<各実施形態に共通の構成>
以下に添付図面を参照して、本発明に係る圧電素子駆動回路の実施形態を詳細に説明する。先ず、本発明の各実施形態に共通の構成について説明する。図1は、本発明の各実施形態に適用可能な薬液注入システム200の構成を概略的に示す。薬液注入システム200は、生体に注入される薬液LMが収容された容器10と、容器10に一端が接続され、他端に生体22の血管内に一端が刺し入れられる注射針20が取り付け具18を介して設けられ、容器10から生体22内に至る薬液注入管路と、該薬液注入管路の途中に接続された薬液注入量調整装置100とを備えている。
容器10は、薬液LMを生体22の一部、例えば血管内に注入する際に、薬液注入量調整装置100の一端すなわちマイクロポンプ12の一端(供給端)にチューブ151を介して接続される。チューブ151としては、弾力性が高く自己拡張性のある可撓性チューブが使用されている。
薬液注入量調整装置100の他端すなわち流量センサ14の排出端には、チューブ152の一端が、接続される。チューブ152の他端(先端)には、先端に注射針20が固定された取り付け具18が接続される。薬液LMを血管内に注入する際には、看護師などが、注射針20を生体22の内部に体表面を介して刺し入れ、その先端を血管内に留置させる。その際、看護師などは、注射針20の先端が血管内から抜けないよう、注射針20の根元あるいは取り付け具18を、例えば粘着テープ等を用いて、生体22の体表面に固定する。図1では、この固定後の状態が示されている。
チューブ152としては、チューブ151と同様に、可撓性チューブが使用されている。チューブ152が撓むことにより、その先端部が動いても、薬液LMが流れる流路が確保される。
薬液注入システム200において、容器10から生体22の血管まで、順に、チューブ151、薬液注入量調整装置100、チューブ152および注射針20により、薬液LMが流れる流路が構成されている。この流路の途中には、薬液注入量調整装置100の構成各部を含め、流路を閉ざす部材は存在しない。したがって、この流路は、容器10から生体22の血管まで通じる1つの開放路を構成している。
なお、容器10から注射針20まで通じる流路の途中に、薬液LMの逆流を防止する弁を設けてもよい。ただし、この弁は、薬液LMが順方向(容器10から注射針20に向かう方向)に流れる際には、流体に抵抗力を及ぼさない、あるいは抵抗力を及ぼすが無視できる程度のものを用いるものとする。
薬液注入量調整装置100の構成、機能などについて詳細に説明する。薬液注入量調整装置100は、マイクロポンプ12、流量センサ14および制御ユニット16を有する。マイクロポンプ12は、その一端すなわち供給端が上述したチューブ151を介して容器10に接続される。流量センサ14は、マイクロポンプ12の他端すなわち排出端にチューブ150を介して一端すなわち供給端が接続される。制御ユニット16は、マイクロポンプ12および流量センサ14に電気的に接続され、流量センサ14の出力に応じてマイクロポンプ12を制御する。
ここで、チューブ150としては、マイクロポンプ12と流量センサ14とを接続し、両者間に薬液LMを流すことができるのであれば、材質、形態を問わず、いかなる管状部材を使用してもよい。
本発明の各実施形態では、マイクロポンプ12として、マイクロマシン技術(MEMS技術)で製造された、圧電素子を駆動源とするダイヤフラムポンプを採用する。ダイヤフラムポンプは、容積ポンプの一種であって、ダイヤフラムの容積の変化を利用して薬液LMを移送する。
図2は、マイクロポンプ12の一例の構造を示す。図2(A)には、マイクロポンプ12の縦断面図が示され、図2(B)には、図2(A)中のB−B線に沿った断面図が示されている。なお、図2(A)は、図2(B)中のA−A線断面に相当する。
図2(A)に示されるように、マイクロポンプ12は、その一部がダイヤフラムの役割を担う板状の第1基板121と、第1基板121の一方の面(−Z側の面)に接合された第2基板122と、第1基板121の他方の面(+Z側の面)の中央部に固定された圧電素子124とを有する。一例として、第1基板121は硼珪酸ガラス、第2基板122はシリコンを用いて構成する。なお、第1基板121の圧電素子124と接する部分を含む部分が、ダイヤフラムの役割を担っている。この部分を、便宜上、ダイヤフラム部DPと呼ぶ。
図2(A)および図2(B)に示されるように、第2基板122には、第1基板121に対向する一面から一定の深さの凹部が形成されている。この凹部は、X軸方向の中央部に位置する平面視矩形の圧力室126と、該圧力室126の−X側の端部に連通する凹溝128aと、圧力室126の+X側の端部に連通する凹溝128bとの3つの部分からなる。なお、圧力室126は、実際には、第1基板121が、第2基板122に形成された凹部を覆うように、第2基板122と接合されることで形成される。図2(A)および図2(B)の例では、便宜上、第2基板122に圧力室126が形成されているものとしている。
凹溝128aの内部の−X端部に対応する第2基板122の底壁には、第2基板122の外部と凹溝128aの内部空間とを連通する貫通孔129aが形成されている。また、凹溝128bの内部の+X端部に対応する第2基板122の底壁には、第2基板122の外部と凹溝128bの内部空間とを連通する貫通孔129bが形成されている。
