本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
図1は、本実施形態の電動車両駆動装置の構成を示す図である。インホイールモータである電動車両駆動装置10は、ケーシングGと、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40と、ホイール軸受(ハブベアリング)50と、を含む。ケーシングGは、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40とを収納する。
第1モータ11は、第1回転力TAを出力できる。第2モータ12は、第2回転力TBを出力できる。変速機構13は、第1モータ11と連結される。このような構造により、変速機構13は、第1モータ11が作動すると、第1モータ11から第1回転力TAが伝えられる(入力される)。また、変速機構13は、第2モータ12と連結される。このような構造により、変速機構13は、第2モータ12が作動すると、第2回転力TBが伝えられる(入力される)。ここでいうモータの作動とは、第1モータ11(第2モータ12)に電力が供給されて第1モータ11(第2モータ12)の入出力軸が回転することをいう。
変速機構13は、減速比(定義)を変更できる。変速機構13は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、クラッチ装置60とを含む。第1遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構20は、第1サンギア21と、第1ピニオンギア22と、第1キャリア23と、第1リングギア24とを含む。第2遊星歯車機構30は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構30は、第2サンギア31と、第2ピニオンギア32aと、第3ピニオンギア32bと、第2キャリア33と、第2リングギア34とを含む。
第1サンギア21は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア21は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、第1回転力TAが伝えられる。そして、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第1ピニオンギア22は、第1サンギア21と噛み合う。第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。
第1キャリア23は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1サンギア21を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1リングギア24は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第1リングギア24は、第1ピニオンギア22と噛み合う。また、第1リングギア24は、第2モータ12と連結される。このような構造により、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると第2回転力TBが伝えられる。そして、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
クラッチ装置60は、ケーシングGと第1キャリア23との間に配置される。クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制できる。具体的には、クラッチ装置60は、回転軸Rを中心とした第1キャリア23の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。以下、クラッチ装置60は、前記回転を規制(制動)する状態を係合状態といい、前記回転を許容する状態を非係合状態という。クラッチ装置60の詳細については後述する。
このように、第1キャリア23は、クラッチ装置60によってケーシングGと係合と分離とが可能となっている。すなわち、クラッチ装置60は、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転自在としたり、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転不能にしたりすることができる。
第2サンギア31は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア31は、第1サンギア21を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア21と第2サンギア31とは、それぞれが同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト14に一体で形成される。そして、サンギアシャフト14は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第2サンギア31は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
第2ピニオンギア32aは、第2サンギア31と噛み合う。第3ピニオンギア32bは、第2ピニオンギア32aと噛み合う。第2キャリア33は、第2ピニオンギア32aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア32aを保持する。また、第2キャリア33は、第3ピニオンギア32bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア32bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2及び第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
第2キャリア33は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第2キャリア33は、第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bが第2サンギア31を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bを保持することになる。また、第2キャリア33は、第1リングギア24と連結される。このような構造により、第2キャリア33は、第1リングギア24が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第2リングギア34は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア34は、第3ピニオンギア32bと噛み合う。また、第2リングギア34は、変速機構13の入出力軸(変速機構入出力軸)15と連結される。このような構造により、第2リングギア34が回転(自転)すると、変速機構入出力軸15は回転する。
減速機構40は、変速機構13と電動車両の車輪Hとの間に配置される。そして、減速機構40は、変速機構入出力軸15の回転速度を減速して、入出力軸(減速機構入出力軸)16へ出力する。減速機構入出力軸16は、電動車両の車輪Hに連結されており、減速機構40と車輪Hとの間で動力を伝達する。このような構造により、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方が発生した動力は、変速機構13と減速機構40とを介して車輪Hへ伝達されてこれを駆動する。また、車輪Hからの入力は、減速機構40と変速機構13とを介して第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方に伝達される。この場合、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方は、車輪Hに駆動されて電力を発生することができる(回生)。
減速機構40は、第3サンギア41と、第4ピニオンギア42と、第3キャリア43と、第3リングギア44とを含む。第3サンギア41は、変速機構入出力軸15が取り付けられている。このような構造により、第3サンギア41と変速機構13の第2リングギア34とが変速機構入出力軸15を介して連結される。第4ピニオンギア42は、第3サンギア41と噛み合っている。第3キャリア43は、第4ピニオンギア42が第4ピニオン回転軸Rp4を中心として自転できるように、かつ、第4ピニオンギア42が第3サンギア41を中心に公転できるように第4ピニオンギア42を保持する。第3リングギア44は、第4ピニオンギア42と噛み合い、かつ、静止系(本実施形態ではケーシングG)に固定される。第3キャリア43は、減速機構入出力軸16を介して車輪Hに連結されている。また、第3キャリア43は、ホイール軸受50によって回転可能に支持される。
電動車両駆動装置10は、変速機構13と車輪Hとの間に減速機構40を介在させて、変速機構13の変速機購入出力軸15の回転速度を減速して車輪Hを駆動する。このため、第1モータ11及び第2モータ12は、最大回転力が小さいものでも電動車両に必要な駆動力を得ることができる。その結果、第1モータ11及び第2モータ12の駆動電流が小さくて済むとともに、これらを小型化及び軽量化することができる。そして、電動車両駆動装置10の製造コスト低減及び軽量化を実現できる。
