以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態におけるブレーキ制御ECU(Electronic Control Unit)1を含む車両VLの上面視を模式的に示した模式図である。この車両VLに設けられたブレーキ制御ECU1は、旋回中の車両VLにおいて、コストの増加を抑制しつつ、任意の位置における車体速度を精度よく演算できると共に、その演算結果に基づいて、車両VLの所望の位置の車体速度を所望の速度に制御できるように構成されている。
尚、図1の矢印FWDは、車両VLの前進方向を示す。また、車輪VLの右前輪、左前輪、右後輪、左後輪それぞれに対応する構成要素にFR,FL,RR,RLを付して表している。
車両VLは、図1に示すように、上述したブレーキ制御ECU1のほか、油圧ブレーキ装置2、電動パーキングブレーキ(以下、「PBK」と称する)3、車輪4(4FR〜4RL)、車輪速度センサ5(5FR〜5RL)、車内LANバス6、エンジン制御ECU7、駐車支援制御ECU8、ナビゲーション装置9、センサ群50およびスイッチ群60を備えている。
このうち、ブレーキ制御ECU1、エンジン制御ECU7、駐車支援制御ECU8、ナビゲーション装置9、センサ群50およびスイッチ群60は、それぞれ車内LANバス6を介して互いに接続されている。
ブレーキ制御ECU1は、油圧ブレーキ装置2およびPKB3を制御して、車輪4FR〜4RLに付与する制動力を制御する電子制御装置である。ブレーキ制御ECU1において、車輪4FR〜4RLの車輪速度を監視して、急制動されても車輪がロックするのを防止するアンチロックブレーキ制御(ABS制御)が行われる。また、ブレーキ制御ECU1は、上述したように、車両VLの旋回中に、その車両VLの任意の置の車体速度を演算し、その演算結果に基づいて、車両VLの所望の位置の車体速度を所望の速度に制御する機能も有している。このブレーキ制御ECU1の詳細構成については、図2を参照して後述する。
油圧ブレーキ装置2は、車輪4FR〜4RLに制動力を付与する制動力付与装置であり、運転者により車両VLに設けられたブレーキペダル(図示せず)が踏み込まれると、そのブレーキペダルの踏力を油圧に変換し、その油圧を第1配管系統11および第2配管系統21を介して車輪4FR〜4RLそれぞれに設けられたホイールシリンダ(図示せず)に伝達する。これにより、ホイールシリンダで油圧が制動力に変換され、車輪4FR〜4RLに制動力が付与される。
また、第1配管系統11および第2配管系統21には、それぞれ増圧制御弁(図示せず)および減圧制御弁(図示せず)が設けられており、ブレーキ制御ECU1からの制御信号に基づき、これら増圧制御弁および減圧制御弁を駆動することにより、各ホイールシリンダに伝達される油圧の大きさを調整する。
PKB3は、駐車中の車両VLに対して、後輪4RL,4RRに制動力を付与する制動力付与装置であり、運転者によるパーキングブレーキスイッチ(図示せず)の操作に応じて駆動されるほか、駐車支援制御ECU8によって駐車支援制御が行われる場合にも、ブレーキ制御ECU1を介して駆動される。
このPKB3は、ブレーキワイヤ31R、31Lにて後輪4RL,4RRそれぞれに設けられたブレーキキャリパ(図示せず)と接続されている。また、PKB3にはアクチュエータ(図示せず)が設けられている。
パーキングブレーキスイッチが操作され、或いは、駐車支援制御ECU8からブレーキ制御ECU1に対して車両停止信号が出力されると、ブレーキ制御ECU1からPKB3に対して制御信号が出力される。PKB3は、この制御信号に基づいてアクチュエータを駆動し、ブレーキワイヤ31R、31Lを介して左右後輪4RL,4RRのブレーキキャリパを駆動する。これにより、後輪4RL,4RRに制動力が付与される。
車輪4は、車両VLの進行方向FWD前方側に位置する左右の前輪4FL,4FRと、進行方向FWD後方側に位置する左右の後輪4RL,4RRとの4輪を備えている。また、左右の前輪4FL,4FRは、車両VLに設けられたステアリング(図示せず)によって操舵される操舵輪として構成される一方、左右の後輪4RL,4RRは、車両VLの走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
車輪速度センサ5は、車輪4FR〜4RRそれぞれの回転速度である車輪速度を検出するセンサであり、右前輪4FRの車輪速度を検出するFR車輪速度センサ5FRと、左前輪4FLの車輪速度を検出するFL車輪速度センサ5FLと、右後輪4RRの車輪速度を検出するRR車輪速度センサ5RRと、左後輪4RLの車輪速度を検出するRL車輪速度センサ5RLとにより構成されている。各車輪速度センサ5FR〜5RLの検出結果は、ブレーキ制御ECU1に入力される。この車輪速度センサ5FR〜5RLとしては、例えば、ホール素子による半導体式速度センサが用いられ、低速度でも確実な車輪回転パルスを得ることで、正確な車輪速度が検出できるようになっている。
エンジン制御ECU7は、エンジン(E/G)70のエンジン出力を制御する電子制御装置で、車両VLに設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量や、エンジン回転数、エンジン冷却水の水温、排気ガス中の酸素濃度などに基づき、走行状態に応じて燃料噴射量を調整して、エンジン(E/G)70へ指令値を与えることにより、エンジン出力を制御する。これにより、自動変速機(AT)71および車軸72R,72Lを介して回転駆動される左右の前輪4FL,4FRの駆動力が調整される。
駐車支援制御ECU8は、運転者による車庫入れ駐車もしくは縦列駐車の駐車支援制御を行う電子制御装置であり、駐車支援スイッチ64より、車庫入れ駐車もしくは縦列駐車を行う駐車支援制御を実行する指令信号を受け取ると、車庫入れ駐車もしくは縦列駐車を行うときの最終的な目標駐車位置を求めると共に、その目標駐車位置までの移動軌跡を求める。そして、求められた移動軌跡に沿って、車両VLが所望の車速で移動するように、駐車支援制御ECU8からブレーキ制御ECU1に向けて制動力制御信号を出力することにより、制動力の制御が行われ、目標駐車位置で車両が停止するように駐車支援制御を実行する。
ナビゲーション装置9は、車両VLの現在位置や目的地までの経路案内などを表示する装置であり、GPS衛星からGPS信号(車両VLの位置情報など)を受信するGPS受信機(図示せず)と、地図データ等の各種情報が記憶された記憶媒体から走行路の情報(走行路が狭幅道路であることを識別する識別情報など)を読み取る情報読取装置(図示せず)と、操作部、LCD及びスピーカ等から構成されるマンマシンインタフェース装置(図示せず)とを主に備えている。
このナビゲーション装置9では、GPS受信機により受信されたGPS信号に基づいて、広域座標系における車両VLの現在位置を得ると共に、情報読取装置により読み取られた地図データに基づいて、走行路の情報(狭幅道路であるか否か、など)を得る。そして、この走行路の情報は、ブレーキ制御ECU1に伝達される。
センサ群50には、積荷用荷重センサ51、後席用荷重センサ52、操舵角センサ53が含まれている。積荷用荷重センサ51は、トランクルームなどの積荷スペースに設けられた荷重センサであり、積荷スペースでの車両VLに対する荷重が所定の重さ以上であるか否かを検出する。また、後席用荷重センサ52は、車両VLの後席に設けられた荷重センサであり、後席での車両VLに対する荷重が所定の重さ以上であるか否かを検出する。
これらの荷重センサは、いずれも、金属製の起歪体とその起歪体に張り付けられた歪ゲージとを備えており、荷重によって曲げられた起歪体の歪を歪ゲージによって検出する。そして、歪が所定以上になった場合に、荷重が所定の重さ以上であることを検出し、オン信号を出力する。一方、荷重が所定の重さ未満であり、歪が所定未満である場合には、オフ信号を出力する。
操舵角センサ53は、車両VLに設けられたステアリング(図示せず)の操舵角を検出するセンサであり、ステアリングの回転角度を回転方向に対応付けて検出する角度センサ(図示せず)を備えている。この角度センサは、電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。
