発明の背景
発明の分野
本発明は、インクジェット記録方法に用いられるクリアインク組成物に関し、より詳細には、各種記録媒体、とりわけ合成紙や印刷本紙などの吸水性の低い記録媒体においても、定着性に優れ、かつ印刷斑のない高品質な記録物を得ることができるインクジェット記録用インク組成物に関する。
背景技術
インクジェット記録方法は、インク小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで銀塩写真やオフセット印刷によってのみ実現されてきた高精細印刷の分野にまでインクジェット記録方法が用いられるようになっている。それに伴い、銀塩写真やオフセット印刷の分野で用いられてきた印画紙やアート紙等に匹敵する高光沢性の記録媒体、いわゆる専用紙をインクジェット記録に使用して、銀塩写真並の光沢感を有する画像を実現できるインクジェット記録用のインクが開発されている。また、普通紙を用いた場合であっても、銀塩写真並の画質を実現できるインクジェット記録用のインクが開発されている。
また、高品質の画像を実現するために、インク組成物と供に、着色剤を含まないクリア組成物を記録媒体に付着させて記録を行うことが提案されている。例えば、特開2003−335058号公報(特許文献1)には、着色剤を含むインク組成物により画像を形成し、その画像上にクリアインク組成物を付着させることが提案されている。
ところで、近年、デジタルデータからの画像形成技術が普及したことに伴い、特に印刷分野では、デスクトップパブリッシング(DTP)が普及しつつある。DTPにより印刷を行う場合であっても、実際の印刷物との光沢感や色感を確認するために、事前に色校正用プルーフを作製することが行われている。このプルーフの出力に、インクジェット記録方式を適用することが行われており、DTPにおいては印刷物の色再現、安定性再現が求められることから、記録媒体として、通常、インクジェット記録用の専用紙が使用されている。
インクジェット記録用の専用紙は、印刷本紙に実際に印刷した出力物と光沢感や色感が同じになるように作製されている。このように、印刷本紙の種類に応じて専用紙の材質が適宜調整されているが、多種多様の印刷本紙に全て対応した専用紙を作製するのは製造コストの上昇を招く。そこで、色校正用途においては、専用紙よりも印刷本紙にインクジェット記録を行いたいとの要望がある。また専用紙を用いずに、直接印刷本紙にインクジェット記録を行ったものを最終校正見本とできれば、校正にかかるコストを大幅に低減できると考えられる。また、印刷分野で広く使用されている、ポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂に無機フィラー等を混合してフィルム化した合成紙は、リサイクル性に優れ、環境に優しい材料として近年注目されている。
印刷本紙は、その表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙であるが、塗工層のインク吸収能力が乏しいという特徴を有する。そのため、インクジェット記録に一般的に用いられている水性の顔料インクを使用すると、記録媒体(印刷本紙)へのインクの浸透性が低く、画像に滲みや凝集むらが生じる場合がある。
上記の問題に対し、例えば、特開2005−194500号公報(特許文献2)には、界面活性剤としてポリシロキサン化合物を用い、溶解助剤として1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオールを添加することにより、滲みが改善され、かつ専用紙に対する光沢性にも優れる顔料系インクが開示されている。また、特開2003−213179号公報(特許文献3)、特開2003−253167号公報(特許文献4)、特開2006−249429号公報(特許文献5)には、グリセリンや1,3−ブタンジオール等のジオールやペンタントリオール等のトリオールアルコール溶剤をインク中に添加することにより、インクの記録媒体への浸透性を制御し、高品質な画像が得られることが提案されている。
特開2003−335058号公報
特開2005−194500号公報
特開2003−213179号公報
特開2003−253167号公報
特開2006−249429号公報
発明の概要
本発明者らは、今般、クリアインク組成物の溶剤として、難水溶性のアルカンジオールと難水溶性のアルカンジオールの溶解助剤としての水溶性アルコールとを含むアルコールを用い、そのインク組成物の表面張力を26mN/m以下とすることにより、カラーインク組成物とクリアインク組成物とを付着させる記録媒体として印刷本紙のような低吸液性の記録媒体を用いた場合であっても、白筋やザラツキ感のない高品質な画像を実現でき、かつ印刷直後に優れた定着性を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
したがって、本発明の目的は、カラーインク組成物とクリアインク組成物とを付着させる記録媒体として印刷本紙のような低吸液性の記録媒体を用いた場合であっても、白筋やザラツキ感のない高品質な画像を実現できかつ印刷直後に優れた定着性を実現できるクリアインク組成物を提供することである。
そして、本発明によるクリアインク組成物は、難水溶性のアルカンジオールと、前記難水溶性のアルカンジオールの溶解助剤としての水溶性アルコールと、水と、ポリマー微粒子とを少なくとも含んでなり、かつ、着色剤を含まないクリアインク組成物であって、インクの10Hz動的表面張力が26mN/m以下である。
本発明によれば、カラーインク組成物とクリアインク組成物とを付着させる記録媒体として印刷本紙のような低吸液性の記録媒体を用いた場合であっても、白筋やザラツキ感のない高品質な画像を実現でき、かつ印刷直後に優れた定着性を実現できる。
発明の具体的説明
<定義>
本明細書において、アルカンジオールは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。
また、水溶性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0g以上であることを意味し、難水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満であることを意味する。
<クリアインク組成物>
本発明によるクリアインク組成物は、難水溶性のアルカンジオールと、前記難水溶性のアルカンジオールの溶解助剤としての水溶性アルコールと、水と、ポリマー微粒子とを少なくとも含んでなり、かつ、着色剤を含まないものである。そして、クリアインク組成物の10Hz動的表面張力が26mN/m以下である。このように、特定のアルコール成分を含み、かつ表面張力を26mN/m以下とすることにより、印刷本紙、とりわけインク吸収能力の比較的高い、アート紙、POD用途紙(例えば、リコー株式会社製のリコービジネスコートグロス100等)、レーザープリンタ専用紙(例えば、セイコーエプソン株式会社製、LPCCTA4等)において、インクの凝集が抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現でき、吐出安定性にも優れたインク組成物を実現できる。なお、本明細書中、10Hz動的表面張力とは、例えば、動的表面張力計BP-2(KRUSS製)等を用いて、室温にて10Hzで測定した値を意味する。
また、凝集とは、面として印刷した際(例えば6インチ四方に単色(インクの色数のことではない)で印刷した際)に発生する、局所的な同系色の濃度斑のことを意味し、記録媒体表面または着色インク膜表面がインクによって被覆されない部分が残存することを意味するものではない。また、白筋とは、面として印刷した際(例えば6インチ四方に単色で印刷した際)に、局所的な同系色の色濃度斑がなく、記録ヘッドの駆動方向に、記録媒体の表面または着色インク膜表面がインクで被覆されない部分が筋上に残る現象を意味する。また、ザラツキ感または埋まり不良とは、上記と同様に面として印刷した際に、局所的な同系色の色濃度斑がなく、かつ記録媒体の表面がインクで被覆されない部分が残存し、記録媒体の表面または着色インク膜表面がざらざらとした粒状感がある現象を意味する。
上記のように、定のアルコール成分を含み、かつ10Hz動的表面張力を26mN/m以下とすることにより、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
印刷本紙に記録する場合に発生するインクの凝集は、インクドットの表面張力が高く、印刷本紙表面とインク滴との接触角が高いために、印刷本紙がインクを弾いてしまうことが原因であると考えられる。低解像度記録した場合に白筋や埋まり不良が発生するような場合であっても、印刷本紙表面に付着したインクの表面張力を低減させると、インクの凝集は抑制される。
また、低解像度記録における白筋や埋まり不良は、印刷本紙表面に付着したインクドットが隣接するインクドットと接触して、互いに濡れ広がり、相互に未乾燥のインクが流動することが原因であると考えられる。この相互のインク流動は、隣接するインクドットどうしの付着時間差や付着時の液滴の大きさなどによって、インクドットの乾燥時間が異なることによるものと考えられる。したがって、インクの凝集が抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像を実現するためには、表面張力が低く、かつ流動性の低いインクを、印刷本紙に付着させることが好ましいと考えられる。
ところが、インクの流動性を低減させるために浸透性湿潤剤を用いないと、印刷本紙表面に付着したインクドットの乾燥が速まり、また、インクの吸収も速まるため、付着したインクドット同士が濡れ広がる時間が失われ、その結果、低解像度記録において白筋や埋まり不良が発生するものと考えられる。
