図1は、被圧迫部位である生体の肢体たとえば上腕10に巻き付けられる脈波検出用圧迫帯の一例である上腕用の圧迫帯(カフ)12を備えた動脈硬化検査機能付血圧測定装置14(以下、「血圧測定装置14」という)を示している。この血圧測定装置14は、生体の上腕10の動脈16内の周期的圧力変化を表す圧脈波APW、その上腕10の血圧値BP、動脈柔軟度関連値であるコンプライアンスK(血管コンプライアンスK)およびスティフネスβ、脈波伝播速度PWV、動脈(血管)16の血管壁厚を示す血管壁厚指標値BVTHを非侵襲的に測定または算出することができるので、圧脈波検出装置、自動血圧測定装置、血管(動脈)柔軟度測定装置、脈波伝播速度測定装置、および、動脈血管検査装置としても機能している。
図2は上記圧迫帯12の外周面を示す一部を切り欠いた図である。図2に示すように、圧迫帯12は、PVC等の合成樹脂により裏面がラミネートされた合成樹脂繊維製の外周側面不織布20aとそれと同様の内周側不織布から成る帯状外袋20と、その帯状外袋20内において幅方向に順次収容され、たとえば軟質ポリ塩化ビニルシートなどの可撓性シートから構成された上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26とを備え、外周側面不織布20aの端部に取り付けられた面ファスナ28に内周側不織布の端部に取り付けられた図示しない起毛パイルが着脱可能に接着されることにより、上腕10に着脱可能に装着されるようになっている。上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26は、それぞれ独立した気室を構成するとともに、管接続用コネクタ32、34、および36を外周面側に備えている。それら管接続用コネクタ32、34、および36は、外周側面不織布20aを通して圧迫帯12の外周面に露出されている。
図3は、上記圧迫帯12内に備えられた上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26を示す平面図であり、図4はそれらを幅方向に切断した断面図である。上流側膨張袋22、中流側膨張袋24、および下流側膨張袋26は、それぞれ長手状を成し、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26は検出用膨張袋24の両側に隣接した状態で配置されている。検出用膨張袋24は、動脈16から発生する脈波PWを検出するためのものであり、上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の間に挟まれた状態で圧迫帯12の幅方向の中央部に配置されている。
検出用膨張袋24は所謂マチ構造の側縁部を両側に備えている。すなわち、検出用膨張袋24の上腕10の長手方向における両端部には、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る一対の折込溝24fがそれぞれ形成されている。そして、前記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の検出用膨張袋24に隣接する側の隣接側端部22aおよび26aがそれら一対の折込溝24f内に差し入れられて配置されるようになっている。これにより、検出用膨張袋24の両端部と上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の検出用膨張袋24に隣接する側の隣接側端部22aおよび26aとが相互に重ねられた構造すなわちオーバラップ構造となるので、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26が等圧で上腕10を圧迫したときにそれらの境界付近においても均等な圧力分布が得られる。この場合、上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26は、専ら上腕10を圧迫するための主膨張袋として機能し、検出用膨張袋24は動脈16から発生する脈波を専ら検出する脈波検出用として機能している。
上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26も、所謂マチ構造の側縁部を検出用膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bを備えている。すなわち、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の検出用膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bには、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る折込溝22fおよび26fがそれぞれ形成されている。それら折込溝22fおよび26fを構成するシートは、幅方向に飛び出ないように、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26内に配置された貫通穴を備える接続シート38、40を介してその反対側部分すなわち検出用膨張袋24側の部分に接続されている。これにより、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の端部22bおよび26bにおいても上腕10に対する圧迫圧(圧迫圧力)が他の部分と同様に得られるので、圧迫帯12の幅方向の有効圧迫幅がその幅寸法と同等になる。圧迫帯12の幅方向は12cm程度であり、その幅方向に3つの上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26が配置された構造であるから、それぞれが実質的に4cm程度の幅寸法とならざるを得ない。このような狭い幅寸法であっても圧迫機能を十分に発生させるため、検出用膨張袋24の両端部24aおよび24bと上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の隣接側端部22aおよび26aとが相互に重ねられたオーバラップ構造とされるとともに、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の検出用膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bは,所謂マチ構造の側縁部とされている。
上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の検出用膨張袋24側の端部22aおよび26aと、それが差し入れられている一対の折込溝24fの内壁面すなわち相対向する溝側面との間には、圧迫帯12の長手方向の曲げ剛性よりもその圧迫帯12の幅方向の曲げ剛性が高い剛性の異方性を有する長手状遮蔽部材42がそれぞれ介在させられている。本実施例では、図3、図4に示すように、上流側膨張袋22の端部22aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間、および、下流側膨張袋26の端部26aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間に、長手状遮蔽部材42がそれぞれ介在させられているが、内周側隙間にも介在させられてもよい。内周側隙間に比較して外周側隙間の方が遮蔽効果が大きいので、少なくとも外周側隙間に設けられればよい。
上記長手状遮蔽部材42は、上腕10の軸方向すなわち圧迫帯12の幅方向に平行な樹脂製の複数本の可撓性中空管44が互いに平行な状態で、上腕10の周方向すなわち圧迫帯12の長手方向に連ねて配列されるとともに、それら可撓性中空管44が型成形或いは接着により直接に或いは粘着テープなどの可撓性シート等の他の部材を介して間接的に相互に連結されることにより構成されている。上記長手状遮蔽部材42は、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の検出用膨張袋24側の端部22aおよび26aの外周側の複数箇所に設けられた複数の掛止シート46に掛け止められている。
図1に戻って、血圧測定装置14においては、空気ポンプ50、急速排気弁52、および圧力制御手段に対応する排気制御弁54は主配管56を介して接続されている。その主配管56からは、空気ポンプ50と上流側膨張袋22との間を直接開閉するための第1開閉弁E1を備え上流側膨張袋22に接続された第1分岐管58、容積パルス発生器(EPG:容積脈波発生装置)60を直列に備えて検出用膨張袋24に接続された第2分岐管62、空気ポンプ50と下流側膨張袋26との間を直接開閉するための第3開閉弁E3を備え下流側膨張袋26に接続された第3分岐管64が分岐させられている。上記第1分岐管58と第2分岐管62との間には、空気ポンプ50と検出用膨張袋24との間を直接開閉するための第2開閉弁E2が接続されている。そして、主配管56またはそれに接続された膨張袋内の圧力を検出するための主圧力センサT0が主配管56に接続され、上流側膨張袋22の圧力を検出するための第1圧力センサT1が上流側膨張袋22に接続され、検出用膨張袋24の圧力を検出するための第2圧力センサT2が検出用膨張袋24に接続され、下流側膨張袋26の圧力を検出するための第3圧力センサT3が下流側膨張袋26に接続されている。