制御装置1は、電動車両駆動装置10の動作を制御する。より具体的には、制御装置1は、第1モータ11及び第2モータ12の回転速度、回転方向及び出力を制御する。制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータである。次に、電動車両駆動装置10における回転力の伝達経路について説明する。
図2は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第1変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。電動車両駆動装置10は、第1変速状態と第2変速状態との2つの変速状態を実現できる。まずは、第1変速状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。
第1変速状態は、いわゆるローギア状態の状態であり、減速比を大きくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクを大きくすることができる。第1変速状態は、主に、電動車両が走行時に大きな駆動力を必要とする場合、例えば、坂道を発進するとき又は登坂時(坂道を登る時)等に用いられる。第1変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とは共に動作するが、発生するトルクの大きさが等しく、かつトルクの向きが反対になる。第1モータ11の動力は、第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第1変速状態において、クラッチ装置60は係合状態である。すなわち、第1変速状態において、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できない状態となる。
第1変速状態の時に、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T1とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T5とする。図2に示す第1回転力T1、循環回転力T3、合成回転力T2、第1分配回転力T6及び第2分配回転力T4の各回転力は、各部位に作用するトルクを示し、単位はNmである。
第1モータ11から出力された第1回転力T1は、第1サンギア21に入力される。そして、第1回転力T1は、第1サンギア21で循環回転力T3と合流して、合成回転力T2となる。合成回転力T2は、第1サンギア21から出力される。循環回転力T3は、第1リングギア24から第1サンギア21に伝えられた回転力である。循環回転力T3の詳細については後述する。
第1サンギア21と第2サンギア31とは、サンギアシャフト14で連結されている。このため、第1変速状態において、第1回転力T1と循環回転力T3とが合成され、第1サンギア21から出力された合成回転力T2は、サンギアシャフト14を介して第2サンギア32に伝えられる。合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって増幅される。また、合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって第1分配回転力T6と第2分配回転力T4とに分配される。第1分配回転力T6は、合成回転力T2が第2リングギア34に分配されて増幅された回転力であり、変速機構入出力軸15から出力される。第2分配回転力T4は、合成回転力T2が第2キャリア33に分配されて増幅された回転力である。
第1分配回転力T6は、変速機構入出力軸15から減速機構40に出力される。そして、第1分配回転力T6は、減速機構40で増幅されて、図1に示す減速機構入出力軸16を介して車輪Hに出力されて、これを駆動する。その結果、電動車両は走行する。
第2キャリア33と第1リングギア24とが一体で回転しているため、第2キャリア33に分配された第2分配回転力T4は、第1リングギア24の循環回転力となる。そして、第2分配回転力T4は、第1リングギア24で、第2モータ12の第2回転力T5と合成されて、第1遊星歯車機構20に向かう。第2回転力T5、すなわち、第2モータ12の回転力の向きは、第1モータ11の回転力の向きとは反対である。
第1遊星歯車機構20に戻ってきた第1リングギア24における第2分配回転力T4及び第2回転力T5は、第1遊星歯車機構20によってその大きさが減少されるとともに、力の向きを逆転させられて、第1サンギア21における循環回転力T3となる。このようにして、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間で動力(回転力)の循環が発生するので、変速機構13は、減速比を大きくすることができる。すなわち、電動車両駆動装置10は、第1変速状態のときに、大きなトルクを発生することができる。次に、合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6の値の一例を説明する。
第2サンギア31の歯数をZ1とし、第2リングギア34の歯数をZ4とし、第1サンギア21の歯数をZ5とし、第1リングギア24の歯数をZ7とする。式(1)から式(4)に、電動車両駆動装置10の各部に作用する回転力(図2に示す合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6)を示す。なお、下記の式(1)〜式(4)で負の値となるものは、第1回転力T1とは逆方向の回転力である。
一例として、歯数Z1を47、歯数Z4を97、歯数Z5を24、歯数Z7を76とする。また、第1回転力T1を50Nmとし、第2回転力T5を50Nmとする。すると、合成回転力T2は99.1Nm、循環回転力T3は49.1Nm、第2分配回転力T4は−105.4Nm、第1分配回転力T6は204.5Nmとなる。このように、電動車両駆動装置10は、一例として第1モータ11が出力する第1回転力T1を約4倍に増幅して車輪Hに出力できる。次に、第2変速状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。
図3は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第2変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。第2変速状態は、いわゆるハイギア状態の状態であり、減速比を小さくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクは小さくなるが、変速機構13の摩擦損失を小さくすることができる。第2変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とは共に動作する。そして、第1モータ11及び第2モータ12が発生するトルクの大きさとトルクの向きとは等しくなる。第2変速状態のときに、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T7とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T8とする。
第2変速状態において、第1モータ11の動力は、第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第2変速状態において、クラッチ装置60は非係合状態である。すなわち、第2変速状態において、第1キャリア23は、ケーシングGに対して回転できる状態となる。その結果、第2変速状態では、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間における回転力の循環が遮断される。また、第2変速状態では、第1キャリア23が自由に公転(回転)できるため、第1サンギア21と第1リングギア24とは相対的に自由に回転(自転)できる。なお、図3に示す合成回転力T9は、変速機構入出力軸15から出力されて減速機構40に伝えられるトルクを示し、単位はNmである。
第2変速状態では、第1回転力T7と第2回転力T8との比は、第2サンギア31の歯数Z1と第2リングギア34の歯数Z4との比で定まる。第1回転力T7は、第2キャリア33で第2回転力T8と合流する。その結果、第2リングギア34に合成回転力T9が伝わる。第1回転力T7と、第2回転力T8と、合成回転力T9とは、下記の式(5)を満たす。
変速機構入出力軸15の角速度(回転速度)は、第1モータ11によって駆動される第2サンギア31の角速度と、第2モータ12によって駆動される第2キャリア33の角速度とによって決定される。したがって、変速機構入出力軸15の角速度を一定としていても、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組み合わせを変化させることができる。
このように、変速機構入出力軸15の角速度と第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組み合わせは一意に決定されないので、上述した第1変速状態から第2変速状態へ、あるいは第2変速状態から第1変速状態へ連続して移行させることができる。したがって、制御装置1は、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度と回転力とを連続して滑らかに制御すると、第1変速状態と第2変速状態との間で変速機構13の状態が変化した場合でも、いわゆる変速ショックを小さくすることができる。