本発明においては、クリアインク組成物の10Hz動的表面張力を26mN/m以下とすることにより、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる。この理由は定かではないが、クリアインクには色材が含まれないため固形分が少なく、一般的に流動性が高い。よって、この高い流動性を抑制するために、インクを極めて低い表面張力とすることが必要となる。印刷本紙等の記録媒体に付着したインク液滴は、記録媒体中に浸透するのに10秒程度を要する。そのため、インクの1Hzの表面張力が低いだけではなく、10Hzの表面張力も低い必要がある。
泡圧法の1Hz表面張力とは、1秒間あたりの泡の寿命、換言すれば、泡に対してインクの流動が許容される程度を表している。すなわち、インク液滴が印刷本紙の表面に付着した後、1秒後のインクの流動性を表している。よって、泡圧法の10Hzの表面張力が低いと、インクの流動性は低く、凝集が抑制されると考えられる。なお、表面張力とは、一般的には、白金プレート引き上げ法により測定した値を意味し、泡圧法の1Hzの測定値に対応するものである。
また、本発明においては、インクの10Hz動的表面張力と1Hz動的表面張力との差を1mN/m以下とすることが好ましい。このように、周波数に依存しない表面張力を有することにより、周波数に依存しない表面張力を有することより、さらに凝集斑を抑制することができる。上記したように、1Hz表面張力が低い場合は、インクの流動性も低いと考えられる。しかしながら、インクジェット記録は、ドット描画であり、記録ヘッドを多駆動させて、ドットを重ね合わして画像を形成するため、インクが記録媒体に浸透するまでの10秒の間に、隣接するドットが重なり合う状態で記録媒体に付着する場合もある。このようにドットが重なるようにインクが吐出される場合、先に形成されたドットに、次のインク液滴が付着するまでの時間は一定ではなく、インクの流動性に時間依存性があると、濡れ拡がりに違いが生じ、凝集斑として画質を劣化させてしまうと考えられる。本発明においては、インクの10Hz動的表面張力と1Hz動的表面張力との差が1mN/m以下であるため、記録媒体に付着した直後のインクの流動性と、ある程度インクが浸透した後の流動性とが極端に変化しないため、凝集斑がより改善される。
本発明においては、難水溶性のアルカンジオールとしては、炭素数7以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールであり、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールはより好ましい。
また、上記難水溶性アルカンジオールを溶解させる溶解助剤としての水溶性アルコールとしては、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチル−1,5−ペンタントリオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオールや、これらを2種以上混合したもの等が挙げられる。
これらの中でも、15%水溶液とした場合の表面張力が28mN/m以下の水溶性アルカンジオールがより好ましく、印刷中の臭気の観点から、1,2−ヘキサンジオール(表面張力:26.7mN/m)が特に好ましい。
難水溶性のアルカンジオールと水溶性アルコールとの含有量比は、5:3〜1:5であることが好ましく、より好ましくは5:3〜1:1である。この範囲とすることにより、難水溶性のアルカンジオールをインク中に安定的に溶解させることができ、ひいては吐出安定性が向上する。一方、水溶性アルコールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減と凝集斑低減の両立が困難になる。また、水溶性アルコールの割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルカンジオールをインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。
難水溶性のアルカンジオールは、インク組成物全体に対し、2.0〜5.0重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0重量%である。2.0重量%よりも少ないと、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において、印刷斑が生じる場合がある。一方、5.0重量%を超えると、インク中に完全に溶解しない場合がある。
水溶性アルコールは、インク組成物全体に対し、3.0〜10.0重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4.0〜7.0重量%である。3.0重量%よりも少ないと、難水溶性のアルカンジオールをインク中に溶解させることができない場合がある。一方、10.0重量%を超えると、インクの初期粘度が高くなる場合があり好ましくない。
本発明によるクリアインク組成物は、樹脂を含んでなることが好ましい。樹脂を含有することにより、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が得られるとともに、記録画像の発色性や光沢性に優れた記録物が得られる。
<ポリマー微粒子>
本発明によるクリアインク組成物はポリマー微粒子を必須成分として含有する。ポリマー微粒子を含有することにより、記録画像の印刷直後の定着性が改善できる。
ポリマー微粒子としては、(i)スルホン酸エステル基含有重合体、(ii)変性ポリオレフィンエマルジョン、(iii)ポリオレフィンワックス、からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。スルホン酸エステル基含有重合体を含有することにより、記録面が擦過された場合の光沢斑を有効に抑制することができる。また、変性ポリオレフィンエマルジョンを含有することにより、記録物を重ね合わせた場合の、裏面への転写が抑制できるとともに、記録面の耐擦性が向上する。特に、変性ポリオレフィンエマルジョンは、インク膜を柔らかくする作用を有し、記録面に圧力がかかった場合には、インク膜自体が潰れることによりインク中の成分の結着力が高まるため、耐擦性が向上するものと考えられる。さらに、ポリオレフィンワックスを添加することにより、記録面へ傷が付くのを抑制することができる。これらのポリマー微粒子は、1種以上含まれていてもよい。
スルホン酸エステル基含有重合体は、エチレン性不飽和モノマーを、親水性基と疎水基とラジカル反応性基とからなる反応性乳化剤の存在下で乳化重合して得られるものであるであることが好ましい。
このような樹脂を含有することにより、銀塩写真と同等の光沢感を有しながら、定着性や、耐光性、耐ガス性にも優れる記録画像が実現できる。この理由は定かではないが以下のように考えられる。但し、あくまでも仮定であってこれに限定されるものではない。すなわち、エチレン性不飽和モノマーを反応性乳化剤の存在下で乳化重合させることにより、インク乾燥時に過剰な界面活性能力を発現してしまう遊離乳化剤を使用する場合と比較して、樹脂溶液に残存する遊離の乳化剤の量を低減できる。従って、水系インク組成物中の遊離した乳化剤の量が低減される。また、反応性乳化剤が親水性基を有するため、遊離した反応性乳化剤と分散樹脂とがインク組成物中で良好に相溶する。また、連鎖移動剤を各種モノマー配合時に添加し、その後に重合開始剤と接触させることにより、低分子量化される。以上の理由により、銀塩写真と同等の光沢感を有しながら、定着性や、耐光性、耐ガス性にも優れる記録画像が実現できるものと考えられる。
ここで、「反応性乳化剤」とは、乳化重合可能な程度の乳化能を有し、かつ、ラジカル重合可能である乳化剤を意味する。
反応性乳化剤は、親水基、疎水基、およびラジカル反応性基により構成される化合物である。親水基としては、硫酸エステル基、カルボン酸基、ポリオキシエチレン基等が挙げられる。これら親水基のなかでも、特に、硫酸エステル基、ポリオキシエチレン基が好ましく、特に、硫酸エステル基とポリオキシエチレン基の両方を有するものが好ましい。
反応性乳化剤を構成する疎水基としては、例えば、炭素数が5〜20の脂肪族アルキル基もしくは芳香族基等が好ましく、これらの中でも、8〜15の脂肪族アルキル基等がより好ましい。
また、反応性乳化剤を構成するラジカル反応性基としては、例えば、アクリル基、メタアクリル基、アリルオキシ基、メタアリルオキシ基、プロペニル基等のエチレン性不飽和基が挙げられ、これらの中で特に、アリルオキシ基、プロペニル基が好ましい。
本発明において使用される反応性乳化剤の一例として、下記のような化合物を好適に使用できる。
(式中、RはC5〜C20のアルキル基を表し、nは5〜40の整数を表す)
親水基がアニオン性官能基である反応性乳化剤として、具体的には、ラテムルS−180A(花王社製)、エレミノールJS−2(三洋化成社製)、アクアロンKH−10、アクアロンHS−10、アクアロンBC−10(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE−10N(旭電化工業社製)等を好適に使用できる。また、親水基がカチオン性官能基である反応性乳化剤も好適に使用できる。さらに、親水基が非イオン性官能基である反応性乳化剤としては、アクアロンRS−20(第一工業製薬社製)、アデカリアソープER−20(旭電化工業社製)等を好適に使用できる。上記の反応性乳化剤は、単独で使用してもよく、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。