上記主圧力センサT0、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、第3圧力センサT3の出力信号は電子制御装置70に供給される。電子制御装置70は、CPU73、RAM74、ROM76、および図示しないI/Oポートなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPU73はRAM74の記憶機能を利用しつつ予めROM76に記憶されたプログラムにしたがって入力信号を処理し、電動式の空気ポンプ50、急速排気弁52、および排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3、容積パルス発生器60を制御することにより上腕10の動脈16から発生する測定データを採取するとともに、その測定データに基づいてその生体の血圧値BP、動脈柔軟度(動脈コンプライアンス)K、脈波伝播速度PWVを算出し、表示装置72にその演算結果である測定値、すなわち、生体の最高血圧値SBPo、最低血圧値DBPoと共に血管壁厚指標値BVTHを表示させる。
図5は、上記電子制御装置70の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図を示している。図5において、血圧測定手段(オシロメトリック式血圧測定手段)すなわち血圧測定部P1は、生体の一部たとえば上腕10に巻回された圧迫帯(カフ)12の圧迫圧(圧迫圧力)を変化させる過程で、その圧迫帯12の検出用膨張袋24内の圧力であって上記生体の脈拍に同期して周期的に変化するカフ脈波を逐次検出する。そして、血圧測定部P1は、その一連のカフ脈波の圧力振動成分を抽出し、そのカフ脈波の圧力振動成分の変化に基づいて例えば各々の圧力振動成分間の最大差分値の発生時のカフ圧を前記生体の基準血圧値である最高血圧値SBPoおよび最低血圧値DBPoとして検出するオシロメトリック法を用いて予め測定し、表示装置72に表示させる。このとき例えば、血圧測定部P1は、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26で生体の被圧迫部位(例えば上腕10)を同じ圧力で圧迫した状態で、検出用膨張袋24内の変動する圧力を前記カフ脈波として検出する。脈波伝播速度測定手段すなわち脈波伝播速度測定部P2は、上腕10の動脈16における脈波伝播速度、たとえば大動脈起始部から上腕までの脈波伝播速度hbPWVを、上記上腕10に巻回された圧迫帯(カフ)12の検出用膨張袋24により得られたカフ脈波と図示しない心電測定部から得られた心電図R波との時間差(伝播時間)Tと距離Lとから一拍毎に連続的に算出し、脈波伝播速度hbPWV(=L/T)を逐次測定する。
血圧動揺パラメータ測定手段すなわち血圧動揺パラメータ測定部P3は、図6に詳しく示すように、予め求められた関係から上記実際の脈波伝播速度hbPWVを用いて生体の一拍毎の最高血圧値SBPiおよび最低血圧値DBPiを逐次推定する。たとえば、基準血圧測定時に心臓と上腕との間の予め求められた基準脈波伝播速度hbPWVrefに対する逐次求められた実際の脈波伝播速度hbPWViの変化分(hbPWVi−hbPWVref)を一拍毎に算出し、たとえば基準血圧測定時に生体毎に予め求められた血圧/脈波伝播速度係数Shb(=ΔSBP/ΔhbPWV)およびDhb(=ΔDBP/ΔhbPWV)をその変化分(hbPWVi−hbPWVref)にそれぞれ乗算することにより最高血圧値の血圧変動分ΔSBPiおよび最低血圧値の血圧変動分ΔDBPiを一拍毎に算出し、それら最高血圧値の血圧変動分ΔSBPiおよび最低血圧値の血圧変動分ΔDBPiを上記基準血圧値である最高血圧値SBPoおよび最低血圧値DBPoに加算(補正)することにより、一拍毎に生体の推定最高血圧値SBPiおよび推定最低血圧値DBPiを逐次算出するとともに、必要に応じてそれら最高血圧値SBPiおよび最低血圧値DBPiの一定区間の移動平均値たとえば10秒間或いは10拍程度の間の移動平均値を算出し、逐次出力する。それら最高血圧値SBPiおよび最低血圧値DBPiは上腕10の動脈16内における一拍毎の圧脈波の最高値および最低値に対応している。1拍ごとの平均血圧値MAPiを上記最高血圧値SBPiおよび最低血圧値DBPiから次式で推定する。なお、次式(1)のMAPoは基準血圧値測定時の平均血圧値である。
MAPo=DBPo+(SBPo−DBPo)/3 ・・・(1)
MAPi=DBPi+(SBPi−DBPi)/3 ・・・(2)
圧脈波計算部P4は、非圧迫下圧脈波推定手段すなわち非圧迫下圧脈波計算部P4−1と、TP値計算部P5と、圧迫下圧脈波計算部P4−2とを含んでいる。非圧迫下圧脈波計算部P4−1は、圧迫帯(カフ)12を用いて予め測定された生体の基準最高血圧値SBPoおよび基準最低血圧値DBPoを用いて校正された関係から、動脈16の脈動情報である脈波伝播速度hbPWVに基づいて、圧迫帯12により圧迫されていない部位の動脈16内の非圧迫下圧脈波を推定する。具体的には、非圧迫下圧脈波計算部P4−1は、前記血圧測定部P1により測定された基準最高血圧値SBPoおよび基準最低血圧値DBPoと前記血圧動揺パラメータ測定部P3で推定された推定最高血圧SBPi及び推定最低血圧DBPiから前記非圧迫下圧脈波の脈圧PPi(=SBPi−DBPi)を算出する。
貫壁圧力算出手段すなわちTP値計算部P5は、前記カフ12内の圧迫圧力を変化させる過程で、容積脈波上昇脚の脈波開始点の血管(具体的には動脈16)の内腔断面の状態が閉管した状態から定常的に開管した状態に移行する境界の前記カフ12内の圧迫圧力を管壁圧力TPの原点すなわちTP=0として決定する。上記容積脈波上昇脚の脈波開始点とは、その容積脈波における波形立上がりの開始点であり、その容積脈波は後述するように容積脈波計算部P7によって算出される。図7に上腕部を皮下組織、動脈、静脈にモデル化し、カフ圧Pcuffによりその上腕部の容積が変化する過程の概念図を示す。カフ圧Pcuffの増加とともに血管系が圧迫されて容積が減少する。カフ圧Pcuffが0から約20mmHgの上昇で静脈血管がほぼ圧閉される。カフ圧Pcuffの更なる上昇で動脈血管が圧迫される。動脈血管が完全に圧閉されたときのカフ圧PcuffをTP=0点と決定する。図7はTP=0の前後のカフ圧Pcuffに対する検出用膨張袋24で測定された容積脈波を示している。その図7にて二点鎖線L01で囲んで示すように、TP=0より高いカフ圧Pcuffでは検出用膨張袋24に現れる容積脈波の拡張期のボトム付近はカフ圧Pcuffにより圧閉されてフラット部が現れている。TP=0より低いカフ圧Pcuffではモデル図(上腕容積モデル)のように動脈血管が常時開くので上腕部容積が増加する。カフ圧Pcuffのベースラインは動脈血管系のその増加分圧迫されて上昇する。TP=0より高いカフ圧Pcuffで容積脈波の振幅はほぼ最大となり、カフ圧Pcuffの減少とともに容積脈波の拡張期のボトム付近の上記フラット部は消失し、連続した脈波形を形成しその振幅が減少する。TP=0点は上記の変化を検出して正確に決定される。このTP=0のときのカフ圧Poは、そのTP=0のときのカフ脈波の下ピーク値(ボトムのピーク値)のカフ圧Pcuffに決定される。
そして、TP値計算部P5は、動脈16内の圧脈波(非圧迫下圧脈波)に対応したTP=0の圧力Poiを次式(3)から、動脈16の動脈壁(血管壁)の内外圧力差である貫壁圧力TPiを、動脈16内の圧脈波(非圧迫下圧脈波)に対応したTP=0の圧力Poiと動脈外の圧力Pe(=Pcuff:カフ脈波の下ピーク値のカフ圧)とに基づいて次式(4)から1拍ごとに逐次算出する。
Poi=DBPi+(Po−DBPo)×(MAPi−DBPi)/(MAPo−DBPo)
・・・(3)
TPi=Poi−Pe=Poi−Pcuff ・・・(4)
圧迫下圧脈波推定手段すなわち圧迫下圧脈波計算部P4−2は、予め記憶された関係から前記非圧迫下圧脈波および圧迫帯12の圧迫圧力(カフ圧)Pcuffに基づいて圧迫帯12により圧迫されている部位の動脈内の圧迫下圧脈波を推定する。具体的には、前記非圧迫下圧脈波が示す動脈圧である非圧迫下動脈圧から前記圧迫圧力Pcuffを差し引くことにより、圧負荷時のカフ下の圧脈波すなわち前記圧迫下圧脈波を算出する。圧迫下圧脈波の脈圧ΔPiはPoiより低いカフ圧では脈周期に渡って常時血管が開いている状態なのでΔPiは非圧迫下動脈圧の脈圧PPiとみなせる。心拍に同期して脈動する推定圧脈波の値PiがPoiを下回る区間では(5)式に従って、推定圧脈波の値PiがPoiを上回る区間では(6)式に従って逐次算出する。
ΔPi=PPi (PPi=SBPi−DBPi;但しPcuff≦Poiの場合)
・・・(5)
ΔPi=PPi−(Pcuff−Poi)(但しPcuff>Poiの場合でΔPi≧0)
・・・(6)
圧迫下圧脈波計算部P4−2ではカフ下の圧脈波の伝播における減衰はないものとした。Poi以下のカフ圧下では血管が開かれていて定常流が流れている状態なので、カフ下の伝播における脈波の粘性による減衰は無視できる。一方、Poiを越えるカフ圧領域においては圧脈波の減衰が起こるがこの領域の脈波データは本特許の解析に使用しなくても差し支えないので考慮から外した。
