以下、発明を実施するための最良の形態を以下の順で説明する。
1.光ディスク装置の全体構成
2.光ピックアップの第1の実施の形態の全体構成
3.本発明の前提と本発明の中心的部分の概要説明
4.温特SA補正とチルト感度について
5.対物レンズのレンズチルト感度の上限について
6.対物レンズのレンズチルト感度の下限について
7.光ピックアップにおける3波長互換対物レンズの場合のレンズチルト感度の範囲について
8.光ピックアップの第2の実施の形態の全体構成
9.2対物構成とされた光ピックアップにおける高密度記録光ディスク専用の対物レンズの場合のレンズチルト感度の範囲について
10.さらに最適なレンズチルト感度を得るための条件について
11.3波長互換対物レンズにおける回折構造について
12.実施例1(3波長互換対物の例)について
13.実施例2(2対物構成の例)について
14.実施例3(2対物構成の変形例1)について
15.実施例4(2対物構成の変形例2)について
16.本発明を適用した対物レンズ、光ピックアップ、光ディスク装置について
〔1.光ディスク装置の全体構成〕
以下、本発明が適用された光ディスク装置について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明が適用された光ディスク装置1は、光ディスク2から情報記録再生を行う光ピックアップ3と、光ディスク2を回転する回転駆動部となるスピンドルモータ4とを備える。また、光ディスク装置1は、光ピックアップ3を光ディスク2の径方向に移動させる送りモータ5を備えている。この光ディスク装置1は、フォーマットの異なる3種類の光ディスク及び記録層が積層化された光ディスクに対して情報信号の記録や再生を行うことができる3規格間互換性を実現した光ディスク装置である。
ここで用いられる光ディスク2は、例えば、発光波長が短い405nm程度(青紫色)の半導体レーザを光源に用いた高密度記録が可能なBD(Blu-ray Disc(登録商標))等の高密度記録型の第1の光ディスク11である。この第1の光ディスク11は、100μmm程度のカバー層を有し波長405nm程度の光ビームがカバー層側から照射される。なお、この第1の光ディスクには、記録層が単層である光ディスク(カバー層厚さ:100μm)や、記録層が2層である所謂2層光ディスクがあるが、更に、多くの記録層を有していても良い。2層光ディスクの場合は、記録層L0のカバー層厚さが100μm程度とされ、記録層L1のカバー層厚さが75μm程度とされている。
また、ここで用いられる光ディスク2は、例えば、発光波長を655nm程度の半導体レーザを光源に用いたDVD(Digital Versatile Disc)、DVD−R(Recordable)、DVD−RW(ReWritable)、DVD+RW(ReWritable)等の第2の光ディスク12である。第2の光ディスク12は、0.6mm程度のカバー層を有し、波長655nm程度の光ビームがカバー層側から照射される。なお、この第2の光ディスク12においても、複数の記録層を設けても良い。
更に、ここで用いられる光ディスク2は、例えば、発光波長が785nm程度の半導体レーザを光源に用いたCD(Compact Disc)、CD−R(Recordable)、CD−RW(ReWritable)等の第3の光ディスク13である。第3の光ディスク13は、1.2mm程度のカバー層を有し波長785nm程度の光ビームがカバー層側から照射される。
なお、以下、特に第1乃至第3の光ディスク11,12,13を区別しないときは、単に光ディスク2ともいう。
光ディスク装置1において、スピンドルモータ4及び送りモータ5は、サーボ制御部9によりディスク種類に応じて駆動制御されている。これにより、スピンドルモータ4は、例えば、第1の光ディスク11、第2の光ディスク12、第3の光ディスク13を所定の回転数で駆動する。
光ピックアップ3は、3波長互換光学系を有する光ピックアップであり、規格の異なる光ディスクの記録層に対して異なる波長の光ビームを記録層に照射すると共に、この光ビームの記録層における反射光を検出する。
光ディスク装置1は、光ピックアップ3から出力された信号に基づいてフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号、RF信号等を生成するプリアンプ14を備える。また、光ディスク装置1は、プリアンプ14からの信号を復調し又は外部コンピュータ17等からの信号を変調するための信号変復調器及びエラー訂正符号ブロック(以下、信号変復調器&ECCブロックと記す。)15を備える。また、光ディスク装置1は、インターフェース16と、D/A,A/D変換器18と、オーディオ・ビジュアル処理部19と、オーディオ・ビジュアル信号入出力部20とを備える。
このプリアンプ14は、光ピックアップ3の光検出器からの出力に基づいて、非点収差法等によってフォーカスエラー信号を生成し、また、3ビーム法、DPD法、DPP法等によってトラッキングエラー信号を生成する。また、プリアンプ14は、更にRF信号を生成し、RF信号を、信号変復調器&ECCブロック15に出力する。また、プリアンプ14は、フォーカスエラー信号とトラッキングエラー信号とをサーボ制御部9に出力する。
信号変復調器&ECCブロック15は、第1の光ディスク11に対して、データの記録を行うとき、インターフェース16又はD/A,A/D変換器18から入力されたディジタル信号に対して、以下の処理を行う。すなわち、信号変復調器&ECCブロック15は、第1の光ディスク11に対してデータを記録するとき、入力されたディジタル信号に対して、LDC−ECC及びBIS等のエラー訂正方式によってエラー訂正処理を行う。信号変復調器&ECCブロック15は、次いで、1−7PP方式等の変調処理を行う。また、信号変復調器&ECCブロック15は、第2の光ディスク12に対してデータを記録するとき、PC(Product Code)等のエラー訂正方式に従ってエラー訂正処理を行い、次いで、8−16変調等の変調処理を行う。更に、信号変復調器&ECCブロック15は、第3の光ディスク13に対してデータを記録するとき、CIRC等のエラー訂正方式によってエラー訂正処理を行い、次いで、8−14変調処理等の変調処理を行う。そして、信号変復調器&ECCブロック15は、変調されたデータをレーザ制御部21に出力する。更に、信号変復調器&ECCブロック15は、各光ディスクの再生を行うとき、プリアンプ14から入力されたRF信号に基づいて、変調方式に応じた復調処理を行う。更に、信号変復調器&ECCブロック15は、エラー訂正処理を行って、インターフェース16又はデータをD/A,A/D変換器18に出力する。
なお、データ圧縮してデータ記録するときには、圧縮伸長部を信号変復調器&ECCブロック15とインターフェース16又はD/A,A/D変換器18との間に設けても良い。この場合、データは、MPEG2やMPEG4といった方式でデータが圧縮される。
サーボ制御部9は、プリアンプ14からフォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号が入力される。サーボ制御部9は、フォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号が0となるようなフォーカスサーボ信号やトラッキングサーボ信号を生成し、これらのサーボ信号に基づいて、対物レンズを駆動する3軸アクチュエータ等の対物レンズ駆動部を駆動制御する。サーボ制御部9は、プリアンプ14からの出力より、同期信号等を検出して、CLV(Constant Linear Velocity)やCAV(Constant Angular Velocity)、更にはこれらの組み合わせの方式等でスピンドルモータを制御する。
レーザ制御部21は、光ピックアップ3のレーザ光源を制御する。特に、この具体例では、レーザ制御部21は、記録モード時と再生モード時とで発光部のレーザ光源の出力パワーを異ならせる制御を行っている。また、光ディスク2の種類に応じてもレーザ光源の出力パワーを異ならせる制御を行っている。レーザ制御部21は、ディスク種類判別部22によって検出された光ディスク2の種類に応じて光ピックアップ3のレーザ光源を切り換えている。
ディスク種類判別部22は、第1〜第3の光ディスク11,12,13の間の表面反射率や形状的及び外形的な違い等から反射光量の変化を検出し光ディスク2の異なるフォーマットを検出する。
光ディスク装置1を構成する各ブロックは、ディスク種類判別部22における検出結果に応じて、装着される光ディスク2の仕様に基づく信号処理ができるように構成されている。
システムコントローラ7は、ディスク種類判別部22で判別された光ディスクの種類に応じて装置全体を制御する。また、システムコントローラ7は、ユーザからの操作入力に応じて、光ディスク最内周にあるプリマスタードピットやグルーブ等に記録されたアドレス情報や目録情報(Table Of Contents;TOC)に基づいて、各部を制御する。すなわち、システムコントローラ7は、上述の情報に基づいて、記録再生を行う光ディスクの記録位置や再生位置を特定し、特定した位置に基づいて、各部を制御する。
以上のように構成された光ディスク装置1は、スピンドルモータ4によって、光ディスク2を回転操作する。そして、光ディスク装置1は、サーボ制御部9からの制御信号に応じて送りモータ5を駆動制御し、光ピックアップ3を光ディスク2の所望の記録トラックに対応する位置に移動することで、光ディスク2に対して情報信号の記録や再生を行う。
具体的には、光ディスク装置1により記録再生するときには、サーボ制御部9は、CAVやCLVやこれらの組み合わせで光ディスク2を回転する。光ピックアップ3は、光源から光ビームを照射して光検出器により光ディスク2からの戻りの光ビームを検出し、フォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号を生成する。また、光ピックアップ3は、これらフォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部により対物レンズを駆動してフォーカスサーボ及びトラッキングサーボを行う。
また、光ディスク装置1により記録する際には、外部コンピュータ17からの信号がインターフェース16を介して信号変復調器&ECCブロック15に入力される。信号変復調器&ECCブロック15は、インターフェース16又はA/D変換器18から入力されたディジタルデータに対して上述したような所定のエラー訂正符号を付加し、更に所定の変調処理を行った後に記録信号を生成する。レーザ制御部21は、信号変復調器&ECCブロック15で生成された記録信号に基づいて、光ピックアップ3のレーザ光源を制御して、所定の光ディスクに記録する。
また、光ディスク2に記録された情報を光ディスク装置1により再生する際には、光検出器で検出された信号に対して、信号変復調器&ECCブロック15が復調処理を行う。信号変復調器&ECCブロック15により復調された記録信号がコンピュータのデータストレージ用であれば、インターフェース16を介して外部コンピュータ17に出力される。これにより、外部コンピュータ17は、光ディスク2に記録された信号に基づいて動作することができる。また、信号変復調器&ECCブロック15により復調された記録信号がオーディオ・ビジュアル用であれば、D/A変換器18でデジタルアナログ変換され、オーディオ・ビジュアル処理部19に供給される。そして、オーディオ・ビジュアル処理部19でオーディオ・ビジュアル処理が行われ、オーディオ・ビジュアル信号入出力部20を介して、図示しない外部のスピーカやモニターに出力される。
〔2.光ピックアップの全体構成〕
次に、上述した光ディスク装置1に用いられる本発明に係る光ピックアップの第1の実施の形態として、本発明を適用した光ピックアップ3について、図2を用いて説明する。この光ピックアップ3は、対物レンズを1つ有する所謂1対物構成とされた光ピックアップである。以下では、3波長互換用の対物レンズを備え、使用波長の異なる第1乃至第3の光ディスクに記録再生を行う3波長互換光ピックアップであるものとして説明を行う。
本発明を適用した光ピックアップ3は、図2に示すように、第1の波長の光ビームを出射する第1の出射部を有する第1の光源部31を備える。また、光ピックアップ3は、第1の波長より長い第2の波長の光ビームを出射する第2の出射部と、第2の波長より長い第3の波長の光ビームを出射する第3の出射部とを有する第2の光源部32を備える。また、光ピックアップ3は、この第1乃至第3の出射部から出射された光ビームを光ディスク2の信号記録面上に集光する集光光学デバイスとしての対物レンズ34を備える。また、光ピックアップ3は、第1乃至第3の出射部と、対物レンズ34との間の光路上に配置され且つ光軸方向に移動可能とされるコリメータレンズ35を備える。かかるコリメータレンズ35は、第1乃至第3の波長の光ビームの発散角を変換して略平行光の状態又は所定の発散角を有する状態となるように調整して出射させる発散角変換素子として機能する。
また、光ピックアップ3は、光路分離部として機能する第1及び第2のビームスプリッタ36,37を備える。かかる第1及び第2のビームスプリッタ36,37は、復路の光ビームの光路と、第1乃至第3の出射部から出射された往路の各光ビームの光路とを分離する光路分離部である。ここで、復路の光ビームとは、対物レンズ34により光ディスク2の信号記録面に集光されてこの信号記録面で反射された戻りの第1乃至第3の波長の光ビームを意味するものとする。また、光ピックアップ3は、この第1及び第2のビームスプリッタ36,37により分離された復路(戻り)の第1乃至第3の波長の光ビームを受光する共通の受光部38を有する光検出器39を備える。また、光ピックアップ3は、第1のビームスプリッタ36と受光部38との間に設けられるマルチレンズ40を備える。かかるマルチレンズ40は、第1のビームスプリッタ36からの復路の第1乃至第3の波長の光ビームを受光部38の受光面に集光されるカップリングレンズとして機能する。
また、光ピックアップ3は、第1の光源部31の第1の出射部と第1のビームスプリッタ36との間に設けられる第1のグレーティング41を備える。かかる第1のグレーティング41は、第1の出射部から出射された第1の波長の光ビームをトラッキングエラー信号等の検出のために3ビームに回折する機能を有する。また、光ピックアップ3は、第2の光源部32の第2及び第3の出射部と第2のビームスプリッタ37との間に設けられる第2のグレーティング42を備える。かかる第2のグレーティング42は、第2及び第3の出射部から出射された第2及び第3の波長の光ビームをそれぞれトラッキングエラー信号等の検出のために3ビームに回折する機能を有する。
さらに、光ピックアップ3は、コリメータレンズ35と対物レンズ34との間に設けられ、入射した第1乃至第3の波長の光ビームに1/4波長の位相差を与える1/4波長板43を備える。また、光ピックアップ3は、対物レンズ34と1/4波長板43との間に設けられる立ち上げミラー44を備える。この立ち上げミラー44は、対物レンズ34の光軸に直交する平面内で上述した光学部品を経由された光ビームを反射して立ち上げることにより対物レンズ34の光軸方向に光ビームを出射させる。
第1の光源部31は、例えば半導体レーザ等からなり、第1の光ディスク11に対応すべく設計波長が405nm程度とする第1の波長の光ビームを出射する第1の出射部としての発光部を有する。第2の光源部32は、第2の光ディスク12に対応すべく設計波長が655nm程度とする第2の波長の光ビームを出射する第2の出射部を有する。また、第2の光源部32は、第3の光ディスク13に対応すべく設計波長が785nm程度とする第3の波長の光ビームを出射する第3の出射部を有する。この第2の光源部32において、第2及び第3の出射部は、この第2及び第3の出射部から出射される第2及び第3の波長の光ビームの光軸に直交する同一平面内に各発光点が位置するように配置されている。尚、ここでは、第1の出射部を第1の光源部31に配置し、第2及び第3の出射部を第2の光源部32に配置するように構成したが、これに限られるものではなく、第1乃至第3の出射部をそれぞれ別々の光源部に配置するように構成してもよい。また、第1乃至第3の出射部を略同一位置に有する光源部となるように構成してもよい。
第1のグレーティング41は、第1の光源部31と第1のビームスプリッタ36との間に設けられている。第1のグレーティング41は、第1の光源部31の第1の出射部から出射された第1の波長の光ビームをトラッキングエラー信号等の検出のために3ビームに回折して第1のビームスプリッタ36側に出射させる。
第2のグレーティング42は、第2の光源部32と第2のビームスプリッタ37との間に設けられている。第2のグレーティング42は、第2の光源部32の第2及び第3の出射部から出射された第2及び第3の波長の光ビームをトラッキングエラー信号等の検出のためにそれぞれ3ビームに回折して第2のビームスプリッタ37側に出射させる。この第2のグレーティング42は、波長依存性を有する所謂2波長グレーティングであり、第2及び第3の波長の光ビームに対して所定の3ビームに回折する機能を有している。
第1のビームスプリッタ36は、以下のような機能を有する分離面36aを有している。分離面36aは、第1のグレーティング41で回折され入射された第1の波長の光ビームを反射させて第2のビームスプリッタ37側に出射させるとともに、復路の第1乃至第3の波長の光ビームを透過させてマルチレンズ40側に出射させる機能を有している。この分離面36aは、波長依存性、偏光依存性等を有して形成されることにより上述のような機能を発揮する。そして、第1のビームスプリッタ36は、この分離面36aにより、復路の第1の波長の光ビームの光路と、第1の出射部から出射された往路の第1の波長の光ビームの光路とを分離する光路分離部として機能する。
第2のビームスプリッタ37は、以下のような機能を有する合成分離面37aを有している。合成分離面37aは、第1のビームスプリッタ36からの往路の第1の波長の光ビームを透過させてコリメータレンズ35側に出射させる。また、合成分離面37aは、第2のグレーティング42からの往路の第2及び第3の波長の光ビームを反射させてコリメータレンズ35側に出射させて導く。これとともに、合成分離面37aは、復路の第1乃至第3の波長の光ビームを透過させて第1のビームスプリッタ36側に出射させる機能を有している。この合成分離面37aは、波長依存性、偏光依存性等を有して形成されることにより上述のような機能を発揮する。そして、第2のビームスプリッタ37は、この合成分離面37aにより、往路の第1の波長の光ビームの光路と、往路の第2及び第3の波長の光ビームの光路とを合成してコリメータレンズ35側に導く光路合成部として機能する。また、第2のビームスプリッタ37は、この合成分離面37aにより、復路の第2及び第3の波長の光ビームの光路と、第2及び第3の出射部から出射された往路の第2及び第3の波長の光ビームの光路とを分離する光路分離部として機能する。
