この発明は、酸化チタン系の光触媒材料を使用し、そのセルフクリーニング機能・超親水性機能等を利用した建築用資材で、光触媒の諸機能を強化し、特に耐摩擦、耐衝撃強度を奏する建築用資材に関する。
第1の発明は炭素がTi−C結合の状態でドープされた、炭素ドープされた酸化チタン層(以下、炭素ドープ酸化チタン層という)を有する建築用資材に関し、より詳しくは、炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する炭素ドープ酸化チタン層を有する建築用資材に関する。
また、第2の発明は建築用資材に関し、より詳しくは、少なくとも一部の表面部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有しているので揮発性有機化合物(VOC)も容易に吸着でき、表面積が大きく且つ炭素ドープされているので光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた建築用資材に関する。
(1)光触媒材料
従来より、光触媒機能を呈する物質として二酸化チタンTiO2(本明細書、請求の範囲においては、単に、酸化チタンという)が知られている。チタン金属上に酸化チタン膜を形成する方法として、1970年代より、チタン金属上に陽極酸化によって酸化チタン膜を形成する方法、酸素を供給した電気炉中でチタン金属板上に熱的に酸化チタン膜を形成する方法、チタン板を都市ガスの1100〜1400℃の火炎中で加熱してチタン金属上に酸化チタン膜を形成する方法等が知られている(非特許文献1参照)。また、光触媒の実用化を図るための研究が多くの技術分野で数多く実施されている。
このような光触媒機能により消臭、抗菌、防曇や防汚の効果が得られる光触媒製品を製造する場合、一般的には、酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティング、ディッピング等により基体上に付与して成膜している(例えば、特許文献1〜3参照)が、そのように成膜された皮膜は剥離や摩耗が生じやすいので、長期に亘っての使用が困難であった。また、スパッタリング法によって光触媒皮膜を成膜する方法も知られている(例えば、特許文献4〜5参照)。
また、酸化チタンを光触媒として機能させるためには波長が400nm以下の紫外線が必要であるが、種々の元素をドープして可視光により機能する酸化チタン光触媒の研究が数多く実施されている。例えば、F、N、C、S、P、Ni等をそれぞれドープした酸化チタンを比較して、窒素ドープ酸化チタンが可視光応答型光触媒として優れているという報告がある(非特許文献2参照)。
また、このように他元素をドープした酸化チタン光触媒としては、酸化チタンの酸素サイトを窒素等の原子で置換してなるチタン化合物、酸化チタンの結晶の格子間に窒素等の原子をドーピングしてなるチタン化合物、或いは酸化チタン結晶の多結晶集合体の粒界に窒素等の原子を配してなるチタン化合物からなる光触媒が提案されている(例えば、特許文献6〜9等参照)。しかしながら、そのような光触媒は耐摩耗性等の耐久性の点については必ずしも満足できるものではない。更に、例えば、天然ガス及び酸素の流量を調整することによって燃焼炎の温度が850℃付近に維持された天然ガス燃焼炎をチタン金属に当てることにより化学修飾酸化チタンであるn−TiO2-xCxが得られ、これが535nm以下の光を吸収する旨の報告がある(非特許文献3参照)。
更に、CVD法又はPVD法などの各種製法により作製した結晶核を無機金属化合物又は有機金属化合物から成るゾル溶液中に入れるか、又は該結晶核にゾル溶液を塗布し、固化させ、熱処理して酸化チタン結晶を該結晶核より成長させることにより、その結晶核より成長させた酸化チタン結晶の結晶形状が柱状結晶を成すことで高活性な光触媒機能が得られることが特許出願されている(例えば、特許文献10〜12参照)。しかしながら、その場合には単に基体上に置かれた種結晶から柱状結晶が成長するだけであるので、形成された柱状結晶は基体への付着強度が充分ではなく、それでそのようにして作製された光触媒は耐摩耗性等の耐久性の点については必ずしも満足できるものではない。
(2)建築用資材
建築用資材の用途として見た場合、例えば特許文献13、14の特許文献がある。
特許文献13には、光活性を有するAx(BOy)zX(Aは、Ca、Co、Ni、Cu、Al、La、Cr、Fe、Mgの金属原子のうちの一つ以上、Bは、P、Sの原子のうちの一つ以上、そして、Xは、OH、ハロゲン原子、CO3のうちの一つ以上を示す)が一個以上からなる化合物及び/又は上記Ax(BOy)zXが一個以上からなる化合物が部分的に付着した二酸化チタンに代表される光触媒からなる複合材料を直接又は担体と混合して塗布した建築材料が記載されている。
この発明は、特殊セラミックス触媒により建築素材の劣化を防止する建築材料などを提供するものであり、特に水の存在下で、物質の吸着機能を高め、また、光が当たらなくても空気中の有害物質を処理でき、更に、これを有機系や無機系の塗料として用いることで、簡単に、短期間で塗布・施工できる新規なセラミックス触媒を開発することを目的として成されたものである。
また、特許文献14には、建材表面の少なくとも一部に光触媒からなる防虫層が設けられ、あるいは更に紫外線を利用した誘虫性殺虫器を併用していることを特徴とす建築物について記載されている。この発明は、光触媒からなる防虫層で、光触媒から発生する活性酸素の作用により昆虫が長い間留まらず、飛び去るようにすることを目的としている。
特開平09−241038号公報
特開平09−262481号公報
特開平10−053437号公報
特開平11−012720号公報
特開2001−205105号公報
特開2001−205103号公報(特許請求の範囲)
特開2001−205094号公報(特許請求の範囲)
特開2002−95976号公報(特許請求の範囲)
国際公開第01/10553号パンフレット(請求の範囲)
特開2002−253975号公報
特開2002−370027号公報
特開2002−370034号公報
特開2004−10682号公報
特開2001−348972号公報
A. Fujishima et al.、J. Electrochem. Soc. Vol. 122、No. 11、p. 1487-1489、November 1975
R. Asahi et al.、SCIENCE Vol. 293、2001年7月13日、p. 269-271
Shahed U. M. Khan et al.、SCIENCE Vol. 297、2002年9月27日、p. 2243-2245
前記特許文献13、14の発明では、光触媒自体の機能に基づくものであり、まず従来の光触媒材料自体が、耐久性、耐摩擦性等に難点があり、また、光触媒機能も従来のままであり、セルフクリーニング機能・親水機能も従来程度であり、建築用資材として充分な性能を確保していなかった。
即ち、従来の酸化チタン系光触媒は、紫外線応答型のもの及び可視光応答型のものの何れも耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に問題があり、実用化の面でのネックとなっていた。
本願発明の第1の建築用資材は、表面層として耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する炭素ドープ酸化チタン層を有する建築用資材を提供することを目的としている。
また、本願発明の第2建築用資材は、発明はVOCも容易に吸着でき、表面積が大きく且つ炭素ドープされているので光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた建築用資材を提供することを目的としている。
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより、炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する炭素ドープ酸化チタン層を表面層として有する建築用資材が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の第1の建築用資材は、少なくとも表面層が炭素ドープ酸化チタン層からなり、該炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能することを特徴とする。