貫通孔129aは、圧力室126を含むマイクロポンプ12の内部空間への薬液LMの入口の役目を果たし、貫通孔129bは、内部空間からの薬液LMの出口の役目を果たす。以下では、貫通孔129aおよび129bを、それぞれ入口129aおよび出口129bと記述する。入口129aおよび出口129bは、それぞれ、マイクロポンプ12の供給口、排出口をそれぞれ構成する管状部材(図示しない)に接続されている。
図2(B)に例示されるように、凹溝128aおよび128bは、共に、−X端から+X端に向かって、すなわち入口側から出口側に向かって、徐々にその断面積が広くなっており、ディフューザの役目を兼ねる。以下では、凹溝128aおよび128bを、それぞれディフューザ128aおよび128bと記述する。なお、ディフューザは、流体の持つ運動のエネルギを圧力のエネルギに変換するためのものである。
上述のように、本発明の各実施形態に適用可能なマイクロポンプ12は、第2基板122に設けられた入口129aから出口129bまで、順に、ディフューザ128a、圧力室126、ディフューザ128bを介して、1つの流路が形成される。この流路は、その途中に流路を閉ざす部材は設けられていないので、入口129aから出口129bまで通じる1つの開放路を構成する。すなわち、マイクロポンプ12は、バルブレスマイクロポンプである。
図3を用いて、マイクロポンプ12の動作について概略的に説明する。圧電素子124に電圧が印加されていない状態では、図3(A)に示されるように、圧電素子124と接合された第1基板121のダイヤフラム部DPは、撓みのない平面状を保っている。この状態の圧力室126は、非収縮状態にある。一方、圧電素子124に電圧が印加されると、図3(B)に示されるように、第1基板121のダイヤフラム部DPは、矢印で示されるように、−Z方向に撓む。これにより、圧力室126は収縮し、収縮状態となる。
したがって、圧電素子124に電圧パルスを印加して駆動させてダイヤフラム部DPを振動させることにより、圧力室126に対し、収縮状態と非収縮状態とを繰り返させることができる。このとき、圧力室126の収縮率(ダイヤフラム部DPの撓み量)は、電圧パルスの電圧値に応じて定まり、圧力室126の収縮/膨張の繰り返し数は、電圧パルスの周波数によって定まる。
図3(A)に示されるように、圧力室126が収縮状態から非収縮状態に遷移すると、入口129aと出口129bの両方から流体(薬液LM)が圧力室126に流れ込む。ここで、入口129aと出口129bから流れ込む流体を、それぞれ、矢印f1およびf2を用いて表している。矢印f1およびf2の向きが流体の移送される向きを表し、太さが流体の量の程度を表す。
ここで、流体f1およびf2は、それぞれディフューザ128aおよび128bを通過する。ディフューザ128aおよび128bは、上述したように、何れも、+X方向に向けて断面積が徐々に広くなっている。そのため、ディフューザ128aおよび128bは、+X方向に流れる流体に対し小さい抵抗を、−X方向に流れる流体に対し大きな抵抗を、それぞれ及ぼす。したがって、図3(A)の状態では、流体f1はディフューザ128aにより小さい抵抗を受け、流体f2はディフューザ128bにより大きな抵抗を受けるため、流体f1の流量は、流体f2の流量より大きくなる。
一方、図3(B)に示されるように、圧力室126が非収縮状態から収縮状態に遷移すると、圧力室126から入口129aと出口129bの両方へ流体が流れ出る。ここで、入口129aと出口129bへ流れ出る流体を、それぞれ、矢印f3およびf4を用いて表している。矢印f3およびf4の向きが流体の移送される向きを表し、太さが流量を表す。流体f3はディフューザ128aより大きな抵抗を受け、流体f4はディフューザ128bより小さな抵抗を受けるため、流体f4の流量は、流体f3の流量より大きくなる。
圧力室126が1回、収縮状態から非収縮状態に遷移すると、入口129aから圧力室126に対し、正味|f1−f3|の量の流体が流れ込むと共に、圧力室126から出口129bに対し、正味|f4−f2|の量の流体が流れ出る。したがって、入口129aから出口129bに対し、正味f=|f1−f3|=|f4−f2|の量の流体が流れる。
ここで、流体は非圧縮性であることを想定している。なお、圧力室126の容積を容積W、非収縮状態の容積に対する収縮状態の容積の比である収縮率を収縮率βとすると、関係f=W(1−β)が成り立つ。
圧力室126が収縮状態および非収縮状態を繰り返すことにより、入口129aから出口129bに対する定常的な流体の流れが発生する。圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数をωとすると、単位時間当たりの体積流量F=ωf=ωW(1−β)の流体が、入口129aから出口129bに流れる。
体積流量Fは、圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vとパルスの周波数の少なくとも一方を調整することにより、制御することができる。圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vを大きくすれば、圧電素子124の伸縮量、すなわち、ダイヤフラム部DPの撓みが大きくなる。同様に、圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vを小さくすれば、圧電素子124の伸縮量、すなわち、ダイヤフラム部DPの撓みが小さくなる。したがって、圧電素子に印加する電圧パルスの電圧値を変えることによって、圧力室126の収縮率βを調整することができる。それにより、流量F=ωW(1−β)を制御することができる。