尚、この光ピックアップ3では、第1及び第2のビームスプリッタ36,37に光路分離部としての機能を持たせるとともに、第2のビームスプリッタ37に光路合成部としての機能を持たせるように構成したが、これに限られるものではない。すなわち、往路における第1乃至第3の波長の光ビームの光路を合成する光路合成部と、以下のような光路分離部とを設けるように構成してもよい。かかる光路分離部は、復路における第1乃至第3の波長の光ビームの光路を、この各第1乃至第3の波長の光ビームの往路の光路から分離して受光部38側に導くものであればよい。
コリメータレンズ35は、第2のビームスプリッタ37と、1/4波長板43との間に配置され、通過する光ビームの発散角を変換する発散角変換部である。コリメータレンズ35は、光源部31,32から出射され入射された光ビームの発散角を変換して略平行光等の所望の角度にする。
また、このコリメータレンズ35は、例えば、カバー層厚の誤差や温度変化等の要因により発生する球面収差を補正するために移動され、位置に応じて、対物レンズ34に入射する光ビームの発散角を変換する。すなわち、コリメータレンズ35は、光軸方向に移動可能とされ、光ピックアップ3には、このコリメータレンズ35を光軸方向に駆動して移動させるコリメータレンズ駆動部45が設けられている。コリメータレンズ駆動部45は、例えば送りモータによってリードスクリューを回転させてコリメータレンズ35を移動させてもよい。また、コリメータレンズ駆動部45は、後述の対物レンズ駆動部のように、マグネットとコイルに流れる電流との作用により、コリメータレンズ35を移動させてもよい。さらに、リニアモータ等を用いてもよい。そして、コリメータレンズ35は、移動されることにより、平行光より僅かに収束された状態である収束光の状態で、又は僅かに発散された状態である発散光の状態で対物レンズ34に入射させることで、発生する球面収差を低減する。尚、光ピックアップ3には、コリメータレンズ駆動部45により移動されたコリメータレンズ35の位置を検出する位置センサー等のコリメータ位置検出部46を設けるように構成してもよい。
また、コリメータレンズ35は、光ピックアップが記録層が複数設けられている光ディスクに対して情報信号の記録再生を行う場合、フォーカスサーチによって表面反射率の変化が検出され又識別信号が読み出されることにより、記録層毎に適切な位置に移動される。この際、コリメータレンズ35は、各記録層に応じた位置に移動されることで、各記録層から光ディスクの光入射側の表面までの厚さ(「カバー層厚さ」ともいう。)の違いに起因する球面収差を低減する。すなわち、コリメータレンズ35及びコリメータレンズ駆動部45は、複数の記録層のそれぞれに対して適切に光ビームのビームスポットを形成することができる。このように、コリメータレンズ35等は、光軸方向に駆動されることで対物レンズ34への光ビームの入射倍率を変化させることで、温度変化やカバー層厚さ変化により発生する球面収差を低減でき、適切なビームスポットを形成することを可能とする。ここで、対物レンズ34への光ビームの入射倍率は、S’/Sで定義される倍率である。すなわち、Sは、物点から対物レンズ34の物側主面までの光軸方向の距離であり、S’は、対物レンズ34の像側主面から像点までの光軸方向の距離である。
以上のように、コリメータレンズ35及びコリメータレンズ駆動部45は、対物レンズ34への光ビームの入射倍率を変換する入射倍率可変部として機能する。ここで、本発明を適用した光ピックアップ3を構成する入射倍率可変部は、これに限られるものではなく、所謂ビームエキスパンダや液晶素子等であってもよい。
1/4波長板43は、コリメータレンズ35により発散角を変換された往路の第1乃至第3の波長の光ビームに、1/4波長の位相を付与することにより、直線偏光状態から円偏光状態として立ち上げミラー44に出射させる。また、1/4波長板43は、立ち上げミラー44から導かれた復路の第1乃至第3の波長の光ビームに、1/4波長の位相を付与することにより、円偏光状態から直線偏光状態としてコリメータレンズ35側に出射させる。
立ち上げミラー44は、1/4波長板43により1/4波長の位相差を付与された光ビームを反射して、対物レンズ34側に出射させる。
対物レンズ34は、コリメータレンズ35により発散角を変換され1/4波長板43及び立ち上げミラー44を経由して入射した第1乃至第3の波長の光ビームを光ディスク2の記録面に集光させる。換言すると、この対物レンズ34は、第1乃至第3の光ディスクに対して記録及び再生を行う光ピックアップに用いられ、これらの光ディスクに対応する第1乃至第3の波長の光ビームを各光ディスクの記録層上に集光する3波長互換を有する対物レンズである。対物レンズ34の入射側には、開口絞りが設けられ、この開口絞りは、対物レンズ34に入射する光ビームの開口数を所望の開口数となるように開口制限を行う。具体的に、第1の波長に対して例えば0.85程度のNAとなるように、第2の波長に対して例えば0.60程度のNAとなるように、第3の波長に対して例えば0.45程度のNAとなるように開口制限を行う。また、対物レンズ34の入射側又は出射側の面に、共通の対物レンズによる3波長互換を実現するための回折部等を設けるように構成してもよい。
この対物レンズ34は、レンズホルダ47に保持されており、このレンズホルダ47は、固定部に、サスペンションを介して、トラッキング方向やフォーカス方向に変位可能に支持されている。このレンズホルダ47には、対物レンズ34の近傍に、温度検出素子48が設けられている。温度検出素子48は、CMOS温度センサIC、サーミスタ等であって、温度変化に対して出力電圧(温度信号)がリニアに変化する。これにより、温度検出素子48は、対物レンズ34又は対物レンズ34の周辺の温度を検出する。なお、この温度検出素子48は、対物レンズ34の温度変化に伴う球面収差等の変化を検出するために用いるものであるから、対物レンズ34の温度又は対物レンズ34の近傍の温度を検出できれば、取付位置は、レンズホルダ47に限定されるものではない。
対物レンズ34は、光ピックアップ3に設けられる対物レンズ駆動部49により移動自在に保持されている。この対物レンズ34は、光検出器39で検出された光ディスク2からの戻り光により生成されたトラッキングエラー信号及びフォーカスエラー信号に基づいて、対物レンズ駆動部49により変位される。これにより、対物レンズ34は、光ディスク2に近接離間する方向(フォーカス方向)及び光ディスク2の径方向(トラッキング方向)の2軸方向へ変位される。対物レンズ34は、第1乃至第3の発光部からの光ビームが光ディスク2の記録面上で常に焦点が合うように、この光ビームを集束すると共に、この集束された光ビームを光ディスク2の記録面上に形成された記録トラックに追従させる。また、対物レンズ34は、上述の2軸方向のみならず、対物レンズ34のチルト方向に傾斜可能とされ、光検出器39で検出されたRF信号等に基づいて当該チルト方向に対物レンズ駆動部49により傾けられる。このように、対物レンズ駆動部49は、フォーカス方向、トラッキング方向及びチルト方向に対物レンズ34を駆動するものであり、所謂3軸アクチュエータである。かかる対物レンズ34は、チルト方向に傾斜されることにより、コマ収差を低減することが可能である。
ここで、チルト方向としては、図3に示すように、上述のフォーカス方向F及びトラッキング方向Tに直交するタンジェンシャル方向Tzを軸とした軸回り方向である所謂ラジアルチルト方向Tirを意味するが、これに限られるものではない。すなわち、当該対物レンズ34は、トラッキング方向を軸とした軸回り方向である所謂タンジェンシャルチルト方向に駆動可能なように構成しても良い。また、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向に駆動可能とした4軸方向に駆動可能なように構成しても良い。このように、タンジェンシャルチルト方向にも駆動可能な構成とした場合には、後述の対物レンズ34の効果により、タンジェンシャルチルト方向のコマ収差についても、温度変化によらず良好に低減することを実現する。
対物レンズ駆動部49は、固定部と、対物レンズ34を保持すると共に固定部に対して可動とされた可動部となるレンズホルダ47とから構成されると共に、各駆動方向に駆動力を発生させるコイルやマグネットを有して構成される。なお、対物レンズ駆動部49は、上述のようなサスペンション支持型であってもよいし、固定部の支軸に回動可能に取り付けられた軸摺動型であってもよい。対物レンズ駆動部49は、例えば、フォーカス方向に駆動力を発生させるフォーカスコイルとマグネットや、トラッキング方向に駆動力を発生させるトラッキングコイルとマグネットや、チルト方向に駆動力を発生させるチルトコイルとマグネットを有している。ここで、チルト用として、単独してチルトコイルやマグネットを設けることなく、フォーカスコイルの内、トラッキング方向やタンジェンシャル方向に並んで配置されるフォーカスコイルに発生する駆動力に差を設けて、チルト方向に駆動力を発生させても良い。
この対物レンズ34は、開口数(NA)が0.85程度とされたプラスチック製の単玉対物レンズである。対物レンズ34は、プラスチック製であることにより、従来のガラス製に比べて量産性や軽量化が図られる。
この対物レンズ34は、記録層の切換や製造誤差により光ディスク2のカバー層厚さ変化があったときや、環境温度変化があったとき、コリメータレンズ35を光軸方向に移動させ対物レンズ34への入射倍率を変化させて、常に球面収差を補正、すなわち低減する。
また、対物レンズ34は、環境温度変化やカバー層厚さ変化や、環境温度変化に伴い入射する光ビームの入射倍率に変化があったとき、後述の制御部30に制御され対物レンズ駆動部49によって、チルト方向に傾けられることにより、コマ収差を打ち消す。
また、この対物レンズ34は、光ピックアップ3の使用環境温度範囲における、各記録層毎の最大のレンズチルト感度及び最小のレンズチルト感度が以下の所定の範囲内となるように構成されている。使用環境としては、温度範囲が0℃〜70℃であり、光ビームの波長範囲がλ=400〜410nmである。ここで、レンズチルト感度とは、レンズの傾斜角度に対するコマ収差の割合を意味するものとし、すなわち、この対物レンズを1degreeだけ傾斜(チルト)させたときに発生する3次コマ収差量[λrms]である。また、レンズチルトコマ感度の極性は、像高感度0であるレンズにおけるレンズチルト感度を正と定義する。換言すると、レンズチルト感度の符号は、後述のディスクチルト感度との関係で相対的に定められ、光ディスクと対物レンズとを同一方向に傾斜させたときに発生するそれぞれのコマ収差量が異なる符号となるように定義する。この対物レンズ34は、具体的に、この使用環境における第n層での最大のレンズチルト感度をΔWLT_Max_Lnとしたとき、0.034・f≦ΔWLT_Max_Ln≦0.25+2.0・ΔtL0−Lnの関係式を各層で満たす。また、この使用環境における第n層での最小のレンズチルト感度をΔWLT_Min_Lnとしたとき、−0.053・f≦ΔWLT_Min_Ln≦0.25+2.0・ΔtL0−Ln−0.068・fの関係式を各層で満たす。ここで、nは、一の記録層を有する単層光ディスクの場合はn=0であり、二の記録層を有する二層光ディスクの場合はn=0,1であり、Nの記録層を有する多層光ディスクの場合はn=0,1,・・,N−1である。そして、以下では、二層を含む多層光ディスクにおいては、カバー層厚さが最大とされる記録層を第0層とし、この第0層から順に表面側にむけて第1層、第2層と順に付されるものとして説明する。そして、関係式中fは、当該対物レンズの波長λに対する焦点距離[mm]であり、ΔtL0−Lnは、カバー層厚さが最大とされる第0層から第n層までの厚さ方向の距離[mm]であるものとする。
かかる関係式を満たす本発明を適用した対物レンズ34は、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現し、良好な記録再生特性を実現する。この関係式やその作用については後述の〔5.〕〜〔7.〕等で詳細に説明するものとする。
さらに、この対物レンズ34は、環境中心状態における、各記録層毎のレンズチルト感度が以下の所定の範囲内となるように構成されている。環境中心状態としては、温度が35℃であり、光ビームの波長がλ=405nmである。この対物レンズ34は、具体的に、この環境中心状態における第n層のレンズチルト感度をΔWLT_Ln_TYPとしたとき、−0.01+2.0・ΔtL0−Ln≦ΔWLT_Ln_TYP≦0.04+2.0・ΔtL0−Lnの関係式を各層で満たす。
かかる関係式を満たす本発明を適用した対物レンズ34は、像高特性を考慮した上で適正なレンズチルト感度とされていることにより次の効果を奏する。すなわち、対物レンズ34は、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現するとともに、使用環境範囲におけるコマ収差量をより低減することを可能とする。これにより、対物レンズ34は、より良好な記録再生特性を実現する。この関係式がその作用については後述の〔10.〕等で詳細に説明するものとする。
さらにまた、この対物レンズ34は、更に以下の範囲を満たすように構成しても良く、その場合には、対物レンズを2つ有する2対物構成の光ピックアップに用いられることをも可能とする。そのための条件としては、上述の使用環境における第n層での最大のレンズチルト感度ΔWLT_Max_Lnが、0.034・f≦ΔWLT_Max_Ln≦0.15+2.0・ΔtL0−Lnの関係式を各層で満たすことが必要である。また、この使用環境における第n層での最小のレンズチルト感度ΔWLT_Min_Lnが、−0.053・f≦ΔWLT_Min_Ln≦0.15+2.0・ΔtL0−Ln−0.068・fの関係式を各層で満たすことが必要である。かかる関係式を満たす本発明を適用した対物レンズは、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現し、良好な記録再生特性を実現するとともに、対物レンズを2つ有する光ピックアップに用いられることをも可能とする。2対物構成の光ピックアップの構成や、この関係式及びその作用については後述の〔8.〕〔9.〕等で詳細に説明するものとする。
尚、ここで説明する対物レンズ34は、第1乃至第3の光ディスク11,12,13に対応すべく第1乃至第3の波長の光ビームを異なるカバー層厚さを有する各光ディスクの記録層に良好に集光するものとして説明したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、例えば、第1の光ディスク専用として、第1の波長の光ビームを第1の光ディスク11に良好に集光するように構成されるようにしてもよい。これは、上述したように3波長互換を実現する光ピックアップに設けられる2つの対物レンズのうちの第1の光ディスク専用の対物レンズであってもよいことを意味すると共に、第1の光ディスク専用の光ピックアップに設けられてもよいことを意味するものである。
ところで、マルチレンズ40は、第1のビームスプリッタ36と受光部38との間の光路上に配置され、例えば屈折面を有することにより、以下の作用を有する。すなわち、マルチレンズ40は、入射された光ビームに対して、所定の倍率及び屈折力を付与して光検出器39のフォトディテクタ等の受光部38の受光面に適切に集光する。マルチレンズ40は、入射した復路の各波長の光ビームを共通の受光部38上に集光させるために発散角を変換する素子として機能することで発散角変換機能を発揮する。
光検出器39は、フォトディテクタ等の受光素子からなる受光部38を有し、マルチレンズ40で集光された戻りの第1乃至第3の波長の光ビームをこの共通の受光部38で受光する。光検出器39は、これにより、情報信号(RF信号)をプリアンプ14に出力すると共に、トラッキングエラー信号及びフォーカスエラー信号等の各種信号を検出し、サーボ制御部9に出力する。
以上のように構成された光ピックアップ3は、この光検出器39により検出された戻り光により生成されたフォーカスサーボ信号、トラッキングサーボ信号に基づいて、対物レンズ34を駆動変位して、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを行う。光ピックアップ3は、対物レンズ34が駆動変位されることにより、光ディスク2の信号記録面に対して合焦する合焦位置に移動され、光ビームが光ディスク2の記録トラック上に合焦されて、光ディスク2に対して情報信号の記録又は再生を行う。また、光ピックアップ3は、光ディスクの反り等により発生するコマ収差を対物レンズ34を対物レンズ駆動部49によりチルト方向に傾斜させることにより低減することができる。これにより、光ピックアップ3及びこれを用いた光ディスク装置1は、良好な記録再生特性を有する。
ところで、対物レンズ34のようにBD用でレンズの開口数が高く設定されている場合には、記録層の切換、カバー層の厚み誤差等を原因とするカバー層の厚さ変化によって発生する球面収差の量は大きい。また、対物レンズ34は、材料をガラスからプラスチックとすることにより、屈折率の温度依存性が高いことに起因して、温度変化によって発生する球面収差の量も大きい。この球面収差を補正するために対物レンズ34に入射する光ビームの入射倍率を変更する必要があり、この入射倍率の変動に伴い、レンズチルト感度も変化し、対物レンズ34のチルト補正値が最適値からずれることになる。
そこで、本発明の光ピックアップ3では、温度変化に伴いコリメータレンズ35の位置や対物レンズ34の傾きを調整するための演算を行う制御部30を備えている。この制御部30には、光検出器39よりRF信号が入力されると共に、温度検出素子48より温度の温度信号が入力される。制御部30は、入力された温度信号やRF信号のジッタ量を監視し、コリメータレンズ駆動部45を駆動し、コリメータレンズ35を光軸方向に移動し球面収差補正を行う。また、制御部30は、対物レンズ駆動部49を駆動し、対物レンズ34を光検出器39で検出される信号が良好となるようにチルト方向に傾けコマ収差補正を行う。
また、かかる光ピックアップ3において、制御部30は、対物レンズ34のレンズチルト感度を検知するレンズチルト感度検知部として機能する。レンズチルト感度検知部としての制御部30は、温度検出素子48により検出された信号に基づいて、当該温度におけるレンズチルト感度を検知する。ここで、レンズチルト感度は、対物レンズ34の形状や構成材料の屈折率等により温度毎に一義的に決まる値であり、温度に対するレンズチルト感度の関係と、温度検出素子48で検出された信号に基づく温度に基づいて決定される。
