JP5343069B2

JP5343069B2 - ボンディングワイヤの接合構造

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Publication number: JP5343069B2
Application number: JP2010504316A
Authority: JP
Inventors: 智裕宇野; 隆山田; 敦夫池田
Original assignee: Nippon Micrometal Corp; Nippon Steel and Sumikin Materials Co Ltd
Current assignee: Nippon Micrometal Corp; Nippon Steel Chemical and Materials Co Ltd
Priority date: 2008-07-11
Filing date: 2009-07-10
Publication date: 2013-11-13
Anticipated expiration: 2029-07-10
Also published as: US20110104510A1; US9331049B2; WO2010005086A1; JPWO2010005086A1; KR101099233B1; KR20100033489A

Description

本発明は、半導体素子上の電極とリードフレーム、基板、テープ等の回路配線基板を配線するために用いられるボンディングワイヤの接合構造に関するものである。

現在、半導体素子上の電極と外部端子との間を接合するボンディングワイヤとして、線径２０〜５０μｍ程度の細線（ボンディングワイヤ）が主として使用されている。ボンディングワイヤの接合には超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置、ボンディングワイヤをその内部に通して接続に用いるキヤビラリ冶具等が用いられる。ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成させた後に、１５０〜３００℃の範囲内で加熟した半導体素子の電極上に、このボール部を圧着接合せしめ、その後で、直接ボンディングワイヤを外部リード側に超音波圧着により接合させる。こうしたＩＣチップ上の電極にボール部を接合し、リードフレーム及び基板の電極上にボンディングワイヤをウェッジ接合するもので、正ボンディング方式と呼ばれている。

近年、半導体の実装形態では、現行のリードフレームを使用したＱＦＰ（ＱｕａｄＦｌａｔＰａｃｋａｇｉｎｇ）に加え、基板、ポリイミドテープを使用するＢＧＡ（ＢａｌｌＧｒｉｄＡｒｒａｙ）、ＣＳＰ（ＣｈｉｐＳｃａｌｅＰａｃｋａｇｉｎｇ）等の新しい形態が実用化され、ループ性、接合性、量産使用性等をより向上したボンディングワイヤが求められている。

ボンディングワイヤの接合相手となる材質も多様化しており、シリコン基板上の配線、電極材料では、従来のＡｌ合金に加えて、より微細配線に好適なＣｕが実用化されている。また、リードフレーム上には、Ａｇメッキ、Ｐｄメッキ等が施されており、また、樹脂基板、テープ等の上には、Ｃｕ配線が施され、その上に金等の貴金属元素及びその合金の膜が施されている場合が多い。こうした種々の接合相手に応じて、ボンディングワイヤの接合性、接合部信頼性を向上することが求められる。

ボンディングワイヤの素材は、これまで高純度４Ｎ系（純度＞９９．９９ｍａｓｓ％）の金が主に用いられている。しかし、金は高価であるため、材料費が安価である他種金属のボンディングワイヤが所望されている。

材料費が安価で、電気伝導性に優れ、ボール接合、ウェッジ接合等も高めるために、銅を素材とするボンディングワイヤが開発され、特許文献１等が開示されている。銅系ボンディングワイヤの接続の特徴として、酸化を抑制するために、ボール部を形成する際に窒素ガス又は水素を含有する窒素ガスをボンディングワイヤ先端に吹付けながらボンディングが行われる。現在は、銅系ボンディングワイヤのボール形成時の雰囲気ガスとして、水素５％を含有する窒素ガスが一般的に使用されている。特許文献２には、銅線を銅又は銅合金リードフレームに接続する際に、５％Ｈ_２＋Ｎ_２の雰囲気で接続することが開示されている。また、非特許文献１では、銅ボンディングワイヤのボール形成には、５％Ｈ_２＋Ｎ_２ガスではボール表面の酸化を抑制できるため、Ｎ_２ガスよりも望ましいことが報告されている。

銅ボンディングワイヤでは、ワイヤ表面の酸化により性能が劣化するため、保管寿命が短いことが懸念される。そこで、銅ボンディングワイヤの表面酸化を防ぐ方法として、特許文献３には、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、クロム、チタン等の貴金属や耐食性金属で銅を被覆したボンディングワイヤが提案されている。

銅系ボンディングワイヤは、パワー系ＩＣなど線径５０μｍ程度の太径が用いられる用途において、実用化され始めている。さらに、ＬＳＩ等の線径２５μｍ以下の細線が用いられる用途には、銅系ボンディングワイヤの評価は開始されているが、実用化はされていない。

銅系ボンディングワイヤがＬＳＩ分野において広く普及するためには、多様な実装形態に適応できなくてはならない。半導体素子が１個だけである従来の単層構造だけでなく、複数個の半導体素子を上下に積み重ねる積層構造（ＳｔａｃｋｅｄＣｈｉｐ）や、複数のチップを横に配置させるマルチチップ構造等にも、銅系ボンディングワイヤを適用できることが必要となる。フラッシュメモリー等のメモリＬＳＩ用途には、積層構造が多く用いられており、チップ数が５段以上に増えたり、ワイヤ接合が困難なオーバハング型等の特殊な積層構造が使用される等、ワイヤ接続への要求はより厳しくなっている。積層構造には、逆ボンディングと呼ばれる特殊な接続が必要であり、銅系ボンディングワイヤによる逆ボンディング技術が求められる。

逆ボンディング接続とは、前述した正ボンディング方式とは接合の位置関係が逆転しており、リードフレーム及び基板の電極上にボール部を接合し、ＩＣチップ上の電極にボンディングワイヤをウェッジ接合する方法である。逆ボンディング接続では、ＩＣチップ上のアルミ膜の電極にボンディングワイヤを直接ウェッジ接合するのは困難であるため、ボンディングワイヤと電極との間にスタッドバンプを介した接合が用いられる。ボンディングワイヤの先端に形成されたボール部を電極の上に接合し（以下、電極／バンプ接合と記す）、その後にボンディングワイヤを切断することでスタッドバンプを形成する。その後に逆ボンディングを行う過程で、ワイヤ先端に形成したボール部をリードまたは基板の上の電極上に接合し、リード側からチップ側にキヤビラリを移動しながらループを形成してから、スタッドバンプの上にボンディングワイヤのウェッジ接合（以下、バンプ／ウェッジ接合と記す）を行う。このバンプ上へのウェッジ接合は接合強度、量産ボンディング性、信頼性等の有利な点が多い。逆ボンディングでは、電極／バンプ接合とバンプ／ウェッジ接合の２回の接合が行われるため、正ボンディングよりも不良が発生する可能性が高くなることが懸念される。

本明細書では、バンプ上にボンディングワイヤをウェッジ接合される接続方式を逆ボンディングと定義する。マルチチップ構造でチップ同士をボンディングワイヤで直接接続する場合に、バンプ／ウェッジ接合が利用される場合が多い。接合の位置関係では必ずしも逆方向ではないが、この場合も逆ボンディングの範疇に含める。

特許文献３には、逆ボンディング接続に類似した接続法において、ボンディングワイヤの材料に金線、アルミニウム線、又は銅線を使用することが開示されている。この文献の接続法は通常の逆ボンディング接続とは少し異なり、ワイヤボンディング時間を最小化するために、リード側の接続ではボールを形成しないでボンディングワイヤをステッチボンド（ウェッジボンドと同意）する手法である。ワイヤ素材に金と銅が使用できることは請求項に記載されているが、金と銅との相違、実施例等の説明は記載されていない。これまで銅系ボンディングワイヤが逆ボンディングで実用化された報告例はないのが実体である。

現在量産で使用されているのは金ボンディングワイヤだけである。金ボンディングワイヤによるバンプ／ウェッジ接合では金／金の接合構造となるため、良好な接合性、接合強度を得るのが容易である。しかしながら、銅系ボンディングワイヤは逆ボンディングには使用されたことがないことからも、銅系ボンディングワイヤによるバンプ／ウェッジ接合の実用化は困難であると懸念される。銅系ボンディングワイヤがメモリＬＳＩやマルチチップ実装に使用されるためには、逆ボンディングの量産性、接合強度、信頼性等を向上することが期待されている。
特開昭６１−９９６４５号公報特開昭６３−２４６６０号公報特開昭６２−９７３６０号公報特開２００５−８６２００号公報

銅系ボンディングワイヤの実用化又は量産評価では、太線による正ボンディング接続が中心であり、細線による逆ボンディング接続に関して報告例は殆どなく、その量産の技術課題についても明らかにされていない。

本発明者らは、銅系ボンディングワイヤの逆ボンディング接続について評価したところ、課題は、接合性、接合信頼性、ループ形状に分類されることが判明した。逆ボンディング接続での金属接合について、半導体素子の上の電極にスタッドバンプを接続する電極／バンプ接合部と、スタッドバンプの上にボンディングワイヤをウェッジ接合するバンプ／ウェッジ接合部との２箇所あり、それぞれに要求特性、課題が異なる。特に、従来の銅系ボンディングワイヤを用いてバンプ／ウェッジの接合性を改善することは非常に困難である。

銅系ボンディングワイヤによるバンプ／ウェッジ接合では銅／銅の接合構造であるため、十分な接合強度を得ることが困難であり、連続ボンディング作業中に接合剥離又はボンディングワイヤ破断等の不良が発生することが問題となる。接合強度を上昇させるためウェッジ接合時の荷重、超音波振動を増やすと、ボンディングワイヤが過剰に変形してバンプ／ウェッジ接合の近傍でボンディングワイヤが破断することが問題となり、逆に荷重、超音波振動を減らすと、バンプ／ウェッジ接合の界面で剥離が発生する。金ボンディングワイヤの場合には金／金の接合条件の適正範囲が広いため、こうしたバンプ／ウェッジ接合における不良は比較的容易に改善できる。しかし、銅系ボンディングワイヤでは、接合条件の適正範囲が極端に狭く、荷重、超音波を調整する従来の接合条件の延長では接合剥離とワイヤ破断を同時に改善することは困難である。連続ボンディング作業におけるバンプ／ウェッジ接合の改善には、銅／銅の接合強度を向上することが必要となる。
さらに、銅系ボンディングワイヤによるバンプ／ウェッジ接合の量産性を低下させる原因として、連続ボンディング作業においてスタッドバンプがボンディングステージ上で加熱されている間に、バンプ表面において銅の酸化が進行してしまうことが、ウェッジ接合の強度の低下を加速させていることが確認された。ここでのバンプ／ウェッジ接合における接合強度の評価では、プル試験が簡便且つ有効であり、好ましくはバンプの近くにフックを掛けて上方に引っ張るセカンドプル試験を行うことが望ましい。複雑な形状をしたスタッドバンプの表面に形成された銅酸化物を、ウェッジ接合のときの荷重、超音波振動により十分に破壊することは困難であり、銅酸化物がバンプ／ウェッジ接合の界面に連続的に残存することで接合強度を低下させている。ステージ上でワイヤボンディングされる領域に不活性ガスを吹付ける方法により、スタッドバンプの表面酸化をある程度まで減少させることは可能ではあるが、作業性の面から完全なシールド状態を得ることは難しい。従来の金ボンディングワイヤ用のボンダ装置の利用、銅系ボンディングワイヤ用にガスシールドの改善等、既に知られている技術の延長だけでは、バンプ／ウェッジ接合の界面に介在する銅酸化物を抑制することは困難である。こうしたワイヤ接合部の酸化がボンディング工程中に進行して生産性を低下させることは、銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングに特有の現象であり、これまでの金ボンディングワイヤ、銅系ボンディングワイヤの正ボンディングでは殆ど問題とならない。

銅系ボンディングワイヤによるバンプ／ウェッジ接合部では、使用時の接合信頼性にも問題が生じる場合がある。代表的な信頼性試験である、熱サイクルを施すＴＣＴ試験（ＴｅｍｐｅｒａｔｕｒｅＣｙｃｌｉｎｇＴｅｓｔ）、短時間で温度が急上昇する熱衝撃への耐性を評価するリフロー試験、高温高湿加熱であるＰＣＴ試験（ＰｒｅｓｓｕｒｅＣｏｃｋｅｒＴｅｓｔ）、さらに高温高湿で電気的バイアスを加える高温高湿バイアス試験（ＨＡＳＴ：ＨｉｇｈｌｙＡｃｃｅｌｅｒａｔｅｄＴｅｍｐｅｒａｔｕｒｅａｎｄｈｕｍｉｄｉｔｙＳｔｒｅｓｓＴｅｓｔ）等で、バンプ／ウェッジ接合の近傍でボンディングワイヤ又は接合部の破断が起こることが確認された。これらの信頼性試験で銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングにおいて、正ボンディング、金の逆ボンディングよりも不良発生率が増えることが問題となる。

