以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかる潤滑油の回収構造が適用される船外機を、「本船外機1」と記す。また、本船外機1の「前」「後」「右」「左」「上」「下」の各向きは、本船外機1が搭載される船舶9の向きを基準とする。本船外機1を構成する各部材の向きについても同様とする。各図においては、本船外機1の前側を矢印Frで、後側を矢印Rrで、上側を矢印Tpで、下側を矢印Btで示す。
まず、本船外機1の全体的な構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、本船外機1の構成を模式的に示す側面図であり、左側から見た図である。図2は、本船外機1の構成を模式的に示す部分断面図であり、左側から見た図である。図3は、本船外機1のロアユニット103の内部構造を模式的に示す断面図であり、左側から見た図である。図1と図2に示すように、本船外機1は、その前側が船舶9の船尾板91(トランザムボード)に固定されて使用される。
本船外機1は、最も上側に位置するエンジンユニット101と、その下側に位置するミッドユニット102と、最も下側に位置するロアユニット103とを有する。エンジンユニット101とミッドユニット102には、いずれもカバー部材17,18が取り付けられている。そして、エンジンユニット101とミッドユニット102の内部に配置される機器類は、これらのカバー部材17,18によって覆われる。
エンジンユニット101には、回転動力源としてのエンジン11が配置される。エンジン11は、エンジンユニット101の下部に設けられるエンジンベース12に支持される。また、エンジン11は、クランクシャフトが略垂直となる姿勢で配置される。エンジン11には、たとえばV型エンジンが適用される。エンジン11にV型エンジンが適用される場合には、たとえば、クランクシャフトが前側に位置し、シリンダおよびピストンが後側に位置する態様で配置される。エンジンユニット101の前下部には、アクチュエータ13が配置される。アクチュエータ13は、逆転機構5(後述)を動作させて、本船外機1の前進と後進と中立とを切替える。アクチュエータ13には、上側シフトロッド14(後述)を正逆の両方向に所定の角度だけ回転させることができる。なお、アクチュエータ13は、前記動作ができる装置であればよく、具体的な構成は限定されない。したがって、公知の各種アクチュエータが適用できる。このほか、エンジンユニット101には、エンジン11を制御するエンジンコントロールユニット(ECU)や、燃焼用の空気を取り入れる吸気装置などが配設される(いずれも図略)。
ミッドユニット102には、ドライブシャフト21と、冷却水用の水タンク24と、潤滑油用のオイルパン25と、冷却水ポンプ26と、上側シフトロッド14とが収容される。ドライブシャフト21は、軸線が略垂直で、ミッドユニット102を上下方向に貫通するように配置される。ドライブシャフト21の上端部は、エンジン11のクランクシャフトに結合される。そして、ドライブシャフト21は、エンジン11のクランクシャフトの回転動力が伝達されて回転する。ドライブシャフト21の下端部は、ミッドユニット102の下側からさらに突出しており、ロアユニット103の内部に入り込んでいる。水タンク24は、ミッドユニット102の上部において、ドライブシャフト21の後側に隣接して配置される。オイルパン25は、水タンク24の後側に配置される。水タンク24の底部からは、冷却水パイプ28が下方に向かって引き出される。冷却水パイプ28の下端は、冷却水ポンプ26に接続される。冷却水ポンプ26は、取水管37を介して、ロアユニット103に設けられる取水口38と接続される。そして、冷却水ポンプ26は、取水口38および取水管37を通じて外部から水を吸引し、冷却水パイプ28を通じて水タンク24に送給する。上側シフトロッド14は、ドライブシャフト21の前側に、ドライブシャフト21に略平行で、ミッドユニット102に回転可能に設けられる。上側シフトロッド14の上端部は、アクチュエータ13に連結されており、上側シフトロッド14の下端部は、たとえば歯車を介して下側シフトロッド27(後述)に連結される。そして、上側シフトロッド14は、アクチュエータ13の動作によって前後方向に所定の角度だけ回転し、アクチュエータ13の動作を下側シフトロッド27に伝達する。