尚、ここでは、温度検出素子48により検出される温度に基づいて制御部30によりレンズチルト感度を検知するように構成したがこれに限られるものではない。すなわち、制御部30は、コリメータ位置検出部46で検出されたコリメータレンズ35の位置に基づいて、レンズチルト感度を検知するように構成してもよい。かかる場合には、対物レンズ34に入射する光ビームの入射倍率に対するレンズチルト感度の関係と、コリメータ位置検出部46で検出された信号に基づくコリメータレンズ35の位置とに基づいて決定される。これは、コリメータレンズ35の位置と、入射倍率との関係は一義的に決まるものであるとともに、球面収差を補正するための入射倍率は、温度変化に応じて一義的に決まる値であることに基づいている。コリメータ位置検出部46の検出結果を用いる場合には、上述の温度検出素子48を設けなくともよい。尚、コリメータ位置検出部46での検出結果をレンズチルト感度検知に用いる場合で、且つ多層光ディスクであった場合には、各記録層毎の入射倍率に対するレンズチルト感度の関係に基づいて、レンズチルト感度を検知するように構成しても良い。これは、多層光ディスクの各記録層は、それぞれカバー層厚さが異なるため、それぞれの球面収差を適正なものとするためのコリメータレンズ35の位置が異なるからである。よって、各記録層毎の関係を用いることで、より良好なコマ収差低減が可能となる。
次に、本発明を適用した光ピックアップ3等を構成する対物レンズ34及び後述の光ピックアップ103等を構成する対物レンズ134Aのレンズチルト感度の範囲について説明するが、それに先立ち「本発明の中心的部分の概要」等について詳細に説明する。
〔3.本発明の前提と本発明の中心的部分の概要説明〕
まず、ここでは、以下の〔4.〕〜〔10.〕の説明に先立つ簡易な概要について説明を行う。まず、一般的なプラスチックレンズを用いる場合の手法を検討する。プラスチックレンズでは、上述のように温度が変化すると、大きな球面収差が発生する。この球面収差を取り除くには、上述したようなコリメータレンズ駆動部45によって、温度に応じてコリメータレンズ35を動かす手法が有効である。
このようにして球面収差をキャンセルした場合には、対物レンズに対して入射する光ビームの発散状態が変わり、すなわち入射倍率が変動している。そして、上述のように入射倍率が変動すると、対物レンズを傾けた際に生じるコマ収差が変動し、すなわちレンズチルト感度が変動することとなる。そして、設計時のレンズチルト感度には問題がない場合にも、この変動時のレンズチルト感度では、信号読み取り時に信号品質を悪化させるおそれがある。すなわち、プラスチック製の対物レンズを使いこなすためには、使用環境におけるレンズチルト感度をある一定の範囲内に収める必要がある。以下では、この範囲を規定する手法について説明する。
ところで、入射倍率により変動するレンズチルト感度の変動の振る舞いは、入射倍率−レンズチルト感度のグラフによって把握することができる。図4に、この入射倍率に対するレンズチルト感度の変動を直線L0L0として示す。図4では、一般的にL0層と呼ばれる、カバー層厚さ0.1mmの記録層におけるレンズチルト感度の変動の例を示している。ここで、レンズチルト感度の範囲を規定する第1の手法として、最大入射倍率時のレンズチルト感度範囲と最小入射倍率時のレンズチルト感度範囲を規定するものとして説明する。すなわち、図4及び後述の図5に、このL0層の最大入射倍率時のレンズチルト感度の最大値をΔWLT_Max_Max_L0とし、最小値をΔWLT_Max_Min_L0として示す。また、最小入射倍率時のレンズチルト感度の最大値をΔWLT_Min_Max_L0とし、最小値をΔWLT_Min_Min_L0として示す。図4中左下側にプロットされる最小入射倍率時のレンズチルト感度ΔWLT_Min_L0は、高温・長波長の条件におけるものであり、右上側にプロットされる最大入射倍率時のレンズチルト感度ΔWLT_Max_L0は、低温・短波長の条件におけるものである。第1の手法では、これらの最大及び最小入射倍率時のレンズチルト感度の範囲を後述のように規定することにより所定の効果を得るものである。また、後述するレンズチルト感度の範囲を規定する第2の手法では、環境中心状態のレンズチルト感度の範囲を規定することでさらなる効果を得るものである。
また、各記録層のカバー層厚さの違いによって図4で説明したようなレンズチルト感度の変動を示す直線の振る舞いは変動する。図5に、所謂2層光ディスクの場合の両記録層のそれぞれにおける入射倍率に対するレンズチルト感度の変動を示す。すなわち、図5では、上述のL0層を示すL0L0に加えて、一般的にL1層と呼ばれる、カバー層厚さ0.075mmの記録層におけるレンズチルト感度の変動の例をL0L1として示している。そして、図5に、このL1層の最大入射倍率時のレンズチルト感度の最大値をΔWLT_Max_Max_L1とし、最小値をΔWLT_Max_Min_L1として示す。また、最小入射倍率時のレンズチルト感度の最大値をΔWLT_Min_Max_L1とし、最小値をΔWLT_Min_Min_L1として示す。上述の第1の手法及び第2の手法では、かかるL0層及びL1層における上述で規定した所定の条件のときのレンズチルト感度を後述のように規定することで、2層光ディスクに対して所定の効果を得てコマ収差補償を実現する。同様に、多層光ディスクにおける各記録層における各状態のレンズチルト感度をΔWLT_Max_Max_Ln,ΔWLT_Max_Min_Ln,ΔWLT_Min_Max_Ln,ΔWLT_Min_Min_Lnとして、この範囲を規定することでさらに多層の光ディスクにまで適用可能とするものである。
そして、かかる対物レンズ及びこれを用いた光ピックアップ等では、ΔWLT_Max_Max_Lnは、光ディスクの面ブレ量等から範囲が規定されるものであるが、この範囲は光ピックアップに設けられる対物レンズが1個か2個かで異なることとなる。詳細に後述するが、各波長に共通の3波長互換対物レンズを用いた場合、すなわち光ピックアップに設けられる対物レンズが1個の場合には有利な範囲をもつ。
また、詳細に後述するが、ΔWLT_Min_Max_Lnは、ΔWLT_Max_Max_Lnから、一般的な環境下で標準的にどの程度レンズチルト感度が変動するかという観点から導き出された範囲とすることで所定の効果を得るものである。また、ΔWLT_Max_Min_Ln、ΔWLT_Min_Min_Lnは、光ピックアップにおいて、像高感度とレンズチルト感度の両者を不利にしないための条件から導き出された範囲とすることで所定の効果を得るものである。ここで、像高感度は、レンズに対して入射する平行光束がθ[deg]傾いた際に生じる3次コマ収差をWIHとしたときに、ΔWIH=WIH/θの関係を有するΔWIHで表される。一般的に、フォーマットが決定すると、像高感度とレンズチルト感度間には、ΔWIH=ΔWLT+Const.の関係(式(28B))があるため、レンズチルト感度と像高感度とはトレードオフの関係にある。
〔4.温特SA補正とチルト感度について〕
ここでは、プラスチック製対物レンズを用いた場合の、温度特性により発生する球面収差(「SA」ともいう。)の挙動と、発生した球面収差を補正するメカニズムについて説明する。また、この温特SA補正の際に、レンズチルト感度が変動してしまうことを説明する。
図6に35℃を設計センターとした焦点距離が同一の、BD用ガラス製対物レンズとBD用プラスチック製対物レンズの温度変化に対する球面収差発生量の関係を示す。図6中横軸は、温度[℃]を示し、縦軸は、3次球面収差[λrms]を示す。また、L1gは、ガラス製対物レンズの関係を示し、L1pは、プラスチック製対物レンズの関係を示す。図6に示すように、プラスチック製対物レンズは、温度変化による屈折率変化が大きいため、温度変化に依存する球面収差の変化量がガラス製対物レンズと比較して大きい。このため、プラスチック製対物レンズにおいては、温度変化時に球面収差が発生することとなり、これを補正する手法や手段を必要とする。
ここで、一般的な補正手法は、倍率球面収差を用いたものである。次に、図7に上述のガラス製及びプラスチック製の対物レンズの倍率特性を示す。図7中横軸は、対物レンズへの入射倍率を示し、縦軸は、3次球面収差[λrms]を示す。また、L2gは、ガラス製対物レンズの関係を示し、L2pは、プラスチック製対物レンズの関係を示す。図7に示すように、倍率特性は、焦点距離と開口数NAとにより決まるため、2つのレンズの特性に差異はない。すなわち、図7は、ガラス製及びプラスチック製の対物レンズで同量の球面収差を発生させるために必要な倍率変化は同じであることを示す。
そして、これらの図6及び図7に示すように、ガラス製対物レンズは、環境温度変化により球面収差がほぼ変化しないため、倍率補正をする必要がない。これに対し、プラスチック製対物レンズは、球面収差が温度に依存し大きく変化するため、温度変化分で発生した球面収差をキャンセルするだけの倍率補正が必要となる。
次に、図8に、プラスチック製とされた対物レンズ34へ入射する光ビームの入射倍率とレンズチルト感度との関係を示す。レンズチルト感度は、カバー層厚さ毎に異なる値であり、図8には、記録層L0,L1毎の関係を示す。図8中横軸は、入射倍率を示し、縦軸は、レンズチルト感度を示す。また、L3L0は、カバー層厚さが0.100μmであるL0層に集光する場合のレンズチルト感度を示し、L3L1は、カバー層厚さが0.075μmであるL1層に集光する場合のレンズチルト感度を示す。図8によれば、記録層毎に所定の関係で入射倍率が変化した場合にレンズチルト感度が変化することが示されている。また、図8によれば、入射倍率が変化した場合にレンズチルト感度が変化することが示されている。このため、上述したように入射倍率を変化させることによって温特SAを補正する場合に、入射倍率の変動に応じてレンズチルト感度が変動する。
ここで、対物レンズ34への入射倍率を変化させる球面収差について説明する。入射倍率を変化させる球面収差発生要因としては、温度変化、波長変化、カバー層厚さ変化、初期球面収差量とが考えられる。以下の説明では、温度変化に対する発生感度ΔSAT/ΔTを、αとし、波長変化に対する発生感度ΔSAλ/Δλを、βとし、カバー層厚さ変化に対する発生感度ΔSAd/Δdを、γとし、初期球面収差量を、SAorgとする。このα、β、γ、及びSAorgを用いると、見積もられる最大球面収差発生量ΔSAは、次式(1)のように表すことができる。
ΔSA=α・ΔT+β・Δλ+γ・Δd+SAorg ・・・(1)
光ピックアップ3が使用される環境、条件を考慮すると最大で発生する球面収差は、±0.400λrms程度となる。この球面収差を補正するために、コリメータレンズ35の駆動による倍率補正を行った場合、図6及び図7の関係から、使用倍率mの範囲が定まる。発生する倍率球面収差量ΔSAは、ほぼf[mm]、NA、mによってのみ決定するものであり、具体的にその値は、次式(2)で示す程度である。これにより、f=2.2mmとして入射倍率mの範囲を算出すると関係式(3)のようになる。この入射倍率による補正は、実際にはコリメータレンズ35を駆動することによって、対物レンズ34に入射する光ビームの光線角度を制御することによって行われる。このとき、図8で示した対物レンズ34のレンズチルト感度としては、次式(4)のようになる。つまり、同一のレンズチルト角度で発生するコマ収差が入射倍率により大きく変化することを示す。
ΔSA≒38・m・NA4・f ・・・(2)
−1/110≦m≦1/110 ・・・(3)
0≦|ΔW/Δθ|≦0.232 ・・・(4)
そして、温度変動時の光ピックアップ3の動作については上述したとおりである。すなわち、光ピックアップ3内の対物レンズ34近傍において温度変動があると、上述の式(1)で示した球面収差量ΔSAが発生する。このΔSAは、コリメータレンズ35を駆動することによって倍率球面収差を発生させることでキャンセルする。光ピックアップ3内には対物レンズ34周辺の温度を検知する温度検知ユニットとしての温度検出素子48が設けられ、随時対物レンズ34の温度を検知している。信号演算ユニットとしての制御部30では、検知された温度から図6及び図7の関係に基づいてコリメータ駆動量を算出し、コリメータレンズ駆動部45に駆動分の動作信号を送り、コリメータレンズ35を動作させる。これによってΔSAに関してはキャンセルすることができるものの、温度変化に伴って生じたレンズチルト感度の変化は、その範囲が適正でない場合には再生信号の劣化を引き起こすおそれがある。この光ピックアップ3では、この信号劣化の問題を防止するため以下の観点から所定の範囲を満たす対物レンズ34を用いているが、この範囲について〔5.〕〜〔10.〕等で説明する。このように、本発明は、従来ではレンズチルト感度がどの程度以下であれば適切かの指針はまったく示されておらず、対物レンズによっては使いこなすことが非常に難しいということに鑑みたものである。すなわち、本発明は、かかる範囲を明確に規定することで、プラスチック製の対物レンズのコマ収差補償を実現するものである。換言すると、本発明では、プラスチックレンズを用いた場合に生じるレンズチルト感度量を一定以下に抑えることによって、光ピックアップでレンズチルトを行った際のマージン量を一定量確保する効果を得ようとするものである。
〔5.対物レンズのレンズチルト感度の上限について〕
ここでは、レンズチルト感度の上限について説明する。レンズチルト感度は光ピックアップを構成するに際して種々の影響を及ぼす。仮にレンズチルト感度が低すぎた場合には、例えば光ディスクの反りに対しての十分な信号補正ができなくなる。一般的な光ピックアップと同様に、図9に示すように光ディスクが反ることによって発生するコマ収差を、対物レンズ34を傾けることによってコマ収差を発生させキャンセルする制御を行うという手法が考えられる。例えば温度が高く、レンズチルト感度が低くなる場合には、同一の光ディスクの反りに対応する場合でも、大きなレンズチルト量が必要となることを意味する。レンズチルト感度が低くなりすぎた場合には、アクチュエータの稼動可能範囲を逸脱してしまうという問題やアクチュエータを駆動してもコマ収差量が変化せず補正が行えないおそれがある。これに対しては、一定以下のレンズチルト感度を持つ場合にはレンズチルト補正を行わないような手法を取り入れることにより解消可能である。
その一方で、レンズチルト感度が高すぎると、光ピックアップ製造時等のレンズチルト調整取れ残りによって、大きなコマ収差が発生することとなり、信号品質を著しく悪化させるという問題がある。ここで、光ピックアップ3等のシステムにおけるコマ収差の許容最大量をWMax[λrms]とし、レンズチルト調整取れ残りをθLT_Max[deg]とすると、レンズチルト感度の上限ΔWLT_Maxは、以下の式(5)で表される。
ΔWLT_Max=WMax/θLT_Max ・・・(5)
光ピックアップシステムのコマ収差許容値WMaxは、一般的にはマレシャルの条件0.070λrmsにより決定されると考えられる。ここで、光ディスクの反り等はタンジェンシャル方向で考えると面ブレとして影響を及ぼすこととなり、回転時におけるこのタンジェンシャル方向の面ブレが生ずることが問題となる。すなわち、この回転方向の面ブレに対応して対物レンズを傾斜追随させることができず、この面ブレによる収差WSur_Vib[λrms]は、通常チルトにより対応して抑えることができない。このため、WMaxは、次式(6)のような関係となる。また、この式(6)を算出するための面ブレによる収差WSur_Vibは、次式(7)のように最大面ブレ角度θDT_Max等から算出できる。ここで、BDの面ブレが最大となる最大面ブレ角度θDT_Maxは、θDT_Max=±0.3deg以下である。また、式(7)中ΔWDT[λrms/deg]は、光ディスクのチルト感度(以下、「ディスクチルト感度」という。)であり、光ディスクのカバー層厚さによって変動する値となる。ここで、レンズチルト感度は、像高感度が0となるレンズにおいて、レンズチルト感度の極性を正としている。
WMax=0.07−WSur_Vib・・・(6)
WSur_Vib=|θDT_Max・ΔWDT|・・・(7)
例えばBD2層光ディスクではカバー層厚さが厚い方の記録層は、L0層と呼ばれ、カバー層厚さが0.100mmとなっており、カバー層厚さが薄い方の記録層は、L1層と呼ばれ、カバー層厚さが0.075mmとなっている。ディスクチルト感度は、L0層のものがΔWDT_L0=−0.110λrms/degであり、L1層のものがΔWDT_L1=−0.080λrms/degとなっており、L0層の方が高いディスクチルト感度を持つ。尚、このディスクチルト感度は、カバー層厚さと光線の角度とで決まる値であり、光線の角度は、開口数NAで決まる値である。
よって、各層でのコマ収差許容量WMaxの値は、式(6)及び式(7)と、各層のディスクチルト感度ΔWDT_L0、ΔWDT_L1とを用いて、次式(8A)及び次式(8B)のように算出できる。すなわち、L0層のコマ収差許容量WMax_L0は、式(8A)で算出でき、L1層のコマ収差許容量WMax_L1は、式(8B)で算出できる。
WMax_L0=0.037 ・・・(8A)
WMax_L1=0.046 ・・・(8B)
また、一般的なレンズ取付調整時のレンズチルト取れ残り量は、組み付けずれも含めると最大θLT_Max=0.15程度である。このθLT_Maxと式(5)、式(8A)及び式(8B)とから各層の最大レンズチルト感度量ΔWLT_Max_L0、ΔWLT_Max_L1は、次式(9A)及び次式(9B)のように算出される。
ΔWLT_Max_L0=0.25 ・・・(9A)
ΔWLT_Max_L1=0.31 ・・・(9B)
なお、ディスクラジアル方向を考慮した場合には、これよりも大きなレンズチルト感度を許容できるが、対物レンズの最低規格値は上述したとおりであり、タンジェンシャル方向によってのみ規定される。
また、レンズチルト感度ΔWLTは、光ディスクのカバー層厚さに対して線形性を有している。すなわち、次式(10)の関係が成立している。ここで、式(10)中ΔWLT_Cenは、レンズチルト感度の設計中心を示すものであり、一般的にはL0層とL1層のレンズチルト感度の中心で0.1〜0.08[λrms/deg]程度で設計され規定されている。これはアプラナート条件を満たすためには、その程度の値とすることが要求されるためである。またΔt[mm]は、設計中心でのカバー層厚さtCenに対するカバー層厚さの差を示し、第n層でのカバー層厚さをtnとすれば、Δt=tn−tCenの関係を満たすものである。この点について詳細に説明するに、カバー層厚さの違いによるレンズチルト感度の変動は、以下の2つの要因によって決定されている。一つの要因としては、カバー層厚さの違いによる入射倍率の変動である。これは、上述したように、カバー層厚さが異なると球面収差が線形性を有して変動するため、その分の入射倍率を調整する必要があるからである。また、この入射倍率は上述のようにレンズチルト感度と線形を有した関係性がある。よって、カバー層厚さの違いによる入射倍率の変動と、レンズチルト感度の間には線形の関係にある。もう一つの要因としては、傾斜したレンズから生じたコマ収差が、光ディスク面において増幅されるというものである。この要因についても光ディスクのカバー層厚さと線形性を有することが知られている。これら2つの要因によって生じる変動量は、両者ともカバー層厚さであるtと線形性を有するため、カバー層厚さ中心のレンズチルト感度ΔWLT_Cenを基準とすれば式(10)の関係を有することとなる。kLT−tは、実測上は1.6〜2.0[λrms/deg/mm]程度である。