さらに、本発明者は上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体の表面に不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎を直接当てて特定の条件下で加熱処理するか、又は該基体の表面を特定の条件下で不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼排ガス雰囲気中で加熱処理することによって、該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が形成されること、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とが得られること、即ち、この両者とも表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有していること、この両者とも有用な建築用資材であること、また該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる突起部である微細柱、連続した狭幅突起部が炭素ドープされていることにより、光触媒活性が高く、可視光応答型光触媒として機能し、更にVOCも容易に吸着でき、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた建築用資材が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の第2の建築用資材は、表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有しており、例えば、表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出しているか又は薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出しており、該突起部、例えば該微細柱、該狭幅突起部が炭素ドープされていることを特徴とする。
前記における「建築用資材」は、建築物の部分を構成する部材で、住宅などの屋根用材料、外壁・内壁・間仕切り壁等の内外装材料、水廻りなどの建具、防音壁、その他内外壁に装置される部材、ガードレール、高速道路・トンネル用の防音・遮音壁などをも含む。
本発明の第1の建築用資材は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能するので、可視光応答型光触媒として使用できるだけでなく、従来硬質クロムめっきが利用されていた種々の技術分野にも有意に利用できる。また、基材の電位を低下させて孔食や全面腐食、並びに応力腐食割れ等の防止等を目的とする製品への応用が期待できる。さらに、紫外線のみならずγ線等の放射線に応答する放射線応答型触媒として原子炉構造物等の応力腐食割れやスケール付着等を抑制するために使用することで、他の成膜手法と比較して容易に成膜でき、かつ耐久性を向上させることもできる。
本発明の第2の建築用資材は、光触媒活性が高く、可視光応答型光触媒として機能し、更にVOCも容易に吸着でき、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れている。
従って、本発明の建築用資材では、光触媒の諸機能(セルフクリーニング機能、親水性機能など)を高め、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れ、より長い間、美観を保ち、物理的な機能も長く維持できる効果がある。
(1) 本発明の第1の建築用資材は、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面を、例えば、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより製造することができるが、この少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体は、その基体の全体がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの何れかで構成されていても、或いは表面部形成層と心材とで構成されていてそれらの材質が異なっていてもよい。また、その基体の形状については、高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性等の耐久性が望まれる最終商品形状(平板状や立体状)や、表面に可視光応答型光触媒機能を有することが望まれる最終商品形状であっても、或いは粉末状であってもよい。
少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が表面部形成層と心材とで構成されていてそれらの材質が異なっている場合には、その表面部形成層の厚さは形成される炭素ドープ酸化チタン層の厚さと同一であっても(即ち、表面部形成層全体が炭素ドープ酸化チタン層となる)、厚くてもよい(即ち、表面部形成層の厚さ方向の一部が炭素ドープ酸化チタン層となり、一部がそのまま残る)。また、その心材の材質は第1の発明の製造方法における加熱処理の際に燃焼したり、溶融したり、変形したりするものでなければ、特に制限されることはない。例えば、心材として鉄、鉄合金、非鉄合金、セラミックス、その他の陶磁器、高温耐熱性ガラス等を用いることができる。このような薄膜状の表面層と心材とで構成されている基体としては、例えば、心材の表面にチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成したもの、あるいは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより心材の表面上に付与して皮膜を形成したもの等を挙げることができる。
また、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は、炭素ドープされた酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる層と中間層と心材とで構成されており、該中間層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンであり、該心材がチタン、チタン合金及び酸化チタン以外の材質で構成されていてもよい。
少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が粉末状である場合には、その粉末の粒径が小さい場合に上記のような加熱処理により粒子全体を炭素ドープ酸化チタンとすることが可能であるが、第1の発明においては表面層のみが炭素ドープ酸化チタンとなれば良いのであり、従って、粉末の粒径については何ら制限されることはない。しかし、加熱処理の容易性、製造の容易性を考慮すると15nm以上であることが好ましい。
上記のチタン合金として公知の種々のチタン合金を用いることができ、特に制限されることはない。例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr、Ti−13V−11Cr−3Al等を用いることができる。
第1の発明の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用いることができ、特に還元炎を利用することが望ましい。炭化水素含有量が少ない燃料を用いる場合には、炭素のドープ量が不十分であったり、皆無であったりし、その結果として硬度が不十分となり、且つ可視光下での光触媒活性も不十分となる。本発明の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においてはこの炭化水素を主成分とするガスとは炭化水素を少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。本発明の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。
本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造において、加熱処理する基体の表面層がチタン又はチタン合金である場合には、該チタン又はチタン合金を酸化する酸素が必要であり、その分だけ空気又は酸素を含んでいる必要がある。
