従来より、直流電源との間に設けた電流センサにより相電流を検出するインバータ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これについて、モータの運転時について以下説明する。モータが駆動され回転子が回転している状態を運転と定義する。図14にインバータ装置とその周辺の電気回路を示す。インバータ装置21の制御回路12は、シャント抵抗6からの電圧により2相分の相電流を検出する。当該2個の電流値から残り1相分の相電流を演算する(固定子巻線4の中性点において、キルヒホッフの電流の法則を適用する)。
これらの電流値に基づき、センサレスDCブラシレスモータ11(以降モータと称す)を構成する磁石回転子5による誘起電圧を演算し、その位置検出を行う。そして、この位置検出、通信による回転数指令信号(図示せず)等に基づき、インバータ回路10を構成するスイッチング素子2(IGBT、FET,トランジスタ等が用いられる)を、接続線18を介して制御する。これにより、バッテリー1からの直流電圧がPWM変調でスイッチングされ、正弦波状の交流電流がモータ11を構成する固定子巻線4へ出力される。インバータ回路10を構成するダイオード3は、固定子巻線4に流れる電流の循環ルートとなる。スイッチング素子2について、上アームスイッチング素子をU、V、W、下アームスイッチング素子をX、Y、Zと定義し、また、各スイッチング素子U、V、W、X、Y、Zに対応するダイオードを、3U、3V、3W、3X、3Y、3Zと定義する。
図15に、3相変調の50%変調における波形の特性図を示す。U相端子電圧41、V相端子電圧42、W相端子電圧43及び中性点電圧29を示している。3相変調においては、変調が上がるにつれDuty50%を中心に0%と100%の両方向に伸びる。これらの端子電圧はPWM変調にて縦軸に示すDuty(%)で実現される。中性点電圧29は、各相の端子電圧の和を求め3で除した値である。また、相電圧は、端子電圧から中性点電圧を引いた値であり、正弦波になる。
図16に、図15に破線で示した位相270度〜330度における1キャリア内(キャリア周期)での上アームスイッチング素子U,V,WのON期間(Duty)を中央から左右対称に表示している。U相の上アームスイッチング素子UのON期間を細実線で表わし、V相の上アームスイッチング素子VのON期間を中実線で表わし、W相の上アームスイッチング素子WのON期間を太実線で表わしている。これは、一般的に、マイコンのタイマ機能により具現化される。同一相の上アームスイッチング素子がONならば下アームスイッチング素子はOFF、上アームスイッチング素子がOFFならば下アームスイッチング素子はONの関係にある。但し、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子との短絡防止のためデッドタイム期間が設けられる。
シャント抵抗6による相電流検出の詳細は割愛するが、上アームスイッチング素子U,V,WのON、OFF状態で電源ライン(シャント抵抗6)に流れる相電流を知ることができる。上アームスイッチング素子のONする相が無い時は流れず(非通電、下循環)、1相のみON時はその相の電流が流れ(通電)、2相ON時は残りの相の電流が流れ(通電)、3相全てON時は流れない(非通電、上循環)。従って、上アームスイッチング素子U、V、WのONを確認することで、検出可能な相電流を知る事ができる。但し、シャント抵抗6による電流検出において、上記ON時間が、電流検出するために必要な最低限の所定時間以上あることが条件になる(この所定時間をδと定義する)。
ここで、通電とは、バッテリー1からインバータ回路10(モータ11)へ電力供給される状態のことであり、非通電とは、バッテリー1からインバータ回路10(モータ11)へ電力供給されない状態のことと定義する。また、非通電における、下循環とは下アームスイッチング素子X,Y,Z全てがONとなり、下アームとモータ11間で電流が循環している状態のことであり、上循環とは上アームスイッチング素子U,V,W全てがONとなり、上アームとモータ11間で電流が循環している状態のことと定義する。
図16において、シャント抵抗6による電流検出が可能となる期間を検出期間として、実線矢印で表示し、実線矢印近傍に検出される電流がどの相の電流かを示す。この場合、U相の相電流の検出期間をU、W相の相電流の検出期間をWと表示している。