ΔWLT=kLT−t・Δt+ΔWLT_Cen・・・(10)
このレンズチルト感度とカバー層厚さとの線形関係に基づいて、式(9A)及び式(9B)で規定した各層の最大レンズチルト感度は、式(10)の関係による制限を受けることとなる。すなわち、式(9B)及び式(10)の関係から得られるΔWLT_Max_L0は、式(9A)を制限しないが、式(9A)及び式(10)の関係から得られるΔWLT_Max_L1は、式(9B)よりさらに制限された関係を規定することとなる。具体的には、最大のkLT−t=2.0と、L0層及びL1層間の距離ΔtL0−L1=0.025とを用いて、式(10)の関係に基づいて、式(9A)のΔWLT_Max_L0より、ΔWLT_Max_L1は、式(11)のような関係で規定されることとなる。
ΔWLT_Max_L1≦ΔWLT_Max_Max_L1=ΔWLT_Max_L0+kLT−t・ΔtL0−L1=0.30 ・・・(11)
以上のことから、一般的な多層化を考えるとL0層より薄い方向に多層化が進行するため、L0層を基準として、レンズチルト感度の最大値は、式(12)のような関係で規定する必要がある。
ΔWLT_Max_Ln≦ΔWLT_Max_Max_L0=ΔWLT_Max_L0+kLT−t・ΔtL0−Ln=0.25+2.0・ΔtL0−Ln ・・・(12)
〔6.対物レンズのレンズチルト感度の下限について〕
以下では、その他の制限によりレンズチルト感度の下限が規定されることについて説明する。
上述した式(12)は、あくまでΔWLT_Max_Lnの最大値を規定するものであるが、実際には最小値も規定される。入射倍率Mに対するレンズチルト感度変動量ΔWLT_ΔMは、概略fに比例し、おおよそ次式(13)のように示すことができる。ここで、ΔMは、入射倍率変動量を示し、図8における横軸変動量を表す。また、ΔWLT_ΔMは、図8における縦軸変動量に相当する。
ΔWLT_ΔM=7.5・f・ΔM ・・・(13)
そして、このΔMについて、回折のないプラスチックレンズあるいは3波長互換対物レンズにおいて、設計温度35℃、設計中心波長405nmの場合について検討する。このΔMは、使用環境温度範囲0℃〜70℃、使用光波長範囲400〜410nmの環境変化を考慮すれば、例えば正の側の片側について最大0.007程度の値をとり、すなわち最大の倍率変動量ΔM_Maxは、次式(14)のように示される。
ΔM_Max=0.007 ・・・(14)
また、この倍率変動範囲はレンズ構成材料と焦点距離にある程度依存するため、倍率変動量には幅があり、最小の倍率変動量ΔM_Minは、次式(15)で示される。
ΔM_Min=0.0045 ・・・(15)
上述した式(13)に基づいてこの式(14)及び式(15)の関係を用いると、レンズチルト感度の環境下での最大振幅となるΔWLT_ΔM_Maxと、最小振幅となるΔWLT_ΔM_Minは、それぞれ式(16)及び式(17)のような関係となる。
ΔWLT_ΔM_Max=7.5・f・ΔM_Max=0.053・f ・・・(16)
ΔWLT_ΔM_Min=7.5・f・ΔM_Min=0.034・f ・・・(17)
対物レンズにおけるレンズチルト感度ΔWLTは、種々の環境変動において値が変動するが、後述のように正の値である方が有利である。詳細は後述するが、レンズチルト感度が負の値となる場合ではレンズチルト感度の絶対値上昇に伴い像高感度の絶対値上昇が起き、不利な方向にしか働かないためである。よって、上述した図8の直線群における使用環境におけるレンズチルト感度の値が全体として正側に偏って存在しているのが望ましい。この観点を数式化すると、カバー層厚さによらず、設計中心状態のレンズチルト感度が0以上であるとして、最大のレンズチルト感度の最小値ΔWLT_Max_Min_Lnは、次式(18)の関係を有することが望ましい。また、同様に、最小のレンズチルト感度の最小値ΔWLT_Min_Min_Lnは、次式(19)の関係を有することが望ましい。
ΔWLT_Max_Min_Ln=ΔWLT_ΔM_Min=0.034・f ・・・(18)
ΔWLT_Min_Min_Ln=−ΔWLT_ΔM_Max=−0.053・f ・・・(19)
この式(18)及び式(19)の関係については概念図として図10及び図11を用いてさらに説明する。図10及び図11には、L0層の使用環境範囲内における入射倍率に対するレンズチルト感度分布を示す実線L4と、環境中心状態におけるレンズチルト感度を示すP4TYPとを表している。尚、破線部は、カバー層厚さと焦点距離fとにより略決まる入射倍率に対するレンズチルト感度を示すものであり、これに対し環境中心状態のレンズチルト感度と倍率変動量ΔMとを調整することにより上述のレンズチルト感度分布を調整することができる。
ここで、直線分布は上述のように、正に偏っているほうが有利であるため、図10における環境中心状態におけるレンズチルト感度P4TYPが0である場合が分布の下限となる。よって、図10に示すように、最低レンズチルト感度の最小値ΔWLT_Min_Min_Lnは、上述した環境変動による変動レンズチルト感度の最大振幅を示すΔWLT_ΔM_Maxによって規定されることとなる。この図10には、上述した式(19)の関係が適正な範囲を示すものであることが示されている。
その一方で、最大レンズチルト感度の最小値ΔWLT_Max_Min_Lnについては、図11に示すように、次のように決定される。まず、直線分布が正に偏っているほうが有利である点、及び環境中心状態におけるレンズチルト感度P4TYPが0である場合が分布の下限となる点については、図10の場合と同様である。そして、直線分布が正に偏っているということは、最大レンズチルト感度の最小値ΔWLT_Max_Min_Lnが少なくとも正の値であることを意味する。よって、図11に示すように、最大レンズチルト感度の最大値ΔWLT_Max_Min_Lnは、上述した環境変動による変動レンズチルト感度の最大振幅を示すΔWLT_ΔM_Minによって規定されることとなる。この図11には、上述した式(18)の関係が適正な範囲を示すものであることが示されている。尚、図11には、上述の事項とともに、最大レンズチルト感度の適正範囲をR4ΔWLT_Maxで示した。また、この範囲を示すためのΔWLT_Max_Maxは、上述の式(12)により決定されたものである。
次に、最大レンズチルト感度の最小値ΔWLT_Min_Max_Lnに関しては、式(12)で規定した最大レンズチルト感度の最大値ΔWLT_Max_Max_Lnに対して、次式(20)により規定されることとなる。
ΔWLT_Min_Max_Ln=ΔWLT_Max_Max_Ln−2・ΔWLT_ΔM_Min ・・・(20)
この式(20)の関係については概念図として図12を用いてさらに説明する。図12には、L0層の使用環境範囲内における入射倍率に対するレンズチルト感度分布を示す実線L5と、設計中心状態におけるレンズチルト感度を示すP5TYPとを表している。式(12)によりΔWLT_Max_Max_Lnが定まると、これは環境最大レンズチルト感度の最大値を意味するものとなっている。これに対して、環境変動による変動レンズチルト感度の最小振幅分の2倍である2×ΔWLT_ΔM_Min分、下方に設定した位置に環境最小レンズチルト感度の最大値ΔWLT_Min_Max_Lnが定められることとなる。尚、図12には、上述の事項とともに、最小レンズチルト感度の適正範囲をR5ΔWLT_Minで示した。また、この範囲を示すためのΔWLT_Min_Minは、上述の式(19)及び図10により決定されたものである。
具体的に、式(15)で示すようにΔM_Min=0.0045であるから、式(16)の場合とほぼ同様に、式(21)により最小レンズチルト感度の最大値ΔWLT_Min_Max_Lnが規定されることとなる。
ΔWLT_Min_Max_Ln=0.25+2.0・ΔtL0−Ln−0.068・f ・・・(21)
〔7.光ピックアップにおける3波長互換対物レンズの場合のレンズチルト感度の範囲について〕
上述したようなレンズチルト感度の制限値の範囲は、対物レンズの種類によって、ある程度制限される。例えば、上述した光ピックアップ3で用いられたような3波長互換を有する対物レンズ34では、光ピックアップ3のレンズホルダにレンズが一つしかないため、レンズチルト感度の制限が比較的緩くすることを可能とする。ここでは、対物レンズ34等の3波長互換対物レンズのレンズチルト感度の範囲について説明する。
すなわち、上述の制限以外を考慮する必要がないため、3波長互換の対物レンズ34の場合は、上述の式(12)、式(18)〜式(20)等で規定した範囲をそのまま最大レンズチルト感度及び最小レンズチルト感度の最大値及び最小値とすることができる。具体的には、式(12)及び式(18)に基づいて、最大レンズチルト感度について式(22A)の範囲を導き出すことができる。また、式(19)及び式(21)に基づいて、最小レンズチルト感度について式(22B)の範囲を導き出すことができる。
0.034・f≦ΔWLT_Max_Ln≦0.25+2.0・ΔtL0−Ln ・・・(22A)
−0.053・f≦ΔWLT_Min_Ln≦0.25+2.0・ΔtL0−Ln−0.068・f ・・・(22B)
3波長互換対物レンズにおいて、上述の式(22A)及び式(22B)を満足する構成とすることにより、以下のような効果を奏する。すなわち、かかる構成は、光ピックアップの製造時等のレンズチルト調整取れ残りや、タンジェンシャル方向の面ブレにより大きなコマ収差が発生し許容量を超えることによる各種信号劣化を防止できる。すなわち、かかる対物レンズは、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現し、光ピックアップによる良好な記録再生特性を実現する。
これは、3波長互換の対物レンズを用いる場合には、BD等の第1の光ディスクとDVD、CD等の第2及び第3の光ディスクのコマ収差方向を概略同一とすることができるからである。すなわち、例えば、光ディスクのスピンドルや、光ピックアップ3のガイド軸等のチルト調整を行い、光ディスクと光ピックアップ3との傾斜状態を相対的に調整することにより、コマ収差量を一律にキャンセルすることができるためである。この概念について図13を用いて詳細に説明する。図13(a)に示すような1つの対物レンズのみ有する場合において、第1乃至第3の光ディスク(例えばBD,DVD,CD)に対して生じるコマ収差の方向は、C10で示すように概略ほぼ同方向となる。実際には対物レンズにおける第1乃至第3の光ディスク間のコマ収差の方向には多少の違いが生じるが、あまりその違いは大きくならない。また、光ピックアップ3固定部におけるコマ収差の方向は、第1乃至第3の光ディスクに対して共通となる。そして、これらのことから、生じるコマ収差は第1乃至第3の光ディスクのメディアによらず方向は同一のC10方向であり、上述したような光ディスクの傾斜(チルト)あるいは光ピックアップ3の傾斜(チルト)によって相殺して取り除かれる。尚、図13(a)中C1Hは、光ディスク又は光ピックアップ3の傾斜によりこれらの相対的な角度調整を行うことにより相殺するために発生させるコマ収差の方向を示す。そして、図13(b)は、図13(a)に示したC10方向のコマ収差に対して、C1Hで示した方向のコマ収差を発生させることによりコマ収差が相殺された状態を示す図である。図13(b)では、上述したようにコマ収差を相殺させたことにより、これらのトータルのコマ収差が略0の状態となっていることを示す。このような調整を行うことにより、式(22A)及び式(22B)のレンズチルト感度上限値等は他のメディアの存在によって制約されることがない。また、第2及び第3の光ディスク(例えばDVD、CD)に対してもレンズチルト感度について余裕があるため、現実的な束縛値とはならない。
式(22A)及び式(22B)の規定は、上述の〔5.〕〜〔6.〕のように導かれたものである。よって、開口数がNA>0.8、カバー層厚さがt=0.1mm〜0.075mm、光ビームの波長λがλ=400〜410nm、使用温度範囲が0℃〜75℃の範囲内で成立するものである。換言すると、これらは、ディスクチルト感度が起因となっており、ディスクチルト感度はNA3・t/λに比例することから、開口数が小さい場合はレンズチルト感度の変動量はそれほど大きな影響がなく、上述のような問題を考慮する必要がない。
本発明を適用した対物レンズ34及びこれを用いた光ピックアップ3は、対物レンズをプラスチック製とすることにより、量産性や軽量化を向上させるとともに、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。そして、対物レンズ34及び光ピックアップ3は、量産性や軽量化を実現するとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。
〔8.光ピックアップの第2の実施の形態の全体構成〕
次に、上述した光ディスク装置1に用いられる本発明に係る光ピックアップの第2の実施の形態として、本発明を適用した光ピックアップ103について、図14を用いて説明する。この光ピックアップ103は、高密度光ディスクである第1の光ディスク専用の対物レンズ134Aと、第2及び第3の光ディスク用の対物レンズ134Bとからなる2種類の対物レンズを有する所謂2対物構成とされた光ピックアップである。この光ピックアップ103は、上述の所謂1対物構成とされた光ピックアップ3と同様に、第1乃至第3の光ディスクに対して記録再生を行うことを実現する、所謂3波長互換光ピックアップである。尚、以下の説明において、上述した光ピックアップ3と共通する部分については、共通の符号を付して詳細な説明は、省略する。
本発明を適用した光ピックアップ103は、第1の光源部31と、第2の光源部32とを備える。また、光ピックアップ103は、第1の光源部31から出射された第1の波長の光ビームを第1の光ディスク(BD等)の信号記録面上に集光する対物レンズ134Aを備える。また、光ピックアップ103は、第2の光源部32から出射された第2及び第3の波長の光ビームをそれぞれ第2及び第3の光ディスク(DVD,CD等)の信号記録面上に集光する対物レンズ134Bを備える。かかる対物レンズ134A及び対物レンズ134Bは、上述した対物レンズ34と同様に、対物レンズ駆動部49により移動自在に保持されており、共通のレンズホルダ47に取り付けられている。そして、対物レンズ134A,134Bは、対物レンズ駆動部によりフォーカス方向、トラッキング方向、チルト方向に駆動される。
また、この光ピックアップ103は、対応する各波長の光ビームの発散角を変換して対応する対物レンズに導くコリメータレンズ135A,135Bを備える。かかるコリメータレンズ135A,135Bにおいても、上述したコリメータレンズ35と同様に、必要に応じてコリメータレンズ駆動部やコリメータ位置検出部が設けられる。
また、光ピックアップ103は、上述の光ピックアップ3と同様に、各光ビームを対応する光学部品に導くための第1及び第2のビームスプリッタ136,137や、立ち上げミラー144A,144Bを備える。また、光ピックアップ103は、共通の受光部38を有する光検出器39、マルチレンズ40、第1及び第2のグレーティング41,42、制御部30を備える。
光ピックアップ103を構成する対物レンズ134Aは、上述したように1波長専用の対物レンズであり、開口数(NA)が0.85程度とされたプラスチック製の単玉対物レンズである。対物レンズ134Aは、プラスチック製であることにより、従来のガラス製に比べて量産性や軽量化が図られる。この対物レンズ134Aは、記録層の切換や製造誤差により光ディスク2のカバー層厚さ変化があったときや、環境温度変化があったとき、コリメータレンズ135Aを光軸方向に移動させる。これにより、対物レンズ134Aへの入射倍率を変化させて、常に球面収差を補正、すなわち低減する。また、対物レンズ134Aは、環境温度変化やカバー層厚さ変化や、環境温度変化に伴い入射する光ビームの入射倍率に変化があったとき、後述の制御部30に制御され対物レンズ駆動部49によって、チルト方向に傾けられることにより、コマ収差を打ち消す。尚、光ピックアップ103を構成する対物レンズ134Bは、上述したように第2及び第3の光ディスク用の対物レンズであり、一般的に用いられる例えばDVD,CD等の光ディスクに対応した2波長互換対物レンズである。このように、対物レンズ134Aは、第1乃至第3の光ディスクに対して記録及び再生を行う光ピックアップに、第2及び第3の光ディスクに対応する光ビームを集光する対物レンズ134Bとともに用いられる。そして、対物レンズ134Aは、第1の光ディスクに対応した400〜410nm程度の第1の波長の光ビームを第1の光ディスクの記録層上に集光する1波長専用の対物レンズである。
また、この対物レンズ134Aは、上述の対物レンズ34で説明した使用環境における第n層での最大のレンズチルト感度ΔWLT_Max_Lnが、0.034・f≦ΔWLT_Max_Ln≦0.15+2.0・ΔtL0−Lnの関係式を各層で満たす。また、この使用環境における第n層での最小のレンズチルト感度ΔWLT_Min_Lnが、−0.053・f≦ΔWLT_Min_Ln≦0.15+2.0・ΔtL0−Ln−0.068・fの関係式を各層で満たす。
かかる関係式を満たす本発明を適用した対物レンズ134Aは、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現し、良好な記録再生特性を実現する。この関係式やその作用については後述の〔9.〕等で詳細に説明するものとする。
さらに、この対物レンズ134Aは、環境中心状態における、各記録層毎のレンズチルト感度が以下の所定の範囲内となるように構成されている。環境中心状態としては、温度が35℃であり、光ビームの波長がλ=405nmである。この対物レンズ134Aは、具体的に、この環境中心状態における第n層のレンズチルト感度をΔWLT_Ln_TYPとしたとき、−0.01+2.0・ΔtL0−Ln≦ΔWLT_Ln_TYP≦0.04+2.0・ΔtL0−Lnの関係式を各層で満たす。
かかる関係式を満たす本発明を適用した対物レンズ134Aは、像高特性を考慮した上で適正なレンズチルト感度とされていることにより次の効果を奏する。すなわち、対物レンズ134Aは、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現するとともに、使用環境範囲におけるコマ収差量をより低減することを可能とする。これにより、対物レンズ34は、より良好な記録再生特性を実現する。
