つぎに、本発明をより具体的に説明する。本発明は、エンボス加工を施すべき加工対象物を、外型に押し付けた状態で外型に沿って移動させつつ回転させることによりエンボス加工を行う方法およびその方法を実施するように構成された装置であり、その装置はその外型と、その外型に加工対象物を押し付けつつ回転させる内型とに特徴がある。そこで先ず、加工対象物を内型によって外型に押し付けつつ回転させための装置について説明する。
図1はその装置の全体的な構成を示しており、ここに示すエンボス成形装置1は、ツーピース缶やスリーピース缶、ツーピース缶の底部を縮径してからネジ部を成形し、そのネジ部に蓋をキャッピングするボトル型缶等を対象としてエンボス成形するように構成されている。またここに示す例は、スリーピース缶などの製造工程の途中で缶胴の外面側に施された印刷デザインに合わせてエンボス加工を行なう場合にも適用できる。以下、缶胴の外面に印刷デザインが施された製造途中の缶(例えばツーピース缶用の円筒状缶等)2を例に採って説明する。先ず缶2をインフィードターレット3を介して、メインターレット4の外縁部に円周方向に沿って等間隔に連続的に送り込み、図2に示すように、メインターレット4の回転により円周方向に間隔を置いた状態で連続的に搬送しながら、ランダムに供給された缶2の印刷デザインを位置合わせ調整範囲において位置合わせしてから、搬送経路に近接して配設されたエンボス加工部(外型)5において印刷デザインに合わせて缶2の缶胴にエンボス加工を行なった後、ディスチャージターレット6によって連続的に後の工程に送り出すものである。
図1に示すように、基台7には、上記のメインターレット4を支持しているメインシャフト8が回転自在な状態で立設されている。そのメインシャフト8の中間部分にメインターレット4の回転中心部が一体的に取り付けられており、メインシャフト8を回転駆動軸としてメインターレット4が回転するように構成されている。そのメインターレット4の外縁部には、複数本のマンドレル9がその中心軸線を上下方向に向けて、かつ円周方向に一定の間隔をあけて回転自在に支持されている。
それらのマンドレル9には、メインターレット4の上面側に突出する上部にエンボス加工用の内型9aが一体的に装着されている。また、メインターレット4の下面側に突出する下部にギア部分9bが一体的に形成されており、それぞれのギア部分9bは、メインターレット4の回転によるマンドレル9の移動軌跡に対応する一つの大径のインナーギア10に噛合している。なお、そのインナーギア10は基台7の上面に取り付けられている。
また、缶2を吸着して保持するためのアッパーチャック11が、各マンドレル9の軸線方向の上方に設けられている。さらに、缶2を回転させるためのスピニングチャック12が、内型9aの下方でマンドレル9を囲むように回転自在に挿着されている。そして、スピニングチャック12をギアを介して回転駆動するためのACサーボモーター13が、マンドレル9よりも内側でメインターレット4に取り付けられている。一方、缶胴の外面に施されたマークを検出するためのLED発光タイプのカラーマークセンサー14が、スピニングチャック12の上方でマンドレル9の内型9aの最下端部近傍に配設されている。
メインターレット4の上方には、基台7から固定的に立設されたアッパーフレーム15が、その中心部にメインシャフト8を回転自在に貫通させた状態で設置されている。そのアッパーフレーム15の周壁の内側には、カラーマークセンサー14の検出結果に基づいてACサーボモーター13の回転駆動を制御するためのコントロールボックス16が、防振動ゴム17を介してメインシャフト8に一体的に設置されている。さらに、コントロールボックス16の中央部空間内のメインシャフト8の上端部には、回転側(メインシャフト8)にあるコントロールボックス16と固定側にある電源とを接続するためのスリップリング17が取り付けられている。