インク組成物中に含まれる反応性乳化剤の含有量は、後述する樹脂エマルジョンの粒子径にもよるが、エチレン性不飽和モノマー100重量部に対し、0.5〜5重量部であることが好ましく、0.5〜3重量部であることがより好ましい。この範囲で反応性乳化剤が含まれることにより、乳化重合反応を安定的に行うことができ、樹脂の乳化も充分なものとなる。また、インク組成物に添加した場合に泡立ちの問題を生じることもない。
本発明によるインク組成物においては、上記反応性乳化剤に加えて、陰イオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、陽イオン性乳化剤、両性イオン乳化剤、または水溶性樹脂等の非反応性の乳化剤を添加してもよい。非反応性乳化剤を併用することにより、エマルジョンの保存安定性が改善される場合がある。
陰イオン性乳化剤としては、例えば高級アルコール硫酸エステルのアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸のアルカリ金属塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステル塩などが挙げられる。
また、非イオン性乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、糖鎖を親水基とするアルキルエーテルなどを挙げられる。
陽イオン性乳化剤としては、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニウムクロライドなどを挙げられる。
両性イオン乳化剤としては、ラウリルベタインなどを挙げられる。
水溶性樹脂としては、芳香族系単量体とカルボキシル基を含む単量体とを共重合させて得られるポリカルボン酸系重合体のアルカリ中和物や、ポリビニルアルコール、酵素分解澱粉などを挙げられる。
これら非反応性の乳化剤は、単独で使用してもよく、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。
インク組成物中に含まれる非反応性乳化剤の含有量は、エチレン性不飽和モノマー100重量部に対し5重量部以下であることが好ましい。ただし、非反応性乳化剤として水溶性樹脂を使用する場合においては、非反応性乳化剤の含有量はエチレン性不飽和モノマー100重量部に対し50重量部以下であることが好ましい。
本発明によるインク組成物を構成する樹脂は、上記反応性乳化剤の存在下で、エチレン性不飽和モノマーを乳化重合して得られるものである。使用するエチレン性不飽和モノマーとしては特に制限はなく、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,2−ヘキサジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサンジエン、1,5−ヘキサジン、2,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,2−ヘプタジエン、13、−ヘプタジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−ヘプタジエン、2,3−ヘプタジエン、2,5−ヘプタジエン、3,4−ヘプタジエン、3,5−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどのジエン系モノマー、スチレン、α-メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジビニルスチレンなどの芳香族モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヘチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸i−ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルアミド、酢酸ビニル、プロピロン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物、モノアルキレステル、モノアミド類、アミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ブチルアミノエチルアクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステル、アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミノなどのエチレン性不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド、(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系化合物、グリシジル(メタ)アクリレートなどの不飽和脂肪族グリシジルエステル等を使用でき、これらのモノマーは、単独で用いても、二種以上を併用して用いてもよい。
上記のモノマーのなかでも、1,3−ブタジエン、イソプレン、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル系モノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルを好適に使用でき、特に(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
また、上記エチレン性不飽和モノマーは、アルコキシシラン基、エポキシ基、水酸基、またはポリエチレンオキサイド基等の官能基を有しているものであってもよい。このような官能基を有することにより、樹脂のインク組成物中の各成分との相溶性を向上させることができる。これらの中でも、特にアルコキシシラン基を有するモノマーが好ましく用いられる。
アルコキシシラン基含有モノマーとしては、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが挙げられる。また、エポキシ基含有モノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。水酸基含有モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。ポリエチレンオキサイド基含有モノマーとしては、例えば、ブレンマーPE200(日本油脂社製)として入手可能はポリエチレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。
上記官能基含有モノマーは、モノマー中に10重量%以下、好ましくは5重量%以下含まれていることが好ましい。
上記で説明したエチレン性不飽和モノマーを、親水性基と疎水基とラジカル反応性基とからなる反応性乳化剤の存在下で乳化重合することにより、樹脂が得られる。
乳化重合は、エチレン性不飽和モノマー100重量部に対して、反応性乳化剤を0.5〜5重量部、水を100〜5,000重量部の割合で混合し、その混合物にエチレン性不飽和モノマーとラジカル重合開始剤とを添加して、重合温度5〜100℃で0.1〜10時間反応させることにより行う。重合温度は30〜90℃が好ましく、また重合時間は2〜5時間とするのが好ましい。
ラジカル重合剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどの有機ハイドロパーオキサイド類からなる酸化剤と、含糖ピロリン酸処方/スルホキシレート処方の混合処方の還元剤とを組み合わせたものであるレドックス系開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2−カルバモイルアザイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤、および、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物を好適に使用できる。これらの中でも有機過酸化物が好ましい。
また、乳化重合に際しては、必要に応じて、他の乳化剤や有機溶剤などを使用してよい。また、エチレン性不飽和モノマーの添加方法は、特に制限されるものではなく、一括添加法、連続添加法、または分割添加法等の任意の方法により行うことができる。
本発明においては、反応性乳化剤に加え連鎖移動剤の存在下でエチレン性不飽和モノマーを乳化重合することが好ましい。連鎖移動剤の併用により、より一層、光沢感、定着性、耐光性、および耐ガス性に優れる記録画像が得られる。この理由は定かではないが、乳化重合時に樹脂の高分子末端に連鎖移動剤が結合することによるためと考えられる。ただし、あくまでも仮定であって、これに本発明が制限されるものではない。
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲンジスルフィド類、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類、四塩化炭素、臭化エチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ペンタフェニルエタン、1,1−ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマーなどの炭化水素類、および、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテンなどが挙げられる。これらの中でも、メルカプタン類、キサントゲンジスルフィド類、チウラムジスルフィド類、四塩化炭素、1,1−ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー、2−エチルヘキシルチオグリコレートを使用することが好ましい。上記連鎖移動剤は、単独で使用しても、二種以上を併用して用いてもよい。
