体と包材とを備える。発熱体は、本発明の発熱具において熱を生じさせる部材である。包材は、発熱体の全体を包囲し、本発明の発熱具の外面をなす部材であり、その一部又は全体に通気性を有する。
発熱体は、基材シートと、該基材シートの一面に設けられた発熱組成物の層(以下、「発熱層」とも言う。)を備える。基材シートは、高吸収性ポリマーの粒子及び親水性繊維を含む繊維シートから構成されている。発熱層は、被酸化性金属の粒子を含んで構成されている。
繊維シートからなる基材シートは、(イ)高吸収性ポリマーの粒子と親水性繊維とが均一に混合した状態の1枚のシートであり得る。また基材シートは、(ロ)高吸収性ポリマーの粒子が、該基材シートの厚み方向略中央域に主として存在しており、かつ該基材シートの表面には該粒子が実質的に存在していない構造を有するワンプライのものでもあり得る。更に基材シートは、(ハ)親水性繊維を含む同一の又は異なる繊維シート間に、高吸収性ポリマーの粒子が配置された2枚の繊維シートの重ね合わせ体でもあり得る。これら種々の形態をとり得る基材シートのうち、発熱層の含水率のコントロールを容易に行い得る観点から、基材シートとして(ロ)の形態のものを用いることが好ましい。
繊維シートからなる基材シートに含まれる親水性繊維としては、天然繊維及び合成繊維のいずれをも用いることができる。基材シートの構成繊維として親水性繊維を用いることで、発熱層に含まれる被酸化性金属との間で水素結合が形成されやすくなり、発熱層の保形性が良好になるという利点がある。また、親水性繊維を用いることで、基材シートの吸水性ないし保水性が良好になり、発熱層の含水率をコントロールしやすくなるという利点もある。これらの観点から、親水性繊維としてはセルロース繊維を用いることが好ましい。セルロース繊維としては化学繊維(合成繊維)及び天然繊維を用いることができる。
セルロースの化学繊維としては、例えばレーヨン及びアセテートを用いることができる。一方、天然のセルロース繊維としては、各種の植物繊維、例えば木材パルプ、非木材パルプ、木綿、麻、麦藁、ヘンプ、ジュート、カポック、やし、いぐさ等を用いることができる。これらのセルロース繊維のうち、太い繊維を容易に入手できる等の観点から、木材パルプを用いることが好ましい。セルロース繊維として太い繊維を用いることは、基材シートの吸水性ないし保水性や、発熱層の保持性等の観点から有利である。
特に、セルロース天然繊維として、嵩高セルロース繊維を用いることが好ましい。嵩高セルロース繊維を用いることで、基材シートにおける構成繊維の繊維間距離を好適なものとすることが容易となる。嵩高セルロース繊維の具体例としては、(a)繊維形状が、捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/若しくは分岐構造の立体構造をとるか、(b)繊維粗度が0.2mg/m以上であるか、又は(c)セルロース繊維の分子内及び分子間が架橋されたものが挙げられる。
前記の(a)の捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/又は分岐構造等の立体構造をとる繊維の具体例としては、木材パルプを化学的な反応で分解した化学パルプや、機械的な処理(叩解)で分解させたパルプや、化学的な反応と機械的な処理を組み合わせて得られたパルプを用いることができる。
前記の(b)の繊維は、嵩高な状態でセルロース繊維が集積し、それによって液体の移動抵抗が小さくなり、液体の透過速度が大きくなるので、そのような繊維を用いると、後述する発熱体の製造の過程で、発熱組成物の塗料を基材シートへ塗工した際に、該発熱組成物中の水分が、基材シート中へ移動しやすくなるので、発熱層の含水率のコントロールが容易になる。また、発熱層を構成する塗料の固形分を保持し得る嵩高なネットワーク構造が形成され易い。これらの観点から、(b)の繊維の繊維粗度は、0.2〜2mg/m、特に0.3〜1mg/mであることが好ましい。
繊維粗度とは、木材パルプのように、繊維の太さが不均一な繊維において、繊維の太さを表す尺度として用いられるものであり、例えば、繊維粗度計(FS−200、KAJANNIELECTRONICSLTD.社製)を用いて測定される。繊維粗度が0.2mg/m以上のセルロース繊維の例としては、針葉樹クラフトパルプ〔Federal Paper Board Co.製の「ALBACEL」(商品名)、及びPT Inti Indorayon Utama製の「INDORAYON」(商品名)〕等が挙げられる。
前記の(b)の繊維は、繊維断面の真円度が0.5〜1、特に0.55〜1であることが好ましい。このような真円度を有するセルロース繊維を用いることで、基材シートにおける液体の移動抵抗が一層小さくなり、液体の通過速度が一層大きくなる。真円度の測定方法は次のとおりである。面積が変化しないように、繊維をその断面方向に垂直にスライスし、電子顕微鏡により断面写真をとる。断面写真を画像回析装置〔日本アビオニクス社製の「Avio EXCEL」(商品名)〕によって解析し、測定繊維の断面積及び周長を測定する。これらの値を用い、以下に示す式を用いて真円度を算出する。真円度は、任意の繊維断面を100点測定し、その平均値とする。
真円度=4π(測定繊維の断面積)/(測定繊維の断面の周長)2
嵩高セルロース繊維として木材パルプを使用する場合、一般に木材パルプの断面は脱リグニン化処理によって偏平であり、その殆どの真円度は0.5未満であるところ、このような木材パルプの真円度を0.5以上にするためには、例えば、かかる木材パルプをマーセル化処理して木材パルプの断面を膨潤させればよい。市販のマーセル化パルプの例としては、ITT Rayonier Inc.製の「FILTRANIER」(商品名)や同社製の「POROSANIER」(商品名)等が挙げられる。