上記のアッパーフレーム15の周壁外面には、前述したアッパーチャック11を上下動させるためのアッパーチャックスライドカム18が取り付けられている。また、各マンドレル9毎に設けられている各アッパーチャック11は、それぞれのアッパーチャックスライドホルダー19により水平方向で回転自在に支持されている。その各アッパーチャックスライドホルダー19は、何れも、マンドレル9の近傍でメインターレット4上に立設されたガイドロッド20に上下動可能に嵌挿されている。そして、各アッパーチャックスライドホルダー19に設けられているローラー19aが、アッパーチャックスライドカム18のカム溝18aに係合している。
したがって、メインターレット4が回転すると、その外縁部に設けられているマンドレル9がメインシャフト8を中心にして旋回する。その場合、マンドレル9の下部のギア部分9bが、基台7上に取り付けられているインナーギア10と噛合しているために、マンドレル9はメインターレット4の回転によって円周方向に移動しながらメインターレット4と同期的に自転する。前工程からコンベアにより連続的に搬送されてきた各缶(缶胴の外面に印刷デザインが施された製造途中の缶体)2は、缶胴の印刷デザインの位置がランダムな状態のまま、インフィードターレット3を介して、メインターレット4と共に回転しているマンドレル9の上方に送り込まれる。
すなわち、インフィードターレット3とメインターレット4が上下に重なった受け渡し位置において、缶2はその上方に位置するアッパーチャック11によって吸着される。その状態でアッパーチャック11が下降することにより缶2は下方にスライドさせられ、アッパーチャック11の下方に位置するマンドレル9に上方から嵌挿される。
なお、アッパーチャック11の上下動作は、前述したアッパーチャックスライドカム18のカム溝18a内をローラー19aが移動することにより行われる。すなわち、アッパーフレーム15に固定されているアッパーチャックスライドカム18の外周側を、アッパーチャックスライドホルダー19がメインターレット4と共に回転すると、そのアッパーチャックスライドホルダー19に取り付けられているローラー19aがカム溝18a内を走行するので、カム溝18aの形状に追従しててローラー19aおよびこれが取り付けられているアッパーチャックスライドホルダー19が旋回しつつ上下動する。
マンドレル9の内型9aの部分に上方から嵌挿された缶2は、アッパーチャック11とスピニングチャック12とにより挟持され、僅かな間隔をもって内型9aを囲むように保持される。その状態でACサーボモーター13を回転させることにより、ACサーボモーター13にギアを介して連動するスピニングチャック12が回転する。そのスピニングチャック12はマンドレル9およびこれと一体の内型9aに対して相対回転できるようになっているので、缶2はマンドレル9(内型9a)の回転とは関係なくスピニングチャック12の回転に連れて回転させられる。
スピニングチャック12により回転されている缶2は、メインターレット4が回転していることによりその円周方向に移動する。その移動の過程、すなわち上述した受け渡し位置からエンボス加工部(外型)5に至るまでの搬送経路において、缶胴に施された位置決め用のマークをカラーマークセンサー14により検出し、その検出結果に基づくコントロールボックス16からの指令によりACサーボモーター13の回転が停止する。こうしてスピニングチャック12の回転を停止かつ固定することにより、缶胴の印刷デザインの位置合わせが行なわれる。
缶胴の印刷デザインの位置合わせを完了した缶2は、サーボロックされたままでエンボス加工部5に送り込まれる。その結果、マンドレル9と一体になっている内型9aとその外周側にレール状に配置されているエンボス加工部である外型5とにより缶2の缶胴が挟み込まれ、その状態でマンドレル9の回転と共に外型5に合わせて缶2が回転することによって、その缶胴の印刷デザインの位置に合わせてエンボス加工が施される。そして、エンボス加工終了時に(エンボス加工範囲の最後で)ACサーボモーター13のサーボロックが解除されてスピニングチャック12の回転がフリーとなる。
