前述したように、ハイブリッド車両においては走行領域が切り換えられることから、車両の走行中にエンジンの停止と始動とが頻繁に繰り返されることになる。例えば特許文献1に記載されているハイブリッド車両では、スタータとオルタネータとを統合したISG(Integrated Starter Generator)やクランク軸に直結したCISG(Crank Integrated StarterGenerator)を備え(以下、これらを総称して、単にスタータと呼ぶ場合がある)、車両走行中のエンジンの始動に際しては、このスタータを駆動させることによって、エンジンを始動させるようにしている。
ところが、前述したように、ハイブリッド車両においては、車両走行中のエンジンの始動が頻繁に実行されることから、スタータが頻繁に作動されることになる。このことは、例えばスタータの大型化や、その寿命の低下といった不都合を招き得る。また、スタータを利用したエンジンの再始動は、始動時間が長くなってしまうという不都合もある。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ハイブリッド車両において、スタータを利用しないで走行中のエンジンの始動を行うと共に、そのエンジンの始動を安定的にかつ短時間で行うことにある。
ここに開示する技術は、スタータを利用せずにエンジンの始動を短時間で行い得る技術として、燃焼始動を利用すると共に、確実かつ、より短時間の始動を実現する上で、走行中の車両の車輪からのトルクをエンジンに伝達して、それを、エンジンの始動に際しアシストトルクに利用することにしたものである。
その上で、ここに開示する車両用駆動制御装置では、エンジンと自動変速機との間に配置された、ロックアップクラッチ付き流体伝動装置におけるロックアップクラッチの作動を組み合わせることによって、流体伝動装置の滑りの影響を抑制乃至回避することで、低車速であっても所望の大きさのアシストトルクをエンジンに付与して、確実かつ短時間のエンジン始動を実現するようにした。
具体的に、ここに開示する車両用駆動制御装置は、車両に搭載された多気筒エンジンと、前記エンジンに連結されて、駆動輪を駆動する自動変速機と、前記自動変速機を介さずに前記駆動輪を駆動する電動モータと、前記エンジンと前記自動変速機との間で流体を介したトルク伝達を行う、ロックアップクラッチ付きの流体伝動装置と、前記エンジンと前記駆動輪との間でトルクが断続するように、開放及び締結を切り換える断続手段と、前記エンジン、前記自動変速機、前記電動モータ、前記ロックアップクラッチ及び前記断続手段の制御を実行するコントローラを備える。
そして、前記コントローラは、前記車両の走行中は、前記エンジン及び前記電動モータの駆動を切り換えながら前記駆動輪を駆動させるように構成されており、前記車両の走行中に前記エンジンを停止させているときには、前記ロックアップクラッチ及び断続手段をそれぞれ開放し、前記コントローラはまた、前記車両の走行中に、停止している前記エンジンの始動条件が成立したときには、前記エンジンの燃焼始動を実行すると共に、そのエンジンの燃焼始動に際しては、前記ロックアップクラッチを作動させ、その後、前記断続手段の締結によって前記エンジンに前記駆動輪側からトルクが付与されるタイミングに合わせて、前記エンジンの始動を開始させる。
その上で、前記車両用駆動制御装置は、前記車両の車速を検出する車速検出手段をさらに備え、前記コントローラは、前記エンジンの燃焼始動に際して、前記ロックアップクラッチを所定のスリップ量で作動させると共に、前記検出された車速が高いほど、前記ロックアップクラッチのスリップ量を大きく設定する。
ここで、「自動変速機」は、例えば歯車変速機構からなる多段変速機、及び、例えばベルト変速機構からなる無段変速機の双方を含み得る。また、「流体を介したトルク伝達を行う流体伝動装置」には、トルクコンバータやフルードカップリング等が含まれ得る。さらに、「駆動輪」は前輪及び後輪のいずれであってもよく、また、エンジンが駆動力を付与する駆動輪と、電動モータが駆動力を付与する駆動輪とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、「断続手段」は、エンジンと車輪との間でトルクの断続を切り換え得る手段であって、例えばエンジンと車輪との間のトルク伝達経路上に配置されたクラッチ要素としてもよい。また、前記の自動変速機が歯車変速機構からなる多段の自動変速機である場合には、当該歯車変速機構に含まれる複数の摩擦締結要素(クラッチ要素及びブレーキ要素を含む)を利用して、前記の断続手段を構成してもよい。すなわち、一般的に、多段の歯車変速機構は、複数の摩擦締結要素の内から選択した、少なくとも2つの摩擦締結要素を締結することによって各変速段を実現する(ドライブ状態)。つまりトルク伝達が接続される。一方、そうした締結を行わないときには遊転状態(ニュートラル状態)となりトルク伝達が行われない。つまりトルク伝達が遮断されたことと等価になる。