前記の(c)の繊維である架橋セルロース繊維は、湿潤状態でも嵩高構造を維持し得るので好ましい。セルロース繊維を架橋するための方法としては、例えば、架橋剤を用いた架橋方法が挙げられる。かかる架橋剤の例としては、ジメチロールエチレン尿素及びジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等のN−メチロール系化合物;クエン酸、トリカルバリル酸及びブタンテトラカルボン酸等のポリカルボン酸;ジメチルヒドロキシエチレン尿素等のポリオール;ポリグリシジルエーテル系化合物の架橋剤などが挙げられる。架橋剤の使用量は、セルロース繊維100質量部に対して、0.2〜20質量部とすることが好ましい。架橋セルロース繊維は、その繊維粗度が、0.1〜2mg/m、特に0.2〜1mg/mであることが好ましい。また架橋セルロース繊維は、繊維断面の真円度が0.5〜1、特に0.55〜1であることも好ましい。市販の架橋セルロース繊維としては、Weyerhaeuser Paper Co.製の「High Bulk Additive」等が挙げられる。
上述の(a)〜(c)の繊維のうち、特に(c)の繊維を用いると、基材シートと発熱層との一体性が高まり、該発熱層の脱落が起こりにくくなるという有利な効果が奏される。また発熱体が柔軟なものとなり、本発明の発熱具を取り付け対象物、例えば人体の皮膚や衣類に取り付けたときのフィット性が良好になるという有利な効果も奏される。意外なことに、発熱体の柔軟性は、発熱終了後においても維持されることは、特筆に値する。
上述の各種の親水性繊維は、その繊維長が0.5〜6mm、特に0.8〜4mmであることが、湿式法又は乾式法での基材シートの製造が容易である点から好ましい。
基材シートには、上述の親水性繊維に加え、必要に応じて熱融着性繊維を配合してもよい。この繊維の配合によって、湿潤状態での基材シートの強度を高めることができる。熱融着性繊維の配合量は、基材シートにおける繊維の全量に対して0.1〜10質量%、特に0.5〜5質量%であることが好ましい。
繊維シートからなる基材シートには、上述のとおり高吸収性ポリマーの粒子が含まれている。基材シートにおける高吸収性ポリマーの粒子の存在位置については先に述べたとおりである。高吸収性ポリマーとしては、自重の20倍以上の液体を吸収・保持できかつゲル化し得るヒドロゲル材料を用いることが好ましい。粒子の形状は、球状、塊状、ブドウ房状、繊維状等であり得る。粒子の粒径は、1〜1000μm、特に10〜500μmであることが好ましい。高吸収性ポリマーの具体例としては、デンプン、架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体などが挙げられる。高吸収性ポリマーの粒子は、基材シートに含まれる繊維材料に接合されていることが好ましい。接合には、例えば高吸収性ポリマーの粒子を湿潤させることで生ずる粘性を利用することができる。また、繊維材料からなるウェブに対し、重合性モノマー及び/又は該モノマーの重合進行物を含有する液状体を付着させ、重合させて形成した高吸収性ポリマーの粒子を用いたものでもよい。この高吸収性ポリマーの粒子は、繊維材料に接合された状態になっている。
基材シートに占める高吸収性ポリマーの割合は、10〜70質量%、特に20〜55質量%であることが、基材シートの吸水性ないし保水性を好適なものとする観点及び発熱層の含水率のコントロールの観点から好ましい。なお、この割合は、基材シート上に発熱層が形成される前の乾燥状態にある該基材シートについて測定された値である。
基材シートは、その坪量が10〜200g/m2、特に35〜150g/m2であることが好ましい。基材シートの坪量をこの範囲内に設定することで、湿潤状態における基材シートの強度を十分に確保することができ、また基材シートの吸水性ないし保水性を好適なものとすることができる。一方、基材シートに含まれる高吸収性ポリマーの坪量は、5〜150g/m2、特に10〜100g/m2であることが好ましい。高吸収性ポリマーの坪量をこの範囲内に設定することで、基材シートの吸水性ないし保水性を一層好適なものとすることができる。また、発熱層の含水率を一層コントロールしやすくなる。これらの坪量は、基材シート上に発熱層が形成される前の乾燥状態にある該基材シートについて測定された値である。
基材シートは、それが前記の(イ)の形態のものである場合、例えばエアレイド法で製造することができる。(ロ)の形態のものである場合には、例えば本出願人の先の出願に係る特開平8−246395号公報に記載の湿式抄造法で製造することができる。(ハ)の形態のものである場合には、エアレイド法又は湿式抄造法で製造することができる。
基材シートには、少なくともその一方の面に発熱層が設けられている。発熱層は、基材シートの一方の面にのみ設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。別の実施形態として、同一の又は異なる2枚の基材シートの間に発熱層が設けられていてもよい。発熱層が2枚の基材シート間に設けられていると、該発熱層が包材に貼り付くことが効果的に防止される。2枚の基材シートの間に発熱層が設けられている場合、どちらか一方の基材シートは、高吸収性ポリマーの粒子を含まなくてもよい。発熱層は、被酸化性金属の粒子、電解質及び水を含んでいる含水層である。発熱層は、更に反応促進剤を含んでいてもよい。発熱層は、基材シート上に存在していてもよく、あるいは発熱層の下部が基材シート中に埋没していてもよい。これらのうち、発熱層の下部が基材シート中に埋没していることが好ましい。つまり、発熱層を構成する固形分の一部が、基材シートを構成する繊維シートに形成されている三次元状のネットワーク中に担持されていることが好ましい。発熱層の一部が基材シート中に埋没していることによって、発熱層と基材シートの一体性が増し、基材シートからの発熱層の脱落(使用前、使用中、使用後)が効果的に防止される。
発熱層に含まれる被酸化性金属としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。被酸化性金属の粒子の粒径は、例えば0.1〜300μm程度とすることができる。反応促進剤としては、水分保持剤として作用するほかに、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能も有しているものを用いることが好ましい。反応促進剤としては例えば活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ等が挙げられる。電解質としては、被酸化性金属の粒子の表面に形成された酸化物の溶解が可能なものが用いられる。その例としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、導電性、化学的安定性、生産コストに優れる点からアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の塩化物が好ましく用いられ、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましく用いられる。