図5に戻って、容積脈波測定手段すなわち容積脈波測定部P6は、圧迫帯12が最低血圧値よりも低い予め設定された圧力で圧迫する状態で第2圧力センサT2により検出された検出用膨張袋24からの前記カフ脈波を測定する。このカフ脈波は図8に示すようにカフ圧Pcuffが心拍に同期して脈動している。圧迫帯12が最低血圧値よりも低い予め設定された圧力で圧迫する状態で第2圧力センサT2から出力される圧力信号を、数Hz乃至数十Hzの波長帯の信号を弁別するバンドパスフィルタ処理を行うことにより、圧迫帯12下の動脈16の周期的容積変化を表す容積脈波の算出の基となるカフ脈波(mmHg)の圧力振動成分を弁別し、図8に示すように逐次出力する。
容積脈波算出手段すなわち容積脈波計算部P7は、上記圧迫帯12の検出用膨張袋24の容積変化に対する圧力変化の割合を示すカフ感度すなわちカフコンプライアンスSeを算出し、その検出用膨張袋(カフ)24からの前記カフ脈波とその算出したカフ感度とに基づいて、動脈内の圧が増加したときにその動脈の単位長さ当たりに増加する動脈の容積を表す容積脈波を算出する。すなわち、そのカフコンプライアンスSeを用いて上記カフ脈波(mmHg)を容積脈波(cm3=cc)に変換する。たとえば、検出用膨張袋24による圧迫圧力下すなわち各第1圧力P1、第2圧力P2、第3圧力P3、第4圧力P4下において容積パルス発生器60から一定容積C(cc)のパルスを加えたときに発生する圧力パルスPpを重畳したカフ脈波信号における圧力上昇値ΔPcuff(mmHg)を検出して、次式(7)に示す式からカフコンプライアンスSeを算出し、そのカフコンプライアンスSeをカフ脈波の縦軸に乗算することにより、単位が容積である容積脈波に変換する。すなわち、図8の縦軸を容積軸に変換することができる。
Se=C/ΔPcuff ・・・(7)
血管モデル設定手段すなわち血管モデル設定部P8は、無負荷時の動脈圧波形すなわち非圧迫下圧脈波を用いて動脈圧−血管断面積の特性を作成すると、無負荷時の血管径を大きく超えるなどの不具合を解消するために、圧負荷時のカフ下の圧脈波すなわち圧迫下圧脈波を用いたチューブモデルを設定している。このため、貫壁圧力(トランスミューラルプレッシャ)TPを、動脈内圧脈波の平均圧力Paavと外部圧力Pe(=Pcuff)の差(Paav−Pcuff)という定義から、動脈の圧迫下圧脈波の最低圧力(ボトム圧力)Piと外部圧力Peとの差(Pi−Pcuff)という定義へ新たに変更し、その定義に従って算出した貫壁圧力TPiを逐次出力させる。すなわち、血管モデル設定部P8は、最低血圧値DBPよりも高いカフ圧力下での圧迫帯12直下の動脈内の圧脈波を入力するモデルを導入する。
ここで、図9に示すように、圧迫帯12の圧迫圧力(カフ圧)Pcuffが生体の最高血圧値SBPよりも大きい止血状態から最低血圧値DBPより低い圧まで低下させられる過程で、圧迫帯12の中央部の検出用膨張袋24の直下では、貫壁圧力(トランスミューラルプレッシャ)TPが零、すなわちカフ圧がPoであるときに1拍当たりに増加(変動)する動脈の容積値Vに対応する断面積A(=V/L、Lは圧迫帯12により圧迫される動脈の有効長さである設定値)は零(A=0)であると考えられる。カフ脈波(容積脈波)の最大脈波点はカフ圧がPoであるときであり、カフ圧Pcuffが最大脈波点のカフ圧Poより低い領域では、圧脈波の大きさは(SBP−DBP)mmHgに等しい。最大振幅点近傍で最大振幅点よりも高いカフ圧Pcuffでの圧脈波の大きさはΔP(=(SBP−DBP)−(Pcuff−Po))である。上記血管モデル設定部P8におけるモデルでは、最大振幅点よりも高いカフ圧での一拍毎の容積変動値(TPi,Ai)は(ΔPi,ΔAi)で与えられる。
血管コンプライアンス解析手段すなわち血管コンプライアンス計算部P9は、前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づいて前記生体の動脈血管たとえば上腕動脈16の柔軟性(コンプライアンスK)を算出し、それを表示装置72に表示させる。具体的には、血管コンプライアンス計算部P9は、血管モデル設定部P8により導入された前記チューブモデルに従い、予め記憶されたコンプライアンスモデル式(8)から、実際の貫壁圧力TP(mmHg)、貫壁圧力TPが血管壁に対して張力として作用する圧力であるバックリング点Pb(mmHg)、バックリング点の断面積Ab(mm2)、動脈のエラスタンス定数(スケーリングパラメータ)a、動脈のエラスタンス定数bに基づいて、動脈16のコンプライアンスKすなわち貫壁圧力TPの変化に対する断面積変化を示す値(dA/dTP)を算出し、表示装置72に表示させる。また、有限の脈圧ΔPに対する断面積の変化量ΔAを求め、実行コンプライアンスKp(=ΔA/ΔP)を算出し、表示装置72に表示させる。(8)式において、バックリング点Pb以上のTP(TP≧15mmHg)領域でこのコンプライアンスモデル式が成立する。
K=dA/dTP=Ab[1/(a・b)]・[a/(TP−Pb+a)]
=Ab/[b(TP−Pb+a)] ・・・(8)
図10は、上腕10の動脈16の貫壁圧力TPに対する血管断面積Aの実験的に求められる対数モデルを示しており、それに基づいて一般式(9)が実験的に得られる。TP≧Pbは解析適である。血管のコンプライアンスKはTPの単位圧力変化当たりの血管の断面積Aを単位長さ当たりの容積変化(dA/dTP)で得られるものであるから、上記コンプライアンスモデル式(8)は、貫壁圧力TPに対する血管断面積Aの特性を示す一般式(9)を圧力微分することにより求められたものである。
A=Ab{(1/b)・ln[((TP−Pb)/a)+1]+1} ・・・(9)
上記コンプライアンスモデル式(8)は、1/Pの曲線であって分母はx軸の座標変換すなわち平行移動を示しており、TP=Pb且つa=0で発散するので、その動脈のエラスタンス定数(スケーリングパラメータ)aは正の値であって実験的に予め決定される。バックリング点Pbも明確に決定できないので、(Pb−a)を予め実験的に整合させる。Ab/bは上記1/P曲線すなわちコンプライアンスKの大きさを直接規定するものである。TP>Pbの範囲内の2点P1、P2におけるコンプライアンスの比はAb/bによりそれぞれ独立に決定され、それは(Pb−a)の動作点のシフトにより決定される。貫壁圧力TPがP1であるときの圧脈波振幅(脈圧)PPに対する動脈の容積変化をΔA(P1)とし、貫壁圧力TPがP2であるときの圧脈波振幅(脈圧)PPに対する動脈の容積変化をΔA(P2)とすると、ΔA(P1)およびΔA(P2)は(10)式および(11)式により表わされる。そして、2点P1、P2間の圧力変化に対する容積変化比ΔA(P2)/ΔA(P1)は(12)式により表わされる。図11は、脈圧PPが40mmHgであるときの圧力pmmHgに対する容積変化比ΔA(P2)/ΔA(P1)を示す特性曲線を、P1とP2との差(P2−P1)が5mmHgであるときは白丸印で、10mmHgであるときは菱形印で、20mmHgであるときは黒丸印でそれぞれ示している。また、図11には、実験的にP1からシフトさせられた(Pb−a)が示されている。図12は、(8)式から変形された、(TP−Pb+a)mmHgに対するK(b/Ab)の変化を示す特性曲線を示している。また、図13は、貫壁圧力TPをボトム圧力Po(=DBPi)と動脈外の圧力Pe(=Pcuff)との差と定義したときの、コンプライアンスKの算出内容を図示したものである。
ΔA(P1)=(Ab/b)・ln[1+(PP/(P1−Pb+a))]
・・・(10)
ΔA(P2)=(Ab/b)・ln[1+(PP/(P2−Pb+a))]
・・・(11)
ΔA(P1)/ΔA(P2)=ln[1+(PP/(P2−Pb+a))]
/ln[1+(PP/(P1−Pb+a))]
・・・(12)
これにより、TP>Pbの範囲内の2点の圧力値P1およびP2における圧脈波振幅(脈圧)PPに対する動脈の容積変化をΔA(P1)およびΔA(P2)が(10)式および(11)式から測定されると、コンプライアンスK(P1)およびK(P2)がそれぞれ決定される。すなわち、(Pb−a)が求められ、(10)式または(11)式に代入されると、(Ab/b)が求められ、それら(Pb−a)および(Ab/b)から(8)式からコンプライアンスK(=dA/dTP)が算出され、表示装置72に表示される。Kは(9)式の微分値に相当するが、(9)式の非線形性の程度を含んだ、より実効的なコンプライアンスとして、(10)式から有限の脈圧ΔPに対する断面積の変化量ΔAを求め、実効コンプライアンスKp(=ΔA/ΔP)を算出し、同じく表示装置72に表示する。因みに、動脈(血管)16の弾性特性は例えば図14で実線として示されるようになっており、血管の弾性繊維が主体の領域の弾性特性を示す貫壁圧力の特徴点TP=30mmHgにおけるコンプライアンスK(30)は、(8)式に基づく(13)式により表される。TP=30mmHgにおけるΔP=40mmHgに対する実効コンプライアンスKp(30)は(14)式により表される。
K(30)=Ab/[b×(30−(Pb−a))] ・・・(13)
Kp(30)=(Ab/b)・ln[1+(40/(30−Pb+a))/40]
・・・(14)