そこで、前記歯車変速機構に含まれる各摩擦締結要素の開放及び締結を切り換えることによって、エンジンと車輪との間でのトルク伝達の接続及び遮断を切り換える断続手段を構成してもよい。
こうした自動変速機内部の摩擦締結要素を利用して断続手段を構成する場合には、トルク断続の応答性の観点からは、次のような構成を採用することがより好ましい。つまり、前述したように、多段の歯車変速機構において所定の変速段の実現、つまりトルク伝達の接続状態の実現には、少なくとも2つの摩擦締結要素を締結する必要があることから、所定の変速段の実現に際し締結が必要な摩擦締結要素の内のいずれか1つの締結要素を非締結とし、残り全ての締結要素を締結させたときには、前記のトルクの遮断状態となる。一方で、その遮断状態からは、前記非締結であった1つの締結要素を締結させることだけで、ニュートラル状態からドライブ状態へと移行して、トルク伝達の接続状態に切り換え得る。このことは、例えば油圧ポンプの大型化等を行わなくても、トルク伝達の遮断状態から接続状態へ、高い応答性でもって切り換え得ることは勿論のこと、例えば、前記所定の変速段を、エンジンの始動後において要求される変速段と一致させておくことによって、エンジンの始動後の挙動がスムースになり得る点でも極めて有効である。
前記の構成によると、車両の走行中に、停止しているエンジンの始動条件が成立したときには、エンジンの燃焼始動を実行する。このようにエンジンの始動にスタータを利用しないことで、スタータの頻繁な利用に起因して発生し得る様々な不都合を全て解消し得る。
また、前記の燃焼始動は、概ねエンジン始動を安定してかつ短時間で行い得るものの、条件によっては、エンジンの始動時間が長くなったり、始動が不安定になったりすることが起こり得る。そこで、前記の構成では、エンジンの燃焼始動に際しては、断続手段を締結することによって、エンジンに対し駆動輪側からのアシストトルクを付与する。このアシストトルクの付与は、エンジンの燃焼始動において始動時間の短縮及び始動の安定化に大いに寄与する。また、このアシストトルクの付与に際しては、ロックアップクラッチを作動させることにより、流体伝動装置の滑りの影響を抑制乃至無くし得る。このことは、車両が低車速でも、所望の大きさのアシストトルクをエンジンに付与し得ることになる。
また、エンジンに付与するアシストトルクは、エンジンの始動の開始にタイミングを合わせて付与することが望ましいが、前記の構成では、応答性が比較的低いロックアップクラッチの作動を先に行い、その後に断続手段の締結によってエンジンに駆動輪側からのトルクを付与するようにする。つまり、相対的にタイミングを合わせやすい方の断続手段の締結制御によって、アシストトルクを付与するタイミングと、エンジンの始動開始タイミングとを一致させることで、アシストトルクを適切なタイミングでエンジンに付与して、エンジンの始動時間の短縮及び確実化をより一層促進し得る。
また、走行中の車両において、断続手段の締結により駆動輪側からエンジンにトルクを伝達することに伴いトルクショックが生じ得るものの、ロックアップクラッチを所定のスリップ量で作動させることによりトルクショックが緩和乃至回避し得る。
ここで、自動変速機の変速比と車速との関係から、ロックアップクラッチを非締結とした状態(換言すれば、流体伝動機構の滑りを含んだ状態)において、駆動輪側からエンジン側に付与し得るアシストトルクの大きさが決定される。つまり、アシストトルクの大きさは、同一変速比であれば車速が高いほど大きくなると共に、同一車速であれば、変速比が大きいほど大きくなる特性を有している。このため、例えば車速及び変速比の組み合わせ如何によっては、得られるアシストトルクが、エンジンのアシストに必要な大きさのトルクを下回る場合もあり得る。その場合には、前述したようにロックアップクラッチの作動を組み合わせて、流体伝動機構の滑りを抑制乃至無くすことでアシストトルクを増加させることにより、所望のアシストトルクを確保し得る。一方、得られるアシストトルクが、エンジンのアシストに必要な大きさのトルクを十分に確保できる場合は、前述したようにロックアップクラッチを非締結乃至スリップ制御を行うことで、トルクショックを緩和し得る。