第2変速状態において、変速機構13は、第1サンギア21と第1リングギア24とは、互いに同方向に回転(自転)するため、第2サンギア31と第2キャリア33とも、互いに同方向に回転(自転)する。第2サンギア31の角速度を一定とした場合、第2キャリア33の角速度が速くなるほど、第2リングギア34の角速度は速くなる。また、第2キャリア33の角速度が遅くなるほど、第2リングギア34の角速度は遅くなる。このように、第2リングギア34の角速度は、第2サンギア31の角速度と、第2キャリア33の角速度とによって連続的に変化する。すなわち、電動車両駆動装置10は、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。
また、電動車両駆動装置10は、第2リングギア34の角速度を一定にしようとする際に、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度と、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度との組み合わせを複数有する。すなわち、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度が変化しても、第2リングギア34の角速度を一定に維持できる。このため、電動車両駆動装置10は、第1変速状態から第2変速状態に切り替わる際に、第2リングギア34の角速度の変化量を低減できる。結果として、電動車両駆動装置10は、変速ショックを低減できる。
次に、第2モータ12が出力する第2回転力T8について説明する。第2モータ12は、式(6)を満たす第2回転力T8以上の回転力を出力する必要がある。なお、式(6)中の、1−(Z4/Z1)は、第2サンギア31と第2リングギア34との間の回転力比を示す。
したがって、第1モータ11が任意に回転する際に第2リングギア34の回転力及び角速度を調節するためには、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とは、下記の式(7)を満たせばよい。なお、第1回転力TAは第1モータ11の任意の角速度での回転力であり、第2回転力TBは第2モータ12の任意の角速度での回転力である。
次に、クラッチ装置60について説明する。クラッチ装置60は、例えば、ワンウェイクラッチ装置である。ワンウェイクラッチ装置は、第1方向の回転力のみを伝達し、第1方向とは逆方向である第2方向の回転力を伝達しない。すなわち、ワンウェイクラッチ装置は、図1から図3に示す第1キャリア23が第1方向に回転しようとする際に係合状態となり、第1キャリア23が第2方向に回転しようとする際に非係合状態となる。ワンウェイクラッチ装置は、例えば、カムクラッチ装置又はローラクラッチ装置である。以下において、クラッチ装置60はカムクラッチ装置であるものとして、クラッチ装置60の構成を説明する。
図4は、本実施形態のクラッチ装置を示す説明図である。図5は、実施形態1のクラッチ装置のカムを拡大して示す説明図である。図4に示すように、クラッチ装置60は、第2部材としての内輪61と、第1部材としての外輪62と、係合部材としてのカム63とを含む。なお、内輪61が第1部材として機能し、外輪62が第2部材として機能してもよい。内輪61及び外輪62は、筒状部材である。内輪61は、外輪62の内側に配置される。内輪61と外輪62とのうちの一方は、第1キャリア23に連結され、他方はケーシングGに連結される。本実施形態では、内輪61は第1キャリア23に連結され、外輪62はケーシングGに連結される。カム63は、略円柱状の棒状部材である。但し、棒状部材の中心軸に直交する仮想平面で切ったカム63の断面形状は、真円ではなく歪な形状である。カム63は、内輪61の外周部と外輪62の内周部との間に、内輪61及び外輪62の周方向に沿って複数設けられる。
図5に示すように、クラッチ装置60は、ワイヤゲージ64と、ガータスプリング65とを含む。ワイヤゲージ64は、弾性部材である。ワイヤゲージ64は、複数のカム63が分散しないようにまとめる。ガータスプリング65は、カム63が内輪61及び外輪62に常に接触するようにカム63に力を与える。これにより、内輪61又は外輪62に回転力が作用した際に、カム63は迅速に内輪61及び外輪62と噛み合うことができる。よって、クラッチ装置60は、非係合状態から係合状態に切り替わる際に要する時間を低減できる。なお、非係合状態では、内輪61と外輪62との間で力は伝達されていない。また、係合状態では、内輪61と外輪62との間で力は伝達されている。
クラッチ装置60は、内輪61に第1方向の回転力が作用すると、カム63が内輪61及び外輪62と噛み合う。これにより、内輪61と外輪62との間で回転力が伝達され、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受ける。よって、クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制できる。また、クラッチ装置60は、内輪61に第2方向の回転力が作用すると、カム63が内輪61及び外輪62と噛み合わない。これにより、内輪61と外輪62との間で回転力が伝達されず、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受けない。よって、クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制しない。このようにして、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置としての機能を実現する。
本実施形態の場合、クラッチ装置60は、第1変速状態、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動している状態であって、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に、図1に示す第1キャリア23が回転(自転)する方向に内輪61が回転すると係合状態となる。すなわち、上述の第1方向は、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力し、かつ、第2モータ12が作動していない際に第2部材としての内輪61が回転する方向である。この状態で、第2モータ12が第1モータ11の回転方向とは反対方向に回転して、第1モータ11の回転力とは反対向きの回転力を出力している場合に、変速機構13は、第1変速状態となる。
また、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力している状態で、第2モータ12が作動して、第1モータ11の回転方向と同じ方向に回転して、第1モータ11の回転力と同じ向きの回転力を出力している場合に、第2キャリア33の回転方向は逆転する。その結果、クラッチ装置60は、第2変速状態の場合、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動して同じ方向に回転力を出力し、かつ、電動車両を前進させるように第1モータ11及び第2モータ12が回転力を出力する場合に非係合状態となる。このように、クラッチ装置60は、第1モータ11の回転力の方向と第2モータ12の回転力の方向とによって、受動的に係合状態と非係合状態とを切り替えできる。
クラッチ装置60は、ローラクラッチ装置でもよい。ただし、カムクラッチ装置は、回転力(トルク)容量がローラクラッチ装置よりも大きい。すなわち、カムクラッチ装置は、内輪61と外輪62との間で伝達できる力の大きさがローラクラッチ装置よりも大きい。このため、クラッチ装置60は、カムクラッチ装置である方が、より大きな回転力を伝達できる。さらに、クラッチ装置60は、カムクラッチ装置である方が、カム63が内輪61及び外輪62から分離する際の空転摩擦をローラクラッチ装置よりも小さくすることができる。このため。電動車両駆動装置10全体の摩擦損失を低減し、効率を向上させることができる。
また、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ではなく、シリンダ内のピストンを作動流体によって移動させることで2つの回転部材を係合させたり、電磁アクチュエータによって2つの回転部材を係合させたりする方式のクラッチ装置でもよい。ただし、このようなクラッチ装置は、ピストンを移動させるための機構が必要となったり、電磁アクチュエータを作動させるための電力が必要となったりする。しかし、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ならば、ピストンを移動させるための機構を必要とせず、電磁アクチュエータを作動させるための電力も必要としない。クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ならば、内輪61又は外輪62(本実施形態では内輪61)に作用する回転力の方向が切り替えられることで、係合状態と非係合状態とを切り替えできる。よって、クラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置である方が、部品点数を低減でき、かつ、自身(クラッチ装置60)を小型化できる。次に、電動車両駆動装置10の構造の一例を説明する。
