[緩衝材]
本発明の緩衝材は、湿熱接着性繊維を含み、かつ不織繊維構造を有している。特に、本発明の緩衝材は、前記湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された成形体で構成され、繊維構造に特有の高い吸音断熱性、衝撃吸収性だけでなく、不織繊維構造を構成する繊維の配列と、この繊維同士の接着状態を調整することにより、通常の不織布では得られない「曲げ挙動(高い曲げ応力を有し、また最大曲げ応力を示す地点を過ぎてさらに曲げても応力を保持するとともに、応力を解除すると復元しようとする挙動)」と「軽量性」と「表面硬さ(表面に荷重をかけて厚み方向に力を付与しても容易に変形し難い特性)」とを兼ね備え、さらに折れ難く、形態保持性及び通気性をも同時に確保している。
このような緩衝材は、後述するように、前記湿熱接着性繊維を含むウェブに高温(過熱又は加熱)水蒸気を作用させて、湿熱接着性繊維の融点以下の温度で接着作用を発現し、繊維同士を部分的に接着させることにより得られる。すなわち、単繊維及び束状集束繊維同士を湿熱下、適度に小さな空隙を保持しながら、いわば「スクラム」を組むように点接着又は部分接着させて得られる。
(湿熱接着性繊維)
湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース又はその塩など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC2-4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ビニルアルコール系重合体、ポリビニルアセタールなど)、アクリル系共重合体およびそのアルカリ金属塩[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドなどのアクリル系単量体で構成された単位を含む共重合体又はその塩など]、変性ビニル系共重合体(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物との共重合体又はその塩など)、親水性の置換基を導入したポリマー(スルホン酸基やカルボキシル基、ヒドロキシル基などを導入したポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン又はその塩など)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸系樹脂など)などが挙げられる。さらに、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー又はゴム(スチレン系エラストマーなど)などのうち、熱水(高温水蒸気)の温度で軟化して接着機能を発現可能な樹脂も含まれる。
これらの湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。湿熱接着性樹脂は、通常、親水性又は水溶性高分子で構成される。これらの湿熱接着性樹脂のうち、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C2-10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、例えば、10〜60モル%、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。エチレン単位がこの範囲にあることにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。エチレン単位の割合が少なすぎると、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の蒸気(水)で容易に膨潤又はゲル化し、水に一度濡れただけで形態が変化し易い。一方、エチレン単位の割合が多すぎると、吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現し難くなるため、実用性のある強度の確保が困難となる。エチレン単位の割合が、特に30〜50モル%の範囲にあると、シート又は板状への加工性が特に優れる。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位のケン化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。ケン化度が小さすぎると、熱安定性が低下し、熱分解やゲル化によって安定性が低下する。一方、ケン化度が大きすぎると、繊維自体の製造が困難となる。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。
湿熱接着性繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など]に限定されず、中空断面状などであってもよい。湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂を含む複数の樹脂で構成された複合繊維であってもよい。複合繊維は、湿熱接着性樹脂を少なくとも繊維表面の一部に有していればよいが、接着性の点から、湿熱接着性樹脂が表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して占めるのが好ましい。
湿熱接着性繊維が表面を占める複合繊維の横断面構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、接着性が高い構造である点から、湿熱接着性樹脂が全表面を長さ方向に連続して占める構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性又は疎水性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
ポリエステル系樹脂としては、ポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、特に、PETなどのポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレンテレフタレート単位の他に、他のジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)やジオール(例えば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)で構成された単位を20モル%以下程度の割合で含んでいてもよい。
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミドなどが好ましい。これらのポリアミド系樹脂にも、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂(繊維形成性重合体)とで構成された複合繊維の場合、両者の割合(質量比)は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、湿熱接着性樹脂が表面に存在すれば特に限定されないが、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂=90/10〜10/90(例えば、60/40〜10/90)、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80程度である。湿熱接着性樹脂の割合が多すぎると、繊維の強度を確保し難く、湿熱接着性樹脂の割合が少なすぎると、繊維表面の長さ方向に連続して湿熱接着性樹脂を存在させるのが困難となり、湿熱接着性が低下する。この傾向は、湿熱接着性樹脂を非湿熱接着性繊維の表面にコートする場合においても同様である。
湿熱接着性繊維の平均繊度は、用途に応じて、例えば、0.01〜100dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.1〜50dtex、さらに好ましくは0.5〜30dtex(特に1〜10dtex)程度である。平均繊度がこの範囲にあると、繊維の強度と湿熱接着性の発現とのバランスに優れる。
湿熱接着性繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm(特に35〜55mm)程度である。平均繊維長がこの範囲にあると、繊維が充分に絡み合うため、成形体の機械的強度が向上する。
