しかしながら、前述した特許文献1等においては、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態(又は、低回転時)や、回転数の大きな変動に影響されてしまい、所謂、フィードバック制御は、発散してしまう可能性もあり、目標回転数に到達することが技術的に困難となってしまう可能性がある。
そこで本発明は、例えば上記の問題点に鑑みなされたものであり、例えば内燃機関の始動時等において、燃料の噴射制御、又は空気の供給制御を、適切に行うことが可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の気筒に、燃料を噴射する噴射手段と、前記内燃機関におけるクランクの角度に対応した点火時期に点火を行う点火手段と、前記内燃機関における実際の回転数である実測回転数を測定する測定手段と、前記内燃機関の目標となる目標回転数と、前記実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、(i)前記点火時期を所定角度に変化させて、点火するように前記点火手段を制御すると共に、前記所定角度に対応される所定噴射量に変化させて、前記燃料を噴射するように前記噴射手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、(i)前記所定角度の点火に起因される前記内燃機関の気筒において発生する第1トルクと、(ii)前記所定噴射量に起因される前記気筒において発生する第2トルクとの和である発生トルクが、前記所定角度に対して線形関数として規定される所定マップに基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御し、前記第1トルクの一の範囲は、前記所定角度に対して非線形関数として規定され、前記第1トルクの他の範囲は、前記所定角度に対して線形関数として規定され、前記制御手段は、前記一の範囲に対して、前記所定マップに基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御する。
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、噴射手段は、内燃機関の気筒に、燃料を噴射する。点火手段は、内燃機関におけるクランクの角度に対応した点火時期に点火を行う。測定手段は、内燃機関における実測回転数を測定する。
特に、本発明によれば、例えばECU(Engine Control Unit)等の制御手段の制御下で、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象であるフィードバック制御(所謂、フィードバック協調制御)が行われる。即ち、制御手段による協調的な制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべきトルク(後述される発生トルク、所謂、自動制御のゲイン(利得)に対応される発生トルク)に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段による協調的な制御下で、(ii)所定角度に対応される所定噴射量に燃料の噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、当該燃料が噴射される。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、燃料の噴射量の変化に基づいた、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティを実現することが可能である。ここに、本発明に係る「ドライバビリティ」とは、ドライバの運転操作に対して、適切且つ迅速に対応してトルクを出力可能な理想的な内燃機関、若しくは、内燃機関のアイドル運転状態において、適切なトルクを出力可能な理想的な内燃機関を意味する。具体的には、ドライバビリティは、エンスト(所謂、想定外のエンジンストップ)が、殆ど又は完全にないことによって推定することも可能である。
本発明では、前記制御手段は、(i)前記所定角度の点火に起因される前記内燃機関の気筒において発生する第1トルクと、(ii)前記所定噴射量に起因される前記気筒において発生する第2トルクとの和である発生トルクが、前記所定角度に対して線形関数として規定される所定マップ(第1及び第2所定マップ)に基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御する。
よって、本発明によれば、例えばECU等の制御手段の制御下で、点火手段によって、所定マップに基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されると共に、噴射手段によって、所定マップに基づいて、所定角度に対応される所定噴射量に変化(補正)されつつ、燃料が噴射される。ここに、本発明に係る「所定マップ」とは、所定角度の点火に起因される内燃機関の第1トルク(又は、所定角度の点火に起因して内燃機関の気筒内において発生する第1トルク)と、所定角度に対応される所定噴射量に起因される第2トルク(又は、所定噴射量に起因して、内燃機関の気筒内において発生する第2トルク)との和が、所定角度に対して線形関数として規定されるマップを意味する。尚、本発明に係るマップは、理論的、実験的、経験的、シミュレーション等に基づいて、個別具体的に規定することが可能であり、例えば、所定の関係式や、所定の関数や、所定のシミュレーションプログラム等の種々の形態によって、規定することが可能である。
特に、本発明によれば、非線形関数と比較して、簡便な線形関数として規定される所定マップに基づいて、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、簡便、迅速且つ高精度に実現することが可能である。