このようにして缶胴にエンボス加工が施された缶2は、ディスチャージターレット6とメインターレット4とが上下に重なった受け渡し位置において、缶2を吸着しているアッパーチャック11が、アッパーチャックスライドカム18のカム溝18aに案内されて上昇することにより、上方にスライドされてマンドレル9から上方に引き抜かれ、ついでディスチャージターレット6に受け渡されて、後工程に送り出される。
上述したエンボス成形装置1で使用される内型9aは、缶2の側壁に模様を付与するための凹部を外周面に有しており、例えば図3に示すようにエンボス凹部が円周方向に連続して形成されている。
また、この装置を構成する部品精度、ギア部分のバックラッシュや内型外径のバラツキ、缶胴内径のバラツキなどによる周長ズレによるエンボス未成形部分が生じないように缶胴側壁を弾性体で圧接させたまま1回転以上回転させてエンボス成形の開始部分を再成形する構成を備えている。これによってエンボス未成形部分のないエンボス模様を成形することができる。なお、エンボス成形の開始部分は、平滑なラバー材を表面に有する外型(後述する)で側壁を挟み込むため滑りやすく不安定なエンボス成形となりやすい。そのため少なくともエンボス模様が1ピッチ分重なる所まで回転させてエンボス成形するのが好ましい。
したがって、エンボス成形の開始領域には、エンボス成形の終了段階で再度圧接力が作用し、この部分(領域)に重複してエンボス成形が施される。ところが、同じ圧接カでエンボス成形を重複して施すと、周長ズレに伴う外観上の問題のほかに重複してエンボス成形された箇所のエンボス深さが他の部分より深くなることが種々の実険から明らかになった。このエンボス深さの差が僅かなものであっても、缶胴壁厚が薄い場合には、その後のネックイン加工や巻締め加工において軸方向の荷重が作用した時に応力集中して挫屈しやすくなり、缶胴素材の合理化の一つの阻害要因すなわち材料薄肉化の障害となる。そこで、本発明では、このように重複したエンボス成形のために作用させる圧接力のうち、第一回目の圧接力と第二回目の圧接力とのうちの何れか一方またはその両方の前記弾性体による圧接力を、重複してエンボス成形が施されない箇所に作用する前記弾性体の圧接力より弱くし、その結果、外観性を向上させると共に缶胴側壁の全周に亘り均一な深さのエンボス模様を形成するように構成されている。
さらに、その有効成形工程に続いて圧接力を徐々に減少させる離反工程を有する構成にすることにより弾性体へのダメージを減少させることができる。
より具体的に説明すると、本発明の装置では、外型5が特殊構造となっている。図3は外型5の横断平面図であり、図4は外型5の縦断側面図であって、メインターレット4が回転することに伴って旋回する缶2の旋回軌跡の外側に、その旋回軌跡に沿ってベースプレート(固定部材)21が配置されている。そのベースプレート21の正面すなわち缶2の旋回軌跡側の面に押圧部材22が取り付けられている。この押圧部材22は、缶2の旋回方向でのほぼ中央部が円弧状に窪み、その両側がほぼ平面状に形成された剛性がある程度高い板状の部材であり、その円弧状に窪んだ部分の曲率半径は、内型9aの外周面の旋回半径とほぼ同じになっている。また、この押圧部材22は、缶2の旋回方向で複数(図に示す例では二つ)に分割されており、各分割片22a,22bはベースプレート21に個別にボルト止めされている。これらの各分割片22a,22bは、缶2の側壁に作用させる押圧力を調整するために、内型9aに対して進退可能に構成されている。すなわち、圧接力調整手段が設けられており、これは図に示す例では、ベースプレート21と分割片22aとの間に介在させられるシム23である。このシム23の厚さを調整することにより内型9aに対する押圧部材22aとの距離が調整され、それに伴って缶2に第一回目に作用させる押圧力すなわち圧接力を押圧部材22aによる基準圧接力に対し調節できるように構成されている。