前述のように、血管のコンプライアンスKは管壁圧力TPの単位圧力変化当たりの血管の容積変化に対応する断面積Aを、単位長さ当たりの容積変化量(dA/dTP)で示すものであるから、その単位はcc/mmHgであるが、それを正規化して、管壁圧力TPの単位圧力変化当たりの単位長さ当たりの容積変化率(1/A)(dA/dTP)で示すことができる。前記コンプライアンスKおよび実効コンプライアンスKpが正規化されたパラメータは、動脈の伸展性(伸展率)EおよびEpと定義される。血管コンプライアンス計算部P9は、この動脈の伸展性(伸展率)E(1/mmHg)およびEp(1/mmHg)たとえばE(30)、E(DBP)およびEp(30)を、予め記憶された式(15.A)および(15.B)から上記コンプライアンスK(cc/mmHg)およびKp(cc/mmHg)に基づいてカフ圧の特徴点毎に算出し、表示装置72から出力させる。なお、(15)式において、Aは特徴点毎の1拍当たりの動脈容積変化量(cc)であり、前記容積脈波の1周期の面積により算出されるが、断面積Aであってもよい。
E=(1/A)K=(1/A)(dA/dTP) ・・・(15.A)
Ep=(1/A)Kp=(1/A)(ΔA/ΔP) ・・・(15.B)
TP=0mmHgにおける血管の圧閉状態を起点として、バックリング点より大きい脈圧(ΔP≧15mmHg)では、無負荷時の血管の自然長における血管径に相当した断面積への変移を含むので、最大の実効コンプライアンス値をとる。この最大の実効コンプライアンスAMを算出し表示装置72に表示させる。実際の血圧における脈圧(SBP−DBP)はこの条件下にあるので、TP=0mmHgにおける圧脈波ΔP(=SBP−DBP)に対応した実効コンプライアンスをAMとしてもよい。
血管コンプライアンス計算部P9が表示装置72に表示させるコンプライアンスKは、上記特徴点毎の値が数字表示されるだけでなく、トランスミューラルプレッシャTP(横軸)に対するコンプライアンスK(縦軸)の変化特性を示すKカーブ(K-Curve)、そのコンプライアンスKの関連値であるKカーブの傾きAb/b(縦軸)のトランスミューラルプレッシャTP(横対数軸)に対する変化特性を示すAb/bカーブなどをそれぞれグラフ表示する。
PA曲線解析手段すなわちPA曲線解析部P11は、図15に示す、トランスミューラルプレッシャTP(mmHg)(横軸)に対する動脈断面積Acm2(縦軸)の変化特性を示すPA曲線(PAカーブ)を求めて表示するとともに、圧脈波ΔP(t)の波形、容積脈波ΔV(t)の波形を時間軸上に表示し、求められたスティフネスβおよび血管の弾性繊維が主体の領域の弾性特性を示す貫壁圧力の特徴点TP=30mmHgにおけるスティフネスβ(30)を表示する。このスティフネスβおよびβ(30)は次式(16.A)および(16.B)により定義されるように動脈柔軟度に関連するパラメータであり、たとえば上記PA曲線におけるの傾きに基づいて算出される。なお、式(16)において、Dsは最高血圧時の動脈径(mm)であり、Ddは最低血圧時の動脈径(mm)であって前記容積脈波に基づいて算出されるが、それらは前記容積脈波に基づいて算出される要請最高血圧時および最低血圧時の動脈内腔の断面積(mm)であってもよい。
β=ln(SBP/DBP)・D/ΔD
=ln[(DBP+PP)/DBP]・Dd/(Ds−Dd) ・・・(16.A)
β(30)=ln[(30+PP)/30]
・D(30)/[D(30+PP)−D(30)] ・・・(16.B)
統計演算手段すなわち統計演算部P12は、上記血管コンプライアンス計算部P9やPA曲線解析部P11において算出されたパラメータの経事的変化、移動平均値などの統計値を生体毎に算出し、診断や薬効の評価等のために表示させる。
ところで、血管コンプライアンス計算部P9は、前述したように、コンプライアンスKを算出する過程において(Pb−a)を算出するが、この(Pb−a)は、前記生体の動脈16の血管壁厚を示す指標値となり得る。この点について、次に説明する。
図16は、被験者や測定部位は異なるが図10、図15に示すPA曲線と同様の、貫壁圧力TP(横軸)に対する動脈断面積A(縦軸)の変化特性を示すPA曲線を例示した図である。そして、図16内の右側には、その縦軸の動脈断面積Aに対応させてその動脈血管の断面形状を示す模式図を図示している。その断面形状では、(a)の状態が動脈断面積Aが最大であって(a)から(d)の状態に向かうに従いその動脈断面積Aは小さくなり、(d)の状態は「TP=0」での圧閉状態(A=0mm2)を示しており、(c)の状態は血管壁に周方向の正の張力Tcが生じていない血管断面の不安定な状態を示している。なお、上記動脈断面積Aは厳密に言えば血管内腔の断面積である。
図17は、図16から導出された「TP=0」からの最大血管コンプライアンス時の容積変動ΔVXに対応した動脈断面積(血管断面積)Aと、カフ圧ゼロで超音波を用いたドプラ法により測定された血管断面積Adiaとの相関関係を示した図である。図17の横軸に示す血管断面積Aは、詳細に説明すれば、図16において貫壁圧力TPが零とされた状態からコンプライアンスKが最大値となる血圧(血管内圧)の上昇ΔPXが生じたときの容積変動ΔVXに対応した血管断面積Aである。なお、容積変動ΔVXは、単位血管長で見れば断面積変動であり、「TP=0」では圧閉状態(A=0mm2)であるので、血管断面積Aに対応する。
図17に示すように、超音波を用いて観測された血管断面積Adiaと図16に示される血管断面積Aとの間には相関関係が認められる。
図16に戻り、そのPA曲線によれば、貫壁圧力TPを0から大きくしていくと貫壁圧力TPが境界貫壁圧力Pbaに到達したところから動脈断面積Aは急速に大きくなる。このようになる理由として、動脈16の断面形状は、貫壁圧力TPが境界貫壁圧力Pbaよりも低い場合には、血管壁内外圧差Pdの血管壁に対し外向きに働く力に対応した血管壁の周方向の張力Tcが生じていない状態すなわち(c)または(d)の状態である一方で、貫壁圧力TPが境界貫壁圧力Pbaよりも高い場合には、上記血管壁内外圧差Pdの血管壁に対し外向きに働く力により正方向の上記周方向張力Tcが生じた状態すなわち(a)または(b)の状態であるからだと考えられる。
そこで、動脈(血管)16を壁厚が一定で円筒状のチューブであるとモデル化し、図18及び図19を用いて血管壁内外圧差Pdと血管壁の周方向に生じる張力(血管周方向張力)Tcとの関係について説明する。
図18は、上記モデル化された動脈(血管)16の横断面形状を示した図であり、図19は、図18の断面で血管周方向張力Tcと外圧Poutと内圧Pinとの釣り合いを示した図である。上記外圧Poutは生体内で言えば動脈外の圧力Peに相当し、上記内圧Pinは血圧値BPに相当する。
図19に示すように、血管内半径を「r1'」、血管外半径を「r2'」とすると、力の釣り合いから下記式(17)が導かれる。そして、血管壁厚hは下記式(18)で表されるので、下記式(17)は下記式(19)のように血管壁厚hを含む式に書き換えることができる。下記式(21)で血管壁厚hが無視できるとすると、その式(21)はよく知られているラプラスの式となる。更に、図19では血管壁内外圧差Pdは下記式(20)で表されるので、下記式(19)は下記式(21)のように血管壁内外圧差Pdを含む式に書き換えることができる。
2×Tc+2×r2'×Pout=2×r1'×Pin ・・・(17)
h=r2'−r1' ・・・(18)
Tc=(Pin−Pout)×r2'−Pin×h ・・・(19)
Pd=Pin−Pout ・・・(20)
Tc=r2'×(Pd−Pin×h/r2') ・・・(21)
上記式(21)から、例えば、「r2'=4mm、h=0.5mm」の血管では、下記式(22)の関係が成立した場合に「Tc>0」となり血管壁内外圧差Pdによる血管壁を拡張させる力に対応して血管周方向張力Tcが生じたと言える。そして、その血管では例えば「Pin=100mmHg」であるとすれば、下記式(22)から「TP>12mmHg」でその正の血管周方向張力Tcを生じさせた。
Pd>Pin/8 ・・・(22)
このように、血管壁内外圧差Pdが正の値になっても直ちに血管壁を拡張させる力が生じるものではなく、このことは、図16の貫壁圧力TPと動脈16の断面形状(a)〜(d)との関係で示される、境界貫壁圧力Pbaを境にそれよりも大きい貫壁圧力TPでは血管周方向張力Tcが生じると言うことと整合する。このように説明した点から、図16の境界貫壁圧力Pbaは、動脈16の血管壁に生じる血管周方向張力Tcと貫壁圧力TPとの間の関係で、その血管周方向張力Tcが生じるか否かの境界に対応する貫壁圧力TPであると言える。そして、図16に示されるように、その境界貫壁圧力Pbaは、貫壁圧力TPに対する動脈断面積Aの変化が最も大きくなる点すなわち(dA/dTP)が最大となる点の貫壁圧力TPであり、前記動脈16のコンプライアンスKは前記式(8)に示すように(dA/dTP)であるので、その式(8)から、境界貫壁圧力Pbaは、血管コンプライアンス計算部P9がコンプライアンスKを求める過程で算出する前記(Pb−a)である。