積荷用荷重センサ51、後席用荷重センサ52、操舵角センサ53の検出結果は、車内LANバスを介して、いずれもブレーキ制御ECU1に入力される。
スイッチ群60は、荷崩防止スイッチ61、狭幅道路スイッチ62、後席乗り心地改善スイッチ63、駐車支援スイッチ64を含み、いずれも車両VLの搭乗者によって操作されるスイッチである。
荷崩防止スイッチ61は、積荷スペースに積まれた荷物の荷崩れを防止するための速度制御を有効にするか否かを設定するスイッチである。狭幅道路スイッチ62は、現在走行中の道路が狭幅道路であるとして速度制御を行うか否かを設定するスイッチである。後席乗り心地改善スイッチ63は、後席の乗り心地を改善するための速度制御を有効にするか否かを設定するスイッチである。
荷崩防止スイッチ61、狭幅道路スイッチ62、後席乗り心地改善スイッチ63はいずれもオンされた場合に、それぞれに対応する速度制御が有効に設定される。これらのスイッチにより設定された内容は、指令信号としていずれもブレーキ制御ECU1に伝達される。
駐車支援スイッチ64は、車庫入れ駐車もしくは縦列駐車の駐車支援制御を有効にするか否かを設定するスイッチであり、車庫入れ駐車の駐車支援制御を有効に設定する「車庫入れ駐車支援オン」、縦列駐車の駐車支援制御を有効に設定する「縦列駐車支援オン」、駐車支援制御を無効に設定する「オフ」の3状態が選択可能に構成されている。駐車支援スイッチ64により設定された内容は、指令信号として駐車支援制御ECU8に伝達される。駐車支援制御ECU8は、この指令信号に基づいて、適切な目標駐車位置と移動軌跡を求め、その移動軌跡に沿って所望の速度で車両VLが移動するように、ブレーキ制御ECU1を制御する。
次いで、図2を参照して、ブレーキ制御ECU1の詳細構成について説明する。図2は、ブレーキ制御ECU1の電気的構成を示したブロック図である。ブレーキ制御ECU1は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、計時回路14、及び入出力ポート15を備えており、これらはバスライン16を介して互いに接続されている。
入出力ポート15には、図1に示した油圧ブレーキ装置2、PKB3、車輪速度センサ5(FR〜RL車輪速度センサ5FR〜5RL)が接続されており、ブレーキECU1は、各車輪速度センサ5FR〜5RLにより検出された各車輪4FR〜4RLの車輪速度を基に、車両VLの任意の位置における車体速度を演算し、その演算した車体速度が目標速度となるように、油圧ブレーキ装置2およびPKB3を制御して、各車輪4FR〜4RLに対して適切な制動力を付与する。
また、入出力ポート15は、車内LANバス6とも接続されており、ブレーキ制御ECU1は、車内LANバス6に接続されたエンジン制御ECU7、駐車支援制御ECU8、ナビゲーション装置9、積荷用加重センサ51、後席用加重センサ52、操舵角センサ53、荷崩防止スイッチ61、狭幅道路スイッチ62、後席乗り心地改善スイッチ63、駐車支援スイッチ64との間で信号の送受信が行われる。
例えば、ブレーキ制御ECU1は、車両VLの任意の位置において演算した車体速度が目標速度となるように、エンジン制御ECU7に対して駆動輪である左右の前輪4FL,44FRに適切な駆動力を付与することを指示する指令信号を出力する。エンジン制御ECU7は、この指令信号に従って、前輪4FL,4FRに対して適切な駆動力を付与する。
また、ブレーキ制御ECU1は、駐車支援制御ECU8、ナビゲーション装置9や、各種センサ51〜53および各種スイッチ61〜64から入力される信号に基づいて、車両VLにおける走行状況、車両内環境、および車両外環境を判断し、その判断結果に応じて車体速度を演算する位置を設定して、その位置における車体速度の制御を実行する。
CPU11は、ROM12やRAM13に記憶されるプログラムやデータ、また入出力ポート15および車内LANバス16に接続された各部から入力された信号に従って、油圧ブレーキ装置2、PKB3およびエンジン制御ECU7を制御する演算装置である。
ROM12は、CPU11により実行される制御プログラム12aや、旋回半径マップ12bを含む固定値データを記憶する書き換え不能なメモリである。制御プログラム12aは、図5〜図8のフローチャート(車体速度制御処理のフローチャート)のプログラムを含んでいる。
このプログラムは、車両VLの走行状況、車両内環境、車両外環境に応じて、車体速度を演算する車両の位置を設定すると共に、その位置における車体速度を、各車輪4FR〜4RLが共通の1点を旋回中心として旋回するというアッカーマンジオメトリに基づき、回転状態が正常である2輪以上の車輪速度を用いて演算する。そして、その演算結果に基づいて、その位置における車体速度が目標速度となるように、各車輪4FR〜4RLに付与される制動力または駆動力を制御する。尚、アッカーマンジオメトリに基づく、車両VLの任意の位置における車体速度の演算原理については、図3を参照して後述する。
旋回半径マップ12bは、車両VLの任意の位置における車体速度を演算する場合に、車輪の回転状態が正常である2輪以上の車輪の車輪速度に基づいて特定される車体速度の比から、その車体速度を特定した位置の旋回半径を求めるためのマップである。この旋回マップ12bの詳細については、図4を参照して後述する。
RAM13は、CPU11が各種プログラムを実行する際に必要なデータを、一時的に記憶するための書き換え可能で揮発性のメモリである。例えば、所定期間にわたって一定間隔毎に各車輪速度センサ5FR〜5RLによって検出された各車輪4FR〜4RLの車輪速度が、それぞれRAM13に記憶される。このRAM13に記憶された各車輪4FR〜4RLの車輪速度は、各車輪4FR〜4RLの回転状態が正常であるか異常であるかを判定する場合に使用される。
計時回路14は、現在の日時を刻む内部時計を有しており、計時を開始した日時と現在の日時とを比較して所要時間を算出する既知の回路である。CPU11は、計時回路14によって計時された所定の時間間隔毎に、各車輪速度センサ5FR〜5RLによって検出された各車輪4FR〜4RLの車輪速度を取り込み、RAM13に記憶する。
次いで、図3を参照して、車両VLの任意の位置における車両速度の演算原理について説明する。図3は、その演算原理を説明する説明図である。ここで、図3の矢印FWDは、図1と同様、車両VLの前進方向を示す。また、図中の4つの四角は、各車輪4FR〜4RLを示し、車両VLは、右方向に旋回しているものとして説明する。即ち、操舵輪である左右の前輪4FL、4FRには、右方向の操舵角が付与されており、右側の車輪4FR,4RRが旋回内輪となり、左側の車輪4FL、4RLが旋回外輪となる。車両VLが左方向に旋回している場合については、左側の車輪4FL,4RLが旋回内輪となり、右側の車輪4FR、4RRが旋回外輪となる他は、図3と同じであるため、その図示と説明を省略する。尚、車両VLの旋回方向は、操舵角センサ53の出力によって判断できるし、左右の車輪4FR〜4RLそれぞれの車輪速度の大小関係を比較することによっても判断できる。
一般的に、車両VLは、旋廻時に各車輪4FR〜4RLにおいて横滑りが生じるのを防ぐために、遠心力のかからない理想的な状態において、各車輪4FR〜4RLが共通の1点(点O)を中心に旋回する「アッカーマンジオメトリ」を可能な限り満足するように、ステアリングジオメトリが設計されている。そこで、本実施形態では、2輪以上の車輪の車輪速度とそれらの車輪の幾何学的位置とから、アッカーマンジオメトリにより規定される旋廻中心(点O)の幾何学的位置を求め、更に、その旋廻中心(点O)からの幾何学的な位置関係に基づいて、車両VLの任意の位置における車体速度を演算する。
ここで、車両VLでは、旋回時に左右の前輪4FL,4FRが操舵され、左右の後輪4RL,4RRが操舵されないので、アッカーマンジオメトリを満足する状況下では、図3に示すように、各車輪4FR〜4RLの旋回中心が左右の後輪4RL,4RRにおける後輪軸81の延長線上におかれ、且つ、全ての車輪4FR〜4RLの旋回中心が同じ一点(点O)に一致する。
従って、旋回時において、車両VLにおける全ての位置が点Oを中心に同じ角速度で移動するので、幾何学的な関係により、それぞれの位置における車体速度の比が、その位置と点Oとの距離である旋回半径の比と等しくなる。本実施形態では、そのことを利用して任意の位置(点Pd)における車体速度を演算する。