位相270度においては、U相の相電流しか検出できない。また、位相330度においては、W相の相電流しか検出できない。この1相分の相電流しか検出できないことへの対応の一例を図17に示す。図17(A)は、図16における位相330度の場合をそのまま示している。図17(B)は、図17(A)における上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)に所定値δを追加し、V相の相電流も検出できるようにしたものである。また、図17(C)は、図17(A)における上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)を所定値δだけ削減し、U相の相電流も検出できるようにしたものである。このように、PWM本来のON期間(Duty)に追加もしくは削減を行い、相電流を検出できるようにすることを通電補正と定義する。また、この追加もしくは削減される値を通電補正量と定義する。これらにより、2相分の相電流が検出できるようになる。図17(B)と図17(C)の双方を実行することで、上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)の所定値δの追加または削減がキャンセルされる。即ち、図17(B)と図17(C)の双方を実行することで、図17(A)の2回実行と同等になる。
次に、モータの運転前における磁石回転子の位置決めについて以下説明する。磁石回転子5の回転を始動させるためには、運転前に磁石回転子5の位置決めをしておく必要がある(例えば、特許文献2参照)。これについて、一例を以下説明する。図18(A)は、4極の場合において、固定子巻線4のU相とV相をS極に、W相をN極にして、磁石回転子5を位置決めする場合を示している。固定子巻線4のS極には磁石回転子5のN極が、固定子巻線4のN極には磁石回転子5のS極が、それぞれ対向して停止することにより、位置決めされる。このとき、図18(B)に示す如く、固定子巻線4のW相からU相及びV相へ電流が流される。
図19((B)及び(C))、図20((B)及び(C))に、上記、位置決めにおける1キャリア内(キャリア周期)での上アームスイッチング素子U,V,WのON期間(Duty)を、図16、図17と同様に表示している。そして、位置決めから運転に渡るW相の相電流を図21に示す。
図19(A)は、図21に示す位置決め初期において、電流を徐々に増加させるため、通電期間を小さく設定した場合である。位置決めスタートから電流が立ち上がりきるまでの期間を位置決め初期と定義する。位置決め初期において、この通電期間は徐々に大きくされる。この状態では、シャント抵抗6による電流検出はできない。そのための対応例が、図19(B)、図19(C)である。
図19(B)は、図19(A)における上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)のキャリア周期後半(右側)に、所定値δ以上を追加しU相の相電流を検出できるように、また、図19(A)における上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)のキャリア周期前半(左側)に、所定値δ以上を追加しW相の相電流を検出できるようにしたものである。これにより、2相分の相電流が検出できるようになる。
図19(C)は、図19(A)における上アームスイッチング素子U、上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)を所定値δ以上削減し、U相の相電流及びW相の相電流を検出できるようにしたものである。これにより、2相分の相電流が検出できるようになる。上記ON期間(Duty)の所定値δ以上削減は、図19(B)におけるON期間(Duty)の所定値δ以上追加を、キャンセルするようになされる。即ち、図19(B)と図19(C)の双方を実行することで、PWM変調結果は、図19(A)の2回実行と同等になる。
図19(B)、図19(C)を実行することで、2相分の相電流を検出しつつ、位置決め初期の電流を増加させることができる。そして、位置決め初期は、おおよそ50mS実行される。キャリア周波数10kHz、キャリア周期100μSの場合、キャリア周期500回分となる。
図20(A)は、図21に示す位置決め定常期において、所定の一定電流が流れるように、通電期間を設定した場合である。置決め初期の電流立ち上り後において、一定電流となる期間を位置決め定常期と定義する。運転時の図17(A)と比べ、通電期間が短いが、これは磁石回転子5が停止しており固定子巻線4には誘起電圧が発生せず、同じ電流を流すためには通電期間が短くてよいからである。この状態では、シャント抵抗6による電流検出は、W相の相電流しか検出できない。そのための対応例が、図20(B)、図20(C)である。その方法は、基本的に運転時における図17と同じである。