湿熱接着性繊維の捲縮率は、例えば、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%(特に10〜20%)程度である。また、捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mm程度である。
(他の繊維)
緩衝材は、さらに非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの芳香族ポリエステル繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド系繊維、半芳香族ポリアミド系繊維、ポリフェニレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド系繊維など)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリC2-4オレフィン繊維など)、アクリル系繊維(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系繊維など)、ポリビニル系繊維(ポリビニルアセタール系繊維など)、ポリ塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体の繊維など)、ポリ塩化ビニリデン系繊維(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体などの繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、セルロース系繊維(例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの非湿熱接着性繊維は、緩衝材の種類に応じて適宜選択して使用できる。硬さなどの機械的特性を重視する場合には、吸湿性の高い親水性繊維、例えば、ポリビニル系繊維やセルロース系繊維、特に、セルロース系繊維を使用するのが好ましい。セルロース系繊維には、天然繊維(木綿、羊毛、絹、麻など)、半合成繊維(トリアセテート繊維などのアセテート繊維など)、再生繊維(レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル(例えば、登録商標名:「テンセル」など)など)が含まれる。これらのセルロース系繊維のうち、例えば、レーヨンなどの半合成繊維が好適に使用でき、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む湿熱接着性繊維と組み合わせると、湿熱接着性繊維との親和性が高いため、収縮が進むとともに、接着性も向上し、本発明の中では相対的に高密度で機械的特性の高い成形体が得られる。
一方、成形性や形態安定性よりも断熱吸音性、衝撃吸収性を重視する場合には、吸湿性の低い疎水性繊維、例えば、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、特に、諸特性のバランスに優れるポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)を使用するのが好ましい。これらの疎水性繊維をエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む湿熱接着性繊維と組み合わせると、繊維間の空隙が増大し、かつ融着せずに自由に振動可能な繊維が増加するため、断熱吸音性、衝撃吸収性の高い緩衝材が得られる。
非湿熱接着性繊維の平均繊度及び平均繊維長は、湿熱接着性繊維と同様である。
さらに、緩衝材が柔軟性や衝撃吸収性を特に要求される用途に使用される場合など、疎水性繊維の中でも、特に、熱収縮率(又は熱膨張率)の異なる複数の樹脂で相構造が形成された複合繊維(潜在捲縮性複合繊維)を使用するのが好ましい。
潜在捲縮性複合繊維は、複数の樹脂の熱収縮率(又は熱膨張率)の違いに起因して、加熱により捲縮を生じる非対称又は層状(いわゆるバイメタル)構造を有する繊維(潜在捲縮繊維)である。複数の樹脂は、通常、軟化点又は融点が異なる。複数の樹脂は、例えば、前記湿熱接着性繊維の項で例示した非湿熱接着性樹脂が使用できる。なかでも、高温水蒸気で加熱処理しても溶融又は軟化して繊維が融着しない点から、軟化点又は融点が100℃以上の非湿熱接着性樹脂(又は耐熱性疎水性樹脂又は非水性樹脂)、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。本発明では、高温水蒸気で処理しても複合繊維による融着が起こらないように、複合繊維の表面に露出する樹脂は非湿熱接着性繊維であるのが好ましい。
複合繊維を構成する複数の樹脂は、熱収縮率が異なっていればよく、同系統の樹脂の組み合わせであっても、異種の樹脂の組み合わせであってもよい。
本発明では、密着性の点から、同系統の樹脂の組み合わせで構成されているのが好ましい。同系統の樹脂の組み合わせの場合、通常、単独重合体(必須成分)を形成する成分(A)と、変性重合体(共重合体)を形成する成分(B)との組み合わせが用いられる。すなわち、必須成分である単独重合体に対して、例えば、結晶化度や融点又は軟化点などを低下させる共重合性単量体を共重合させて変性することにより、単独重合体よりも結晶化度を低下させるか、非晶性とし、単独重合体よりも融点又は軟化点などを低下させてもよい。このように、結晶性、融点又は軟化点を変化させることにより、熱収縮率に差異を設けてもよい。融点又は軟化点の差は、例えば、5〜150℃、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは70〜120℃程度であってもよい。変性に用いられる共重合性単量体の割合は、全単量体に対して、例えば、1〜50モル%、好ましくは2〜40モル%、さらに好ましくは3〜30モル%(特に5〜20モル%)程度である。単独重合体を形成する成分と、変性重合体を形成する成分との複合比率(質量比)は、繊維の構造に応じて選択できるが、例えば、単独重合体成分(A)/変性重合体成分(B)=90/10〜10/90、好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60程度である。
本発明では、潜在捲縮性の複合繊維を製造し易い点から、複合繊維は芳香族ポリエステル系樹脂の組み合わせ、特に、ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)と、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)との組み合わせであってもよい。特に、本発明では、ウェブ形成後に捲縮を発現するタイプが好ましく、この点からも前記組み合わせが好ましい。ウェブ形成後に捲縮が発現することにより、効率良く繊維同士が交絡し、より少ない融着点数でウェブの形態保持が可能となるため、高い柔軟性を実現できる。
ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)は、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸などの対称型芳香族ジカルボン酸など)とアルカンジオール成分(エチレングリコールやブチレングリコールなどC3-6アルカンジオールなど)との単独重合体であってもよい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリC2-4アルキレンテレフタレート系樹脂などが使用され、通常、固有粘度0.6〜0.7程度の一般的なPET繊維に用いられるPETが使用される。