例えば、各車輪4FR〜4RL全てにおいて回転状態が正常である場合、次のようにして、任意の位置(点Pd)における車体速度を演算する。即ち、旋回内輪である右前輪4FRの車輪速度Vfiと、旋回外輪である左前輪4FLの車輪速度Vfoとの平均車輪速度Vfcを演算し、その車輪速度Vfcを左右の前輪4FL,4FRの中間点である点Fcの車体速度として特定する。また、旋回内輪である右後輪4RRの車輪速度Vriと、旋回外輪である左後輪4RLの車輪速度Vroとの平均車輪速度Vrcを演算し、その車輪速度Vrcを左右の後輪4RL,4RRの中間点である点Rcの車体速度として特定する。
そして、上述したように、点Fcおよび点Rcにおける車体速度比(Vfc/Vrc)が、点Fcにおける旋回半径OFcおよび点Rcにおける旋回半径ORcの比(OFc/ORc)と等しくなる。一方、点Fcと点Rcとの距離(ホイールベース長)Lは、車両VLによって決まる固定かつ既知の値であるため、三角形O−Fc−Rcの幾何学形状から、辺O−Fcと辺O−Rcとの間の旋回角γを一意に定めることができ、これにより旋回中心(点O)の幾何学的位置を一意に定めることができる。従って、車輪速度に基づき車体速度を特定した点Fcにおける旋回半径OFcおよび点Rcにおける旋回半径ORcの長さも一意に特定される。本実施形態では、旋回半径の比OFc/ORcに対応する旋回半径OFcおよびORcの長さを、旋回半径マップ12bにより求める。
旋回半径OFcや旋回半径ORcの長さが特定できると、任意の位置(点Pd)における旋回半径OPdも、幾何学的な位置関係に基づき算出できる。例えば、点Pdが後輪軸81から距離Ldであり、車両のセンター軸82から距離Hdである場合、旋回半径OPdは以下の式(1)によって算出される。
OPd=(Ld2+(ORc−Hd)2)1/2 ・・・(1)
そして、任意の位置における車体速度の比が旋回半径の比と等しいことを利用して、点Pdにおける車体速度Vを以下の式(2)によって算出できる。
V=Vrc×(OPd/ORc) ・・・(2)
このように、任意の位置における車体速度を、アッカーマンジオメトリを利用して、2輪以上の車輪速度とその幾何学的な位置関係から演算することができる。
なお、最低限2輪の車輪速度があれば、アッカーマンジオメトリを利用して任意の位置における車体速度を演算できるが、実際の走行においては、低速であっても各車輪4FR〜4RLに横滑りがわずかに発生し、誤差を生じるので、本実施形態では、全ての車輪4FR〜4RLの回転状態が正常である場合には、この全ての車輪4FR〜4RLの車輪速度を用いて任意の位置における車体速度を演算する。これにより、旋回時において車輪4FR〜4RLそれぞれに生じる横滑りによる誤差が平均化され、その横滑りの影響を少なくすることができるので、演算の精度を高めることができる。
また、本実施形態では、左右の前輪4FL,4FRの平均車輪速度Vfcと左右の後輪4RL,4RRの平均車輪速度Vrcとを算出し、それぞれの平均車輪速度を左右の前輪4FL,4FRの中間点である点Fcの車体速度、および左右の後輪4RL,4RRの中間点である点Rcの車体速度と特定したうえで、演算を行う。これにより、4点の車体速度比(即ち、旋回半径比)から各点の旋回半径を求める場合と比較して、容易にその旋回半径を求めることができる。
一方、本実施の形態において、各車輪4FR〜4RLのうち、スリップ状態またやロック状態となって回転状態が異常である車輪が存在する場合、その異常と判定された車輪を除く2輪以上の車輪の車輪速度を選択して、任意の位置(点Pd)における車体速度を求める。
例えば、旋回内輪の前輪である右前輪4FRの回転状態が異常であると判定された場合、その右前輪4FRを除く左前輪4FLおよび左右の後輪4RL,4RRの車輪速度を用いて任意の位置における車体速度を計算する。この場合、左右の後輪4RL,4RRについては、それらの平均車輪速度Vrcを演算して、それを点Rcの車体速度として特定する。また、左前輪4FLの車輪速度Vfoを、旋回外輪の前輪の位置である点Foの車体速度として特定する。そして、点Foにおける車体速度と点Rcにおける車体速度との比(Vfo/Vrc)を、それぞれの点における旋回半径比(OFo/ORc)とすることで、幾何学的関係に基づいて旋回角γを一意に定めることができ、ホイールベース長Lが固定かつ既知の値であることから、旋回中心(点O)を一意に定めることができる。よって、車輪速度に基づき車体速度を特定した点Foおよび点Rcにおける旋回半径が一意に特定される。
同様に、旋回外輪の後輪である左後輪4RLの回転状態が異常であると判定された場合、その左後輪4RLを除く左右の前輪4FL,4FRおよび右後輪4RRの車輪速度を用いて任意の位置における車体速度を計算する。この場合、左右の前輪4FL,4FRについては、それらの平均車輪速度Vfcを演算して、それを点Fcの車体速度として特定し、また、左前輪4RRの車輪速度Vriを、旋回内輪の後輪の位置である点Riの車体速度として特定する。そして、点Fcにおける車体速度と点Riにおける車体速度との比(Vfc/Vri)を、それぞれの点における旋回半径比(OFc/ORi)とすることで、車輪速度に基づき車体速度を特定した点Fcおよび点Riにおける旋回半径を一意に特定することができる。
また、旋回外輪の前輪である左前輪4FLおよび旋回内輪の後輪である右後輪4RLの組み合わせを除く2輪の回転状態が異常であると判定された場合には、その異常と判定された車輪を除く2輪の車輪速度をその車輪の位置における車体速度として特定し、それらの車体速度の比を、それぞれの位置における旋回半径比とすることで、車輪速度に基づき車体速度を特定した位置における旋回半径を一意に特定することができる。
なお、各車輪4FR〜4RLのうち、3輪以上の車輪の回転状態が異常である場合には、回転状態が正常な2輪以上の車輪の車輪速度を確保できないため、アッカーマンジオメトリに基づいて旋回角度任意の位置における車体速度を演算することができない。従って、この場合にはアッカーマンジオメトリに基づく車体速度の演算をスキップして非実行とし、その演算を禁止する。
また、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪である左前輪4FLおよび旋回内輪の後輪である右後輪4RLの回転状態が異常である場合、旋回内輪の前輪である右前輪4FRおよび旋回外輪の後輪である左後輪4RLの車輪速度から、旋回内輪の前輪の位置である点Fiおよび旋回外輪の後輪の位置である点Roにおける旋回半径比(OFi/ORo)を求めても、それらの点の幾何学的な位置関係によって、その旋回半径比だけでは点Fiおよび点Roにおける旋回半径を一意に特定することができない。よって、本実施形態では、この場合においてもアッカーマンジオメトリに基づく車体速度の演算をスキップとして、非実行とし、その演算を禁止する。これにより、点Fiおよび点Roにおける旋回半径を一意に特定するために、複雑な演算処理が行われることにより、CPU11の負荷が増加するのを抑制している。
更に、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪である左前輪4FLおよび旋回内輪の後輪である右後輪4RRのいずれかの回転状態が異常である場合も、旋回内輪の前輪である右前輪4FRおよび旋回外輪の後輪である左後輪4RLを含めた回転状態の正常な3輪の車輪速度から2点の車体速度を特定し、その2点の旋回半径比を求めても、旋回内輪の前輪の位置である点Fiおよび旋回外輪の後輪の位置である点Roの幾何学的な位置関係によって、車輪速度に基づき車体速度を特定した2点における旋回半径を一意に特定することができない。よって、本実施形態では、このような場合に、旋回外輪の2輪または旋回内輪の2輪の車輪速度からそれぞれの車輪の位置における車体速度を特定し、旋回半径比を求めることによって、それらの位置における旋回半径を一意に特定する。これにより、複雑な演算による処理の負荷の増加を抑制しつつ、任意の位置における車体速度が演算できる。