図6は、本実施形態に係る電動車両駆動装置の内部構造を示す図である。次の説明において、上述した構成要素については重複する説明は省略し、図中において同一の符号で示す。図6に示すように、ケーシングGは、第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第3ケーシングG3と、第4ケーシングG4とを含む。第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第4ケーシングG4とは、筒状の部材である。第2ケーシングG2は、第1ケーシングG1よりも車輪H側に設けられる。第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とは、例えば複数のボルトで締結される。
第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の2つの開口端のうち第2ケーシングG2とは反対側の開口端、すなわち、第1ケーシングG1の電動車両の車体側の開口端に設けられる。第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とは、例えば複数のボルト52で締結される。このようにすることで、第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の開口を塞ぐ。第4ケーシングG4は、第1ケーシングG1の内部に設けられる。第1ケーシングG1と第4ケーシングG4とは、例えば複数のボルトで締結される。
図6に示すように、第1モータ11は、第1ステータコア11aと、第1コイル11bと、第1ロータ11cと、第1磁気パターンリング11dと、第1モータ出力軸11eとを含む。第1ステータコア11aは、筒状の部材である。第1ステータコア11aは、図6に示すように、第1ケーシングG1に嵌め込まれるとともに、第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第1コイル11bは、第1ステータコア11aの複数個所に設けられる。第1コイル11bは、インシュレータを介して第1ステータコア11aに巻きつけられる。
第1ロータ11cは、第1ステータコア11aの径方向内側に配置される。第1ロータ11cは、第1ロータコア11c1と、第1マグネット11c2とを含む。第1ロータコア11c1は、筒状の部材である。第1マグネット11c2は、第1ロータコア11c1の内部または外周部に複数設けられる。第1モータ出力軸11eは、棒状の部材である。第1モータ出力軸11eは、第1ロータコア11c1と連結される。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1に設けられて、第1ロータコア11c1と同軸で回転する。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1の回転角度を検出する際に用いられる。
第2モータ12は、第2ステータコア12aと、第2コイル12bと、第2ロータ12cと、第2磁気パターンリング12dとを含む。第2ステータコア12aは、筒状の部材である。第2ステータコア12aは、第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第2コイル12bは、第2ステータコア12aの複数個所に設けられる。第2コイル12bは、インシュレータを介して第2ステータコア12aに巻きつけられる。
第2ロータ12cは、第2ステータコア12aの径方向内側に設けられる。第2ロータ12cは、クラッチ装置60とともに、回転軸Rを中心に回転できるように、第4ケーシングG4によって支持される。第2ロータ12cは、第2ロータコア12c1と、第2マグネット12c2とを含む。第2ロータコア12c1は、筒状の部材である。第2マグネット12c2は、第2ロータコア12c1の内部または外周部に複数設けられる。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1に設けられて、第2ロータコア12c1と同軸で回転する。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1の回転角度を検出する際に用いられる。
図6に示すように、減速機構40は、例えば複数のボルト54で第2ケーシングG2に締結されて取り付けられる。本実施形態では、減速機構40が有する第3リングギア44が第2ケーシングG2に取り付けられる。減速機構40の第3キャリア43の一端部には、ホイール軸受50の外輪部材(後述する)が取り付けられている。外輪部材と第3リングギア44との間には、ホイール軸受50の転動体が介在している。本実施形態のインホイールモータ10は、減速機構40とホイール軸受50とが一体となった構成であり、一部の部材が減速機構40とホイール軸受50の両方の部材となっている。ホイール軸受50は、転動体を介して第3キャリア43と第3リングギア44とを保持する構造により、第3キャリア43を、第3リングギア44の外周部に、回転可能に支持する。ホイール軸受50については後述する。
第3キャリア43は、車輪HのホイールHwが取り付けられる。ホイールHwは、スタッドボルト104とナット106とによって、第3キャリア43の回転軸と直交する面に締結される。ホイールHwにはタイヤHtが取り付けられる。電動車両の車輪Hは、ホイールHwとタイヤHtとで構成される。この例において、車輪Hは、第3キャリア43に直接取り付けられている。このため、第3キャリア43は、図1に示す減速機構入出力軸16を兼ねている。
懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2に設けられる。具体的には、懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2のうち、電動車両駆動装置10が電動車両の車体に取り付けられた際に鉛直方向上側及び下側となる部分に設けられる。鉛直方向上側の懸架装置取付部53は、上部ジョイント53Naを含み、鉛直方向下側の懸架装置取付部53は、下部ジョイント53Nbを含む。上部ジョイント53Naと下部ジョイント53Nbとに、懸架装置のアームが取り付けられて、電灯車両駆動装置10は、電動車両の車体に支持される。
第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14とは、第1嵌合部56Aで連結される。このような構造により、第1モータ11とサンギアシャフト14との間で動力が伝達される。第1嵌合部56Aは、例えば、第1モータ出力軸11eの内周面に形成されたスプラインと、サンギアシャフト14の第1モータ11側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸R方向における第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14との熱伸び等が吸収される。
変速機構入出力軸15は、変速機構13が有する第2リングギア34と、減速機構40が有する第3サンギア41のシャフト(第3サンギアシャフト)41Sとを連結する。このような構造により、変速機構13の第2遊星歯車機構30と減速機構40の第3サンギアシャフト41Sとの間で動力が伝達される。変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとは、第2嵌合部56Bで連結される。第2嵌合部56Bは、例えば、変速機構入出力軸15の内周面に形成されたスプラインと、第3サンギアシャフト41Sの第2モータ12側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸R方向における変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとの熱伸び等が吸収される。
上述した構造により、電動車両駆動装置10は、車輪Hを保持し、かつ、第1モータ11及び第2モータ12から出力された回転力を車輪Hに伝達することで、電動車両を走行させることができる。なお、本実施形態では、第1モータ11と、第2モータ12と、第1サンギア21と、第1キャリア23と、第1リングギア24と、第2サンギア31と、第2キャリア33と、第2リングギア34と、第3サンギア41と、第3キャリア43と、第3リングギア44とがすべて同軸上に配置されているが、電動車両駆動装置10は、必ずしもこれらの構成要素が同軸上に配置されなくてもよい。次に、ホイール軸受(ハブベアリング)50について説明する。
図7は、実施形態1のホイール軸受の外観を模式的に示す説明図である。図8は、図7のX−X断面図である。図9は、第1内輪部材の概略構成を模式的に示す断面図である。図10は、ロックナットの概略構成の外観を模式的に示す説明図である。図11は、ロックナットの概略構成を模式的に示す断面図である。図12は、外輪部材の概略構成の外観を模式的に示す説明図である。図13は、外輪部材の概略構成を模式的に示す断面図である。図14は、外輪部材を拡大して示す断面図である。図15は、ホイールフランジの概略構成の外観を模式的に示す斜視図である。図16は、ホイールフランジの概略構成の外観を図15とは異なる角度から模式的に示す斜視図である。図17は、ホイールフランジの概略構成の外観を模式的に示す説明図である。図18は、ホイールフランジの概略構成を模式的に示す断面図である。