特に図3に示すように、ロアユニット103には、ドライブシャフト21の下部と、プロペラシャフト29と、下側シフトロッド27と、逆転機構5とが収容される。逆転機構5は、ドライブシャフト21とプロペラシャフト29との間に構成され、ドライブシャフト21の回転動力をプロペラシャフト29に伝達する。さらにロアユニット103には、ドライブシャフト21の下部および逆転機構5に含まれるギアなどを潤滑するための潤滑機構が設けられる。潤滑機構は、潤滑油が循環する経路と、この経路中を循環する潤滑油に含まれる異物を回収する異物回収構造7とを有する。なお、潤滑機構の詳細は後述する。また、ドライブシャフト21の下部および逆転機構5を潤滑するための潤滑機構と、エンジン11自体の潤滑機構とは、別個独立のものである。プロペラシャフト29の後端部には、推進用のプロペラ39が取り付けられる。このほか、ロアユニット103の前部には、冷却水を取り込むための取水口38と、外部から潤滑油を供給するためのオイルドレイン孔42とが設けられる。
図2に示すように、エンジンベース12の前縁部には、左右一対のアッパーマウント15が設けられる。また、ミッドユニット102の前縁部には、左右一対のロアマウント16が設けられる。そして、エンジンユニット101とミッドユニット102とロアユニット103とは、アッパーマウント15およびロアマウント16を介して、スイベルブラケット19の支軸を中心に一体に回転可能に支持される。また、図1に示すように、エンジンユニット101には、前方に向かって突起する操舵ハンドル22が設けられる。操船者は、操舵ハンドル22を操作することにより、本船外機1をスイベルブラケット19の支軸を中心に略水平方向に回転させることができる。これによって、本船外機1が搭載された船舶9の進行方向を制御できる。スイベルブラケット19の左右両側には、クランプブラケット20が設けられる。クランプブラケット20は船舶9の船尾板91(トランザムボード)に固定可能な構成を有する。クランプブラケット20は、軸線方向が左右方向を向くチルト軸を中心として回転可能に支持される。
次に、ロアユニット103の構成の詳細について、図3を参照して説明する。図3に示すように、ロアユニット103は筐体23を有する。ロアユニット103の筐体23は、たとえばアルミ合金などの金属によって形成され、ダイキャスト製法などによって製造される。ロアユニット103の筐体23の内部には、ドライブシャフト室717と、逆転機構室716と、シフトロッド室715とが形成される。ドライブシャフト室717は、ドライブシャフト21の下部が回転可能に収容される空間である。ドライブシャフト室717は、軸線が上下方向を向く縦穴状の構成を有し、ロアユニット103の筐体23の前後方向略中心に形成される。逆転機構室716は、プロペラシャフト29および逆転機構5が収容される空間である。逆転機構室716は、軸線が前後方向を向く横穴状の構成を有し、ロアユニット103の下部であって、ドライブシャフト室717の下側に形成される。シフトロッド室715は、下側シフトロッド27が回転可能に収容される空間である。シフトロッド室715は、軸線が上下方向を向く縦穴状の構成を有し、ドライブシャフト室717の前側に、ドライブシャフト室717に略平行に形成される。そして、ドライブシャフト室717の下端は、逆転機構室716の前後方向の中間部に連通する。また、シフトロッド室715の下端は、逆転機構室716の前端部と連通する。
ドライブシャフト室717の上部には、2個の円錐コロ軸受801が互いに反対向きの姿勢で配設される。ドライブシャフト室717の下部であって、逆転機構室716の直上には、ラジアル軸受803が配設される。そして、ドライブシャフト室717に収容されるドライブシャフト21の下部は、これらの2個の円錐コロ軸受801とラジアル軸受803とによって、回転可能に支持される。