次いで、図4を参照して、旋回半径マップ12bの詳細について説明する。図4は、旋回半径マップ12bの内容を模式的に示した模式図である。旋回半径マップ12bは、図4に示すように、旋回角γ(図3参照)に対応付けて、左右の前輪4FL,4FRの中間点である点Fcにおける旋回半径OFc(図3参照。以下、同様)と、左右の後輪4RL,4RRの中間点である点Rcにおける旋回半径ORcと、旋回内輪の前輪の位置である点Fiにおける旋回半径OFiと、旋回外輪の前輪の位置である点Foにおける旋回半径OFoと、旋回内輪の後輪の位置である点Riにおける旋回半径ORiと、旋回外輪の後輪の位置である点Roにおける旋回半径ORoとを示したマップである。
旋回角γは、車両VLが旋回していない場合の旋回角である0度から、車両VLの最大旋回角である45度までが所定の間隔(図4では5度間隔)に分けられている。そして、各旋回半径OFc,ORc,OFi,OFo,ORi,ORoには、旋回角γの大きさに基づき、以下の式(3)〜(8)によって計算される値が、各旋回角γに対応付けられて格納される。
OFc=L/sinγ ・・・(3)
ORc=L/tanγ ・・・(4)
OFi=(L2+(ORc−(Hf/2))2)1/2 ・・・(5)
OFo=(L2+(ORc+(Hf/2))2)1/2 ・・・(6)
ORi=ORc−(Hr/2) ・・・(7)
ORo=ORc+(Hr/2) ・・・(8)
ここで、Lはホイールベース長(点Fcと点Rcとの距離)であり、Hfは左右の前輪4FL,4FRの車輪回転中心間の距離であり、Hrは左右の後輪4RL,4RRの車輪回転中心間の距離である。図4に示す旋回半径マップ12bの例では、ホイールベース長Lを2.78m、前輪側の車輪回転中心間距離Hfを1.465m、後輪側の車輪回転中心間距離Hrを1.41mとして、各旋回角γに対応する各旋回半径OFc,ORc,OFi,OFo,ORi,ORoの値を示している。
旋回半径マップ12bでは、更に、各旋回半径の比として、左右の前輪4FL,4FRの中間点である点Fcおよび左右の前輪4RL,4RRの中間点である点Rcにおける旋回半径比OFc/ORc(図3参照。以下、同様)、点Fcおよび旋回内輪の後輪4RRの位置である点Riにおける旋回半径比OFc/ORi,旋回外輪の前輪4FLの位置である点Foおよび旋回内輪の前輪4FRの位置である点Fiにおける旋回半径比OFo/OFi,点Foおよび点Rcにおける旋回半径比OFc/ORc,旋回外輪の後輪4RLの位置である点Roおよび点Riにおける旋回半径比ORo/ORi、点Foおよび点Roにおける旋回半径比OFo/ORo、点Foおよび点Riにおける旋回半径比OFo/ORi、点Fiおよび点Riにおける旋回半径比OFi/ORiが、各々の点における旋回半径を基に計算され、各旋回角γに対応付けられて格納される。
CPU11は、回転状態が正常である2輪以上の車輪の車輪速度に基づいて算出した所定の2点における旋回半径比から、旋回半径マップ12bを用いて、その旋回半径比に対応するその2点の旋回半径を求める。
例えば、回転状態が正常である2輪以上の車輪の車輪速度に基づいて、点Fcおよび点Rcにおける旋回半径比OFc/ORcが算出され、その値が1.004であった場合には、CPU11は、旋回半径マップ12bに格納された旋回半径比OFc/ORcから、その値「1.004」に対応する旋回半径OFcとして31.897m、旋回半径ORcとして31.776mを得る。
また、回転状態が正常である2輪以上の車輪の車輪速度に基づいて、点Fcおよび点Riにおける旋回半径比OFc/ORiが算出され、その値が1.400であった場合には、CPU11は旋回半径マップ12bに格納された旋回半径比OFc/ORiから、1.400の値に近い「1.353」および「1.484」に対応する旋回半径OFcとして5.560mおよび4.847m、旋回半径ORiとして4.110mおよび3.265mを得る。そして、以下の式(9)、(10)のように、線形補間することによって、旋回半径比OFc/ORiが1.400である場合の、旋回半径OFcおよび旋回半径ORiを求める。
OFc: 4.847+(5.560-4.847)*(1.484-1.400)/(1.484-1.353)=5.304[m]・・・(9)
ORi: 3.265+(4.110-3.265)* (1.484-1.400)/(1.484-1.353)=3.807[m]・・・(10)
次いで、図5を参照して、ブレーキ制御ECU1で実行される車体速度制御処理について説明する。図5は、その車体速度制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両VLの走行状況、車両内環境、および車両外環境に応じて設定される位置の車体速度を演算し、その演算された車体速度が目標速度となるように制御する処理で、CPU11によって所定時間間隔(例えば、10ミリ秒)毎に繰り返し実行される。
この処理では、まず、後述する速度制御位置設定処理(図6参照)を実行し(S1)、車両VLの走行状況、車両内環境、および車両外環境に応じて、車体速度を演算すべき位置を設定する。次いで、S1で設定された位置における目標速度V0を、車両VLの走行状況等に応じて設定する(S2)。
そして、後述する車体速度演算処理(図7および図8参照)を実行し(S3)、S1で設定された位置における車体速度Vを、図3に示したアッカーマンジオメトリに基づいて演算する。
その後、S3の処理により演算された車体速度VとS2の処理により設定された目標速度V0との差を求め、この差に応じて、S1で設定された位置における車体速度Vが目標速度V0となるように油圧ブレーキ装置2、PKB3およびエンジン制御ECU7に対して制御信号を出力し、各車輪4FR〜4RLに付与される制動力または駆動力を制御する(S4)。そして、この車体速度演算処理を終了する。
このように、CPU11が車体速度演算処理を実行することにより、車両VLの走行状況、車両内環境、及び車両外環境に応じて、車体速度Vが演算される位置が設定されるので、その車両における種々の状況や環境に応じて制御したい位置の車体速度を精度よく演算することができると共に、その演算された車体速度を用いて、その位置のおける車体速度を精度よく制御することができる。
次いで、図6を参照して、ブレーキ制御ECU1で実行される速度制御位置設定処理について説明する。図6は、この速度制御位置設定処理を示すフローチャートである。この処理は、上述したように車体速度演算処理のS1の処理で実行され、車両VLの走行状況、車両内環境、および車両外環境に応じて、車体速度を演算すべき位置を設定する。
この処理では、まず、荷崩防止スイッチ61がオンされているか否かを判断する(S11)。そして、荷崩防止スイッチ61がオンされていると判断される場合には(S11:Yes)、車両VLに設けられた積荷スペースの荷物の荷崩れを防止するための速度制御が、車両VLの搭乗者によって有効に設定されているので、S13の処理へ移行する。
一方、荷崩防止スイッチ61がオフされていると判断される場合には(S11:No)、次いで、積荷用加重センサ51がオンであるか否かを判断する(S12)。その結果、積荷用荷重センサ51がオンであると判断される場合には(S12:Yes)、積荷スペースに所定の重さ以上の荷物が搭載されているので、S13の処理へ移行する。
S13の処理では、車体速度が演算される位置(制御位置)を、積荷スペースに設定して、この速度制御位置設定処理を終了する。これにより、車両VLの搭乗者によって、積荷スペースの荷崩れを防止するための速度制御が有効に設定された場合には、積荷スペースの搭載された荷物の重さに関わらず、積荷スペースにおける車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。また、積荷スペースに所定の重さ以上の荷物が搭載された場合には、搭乗者の設定に関わらず、積荷スペースにおける車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。よって、旋回時において、積荷スペースにおける車体速度の変化が小さくなるように車体速度を制御すれば、いずれの場合にも積荷スペースに搭載された荷物の荷崩れを防止できる。
一方、S12の処理により、積荷用加重センサ51がオフであると判断される場合には(S12:No)、次いで、狭幅道路スイッチ62がオンされているか否かを判断する(S14)。そして、狭幅道路スイッチ62がオンされていると判断される場合には(S14:Yes)、車両VLの搭乗者によって、現在走行中の道路が狭幅であるものとして速度制御を行うと設定されているので、S16の処理へ移行する。
