上記目的を達成するため本発明の光学フィルターは、樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルムであって、波長850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率が60%以上であり、かつ酸化タングステン化合物を0.01g/m2以上10g/m2以下含んでなければならない。このような場合、樹脂からなる多層膜によって、近赤外線を広帯域にわたって連続的に反射するものであるため、ロール状で保管したり、折り曲げたりしてもクラックが入りにくいために、反射特性が低下することがないほか、湿度等により経時変化することもなく、かつ広い角度範囲で近赤外線の透過がなくなるものである。また、セシウム酸化タングステン粒子が800nm以上の近赤外線〜赤外線の光を吸収するため、さらに赤外線のカット率が向上するとともに、可視光線をわずかに吸収するのみであるため、色づきも少なく可視光線透過率も高いものとなる。また、可視光線のわずかな吸収により、多層膜の2次の反射による干渉色が見えにくくなるものである。
本発明の積層フィルムでは、樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルムを含んでいなければならないが、より好ましくはA層とB層が交互に積層され、積層数が200以上である積層フィルムを含んでなると良い。さらに好ましくは、A層とB層が交互に積層され、積層数が700以上である積層フィルムを含んでなると良い。上限値については特に制約するものではないが、積層装置の大型化、フィルム厚みの厚膜化、コストアップの問題から、3000層以下であることが好ましい。
ここで、樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を交互に積層するとは、A層とB層を厚み方向に規則的に積層した構造を有している部分が存在することと定義される。すなわち、本発明のフィルム中のA層とB層の厚み方向における配置の序列がランダムな状態ではないことが好ましく、A層とB層以外の第3の層以上についてはその配置の序列については特に限定されるものではない。また、A層、B層、樹脂CのからなるC層を有する場合には、A(BCA)n、A(BCBA)n、A(BABCBA)nなどの規則的順列で積層されることがより好ましい。ここでnは繰り返しの単位数であり、例えばA(BCA)nにおいてn=3の場合、厚み方向にABCABCABCAの順列で積層されているものを表す。
本発明においてA層およびB層に使用される樹脂としては、積層フィルムへの製造の容易さから熱可塑性樹脂が好ましく使用される。
本発明における樹脂としては、たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを用いることができる。この中で、強度・耐熱性・透明性の観点から、特にポリエステルであることがより好ましい。またこれらの樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各層において各樹脂以外に、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
本発明における樹脂としては、たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを用いることができる。この中で、強度・耐熱性・透明性の観点から、特にポリエステルであることがより好ましい。またこれらの樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
本発明の積層フィルムを構成する樹脂としては、ポリエステルであることがより好ましい。本発明で言うポリエステルとしては、ジカルボン酸成分骨格とジオール成分骨格との重縮合体であるホモポリエステルや共重合ポリエステルのことをいう。ここで、ホモポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンジフェニルレートなどが代表的なものである。特にポリエチレンテレフタレートは、安価であるため、非常に多岐にわたる用途に用いることができ好ましい。
また、本発明における共重合ポリエステルとは、ジカルボン酸成分骨格とジオール成分骨格を必須成分とし、次にあげるジカルボン酸成分骨格とジオール成分骨格とより選ばれる少なくとも3つ以上の成分を有する重縮合体のことと定義される。ジカルボン酸骨格成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。グリコール骨格成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。ポリエステルは、本発明の効果を損なわない限り、他の成分由来の骨格を含むことができる。
本発明では、樹脂Aがポリエチレンテレフタレートであり、樹脂Bがポリエチレンテレフタレートにシクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステルであることが好ましい。より好ましくは、シクロヘキサンジメタノールの共重合量がジオール成分において15mol%以上60mol%以下であるエチレンテレフタレート重縮合体である。このようにすることにより、高い反射性能を有しながら、特に加熱による反射特性の変化が小さくなるためである。
特に、本発明では、A層がポリエチレンテレフタレートを主成分とする層であり、B層がシクロヘキサンジカルボン酸およびスピログリコールを共重合したポリエステルであることが好ましい。この場合、さらに近赤外線のカット効率が向上するものである。また、層間密着性に優れるとともに、強度・耐熱性・耐薬品性等にも優れたものとなる。
本発明に用いられる積層フィルムでは、B層に比較してA層の屈折率が高い方が好ましく、具体的にはA層の面内平均屈折率とB層の面内平均屈折率の差が、0.03以上であることが好ましい。より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上である。屈折率差が0.03より小さい場合には、十分な反射率が得られず、好ましくないものである。また、A層の面内平均屈折率と厚み方向の屈折率の差が0.05以下であると、反射帯域の角度依存性が小さくなり、より好ましい。