高車速のときは、変速比が低くても(高速段であっても)比較的大きなアシストトルクが得られることから、前記の構成では、車速検出手段が検出した車速が高いほど、ロックアップクラッチのスリップ量を大きくしてトルクショックの緩和を優先する。言い換えると、低車速のときは、大きなアシストトルクが得られ難いことから、ロックアップクラッチのスリップ量を小さくして、アシストトルクの確保が優先される。
前記車両用駆動制御装置は、前記車両の走行状態を検出する走行状態検出手段をさらに備え、前記コントローラは、前記エンジンの燃焼始動に際して、前記検出された走行状態に応じて、前記自動変速機の変速比の制御を行うと共に、前記ロックアップクラッチの制御を行い、前記コントローラは、前記ロックアップクラッチを締結した状態で、前記エンジンの始動のための所望のアシストトルクが得られないときには、前記自動変速機の変速比を、前記走行状態に応じて設定される変速比よりも大きくなるように変更する、としてもよい。
ここで、「車両の走行状態」の1つとしては、車速を例示することが可能である。例えばエンジンの燃焼始動に際し、その後にエンジン駆動による車両の走行(例えばエンジン走行)が行われる場合には、自動変速機の変速比を、車速とアクセル開度とに基づき、エンジン始動後のエンジン走行において要求される変速比に予め設定しておいてもよい。このときに、前述したように、自動変速機が歯車変速機構からなる多段の自動変速機である場合には、エンジン始動後に要求される変速比(変速段)の実現に必要な少なくとも2つの摩擦締結要素の内の1つを除く、他の摩擦締結要素を締結状態にしておいてもよい。
前述したように低車速のときは、大きなアシストトルクが得られ難くい。そこで、例えば極低車速のときで、ロックアップクラッチを締結していても所望のアシストトルクが得られないような場合には、自動変速機の変速比をさらに高くする(変速段を、さらに低い変速段に変更する)。これにより、アシストトルクの増加が図られる。
前記コントローラは、前記エンジンの燃焼始動に際して、圧縮行程にある気筒に対して燃料を供給し、点火及び燃焼を行って前記エンジンを一旦、逆転方向に作動させた後に、逆転作動に伴い圧縮される膨張行程気筒に対する点火及び燃焼を行うことで前記エンジンに正転方向のトルクを与えて、当該エンジンを始動させる、としてもよい。
つまり、エンジンの燃焼始動は、膨張行程気筒に対する燃料供給、点火及び燃焼を行うことによりエンジンを正転させてそのまま再始動させることも可能であるが、この他にも、エンジンの始動性を高める上で、エンジンを一旦、逆転作動させ、これにより停止時膨張行程気筒を圧縮してから点火、燃焼させることで、エンジンを正転させて再始動させる、逆転燃焼始動も可能である。この場合は、断続手段の締結によってエンジンに駆動輪側からトルクを付与するタイミングと、前記膨張行程気筒に対する点火及び燃焼の開始タイミングとを合わせることが望ましい。
以上説明したように、前記の車両用駆動制御装置によると、車両の走行中に、停止しているエンジンを始動させるときには、いわゆる燃焼始動を行うことで、スタータの頻繁な利用に起因して発生する様々な不都合を全て解消し得ると共に、その燃焼始動に際しては、断続手段の締結によってエンジンに対し駆動輪側からのアシストトルクを付与することで、エンジンの始動時間のより一層の短縮化及び始動の安定化が図られる。また、ロックアップクラッチの作動を組み合わせることにより、流体伝動装置の滑りの影響を抑制乃至無くして、車両が低車速でも所望の大きさのアシストトルクをエンジンに付与し得るようになり、エンジンの高い始動性が、広い運転領域に亘って確保される。また、アシストトルクの付与のタイミングを、比較的応答性の低いロックアップクラッチの作動によって合わせるのではなく、ロックアップクラッチは予め作動させた上で、断続手段の締結制御によってエンジンの始動の開始タイミングに合わせることにより、アシストトルクを適切なタイミングでエンジンに付与して、エンジンの始動時間の短縮及び確実化をより一層促進し得る。