このように押圧部材22を分割片22a,22bによって構成しているのは、缶2を1回転以上回転させることにより、エンボス成形の開始部分に、エンボス成形の終了段階に再度成形加工力を作用させ、一部重複させてエンボス加工を行うことに伴って、エンボス加工が一回だけ行われる箇所と、二回行われる箇所とが生じ、そのいわゆる二度打ちされる重複領域に対応して圧接力を調整できるようにするためであり、したがってその各分割片22a,22bの境界位置すなわち分割面は、缶2が1回転した後、再度エンボス成形が施される箇所と一回しかエンボス成形が施されない箇所との境界部分に対応するように設定されている。
また、押圧部材22の正面は、上下方向(缶2の軸線方向)の全体に亘っては平坦でなく、図5に示すように、少なくとも上端部が後退方向に傾斜している。図5に示す例では、上下両端部に傾斜部24a,24bが形成されている。傾斜部24aは、缶2の缶底側の缶胴側壁にビード状の成形痕が生じることを回避するためのものであり、内型9aの胴部上端部M(肩部と胴部との接点)からL寸法(1.5mm以上)下がった位置すなわち缶2の軸線方向での中央に寄った位置を起点KとしてW1の範囲で逃がし角度θ1が5°〜10°で後退した面として形成するのが好ましい。その傾斜部24aの前記起点Kの下限位置は内型9aのエンボス凹部内にラバー材25が押し込まれる位置であれば限定されない。なお、下端部側の傾斜面24bは、エンボス凹部下限位置から所定寸法W2の範囲で逃がし角度θ2が35°未満の範囲で後退した面として形成されている。これはラバー材の下端をクランプでき、またラバー材25に曲げによる密着不良が生じない程度のものであれば良い。
上記の押圧部材22の正面には、図6に示すように、その全体を覆うようにラバー材25が取り付けられている。その取り付けは、主として接着によって行われているが、上述したように傾斜面24a,24bに対して確実に密着させておくために、ラバー材25の上下両端部を引っかけて傾斜面24a,24bに押し付けるクランプ部材26が、押圧部材22の上下両端部に取り付けられている。
このラバー材25の構成について更に説明すると、ラバー材25は、ゴム層である表層と、スポンジ層および複数の布層とから成る下層との積層構造のものである。例えば、金陽社製の型番T567WあるいはエアータックFなどが用いられる。スポンジ層を備えたラバー材を用いるのは、缶2が外型5の正面側を移動しつつ自転しながらエンボス成形される際のショックを吸収するとともに、エンボス深さを調整する機能が発揮できるように気泡を内在させた構造となっている。スポンジ構造を大きく分類すると、気泡が独立して並んだ構造の単独気泡構造のスポンジと、気泡が互いにつながった構造の連続気泡構造のスポンジに分けられる。なお、スポンジ層が連続気泡層構造であると、圧接力を強く必要とするエンボス成形では、缶2が外型5上を転がりエンボス成形される成形の末端部において応力が集中して、バルジによる影響が大きくなり、ラバー材25の層間剥離が生じやすく耐久性が低下するので、耐久性を重視する場合には単独気泡構造のスポンジ層を備える方が好ましい。
ラバー材25の厚さはエンボス形状や深さ、その大きさ、缶胴の材質や壁厚によって適宜選定される。
ラバー材25の表面粗度はRa0.6〜0.8であり、ラバー材25の硬度は、エンボス深さにもよるが、JISK6253に規定されるショア硬度で80±10であり、具体的にはブタジエンラバーが使用される。ラバー材25の硬度が小さくなり過ぎるとエンボス成形の模様がシャープに現れず、エンボス部がぼやけて人目を惹きつける作用が弱くなり易い。ラバー材25の硬度が逆に大きくなり過ぎると大きな圧接力が必要となり装置を剛性の強い構造にしなければならず設備コストがかかる。また、エンボス深さの深いものを成形することが難しくなる。
帯状のラバー材25は、圧接力が徐々に増加する接近領域L1と、接近領域L1に続いて1缶分の周長を超えた長さまでラバー部材25が内型9aの凹部奥まで押し込まれる成形領域L2と、圧接力が徐々に減少する離反領域L3とを備えている。