詳細には、最初に、制御手段の制御下で、目標回転数と、実測回転数との偏差に対応される内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルクが算出される。次に、点火時期の変化によって、発生可能な第1トルクが算出されると共に、この偏差に対応され、所定噴射量の燃料の噴射によって、発生可能な第2トルクが算出される。次に、制御手段の制御下で、この第1トルクを発生可能な、点火時期の所定角度が、第1所定マップに基づいて算出される。ここに、本発明に係る「第1所定マップ」とは、上述した所定マップのうち、所定角度と、第1トルクとの関係を規定したマップである。
次に、制御手段の制御下で、この第2トルクを発生可能な、所定噴射量が、所定角度に対応されつつ、第2所定マップに基づいて算出される。ここに、本発明に係る「第2所定マップ」とは、上述した所定マップのうち、所定角度に対応される所定噴射量と、第2トルクとの関係を規定したマップである。次に、制御手段の制御下で、(i)算出された所定角度に基づいて、点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、(ii)算出された所定噴射量に基づいて、噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、燃料の噴射が行われる。
本発明では、前記第1トルクの一の範囲(大きい回転数の偏差)は、前記所定角度に対して非線形関数として規定され、前記第1トルクの他の範囲(小さい回転数の偏差)は、前記所定角度に対して線形関数として規定され、前記制御手段は、前記一の範囲に対して、前記所定マップに基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御する。
よって、本発明によれば、非線形関数として規定される、回転数の一の範囲に対して、上述した所定マップに基づいて、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、簡便、迅速且つ高精度に実現することが可能である。
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御する。
この態様によれば、例えばECU等の制御手段の制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべきトルク(発生トルク、所謂、自動制御のゲイン(利得)に対応される発生トルク)に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段の制御下で、(ii)所定角度に対応される所定噴射量に燃料の噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、当該燃料が噴射される。従って、偏差の時間積分値に基づいて、多種多様な燃料の燃料性状に適切に対応した、フィードバック制御を行うことが可能である。ここに、本発明に係る燃料性状とは、所定の温度に対応して、燃料が気化する度合いを示す、燃料の定量的又は定性的な性質を意味する。この燃料性状の影響は、例えば数サイクル等の短時間よりは、例えば数分から数十分程度の長時間において、推測することが可能である。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関で燃焼される、多種多様な燃料の燃料性状に殆ど又は完全に影響されない、適切な空燃比の制御を実現しつつ、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、燃料の噴射量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティや、炭化水素等の有害な排出ガスの顕著な低減を実現することが可能である。
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記内燃機関の排気を補償する排気補償を行うか否かを判定する判定手段を更に備え、前記制御手段は、(i)前記排気補償を行わない場合、前記偏差を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御し、(ii)前記排気補償を行う場合、前記偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記噴射手段を制御する。
この態様によれば、排気補償を行うか否かの判定に基づいて、(i)迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、(ii)炭化水素等の有害な排出ガスの顕著な低減の両立を実現することが可能である。
上述した判定手段に係る態様では、前記判定手段は、(i)前記実測回転数に対応される角加速度が、所定閾値より大きい場合、前記排気補償を行わないと判定し、(ii)前記実測回転数が、所定範囲の回転数に含まれる場合、前記排気補償を行うと判定するように構成してもよい。
このように構成すれば、(i)迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、(ii)炭化水素等の有害な排出ガスの顕著な低減の両立を、実測回転数、又は、当該実測回転数に対応される角加速度に基づく適切、迅速且つ高精度な判定によって、実現することが可能である。
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関に、空気を供給する供給手段と、前記内燃機関におけるクランクの角度に対応した点火時期に点火を行う点火手段と、前記内燃機関における実測回転数を測定する測定手段と、前記内燃機関の目標となる目標回転数と、前記実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、(i)所定角度に変化させて、点火するように前記点火手段を制御すると共に、前記所定角度に対応される所定空気量に変化させて、前記空気を供給するように前記供給手段を制御する制御手段と、を備え、前記燃料の燃費を補償する燃費補償を行うか否かを判定する判定手段を更に備え、前記制御手段は、(i)前記燃費補償を行わない場合、前記偏差を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記供給手段を制御し、(ii)前記燃費補償を行う場合、前記偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記供給手段を制御する。