ＴＣＴ試験とリフロー試験では、バンプ／ウェッジ接合部に要求される性能がやや異なる。ＴＣＴ試験は、−４０〜１５０℃の温度範囲で熱サイクルを数百回以上も施して徐々に不良を誘発する評価法である。一方のリフロー試験は、数分の短時間に温度を急上昇させることにより、熱衝撃への耐性を評価する。

ＰＣＴ試験では、高温（１２１〜１３０℃）と高湿（８５〜１００％ＲＨ）の相乗により不良が加速される。主な不良箇所は、バンプ／ウェッジ接合部である。これは、水分がバンプ／ウェッジの接合界面まで拡散することで、水分、イオン等が接合強度を劣化させていると考えられる。

ＨＡＳＴ試験では、高温高湿と電気的バイアスの両者により不良を加速させる。前記ＰＣＴ試験よりも電気的バイアスを加えることでより過酷な信頼性を評価する場合が多い。主な不良箇所は、主として電極／バンプ接合部で不良が発生するが、一部にのみバンプ／ウェッジ接合部でも起こる。水分が接合界面まで拡散すること、樹脂から生成するイオンの接合部への移動が電気的バイアスにより促進されることで、水分、イオン等が接合強度の劣化を加速させていると考えられる。

接合部の信頼性を低下させる不良原因の一つに、銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングに特有の現象の可能性が考えられる。元々スタッドバンプは複雑な形状であるため、バンプ／ウェッジの接合界面に接合されていない隙間が生じ易い。それでも、金ボンディングワイヤでは、隙間が少しあっても長期信頼性が低下することは殆どない。それに対して銅系ボンディングワイヤでは、隙間があると、大気、水分等により接合界面の銅の酸化が進行して、使用時に接合部が劣化することを、本発明者らは確認した。現在のワイヤボンディング技術では、荷重、超音波等により接合界面の隙間をある程度まで減らすことは可能であるが、完全に隙間を消滅させることは困難である。前述したバンプ表面の銅酸化物がバンプ／ウェッジの接合界面に介在することで、界面での拡散を阻害して、熱サイクル又は熱衝撃により接合強度が低下する原因ともなる。

電極／バンプ接合の課題は、チップ損傷を与えることなく接合強度を改善すること、スタッドバンプの形状を安定化させること、高温加熱試験での長期信頼性を改善することである。これらチップ損傷、バンプ形状、高温信頼性については、従来の銅系ボンディングワイヤの正ボンディング方式によるボール接合における課題と一部共通するところもあるが、逆ボンディング方式ではより厳しい品質向上が求められる。これは、正ボンディングのボール接合では、衝撃荷重、荷重、超音波振動等の負荷によるボール部の変形が１度だけであるのに対して、逆ボンディングではスタッドバンプ形成とそのバンプの上のウェッジ接合との２度にわたり接地衝撃、荷重、超音波振動が加わりボール変形が過剰に進行することにより、チップ損傷、バンプサイズの粗大化、初期バンプ接合におけるシェア強度の低下、高温信頼性の低下等が問題となるためである。電極の素材は、アルミ及びアルミ合金（Ａｌ−Ｓｉ、Ａｌ−Ｓｉ−Ｃｕ等）、パラジウム及びパラジウム合金／Ｎｉ／Ｃｕ等が利用されるが、いずれの電極材であっても、上述した銅系ボンディングワイヤの電極／バンプ接合の問題は同様に起こることが確認された。

ループ形状について、銅系ボンディングワイヤの逆ボンディング接続では安定して制御することが困難である。通常の正ボンディングでは、銅ボンディングワイヤのループ形状を安定化させるのは比較的容易であり、金ボンディングワイヤと同様に問題となることは少ない。これに対して、逆ボンディング接続でループ形状が乱れる原因として、バンプ／ウェッジの接合を行うときに、大きな凹凸を有するバンプの上にボンディングワイヤをウェッジ接合しなくてはならないため、ループが左右に倒れたり、下方に垂れ下がる等の異常なループ形状が発生する頻度が増える。このループ形状の乱れを助長しているのが超音波振動と考えられる。それでも、金ボンディングワイヤの逆ボンディング接続では、ウェッジ接合での超音波振動を減らすことでループ形状を改善することが可能である。この根拠として、バンプ／ウェッジ接合が金／金の構造であるため、接合強度を高めるのが容易であることから、超音波振動の大幅な低減又は削除等が可能である。それに対して、銅系ボンディングワイヤでは、ワイヤ表面に形成された銅酸化膜がバンプ／ウェッジ接合において接合性を低下させる大きな要因となり、この銅酸化膜を破壊するためにウェッジ接合の超音波振動を金ボンディングワイヤよりも増加させることが必要となる。因って、逆ボンディング接続のループ制御は、銅系ボンディングワイヤの方が金ボンディングワイヤよりもかなり難しいと考えられる。銅系ボンディングワイヤの逆ボンディング接合のループ形状の安定化には、ワイヤ表面の酸化を抑えることが有効である。この改善効果は、金ボンディングワイヤではほとんど期待できないのに対して、銅系ボンディングワイヤには有効であると期待される。

そこで、本発明は、上記課題を解決し、接合性、接合信頼性、ループ形状に優れた銅系ボンディングワイヤの接合構造を提供することを目的とする。

本発明者らが、上記問題を解決するために銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングに適した接合構造を鋭意検討した結果、接合部の界面に銅以外の金属濃度が高い濃化層を形成させることが有効であることを見出した。更に効果的には、接合部の界面又は表面における組成、構造を制御することが有効であること、また、外皮層と芯材の複層構造をした銅系ボンディングワイヤを使用することが有効であること等を見出した。

本発明は、前記知見の基づいてなされたものであり、以下の構成の要旨とする。

本発明の請求項１に係るボンディングワイヤの接合構造は、半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続するボンディングワイヤの接合構造であって、前記ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、前記ボールバンプと前記ボンディングワイヤとの接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、前記ボールバンプと前記電極との接合部の界面に金属Ｒの濃度が、前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ｂを有すると共に、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であり、前記濃化層Ｂにおいて、金属Ｒの濃度が３ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜５μｍの範囲であり、前記金属Ｒがパラジウム、金、白金、銀から選ばれる１種以上の元素であり、前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、金属Ｒを主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなることを特徴とする。

本発明の請求項２に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１において、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることを特徴とする。

本発明の請求項３に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１又は２において、前記濃化層Ｂの少なくとも一部が、前記電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層又は金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されていることを特徴とする。

本発明の請求項４に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜３のいずれか１項において、前記濃化層Ａにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが、前記濃化層Ｂにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さの３倍以上であることを特徴とする。

本発明の請求項５に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜４のいずれか１項において、前記接合構造において、前記ボールバンプの表面の４０％以上の領域及び、前記ボールバンプの上に接続された前記ボンディングワイヤの表面の３０％以上の領域において、金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である濃化層Ｃが形成されたことを特徴とする。

本発明の請求項６に係るボンディングワイヤの接合構造は、半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続する接合構造であって、前記ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、前記ボールバンプと前記ボンディングワイヤとの接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、前記ボールバンプの表面の４０％以上の領域及び、前記ボールバンプの上に接続された前記ボンディングワイヤの表面の３０％以上の領域において、金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である濃化層Ｃを有すると共に、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であり、バンプ表面の前記濃化層Ｃは、金属Ｒの濃度が０．５ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０５〜２０μｍの範囲であり、前記金属Ｒがパラジウム、金、白金、銀から選ばれる１種以上の元素であり、前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、金属Ｒを主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなることを特徴とする。

本発明の請求項７に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項６において、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることを特徴とする。

本発明の請求項８に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜７のいずれか１項において、金属Ｒがパラジウム、金、及び白金から選ばれる１種以上の元素であることを特徴とする。

本発明の請求項９に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜８のいずれか１項において、金属Ｒがパラジウムと銀、またはパラジウムと金の２種の元素であることを特徴とする。

本発明の請求項１０に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項９において、前記濃化層Ａがパラジウムと銀との合金、またはパラジウムと金との合金のいずれかの合金領域と、パラジウムの最高濃度が８０ｍｏｌ％以上である領域とを含むことを特徴とする。

本発明の請求項１１に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜１０のいずれか１項において、前記ボンディングワイヤと前記ボールバンプとの接合界面から上下に１μｍの幅の領域において、酸素濃度が１０ｍｏｌ％以上含有される領域の厚さが０〜０．０５μｍ（０μｍを含まない）の範囲であることを特徴とする。

本発明の請求項１２に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜１１のいずれか１項において、前記外皮層の主成分である金属Ｒがパラジウム、金、及び白金から選ばれる１種以上の元素であることを特徴とする。

本発明の請求項１３に係るボンディングワイヤの接合構造は、請求項１〜１２のいずれか１項において、前記外皮層の厚さが０．００２〜０．８μｍの範囲であることを特徴とする。

本発明のボンディングワイヤの接合構造により、銅系ボンディングワイヤによる逆ボンディング接続において、スタッドバンプとボンディングワイヤとの接合における不着不良、めくれ不良を抑制することでボンディングの連続作業性を向上したり、接合強度を高めることができる。また、前記スタッドバンプと電極との接合部の接合強度を向上できる。また、使用時の高温環境での信頼性を向上することができ、具体的には、熱サイクル試験、熱衝撃試験、高温高湿試験、高温高湿バイアス試験、高温加熱試験において、それぞれ長寿命化できる。また、ループ形状を安定化できる。

こうした結果、材料費が安価な銅系ボンディングワイヤを用いた逆ボンディング接続における、作業性、生産性を高めたり、接合信頼性を向上することができる。この逆ボンディング接続が多用される半導体実装形態である、半導体チップを重ねた積層構造の実装形態（スタックド実装）やマルチチップ実装において、銅系ボンディングワイヤで接続することが可能となる。

バンプ上にボンディングワイヤがウェッジ接合された逆ボンディング接合部銅系ボンディングワイヤによる逆ボンディング接合部のＳＥＭ写真

銅系ボンディングワイヤの逆ボンディング接続の量産性を改善する方策として、スタッドバンプの上にボンディングワイヤをウェッジ接合したバンプ／ウェッジ接合部の界面に金属Ｒの濃化層Ａを形成し、さらに、半導体素子上の電極にスタッドバンプを接続する電極／バンプ接合部の界面に金属Ｒの濃化層Ｂを形成することで、ウェッジ接合の不着不良、めくれ不良を低減し、バンプ接合部のシェア強度、接合信頼性を改善するのに有効であることを見出した。また、上記濃化層Ａに加えて、バンプ／ウェッジ接合部におけるバンプの表面とボンディングワイヤの表面に金属Ｒの濃化層Ｃを形成することで、高温高湿試験での信頼性の向上に有効であることを見出した。さらに、上記濃化層Ａと濃化層Ｂと濃化層Ｃの３種を同時に形成することで、高温高湿バイアス試験での信頼性の向上に有効であることを見出した。これら濃化層を形成するボンディングワイヤ材料の一つとして、銅を主成分とする芯材と、銅以外の金属Ｒを主成分とする外皮層とで構成された複層銅ボンディングワイヤ（以下、複層銅ワイヤと記す）が有効であることを確認した。複層銅ワイヤの外皮層の組成、構造等を適正化することも有効である。

ここでの濃化層とは、ボール接合部の中心部における金属Ｒの濃度よりも相対的に濃度が高い領域のことである。ボール接合部の界面又は表面における濃化層の形態が、層状に形成されている場合が多いことから、本明細書では濃化層と記す。濃化層の形態について、必ずしも連続的な層状に限定されるわけでなく、濃化層の一部が不連続（断続的）に形成されている場合も含まれる。接合部の前記界面とは、ボールバンプと電極との接合部又はボールバンプとボンディングワイヤとの接合部において、初期の境界近傍のことである。

なお、主成分とは、銅や金属Ｒ等の金属系元素を総計した濃度に対する、当該元素の濃度の比率が５０ｍｏｌ％以上であることと定義する。

以下に、本発明の詳細を説明する。

半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続する接合構造であって、前記ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、バンプ／ウェッジ接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａを有し、さらに電極／バンプ接合部の界面に、金属Ｒの濃度がボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ｂを有するボンディングワイヤの接合構造である濃化層Ａと濃化層Ｂを同時に形成することで、銅系ボンディングワイヤによる逆ボンディング接続で問題となる不着不良（Ｎｏｎ−ＳｔｉｃｋＦａｉｌｕｒｅ：ＮＳＦ）、ショートテイル（ｓｈｏｒｔｔａｉｌ）不良を抑制する効果に加えて、さらに電極／バンプ接合部の界面でのシェア強度の上昇とチップ損傷が低減する効果を同時に向上することができる。ここでの不着不良とは、連続ボンディング作業中にボールバンプの上にボンディングワイヤをウェッジ接合した接合部で剥離が生じる不良である。ショートテイル不良とは、ウェッジ接合は良好であるものの、ウェッジ接合の後にボンディングワイヤを破断させるテイルカットの段階で、キャピラリ先端に出ているワイヤ部（テイル）の長さ、形状が不安定となり、そのテイルを溶融して形成したボール部の形状、サイズ等に不具合を生じる不良である。これまで、銅系ボンディングワイヤによる逆ボンディング接続で同時に改善することは困難とされていた、不着不良、ショートテイル不良、シェア強度、チップ損傷等の相反する使用性能を同時に改善することで、連続ボンディングの生産性が大幅に向上することが期待できる。