連鎖移動剤の添加量は、エチレン性不飽和モノマーと反応性乳化剤との合計100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜7重量部、より好ましくは0.2〜5重量部、特に0.3〜3重量部であることが好ましい。連鎖移動剤の添加量を上記範囲とすることにより、より記録物の光沢性がより向上するとともに充分な耐擦性を有する。
このようにして得られた樹脂は、重合溶液中でエマルジョンの形態で存在する。本発明のインク組成物においては、上記樹脂は、インク組成物中でエマルジョンの形態で存在することが好ましい(以下、樹脂エマルジョンともいう)。樹脂エマルジョンの平均粒子径は10〜100nmであることが好ましく、30〜60nmであるのがより好ましい。平均粒子径が100nmを超えると、貯蔵安定性が不十分となり、電着により薄く均一な被膜を形成することが困難となる。またインク組成物の各成分との相溶性が低下する。一方、平均粒子径が10nm未満では、重合安定性が著しく低下する。上記平均粒子径は、モノマーの種類や配合比さらには連鎖移動剤や乳化剤の添加量により調整することができる。なお、本発明において、平均粒子径とは、Photal PAR−III(大塚電子社製)により測定された値を意味する。
このようにして得られたスルホン酸エステル基含有重合体の重量平均分子量は1万〜10万であることが好ましく、3万〜7万であることがより好ましい。このように比較的低分子量の樹脂とすることにより、インク乾燥時にエマルジョンが容易に融着できる。樹脂の重量平均分子量は、重合開始剤の種類および添加量、連鎖移動剤の使用等により、調整することができる。
次に、変性ポリオレフィンエマルジョンとしては、転写抑制の観点から、重量平均分子量(Mw)が1,000〜50,000のポリオレフィンを不飽和カルボン酸又はその無水物で変性させた後、これを塩基性化合物及び乳化剤の存在下で水中に分散させて得たものであることが好ましい。 不飽和カルボン酸は、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸であることが好ましい。
上記変性ポリプロピレンエマルジョンとしては、低分子量ポリプロピレンを、加熱反応又は有機過酸化物を用いた公知の方法等で変性して得られたものが挙げられる。例えば、不活性ガス雰囲気中、低分子量ポリプロピレンを芳香族系溶剤又は塩素系溶剤の存在下で、あるいは、パーオキシド類ラジカル発生触媒の存在下で、加熱溶解し、不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフトさせて変性して得られる。
また、市販の変性ポリオレフィンエマルジョンを使用することもでき、例えば、上記低分子量ポリプロピレンを低分子ポリエチレンに変更したものであるAQUACER515(ポリエチレン系ワックス、粒径100〜200nm、融点130℃、固形分30%:ビックケミージャパン(株)製)を好適に使用できる。
ポリマー微粒子であるポリオレフィンワックスは、インク組成物の被記録面への吐着により形成される膜の乾燥膜厚よりも大きい粒径を有するものであることが好ましい。インク膜よりも突出した粒子として被記録面に付着することにより、記録面に圧力がかかった際にポリオレフィンワックス粒子が自ら潰れて、インク膜最表面の滑りを良くすることができると考えられる。すなわち、クリアインク組成物が記録媒体に付着して乾燥すると、図1に示すように、インク塗膜2からポリオレフィンワックス粒子1が突出した状態となる。この状態で、記録画像に摩耗の原因となる外的要因の影響が与えられた場合、図2に示すように、ポリオレフィンワックス粒子1の突出部分が膜表面に広がる。この広がったワックスにより記録画像が摩耗を受けにくくなり、耐擦性が発現するものと考えられる。
ポリオレフィンワックスの粒径は、76nm以上、特に150nm以上、とりわけ200nm以上、中でも200nm〜1μmであることが好ましい。なお、ポリオレフィンワックスの粒径とは、マイクロトラック法で測定した粒子直径(平均値)をいう。
上記ポリオレフィンワックスは、インクの被記録面へ固着した膜に粒子として残留しやすい点で、その融点若しくは環球法軟化点(JIS K 2207)が110℃以上、特に110〜150℃であることが好ましい。
また、ポリオレフィンワックスは、その針入度法硬度(JIS K 2207)が1以上であることが好ましく、より好ましくは2〜5である。
ポリオレフィンワックスとしては、インク組成物を被記録面へ吐着させた際に形成される膜(記録画像等の塗膜)中において所定粒径の粒子の状態を保持し得る限り特に制限されるものではなく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造したワックス及びそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等の単独または複数種が挙げられる。
また、ポリオレフィンワックスとしては、市販されているものを利用することも可能であり、その具体例として、「ケミパールW4005」(ポリエチレン系ワックス、粒径200nm〜800nm、環球法軟化点110℃、針入度法硬度3、固形分40%、三井化学社製)等のケミパールシリーズを好適に用いることができる。なお、特開2003−201436号公報に記載されているポリオレフィンワックスも好適に使用することができる。
本発明によるクリアインク組成物は、上記した3種の樹脂のうち、1種以上を含んでいてもよく、他の樹脂と併用してもよい。例えば、変性ポリオレフィンエマルジョンおよびポリオレフィンワックスにスルホン酸エステル基含有重合体を併用すると、変性ポリオレフィンエマルジョンやポリオレフィンワックスが擦過により過度に潰れてしまうことが抑制され、また、屈折率変化を調整する効果があるため光沢斑が抑制され、かつポリマー微粒子の定着性が向上する。
<界面活性剤>
本発明によるクリアインク組成物は、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。記録媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の記録媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷本紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような記録媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリード)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。
本発明において用いられる界面活性剤としては、オルガノポリシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、記録画像を形成する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。オルガノポリシロキサン系界面活性剤を用いた場合、上記したような三種類のアルコール溶剤を含有するため、界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、吐出安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
上記のような界面活性剤は市販されているものを用いてもよく、例えば、PD−501、PD−502、PD−570(いずれも、日信化学工業株式会社製)等を用いることができる。
また、オルガノポリシロキサン系界面活性剤として、下記式(I):
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜11の整数を表し、mは2〜50の整数を表し、nは1〜5の整数を表す。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなるか、または、上記式(I)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜5の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。また、上記式(I)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜8の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。あるいは、上記式(I)の化合物において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数、であり、mが0であり、nが1である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。このような特定のオルガノポリシロキサン系界面活性剤を使用することにより、記録媒体として印刷本紙に印刷した場合であっても、インクの凝集むらがより改善される。
上記式(I)の化合物においては、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがより好ましい。このような化合物を使用することによって、より一層インクの凝集むらが改善できる。