本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理するが、この場合に、基体の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。なお、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が粉末状である場合には、そのような粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタンとするか、炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有する粉末にすることができる。
加熱処理については、基体の表面温度が900〜1500℃、好ましくは1000〜1200℃となり、基体の表面層として炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層が形成されるように加熱処理する必要がある。基体の表面温度が900℃未満で終わる加熱処理の場合には、得られる炭素ドープ酸化チタン層を有する基体の耐久性は不十分となり、且つ可視光下での光触媒活性も不十分となる。一方、基体の表面温度が1500℃を超える加熱処理の場合には、加熱処理後の冷却時にその基体表面部から極薄膜の剥離が生じ、第1の発明で目的としている耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)の効果が得られない。又、基体の表面温度が900〜1500℃の範囲内となる加熱処理の場合であっても、加熱処理時間が長くなると、加熱処理後の冷却時にその基体表面部から極薄膜の剥離が生じ、第1の発明で目的としている耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)の効果が得られないので、加熱処理後の冷却時にその基体表面部に剥離をもたらさない程度の時間であることが必要である。即ち、その加熱処理時間は該表面層を炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層とするのに十分な時間であるが加熱後の冷却時にその基体表面部からの極薄膜の剥離をもたらすことのない時間である必要がある。この加熱処理時間は加熱温度と相関関係にあるが、約400秒以下であることが好ましい。
本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、加熱温度及び加熱処理時間を調整することにより炭素を0.3〜15at%、好ましくは1〜10at%含有する炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を比較的容易に得ることができる。炭素のドープ量が少ない場合には炭素ドープ酸化チタン層は透明であり、炭素のドープ量が増えるに従って炭素ドープ酸化チタン層は半透明、不透明となる。従って、透明な板状心材の上に透明な炭素ドープ酸化チタン層を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する透明板を得ることができ、また、表面に有色模様を有する板上に透明な炭素ドープ酸化チタン層を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する化粧板を得ることができる。なお、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が表面部形成層と心材とで構成されていてその表面部形成層の厚さが500nm以下である場合には、その表面部形成層の融点近傍まで加熱すると、海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じて半透明となる。
第1の発明の、炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有する建築用資材においては、炭素ドープ酸化チタン層の厚さは10nm以上であることが好ましく、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性を達成するためには50nm以上であることが一層好ましい。炭素ドープ酸化チタン層の厚さが10nm未満である場合には、得られる炭素ドープ酸化チタン層を有する建築用資材の耐久性は不十分となる傾向がある。炭素ドープ酸化チタン層の厚さの上限については、コストと達成される効果とを考慮する必要があるが、特に制限されるものではない。
本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は、前記した非特許文献3に記載されているような化学修飾酸化チタンや、従来から提案されている種々の原子又はアニオンXをドープしてなるチタン化合物Ti−O−Xを含有する酸化チタンとは異なり、炭素を比較的多量に含有し、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれている。この結果として、耐スクラッチ性、耐磨耗性等の機械的強度が向上し、ビッカース硬度が著しく増大すると考えられる。また、耐熱性も向上する。
本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は、300以上、好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上、最も好ましくは1000以上のビッカース硬度を有している。1000以上のビッカース硬度は硬質クロムめっきの硬度よりも固いものである。従って、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は、従来硬質クロムめっきが利用されていた種々の技術分野に有意に利用できる。
本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は、紫外線は勿論、400nm以上の波長の可視光にも応答し、光触媒として有効に作用するものである。従って、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は可視光応答型光触媒として使用することができ、室外は勿論、室内でも光触媒機能を発現する。また、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は接触角3°以下の超親水性を示す。
更に、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は耐薬品性にも優れており、1M硫酸及び1M水酸化ナトリウムのそれぞれの水溶液に一週間浸漬した後、皮膜硬度、耐摩耗性及び光電流密度を測定し、処理前の測定値と比較したところ、有為な変化はみられなかった。因みに、市販の酸化チタン皮膜については、一般的にはバインダーはその種類によって酸又はアルカリに溶解するので膜が剥離してしまい、耐酸性、耐アルカリ性がほとんどない。
更に、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層は、γ線等の放射線にも応答する触媒としても使用できる。すなわち、本発明者らは、酸化チタン等の溶射膜が放射線に応答して原子炉構造部材の応力腐食割れやスケール付着等を抑制することを先に発明しているが、本発明の第1の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層も同様にこのような放射線応答型触媒として使用した場合に、基材の電位を低下させて孔食や全面腐食、並びに応力腐食割れを抑制でき、また酸化力によりスケールや汚れ等を分解することができるという効果を奏する。他の放射線触媒の成膜法と比較して簡便であり、かつ耐薬品性及び耐摩耗性等の耐久性の観点からも優れている。