図１には、ボンディングワイヤの逆ボンディング接合部を示す。ボンディングワイヤ１の先端に形成したボール部を半導体素子４の電極３の上に接合してバンプ２（スタッドバンプ）を形成し、該バンプの上にボンディングワイヤ１をウェッジ接合する。主な接合部の界面（以下、接合界面ともいう）として、前記バンプ／ウェッジの接合界面ａと、電極／バンプの接合界面ｂの２箇所が必要である。濃化層Ａは接合界面ａに形成され、濃化層Ｂは接合界面ｂに形成される。

次に、濃化層Ａ及び濃化層Ｂについて、個別の期待効果、両者の複合作用等について後述する。

バンプ／ウェッジの接合界面に、金属Ｒの濃度がボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である領域が含まれる濃化層Ａを形成することで、この接合界面での密着性を向上させる効果は高められる。考えられる濃化層Ａの作用として、連続ボンディング作業中にスタッドバンプがステージ上で加熱されている間にバンプ表面において銅の酸化が進行するのを抑制すること、銅／銅の界面での拡散を助長して接合強度を向上させること、濃化層は変形抵抗が強い場合が多いため、バンプ表面の酸化膜の破壊を促進させること等が推定される。

濃化層Ａの位置として、初期の接合界面を基準にバンプ側、ワイヤ側で区別すると、バンプ側、ワイヤ側のどちらか一方への形成、又は、バンプ側とワイヤ側の両者に形成されることが可能である。濃化層がバンプ側により多く形成される場合には、上述したバンプ表面の酸化を抑制する高い効果が期待され、また、ワイヤ側により多く形成される場合には、接合強度の増加、バンプ表面の酸化膜を破壊する等の効果が促進される。バンプ側とワイヤ側の両者に濃化層Ａが形成されていれば、より高い効果が期待される。

電極／バンプの接合界面に金属Ｒの濃度が、ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ｂを形成することで、接合部のシェア強度を向上するのに有利である。濃化層Ｂの役割として、アルミ電極の場合に電極／バンプ接合部の界面でのＣｕ原子とＡｌ原子の拡散を制御し、金属間化合物を接合界面全体に均一成長させる効果、接合時の超音波振動を緩衝することでチップ損傷が抑えられる効果等が考えられる。こうした界面濃化層の作用は、アルミ電極でより顕著であることを確認したが、その限りではなく、電極材がＡｕ、Ａｇ、Ｐｄ、Ｃｕ等でも、同様に接合信頼性を向上させる効果が得られる。

前記濃化層Ａと前記濃化層Ｂの両者を同時に形成させることで、前述したそれぞれ個別の濃化層の生成により期待される効果に加えて、ウェッジ接合におけるショートテイル不良、チップ損傷等、これまで改善が困難とされていた性能を改善することが可能となり、銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングにおける量産安定性が大幅に向上できる。濃化層Ａと濃化層Ｂが複合的に作用する機構について、まだ不明な点もあるが、両者が同時に形成されることでバンプ／ウェッジの接合界面への荷重、超音波出力のエネルギーの伝達効率が向上すること、電極／バンプの接合界面にも無駄な上下衝撃や、接着を弱めるような振動等を減らすことが有効に作用していると考えられる。さらに、こうした効率の良い接合が容易に得られる結果として、ボール部のバンプ接合とボンディングワイヤのウェッジ接合の２度の接合プロセスにおいて、接合条件の適正範囲が変わるため、荷重、超音波振動等の設定値を低減できることも、ショートテイル不良、チップ損傷等を抑制するには有効であると考えられる。

濃化層Ａだけでは、不着不良は減る傾向にあるが必ずしも十分ではなく、ショートテイル不良を改善するのは難しく、チップ損傷において改善効果は期待できない。濃化層Ｂだけでは、シェア強度を向上する傾向にあるが、チップ損傷を高める効果は小さく、ショートテイル不良を改善する効果は期待できない。

濃化層Ａの濃化の程度について、金属Ｒの濃度がボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である領域が含まれることにより、不着不良を低減する高い効果が得られる。好ましくは該濃度比が１００倍以上であれば、バンプ／ウェッジ接合におけるショートテイル不良を抑制する効果がより高められる。濃化層Ａの金属Ｒの濃度の上限は無く、濃化層Ａが金属Ｒとなっても本発明の効果が得られるものである。

濃化層Ｂにおいて、金属Ｒの濃度がボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である領域は、前述した効果である金属間化合物の成長による接合強度の向上に有効に作用することを確認した。好ましくは該濃度比が５０倍以上であれば、電極／バンプ接合部におけるシェア強度の上昇とチップ損傷の低減という相反する特性を同時に改善する効果が高められる。濃化層Ｂの金属Ｒの濃度の上限は無く、濃化層Ｂが金属Ｒとなっても本発明の効果が得られるものである。

濃化の程度を評価するには、注目する金属Ｒの濃化層内での濃度がボール内部での濃度に対する割合が、濃化の度合いを示す重要な尺度となる。ここでの濃度計算では、金属Ｒ及び銅等の金属元素を総計した濃度比率を用いており、Ｃ、Ｏ、Ｎ、Ｃｌ、Ｓ等の非金属元素は除外して計算した濃度値を用いている。濃化層を構成する金属Ｒが複数の元素である場合には、金属Ｒの濃度を総計した値を用いる。濃化層内の濃度が一定でなく深さ方向に変化する場合には、最高濃度の値を用いた。一方、バンプの内部では平均濃度を用い、その測定ではバンプの研磨断面を任意の３箇所以上で測定した濃度の平均値を求める。

半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続する接合構造であって、前記ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、バンプ／ウェッジ接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、ボールバンプの表面の４０％以上の領域、及び、ボールバンプの上に接続されたボンディングワイヤの表面の３０％以上の領域において、金属Ｒの濃度がボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である濃化層Ｃが形成されたボンディングワイヤの接合構造であることが、高温高湿試験（ＰＣＴ試験）の信頼性を向上させるのに望ましい。銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングでのＰＣＴ試験では、水分、及びイオンが拡散して、バンプ／ウェッジ接合の銅／銅の接合強度を劣化させることが不良の主原因と考えられる。バンプの表面とボンディングワイヤの表面に形成された濃化層Ｃが、水分、及びイオンが接合界面にまで侵入するのを抑える効果がある。バンプの表面とボンディングワイヤの表面に形成された濃化層Ｃだけでも、水分、及びイオンが接合界面にまで侵入するのを抑える効果はある程度期待されるが十分ではなく、濃化層Ａと濃化層Ｃとの組合せにより、侵入を抑制する高い効果が得られる。

濃化層Ｃの領域が占める割合について評価した結果、ボールバンプの表面の４０％以上であればバンプの内部を通してのバンプ／ウェッジ接合界面への水分、及びイオンの侵入を抑えるのに有効であること、また同様に、ボールバンプの上に接続されたボンディングワイヤの表面の３０％以上であればワイヤ内部を通しての接合界面への侵入を抑えるのに有効であることが確認された。濃化層Ｃにおいて、金属Ｒの濃度がボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である領域であれば、水分、及びイオンの侵入を抑えるのに有効に作用することを確認した。好ましくは該濃度比が２０倍以上であれば、ＰＣＴ試験で不良発生時間をさらに遅らせる高い効果が期待できる。濃化層Ｃの金属Ｒの濃度の上限は無く、濃化層Ｃが金属Ｒとなっても本発明の効果が得られるものである。

ここで、ボールバンプの上に接続されたボンディングワイヤについて、バンプ面積を上方に投影した範囲にあるボンディングワイヤの表面を採用した。因って、ボンディングワイヤそのものの表面とキャピラリで大きく変形されたボンディングワイヤの表面が含まれる。このバンプの投影領域について、水分、及びイオンの移動経路、高温高湿での加速試験との相関等を考慮して選定した。移動経路として、ワイヤ内部の拡散、バンプ／ウェッジ接合界面の横方向からの侵入、さらにボンディングワイヤと樹脂との界面を通じての接合部への移動等、多岐の経路が考えられることを前提に検討した結果、バンプの投影領域にあるボンディングワイヤの表面で整理することが有効であった。

上記濃化層Ａと濃化層Ｂと濃化層Ｃの３種を同時に形成することで、高温高湿バイアス試験（ＨＡＳＴ試験）での信頼性の向上に有効である。ＨＡＳＴ試験は、前記ＰＣＴ試験よりも電気的バイアスを加えることで、より過酷な信頼性が要求される。バイアスを加えることで、樹脂内部を拡散するイオン等がワイヤ接合部に引き寄せられたり、ワイヤ接合部に発熱が生じることで、不良が加速される。銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングでのＨＡＳＴ試験では、水分、及びイオンが拡散して、電極／バンプ接合に形成されたアルミ／銅の金属間化合物を腐食させることが不良の主な原因と考えられる。バイアス印加により水分、及びイオンが接合界面に拡散する挙動を加速しているため、ＨＡＳＴ試験を改善するには、イオンの侵入を遮断して、接合界面での腐食を抑えることが有効である。各濃化層の改善機構について、水分、及びイオンが接合界面にまで拡散することに対して、濃化層Ｃがバンプ、ウェッジ接合の外周を保護すること、濃化層Ａがバンプ／ウェッジ接合界面からのイオンの進入を保護すること、濃化層Ｂが電極／バンプ接合界面での腐食、クラックの発生を抑制することが考えられる。濃化層Ａ、濃化層Ｂ、濃化層Ｃのどれか一つでも形成されていなければ、ＨＡＳＴ試験での十分な信頼性を確保することは困難であった。

前記金属Ｒには、パラジウム、金、白金、銀が使用できる。好ましくは金属Ｒが、パラジウム、金、及び白金から選ばれる１種以上の元素であれば、逆ボンディングの接合性及び信頼性を向上させる高い効果が得られる。濃化層の主成分がパラジウム、金、及び白金の少なくともどれか一つの元素であることにより、バンプ／ウェッジ接合と電極／バンプ接合の両者の接合性を同時に向上させるもので、それぞれの銅／銅及びアルミ／銅の界面の接合・拡散に対して濃化層が有効に作用する。中でも、セカンドプル強度を向上する高い効果が得られる。これは、銅と上記元素との拡散を促進するのが比較的容易なためと考えられる。さらにより好ましくは、金属Ｒがパラジウムであれば、ボールバンプの形状を真円化させる効果がより高く、狭ピッチ接続、開口部の小さい電極への接合等にも有効である。また、パラジウムが上記３種の内、最も材料費の低減に有利である。

また、前記金属Ｒがパラジウムと銀、またはパラジウムと金の２種の元素であることにより、接合速度の高速化、または接合時に印加する荷重・超音波を軽減してキャピラリの汚れ・磨耗を低減させることによるキャピラリ寿命の増加などが可能となり、逆ボンディング接続の生産性を向上することができる。銀または金をパラジウムと併用する作用として、ボール近傍の熱影響部の再結晶組織の発生を制御でき、この熱影響部を切断して形成したボールバンプの形状、表面凹凸などが安定化するので、高速接合、キャピラリ寿命の増加などに有効である。パラジウム単独では、上記の熱影響部の再結晶組織を制御する作用が小さく、銀または金をパラジウムと併用することが有効であることを確認した。パラジウム濃度は銀または金の濃度よりも高いほうが、上記効果が高められる。好ましくは、銀または金の比率は、パラジウム濃度に対して０．２〜８０％の範囲であれば、バンプ形成速度の５％以上の高速化、またはキャピラリ寿命の１０％以上の増加に有効である。濃化層Ａ、Ｂ、Ｃを構成するパラジウム全体に銀または金を均一に含む必要はなく、パラジウムの少なくとも一部に銀または金を含むことで十分な効果が得られる。