図20(B)は、図20(A)における上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)に所定値δ追加し、V相の相電流も検出できるようにしたものである。また、図20(C)は、図20(A)における上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)を所定値δ削減し、U相の相電流も検出できるようにしたものである。これにより、2相分の相電流が検出できるようになる。図20(B)と図20(C)の双方を実行することで、上アームスイッチング素子UのON期間(Duty)への所定値δ追加または削減がキャンセルされる。
図20(B)、図20(C)を実行することで、2相分の相電流を検出しつつ、位置決め定常期の一定電流を流すことができる。そして、おおよそ100mS実行される。キャリア周波数10kHz、キャリア周期100μSの場合、キャリア周期1000回分となる。
図21に、位置決めから運転に渡るW相の相電流を示す。位置決めには、電流が徐々に増加する初期と、電流が一定となる定常期がある。この定常期の電流に連続して、運転時の正弦波交流電流が流れる。図15の波形を正弦波交流電流に置き換えてみると(41をU相の電流、42をV相の電流、43をW相の電流)、位相330度が位置決め定常期の電流即ち運転スタートの電流に相当する。位置決め定常期の電流に連続させるのは、安定して起動させるためである。位置決め電流を一旦OFFにすると、位置決めされた磁石回転子5の位置が動きかねないからでもある。磁石回転子5が回転を始めると、磁石回転子5により固定子巻線4に誘起電圧が発生するため、また、誘起電圧の位相に対する電流の位相が適切に制御されるため、正弦波交流電流の電流値は小さくなってゆく。
特開2003−189670号公報(第14頁、第1図、第16頁、第14図)
特開平11−356088号公報(第7頁、第6図)
第1の発明は、直流電源のプラス側に接続される上アームスイッチング素子とマイナス側に接続される下アームスイッチング素子とを備えたインバータ回路と、直流電源とインバータ回路間の電流を検出する電流センサと、インバータ回路にPWM変調により駆動電流をセンサレスDCブラシレスモータへ出力させる制御回路とを備え、制御回路は、モータの運転前における磁石回転子の位置決め期間において、通電時に直流電源のプラス側が印加される相を固定した状態にて通電に補正を行い、電流センサにより1相分の相電流を検出する制御を行うものである。この構成により、固定子巻線U相、V相、W相による合成磁界の方向角度が変動することなく固定される。これにより、磁石回転子の振動騒音が防止される。即ち、通電補正の影響が大きい位置決め時の騒音を抑制することができる。また、U相、V相、W相の各相電流の比率が固定されるので、1相の相電流のみの検出で、他の相の相電流も算出できる。
第2の発明は、第1の発明のインバータ装置において、通電補正を行わない期間を設けるとともに、相電流の検出を運転時のPWM変調に反映する期間では、通電補正により相電流を検出するものである。通電補正を行わない期間を設けることで位置決め時の騒音を抑制することができる。また、制御回路のソフトを簡素化できる。そして、相電流の検出を運転時のPWM変調に反映できる期間では、通電補正により相電流を検出することで、電流と位相が位置決めから連続し、安定した起動を行うことができる。
第3の発明は、第2の発明のインバータ装置において、通電補正を行わない期間においては、当該PWM変調をモータの温度に基づいて補正するものである。これにより、電流検出に基づく電流調節のできない通電補正を行わない期間においても、モータに流れる電流をモータの温度に係わらず所定の値にすることができる。そのため、確実な位置決めを行うことができる。
第4の発明は、第1乃至第3の発明のインバータ装置において、PWM変調を3相変調とするものである。2相変調に比較し、3相変調においては、電流波形が滑らかで低騒音であるため、通電補正時のリップル電流に起因する騒音が目立ち易く、本発明の効果が大きい。
第5の発明は、第1乃至第4の発明のインバータ装置において、電動圧縮機のモータを駆動するものである。電動圧縮機はルームエアコン、カーエアコンなどに使用されるため、その騒音が認識されやすい。そのため、低騒音化できる本発明の効果が大きい。また、電動圧縮機においては、モータ、冷凍サイクル保護のために、温度センサをモータ近傍、冷媒吐出口近傍に備える場合が多い。モータ温度と冷媒吐出温度とは近い値であり、モータ温度に代わり冷媒吐出温度を用いることができる。そのため、通電補正を行わない期間におけるモータ温度に基づくPWM変調補正において、モータ温度センサなどを新たに設ける必要がない。