図7および図8に示すようにホイール軸受50は、減速機構40と一体で設けられている。なお、減速機構40は、上述したように、第3サンギア41と、第4ピニオン42と、第3キャリア43と、第3リングギア44と、を有する。また、減速機構40は、図8に示すように、第3サンギア41の軸方向の一方の端部に軸受45が配置され、他方の端部に軸受46が配置されている。軸受45および軸受46は、第3サンギア41と第3キャリア43とを相対回転可能な状態で支持している。
ホイール軸受50は、図7および図8に示すように、第2ケーシングG2に締結されている内輪部101と、ホイールHwに取り付けられる外輪部102と、内輪部101と外輪部102と回転軸R周りに相対的に回転可能な状態(内輪部101が固定され外輪部102が回転する状態)で連結する転動体103と、外輪部102とホイールHwとを連結する上述したスタッドボルト104およびナット106(図6参照)と、を有する。ここで、内輪部101は、一部が第3リングギア44となる。また、外輪部102は、一部が第3キャリア43となる。スタッドボルト104とナット106とは、ホイール軸受50に含めなくてもよい。
内輪部101は、第1内輪部材111と、第2内輪部材112と、ロックナット113と、を有する。第1内輪部材111は、第3リングギア44でもあり、第2ケーシングG2に固定されている。第1内輪部材111は、図8および図9に示すように、円筒上部材であり、内周面に歯溝131が形成され、外周面に凹面132とボルト穴133と雄ねじ134とが形成されている。なお、凹面132とボルト穴133と雄ねじ134とは、スタットボルト104に近い側から雄ねじ134、凹面132、ボルト穴133の順で形成されている。歯溝131は、第4ピニオンギア42と係合される歯で構成される溝である。第1内輪部材111は、歯溝131で第4ピニオンギア42と係合することで、第3リングギア44としての機能を実現する。凹面132は、転動体103と接触する領域であり、内径側に凹となる曲面である。凹面132は、回転軸Rの周方向に延在している。凹面132は、回転軸Rに平行な方向においてボルト穴133側の端部がより径方向外側に突出し、雄ねじ134側の端部が回転軸Rに平行な線と滑らかに接続する(つまり突出していない)形状である。ボルト穴133は、第1内輪部材111の円筒形状から径方向外側に突出した部分に形成されている。ボルト穴133は、第2ケーシングG2と係合するボルトが挿入される。これにより、第1内輪部材111は、第2ケーシングG2に対して固定される。雄ねじ134は、ねじ溝であり、第1内輪部材111のスタットボルト104側の端部を起点として一定領域に形成されている。また、第1内輪部材111は、凹面132と雄ねじ134との間に雄ねじ134から凹面132に向かう途中で径が大きくなる段差が形成されている。
第2内輪部材112は、リング状の部材であり、内周面が第1内輪部材111の凹面132と雄ねじ134との間の部分に当接する。第2内輪部材112は、第1内輪部材111の凹面132側の端面が、第1内輪部材111の段差と接触している。また、第2内輪部材112は、外周面に転動体103と接触する領域である凹面が形成されている。第2内輪部材112の凹面は、回転軸Rの周方向に延在しており、内径側に凹となる曲面である。凹面は、回転軸Rに平行な方向において雄ねじ134側の端部がより径方向外側に突出し、ボルト穴133側の端部が回転軸Rに平行な線と滑らかに接続する(つまり突出していない)形状である。
ロックナット113は、図8、図10および図11に示すように、リング状の部材であり、内周面に雌ねじ141が形成されており、外周面の一部に凹面142が形成されている。また、ロックナット113は、リングの周方向に一定間隔で3箇所に穴143が形成されている。ロックナット113は、雌ねじ141が第1内輪部材111の雄ねじ134と螺合している。また、ロックナット113は、穴143にピン等が挿入されており、ロックナット113が第1内輪部材111に対して回転しないように固定される。これにより、ロックナット113は、第1内輪部材111に対して固定される。また、ロックナット113は、外周面に形成された凹面142に工具を挿入した状態で工具を回転させることで、ロックナット113を回転させることができる。これにより、組立時にロックナット113を簡単に回転させることができる。ロックナット113は、外周面の径が第1内輪部材111の凹面132と雄ねじ134との間の外周面の径よりも大きい。これにより、ロックナット113は、凹面132側の端面が第2内輪部材112と接触する。以上より、内輪部101は、ロックナット113を第1内輪部材111に対して固定することで、第2内輪部材112を第1内輪部材111とロックナット113で挟み込むことができ、第2内輪部材112の径方向の位置も固定することができる。
外輪部102は、外輪部材116と、ホイールフランジ117と、固定ボルト118と、を有する。外輪部材116は、図8、図12および図13に示すように、リング状の部材であり、スタッドボルト104側の端面がホイールフランジ117と対向し、ホイールフランジ117と接触する接触面151となる。外輪部材116は、接触面151に複数(本実施形態では8個)のボルト穴152が、円周方向に一定間隔で形成されている。また外輪部材116は、ボルト穴152の外周を囲う部分が他の部分よりも径方向外側に突出している。ボルト穴152は、回転軸Rに平行な方向に伸び、内周面にねじ溝が形成された穴であり、接触面151から外輪部材116の途中(貫通しない深さ)まで延在している。外輪部材116の接触面151は、径方向内側と径方向外側とで回転軸R方向の位置が異なる形状である。つまり、外輪部材116は、接触面151の径方向の所定位置に段差153が形成されている。接触面151は、段差153よりも径方向外側が外径側接触面151aとなり、段差153よりも径方向内側が内径側接触面151bとなる。段差153は、内径側接触面151bが外径側接触面151aより凹んだ形状となる。段差153は、外径側接触面151aと内径側接触面151bとの境界面が径方向内側を向いた面となる。
外輪部材116は、内周面に凹面154と凹面155とが形成されている。凹面154と凹面155とは、凹面155が接触面151に近い側に形成されている。凹面154は、転動体103と接触する領域であり、外径側に凹となる曲面である。凹面154は、回転軸Rの周方向に延在している。凹面154は、回転軸Rに平行な方向において接触面151側の端部が反対側の端部より径方向内側に突出している。凹面155も、転動体103と接触する領域であり、外径側に凹となる曲面である。凹面155は、回転軸Rの周方向に延在している。凹面155は、回転軸Rに平行な方向において接触面151とは反対側の端部が接触面151側の端部より径方向内側に突出している。
ホイールフランジ117は、図7、図8、図15および図18に示すように、筒状の部材であり、本体161と、フランジ162と、円筒部163と、を有する。筒状の本体161の一方の端面に本体161よりも外周の径が大きいフランジ162が形成されている。フランジ162は、円板状の部材であり、本体161よりも内径側に回転軸Rを中心とした筒形状の円筒部163が形成されている。円筒部163は、筒形状の一方の端面がフランジ162と接続しており、他方の端面が本体161のフランジ162が設けられてない側の端面よりもフランジ162から離れる方向に突出している。
ホイールフランジ117は、本体161のフランジ162が設けられてない側の端面が、外輪部材116の接触面151と接触する接触面171となる。本体161は、接触面171に複数(本実施形態では8個)のボルト穴172が、円周方向に一定間隔で形成されている。また本体161は、ボルト穴172の外周を囲う部分が他の部分よりも径方向外側に突出している。ボルト穴172は、回転軸Rに平行な方向に伸び、回転軸R方向に貫通した穴であり、図8および図18に示すように、接触面171から離れる側の一部に穴の開口径が広がる段差が形成されている。また、本体161の接触面171は、径方向内側と径方向外側とで回転軸R方向の位置が異なる形状である。つまり、ホイールフランジ117は、接触面171の径方向の所定位置に段差173が形成されている。接触面171は、段差173よりも径方向外側が外径側接触面171aとなり、段差173よりも径方向内側が内径側接触面171bとなる。段差173は、内径側接触面171bが外径側接触面171aより突出した形状となる。段差173は、外径側接触面171aと内径側接触面171bとの境界面が径方向外側を向いた面となる。このように、接触面171は、接触面151に対応する形状である。つまり、接触面171は、接触面151で凹んでいる部分に対面する部分が突出している。
フランジ162は、本体161よりも内径側の部分に複数(本実施形態では5個)のボルト穴174が、円周方向に一定間隔で形成されている。ボルト穴174は、スタッドボルト104が挿入される穴である。ボルト穴174は、回転軸Rに平行な方向に伸び、回転軸R方向に貫通した穴であり、図8および図18に示すように、接触面171から離れる側の一部に穴の開口径が狭まる段差が形成されている。