また、上記式(I)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、または、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
また、上記式(I)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
さらに、上記式(I)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが6〜12の整数、であり、mが0であり、nが1である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
また、上記式(I)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
さらに、上記の式(I)においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0であり、nが1である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
上記界面活性剤は、本発明によるクリアインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.50重量%含有される。また、Rがメチル基である上記界面活性剤と、Rが水素原子である上記界面活性剤を併用した方が、小さなフォント文字が滲まないので、より好ましい。特に、Rがメチル基である上記界面活性剤を使用する場合は、RがHである上記界面活性剤を用いた場合よりも、含有量を多くすることが、インクの凝集斑の観点から、好ましい。
さらに、Rがメチル基である上記界面活性剤に対して、RがHである上記界面活性剤の含有量を多くするほど、より好ましい。このようにすることで、キャストコート紙のような、インクを弾き易く、浸透速度が遅い、印刷本紙においても、インクの凝集斑と滲みを改善することができる。
本発明によるクリアインク組成物には、その他の界面活性剤、具体的には、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加しても良い。
これらのうち、アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は市販品も利用することができ、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(商品名、日信化学社製)、サーフィノール61、104,82,465,485あるいはTG(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
<水、その他の成分>
本発明によるクリアインク組成物は、上記した特定のアルコール溶剤、その他の各種添加剤を含有するとともに、溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
また、本発明によるクリアインク組成物は、上記成分に加えて、浸透剤を含んでなることが好ましい。
浸透剤としては、グリコールエーテル類を使用できる。
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノールなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として用いることができる。
上記グリコールエーテル類のなかでも、多価アルコールのアルキルエーテルが好ましく、特にエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが好ましい。より好ましくは、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルである。
上記浸透剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20重量%程度である。
また、本発明によるクリアインク組成物は、上記成分に加えて、記録媒体溶解剤を含んでいてもよい。
記録媒体溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの、ピロリドン類を好適に使用できる。上記記録媒体溶解剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20重量%程度である。
また、本発明によるクリアインク組成物においては、湿潤剤を実質的に含まないことが好ましい。湿潤剤は、インクジェットノズル等において、インクが乾燥して固化するのを防ぐ機能を有するものであるため、フィルムのインク吸収性能の低い合成紙にインクを滴下すると、インクが乾燥せず、高速印刷の際に問題となる場合がある。また、湿潤剤は含まれるインクを用いた場合、吸収されないインクが記録媒体表面に存在している状態で、次のインクが記録媒体上に付着するため、凝集斑が発生する場合がある。
そのため、本発明においては、このようなインク吸収性能の低い記録媒体を用いる場合に、湿潤剤を実質的に含まない方が好ましい。なお、インクジェットノズルにおいてインクが乾燥固化してしまった場合であっても、湿潤剤を含む溶液を適用することにより、固化したインクを再溶解させることができる。
特に、インク吸収性の低い合成紙等に適用する場合には、20℃において液体状態にある湿潤剤を、実質的に含まないことが好ましい。
本明細書において湿潤剤とは、通常のインクジェット記録用インクに用いられている湿潤剤を意味し、具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール等の炭素数3〜5の水溶性アルカンジオール類や、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン等である。これらの中でも、10Hz表面張力への影響の観点からは、グリセリンが好ましい。また、実質的に含まないとは、これら湿潤剤の添加量が、インク組成物に対して1重量%未満であることを意味する。なお、上記した浸透溶剤の一部は、湿潤剤としても作用することは、当業者にとって明らかであるが、本明細書においては、上記した浸透溶剤は、湿潤剤には含まれないものとする。
本発明によるインク組成物は、さらにノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
さらに、pH調整剤、溶解助剤または酸化防止剤の例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。
また、本発明によるクリアインク組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤を含んでいてもよく、その例としては、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のTinuvin 328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252 153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024、ランタニドの酸化物等を挙げることができる。
インクセット
本発明によるインクセットは、上記したクリアインク組成物と、ブラックインク組成物と、イエローインク組成物と、マゼンタインク組成物と、シアンインク組成物とを少なくとも含むものである。そして、使用するカラーインク組成物である、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物の少なくとも1つが、10Hz動的表面張力が26mN/m以下であるものを用いることが好ましく、上記カラーインク組成物が、10Hz動的表面張力と1Hz動的表面張力との差が1mN/m以下であるものを用いることがより好ましい。このようなカラーインク組成物と上記のクリアインク組成物とを組み合わせて用いることにより、記録媒体として印刷本紙のような低吸液性の記録媒体を用いた場合であっても、白筋やザラツキ感のない高品質な画像を実現でき、かつ印刷直後に優れた定着性を実現できる。
本発明において好ましく用いられるブラックインク組成物について説明する。
ブラックインク組成物に含まれる顔料としては、例えば、ランプブラック(C.I.ピグメントブラック6)、アセチレンブラック、ファーネスブラック(C.I.ピグメントブラック7)、チャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等の炭素類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられるが、本発明においては、カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラックとして、具体的には、#2650、#2600、#2300、#2200、#1000、#980、#970、#966、#960、#950、#900、#850、MCF-88、#55、#52、#47、#45、#45L、#44、#33、#32、#30、(以上、三菱化学(株)製)、SpecialBlaek4A、550、Printex95、90、85、80、75、45、40(以上、デグッサ社製)、Regal660、RmogulL、monarch1400、1300、1100、800、900(以上、キャボット社製)、Raven7000、5750、5250、3500、3500、2500ULTRA、2000、1500、1255、1200、1190ULTRA、1170、1100ULTRA、Raven5000UIII(以上、コロンビアン社製)等が挙げられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブラック6および/またはC.I.ピグメントブラック7を用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