以下、車両の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1は車両のパワートレイン及び制御装置の全体ブロック図である。パワートレインPTは、駆動力を発生する多気筒(例えば4気筒)エンジン11と、このエンジン11に連結されて変速を行う歯車変速機構12と、歯車変速機構12からの出力を受けて左右に駆動力を配分する差動装置13と、差動装置13からの駆動力を受ける左右の駆動輪(例えば前輪)14,14と、エンジン11と歯車変速機構12との間に配置された、ロックアップクラッチ15付きのトルクコンバータ(流体伝動装置)16と、前記歯車変速機構12を介さずに、差動装置13を通じて前記駆動輪14を駆動する電動モータ17と、を備えている。この車両は、前述の通り、駆動源としてのエンジン11及び電動モータ17を備えたハイブリッド車両であり、後述するように、車速及びアクセル開度に基づいて設定される運転状態に応じて、電動モータ17により駆動しエンジン11を停止させるモータ走行モードと、エンジン11により駆動し電動モータ17を停止させるエンジン走行モードと、電動モータ17とエンジン11との双方を駆動する併用走行モードと、を切り換えながら走行するように構成されている。
エンジン11は、詳細な図示は省略するが、4サイクル火花点火式エンジンであると共に、その各気筒内に燃料を直接、噴射可能に構成された直噴エンジンである。このエンジン11は、後述するように、その始動に際しては、所定の気筒、より正確には、停止状態で膨張行程に対応する気筒内に燃料を噴射すると共に、点火及び燃焼を行うことで、エンジン11に正転方向のトルクを付与して始動するように構成されており、基本的にスタータを利用しなくても始動が可能に構成されている。尚、エンジン11は、クランク軸に対し連結されたオルタネータを備えており、このオルタネータは、スタータ及びオルタネータを統合したISG18とされている。
歯車変速機構12は、詳細な図示は省略するが、例えばその内部に、遊星歯車機構と、遊星歯車機構に含まれる各回転要素の回転を選択的に規制する摩擦締結要素として、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素とを含んで構成されており、例えば前進4速の多段自動変速機として構成されている。この歯車変速機構12においては、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素から選択された、少なくとも2つの要素を締結することで、各変速段を実現するように構成されている。つまり、歯車変速機構12は、少なくとも2つの要素を締結することで所定の変速段を実現したドライブ状態と、前記の要素を全て締結しないことによって、エンジン11と駆動輪14との間のトルクの伝達を遮断したニュートラル状態とに切り換わることから、このハイブリッド車両においては特に、後述するように、歯車変速機構12を、前記の各クラッチ要素及び各ブレーキ要素の開放及び締結を切り換えることによって、エンジン11と駆動輪14との間でトルクを断続させる断続手段121として機能させる。
さらに、このハイブリッド車両においては、歯車変速機構12を、所定の変速段の実現に必要な少なくとも2つの要素の内のいずれか1つの要素のみを非締結とし、その他の要素を締結することによって、前記のニュートラル状態としつつも、当該所定変速段への切り換えを素早く行い得るようにした待機状態にするようにしている。この待機状態は、モータ走行モード時を含む、エンジン11を停止しているときに実行される状態である。つまり、待機状態はニュートラル状態であることから、モータ走行モード時に待機状態とすることで、車両の走行に連動してエンジン11が引き摺られながら従動回転する引き摺り現象が回避される。
また、待機状態においては、前述した非締結とする要素を、締結直前の状態(いわゆるプリチャージ状態)にする。これによって、非締結から締結への切り換えの応答性が高まり、前述したように、1つの締結要素をのみを締結することと相俟って、待機状態(換言すればニュートラル状態)からドライブ状態への切り換え応答性を大幅に高めるようにしている。尚、待機状態ではエンジン11は停止していることから、プリチャージ状態を実現する上で、図示は省略するが、このハイブリッド車両には、電動の油圧ポンプが設けられている。尚、前記のように、エンジン11を停止しているときには、ロックアップクラッチ15もまた、プリチャージ状態にされる。
前記電動モータ17は、例えば3相の交流同期モータであって、図示省略のバッテリ及びインバータを介して供給された駆動電流により駆動する。ここで、前記のモータ走行モードには、電動モータ17の駆動力によって走行している状態、電動モータ17を回生させながら走行している状態、電動モータ17が何ら作動せずに惰性で走行している状態、の少なくとも3つの状態を含む。