また、パルスの周波数を大きくすれば、ダイヤフラム部DPの振動数、すなわち、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωが大きくなる。同様に、パルスの周波数を小さくすれば、ダイヤフラム部DPの振動数、すなわち、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωが小さくなる。したがって、圧電素子124に印加する電圧パルスの周波数を変えることによって、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωを調整することができる。それにより、流量F=ωW(1−β)を制御することができる。
なお、原理上、電圧パルスの周波数は、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωに等しいので、電圧パルスの周波数を文字ωを用いて表記する。
流量センサ14としては、一例として熱質量式センサが用いられている。熱質量式センサでは、その内部に設けられた管路に流体(薬液LM)を流し、管壁を介して流体からセンサへ、あるいはセンサから流体へ伝導する熱量を計測することによって、管路内を流れる流体の流量を計測する。この熱質量式センサを流量センサ14として採用した場合、流体内にプローブを挿入することがないので、流体の流れに障害を与えることなく、その流量を計測することができる。
制御ユニット16は、例えばマイクロプロセッサをその中枢部として構成されており、薬液注入量調整装置100全体を統括的に制御する。
制御ユニット16と、マイクロポンプ12および流量センサ14とは、電気的に接続されている。流量センサ14から制御ユニット16に、薬液LMの流量の計測情報が供給される。制御ユニット16は、その流量の計測情報に基づいて、薬液LMの流量が定められた目標量に一致するように、マイクロポンプ12(正確には、圧電素子124)に印加する電圧パルスの電圧値V及び周波数ωの少なくとも一方を調整する。マイクロポンプ12の制御の詳細については、後述する。
なお、制御ユニット16と、マイクロポンプ12および流量センサ14の少なくとも一方とを、無線の通信路を介して接続してもよい。
制御ユニット16は、マイクロポンプ12の動力の監視も行っている。マイクロポンプの動力は、流体(薬液LM)を順方向に流すためにその流体に加える圧力(正確には、圧力のエネルギ)であるが、動力として、実際にマイクロポンプ12が流体(薬液LM)に加えている具体的な圧力を考える必要はなく、その圧力に関係する量を考えれば良い。動力Pは、マイクロポンプ12の構成より、印加される電圧パルスの電圧値Vと周波数ωとの関数P(V,ω)となる。
例えば、印加される電圧パルスの電圧値Vと周波数ωとの積を動力Pと定義することができる。より具体的には、動力Pは、P(V,ω)≡Vωと定義することができる。これに限らず、印加される電圧パルスの電圧値が常に一定値V0であり、周波数ωのみが可変である場合、単にP(V0,ω)≡ωと定義してもよい。また、周波数が常に一定周波数ω0であり、電圧値Vのみが可変である場合、単にP(V,ω0)≡Vと定義してもよい。
ここで、制御ユニット16は、記憶装置(図示しない)を備えており、所定の時間(Δtとする)毎に、動力Pの監視結果を記憶装置に記憶する。記憶された監視結果は、記憶されてから一定時間後に消去される。従って、記憶装置内には、常に現在から一定時間内の監視結果(一定数の最新の監視結果)が保存される。
制御ユニット16は、マイクロポンプ12の動力Pの監視情報に基づいて、後述する方法により薬液LMの投薬状況を診断する。そして、制御ユニット16は、投薬状況の異常を検知した際には、薬液LMの注入を停止したり、警報を発する、といった緊急処置を実行する。そして、正常に、定められた量(目標注入量)の薬液LMの注入が完了した際に、薬液LMの注入を停止する、といった終了処置を実行する。
その他、制御ユニット16には、操作者が薬液の(目標)注入量と(目標)注入時間などを入力するための図示されない操作パネル、薬液LMの注入状況を表示する図示されない表示パネル、注入状況の異常を伝える図示されない警報装置などのインターフェースが備えられている。
次に、図4のフローチャートを用いて、薬液注入量調整装置100における薬液LMの流量制御の一例について説明する。図4のフローチャートの各処理は、制御ユニット16内のマイクロプロセッサの制御により実行される。
薬液LMの注入開始に先立って、操作者が、操作パネル上から、生体22に注入する薬液LMの総量(目標注入量)W0とその量の薬液LMの注入を完了する目標注入時間T0を入力する。その後、操作者が操作パネルを操作して、注入開始の指示を入力すると、図4のフローチャートの処理が開始される。
ステップS202で、先ず、制御ユニット16は、入力された目標注入量W0と目標注入時間T0とを記憶装置に記憶すると共に、目標注入量W0と目標注入時間T0とに基づいて、単位時間当たりの薬液LMの目標流量(目標量)F0を決定する。そして、次のステップS204で、制御ユニット16は、マイクロポンプ12の稼働を開始する。