本発明によるインクセットに使用されるブラックインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6重量%以上であることが好ましい。
本発明において好適に使用できるブラックインク組成物は、アルコール溶剤として、水溶性のアルコール溶剤と、難水溶性のアルコール溶剤との少なくとも二種類の有機溶剤を含む。これら二種類のアルコール溶剤を必須成分として含むことにより、印刷本紙、とりわけインク吸収能力の比較的高い、アート紙、POD用途紙(例えば、リコー株式会社製のリコービジネスコートグロス100等)、レーザープリンタ専用紙(例えば、セイコーエプソン株式会社製、LPCCTA4等)において、インクの凝集が抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる。
本発明において使用される水溶性のアルコール溶剤は、特に限定されないが、水溶性のアルカンジオールを一種もしくは二種以上、または水溶性のアルカンジオールを一種もしくは二種以上と水溶性のアルカントリオールを一種もしくは二種以上とを組み合わせて用いることが好ましい。
前記水溶性のアルカンジオールは、主鎖の炭素数が4〜6のアルカンジオールを一種以上含んでなるものが好ましく、さらに好ましくは分岐鎖を有してもよい1,2−アルカンジオールと、分岐鎖を有してもよい1,3−アルカンジオールとを含んでなるものが好ましい。例えば、前記水溶性のアルカンジオールは、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。これらの中でも、15%水溶液とした場合の表面張力が28mN/m以下の水溶性のアルカンジオールがより好ましく、1,2−ヘキサンジオール(表面張力:26.7mN/m)、4−メチル1,2−ペンタンジオール(表面張力:25.4mN/m)、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール(表面張力:26.1mN/m)が特に好ましい。印刷中の臭気の観点からは、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
前記水溶性のアルカントリオールは、グリセリンのような粘調性を示す物質である。また、前記水溶性のアルカントリオールはグリセリンよりも低い表面張力を示す浸透性潤滑剤である。例えば、10%水溶液とした場合の1,2,6−ヘキサントリオールの粘調性は、の表面張力が54mN/mであり、また、10%水溶液とした場合の3−メチルペンタン−1,3,5―トリオール(東京化成工業社製、CAS:7564−64−9)は49mN/mである。
また、前記水溶性のアルカントリオールとしては、主鎖の炭素数が5以上のアルカントリオールが好ましく、例えば、1,2,6−ヘキサントリオールまたは3−メチルペンタン−1,3,5―トリオール等が挙げられる。これらの中でも、特に、インクの間欠印字性の観点からは、1,2,6−ヘキサントリオールが好ましく、また、インクの定着性の観点からは、3−メチルペンタン−1,3,5―トリオールが好ましい。
本発明において使用される難水溶性のアルコール溶剤は、アルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7以上のアルカンジオールであり、さらに好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールであり、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールはより好ましい。
上記した二種類のアルコール溶剤において、難水溶性のアルコール溶剤と水溶性のアルコール溶剤との含有量比は、1:1〜1:6であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:3である。この範囲とすることにより、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることができ、ひいては吐出安定性が向上する。一方、水溶性のアルコール溶剤の割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減と凝集斑低減の両立が困難になる。また、水溶性のアルコール溶剤の割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。
さらに、前記難水溶性のアルコール溶剤と前記水溶性のアルカンジオールとの含有量比は、1:1〜1:6であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:3である。この範囲とすることにより難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることができ、ひいては吐出安定性が向上する。一方、前記水溶性のアルカンジオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減と凝集斑低減の両立が困難になる。また、前記水溶性のアルカンジオールの割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。
また、難水溶性のアルコール溶剤と前記水溶性のアルカントリオールとの含有量は、1:1〜1:8であることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:6である。この範囲とすることにより、インクの初期粘度を低下させることができ、かつ良好な目詰まり回復性を実現できる。一方、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度が高くなり、乾燥性が低下する。また、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも少ないと、目詰まり回復性が悪化し、乾燥性が高まるためインクの濡れ広がる時間を確保できなくなるため、記録媒体をインクが被覆できなくなり、白筋が発生しやすくなる。
また、前記水溶性のアルカンジオールと前記水溶性のアルカントリオールとの含有量比は、2:1〜1:18であることが好ましく、1:1〜1:3であることがより好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙に低解像度で印刷した場合に、白筋やザラツキ感をより抑制することができる。一方、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度が高くなり、乾燥性が低下する。また、前記水溶性のアルカントリオールの割合が上記範囲よりも少ないと、目詰まり回復性が悪化し、乾燥性が高まるためインクの濡れ広がる時間を確保できなくなるため、記録媒体をインクが被覆できなくなり、白筋が発生しやすくなる。
さらに、本発明において、難水溶性のアルコール溶剤と水溶性のアルコール溶剤との含有量の和が、インク組成物に対し、11重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において凝集班を生じることなく、また吐出安定性にも優れる。
また、本発明において、難水溶性のアルコール溶剤と前記水溶性のアルカンジオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、11重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において凝集班を生じることなく、また吐出安定性にも優れる。
さらに、本発明において、難水溶性のアルコール溶剤と、前記水溶性のアルカントリオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、11重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において凝集班を生じることなく、また吐出安定性やカール抑制が良好となる。
一方、水溶性のアルコール溶剤は、インク組成物全体に対し、1〜11重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4〜8重量%である。4重量%よりも少ないと、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に溶解させることができない場合がある。一方、8重量%を超えると、インクの初期粘度が高くなる場合があり好ましくない。
難水溶性のアルコール溶剤は、インク組成物全体に対し、1〜3重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.5重量%である。1重量%よりも少ないと、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体において、印刷斑が生じる場合がある。
一方、3重量%を超えると、インク中に完全に溶解しない場合がある。