一方、狭幅道路スイッチ62がオフされていると判断される場合には(S14:No)、次いで、ナビゲーション装置9からブレーキ制御ECU1に対して伝達された現在走行している走行路の情報に基づいて、その走行路が狭幅道路であるか否かを判断する(S15)。その結果、狭幅道路であると判断される場合には(S15:Yes)、現在走行している走行路が狭幅道路であるので、S16の処理へ移行する。
S16の処理では、車体速度が演算される位置(制御位置)を、旋回外側のフェンダーミラーの先端に設定して、この速度制御位置設定処理を終了する。尚、旋回外側のフェンダーミラーの先端は、車両VLにおいて、旋回半径が最も大きい位置に該当する。
これにより、車両VLの搭乗者が現在走行中の道路が狭幅であると感じた場合に、狭幅道路スイッチ62をオンすれば、旋回外側のフェンダーミラーの先端における車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。また、ナビゲーション装置9による客観的な走行路の情報に基づき、その走行路が狭幅道路である場合にも、旋回外側のフェンダーミラーの先端における車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。よって、旋回時において、車両VLにおける旋回半径が最も大きい位置である旋回外側のフェンダーミラーの先端の位置の車体速度の変化が小さくなるように車体速度を制御すれば、狭幅道路をより安全に走行することができる。また、その位置の車体速度を一定速度以下となるように制御すれば、狭幅道路を走行する車両外部の歩行者に対する恐怖感を少なくすることができる。
一方、S15の処理の結果、狭幅道路でないと判断される場合(S15:No)、次いで、駐車支援制御ECU8からブレーキ制御ECU1に対して、駐車支援制御を行うように制動力制御信号が出力されているか否かを判断する(S17)。そして、駐車支援制御を行うように制動力制御信号が出力されていると判断される場合には(S17:Yes)、車体速度が演算される位置(制御位置)を、運転席に設定して(S18)、この速度制御位置設定処理を終了する。
これにより、駐車支援制御が行われる場合には、運転席における車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御しながら、駐車支援制御を行うことができる。よって、旋回時において、運転席に搭乗する運転者が感じる速度感覚が、駐車支援制御手段により制御される車体速度と一致するため、運転者は安心して駐車支援制御による支援を受けながら、車両の駐車を行うことができる。
一方、S17の処理の結果、駐車支援制御ECU8からブレーキ制御ECU1に対して、駐車支援制御をおこなうように制動力制御信号が出力されていないと判断される場合には(S17:No)、次いで、後席乗り心地改善スイッチ63がオンされているか否かを判断する(S19)。そして、後席乗り心地改善スイッチ63がオンされていると判断される場合には(S19:Yes)、車両VLの後席における乗り心地を改善するための速度制御が、車両VLの搭乗者によって有効に設定されているので、S21の処理へ移行する。
一方、後席乗り心地改善スイッチ63がオフされていると判断される場合には(S19:No)、次いで、後席用加重センサ52がオンであるか否かを判断する(S20)。その結果、後席用荷重センサ52がオンであると判断される場合には(S20:Yes)、後席に所定の重さ以上の荷重がかかっているので、後席に搭乗者が搭乗していると判断できる。そこで、この場合にも、S21の処理へ移行する。
S21の処理では、車体速度が演算される位置(制御位置)を、後席に設定して、この速度制御位置設定処理を終了する。これにより、車両VLの搭乗者によって後席における乗り心地を改善するための速度制御が有効に設定された場合、または、後席に搭乗者が搭乗した場合に、後席スペースにおける車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。よって、旋回時において、後席における車体速度の変化が小さくなるように車体速度を制御すれば、後席に搭乗した搭乗者の乗り心地をよくすることができる。
一方、S20の処理により、後席用荷重センサ52がオフであると判断される場合には(S20:No)、次いで、操舵角センサ53の検出結果である車両VLに設けられたステアリングの操舵角に基づいて、運転席側が旋回外側に位置するか否かを判断する(S22)。そして、運転席側が旋回外側に位置すると判断される場合には(S22:Yes)、車体速度が演算される位置(制御位置)を、運転席に設定して(S23)、この速度制御位置設定処理を終了する。
これにより、運転席側が旋回外側に位置する場合には、運転席における車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。よって、運転席の位置が旋回の外側であっても、運転席の位置における車体速度が小さくなるように車体速度を制御すれば、運転者が想定していたよりも早い車体速度で旋回することを防止でき、運転者がより安心して運転することができる。
一方、S22の処理により、運転席側が旋回外側に位置しないと判断される場合には(S22:No)、車体速度が演算される位置(制御位置)を、車体重心に設定して(S24)、この速度制御位置設定処理を終了する。これにより、車両VLの走行状態、車両内環境および車両外環境が通常の状態である場合には、車体重心の位置の車体速度が演算され、その位置での車体速度を制御することができる。これにより、車両VL全体の車体速度を安定して制御することができる。
以上、この速度制御位置設定処理がCPU11によって実行されることにより、車両の走行状況、車両内環境および車両外環境に応じて、車両が置かれる状況や環境にあった速度制御をおこなうことができるので、運転者に対して、より快適な運転支援制御を提供できるという効果がある。
次いで、図7および図8を参照して、ブレーキ制御ECU1で実行される車体速度演算処理について説明する。図7および図8は、車体速度演算処理を示すフローチャートである。この処理は、上述したように車体速度演算処理のS3の処理で実行され、速度制御位置設定処理(車体速度演算処理のS1の処理)で設定された位置における車体速度Vを、図3に示したアッカーマンジオメトリに基づいて演算する。
尚、図7および図8の説明において、車両VLが旋回している場合、右方向に旋回しているものとして説明する。即ち、右前輪4FRおよび右後輪4RRが旋回内輪となり、左前輪4FLおよび左後輪4RLが旋回外輪となる。車両VLが左方向に旋回している場合には、左前輪4FLおよび左後輪4RLが旋回内輪となり、右前輪4FRおよび右後輪4RRが旋回外輪となる他は、図7および図8と同一であるため、その図示と説明を省略する。
この処理では、まず、各車輪4FR〜4RLについて、それぞれ回転状態が正常であるか異常であるかを判定する(S30)。この判定では、RAM13に記憶された各車輪4FR〜4RLの車輪速度を読み出し、その時間的な変化を算出する。そして、車輪速度が急激に変化している車輪があれば、その車輪がスリップ状態またはロック状態であると判断し、回転状態が異常であると判定する。また、ブレーキ制御ECU1により行われるABS制御によって制御対象となった車輪も、回転状態が異常であると判定する。その他の車輪については、回転状態が正常であると判定する。
次いで、操舵角センサ53の検出結果から、車両VLが旋回しているか否かを判定する(S31)。そして、車両VLが旋回していると判定される場合には(S31:Yes)、S32〜S60の処理を実行し、旋回中の車両における任意の位置での車体速度Vの演算を行う。
S32の処理では、S30の処理の結果から、各車輪4FR〜4RLの回転状態が4輪とも正常であるか否かを判断する。そして、4輪とも正常であると判断される場合には(S32:Yes)、左右の前輪4FL,4FRの平均車輪速度Vfcと、左右の後輪4RL,4RRの平均車輪速度Vrcとを演算し、これらを左右の前輪4FL,4FRの中間点である点Fc、および、左右の後輪4RL,4RRの中間点である点Rcの車体速度として特定する(S33)。