一方、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)では、必須成分である前記ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)の融点又は軟化点、結晶化度を低下させる共重合成分、例えば、非対称型芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸成分や、ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)のアルカンジオールよりも鎖長の長いアルカンジオール成分及び/又はエーテル結合含有ジオール成分が使用できる。これらの共重合成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分のうち、ジカルボン酸成分として、非対称型芳香族カルボン酸(イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)、脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸などのC6-12脂肪族ジカルボン酸)などが汎用され、ジオール成分として、アルカンジオール(1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどC3-6アルカンジオールなど)、(ポリ)オキシアルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシC2-4アルキレングリコールなど)などが汎用される。これらのうち、イソフタル酸などの非対称型芳香族ジカルボン酸、ジエチレングリコールなどのポリオキシC2-4アルキレングリコールなどが好ましい。さらに、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)は、C2-4アルキレンアリレート(エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなど)をハードセグメントとし、(ポリ)オキシアルキレングリコールなどをソフトセグメントとするエラストマーであってもよい。
変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)において、ジカルボン酸成分として、融点又は軟化点を低下させるためのジカルボン酸成分(例えば、イソフタル酸など)の割合は、ジカルボン酸成分の全量に対して、例えば、1〜50モル%、好ましくは5〜50モル%、さらに好ましくは15〜40モル%程度である。ジオール成分として、融点又は軟化点を低下させるためのジオール成分(例えば、ジエチレングリコールなど)の割合は、ジオール成分の全量に対して、例えば、30モル%以下、好ましくは10モル%以下(例えば、0.1〜10モル%程度)である。共重合成分の割合が低すぎると、充分な捲縮が発現せず、捲縮発現後の不織繊維集合体の形態安定性と伸縮性とが低下する。一方、共重合成分の割合が高すぎると、捲縮発現性能は高くなるが、安定に紡糸することが困難となる。
変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)は、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸成分、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール成分などを併用して分岐させてもよい。
複合繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など]に限定されず、中空断面状などであってもよいが、通常、丸型断面である。
複合繊維の横断面構造としては、複数の樹脂に形成された相構造、例えば、芯鞘型、海島型、ブレンド型、並列型(サイドバイサイド型又は多層貼合型)、放射型(放射状貼合型)、中空放射型、ブロック型、ランダム複合型などの構造が挙げられる。これらの横断面構造のうち、加熱により自発捲縮を発現させ易い点から、相部分が隣り合う構造(いわゆるバイメタル構造)や、相構造が非対称である構造、例えば、偏芯芯鞘型、並列型構造が好ましい。
なお、複合繊維が偏芯芯鞘型などの芯鞘型構造である場合、表面に位置する鞘部の非湿熱性接着性樹脂と熱収縮差を有し捲縮可能であれば、芯部は湿熱接着性樹脂(例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系重合体など)や、低い融点又は軟化点を有する熱可塑性樹脂(例えば、ポリスチレンや低密度ポリエチレンなど)で構成されていてもよい。
複合繊維の平均繊度は、例えば、0.1〜50dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.5〜10dtex、さらに好ましくは1〜5dtex(特に1.5〜3dtex)程度である。繊度が細すぎると、繊維そのものが製造し難くなることに加え、繊維強度を確保し難い。また、捲縮を発現させる工程において、綺麗なコイル状捲縮を発現させ難くなる。一方、繊度が太すぎると、繊維が剛直となり、十分な捲縮を発現し難くなる。
複合繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm(特に40〜60mm)程度である。繊維長が短すぎると、繊維ウェブの形成が難しくなることに加え、捲縮を発現させる工程において、繊維同士の交絡が不十分となり、強度及び伸縮性の確保が困難となる。また、繊維長が長すぎると、均一な目付の繊維ウェブを形成することが難しくなるばかりか、ウェブ形成時点で繊維同士の交絡が多く発現し、捲縮を発現する際にお互いに妨害し合って柔軟性の発現が困難となる。
この複合繊維は、熱処理を施すことにより、捲縮が発現(顕在化)し、略コイル状(螺旋状又はつるまきバネ状)の立体捲縮を有する繊維となる。
加熱前の捲縮数(機械捲縮数)は、例えば、0〜30個/25mm、好ましくは1〜25個/25mm、さらに好ましくは5〜20個/25mm程度である。加熱後の捲縮数は、例えば、30個/25mm以上(例えば、30〜200個/25mm)であり、好ましくは35〜150個/25mm、さらに好ましくは40〜120個/25mm程度であり、45〜120個/25mm(特に50〜100個/25mm)程度であってもよい。
潜在捲縮性繊維を含む成形体は、高温水蒸気で捲縮されているため、複合繊維の捲縮が、成形体の内部において略均一に発現するという特徴を有している。具体的には、例えば、厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域のうち、中央部(内層)において、1周以上のコイルクリンプを形成している繊維の数が、例えば、5〜50本/5mm(面方向長)・0.2mm(厚み)であり、好ましくは5〜40本/5mm(面方向)・0.2mm(厚み)、さらに好ましくは10〜40本/5mm(面方向)・0.2mm(厚み)である。本発明では、大部分の捲縮繊維、成形体内部において(成形体の表面付近から中心部に亘り)、捲縮数が均一であるため、ゴムやエラストマーを含んでいなくても、適度な柔軟性を有するとともに、実用的な強度を有している。なお、本願明細書において、「厚み方向に三等分した領域」とは、成形体の厚み方向に対して直交する方向にスライスして三等分した各領域のことを意味する。
成形体を構成する捲縮繊維は、前述の如く、捲縮発現後において略コイル状の捲縮を有する。この捲縮繊維のコイルで形成される円の平均曲率半径は、例えば、10〜250μm程度の範囲から選択でき、例えば、20〜200μm(例えば、50〜200μm)、好ましくは50〜160μm(例えば、60〜150μm)、さらに好ましくは70〜130μm程度である。ここで、平均曲率半径は、捲縮繊維のコイルにより形成される円の平均的大きさを表す指標であり、この値が大きい場合は、形成されたコイルがルーズな形状を有し、言い換えれば捲縮数の少ない形状を有していることを意味する。また、捲縮数が少ないと、繊維同士の交絡も少なくなるため、柔軟性を発現するためには不利となる。逆に、平均曲率半径が小さすぎるコイル状捲縮を発現させた場合は、繊維同士の交絡が十分行われず、ウェブ強度を確保することが困難となるばかりか、このような捲縮を発現する潜在捲縮性複合繊維の製造も非常に難しくなる。
コイル状に捲縮した複合繊維において、コイルの平均ピッチは、例えば、0.03〜0.5mm、好ましくは0.03〜0.3mm、さらに好ましくは0.05〜0.2mm程度である。