基材シートの坪量が先に述べた範囲であることを条件として、発熱体における被酸化性金属の量は、坪量で表して100〜3,000g/m2、特に200〜1,500g/m2であることが、十分な発熱量を確保する観点から好ましい。発熱体における反応促進剤の量は、4〜300g/m2、特に4〜80g/m2、とりわけ8〜50g/m2であることが、長時間にわたり安定な発熱を維持する観点から好ましい。同様の理由によって、発熱体における電解質の量は、4〜80g/m2、特に4〜40g/m2、とりわけ5〜30g/m2であることが好ましい。なお、これらの坪量は、基材シートに発熱層を片面に1層形成した場合での値である。したがって基材シートの両面に発熱層を形成した場合には、これらの坪量は上述の2倍の値となる。また、発熱体の具体的な用途に合わせ、坪量は適宜調整される。
上述したとおり発熱層は含水状態になっている。発熱層の含水率は、5〜50質量%、特に6〜40質量%であることが好ましい。発熱層の含水率をこの範囲内に設定することで、発熱層はその流動性が低下し、ひいては粘性が低下する。その結果、後述するように、発熱層の上側に通気性を有するシートを配置しても、該発熱層の貼り付きによって該シートの通気性が損なわれるという不都合が起こりにくくなる。発熱層の含水率は、基材シートの表面よりも上側に位置する部位を対象として測定される。したがって、発熱層のうち、基材シートに埋没している部位は、含水率の測定対象から除外される。発熱層の含水率の具体的な測定方法は次のとおりである。すなわち、基材シートの表面よりも上側に位置する部位の発熱層を窒素環境下で取り出し、その質量を測定する。その後、真空状態の105℃の温度で、乾燥炉において2時間水分を取り除き、再度、質量を測定し、含水量を測定する。なお、上述の発熱層の含水率は、1つの発熱層あたりの値である。
発熱層の含水率を上述の範囲に設定することで、該発熱層がその上に配置される通気性シートへ貼り付くことが効果的に防止されるが、その分、発熱層に含まれる水の量が少なくなることに起因して発熱特性が低下するとの懸念が生じるかもしれない。しかし本発明においては、基材シートが水を含んでおり、発熱中に基材シートから発熱層へ水が供給されるので、発熱特性が低下することはない。特に、基材シートは高吸収性ポリマーを含んでおり、該高吸収性ポリマーからの水の放出は徐々に進行するので、発熱特性は長時間にわたって安定したものとなる。これらの観点から、発熱体における水が占める割合、つまり発熱体の含水率は、10〜60質量%、特に12〜50質量%であることが好ましい。発熱体の含水率の具体的な測定方法は次のとおりである。すなわち、窒素環境下で発熱体の質量を測定し、その後、真空状態下の105℃の温度の乾燥炉に2時間入れ、水分を取り除き、再度、質量を測定し、差分の質量を水分量とする。この水分量を、水分を取り除く前の発熱体の質量で除し、100を乗じることで含水率を算出する。なお、上述の発熱体の含水率は、基材シートの片面に発熱層を1層形成した場合での値であるが、基材シートの各面に発熱層を形成した場合でも上述の範囲を満たすことが好ましい。
発熱体においては、その全体(面方向の全域及び厚み方向の全域)にわたって水が均一に存在していることが、均一な発熱を達成する観点からは好ましいが、発熱体の面方向にわたり高含水率部位と低含水率部位とが混在していてもよい。例えば発熱体の面内方向に、一方向に延びるストライプ状の高含水率部位と低含水率部位とを交互に形成することができる。このような構成を採用することで、高含水率部位と低含水率部位とで発熱体の剛性を異ならせることができ、それによって発熱具を取り付け対象物、例えば人体の皮膚や衣類に取り付けたときのフィット性が一層良好になるという有利な効果が奏される。この理由は、発熱体の酸化反応の進行に伴い発熱体に硬さが生じてくるところ、含水率が低い部位では酸化反応が途中で止まるので、当該部位はそれほど硬くならないのに対して、含有率が高い部位では酸化反応が継続するので、そのぶんだけ当該部位は硬くなるからである。この観点から、発熱体における高含水率部位での含水率は20〜60質量%、特に25〜50質量%であることが好ましい。一方、発熱体における低含水率部位での含水率は、高含水部位での含水率よりも低いことを条件として、10〜40質量%、特に10〜30質量%であることが好ましい。
発熱体において、基材シートの一方の面にのみ発熱層が形成されている場合、該基材シートの面のうち、発熱層が設けられていない側の含水率が、発熱層の含水率よりも低くなっていることが好ましい。このようになっていることで、発熱層が形成されている側では、発熱のための水分供給が発熱層に対して行われ、一方、発熱層が設けられていない側では、基材シートと被覆シートとの密着が防止され、発熱具内での空気の流れが阻害されにくいという有利な効果が奏される。このような含水率の関係を達成するためには、例えば基材シートとして上述の(ロ)又は(ハ)の構造を有するものを用いることが有利である。(ロ)又は(ハ)の構造を有する基材シートは、その厚み方向の中央域に高吸収性ポリマーの粒子が偏在しているので、基材シートの一方の面にのみ発熱層を形成すると、高吸収性ポリマーの粒子が偏在している部位において水の浸透が阻止されるので、基材シートの反対側での含水率を低くとどめることができるからである。
発熱体における発熱層が設けられていない側の含水率は、窒素環境下で発熱層が設けられていない側の層を切り出し、その質量を測定し、その後、真空状態下の105℃の温度の乾燥炉に2時間入れ、水分を取り除き、再度、質量を測定し、差分の質量を水分量とする。この水分量を、水分を取り除く前の発熱体の質量で除し、100を乗じることで含水率を算出する。