また、上述したように、境界貫壁圧力Pbaは血管周方向張力Tcが生じるか否かの境界に対応する貫壁圧力TPであるので前記式(21)において「Pd=Pba、Tc=0」とすると、下記式(23)導かれる。その式(23)から判るように、血管壁厚hは境界貫壁圧力Pbaに比例するので、境界貫壁圧力Pbaは、動脈16の血管壁厚hを示す血管壁厚指標値BVTHとして利用できる。従って、血管コンプライアンス計算部P9は、前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づき動脈16のコンプライアンスKを算出する過程で、前記生体の血管壁厚指標値BVTHとして、(Pb−a)すなわち境界貫壁圧力Pbaを算出するので、前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づいて上記血管壁厚指標値BVTHを算出する血管壁厚解析手段として機能している。換言すれば、その血管壁厚指標値BVTHを算出する血管コンプライアンス計算部P9は、非侵襲的に求められた前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づいて前記動脈16の血管壁厚を解析するものである。ここで、上記血管壁厚指標値BVTHを正規化するため、血管コンプライアンス計算部P9は、血管壁厚指標値BVTHとして、境界貫壁圧力Pbaを上記生体の血圧値BPである動脈圧で除した値を算出してもよい。すなわち、血管コンプライアンス計算部P9は、血管壁厚指標値BVTHとして、境界貫壁圧力Pbaと、境界貫壁圧力Pbaを上記生体の血圧値BP(動脈圧)で除した値との何れか一方または両方を算出するものであってもよい。上記血圧値BPは、血管壁厚指標値BVTHの相互比較のために特定されていれば特に限定は無く、例えば、最高血圧値SBPoや最低血圧値DBPoなどである。下記式(23)において血管外半径r2'としては、例えば、年齢、性別、計測部位などに応じて予め実験的に求められた設定値が与えられてもよい。
h=Pba×r2'/Pin ・・・(23)
また、血管コンプライアンス計算部P9は、算出した血管壁厚指標値BVTHを表示装置72に表示させる。
図20は、男性の年齢別に実験的に求められた貫壁圧力TP(横軸)に対する動脈断面積A(縦軸)の変化特性を示すPA曲線を示した図である。図20において、実線Age28は28歳男性のPA曲線、破線Age32は32歳男性のPA曲線、二点鎖線Age35は35歳男性のPA曲線、一点鎖線Age41は41歳男性のPA曲線、破線Age47は47歳男性のPA曲線、実線Age58は58歳男性のPA曲線を示している。一般に40歳以上では血管壁のうち内膜と中膜とが肥厚して血管壁が厚くなり動脈硬化が進行することがよく知られているところ、図20において、40歳以上のPA曲線(一点鎖線Age41、破線Age47、実線Age58)では、40歳未満のPA曲線(実線Age28、破線Age32、二点鎖線Age35)と比較して、境界貫壁圧力Pbaが大きくなっている。この点からも境界貫壁圧力Pbaは、前記生体の動脈16の血管壁厚を示す血管壁厚指標値BVTHとなり得ることが判る。
図21および図22は、上記電子制御装置70の制御作動の要部を説明するフローチャートおよびタイムチャートをそれぞれ示している。図21において、図示しない電源スイッチが投入されると、図22のt0に示す初期状態とされる。この状態では、オペレータにより入力された患者データたとえば性別、年齢、姓名、患者ID等が記憶されるとともに、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3、および急速排気弁52は常開弁であるため非作動状態すなわち開(オープン)状態とされ、排気制御弁54は常閉弁であるため非作動状態すなわち閉状態とされ、容積パルス発生器60および空気ポンプ50は非作動状態とされている。次いで、図示しない起動操作装置が操作されて血圧測定装置14の測定動作が開始されると、先ず、図22の時刻t1乃至t3に示す図21のステップS1(以下、ステップを省略する)の第1血圧測定ルーチンが実行される。このS1は前記血圧測定部P1すなわち第1血圧測定手段或いは第1血圧測定工程に対応している。
上記第1血圧測定ルーチンでは、先ず、図22の時刻t1において、空気ポンプ50が起動され、その空気ポンプ50から圧送される圧縮空気により連通状態の上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が共に急速に上昇されて圧迫帯12全体による上腕10の圧迫が開始される。主圧力センサT0により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧Peが生体の最高血圧値よりも十分に高い値に予め設定された昇圧目標圧力Pmaxに到達すると、上記空気ポンプ50の作動が停止され、それに応答して、圧迫帯12による圧迫圧が一定の速度で下降するように排気制御弁54が作動させられ、徐速排気が開始される。図22の時刻t2はこの状態を示す。この徐速排気過程において第2圧力センサT2から出力される圧力信号から、ローパスフィルタ処理が為されることにより圧迫帯12による圧迫圧(静圧)を示すカフ圧力信号が弁別されるとともに、数Hz乃至数十Hzの波長帯の信号を弁別するバンドパスフィルタ処理されることにより脈波信号が弁別される。次いで、脈波信号の発生毎に実行されるオシロメトリック式血圧値決定アルゴリズムにしたがって、順次発生する脈波信号の振幅或いはその変化に基づいて最高血圧値SBP(mmHg)、平均血圧値MBPおよび最低血圧値DBP(mmHg)として決定し、その最低血圧値DBPが決定されると同時に急速排気弁52が開放され、それに応答して排気制御弁54がその最大開口となるまで開かれて、図21のS1が終了させられる。図22の時刻t3はこの状態を示す。
上記オシロメトリック式血圧値決定アルゴリズムは、たとえば脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)が急激に上昇したときすなわちエンベロープの微分波形の極大ピーク点に対応する圧力信号が示す圧力を最高血圧値SBP値(mmHg)として決定し、その脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)の最大値に対応する圧力信号が示す圧力を平均血圧値MBPとして決定し、その脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)が急激に減少したときすなわちエンベロープの微分波形の極小ピーク点に対応する圧力信号が示す圧力を最低血圧値DBPとして決定する。第1圧力センサT1から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号、第2圧力センサT2から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号、第3圧力センサT3から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号、主圧力センサT0から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより弁別された脈波信号の4種の脈波信号間には、振幅の差が存在し、検出用膨張袋24内の圧力を検出する第2圧力センサT2から出力される脈波信号が動脈16の脈動を最も正確に反映している。
次いで、図21のS2の脈波伝播速度測定ルーチンが図22の時刻t4乃至t6に示す区間において実行される。このS2は前記脈波伝播速度測定部P2或いは脈波伝播速度測定工程に対応している。先ず、急速排気弁52および排気制御弁54が閉じられるとともに空気ポンプ50が起動される。次いで、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が予め最低血圧値DBPよりも低い値たとえば60mmHgに設定された脈波検出圧Ppwvに到達すると、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3が閉じられ、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26は互いに独立して脈波検出圧に維持される。図22のt5時点はこの状態を示す。この状態において、第1圧力センサT1および第3圧力センサT3から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26により検出された脈波を示す脈波信号が弁別され、それらの脈波信号の位相差(脈波伝播時間)Δt1(sec)とたとえば90mm程度の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中心間距離L1(m)とに基づいて局所脈波伝播速度bbPWV(m/sec)が式(24)から算出される。このような局所脈波伝播速度bbPWVの算出は、脈波の発生毎に時刻t6に到達するまで繰り返し実行され、到達するとそれまでに求めた局所脈波伝播速度bbPWVの平均値が算出される。また、図示しない心音マイクロホンにより検出された心音またはECGのR波の発生時刻と検出用膨張袋24により検出されたカフ脈波の立ち上がり時刻との時間差Δt2(sec)と両者間の距離L2(m)とに基づいて脈波伝播速度hbPWV(m/sec)が式(25)から算出される。
bbPWV=L1/Δt1 ・・・(24)
hbPWV=L2/Δt2 ・・・(25)