車両の制御装置CRは、エンジン11の出力、ロックアップクラッチ15の断接(スリップ制御を含む)、前記インバータの制御を通じた電動モータ17の作動(力行及び回生を含む)、歯車変速機構12の変速段等をそれぞれ制御する装置である。制御装置CRは、コントローラ2と、車両の走行状態を含む各種の状態を検出し、コントローラ2に提供する各種センサ31〜37とを備えて構成されている。この内、コントローラ2は、例えば通常のマイクロコンピュータであり、図示は省略するが、少なくともCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース回路、及びデータバスを備えて構成される。
各種のセンサには、少なくとも、車両の走行速度に関する情報をコントローラ2に提供する車速センサ(走行状態検出手段)31、アクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度に関する情報をコントローラ2に提供するアクセル開度センサ32、コントローラ2においてエンジン回転数及びクランク角度の検出に利用される信号を提供するクランク角センサ33、コントローラ2において気筒識別に利用される信号を提供するカム角センサ34、バッテリの充電状態(SOC:State of Charge)やバッテリ温度に係る情報を含む、バッテリの各種状態に係る情報をコントローラ2に提供するバッテリ状態センサ35、電動モータ17の温度に係る情報を含む、電動モータ17の各種状態に係る情報を提供するモータ状態センサ36、及び、トルクコンバータ16のタービン回転数に関する情報をコントローラ2に提供するタービン回転数センサ37を含んでいる。コントローラ2は、これらの各センサ31〜37からのセンサ信号を取り入れて演算処理をし、前記エンジン11、ロックアップクラッチ15、歯車変速機構12及び電動モータ17に対して制御信号を出力する。
具体的に前記コントローラ2は、車速及びアクセル開度に基づいて設定される運転状態に応じて、前述したモータ走行モードと、エンジン走行モードと、併用走行モードとを切り換えるべく、電動モータ17の作動及び停止、エンジン11の作動及び停止(始動及び停止)を切り換える。それと共に、前記コントローラ2は、走行モードの切り換わりに対応するように、歯車変速機構12の状態を、ドライブ状態(変速マップに従った変速制御を含む)、ニュートラル状態、及び待機状態に切り換えると共に、必要に応じて、ロックアップクラッチ15の作動制御も実行するように構成されている。
特にこうしたハイブリッド車両では、車両の走行中にエンジン11の始動及び停止が繰り返される。コントローラ2は、駆動しているエンジン11の停止条件が成立したときには、燃料供給を停止してエンジン11を停止させることを基本とした、所定の停止制御を実行する一方、停止しているエンジン11の始動条件が成立したときには、エンジン11の始動制御を実行する。ここで、車両の走行中のエンジン11の始動制御にはISG18を利用せずに、前述したように、エンジン11の燃焼によるエネルギで自動的にエンジン11を始動させる、いわゆる燃焼始動を行う。そして、その走行中の燃焼始動に際して、コントローラ2は、駆動輪14の側からエンジン11にアシストトルクを付与することによって、エンジン11の始動を、短時間にかつ、より確実に行い得るようにしている。
図2は、前記の制御装置CRが実行する、パワートレインPTの制御フローチャートであり、以下、このフローチャートと、図3に示すタイムチャートとを参照しながら、制御装置CRによるパワートレインPTの制御、特にエンジン11の始動制御について説明する。
まず、ステップS21では、車両が走行中であるか否かが判定される。これは、例えば車速センサの検出値に基づいて判断すればよい。走行中でないとき(NOのとき)には、フローはリターンをする。一方、走行中であるとき(YESのとき)には、ステップS22に移行する。
ステップS22では、停止しているエンジン11を始動する条件が成立したか否かが判定される。これには、例えば図3(a)に示すように、車両がモータ走行モードの最中に、アクセルの踏み込みによって、エンジン走行モード、又は、電動モータ17及びエンジン11を併用した併用走行モードに切り換わる場合が含まれる。尚、ここでいうモータ走行モードには、電動モータ17の駆動力によって車両を走行させる、いわゆる力行の状態の他、電動モータ17の回生状態、及び、電動モータ17が何ら仕事をしていない状態が含まれ得る。また、停止中のエンジン11の始動条件には、前記の走行モードの切り換わりに限らず、例えば車両の定常走行(定速走行)時においても、バッテリのSOCが所定値よりも低下した、バッテリの温度が所定温度よりも高くなった、電動モータ17の温度が所定温度よりも高くなった等の条件が含まれる。