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との割合(質量比)も、緩衝材の種類や用途に応じて、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜10/90(例えば、90/10〜20/80)程度の範囲から選択できる。両者の割合は、湿熱接着性繊維の割合が多くなると、接着点が増加するため、表面硬さや曲げ挙動などの機械的特性が向上し、非湿熱接着性繊維の割合が多くなると、繊維間の空隙が増大し、遊離の繊維も増加するため、断熱吸音性が向上する傾向を有している。また、繊維の固定力も低下するため、衝撃吸収性及び柔軟性も向上する。本発明では、特に、建築物や車両などの部材として必要とされる強度及び成形性の点から、両者の割合(質量比)は、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜60/40(例えば、99/1〜60/40)、好ましくは100/0〜70/30(例えば、95/5〜70/30)、さらに好ましくは100/0〜80/20(特に100/0〜90/10)程度である。
成形体(又は繊維)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、増粘剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、畜熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤、可塑剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、成形体表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
(緩衝材の特性)
本発明の緩衝材は、前記繊維で構成されたウェブから得られる不織繊維構造を有しており、その形状は用途に応じて選択でき、断面円形又は楕円形状、多角形状であってもよいが、通常、シート状又は板状である。
さらに、緩衝材において、高い硬度(形態安定性)を有するとともに、断熱吸音性及び衝撃吸収性と軽量(低密度)性とをバランスよく備えた不織繊維構造を有するためには、前記不織繊維のウェブを構成する繊維の配列状態及び接着状態が適度に調整されている必要がある。すなわち、繊維ウェブを構成する繊維が、概ね繊維ウェブ(不織繊維)面に対して平行に配列しながら、お互いに交差するように配列させるのが望ましい。さらに、緩衝材を構成する成形体は、各繊維が交差した交点で融着しているのが好ましい。特に、高い形態安定性が要求される成形体は、交点以外の繊維が略平行に並んでいる部分において、数本〜数十本程度で束状に融着した束状融着繊維を形成していてもよい。これらの繊維が、単繊維同士の交点、束状繊維同士の交点、又は単繊維と束状繊維との交点において融着した構造を部分的に形成することにより、「スクラム」を組んだような構造(繊維が交点部で接着し、網目のように絡み合った構造、又は交点で繊維が接着し隣接する繊維を互いに拘束する構造)とし、目的とする曲げ挙動や表面硬度などを発現させることができる。本発明では、このような構造が、繊維ウェブの面方向及び厚み方向に沿って概ね均一に分布するような形態とするのが望ましい。
ここでいう「概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列している」とは、局部的に多数の繊維が厚み方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態を示す。より具体的には、成形体の繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、繊維ウェブでの厚さの30%以上に亘り、厚み方向に連続して延びる繊維の存在割合(本数割合)が、その断面における全繊維に対して10%以下(特に5%以下)である状態をいう。
繊維を繊維ウェブ面に対して平行に配列するのは、厚み方向(ウェブ面に対して垂直な方向)に沿って配向している繊維が多く存在すると、周辺に繊維配列の乱れが生じて不織繊維内に必要以上に大きな空隙を生じ、成形体の曲げ強度や表面硬さが低減するためである。従って、できるだけこの空隙を少なくするのが好ましく、このために繊維を可能な限り繊維ウェブ面に対して平行に配列させるのが望ましい。
なお、ウェブをニードルパンチなどの手段で交絡させると、高密度な成形体の製造が容易となる。さらに、繊維を湿熱接着させる前に交絡させると、接着前の繊維の形態が保持されるため、厚みの大きい成形体の製造が容易となり、生産効率上有利となる。しかし、ニードルパンチなどによる繊維の交絡は、繊維を繊維ウェブ面に対して平行に配列させる点からは不利である。さらに、交絡によって成形体の密度が高まるため、低密度で軽量な成形体の製造は困難となる。従って、繊維を平行に配列させる点からは、繊維の交絡の程度を低減するか、交絡しないのが好ましい。
特に、成形体がシート状又は板状である場合に、成形体の厚み方向に荷重がかかった場合、大きな空隙部が存在すると、この空隙部が荷重により潰れて成形体表面が変形し易くなる。さらに、この荷重が成形体全面にかかると全体的に厚さが小さくなり易くなる。成形体自体を空隙のない樹脂充填物とすればこのような問題を回避できるが、通液性が低下する。
一方で、荷重による厚み方向への変形を小さくするために、繊維を細くし、より密に繊維を充填することが考えられるが、細い繊維のみで通液性を確保しようとすると、各々の繊維の剛性が低くなり、逆に曲げ応力が低下する。曲げ応力を確保するためには、繊維径をある程度太くすることが必要であるが、単純に太い繊維を混合したのでは、太い繊維同士の交点付近で、大きな空隙ができやすく、厚み方向へ変形し易くなる。
そこで、本発明の緩衝材は、低密度にするとともに、繊維の方向をウェブの面方向に沿って平行に並べ、分散させる(又は繊維方向をランダム方向に向ける)ことにより、繊維同士がお互いに交差し、その交点で接着することにより、小さな空隙を生じて通液性及び高い吸水性を確保している。さらに、このような繊維構造が連続することにより、適度な表面硬さも確保している。特に、他の繊維と交差せず概ね平行に並んでいる箇所において、繊維長さ方向に並行に融着した束状繊維を形成させた場合には、単繊維のみから構成される場合に比べて高い曲げ強度を主に確保できる。硬さ及び強度が高い成形体を望む場合には、繊維一本一本が交差する交点で接着しながら、交点と交点との間で、各繊維が束状に並ぶ部分において、数本の束状繊維を形成することが好ましい。このような構造は、成形体断面を観察したときの単繊維の存在状態から確認できる。
さらに、本発明の緩衝材において、不織繊維構造を構成する繊維が前記湿熱接着性繊維の融着により繊維接着率が、例えば、75%以下(例えば、1〜75%)、好ましくは3〜70%、さらに好ましくは5〜60%(特に10〜50%)程度で接着されている。本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
本発明では、さらに、不織繊維構造を構成する繊維は、各々の繊維の接点で接着しているが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が、厚み方向に沿って、成形体表面から内部(中央)、そして裏面に至るまで、均一に分布しているのが好ましい。接着点が表面又は内部などに集中すると、優れた機械的特性及び成形性を確保するのが困難となるだけでなく、接着点の少ない部分における形態安定性が低下する。
従って、成形体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%(特に70〜97%)程度である。本発明では、繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有しているため、繊維の接着面積が低いにも拘わらず、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性も優れている。さらに、繊維の接着面積が低いため、自由に振動可能な繊維が多く、吸音性も高い。
このように、本発明の緩衝材では、湿熱接着性繊維による融着が均一に分散して点接着しているだけでなく、これらの点接着が短い融着点距離(例えば、数十〜数百μm)で緻密にネットワーク構造を張り巡らしている。このような構造により、本発明の緩衝材は、外力が作用しても、繊維構造が有する柔軟性により、歪みに対して追従性が高くなるとともに、微細に分散した繊維の各融着点に外力が分散して小さくなるため、高い耐折性や靱性を発現していると推定できる。これに対して、従来の多孔質成形体や発泡体などは、空孔の周囲が連続した界面を形成しているため、本発明の緩衝材に比べて、大きな面積で外力を受け止めることとなり、歪みが発生し易く、耐折性や靱性が低下すると推定できる。