第6の発明は、第5の発明のインバータ装置において、電動圧縮機を高圧型とするものである。高圧型の電動圧縮機においては、圧縮された高温高圧の冷媒により、モータが冷却される。そのため、モータの温度は高温になる。従って、通電補正を行わない期間におけるモータの温度に基づくPWM変調補正の効果が大きい。
第7の発明は、第5または第6の発明のインバータ装置において、モータの温度は、電動圧縮機に搭載されるインバータ装置の温度で代用されるものである。インバータ装置一体型電動圧縮機では、起動時温度が平衡しておれば、モータの温度とインバータ装置の温度は近い値となっている。インバータ装置においては、スイッチング素子などの保護のために、温度センサを備える場合が多い。そのため、通電補正を行わない期間におけるモータ温度に基づくPWM変調補正において、新たにモータ温度センサなどを設ける必要がない。電動圧縮機が低圧型ならば、モータとインバータ装置ともに低圧冷媒により冷却されるため、モータの温度とインバータ装置の温度は近い値となり、インバータ装置の温度で代用し易い。
第8の発明は、第1乃至第7の発明のインバータ装置において、車両に搭載されるものである。車両用においては、搭載スペースに制約があり小型化が必要で、走行振動に対する耐振性も必要なため、シャント抵抗など1個の電流センサにより電流検出する本インバータ装置は有用である。搭載スペース、重量などの制約により防音箱などの装置を用いる事は困難であり、また、その騒音が認識されやすいため、低騒音化できる本発明の効果が大きい。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。尚、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るインバータ装置22とその周辺の電気回路である。インバータ装置22の制御回路7は、シャント抵抗6からの電圧により、相電流を検出する。
運転時においては、制御回路7が、検出された相電流値に基づき、モータ11を構成する磁石回転子5による固定子巻線4の誘起電圧を演算し、磁石回転子5の位置検出を行う。そして、この位置検出、回転数指令信号(図示せず)等に基づき、インバータ回路10を構成するスイッチング素子2を制御し、バッテリー1からの直流電圧をPWM変調でスイッチングすることにより、正弦波状の交流電流をモータ11の固定子巻線4へ出力する。
インバータ回路10を構成するダイオード3は、固定子巻線4に流れる電流の循環ルートとなる。スイッチング素子2について、上アームスイッチング素子をU、V、W、下アームスイッチング素子をX、Y、Zと定義し、また、各スイッチング素子U、V、W、X、Y、Zに対応するダイオードを、3U、3V、3W、3X、3Y、3Zと定義する。
電流センサとしては、シャント抵抗6に限らず、ホール素子を用いた電流センサなど瞬時ピーク電流が検出できるものであれば良い。また、電源ラインのプラス側に設けても良い。シャント抵抗ならば、小型化耐振性向上が実現し易い。制御回路7は、上アームスイッチング素子U、V、W、下アームスイッチング素子X、Y、Zと、ドライブ回路などを介して接続線18により接続されており、各スイッチング素子を制御している。スイッチング素子2がIGBT、パワーMOSFETの場合はゲート電圧を、パワートランジスタの場合はベース電流を制御する。
モータ11の運転前における磁石回転子5の位置決め時における通電について以下説明する。モータ11の磁石回転子5が回転している運転時の通電については、背景技術と同様である。図2(A)は、4極の場合において、固定子巻線4のU相とV相をS極に、W相をN極にして、磁石回転子5を位置決めする場合を示している。固定子巻線4のS極には磁石回転子5のN極が、固定子巻線4のN極には磁石回転子5のS極が、それぞれ対向して停止することにより、位置決めされる。このとき、制御回路7は、図2(B)に示す如く、固定子巻線4のW相からU相及びV相へ電流が流れるように、スイッチング素子2を制御する。
本実施の形態においては、通電時にバッテリー1のプラス側が印加される相をW相に固定する。これにより、U相、V相、W相の各相電流の比率が固定される。この場合、U相の相電流:V相の相電流:W相の相電流=1:1:2となる。そして、固定子巻線4のU相、V相、W相による合成磁界の方向角度が変動することなく固定される。これにより、磁石回転子5は振動することなく騒音が防止される。また、U相、V相、W相の各相電流の比率が固定されるので、W相の相電流のみ検出すれば、U相の相電流、V相の相電流も算出できる。