本発明の発熱具においては、先に述べたとおり、発熱体が包材によって包囲されている。この包材は、第1の被覆シートと第2の被覆シートを備えている。第1の被覆シートは、発熱体における発熱層の側に配置されている。第2の被覆シートは、発熱体における発熱層が形成されていない側に配置されているか(1枚の基材シートの片面にのみ発熱層が形成されている場合)、発熱層の側に配置されている(例えば1枚の基材シートの両面に発熱層が形成されている場合)。
第1の被覆シートと第2の被覆シートとは、発熱体の周縁から外方に延出する延出域をそれぞれ有し、各延出域どうしが接合されている。この接合は、発熱体を取り囲む環状の連続した気密の接合であることが好ましい。両被覆シートの接合によって形成された包材は、その内部に発熱体を収容するための空間を有している。この空間内に発熱体が収容されている。前記の延出域どうしの接合が環状の連続した気密の接合である場合には、包材内に収容されている発熱体からの固形分(例えば被酸化性金属の粒子)の脱落が確実に防止されるので好ましい。
包材内に収容されている発熱体は、包材に対して非固定状態になっている。つまり発熱体は、その移動が包材によって拘束されておらず、包材とは別個独立に移動することが可能になっている。したがって例えば包材における第2の被覆シートに粘着剤を塗布して粘着部を形成し、該粘着部を介して本発明の発熱具を使用者の肌等に貼付した場合、使用者の動作に起因して第2の被覆シートが引きつった状態になったとしても、その引きつった状態が発熱体に伝播しないので、発熱体からの固形分(例えば被酸化性金属の粒子)の脱落が効果的に防止される。また、発熱体が拘束されていないことで、包材とは別個独立に移動することが可能となっており、被覆シートと密着しにくくなっていることから、被覆シートの通気性が阻害されず、また、包材内で基材シート周囲の空気の流れが阻害されず、良好な発熱反応を得ることができる。このように本発明によれば、発熱体の発熱が均一に進行するので、発熱に起因する発熱体の硬化も均一に進行する。その結果、本発明の発熱具は、発熱終了後であっても柔軟性が損なわれにくく、発熱開始から発熱終了までの間にわたって、使用者の身体の形状にフィットすることができる。特に、身体の関節部や湾曲部のような非平面部位であっても首尾良くフィットすることができる。
本発明の発熱具の柔軟性は、三点曲げ荷重によって評価することができる。この曲げ荷重の値が小さいほど、本発明の発熱具は柔軟性が高いと判断できる。三点曲げ荷重の測定は次のようにして行われる。測定器はORIENTEC製のテンシロン万能検査器RTA−500を使用する。測定試料である発熱具は65mm四方の正方形とする。この発熱具100を、図1に示すように、幅6mmの一対の板状の支持体90,90の間に架けわたす。支持体90の間隔は25mmとする。また支持体90の長さは、発熱具100の長さよりも長くする。支持体90間に架けわたした発熱具100の上から板状押し込み体91を100mm/minの速度で降下させ、発熱具100を押し込む。板状押し込み体91は、その幅が1.5mmであり、長さは発熱具100の長さよりも長くなっている。板状押し込み体91を押し込む位置は、一対の支持体90間の中間位置である。板状押し込み体91を支持体90に対して15mm押し込み、その移動量の間に発生した加重の最大値を三点曲げ荷重とする。本発明においては、この三点曲げ荷重の値が、発熱開始前において0〜1.5N/65mmであることが好ましく、0〜1.0N/65mmであることが更に好ましい。発熱終了後における三点曲げ荷重の値は、0.01〜1.8N/65mm、特に0.1〜1.5N/65mmであることが好ましい。更に、発熱開始前の三点曲げ荷重に対する発熱終了後の三点曲げ荷重の変化率は350%以下、特に330%以下であることが好ましい。この変化率は、発熱開始前の三点曲げ荷重をL1とし、発熱終了後の三点曲げ荷重をL2とすると、〔(L2−L1)/L1〕×100で定義される。発熱終了後とは、発熱体の温度が42℃以下になった状態をいう。
包材における第1の被覆シートは、その一部が通気性を有するものであるか、又はその全体が通気性を有している。先に述べたとおり、第1の被覆シートは発熱体における発熱層に対向して配置されているので、第1の被覆シートが通気性を有することで、発熱層への酸素の供給が円滑に行われ、安定した発熱が長時間にわたって維持される。この観点から、第1の被覆シートの通気度(JIS P8117 B型、以下、通気度というときにはこの方法の測定値を言う)は、1〜50,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に10〜40,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。このような通気度を有する第1の被覆シートとしては、例えば透湿性は有するが透水性は有さない合成樹脂製の多孔性シートを用いることが好適である。かかる多孔性シートを用いる場合には、該多孔性シートの外面(第1の被覆シートにおける外方を向く面)にニードルパンチ不織布やエアスルー不織布等の不織布を始めとする各種の繊維シートをラミネートして、第1の被覆シートの風合いを高めてもよい。
包材における第2の被覆シートとしては、発熱体の構造に応じて適切なものが選択される。第2の被覆シートは、第1の被覆シートよりも通気性の低いシートであることが、第1の被覆シートを通じて水蒸気を安定して発生させる観点から好ましい。特に、基材シートの発熱層が、第2の被覆シート側に位置していない場合には、第2の被覆シートは、第1の被覆シートよりも通気性の低いシートであることが好ましい。ここで言う「通気性の低いシート」とは、一部に通気性を有するが、通気性の程度が第1の被覆シートよりも低い場合と、通気性を有さない非通気性シートである場合との双方を包含する。第2の被覆シートが非通気性シートである場合、該非通気性シートとしては、合成樹脂製のフィルムや、該フィルムの外面(第2の被覆シートにおける外方を向く面)にニードルパンチ不織布やエアスルー不織布等の不織布を始めとする各種の繊維シートをラミネートした複合シートを用いることができる。第2の被覆シートが通気性シートである場合、該通気性シートとしては、第1の被覆シートと同様のものを用いることができる。この場合、第2の被覆シートの通気性は、第1の被覆シートの通気性よりも低いことを条件として、200〜150,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に300〜100,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。第2の被覆シートが通気性シートであると、第1の被覆シートの外面を、使用者の例えば肌や衣服に密着させた使用状態でも、安定した発熱を行なうことができる。