停止中のエンジン11の始動条件が成立していないとき(NOのとき)には、ステップS23に移行をして、歯車変速機構12を、前述した待機状態にする。具体的には、車速及びアクセル開度に基づき、予め設定されてコントローラ2に記憶されている変速マップに従って、仮にエンジン11が始動した場合に、その始動後に要求される変速段(以下においては、この変速段を始動後要求変速段と呼ぶ場合がある)で待機状態にする。従って、歯車変速機構12は、その始動後要求変速段を達成する上で必要な、少なくとも2つの摩擦締結要素の内の1つを除く、残りの締結要素が締結される一方、当該1つの締結要素はプリチャージ状態にされる(図3(e)の「断続手段締結」の図を参照)。また、ロックアップクラッチ15もプリチャージ状態にされる(図3(f)の「L/Uクラッチ締結」の図を参照)。このとき歯車変速機構12(断続手段121)は、エンジン11と駆動輪14との間のトルク伝達を遮断することになるが、後述するように、エンジン11の始動に備えて待機していることになる。
一方、ステップS22において、エンジン11の始動条件が成立したとき(YESのとき)には、ステップS24に移行して、コントローラ2は、エンジン11の始動制御に必要となる各種信号の読み込みを行う。ここで読み込まれる信号には、例えば車速、タービン回転数及びクランク位置が、少なくとも含まれる。
続くステップS25では、プリチャージ状態であったロックアップクラッチ15を締結する(図3(f)参照)。ここでいう「ロックアップクラッチ15の締結」は、コントローラ2がロックアップクラッチ15の締結信号を出力することを意味しており、ロックアップクラッチ15が実際に締結するまでには一般的にタイムラグが生じることから、ロックアップクラッチ15が実際に締結するのは、これよりも後になり得る。尚、トルクショックを緩和する観点から、ロックアップクラッチ15は、所定のスリップ状態にしてもよい。
そして、ステップS26では、エンジン11の停止時膨張行程気筒に対し燃料噴射を実行する(図3(g)の「エンジン燃焼」の図参照)。これは、後述する点火時点において燃料が十分に気化していることを確保するためであり、燃料の気化時間を考慮して燃料噴射を早期に行うべく、ここでは、エンジン11の始動条件が成立すれば直ぐに、燃料の噴射を実行する。
ステップS27では、コントローラ2は、断続手段121の締結信号を出力する(図3(e)参照)。つまり、始動後要求変速段で待機状態とされている歯車変速機構12において、プリチャージ状態にある摩擦締結要素を締結させる信号を出力する。ここにおいても、当該摩擦締結要素が実際に締結するまでには一般的にタイムラグが生じることから、後述するように、摩擦締結要素が実際に締結するのは、これよりも後になり得る(例えば、図3(c)の「タービン回転数」の変化を参照)。但し、歯車変速機構12の摩擦締結要素は、ロックアップクラッチ15に比べて応答性が高く、しかもプリチャージ状態からの締結であるから、前記のタイムラグはかなり小さい。
続くステップS28では、電動モータ17のトルク増加を実行する(図3(h)参照)。このモータトルクの増加は、後述するように、エンジン11の始動の際に駆動輪14側からエンジン11側にトルクが奪われること(トルクの引き込み)に起因してトルクショックが発生し得ることから、電動モータ17のトルク増加によりそれを補うためである。こうすることで、エンジン11始動時のトルクショックが緩和乃至無くなり、ドライバの違和感が軽減する。モータトルクの増分は、後述するようにアシストトルクの付与後の、エンジン11の回転数の上昇率に応じて設定することが好ましい。一例としては、車速、始動後要求変速段(変速比)及びロックアップクラッチ15のスリップ量に応じて予想されるアシストトルクに基づいて、予め設定されてコントローラ2に記憶されているマップに従って設定してもよい。また、クランク角センサ33によって検出した、エンジン11の回転数の上昇率に応じて設定してもよい。
そうして、ステップS29では、前記の断続手段121が、所定のタイムラグの後に実際に締結をして駆動輪14側からエンジン11側へとトルク(アシストトルク)が付与されるタイミングに合わせて、エンジン11の停止時膨張行程気筒に対する点火を開始する(図3(i)参照)。これによって、アシストトルクがエンジン11に付与された状態で燃焼始動が行われることになり、エンジン11が安定してかつ短時間で始動する(図3(d)の「エンジン回転数」の増加を参照)。ここで、図3における「エンジン回転数」の図では、その上昇カーブにおける変曲点が、前記停止時膨張行程気筒が、点火後に下死点を超えるタイミングに相当しており、その変曲点以降は、エンジン11の始動が完了して吹き上がっている状態を示している。