逆転機構室716に収容される逆転機構5は、駆動ギア51と、フォワードギア52と、リバースギア53と、ドッグクラッチ58と、コネクタロッド59と、シフトスライダ60と、下側シフトロッド27の下端部とを含んで構成される。ドライブシャフト21の下端部は逆転機構室716に入り込んでいる。そしてドライブシャフト21の下端部には、駆動ギア51が設けられる。駆動ギア51にはベベルギアが適用される。フォワードギア52とリバースギア53には、前後方向に貫通する筒状のベベルギアが適用される。フォワードギア52とリバースギア53は、同軸で、前後方向に所定の距離をおいて離間し、ベベルギアの歯が互いに対向するように配設される。なお、図3に示すように、フォワードギア52が前側に配設され、リバースギア53が後側に配設される。フォワードギア52とリバースギア53とは、駆動ギア51と常時噛み合っており、駆動ギア51の回転によって互いに反対方向に回転する。具体的には、エンジン11から回転が伝達されると、後側から見て、フォワードギア52は右回転し、リバースギア53は左回転する。なお、フォワードギア52とリバースギア53とは、それぞれ、軸受(ラジアル軸受30,32とスラスト軸受31,33)によって回転可能に支持される。さらに、フォワードギア52とリバースギア53の互いに対向する面には、係合部(図略)が形成される。係合部は、ドッグクラッチ58の係合部(後述)に係合可能な構成を有する。
プロペラシャフト29の前部は、軸線が前後方向を向く姿勢で、逆転機構室716の内部に収容される。プロペラシャフト29の前端部はフォワードギア52の内周に入り込んでおり、フォワードギア52の前方または内周に配設される円錐コロ軸受34によって回転可能に支持される。プロペラシャフト29の中間部は、リバースギア53の内周を貫通しており、リバースギア53の内周に設けられるラジアル軸受35によって回転可能に支持される。プロペラシャフト29は、さらにその後方において、逆転機構室716の内周に配設されるラジアル軸受36によって、回転可能に支持される。
フォワードギア52とリバースギア53との間には、ドッグクラッチ58が配設される。ドッグクラッチ58は前後方向に貫通する筒状の構成を有し、プロペラシャフト29の外周に装着される。ドッグクラッチ58は、前後方向(=プロペラシャフト29の軸線方向)に往復動できるが、プロペラシャフト29に対して相対的に回転することはできずに一体に回転する。ドッグクラッチ58の前端部と後端部とには、係合部(図略)が形成される。そして、ドッグクラッチ58が前側に移動すると、前端部に形成される係合部が、フォワードギア52の係合部と係合する。そうすると、フォワードギア52とドッグクラッチ58が一体に回転し、フォワードギア52の回転がドッグクラッチ58を介してプロペラシャフト29に伝達される。一方、ドッグクラッチ58が後方に移動すると、後端部に形成される係合部が、リバースギア53に形成される係合部と係合する。そうすると、ドッグクラッチ58はリバースギア53と一体に回転し、リバースギア53の回転がドッグクラッチ58を介してプロペラシャフト29に伝達される。また、ドッグクラッチ58がフォワードギア52とリバースギア53との中間に位置すると、ドッグクラッチ58の係合部は、フォワードギア52とリバースギア53の係合部のいずれにも係合しない。この状態においては、フォワードギア52とリバースギア53の回転はいずれもプロペラシャフト29に伝達されない。すなわち、逆転機構5は、中立(ニュートラル)の状態となる。
プロペラシャフト29の前部は中空に形成される。そして、プロペラシャフト29の中空の部分には、コネクタロッド59が、前後方向に往復動可能に配設される。さらに、プロペラシャフト29には、外周と内部の中空の部分とを連通する開口部が形成される。コネクタロッド59の後端部とドッグクラッチ58とは、この開口部を通じて、ピン部材61などによって結合される。コネクタロッド59の前端部には、シフトスライダ60が結合される。シフトスライダ60は、下側シフトロッド27の回転運動を往復運動に変換し、ドッグクラッチ58を往復動させる部材である。シフトスライダ60は、前後方向に長い棒状の部材である。シフトスライダ60には、上下方向に貫通し前後方向に長い長孔が形成される。さらにこの長孔の側方には切欠きが形成される。そして、この長孔に、下側シフトロッド27の下端部が遊挿される。下側シフトロッド27は、略棒状に構成され、シフトロッド室715に回転可能に収容される。下側シフトロッド27の下端部には、側方に突起するシフトヨークが設けられる。下側シフトロッド27の下端部は、シフトスライダ60の長孔に遊挿される。そして、下側シフトロッド27のシフトヨークは、シフトスライダ60の長孔の側方に形成される切欠きに、嵌まり込むようにして係合する。
このような構成であると、アクチュエータ13が作動して上側シフトロッド14および下側シフトロッド27が回転すると、シフトヨークがシフトスライダ60を前後方向にスライドさせる。そして、ドッグクラッチ58は、シフトスライダ60に連動して前側または後側に移動する。このため、プロペラシャフト29の正転と逆転と中立とを切替えることができる。