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、供給手段は、内燃機関に、空気を供給する。点火手段は、内燃機関におけるクランクの角度に対応した点火時期に点火を行う。測定手段は、内燃機関における実測回転数を測定する。
特に、本発明によれば、例えばECU等の制御手段の制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべきトルク(発生トルク、所謂、自動制御のゲイン(利得)に対応される発生トルク)に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段の制御下で、(ii)所定角度に対応される所定空気量に空気の供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、当該空気が供給される。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、空気の供給量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を、実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティを実現することが可能である。
更に、本発明では、前記燃料の燃費を補償する燃費補償を行うか否かを判定する判定手段を更に備え、前記制御手段は、(i)前記燃費補償を行わない場合、前記偏差を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記供給手段を制御し、(ii)前記燃費補償を行う場合、前記偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記供給手段を制御する。
よって、本発明によれば、燃費補償を行うか否かの判定に基づいて、(i)迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、(ii)燃費の顕著な向上の両立を実現することが可能である。
本発明に係る内燃機関の制御装置の一の態様では、前記制御手段は、前記偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御に基づいて、前記点火手段及び前記供給手段を制御する。
この態様によれば、例えばECU等の制御手段の制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差の時間積分値を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべきトルク(発生トルク、所謂、自動制御のゲイン(利得)に対応される発生トルク)に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段の制御下で、(ii)所定角度に対応される所定空気量に空気の供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、当該空気が供給される。従って、偏差の時間積分値に基づいて、多種多様な燃料の燃料性状に適切に対応した、フィードバック制御を行うことが可能である。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関で燃焼される、多種多様な燃料の燃料性状に殆ど又は完全に影響されない、適切な空燃比の制御を実現しつつ、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、空気の供給量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、燃費の顕著な向上を同時に実現することが可能である。ここに、本願発明に係る「燃費」とは、燃料の消費率を意味し、具体的には、1時間に1馬力当たりに消費する燃料の質量を意味するようにしてもよい。
上述した判定手段に係る態様では、前記判定手段は、(i)前記実測回転数に対応される角加速度が、所定閾値より大きい場合、前記燃費補償を行わないと判定し、(ii)前記実測回転数が、所定範囲の回転数に含まれる場合、前記燃費補償を行うと判定するように構成してもよい。
このように構成すれば、(i)迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、(ii)燃費の顕著な向上の両立を、実測回転数、又は、当該実測回転数に対応される角加速度に基づく適切、迅速且つ高精度な判定によって、実現することが可能である。
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記偏差を入力情報とするフィードバック制御に対応される発生トルクに基づいて、(i)前記所定角度に補正しつつ、点火するように前記点火手段を制御すると共に、前記所定噴射量に補正しつつ、前記燃料を噴射するように前記噴射手段を制御する。
この態様によれば、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、発生トルクに基づいて、迅速且つ高精度に実現することが可能である。
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記発生トルクは、前記フィードバック制御のゲイン(利得)に対応される。
この態様によれば、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、ゲイン(利得)に基づいて、迅速且つ高精度に実現することが可能である。
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記発生トルクは、前記フィードバック制御における、前記実測回転数に対応される角加速度に基づいて、規定される。
この態様によれば、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、実測回転数に対応される角加速度に基づいて、迅速且つ高精度に実現することが可能である。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
(1)車両の基本構成