エンジン11の始動完了後のステップS210では、前記のステップS28で行ったモータトルクの増加を終了させる。この終了タイミングは、前述した「エンジン回転数」の上昇カーブにおける変曲点のタイミングに対応している。つまり、エンジン11の始動後は、前記のトルクの引き込みが無くなるため、モータトルクの増加制御を終了する。
続くステップS211では、ロックアップクラッチ15を、予め設定した目標スリップ量となるように制御を実行する(図3(f)参照)。このスリップ制御は、図3(d)に示すように、エンジン11の始動直後のエンジン回転数の吹き上がりに伴うショックを緩和乃至回避するための制御である。このスリップ制御における目標スリップ量は、アクセルの踏み込み操作及び車速等に基づいて予めエンジンの回転数の吹き上がり挙動が予想されることから、吹き上がり挙動に応じて予め設定されてコントローラ2に記憶されているマップに従って、決定すればよい。
そうして、エンジン11の始動が完了した後には、例えば定速時であれば、図3(h)に実線で示すように、電動モータ17はそのモータ駆動トルクが次第に小さくなるように制御されて、最終的に電動モータ17は停止される(図3(b)の「車速」、(c)の「タービン回転数」、及び(d)の「エンジン回転数」の各図も参照)。一方、例えば加速時であれば、図3(h)に一点鎖線で示すように、電動モータ17はそのモータ駆動トルクが次第に大きくなるように制御されて、エンジン走行モード時の加速アシストを行うようになる(つまり、併用走行モード)。このように電動モータ17のトルク変化を滑らかにすることで、エンジン11の始動前後におけるトルク段差の発生が回避乃至抑制される。
ここで、図2のフローにおける、前記ステップS25〜S211までの各ステップは、シーケンス制御によって実行されることになるが、ここに示すフロー中の各ステップの順番は、説明の便宜上のものであり、その順番を適宜入れ替えたり、また、各ステップの実行を時間的に並列に行ったりするような変更等は、勿論可能である。
このように、車両の走行中に停止しているエンジン11の始動条件が成立したときには、停止時膨張行程にある気筒に対して燃料を供給し、点火及び燃焼を行うことでエンジン11を始動させる燃焼始動を実行し、ISG(スタータ)18を利用しないことで、スタータの頻繁な利用に起因して発生する様々な不都合、例えばスタータの大型化、スタータの寿命低下等の不都合を解消し得る。
そのエンジン11の燃焼始動に際しては、歯車変速機構12をドライブ状態にすることで、エンジン11に対し駆動輪14側からのアシストトルクを付与することにより、エンジン11の始動時間の短縮化及び始動の安定化を図ることが可能になる。
しかも、このアシストトルクの付与に際しては、ロックアップクラッチ15を作動させることにより、トルクコンバータ16の滑りの影響を低下乃至無くして、車両が低車速でも所望の大きさのアシストトルクをエンジン11に付与することが可能になり、エンジン11の燃焼始動が可能な運転領域が拡大する。
また、エンジン11に付与するアシストトルクは、エンジン11の点火及び燃焼の開始にタイミングを合わせて付与することが望ましいが、前記の構成では、比較的応答性の低いロックアップクラッチ15の締結を先に行い(ステップS25)、その後に歯車変速機構12をドライブ状態へと切り換える(ステップS27)。つまり、歯車変速機構12に含まれる摩擦締結要素は、ロックアップクラッチ15と比較して径が小さく、応答性が高い。このため、摩擦締結要素を締結させる方が、ロックアップクラッチ15を締結させる場合よりも、締結タイミングを設定しやすい。つまり、応答性が相対的に低いロックアップクラッチ15を先に締結しておき、応答性の良い歯車変速機構12の制御を後に行うことは、前述したように、エンジン11にアシストトルクを付与するタイミングと、エンジン11の点火及び燃焼の開始タイミングとを一致させる上で有利になる。アシストトルクを適切なタイミングでエンジン11に付与することは、エンジン11の始動時間の短縮及び確実化をより一層促進し得る。