次に、ロアユニット103に設けられる潤滑機構の構成について、図3〜図7を参照して説明する。図4は、本船外機1のロアユニット103から、潤滑油が循環する箇所を抜き出して示した断面図である。図5は、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7の構成を示す斜視図であり、左斜め前上方から見た図である。図6は、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7の構成を模式的に示す断面図であり、左側から見た図である。図7は、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7の構成を模式的に示す断面図であり、上側から見た図である。図5と図6中の矢印は、潤滑油の流れを模式的に示す。ロアユニット103に設けられる潤滑機構は、潤滑油を循環させることによって、逆転機構5の各ギアの噛み合いや、各軸受や、その他の各部材の係合部分などを潤滑する。ロアユニット103に設けられる潤滑機構は、潤滑油が循環する経路と、潤滑油を循環させるポンプ機構と、この経路中に設けられる異物回収構造7とを含む。異物回収構造7は、シフトロッド室715の下端部に設けられる。そして、シフトロッド室715を流下した潤滑油に含まれる摩耗粉などの異物を回収する。
図3と図4に示すように、シフトロッド室715と逆転機構室716とは、貫通孔状の構成を有する第一潤滑油流路711および第二潤滑油流路712によって、潤滑油が流通可能に連通する。第一潤滑油流路711の一端(上端)は、シフトロッド室715の下端部近傍に設けられる。第一潤滑油流路711の他の一端(下端)は、逆転機構室716の前端部であって、下側シフトロッド27の下端部およびシフトスライダ60が収容される箇所の近傍に設けられる。第二潤滑油流路712の一端(前端)は、シフトロッド室715の下端の近傍で、かつ第一潤滑油流路711の上端の近傍に設けられる。第二潤滑油流路712の他の一端(後端)は、逆転機構室716の前後方向中間部であって、駆動ギア51とフォワードギア52との噛み合い位置の前側上方に設けられる。
逆転機構室716とドライブシャフト室717とは、貫通孔状の構成を有する第三潤滑油流路713によって、潤滑油が流通可能に連通する。第三潤滑油流路713の一端(下端)は、逆転機構室716の前後方向中間部であって、駆動ギア51とリバースギア53の噛み合い位置の後側上方に設けられる。第三潤滑油流路713の他の一端(上端)は、ドライブシャフト室717の上下方向の中間部であって、ドライブシャフト21を支持するラジアル軸受803の直上に設けられる。
ドライブシャフト室717とシフトロッド室715とは、貫通孔状の構成を有する第四潤滑油流路714によって、潤滑油が流通可能に連通する。第四潤滑油流路714の一端(後端)は、ドライブシャフト室717に設けられる2個の円錐コロ軸受801よりも上側に設けられる。第四潤滑油流路714の他の一端(前端)は、シフトロッド室715の上部であって、案内部701の案内面702(後述)よりも上方に設けられる。
ドライブシャフト21の外周面であって、2個の円錐コロ軸受801とそれらの下方に設けられるラジアル軸受803との間には、螺旋溝802が形成される。この螺旋溝802は、ドライブシャフト21が回転することによって、潤滑油を下側から上側に汲み上げる潤滑油ポンプとして機能する。
ドライブシャフト21の回転によって汲み上げられた潤滑油は、2個の円錐コロ軸受801の周辺を通過してこれらを潤滑し、その後、第四潤滑油流路714に流入する。第四潤滑油流路714に流入した潤滑油は、自重によって流下して、シフトロッド室715の上部からその内部に流入する。シフトロッド室715に流入した潤滑油は、下側に向かって流下して、シフトロッド室715の下端部に設けられる潤滑油の異物回収構造7に到達する。そして、この潤滑油の異物回収構造7によって、摩耗粉などの異物が除去される。その後、潤滑油の一部は第一潤滑油流路711に流入し、残りは第二潤滑油流路712に流入する。第一潤滑油流路711を通過した潤滑油は、逆転機構室716の前端部に流入し、下側シフトロッド27の下端部およびシフトスライダ60を潤滑する。