本発明の積層フィルムは、樹脂Aおよび/または樹脂Bからなる層の厚みが、一方の表面から反対側の表面に向かうにつれ、増加または減少する層構成を有することが好ましい。樹脂Aおよび/または樹脂Bからなる層の厚みが、一方の表面から反対側の表面に向かうにつれ、増加または減少する層構成を有すると、近赤外線反射帯域が広帯域化するため、近赤外線の入射角度による漏洩を抑制することが可能となる。また、樹脂Aおよび樹脂Bからなる層の厚みが、一方の表面から反対側の表面に向かうにつれ、増加または減少する層構成を有するとより好ましい。ここで、ほぼ一次関数的に層厚みが増加または減少するとさらに好ましい。このようにすると、反射帯域内でのリップルが抑制され、近赤外線の漏洩量がさらに少なくなるものである。
本発明の積層フィルムでは、850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率が60%以上でなければならないが、より好ましくは850〜1000nmの帯域内の平均反射率が80%以上であり、かつ1300nmにおける反射率が30%以下である。このより好ましい態様では、近赤外線の透過が大幅に抑制されるとともに、3次の反射による可視光での着色がないものとなる。 また、波長810nmの反射率が15%以下であることが好ましい。波長810nmの反射率が15%以下であると、視野角による色変化が極めて少ないものとなる。
本発明の積層フィルムは、酸化タングステン化合物を0.01g/m2以上10g/m2以下含んでなければならない。ここで酸化タングステン化合物とは、例えば、カリウム酸化タングステン、ルビジウム酸化タングステン、セシウム酸化タングステン、タリウム酸化タングステンのいずれか1種以上から選ばれるものであることが好ましい。特に、セシウム酸化タングステンであると、赤外線のカット率が高く、可視光線の吸収が少ないために、より好ましい。また、本発明の積層フィルム中の酸化タングステン化合物の含有量は、0.1g/m2以上5g/m2以下であることが好ましい。より好ましい態様の場合、さらに可視光線の吸収が適度なものとなり、色づきがほとんどなくなるものである。なお、酸化タングステン化合物の量は、特定サイズのフィルム中の酸化タングステン化合物の量を求めた後、1m2あたりに換算して求めた。
本発明の酸化タングステン化合物は、平均粒径5nm以上300nm以下の粒子であることが好ましい。5nm未満の場合や、300nmより大きい場合は、赤外線の吸収率が低下するため好ましくない。300nmより大きい場合には、粒子による散乱のためヘイズが高くなるため、好ましくない。より好ましくは、10nm以上100nm以下である。この場合、赤外線の吸収率も極めて高く、ヘイズもより低いものとなる。
酸化タングステン化合物は、A層または/およびB層中に含まれていてもよいし、A層およびB層以外の層に含まれていてもよい。より好ましくは、A層およびB層以外の別の層(C層)に含まれていると良く、かつC層がA層とB層からなる積層フィルムの最外層に位置している。この場合、A層とB層からなる積層フィルムによって、近赤外線を効率的に反射するため熱吸収がほとんどなく、かつC層によって反射しきれなかった赤外線を吸収するとともに可視光線を適度に吸収するため、熱カット率が高く、外観にも優れた熱線カットフィルムやプラズマディスプレイ用フィルムとなる。
また、酸化タングステン化合物は、融点が240℃以下の樹脂または非晶性樹脂を主成分とするB層に含まれていることも好ましい。この場合、延伸によって、樹脂と酸化タングステン化合物の間に生じたボイドを、延伸後の熱処理によって消失することが可能となり、ヘイズの低い積層フィルムが得られる。
本発明の積層フィルムでは、1000〜1200nmにおける平均吸収率が50%以上であることが好ましい。本発明の光学フィルターでは近赤外線を反射することを特徴とするものであるが、プラズマディスプレイの用途において問題となるリモコン誤動作を防ぐため、一般のリモコンの赤外線通信波長である850〜1000nmだけでなく、特殊な赤外線通信に用いられる1100nm付近の波長をカットすることも要求されることがある。本発明の光学フィルターでは、反射により1200nm付近までカットすることは可能であるが、広い角度範囲内で赤外線をカットすることが求められるため、高波長側については赤外線が透過してしまう問題がある。これを解決するためには、近赤外線反射帯域をより高波長側に拡大すると、高次の反射による可視光での着色が起きるため好ましくないため、少なくとも1000〜1200nmにおける平均吸収率が50%以上であることが好ましいものである。これにより、可視部での吸収は最小限に抑制されながら、広い角度範囲内で赤外線をカットすることが可能となるものである。
本発明の積層フィルムでは、紫外線吸収剤を含んでなることも好ましい。ここで紫外線吸収剤としては、例えばサリチル酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、およびベンゾオキサジノン系化合物、環状イミノエステル系化合物などを好ましく例示することができるが、380nmと390nmでの紫外線遮蔽性、色調などの点及び本発明の好ましい樹脂であるポリエステルへの分散性向上の効果発現度合いの点からベンゾオキサジノン系化合物が最も好ましい。これらの化合物は1種単独であるいは2種以上一緒に併用することができる。またHALSや酸化防止剤等の安定剤を併用することもでき、特にリン系の酸化防止剤を併用することが好ましい。
ここでベンゾトリアゾール系の化合物としては、例えば2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−アミルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−ブチルフェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等を例示することができる。
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸等をあげることができる。
ベンゾオキサジノン系化合物としては、例えば2−p−ニトロフェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(p−ベンゾイルフェニル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(2−ナフチル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2′−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2′−(2,6−ナフチレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)等を例示することができる。