図3(A)は、位置決め初期における通電例である。図3(B)は、図3(A)における上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)を増加させ(上アームスイッチング素子U及びVのON期間を減少させてもよい)、同スイッチング素子のON期間をスライドしキャリア周期の後半(右側)で他のスイッチング素子のON期間と一致させたものである。これにより、通電期間を所定値δ以上確保し、W相の相電流が検出できるようにしている。図3(C)は、図3(A)において、図3(B)にて増加させた上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)分を減少させたものである。この場合、結果として、スイッチング素子のON期間が3相ともに一致する。
図3(B)と図3(C)の双方を実行することで、上アームスイッチング素子WにおけるON期間(Duty)の増加減少がキャンセルされる。但し、図3(C)においては、相電流を検出できないので、図3(B)における検出値で代用する。また、上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)分を減少させることにより、スイッチング素子WのON期間が他の2相より小さくなる場合、小さくならないように、数キャリア周期に分けて減少させる。これにより、通電時にスイッチング素子U,VがONするのを防止する。
通電時にスイッチング素子がONするのは(バッテリー1のプラス側が印加されるのは)、W相だけである。これにより、U相、V相、W相の各相電流の比率が固定される。U相、V相、W相の各相電流の比率が固定されているので(U相の相電流:V相の相電流:W相の相電流=1:1:2)、W相の相電流のみ検出すれば、U相の相電流(W相の相電流の1/2)、V相の相電流(W相の相電流の1/2)も算出できる。そして、固定子巻線4のU相、V相、W相による合成磁界の方向角度が変動することなく固定される。これにより、磁石回転子5は振動することなく騒音が防止される。
図4(A)は、位置決め初期における他の通電例である。図3(A)に比べ、通電期間が若干長くなっている。図4(B)は、図4(A)における上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)をスライドしキャリア周期の後半(右側)で他のスイッチング素子のON期間と一致させたものである。これにより、W相の相電流が検出できるようにしている。通電時にスイッチング素子がONするのは、W相だけであるので、作用効果は、上記と同様である。
図5(A)は、位置決め初期における他の通電例である。図4(A)に比べ、通電期間が若干長くなっている。図5(B)は、図5(A)における上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)をスライドし、キャリア周期の前半(左側)で、W相の相電流が検出できるようにしたものである。通電時にスイッチング素子がONするのは、キャリア周期の前半(左側)、後半(右側)ともに、W相だけであるので、作用効果は、上記と同様である。
上記図3(B)と図3(C)、図4(B)、図5(B)において、共通しているのは、通電時にスイッチング素子U乃至VがONしないようにしている点である。位置決め初期は、一例として、上記通電例の単独、または、組み合わせて、おおよそ50mS実行される。
図6(A)は、位置決め定常期における通電例である。所定の一定電流が流れるように、通電期間を設定している。この状態では、シャント抵抗6による相電流検出ができない。そのための対応例が、図6(B)、図6(C)である。即ち、位置決め定常期は図6(B)、図6(C)により構成される。
図6(B)は、図6(A)における上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)を増加させ、W相の相電流が検出できるようにしたものである。図6(C)は、図6(A)において、図6(B)にて増加させた上アームスイッチング素子WのON期間(Duty)分を減少させている。そして、同スイッチング素子のON期間をスライドし、キャリア周期の前半(左側)で、W相の相電流が検出できるようにしている。結果として、キャリア周期の後半(右側)で他のスイッチング素子のON期間と一致している。
図6(B)と図6(C)の双方を実行することで、上アームスイッチング素子WにおけるON期間(Duty)の増加減少がキャンセルされる。そして、図6(B)と図6(C)の双方を繰り返し実行することで、相電流を検出しつつ、位置決め定常期の一定電流を流すことができる。