本発明の緩衝材において、厚み方向の断面における単繊維(単繊維端面)の存在頻度は特に限定されず、例えば、高い断熱吸音性や衝撃吸収性を要求される場合には、その断面の任意の1mm2に存在する単繊維の存在頻度が平均100個/mm2以上(例えば、100〜300個/mm2程度)であってもよい。一方、断熱吸音性や軽量性よりも機械的特性が要求される場合には、単繊維の存在頻度は、例えば、平均100個/mm2以下、好ましくは60個/mm2以下(例えば、1〜60個/mm2)、さらに好ましくは25個/mm2以下(例えば、3〜25個/mm2)であってもよい。単繊維の存在頻度が多すぎると、繊維の融着が少なく、成形体の強度が低下する。なお、単繊維の存在頻度が100個/mm2を超えると繊維の束状融着が少なくなるため、高い曲げ強度の確保が困難となる。さらに、板状成形体の場合、束状に融着された繊維が成形体の厚み方向に薄く、面方向(長さ方向又は幅方向)に幅広い形を有するのが好ましい。
なお、本発明では、前記単繊維の存在頻度は、次のようにして測定する。すなわち、成形体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の中から選んだ1mm2に相当する範囲を観察し、単繊維断面の数を数える。写真の中から任意の数箇所(例えば、無作為に選択した10箇所)について同様に観察し、単繊維端面の単位面積当たりの平均値を単繊維の存在頻度とする。このとき、断面において、単繊維の状態である繊維の数を全て数える。すなわち、完全に単繊維の状態である繊維以外に、数本の繊維が融着した繊維であっても、断面において融着部分から離れて単繊維の状態にある繊維は単繊維として数える。
成形体中の湿熱接着性繊維は、厚み方向で繊維が成形体を貫通しないことにより、繊維の抜けなどによる成形体からの繊維の脱落が抑制できる。湿熱接着性繊維をこのように配置するための製造方法は特に限定されないが、湿熱接着性繊維を交絡させた成形体を複数積層して、湿熱接着する手段が簡便かつ確実である。また、繊維長と成形体の厚さの関係を調整することにより、成形体の厚み方向で貫通する繊維を大幅に低減できる。このような点から、成形体の厚さは、繊維長に対して10%以上(例えば、10〜1000%)、好ましくは40%以上(例えば、40〜800%)、さらに好ましくは60%以上(例えば、60〜700%)、特に100%以上(例えば、100〜600%)である。このような調整により、成形体の曲げ応力などの機械的強度が低下することなく、成形体からの繊維の脱落が抑制できる。
このように本発明の緩衝材は、束状融着繊維の割合や存在状態により、密度や機械的特性は影響を受ける。融着の度合いを示す繊維接着率は、SEMを用いて、緩衝材の断面を拡大した写真を撮影し、所定の領域において、接着した繊維断面の数に基づいて簡便に測定できる。しかし、束状に繊維が融着している場合には、各繊維が束状に又は交点で融着しているため、特に密度が高い場合には、繊維単体として観察することが困難になり易い。この場合、例えば、本発明の緩衝材が湿熱接着性繊維で構成された鞘部と繊維形成性重合体で構成された芯部とで形成された芯鞘型複合繊維で接着されている場合には、融解や洗浄除去などの手段で接着部の融着を解除し、解除前の切断面と比較することにより繊維接着率を測定できる。一方、本発明では、この繊維融着の度合を反映する指標として、成形後の成形体断面(厚み方向の断面)における繊維及び束状の繊維束の形成する断面の占める面積比率、すなわち繊維充填率を用いることもできる。厚み方向の断面における繊維充填率は、例えば、20〜80%、好ましくは20〜60%、さらに好ましくは30〜50%程度である。繊維充填率が小さすぎると、成形体内の空隙が多すぎて、所望の表面硬さ及び曲げ応力を確保するのが困難になる。逆に、大きすぎると、表面硬さ及び曲げ応力を充分に確保できるが、非常に重くなり、通液性が低下する傾向にある。
本発明の緩衝材(特に、束状に繊維が融着し、単繊維の存在頻度が100個/mm2以下である成形体)は、板状(ボード状)であっても、荷重により凹んだり、変形し難い表面硬さを有するのが望ましい。そのような指標として、Eタイプ及びFOタイプのデュロメータ硬さ試験(JIS K6253の「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験法」に準拠した試験)による硬度によって評価できる。Eタイプでは、例えば、30以上、好ましくは40〜100、さらに好ましくは50〜80程度である。一方、FOタイプでは、例えば、40以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは60〜100(特に70〜100)程度である。この硬度が小さすぎると、表面にかかる荷重により変形し易い。
このような束状融着繊維を含む成形体は、断熱吸音性及び衝撃吸収性と曲げ強度及び表面硬さと軽量性とを高い次元でバランスさせるために、束状融着繊維の存在頻度が少なく、かつ各繊維(束状繊維及び/又は単繊維)の交点で高い頻度で接着しているのが好ましい。但し、繊維接着率が高すぎると、接着している点同士の距離が近接し過ぎて、断熱吸音性、衝撃吸収性及び柔軟性が低下し、外部応力による歪みの解消も困難となる。このため、成形体は、繊維接着率が75%以下である必要がある。繊維接着率が高すぎないことにより、成形体内で繊維が自由に振動可能となり、また細かな空隙による通路が確保でき、軽量性及び通気性も向上できる。従って、できるだけ少ない接点数で大きな吸音断熱性、曲げ応力、表面硬さ及び通気性を発現するためには、繊維接着率が成形体表面から内部(中央)、そして裏面に至るまで、厚み方向に沿って均一に分布しているのが好ましい。接着点が表面や内部などに集中すると、前述の曲げ応力や形態安定性に加えて、通気性を確保するのも困難となる。
そこで、本発明の緩衝材では、厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維充填率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維充填率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)が50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは60〜99%、さらに好ましくは70〜98%程度である。本発明では、繊維充填率が、厚み方向において、均一であると、曲げ強度や耐折性や靱性などにおいて優れる。本発明における繊維充填率は、SEM写真からイメージアナライザーを用いた方法などによって測定できる。
本発明の緩衝材は、靱性及び曲げ応力が高く、優れた曲げ挙動を示すことも特徴の一つである。本発明では、この曲げ挙動を表すため、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じて、サンプルを徐々に曲げたときに生ずるサンプルの反発力を測定し、最大応力(ピーク応力)を曲げ応力として表し、曲げ挙動の指標として用いた。すなわち、この曲げ応力が大きいほど硬い成形体であり、さらに測定対象物が破壊するまでの曲げ量(変位)が大きい程よく曲がる成形体である。
本発明の緩衝材は、少なくとも一方向(好ましくは全ての方向)における最大曲げ応力が0.05MPa以上(例えば、0.05〜100MPa)であり、好ましくは0.1〜30MPa、さらに好ましくは0.2〜20MPa程度であってもよい。さらに、束状融着繊維(束状の形態で融着した複数の繊維)を含む成形体など、高い曲げ応力を有する場合には、最大曲げ応力は、2MPa以上、好ましくは5〜100MPa、さらに好ましくは10〜60MPa程度であってもよい。この最大曲げ応力が小さすぎると、板状で使用したときに自重やわずかな荷重により簡単に折れ易い。また、最大曲げ応力が高すぎると、硬くなり過ぎて、応力のピークを過ぎて折り曲げると折れて破損し易くなる。なお、100MPaを超えるような硬さを得るためには、成形体の密度を高くすることが必要となり、軽量性及び通液性の確保が困難になる。