これらの紫外線吸収剤は、積層フィルムを構成する樹脂中に分散してもよいし、積層フィルムの表面に、コーティング層を形成し、その層中に分散していても良い。本発明では、低コスト化の観点から、積層フィルムを構成する樹脂中に分散していることが好ましいが、より好ましくは、積層フィルムを構成する樹脂B中に分散していると良い。
本発明の積層フィルムでは、積層フィルムの少なくとも片面に3μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする層を有することが好ましい。より好ましくは、5μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする層を有する。また、両面に3μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする層を有するとさらに好ましい。3μm以上のポリエチレンテレフタレートからなる層がない場合には、表面に傷が入った場合などに、反射率分布に異常が生じるため好ましくない。また、積層フィルムの表面に易接着層、ハードコート層、耐摩耗性層、反射防止層、色補正層、電磁波シールド層、紫外線吸収層、印刷層、金属層、透明導電層、ガスバリア層、粘着層などの機能性層を形成した場合に、機能性層の屈折率と積層フィルムの層構成によっては、設計外の干渉をおこすため、設計した反射帯域以外の帯域に、反射が起きたり、干渉むらとなったりするため好ましくなくなるものである。
さらに好ましくは、積層フィルムの少なくとも一方の最表面に、厚み30nm以上、300nm以下の易接着層と厚み3μm以上のポリエチレンテレフタレート層を有する。本発明の光学フィルターは、積層フィルムの表面に種々の機能性層と形成して用いることもできるため、積層フィルムがこれら機能性層と容易に接着することが求められる。このため、種々の材料に対し易接着性を発現する層を形成することが望まれるが、本発明のもっとも単純な積層フィルムの構成の表面に易接着層を設けると、干渉むらが発生するため好ましくない。そこで本発明では、干渉むらを極力抑制するため、積層フィルムの少なくとも片面に3μm以上のポリエチレンテレフタレートからなる層を形成し、さらにその表面に30nm以上、300nm以下の易接着層を形成することが好ましい。また、易接着層の屈折率が1.55以上1.70以下であるとさらに好ましい。易接着層の厚みが30nm以上300nm以下および/または、易接着層の屈折率が1.55以上1.70以下であると、干渉縞が起きにくく、また内部ヘイズ法による全光線透過率が98%以上であり、かつヘイズが0.4%以下である積層フィルムを得ることが容易になるほか、480〜630nmにおける透過率曲線において、30nm内の透過率の最大値と最小値の差が10%以下である積層フィルムを得ることも容易となる。
本発明における易接着層とは、光学フィルターを構成する積層フィルムと各種加工工程で使用される塗布剤、蒸着物質等との接着性を向上させるためや、フィルムの易滑性を向上させるために設けるものである。
この易接着層を構成する成分としては、ベースとなる積層フィルムに対し接着性を有するものであれば特に限定されないが、たとえばポリエステル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂などを好適に用いることができる。また、異なる2種以上の樹脂、例えば、ポリエステルとウレタン樹脂、ポリエステルとアクリル樹脂、あるいはウレタン樹脂とアクリル樹脂等を組み合わせて用いてもよい。好ましくはポリエステル、アクリル樹脂、ウレタン樹脂であり、特に好ましくはポリエステルである。
本発明にかかる易接着層においては、上記した樹脂に各種の架橋剤を併用することにより、耐熱接着性を向上させると同時に、耐湿接着性を飛躍的に向上させることができる。該積層膜に用いる樹脂として、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂に架橋性官能基が共重合されている場合、架橋剤を併用することがとくに好ましい。積層膜を構成する樹脂と架橋剤は任意の比率で混合して用いることができるが、架橋剤は、樹脂100重量部に対し0.2〜20重量部添加が常態下での接着性向上の点で好ましく、より好ましくは0.5〜15重量部添加、とくに好ましくは1〜10重量部添加である。架橋剤の添加量が、0.2重量部未満の場合、その添加効果が小さく、また、20重量部を越える場合は、接着性が低下する傾向がある。
また、本発明における易接着層には本発明の効果が損なわれない範囲内で、各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などが配合されていてもよい。
本発明における易接着層に無機粒子を添加することは、易滑性や耐ブロッキング性が向上する点で、とくに好ましい。この場合、添加する無機粒子としては、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウムなどを用いることができる。用いられる無機粒子は、平均粒径0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.01〜3μm、とくに好ましくは0.02〜2μmである。易接着層中の樹脂100重量部に対する無機粒子の混合比は特に限定されないが、固形分重量比で0.05〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。このようにすることにより、内部ヘイズ値0.6%以下となる積層フィルムを得ることが容易となる。
また、本発明の積層フィルムでは、易接着層、易滑層、ハードコート層、帯電防止層、耐摩耗性層、反射防止層、色補正層、電磁波シールド層、紫外線吸収層、印刷層、金属層、透明導電層、ガスバリア層、ホログラム層、剥離層、粘着層、接着層などの各種機能性層のいずれかを有することが好ましい。特に、プラズマディスプレイ用の光学フィルターとして用いる場合には、易滑・易接着層、ハードコート層、帯電防止層、反射防止層、色補正層、電磁波シールド層、紫外線吸収層、赤外線吸収層を有することが好ましい。プラズマディスプレイでは、表示素子の前面に、半強化ガラスを設置し、これに光学フィルターを貼り合わせることが主流であるが、本発明の光学フィルターではこのような方法のみならず、表示素子に貼り合わせて使用してもよい。
本発明の光学フィルターは、視感反射率が4%以下、視感透過率が60%以上であることが好ましい。視感反射率が4%以下、視感透過率が60%以上であると、光学フィルターとして装着した際、外光の写り込みが問題とならなくなるとともに、コントラスト向上、輝度向上、消費電力低減などの効果がさらに大きくなるものである。