(2) 本発明の第2の建築用資材は、少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体の表面を例えば不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎で加熱処理して、該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の少なくとも一部に、普通には該基体上の大部分に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とを得ることにより製造でき、即ち、この両者とも表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有している建築用資材であり、この両者とも本発明の第2の建築用資材である。
この少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体は、その基体の全体がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物の何れかで構成されていてもよく、或いはチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる表面部形成層とその他の材質からなる心材とで構成されていてもよい。また、その基体の形状については、光触媒活性及び/又は超親水性が望まれる如何なる最終商品形状(平板状や立体状)であってもよい。
少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体が、チタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる表面部形成層とその他の材質からなる心材とで構成されている場合には、その表面部形成層の厚さ(量)は形成される酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の量に匹敵する厚さであっても(即ち、表面部形成層全体が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となる)、それより厚くてもよい(即ち、表面部形成層の厚さ方向の一部が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となり、残部が変化しないでそのまま残る)。また、その心材の材質は本発明の第2の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造における加熱処理の際に燃焼したり、溶融したり、変形したりするものでなければ、特に制限されることはない。例えば、心材として鉄、鉄合金、非鉄合金、ガラス、セラミックス、その他の陶磁器を用いることができる。このような薄膜状の表面層と心材とで構成されている基体としては、第1の発明で記載されたものと、同様のものを使用することができる。この表面層の厚さについては好ましくは0.5μm以上、より好ましくは4μm以上である。
チタン合金としては、公知の種々のチタン合金を用いることができ、特に制限されることはなく、第1の発明と同様のものが用いられる。
本発明の第2の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、例えば、不飽和炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用い、特に還元炎を利用することが望ましい。本発明の第2の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては不飽和炭化水素を少なくとも50容量%含有するガス、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを用いることが好ましい。本発明の第2の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、燃料成分がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易く、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれる。このように微細柱に炭素ドープが生じると微細柱の硬度が高くなり、結果として建築用資材の硬度、耐磨耗性等の機械的強度が向上し、耐熱性も向上する。
本発明の第2の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層の製造においては、表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体の表面に燃焼炎を直接当てて加熱処理するか、又は該基体の表面を燃焼排ガス雰囲気中で加熱処理するのであるが、この加熱処理は例えばガスバーナーにより、或いは炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、ガスバーナーにより、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼排ガス雰囲気中で高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼排ガスを含む雰囲気を利用すればよい。
加熱処理については、少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した幅狭突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とを得ることが可能なように、加熱温度、加熱処理時間を調整する必要がある。この加熱処理は600℃以上の温度で実施することが好ましい。
このような条件下で加熱処理することにより、微細柱が林立している層の高さが1〜20μm程度であり、その上の薄膜の厚さが0.1〜10μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜3μm程度である中間体が形成される。その後に、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させることにより、該基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材(即ち、基体上の微細柱が林立している層の上に存在していた薄膜の全部又は大部分が剥離するが、微細柱が林立している層の上に存在していた薄膜の一部が剥離しないで残ることがある)と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とを得ることができる。
熱応力を与えて微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる場合には、例えば、基体の表面及び裏面の何れか一方を冷却するか、又は加熱することにより基体の表面と裏面との間に温度差を設ける。この冷却方法として例えば上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかを冷却用物体、例えばステンレスブロックと接触させるか、冷気(常温の空気)を上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかに吹き付ける。上記の熱い中間体を放冷しても熱応力が生じるが、その程度は低い。
剪断応力を与えて微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる場合には、例えば、上記の中間体の表面及び裏面に摩擦力により相対的に逆方向の力を与える。また、引張力を与えて微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる場合には、例えば、真空吸着盤等を用いて上記の中間体の表面及び裏面をそれらの面の垂直方向で逆方向に引張る。なお、基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材のみを利用する場合には、上記の中間体の薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材に相当する部分を研磨、スパッタリング等によって除去することもできる。