フランジ162は、円筒部163よりも内径側の部分に複数(本実施形態では4個)の凹部175が、円周方向に一定間隔で形成されている。凹部175は、第4ピニオンギア42のシャフトの端部が突き当てられる。また、円筒部163は、フランジ162とは反対側の端部の、凹部175が形成されている位置に対面する場所には穴176が形成されている。穴176は、第4ピニオンギア42のシャフトが挿入される穴である。ホイールフランジ117は、以上のような構成であり、円筒部163の内部に第4ピニオンギア42が配置されシャフトが凹部175に突き当てられ、穴176に挿入される。これにより、第4ピニオンギア42が回転軸Rを中心として回転(公転)すると、ホイールフランジ117も回転する。これにより、ホイールフランジ117は、減速機構40の第3キャリア43にもなる。
固定ボルト118は、ホイールフランジ117のスタッドボルト104側(ホイールHw側)からボルト穴172とボルト穴152に挿入されねじ溝に螺合することで、外輪部材116とホイールフランジ117とを締結する。固定ボルト118は、頭部がホイールフランジ117のボルト穴172の段差と接触する。
外輪部102は、以上の構成であり、外輪部材116とホイールフランジ117とが固定ボルト118により固定されることで、外輪部材116とホイールフランジ117とは一体で回転する。
転動体103は、保持器114aと多数の鋼球115aとで構成されるユニットと、保持器114bと多数の鋼球115bとで構成されるユニットと、を有する。保持器114aと多数の鋼球115aとは、第1内輪部材111の凹面132と外輪部材116の凹部154とで囲われた空間に配置されている。保持器114aは、リング状の部材であり、多数の鋼球115aを隣接する鋼球115aとの距離を一定に保ちつつ、回転可能な状態で支持している。多数の鋼球115aは、第1内輪部材111の凹面132と外輪部材116の凹面154とに接触しており、第1内輪部材111と外輪部材116とが相対的に回転すると、接触している面の移動に合わせて回転する。保持器114bと多数の鋼球115bとは、第2内輪部材112の凹面と外輪部材116の凹面155とで囲まれた空間に配置されている。つまり、保持器114bと多数の鋼球115bとで構成されるユニットは、保持器114aと多数の鋼球115aとで構成されるユニットよりもスタッドボルト104側に配置されている。保持器114bは、リング状の部材であり、多数の鋼球115bを隣接する鋼球115bとの距離を一定に保ちつつ、回転可能な状態で支持している。多数の鋼球115bは、第2内輪部材112の凹面と外輪部材116の凹面155とに接触しており、第2内輪部材112と外輪部材116とが相対的に回転すると、接触している面の移動に合わせて回転する。転動体103は、内輪部101と外輪部102との間に配置され、両者を相対回転にあわせて、多数の鋼球115a、多数の鋼球115bが回転することで、両者の円滑に相対回転させることができる。また、円周方向に隣接して多数の鋼球115a、多数の鋼球115bを配置することで、内輪部101と外輪部102とが回転軸Rからずれることを抑制することができる。また、転動体103は、保持器114aと多数の鋼球115aとで構成されるユニットと、保持器114bと多数の鋼球115bとで構成されるユニットと、の2つのユニットを設けることで、つまり、回転軸Rに平行な方向において2つの位置で内輪部101と外輪部102とを支持することで回転軸Rに対してブレが生じることを抑制できる。
スタッドボルト104は、上述したようにホイールフランジ117のボルト穴174に挿入されている。ここで、スタッドボルト104は、頭部がホイールフランジ117の円筒部163側に配置される向き、つまり、軸部(ねじ溝が形成されている部分)がホイールHw側に突出する向きでボルト穴174に挿入されている。また、ナット106は、上述したようにスタッドボルト104と螺合し、ホイールフランジ117とホイールHwとを締結する。ホイール軸受(ハブベアリング)50は、以上のような構成である。
ホイール軸受50は、外輪部102を、転動体103と接触する外輪部材116と、ホイールHwと連結するホイールフランジ117とに分割した構成とし、外輪部材116とホイールフランジ117とを固定ボルト118で固定することで、固定ボルト118の締結で外輪部102を組み立てることができる。また、ホイールフランジ117を、回転軸Rに平行な方向において外輪部材116から離れる方向の端面が、回転軸Rの径方向において内輪部101よりも回転軸R側まで延在する形状とすることで、ホイールフランジ117とホイールHwとを適切に連結することができる。具体的には、外輪部材116と内輪部101とを転動体103を介して連結させた後に、外輪部材116とホイールフランジ117と連結させることができる。これにより、ホイール軸受50の軸受部分(転動体103と接触する各部材)を組み立てやすくすることができる。また、ホイール軸受50は、外輪部材116とホイールフランジ117とを分割した構造とすることで、外輪部材116とホイールフランジ117とを別々の材料で製造することができる。例えば、外輪部材116は、炭素鋼で製造し、ホイールフランジ117は、アルミニウム合金で製造することもできる。これにより、外輪部102の位置によって必要な強度と重量とのバランスを適切に調整することができるため、ホイール軸受50を軽量化することができる。
また、ホイール軸受50は、図8に示すように、スタッドボルト104が挿入されるホイールフランジ117の複数のボルト穴(開口)174のそれぞれの中心を円で結んだピッチ円直径(ハブボルトPCD)D1を、転動体103の回転軸Rに直交する径方向の中心(鋼球115a、115bの中心)を円で結んだピッチ円直径(ボールPCD(Pitch Circle Diameter))D2よりも小さくすることで、ホイール軸受50と連結するホイールとして種々のホイールを用いることができる。また、ホイールとしてガソリンエンジンで駆動される車両、ハイブリッド車両に用いるホイールも使用することができる。また、ホイールフランジ117は、アルミニウム合金で製造した場合は、ホイールフランジ117を軽量化できるため、ハブボルトPCDをより小さくすることができる。
また、ホイールHwとホイールフランジ117を締結する締結部材として、回転軸Rに平行な方向に延在し、頭部がホイールフランジ117の内輪部側の面に露出しているスタッドボルト104を用いることで、ホイール装着時にナット106をホイール側から螺合させることで、ホイールHwとホイール軸受50とを締結することができる。また、本実施形態のように、外輪部材116とホイールフランジ117とを分離可能な構造とすることで、スタッドボルト104の交換も容易に行うことができる。なお、締結部材としては、スタットボルト104以外の締結部材を用いることができる。例えば、ホイールフランジにボルト穴を形成し、ホイール側からボルトを挿入する構成(ラグボルト方式)としてもよい。
また、ホイール軸受50は、外輪部材116とホイールフランジ117とを固定する固定機構として、軸部が回転軸Rと平行な方向に延在する固定ボルト118を用いることで、両者を簡単に固定することができる。
ホイール軸受50は、外輪部103に固定ボルト118の頭部が収納される構成とすることで、外輪部103側から固定ボルト118を挿入することができる。つまり、ホイールHwを装着前は、開放されている側の領域から固定ボルト118をボルト穴に挿入することができる。これにより、外輪部材116とホイールフランジ117とをより簡単に固定することができる。
また、ホイール軸受50は、外輪部材116の接触面151とホイールフランジ117の接触面171とを凹凸がある形状(ホイールフランジ117が接触面171に外輪部材116との接触面に外輪部材116側に凸の突出部)としたいわゆるインロー構造とすることで、組立時に外輪部材116とホイールフランジ117との軸心合わせを簡単にすることができる。また、回転軸Rに対して、外輪部材116とホイールフランジ117とがずれることを抑制することができる。
また、ホイール軸受50は、ホイールフランジ117を外輪部材116よりも線膨張係数が高い材料で形成し、ホイールフランジ117の接触面171の突出部173が、接触面151の回転軸Rに直交する方向の端部よりも内側に形成されている構造とすることが好ましい。つまり、ホイールフランジ117を外輪部材116よりも線膨張係数が高い材料で形成し、ホイールフランジ117の接触面171の段差173の境界面が径方向外側の形状とすることが好ましい。これにより、外輪部102が熱等により膨張しても径方向内側にあるホイールフランジ117の突出部が外輪部材116の接触面151を押す形状となり、境界面で位置ずれが発生したり、空間が生じたりすることを抑制することができる。
また、ホイール軸受50は、本実施形態のように、ロックナット113を外輪部材116の接触面151よりもスタッドボルト(ホイール)側に露出した形状とすることが好ましい。つまり、図8に示すように、回転軸Rに平行な方向において、ロックナット113のスタッドボルト(ホイール)側から遠い側の端面181が、外輪部材116の接触面151のスタッドボルト(ホイール)側の端面182よりもスタッドボルト(ホイール)側にあることが好ましい。これにより、ロックナット113を第1内輪部材111に螺合させる際に、ロックナット113の外周面が露出した形状とすることができる。これにより、ロックナット113をより簡単に第1内輪部材111に螺合させることができる。なお、本実施形態では、内輪部を第1内輪部材と第2内輪部材とを組み合わせた構造としたが、本発明はこれに限定されない。内輪部は、第2内輪部材を複数設けてもよい。内輪部材の数によらず、ロックナットで固定することで、内輪部材を所定位置に固定することができる。