濃化層Ａがパラジウムと銀との合金、またはパラジウムと金との合金のいずれかの合金領域（Ｐｄ合金領域）と、パラジウムの最高濃度が８０ｍｏｌ％以上である領域（高濃度Ｐｄ領域）とを含むことを特徴とするボンディングワイヤの接合構造であることが望ましい。この接合構造では、前述したように金属Ｒがパラジウムと銀、またはパラジウムと金の元素であるため高速接合、キャピラリ寿命の増加などの効果に加えて、濃化層ＡがＰｄ合金領域と高濃度Ｐｄ領域の両方を含むことにより、バンプ形状の真円化とバンプ／ウェッジ接合部の剥離強度の増加という相反特性が向上するので、５０μｍ以下の狭ピッチの逆ボンディング接続の歩留まり向上に有効である。Ｐｄ合金領域はバンプ／ウェッジ接合の剥離強度を高める作用と、ウェッジ接合での衝撃緩衝により、バンプ接合時の真円変形を促進する効果とが期待される。一方、高濃度Ｐｄ領域はバンプ／ウェッジ接合界面での酸化を抑制する効果が期待される。好ましくは、高濃度Ｐｄ領域はパラジウムの最高濃度が８０ｍｏｌ％以上であることで酸化抑制、衝撃緩衝などの効果が助長される。また、Ｐｄ合金領域はパラジウムと銀との合金またはパラジウムと金との合金であることにより、これら銀または金が接合界面での拡散を助長できると考えられる。より好ましくは、Ｐｄ合金領域における全金属元素に占める銀または金の最高濃度は５０ｍｏｌ％未満であることが望ましい。これは、銀または金の最高濃度が５０ｍｏｌ％を超えると、高濃度合金となり硬化して接合時にチップクラックなどの損傷を起こすためである。好ましくは、Ｐｄ合金領域の厚さは２〜３０ｎｍの範囲であれば、上記のバンプ接合時の真円変形を促進する効果が高められるが、３０ｎｍを超えるとピール強度が低下することが懸念される。また、高濃度Ｐｄ領域の厚さは１０〜１００ｎｍの範囲であることが好ましい。この範囲であれば、上記の酸化を抑制する効果が十分であるが、１００ｎｍを超えるとチップクラックの発生が懸念される。

濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であることで、連続ボンディングの生産性をより高めることができる。具体例として、線径が２０μｍ以下の細線、積層されたチップ数が３段以上の接続等、これまで銅ワイヤによる逆ボンディングが困難とされていた用途においても、バンプ／ウェッジの接合性を高めて、連続ボンディングの生産性を向上することができる。ここで、濃度が１０ｍｏｌ％以上であれば濃化層として有効な作用が期待され、該厚さが０．０１μｍ未満では改善効果が小さく、４μｍ以上を形成すると連続ボンディング性が低下する傾向がある。

より好ましくは、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ%以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることが望ましく、バンプ／ウェッジ接合部における接合強度をより向上するのに有利である。この接合強度の上昇による応用として、電極間隔が７０μｍ以下の狭ピッチ接続、オーバハング型の積層チップでの接続等、これまで銅ワイヤによる逆ボンディングでは接合強度の低下が問題視されていた用途においても、バンプ／ウェッジの接合性を高めて、連続ボンディングの生産性を向上することができる。ここで、濃度が５０ｍｏｌ％以上であれば濃化層として有効な作用が期待されるためであり、該厚さが０．００５μｍ未満では改善効果が小さく、０．８μｍ以上を形成するとバンプが形成された電極の下のチップに損傷を与えることが懸念されるためである。

逆ボンディングの接合構造において、バンプ／ウェッジ接合の接合界面に前記濃化層Ａを有しており、さらに、ボンディングワイヤとボールバンプとの接合界面から上下に１μｍの幅の領域において、酸素濃度が１０ｍｏｌ％以上含有される領域の厚さが０〜０．０５μｍ（０μｍを含まない）の範囲であるボンディングワイヤの接合構造であることが望ましい。この接合構造により、連続ボンディング性の改善に加えて高温信頼性を向上することが可能であり、特に、熱サイクルによるＴＣＴ試験での信頼性を向上するのに効果的である。銅ワイヤによる逆ボンディングの課題として前述したように、酸化されたバンプ表面にするウェッジ接合すること、バンプ／ウェッジ接合の界面に未接合の隙間が生じること等が、ＴＣＴ試験の熟歪みによりバンプ／ウェッジ接合の近傍で不良を誘発する要因と考えられる。これに対して、バンプ／ウェッジ接合の界面の酸素濃度を低減することにより、初期の接合強度を高めたり、界面の隙間での酸化の進行を抑えたりすることで、熟歪みに伴う剥離、ワイヤ破断等を低減できる。酸素濃度が１０ｍｏｌ％以上であれば界面の拡散を遅らせる作用があるためであり、酸素濃度が１０ｍｏｌ％以上の厚さが０．０５μｍを超えると接合強度を低下させ、ＴＣＴ試験での不良率が上昇するためである。好ましくは、酸素濃度が２０ｍｏｌ％以上含有される領域の厚さが０〜０．０３μｍ（０μｍを含まない）の範囲であれば、ＴＣＴ試験の寿命がさらに向上する効果が得られる。

前記濃化層Ｂにおいて、金属Ｒの濃度が３ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜５μｍの範囲である。この濃化層Ｂであれば、チップ損傷の低減とシェア強度の向上に加えて、高温での接合信頼性を向上する高い効果が得られる。銅ワイヤの逆ボンディング接続について１５０℃以上の高温加熱試験を施したとき、電極／バンプ接合部で不良が起こることが多く、接合界面にボイドが発生して強度が低下したり、腐食反応により電気抵抗が上昇することが問題となる。特に腐食の発生は問題であり、アルミ電極と銅バンプとの接合界面に形成されたＣｕ−Ａｌ系金属間化合物が封止樹脂成分（ハロゲン成分等）との腐食反応を起こすことは問題となる。電極／バンプ接合界面に形成された濃化層Ｂは、封止樹脂成分の接合部内での拡散を抑制したり、腐食され易い金属間化合物の成長を抑えることができ、これにより高温信頼性が向上すると考えられる。ここで、濃化層Ｂにおける金属Ｒの濃度が３ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１μｍ未満では信頼性を改善する効果が小さく、５μｍを超える層が形成されると接合初期の拡散を阻害する影響により、ボイドが形成される場合があるためである。好ましくは、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜２μｍの範囲であることにより、より高温である１７５℃以上の高温加熱試験での寿命を向上する高い効果が得られる。

前記濃化層Ａにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが、前記濃化層Ｂにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さの３倍以上であることにより、リフロー試験の信頼性を向上するのに有利となる。リフロー試験では、熱衝撃により接合部に大きな外力が加わることで、逆ボンディング接続のバンプ／ウェッジ接合部で不良が発生する場合が多い。濃化層内に金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上の領域が含まれることで、せん断方向の外力に対して強い性能を示すこと、また、バンプ／ウェッジ接合部が電極／バンプ接合部よりもせん断荷重に対して強い方が、熱衝撃に耐えられることが確認された。即ち、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上の領域の厚さを比較して、バンプ／ウェッジ接合部の濃化層Ａの方が電極／バンプ接合部の濃化層Ｂよりも厚い方がバランス良く熱衝撃に対応することで、リフロー試験の信頼性が向上すると考えられる。前記厚さの比率が３倍未満であれば、リフロー試験の熱衝撃に耐える効果が小さい。好ましくは、比率が５倍以上であれば熱衝撃への耐性が向上するため、低温でボンディングした試料でも高いリフロー信頼性が得られる。

バンプ表面の前記濃化層Ｃにおいて、金属Ｒの濃度が０．５ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０５〜２０μｍの範囲であることにより、ＨＡＳＴ試験での性能がさらに向上する。これは、金属Ｒの濃度が０．５ｍｏｌ％以上である領域ならば、水分、及びイオンの浸入を抑える十分な効果が期待でき、その厚さが０．０５μｍ未満では改善効果が小さく、２０μｍを超えるとバンプ上のウェッジ接合性が低下して、結果として連続ボンディング性が低下する。バンプ表面と上記投影領域にあるワイヤ表面では濃化層Ｃの厚さは異なる場合が多いが、バンプ表面の濃化層Ｃの厚さでＨＡＳＴ試験結果との関係を整理し易く、また濃化層Ｃの厚さの測定もバンプ表面の方が容易である。

電極／バンプ接合では、電極の主成分と銅とで主として構成される拡散層又は金属間化合物が形成される場合であっても、濃化層Ｂを形成することにより、シェア強度を上昇させたり、高温での接合信頼性を向上する効果が高められる。特に、ボール接合部の界面に形成された濃化層Ｂの少なくとも一部が、電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層又は金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されたボンディングワイヤの接合構造であることが望ましい。前記拡散層又は金属間化合物の内部に形成された金属Ｒの濃化層Ｂ（以下、総称して化合物濃化層Ｂと呼ぶ）は、接合界面での銅及び電極の主成分の相互拡散を制御する機能を果たすことにより、信頼性試験での耐熱性を１０℃以上高めることができる。化合物濃化層Ｂの役割のひとつに、樹脂から発生したガス又はイオン等がボール接合部の界面に移動するのを遮断するバリア機能を果たすと考えられる。接合部の界面近傍において、金属Ｒが濃化する領域が拡散層又は金属間化合物に限られる場合、即ち、導電性金属が主として前記化合物濃化層に集中する場合でも、十分な高温信頼性が得られる。さらに、拡散層又は金属間化合物に濃化する化合物濃化層と、接合界面に近い銅ボールに形成される濃化領域とが共存することにより、接合信頼性の改善効果がより一層高められる。

また、前記濃化層Ｂの少なくとも一部が拡散層又は金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成され、金属Ｒの濃度が０．５〜３０ｍｏｌ％である領域の厚さが０．０１μｍ以上であることにより、加熱による金属間化合物の腐食等を抑制して接合信頼性を向上する効果が得られる。化合物濃化層Ｂにおける金属Ｒの濃度が０．５ｍｏｌ％以上であれば腐食を抑制する十分なバリア作用があり、一方、３０ｍｏｌ％を超えるためには銅ワイヤに含まれる金属Ｒの濃度を著しく高くする等の特殊な材料となり、接合性が低下する等の弊害も多く、ワイヤボンディングの要求特性を満足できない場合があるためである。好ましくは、前記濃度範囲が２〜２０ｍｏｌ％ある領域の厚さが０．０１μｍ以上であることにより、接合信頼性を向上する効果がさらに高められる。上記濃度範囲の領域の厚さが０．０１μｍ以上であれば上述した十分な作用効果が得られ、０．０１μｍ未満では信頼性を改善する効果が安定しないことがあるためである。

前記拡散層とは、電極の主成分と銅とにより主に構成される不規則合金で、濃度勾配を有する場合が多い。前記拡散層に含まれる電極の主成分の濃度は１〜３０ｍｏｌ％の範囲であることが望ましい。この理由は、１ｍｏｌ％未満であれば、濃化層Ｂが拡散層内に形成されても、前述した接合信頼性を向上する効果が小さく、一方、３０ｍｏｌ％を超えて固溶する拡散層の形成は不安定となる場合があるためである。拡散層の内部に濃度勾配を有することも望ましい。これは、濃度勾配が熱応力の集中を緩和させることで、封止樹脂の熱膨張等の外力にも耐えて、ボール接合部が十分な接合強度を維持できるためである。例えば、電極がアルミ合金（Ａｌ−Ｓｉ、Ａｌ−Ｃｕ、Ａｌ−Ｓｉ−Ｃｕ）の場合には、拡散層とは、Ａｌを３〜２２ｍｏｌ％の領域で含有するＡｌとＣｕと金属Ｒであることが望ましい。Ａｌを３〜２２ｍｏｌ％含有するＣｕ−Ａｌ系の拡散層は、比較的容易に成長させることができ、金属Ｒを濃化しても安定しており、接合信頼性を向上する効果も高いためである。

前記金属間化合物とは、電極の主成分と銅とにより主に構成される規則合金であり、この規則性を有する点が拡散層とは異なる。平衡状態図で存在が知られている金属間化合物の内どれかの相が、ボール接合部でも形成される場合が殆どである。電極の主成分と銅とを主成分とする２元系の金属間化合物相が金属Ｒを含有する場合と、又は、電極の主成分と銅と金属Ｒとの３元系の金属間化合物相が形成される場合に分類され、どちらでも良好な接合信頼性が得られる。特に、濃化層が金属間化合物の内部に形成されていれば、接合信頼性を向上させる高い効果を得ることができ、中でも、１７５℃以上の高温加熱での寿命を１．２倍以上に延長することも可能である。