本発明の積層フィルムは、熱線カットフィルムとしても好適である。熱線カットフィルムとは窓ガラスや自動車用ガラスなどに貼り合わせ、近赤外線や赤外線をカットし、屋外からの熱の流入を抑制したり、室内からの熱漏れを抑制する機能を有するフィルムである。本発明の熱線カットフィルムでは、ガラスに対し屋内側に配置しても良いし、屋外側に配置しても良いが、より好ましくは屋内側に配置するのが良い。屋内側に配置する場合、ガラス/接着層/樹脂Aからなる層(A層)と樹脂Bからなる層(B層)を少なくとも有する積層数が30以上の積層フィルム/ハードコートとする構成がさらに好ましい。この際、接着層に紫外線吸収剤が含まれていると良い。また、ハードコート層に酸化タングステン化合物が含まれていても良いし、ハードコート層の下部に酸化タングステン化合物が含まれていても良い。
次に、本発明の積層フィルムの好ましい製造方法を以下に説明する。
2種類の熱可塑性樹脂AおよびBをペレットなどの形態で用意する。ここで、樹脂Aまたは/および樹脂Bに酸化タングステン化合物を含有せしめたものを用いても良い。ペレットは、必要に応じて、事前乾燥を熱風中あるいは真空下で行い、押出機に供給される。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルター等を介して異物や変性した樹脂などを取り除く。
これらの2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された熱可塑性樹脂は、次に積層装置に送り込まれる。積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィールドブロックやスタティックミキサー等を用いて多層に積層する方法を使用することができる。また、これらを任意に組み合わせても良い。これにより積層数が30以上の積層フィルムを得ることが可能である。ここで本発明の特徴のひとつである850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率が60%以上であることを達成するためには、各層ごとの層厚みを個別に制御できるフィードブロックと流路形状がほぼ四角のスタティックミキサーを併用する積層装置を用いることが好ましい。ここで、各層の厚みを精度良く制御するためには、加工精度0.1mm以下の放電加工、ワイヤー放電加工にて、各層の流量を調整する微細スリットを設けたフィードブロックが好ましい。また、この際、樹脂温度の不均一性を低減するため、熱媒循環方式による加熱であることも好ましい。また、フィードブロック内の壁面抵抗を抑制するため、壁面の粗さを0.4S以下にするか、室温下における水との接触角が30°以上であることも好ましい。また、このようなフィードブロックに併用するスタティックミキサーとしては、下記式gを満たすことが好ましい。
0.02≦Q/(L×A1/2)≦0.08 式g
Q:時間あたりのスタティックミキサーを通過する総吐出量(Kg/h)
L:スタティックミキサー1段分の長さ(mm)
A:スタティックミキサーの流路断面積(mm2) 。
従来の方法のフィードブロックだけを用い、850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率を60%以上を達成しようとすると、必要となる層数の関係から、流量を調整するスリット部で圧損が均一性が不足し流量むらが発生し積層精度が低下したり、装置が大型化すぎるために滞留部が生じ、熱劣化による異物が生じるようになったり、装置の精度や装置内の流速分布のために積層精度が不十分となり、反射性能が低いなどの問題が発生する場合がある。このような点から実際には300層以上のフィードブロックは現実的ではなかった。そのため、さらに層数が必要な場合はスタティックミキサーを用いることが必要とされていたが、スタティックミキサーではその内部で流速の方向が幾度か変化するために、これによりスクエアーミキサー内で流速分布が発生し、積層精度が充分ではなく、近赤外線帯域の平均反射率が60%以上を達成できなかったり、可視部に反射帯域が発生し、わずかに着色して見えたりする問題があった。そこで本発明では、上記式を満たすことにより流速分布を解消することができ、スタティックミキサーをもちいても高い積層精度を達成することができるようになり、850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率を60%以上でかつ、着色の原因となる領域に反射帯域が生じないように制御できるようになったものである。
さらに、角度がつくことにより反射帯域が低波長側へシフトすることを考慮すると、850〜1200nmの近赤外線帯域の平均反射率が60%以上であることが好ましい。このようにすると、光学フィルターの面に垂直な軸に対し50°の角度から入射した光線に対して、700nmにおける透過率が60%以上であり、950nmにおける透過率が40%以下を達成することが容易になるからである。また、PDPの発光効率を向上させるためにキセノンの分圧を向上することが検討されているが、この場合、近赤外線の発生量が多くなるため、その透過量を従来以上に抑制することが必要になることを考慮すると、850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率が80%以上であることが好ましい。
これらの反射特性を満足するためには、積層数が700以上であることが好ましいが、上記の方法では、フィードブロックの精度とスタティックミキサーの形状を最適化しても、積層精度が不足するために、積層数を700以上にすることは困難であった。そこで、鋭意検討の結果、このような積層数が700以上必要な場合にも対応する積層装置として、加工精度0.01mm以下で製作した10以上400以下の微細スリットを有する部材を少なくとも別個に2個以上含むフィードブロックを使用することが好ましい。
ここで、図1(a)は、フィードブロックの一部を構成する装置であって、別個に供給される樹脂Aおよび樹脂Bを積層する積層装置10の正面図であり、また図1(b)は積層装置10を構成する部品、すなわち側板1、樹脂A供給部2,スリット部3,樹脂B供給部4、スリット部5,樹脂A供給部6、スリット部7、樹脂B供給部8および側板9それぞれの側面図である。
図1の積層装置10は、樹脂A供給部2,樹脂B供給部4、樹脂A供給部6および樹脂B供給部8に由来して4つの導入口11を有する。
ここで、スリット部に存在する複数のスリットに導入される樹脂の種類は、樹脂A供給部2および6ならびに樹脂B供給部4および8のそれぞれの液溜部12の底面と各スリット部材における各スリットの端部との位置関係により決定される。以下その機構を説明する。