この曲げ量(変位)とそれによる曲げ応力との相関を見ると、最初、曲げ量の増加とともに応力も増加し、例えば、略直線的に増加する。本発明の緩衝材において、測定サンプルが固有の曲げ量に到達すると、その後は徐々に応力が低くなる。すなわち、曲げ量と応力とをグラフにすると、上に凸の放物線状にカーブを描く相関関係を示す。本発明の緩衝材は、最大曲げ応力(曲げ応力のピーク)を超えて、さらに曲げようとした場合においても、急激な応力降下を生じることなく、いわゆる「粘り(又は靱性)」を有することも特徴の一つである。本発明では、このような「粘り」を表す指標として、曲げ応力のピーク時の曲げ量(変位)を超えた状態において残っている曲げ応力を用いることができる。すなわち、本発明の緩衝材は、最大曲げ応力を示す曲げ量の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(以下、「1.5倍変位応力」と称することがある)が、最大曲げ応力の1/5以上(例えば、1/5〜1)を維持していればよく、例えば、1/3以上(例えば、1/3〜9/10)、好ましくは2/5以上(例えば、2/5〜9/10)、さらに好ましくは3/5以上(例えば、3/5〜9/10)維持していてもよい。また、2倍変位応力が、最大曲げ応力の1/10以上(例えば、1/10〜1)、好ましくは3/10以上(例えば、3/10〜9/10)、さらに好ましくは5/10以上(例えば、5/10〜9/10)維持していてもよい。
本発明の緩衝材は、繊維間に生ずる空隙により高い軽量性を確保できる。また、これらの空隙は、独立した空隙ではなく連続しているため、高い通気性を有している。このような構造は、樹脂を含浸する方法や、表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成する方法など、これまでの一般的な硬質化手法では製造することが極めて困難な構造である。
すなわち、本発明の緩衝材は低密度であり、具体的には、見掛け密度が0.05〜0.7g/cm3程度の範囲から選択でき、断熱吸音性及び衝撃吸収性と機械的特性とのバランスの点から、例えば、0.06〜0.5g/cm3、好ましくは0.07〜0.4g/cm3、さらに好ましくは0.08〜0.35g/cm3程度(特に0.1〜0.3g/cm3)である。見かけ密度が低すぎると、断熱吸音性及び衝撃吸収性が高く軽量ではあるものの、十分な曲げ硬さ及び表面硬さを確保するのが難しく、逆に高すぎると、硬さは確保できるものの、断熱吸音性及び軽量性が低下する。緩衝材として、高い断熱吸音性や衝撃吸収性を要求される用途に使用する場合には、前記範囲の中で、なるべく低密度に調整するのが好ましい。なお、密度が低下すると、繊維が交絡し、交点で融着しただけの一般的な不織繊維構造に近くなり、一方、密度が高くなると、繊維が束状に融着し、多孔質成形体に近い構造となる。
緩衝材の目付は、例えば、50〜10000g/m2程度の範囲から選択でき、好ましくは150〜8000g/m2、さらに好ましくは300〜6000g/m2程度である。硬さが要求される用途では、目付は、例えば、1000〜10000g/m2、好ましくは1500〜8000g/m2、さらに好ましくは2000〜6000g/m2程度であってもよい。目付が小さすぎると、硬さを確保することが難しく、また、目付が大きすぎると、ウェブが厚すぎて湿熱加工において、高温水蒸気が充分にウェブ内部に入り込めず、厚み方向に均一な構造体とするのが困難になる。
本発明の緩衝材が、板状又はシート状である場合、その厚さは特に限定されないが、1〜500mm程度の範囲から選択でき、例えば、2〜300mm、好ましくは3〜100mm、さらに好ましくは5〜50mm程度である。厚さが薄すぎると、硬さの確保が難しくなり、厚すぎると、質量が重くなるため、取扱性が低下する。
本発明の緩衝材は、不織繊維構造を有しているため、通気性が高い。具体的にはフラジール形法による通気度が0.1cm3/(cm2・秒)以上[例えば、0.1〜300cm3/(cm2・秒)]、好ましくは0.5〜250cm3/(cm2・秒)[例えば、1〜250cm3/(cm2・秒)]、さらに好ましくは5〜200cm3/(cm2・秒)程度であり、通常、1〜100cm3/(cm2・秒)程度である。通気度が小さすぎると、成形体に空気を通過させるために外部から圧力を加える必要が生じ、自然な空気の出入が困難となる。一方、通気度が大き過ぎると、通気性は高くなるが、成形体内の繊維空隙が大きくなりすぎ、曲げ応力が低下する。
本発明の緩衝材は、音として感知できる周波数の範囲(10〜20000Hz程度)に対して吸音性を示し、通常、100〜10000Hz程度の周波数を有する音に対して用いられる。特に、本発明の緩衝材は、例えば、200〜5000Hz、好ましくは300〜3000Hz、さらに好ましくは500〜2500Hz(特に500〜1800Hz)の周波数の音に対して効果的である。具体的には、密度0.15g/cm3、厚み10mmの緩衝材は、2000Hzの音に対する垂直入射吸音率が0.25以上(例えば、0.25〜0.9)であってもよく、好ましくは0.3〜0.8、さらに好ましくは0.4〜0.6程度である。さらに、3000Hzの音に対する垂直入射吸音率が0.5以上(例えば、0.5〜0.99)であってもよく、好ましくは0.6〜0.95、さらに好ましくは0.7〜0.9程度である。
本発明の緩衝材は、不織繊維構造を有しているため、断熱性も高く、熱伝導率が0.1W/(m・K)以下と低く、例えば、0.02〜0.1W/(m・K)、好ましくは0.03〜0.08W/(m・K)(特に0.04〜0.07W/(m・K))程度である。
[緩衝材の製造方法]
本発明の緩衝材の製造方法では、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロ一法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。
これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。これらのウェブのうち、束状融着繊維の割合を多くする場合には、セミランダムウェブ、パラレルウェブが好ましい。
次に、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで過熱又は高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、不織繊維構造を有する成形体が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、前記蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により、湿熱接着性繊維が融着し、繊維同士(湿熱接着性繊維同士、又は湿熱接着性繊維と他の繊維)が三次元的に接着される。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、高温水蒸気が内部にまで浸透し、略均一な融着状態を有する成形体を得ることができる。なお、潜在捲縮性複合繊維を含有する場合、厚み方向において略均一に捲縮が発現する。
使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブを目的の密度に圧縮しつつ高温水蒸気処理することができれば、特に限定されるものではなく、エンドレスコンベアが好適に用いられる。尚、一般的な単独のベルトコンベアであってもよく、必要に応じて2台のベルトコンベアを組み合わせて、両ベルト間にウェブを挟むようにして運搬してもよい。このように運搬することにより、繊維ウェブを処理する際に、処理に用いる水、高温水蒸気、コンベアの振動などの外力により運搬してきた繊維ウェブの形態が変形するのを抑制できる。また、処理後の不織繊維の密度や厚さをこのベルトの間隔を調整することにより制御することも可能となる。
繊維ウェブに水蒸気を供給するためには、慣用の水蒸気噴射装置が用いられる。この水蒸気噴射装置としては、所望の圧力と量で、ウェブ全幅に亘り概ね均一に水蒸気を吹き付け可能な装置が好ましい。2台のベルトコンベアを組み合わせた場合、一方のコンベア内に装着され、通水性のコンベアベルト、又はコンベアの上に載置されたコンベアネットを通してウェブに水蒸気を供給する。他方のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。サクションボックスによって、繊維ウェブを通過した過剰の水蒸気を吸引排出できる。また、繊維ウェブの表及び裏の両側を一度に水蒸気処理するために、さらに前記水蒸気噴射装置が装着されているコンベアとは反対側のコンベアにおいて、前記水蒸気噴射装置が装着されている部位よりも下流部のコンベア内に別の水蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の水蒸気噴射装置及びサクションボックスがない場合、繊維ウェブの表と裏を水蒸気処理したい場合は、一度処理した繊維ウェブの表裏を反転させて再度処理装置内を通過させることで代用してもよい。