先ず、図1を参照して、本実施形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を搭載した車両の基本構成について説明する。ここに、図1は、本実施形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を搭載した車両の基本構成を図式的に示した模式図である。尚、本実施形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を搭載した車両は、#1気筒「1a」から#4気筒(不図示)までの四つの気筒が一列に並べられた、いわゆる直列四気筒のレシプロ式内燃機関(以下、適宜「エンジン」と称す)1のトルクをクランク軸2のクランク角速度(以下、適宜「角速度」と称す)の変化量に基づいて推定する。エンジン1は例えば自動車の走行用駆動源として使用される。
図1に示されるように、本実施形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を搭載した車両は、エンジン1、クランク軸2、クランク角検出装置3、クランク角センサ5、エンジンコントロールユニット6、記憶装置7、インジェクタ8、点火プラグ9、ピストン10、コンロッド11、吸気弁12、排気弁13、及び、吸気調整弁14を備えて構成されている。
エンジン1には、ピストン10からの運動エネルギーを、コンロッド11を介して伝達されるクランク軸2の回転位置(クランク角)を検出するためのクランク角検出装置3が設けられている。クランク角検出装置3は、クランク軸2と一体回転するロータ(不図示)と、そのロータの外周と対向するように配置されたクランク角信号出力手段としてのクランク角センサ5とを備えている。ロータの外周には周方向に一定の間隔、例えば30°間隔で凸部(不図示)が設けられており、クランク角センサ5はそれらの凸部の検出に応答して所定の検出信号を出力する。ロータの外周にはクランク軸2の回転位置の判別のための切欠等の基準位置指示部(不図示)が設けられている。クランク角センサ5はその基準位置指示部の検出時に固有の基準検出信号を出力する。
クランク角センサ5の出力信号はエンジンコントロールユニット6(以下、適宜「ECU:Engine Control Unit」(即ち、本発明に係る制御手段の一具体例)と称す)に導かれる。ECU6はマイクロプロセッサを有するコンピュータユニットであり、その記憶装置7が記憶する各種のエンジン制御プログラムを実行することにより不図示の燃料噴射弁等を操作してエンジン1の運転状態を制御する。記憶装置7はROM、SRAM、RAM等の半導体メモリにより構成される。ECU6はクランク角センサ5から出力される基準検出信号を基準として凸部の検出信号の個数をカウントすることによりクランク角を判別する。また、ECU6はクランク角センサ5から出力される検出信号の時間間隔を検出することによりクランク角速度(又は、エンジン1の回転数)を判別する。これにより、ECU6はクランク角速度を算出する算出手段として機能する。
ECU6は、CPU(Central Processing Unit)、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インタフェイスなどを有している。ECU6は、各種センサから供給される検出信号に基づいて制御処理や各種の判定処理を行う。ECU6は、その記憶装置7が記憶するトルク推定のためのプログラムを実行することにより、本発明における制御手段として機能する。内燃機関の気筒内に、後述される所定量の燃料を噴射させるために、ECU6には、例えばインジェクタ8等の燃料の噴射手段が接続されている。内燃機関の始動時に、所定量の燃料の点火によって、初期サイクルの爆発行程において発生するトルクに関する後述されるトルク情報(例えば角加速度や角速度等)を測定するために、ECU6には点火プラグ9が接続されている。その他にも、ECU6には吸入空気量を検出するエアフローメータ、排気ガス中の空燃比に対応した信号を出力するA/Fセンサ等の各種のセンサが接続されるが、それらの図示は省略した。
記憶装置7には、ECU6が、制御手段として機能する際に使用するデータとして、本実施形態に係る所定マップ(第1から第4所定マップ)が格納されている。
吸気調整弁14は、本発明に係る供給手段の一具体例であり、例えばサージタンク中における、空気の経路を変化させることで、内燃機関への空気の供給量を変化させることが可能である。
(2)フィードバック制御(制御対象が、点火時期、及び、燃料の噴射量の場合)
次に、図2から図6を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象であるフィードバック制御、即ち、本実施形態に係る所定マップに基づくフィードバック制御について説明する。
(2−1)基本原理
先ず、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の基本原理について説明する。ここに、図2は、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の基本原理を示したグラフ(図2(a)、図2(b)、及び、図2(c))である。図3は、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御が行われた場合における、実際に測定された実測回転数、補正された噴射量、及び、点火時期の時系列的な変化を示したグラフ(図3(a)、図3(b)、及び図3(c))である。尚、図2中の横軸は、点火時期における進角、即ち、クランクに対する角度を示し、縦軸は、内燃機関の回転数を示す。また、図3中の横軸は、時間軸を示し、縦軸は、実測回転数(図3(a)の場合)、燃料の噴射量(図3(b)の場合)、及び、点火時期(図3(c)の場合)を示す。