水溶性のアルカンジオールは、インク組成物全体に対し、1〜11重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは3〜8重量%である。3重量%よりも少ないと、難水溶性のアルコール溶剤をインク中に溶解させることができない場合がある。一方、8重量%を超えると、インクの初期粘度が高くなる場合があり好ましくない。
水溶性のアルカントリオールは、インク組成物全体に対し、1〜11重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは3〜8重量%である。3重量%よりも少ないと、印刷本紙に低解像度で印刷した場合に、白筋やザラツキ感を生じる場合がある。一方、8重量%を超えると、印刷直後の印刷物の乾燥性が劣ることがある。
ブラックインク組成物は、必須成分として界面活性剤を含む。記録媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の記録媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷本紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような記録媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリード)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。界面活性剤としては、上記のクリアインク組成物に使用するものと同様のものを使用することができる。
ブラックインク組成物には、顔料を分散させるための分散剤として、スチレン−アクリル酸系共重合樹脂、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含んでなることが好ましい。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエンなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いてもよい。
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
前記疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
これら共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは10〜50重量部であり、一層好ましくは10〜35重量部である。
また、本発明においては、顔料分散剤として、ウレタン樹脂を用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる。ウレタン樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂であるが、本発明においては、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
前記ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
また、本発明においては、顔料分散剤として、フルオレン系樹脂を使用することもできる。
前記共重合樹脂および前記ウレタン樹脂の重量比(前者/後者)は、1/2〜2/1が好ましいが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、1/1.5〜1.5/1であることが一層好ましい。
前記顔料の固形分と、顔料以外の固形分と、の重量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/20〜100/80であることが好ましい。
前記共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは10〜50重量部であり、一層好ましくは10〜35重量部である。
前記ウレタン樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは10〜40重量部であり、一層好ましくは10〜35重量部である。
前記フルオレン系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜200重量部であり、一層好ましくは10〜80重量部である。
前記共重合樹脂および前記ウレタン樹脂の合計量は、前記顔料100重量部に対して、90重量部以下(さらに好ましくは70重量部以下)となるように用いられることが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに光沢性に一層優れたカラー画像を形成できる点で好ましい。
前記共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
前記ウレタン樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。
前記共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜3万であり、より好ましくは2,000〜2万である。
前記ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
前記共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好ましくは50〜130℃である。
前記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
前記共重合樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合と、があり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
また、前記フルオレン樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら制限されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
シクロヘキサン、5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチル(CAS No.4098−71−9)
エタノール、2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビス(CAS No.117344−32−8)
プロピオン酸、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチル(CAS No.4767−03−7)
エタンアミン、N,N−ジエチル−(CAS No.121−44−8)
また、分散剤として、界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、スルホ琥珀酸エステル塩、ナフテン酸塩、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、第四アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウムなどの陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。上記した界面活性剤はインク組成物に添加されることで、界面活性剤としての機能をも果たすことは言うまでもない。
また、水、その他の成分も、上記したクリアインク組成物と同様のものを使用することができる。
本発明において、好適に使用できるイエローインク組成物は、顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントイエロー74,110,128、129、および147からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。特に、C.I.ピグメントイエロー74および129を混合して用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
本発明によるインクセットに使用されるイエローインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6重量%以上であることが好ましい。
マゼンタインク組成物に添加される、アルコール溶剤、界面活性剤、分散剤、および水、その他の成分等については、上記のブラックインク組成物と同様のものを添加することができる。
本発明によるインクセットに使用されるマゼンタインク組成物に含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントレッド122,202,209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。特に、γ型C.I.ピグメントバイオレット19およびC.I.ピグメントレッド202の固溶体を顔料として用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
ここで、「γ型C.I.ピグメントバイオレット19およびC.I.ピグメントレッド202の固溶体」とは、γ型C.I.ピグメントバイオレット19と、C.I.ピグメントレッド202とが固体で互いに溶けた状態をなす結晶を意味する。
上記固溶体のγ型C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド202との量比は本発明の範囲内で適宜調整できるが、γ型C.I.ピグメントバイオレット19の重量がC.I.ピグメントレッド202の重量よりも大きいことが好ましい。