具体的な事例として、例えば、最も一般的な材質として、電極がアルミ合金（Ａｌ−Ｓｉ、Ａｌ−Ｃｕ、Ａｌ−Ｓｉ−Ｃｕ）の場合には、金属間化合物相としては、２元系の金属間化合物相ではＣｕＡｌ_２、ＣｕＡｌ、Ｃｕ_９Ａｌ_４相であることが望ましく、これらの金属間化合物の少なくともどれか一つの相の内部に導電性金属を濃化させることで接合信頼性が向上する。また、前記アルミ合金の電極上のボール接合部において、アルミと銅と該導電性金属との３元系の金属間化合物相が形成される場合には、この３元系の金属間化合物相の内部に導電性金属が濃化されていることが望ましい。好ましくは、前記導電性金属の濃度が１〜２０ｍｏｌ％であることにより、接合信頼性を向上させる高い効果が得られる。

濃度解析手法について、ボールバンプ及びボンディングワイヤの表面の濃化層の確認は、ＥＰＭＡ（電子線マイクロ分析、ＥｌｅｃｔｒｏｎＰｒｏｂｅＭｉｃｒｏＡｎａｌｙｓｉｓ）、ＥＤＸ（エネルギー分散型Ｘ線分析、ＥｎｅｒｇｙＤｉｓｐｅｒｓｉｖｅＸ−ｒａｙＡｎａｌｙｓｉｓ）、ＡＥＳ（オージェ電子分光法、ＡｕｇｅｒＥｌｅｃｔｒｏｎＳｐｅｃｔｒｏｓｃｏｐｙ）等を利用して、ボール表面を分析することで評価できる。ボール接合部の表面での濃度分布がある場合には、同一接合部の表面の２箇所以上の濃度で判定することができる。ＡＥＳでは、表面をスパッタしながら深さ方向に分析することが、上記組成、膜厚の評価に有効である。

バンプ／ウェッジ接合と電極／バンプ接合における接合断面の濃度解析について、ＥＰＭＡ、ＥＤＸ、ＡＥＳ等を用いて点分析又は線分析する手法が利用できる。分析面積は、直径０．１μｍ以上のエリア内での平均濃度で示すことが望ましく、より好ましくは１μｍ以上のエリア内での平均濃度であれば分析精度が向上する。界面濃化層の場所が特定できない場合等には、接合界面の近傍における線分析が望ましい。界面濃化層の位置が明確である場合には、点分析は簡便な手法である。点分析で濃化の有無を評価するためには、濃化領域と、ボール接合部の内部で接合界面から十分離れた領域との少なくとも２箇所で分析することが望ましい。

線分析は、基本的には、接合界面近傍を挟んだ領域を分析することが必要であり、線分析の始点、終点に関しては、拡散層又は金属間化合物が生成している場合と、生成していない場合とに分けて説明する。拡散層又は金属間化合物が生成している場合には、該拡散層又は金属間化合物の全ての層を挟んだ領域で線分析を行い、その始点、終点は、拡散層及び金属間化合物の全ての層の両端からボール側及び電極側に少なくとも２μｍ以上離れたところであることが望ましい。一方、拡散層又は金属間化合物が生成していないか、又は、その存在が明確でない場合には、ボール接合部の初期の接合界面からボール側及び電極側に少なくとも２μｍ以上離れたところを線分析の始点又は終点とすることが望ましい。こうした線分析の手法により、ボール接合部の界面に形成された濃化層を、比較的容易に確認することができる。

前記濃化層Ａ、Ｂ、Ｃの分析は、出荷された半導体の最終製品、又は電子機器に装着されて実際に使用されている半導体のいずれで行ってもよい。即ち、濃化層の濃度あるいは厚さは、前者の出荷の段階又は使用された段階のいずれの半導体を用いて、接合部の観察を行っても、本発明の範囲内であれば、その作用効果を奏するものである。

上記濃化層を形成するボンディングワイヤとしては、銅を主成分とする芯材と、該芯材の上に芯材と成分の異なる金属Ｒを主成分とする外皮層を有する複層銅ワイヤである。複層銅ワイヤを用いることで、現行のボンディング技術及び装置をそのまま利用して濃化層を形成するのが容易であることが利点の一つである。比較として、金属Ｒを添加して合金化させた単層銅ワイヤを用いることも可能であるが、濃化層を形成するための処理、工程等が必要となる場合がある。前述した所定の濃化層の形成には、複層銅ワイヤの外皮層厚さ、組成、構造等を適正化することが有効である。

また、前述した、電極／バンプ接合部の濃化層Ｂの少なくとも一部が拡散層又は金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成された接合構造を形成する手段としても、前記複層銅ワイヤにより接続することが有効である。これは、外皮層の成分、厚み、濃度勾配、組成等を調整することで、接合界面での濃化層の分布や、厚み等を制御することが容易である。例えば、濃化層Ｂを金属間化合物の内部に形成するには、外皮層の厚みを増したり、導電性金属の比率を高めたり、また、外皮層と芯材との界面に形成した拡散層の組成を制御すること、等が有効な場合が多い。また、金属間化合物の内部における濃化層Ｂの形成を助長する接続技術として、ボール形成時の雰囲気ガスに窒素ガスを用いることが有効である。これはボールを形成するためのアーク放電において、ボール表面の酸化を抑えつつ、ボール表面への導電性金属の偏析を促進することが、接合部に成長する金属間化合物の内部における濃化層の形成を促進するためと考えられる。

複層銅ワイヤの外皮層を構成する金属Ｒは、パラジウム、金、白金、銀が使用できる。好ましくは外皮層を構成する金属Ｒが、パラジウム、金、銀、及び白金から選ばれる１種以上の元素であれば、上述した濃化層の効果が高められ、さらに、逆ボンディングのループ形状の制御を安定化させる高い効果が得られる。外皮層の主成分がパラジウム、金、銀、及び白金であれば、ワイヤ表面の酸化を抑制するため、バンプ上にウェッジ接合するときに必要な超音波振動を弱くすることができる。逆ボンディングにおけるループ制御について調査した結果、前述したように、ループ形状の乱れを助長しているのが超音波振動であることが確認された。これまで困難とされていた、銅系ボンディングワイヤの逆ボンディングにおけるループ形状の安定化には、表面酸化を抑える効果の高いパラジウム、金、銀、及び白金を主成分とする外皮層により被覆された、銅を主成分とする芯材からなる複層銅ワイヤであることが有効である。より好ましくは、外皮層を構成する金属Ｒがパラジウムであることにより、ボールの形状が真球となり、サイズも安定化する高い効果が得られることで狭ピッチ接合にも好適である。

好ましくは、パラジウムを主成分とする外皮層により被覆された、銅を主成分とする芯材からなる複層銅ワイヤを用いた逆ボンディング接合構造であって、ボールバンプにおける平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａと濃化層Ｂがそれぞれバンプ／ウェッジ接合部、電極／バンプ接合部に形成されたボンディングワイヤの接合構造により，ウェッジ接合部のめくれ不良を抑制する効果が得られる。めくれ不良とは、バンプ上にウェッジ接合されてからテイルカットする際に、接合の端部からボンディングワイヤが一部剥離する現象である。このめくれ不良の原因は、バンプ上のウェッジ接合部の接合強度の低下、テイルカット長さ及びボール径のばらつき等の要因が複合的に作用することで起こると考えられる。このめくれ不良の抑制には、パラジウム被覆されたボンディングワイヤによる濃化層Ａと濃化層Ｂの同時形成により、バンプ／ウェッジ接合の荷重、超音波振動の界面への伝達が有効となることで、結果としてめくれ不良が改善される。

芯材の主成分は銅であり、純度が９９．９９ｍｏｌ％（４Ｎ）から９９．９９９９ｍｏｌ％（６Ｎ）の範囲の高純度銅、又は合金元素を添加した銅合金が使用できる。高純度銅であればボール部を軟化できるため、接合時のチップ損傷を低減するのに有効である。また好ましくは、芯材に用いる銅合金に含まれる合金元素として、Ｐ、Ｉｒ、Ｂ、Ｚｒ、Ｂｉ、Ａｇ及び希土類元素から選ばれる１種以上の添加元素を含有し、ボンディングワイヤ全体に占める該添加元素濃度が総計で０．０００１〜０．０３ｍｏｌ％の範囲であることにより、逆ボンディング接続されたボンディングワイヤの直線性が向上する。該添加元素の濃度が０．０００１ｍｏｌ％未満であれば上述の改善効果が小さくなり、０．０３ｍｏｌ％を超えると、ボール表面にシワ状の窪みが発生してボール形状が不安定になる場合がある。

外皮層の構造は、単層構造であることが望ましいが、２層構造であっても構わない。外皮層が金属Ｒを主成分とする単層構造であれば、膜厚、膜質の制御が比較的容易であり生産性が高められること、バンプ上のウェッジ接合条件の適性マージンが広がること等の利点がある。より好ましくは、パラジウム、金、及び白金のどれか一つの金属を主成分とする単層構造である外皮層であれば、ボンディングワイヤの製造工程が簡単であり、原価低減の利点がある。一方、外皮層が２層構造の場合は、上記パラジウム、金、銀、及び白金の組み合わせであれば逆ボンディングが可能であるが、好ましくは、最表層／第２層の主成分の組み合わせがパラジウム／金であれば、ボール形状、ループ制御等が最も安定することが確認された。

また、最表層／第２層の主成分の組み合わせが金とパラジウムの合金／パラジウム、または銀とパラジウムの合金／パラジウムであれば、キャピラリ内壁の磨耗を低減することで、ワイヤ表面のかすれキズの抑制、キャピラリ寿命の増加などに有効である。複雑なループ制御を行う場合などに、パラジウムだけではキャピラリ寿命が短くなり、ボンディング工程の生産性が低下する場合がある。パラジウムの特性として、表面が硬いこと、キャピラリの基本構成であるアルミナと焼き付きやすく摩擦係数が高いことなどが原因であると考えられる。パラジウム層の外側に、銀とパラジウムの合金、または金とパラジウムの合金からなる最表層を形成することにより、ワイヤがキャピラリの穴部を高速移動する際の焼き付きを軽減してキャピラリ内壁の磨耗を抑えて、キャピラリ寿命を増加することができ、結果としてワイヤのループ表面におけるかすれキズを減らすことにも有効である。好ましくは、該合金に占める銀または金の濃度について、５〜６０ｍｏｌ％の範囲であれば上記のキャピラリ寿命を向上する効果が高いが、６０ｍｏｌ％を超えるとウェッジ接合のテイルカット性が低下して、ボール径がばらつくことが懸念される。また各層の厚さに関して、好ましくは、銀とパラジウムの合金、または金とパラジウムの合金からなる最表層の厚さが、パラジウム層の厚さに対して５〜７０％の範囲であれば上記効果が顕著であり、７０％を超えるとボール形成時に芯ずれ、槍状などの不良発生頻度が増加するためである。

外皮層の厚さは０．００２〜０．８μｍの範囲であることが好ましく、これはバンプ上のウェッジ接合性を向上させることで、逆ボンディングにおけるセカンドプル強度を向上させるより高い効果が得られる。しかも、逆ボンディングのループ形状の安定化にも有利である。厚さが０．００２μｍ未満では、銅ワイヤの酸化抑制、接合性等が単層銅ワイヤよりも向上する効果が得られず、また薄過ぎて膜厚を正確にコントロールすることが困難となる場合がある。０．８μｍ超の厚膜では、ワイヤ表面の硬度が高くなるため、バンプ／ウェッジ接合の密着性を高めるのに限界があり、セカンドプル強度が期待ほど上昇しないことが懸念される。好ましくは、外皮層の厚さが０．０１〜０．４μｍの範囲であれば、逆ボンディングでのループ形状を安定化させる効果を増進できる。より好ましくは、外皮層の厚さが０．０１〜０．２μｍの範囲であれば、ウェッジ接合性を高めつつ、ボール接合部のチップ損傷を低減する効果をさらに高められる。ここで、外皮層の境界は、外皮層を構成する金属Ｒの検出濃度の総計が５０ｍｏｌ％の部位とする。よって、本発明でいう外皮層とは、外皮層を構成する金属Ｒの検出濃度の総計が５０ｍｏｌ％の部位から表面側であり、即ち、外皮層を構成する金属Ｒの検出濃度の総計が５０ｍｏｌ％以上の部位である。

外皮層を銅の芯材の表面に形成する方法には、メッキ法、蒸着法、溶融法等がある。メッキ法では、電解メッキ、無電解メッキ法のどちらでも製造可能である。ストライクメッキ、フラッシュメッキと呼ばれる電解メッキでは、メッキ速度が速く、下地との密着性も良好である。無電解メッキに使用する溶液は、置換型と還元型に分類され、膜が薄い場合には置換型メッキのみでも十分であるが、厚い膜を形成する場合には置換型メッキの後に還元型メッキを段階的に施すことが有効である。無電解法は装置等が簡便であり、容易であるが、電解法よりも時間を要する。