発熱体において、発熱層は1枚の基材シートの片面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。発熱層を両面に形成する場合には、例えば後述の塗料の塗工が行われた基材シートを、ターンバーなどでその上下面を反転させ、該基材シートのもう一方の面に第2の塗料を塗工すればよい。また、発熱具内に収容されている発熱体の枚数は1枚でもよく、あるいは複数枚を用い、それらを積層させた多層状態で収容してもよい。
本発明の発熱具は、第1の被覆シート4が配置されている側から水蒸気の発生が可能になっている。水蒸気の発生を可能とするためには、(イ)発熱層が多量の水を含有していることを前提として、(ロ)発熱層を構成する各成分の割合を調節する方法、(ハ)発熱体を包囲する第1及び第2の被覆シート4,5の通気度を調節する方法、(ニ)(ロ)と(ハ)を併用する方法等が挙げられる。本発明の発熱具においては、基材シートが親水性繊維を含むことによって、多量の水を保持することができる。このことに起因して、本発明の発熱具は、多量の水蒸気を発生させることができる。しかも本発明の発熱具においては、基材シートが親水性繊維を含むことに加えて高吸収性ポリマーも含有しているので、このことによっても該基材シートが多量の水を保持することができ、その結果、多量の水蒸気を発生させることができる。前記の(ロ)の発熱層を構成する各成分の割合に関しては、先に述べたとおりである。(ハ)の第1及び第2の被覆シート4,5の通気度に関しても、先に述べたとおりである。第1の被覆シート4を通じて放出される水蒸気の量は、後述する測定方法に従い0.01〜0.8mg/(cm2・min)、特に0.03〜0.4mg/(cm2・min)であることが好ましい。
第1の被覆シート4及び第2の被覆シート5がいずれも通気性を有する場合には、第1の被覆シート4の通気度の値を第2の被覆シート5の通気度の値よりも小さくして(すなわち通気性を高くして)、第1の被覆シート4を通じて放出される水蒸気の量の方が、第2の被覆シート5を通じて放出される水蒸気の量よりも多くなるようにすることが好ましい。第1の被覆シート4を通じて放出される水蒸気の量の方が、第2の被覆シート5を通じて放出される水蒸気の量よりも多くなる限りにおいて、第2の被覆シート5を通じて水蒸気が放出されることは何ら妨げられない。
本発明の発熱具において、第1の被覆シート4を通じて放出される水蒸気の量は、次のようにして測定される。すなわち、20℃・65%RH下で発熱具を空気と接触させ発熱を開始させる。1mgの単位まで測定可能な上皿天秤に、発熱具を直ちに載せ、その後15分間質量測定を行なう。測定開始時の質量をWt0(g)とし、15分後の質量をWt15(g)とし、発熱具の水蒸気発生面積をS(cm2)としたときに、以下の式から発生した蒸気の量を算出する。
水蒸気放出量〔mg/(cm2・min)〕={(Wt0−Wt15)×1000}/15S
包材における第1の被覆シートはその外面に、粘着剤が塗工されて形成された粘着層を有していてもよい。粘着層は、本発明の発熱具を人体の肌や衣類等に取り付けるために用いられる。粘着層を構成する粘着剤としては、ホットメルト粘着剤を始めとする当該技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。通気性を阻害しない点からは、第1の被覆シートの周縁部に粘着層を設けることが好ましい。
次に、本発明の発熱具を製造するための好適な方法について説明する。この方法は、(i)発熱組成物の塗料を基材シートへ塗工して発熱体を製造する第1の工程と、(ii)発熱体を包材によって包囲して発熱具を製造する第2の工程とを備える。
第1の工程において用いられる塗料は、被酸化性金属の粒子、反応促進剤、電解質及び水を含んでいる。また、塗料中での固形分の分散性を高める観点から、増粘剤や界面活性剤を配合してもよい。これらの成分を含む塗料を、例えば各種の塗工方法を用いて連続長尺物からなる基材シートの一方の面上に連続的に塗工する。塗工方法としては、各種公知の塗工方法を特に制限無く用いることができる。例えばロール塗布、ダイコーティング、スクリーン印刷、ロールグラビア、ナイフコーティング、カーテンコーター等などが用いられる。塗布の簡易性、塗布量の制御のし易さ、塗料の均一塗工を実現できる点からダイコーティングが好ましい。ダイコータを用いた発熱組成物の塗料の塗工の詳細は、例えば本出願人の先の出願に係る特許第4155791号公報に記載されている。
前記の塗料の塗工によって、基材シートの一方の面上に連続した発熱層が形成される。この場合、基材シートは高吸収性ポリマーの粒子を含んでいるので、塗料中に含有されている水が適度に該高吸収性ポリマーに吸収保持され、発熱層の含水率は、塗料の含水率よりも低下する。その結果、発熱層の流動性が低下し、好ましくは流動性を有しなくなる。また基材シートは、親水性繊維を含んでいるので、このことによっても、塗料中に含有されている水が適度に基材シートに吸収保持され、発熱層の含水率が低減される。
基材シートの各面に発熱層を有する発熱体を製造する場合には、基材シートの一方の面上に発熱層を連続して形成した後に、又は発熱層の形成と同時に、基材シートの他方の面上に、ダイコータ等を用いて発熱層を連続して形成すればよい。