例としてスリット部3に注目する。図2(a)はスリット部3を拡大したものである。スリット3aの形状を示すp−p’断面が同図の(b)であり、スリット3bの形状を示すq−q’断面が同図の(c)である。(b)および(c)に示すように各スリットの稜線13はスリット部材の厚み方向に対して傾斜を有する。
図3では、積層装置10の断面のうち、樹脂A供給部2,スリット部3,樹脂B供給部4、スリット部5,樹脂A供給部6の部分を示してある。そして、樹脂A供給部2,樹脂B供給部4、樹脂A供給部6それぞれにおける液溜部の底面12aの高さは、スリット部に存在する稜線13の上端部14と下端部15との間の高さに位置する。このことにより、前記稜線13が高い側からは液溜部12から樹脂が導入されるが(図3中、矢印16)、前記稜線13が低い側からはスリットが封鎖された状態となり樹脂は導入されない。
図示していないが、図3で注目したスリットに隣接したスリットでは、スリットの稜線が図3とは逆の角度に配置されており、樹脂B供給部4からはスリット部3へ、樹脂A供給部6からはスリット部5へ導入される。
かくして各スリットごとに樹脂AまたはBが選択的に導入されるので、積層構造を有する樹脂の流れがスリット部3,5中に形成され、当該部材3,5の下方の流出口17より流出する。なお図3では、図1に示したスリット部7および樹脂B供給部8を図示していないが、樹脂A供給部6、スリット部7,樹脂B供給部8による樹脂の流れは、上述の樹脂A供給部2、スリット部3,樹脂B供給部4の流れと同様となる。
また、図2(b)に示す(樹脂非供給側のスリットの面積(例えば図2(b)のスリット高さS1がとるところのスリットの面積))/(樹脂供給側のスリットの面積(例えば図2(B)のスリット高さS2がとるところのスリット面積))が50%以上95%以下であることが好ましい。この範囲であると、樹脂のもれにより樹脂Aと樹脂Bの混合などがより生じにくくなる。より好ましくは、フィードブロック内の圧力損失が1MPa以上であり、さらに好ましくは樹脂供給側のスリットs2の長さが100mm以上である。また、フィードブロック内部に各スリットに対応したマニホールドを有していることも好ましい。これらにより、スリット内部での流速分布が均一化するため、積層されたフィルムの幅方向の積層比率も均一化されるものであり、大面積のフィルムでも反射率の分布が小さく、均一な反射特性が得られるものである。図1に示すような積層装置を用いることにより、装置が極端に大型化することないため、熱劣化による異物が少なく、かつ本発明の特別なスクエアーミキサーを用いるよりも、積層数が非常に多い場合でもさらに高精度に積層ができるようになるために好ましいものである。
以上説明したとおり、図1の、各部品が連結されたフィードブロックに対し、樹脂Aは樹脂A供給部2および樹脂A供給部6の導入口11から供給され、また、樹脂Bは樹脂B供給部4および樹脂B供給部8の導入口11から供給され、スリット部3、5、7の積層装置の流出口17それぞれにおいて、樹脂Aと樹脂Bとが交互に多層状となった形態となり、スリット部の下方に押し出される。
図4(a)は図1のフィードブロックの別個のスリット部3、5、7それぞれの流出口17から下方に吐出された多層の複合流の3つをさらに合流せしめる合流装置18の平面図である。また図4(b)(c)(d)および(e)は、それぞれL−L’、 M−M’、 N−N’、 O−O’の断面図であり溶融樹脂の流路のみを記載したものである。
スリット部3,5,7それぞれから供給された溶融樹脂は、L−L’の面では(b)に示すようにスリット部3からの流路19L、スリット部5からの流路20L、スリット部7からの流路21Lの流れをとる。そして、そして相互の流れの位置関係は移動し、当該流路にある各溶融樹脂はM−M’面に到るところでは、スリット部3からの流路19M、スリット部5からの流路20M、スリット部7からの流路21Mの流れをとる。さらに当該流路にある各溶融樹脂はN−N’面にいたるところでは、スリット部3からの流路19N、スリット部5からの流路20N、スリット部7からの流路21Nの流れをとる。そしてO−O’ではひとつの流路となり、当該流路では、溶融した樹脂Aと樹脂Bとが交互に積層した溶融積層体として流れていく。
また、ここで本発明の特徴である850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率が60%以上であるためには、層内いずれかの領域においてA層とB層が交互に積層されている部分を含む事が重要である。また、隣接するA層およびB層の厚みについては、下記式1に基づいて決定されるλが850〜1000nmとなるような厚み範囲内であることが好ましい。ここで、各々の面内平均屈折率および層厚みについては範囲40%以下の分布が生じていても許容できるものである。従って、本発明においては、広帯域の近赤外線を反射するために、上記範囲内でA層の厚みおよび/またはB層の厚みがフィルムの表面側から反対表面側に向かうにつれ、徐々に厚くなる部分を含んでなることが好ましく、さらに好ましくはほぼフィルム断面全体にわたって、A層の厚みおよび/またはB層の厚みがフィルム表面側から反対表面側に向かうにつれ、徐々に厚くなるものである。
2×(na・da+nb・db)=λ 式1
na:A層の面内平均屈折率
nb:B層の面内平均屈折率
da:A層の層厚み(nm)
db:B層の層厚み(nm)
λ:主反射波長(1次反射波長)
※なお、この式は隣接するA層とB層に関するものであるが、本発明では主反射波長λが広い帯域を有することが特徴であるため、層厚みdaとdbはある範囲を有することが好ましい。ここで、ある範囲とは、例えば、λ1〜λ2の帯域を高反射率とする設計の場合、樹脂Aと樹脂Bの吐出比をA/B=xとすると、下記式によって求められるda(1)〜da(2)、db(1)〜db(2)の範囲の厚み変化を含むことを言う。ここでは、樹脂Aと樹脂Bの比重は同一と仮定しているが、実際には同一でないことが多く、その点を考慮した設計をすべきである。
da(1)=λ1/(2×(na+na×(1/x)) db(1)=da(1)・x
da(2)=λ2/(2×(na+na×(1/x)) db(2)=db(2)・x
また、本発明の光学フィルターでは、可視部に高次の反射を有さないことが好ましいため、隣接するA層およびB層について下記式2を満たすことが好ましい。各々の面内平均屈折率および層厚みについては範囲40%以下の分布が生じていても許容できるものである。
na・da=nb・db 式2