図23は、動脈16の管壁の圧力差(=脈動する動脈内圧すなわち圧脈波の最低圧力(ボトム圧力)Po−動脈外圧すなわち圧迫帯による圧迫圧Pe)であるトランスミューラルプレッシャTP(mmHg)に対する上記脈波伝播速度bbPWVの変化を、同一生体から同時期に測定した従来の図示しない心音マイクロホンにより検出された心音またはECGのR波から上流側膨張袋22までの脈波伝播速度hbPWVと対比して示している。図23から明らかなように、脈波伝播速度hbPWVはトランスミューラルプレッシャTPに拘わらず略一定値を示している。これに対し上記脈波伝播速度bbPWVは、トランスミューラルプレッシャTPが負の値から10乃至20(mmHg)付近すなわち圧迫帯12による圧迫圧が最低血圧値DBP付近に至るまでは略一定値を示すが、それよりも更に増加するほど比例的に増加する特徴がある。上記局所脈波伝播速度bbPWVは、所定の圧力値たとえばTP=50(mmHg)又はその付近における値或いは増加率を測定することにより、個人毎に比較可能な、動脈16の硬化状態を評価するための循環器パラメータとして求められる。
次に、図21において、S3の第2血圧測定/動脈コンプライアンスデータ検出ルーチンが図22の時刻t7乃至t9に示す区間において実行される。このS3は前記血圧測定部P1、第2血圧算出手段、或いは第2血圧算出工程および動脈コンプライアンスデータ検出工程に対応している。このS3では、第1血圧測定ルーチンと同様に、先ず、時刻t7において空気ポンプ50が起動され、その空気ポンプ50から圧送される圧縮空気により連通状態の上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が共に急速に上昇されて圧迫帯12全体による上腕10の圧迫が開始される。主圧力センサT0により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧Peが第1血圧測定ルーチンによる前回の測定値である生体の最高血圧値SBPよりも所定値高い値に予め設定された昇圧目標圧力Pmaxに到達すると、上記空気ポンプ50の作動が停止され、それに応答して、圧迫帯12による圧迫圧Peが一定の速度で下降するように排気制御弁54が作動させられ、単位時間当たり或いは単位脈波当たりの一定速度の徐速排気が開始される。図22の時刻t8はこの状態を示す。この徐速排気過程においては、第2圧力センサT2から出力される圧力信号がバンドパスフィルタ処理されることにより、検出用膨張袋24により検出された脈波を示す脈波信号が繰り返し弁別される。次いで、第1血圧測定ルーチンと同様にして、脈波信号の発生毎に実行されるオシロメトリック式血圧値決定アルゴリズムにしたがって、順次発生する脈波信号の振幅或いはその変化に基づいて最高血圧値SBP(mmHg)、平均血圧値MBPおよび最低血圧値DBP(mmHg)として決定し、その最低血圧値DBPが決定されると同時に急速排気弁52が開放され、それに応答して排気制御弁54がその最大開口となるまで開かれて、図21のS3の第2血圧測定ルーチンが終了させられる。このS3で測定された血圧値は基準血圧値SBPoおよびDBPoとされる。図22の時刻t9はこの状態を示す。そして、最高血圧値SBPoと最低血圧値DBPoとの圧力差である脈圧PP(=最高血圧値SBPo−最低血圧値DBPo)が算出される。後述の血管コンプライアンスKの演算には、この第2血圧測定ルーチンから得られた最高血圧値SBPoおよび最低血圧値DBPoに基づく脈圧PP(mmHg)が用いられる。
次に、図21のS4のカフコンプライアンス算出ルーチンが図22の時刻t10乃至t18において実行される。このS4は圧脈波計算部P4に対応している。このS4では、先ず、時刻t10において空気ポンプ50が起動され、その空気ポンプ50から圧送される圧縮空気により連通状態の上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が共に急速に上昇されて圧迫帯12全体による上腕10の圧迫が開始される。主圧力センサT0により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧Peが予め設定された第1圧力P1に到達すると(時刻t11)、上記空気ポンプ50の作動が停止され、それに応答して、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2および第3開閉弁E3が閉じられて上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が上記第1圧力P1に時刻t12まで維持される。この時刻t11乃至t12の間の第1圧力維持区間では、脈波の発生に同期してその脈波の裾に相当するタイミングで容積パルス発生器60からたとえば0.2cc程度の一定容積Cの空気が50ms乃至100msの幅でパルス的に検出用膨張袋24内に注入され、第2圧力センサT2から出力された信号にバンドパスフィルタ処理が施されることによりたとえば図24に示すような上記容積パルス発生器60から加えられた容積パルスに対応する圧力パルスPpが重畳した脈波信号が得られ、それが記憶される。この場合、上記圧力維持区間内において10個程度の複数の図8に示す脈波信号が複数採取され、それらの脈波信号が記憶されてもよいし、それらの平均値の脈波信号が記憶されてもよい。そして、時刻t12に到達して上記第1圧力維持区間が終了する。
上記の容積パルス発生器60から検出用膨張袋24内に注入される容積パルスは、そのときの検出用膨張袋24の圧力変化に拘わらず予め設定された一定容積Cの空気であり、動脈16が心拍に同期して膨張して検出用膨張袋24に繰り返し与える容積増加分に対応する値に予め設定されたものである。また、図8に示す脈波信号は圧力値であり、S1で求められた最高血圧値SBP(mmHg)を脈波信号の上ピーク値に対応させ、最低血圧値DBP(mmHg)を脈波信号の下ピーク値に対応させることにより、図8の縦軸は生体の血圧値に変換される。
上記第1圧力維持区間が終了する時刻t12では、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2および第3開閉弁E3が再び開かれると同時に、空気ポンプ50が再度起動され、その空気ポンプ50から圧送される圧縮空気により連通状態の上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が共に急速に上昇されて圧迫帯12全体による上腕10の圧迫が開始される。主圧力センサT0により検出される圧力すなわち圧迫帯12による圧迫圧Peが予め設定された第2圧力P2に到達すると(時刻t13)、上記空気ポンプ50の作動が停止され、それに応答して、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2および第3開閉弁E3が閉じられて上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が上記第2圧力P2に時刻t14まで維持される。この第2圧力維持区間でも、上記第1維持区間と同様に、脈波の発生に同期して容積パルス発生器60からの一定容積Cの空気が50ms乃至100msの幅でパルス的に検出用膨張袋24内に注入され、第2圧力センサT2から出力された信号にバンドパスフィルタ処理が施されることによりたとえば図24に示すような上記容積パルス発生器60から加えられた容積パルスに対応する圧力パルスPpが重畳した脈波信号が得られ、それが記憶される。
次いで、同様にして、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が、主圧力センサT0により検出される圧力が予め設定された第3圧力P3に昇圧されるとともに、第3圧力維持区間t15乃至t16において第3圧力P3が維持され、その第3圧力維持区間t15乃至t16において、脈波の発生に同期して容積パルス発生器60からの一定容積Cの空気が50ms乃至100msの幅でパルス的に検出用膨張袋24内に注入され、第2圧力センサT2から出力された信号にバンドパスフィルタ処理が施されることにより得られた図24に示すような容積パルス発生器60から加えられた容積パルスに対応する圧力パルスPpが重畳した脈波信号が得られ、それが記憶される。また、同様にして、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧力が、主圧力センサT0により検出される圧力が予め設定された第4圧力P4に昇圧されるとともに、第4圧力維持区間t17乃至t18において第4圧力P4が維持され、その第4圧力維持区間t17乃至t18において、脈波の発生に同期して容積パルス発生器60からの一定容積Cの空気が50ms乃至100msの幅でパルス的に検出用膨張袋24内に注入され、第2圧力センサT2から出力された信号にバンドパスフィルタ処理が施されることにより得られた図24に示すような容積パルス発生器60から加えられた容積パルスに対応する圧力パルスPpが重畳した脈波信号が得られ、それが記憶される。
そして、上記第1圧力P1、第2圧力P2、第3圧力P3、第4圧力P4毎に第2圧力センサT2により検出され且つ記憶された各脈波信号について、動脈16の脈動に由来して発生する検出用膨張袋24内の圧力変化幅すなわち脈波の振幅値ΔP(mmHg)すなわちΔP1、ΔP2、ΔP3、ΔP4がそれぞれ算出され記憶される。また、上記各脈波信号において容積パルス発生器60から加えられた容積パルスに対応する圧力パルスPpすなわちPp1、Pp2、Pp3、Pp4がそれぞれ算出されて、検出用膨張袋24のカフコンプライアンスSe(mmHg/cc)すなわちSe1、Se2、Se3、Se4が式(7)からそれぞれ算出され、記憶される。このカフコンプライアンスSeは、検出用膨張袋24の容積変化に対する圧力変化の割合を示す感度を表している。このようにしてカフコンプライアンスSeが求められると、検出用膨張袋24から第2圧力センサT2により検出された脈波の縦軸すなわち振幅を容積に変換することができる。すなわち、図8の縦軸を容積軸に変換することができる。