ここで、ロックアップクラッチ15の作動制御(図2のフローのステップS25)としては、車両の走行状態、具体的には車速に応じてスリップ量を変更する制御を行ってもよい。すなわち、例えば低車速のときには、ロックアップクラッチ15が開放されていては、歯車変速機構12の始動後要求変速段によっては(具体的には比較的高速段のときは)、必要なアシストトルクが得られない。このため、前述したロックアップクラッチ15の作動(スリップ状態を含む)は、所望のアシストトルクを得る上で極めて有効である。一方で、高車速のときには、ロックアップクラッチ15が開放されていても、前記歯車変速機構12の始動後要求変速段の如何にかかわらず、必要なアシストトルクが得られ得る。そのような場合に、ロックアップクラッチ15を作動させることはショックの発生を招き、好ましくない。
そこで、図4(f)の「L/Uクラッチ締結」に示すように、車速に応じて、低車速ではロックアップクラッチ15のスリップ量を小さくして(ロックアップクラッチの締結を含む)、必要なアシストトルクを確保することを優先し(実線参照)、高車速ではロックアップクラッチ15のスリップ量を大きくして(ロックアップクラッチ15の開放を含む)、ショックの緩和を優先し(一点鎖線参照)、中車速では、それらを両立すべく、ロックアップクラッチ15のスリップ量を中程度に設定してもよい(破線参照)。
このことは、次のように言い換えることも可能である。つまり、例えば歯車変速機構12の変速段(始動後要求変速段)を変更することでアシストトルクを増大させることは可能であるものの、始動後要求変速段の変更は、エンジン11の始動後には、変速段のアンマッチとなることから、車両挙動の点では好ましくない。そこで、始動後要求変速段の変更を行わずに、ロックアップクラッチ15のスリップ量を適宜設定することによって、アシストトルクの増大を図ることは、エンジン11の始動後の車両の挙動をスムースにし得る点でも有効である。
また、例えば極低車速時には、ロックアップクラッチ15を締結したとしても、歯車変速機構12の始動後要求変速段によっては、必要なアシストトルクが得られないことも起こり得る。そのような場合には、歯車変速機構12の始動後要求変速段を、実際の変速段よりもシフトダウンさせることで、エンジン11の始動時に必要なアシストトルクを確保するようにしてもよい。その場合に、エンジン11の始動後の車両挙動をスムースにする上では、実際の変速段から大幅にシフトダウンすることは好ましくなく、シフトダウンは、1段程度に留めておくことが好ましい。
尚、ハイブリッド車両の構成は、種々の構成を採用し得る。例えば電動モータ17は、前記のように1つの電動モータからの駆動力を差動装置13を介して、左右の駆動輪14に分配するのではなく、左右の駆動輪14それぞれに独立して駆動力を付与し得るように、少なくとも2つの電動モータを備えてもよい。その場合において、インホイールモータを採用してもよい。
また、電動モータ17の駆動力は、前輪に付与することに限定されず、後輪に付与してもよい。同様に、エンジン11の駆動力も、前輪に付与することに限定されず、後輪に付与してもよい。ここにおいて、電動モータ17の駆動力を付与する車輪と、エンジン11の駆動力を付与する車輪とは、図1に示すように同じであってもよいし、異なっていても良い(例えばエンジン11の駆動力を前、電動モータ17の駆動力を後、又は、その逆)。例えば電動モータ17の駆動力を後輪に付与する場合においては、電動モータ17を後輪の駆動軸に連結する構成に限らず、ドライブシャフトの途中に電動モータ17を連結してもよい。
さらに、エンジン11のスタータとしては、ISGに限らず、クランク軸に直結されたCISGとしてもよい。
また、前記のパワートレインPTにおいて、歯車式の多段変速機構に代えて、例えばベルト式等の無段変速機構を採用してもよい。また、流体伝動機構は、トルクコンバータの代わりに、フルードカップリングを採用してもよい。
加えて、前述した各構成の特徴を、可能な範囲で適宜組み合わせることによって、ハイブリッド車両を構成してもよい。
また、エンジンの燃焼始動に関し、先ず停止時圧縮行程にある気筒に対して燃料を供給し、点火及び燃焼を行ってエンジン11を一旦、逆転方向に作動させた後に、逆転作動に伴い圧縮される膨張行程気筒に対する点火及び燃焼を行うことでエンジン11に正転方向のトルクを与えて、エンジン11を始動させるようにしてもよい。このような逆転燃焼始動は、エンジン11の始動性をより高め得る。尚、この場合は、歯車変速機構12の制御によってエンジン11に駆動輪14側からトルクを付与するタイミングと、膨張行程気筒に対する点火及び燃焼の開始タイミングとを合わせることが望ましい。