上記のようにして得られた基体上の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材においては、微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させた微細柱の高さ位置によって微細柱が林立している層の高さが変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜20μm程度であり、微細柱の平均太さが0.5〜3μm程度である。この部材はVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高く、更には皮膜硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性にも優れた建築用資材である。
一方、上記のようにして得られた薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材は小片状となり、各小片上の突起部の高さは2〜12μm程度であり、該微細柱の高さは微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させた微細柱の高さ位置によって変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜5μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜0.5μm程度である。しかし、微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる条件によっては微細柱がほとんど存在しないで多数の連続した幅狭突起部が露出している場合もある。この部材もVOCを吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高い。また、この部材はそのまま用いることも粉砕して用いることもでき、その粉砕物もVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高い。
本発明の第2の建築用資材においては、酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱、多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が炭素ドープされているので、紫外線は勿論、400nm以上の波長の可視光にも応答し、光触媒として特に有効に作用し、可視光応答型光触媒として使用することができ、室外は勿論、室内でも光触媒機能を発現する。
本発明の第2の建築用資材の炭素ドープ酸化チタン層を構成する酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の各々の微細柱の形状については、図10及び図13の顕微鏡写真から判断されるように、角柱状、円柱状、角錐状、円錐状、逆角錐状若しくは逆円錐状等で、基板の表面とは直角方向又は傾斜した方向に真っ直ぐ伸びているもの、湾曲又は屈曲しながら伸びているもの、枝状に分岐して伸びているもの、それらの複合体状のもの等がある。また、その全体形状としては、霜柱状、起毛カーペット状、珊瑚状、列柱状、積木で組み立てられた柱状等の種々の表現で示すことができる。また、それらの微細柱の太さ、高さ、その付け根(底面)の大きさ等は加熱条件等により変化する。
第2の発明の薄膜状に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材は、図12の顕微鏡写真から判断されるように、その多数の連続した幅狭突起部はクルミの殻の外側の外見、軽石の外見をしていると見ることができ、また各々の連続した狭幅突起部は湯じわやちぢみ状の模様が屈曲していると見ることができる。また、該突起部上に林立している微細柱の形状は上記した基体上の微細柱が林立している層の各々の微細柱の形状と同様であるが、微細柱と薄膜との接合部で切断されるものが多いので、該突起部上に林立している微細柱の密度は上記の基体上の微細柱が林立している層の微細柱の密度よりも一般的に小さくなる。
(3)この発明の建築用資材は、従来の光触媒材料に比してより高いセルフクリーニング機能を有するので、内外装材で、汚れが付着し易い部分、汚れを掃除し難い部分に適用すれば有効である。また、逆に、従来に比して相対的に少ない光量であっても従来同様のセルフクリーニング機能を発揮できるので、光量が少ない場所でも有効である。
特に、摩擦・衝撃などを受けやすい部分に使用すれば、更に有効性が顕著に表れる。また、この発明の建築用資材は、従来の光触媒材料より高い超親水性を有するので、表面に膜状の水を流したり、着雪を防ぐ効果も高い。
(4) この発明の建築資材は、表面を炭素ドープした酸化チタン被膜を形成した板材を、フラットあるいは突起を有する状態で、そのまま又は各種基材(建築資材としての基本機能を有する材料)の表面に固定して建築資材として使用する。あるいは「炭素ドープした酸化チタン」を粒状、粉状に形成して、各種基材に有機バインダー等を介して、固定して建築用資材とすることもできる。
この発明は、具体的には、屋根材、外壁材、内装材、外装材、防音壁、植生板、スタジオ用の内装板、高速道路の防音・遮音壁、道路のガードレール、テントなどに適用することができる。
更に、この発明は、表面を炭素ドープした酸化チタン被膜を形成した屋根材を使用した「屋根」、表面を炭素ドープした酸化チタン被膜を形成した内外壁から、「壁」を形成することもできる。
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1〜3
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。1100℃での加熱処理時間をそれぞれ5秒(実施例1)、3秒(実施例2)、1秒(実施例3)に調整することにより炭素ドープ量及び炭素ドープ酸化チタン層の厚さが異なる炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
この実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層について蛍光X線分析装置で炭素含有量を求めた。その炭素含有量に基づいてTiO2-xCxの分子構造を仮定すると、実施例1については炭素含有量8at%、TiO1.76C0.24、実施例2については炭素含有量約3.3at%、TiO1.90C0.10、実施例3については炭素含有量1.7at%、TiO1.95C0.05であった。また、実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
比較例1
市販されている酸化チタンゾル(石原産業製STS−01)を厚さ0.3mmのチタン板にスピンコートした後、加熱して密着性を高めた酸化チタン皮膜を有するチタン板を形成した。
比較例2
SUS板上に酸化チタンがスプレーコートされている市販品を比較例2の酸化チタン皮膜を有する基体とした。
試験例1(ビッカース硬度)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、ナノハードネステスター(NHT)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ベルコビッチタイプ、試験荷重:2mN、負荷除荷速度:4mN/minの条件下で皮膜硬度を測定したところ、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層はビッカース硬度が1340と高い値であった。一方、比較例1の酸化チタン皮膜のビッカース硬度は160であった。
これらの結果を図1に示す。なお、参考のため、硬質クロムメッキ層及びニッケルメッキ層のビッカース硬度の文献値(友野、「実用めっきマニュアル」、6章、オーム社(1971)から引用)を併せて示す。実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、ニッケルメッキ層や硬質クロムメッキ層よりも高硬度であることは明らかである。
試験例2(耐スクラッチ性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、マイクロスクラッチテスター(MST)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ロックウェル(ダイヤモンド)、先端半径200μm、初期荷重:0N、最終荷重:30N、負荷速度:50N/min、スクラッチ長:6mm、ステージ速度:10.5mm/minの条件下で耐スクラッチ性試験を実施した。スクラッチ痕内に小さな膜の剥離が起こる「剥離開始」荷重及びスクラッチ痕全体に膜の剥離が起こる「全面剥離」荷重を求めた。その結果は第1表に示す通りであった。