なお、ホイール軸受50は、第1内輪部材111に転動体103の保持器114aと多数の鋼球115aとで構成されるユニットを挿入した後、外輪部材116を挿入し、転動体103の保持器114bと多数の鋼球115bとで構成されるユニットを挿入し、第2内輪部材112を挿入し、ロックナット113と第1内輪部材111とを締結する。その後、外輪部材116とホイールフランジ117とを固定ボルト118で固定する。なお、ホイールフランジ117は、スタッドボルト104が挿入されている。その後、スタッドボルト104にホイールHwを挿入した後ナット106で螺合することで、ホイール軸受50を組み立て、ホイール軸受50にホイールHwを装着することができる。このように、ホイール軸受50は、ホイールHw側から順次部品を挿入していくことで、組み立てることができる。これにより、組み立てを簡単に行うことができ、取り外しも簡単に行うことができる。
また、ホイール軸受50は、減速機構40と一体とした構成とすることで、具体的には、ホイールフランジ117と第3キャリア43とを一体化し、内輪部101と第3リングギア44とを一体化することで、小型化、軽量化することができる。次に、第1モータ11及び第2モータ12の回転角度を検出する構造を説明する。
第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、第1モータ11と第2モータ12との間に介在するケーシングG1の仕切り壁G1Wを隔てて、互いに対向して配置される。すなわち、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、それぞれ仕切り壁G1Wに対向している。
図19−1は、第1磁気パターンリング及び第2磁気パターンリングを示す斜視図である。図19−2は、図19−1のA−A断面図である。図19−3は、磁気検出器の配置を示す斜視図である。図19−1に示すように、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、円環状の部材であり、中央部に開口部MHを有する。開口部MHを、図6に示すサンギアシャフト14が貫通する。
図1、図6に示す電動車両駆動装置10は、第1モータ11の第1ロータ11c及び第2モータ12の第2ロータ12cの径方向内側に第1遊星歯車機構20及び第2遊星歯車機構30が配置されている。このため、特に車輪H側のモータ(第2モータ12)については、回転角検出センサとして、小径のレゾルバを用いることは困難である。大径のレゾルバを用いると、質量が増加するため、好ましくない。
図19−2に示すように、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、円環状の薄い金属板BMの表面に、薄い磁石層MPが形成されたものである。金属板BMは、例えば、炭素鋼等である。磁石層MPは、例えば、磁粉が混合されたプラスチック又はゴム等の樹脂である。磁石層MPに磁気パターンが着磁されている。このような構造により、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、大径であっても、レゾルバと比較して大幅に軽量化することができる。
図19−3に示す磁気検出器(磁気ピックアップセンサ)2は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとに対して1個ずつ用意されて、ケーシングGの第1ケーシングG1の内側に取り付けられる。磁気検出器2は、第1ケーシングG1の仕切り壁G1Wの両側、かつ仕切り壁G1Wが有する貫通孔GHの外側に配置される。貫通孔GHは、図6に示すサンギアシャフト14が貫通する。このような構造により、それぞれの磁気検出器2は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとに対向して配置される。図19−3は、一つの磁気検出器2のみ示されるが、仕切り壁G1Wの裏側に、もう一つの磁気検出器2が配置されている。
それぞれの磁気検出器2は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとの磁束を検出して、第1モータ11の第1ロータ11cと第2ロータ12cとの絶対角度を算出する。例えば、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、磁束密度が正弦波状に変化するように着磁されている。第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、1周での正弦波の周期数が、それぞれ、第1モータ11と第2モータ12との極対数と一致している。すなわち、1極対に対して正弦波パターンの1周期が対応している。
磁気検出器2内には、例えば、2個のリニアホールセンサが設けられており、1周期の正弦波パターンに対して90度位相がずれた位置に、それぞれのリニアホールセンサが配置されている。2個のリニアホールセンサにより第1磁気パターンリング11d又は第2磁気パターンリング12dの磁束密度検出し、演算することで、1周期の正弦波パターンにおける絶対角度を検出することができる。図1に示す制御装置1は、磁気検出器2が検出した第1モータ11の第1ロータ11c及び第2モータ12の第2ロータ12cの絶対角度(1極対における絶対電気角)に基づき、第1コイル11b及び第2コイル12bに流す電流を制御する。
第1モータ11及び第2モータ12からの漏れ磁束による影響を低減するため、次のような手法を用いてもよい。第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dには、連続した磁気パターンとは別に、矩形波状の磁束密度分布である着磁パターンを形成する。この矩形波状の着磁パターンの周期は十分に細かくなっている。また、磁気検出器2は、リニアホールセンサとは別に、矩形波状パターンの磁極方向を検出してパルスを出力する磁気センサを有する。
まず、第1モータ11及び第2モータ12の非通電時(例えば、電動車両の始動時)に、磁気検出器2は、連続した磁気パターンによって第1ロータ11c及び第2ロータ12cの絶対角度を検出する。以後は、磁気検出器2は、矩形波状の着磁パターンから検出した第1ロータ11c及び第2ロータ12cの相対回転を積算することによって、第1ロータ11c及び第2ロータ12cの絶対角度を計算する。矩形波状の着磁パターンによる第1ロータ11c及び第2ロータ12cの相対角度の検出は、リニアホールセンサを用いた絶対角度の計測よりも磁気ノイズに対して信頼性が高い。このため、上述した手法を用いれば、磁気検出器2が、第1ロータ11c及び第2ロータ12cの絶対角度を検出する際の信頼性を向上させることができる。次に、電動車両駆動装置10を電動車両に用いた場合の制御を説明する。
図20は、車両を走行させるモータに要求される回転力(トルク)と角速度(回転速度)との関係を示す図である。一般的に、モータの回転力(トルク)と角速度(回転速度)の関係は、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比は、1:2程度である。また、最大の回転力と、最高回転速度における最大の回転力との比は、2:1程度である。これに対して、車両を走行させる場合、図8の実線で示す車両の走行特性曲線Caから、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比は1:4程度である。また、車両を走行させる場合、最大の回転力と、最高回転速度における最大の回転力との比は、4:1程度である。
したがって、モータで車両を走行させる場合、一段目の変速比と二段目の変速比との比率(段間差)が2程度の変速を行うことが好ましい。このようにすることで、モータのNT特性(回転速度と回転力との関係)の全領域で、過不足なく車両の走行特性曲線Caをカバーすることができ、必要最小限の出力を有するモータで、車両に必要な動力性能を確保できる。
図20の点線で示すNT特性曲線CLは、電動車両駆動装置10の第1変速状態(ローギア)であり、一点鎖線で示すNT特性曲線CHは、電動車両駆動装置10の第2変速状態(ハイギア)である。このように、第1変速状態と第2変速状態とを用いることにより、車両の走行特性曲線Caを過不足なくカバーすることができる。二点鎖線で示すNT特性曲線Cbは、変速を行わないで車両の走行特性曲線Caをカバーしようとした場合に必要なNT特性を示している。一般に、モータは、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比が1:2程度であるため、一つのモータで走行特性曲線Caをカバーする場合、モータにはNT特性曲線Cbのような特性が要求される。その結果、モータに過剰な性能が必要になり、無駄が多くなるとともにコスト及び質量の増加を招く。
モータの効率に注目すると、モータの効率が高い領域は、最大回転力から最高回転速度に向かって推移する定出力領域(NT特性曲線CL又はNT特性曲線CHの曲線部分)の中間部分AL、AHにある。電動車両駆動装置10は、変速により、この中間部分AL、AHを積極的に活用して、効率を向上させることができる。変速を行わない場合、NT特性曲線Cbのようなモータが必要になるが、この場合、走行特性曲線Caにおいて使用頻度の低い領域(例えば、低速で高い回転力が必要な領域又は最高速に近い領域)でモータの効率が最も高くなってしまう。このため、モータを効率よく使用する観点からは、電動車両駆動装置10のように、減速比を変更して用いることが好ましい。