上記予め設定された第1圧力P1は最低血圧値DBPよりも低い圧たとえば40mmHg、第2圧力P2は第1圧力P1よりも高い圧たとえば最低血圧値DBP、第3圧力P3は第2圧力P2よりも高い圧たとえば平均血圧値MBP、第4圧力P4は第3圧力P3よりも高い圧たとえば平均血圧値MBPよりも15mmHg高い圧に、それぞれ設定されており、各圧力下においての、カフコンプライアンスSe1、Se2、Se3、Se4が求められる。
次いで図21のS5では、動脈コンプライアンス算出ルーチンが実行される。このS5は、S3およびS4と共に、血管コンプライアンス算出部P9、動脈コンプライアンス算出手段或いは動脈コンプライアンス測定工程を構成している。この図21のS5では、たとえば、先ず、S3において記憶された生体の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPに基づいて生体の脈圧PP(=SBP−DBP)mmHgが算出される。次いで、カフコンプライアンスSe1、Se2、Se3、Se4を用いてカフ脈波の縦軸を補正することにより、単位が容積である容積脈波に変換する。また、基準血圧値SBPoおよびDBPoの測定時に心臓と上腕との間の予め求められた基準脈波伝播速度hbPWVrefに対する逐次求められた実際の脈波伝播速度hbPWViの変化分(hbPWVref−hbPWVi)を一拍毎に算出し、たとえば基準血圧測定時に生体毎に予め求められた血圧/脈波伝播速度係数Shb(=ΔSBP/ΔhbPWV)およびDhb(=ΔDBP/ΔhbPWV)をその変化分(hbPWVref−hbPWVi)にそれぞれ乗算することにより最高血圧値の血圧変動分ΔSBPiおよび最低血圧値の血圧変動分ΔDBPiを一拍毎に算出し、それら最高血圧値の血圧変動分ΔSBPiおよび最低血圧値の血圧変動分ΔDBPiを上記基準血圧値である最高血圧値SBPoおよび最低血圧値DBPoに加算(補正)することにより、一拍毎に生体の推定最高血圧値SBPiおよび推定最低血圧値DBPiを逐次算出する。この推定最高血圧値SBPiおよび推定最低血圧値DBPiには、基準血圧測定時以後の血圧動揺が反映されている。
このS5では、上記圧力値P1、P2、P3、P4における圧脈波振幅(脈圧)PPに対する動脈の容積変化をΔA(P1)、ΔA(P2)、ΔA(P3)、ΔA(P4)が(10)式および(11)式から測定されると、コンプライアンスK(P1)、K(P2)、K(P3)、K(P4)がそれぞれ決定される。すなわち、(Pb−a)が求められ、(10)式または(11)式に代入されると、(Ab/b)が求められ、それら(Pb−a)および(Ab/b)から(8)式からコンプライアンスK(=dA/dTP)および実効コンプライアンスKp(=ΔA/ΔP)が算出され、表示装置72に表示される。因みに、貫壁圧力の特徴点TP=30mmHgおよび最低血圧点DBPmmHg毎におけるコンプライアンスK1、K2、K3、K4は、(8)式に基づく(13)式、および圧脈波ΔP=40mmHgに対する実効コンプライアンスKp1、Kp2、Kp3、Kp4は(14)式と同様に以下の式により表わされる。また、上記コンプライアンスKの算出過程で求められる上記(Pb−a)すなわち前記境界貫壁圧力Pbaは前記血管壁厚指標値BVTHである。
K1(P1)=Ab/b×[P1−(Pb−a)]
K2(P2)=Ab/b×[P2−(Pb−a)]
K3(P3)=Ab/b×[P3−(Pb−a)]
K4(P4)=Ab/b×[P4−(Pb−a)]
Kp1(P1)=(Ab/b)・ln[1+(40/(P1−Pb+a))/40]
Kp2(P2)=(Ab/b)・ln[1+(40/(P2−Pb+a))/40]
Kp3(P3)=(Ab/b)・ln[1+(40/(P3−Pb+a))/40]
Kp4(P4)=(Ab/b)・ln[1+(40/(P4−Pb+a))/40]
また、血管のコンプライアンスKおよび実効コンプライアンスKpは貫壁圧力TPの単位圧力変化当たりの血管の容積変化に対応する断面積Aを、単位長さ当たりの容積変化量(dA/dTP)および(1/A)(ΔA/ΔP)で示すことができるものであるから、その単位はcc/mmHgであるが、それを正規化して、貫壁圧力TPの単位圧力変化当たりの単位長さ当たりの容積変化率(1/A)(dA/dTP)で示すことができるので、コンプライアンスKが正規化されたパラメータである動脈の伸展性(伸展率)E(1/mmHg)たとえばE(P1)、E(P2)、E(P3)、E(P4)、Ep(P1)、Ep(P2)、Ep(P3)、Ep(P4)を、予め記憶された式(15.A)および(15.B)から上記コンプライアンスK(cc/mmHg)および実効コンプライアンスKp(cc/mmHg)に基づいてカフ圧の特徴点毎に算出し、S7において表示装置72に表示させる。
次いで図21のS6では、TP=0mmHgにおける血管の圧閉状態を起点として、バックリング点より大きい脈圧(ΔP≧15mmHg)では、無負荷時の血管の自然長における血管径に相当した断面積への変移を含むので、最大の実効コンプライアンス値をとる。TP=0mmHgにおける圧脈波ΔP(=SBP−DBP)に対応した実効コンプライアンス(ΔA/ΔP)を最大の実効コンプライアンスAMとして算出し表示装置72に表示させる。
また、図21のS6では、図15に示す、トランスミューラルプレッシャTP(mmHg)(横軸)に対する動脈断面積Acm2(縦軸)の変化特性を示すPA曲線(PAカーブ)を求めて表示するとともに、圧脈波ΔP(t)の波形、容積脈波ΔV(t)の波形を時間軸上に表示し、求められたスティフネスβおよびスティフネスβ(30)を表示する。このスティフネスβおよびスティフネスβ(30)は、式(16.A)および式(16.B)により定義されるように動脈柔軟度に関連するパラメータであり、たとえば上記PA曲線におけるの傾きに基づいて算出される。また、上記算出されたパラメータの経事的変化、移動平均値などの統計値を生体毎に算出される。この統計値は、診断や薬効の評価等のために表示させる。上記S6は、PA曲線解析部P11、統計演算部P12に対応している。
そして、図21のS7は図5の表示制御部(表示制御手段)P13に対応しており、そのS7では、表示制御ルーチンが実行される。このS7は、S2において測定された上腕の動脈16内の脈波伝播速度bbPWVまたはその変化率、S3において測定された生体の最高血圧値SBPoおよび最低血圧値DBPo、S4において測定されたカフコンプライアンスSe1、Se2、Se3、Se4、S5において算出された動脈コンプライアンスK1、K2、K3、K4が、患者の性別、年齢、姓名、患者ID等の患者データと共に表示装置72にそれぞれ表示される。これにより、表示装置72に表示された上記脈波伝播速度bbPWV、最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBP、動脈コンプライアンスK1、K2、K3、K4に基づいて患者の循環器の健康状態が客観的に示される。また、S5において算出された前記(Pb−a)すなわち前記境界貫壁圧力Pbaが前記血管壁厚指標値BVTHとして、上記患者データと共に表示装置72に表示される。また、表示装置72に表示させるコンプライアンスKは、上記特徴点毎の値が数字表示されるだけでなく、トランスミューラルプレッシャTP(横軸)に対するコンプライアンスK(縦軸)の変化特性を示すKカーブ(K-Curve)、そのコンプライアンスKの関連値であるKカーブの傾きAb/b(縦軸)のトランスミューラルプレッシャTP(横対数軸)に対する変化特性を示すAb/bカーブなどをそれぞれグラフ表示する。