蒸着法では、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着等の物理吸着と、プラズマＣＶＤ（化学気相成長、ＣｈｅｍｉｃａｌＶａｐｏｒＤｅｐｏｓｉｔｉｏｎ）等の化学吸着を利用することができる。いずれも乾式であり、膜形成後の洗浄が不要であり、洗浄時の表面汚染等の心配がない。

メッキ又は蒸着を施す段階について、狙いの線径で導電性金属の膜を形成する手法と、太径の芯材に膜形成してから、狙いの線径まで複数回伸線する手法とのどちらも有効である。前者の最終径での膜形成では、製造、品質管理等が簡便であり、後者の膜形成と伸線との組み合わせでは、膜と芯材との密着性を向上するのに有利である。それぞれの形成法の具体例として、狙いの線径の銅線に、電解メッキ溶液の中にワイヤを連続的に掃引しながら膜形成する手法、あるいは、電解又は無電解のメッキ浴中に太い銅線を浸漬して膜を形成した後に、ワイヤを伸線して最終径に到達する手法等が可能である。

上記手法により形成された外皮層と芯材とを用い、外皮層中に銅の濃度勾配及び最表面に銅を露出させる工程として、加熱による拡散熱処理が有効である。これは、外皮層と芯材の界面で、銅と導電性金属との相互拡散を助長するための熱処理である。ワイヤを連続的に掃引しながら熱処理を行う方法が、生産性、品質安定性に優れている。しかし、単純にワイヤを加熱しただけでは、外皮層の表面及び内部での銅の分布を制御できる訳ではない。通常のワイヤ製造で用いられる加工歪取り焼鈍をそのまま適用しても、外皮層と芯材との密着性の低下によりループ制御が不安定になったリ、キャピラリ内部にワイヤ削れ屑が堆積して詰まりが発生したり、また、表面に露出した銅が酸化して接合強度が低下する等の問題を完全に解決することは困難である。そこで、熱処理の温度、速度、時間等の制御が重要である。

本発明に関する外皮層と芯材とを有する従来複層銅ワイヤのボンディング方法として、ボールを形成するときのシールドガスに純Ｎ_２ガスを用いても、良好なボール接合性が確認された。即ち、銅を主成分とする芯材と、該芯材の上に設けられた、芯材と、成分及び組成のいずれか一方又は両方が異なる金属Ｒ及び銅を含有する外皮層を有し、前記外皮層の厚さが０．０２１〜０．１２μｍであるボンディングワイヤを用いて、純度が９９．９５ｖｏｌ％以上のＮ_２ガスをワイヤ先端又はその周囲に吹付けながらアーク放電を生じさせてボール部を形成し、該ボール部を接合するボンディング方法である。該ボンディング方法では、標準ガスである５ｖｏｌ％Ｈ_２＋Ｎ_２ガスの代わりに、安価な純Ｎ_２ガスを使用することで、ランニングコストを低減して、銅系ボンディングワイヤの実用化を促進することができる。

本発明に関する複層銅ワイヤのボール形成に用いるシールドガスが、標準的な５ｖｏｌ％Ｈ_２＋Ｎ_２ガスでも良好なボンディング特性が得られるが、さらに、純Ｎ_２ガスでも同様の良好な特性が得られる。外皮層の厚さが０．０２１μｍ以下で薄い場合には、純Ｎ_２ガスでは偏芯ボールが発生することが問題である。また、０．１２μｍを超えると、純Ｎ_２ガスではボール表面にシワ状の突起又は微小穴等が発生して、平滑なボール表面を得ることが困難となる。こうした外皮層の厚さが０．０２１〜０．１２μｍでは、純Ｎ_２ガスでのボール形成性が良好であることも、この厚さを選定した一つの利点となる。前記外皮層の厚さの範囲の中でも０．０３５μｍ以上であれば、真球性がさらに高められる。純Ｎ_２の純度が９９．９５ｖｏｌ％以上である理由は、工業的に安価に入手できるＮ_２ガスの保証濃度の範囲であり、良好なボール形成ができるためである。

通常、５ｖｏｌ％Ｈ_２ガスを混入することで、アーク放電の安定化、溶融されたボールの酸化の抑制に効果があるとされている。それに対して、純Ｎ_２ガス中では、ボンディングワイヤを溶融してボールを形成する際に、単層銅ワイヤ、又は、従来、複層銅ワイヤでも外皮層が薄い場合には、アーク放電が不安定となったり、銅の酸化が優先的に進行することで、ボール形状が不安定となる。一方、外皮層が本発明の範囲であれば、純Ｎ_２ガス中であっても、表面近傍の金属Ｒがアーク放電を安定化させること、及び、外皮層が優先的に溶融して保護的な役割を果たすことにより、ボールの酸化を抑制できると考えられる。接合条件によっては、純Ｎ_２ガスで接合したボールの接合強度が、５ｖｏｌ％Ｈ_２＋Ｎ_２ガスの場合よりも高くなる場合も確認された。

さらに、純Ｎ_２ガスでのボール形成は、上記外皮層の厚さに加えて、外皮層を構成する金属Ｒの種類によっても、変動する傾向であった。中でも、外皮層を構成する金属Ｒがパラジウム、金、及び白金から選ばれる１種以上を主成分とする場合には、純Ｎ_２ガスでのボール形成において、真球性の向上、ボールサイズの安定化が比較的容易であることを確認した。

以下、実施例について説明する。

ボンディングワイヤの原材料として、銅は純度が約９９．９９質量％以上の高純度の素材を用い、必要に応じて合金元素としてＰ、Ｂ、Ｚｒ、Ｂｉ、Ｌａなどを適量添加した合金を溶解してインゴットを作製した。外皮層用のＰｄ、Ａｕ、Ｐｔ、Ａｇの素材には、純度９９．９９質量％以上の原料を用意した。単層銅ワイヤでは、所定の合金元素を添加して溶解してインゴットを作製した。複層銅ワイヤの作製では、ある線径まで細くした高純度銅ワイヤ又は銅合金ワイヤを芯材として予め準備して、そのワイヤ表面に異なる金属の外皮層を形成するために、電解メッキ法、無電解メッキ法、蒸着法、溶融法等を行った。濃度勾配を形成する場合は、熱処理を施した。最終の線径で外皮層を形成する場合と、ある線径で外皮層を形成してからさらに伸線加工により最終線径まで細くする方法を利用した。電解メッキ液、無電解メッキ液は、半導体用途で市販されているメッキ液を使用し、蒸着はスパッタ法を用いた。直径が約５０〜２００μｍのワイヤを予め準備し、そのワイヤ表面に蒸着、メッキ等により被覆し、最終径の１５〜７５μｍまで伸線して、最後に加工歪みを取り除き伸び値が４％程度になるように熱処理を施した。伸線速度は５〜１００ｍ／ｍｉｎの範囲で行った。必要に応じて、線径３０〜１００μｍまでダイス伸線した後に、拡散熱処理を施してから、さらに伸線加工を施した。

溶融法を利用する場合には、予め作製した芯材の周囲に、溶融した金属を鋳込む方法と、予め作製した中空円柱の中央部に溶融した銅又は銅合金を鋳込む方法とを採用した。その後、鍛造、ロール圧延、ダイス伸線等の加工と、熱処理とを行い、ボンディングワイヤを製造した。

本発明例のワイヤの熱処理について、ワイヤを連続的に掃引しながら加熱した。局所的に温度傾斜を導入する方式、温度を炉内で変化させる方式等を利用した。例えば、炉内温度を３分割して制御できるよう改造した熱処理炉を利用した。炉内温度は２００〜７００℃の範囲に設定し、ワイヤ掃引速度は１０〜５００ｍｍ／ｍｉｎの範囲で調整した。温度分布と合わせて、ワイヤ掃引速度等も適正化した。熱処理の雰囲気では、酸化を抑制する目的でＮ_２、Ａｒ等の不活性ガスも利用した。ガス流量は、０．０００２〜０．００４ｍ^３／ｍｉｎの範囲で調整し、炉内の温度制御にも利用した。熱処理を行うタイミングとして、伸線後の銅ワイヤに熱処理を施してからメッキ層を形成する場合と、熱処理を伸線後と、メッキ層の形成後の２回行う場合の、２種類で試料を準備した。

複層銅ワイヤの表面の膜厚測定にはＡＥＳによる、表面分析、及び深さ分析を行った。ワイヤ中の金属濃度は、ＩＣＰ分析、及びＩＣＰ質量分析等により測定した。

ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダー（ＡＳＭ製Ｅａｇｌｅ６０−ＡＰ型）を使用して、逆ボンディングを行った。アーク放電によりワイヤ先端に形成したボール部をシリコン基板上の電極膜に接合し、その後にボンディングワイヤを切断することで、バンプを形成した。次に、ボール部をリード電極上にボール接合してから、ループ形状を制御して、ワイヤ他端を前記バンプ上にウェッジ接合した。図２には、銅系ボンディングワイヤによる逆ボンディング接合部のＳＥＭ（走査型電子顕微鏡、ＳｃａｎｎｉｎｇＥｌｅｃｔｒｏｎＭｉｃｒｏｓｃｏｐｅ）写真の一例を示す。ボール形成時の酸化を抑制するために用いるシールドガスは、標準的な５ｖｏｌ％Ｈ_２＋Ｎ_２ガスと、純Ｎ_２ガスを用いた。ボール形状の評価以外には、基本的には標準ガスである５ｖｏｌ％Ｈ_２＋Ｎ_２ガスを利用した。ガス流量は、０．０００３〜０．００５ｍ^３/ｍｉｎの範囲で調整した。

接合相手としては、シリコン基板上の電極膜の材料である、厚さ１μｍのＡｌ合金膜（Ａｌ−１ｍａｓｓ％Ｓｉ−０．５ｍａｓｓ％Ｃｕ膜、Ａｌ−０．５ｍａｓｓ％Ｃｕ膜）を使用した。一方、ウェッジ接合の相手には、表面にＡｇメッキ（厚さ：１〜４μｍ）したリードフレーム、又はＡｕメッキ／Ｎｉメッキ／Ｃｕの電極構造の樹脂基板を使用した。

逆ボンディングの連続ボンディング性の評価では、２０００本のワイヤ接続を行い、バンプ上にウェッジ接合の不着不良回数とショートテイル不良回数で評価した。線径２５μｍによる電極間隔が８０μｍピッチ接続、線径２０μｍによる６５μｍピッチ接続、線径１８μｍによる５０μｍピッチ接続の３水準で、それぞれ連続ボンディング性を評価した。加速評価のため、不着不良の評価では荷重、超音波振動を量産条件よりも若干低く設定し、ショートテイル不良の評価では荷重、超音波振動を若干高く設定した。不着不良とショートテイル不良のそれぞれで、不良数が６回以上であれば、接合が不十分であるため×印、３〜５回であれば△印で表記し、１〜２回であれば接合条件の適正化により実用性があると判断して○印、剥離がゼロであれば十分な接合強度であることから◎印で、表２中の「連続ボンディング性」の欄に表した。

電極上にボール部を接合して形成したバンプの形状評価では、接合されたバンプを５００本観察して、形状の真円性、寸法精度等を評価した。初期ボール径／ワイヤ径の比率が１．９〜２．２の通常サイズのボールを形成する場合と、比率が１．５〜１．７の範囲である小径ボールを形成する場合の、２種類でそれぞれ評価した。真円からずれた異方性や花弁状等の不良ボール形状が８本以上であれば不良と判定し×印、不良ボール形状が３〜７本であれば、必要に応じて改善が望ましいから△印、不良ボール形状が１〜２本であれば問題ないため○印、０本の場合には良好であるため◎印で、表２中の「バンプ形状」の欄に表記した。

アルミ電極上に接合したバンプの接合強度の評価には、１７０℃の低温で接合した試料を用いた。２０本のボール接合部のシェア試験を行い、そのシェア強度の平均値を測定し、ボール接合部の面積の平均値を用いて計算した、単位面積当たりのシェア強度を用いた。単位面積当たりのシェア強度が、７０ＭＰａ未満であれば接合強度が不十分であるため×印、７０以上９０ＭＰａ未満の範囲であれば若干の接合条件の変更で改善できるため△印、９０以上１１０ＭＰａ未満の範囲であれば実用上は問題ないと判断して○印、１１０ＭＰａ以上の範囲であれば良好であるため◎印で、表２中の「シェア強度」の欄に表した。