次のステップS206〜ステップS212で、制御ユニット16は、流量センサ14から供給される薬液LMの流量Fと、先に決定された目標量F0との比較結果に基づき、流量Fが目標量F0に一致するように、マイクロポンプ12の動力P(V,ω)を調整する。すなわち、制御ユニット16は、ステップS206で流量Fと目標量F0とを比較し、流量Fと目標量F0とが異なっているか否かを判定する。若し、異なっていない、すなわち流量Fと目標量F0とが等しいと判定されたら、処理はステップS214に移行される。
一方、ステップS206で、流量Fと目標量F0とが異なっていると判定されたら、処理はステップS208に移行され、流量Fが目標量F0を超えているか否かが判定される。若し、超えていると判定されたら、処理がステップS210に移行され、制御ユニット16は、動力P(V,ω)を弱める。一方、流量Fが目標量F0以下であると判定されたら、処理はステップS212に移行され、制御ユニット16は、動力P(V,ω)を強める。ステップS210またはステップS212の処理が行われると、処理はステップS214に移行される。
ここで、制御ユニット16は、流体の流量Fの調整のため、圧電素子124に印加する電圧パルスの周波数ωを一定に保ちつつ電圧値Vを調整しても良いし、電圧値Vを一定に保ちつつ周波数ωを調整しても良いし、あるいは電圧値Vと周波数ωとの両方を調整してもよい。
ステップS214で、制御ユニット16は、薬液LMの注入量F0・t(tは経過時間)と目標注入量W0とを比較し、注入量F0・tが目標注入量W0以上になったか否かを判定する。若し、注入量F0・tが目標注入量W0未満、すなわち、注入量F0・tが目標注入量W0に満たない場合、処理がステップS206に戻され、ステップS206〜212の処理を再び行う。
一方、ステップS214で、注入量F0・tが目標注入量W0以上になったと判定されたら、処理はステップS216に移行される。この場合には、薬液LMの注入が正常に終了したと判断することができる。ステップS216では、制御ユニット16は、マイクロポンプ12の稼働を停止する。それと共に、警報を発するなどの終了処置を実行する。そして、図4のフローチャートによる一連の処理が終了される。
<第1の実施形態>
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。本第1の実施形態では、マイクロポンプ12の圧力室126を収縮状態および非収縮状態にさせる圧電素子124を、正弦波による駆動信号で駆動する。ここで、既に説明したように、圧電素子124は、接着構造から来る特性として、駆動信号の電位の正負によって機械的な強度が異なる。そこで、本第1の実施形態では、圧電素子124を駆動させる正弦波による駆動信号に対してDCバイアスを与える。
また、本第1の実施形態では、圧力室126の両面にそれぞれ圧電素子124を配置する構成を採用し、これら圧力室126の両面に配置された圧電素子124を、互いに逆相の正弦波を用いて駆動する。
図5は、本第1の実施形態に採用するマイクロポンプ12の一例の構成を示す。図5の各図において、上述の図2と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図5(A)は、マイクロポンプ12の外観図、図5(B)は、上述した図2(B)に対応する断面図である。また、図5(C)は、圧力室126の両面に設けられる圧電素子124aおよび124bの電気的な接続を示す。
なお、圧電素子は、等価回路的にはキャパシタと見做せるため、以下では、各回路図において圧電素子をキャパシタとして表現する。
図5(A)に例示されるように、第1基板121の中央部に第1の圧電素子124aが固定されると共に、第2基板122における圧電素子124aと対向する位置に、第2の圧電素子124bが固定される。このとき、第1の圧電素子124aおよび第2の圧電素子124bは、接着構造から規定される向きを同一方向に揃えて、第1基板121および第2基板122にそれぞれ固定される。より具体的には、第1の圧電素子124aは、接着構造から規定される向きにおける第1の面が第1基板121に固定される。一方、第2の圧電素子124bは、接着構造から規定される向きにおける第1の面に対向する第2の面が第2基板122に固定される。なお、この場合、第1基板121と第2基板122は、同一の材料で構成されるのが望ましい。
図5(C)に示されるように、第1の圧電素子124における第1の面の電極が端子300に接続される。第1の圧電素子124aにおける第1の面に対向する第2の面の電極と、第2の圧電素子124bの第1の面の電極とが共通して端子301に接続される。また、第2の圧電素子124bの第2の面の電極が、端子302に接続される。
この図5(C)に例示される構成において、端子300および端子301の間、ならびに、端子301および端子302の間に、互いに逆相の正弦波を印加する。上述したように、圧電素子124aと圧電素子124bとは、向きを揃えて第1基板121および第2基板122にそれぞれ固定されているので、例えば圧電素子124aが圧力室126の内側に向けて撓むタイミングでは、圧電素子124bも、圧力室126の内側に向けて撓むことになる。したがって、圧力室126の片面のみに圧電素子を設けた場合に比べ、収縮状態における圧力室126の収縮率を高くすることができる。