図7に示すように、成形領域L2とは、缶2を挟み込む圧接力の調整がされた状態で少なくとも缶2が1回転以上回転する範囲(P−S区間)である。また、接近領域L1とは、その成形領域L2の上流側に設けられた領域であって、缶2とラバー材25が急激に当接してラバー痕が形成されないように衝突を緩和させる領域である。更に、離反領域L3とは、成形領域L2の下流側に設けられた領域であり、缶2とラバー材25が急激に離れると、ラバー材25のエッジに応力が集中しやすくなりラバー自体のダメージ(例えば、ささくれなど)が発生する。それを回避するため、ラバー部材25の端部に発生する応力を集中させないように応力分散を目的として設けられた領域である。
上記の接近領域L1では、缶2が内型9aに嵌挿されて外型5の正面側を公転移動する際に、エンボス加工を行う圧接力が徐々に増加し、またこれに続く成形領域L2では、缶胴側壁がラバー材25と内型9aとでしっかり挟み込まれて実質的なエンボス加工が行われることになるが、これに伴って、缶2の側壁にラバー材25のエッジが急激に食い込むと、いわゆるラバー痕が形成され易くなるので、このような不都合を回避するために、上記の接近領域L1を設けて圧接力を徐々に増加させるようにしたのである。
ラバー材25が取り付けられている押圧部材22の正面には、前述したように傾斜面24a,24bが形成されており、これらの傾斜面24a,24bの間の部分が圧接面部24cとされている。その圧接面部24cは、前記内型9aの凹模様が付された成形面に相当する幅に対応させ、且つ、内型9aの胴部と肩部との接点Mより下がった位置を上限位置にして、前記ラバー材25を缶2の側壁に対して押圧する部分である。特に缶底部近くまでエンボス模様を形成する時、押圧部材22の上端部分に寸法W1の逃げを設けないと、缶底側の缶胴側壁部にビード状の成形痕が形成され、またその成形痕の深さも重複領域付近で変化するので缶の外観性を損なうことになる。このようなビード状の成形痕が発生する理由は、缶底側の缶胴側壁部の壁厚が胴部中央部分より肉厚となるため、エンボス模様が接点M近くまで形成しようとする場合には、壁厚の薄い中央部よりも強い圧接力を付与しないとエンボス模様がシャープに現れてこない。そのため缶胴側壁部に大きな圧接力をかけると内型の肩部の曲率半径rに沿って側壁が押し込まれたことが原因と考えられる。したがって本発明では、エンボス模様を缶底近くまで設ける場合には、このような問題を回避するため、押圧部材に所定寸法W1で逃げを設けるなどの工夫が必要となる。かかる意味から、外型5の押圧部材22には、内型9aに対して、内型9aの上端肩部と胴部の接点から少なくとも1.5mm下方位置から上方に向かいラバー材25の圧接力が弱くなるように逃がし角が5°〜10°の傾斜部を設けるようにする。
前述したように押圧部材22は、二つの分割片22a,22bによって構成されており、その一方の分割片22aとベースプレート21との間にシム23が装入されて各分割片22a,22bの間の分割面に段差が生じている。しかしながら、押圧部材22の正面の全体がラバー材25によって覆われているので、上記の段差はラバー材25によって滑らかに連続する面となっており、したがって前述した接近領域L1と成形領域L2とは滑らかな曲面で接続された状態となっている。なお、図7ではラバーの逃げ量が階段状に変化しているように示しているが、これは模式的に示したからである。
つぎに上述したエンボス成形装置の作用すなわち本発明のエンボス成形方法を説明する。エンボス加工を施すべき缶2は、前述したように、インフィードターレット3によって内型9aとその上方に引き上げられているアッパーチャック11との間に送り込まれ、アッパーチャック11がその缶底を吸着してインフィードターレット3から受け取り、ついで前記アッパーチャックスライドカム18の作用によって、アッパーチャック11がアッパーチャックスライドホルダー19と共に下降することにより、缶2は内型9aに上方から嵌挿させられ、アッパーチャック11とスピニングチャック12との間に挟み付けられる。