発熱層の形成に用いられる発熱組成物の塗料においては、被酸化性金属の粒子100質量部に対して、反応促進剤は、1〜20質量部、特に2〜14質量部含まれていることが好ましい。電解質は、0.5〜15質量部、特に1〜10質量部含まれていることが好ましい。水は、30〜90質量部、特に40〜80質量部含まれていることが好ましい。増粘剤は、0.05〜10質量部、特に0.1〜5質量部含まれていることが好ましい。界面活性剤は、0.1〜15質量部、特に0.2〜10質量部含まれていることが好ましい。また、水は塗料の全体の質量を100%とすると、20〜50質量%、特に25〜45質量%含まれていることが好ましい。塗料の粘度は23℃・50RHにおいて500〜30,000Pa・sであることが好ましく、更に好ましくは500〜20,000mPa・sであり、一層好ましくは1,000〜15,000mPa・sであり、更に一層好ましくは1,000〜10,000mPa・sである。粘度の測定には、B型粘度計の4号ローターを用いた。測定はローターを6rpmで回転させて行った。塗料の塗工坪量は150〜5,000g/m2、特に300〜2,500g/m2とすることが好ましい。
以上の操作によって連続長尺物からなる発熱体が製造されたら、次に第2の工程において該発熱体を包材で被覆する。この操作に先立ち、連続長尺物からなる発熱体を、その幅方向にわたって裁断して毎葉の発熱体を製造することが好ましい。次いで毎葉の発熱体を所定の間隔をおいて一方向に走行させつつ、発熱層が形成された側に、連続長尺物からなる第1の被覆シートを配置するとともに、他方の側に、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シートを配置する。次いで第1の被覆シート及び第2の被覆シートにおける発熱体からの延出域を所定の接合手段によって接合する。接合は、発熱体における左右の側縁の外方及び前後の端縁の外方において行われる。接合手段としては、熱融着、超音波接合、接着剤による接着等が挙げられる。
発熱層上への第1の被覆シートの配置に際しては、該発熱層の含水率が低下して流動性が低下し、好ましくは流動性を有しなくなるので、該発熱層上に第1の被覆シートを配置しても、発熱層が第1の被覆シートに貼り付くという不都合が回避される。その結果、第1の被覆シートの通気性が首尾良く維持される。
このようにして、複数の発熱具が一方向に連結された状態の連続長尺物が得られる。この連続長尺物を、隣り合う発熱体間において幅方向にわたって裁断することで、目的とする発熱具が得られる。この発熱具は、次工程において、酸素バリア性を有する包装袋内に密封収容される。
なお、上述の方法においては、塗料の調製を始めとして、製造過程での被酸化性金属の酸化を抑制するために、必要に応じて製造ラインを非酸化性雰囲気に保つ手段を用いても良い。
また、上述の方法においては、2種類の塗料を用いることもできる。2種類の塗料としては、先に述べた高含水率部位の形成のための高含水率塗料と、低含水率部位の形成のための低含水率塗料とを用いることができる。これらの塗料はそれぞれ異なったタンクに保存され、基材シートに塗工されるまで互いに混合しないようになっている。これらの塗料を塗工する装置としては、例えば高含水率塗料用及び低含水率塗料用の2つの供給口を持つ1つのコーターヘッドを用いることができる。あるいは、高含水率塗料用の塗工装置と、低含水率塗料用の塗工装置を用いて、これらの塗料を基材シートの幅方向において異なる部位に順次塗工してもよい。こうすることで、得られる発熱体の面内方向に、一方向に延びるストライプ状の多条の高含水率部位と低含水率部位とを交互に形成することができる。
この方法の別法として、1種類の塗料を用いて基材シートの一面に該塗料を塗布した後に、その塗工面上に部分的に水を添加して、水を塗布した部位の含水率を高めることもできる。こうすることによっても、得られる発熱体の面内方向に、一方向に延びるストライプ状の多条の高含水率部位と低含水率部位とを交互に形成することができる。
以上の製造方法においては、発熱組成物の塗料を基材シートに塗工したが、これに代えて、被酸化性金属の粒子を含みかつ電解質を含まない塗料を基材シートに塗工し、次いで、該塗料の塗工面に電解質水溶液を添加してもよい。具体的には、被酸化性金属の粒子、反応促進剤、水、増粘剤及び界面活性剤を含む塗料を調製し、この塗料を基材シートに塗工して塗膜を形成し、次いで該塗膜に、電解質及び水を含む電解質水溶液を添加することができる。この塗料及び電解質水溶液における各成分の濃度や、塗料及び電解質水溶液の使用量は、目的とする発熱体における各成分の量が上述の範囲となるように調整すればよい。
この方法を採用すると、坪量や含水率の異なる塗料を多条のストライプ状に塗工したり、濃度や量の異なる電解質水溶液の添加を多条のストライプ状に行なうことで、得られる発熱体の面内方向に、一方向に延びるストライプ状の高含水率部位と低含水率部位とを交互に形成することができる。
また、この方法においては、先に被酸化性金属の粒子を含みかつ電解質を含まない塗料を塗工し、次いで電解質水溶液を添加したが、この別法として、先に電解質水溶液を添加し、次いで被酸化性金属の粒子を含みかつ電解質を含まない塗料を塗工してもよい。この別法を採用する場合においても、電解質水溶液の添加及び/又は塗料の塗工を多条のストライプ状に行なうことで、得られる発熱体の面内方向に、一方向に延びるストライプ状の高含水率部位と低含水率部位とを交互に形成することができる。
このようにして製造された本発明の発熱具は、人体に直接適用されるか、又は衣類に適用されて、人体の加温に好適に用いられる。人体における適用部位としては例えば肩、首、顔、目、腰、肘、膝、太腿、下腿、腹、下腹部、手、足裏などが挙げられる。また、人体のほかに、各種の物品に適用されてその加温や保温等にも好適に用いられる。人体の加温に用いる場合には、水蒸気が発生する第1の被覆シートを肌側(人体側)に向けて適用する。
図2は、本発明の発熱具の製造に用いられる好ましい装置の一例が示されている。この装置は、発熱組成物の塗料の塗工部20、第1裁断部40、リピッチ部50、被覆部60、封止部70及び第2裁断部80を備えている。
塗工部20はダイコータ21を備えている。また、ダイコータ21のダイリップに対向し、かつ矢印方向に周回するワイヤメッシュの無端ベルト22も備えている。更に、無端ベルト22を挟んでダイコータ21のダイリップに対向してサクションボックス23も備えている。基材シートの原反ロール1Aから繰り出された連続長尺物からなる基材シート1は、無端ベルト22によって搬送され、その一方の面に、ダイコータ21によって発熱組成物の塗料が塗工され、発熱層が形成される。無端ベルト22による基材シート1の搬送に際してはサクションボックス23を作動させ、搬送を安定化させるとともに、塗料を吸引して基材シート1に安定保持させる。塗料の塗工によって、塗料中の水が基材シート1に吸収されるので、発熱層の含水率は、塗料中の含水率よりも低下する。その結果、発熱層の流動性が低下する。