図6は、本第1の実施形態による圧電素子駆動回路の一例を示す。なお、図6では、本第1の実施形態の説明に必要な部分のみが示され、例えばOPアンプなど集積回路の周辺回路など、本第1の実施形態に直接的な関連性の薄い部分は省略されている。また、図6において、Vccは図示されない電源供給部から供給される電源、GNDは、共通のアース電位を示す。
信号生成器IC1は、信号データ生成器IC1は、例えばプログラム可能な論理回路(FPGA:Field Programmable Gate Array)であり、正弦波を構成するための信号データ(以下、正弦波データ)を生成する。例えば、信号生成器IC1は、制御ユニット16の制御に従い、指定された振幅および周波数の正弦波を構成する正弦波データを生成する。また、正弦波データの出力タイミングを調整することで、正弦波データから生成される正弦波信号の位相を制御することも可能である。生成された正弦波データは、バスBUSを介して正弦波変換器IC2に供給される。また、信号データ生成器IC1は、生成した正弦波データに同期したクロックCLKを出力し、正弦波変換器IC2に供給する。
正弦波変換器IC2は、D/A変換器を有し、信号データ生成器IC1から供給された正弦波データをD/A変換して、アナログ信号による正弦波信号を生成する。正弦波変換器IC2から出力された正弦波信号は、緩衝回路BF1およびBF2を介してトランスT1の一方の一次側端子1に供給され、トランスT1の端子1および接地された端子2間を通してトランスT1を駆動する。トランスT1は、一次側の端子1と、二次側の端子5とで極性が一致するように構成される。
緩衝回路BF1およびBF2は、正弦波変換器IC2から出力された正弦波信号を、トランスT1を駆動可能な電力まで電流増幅するアンプである。図6の例では、増幅率が同一の複数の緩衝回路BF1およびBF2が並列接続されて、1の緩衝回路が構成されている。
これに限らず、1の緩衝回路のみを使用してもよい。また、正弦波変換器IC2の出力を接地電位から浮かせ、それぞれの信号線を2の緩衝回路BF1およびBF2にそれぞれ接続して、これら緩衝回路BF1およびBF2で互いに逆位相、同じ増幅率で増幅して、トランスT1の一次側の端子1および端子2にそれぞれ供給してもよい。この場合、実質的に倍の電圧の正弦波信号を得ることができる。さらに、トランスT1を駆動するために、バイポーラトランジスタなどでは、エミッタフォロアの接地側の負荷としてトランスT1の一次側を接続して緩衝回路としてもよいし、電圧増幅を行うために、エミッタ接地回路、プッシュプル回路などを緩衝回路として用いることができる。
トランスT1の二次側には、二次側の巻き線の例えば両端に端子3(第2の端子)および端子5(第1の端子)がそれぞれ設けられると共に、当該端子3および端子5の中点から引き出されるセンタータップ4(第3の端子)が設けられる。センタータップ4は、図示されない高抵抗を介して接地されると共に、ダイオードD1(第1のダイオード)のアノードに接続される。ダイオードD1のカソードがダイオードD2(第2のダイオード)のカソードに接続されると共に、コンデンサC1(第2のキャパシタ)の一方の電極に接続される。コンデンサC1の他方の電極がダイオードD3(第3のダイオード)のアノードに接続されると共に、圧電素子C2の第2の電極と、圧電素子C3(第1のキャパシタ)の第1の電極との共通接続点に接続される。圧電素子C3の第2の電極は、トランスT1の端子3に接続される。一方、圧電素子C2の第1の電極は、ダイオードD3のカソード、ダイオードD2のアノードおよびトランスT1の端子5にそれぞれ接続される。
なお、圧電素子C2またはC3の第1の電極は、上述した接着構造により規定される第1および第2の面のうち一方、例えば第1の面に対応し、第2の電極は第2の面に対応するものとする。
図6の構成において、トランスT1のセンタータップ4が、ダイオードD1およびコンデンサC1を介して、圧電素子C2およびC3の共通接続点に接続されている。これにより、圧電素子C2およびC3に対して、互いに逆位相の正弦波による駆動信号がそれぞれ印加される。
なお、圧電素子C2およびC3とで同程度の振動を発生させるためには、これら圧電素子C2およびC3それぞれに対して略等しい電圧を印加する必要がある。そのため、圧電素子C2およびC3として、静電容量が略等しいものが選択される。
図6の回路構成によれば、コンデンサC1は、トランスT1の端子3および端子5から出力される正弦波における両極値電圧の1/2の電圧を保持し続ける。このコンデンサC1に保持される電圧が、圧電素子C2およびC3の共通接続点の電圧に対して、正電位側のDCバイアスとなって作用する。したがって、トランスT1の二次側全体の電位が、センタータップ4の電位に対して正電位側にシフトされることになり、圧電素子C2およびC3は、共通接続点を基準として互いに逆位相の正弦波による駆動信号が、正電位側に当該正弦波の振幅の1/2だけDCバイアスを掛けられた電圧の信号として印加されることになる。
図6において、ダイオードD2およびD3は、それぞれ整流に用いられる。また、ダイオードD1は、コンデンサC1に蓄積された電荷のトランスT1側へのリークを防止する役目を担う。トランスT1の出力信号の位相によっては、コンデンサC1に蓄積された電荷がセンタータップ4側にリークしてしまうことになる。このようなリークが発生すると、圧電素子C2およびC3に印加される電圧が不均衡になる。ダイオードD1をセンタータップ4とコンデンサC1との間に挿入することでこのリークが抑止され、圧電素子C2およびC3に印加される電圧が不均衡になることが防がれる。