以上のように構成された光ピックアップ103は、この光検出器39により検出された戻り光により生成されたフォーカスサーボ信号、トラッキングサーボ信号に基づいて、対物レンズ134A、134Bを駆動変位する。そして、光ピックアップ103は、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを行う。光ピックアップ103は、対物レンズ134A,134Bが駆動変位されることにより、光ディスク2の信号記録面に対して合焦する合焦位置に移動され、光ビームが光ディスク2の記録トラック上に合焦されて、光ディスク2に対して情報信号の記録又は再生を行う。また、光ピックアップ103は、光ディスクの反り等により発生するコマ収差を対物レンズ134A等を対物レンズ駆動部49によりチルト方向に傾斜させることにより低減することができる。これにより、光ピックアップ103及びこれを用いた光ディスク装置1は、良好な記録再生特性を有する。
〔9.2対物構成とされた光ピックアップにおける高密度記録光ディスク専用の対物レンズの場合について〕
次に、上述した対物レンズ134AのようなBD等の第1の光ディスク(高密度記録光ディスク)専用の対物レンズを用いた場合の例について説明する。すなわち3波長互換光ピックアップにおける第1の光ディスクに対応する1波長専用の対物レンズ134Aと、他の2波長用の対物レンズ134Bとを設けた所謂2つの対物レンズを用いる場合のレンズチルト感度の範囲について説明する。尚、1波長専用の対物レンズであった場合にも、光ピックアップ自体が1波長専用であった場合には、ここで説明する制限を受けず、上述した〔7.〕と同様の範囲で用いれば良好な効果が得られる。
第1の光ディスク専用の対物レンズ134Aを用いた場合には、DVD、CD等の第2及び第3の光ディスク用の対物レンズ134B側のコマ量との兼ねあわせで、調整方法によっては式(22A)及び式(22B)の範囲でも十分な効果を発揮できなくなる。かかる2つの対物レンズを有する構成の場合には、式(22A)及び式(22B)の規定に加えて、次のような制限が加わることとなる。すなわち、かかる構成では、光ピックアップ103の固定部と可動部である2つの対物レンズ134A,134Bにおいて第1の光ディスク(BD)と第2及び第3の光ディスク(DVD/CD)とにコマ収差の方向の違いが生じる。具体的には、図13(c)に示すように、第1の光ディスクに対するコマ収差の方向は、例えばC2Bに示すような方向となり、第2及び第3の光ディスクに対するコマ収差の方向は、例えばC2DCに示すような方向となる。そして、図13(c)に示した状態から、光ディスク2又は光ピックアップ103の傾斜により、これらの相対的な角度調整を行うことにより一方のコマ収差をキャンセルすることができる。例えば、図13(c)中C2Hは、相対的な角度調整を行うことにより相殺するために発生させるコマ収差の方向を示す。そして、図13(d)は、図13(c)に示したC2B,C2DC方向のコマ収差に対してC2Hで示した方向のコマ収差を発生させることによりコマ収差が相殺された状態を示す図である。また、この図は、第2及び第3の光ディスクにおけるトータルのコマ収差が略0の状態となっていることを示す。そして、図13(d)中C2TBは、第1の光ディスクにおけるトータルのコマ収差の方向を示している。さらに、このC2TBは、光ピックアップ3の固定部と対物レンズにおけるC2B方向のコマ収差に対して、相対的な角度調整によるC2H方向のコマ収差がキャンセル効果を持たず、コマ収差が残存していることを示す。上述の図13(c)及び図13(d)に示すように、第1の光ディスク(BD)と第2及び第3の光ディスク(DVD/CD)とで生じたコマ方向の違いは、第2の光ディスクで調整をかけると第1の光ディスク側ではキャンセル効果を持たずに蓄積する。
ここで、図13(c)及び図13(d)に示したように、第2の光ディスク(DVD)に対して光ディスクと光ピックアップ3との相対的な角度調整によるコマ収差の調整を行った場合について、各層でのコマ収差許容量WMax’を検討する。この場合、上述したように、調整分のコマ収差量が第1の光ディスク(BD)側に対して付加されることになる。すなわち、調整分のコマ収差量をWBD−DVDとすると、L0層のコマ収差許容量WMax_L0’は、式(23A)で算出でき、L1層のコマ収差許容量WMax_L1’は、式(23B)で算出できる。
WMax_L0’=WMax_L0−WBD−DVD ・・・(23A)
WMax_L1’=WMax_L1−WBD−DVD ・・・(23B)
そして、WBD−DVD=WBD−CD=0.015λrms程度であるため、この式(23A)及び式(23B)と、上述の式(8A)及び(8B)とから次式(24A)及び次式(24B)の関係が算出される。
WMax_L0’=0.022 ・・・(24A)
WMax_L1’=0.031 ・・・(24B)
また、上述の式(9A)及び式(9B)と同様の考え方を用いて式(24A)及び式(24B)から各層の最大レンズチルト感度量ΔWLT_Max_L0’、ΔWLT_Max_L1’は、次式(25A)及び次式(25B)のように算出される。
ΔWLT_Max_L0’=0.15 ・・・(25A)
ΔWLT_Max_L1’=0.21 ・・・(25B)
このように、3波長互換光ピックアップにおける第1の光ディスク専用の対物レンズであって、第2の光ディスク(DVD)側の対物レンズでの調整を行う場合において、上述の式(25A)及び式(25B)で規定される上限値を満足する必要がある。また、この場合でも上述の式(11)〜式(12)で規定したのと同様に、式(10)による制約を受けることとなる。
すなわち、式(25A)及び式(25B)で規定した各層の最大レンズチルト感度は、レンズチルト感度とカバー層厚さとの線形関係に基づいて、式(10)の関係による制限を受ける。これを上述の式(12)と同様に、一般的な多層化された光ディスクで検討すると、L0層を基準として、レンズチルト感度の最大値は、式(25C)のような関係で規定する必要がある。
ΔWLT_Max_Ln’≦ΔWLT_Max_Max_L0’=ΔWLT_Max_L0’+kLT−t・ΔtL0−Ln=0.15+2.0・ΔtL0−Ln ・・・(25C)
また、最大及び最小レンズチルト感度の下限等を決定する他の制約は、上述した〔6.対物レンズのレンズチルト感度の下限について〕で説明した内容と同一であり、式(13)〜式(21)を用いて説明したのと同様の関係が導き出される。
そして、3波長互換光ピックアップにおける第1の光ディスク専用の対物レンズの場合は、式(25C)と、上述の式(18)〜式(20)等で規定したのと同様の関係とから最大レンズチルト感度及び最小レンズチルト感度の最大値及び最小値を規定することができる。具体的には、式(25C)と上述の式(18)と同様の関係とに基づいて、最大レンズチルト感度について式(26A)の範囲を導き出すことができる。また、式(25C)と、上述の式(19)及び式(21)と同様の関係とに基づいて、最小レンズチルト感度について式(26B)の範囲を導き出すことができる。
0.034・f≦ΔWLT_Max_Ln≦0.15+2.0・ΔtL0−Ln ・・・(26A)
−0.053・f≦ΔWLT_Min_Ln≦0.15+2.0・ΔtL0−Ln−0.068・f ・・・(26B)
所謂2対物構成の光ピックアップに設けられる高密度記録光ディスク専用の対物レンズにおいて、上述の式(26A)及び式(26B)を満足する構成とすることにより、以下のような効果を奏する。すなわち、かかる構成は、2対物のうちいずれの対物レンズについて製造時の初期調整を行った場合にも、条件の厳しい高密度記録光ディスク専用の対物レンズ側のコマ収差を低減できる。すなわち、かかる構成は、条件の厳しい高密度記録光ディスク専用の対物レンズ側のタンジェンシャル方向の面ブレにより大きなコマ収差が発生し許容量を超えることによる各種信号劣化を防止できる。これにより、他の対物レンズについては、光ピックアップ製造時の初期調整により収差を十分に低減した状態で組み付けることを可能とし、従来型の対物レンズで第2及び第3の光ディスクに対して良好な記録再生を実現する。すなわち、かかる構成とされた高密度記録光ディスク専用の対物レンズは、温度変化等に応じて入射倍率が変動した場合にもコマ収差の補償を実現し、光ピックアップによる良好な記録再生特性を実現する。
本発明を適用した対物レンズ134A及びこれを用いた光ピックアップ103は、対物レンズをプラスチック製とすることにより、量産性や軽量化を向上させるとともに、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。そして、対物レンズ134A及び光ピックアップ103は、量産性や軽量化を実現するとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。
尚、3波長互換光ピックアップにおける第1の光ディスク専用の対物レンズの場合においても、図13(c)のC2Hで示した相対的な角度調整を第1の光ディスクにおけるコマ収差をキャンセルするように行うことも可能である。かかる第1の光ディスク専用の対物レンズを調整する場合には、第1の光ディスクにおけるコマ収差の制約が1対物構成の場合と同様となり、コマ収差の補償が実現できる。すなわち、いずれの対物レンズの調整を行う場合にも、第1の光ディスク専用の対物レンズが、上述の式(26A)及び式(26B)の規定を満たすように構成すれば、コマ収差の補償が実現できる。そして、この光ピックアップにおいて、上述したように、第1の光ディスク専用の対物レンズがかかる構成を満たすとともに、第2及び第3の光ディスク用の対物レンズを調整すれば、第2及び第3の光ディスクにコマ調整の影響を与えることを防止できる。
〔10.さらに最適なレンズチルト感度を得るための条件について〕
次に、さらに最適なレンズチルト感度を得るための条件として、レンズチルト感度の低減手法について説明する。この手法は、上述の3波長互換用の対物レンズ34についても、1波長専用の対物レンズ134Aについても適用可能であり、それぞれ後述の優れた効果を得ることが可能である。レンズチルト感度の上限等については上述で規定したが、以下では、さらに光学系全体のコマ収差を考慮することによって、光ピックアップを構成する対物レンズとしてさらに最適なレンズチルト感度について規定する。
一般的に、レンズチルト感度を変更すると、像高特性がこれに伴い変動することとなる。よって、上述のようにレンズチルト感度を低減させた場合には、像高特性がトレードオフとなって悪化するおそれがある。以下では、レンズチルト感度の範囲を、レンズチルト感度の低減と像高特性の変動の兼ね合いを考慮して決定するという手法を採用している。
像高感度ΔWIHは、レンズチルト感度ΔWLTとディスクチルト感度ΔWDTの和で表され、すなわち次式(27)で示すような関係を有する。
ΔWIH=ΔWLT+ΔWDT ・・・(27)
ディスクチルト感度は上述したように、カバー層厚さと開口数NAとによって規定されるため、フォーマットが決定されると対物レンズの仕様や設計によらず一定の値となる。これは次式(28A)に示すとおりであり、この式(28A)と式(27)から式(28B)の関係が導かれる。
ΔWDT=Const. ・・・(28A)
ΔWIH=ΔWLT+Const. ・・・(28B)
よって、レンズチルト感度を減少させるためには、像高を減少させねばならない。この点について図15を用いて説明する。図15(a)〜図15(c)に示すように、一般的なアプラナートな設計においては、レンズチルト感度とディスクチルト感度とが互いに相殺するようなレンズチルト感度が選択されている。すなわち、アプラナートな設計とは、像高感度は設計中心で0に設計されていることを示し、一般的なレンズでは、このような条件で形成されている。これにより、像高感度は、式(27)及び図15(a)に示すように、像高感度が0の状態とされている。ここで、図15(b)及び後述の図15(e)は、レンズチルト感度を示し、図15(c)及び図15(f)は、ディスクチルト感度を示す。そして、図15(a)は、図15(b)及び図15(c)を加算したものであり、図15(d)は、図15(e)及び図15(f)を加算したものであり、式(27)で説明したように像高感度を示す。図15(a)〜図15(f)中、横軸は、角度[deg]を示し、縦軸は、角度に対して発生する3次コマ収差(「COMA3」ともいう)を示す。この図15(a)〜図15(c)に対して、レンズチルト感度を図15(e)を変更した際には、像高特性が変動することとなる。これは、ディスクチルト感度が、フォーマットにより略決定され常に一定な値であるからである。そして、レンズチルト感度を減少させるため、像高の減少設計を行うと軸外入射する光線によってコマ収差が生じることを意味する。以上の図15に示すように、レンズチルト感度を変動させた場合は、像高特性が悪化するおそれがある。
ところで、像高は、発光点が光軸からずれた際のコマ収差量を示す。一般的には、コリメータレンズの取り付け誤差から像高ΔθIHが生じる。これはおおよそΔθIH=0.1deg程度である。チルト許容量として対物レンズ側はΔθLT=0.15deg傾くため、像高側へ感度を多く割り振るほうが有利であることがわかる。換言すると図15(b)にに示すように、正のレンズチルト感度を有する場合には、ディスクチルト感度と相殺しあうことにより像高感度を0に近いところに設定できる。これに対し、負のレンズチルト感度に設定した場合には、ディスクチルト感度と足し合わせることにより絶対値として大きな像高感度を有することになってしまうからである。
次に、像高とレンズチルトによって消耗される光学系のコマ収差量WComa_Totalは、式(29)の関係となる。
ここで、式(29)において二乗平均の関係式を採用したのは、量産を考慮した場合に各々のバラツキの問題を考慮したためであり、総量はさほど問題とはならないためである。(29)式で示されるWComa_Totalの最小値は、ΔWLTが次式(30)となるときに与えられる。この最小のWComa_Total付近のレンズチルト感度を採用することにより、レンズチルト感度による上述の利点と、使用上適正な範囲の像高特性とを得ることができる。
この式(30)において、実際の値であるΔθIH=0.1、ΔθLT=0.15を用いると式(31)が得られる。さらに、この式(31)に各層L0,L1毎のΔWDTを用いると、ΔWLT_L0は式(32A)により得られ、ΔWLT_L1は式(32B)により得られる。
ΔWLT=−0.31・ΔWDT ・・・(31)
ΔWLT_L0=0.033 ・・・(32A)
ΔWLT_L1=0.025 ・・・(32B)
この式(32A)及び式(32B)で得られた値付近を設計中心にすれば、全体としてコマ収差量を低減することができる。図16、図17にこのときのΔWLTとトータルコマ収差量の関係を示した。図16及び図17中横軸は、それぞれL0層、L1層のレンズチルト感度(ΔWLT)を示し、縦軸は、そのときの式(29)で算出されるWComa_Totalで示されるトータルコマ(TotalComa[λrms])を示す。その一方で、式(10)の関係が同様に成立するため、式(33A)及び式(33B)の関係も成立する必要がある。
ΔWLT_L0=ΔWLT_LCen−0.025 ・・・(33A)
ΔWLT_L1=ΔWLT_LCen+0.025 ・・・(33B)
そして、L0層、L1層で生じるトータルコマ収差の二乗平均(RMS)を示すWRMS_L0L1_Coma_Totalは、式(34)に示すとおりである。この式(34)と、上述の式(29)、式(33A)及び式(33B)との関係から、WRMS_L0L1_Coma_Totalと、ΔWLT_LCenとの関係をプロットした線分を図18に示す。
図18に示した結果によれば、ΔWLT_LCen=0.03としたときに、WRMS_L0L1_Coma_Totalの値が最小となり、すなわち、最もトータルの収差量が最小で適当となる。実際には、ΔθIHとΔθLTとのバラツキ量は、光ピックアップ製造時のアライメント手法によって前後するため、製造公差のバラツキとして最大及び最小のものと考慮する必要がある。ここで、製造時のアライメントとしては、ΔθIHが0.1〜0.15程度で、ΔθLTが0.1〜0.25程度を考慮すればよい。よって、最大となる条件としてMAX条件(ΔθIH=0.15, ΔθLT=0.1)を仮定すると図19に示すような関係となり、最小となる条件としてMIN条件(ΔθIH=0.1, ΔθLT=0.25)を仮定すると図20に示すような関係となる。尚、図18〜図20中横軸は、カバー層厚さ中心であるLcenにおけるレンズチルト感度(ΔWLT_LCen)を示し、縦軸は、そのときの式(29)等で算出されるL0層、L1層で生じるトータルコマ収差の二乗平均を示す。条件としては、図18がΔθIH=0.1、ΔθLT=0.15とした所謂誤差TYP条件の場合を示する。図19が、ΔθIH=0.15、ΔθLT=0.1とした誤差MAX条件の場合を示し、図20が、ΔθIH=0.1、ΔθLT=0.25とした誤差MIN条件の場合を示す。これらの図19,図20等から、カバー層厚さLCen、中心環境TYP条件のときのレンズチルト感度ΔWLT_LCen_TYPは、式(35)に示す関係となる。
0.015≦ΔWLT_LCen_TYP≦0.065 ・・・(35)
ここで、上述と同様にこの(35)式が成立するのは、NA>0.8、環境温度35℃、波長λ=405nm、カバー層厚さ0.0875mmのときである。ここで、符号が正側に偏っているのは、レンズチルトの負側ではレンズチルト感度の絶対値上昇に伴い像高感度の絶対値上昇を招くこととなり、不利な方向にしか働かないためである。式(35)を式(10)の制約によって変形すると、次式(36)が得られる。具体的に、式(10)と最大のkLT−t=2.0の関係を用いて、式(35)のカバー層厚さをLCenからL0へと変更する。この際に、ΔtLCen−L0=−0.0125である。変形すると、0.015+kLT−t・ΔtLCen−L0≦ΔWLT_L0_TYP≦0.065+kLT−t・ΔtLCen−L0である。これを変形すると、0.015−0.025≦ΔWLT_L0_TYP≦0.065−0.025の関係が得られる。さらに変形して、−0.01≦ΔWLT_L0_TYP≦0.04となる。さらにL0を基準に各層を定義すれば、やはり式(10)を本式に追加することとなり、次式(36)が得られることとなる。
−0.01+2.0・ΔtL0−Ln≦ΔWLT_Ln_TYP≦0.04+2.0・ΔtL0−Ln ・・・(36)
対物レンズにおいて、式(36)を満足することにより、ディスクチルト感度や像高感度を考慮した上で、光学系のコマ収差をより低減することを実現する。尚、かかる式(36)の関係は、上述のように所謂1対物構成の光ピックアップ3の対物レンズ34及び所謂2対物構成の光ピックアップ103の高密度記録光ディスク用対物レンズ134Aのいずれにも適用可能であり、ともに良好な上述の効果が得られる。