チップ損傷の評価では、逆ボンディングを電極膜上に行った後、電極膜をエッチング除去して、絶縁膜又はシリコンチップへの損傷をＳＥＭで観察した。電極数は２００箇所を観察した。損傷が認められない場合は◎印、５μｍ以下のクラックが２個以下の場合は問題ないレベルと判断して○印、５μｍ以上２０μｍ未満のクラックが２個以上の場合は懸念されるレベルと判断して△印、２０μｍ以上のクラック又はクレータ破壊等が１個以上の場合は懸念されるレベルと判断して×印で、表２中の「チップ損傷」の欄に表した。

ループ形状安定性について、ワイヤ長が２ｍｍの汎用スパンと０．５ｍｍの短スパンの２種類で、台形ループを作製し、それぞれ５００本のボンディングワイヤを投影機により観察し、ボンディングワイヤの直線性、ループ高さのバラツキ等を判定した。ワイヤ長が短い０．５ｍｍで台形ループの形成は、チップ端への接触を回避するため、より厳しいループ制御が必要となる。ワイヤ長２ｍｍで、直線性、ループ高さ等の不良が５本以上ある場合は、問題有りと判断して×印で表し、ワイヤ長２ｍｍで不良が２〜４本で、且つ、ワイヤ長０．５ｍｍで不良が５本以上の場合には、改善が必要と判断して△印で表し、ワイヤ長２ｍｍで不良が１本以下、且つ、ワイヤ長０．５ｍｍで不良が２〜４本の場合には、ループ形状は比較的良好であるため○印で示し、ワイヤ長０．５ｍｍで不良が１本以下の場合にはループ形状は安定であると判断し◎印で、表２中の「ループ安定性」の欄に表した。

ループの直線性を評価するため、ワイヤ長が２ｍｍの汎用スパンでボンディングを行った。線径は２０μｍとする。３０本のボンディングワイヤを投影機により上方から観察して、ボール側とウェッジ側の接合部を結ぶ直線に対し、ボンディングワイヤが最も離れている部位のずれを曲がり量として測定した。その曲がり量の平均が、線径の１本分未満であれば良好であると判断し◎印で表示し、２本分以上であれば不良であるため△印、その中間であれば、通常は問題とならないため○印で、表２中の「直線性」の欄に表した。

バンプ／ウェッジ接合の強度評価には、セカンドプル試験を用いた。線径は２５μｍ、スパンは２ｍｍとする。これは、ワイヤ長の３／４よりもウェッジ接合部（セカンド接合部）に近い位置で、ループに引っ掛けたフックを上方に移動させ、ボンディングワイヤの破断強度を測定した。プル強度はボンディングワイヤの線径、ループ形状、接合条件等にも左右されるため、絶対値ではなく、プル強度／ワイヤ引張強度の相対比率（Ｒｐ）を利用した。Ｒｐが２０％以上であればウェッジ接合性は良好であるため◎印、１５％以上２０％未満であれば問題ないと判断し○印、１０％以上１５％未満であれば不具合が発生する場合があると判断して△印、１０％以上であれば量産工程で問題があるため×印で、表２中の「セカンドプル強度」の欄に表した。

ウェッジ接合部のめくれ不良の評価について、線径は２５μｍのボンディングワイヤを用いて、接合温度が２００℃、１６０℃の２水準でワイヤ接続を行い、接合部のワイヤ端でのめくれを３００本観察した。幅５μｍ以上の顕著なめくれが３個以上であれば、問題となるレベルと判定して×印、顕著なめくれが２個以下であれば、すぐに問題とならないが改善が望ましいことから△印、顕著なめくれは観察されないが、幅２μｍ以下程度の軽微なめくれが４〜１０個の範囲であれば実用上は問題ないと判断して○印、軽微な偏芯が３本以下であれば良好であるため◎印で、表２中の「めくれ」の欄に表した。

接合部の高温信頼性について、ボンディング後に樹脂封止された試料を、１５０℃と１７５℃と１８５℃とで１５００ｈｒ加熟した後に、４０本のボンディングワイヤの電気特性を評価した。１５０℃、１７５℃、１８５℃の加熱は、それぞれ汎用ＩＣ向け、車載ＩＣ用途、次世代パワーＩＣ用途等で行なわれる加熱条件を想定した。電気抵抗が初期の３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が３０％以上の場合には接合不良のため×印、電気抵抗が３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が５％以上３０％未満の範囲の場合には信頼性要求が厳しくないＩＣには使用可能なため△印、電気抵抗が３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が５％未満で且つ１．５倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が１０％以上３０％未満の場合には実用上は問題ないため○印、電気抵抗が１．５倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が１０％未満であれば良好であるため◎印で、表２中の「高温加熱試験」の欄に表した。

ＴＣＴ試験では、市販のＴＣＴ試験装置を用いた。温度履歴は過酷な環境とした標準条件（−５５℃／３０分〜１２５℃／３０分）と、極めて過酷な条件（−５５℃／３０分〜１５５℃／３０分）の２種を用いた。試験後に電気的測定を行い、電気的導通を評価した。ワイヤ数は４００本の測定を行った。不良率がゼロの場合は、信頼性が高いことから◎印、１％以下なら実用上の大きな問題はないと判断して○印、２〜５％の範囲であれば△印、５％超であれば改善が必要であることから×印で、表２中の「ＴＣＴ試験」の欄に表記した。

リフロー耐性の評価では、ワイヤボンディングと樹脂封止をした半導体試料を、リフロー炉を用いて、２６０℃で１０秒間保持し、その後に常温まで冷却する熱履歴を１０回施した。試料は、ワイヤボンディングの条件が、通常温度である２００℃で接続した場合と、厳しい条件である１６０℃の低温で接続した場合の２種類の試料でそれぞれ評価した。リフロー試験後に電気的測定を行い、電気的導通を評価した。ワイヤ数は４００本の測定を行った。不良率がゼロの場合は、信頼性が高いことから◎印、１％以下なら実用上の大きな問題はないと判断して○印、２〜５％の範囲であれば△印、５％超であれば改善が必要であることから×印で、表２中の「リフロー試験」の欄に表記した。

ＰＣＴ試験（プレッシャークッカーテスト）では、１２１℃、２気圧、湿度１００％の高温高湿環境で４００時間加熟した。その後に、４０本のボンディングワイヤの電気特性を評価した。電気抵抗が初期の３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が３０％以上の場合には接合不良のため×印、電気抵抗が３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が５％以上３０％未満の範囲の場合には信頼性要求が厳しくないＩＣには使用可能なため△印、電気抵抗が３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が５％未満で且つ１．５倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が１０％以上３０％未満の場合には実用上は問題ないため○印、電気抵抗が１．５倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が１０％未満であれば良好であるため◎印で、表２中の「ＰＣＴ試験」の欄に表した。

高温高湿バイアス試験（ＨＡＳＴ試験）では、市販のＨＡＳＴ試験装置を用いた。加熱条件は１３０℃、湿度８５％ＲＨとして、一定電圧を印加した状態で、２００時間又は４００時間加熟した。その後に、４０本のボンディングワイヤの電気特性を評価した。電気抵抗が初期の３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が３０％以上の場合には接合不良のため×印、電気抵抗が３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が５％以上３０％未満の範囲の場合には信頼性要求が厳しくないＩＣには使用可能なため△印、電気抵抗が３倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が５％未満で且つ１．５倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が１０％以上３０％未満の場合には実用上は問題ないため○印、電気抵抗が１．５倍以上に上昇したボンディングワイヤの割合が１０％未満であれば良好であるため◎印で、表２中の「ＨＡＳＴ試験」の欄に表した。

高速ボンディング性の評価では、量産に適した通常条件よりも２割速い速度でワイヤボンディングを行い、ボンダ装置の停止回数、ループ形状、接合形状などの不具合などで評価した。線径は２５μｍ、スパンは４ｍｍ、１万本のワイヤ接続で評価した。ボンダ装置の停止回数が２回以上である場合には×印、停止回数は１回である場合には△印、停止回数は０回であるが、ループ形状、接合形状などのばらつきが認められる場合には○印、停止回数は０回で、しかもループ形状、接合形状なども安定している場合には良好であるため◎印で、表３中の「高速接合性」の欄に表した。

キャピラリ寿命の評価では、１０万本分のワイヤボンディングを施した後に、キャピラリの先端の汚れ、付着物、磨耗などを光顕で観察した。線径は２５μｍ、スパンは４ｍｍとする。加速試験のため、ループ形成のリバース動作、接合の荷重、超音波などを通常条件より強く設定した。キャピラリ先端の磨耗が見られる場合は×印、磨耗はしてないが付着物が顕著である場合には△印、付着物の割合がキュビラリ先端の２割以下である場合には比較的良好であると判断して○印、付着物、汚れなどが認められない場合には良好であるため◎印で、表３中の「キャピラリ寿命」の欄に表した。

ワイヤ表面のキズの評価では、ボンディングされたループの外観観察により調査した。線径は２５μｍ、ワイヤ長を４ｍｍで、高さの狙い値が１００〜２５０μｍとなる台形ループを形成し、それぞれ１０００本のワイヤを光学顕微鏡により観察した。サイズが１０μｍ以上のキズをカウントした。キズが１０本以上の場合には問題有りと判断して×印で表し、３〜９本の範囲では改善が必要と判断して△印で表し、１〜２本の範囲であればワイヤ表面は比較的良好であるため○印で示し、０本の場合には安定して良好であると判断し◎印で、表３中の「ループ表面のキズ」の欄に表した。

バンプ形状の判定では、バンプ上にウェッジ接合を行った後に、バンプ形状を２００本観察して、形状の真円性を評価した。線径は２５μｍとする。初期ボール径／ワイヤ径の比率が１．９〜２．２の通常サイズのボールを形成した。真円からずれた異方性や花弁状等の不良ボール形状が１０本以上であれば不良と判定し×印、不良ボール形状が４〜９本であれば、必要に応じて改善が望ましいから△印、不良ボール形状が１〜３本の範囲であれば問題ないと判断して○印、不良ボール形状が０本であれば良好であるため◎印で、表３の「バンプ形状」の欄に表記した。

ウェッジ接合部の剥離強度の評価にはプル試験を用いた。線径は２５μｍ、スパンは４ｍｍとする。ワイヤ長の３／４よりもウェッジ接合部に近い位置で、ループに引っ掛けたフックを上方に移動させ、ワイヤの破断強度を測定した。プル強度はワイヤの線径、ループ形状、接合条件等にも左右されるため、絶対値ではなく、プル強度／ワイヤ引張強度の相対比率（Ｒｐ）を利用した。Ｒｐが２０％以上であればウェッジ接合性は良好であるため◎印、１５％以上２０％未満であれば問題ないと判断し○印、１０％以上１５％未満であれば不具合が発生する場合があると判断して△印、１０％未満であれば量産工程で問題があるため×印で、表３の「ウェッジ接合部の剥離強度」の欄に表記した。

ボンディングワイヤのボール接合部の表面分析及び接合界面の濃度分析には、主にＥＰＭＡ、ＥＤＸ、ＡＥＳによる点分析、線分析等を行った。直径０．１μｍ以上の領域で分析を行い、最高濃度、又は平均濃度等を利用した。実際の半導体の製造、使用等では、ボール接合した後の工程、履歴等は多種であることから、工程、熱履歴の異なる幾つかの試料で分析を実施した。例えば、ボール接合の直後、樹脂封止及びキュア加熱後、加熱試験等、信頼性評価後等の試料を用いた。また、加速加熱処理をしてから濃化層Ｂを観察する場合には、半導体素子を１７５℃で２００ｈ加熟した後に、上記の解析手法により調査した。

表１、２、３には、本発明に係わる銅系ボンディングワイヤの評価結果と比較例を示す。

請求項１に係わる接合構造は実施例２〜１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２６〜２８であり、請求項２に係わる接合構造は実施例３〜１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２７、２８であり、請求項３に係わる接合構造は実施例４〜１０、１２、１３、１５、１８、１９、２１〜２４、２６〜２８であり、請求項４に係わる接合構造は実施例３〜７、９、１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２７、２８であり、請求項５に係わる接合構造は実施例３〜１３、１５、１７、２１〜２３、２６〜２８であり、請求項６に係わる接合構造は実施例３〜１０、１２〜１７、２１〜２３、２６〜２８であり、請求項７に係わる接合構造は実施例３〜１０、１２〜１７、２１〜２３、２７、２８であり、請求項８に係わる接合構造は実施例２〜１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２３、２６〜２８であり、請求項１１に係わる接合構造は実施例２〜１０、１２、１４〜１９，２１〜２４、２６〜２８であり、請求項１２に係わる接合構造は実施例２〜１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２６〜２８であり、請求項１３に係わる接合構造は実施例２〜８、１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２６〜２８に相当する。比較例１〜８では、請求項１、６のどちらとも満足しない場合の結果を示す。