その後、車体速度比Vfc/Vrcを演算し、その値を点Fcおよび点Rcにおける旋回半径比OFc/ORcの値として、RAM13に記憶する(S34)。そして、S58の処理へ移行する。
このように、全ての車輪4FR〜4RLの回転状態が正常である場合には、そのすべての車輪4FL〜4RLの車輪速度を用いて演算を行うので、旋回時において各車輪4FR〜4RLに生じる横滑りの影響を少なくすることができ、演算の精度を高めることができる。
一方、S32の処理の結果、各車輪4FR〜4RLのうち、いずれかの車輪の回転状態が異常であると判断される場合には(S32:No)、次いで、左右の前輪4FL,4FRの回転状態がいずれも正常であるか否かを判断する(S35)。そして、左右の前輪4FL,4FRの回転状態がいずれも正常であると判断される場合には(S35:Yes)、更に、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であるか否かを判断する(S36)。
その結果、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であると判断される場合(S36:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、左右の前輪4FL,4FRおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であり、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が異常であると判断できる。そこで、左右の前輪4FL,4FRの平均車輪速度Vfcを演算し、これらを左右の前輪4FL,4FRの中間点である点Fcの車体速度として特定する(S37)。そして、旋回内輪の後輪4RRの位置である点Riの車体速度を旋回内輪の後輪4RRの車輪速度Vriと特定して、車体速度比Vfc/Vriを演算し、その値を点Fcおよび点Riにおける旋回半径比OFc/ORiの値として、RAM13に記憶する(S38)。その後、S58の処理へ移行する。
このように、左右の前輪4FL,4FRおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回外輪の後輪4RLを除く車輪4FL,4FR,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。更に、この場合、回転状態が正常であると判断された全ての車輪の車輪速度を用いて演算を行うので、演算精度をより高めることができる。
一方、S36の処理の結果、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が異常であると判断される場合には(S36:No)、次いで、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であるか否かを判断する(S39)。そして、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であると判断される場合には(S39:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、左右の前輪4FL,4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であり、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回外輪の前輪4FLの位置である点Foの車体速度を旋回外輪の前輪4FLの車輪速度Vfoと特定し、旋回外輪の後輪4RLの位置である点Roの車体速度を旋回外輪の後輪4RLの車輪速度Vroと特定して、車体速度比Vfo/Vroを演算し、その値を点Foおよび点Roにおける旋回半径比OFo/ORoの値として、RAM13に記憶する(S40)。その後、S58の処理へ移行する。
このように、左右の前輪4FL,4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回内輪の後輪4RRを除く車輪4FL,4RLの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
また、この場合、上述したように、回転状態が正常である旋回内輪の前輪4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの車輪速度を用いて演算を行うと、それらの車輪の位置(点Fiおよび点Ro)の幾何学的な位置関係によって、後述するS58の処理で、旋回半径を一意に特定することができず、演算が複雑になる。これに対し、S38の処理では、車輪4FL,4RLの車輪速度を用いて演算を行うので、S58の処理で旋回半径を一意に特定することができ、複雑な演算による処理の負荷の増加を抑制しつつ、演算を行うことができる。
一方、S39の処理の結果、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が異常であると判断される場合には(S39:No)、各車輪4FR〜4RLのうち、左右の前輪4FL,4FRの回転状態が正常であり、左右の後輪4RL,4RRの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回外輪の前輪4FLの位置である点Foの車体速度を旋回外輪の前輪4FLの車輪速度Vfoと特定し、旋回内輪の前輪4FRの位置である点Fiの車体速度を旋回内輪の前輪4FRの車輪速度Vfiと特定して、車体速度比Vfo/Vfiを演算し、その値を点Foおよび点Fiにおける旋回半径比OFo/OFiの値として、RAM13に記憶する(S41)。その後、S58の処理へ移行する。
このように、左右の前輪4FL,4FRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された左右の後輪4RL,4RRを除く車輪4FL,4FRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
これに対し、S35の処理の結果、左右の前輪4FL,4FRのいずれかの回転状態が異常であると判断される場合には(S35:No)、図8に示すS42の処理へ移行する。
次いで、図8を参照して、S42の処理では、左右の後輪4RL,4RRの回転状態がいずれも正常であるか否かを判断する。そして、左右の後輪4RL,4RRの回転状態がいずれも正常であると判断される場合には(S42:Yes)、更に、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が正常であるか否かを判断する(S43)。
その結果、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が正常であると判断される場合(S43:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪4FLおよび左右の後輪4RL,4RRの回転状態が正常であり、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が異常であると判断できる。そこで、左右の後輪4RL,4RRの平均車輪速度Vrcを演算し、これらを左右の後輪4RL,4RRの中間点である点Rcの車体速度と特定する(S44)。そして、旋回外輪の前輪4FLの位置である点Foの車体速度を旋回外輪の前輪4FLの車輪速度Vfoと特定して、車体速度比Vfo/Vrcを演算し、その値を点Foおよび点Rcにおける旋回半径比OFo/ORcの値として、RAM13に記憶する(S45)。その後、図7に示すS58の処理へ移行する。
このように、旋回外輪の前輪4FLおよび左右の後輪4RL,4RRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回内輪の前輪4FRを除く車輪4FL,4RL,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。更に、この場合、回転状態が正常であると判断された全ての車輪の車輪速度を用いて演算を行うので、演算精度をより高めることができる。