電動車両駆動装置10で、第1モータ11と第2モータ12との両方が動作する場合、変速機構13の総合減速比R=(α+β−1)/(α−β−1)である。これは、第1変速状態のみであり、第2変速状態ではR=1である。αは、第2遊星歯車機構30の遊星比であり、βは、第1遊星歯車機構20の遊星比である。遊星比は、リングギアの歯数をサンギアの歯数で除した値である。したがって、第2遊星歯車機構30の遊星比αは、第2リングギア34の歯数/第2サンギア31の歯数であり、第1遊星歯車機構20の遊星比βは、第1リングギア24の歯数/第1サンギア21の歯数である。図1に示す電動車両駆動装置10で、段間差2を実現するためには、第2遊星歯車機構30の遊星比α(>1)を1.90以上2.10以下の範囲とし、第1遊星歯車機構20の遊星比β(>1)を2.80以上3.20以下の範囲とすることが好ましい。
電動車両駆動装置10は、電動車両のばね下に配置されるので、できる限り軽量であることが好ましい。電動車両駆動装置10を軽量化するために、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いる手法がある。アルミニウムの比重は銅の比重の30%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を70%低下させることができる。このため、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10を軽量化することができる。しかし、アルミニウムの導電率は、一般に巻き線に用いられる銅の導電率の60%程度であるので、銅線を単にアルミニウム線に置き換えるのみでは、性能低下及び発熱量の増加を招くおそれがある。
電動車両駆動装置10は、減速機構40を用いるとともに、変速機構13で減速比を変更する。このため、第1モータ11及び第2モータ12に必要とされる回転力が比較的小さくて済むので、第1モータ11及び第2モータ12に流れる電流も比較的小さくなる。このため、本実施形態において、第1モータ11の第1コイル11b及び第2モータ12の第2コイル12bに、銅線の代わりにアルミニウム線を用いたとしても、性能低下及び発熱量の増加はほとんど発生しない。したがって、本実施形態において、電動車両駆動装置10は、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いて軽量化を実現する。
第1モータ11及び第2モータ12の巻き線にアルミニウムを用いる場合、銅クラッドアルミニウム線を用いることが好ましい。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線の外側に銅を一様に被覆し、銅とアルミニウムとの境界を強固に金属結合させたものである。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線と比較して、はんだ付けしやすく、端子との接続部の信頼性も高い。銅クラッドアルミニウムの比重は銅の比重の40%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を60%低下させることができる。その結果、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10を軽量化することができる。
図21は、本実施形態の変形例に係る電動車両駆動装置の構成を示す説明図である。図21に示す電動車両駆動装置10aは、上述した実施形態の電動車両駆動装置10と変速機構の構成が異なる。次においては、電動車両駆動装置10が有する構成要素と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。電動車両駆動装置10aは、変速機構13aを含む。変速機構13aは、第1モータ11と連結されて第1モータ11が出力した回転力が伝えられる(入力される)。また、変速機構13aは、第2モータ12と連結されて第2モータ12が出力した回転力が伝えられる(入力される)。そして、変速機構13aは、変速機構入出力軸15によって減速機構40と連結され、変速された回転力を減速機構40に伝える(出力する)。減速機構40は、電動車両駆動装置10が有するものと同様である。
変速機構13aは、第1遊星歯車機構70と、第2遊星歯車機構80と、クラッチ装置90とを含む。第1遊星歯車機構70は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構70は、第1サンギア71と、第1ピニオンギア72と、第1キャリア73と、第1リングギア74とを含む。第2遊星歯車機構80は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構80は、第2サンギア81と、第2ピニオンギア82aと、第3ピニオンギア82bと、第2キャリア83と、第2リングギア84とを含む。第2遊星歯車機構80は、第1遊星歯車機構70よりも第1モータ11及び第2モータ12側に配置される。
第2サンギア81は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア81は、第1モータ11と連結される。よって、第1モータ11が作動すると、第2サンギア81は、第1回転力TAが伝えられる。これにより、第2サンギア81は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第2ピニオンギア82aは、第2サンギア81と噛み合う。第3ピニオンギア82bは、第2ピニオンギア82aと噛み合う。第2キャリア83は、第2ピニオンギア82aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア82aを保持する。第2キャリア83は、第3ピニオンギア82bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア82bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2は、例えば、回転軸Rと平行である。第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
第2キャリア83は、回転軸Rを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第2キャリア83は、第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bが第2サンギア81を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bを保持することになる。第2リングギア84は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア84は、第3ピニオンギア82bと噛み合う。また、第2リングギア84は、第2モータ12と連結される。よって、第2モータ12が作動すると、第2リングギア84は、第2回転力TBが伝えられる。これにより、第2リングギア84は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
第1サンギア71は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア71は、第2サンギア81を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア71と第2サンギア81とは、同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト69に一体で形成される。そして、サンギアシャフト69は、第1モータ11と連結される。これにより、第1サンギア71は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
第1ピニオンギア72は、第1サンギア71と噛み合う。第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア72を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。第1キャリア73は、回転軸Rを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1サンギア71を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア72を保持することになる。
また、第1キャリア73は、第2リングギア84と連結される。これにより、第1キャリア73は、第2リングギア84が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第1リングギア74は、第1ピニオンギア72と噛み合う。また、第1リングギア74は、減速機構40の第3サンギア41(図1参照)と連結される。このような構造により、第1リングギア74が回転(自転)すると、減速機構40の第3サンギア41が回転する。クラッチ装置90は、図1に示す電動車両駆動装置10が有するクラッチ装置60と同様に、第2キャリア83の回転を規制できる。具体的には、クラッチ装置90は、回転軸Rを中心とした第2キャリア83の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。電動車両駆動装置10aは、上述した電動車両駆動装置10と同様の原理により、電動車両駆動装置10が奏する効果と同様の効果を奏する。