また、前述の位置決め初期と同様であるが、通電時にスイッチング素子がONしているのは、W相だけである。これにより、U相、V相、W相の各相電流の比率が固定される。U相、V相、W相の各相電流の比率が固定されているので(U相の相電流:V相の相電流:W相の相電流=1:1:2)、W相の相電流のみ検出すれば、U相の相電流(W相の相電流の1/2)、V相の相電流(W相の相電流の1/2)も算出できる。そして、固定子巻線4のU相、V相、W相による合成磁界の方向角度が変動することなく固定される。これにより、磁石回転子5は振動することなく騒音が防止される。
尚、上記実施の形態において、通電時にバッテリー1のプラス側が印加される相をW相に固定したが、U相でもV相でもよい。このとき、前述の位置決め時の位相は、それぞれ、330度(W相)、90度(U相)、210度(V相)となる。また、U相とV相、V相とW相、W相とU相の2相でもよい。この場合、検出される相電流は、それぞれ、W相の相電流、U相の相電流、V相の相電流となる。そして、前述の位置決め時の位相は、それぞれ、150度、270度、30度となる。
図2に例示した、固定子巻線4のS極N極の相は任意であり、2極、6極等にも適用できる。位置決め定常期の相電流検出方法として、図6(B)、図6(C)を示したが、図5(B)の方法でもよい。相電流を検出するための通電補正は上記に限らず、通電時にバッテリー1のプラス側が印加される相を固定すれば、任意である。PWM変調本来の通電期間は、バッテリー1の直流電圧を検出し、基準電圧に対する比率により、調整(比率の逆数を掛ける)し電流精度をUPしても良い。
また、磁石回転子の位置決め期間において、通電時に直流電源のプラス側が印加される相をW相に固定したが、磁石回転子の位置決め期間内において、例えばU相に固定した後V相に固定する2段階位置決めなど、位置決め精度向上のために複数回で位置決めしても良い。
(実施の形態2)
実施の形態1においては、磁石回転子の振動が防止され、騒音が抑制される。一方、通電補正による電流リップルは、電流検出が1相分のみのため小さいが、発生する。そのため、本実施の形態においては、必要な場合を除き、電流検出のための通電補正を行わないようにする。
位置決め初期の1例として、通電期間は、図7(A)、図7(B)、図7(C)に示すように、徐々に大きくされる。ここでは、電流が立ち上がりきるまでの時間(位置決め初期)は、50mSである。この期間では、定常期よりも通電期間が小さく設定されているため、通電補正をする場合、尚一層騒音への影響が大きい。そのため、この位置決め初期の電流立ち上り期間を、通電補正を行わない期間とする。これにより、制御回路のソフト簡素化もできる。
数値例として、バッテリー1の直流電圧をDC300V、固定子巻線4の各相の抵抗値を1Ω、キャリア周波数10kHz(キャリア周期100μS)とする。ここで、位置決め定常期におけるW相の相電流値を18Aとするためには、固定子巻線4の等価抵抗値が1.5Ωとなるので(図2B参照)、DC27V相当を印加する必要がある。DC27Vは、DC300Vの9%である。従って、通電期間のDutyを9%(9μS)にすればよい。
そのため、位置決め初期においては、通電期間のDutyを0%より徐々に10%近くまで増加させる。図7(A)においては、2.5%(2.5μS)、図7(B)においては、5%(5μS)、図7(C)においては、7.5%(7.5μS)としている。通電期間は、キャリア周期の前半(左側)と後半(右側)に2分されている(3相変調であるため)ので、各通電期間は、図7(A)においては、1.25μS、図7(B)においては、2.5μS、図7(C)においては、3.75μSとなる。
ここで、電流検出するために必要な最低限の所定時間δを5μSとすると、シャント抵抗6による電流検出はできない。そこで、通電補正すると仮定すると(通電補正量を5μSとして)、通電補正量のPWM変調本来の通電期間に対する比率は、図7(A)においては、4倍(5μS/1.25μS、図7(B)においては、2倍(5μS/2.5μS)、図7(C)においては、1.3倍(5μS/3.75μS)となる。
一方、位置決め定常期のDutyは、4.5%(4.5μS)であるため、1.1倍(5μS/4.5μS)と小さい。従って、位置決め初期は、本来のPWM変調による電流に、大きなリップル電流が加わることになる。