上述のように、本実施例の血圧測定装置(動脈血管検査装置)14によれば、予め記憶された関係から動脈16の脈動情報(具体的には脈波伝播速度hbPWV)に基づいて圧迫帯(カフ)12により圧迫されていない部位の動脈内の非圧迫下圧脈波を推定する非圧迫下圧脈波計算部(非圧迫下圧脈波推定手段)P4−1と、予め記憶された関係から前記非圧迫下圧脈波および圧迫帯12の圧迫圧力に基づいて圧迫帯12により圧迫されている部位の動脈内の圧迫下圧脈波を推定する圧迫下圧脈波計算部(圧迫下圧脈波推定手段)P4−2とを、含み、血管コンプライアンス計算部(血管コンプライアンス解析手段)P9は、前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づいて前記生体の動脈血管たとえば上腕動脈16の柔軟性(コンプライアンスK)を算出するものであることから、圧迫帯12による圧迫状態のカフ下の動脈内の血圧値を示す圧迫下圧脈波が用いられて、カフ圧迫下の動脈の貫壁圧力が正確に得られるので、カフ下の動脈の圧力変化に対する容積変化の関係を反映したものとなり、正確な血管コンプライアンスKが得られる。また、血管コンプライアンス計算部P9は前記血管壁厚解析手段として機能し、前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づいて、前記生体の動脈血管たとえば上腕動脈16の血管壁厚を示す前記血管壁厚指標値BVTHとして境界貫壁圧力Pbaを算出するので、血圧測定装置14の基本的構成は圧迫帯12を用いる血圧計ど同様のものであり、上記血管壁厚指標値BVTHに基づいて簡便で安価に動脈16の血管壁厚を評価できる。例えば、超音波を利用したドプラ法による血管壁厚の測定と比較して、安価な装置を利用して簡便に血管壁厚を評価できる。なお、本実施例では前記動脈16の脈動情報として脈波伝播速度hbPWVが採用されているが、それ以外に、血流速度、脈動圧力、脈動容積などが考え得る。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、圧脈波計算部P4内の非圧迫下圧脈波計算部P4−1は、圧迫帯(カフ)12を用いて予め測定された生体の基準最高血圧値SBPoおよび基準最低血圧値DBPoを用いて校正された関係からその生体動脈の脈波伝播速度hbPWVに基づいて圧迫帯12により圧迫されていない部位の動脈16内の前記非圧迫下圧脈波を推定するものであることから、その非圧迫下圧脈波を連続的に且つ容易に得ることができる。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、前記カフ12内の圧迫圧力を変化させる過程で、容積脈波上昇脚の脈波開始点の血管(具体的には動脈16)の内腔断面の状態が閉管した状態から定常的に開管した状態に移行する境界の前記カフ12内の圧迫圧力を管壁圧力TPの原点(TP=0)として、前記カフ12により圧迫されている部位の動脈の血管壁を境にした貫壁圧力TPを算出するTP値計算部(貫壁圧力算出手段)P5を、含み、前記圧迫下圧脈波計算部P4−2は、前記非圧迫下圧脈波から前記カフ12内の圧迫圧力を差し引くことにより前記圧迫下圧脈波を算出するものである。従って、その圧迫下圧脈波が正確に算出されて正確な血管コンプライアンスKが得られ、また、その血管コンプライアンスKが正確に得られるのであるから、その血管コンプライアンスKの算出過程で得られる血管壁厚指標値BVTHとしての(Pb−a)すなわち境界貫壁圧力Pbaも正確に得ることが可能である。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、圧迫帯(カフ)12の検出用膨張袋24に一定容積変化を与えたときのその検出用膨張袋24にその内側の圧力の変化を示すカフ感度すなわちカフコンプライアンスSeを算出し、その検出用膨張袋24から検出される前記カフ脈波と上記カフ感度とに基づいて、動脈内の圧が増加したときにその動脈の単位長さ当たりに増加する動脈の容積を表す容積脈波を算出する容積脈波計算部(容積脈波算出手段)P7を、含むことから、前記カフ感度を考慮した正確な容積脈波が得られるので、カフ12下の動脈16の圧力変化に対する容積変化の関係を反映したものとなり、血管コンプライアンスKおよび前記血管壁厚指標値BVTHが正確に得られる。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、圧迫帯(カフ)12の検出用膨張袋24による圧迫圧を変化させる過程で前記カフ脈波の圧力振動成分を抽出し、そのカフ脈波の圧力振動成分の変化に基づいて生体の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPを決定する血圧測定部(オシロメトリック式血圧測定手段)P1と、上腕10の動脈16における脈波伝播速度を測定する脈波伝播速度測定部(脈波伝播速度測定手段)P2とを、含み、圧迫下圧脈波計算部P4−2は、脈波伝播速度hbPWVの変化と生体の最高血圧値および最低血圧値の変化との予め記憶された関係から、実際の脈波伝播速度hbPWVの変化に基づいて動脈内の最高血圧値SBPiおよび最低血圧値DBPiを逐次推定するとともに、推定された動脈内の推定圧脈波の最低血圧(ボトム圧)値、平均血圧値、最高血圧(上ピーク圧)値を、基準推定最低血圧値DBPref、基準推定平均血圧値MAPref、基準推定最高血圧値SBPrefとして記憶する。また、圧迫下圧脈波計算部P4−2は、逐次得られるカフ脈波を前記校正線で校正した推定圧脈波の推定最高血圧値SBPiおよび推定最低血圧値DBPiを逐次出力するとともに、予め記憶された算出式(1)から基準推定最低血圧値DBPref、基準推定平均血圧値MAPref、および一拍毎に求められた生体の推定最低血圧値DBPiに基づいて、推定平均血圧値MAPiを一拍毎に算出する。これにより、カフ下の動脈の圧力変化に対する容積変化の関係を反映したものとなり、正確な血管コンプライアンスが連続的にたとえば一拍毎に得られる。また、前記血管壁厚指標値BVTHを正確に得ることが可能である。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、生体の被圧迫部位すなわち上腕10の長手方向(軸方向)に所定の間隔を隔てて位置する可撓性シートから成る一対の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26と、それら一対の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の間に配置され、それら一対の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26とは独立した気室を有する検出用膨張袋24とを、含む脈波検出用圧迫帯12を備え、上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、および下流側膨張袋26で生体の被圧迫部位たとえば上腕10を同じ圧力で圧迫した状態で、検出用膨張袋24内の変動する圧力を前記カフ脈波として検出するものであることから、被圧迫部位の長手方向において連なる上流側膨張袋22、検出用膨張袋24、下流側膨張袋26から生体の被圧迫部位内の動脈16に対して圧迫圧力を均等な圧力分布で加えつつ、正確なカフ脈波が得られる。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、血管コンプライアンス計算部P9は、血管壁厚指標値BVTHとして、境界貫壁圧力Pbaと、境界貫壁圧力Pbaを上記生体の血圧値BP(動脈圧)で除した値との何れか一方または両方を算出するものであってもよく、そのようにしたとすれば、動脈16の血管壁厚を評価するために、例えば動脈硬化の進行度を判断するために、対比可能なデータとして前記血管壁厚指標値(管壁厚パラメータ)BVTHを利用できる。ここで、前記式(23)から判るように、上記血管壁厚指標値BVTHは、それが大きいほど血管壁厚が大きいことを示している。
また、本実施例の血圧測定装置14によれば、血管コンプライアンス計算部(血管コンプライアンス解析手段)P9は、生体の動脈血管たとえば上腕動脈16の柔軟度関連値として、前記容積脈波と前記圧迫下圧脈波とに基づいて、トランスミューラルプレッシャTP(mmHg)(横軸)に対する動脈断面積Acm2(縦軸)の変化特性を示すPA曲線(PAカーブ)を求め、そのPA曲線の傾きから生体の動脈血管のスティフネスβを算出するものであり、そのスティフネスβは正規化された汎用性にあるパラメータであるので、動脈血管柔軟度の相対的評価や対比が容易となる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、前述の実施例の圧迫帯12は上腕10に装着されていたが、生体の他の部位、たとえば前腕、足首等に装着されるものであってもよい。
また、前述の実施例において、コンプライアンスKを算出する特徴点の数および値は、適宜変更されることができる。カフコンプライアンスSeを求める圧として4段階の第1圧力P1、第2圧力P2、第3圧力P3、第4圧力P4が用いられているが、それらの設定圧は、圧迫帯12による圧迫圧Pe毎に異なる検出用膨張袋24のカフコンプライアンスSeを求めるための値であるため、動脈コンプライアンスKを求める前提とする圧迫帯12の圧迫圧Peに任意に設定され得る。たとえば、動脈コンプライアンスKを算出する前提とする圧迫帯12の圧迫圧が所定圧の1段階であれば上記カフコンプライアンスSeを測定する圧力維持区間の圧力は1段階となり、3段階であれば上記カフコンプライアンスSeを測定する圧力維持区間の圧力は3段階となり、5段階であれば上記カフコンプライアンスSeを測定する圧力維持区間の圧力は5段階となる。
また、前述の実施例において、図21のS1の第1血圧測定ルーチン、S3の第2血圧測定ルーチンでは、脈波の振幅の変化に基づきオシロメトリック法を用いて、最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPを決定していたが、脈波の積分値の変化、すなわち脈波のグラフが時間軸上に形成する面の面積変化に基づきオシロメトリック法を用いて、最低血圧値DBP、最高血圧値SBPを決定してもよいし、マイクロホンにより検知されるコロトコフ音の発生および消滅に基づいて最低血圧値DBP、最高血圧値SBPを決定してもよい。
前述の実施例において、図21のS1の第1血圧測定ルーチンは必ずしも設けられていなくてもよい。
また、前述の本実施例において、図1の上腕10は、例えば人体の上腕である。
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が加えられ得る。