本実施形態によれば、図2(a)に示された所定マップに基づいて、例えばECU(Engine Control Unit)等の制御手段の制御下で、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象であるフィードバック制御(所謂、フィードバック協調制御)が行われる。ここに、本実施形態に係る「所定マップ」とは、所定角度の点火に起因される内燃機関の第1トルク(又は、所定角度の点火に起因して内燃機関の気筒内において発生する第1トルク)と、所定角度に対応される所定噴射量に起因される第2トルク(又は、所定噴射量に起因して内燃機関の気筒内において発生する第2トルク)との和が、所定角度に対して線形関数として規定されるマップを意味する。尚、本発明に係るマップは、理論的、実験的、経験的、シミュレーション等に基づいて、個別具体的に規定することが可能であり、例えば、所定の関係式や、所定の関数や、所定のシミュレーションプログラム等の種々の形態によって、規定することが可能である。
言い換えると、制御手段による協調的な制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R」に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段による協調的な制御下で、(ii)所定角度に対応される所定噴射量に燃料の噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、当該燃料が噴射される。
詳細には、図2(a)に示されるように、最初に、制御手段の制御下で、目標回転数と、実測回転数との偏差に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R」が算出される。次に、点火時期の変化によって、発生可能な第1トルク「r1」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定噴射量の燃料の噴射によって、発生可能な第2トルク「r2」が算出される。次に、図2(b)に示されるように、制御手段の制御下で、この第1トルクを発生可能な、点火時期の所定角度が、第1所定マップに基づいて算出される。ここに、本実施形態に係る「第1所定マップ」とは、上述した所定マップのうち、所定角度と、第1トルクとの関係を規定したマップである。
次に、図2(c)に示されるように、制御手段の制御下で、この第2トルクを発生可能な、所定噴射量が、所定角度に対応されつつ、第2所定マップに基づいて算出される。ここに、本実施形態に係る「第2所定マップ」とは、上述した所定マップのうち、所定角度に対応される所定噴射量と、第2トルクとの関係を規定したマップである。次に、制御手段の制御下で、(i)算出された所定角度に基づいて、点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、(ii)算出された所定噴射量に基づいて、噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、燃料の噴射が行われる。
具体的には、図3(a)に示されるように、最初に、制御手段の制御下で、時刻「t1」において、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差「d1」が算出される。この偏差「d1」に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R1」(図2(a)を参照)が算出され、この発生トルク「R1」のうち、点火時期の変化によって、発生可能な第1トルク「r1−1」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定噴射量の燃料の噴射によって、発生可能な第2トルク「r2−1」が算出される。
続いて、点火時期の変化によって、第1トルク「r1−1」を発生可能な、点火時期の所定角度「θ1」が、第1所定マップに基づいて算出される(図2(b)を参照)。次に、制御手段の制御下で、所定噴射量「e1」が、第2所定マップに基づいて、所定角度「θ1」に対応されつつ、算出される(図2(c)を参照)。次に、図3(c)に示されるように、制御手段による協調的な制御下で、(i)算出された所定角度「θ1」に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、図3(b)に示されるように、(ii)算出された所定噴射量「e1」に基づいて、噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、燃料の噴射が行われる。
概ね同様にして、制御手段の制御下で、時刻「t2」において、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差「d2」が算出される。この偏差「d2」に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R2」(図2(a)を参照)が算出され、この発生トルク「R2」のうち、点火時期の変化によって、発生可能な第1トルク「r1−2」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定噴射量の燃料の噴射によって、発生可能な第2トルク「r2−2」が算出される。
続いて、点火時期の変化によって、第1トルク「r1−2」を発生可能な、点火時期の所定角度「θ2」が、第1所定マップに基づいて算出される(図2(b)を参照)。次に、制御手段の制御下で、所定噴射量「e2」が、第2所定マップに基づいて、所定角度「θ2」に対応されつつ、算出される(図2(c)を参照)。次に、図3(c)に示されるように、制御手段による協調的な制御下で、(i)算出された所定角度「θ2」に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、図3(b)に示されるように、(ii)算出された所定噴射量「e2」に基づいて、噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、燃料の噴射が行われる。
更に、概ね同様にして、制御手段の制御下で、時刻「t3」において、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差「d3」が算出される。この偏差「d3」に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R3」(図2(a)を参照)が算出され、この発生トルク「R3」のうち、点火時期の変化によって、発生可能な第1トルク「r1−3」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定噴射量の燃料の噴射によって、発生可能な第2トルク「r2−3」が算出される。