コンベアに用いるエンドレスベルトは、繊維ウェブの運搬や高温水蒸気処理の妨げにならなければ、特に限定されない。ただし、高温水蒸気処理をした場合、その条件により繊維ウェブの表面にベルトの表面形状が転写される場合があるので、用途に応じて適宜選択するのが好ましい。特に、表面の平坦な成形体を得たい場合には、メッシュの細かいネットを使用すればよい。なお、90メッシュ程度が上限であり、概ね90メッシュより粗いネット(例えば、10〜50メッシュ程度のネット)が好ましい。これ以上のメッシュの細かなネットは、通気性が低く、水蒸気が通過し難くなる。メッシュベルトの材質は、水蒸気処理に対する耐熱性などの観点より、金属、耐熱処理したポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアリレート系樹脂(全芳香族系ポリエステル系樹脂)、芳香族ポリアミド系樹脂などの耐熱性樹脂などが好ましい。
水蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体である繊維ウェブ中の繊維を大きく移動させることなく繊維ウェブ内部へ進入する。この繊維ウェブ中への水蒸気流の進入作用及び湿熱作用によって、水蒸気流が繊維ウェブ内に存在する各繊維の表面を湿熱状態で効率的に覆い、均一な熱接着が可能になると考えられる。また、この処理は高速気流下で極めて短時間に行われるため、水蒸気の繊維表面への熱伝導は充分であるが、繊維内部への熱伝導が充分になされる前に処理が終了してしまい、そのため高温水蒸気の圧力や熱により、処理される繊維ウェブ全体がつぶれたり、その厚さが損なわれるような変形も起こりにくい。その結果、繊維ウェブに大きな変形が生じることなく、表面及び厚み方向における接着の程度が概ね均一になるように湿熱接着が完了する。また、乾熱処理に比べて、不織構造内部に対して充分に熱を伝動できるため、表面及び厚み方向における融着の程度が概ね均一になる。
さらに、表面硬さや曲げ強度の高い成形体を得る場合には、ウェブに高温水蒸気を供給して処理する際に、処理されるウェブを、コンベアベルト又はローラーの間で、目的の見かけ密度(例えば、0.3〜1g/cm3程度)に圧縮した状態で高温水蒸気に晒すのが重要である。特に、相対的に高密度の成形体を得ようとする場合には、高温水蒸気で処理する際に、十分な圧力で繊維ウェブを圧縮する必要がある。さらに、ローラー間又はコンベア間に適度なクリアランスを確保することで、目的の厚さや密度に調整することも可能である。コンベアの場合には、一気にウェブを圧縮することが困難なので、ベルトの張力をできるだけ高く設定し、蒸気処理地点の上流から徐々にクリアランスを狭めていくのが好ましい。さらに、蒸気圧力、処理速度を調整することにより所望の吸音性、曲げ硬さ、表面硬度、軽量性、通気度を有する成形体に加工する。
このとき、硬度を上げたい場合には、ウェブを挟んでノズルと反対側のエンドレスベルトの裏側をステンレス板などにし、蒸気が通過できない構造とすれば、被処理体であるウェブを通過した蒸気がここで反射するので、蒸気の保温効果によってより強固に接着される。逆に、軽度の接着が必要な場合には、サクションボックスを配置し、余分な水蒸気を室外へ排出してもよい。
高温水蒸気を噴射するためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給される繊維ウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。また、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚さは、0.5〜1mm程度であってもよい。オリフィスの径やピッチに関しては、目的とする繊維固定が可能な条件であれば特に制限はないが、オリフィスの直径は、通常、0.05〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.2〜0.5mm程度である。オリフィスのピッチは、通常、0.5〜3mm、好ましくは1〜2.5mm、さらに好ましくは1〜1.5mm程度である。オリフィスの径が小さすぎると、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になるという設備的な問題点と、目詰まりを起こしやすくなるという運転上の問題点が生じ易い。逆に、大きすぎると、水蒸気噴射力が低下する。一方、ピッチが小さすぎると、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズル自体の強度が低下する。一方、ピッチが大きすぎると、高温水蒸気がウェブに充分に当たらないケースが生じるため、ウェブ強度が低下する。
高温水蒸気についても、目的とする繊維の固定が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、圧力は、例えば、0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度である。水蒸気の圧力が高すぎたり、強すぎる場合には、ウェブを形成する繊維が必要以上に動いて地合の乱れを生じたり、繊維が溶融しすぎて部分的に繊維形状を保持できなくなる可能性がある。また、圧力が弱すぎると、繊維の融着に必要な熱量をウェブに与えることができなくなったり、水蒸気がウェブを貫通できず、厚み方向に繊維融着斑を生ずる場合がある。また、ノズルからの水蒸気の均一な噴出の制御が困難になる場合がある。
高温水蒸気の温度は、例えば、70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度である。高温水蒸気の処理速度は、例えば、200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度である。
必要であれば、コンベアベルトに所定の凹凸柄や文字、絵などを付与しておき、これらを転写させることで得られる成形体に意匠性を付与することも可能である。また、板状の成形体を複数枚重ねて積層体としてもよく、他の資材と積層して積層体を形成してもよい。
このようにして繊維ウェブの繊維を部分的に湿熱接着した後、得られる不織繊維構造を有する成形体に水分が残留する場合があるので、必要に応じてウェブを乾燥してもよい。乾燥に関しては、乾燥用加熱体に接触した成形体の表面が、乾燥の熱により繊維が溶融して繊維形態が消失しないことが必要であり、繊維形態が維持できる限り、慣用の方法を利用できる。例えば、不織布の乾燥に使用されるシリンダー乾燥機やテンターのような大型の乾燥設備を使用してもよいが、残留している水分は微量であり、比較的軽度な乾燥手段により乾燥可能なレベルである場合が多いため、遠赤外線照射、マイクロ波照射、電子線照射などの非接触法や熱風を吹き付けたり、通過させる方法などが好ましい。
さらに、成形体は、前述のように、湿熱接着性繊維を高温水蒸気により接着させて得られるが、部分的に(湿熱接着により得られた成形体同士の接着など)、他の慣用の方法、例えば、部分的な熱圧融着(熱エンボス加工など)、機械的圧縮(ニードルパンチなど)などの処理方法により接着されていてもよい。
なお、湿熱接着性繊維は、繊維ウェブを熱湯に漬すことでも融着するが、このような方法では繊維接着率の制御が困難であり、また繊維接着率の均一性が高い成形体を得るのが困難である。その原因は、繊維ウェブ中に必然的に含まれる空気の影響で位置によって湿熱接着性が異なること、この空気が繊維ウェブの外に押し出されることによる構造への影響、湿熱接着させた繊維ウェブを熱湯中から取り出すときの引き取りローラーによる繊維内部の微細構造の変形や取り出した繊維ウェブ中に含まれる熱湯の重さによる上下方向の微細構造の変形の違いなどであると推定できる。
得られた成形体である緩衝材は、前述の緩衝材(成形体)の製造工程において金型などを利用して所望の形状(円柱状、四角柱状、球状、楕円体状などの各種形状)に成形してもよいが、前述の方法により得られた板状又はシート状成形体を二次成形してもよい。本発明の緩衝材の形状は、通常、板状(平板状、湾曲板状、屈曲板状など)、円筒状などである。