そして後方に流れ、フォワードギア52を回転可能に支持する軸受(ラジアル軸受30とスラスト軸受31)と、プロペラシャフト29を回転可能に支持する円錐コロ軸受34を潤滑する。第二潤滑油流路712を通過した潤滑油は、逆転機構室716の中間部に流入し、駆動ギア51とフォワードギア52との噛み合い箇所を潤滑する。さらに、逆転機構室716に流入した潤滑油は、後方に向かって流れ、ドッグクラッチ58と、駆動ギア51とリバースギア53との噛み合い箇所と、リバースギア53を回転可能に支持する軸受(ラジアル軸受32とスラスト軸受33)とを潤滑する。その後、潤滑油は、第三潤滑油流路713に流入してドライブシャフト室717に吸い上げられる。
このような構成であれば、ロアユニット103の内部に充填される潤滑油は、シフトロッド室715、第一潤滑油流路711および第二潤滑油流路712、逆転機構室716、第三潤滑油流路713、ドライブシャフト室717、第四潤滑油流路714、シフトロッド室715、の順で、ロアユニット103の内部をエンドレスに循環する。すなわち、シフトロッド室715と、第一潤滑油流路711と、第二潤滑油流路712と、逆転機構室716と、第三潤滑油流路713と、ドライブシャフト室717と、第四潤滑油流路714とは、潤滑油がエンドレスに循環する経路を構成する。そして、潤滑油が循環する経路中であって、シフトロッド室715の下端近傍には、潤滑油に含まれる異物を回収するための異物回収構造7が設けられる。このため、ロアユニット103の内部を循環する潤滑油は、逆転機構室716に流入する前に、異物回収構造7によって、摩耗粉などの異物が除去される。したがって、逆転機構室716には、異物が除去された清浄な潤滑油が供給され、各ギアや各軸受などが清浄な潤滑油によって潤滑される。
このほか、ロアユニット103には、外部から潤滑油を供給するためのオイルドレイン孔42と、外部から規定量の潤滑油が供給されたかを判断するためのオイルレベル孔43が設けられる。オイルドレイン孔42は貫通孔状の構成を有し、ロアユニット103の前端部近傍において、逆転機構室716の前端部と外部とを潤滑油が流通可能に連通する。オイルレベル孔43は、貫通孔状の構成を有し、シフトロッド室715の所定の高さ位置において、内部と外部とを潤滑油が流通可能に連通する。なお、オイルドレイン孔42およびオイルレベル孔43は、潤滑油を供給する際には開放され、それ以外にはネジや蓋などによって塞がれる。オイルドレイン孔42を通じて外部から供給された潤滑油は、第一潤滑油流路711を通じて、シフトロッド室715と第二潤滑油流路712に流入する。第二潤滑油流路712を通過した潤滑油は、逆転機構室716に流入する。このように、第一潤滑油流路711は、外部からシフトロッド室715に潤滑油を供給する潤滑油供給流路となる。逆転機構室716に流入した潤滑油は、第三潤滑油流路713を通じてドライブシャフト室717に流入する。供給された潤滑油が規定量に達すると、シフトロッド室715に設けられるオイルレベル孔43を通じて、潤滑油が外部に流出する。これによって、供給された潤滑油が規定量に達したことを把握できるとともに、規定量を超える潤滑油が供給されることを防止できる。
次に、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7の構成の詳細について、図3〜図7を参照して説明する。図3と図4に示すように、第一潤滑油流路711の一端(上端)は、シフトロッド室715の下端部近傍に位置する。第一潤滑油流路711の他の一端(下端)は、逆転機構室716の前端部の上部に位置する。第二潤滑油流路712の一端(前端)は、シフトロッド室715の下端部および第一潤滑油流路711の一端(上端)の近傍に位置する。第二潤滑油流路712の他の一端(後端)は、逆転機構室716の前後方向中間部であって、フォワードギア52と駆動ギア51との噛み合い位置の前側に位置する。本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7は、シフトロッド室715の下端部に設けられる。図5〜図7に示すように、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7は、潤滑油の流れを案内する案内部701と、潤滑油が流入可能な潤滑油トラップ703と、潤滑油に含まれる摩耗粉などの異物を吸着する磁石704とを含む。