表１の「銅ワイヤ」の「芯材」の欄の表記として、純度が４Ｎ以上の高純度銅を用いたときは「Ｃｕ」と表記し、銅合金について、Ｐ０．００４ｍｏｌ％、Ｌａ０．００１ｍｏｌ％を含有する場合は「Ｃｕ合金１」、Ｂｉ０．００５ｍｏｌ％、Ａｇ０．０１ｍｏｌ％を含有する場合は「Ｃｕ合金２」、Ｉｒ０．０００５ｍｏｌ％、Ｚｒ０．００１ｍｏｌ％を含有する場合は「Ｃｕ合金３」、Ａｇ０．０００２ｍｏｌ％、Ｂ０．０００７ｍｏｌ％を含有する場合は「Ｃｕ合金４」で表記した。

それぞれの請求項の代表例について、評価結果の一部を説明する。

実施例２〜１０、１２、１３、１５〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わる、半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続する接合構造であって、ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、バンプ／ウェッジ接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度に対する割合（濃度比）が１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、電極／バンプの接合界面に金属Ｒの前記濃度比が１０倍以上である濃化層Ｂを有することにより、線径２５μｍによる電極間隔が８０μｍピッチの逆ボンディングにおいて、連続ボンディング性を向上できることが確認された。一方、比較例１〜８では、前述した濃化層Ａ及び濃化層Ｂの条件を満足しない場合であるため、逆ボンディングの連続ボンディング性は低下していた。好ましくは、実施例３〜１０、１２、１３、１５〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、濃化層Ａの前記濃度比が１００倍以上であることで、バンプ／ウェッジ接合部におけるショートテイル不良を抑制する高い効果が確認された。また、好ましくは、実施例４〜１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、濃化層Ｂの前記濃度比が５０倍以上であることで、シェア強度の向上とチップ損傷の低減を両立させる高い効果が確認された。

実施例２〜１０、１２、１３、１５〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わる、濃化層Ａと濃化層Ｂを有し、さらに濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であることにより、線径２０μｍによる６５μｍピッチでの逆ボンディングにおいて、連続ボンディング性を向上できることが確認された。

実施例３〜１０、１２、１３、１５〜１９、２１〜２４、２７、２８では、本発明に係わる、濃化層Ａと濃化層Ｂを有し、さらに濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることにより、線径１８μｍによる５０μｍピッチでの逆ボンディングにおいて、連続ボンディング性を向上できることが確認された。

実施例２〜１０、１２、１３、１５、１７〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わる、濃化層Ｂにおいて、金属Ｒの濃度が３ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜５μｍの範囲であることにより、加熱温度が１５０℃での高温信頼性を向上できることが確認された。好ましくは、実施例２、４〜１０、１２、１３、１５、１８〜２３、２６〜２８では、濃化層Ｂ内の金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜２μｍの範囲であることにより、より高温である１７５℃の高温信頼性を向上できる高い効果が確認された。

実施例４〜１０、１２、１３、１５、１８、１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わる、濃化層Ｂの少なくとも一部が、電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層又は金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されていることにより、加熱温度を１８５℃まで上昇させた厳しい高温加熱試験において、信頼性を向上できる高い効果が確認された。

実施例３〜７、９、１０、１２、１３、１５〜１９、２１〜２４、２７、２８では、本発明に係わる、濃化層Ａにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが、前記濃化層Ｂにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さの３倍以上であることにより、通常のボンディング温度である２００℃で接続した試料を用いたリフロー試験で信頼性を向上できることが確認された。好ましくは、実施例３、５、６、９、１０、１２、１３、１５〜１７、１９、２１、２７、２８では、濃化層Ａと濃化層Ｂの厚さに関する前記倍率が５倍以上であることにより、厳しい接合条件である１６０℃でワイヤボンディングした試料を用いたリフロー試験で、信頼性を向上できる高い効果が確認された。

実施例３〜１０、１２、１３、１５〜１７、２１〜２３、２６〜２８では、本発明に係わる、上記濃化層Ａと濃化層Ｂと濃化層Ｃの３種を同時に形成することにより、ＨＡＳＴ試験で２００ｈｒの長時間加熱でも信頼性を向上できることが確認された。

実施例３〜１０、１２〜１７、２１〜２３、２６〜２８では、本発明に係わる、バンプ／ウェッジ接合部の界面に前記濃度比が１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、ボールバンプの表面の４０％以上の領域、及び、ボールバンプの上に接続されたボンディングワイヤの表面の３０％以上の領域において、金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である濃化層Ｃを有していることにより、ＰＣＴ試験で高い信頼性を有することが確認された。

実施例３〜１０、１２〜１７、２１〜２３、２６〜２８では、本発明に係わる、濃化層Ａと濃化層Ｃを有し、さらに濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であることにより、ＰＣＴ試験の信頼性の向上に加えて、線径２０μｍによる６５μｍピッチでの逆ボンディングにおいて、連続ボンディング性を向上できることが確認された。

実施例３〜１０、１２〜１７、２１〜２３、２７、２８では、本発明に係わる、濃化層Ａと濃化層Ｃを有し、さらに濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることにより、ＰＣＴ試験の信頼性の向上に加えて、線径１８μｍによる５０μｍピッチでの逆ボンディングにおいて、連続ボンディング性を向上できることが確認された。

実施例３〜１０、１２〜１７、２１〜２３、２６〜２８では、本発明に係わる、バンプ表面の濃化層Ｃにおいて、金属Ｒの濃度が０．５ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０５〜２０μｍの範囲であることで、ＨＡＳＴ試験で４００ｈｒまでのより長時間の加熱における信頼性を向上できる高い効果が確認された。

実施例２〜１０、１２〜１９、２１〜２３、２６〜２８では、本発明に係わる、前記金属Ｒがパラジウム、金、白金から選ばれる１種以上の元素であることにより、セカンドプル強度を向上できることが確認された。好ましくは、金属Ｒにパラジウムが含まれる実施例２〜１０、１２〜１９、２６〜２８では、ボールバンプ形状を真円化させて改善できることが確認された。

実施例２〜１０、１２、１４〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わる、ボンディングワイヤとボールバンプとの接合界面から上下に１μｍの幅の領域において、酸素濃度が１０ｍｏｌ％以上含有される領域の厚さが０〜０．０５μｍの範囲であることにより、熱サイクル試験（ＴＣＴ試験）での信頼性を向上できることが確認された。好ましくは、実施例２〜１０、１４〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、酸素濃度が２０mol％以上含有される領域の厚さが０〜０．０３μmの範囲であることにより、ＴＣＴ試験の信頼性をさらに向上させる高い効果が確認された。

実施例２〜１０、１２〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わるボンディングワイヤでは、銅を主成分とする芯材と、金属Ｒを主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなるボンディングワイヤを用いた接合構造とすることで、現行のボンダ装置、ワイヤボンディング技術を用いて、連続ボンディングの生産性を向上したり、高温信頼性を改善する等、総合的な性能向上が容易であることが確認された。

実施例２〜１０、１２〜１９、２１〜２３、２６〜２８では、本発明に係わるボンディングワイヤでは、外皮層の主成分である金属Ｒがパラジウム、金、白金から選ばれる１種以上の元素であり、銅を主成分とする芯材とからなるボンディングワイヤを用いることで、逆ボンディングにおけるループ形状を安定化できる効果が確認された。好ましくは、実施例２〜１０、１２、１３、１５〜１９、２６〜２８では、パラジウムを主成分とする外皮層により被覆された、銅を主成分とする芯材からなる複層銅ワイヤを用いた逆ボンディング接続で、濃化層Ａと濃化層Ｂを形成することにより、めくれ不良を抑制できることが確認された。

実施例２〜８、１０、１２〜１９、２１〜２４、２６〜２８では、本発明に係わるボンディングワイヤでは、外皮層の厚さが０．００２〜０．８μｍの範囲であることで、ループ形状を安定化させる効果がより一層高められることが確認された。

実施例４、８、１２、１５、１７、２１、２３、２６では、本発明に係わるボンディングワイヤでは、芯材が銅合金１〜４のいずれかであることにより、ループの直線性が向上することが確認された。

実施例３１〜３７では、本発明に係わる、金属Ｒがパラジウムと銀、またはパラジウムと金の元素であることにより、高速接合性、キヤビラリ寿命が改善されていることが確認された。一方、実施例３８〜４０では、金属Ｒが銀、金、パラジウムの１種であり、上記のパラジウムと銀、またはパラジウムと金の元素である条件を満足しないことから、高速接合性、キヤビラリ寿命が低下していた。

実施例３１〜３７では、本発明に係わる、濃化層Ａがパラジウムと銀の合金またはパラジウムと金の合金のいずれかの領域と、パラジウムの最高濃度が８０％以上である領域を含むことにより、バンプ形状の真円化とバンプ／ウェッジ接合部の剥離強度の増加を両立することができることが確認された。

１：ボンディングワイヤ
２：バンプ（スタッドバンプ）
３：電極
４：半導体素子
ａ：バンプ／ウェッジ接合の接合界面
ｂ：電極／バンプ接合の接合界面

Claims

半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続するボンディングワイヤの接合構造であって、前記ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、前記ボールバンプと前記ボンディングワイヤとの接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、前記ボールバンプと前記電極との接合部の界面に金属Ｒの濃度が、前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ｂを有すると共に、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であり、前記濃化層Ｂにおいて、金属Ｒの濃度が３ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜５μｍの範囲であり、前記金属Ｒがパラジウム、金、白金、銀から選ばれる１種以上の元素であり、前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、金属Ｒを主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなることを特徴とするボンディングワイヤの接合構造。
前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることを特徴とする請求項１に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記濃化層Ｂの少なくとも一部が、前記電極の主成分と銅とを主成分とする拡散層又は金属間化合物の少なくともどちらかの内部に形成されていることを特徴とする請求項１又は２に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記濃化層Ａにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが、前記濃化層Ｂにおける金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さの３倍以上であることを特徴とする請求項１〜３のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記接合構造において、前記ボールバンプの表面の４０％以上の領域及び、前記ボールバンプの上に接続された前記ボンディングワイヤの表面の３０％以上の領域において、金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である濃化層Ｃが形成されたことを特徴とする請求項１〜４のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。
半導体素子の電極上に形成したボールバンプの上にボンディングワイヤを接続する接合構造であって、前記ボンディングワイヤ及び前記ボールバンプは銅を主成分とし、前記ボールバンプと前記ボンディングワイヤとの接合部の界面に銅以外の金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の１０倍以上である濃化層Ａを有し、且つ、前記ボールバンプの表面の４０％以上の領域及び、前記ボールバンプの上に接続された前記ボンディングワイヤの表面の３０％以上の領域において、金属Ｒの濃度が前記ボールバンプにおける金属Ｒの平均濃度の５倍以上である濃化層Ｃを有すると共に、前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が１０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０１〜４μｍの範囲であり、バンプ表面の前記濃化層Ｃは、金属Ｒの濃度が０．５ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．０５〜２０μｍの範囲であり、前記金属Ｒがパラジウム、金、白金、銀から選ばれる１種以上の元素であり、前記ボンディングワイヤは、銅を主成分とする芯材と、金属Ｒを主成分とし前記芯材を被覆する外皮層とからなることを特徴とするボンディングワイヤの接合構造。
前記濃化層Ａにおいて、金属Ｒの濃度が５０ｍｏｌ％以上である領域の厚さが０．００５〜０．８μｍの範囲であることを特徴とする請求項６に記載のボンディングワイヤの接合構造。
金属Ｒがパラジウム、金、及び白金から選ばれる１種以上の元素であることを特徴とする請求項１〜７のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。
金属Ｒがパラジウムと銀、またはパラジウムと金の２種の金属であることを特徴とする請求項１〜７のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記濃化層Ａがパラジウムと銀との合金、またはパラジウムと金との合金のいずれかの合金領域と、パラジウムの最高濃度が８０ｍｏｌ％以上である領域とを含むことを特徴とする請求項９に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記ボンディングワイヤと前記ボールバンプとの接合界面から上下に１μｍの幅の領域において、酸素濃度が１０ｍｏｌ％以上含有される領域の厚さが０〜０．０５μｍ（０μｍを含まない）の範囲であることを特徴とする請求項１〜１０のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記外皮層の主成分である金属Ｒがパラジウム、金、銀、及び白金から選ばれる１種以上の元素であることを特徴とする請求項１〜１１のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。
前記外皮層の厚さが０．００２〜０．８μｍの範囲であることを特徴とする請求項１〜１２のいずれか１項に記載のボンディングワイヤの接合構造。