このようにして連続長尺物からなる発熱体10Aが形成されたら、該発熱体10Aを第1裁断部40において、幅方向にわたって裁断する。第1裁断部40は、ロータリーダイカッター42とアンビルロール43とを備えている。発熱体10Aが両部材間を通過することで裁断が行われ、それによって毎葉の発熱体10が得られる。
連続長尺物からなる発熱体10Aの裁断は、発熱体10Aの幅方向に延びるように行われればよく、例えば発熱体10Aの幅方向にわたって直線的に行なうことができる。
毎葉となった発熱体10はリピッチ部50において搬送方向の前後におけるピッチが変更され、前後隣り合う発熱体10間が所定の距離を置いて再配置される。このようなリピッチの機構としては従来公知のものを特に制限なく用いることができる。
リピッチされた発熱体10は、被覆部60に搬送され、連続長尺物からなる第1の被覆シート4と、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シート5によってその全体が被覆される。第1の被覆シート4は、発熱体10における発熱層の形成されている側を被覆し、第2の被覆シート5は、発熱体10における発熱層が形成されていない側を被覆する。この被覆状態を保ちつつ、発熱体10は、封止部70に導入される。封止部は、シール凸部72を有する第1のロール71と、同じくシール凸部72を有する第2のロール73とを備えている。両ロール71,73は、その軸方向が平行になるように、かつ各ロール71,73のシール凸部72が互いに当接するか、又は両者間に所定のクリアランスが生じるような位置関係で配置されている。封止部70においては、発熱体10の前後左右から延出している第1及び第2の被覆シート4,5の延出部が、ヒートシールによって接合される。この接合は、発熱体10を取り囲む連続した気密の接合であるか、又は発熱体10を取り囲む不連続の接合である。
このようにして、複数の発熱具が一方向に連結された状態の連続長尺物が得られる。この連続長尺物を第2裁断部80において、その幅方向にわたって裁断する。第2裁断部80は、ロータリーダイカッター82とアンビルロール83とを備えている。連続長尺物が両部材間を通過することで裁断が行われ、それによって目的とする発熱具100が得られる。裁断においては、先に述べた第1裁断部40における発熱体10Aの裁断線が例えば直線状である場合には、本裁断部80における裁断線も直線とすることが好ましい。図3に示すように、得られた発熱具100は、第1の被覆シート4と第2の被覆シート5とで発熱体10の全体が包囲されている。発熱具100は、発熱体10の一方の面である発熱層が形成された面の側に、第1の被覆シート4が配置され、かつ他方の面である発熱層が形成されていない面の側に、第2の被覆シート5が配置されている。
また、本発明の発熱具の製造に用いられる好ましい装置の他の一例を図4に示す。同図に示す装置と図2に示す装置との違いは、図4に示す装置では、塗工部20と第1裁断部40との間の位置において、発熱層上に、連続長尺物からなる基材シート1’を供給し、該基材シート1’を該発熱層に重ね合わせることである。この装置によれば、同一の又は異なる2枚の基材シート1,1’の間に、発熱層が設けられた発熱体を容易に製造することができる。塗料が塗工される方の基材シート1又は塗工された発熱層に重ねる基材シート1’のどちらか一方は高吸収性ポリマーの粒子を含まなくてもよいが、基材シート1及び基材シート1’の両方に高吸収性ポリマーの粒子が含まれるのが好ましい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
〔実施例1〕
(1)発熱組成物の塗料の調製
発熱組成物の塗料としては、被酸化性金属(鉄粉、平均粒径45μm)100部、反応促進剤(活性炭、平均粒径42μm)8部、電解質(塩化ナトリウム)3部、増粘剤(グアガム)0.2部、界面活性剤(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)0.25部、水60部が配合されているものを用いた。得られた塗料の粘度は4,500mPa・sであった。粘度の測定はB型粘度計の4号ローターを使用し、23℃・50%RHの環境で行なった。
(2)基材シートの準備
基材シートとして図5に示すものを用いた。この基材シート1は、特開平8−246395号公報に記載の方法に従い製造した。この基材シート1は、ポリアクリル酸ナトリウム系の高吸収性ポリマーの粒子12が、基材シート1の厚み方向略中央域に主として存在しており、かつ基材シート1の表面には該粒子12が実質的に存在していない構造を有する1枚(ワンプライ)のものである。基材シート1は、高吸収性ポリマーの粒子12の存在部位を挟んで表裏に親水性の架橋嵩高セルロース繊維11aの層11,13を有している。架橋嵩高セルロース繊維11aは、その繊維粗度が0.22mg/mであり、繊維長さの平均値は2.5mmであった。架橋嵩高セルロース繊維11aの層11,13は更に、針葉樹晒クラフトパルプ、紙力増強剤(PVA)を含んでいるものであった。また、高吸収性ポリマーは平均粒径340μmのものを使用した。層11の坪量は30g/m2であり、層13の坪量は20g/m2であった。高吸収性ポリマーの粒子12の坪量は30g/m2であった。したがって、基材シート1の坪量は80g/m2であった。
(3)発熱体及び発熱具の製造
前記の塗料を、前記の基材シートの一方の面に塗工した。塗料の塗工坪量は1,300g/m2とした。このようにして連続長尺物からなる発熱体10Aが形成された後、該発熱体10Aを、幅方向にわたって裁断した。それによって毎葉の発熱体10が得られた。発熱体は50mm×50mmの矩形のものであった。