内型9aを一体に備えているマンドレル9がメインターレット4によって保持されているので、メインターレット4が回転することにより、内型9aおよびこれに嵌挿された缶2がメインシャフト8を中心とした円周上を旋回する。その過程で印刷デザインの位置が検出されるとともに、その検出結果に基づいてACサーボモータ13が制御され、印刷デザインの位置合わせを行うように缶2が回転させられる。なお、この印刷デザインの位置合わせの作用は、特開2001−47165号公報に記載されているのと同様である。
缶2が内型9aあるいはマンドレル9と共に更に旋回してエンボス加工部5に至ると、先ず、前述した接近領域L1におけるラバー材25に缶2の側壁が接触する。この時点では、内型9aの外周面と缶2の内周面との間にクリアランスが設けられているから、缶2の側壁には圧接力は積極的に作用せず、内型9aの中心軸に対して缶2の軸心が偏芯するように缶2が移動させられる。この工程が本発明における接近工程に相当する。
この接近工程において、缶2が外型5の正面側を更に移動すると、ラバー材25の表面と内型9aとが徐々に接近し、ついには缶2の側壁がラバー材25と内型9aとの間に挟み込まれる。次第に缶2の側壁に作用する圧接力が増大する。これは、前述した図7におけるO点からP点に至る過程である。こうして缶2の側壁に対し実質的にエンボス成形が開始される。
そして、缶2は接近領域L1から成形領域L2に移る。この成形領域L2の前段部分では、シム23によって位置調整を行っている一方の分割片22aに相当する領域であり、この領域L2の前段部分におけるラバー材25は、領域L2の後段部分に対して相対的にわずか後退している。すなわち、缶2に作用する圧接力が相対的に小さくなっている。これは図7におけるP点からQ点に至る過程である。
内型9aに嵌挿させれている缶2は、内型9aと一体のギヤ部9bがインナーギヤ10に噛み合ってメインターレット4と共に旋回することにより内型9aが回転するので、内型9aと共に回転する。すなわち、缶2はラバー材25の正面に押し付けられた状態のラバー材25上を移動するとともに自転し、ラバー材25の正面で転がりつつ移動する。こうしてエンボス加工が進行し、前述した各分割片22a,22bの境界部分に至る。各分割片22a,22b自体の境界部分には段差があるとしても、この境界部分もラバー材25によって覆われ、滑らかに連続した曲面となっているので、支障なくエンボス加工が継続される。そして、それ以降の圧接力は、ラバー材25の表面の曲率半径が缶2の外周面の旋回半径とほぼ一致していることにより一定に維持される。これは、図7におけるQ点からR点に至る過程である。
成形領域L2の後段部分ではこのようにして一定の圧接力でラバー材25が内型9aの凹部に押し込まれてエンボス成形が進行する。その圧接力は、前記分割片22aがシム23によって、缶2の旋回軌跡に遠ざけられているので、成形領域L2の前段部分よりも圧接力は相対的に大きくなっている。そして、成形領域L2の最終段階では、エンボス成形の開始時に既に圧接力が作用した箇所に再度圧接力を付与してエンボス加工を施すことになる。いわゆる二度打ちする。これは、図7におけるR点からS点に至る過程である。その場合、二度打ちする箇所に対する前記前段部分での圧接力は、その部分における前記一方の分割片22aが分割片22bに対して相対的に後退させられて保持され、二度打ちしない箇所における缶2の側壁に対する圧接力より低い状態でエンボス成形がなされている。したがって、後段部分で再度圧接力を付与してエンボス加工が行われる部分において、缶2の素材に大きな伸びは生じないことにより、エンボス深さが重複成形された領域だけ深くなるようなことはなく、その結果、エンボス加工の深さが全体で不均一になるなどの事態を未然に防止することができる。言い換えれば、いわゆる二度打ちする箇所でも、エンボス深さを均一にすることができる。このような接近領域L1と成形領域L2におけるエンボス加工の工程が本発明における有効成形工程に相当する。