二次成形方法としては、例えば、切断加工などであってもよいが、簡便性などの点から、慣用の熱成形により二次成形するのが好ましい。熱成形としては、例えば、圧縮成形、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチドモールド成形、熱板成形、湿熱プレス成形などが利用できる。特に、金型の再現性が高く、複雑な形状に追従可能であるため、金型を用いて加圧成形してもよく、例えば、100〜150℃(特に120〜140℃程度)の温度で、0.05〜2MPa(特に0.1〜1MPa程度)の圧力で成形してもよい。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトインデックス(MI)
JIS K6760に準じて、190℃、21.2N荷重の条件下、メルトインデクサーを用いて測定した。
(2)目付(g/m2)
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
(3)厚さ(mm)、見掛け密度(g/cm3)
JISL1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚さを測定し、この値と目付けの値とから見かけ密度を算出した。
(4)捲縮数
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて評価した。
(5)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、成形体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した成形体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために成形体を切断することにより、成形体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)も併せて求めた。
(6)曲げ応力
JIS K7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは25mm幅×80mm長のサンプルを用い、支点間距離を50mmとし、試験速度を2mm/分として測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大応力(ピーク応力)を最大曲げ応力とした。なお、曲げ応力の測定は、MD方向及びCD方向について測定した。ここで、MD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるように測定サンプルを採取した状態をいい、一方、CD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるように測定サンプルを採取した状態をいう。
(7)1.5倍変位応力
曲げ応力の測定において、最大曲げ応力(ピーク応力)を示す曲げ量(変位)を超え、さらにその変位の1.5倍の変位まで曲げつづけた時の応力を、1.5倍変位応力とした。
(8)熱伝導率
JIS R2648「耐火断熱れんがの熱線法による熱伝導率の試験方法」に準じて、非定常熱線法によって測定した。
(9)通気度
JIS L1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
(10)デュロメータ硬さ
JIS K6253に準じ、タイプE及びFOのデュロメータ硬さ試験により測定した。タイプEのデュロメータ硬さ試験については、デュロメータ(テクロック社製、「GS−721N」)を使用し、タイプFOのデュロメータ硬さ試験については、デュロメータ(テクロック社製、「GS−744G」)を使用した。特に、サンプルが柔らかい場合、Eタイプでは正確な測定が困難であるため、FOタイプのみで測定した。
(11)吸音率
音響インピーダンス管を用いた吸音率測定システム(ブリューエル&ケアー社製、2マイクロフォンインピーダンス管4206型の大型測定管)を用いて、JIS A−1405法に準じて垂直入射吸音率を測定した。
実施例1
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」、繊度2.2dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm、捲縮率13.5%)を準備した。
この芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約140g/m2のカードウェブを作製し、このウェブを7枚重ねて合計目付約1000g/m2のカードウェブとした。
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。尚、このベルトコンベアの金網の上部には同じ金網を有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から0.4MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施し、不織繊維構造を有する成形体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して蒸気処理を施した。
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)は10mmとした。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
得られた成形体は、ボード状の形態を有し、自立性を有するほどの硬さを有し、中央部を持って、面方向を重力と交差する方向に向けても先端が重力方向に曲がることはなかった。この緩衝材の評価結果を表1に示す。さらに、この緩衝材の吸音性能を測定した結果を図1に示す。
実施例2
繊維ウェブを11枚重ね、合計目付約1500g/m2のカードウェブとする以外は実施例1と同様にして、緩衝材を製造した。得られた緩衝材の評価結果を表1に示す。さらに、この緩衝材の吸音性能を測定した結果を図1に示す。
実施例3
繊維ウェブを18枚重ね、合計目付2500g/m2のカードウェブとする以外は実施例1と同様にして、緩衝材を製造した。得られた緩衝材の評価結果を表1に示す。さらに、この緩衝材の吸音性能を測定した結果を図1に示す。
実施例4
潜在捲縮性繊維として、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%及びジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「PN−780」、1.7dtex×51mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数62個/25mm)を準備し、芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」)と、このサイドバイサイド型複合ステープル繊維(潜在捲縮性複合繊維)とを、質量比で、湿熱接着性繊維/潜在捲縮性複合繊維=70/30の割合で混綿してカードウェブを作製する実施例1と同様にして、緩衝材を製造した。得られた緩衝材の評価結果を表1に示す。なお、緩衝材の軟性が高く、タイプEのデュロメータでは正確な測定はできなかった。
比較例1
市販の吸音材(3M社製、「シンサレート」)について評価した結果を表1に示す。なお、この吸音材は、デュロメータでの硬度測定はできなかった。さらに、この吸音材の吸音性能を測定した結果を図2に示す。
比較例2
市販の発泡ボード(東レ(株)製、「ペフ」)について評価した結果を表1に示す。なお、タイプEのデュロメータでの硬度測定はできなかった。さらに、この発泡ボードの吸音性能を測定した結果を図2に示す。
比較例3
市販のガラス繊維(グラスウール)について評価した結果を表1に示す。なお、タイプEのデュロメータでの硬度測定はできなかった。さらに、このガラス繊維の吸音性能を測定した結果を図2に示す。
比較例4
市販の発泡スチロールについて評価した結果を表1に示す。なお、この発泡スチロールは、最大曲げ応力の1.5倍の変位まで曲げると折れた。さらに、この発泡スチロールの吸音性能を測定した結果を図2に示す。
表1及び図1の結果から明らかなように、実施例の緩衝材は、吸音断熱性に優れている。特に、実施例1〜3の緩衝材は、曲げ応力が硬度も高い。これに対して、比較例の緩衝材は、硬度が小さく成形性が低下する。さらに、比較例2及び4の緩衝材は、吸音性も低い。