なお、ダイオードD1の代わりに1MΩ(メガオーム)乃至10MΩ程度の高抵抗を挿入することでも、コンデンサC1からセンタータップ4へのリークを抑止する効果を得ることができる。しかしながら、高抵抗では、ダイオードD1に比べてリークの抑止力が弱いため、圧電素子C2およびC3に加えるDCバイアス電圧が不安定になる。
図6において、トランスT1は、例えば、一次側の±3V程度の入力に対して、二次側で±80V乃至±200V程度の出力が得られる巻数比のものが用いられる。また、圧電素子C2およびC3は、それぞれ4nF(ナノファラド)程度の静電容量を有する。コンデンサC1は、圧電素子C2およびC3の静電容量よりは大きな、例えば5nF乃至10nFの静電容量とする。
図7を用いて、図6の回路における動作について、概略的に説明する。図7(A)および図7(B)は、それぞれ、トランスT1の一次側に印加される正弦波と、圧電素子C2およびC3に印加される電圧の波形のシミュレーション結果を示す。正弦波320は、トランスT1の一次側に入力される信号の例を示す。波形321および321’は、圧電素子C2に印加される電圧の波形の例を示し、波形322および322’は、圧電素子C3に印加される電圧の波形の例を示す。なお、正弦波320は、煩雑さを避けるために、0Vの位置をずらして表示している。
図7(A)は、トランスT1に対する正弦波320の入力を、正弦波の位相が0°から開始した場合の例である。この場合、圧電素子C2およびC3に印加される電圧は、波形321および波形322の先頭側(左側)に例示されるように、一次側に対する正弦波320の入力と略同時に、正電位側のみにシフトしている。これは、すなわち、圧電素子C2およびC3の共通接続点の電圧が正電位側にのみ、シフトしていることを意味する。
図7(B)は、トランスT1に対する正弦波320の入力を、正弦波の位相が180°から開始した場合の例である。この場合には、波形321’の先頭側に例示されるように、圧電素子C2に印加される電圧は、一次側に対する正弦波320の入力直後における第1サイクルの半波分が負電位側にシフトする。そして、次の半波において正電位側へのDCバイアスに移行する。
図7(A)および図7(B)の説明から分かるように、トランスT1の一次側に入力される正弦波は、トランスT1の端子3の出力が正弦波の立ち上がりの位相から開始されるように位相制御されていると好ましい。より具体的な例として、トランスT1の極性が図6に例示されるように設定されている場合には、一次側に対して入力される正弦波が0°の位相から入力開始されるように位相制御する。図6の例では、信号データ生成器IC1や正弦波変換器IC2などにより、トランスT1の一次側に印加する正弦波の位相を制御することができる。また、トランスT1に対する正弦波の入力開始時における立ち上がりの振幅を徐々に大きくするように制御することで、突入時の負電位を抑制することができる。
なお、図6に示される構成において、ダイオードD2およびD3の向きを逆としても、同様の効果を得ることができる。
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、トランスT1の二次側においてセンタータップ4に対して接続したコンデンサC1に蓄積される電荷を利用して、トランスT1の二次側の出力に対して全体的にDCバイアスを掛けることができる。また、トランスT1の二次側に発生する正弦波信号を整流してコンデンサC1に供給している。そのため、正弦波信号の両極値間電圧の1/2のDC電圧が圧電素子C2またはC3の共通接続点に印加され、圧電素子C2およびC3に対して、印加される正弦波信号の最低電圧が0VになるようなDCバイアスを容易に得ることができる。これにより、簡易な回路構成により、印加電圧に方向性が要求される圧電素子C2およびC3の劣化を抑制することが可能になる。
また、トランスT1のセンタータップ4とコンデンサC1との間に、リーク防止用のダイオードD1を挿入しているために、圧電素子C2またはC3の共通接続点を基準として、互いに逆位相の正弦波による駆動信号を、正負何れかのDCバイアスを掛けて圧電素子C2またはC3にそれぞれ印加することができる。
また、リーク防止用のダイオードD1とダイオードD2とは、同じ側の電極で共通接続点に接続されている。そのため、トランスT1のセンタータップ4の電位が、センタータップ4にダイオードD1を介して接続されるコンデンサC1の、圧電素子C2およびC3の共通接続点側の電位より低くなる周期のときに発生するリーク電流をDCバイアスに影響せずに防止できる。これにより、コンデンサC1に対して最初に充電がなされるとき以外には、センタータップ4側へのリークが抑制される。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上述の第1の実施形態では、一対の圧電素子C2およびC3を互いに逆相の正弦波で駆動したのに対し、本第2の実施形態では、1の圧電素子、あるいは、接着構造で規定される方向を揃えて並列接続された複数の圧電素子を、1の正弦波で駆動する。