本発明を適用した対物レンズ34,134A及びこれを用いた光ピックアップ3,103は、上述の式(36)を満たす構成とすることにより、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現するのみならず、光ピックアップの光学系全体のコマ収差をより低減することを実現する。よって、さらに式(36)を満足する対物レンズ34、134A及びこれを備える光ピックアップ3、103は、量産性や軽量化を実現するとともに、収差をより低減することを実現して良好な記録再生特性を実現する。
〔11.3波長互換対物レンズにおける回折構造について〕
ここでは、3波長互換を実現する回折構造について説明するため、上述した光ピックアップ3を構成する対物レンズ34の一例として、図21に示す3波長互換を実現する回折部50が設けられた対物レンズ34Aについて詳細に説明する。尚、この回折部50は、対物レンズとは別体に設けられてもよく、すなわち、この対物レンズ34Aに換えて、図22に示すように、屈折機能のみを有する対物レンズ34Bと、回折部50を有する回折光学素子34Cとを設けるようにしてもよい。
図21に示す対物レンズ34Aは、その一方の面として例えば、入射側の面に複数の回折領域からなる回折部50が設けられている。対物レンズ34Aは、この回折部50により、複数の回折領域毎に通過する第1乃至第3の波長の光ビームのそれぞれを所定の回折次数となるように回折する。このように、回折部50は、所定の発散角を有する拡散状態又は収束状態の光ビームとして対物レンズ34Aに入射させるのと同様の状態とする。そして、回折部50は、この単一の対物レンズ34Aを用いて第1乃至第3の波長の光ビームをそれぞれに対応する3種類の光ディスクの信号記録面に球面収差を発生しないように適切に集光することを可能とする。すなわち、回折部50を有する対物レンズ34Aは、基準となる屈折力を発生させるレンズ面形状を基準として回折力を発生させる回折構造が形成されている。これにより、対物レンズ34Aは、3つの異なる波長の光ビームをそれぞれに対応する光ディスクの信号記録面に球面収差を発生しないように適切に集光する集光光学デバイスとして機能する。また、このように対物レンズ34Aは、屈折素子の機能と回折素子の機能を兼ね備えており、すなわち、レンズ曲面による屈折機能と、一方の面に設けられた回折部50による回折機能とを兼ね備えるものである。
ここで、回折部50の回折機能について概念的に説明するために、後述のように、回折部50が屈折力を有する対物レンズ34Bと別体の回折光学素子34Cに設けられていた場合(図22参照)を例に挙げて説明する。後述のように屈折機能のみを有する対物レンズ34Bとともに用いられ、回折部50を有する回折光学素子34Cは、例えば、各波長の光ビームに以下のような回折作用を与える。回折部50は、図23(a)に示すように、回折部50を通過した第1の波長の光ビームBB0を+1次回折光BB1となるように回折して対物レンズ34Bに入射させ、すなわち、所定の発散角を有する拡散状態の光ビームとして対物レンズ34Bに入射させる。これにより、回折部50は、この光ビームを第1の光ディスク11の信号記録面に適切に集光させることができる。回折部50は、図23(b)に示すように、回折部50を通過した第2の波長の光ビームBD0を−1次回折光BD1となるように回折して対物レンズ34Bに入射させ、すなわち、所定の発散角を有する収束状態の光ビームとして対物レンズ34Bに入射させる。これにより、回折部50は、この光ビームを第2の光ディスク12の信号記録面に適切に集光させることができる。回折部50は、図23(c)に示すように、回折部50を通過した第3の波長の光ビームBC0を−2次回折光BC1となるように回折して対物レンズ34Bに入射させ、すなわち、所定の発散角を有する収束状態の光ビームとして対物レンズ34Bに入射させる。これにより、回折部50は、この光ビームを第3の光ディスク13の信号記録面に適切に集光させることができる。回折部50及び回折光学素子34Cは、単一の対物レンズ34Bを用いて3種類の光ディスクの信号記録面に球面収差を発生しないように適切に集光することを可能とする。尚、ここでは、回折部50の複数の回折領域において、同じ波長の光ビームを同じ回折次数の回折光とする例について図23を用いて説明したが、これに限られるものではない。すなわち、本発明を適用した光ピックアップ3を構成する回折部50は、後述のように、各領域毎に各波長に対する回折次数を設定し、適切な開口制限を行うとともに球面収差を低減するように構成することを可能とする。以上では、説明のため回折部50を対物レンズと別体の光学素子に設けた場合を例に挙げて説明したが、ここで説明する対物レンズ34Aの一方の面に一体に設けた回折部50もその回折構造に応じた回折力を付与することで同様の機能を有する。すなわち、図21に示す対物レンズは、回折部50の回折力と、対物レンズ34Aの基準となるレンズ曲面による屈折力とにより、各波長の光ビームを対応する光ディスクの信号記録面に球面収差を発生しないように適切に集光することを可能とする。
上述及び以下の回折次数の記載において、入射した光ビームに対して、進行方向に進むにつれて光軸側に近接する方向に回折する回折次数を正の回折次数とし、進行方向に進むにつれて光軸から離間する方向に回折する回折次数を負の回折次数とする。換言すると、入射した光ビームに対して光軸方向に向かって回折する回折次数を正の回折次数とする。
具体的に、図21(a)及び図21(b)に示すように、対物レンズ34Aの入射側の面に設けられた回折部50は、最内周部に設けられ略円形状の第1の回折領域(以下、「内輪帯」ともいう。)51を有する。また、回折部50は、第1の回折領域51の外側に設けられ輪帯状の第2の回折領域(以下、「中輪帯」ともいう。)52を有する。また、回折部50は、第2の回折領域52の外側に設けられ輪帯状の第3の回折領域(以下、「外輪帯」ともいう。)53を有する。
内輪帯である第1の回折領域51は、輪帯状で且つ所定の深さを有する第1の回折構造が形成される。かかる第1の回折領域51は、通過する第1の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第1の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するように集光する回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第1の回折領域51は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。
また、第1の回折領域51は、第1の回折構造により、通過する第2の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第2の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するように集光する回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第1の回折領域51は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。
また、第1の回折領域51は、第1の回折構造により、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第1の回折領域51は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。
このように、第1の回折領域51は、上述の各波長の光ビームに対して上述の所定の回折次数の回折光が支配的となるのに適するような回折構造が形成されている。これにより第1の回折領域51は、第1の回折領域51を通過して所定の回折次数の回折光とされた各波長の光ビームが対物レンズ34Aによりそれぞれの光ディスクの信号記録面に集光される際の球面収差を補正して低減することを可能とする。尚、この第1の回折領域51及び後述で詳細に説明する第2及び第3の回折領域52,53において、各波長の光ビームに対して支配的となるように選択される所定の回折次数の回折光には、透過光、すなわち、0次光が含まれるものとして、上述及び後述する。
また、第1の回折構造並びに後述の第2及び第3の回折領域52,53に形成される回折構造は、輪帯状で、基準面に対して複数の段部等からなる凹凸形状とされた単位周期構造が輪帯の半径方向に連続的に形成された周期構造である。ここで、各回折構造は、単位周期構造のピッチが一定又は連続的に変化して設けられ、基準面に対する各段部の光軸方向の高さ及び1周期の幅に対する各段部の幅の割合が周期的とされて形成されている。また、上述の凹凸形状には、ブレーズ形状が含まれるものとして説明する。
例えば、各回折構造は、光軸を中心とした輪帯状で基準面に対してこの輪帯の断面形状が、所定の溝深さdで所定のステップ数の階段形状を1周期として、半径方向に連続して、所定の周期数で形成されている。また、各回折構造は、ブレーズからなる所定の形状の単位周期構造が、半径方向に連続して所定の周期数で形成されている。ここで、上述の回折構造における輪帯の断面形状とは、輪帯の半径方向を含む面、すなわち、輪帯の接線方向に直交する面における断面形状を意味する。また、この基準面は、対物レンズ34Aの屈折素子の機能として要求される入射側の面の面形状を意味するものとする。そして、各回折領域51,52,53には、実際には対物レンズ34Aの屈折素子の機能として要求される入射側の面の面形状を基準面として、この基準面に対して、回折機能を有する回折構造となる輪帯状で階段形状の面形状を合わせたような面形状が形成される。さらに、各回折構造において、溝深さ及びステップ数は、支配的となる回折次数、及び回折効率を考慮して決定されている。
中輪帯である第2の回折領域52は、輪帯状で且つ所定の深さを有し第1の回折構造とは異なる構造とされた第2の回折構造が形成される。かかる第2の回折領域52は、通過する第1の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第1の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第2の回折領域52は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。
また、第2の回折領域52は、第2の回折構造により、通過する第2の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第2の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第2の回折領域52は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。
また、第2の回折領域52は、第2の回折構造により、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数以外の回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第2の回折領域52は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。この点について換言すると、第2の回折領域52は、第2の回折構造により、フレア化の作用等を考慮した上で、所定の回折次数の回折光が支配的となるようにされている。すなわち第2の回折領域52は、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成しないような回折次数の回折光が支配的となるようにされている。ここでフレア化とは、この第3の波長の光ビームを例に説明すると、この波長におけるこの回折次数の光ビームを第3の光ディスクの信号記録面に焦点を結像させた状態からずらして、実質的に信号記録面に集光される光ビームの光量を低減させることをいう。このように、第2の回折領域52は、第2の回折構造により、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光の回折効率を十分に低減することができる。
このように、第2の回折領域52は、上述の各波長の光ビームに対して上述の所定の回折次数の回折光が支配的となるのに適するような回折構造が形成されている。これにより、第2の回折領域52は、第2の回折領域52を通過して所定の回折次数の回折光とされた第1及び第2の波長の光ビームが対物レンズ34Aによりそれぞれの光ディスクの信号記録面に集光される際の球面収差を補正して低減することを可能とする。
また、第2の回折領域52は、第1及び第2の波長の光ビームに対しては上述のように機能するとともに、第3の波長の光ビームについては、所定の機能を有する。すなわち、第2の回折領域52は、フレア化の影響等を考慮して、この第2の回折領域52を通過して対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に集光しない回折次数の回折光が支配的となるように構成されている。これにより、第2の回折領域52は、この第2の回折領域52を通過した第3の波長の光ビームが対物レンズ34Aに入射しても第3の光ディスクの信号記録面にはほとんど影響を与えることがない。換言すると、第2の回折領域52は、この第2の回折領域52を通過して対物レンズ34Aにより信号記録面に集光される第3の波長の光ビームの光量を大幅に低減して略ゼロとして、第3の波長の光ビームに対して開口制限を行うよう機能することができる。
ところで、上述した第1の回折領域51は、その領域を通過した第3の波長の光ビームが、NA=0.45程度で開口制限される光ビームと同様の状態で対物レンズ34Aに入射するような大きさに形成されている。また、この第1の回折領域51の外側に形成される第2の回折領域52は、この領域を通過した第3の波長の光ビームを、対物レンズ34Aを介して第3の光ディスク上に集光させない。このため、かかる構成とされた第1及び第2の回折領域51,52を備える回折部50は、第3の波長の光ビームに対して、NA=0.45程度に開口制限を行うように機能することとなる。ここでは、回折部50において、第3の波長の光ビームに対して開口数NAを0.45程度に開口制限を行うように構成したが、上述の構成により制限される開口数はこれに限られるものではない。
外輪帯である第3の回折領域53は、輪帯状で且つ所定の深さを有し第1及び第2の回折構造とは異なる構造とされた第3の回折構造が形成される。かかる第3の回折領域53は、通過する第1の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第1の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第3の回折領域53は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。
また、第3の回折領域53は、第3の回折構造により、通過する第2の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第2の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数以外の回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第3の回折領域53は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。この点について換言すると、第3の回折領域53は、第3の回折構造により、フレア化の作用等を考慮した上で、所定の回折次数の回折光が支配的となるようにされている。すなわち第3の回折領域53は、通過する第2の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第2の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成しないような回折次数の回折光が支配的となるようにされている。尚、第3の回折領域53は、第3の回折構造により、通過する第2の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第2の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光の回折効率を十分に低減することができる。
また、第3の回折領域53は、第3の回折構造により、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数以外の回折次数の回折光が支配的となるように回折光を発生させる。すなわち、第3の回折領域53は、当該回折次数が他の回折次数の回折光に対して最大の回折効率となるように発生させる。この点について換言すると、第3の回折領域53は、第3の回折構造により、後述のフレア化の作用等を考慮した上で、所定の回折次数の回折光が支配的となるようにされている。すなわち第3の回折領域53は、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成しないような回折次数の回折光が支配的となるようにされている。尚、第3の回折領域53は、第3の回折構造により、通過する第3の波長の光ビームの対物レンズ34Aを介して第3の光ディスクの信号記録面に適切なスポットを形成するよう集光する回折次数の回折光の回折効率を十分に低減することができる。
このように、第3の回折領域53は、上述の各波長の光ビームに対して上述の所定の回折次数の回折光が支配的となるのに適するような回折構造が形成されている。これにより、第3の回折領域53は、第3の回折領域53を通過して所定の回折次数の回折光とされた第1の波長の光ビームが対物レンズ34Aにより光ディスクの信号記録面に集光される際の球面収差を補正して低減することを可能とする。
また、第3の回折領域53は、第1の波長の光ビームに対しては上述のように機能するとともに、第2及び第3の波長の光ビームについては、所定の機能を有する。すなわち、第3の回折領域53は、フレア化の影響等を考慮して、この第3の回折領域53を通過して対物レンズ34Aを介して第2及び第3の光ディスクの信号記録面に集光しない回折次数の回折光が支配的となるように構成されている。これにより、第3の回折領域53は、この第3の回折領域53を通過した第2及び第3の波長の光ビームが対物レンズ34Aに入射しても第2及び第3の光ディスクの信号記録面にはほとんど影響を与えることがない。換言すると、第3の回折領域53は、この第3の回折領域53を通過して対物レンズ34Aにより信号記録面に集光される第2及び第3の波長の光ビームの光量を大幅に低減して略ゼロとして、第2の波長の光ビームに対して開口制限を行うよう機能することができる。尚、第3の回折領域53は、第3の波長の光ビームに対しては、上述の第2の回折領域52とともに、開口制限を行うよう機能することができる。