試験例3(耐摩耗性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、高温トライボメーター(HT−TRM)(スイスのCSM Instruments製)により、試験温度:室温及び470℃、ボール:直径12.4mmのSiC球、荷重:1N、摺動速度:20mm/sec、回転半径:1mm、試験回転数:1000回転の条件下で摩耗試験を実施した。
この結果、比較例1の酸化チタン皮膜については、室温及び470℃の両方について剥離が発生したが、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層については、室温及び470℃の両方の条件下で有意なトレース摩耗は検出されなかった。
試験例4(耐薬品性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬した後、上記の皮膜硬度、耐摩耗性、及び後記する光電流密度を測定したところ、浸漬の前後で、結果に有意な差は認められなかった。即ち、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は高い耐薬品性を有することが認められた。
試験例5(炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の構造)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果を図2に示す。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.7eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、炭素ドープ酸化チタン層の深さ方向の異なる位置の11点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でもTi−C結合が確認された。従って、炭素ドープ酸化チタン層中のTi−C結合により硬度が高くなっており、また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でのTi−C結合により皮膜剥離強度が著しく大きくなっていることが予想される。
試験例6(波長応答性)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜の波長応答性をOriel社のモノクロメーターを用いて測定した。具体的には、それぞれの層、皮膜に対し、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、光電流密度を測定した。
その結果を図3に示す。図3には、得られた光電流密度jpを照射波長に対して示してある。実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の波長吸収端は、490nmに及んでおり、炭素ドープ量の増大に伴って光電流密度が増大することが認められた。なお、ここには示していないが、炭素ドープ量が10at%を越えると電流密度が減少する傾向になり、さらに15at%を越えるとその傾向は顕著になることがわかった。よって、炭素ドープ量が1〜10at%程度に最適値があることが認められた。一方、比較例1、2の酸化チタン皮膜では、光電流密度が著しく小さく、且つ波長吸収端も410nm程度であることが認められた。
試験例7(光エネルギー変換効率)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜について、式
η=jp(Ews−Eapp)/I
で定義される光エネルギー変換効率ηを求めた。ここで、Ewsは水の理論分解電圧(=1.23V)、Eappは印加電圧(=0.3V)、Iは照射光強度である。この結果を図4に示す。図4は光エネルギー変換効率ηを照射光波長に対して示してある。
図4から明らかなように、実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の光エネルギー変換効率は著しく高く、波長450nm付近での変換効率が比較例1、2の酸化チタン皮膜の紫外線領域(200〜380nm)での変換効率より優れていることが認められた。また、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の水分解効率は、波長370nmで約8%であり、350nm以下では10%を越える効率が得られることがわかった。
試験例8(消臭試験)
実施例1及び2の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、消臭試験を実施した。具体的には、消臭試験に一般的に用いられるアセトアルデヒドを炭素ドープ酸化チタン層を有する基体と共に1000mlのガラス容器に封入し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、UVカットフィルタ付き蛍光灯にて可視光を照射し、所定の照射時間毎にアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。なお、各皮膜の表面積は8.0cm2とした。
この結果を図5に示す。図5には、アセトアルデヒド濃度を可視光照射後の経過時間に対して示してある。実施例1及び2の炭素ドープ酸化チタン層のアセトアルデヒド分解速度は、比較例1の酸化チタン皮膜のアセトアルデヒド分解速度の約2倍以上の高い値となっており、また、炭素ドープ量が多く、光エネルギー変換効率の高い実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の方が、実施例2の炭素ドープ酸化チタン層と比較して分解速度が高いことがわかった。
試験例9(防汚試験)
実施例1の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、防汚試験を実施した。各皮膜を(財)電力中央研究所内の喫煙室内に設置し、145日後の表面の汚れを観察した。なお、この喫煙室内には太陽光の直接の入射はない。
この結果を示す写真を図6に示す。比較例1の酸化チタン皮膜の表面には脂が付着し、薄い黄色を呈していたが、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の表面は特に変化がみられず、清浄に保たれており、防汚効果が十分に発揮されたことが認められた。
実施例4〜7
実施例1〜3と同様にアセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
比較例3
天然ガスの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理した。
試験例10
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例3の皮膜について、上記の試験例1と同様にしてビッカース硬度(HV)を測定した。それらの結果を第2表に示す。また、実施例4〜11で形成された炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
第2表に示すデータから明らかなように、天然ガスの燃焼ガスで表面温度が850℃になるように加熱処理した場合にはビッカース硬度160の皮膜しか得られなかったが、表面温度が1000℃以上になるようにアセチレンの燃焼ガスを用いて加熱処理した実施例4〜7の場合にはビッカース硬度1200の炭素ドープ酸化チタン層が得られた。
試験例11
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1及び3の酸化チタン皮膜について、試験例6と同様に、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、300nm〜520nmの光を照射して光電流密度を測定した。その結果を図7に示す。図7には、得られた光電流密度jpを電位ECP(V vs. SSE)に対して示してある。