図8は、本第2の実施形態による圧電素子駆動回路の一例を示す。なお、図8において、上述した図6と共通する部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図8において、トランスT1の一次側の構成が図6に示した構成と若干異なる。信号生成器IC3は、基本矩形波を生成し、コンデンサC5による交流結合を介して正弦波変換器IC4に供給する。また、信号生成器IC3は、当該基本矩形波に同期した、矩形波によるクロックCLKを生成し、正弦波変換器IC4に供給する。
正弦波変換器IC4は、例えばスイッチトキャパシタ(SWC)回路からなり、信号生成器IC3から供給された基本矩形波とクロックCLKとから正弦波信号を生成する。正弦波変換器IC4から出力された正弦波信号は、緩衝回路BF3でトランスT1を駆動するのに十分な電流に電流増幅され、トランスT1の端子1に入力される。トランスT1の端子2は、接地される。
なお、トランスT1の一次側の構成は、この図8の構成に限られない。すなわち、上述した図6に例示したトランスT1の一次側構成を、本第2の実施形態に適用してもよい。同様に、この図8に示すトランスT1の一次側構成を、図6に示した第1の実施形態における圧電素子駆動回路に適用してもよい。
図8において、トランスT1の二次側の構成は、図6の圧電素子C3の代わりにコンデンサC5が挿入されている以外は、図6の構成と共通である。このコンデンサC5(第1のキャパシタ)は、トランスT1の端子3と、圧電素子C2、コンデンサC1およびダイオードD3の共通接続点とを交流接続するために設けられる。
また、コンデンサC5は、静電容量が圧電素子C2よりも十分大きなものが選択される。例えば、コンデンサC5は、圧電素子C2の静電容量の100倍程度の静電容量を持つものが用いられる。
すなわち、上述の図6の構成においては、圧電素子C2およびC3それぞれに略等しい電圧が印加される必要があったため、圧電素子C2およびC3の静電容量を略等しくしていた。これに対して、本第2の実施形態では、トランスT1の二次側における正弦波信号の電圧は、全て圧電素子C2に対して印加されるのが望ましい。コンデンサC5の静電容量を、圧電素子C2の静電容量よりも十分大きくすることで、トランスT1の二次側に発生する正弦波信号の電圧成分(すなわち、トランスT1の端子3および端子5間で発生する電圧)を、略全て圧電素子C2に印加させることが可能となる。
なお、コンデンサC5の静電容量を調整することで、圧電素子C2に印加される正弦波信号の電圧を調整することが可能である。コンデンサC5の静電容量を調整した場合であっても、圧電素子C2に印加される正弦波信号の下限値が略0Vに収束するように、圧電素子C2に対するDCバイアス電圧が作用する。
この図8に示す第2の実施形態による構成でも、定常状態において、トランスT1の二次側全体の電位を、センタータップ4の電位に対して正電位側にシフトさせることになり、圧電素子C2に印加される正弦波信号は、正電位側に当該正弦波の振幅の1/2だけDCバイアスを掛けられた電圧の信号として印加される。
図9および図10を用いて、図8の回路における動作について、概略的に説明する。図9および図10は、図8のトランスT1の一次側に対して、周波数が1200Hz、振幅が±2.1Vの正弦波信号を入力した場合のシミュレーション結果を示す。トランスT1の巻数比を1:25とした場合、2次側の出力は、2.1Vpp×2×25=105Vppとなる。
図9は、リーク防止用のダイオードD1が無い場合のシミュレーション結果の例を示す。図9(A)は、トランスT1の一次側に入力される正弦波信号を示し、図9(B)は、圧電素子C2に印加される電圧を示す。コンデンサC5に、比較的静電容量の大きなものを用いているため、圧電素子C2に印加されるDCバイアスが安定するまで一定の時間を要し、その間、圧電素子C2に印加される電圧は、徐々に増加する。DCバイアスが安定して以降は、圧電素子C2に印加される電圧は、安定する。
図9(C)は、リーク防止用のダイオードD1が無い場合に、図8におけるダイオードD1の位置に流れるリーク電流を示す。このように、トランスT1の一次側への正弦波信号の入力直後に最大のリーク電流が流れ、DCバイアスが安定的になるに連れてリーク電流が減少し、所定の値で安定する。
図10は、図8の通りにリーク防止用のダイオードD1がある場合のシミュレーション結果の例を示す。図10(A)は、トランスT1の一次側に入力される正弦波信号を示し、図10(B)は、圧電素子C2に印加される電圧を示す。図10(B)に示されるように、ダイオードD1を挿入した場合の圧電素子C2に印加される電圧は、上述の図9(B)の例に対して若干、負電位側にも印加される。DCバイアス電圧が安定して以降は、圧電素子C2に印加される電圧は、上述の105Vppに近い値で安定する。
なお、上述した第1の実施形態の例では、圧電素子C2およびC3は、トランスT1の二次側の出力電圧を、互いに静電容量によって正弦波成分の電圧比を略1:1に分け合うと共に、本第2の実施形態のコンデンサC5のように大きな静電容量を用いていない。そのため、トランスT1の一次側に正弦波信号が入力されるのに伴い、略瞬時に圧電素子C2およびC3に対してDCバイアスが掛かり、これら圧電素子C2およびC3に印加される電圧も極めて短時間で安定的となる(図示しない)。