本発明によるインクセットに使用されるマゼンタインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6重量%以上であることが好ましい。
マゼンタインク組成物に添加される、アルコール溶剤、界面活性剤、分散剤、および水、その他の成分等については、上記のブラックインク組成物と同様のものを添加することができる。
本発明によるインクセットに使用されるシアンインク組成物に含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブルー15:3および/または15:4を用いることが好ましく、とりわけ、C.I.ピグメントブルー15:3を用いることにより、さらに良好な色相の画像を実現できる。
本発明によるインクセットに使用されるシアンインク組成物の顔料固形分濃度は、特に制限はないが、記録画像における発色性を確保する観点から、6重量%以上であることが好ましい。
シアンインク組成物に添加される、アルコール溶剤、界面活性剤、分散剤、および水、その他の成分等については、上記のブラックインク組成物と同様のものを添加することができる。
インクジェット記録方法
本発明によるインクジェット記録方法は、インク組成物として、上記のクリアインク組成物と、イエローインク組成物と、マゼンタインク組成物と、シアンインク組成物とを少なくとも用い、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うものである。
インク液滴の記録媒体への付着順序としては、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させた後、クリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させてもよく、逆にクリアインク組成物の液滴を記録媒体に付着させた後、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴を記録媒体に付着させてもよい。さらに、ブラックインク組成物、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、またはシアンインク組成物のいずれかの液滴と、クリアインク組成物の液滴とを、実質的に同時に記録媒体に付着させてもよい。ここで、実質的に同時とは、プリンタの同一のヘッド内で、異なるノズル列から、同一駆動内で印刷することを言う。
本発明による記録方法においては、記録媒体として合成紙や印刷本紙を用いることが好ましく、とりわけ、アート紙、POD(プリントオンデマンド)用途に用いられる高画質用紙およびレーザープリンタ用の専用紙において、低解像度にて印刷した場合でも、白筋やザラツキ感のない高品質な画像が実現できる。POD用途の高画質用紙としては、例えば、リコービジネスコートグロス100(リコー株式会社製)等が挙げられる。また、レーザープリンタ用の専用紙としては、例えばLPCCTA4(セイコーエプソン株式会社製)等が挙げられる。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
<クリアインク組成物>
ポリマー微粒子(スルホン酸エステル基含有重合体)の調製
下記の各成分を2リットルビ−カ−に仕込み、100rpmで10分間攪拌し、モノマー乳化液を得た。
エチレン性不飽和モノマー:メチルメタクリレート 348g(58部)
ブチルアクリレート 240g(40部)
アクリル酸 12g(2部)
反応性乳化剤:アクアロンKH−10の15%水溶液 30g
(第一工業製薬社製、硫酸エステル基およびポリオキシエチレン基を含有)
連鎖移動剤:2−エチルヘキシルチオグリコレート 6g
水: 450g
次に、水520gおよび上記と同様の反応性乳化剤15%水溶液90gを、2Lセパラブルフラスコに投入し、180rpmで攪拌しながら60℃に昇温し、過硫酸アンモニウム2gを仕込んで70℃へ昇温した。
この反応性乳化剤水溶液中に、重合温度75℃を維持したまま3時間かけて、上記で得られたモノマー乳化液を逐次添加して乳化重合を行った。その後、重合溶液を80℃に昇温して1時間熟成させた後、冷却した。次いで、重合溶液に10%アンモニア水溶液を添加して中和し、pHが7.3となるよう調整した。
得られたポリマー微粒子の平均粒子径造膜温度、および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、平均粒子径が50nmであり、造膜温度は15℃であり、Mw=45,000であった。なお、平均粒子径はPhotal PAR-III(大塚電子社製)を用いて測定し、造膜温度は造膜温度試験器(理学工業社製)を用いて測定した。また、重量平均分子量は、標準ポリスチレンを検量線として、GPC装置(SC8010(GPC)、東ソー社製)を用いて測定した。測定条件は以下の通りとした。
・溶離液:テトラヒドロフラン
・カラム:G4000HXL(東ソ−社製)
・流速 :1000μL/分
・カラム温度:40℃
下記表1の組成に従い各成分を混合することにより、クリアインクを調製した。
なお、表中の界面活性剤Xは、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物からなる界面活性剤である。
また、界面活性剤Yは、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物からなる界面活性剤である。
また、界面活性剤Zは、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0であり、nが1である化合物からなる界面活性剤である。
<評価>
表面張力の測定
上記の各クリアインクについて、10Hzおよび1Hzでの動的表面張力を測定した。測定には、動的表面張力計BP-2(KRUSS社製)を用い、20℃環境下で行った。
測定結果は、表2に示される通りであった。
凝集斑の評価
上記で得られた各クリアインクをインクジェットプリンタ(PX−G900、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)に、720×720dpiの解像度で印刷を行った。この際の印刷条件として、記録ヘッドの1駆動によって720×360dpiの解像度となるような単方向の記録方法において7ngのドット重量となるように、インクの吐出量の調整を行った。なお、駆動ヘッドは200cpsである。
得られた記録物において、凝集斑の有無を目視により判別した。判別基準は以下の通りとした。
A:凝集斑および埋まり不良による白筋がない。
B:凝集斑はないが、埋まり不良による白筋がある。
C:凝集斑および埋まり不良による白筋がある。
評価結果は、表2に示される通りであった。
耐擦性の評価
下記組成のブラックインクと、上記で得られた各クリアインクとを、インクジェットプリンタ(PX−G900、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、まず、印刷本紙であるOKトップコートプラス(王子製紙製)に、ブラックインクを用いて、720×720dpiの解像度、1ドット7ngのドット重量で、3mg/inch2でベタ印刷を行い、続いて、黒色ベタ印刷物上に、クリアインクを、720×720dpiの解像度、1ドット3ngのドット重量で、1.0mg/inch2でオーバーコートした後、常温で放置して乾燥させた。
<ブラックインク組成物>
グリセリン 5.0重量%
1.2-ヘキサンジオール 1.0重量%
1.2-オクタンジオール 2.0重量%
1.2.6-ヘキサントリオール 6.0重量%
界面活性剤* 0.3重量%
スチレン−アクリル酸系樹脂 1.2重量%
フルオレン系樹脂 1.2重量%
C.I.ピグメントブラック7 6.0重量%
純水 残量
計 100.0重量%
なお、上記の界面活性剤は、オルガノポリシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(I)において、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物とを混合した界面活性剤である。
その後、学振型摩擦堅牢試験機(AB−301 COLOR FASTNESS RUBBING TESTER、TESTER SANGYO.,LTD製)を用いて、荷重500g×10回の試験を行い、転写評価、光沢斑の評価および耐傷性評価を行った。
転写評価基準は以下の通りとした。
A:摩擦紙への転写OD値が0.1以下に達する時間が10分未満である。
B:摩擦紙への転写OD値が0.1以下に達する時間が10分以上4時間未満である。
C:摩擦紙への転写OD値が0.1以下に達する時間が4時間以上である。
また、光沢斑の評価は、摩擦試験前後の印刷物の光沢を目視により評価することにより行った。光沢の評価基準は以下の通りとした。
A:試験前の状態よりも光沢が向上して見える部分がない。
B:試験前の状態よりも光沢が向上して見える部分がある。
さらに、摩擦試験前後の印刷物表面の傷を目視により評価した。耐傷性の評価基準は以下の通りとした。
A:0.5mm以上の筋状の傷がない。
B:0.5mm以上の筋状の傷が1〜2本ある。
C:0.5mm以上の筋状の傷が3本以上ある。
ポリオレフィンワックスを含むクリアインク組成物を被記録面へ吐着させて形成された吐着乾燥直後の記録画像の塗膜を模式的に示す断面図である。
図1の塗膜表面に摩耗要因を付与した後の記録画像の塗膜を模式的に示す断面図である。