アセチレンの燃焼ガスを用いて表面温度が1000〜1200℃になるように加熱処理して得た実施例4〜6の炭素ドープ酸化チタン層は、相対的に光電流密度が大きく優れていることがわかった。一方、表面温度が850℃になるように加熱処理して得た比較例3の酸化チタン及び表面温度が1500℃になるように加熱処理して得た実施例7の炭素ドープ酸化チタン層は光電流密度が相対的に小さいことがわかった。
実施例12
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層が炭素ドープ酸化チタンを含有するチタン合金からなる合金板を形成した。1100℃での加熱処理時間を60秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタンを含有する層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
実施例13
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面にスパッタリングによって膜厚が約500nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が約900℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するステンレス鋼板を形成した。900℃での加熱処理時間を15秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
実施例14
粒径20μmの酸化チタン粉末をアセチレンの燃焼炎中に供給し、燃焼炎中に所定時間滞留させてその表面温度が約1000℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末を形成した。1000℃での加熱処理時間を4秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
実施例15〜16
厚さ1mmのガラス板(パイレックス(登録商標))の表面にスパッタリングによって膜厚が約100nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が1100℃(実施例15)、又は1500℃(実施例16)となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するガラス板を形成した。1100℃、又は1500℃での加熱処理時間を10秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は表面温度が1100℃の場合には図8(a)に写真で示すように透明であったが、表面温度が1500℃の場合には図9に示すように海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じており、図8(b)に示すように半透明となった。
実施例17〜20
厚さ0.3mmのチタン板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。即ち、加熱処理で表面層内部に形成された酸化チタンからなる微細柱が林立している層がその後の冷却で該微細柱が林立している層が該表面層に沿う方向で切断された。このようにして実施例17〜20の建築用資材を得た。
図10は、実施例17で得られた建築用資材の顕微鏡写真であり、チタン板表面1上に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2が露出しており、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3がその層2上の一部に残っているの状態を示している。なお、実施例17〜20の製造法ではチタン板表面1は露出しないが、図10の顕微鏡写真は微細柱が林立している層2の一部を除去した状態を示している。図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真であり、図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態示す顕微鏡写真であり、図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
実施例21
厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン合金板表面の大部分にチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上にチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
実施例22
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面に電子ビーム蒸着によって膜厚が約3μmのチタン薄膜を形成した。その薄膜表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、ステンレス鋼板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
比較例4
市販されている酸化チタンゾル(石原産業製STS−01)を厚さ0.3mmのチタン板にスピンコートした後、加熱して密着性を高めた酸化チタン皮膜を有するチタン板を形成した。
試験例12(引っかき硬度試験:鉛筆法)
実施例17〜22で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱側表面について、JIS K 5600−5−4(1999)に基づき、三菱鉛筆株式会社製ユニ1H〜9H鉛筆を用いて鉛筆引っかき硬度試験を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められなかった。
試験例13(耐薬品性試験)
実施例17〜22で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬し、水洗し、乾燥させた後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐薬品性を有することが認められた。
試験例14(耐熱性試験)
実施例17〜22で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を管状炉内に入れ、大気雰囲気下で室温から1時間かけて500℃まで昇温させ、500℃の恒温で2時間保持し、更に1時間かけて室温まで静置冷却した後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐熱性を有することが認められた。
試験例15(防汚試験)
試料として、実施例20で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している表面積8cm2の部材及び比較例4で得られた酸化チタン皮膜を有する表面積8cm2のチタン板を用いて防汚試験を実施した。具体的には、それらの試料をそれぞれ、約10μmol/Lの濃度に調整したメチレンブルー水溶液80mL中に浸漬し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、松下電器産業株式会社製のUVカットフィルター付き蛍光灯により可視光を照射し、所定の照射時間毎に波長660nmにおけるメチレンブルー水溶液の吸光度をHACH社製水質検査装置DR/2400で測定した。その結果は図14に示す通りであった。
図14から、実施例20で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材は、比較例4で得られた酸化チタン皮膜を有するチタン板に比較して、メチレンブルーの分解速度が速く、防汚効果が高いことが分かる。
試験例16(結晶構造と結合状態)
実施例19で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱から得た試料についてX線解析(XRD)を行った結果、ルチル型の結晶構造を有することが判明した。