そして、缶2が成形領域L2を通過して離反領域L3に至ると、外型5の圧接面部24cが缶2の外周面の旋回軌跡から次第に離れるので、缶2の側壁に作用する圧接力が次第に低下し、最終的には、缶2がラバー材25の表面から離れて圧接力が作用しなくなる。すなわち、実質的なエンボス加工が終了する。これは、図7におけるS点からT点に至る過程である。このようにエンボス加工の終了段階では、ラバー材25に掛かる荷重が徐々に低下するので、圧接力が急激にゼロになることがなく、成形領域L2の最終段階で発生しやすいラバー材25の応力集中を回避することができる。この離反領域L3での加工が本発明における離反工程に相当する。
ここで、この発明の方法でエンボス加工を行った場合の測定結果と、圧接力を加工開始から終了に至る全行程で一定に維持した比較例についての測定結果とを示す。対象とする缶2は、缶胴の外径が66.1mm、最小壁厚0.105mmのアルミニウム合金製の絞りしごき加工した350ml缶であり、缶胴側壁にミラーボールタイプのエンボス深さ0.3mmのエンボス模様を施した。その外観を図8に示してあり、エンボス模様は4×33面であり、エンボス凹部の深さ0.5mmの内型を用いて、重複角度を32.7°としてエンボス成形を行った。エンボス深さの測定結果を図9に示してある。本発明例についての測定結果を図9に符号Aで示してあり、エンボス深さは、全周に亘ってほぼ0.3mmになっており、均一な深さであることが確認できた。これに対して圧接力を全工程均一に維持した比較例についての測定結果を図9に符号Bで示してあり、いわゆる二度打ちされる箇所(特に成形開始点Pから点Qまでの箇所)のエンボス深さが目標する0.3mmより深くなり、最も深い箇所は約26%増の約0.38mmとなり、継ぎ目で二度打ちの痕跡が強く残り缶2の外観が損なわれるものであった。
なお、この発明は上述した具体例に限定されるものではない。すなわち、エンボス部の有効成形領域の成形始点から缶胴へのエンボス成形が重複する領域(二度打ちされる領域)では、エンボス成形が重複しない成形領域の圧接力よりも弱くさせる圧接力調整手段として、本例では分割された押圧部材をシムの厚さを変えて内型方向に移動させてエンボス成形の圧接力を特定領域において調整可能なものにしたが、押圧部材を移動させることができる構成のものであれば、特に移動方向は限定されるものではない。例えば、ラバー材を接着支持する押圧部材の支持面の曲率半径を複数の曲率半径で構成し、領域ごとに曲率半径を異ならせるようにし移動させても良い。
また、本例では、二度打ちされる領域L1を含む領域L2の前段部分(O−Q区間)の圧接カを二度打ちしない完全成形領域(Q−R区間)に対する圧接力より弱い状態に設定しているが、これに限定されず、二度打ちされる領域L2の後段部分(R−S区間)の圧接カを二度打ちしない圧接カよリ弱い状態に設定しても良い。また、前段部分と後段部分との両方の圧接カを二度打ちしない箇所に対する圧接カより弱い状態に設定しても良いし、また前段部分の圧接カを更に分割調整するようにしても良い。即ち、エンボス形状、深さ、幅、成形位置、成形速度、ラバー硬度、缶胴の材質、壁厚などに応じて二度打ちされる一回目と二回目との塑性変形のバランスを見て全周均一なエンボス深さになるように領域毎に圧接カは適宜決定されるようにする。
また、本例では、缶胴外径66.1mmの缶胴側壁の全面にエンボス模様(4×33面エンボス、深さ0.3mm)を成形するミラーボールタイプ缶の例を示したが、これに限定されず、エンボス深さは0.5mm程度まで成形可能である。
また、本例では、重複してエンボス加工を行う領域(エンボス模様が1ピッチ分重なる領域)に相当するラップ角度を32.7°にしているが、本発明ではこれに限定されず、少なくとも缶体を1回転以上回転させてエンボス成形の開始領域に再度圧接力を作用させられる角度以上であればよく缶胴内径と内型の外径との比(施されるエンボス模様の数と内型のエンボス凹部の数との比)から適宜決定される。