本発明の特徴である850〜1000nmの近赤外線帯域の平均反射率が60%以上である積層フィルムを効率よく得るためには、隣接するA層およびB層について、式2を満たしつつ、積層フィルムの片面から反対面にむかうにつれ、A層およびB層の厚みが式hのλが850nmをほぼ満たす厚みから、λが1000nmをほぼ満たす厚みへ、かならずしも連続的である必要はないが徐々に厚くなる部分を含んでなることが好ましい。こうすることにより、ヘイズ法にて求められる全光線透過率が97%以上であり、かつヘイズが0.6%以下である積層フィルムを得ることが容易となる。
このように層厚みを変化する方法としては、フィードブロックのスリット間隙もしくはスリット長を層厚みに対応するように変化させる方法が有効である。また、スタティックミキサーを用いる場合には、従来のように、ほぼ2つ以上の流路が合流した後、2つ以上に流路を再分配する際に等分配とはせず、層厚みの変化に応じて分配することが好ましい。
また、本発明では、ある断面内での隣接するA層とB層の厚み比の分布範囲が、5%以上40%以下になるように、積層装置において各層の厚みを調整することが好ましい。より好ましくは、10%以上30%以下である。厚み比の分布が5%より小さいと、層の繰り返し周期性が高すぎるために、高次の反射が非常に発生しやすくなるため好ましくない。また、40%より大きくなると、積層精度が低すぎるために所望する反射帯域の反射率が低くなるばかりか、予想外の波長帯域に反射帯域が出現するため好ましくない。
さて、上述の積層装置を用いて形成される溶融積層体は、さらに別のフィードブロックかマルチマニホールドダイを用いて、少なくとも片面に、高屈折率側の樹脂の層を形成することが好ましい。より好ましくは、両面に高屈折率側の樹脂の層を形成する。こうすることにより、積層フィルムの最表面に3μm以上の樹脂を形成することが容易となり、干渉縞低減などの効果が得られるものである。すなわち、内部ヘイズ法による全光線透過率が98%以上であり、かつヘイズが0.4%以下である積層フィルムを得ることが容易になるほか、480〜630nmにおける透過率曲線において、30nm内の透過率の最大値と最小値の差が10%以下である積層フィルムを得ることも容易となる。ここで別個のフィードブロックやマルチマニホールドダイを用いずに積層フィルムの最表面に3μm以上の樹脂Aを形成しようとすると、流量が極端に異なる流れが合流する部分を生じるため、積層乱れが問題であったが、これを解決できたものである。このようにして得られた溶融積層体は、次にダイにて目的の形状に成形された後、吐出される。ここで、シート状に成型するダイとしては、ダイ内での幅方向の積層体の拡幅率が1倍以上100倍以下であることが好ましい。より好ましくは、1倍以上50倍以下である。ダイ内での積層体の拡幅率が100倍より大きいと、積層体表層部の積層厚みの乱れが大きくなるため好ましくない。ダイ内での積層体の拡幅率が1倍以上100倍以下であることにより、積層フィルムの幅方向における反射率の差を±10%以内にすることが容易となる。
そして、ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、キャスティングフィルムが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法や、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させる方法を用いることが好ましい。
このようにして得られたキャスティングフィルムは、二軸延伸する。二軸延伸とは、長手方向および幅方向に延伸することをいう。延伸は、逐次二軸延伸しても良いし、同時に二方向に延伸してもよい。また、さらに長手および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。特に本発明では、面内の配向差を抑制できる点や、表面傷を抑制する観点から、同時二軸延伸を用いることが好ましい。
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、フィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸を言い、通常は、ロールの周速差により施され、この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階に行っても良い。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2〜15倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2〜7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+100℃が好ましい。
このようにして得られた一軸延伸されたフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。インラインコーティングの方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
また、幅方向の延伸とは、フィルムに幅方向の配向を与えるための延伸を言い、通常は、テンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、幅方向に延伸する。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2〜15倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2〜7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+120℃が好ましい。
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に弛緩処理などを併用してもよい。
同時二軸延伸の場合について次に説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
次に、キャストフィルムを、同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6〜50倍が好ましく、積層フィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、面積倍率として8〜30倍が特に好ましく用いられる。特に同時二軸延伸の場合には、面内の配向差を抑制するために、長手方向と幅方向の延伸倍率を同一とするとともに、延伸速度もほぼ等しくなるようにすることが好ましい。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+120℃が好ましい。