案内部701は、シフトロッド室715の内部を流下した潤滑油を、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7と、第一潤滑油流路711と、第二潤滑油流路712に導く機能を有する。案内部701の上側には案内面702が形成される。案内面702は、後下がりに傾斜する傾斜面である。すなわち、案内面702は、シフトロッド室715の内部における潤滑油の流動方向(=上下方向)に対して、所定の角度をもって傾斜する傾斜面である。そして、案内面702および案内部701は、前端部が最も高く、後端部が最も低い。案内部701の後端部は、後側斜め下に向かって張り出す板状または庇状の構成を有する。したがって、シフトロッド室715の内部を流下した潤滑油は、案内部701に形成される案内面702によって流動方向が変えられ、後側斜め下に向かって案内される。
このような構成であると、シフトロッド室715を流下した潤滑油は、案内部701の案内面702によって後方斜め下に案内され、案内部701の後端部とシフトロッド室715の内周面との間の隙間である狭隘部706に流入する。そして、この狭隘部706に流入した潤滑油の一部が、第二潤滑油流路712に流入し、残りが第一潤滑油流路711に流入する。第一潤滑油流路711を通過した潤滑油は、逆転機構室716の前端部近傍に流入する。一方、第二潤滑油流路712を通過した潤滑油は、逆転機構室716の中間部に流入する。
案内部701には、潤滑油トラップ703が設けられる。潤滑油トラップ703は、案内面702から下側(=潤滑油の流動方向の下流側)に向かって深さを有し、上側(=潤滑油の流動方向の上流側)に開口部が形成されるカップ状の構成を有する。そして、潤滑油トラップ703の上側の開口部は、案内面702に形成される。潤滑油トラップ703の底面には貫通孔が形成されており、下側シフトロッド27が潤滑油トラップ703の内部を貫通する。なお、潤滑油トラップ703の底面に形成される貫通孔は、下側シフトロッド27によって塞がれており、潤滑油がこの貫通孔を通じて流通しないように構成される。このように、潤滑油トラップ703は、全体として、上側に潤滑油が流入可能な開口部を有し、下側は潤滑油が実質的に通過できないように閉鎖するカップ状の構成を有する。
潤滑油トラップ703の内部には、潤滑油に含まれる摩耗粉などの異物を吸着するための磁石704が設けられる。磁石704は、筒状の構成を有しており、下側シフトロッド27の外周に装着されている。また、磁石704は、その全体が潤滑油トラップ703の内部に収容されており、外部にはみ出さないような態様で配設される。具体的には、特に図6に示すように、側方から見て、磁石704の上端が案内面702よりも下側に位置する。すなわち、案内面702のうち、潤滑油トラップ703よりも潤滑油の流動方向の上流側(=上側)の部分は、潤滑油トラップ703に潤滑油を導入する導入部として機能する。そして、磁石704は、この導入部よりも潤滑油の流動の方向の下流側に位置する。特に、磁石704は、案内面702の潤滑油の流動方向の最も上流側の位置(=案内面の上端。前記導入部の上流側の端部)よりも、下流側に位置する。
特に図7に示すように、上側から見ると(=潤滑油の流動方向から見ると)、磁石704の外周面の形状と潤滑油トラップ703の内周面の形状とが略相似に形成される。そして、磁石704の外周面と潤滑油トラップ703の内周面との間には、円周方向の全長にわたって、略均一な寸法の隙間が形成される。たとえば、磁石704が略円筒形状に形成されるとともに、潤滑油トラップ703の内周面が断面略円形の縦穴状に形成され、磁石704が潤滑油トラップ703に同軸に配設される構成が適用できる。なお、図5〜図7においては、潤滑油トラップ703の内径が下側に向かうほど小さくなる構成を示すが、全長にわたって均一な内径であってもよい。さらに、上側から見た場合における磁石704の外周面および潤滑油トラップ703の内周面の形状は、略円形に限定されるものではない。たとえば、四角形などの多角形であってもよい。要は、磁石704の外周面と潤滑油トラップ703の内周面との隙間が、下側シフトロッド27の円周方向に沿って略均一な構成であればよい。すなわち、磁石704の外周面と潤滑油トラップ703の内周面との距離が、磁石704の磁力の及ぶ距離以内であればよい。