得られた毎葉の発熱体10を、第1の被覆シート4と第2の被覆シート5によってその全体を被覆した。このとき、第1の被覆シート4によって、発熱体10における発熱層の形成されている側を被覆し、第2の被覆シート5によって、発熱体10における発熱層が形成されていない側を被覆した。次いで、発熱体10の前後左右から延出している第1及び第2の被覆シート4,5の延出部を、ヒートシールによって接合した。この接合は、発熱体10を取り囲む連続した気密の接合とした。シール幅は5mmとした。
第1の被覆シート4としては、坪量が50g/m2、通気度が2,500s/(100ml・6.42cm2)であるポリエチレンの多孔性シートを用いた。第2の被覆シート5としては、坪量が30g/m2、ポリエチレンフィルムからなる非通気シートを用いた。また、各被覆シート4,5は、65mm×65mmの矩形のものであった。
図6(a)には、発熱体10の縦断面の顕微鏡像が示されている。得られた発熱体10において、前述の方法に従い測定された発熱層の含水率は21%、発熱体の含水率は35%、発熱体における発熱層が設けられていない側の含水率は17%であった。
また得られた発熱体10について、JIS S4100 使い捨てカイロ温度特性測定用温熱装置に準拠した試験法で温度測定を行った。得られた発熱具100を、坪量100g/m2のニードルパンチ不織布製の袋に挿入し、これを40℃の恒温槽の上に置き温度特性を評価した。この袋は、ニードルパンチ不織布の三方をシールすることで袋状に形成したものである。温度計は発熱具100と恒温槽表面との間に配置した。発熱具100は、発熱層が形成された側が上方(温度計とは逆の方向)を向くように載置した。その結果、測定開始から15分後に最高温度62℃となった。
また、30分間人体の肌に装着させて使用した後、発熱層からの脱落物の質量を測定し、脱落量比率を算出した。人体への装着は、発熱具100を、サポーターを用いて腕に固定した。脱落物の質量測定は、第1及び第2の被覆シートでの収容空間に残留、及び該シートに付着していた脱落物を収拾して行なった。その結果、脱落後質量比率は1.3%で、脱落が起こりにくい発熱体であることが確認された。脱落量比率(%)は、(脱落物の質量/使用後の発熱体の質量)×100から算出した。
更に、得られた発熱具100における第1の被覆シート4側からの水蒸気の放出量を、上述の方法で測定したところ、0.19mg/(cm2・min)であった。また、得られた発熱具100における発熱開始前及び発熱終了後の三点曲げ荷重を、上述の方法で測定したところ、発熱開始前において0.40N/65mmであり、発熱終了後において1.21N/65mmであった。
〔実施例2〕
実施例1において、基材シート1の一面に塗料を塗工した後、塗工面上に、基材シート1と同種の基材シート1’を、図4のように重ね合わせて発熱体を得た。その後は実施例1と同様にして発熱具を得た。得られた発熱具について実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
〔実施例3〕
実施例1において、基材シート1の一面に塗工する塗料の量を700g/m2に減じた。その後は実施例1と同様にして発熱具を得た。得られた発熱具について実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
〔実施例4〕
実施例1において、基材シート1の一面に塗料を塗工した後、塗工面上に、基材シートとして坪量50g/m2のパルプ紙を用いて発熱体を得た。このパルプ紙はその表面が平滑なものであった。またこのパルプ紙には高吸収性ポリマーの粒子は含まれていなかった。この発熱体における発熱層は、基材シートに対向する面側の一部が、該基材シート中に埋没しており、パルプ紙に対面する面側は、該パルプ紙に埋没していないものであった。その後は実施例1と同様にして発熱具を得た。得られた発熱具について実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
〔比較例1〕
実施例1において、発熱体10における塗料の非塗工面と、第2の被覆シート5の内面とを、接着剤によって接合した。接着剤の坪量は30g/m2とし、両者の対向面の全域に均一に塗布した。その後は実施例1と同様にして発熱具を得た。得られた発熱具について実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
〔比較例2〕
実施例1において、基材シートとして坪量150g/m2のパルプ紙を用いた。このパルプ紙はその表面が平滑なものである。またこのパルプ紙には高吸収性ポリマーの粒子は含まれていない。その後は実施例1と同様にして発熱具を得た。得られた発熱具について実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。図6(b)には、発熱体の縦断面の顕微鏡像が示されている。
〔比較例3〕
花王(株)製「めぐりズム(登録商標) 蒸気でホットアイマスク」を用いて、実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
表1に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた発熱具は、短時間で最高温度に到達することが判る。また、発熱終了後の三点曲げ荷重の増加の割合が小さく、発熱終了後であっても柔軟性の低下が小さいことが判る。更に、発熱層からの発熱組成物の脱落量が少ないことが判る。これに対して、比較例1で得られた発熱具は、短時間で最高温度に到達するものの、発熱終了後の三点曲げ荷重の増加の割合が大きく、発熱終了後に柔軟性が失われていることが判る。また、発熱層からの発熱組成物の脱落量が多いことも判る。比較例2で得られた発熱具は、最高温度に到達するまでの時間が長く、しかも最高温度自体も低いことが判る。また、発熱終了後の三点曲げ荷重の増加の割合が大きく、発熱終了後に柔軟性が失われていることが判る。更に、発熱層からの発熱組成物の脱落量が多いことも判る。
また図6(a)と図6(b)との対比から明らかなように、実施例1で得られた発熱具においては、発熱層の下部が基材シート中に埋没している状態が観察される。これに対して比較例2で得られた発熱具においては、基材シート中への発熱層の埋没は観察されない。実施例1において、発熱層の下部が基材シート中に埋没していることは、発熱終了後の発熱具の柔軟性低下の防止に寄与していると考えられる。