続いて、点火時期の変化によって、第1トルク「r1−3」を発生可能な、点火時期の所定角度「θ3」が、第1所定マップに基づいて算出される(図2(b)を参照)。次に、制御手段の制御下で、所定噴射量「e3」が、第2所定マップに基づいて、所定角度「θ3」に対応されつつ、算出される(図2(c)を参照)。次に、図3(c)に示されるように、制御手段による協調的な制御下で、(i)算出された所定角度「θ3」に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、図3(b)に示されるように、(ii)算出された所定噴射量「e3」に基づいて、噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、燃料の噴射が行われる。
仮に、フィードバック制御において、点火時期、及び、燃料の噴射量のうち少なくとも一方を制御対象としない場合、即ち、図3(c)及び図3(b)に示された、点火時期、又は、燃料の噴射量が補正されない場合、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に影響されてしまい、図3(a)の細線(補正なし)に示されるように、フィードバック制御は、発散する可能性ものあり、目標回転数に到達することが技術的に困難となってしまう。
これに対して、本実施形態によれば、制御手段による協調的な制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R」に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段による協調的な制御下で、(ii)所定角度に対応される所定噴射量に燃料の噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、当該燃料が噴射される。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、燃料の噴射量の変化に基づいた、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティを実現することが可能である。
(2−2)動作原理
次に、図4から図6を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御における動作原理について説明する。
(2−2−1)第1のフィードバック制御処理
先ず、図4を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における第1のフィードバック制御処理(以下、適宜「フィードバック制御」を「FB制御」と称す)について説明する。ここに、図4は、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である第1のフィードバック制御処理の流れを示したフローチャートである。尚、このフィードバック制御処理は、ECUによって、例えば、数十μ秒、又は数μ秒等の所定の周期で繰り返し実行される。
図4に示されるように、ECUの制御下で、内燃機関における実際の回転数である実測回転数が測定される(ステップS110a)。と同時に、又は、相前後して、ECUの制御下で、内燃機関における目標となる回転数である目標回転数が取得される(ステップS110b)。
次に、ECUの制御下で、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差が算出され、この偏差「d1」に基づいて、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルクが算出される(ステップS120)。
次に、ECUの制御下で、この発生トルクのうち、点火時期の変化によって、発生可能な第1トルクが算出され、この第1トルクに対応される、点火時期の補正量である、所定角度が、第1所定マップに基づいて算出される(ステップS130)。
次に、ECUの制御下で、この発生トルクのうち、所定噴射量の燃料の噴射によって、発生可能な第2トルクが算出され、この第2トルクに対応されると共に、所定角度「θ1」に対応される、所定噴射量が、第2所定マップに基づいて算出される(ステップS140)。
次に、ECUによる協調的な制御下で、(i)算出された所定角度に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われる(ステップS150a)。と共に、ECUによる協調的な制御下で、(ii)算出された所定噴射量に基づいて、噴射量が変化(補正)されつつ、噴射手段によって、燃料の噴射が行われる(ステップS150b)。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、燃料の噴射量の変化に基づいた、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティを実現することが可能である。
(2−2−2)第2のフィードバック制御処理
次に、図5を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における第2のフィードバック制御処理について説明する。ここに、図5は、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である第2のフィードバック制御処理の流れを示したフローチャートである。尚、このフィードバック制御処理は、ECUによって、例えば、数十μ秒、又は数μ秒等の所定の周期で繰り返し実行される。尚、前述した第1のフィードバック制御処理と概ね同様の処理には、同様の符号番号を付し、それらの説明は適宜省略する。