一方、位置決め定常期においては、相電流検出を行う。図8に、位置決めから運転に渡るW相の相電流を示す。図15の波形を正弦波交流電流に置き換えてみると(41をU相の電流、42をV相の電流、43をW相の電流)、位相330度が位置決め定常期終端の電流即ち運転スタートの電流に相当する。定常期には、通電補正により(通電補正が不要な場合もある)相電流を検出し、更に上記位相を加味し、運転時のPWM変調を演算する(運転時のPWM変調に反映する)。これにより、位置決め定常期の電流に連続して(位相330度から位相が増加する方向に)、運転時の正弦波交流電流が流れる。従って、電流と位相が位置決めから連続し、安定した起動を行うことができる。
上記位置決め定常期における相電流検出を、必要な期間のみに限定することが考えられる。図9(A)は、図6(A)と同じであり、位置決め定常期において、所定の一定電流が流れるように、通電期間を設定した場合である。位置決め定常期100mSのうち99mSこれを実施する。この期間は、通電補正を行わない期間である。
図9(B)、図9(C)は、図6(B)、図6(C)と同じであるが、実施時間は1mSである。キャリア周波数10kHz、キャリア周期100μSの場合、キャリア周期10回分となる。そのため、位置決め定常期に検出される相電流から、運転時のPWM変調を演算するのに充分な時間を確保できる。即ち、相電流の検出を運転時のPWM変調に反映できる。以上により、位置決め定常期は図9(A)、図9(B)、図9(C)により構成される。通電補正を行わない期間は、位置決め150mS(初期50mS、定常期100mS)のうち149mS(初期50mS、定常期99mS)となる。
図10に、位置決めから運転に渡るW相の相電流を示す。図8に比較し、電流検出が位置決め定常期の終端から始まっている。位置決めのうち位置決め定常期の終端以外では、通電補正を行わない期間即ち相電流検出を行わない期間である。
更に、通電補正を行う期間の時間を短縮する。即ち、図9(A)の99mSを99.8mS、図9(B)及び図9(C)の1mSを0.2mSにしたものである。位置決め定常期の終端の通電補正は0.2mSのみである。キャリア周波数10kHz、キャリア周期100μSの場合、2キャリア周期のみである。図9(B)及び図9(C)がそれぞれ1キャリア周期となる。
これについて、図11により説明する。位置決め定常期終端の2キャリア周期を、p1499、p1500とし、運転スタート当初のキャリア周期を、m1として、横軸は時間であり連続させて示す。キャリア周波数10kHz、キャリア周期100μSの場合、位置決め150mSは、1500キャリア周期に相当するため、位置決め(定常期の)最終端のキャリア周期をp1500としている。
図の上から、PWM出力のタイミング、PWM演算のタイミング、電流検出のタイミングを示す。キャリア周期p1499において検出された相電流は、位相情報(この場合、330度)とともに、キャリア周期m1におけるPWM出力の演算のために、キャリア周期p1500の期間において使用される。即ち、位置決めにおけるキャリア周期p1499において検出される相電流は、運転時のキャリア周期m1に反映される。また、位置決めにおけるキャリア周期p1500において検出される相電流は、運転時のキャリア周期m1に続くキャリア周期m2に反映される。
通電補正を行わない期間は、位置決め150mS(初期50mS、定常期100mS)のうち149.8mS(初期50mS、定常期99.8mS)即ち、99.9%である。
図10に適用すると、電流検出は位置決め定常期終端の2キャリア周期から始まることになる。位置決め定常期の終端2キャリア周期においては通電補正により相電流を検出し、更に前述の位相を加味し、運転時のPWM変調を演算する(反映する)。これにより、位置決め定常期の電流に連続して、運転時の正弦波交流電流が流れる。従って、電流と位相が位置決めから連続し、安定した起動を行うことができる。
尚、上記実施の形態において、キャリア周期p1499において検出される相電流が、運転時のキャリア周期m1に反映される場合を示したが、制御回路(マイコン等)などの性能により、演算速度が速くキャリア周期p1500で反映できる場合もあり、また、演算速度が遅くキャリア周期p1498・・でなければ反映できない場合もある。
(実施の形態3)
本実施の形態は、図3〜図7、図9に示すように、PWM変調を3相変調とするものである。前述の如く、3相変調においては、通電期間がキャリア周期の前半(左側)と後半(右側)に2分されている。これにより、PWM変調即ち電流変化がキャリア周期の前半(左側)と後半(右側)に2分される。そのため、電流変化が2分されない2相変調に比較し、3相変調においては電流波形が滑らかとなる。その結果として、低騒音となるため、通電補正時のリップル電流に起因する騒音が目立ち易く、本発明の効果が大きくなる。
(実施の形態4)