ところで、上述した第2の回折領域52は、その領域を通過した第2の波長の光ビームが、NA=0.6程度で開口制限される光ビームと同様の状態で対物レンズ34Aに入射するような大きさに形成されている。また、この第2の回折領域52の外側に形成される第3の回折領域53は、この領域を通過した第2の波長の光ビームを、対物レンズ34Aを介して光ディスク上に集光させない。このため、かかる構成とされた第2及び第3の回折領域52,53を備える回折部50は、第2の波長の光ビームに対して、NA=0.6程度に開口制限を行うように機能することとなる。ここでは、回折部50において、第2の波長の光ビームに対して開口数NAを0.6程度に開口制限を行うように構成したが、上述の構成により制限される開口数はこれに限られるものではない。
また、第3の回折領域53は、その領域を通過した第1の波長の光ビームが、NA=0.85程度で開口制限される光ビームと同様の状態で対物レンズ34Aに入射するような大きさに形成される。また、この第3の回折領域53の外側には回折構造が形成されていないため、この領域を透過した第1の波長の光ビームを、対物レンズ34Aを介して第1の光ディスク上に集光させない。このため、かかる構成とされた第3の回折領域53を備える回折部50は、第1の波長の光ビームに対して、NA=0.85程度の開口制限を行うように機能することとなる。尚、第3の回折領域53を通過する第1の波長の光ビームは、例えば1次、4次の回折次数のものが支配的となるようにされている。そのため、第3の回折領域53の外側の領域を透過した0次光は、対物レンズ34Aを介して第1の光ディスク上に集光しない場合がほとんどである。ここで、この0次光が、対物レンズ34Aを介して第1の光ディスク上に集光することになる場合には、第3の回折領域53の外側の領域に、通過する光ビームを遮蔽する遮蔽部を設けることにより、開口制限を行うように構成してもよい。また、遮蔽部ではなく、通過する光ビームを対物レンズ34Aを介して第1の光ディスク上に集光する回折次数以外の回折次数の光ビームが支配的となる回折構造を有する回折領域を設けることにより、開口制限を行うように構成してもよい。ここでは、回折部50において、第1の波長の光ビームに対して開口数NAを0.85程度に開口制限を行うように構成したが、上述の構成により制限される開口数はこれに限られるものではない。
また、以上で説明した第1乃至第3の回折領域51,52,53の変形例としては、第3の回折領域に換えて所謂非球面連続面とされた第3の領域を有するように構成してもよい。
また、回折部50を構成する第1及び第2の回折領域51,52において選択され支配的とされる回折次数の優れた組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせがある。内輪帯である第1の回折領域51において、第1の波長の光ビームの支配的となる回折次数をk1iとし、第2の波長の光ビームの支配的となる回折次数をk2iとし、第3の波長の光ビームの支配的となる回折次数をk3iとする。支配的となる回折次数とは、回折効率が最大となる場合をいうものとする。この場合、(k1i,k2i,k3i)が、(+1,−1,−2)、(−1,+1,+2)、(+1,−2,−3)、(−1、+2、+3)、(+2,−1,−2)、(−2,+1,+2)、(+2,−2,−3)、(−2、+2,+3)、(+1,+1,+1)、(0,−1,−2)、(0,−2,−3)の組み合わせが挙げられる。中輪帯である第2の回折領域52において、第1の波長の光ビームの支配的となる回折次数をk1mとし、第2の波長の光ビームの支配的となる回折次数をk2mとする。この場合、(k1m,k2m)が、(+1,−1)、(−1,+1)、(+1,−2)、(−1、+2)、(+2,−1)、(−2,+1)、(+1,+1)、(+3,+2)、(−1,−1)、(0,+2)、(0,−2)、(0,+1)、(0,−1)、(+1,0)、(−1,0)、(−3,−2)、(+2,+1)、(−2,−1)、(+1,+1)、(−1,−1)の組み合わせが挙げられる。
以上のような構成とされた第1乃至第3の回折領域51,52,53を有する回折部50は、以下のような作用を奏する。回折部50は、第1の回折領域51を通過する第1乃至第3の波長の光ビームを、共通の対物レンズ34Aの屈折力により対応する種類の光ディスクの信号記録面に球面収差が発生しない発散角の状態となるような回折力で回折させる。それとともに、回折部50は、対物レンズ34Aの屈折力により対応する光ディスクの信号記録面に適切なスポットを集光させることができる。また、回折部50は、第2の回折領域52を通過する第1及び第2の波長の光ビームを、共通の対物レンズ34Aの屈折力により対応する種類の光ディスクの信号記録面に球面収差が発生しない発散角の状態となるような回折力で回折させる。それとともに、回折部50は、対物レンズ34Aの屈折力により対応する光ディスクの信号記録面に適切なスポットを集光させることができる。さらに、回折部50は、第3の回折領域53を通過する第1の波長の光ビームを対物レンズ34Aの屈折力により対応する種類の光ディスクの信号記録面に球面収差が発生しない発散角の状態となるような回折力で回折させる。それとともに、回折部50は、対物レンズ34Aの屈折力により対応する光ディスクの信号記録面に適切なスポットを集光させることができる。ここで、「球面収差が発生しない発散角の状態」には、発散状態、収束状態及び平行光の状態も含み、球面収差がレンズ曲面の屈折力により補正される状態を意味するものとする。
また、回折部50は、第2及び第3の回折領域52,53を第3の波長の光ビームが通過することにより最大の回折効率及び所定の回折効率を有して発生する回折次数の回折光をフレア化して結像位置を信号記録面からずらす。これにより、回折部50は、その回折次数の回折光の回折効率を低減する構成により、第3の波長の光ビームについて、第1の回折領域51を通過した部分の光ビームのみを対物レンズ34Aにより光ディスクの信号記録面に集光させる。それとともに、回折部50は、所定のNAとなるような大きさに形成されていることにより、第3の波長の光ビームについて例えば0.45程度のNAとなるように開口制限を行うことを可能とする。
また、回折部50は、第3の回折領域53を第2の波長の光ビームが通過することにより最大の回折効率及び所定の回折効率を有して発生する回折次数の回折光をフレア化することによりその回折次数の回折光の回折効率を低減する。これにより、回折部50は、第2の波長の光ビームについて、第1及び第2の回折領域51,52を通過した部分の光ビームのみを対物レンズ34Aにより光ディスクの信号記録面に集光させる。それとともに、回折部50は、所定のNAとなるような大きさに形成されていることにより、第2の波長の光ビームについて例えば0.60程度のNAとなるように開口制限を行うことを可能とする。
また、回折部50は、第3の回折領域53の外側の領域を通過する第1の波長の光ビームを対物レンズ34Aにより対応する種類の光ディスクの信号記録面に適切に集光しないような状態又は遮蔽する。これにより、回折部50は、第1の波長の光ビームについて、第1乃至第3の回折領域51,52,53を通過した部分の光ビームのみを対物レンズ34Aにより光ディスクの信号記録面に集光させる。それとともに、回折部50は、所定のNAとなるような大きさに形成されていることにより、第1の波長の光ビームについて例えば0.85程度のNAとなるように開口制限を行うことを可能とする。
このように、上述のような光路上に配置される対物レンズ34Aの一面に設けられた回折部50は、3波長互換を実現するのみならず、それぞれに適応した開口数で開口制限した状態で共通の対物レンズ34Aに各波長の光ビームを入射させることを可能とする。すなわち、回折部50は、3波長に対応した収差補正の機能を有するのみならず、開口制限手段としての機能も有する。
また、上述では、図22(a)に示すように、対物レンズ34Aの入射側の面に、3つの回折領域51,52,53からなる回折部50を設けるように構成したが、これに限られるものではなく、対物レンズ34Aの出射側の面に設けてもよい。さらに、第1乃至第3の回折領域51,52,53を有する回折部50は、対物レンズとは別体に設けた光学素子の入射側又は出射側の面に一体に設けるように構成してもよい。例えば、図22(b)に示すように、上述した対物レンズ34Aから回折部50を除いたようなレンズ曲面のみを有する対物レンズ34Bと、回折部50の一方の面に設けられ、3波長に共通の光路上に配置される回折光学素子34Cとを設けるようにしてもよい。すなわち、かかる対物レンズ34Bと回折光学素子34Cとが、集光光学デバイスを構成するようにしてもよい。上述の図22(a)に示す対物レンズ34Aにおいては、対物レンズの屈折力の機能として要求される入射側の面の面形状を基準として、これに回折力の機能として要求される回折構造の面形状を合わせたような面形状が形成されていた。これに対し、図22(b)に示すような別体の回折光学素子34Cを設ける場合には、対物レンズ34B自体が、屈折力の機能として要求される面形状とされる。それとともに、回折光学素子34Cの一方の面に回折力の機能として要求される回折構造の面形状が形成されることとなる。図22(b)に示すような対物レンズ34B及び回折光学素子34Cは、集光光学デバイスとして上述した対物レンズ34Aと同様に機能して、光ピックアップに用いられることにより収差等を低減して光ピックアップの3波長互換を実現する。それとともに、かかる集光光学デバイスは、部品点数を削減して、構成の簡素化及び小型化を可能とし、高生産性、低コスト化を実現するという効果を発揮する。このように、かかる集光光学デバイスは、対物レンズ34Aに一体に設ける場合に比べて回折構造を複雑にすることが可能である。その一方で、上述で述べた図22(a)に示す構成は、1つの素子(対物レンズ34A)のみで、3つの異なる波長の光ビームをそれぞれに対応する光ディスクの信号記録面に球面収差を発生しないように適切に集光する集光光学デバイスとして機能する。かかる集光光学デバイスは、回折部50を対物レンズ34Aに一体に設けることにより、さらなる光学部品の削減、及び構成の小型化を可能とする。尚、上述した回折部50は、3波長互換のための収差補正用の回折構造を一面に設けるだけで十分であるので、上述のような屈折素子としての対物レンズ34Aに一体に形成することを可能とする。これにより、回折部50は、プラスチックレンズに回折面を直接形成する構成を可能とし、回折部50を一体化した対物レンズ34Aをプラスチック材料により構成することでより高生産性、低コスト化を実現する。
〔12.実施例1(3波長互換対物の例)について〕
まず、実施例1としては、1対物構成とされた光ピックアップに用いられる3波長互換用の対物レンズの例を挙げるものとする。この実施例1の3波長互換用の対物レンズにおける設計条件は、焦点距離fを1.92mmとし、内輪帯(第1の回折領域51)における回折次数の組み合わせを(k1i,k2i,k3i)=(0,−2,−3)とした。また、中輪帯(第2の回折領域52)における回折次数の組み合わせを(k1m,k2m)=(0,−1)とした。かかる条件を用いることによって、設計中心カバー層厚さLCen=0.0875mm、波長λ=405.7nm、設計温度35℃においてアプラナート設計を満たしつつ、レンズチルト感度を0.25以下に抑えることができる(図25参照)。この設計パラメータの詳細を表1に示す。
ここで、表1中の対物レンズの非球面係数、光路差関数係数等について説明する。対物レンズの非球面形状は、次式(37)で示すような形状とされている。この式(37)中で、hは、光軸からの高さ、すなわち半径方向の位置を示し、zは、hの位置における光軸に平行するサグ量を示し、すなわち、hの位置における面頂点の接平面からの距離を示す。このzで示すサグ量は、回折構造がない場合においては、レンズの面形状を示すものであり、回折構造が設けられる場合においては、回折構造が形成される基準面を示すものである。また、cは、曲率、すなわち曲率半径の逆数を示し、κは円錐係数(非球面係数)を、A4、A6、A8、A10・・・は、非球面係数を示す。
また、式(37)中Δzは、内輪帯の基準面を示す2−1面を基準に取った場合の2−1面からの軸上面間距離を示す。すなわち、内輪帯基準面を2−1面とし、中輪帯基準面を2−2面とし、外輪帯基準面を2−3面とする。そうしたときに、内輪帯基準面2−1面の頂点位置を原点とし、中輪帯基準面2−2面と、外輪帯基準面2−3面とがこの原点からΔzだけオフセットして面が形成されていることを示す。例えば、2−2面についての軸上面間距離Δzは、図24のように示されることとなる。尚、図24中、Su2−1は、内輪帯51の基準面である2−1面を示し、Su2−2は、中輪帯52の基準面である2−2面を示す。また、横軸は、光軸方向のサグ量zを示し、hは、半径方向の位置を示し、z(h)は、式(37)中のzである半径方向の位置毎のサグ量を示す。また、図24において、実線部は、Su2−1及びSu2−2により形成される基準面を示し、破線部は、Su2−1,Su2−2を延長した部分を示す。かかる図24において、Δzは、2−1面の頂点と、2−2面の頂点との軸上の距離を示すものである。尚、ここでは、2−1面と2−2面との交点が内輪帯及び中輪帯の領域境界となっているが、これに限られるものではなく、収差や回折効率を考慮して各光ディスクの信号記録面に適切に集光できるような状態になるように形成される。換言すると、内輪帯と中輪帯との2境界の閾値は、半径方向の位置を示すhにより決定されるものである。そして、上述のように2−1面と2−2面とが、hで決定される境界部分で交差しないような場合は、微少の段差を有して内輪帯及び中輪帯の基準面が形成されることとなる。また、上述は内輪帯と中輪帯との関係について説明したが、外輪帯と内輪帯及び中輪帯との関係も上述の場合と同様であり、また、外輪帯におけるΔzも、内輪帯の面頂点との関係で上述と同様に決定されている。
さらに、図21で説明した内輪帯である第1の回折領域51や、中輪帯である第2の回折領域52や、外輪帯である第3の回折領域53において、非球面基準面に対して付与された回折構造による位相差Φは、次式(38)によって表される。式(38)は、位相差関数係数Ciを用いたものであり、式(38)中kは、各波長λ1,λ2,λ3において選択される回折次数を示すものであり、具体的には、k1,k2,k3を示し、hは、半径方向の位置を示し、λ0は、製造波長を示すものである。尚、ここで説明したΦは、非球面レンズ形状上に極めて薄い非常に高屈折率の膜があると仮定し、その際の位相差量を定義したものである。実際のレンズ回折面の形成においては、レンズ面に回折構造となる凹凸形状を形成すると光軸に対して斜めに進む光路では光路差が変動するため、微少な補正が行われて形成されることとなる。
また、表1においては、メディア種類として、BD等の第1の光ディスク、DVD等の第2の光ディスク、CD等の第3の光ディスクを示した。また、各波長、各カバー層厚さ、焦点距離f、NA及び入射倍率を表中に示す。また、面番号は、各面の番号を示すものであり、すなわち、0面は、光源の位置を示すものであり、無限(∞)である場合は、平行光入射であることを示すとともに、無限でない場合は、僅かに斜め方向から入射することを示す。また、1面は、絞り面を示す、この絞り径は、最大開口である第1の光ディスク(BD等)のものであり、φ3.26mm程度である。ここで、第2及び第3の光ディスクに対しては、上述のような中輪帯や外輪帯による開口制限機能による所謂セルフアパーチャとして機能するため、表中の数値程度まで、開口制限機能により制限されることを示している。また、2−1面、2−2面、2−3面は、それぞれ内輪帯、中輪帯、外輪帯を示すものであり、実際のレンズにおいては1面であるが、上述した図24で説明したように構成されている。3面は、対物レンズの出射面を示す。4面は、対物レンズから光ディスク表面までの距離を示し、所謂作動距離(WD,ワーキングディスタンス)を示すものである。また、5面は、光ディスクを示しており、それぞれ波長に応じた屈折率を有するとともに、メディア毎に異なるカバー層厚さを有することを示している。各面における屈折率nλ1、nλ2、nλ3は、その面より後方の屈折率を示し、各面における面間隔dλ1、dλ2、dλ3は、その面から次の面までの距離を示している。また、ri(i=2−1,2−2,2−3,3)は、それぞれの面の曲率半径を示している。また、BD等の第1の光ディスクの面間隔dλ1、第1の波長に対する屈折率nλ1、DVD等の第2の光ディスクの面間隔dλ2、第2の波長に対する屈折率nλ2、CD等の第3の光ディスクの面間隔dλ3、第3の波長に対する屈折率nλ3を示す。さらに、表中には、上述したhを領域(mm)として示すとともに、非球面係数k、A4、A6、A8、・・・、回折次数、製造波長(nm)、位相差関数係数Cn、「2−1面との軸上面間距離」を示す。また、回折次数については、例えば、2−1面における「0/−2/−3」は、内輪帯において第1の波長について0次、第2の波長について−2次、第3の波長について−3次が上述のように支配的となるように選択していることを示している。また、2−2面における「0/−1」は、中輪帯において第1の波長について0次、第2の波長について−1次が上述のように支配的となるように選択していることを示している。また、2−3面における「1」は、外輪帯において第1の波長について1次が上述のように支配的となるように選択していることを示している。2−1面との軸上面間距離は、上述の(37)式におけるΔzを示すものであり、2−1面では、0とするとともに、3面では、レンズの光軸上での厚みを示すものとなっている。
以上のような設計条件とされた対物レンズの入射倍率に対するレンズチルト感度の変化を図25に示す。上述のように、温度変化や波長変化によって入射倍率が変動することとなる。ここで、図25及び後述の図26〜図28中において、横軸が入射倍率を示し、縦軸がその入射倍率のときのレンズチルト感度を示すものとする。図25等のL6L0、L7L0、L8L0、L9L0は、カバー層厚さが0.100μmであるL0層に対するレンズチルト感度を示し、L6L1、L7L1、L8L1、L9L1は、カバー層厚さが0.075μmであるL1層に対するレンズチルト感度を示す。また、L6LCen、L7LCen、L8LCen、L9LCenは、カバー層厚さが0.0875μmであるカバー層の設計中心であるLCen層に対するレンズチルト感度を示す。図25等において左下側の領域が高温・長波長・カバー層厚さ大の条件時におけるプロットを示し、右上側の領域が低温・短波長・カバー層厚さ小の条件時におけるプロットを示している。また、図25等のR6L0、R7L0、R8L0、R9L0は、L0層に対するレンズチルト感度の許容範囲を示すものであり、R6L1、R7L1、R8L1、R9L1は、L1層に対するレンズチルト感度の許容範囲を示すものである。この図25に示すレンズチルト感度の許容範囲R6L0、R6L1は、上述の式(22A)及び式(22B)に基づいてされている。また、後述の図26〜図28に示すR7L0、R8L0、R9L0、R7L1、R8L1、R9L1は、上述の式(26A)及び式(26B)に基づいて示されている。図25における、温度範囲は0℃〜70℃で、波長範囲は400nm〜410nmである。また、図25等にプロットされたP6L0、P7L0、P8L0、P9L0は、L0層での環境中心状態(35℃、405nm)における入射倍率及びレンズチルト感度を示すものである。P6L1、P7L1、P8L1、P9L1は、L1層での環境中心状態における入射倍率及びレンズチルト感度を示すものである。P6LCen、P7LCen、P8LCen、P9LCenは、LCen層での環境中心状態における入射倍率及びレンズチルト感度を示すものである。また、図25等のL6L0、L7L0、L8L0、L9L0、L6L1、L7L1、L8L1、L9L1、L6LCen、L7LCen、L8LCen、L9LCenにおけるその他のプロットは、各層でのレンズチルト感度の最小値及び最大値を示す。