このような構成によれば、潤滑油に含まれる異物は、潤滑油がシフトロッド室715を流下する際に、潤滑油の流れや自重によって、案内面702や潤滑油トラップ703に沈降する。案内面702に沈降した異物は、潤滑油の流れや自重によって、案内面702に沿って後方斜め下に向かって移動する。案内面702の前端部は最も高い位置にあるから、異物が案内面702の上面に沿って移動すると、潤滑油トラップ703に沈降する。潤滑油トラップ703の内部に沈降した異物は、磁石704に吸着されて回収される。このように、案内部701に形成される案内面702と、潤滑油トラップ703と、磁石704とによって、潤滑油に含まれる異物が回収される。
潤滑油トラップ703は、潤滑油が循環する経路から分岐し、かつ行き止まりの構成を有する。このような構成であると、開口部から内部に流入した潤滑油は、潤滑油トラップ703の内部で反転して開口部から流出する。このため、潤滑油トラップ703の内部においては、潤滑油の流動速度が他の部分(潤滑油が循環する経路)に比較して小さく、潤滑油がいわゆる「淀んだ状態」になる。したがって、潤滑油トラップ703の内部においては、異物の移動速度が小さくなるから、磁石704によって吸着されやすくなる。さらに、異物が磁石704に吸着されてその後離れた場合には、磁石704から離れた異物は自重によって潤滑油トラップ703の底部に沈降する。このように、潤滑油トラップ703に沈降した異物は、開口部から外部に流出しない。このため、磁石704から離れた異物が、潤滑油が循環する経路に放出されることがない。
すなわち、従来のような、潤滑油の循環する流れの中に磁石704が配設される構成においては、磁石704の近傍を通過する異物の速度が大きいため、異物を吸着できないことがある。さらに、異物が磁石704の近傍を通過している間に吸着されないと、異物はそのまま潤滑油に含まれた状態で循環する。また、磁石704に吸着された異物は、潤滑油の循環の流れに晒されるため、磁石704から離れやすい。そして、磁石704から離れた異物は、再び潤滑油の循環する経路の内部を流動する。このように、潤滑油が循環する流れの中に磁石704が配設される構成は、異物を吸着する効果と、吸着した異物が再び磁石704から離れて漂うことを防止する効果が低い。これに対して、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7によれば、これらの問題を解消することができ、潤滑油に含まれる異物を吸着する効果の向上と、吸着した異物が再び磁石704から離れて漂うことを防止する効果の向上を図ることができる。
次に、本発明の実施形態にかかる潤滑油の異物回収構造7と、第一潤滑油流路711および第二潤滑油流路712との関係について、図5〜図7を参照して説明する。特に図5と図6に示すように、シフトロッド室715の下側に、第一潤滑油流路711の上端が位置する。そして、シフトロッド室715と第一潤滑油流路711とは、案内部701によって仕切られる。特に図6に示すように、側面視において、第一潤滑油流路711の内周面の後端部は、シフトロッド室715の内周面の後端部よりも前側に位置する。そして、第一潤滑油流路711の内周面の後端部と、シフトロッド室715の内周面の後端部との間には、略上側を向く段差面705が形成される。第二潤滑油流路712の一端の開口部は、この段差面705に形成される。案内部701の後端部は、この段差面705から上側に所定の距離をおいて離間する位置に設けられる。そして、特に図7に示すように、上下方向からの平面視において、案内部701の後端部の一部が、シフトロッド室715の内周面と第一潤滑油流路711の内周面との間の段差面705に重畳する。また、案内部701の後端部と、シフトロッド室715の内周面との後端部とは、所定の距離をおいて離間している。そして、案内部701の後端部と、シフトロッド室715の内周面および段差面705との間には、潤滑油が流通可能な狭隘部706が形成される。狭隘部706の断面積は、シフトロッド室715および第一潤滑油流路711の断面積よりも小さい。このように、シフトロッド室715と第一潤滑油流路711とは、この狭隘部706を介して潤滑油を流通可能に連通する。また、シフトロッド室715と第二潤滑油流路712も、この狭隘部706を介して潤滑油を流通可能に連通する。一方、第一潤滑油流路711の上端と第二潤滑油流路712の前端とは、狭隘部706を介することなく直接に潤滑油が流通可能に連通する。すなわち、第二潤滑油流路712の前端側の開口部は、第一潤滑油流路711の内周面の上端部近傍に形成される。