図12に、電動圧縮機40の右側にインバータ装置22を密着させて取り付けた図を示す。金属製筐体32の中に圧縮機構部28、モータ11等が設置されている。冷媒は、吸入口33から吸入され、圧縮機構部28(この例ではスクロール)がモータ11で駆動されることにより、圧縮される。この圧縮された冷媒は、モータ11を通過する際にモータ11を冷却し、吐出口34より吐出される。
インバータ装置22は電動圧縮機40に取り付けられるように、ケース30を使用している。発熱源となるインバータ回路部10は、低圧配管38を介して低圧冷媒で冷却される。電動圧縮機40の内部でモータ11の固定子巻線4に接続されているターミナル39は、インバータ回路部10の出力部に接続される。保持部35でインバータ装置22に固定される接続線36には、バッテリー1への電源線と回転数信号を送信するエアコンコントローラ(図示せず)との信号線がある。
電動圧縮機はルームエアコン、カーエアコンなどに使用されるため、ユーザにその騒音が認識されやすい。そのため、低騒音化できる本発明の効果が大きい。また、上記のようなインバータ装置一体型電動圧縮機では、インバータ装置22が小さいこと、振動に強いことが必要になる。そのため、シャント抵抗など1個の電流センサにより電流検出し、低騒音を実現する本発明の実施の形態として好適である。
尚、上記実施の形態において、電動圧縮機の圧縮機構部をスクロールとしたが、これに限るものではない。また、圧縮された冷媒がモータを冷却する高圧型について示したが、低圧型でもよい。
(実施の形態5)
図12のインバータ装置一体型電動圧縮機には、モータの温度を検出するモータ温度センサ8が固定子巻線4近傍に取り付けられている。また、インバータの温度を検出するインバータ温度センサ9がインバータ回路10近傍に取り付けられている。起動時、温度が平衡している状態では、モータ温度センサ8が検出するモータの温度とインバータ温度センサ9が検出するインバータ装置の温度とは、ほぼ等しい値となる。そのため、モータ温度センサ8が無い場合、インバータ温度センサ9で代用できる。
実施の形態1において例として前述の通電期間Duty10%(10μS)は、モータ温度が20℃の場合とし、固定子巻線の抵抗の温度係数が0.4%/℃とする。モータ温度センサ8もしくはインバータ温度センサ9により検出される温度が70℃ならば、20℃から50℃の上昇となる。固定子巻線の抵抗値は、50℃*0.4%/℃=20%大きくなる。そのため、電流値20Aを維持するためには、通電期間Dutyを20%大きくする必要がある。即ち、通電期間Duty12%(12μS)とすれば良い。
本実施の形態において、電動圧縮機40は高圧型である。高圧型の電動圧縮機においては、圧縮された高温高圧の冷媒により、モータが冷却される。そのため、モータの温度は高温になる。従って、通電補正を行わない期間におけるモータの温度に基づくPWM変調補正の効果が大きい。
尚、上記実施の形態において温度センサを、モータ温度センサ、インバータ温度センサとしたが、これに限るものではなく、冷媒吐出口近傍に備えられる吐出温度センサなどでもよい。
(実施の形態6)
図13は、本発明のインバータ装置を圧縮機に一体に構成し(実施の形態4)、空調装置に適用して車両60に搭載した一例を示す。インバータ装置一体型電動圧縮機61及び室外熱交換器63、室外ファン62が、車両60の前方のエンジンルーム(乃至モータルーム)に搭載される。一方、車両室内には室内送風ファン65、室内熱交換器67、エアコンコントローラ64が配置されている。空気導入口66から車外空気を吸込み、室内熱交換器67で熱交換した空気を車室内に吹き出す。
車両、特に電気自動車やハイブリッドカーにおいては、走行性能確保、搭載性の面から、車両用空調装置にも小型軽量が求められ、その中でも重量があり、しかも狭いモータルーム(乃至エンジンルーム)内やその他のスペースに取り付けられる電動圧縮機の小型軽量化は重要課題である。また、モータによる走行においては静粛性が高く、電動圧縮機に低騒音が求められる。走行時などの振動に対する耐振性も必要である。
本発明のインバータ装置は、上記各実施の形態に示すシャント抵抗6など電流センサ1個の構成により、小型化と耐振性が実現でき、低騒音も達成できる。従って、本発明のインバータ装置は、これら車両用として大変好適である。
尚、上記各実施の形態において、直流電源をバッテリーとしたが、これに限るものではなく、商用交流電源を整流した直流電源などでもよい。モータをセンサレスDCブラシレスモータとしたが、リラクタンスモータ等位置決め必要なモータに適用できる。正弦波駆動に限らず位置決め時に相電流の検出が必要となる駆動方式に適用できる。また、PWM2相変調においても、上循環が無いだけであり、同様に適用できる。