図10(C)は、リーク防止用のダイオードD1に流れるリーク電流を示す。このように、リーク電流は、トランスT1の一次側に対する正弦波信号の入力が開始された直後に若干ピークが発生した以降は、略0Vに抑制されている。これにより、トランスT1の二次側の出力が圧電素子C2において効率的に利用されていることが分かる。なお、第1の実施形態で説明したように、ダイオードD1の代わりに高抵抗を挿入してもよい。
このように、本第2の実施形態では、トランスT1の二次側の正弦波信号を有効に使うために、圧電素子C2に比べ静電容量が十分大きいコンデンサC5を、圧電素子C2に対してトランスT1のセンタータップ4に対して対称位置に用いている。そのため、圧電素子C2に対するDCバイアスが安定化するまで、ある程度の時間を要する。しかしながら、図10(B)から分かるように、圧電素子C2に対して負電位が印加される時間は高々数10ms(ミリ秒)であり、圧電素子C2の駆動に際して何ら問題になるものではない。
実際のシミュレーションの結果では、第1の実施形態による図6の構成では、圧電素子C2およびC3を同じ静電容量にすることで、1ms以内という極めて短時間でDCバイアスが定常状態に達した(図示しない)。本第2の実施形態による図8の構成では、コンデンサC5として圧電素子C2よりも十分大木は静電容量のものを選択しているため、図10(B)に例示されるように、DCバイアスが定常状態になるまでに、20ms程度の時間を要している。
また、図4のフローチャートを用いて説明したようなサーボ動作により、正弦波信号の振幅など、圧電素子C2の駆動条件が頻繁に変化するような応用では、緩衝回路BF3の駆動能力を大きくすることが有効である。この場合、コンデンサC5の静電容量と、緩衝回路BF3の駆動能力とを、両者の兼ね合いで決定すると好ましい。過渡的にDCバイアスがやや負電位側に偏ったとしても、急激な変化でなければ大きな負電位になることはないため、回路のパラメータの設定により抑制可能であり、問題にはならない。
図11は、信号生成回路IC1から出力される信号の波形と、圧電素子C2に印加される電圧の波形とのシミュレーション結果を示す。波形330および331は、それぞれ、信号生成回路IC1から出力される基本矩形波およびクロックCLKの例である。これら基本矩形波およびクロックCLKは、信号生成回路IC1において、ハード的またはプロセッサなどの制御に従いソフトウェア的に生成される。図11では、クロックCLKは、周波数が高いため、図11では滲んだような表現になっている。
波形332は、定常状態において圧電素子C2に印加される正弦波電圧を示す。信号生成回路IC1から出力されたこれら基本矩形波およびクロックCLKに基づき、正弦波変換回路IC2で正弦波が生成され、この正弦波がトランスT1で昇圧されて、波形332に例示されるような正弦波電圧とされる。図11によれば、この正弦波電圧は、ピーク間電圧Vppが略105Vであるのに対し、最低電圧が略0Vとなっているのが分かる。
図12は、本第2の実施形態に適用可能なマイクロポンプ12の一例の構造を示す。なお、図12において、上述した図5と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略している。この例では、図8における圧電素子C2を並列接続して用いる。すなわち、図12(A)および図12(B)において、第1の圧電素子124c1および第2の124c2が、並列接続された2個の圧電素子C2にそれぞれ対応する。
図12(A)に例示されるように、これら第1の圧電素子124c1および第2の圧電素子124c2は、同相の正弦波電圧を印加したときに互いに逆方向に振動するように、圧力室126の両面に配置される。例えば、第1の圧電素子124c1および第2の圧電素子124c2は、上述した、接着構造から規定される第1の面あるいは第2の面を互いに対向させて、第1基板121および第2基板122にそれぞれ固定される。
図12(B)に例示されるように、第1の圧電素子124aの第1の面の電極が端子303に接続され、第2の面の電極が端子304に接続される。また、第2の圧電素子124bの第2の面の電極が端子305に接続され、第1の面の電極が端子306に接続される。さらに、端子303と端子306とが接続され、端子304と端子305とが接続される。端子303と端子306との接続点が、図8における圧電素子C2の一方の電極に対応し、端子304と端子305との接続点が、他方の電極に対応する。
このようにして、第1の圧電素子124c1および第2の圧電素子124c2の圧力室126への配置および図8の回路への接続を行うことで、1の正弦波電圧により、例えば第1の圧電素子124c1が圧力室126の内側に向けて撓むタイミングで、第2の圧電素子124c2も、圧力室126の内側に向けて撓むことになる。したがって、圧力室126の片面のみに圧電素子を設けた場合に比べ、収縮状態における圧力室126の収縮率を高くすることができる。
なお、図8に示される構成において、ダイオードD2およびD3の向きを逆としても、同様の効果を得ることができる。
以上説明したように、本第2の実施形態によれば、上述の第1の実施形態と同様に、トランスT1の二次側においてセンタータップ4に対して接続したコンデンサC1に蓄積される電荷を利用して、トランスT1の二次側の出力に対して全体的にDCバイアスを掛けることができる。そのため、簡易な回路構成により、印加電圧に方向性が要求される圧電素子C2の劣化を抑制することが可能になる。