ここで、外部から潤滑油を供給する場合における潤滑油の流動の態様について説明する。潤滑油は、ロアユニット103の前端部近傍に形成されるオイルドレイン孔42を通じて内部に供給される。潤滑油は、まず、オイルドレイン孔42を通じて逆転機構室716の前端部近傍(=下側シフトロッド27の下端部とシフトスライダ60とが収容される個所の近傍)に流入する。そして、逆転機構室716の前端部近傍に流入した潤滑油は、潤滑油供給流路としての第一潤滑油流路711を、下端から上端に向かって上昇する。第一潤滑油流路711の上端とシフトロッド室715の下端とは、案内部701によって仕切られている。このため、第一潤滑油流路711の上端に到達した潤滑油は、案内部701によって後側に向かって流れるように案内される。したがって、潤滑油は、一部が第二潤滑油流路712に流入し、残りが、案内部701と段差面705およびシフトロッド室715の内周面との間の狭隘部706を通じてシフトロッド室715に流入する。なお、図6中の下側の矢印は、第一潤滑油流路711から第二潤滑油流路712に流入する潤滑油を模式的に示す。狭隘部706の断面積は、第一潤滑油流路711およびシフトロッド室715の断面積よりも小さい。このため、狭隘部706は、潤滑油の流動の抵抗となり、シフトロッド室715に流入する潤滑油の量を制限する。したがって、狭隘部706が形成されない構成と比較すると、第二潤滑油流路712に流入する潤滑油の量を増加させ、シフトロッド室715に流入する潤滑油の量を減少させることができる。このような構成によれば、潤滑油を供給する際に、シフトロッド室715に流入した潤滑油の油面レベルが、逆転機構室716および逆転機構室716を通じてドライブシャフト室717に流入した潤滑油の油面レベルよりも高くなることを防止できる。
すなわち、案内部701および狭隘部706が設けられない構成であると、第一潤滑油流路711を上昇した潤滑油は、流れが制限されることなく直接的にシフトロッド室715に流入する。第二潤滑油流路712の断面積がシフトロッド室715の断面積よりも小さいと、第二潤滑油流路712を通じて逆転機構室716に流入する潤滑油の量が、シフトロッド室715に流入する潤滑油の量に比較して少なくなる。特に、潤滑油の粘度が高くなると、この量の差が大きくなる。そうすると、潤滑油を供給している際には、シフトロッド室715に流入した潤滑油の油面レベルが、逆転機構室716を通じてドライブシャフト室717に流入した潤滑油の油面レベルよりも高くなる。前記のとおり、オイルレベル孔43から潤滑油が溢れ出たことをもって、ロアユニット103の筐体23に規定量の潤滑油が供給されたと判断される。このため、供給時において、シフトロッド室715に流入した潤滑油の油面レベルが、ドライブシャフト室717に流入した潤滑油の油面レベルよりも高くなると、規定量の潤滑油が供給されるよりも先に潤滑油がオイルレベル孔43から溢れ出る。そうすると、供給された潤滑油が規定量に満たないにもかかわらず、規定量の潤滑油が供給されたと誤って判断されるおそれがある。その結果、潤滑油が不足し、各ギアや各軸受などが十分に潤滑されなくなるおそれがある。
これに対して、本発明の実施形態によれば、第一潤滑油流路711とシフトロッド室715との間に形成される案内部701および狭隘部706が、第一潤滑油流路711からシフトロッド室715に流入する潤滑油の量を規制するとともに、潤滑油が第二潤滑油流路712に流入するように案内する。このため、シフトロッド室715に流入した潤滑油の油面レベルが、ドライブシャフト室717に流入した潤滑油の油面レベルよりも高くなることを防止する。したがって、前記問題が解消されるため、潤滑油の供給量が過少になることが防止され、各ギアや各軸受などを適正に潤滑することができる。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、前記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎない。本発明は、前記実施形態によって技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明は、その技術思想またはその主要な特徴から逸脱することなく、さまざまな形で実施することができる。