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行っても良い。熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理すると、フィルム幅方向の反射率の差を±10%以下にできるため好ましい。
本発明の積層フィルムにおける好ましい態様である幅20μm以上の傷の数を20個/m2以下とするためには、フィルムが接触する加熱ロールをエキシマUVランプで照射し、オリゴマー汚れを低減するとともに、積層フィルムの少なくとも片面に3μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする層を形成することが好ましい。これは、樹脂Bに含まれるオリゴマーの析出を防止し、ロール汚れによる傷の発生を低減する効果と、干渉反射層まで傷が入り込まないようにする効果がある。また、本発明のより好ましい態様である15個/m2以下とするには、縦延伸ロールの表面粗さを0.2S以上0.8S以下にすることが好ましい。また、本発明のさらに好ましい態様である10個/m2以下とするためには、積層フィルムの少なくとも片面に3μm以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とする層を形成するとともに、最外層に平均粒径20nm以上5μm以下の粒子を含有させ、同時二軸延伸することが好ましい。
また、得られた積層フィルムの少なくとも片面に、酸化タングステン化合物を含有する層をコーティングにより形成することも好ましい。この際、酸化タングステン化合物は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂のいずれか1種以上から選ばれる樹脂中に分散していることが好ましい。より好ましくはアクリル系樹脂であり、分散性がよく低ヘイズのものを得ることができる。また、これら樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂、EB硬化性樹脂などいずれであってもよい。
本発明に使用した物性値の評価法を記載する。
(物性値の評価法)
(1)積層数、積層比、積層厚み
フィルムの層構成は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡HU−12型((株)日立製作所製)を用い、フィルムの断面を3000〜40000倍に拡大観察し、断面写真を撮影、層構成および各層厚みを測定した。本発明の実施例では十分なコントラストが得られたため実施しなかったが、用いる樹脂の組み合わせによっては公知の染色技術を用いてコントラストを高めても良い。
(2)反射率、平均反射率
日立製作所製 分光光度計(U−3410 Spectrophotomater)にφ60積分球130−0632((株)日立製作所)および10°傾斜スペーサーを取り付け反射率を測定した。なお、サンプルは長手方向が上下方向になるようにセットし、バンドパラメーターは2/servoとし、ゲインは3と設定し、187nm〜2600nmの範囲を120nm/min.の検出速度で測定した。また、反射率を基準化するため、標準反射板として付属のAl2O3を用いた。なお、平均反射率は、ある波長範囲内の各波長における反射率を平均化して算出した。なお、赤外線吸収層が存在する側とは反対側の面について、測定を行った。
(3)可視光線透過率、日射透過率、日射反射率
JIS A5759(1998)に則り、可視光線透過率、日射透過率、日射反射率をそれぞれ測定した。測定は、日立製作所製 分光光度計(U−3410 Spectrophotomater)を用いて測定した。なお、日射反射率については、赤外線吸収層が存在する側とは反対側の面について、測定を行った。
(4)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、算出した。また、溶液粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示した。なお、n数は3とし、その平均値を採用した。
(5)ヘイズ、全光線透過率
スガ試験機製 HGM−2DPを用いて、JIS K7105(1981)に基づいて、全光線透過率、ヘイズ(内部)を測定した。サンプルは、1,2,3,4テトラヒドロナフタレンテトラリン中につけ、非光源側に粘着面がくるようにセッティングした。
(6)平均粒径
酸化タングステン化合物の平均粒径は、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡HU−12型((株)日立製作所製)を用い、酸化タングステン化合物粒子を40000倍に拡大観察し、25個の粒子の粒径を平均化して求めた。
(実施例1〜3)
1.積層フィルムの作製
2種類の樹脂として、樹脂Aと樹脂Bを準備した。樹脂Aとして、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。また、樹脂Bとしてシクロヘキサンジメタノールをエチレングリコールに対し30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(CHDM共重合PET)[イーストマン製 PETG6763]を用いた。また、紫外線吸収剤Aとして2,2’−(1,4−フェニレン)ビス (4H−3,1−ベンズオキサジン−4−オン)を用意し、これと樹脂Aをベント付き2軸押出機にて紫外線吸収剤Aが12重量%となる様にコンパウンド樹脂を用意した。これら樹脂Aとコンパウンド樹脂を紫外線吸収剤Aが樹脂Aに対して1wt%になるように調整し、150℃の温度で6時間乾燥した後、一軸押出機に供給した。また、樹脂Bについては、乾燥窒素雰囲気下で一昼夜、80℃の温度で乾燥した後、ベント付き2軸押出機に供給した。
それぞれ、押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルターを介した後、801層(201個のスリットの部材を4個重ねた構造、流路面粗さ0.3S、水との接触角45°、加工精度0.01mm)のフィードブロックにて合流させた。合流した樹脂AおよびBは、フィードブロック内にて各層の厚みが表面側から反対表面側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させ(スロープ型)、樹脂Aが401層、樹脂Bが400層からなる厚み方向に交互に積層された構造とした。各層の厚みの調整は、フィードブロック内の各層の流路に設けた微細スリットの形状により、延伸後のフィルムにおいて表1に示すような層厚み変化になるように調整した。なお、両表層部分は樹脂Aとなるようにした。ここで樹脂Aと樹脂Bとの吐出重量比(A/B)は、0.91になるように、フィードブロックの形状および吐出量にて調整した。このようにして得られた計801層からなる積層体を、マルチマニホールドダイに供給、さらにその表層に別の押出機から供給した樹脂Aかならる層を形成し、シート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