一方、S43の処理の結果、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が異常であると判断される場合には(S43:No)、次いで、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が正常であるか否かを判断する(S46)。そして、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が正常であると判断される場合には(S46:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回内輪の前輪4FRおよび左右の後輪4RL,4RRの回転状態が正常であり、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回内輪の前輪4FRの位置である点Fiの車体速度を旋回内輪の前輪4FRの車輪速度Vfiと特定し、旋回内輪の後輪4RRの位置である点Riの車体速度を旋回内輪の後輪4RRの車輪速度Vriと特定して、車体速度比Vfi/Vriを演算し、その値を点Fiおよび点Riにおける旋回半径比OFi/ORiの値として、RAM13に記憶する(S47)。その後、図7に示すS58の処理へ移行する。
このように、旋回内輪の前輪4FRおよび左右の後輪4RL,4RRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回外輪の前輪4FLを除く車輪4FR,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
また、この場合、上述したように、回転状態が正常である旋回内輪の前輪4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの車輪速度を用いて演算を行うと、それらの車輪の位置(点Fiおよび点Ro)の幾何学的な位置関係によって、後述するS58の処理で、旋回半径を一意に特定することができず、演算が複雑になる。これに対し、S47では、車輪4FR,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、S58の処理で旋回半径を一意に特定することができ、複雑な演算による処理の負荷の増加を抑制しつつ、演算を行うことができる。
一方、S46の処理の結果、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が異常であると判断される場合には(S46:No)、各車輪4FR〜4RLのうち、左右の後輪4RL,4RRの回転状態が正常であり、左右の前輪4FL,4FRの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回外輪の後輪4RLの位置である点Roの車体速度を旋回外輪の後輪4RLの車輪速度Vroと特定し、旋回内輪の後輪4RRの位置である点Riの車体速度を旋回内輪の後輪4RRの車輪速度Vriとし特定て、車体速度比Vro/Vriを演算し、その値を点Roおよび点Riにおける旋回半径比Oro/Oriの値として、RAM13に記憶する(S48)。その後、図7に示すS58の処理へ移行する。
このように、左右の後輪4RL,4RRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された左右の前輪4FL,4FRを除く車輪4RL,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
これに対し、S42の処理の結果、左右の後輪4RL,4RRのいずれかの回転状態が異常であると判断される場合には(S42:No)、各車輪4FR〜4RLのうち回転状態が正常である車輪は2輪以下となる。
そこで、今度は、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が正常であるか否かを判断する(S49)。そして、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が正常であると判断される場合には(S49:Yes)、更に、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であるか否かを判断する(S50)。
その結果、旋回外輪の後輪RLの回転状態が正常であると判断される場合には(S50:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪4FLおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であり、旋回内輪の前輪4FRおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回外輪の前輪4FLの位置である点Foの車体速度を旋回外輪の前輪4FLの車輪速度Vfoと特定し、旋回外輪の後輪4RLの位置である点Roの車体速度を旋回外輪の後輪4RLの車輪速度Vroと特定して、車体速度比Vfo/Vroを演算し、その値を点Foおよび点Roにおける旋回半径比Ofo/Oroの値として、RAM13に記憶する(S51)。その後、図7に示すS58の処理へ移行する。
このように、旋回外輪の前輪4FLおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回内輪の前輪4FRおよび旋回内輪の後輪4RRを除く車輪4FL,4RLの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
一方、S50の処理の結果、旋回外輪の後輪RLの回転状態が異常であると判断される場合には(S50:Yes)、更に、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であるか否かを判断する(S52)。その結果、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であると判断される場合には(S52:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪4FLおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であり、旋回内輪の前輪4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回外輪の前輪4FLの位置である点Foの車体速度を旋回外輪の前輪4FLの車輪速度Vfoと特定し、旋回内輪の後輪4RRの位置である点Riの車体速度を旋回内輪の後輪4RRの車輪速度Vriと特定して、車体速度比Vfo/Vriを演算し、その値を点Foおよび点Riにおける旋回半径比Ofo/Oriの値として、RAM13に記憶する(S53)。その後、図7に示すS58の処理へ移行する。
このように、旋回外輪の前輪4FLおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回内輪の前輪4FRおよび旋回外輪の後輪4RLを除く車輪4FL,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
一方、S52の処理の結果、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が異常であると判断される場合には(S52:No)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪4FLのみが回転状態が正常であると判断できるので、上述したように、図3に示したアッカーマンジオメトリに基づいて、任意の位置における車体速度を演算することができない。従って、この場合には、図7に示すS58およびS59の処理をスキップして非実行とし、これらの処理の実行を禁止して、図7に示すS60の処理へ移行する。