図25によれば、L0層、L1層におけるレンズチルト感度の最大及び最小を示すプロットが、上述の式(22A)及び式(22B)によって定まる各層における許容範囲R6L0、R6L1内に含まれていることが示されている。
この図25において、全体の設計中心であるLCenの設計中心では入射倍率0、レンズチルト感度ΔWLT_LCen=0.1[rms/deg]であり、LCenのディスクチルト感度ΔWDT_LCenが−0.095[rms/deg]であることを勘案すれば、上述の式(27)より、次式(39)の関係が得られる。尚、このディスクチルト感度ΔWDT_LCen(=−0.095[rms/deg])は、開口数NA0.85、波長λ405nm、カバー層厚さ0.0875μmの条件におけるものである。
ΔWIH=0.05≒0 ・・・(39)
式(39)によれば、この対物レンズは、ほぼアプラナートな設計となっている。上述の〔10.〕で説明したように、さらに、式(36)を満たす範囲でアプラナートな設計から外しレンズチルト感度を低下させるという手法を採用することで、さらに良い結果を得ることも可能である。
本実施例1の対物レンズは、上述したように、3波長互換を実現させるとともに、式(22A)及び式(22B)を満たすものである。よって、本実施例1の対物レンズは、上述したようにこのレンズチルト範囲により、良好なコマ収差補償を実現する。尚、3波長互換対物レンズにおいては、上述の式(26A)及び式(26B)で示す範囲より余裕のある式(22A)及び式(22B)の範囲でレンズチルト感度を設定すればよいため、焦点距離をf=2.2mm程度まで大きくできる。これにより、3波長互換対物レンズにおいて式(22A)及び式(22B)を満足させることで、ワーキングディスタンスを大きくすることも可能とする。さらにまた、かかる構成により回折構造とレンズの成形性を向上させることができる。
〔13.実施例2(2対物構成の例)について〕
次に、実施例2として、2対物構成とされた光ピックアップに用いられる第1の光ディスク(BD等)専用の対物レンズのコマ収差を適正なものとする例を挙げるものとする。実施例2のような対物レンズにおいては、上述したように、種々の製造誤差による製品バラツキを考える上で、光学系全体としての収差を低くする必要がある。この条件を満たすためには、設計中心におけるレンズチルト感度が上述の式(26A)及び式(26B)で示したような範囲とする必要がある。
この実施例2の第1の光ディスク専用の対物レンズにおける設計条件は、焦点距離fを、1.41mmとし、プラスチック製で回折構造を設けない構成とした。この実施例2の設計パラメータの詳細を表2に示す。尚、表2及び後述の表3〜表4中の各パラメータについての説明は、回折構造を有さないことと1波長専用であることを除き対応する表1の各パラメータの説明と同様であるので、省略する。
以上のような設計条件とされた対物レンズの入射倍率に対するレンズチルト感度の変化を図26に示す。図26では、プロットP7LCenで示した環境中心状態(35℃、405nm)では、入射倍率が0であり、そのときのレンズチルト感度が概略ΔWLT_Cen=0.1[λrms/deg]であって、ほぼアプラナートな設計となっている。
図26によれば、L0層、L1層におけるレンズチルト感度の最大及び最小を示すプロットが、上述の式(26A)及び式(26B)によって定まる各層における許容範囲R7L0、R7L1内に含まれていることが示されている。
本実施例2の対物レンズは、上述の式(26A)及び式(26B)を満たす対物レンズであり、すなわち、L0層,L1層の最大・最小値が各々の要求範囲に納まっている。よって、本実施例2の対物レンズは、所謂2対物構成とされた光ピックアップに対して、十分なレンズチルトトレランスを持ったレンズとなることが確認できる。そして、本実施例2の対物レンズは、上述したようにこのレンズチルト範囲により、良好なコマ収差補償を実現する。
〔14.実施例3(2対物構成の変形例1)について〕
次に、実施例3として、実施例2の変形例として1波長専用の対物レンズのコマ収差をより適正なものとする例を挙げるものとする。実施例3においては、実施例2と同様に式(26A)及び式(26B)を満足させるとともに、式(36)を満たすように構成した。
この実施例3における設計条件は、焦点距離fを、1.41mmとし、プラスチック製で回折構造を設けない構成とし、さらに、表3に示すような設計パラメータとした。以上のような設計条件とされた対物レンズの入射倍率に対するレンズチルト感度の変化を図27に示す。
ここで、表3及び図27について、上述の表2及び図26で説明した実施例2との違いについて説明する。尚、図26、図27及び後述の図28において、R7L0TYP、R8L0TYP、R9L0TYPは、L0層における環境中心状態のレンズチルト感度の式(36)に基づいて定められる所定範囲を示す。また、R7L1TYP、R8L1TYP、R9L1TYPは、L1層における環境中心状態のレンズチルト感度の式(36)に基づいて定められる所定範囲を示す。実施例3では、表3の設計中心の欄に記載のように、表2に示す実施例2に対して、設計中心における設計温度を5℃に変更している。そして、設計波長(λ=405.7μm)、設計カバー層厚さ(LCen=0.0875mm)については同様のものを用いている。
これにより、図27に示すように、設計直線自体は図26の場合とほとんど変わらず、取り得るレンズチルト感度の範囲だけを変更できることが示されている。表3の場合には、設計中心に選んだ温度(5℃)においてアプラナートな設計が行われた構成とされるため、この設計中心におけるレンズチルト感度がΔWLT_Cen=0.1となる。この設計中心(5℃、0.0875μm)における入射倍率及びレンズチルト感度を図27に、プロットP8DCとして示す。尚、上述の実施例2の図26においては、設計中心のプロットがLCen層の環境中心を示すプロットP7Lcenと略等しい位置となっている。この実施例3の図27においては、設計中心のプロットP8DCが、LCen層の環境中心を示すプロットP8LCenと異なる位置となっている。
換言すると、本実施例3においては、実施例2に比較してさらにピックアップの性能を良好とするために、式(36)の範囲とすることを目標としたものである。具体的に、図26の例から図27の例に構成を変形するもっとも容易な構成上の思想としては、低温側を設計中心へ位置するようにさせることである。
実施例3では、設計温度は環境中心温度から乖離しているため、図27に示すように、入射倍率0を中心とするとレンズチルト感度上端と下端は非対称的になる。また、光学系全体での収差が低減される。
図27によれば、L0層及びL1層の環境中心状態(35℃、405nm)のときのレンズチルト感度ΔWLT_L0_TYP、ΔWLT_L1_TYPを示す、P8L0、P8L1が、上述の式(36)によって定まる所定範囲内であることが示されている。すなわち、本実施例3では、P8L0、P8L1が、R8L0TYP、R8L1TYP内に含まれていることが示されており、これにより良好なコマ収差補償を実現することが示されている。この点において、図26に示す実施例2との違いが示されている。
また、図27によれば、図26と同様に、L0層、L1層におけるレンズチルト感度の最大及び最小を示すプロットが、上述の式(26A)及び式(26B)によって定まる各層における許容範囲R8L0、R8L1内に含まれていることが示されている。
本実施例3の対物レンズは、上述の式(26A)及び式(26B)を満たす対物レンズであり、すなわち、L0層,L1層の最大・最小値が各々の要求範囲に納まっている。よって、本実施例3の対物レンズは、所謂2対物構成とされた光ピックアップに対して、十分なレンズチルトトレランスを持ったレンズとなることが確認できる。さらに、本実施例3の対物レンズは、上述の式(36)を満たす対物レンズであり、すなわち、L0層及びL1層の環境中心状態のレンズチルト感度が各々要求範囲に収まっている。よって、本実施例3の対物レンズは、実施例2の対物レンズ比べてよりコマ収差低減を実現するレンズであることが確認できる。そして、本実施例2の対物レンズは、上述したようにこのレンズチルト範囲を満たす構成を備えるので、より良好なコマ収差補償を実現する。
〔15.実施例4(2対物構成の変形例2)について〕
次に、実施例4として、実施例2,3の変形例として1波長専用の対物レンズのコマ収差を実施例2より適正なものとするとともにより実使用上の利点を実施例3より高める例を挙げるものとする。実施例4においては、実施例3と同様に式(26A)及び式(26B)を満足させるとともに、式(36)を満たすように構成した。
この実施例4における設計条件は、焦点距離fを、1.41mmとし、プラスチック製で回折構造を設けない構成とし、さらに、表4に示すような設計パラメータとした。以上のような設計条件とされた対物レンズの入射倍率に対するレンズチルト感度の変化を図28に示す。
ここで、表4及び図28について、上述の表2及び図26で説明した実施例2と、上述の表3及び図27で説明した実施例3との違いについて説明する。実施例4では、表4の設計中心の欄に記載のように、表3に示す実施例3に対して、設計中心における入射倍率を0.003に変更している。そして、設計温度(5℃)、設計波長(λ=405.7μm)、設計カバー層厚さ(LCen=0.0875mm)については同様のものを用いている。
これにより、図28に示すように、レンズチルト感度の範囲としては図27の場合とほとんど変わらず、使用する入射倍率の範囲だけを変更できることが示されている。表4の場合には、入射倍率0.003、設計温度5℃、設計カバー層厚さ0.0875(=LCen)において、対物レンズの最適化設計を行いアプラナートとされた構成とされるため、この設計中心におけるレンズチルト感度がΔWLT_Cen=0.1となる。この設計中心(5℃、0.0875μm)における入射倍率0.003及びレンズチルト感度を図28に、プロットP9DCとして示す。
換言すると、本実施例4においては、図27に示される実施例3では入射倍率が0に対してアンバランスであることと比較して、図28に示すように入射倍率を0に対してバランス良く設定することを可能とする。すなわち、本実施例4及び図28の対物レンズでは、入射倍率を温度変動に対してバランスさせた構成を可能とし、入射倍率がアンバランスなことに起因して視野振り時のコマ収差特性を悪化させる可能性を排除することを実現する。具体的に、図27の例から図28の例に構成を変形する構成上の思想としては、入射倍率に対するレンズチルト感度を示す各直線群L8L0,L8LCen,L8L1を右方向にオフセットさせるようにすることであり、図28はこれを達成している。より具体的には、図27では設計中心倍率を0としたが、このときの温度中心35℃の入射倍率が−0.003程度であったので、これを目標の0とするためには、設計中心倍率をM=0.003程度としたものである。そして、かかる場合の設計温度を図27の場合と同様に5℃とすれば、上述の実施例3の場合と同様にアプラナート設計ができる。表4及び図28によれば、多少、設計中心ターでのレンズチルト感度がシフトしているものの、略要求範囲の構成を実現し、すなわちレンズチルト感度の減少を実現できる。
実施例4では、設計温度は環境中心温度から乖離しているため、図28に示すようにレンズチルト感度上端と下端は非対称的になる。また、光学系全体での収差が低減されるとともに、この温度における入射倍率0が達成できている。よって、使用温度範囲における入射倍率が正負にバランスがとれている。
図28によれば、L0層及びL1層の環境中心状態(35℃、405nm)のときのレンズチルト感度ΔWLT_L0_TYP、ΔWLT_L1_TYPを示す、P9L0、P9L1が、上述の式(36)によって定まる所定範囲R9L0TYP、R9L1TYP内に含まれていることが示されている。
また、図28によれば、図26、図27と同様に、L0層、L1層におけるレンズチルト感度の最大及び最小を示すプロットが、上述の式(26A)及び式(26B)によって定まる各層における許容範囲R9L0、R9L1内に含まれていることが示されている。
本実施例4の対物レンズは、上述の式(26A)及び式(26B)を満たす対物レンズであり、すなわち、L0層,L1層の最大・最小値が各々の要求範囲に納まっている。よって、本実施例4の対物レンズは、所謂2対物構成とされた光ピックアップに対して、十分なレンズチルトトレランスを持ったレンズとなることが確認できる。さらに、本実施例4の対物レンズは、上述の式(36)を満たす対物レンズであり、すなわち、L0層及びL1層の環境中心状態のレンズチルト感度が各々要求範囲に収まっている。よって、本実施例4の対物レンズは、実施例2の対物レンズ比べてよりコマ収差低減を実現するレンズであることが確認できる。そして、本実施例4の対物レンズは、上述したようにこのレンズチルト範囲により、より良好なコマ収差補償を実現する。さらに、本実施例4の対物レンズは、実施例3の対物レンズに比べて、使用する入射倍率が正負にバランス良く設定されているため、視野振り時のコマ収差特性も良好である。
尚、実施例3及び実施例4において説明した、式(36)を満足させる構成、及び使用入射倍率を使用温度を考慮した上で正負にバランス良く設定する構成は、対物レンズ134Aのような2対物構成のみでなく、1対物構成の場合にも有効である。すなわち、環境中心温度と異なる設計温度においてアプラナートな状態として構成された対物レンズは、レンズチルト感度を所望の範囲まで低減することを実現する。そして、式(36)を満たすように構成される対物レンズは、レンズチルト感度と像高特性とを考慮した上で、光ピックアップ全体の収差を低減することを実現する。かかる対物レンズは、光ピックアップにおける収差をより低減し、記録再生特性を良好にできる。また、かかる構成とされた対物レンズにおいて、設計温度及び所定の入射倍率においてアプラナートな状態として構成された対物レンズは、レンズチルト感度を低減した状態で、使用入射倍率を正負にバランス良く設定することを可能とする。これにより、かかる対物レンズは、使用温度における入射倍率がアンバランスなものになることを防止し、収差を低減し、記録再生特性を実現する。
〔16.本発明を適用した対物レンズ、光ピックアップ、光ディスク装置について〕
上述したように、本発明を適用した対物レンズによれば、プラスチック製対物レンズがチルトした際のコマ感度量を適正な範囲とすることで、従来は不可能だったディスク面ブレに対する信号品質の悪化を抑えることができる。すなわち、本発明を適用した対物レンズ34は、式(22A)及び式(22B)を満足することにより、光ピックアップの製造時等のレンズチルト調整取れ残りや、タンジェンシャル方向の面ブレにより大きなコマ収差が発生し許容量を超えることによる各種信号劣化を防止できる。これにより、対物レンズ34は、プラスチック製とすることにより、量産性や軽量化を向上させるとともに、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。すなわち、本発明は、量産性や軽量化を実現するとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。
また、本発明を適用した対物レンズ34において、式(36)を満たすようにすることで、光ピックアップ全体の製造に起因するコマ収差量を低減することを実現する。これにより、量産性の高く記録再生特性の高い光ピックアップを構成することを実現する。
さらに、本発明を適用した対物レンズ134Aは、式(26A)及び式(26B)を満足することにより、2対物構成とされた光ピックアップにおいて良好なコマ収差補償を実現する。対物レンズ134Aは、かかる構成において、光ピックアップの製造時等のレンズチルト調整取れ残りや、タンジェンシャル方向の面ブレにより大きなコマ収差が発生し許容量を超えることによる各種信号劣化を防止できる。これにより、対物レンズ134Aは、プラスチック製とすることにより、量産性や軽量化を向上させるとともに、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。すなわち、本発明は、量産性や軽量化を実現するとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。
また、本発明を適用した光ピックアップ3,103によれば、安価で生産性の高いプラスチック製の対物レンズ34、134Aを用いることにより量産性や軽量化を実現するとともに、良好な記録再生特性を実現する。すなわち、光ピックアップ3、103によれば、従来の高価なガラス製レンズに置き換えてプラスチック製の対物レンズを用いることができ、光ピックアップ自体を安価に製造することが可能となる。また、本発明を適用した光ピックアップ3では、3波長互換対物レンズ34も用いているため、光ピックアップを構成する光学部品および光路を共通とすることによって更に部材コストを下げ、さらに安価なピックアップとすることができる。さらに3波長互換レンズを用いない場合でも、本発明を適用した光ピックアップ103のように、BD等の第1の光ディスク専用の対物レンズ134のレンズチルト感度を制約することによって、次の効果が得られる。すなわち、本発明を適用した光ピックアップ103によれば、従来不可能であった第1の光ディスク側の対物レンズ134A単体での調整が可能となり、換言すると、第2及び第3の光ディスク側の対物レンズ134Bを調整した際の、第1の光ディスク側の対物レンズ134におけるコマ収差補償を実現する。これにより良好な記録再生特性を実現する。
さらに、本発明を適用した光ディスク装置1は、回転駆動される光ディスク2に対して光ビームを照射することにより情報信号の記録及び/又は再生を行う光ピックアップを備えるものであり、この光ピックアップとして上述の光ピックアップ3、103を用いている。よって、光ディスク装置1は、量産性や軽量化を実現させるとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。