得られたキャストフィルムを、75℃に設定したロール群で加熱し、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱し、フィルム温度が90℃の状態で、縦方向に3.4倍延伸した。その後、この一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、その処理面に、易滑剤(粒径0.1μmのコロイダルシリカ固形分比0.4重量部)を含む水分散性アクリル系樹脂(濃度3.0重量%)を#4のメタバーにて両面に塗布し、透明・易滑・易接着層を形成した。
この一軸延伸フィルムをテンターに導き、110℃の熱風で予熱後、横方向に4.0倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で230℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に7%の弛緩処理を施し、その後、室温まで徐冷後、巻き取った。得られた積層フィルムの厚みは、128μmであった。また、隣接する層の厚み比(A/B)は、平均すると約0.95であった。ここで、隣接する層の厚み比は、隣接する樹脂Aと樹脂Bの対を、無作為に20点抽出し、その厚み比(樹脂A層厚み/樹脂B層厚み)を平均化したものである。なお、厚みの計算に用いる対の選択においては、あらかじめ決定しておいた表面に、近い側を樹脂A層とし、隣接する樹脂B層のうち遠い側を選んだ。また、得られた積層フィルムでは、両最表層の樹脂A層をのぞけば、樹脂A層は一方の表面から他方の表面に向かうにつれ、124nmから180nmまでほぼ一次関数的に増加した。また、樹脂B層は、一方の表面から他方の表面に向かうにつれ、131nmから190nmにほぼ一次関数的に増加した。なお、最表層の樹脂A層の厚みは5μmであったが、これはフィーロブロックにて801層の溶融積層体を得た後、マルチマニホールドダイにてさらに樹脂Aからなる層を合流せしめたためである。
2.コーティングフィルムの作製
塗液Xとして、住友金属鉱山製 YMF−01(セシウム酸化タングステン粒子Cs0.33WO3 平均粒径50nm)を準備した。
また、塗液Yは、新中村化学工業製 ウレタンアクリレートモノマーUA−5201 95wt%と、日本チバガイギー製 光開始剤イルガキュアー 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトンHCPK)5wt%とを混合した後、固形分が30wt%になるまでMEKで希釈して得た。
塗液X/塗液Yを5重量部/3.1重量部の割合で混合した塗液を作製した。続いて、上記で作製した積層フィルムの片面に、この塗液を塗布し、70℃・30秒で熱風乾燥した後、UVにより硬化を行い、コーティングフィルムを得た。なお、各実施例ごとで塗膜厚みを変更した。得られた結果を表1に示す。
(実施例4〜6)
樹脂Bとして、シクロヘキサンジカルボン酸を25mol%、スピログリコールを20mol%共重合させたポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.7)を用いた以外は、実施例1〜3と同様に積層フィルムを製膜し、その後、実施例1〜3と同様にコーティングを行った。なお、各実施例ごとで塗膜厚みを変更した。得られた結果を表1に示す。
(実施例7〜9)
マルチマニホールドにて、片面に住友金属鉱山製のセシウム酸化タングステン粒子(Cs0.33WO3 平均粒径50nm)をコンパウンドにより微分散させたシクロヘキサンジカルボン酸を25mol%、スピログリコールを20mol%共重合させたポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.69)を積層した以外は、実施例4〜6と同様に製膜した。ただし、塗液X/塗液Yからなる塗液の塗布は行わなかった。なお、各実施例ごとでセシウム酸化タングステン粒子の量をを変更した。得られた結果を表1に示す。
(実施例10)
実施例8において、片面に住友金属鉱山製のセシウム酸化タングステン粒子(Cs0.33WO3 平均粒径50nm)をコンパウンドにより微分散させたポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65)を積層した以外は、実施例8と同様に製膜した。得られた結果を表1に示す。
(実施例11)
積層装置のスリット形状を変更し、両最表層の樹脂A層をのぞけば、樹脂A層は一方の表面から他方の表面に向かうにつれ、115nmから180nmまでほぼ一次関数的に増加し、樹脂B層は、一方の表面から他方の表面に向かうにつれ、126nmから190nmにほぼ一次関数的に増加するようした以外は、実施例5と同様に製膜した。得られたフィルムは、斜めから見ると赤っぽく光って見えた。
(比較例1)
積層装置を変更し、積層数を201層とした以外は、実施例2と同様に製膜した。得られた積層フィルムの厚みは、32μmであった。また、つづいて、実施例2と同様に塗液X/塗液Yからなる塗液をコーティングした。得られた結果を表1に示す。
(比較例2〜3)
コーティングフィルムの塗膜厚みを変更した以外は、実施例2と同様に製膜した。得られた結果を表1に示す。
(比較例4)
東レ製 ポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルム “ルミラー”T60(単層)に、実施例2と同様に塗液X/塗液Yからなる塗液をコーティングした。得られた結果を表1に示す。
(実施例12)
積層装置を変更し、積層数を601層とした以外は、実施例2と同様に製膜した。得られた積層フィルムの厚みは、96μmであった。また、つづいて、実施例2と同様に塗液X/塗液Yからなる塗液をコーティングした。得られた結果を表1に示す。
(実施例13)
積層装置を変更し、積層数を401層とした以外は、実施例2と同様に製膜した。得られた積層フィルムの厚みは、64μmであった。また、つづいて、実施例2と同様に塗液X/塗液Yからなる塗液をコーティングした。得られた結果を表1に示す。