これに対し、S49の処理の結果、旋回外輪の前輪4FLの回転状態が異常であると判断される場合には(S49:No)、次いで、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が正常であるか否かを判断する(S54)。そして、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が異常であると判断される場合には(S54:No)、全ての車輪4FR〜4RRの回転状態が異常であると判断できるので、上述したように、図3に示したアッカーマンジオメトリに基づいて、任意の位置における車体速度を演算することができない。従って、この場合にも、図7に示すS58およびS59の処理をスキップして非実行とし、これらの処理の実行を禁止して、図7に示すS60の処理へ移行する。
一方、S54の処理の結果、旋回内輪の前輪4FRの回転状態が正常であると判断される場合には(S54:Yes)、更に、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であるか否かを判断する(S55)。そして、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であると判断される場合(S55:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回内輪の前輪4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が正常であり、旋回外輪の前輪4FLおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が異常であると判断できる。
この場合、上述したように、回転状態が正常である旋回内輪の前輪4FRおよび旋回外輪の後輪4RLの車輪速度を用いて演算を行うと、それらの車輪の位置(点Fiおよび点Ro)の幾何学的な位置関係によって、後述するS58の処理で、旋回半径を一意に特定することができず、演算が複雑になる。そこで、この場合にも、図7に示すS58およびS59の処理をスキップして非実行とし、これらの処理の実行を禁止して、図7に示すS60の処理へ移行する。これにより、複雑な演算による処理の負荷の増加を抑制できる。
一方、S55の処理の結果、旋回外輪の後輪4RLの回転状態が異常であると判断される場合には(S55:No)、更に、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であるか否かを判断する(S56)。そして、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であると判断される場合には(S56:Yes)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回内輪の前輪4FRおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であり、旋回外輪の前輪4FLおよび旋回外輪の後輪4RLの回転状態が異常であると判断できる。
そこで、旋回内輪の前輪4FRの位置である点Fiの車体速度を旋回内輪の前輪4FRの車輪速度Vfiと特定し、旋回内輪の後輪4RRの位置である点Riの車体速度を旋回内輪の後輪4RRの車輪速度Vriと特定して、車体速度比Vfi/Vriを演算し、その値を点Fiおよび点Riにおける旋回半径比Ofi/Oriの値として、RAM13に記憶する(S53)。その後、図7に示すS58の処理へ移行する。
このように、旋回内輪の前輪4FRおよび旋回内輪の後輪4RRの回転状態が正常であると判断される場合には、回転状態が異常と判断された旋回外輪の前輪4FLおよび旋回外輪の後輪4RLを除く車輪4FR,4RRの車輪速度を用いて演算を行うので、回転状態が異常と判断される車輪が存在しても演算精度を高めることができる。
一方、S56の処理の結果、旋回内輪の後輪4RRの回転状態が異常であると判断される場合には(S56:No)、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回内輪の前輪4FRのみが回転状態が正常であると判断できるので、上述したように、図3に示したアッカーマンジオメトリに基づいて、任意の位置における車体速度を演算することができない。従って、この場合にも、図7に示すS58およびS59の処理をスキップして非実行とし、これらの処理の実行を禁止して、図7に示すS60の処理へ移行する。
図7に戻り、S58の処理では、RAM13に記憶された旋回半径比に基づいて、旋回半径マップ12を用いて、回転状態が正常である車輪の車輪速度に基づいて車体速度を特定した位置(点Fi,Fc,Fo,Ri,Rc,Ro)の旋回半径を求める(S58)。そして、車輪速度に基づいて特定した車体速度と、S58で求めた旋回半径とに基づいて、図3に示すアッカーマンジオメトリを用いて、速度制御位置設定処理(車体速度演算処理のS1の処理)で設定された位置における車体速度Vを演算し(S59)、この車体速度演算処理を終了する。
このように、2輪以上の車輪の車輪速度に基づき、アッカーマンジオメトリを用いて、速度制御位置設定処理で設定された任意の位置における車体速度を演算するので、従来、車体速度を算出するために用いられる横加速度センサやヨーレートセンサなどが不要であるので、コストの増加を抑制しつつ、任意の位置の車体速度を演算できる。
また、回転状態が異常であると判定された車輪を除く2輪以上の車輪の車輪速度が、車体速度の演算に用いられるので、回転状態が正常である車輪の車輪速度に基づいて、任意の位置における車体速度が演算される。これにより、演算精度を高めることができる。その結果、コストの増加を抑制しつつ、任意の位置の車体速度を精度よく演算できる。
一方、S60の処理では、S58およびS59の処理の代わりに、過去に速度制御位置設定処理(車体速度演算処理のS1の処理)で設定された位置において演算された車体速度の演算結果を外挿線形補間して、現在のその位置における車体速度Vを推定する。そして、車体速度演算処理を終了する。
また、S31の処理において、車両VLが旋回していないと判断される場合には(S31:No)、回転状態が異常である車輪を除く車輪の車輪速度の平均を、速度制御位置設定処理(車体速度演算処理のS1の処理)で設定された位置における車体速度Vとし(S61)、この車体速度演算処理を終了する。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。また、上記実施形態における速度制御位置設定処理の各判断処理は、車両VLの特徴に応じて、適宜入れ替えたり、外したりしてもよい。
上記実施形態において、左右の前輪4FL,4FRを操舵輪とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の後輪4RL,4RRを操舵輪とする場合や、4輪以外の複数の車輪を有する車両においても、適用可能である。
上記実施形態において、各車輪4FR〜4RLのうち、旋回外輪の前輪である左前輪4FLおよび旋回内輪の後輪である右後輪4RRのいずれかの回転状態が異常である場合に、旋回外輪の2輪または旋回内輪の2輪の車輪速度からそれぞれの車輪の位置における車体速度を特定し、旋回半径比を求めることによって、それらの位置における旋回半径を一意に特定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、このような場合には、前輪2輪または後輪2輪の車輪速度からそれぞれの車輪の位置における車体速度を特定し、旋回半径比を求めることによって、それらの位置における旋回半径を一意に特定してもよい。これによっても、複雑な演算による処理の負荷の増加を抑制しつつ、任意の位置における車体速度が演算できる。
上記実施形態において、車両VLの搭乗者が現在走行中の道路が狭幅であると感じた場合、または、ナビゲーション装置9による客観的な走行路の情報に基づき、その走行路が狭幅道路である場合に、車体速度が演算される位置(制御位置)を、旋回外側のフェンダーミラーの先端に設定する場合について説明したが、旋回外側のフェンダーミラーの先端以外に、車両VLにおいて旋回半径が最も大きい位置が存在する場合には、その位置を車体速度が演算される位置(制御位置)に設定してもよい。例えば、ボンネットの左または右先端が、車両VLにおいて旋回半径が最も大きい位置となる場合には、そのボンネットの左または右先端を車体速度が演算される位置(制御位置)に設定してもよい。