また、実施例19で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱部分について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果は図15に示す通りであった。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.6eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例19の微細柱中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、微細柱の高さ位置の異なる位置の14点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
実施例23
試験片として直径32mm、厚さ0.3mmの円板を用い、その表面を表面温度が約1150℃に維持されるようにアセチレンの燃焼炎により加熱した。第一の試験片については加熱時間120秒の時点で加熱を止めて放冷した。第二の試験片については180秒の時点で加熱を止めて放冷した。第三の試験片については480秒間加熱し、直ちにその燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却した。この冷却によりチタン板表面から薄膜が剥離し、その下から白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材が得られた。これらの3枚の試験片について、セイコーインスツルメンツ社製FIB−SEM装置SMI8400SEを用いて試験片表面に3μm×12μmで深さ10μmの穴を掘り、その側面及び底面をキーエンス社製SEM装置VE7800により観察を行った。120秒後の試験片のSEM写真は図16であり、180秒後の試験片のSEM写真は図17であり、480秒後の試験片のSEM写真は図18である。180秒後の図17では皮膜下部に微細柱構造の兆候が現れ始めており、更に火炎処理を続けることで微細柱長く伸びて本発明で目的とするような微細柱構造が形成されると考えられる。
前記各実施例のように形成された建築用資材は、以下のように具体的な用途に適用できる。特にこの発明の「突起の及び微細柱に炭素ドープしてなる酸化チタン層」(前記実施例17〜23)を適用すれば、下記の各用途は、セルフクリーニング機能等を強化してあるので、望ましい。
(1)「炭素ドープ酸化チタン皮膜」屋根材
「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を建築物の屋根に用いることができる。この場合、特に耐久性や意匠性を要求される屋根に最適である。セルフクリーニング効果による汚れの付着を防止し、超親水機能により着雪を防しできる。従って、従来より大きな屋根勾配を用いなくとも、小さな傾斜で有効に着雪を防止できるので、結果として屋根材料を薄く軽量化でき、更に室内居住区間を広くとることができる。
また、「炭素ドープ酸化チタン皮膜」屋根は耐摩擦性・耐衝撃性も高いので、屋根材を薄くした場合であっても、落雷・霰・雹が多い地方でも屋根が破損されることがない。また、海岸に近い地方でも、塩害から屋根を守ることができるので、有効である。
(2)「炭素ドープ酸化チタン皮膜」内装材
「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を建築用の内装材に用いることができる。特に防汚性や耐食性を望まれる内装材(天井・床・壁等)として使うことが有効である。特に、セルフクリーニング機能が高いので、喫煙ルームの壁・天井など汚れ・臭いが付着しやすい場所に適用すれば有効である。
また、特に、防汚性や耐食性が要求される部分に有効であり、水廻り、サニタリー関連やキッチン廻りで効果が期待される。例えば、台所・風呂・トイレなどの壁や床、あるいはユニットバス類の内壁全体なども有効である。
(3)「炭素ドープ酸化チタン皮膜」外壁
「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を建築用の外壁に用いることができる。通常のセルフクリーニング機能が強化されているので、防汚性や耐食性が要求される部分に有効である。また、耐衝撃、耐摩擦性能も高いので、屋根同様の地方でも有効である。
(4)「炭素ドープ酸化チタン皮膜」防汚防音壁
コンサートホールや学校の音楽室など、音を発するスペースに設置する防音壁の表面に「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を施すことにより、防音壁で、汚れ・臭いが付着することによる表面の美観を保つと共に、汚れによる防音効果を維持できる。とりわけ、音を発するスペースは一般に天井が高いので、清掃が容易でない天井付近が有効である。
(5)「炭素ドープ酸化チタン皮膜」植生防御版(外装材)
建築物の外壁に、植物を植えて壁面緑化を図った植生板に使用することができる。植生板では、植物の生長のため光が当たる部分に配置されることが多いので、光触媒機能を充分に発揮させることができる。従って、光触媒のセルフクリーニング機能により植生板へ汚れが付着することを防止できる。また、植物の根が触れる部分に「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を施せば、光触媒の親水機能により、水を均一に膜状に這わせることができ、植物への水を供給することができる。また、「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を施した部分を水路として使用して、任意の位置に膜状の水を供給できる。
(6)「炭素ドープ酸化チタン皮膜」スタジオ用防汚内装板
また、録音スタジオなどの内装板に「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を適用すれば、こもった空気や煙草の煙による汚れ・臭いの付着を防止できる。
(7) その他
壁面・屋根面に光触媒を設けて、膜状の水を流して壁面の温度を冷やして、居住空間の冷房使用量を減らし、エネルギー消費の削減、建物自体の冷却でヒートアイランドを防ごうといういわゆる「アーバンリバー」にとして、注目されている。このアーバンリバー用に「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を使用すれば、親水化機能・セルフクリーニング機能のいずれも高いので、極めて有効である。特に日常的な清掃が困難な高所で有効である。
また、一般にドーム建築物の屋根や天井は足場が組みにくく、掃除しにくいので、ドーム建築物の内外幕構造に適用すれば、セルクリーニング機能が高いので有効である。この場合には、幕の表面にコーティングし、あるいは織り込み、錬り込み等で「炭素ドープ酸化チタン皮膜」を形成する。
また、道路のガードレール、落石防止柵、高速道路の防音・遮音壁等に、埃が付着し易く、衝撃・摩耗が生じ易い建築用資材にも適用できる。
図1は試験例1の皮膜硬度試験の結果を示す図である。
図2は試験例5のXPS分析の結果を示す図である。
図3は試験例6の光電流密度の波長応答性を示す図である。
図4は試験例7の光エネルギー変換効率の試験結果を示す図である。
図5は試験例8の消臭試験の結果を示す図である。
図6は試験例9の防汚試験の結果を示す写真である。
図7は試験例11の結果を示す図である。
図8は実施例15及び16で得られた炭素ドープ酸化チタン層の光透過状態を示す写真である。
図9は実施例15で得られた炭素ドープ酸化チタン層の表面状態を示す写真である。
図10は実施例17で得られた建築用資材の状態を示す顕微鏡写真である。
図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真である。
図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態示す顕微鏡写真である。
図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
図14は試験例15(防汚試験)の結果を示すグラフである。
図15は試験例16(結晶構造と結合状態)の結果を示すグラフである。
図16は実施例23における加熱時間120秒後の顕微鏡(SEM)写真である。
図17は実施例23における加熱時間180秒後の顕微鏡(SEM)写真である。
図18は実施例23における加熱時間480秒後の顕微鏡(SEM)写真である。