図5に示されるように、第2のフィードバック制御処理においては、ステップS110a及び110bを経て、ECUの制御下で、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差が算出され、この偏差の積分量に基づいて、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルクが算出される(ステップS200)。具体的には、前述した図3中の斜線部分に対応される偏差の積分量に基づいて、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルクが算出される。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関で燃焼される、多種多様な燃料の燃料性状に殆ど又は完全に影響されない、適切な空燃比の制御を実現しつつ、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、燃料の噴射量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティや、炭化水素等の有害な排出ガスの顕著な低減を実現することが可能である。
(2−2−3)第1及び第2のフィードバック制御の切り替え処理
次に、図6を参照して、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である第1及び第2のフィードバック制御の切り替え処理について説明する。ここに、図6は、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、燃料の噴射量が制御対象である第1及び第2のフィードバック制御の切り替え処理の流れを示したフローチャートである。尚、この切り替え処理は、ECUによって、例えば、数十μ秒、又は数μ秒等の所定の周期で繰り返し実行される。
図6に示されるように、第1及び第2のフィードバック制御の切り替え処理においては、ECUの制御下で、炭化水素等の有害な排出ガスの顕著な低減である、排気補償を行うが否かが判定される(ステップS310)。具体的には、ECUは、(i)実測回転数に対応される角加速度が、所定閾値より大きい場合、排気補償を行わないと判定してもよい。或いは、ECUは、(ii)実測回転数が、所定範囲の回転数に含まれる場合、排気補償を行うと判定するようにしてもよい。
この結果、(i)迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、(ii)炭化水素等の有害な排出ガスの顕著な低減の両立を、実測回転数、又は、当該実測回転数に対応される角加速度に基づく適切、迅速且つ高精度な判定によって、実現することが可能である。
(3)フィードバック制御(制御対象が、点火時期、及び、空気の供給量の場合)
次に、図7から図11を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象であるフィードバック制御、即ち、本実施形態に係る所定マップに基づくフィードバック制御について説明する。
(3−1)基本原理
先ず、図7及び図8を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の基本原理について説明する。ここに、図7は、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の基本原理を示したグラフ(図7(a)、図7(b)、及び、図7(c))である。図8は、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御が行われた場合における、実際に測定された実測回転数、補正された供給量、及び、点火時期の時系列的な変化を示したグラフ(図8(a)、図8(b)、及び図8(c))である。尚、図7中の横軸は、点火時期における進角、即ち、クランクに対する角度を示し、縦軸は、内燃機関の回転数を示す。また、図8中の横軸は、時間軸を示し、縦軸は、実測回転数(図8(a)の場合)、空気の供給量(図8(b)の場合)、及び、点火時期(図8(c)の場合)を示す。
本実施形態によれば、図7(a)に示された所定マップに基づいて、例えばECU(Engine Control Unit)等の制御手段の制御下で、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象であるフィードバック制御(所謂、フィードバック協調制御)が行われる。ここに、本実施形態に係る「所定マップ」とは、所定角度の点火に起因される内燃機関の第3トルク(又は、所定角度の点火に起因して、内燃機関の気筒内において発生する第3トルク)と、所定角度に対応される所定空気量に起因される第4トルク(又は、所定空気量に起因して内燃機関の気筒内において発生する第4トルク)との和が、所定角度に対して線形関数として規定されるマップを意味する。尚、本発明に係るマップは、理論的、実験的、経験的、シミュレーション等に基づいて、個別具体的に規定することが可能であり、例えば、所定の関係式や、所定の関数や、所定のシミュレーションプログラム等の種々の形態によって、規定することが可能である。
言い換えると、制御手段による協調的な制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R」に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段による協調的な制御下で、(ii)所定角度に対応される所定空気量に空気の供給が変化(補正)されつつ、供給手段によって、当該空気が供給される。
詳細には、図7(a)に示されるように、最初に、制御手段の制御下で、目標回転数と、実測回転数との偏差に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R」が算出される。次に、点火時期の変化によって、発生可能な第3トルク「r1」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定空気量の空気の供給によって、発生可能な第4トルク「r2」が算出される。次に、図7(b)に示されるように、制御手段の制御下で、この第3トルクを発生可能な、点火時期の所定角度が、第3所定マップに基づいて算出される。ここに、本実施形態に係る「第3所定マップ」とは、上述した所定マップのうち、所定角度と、第3トルクとの関係を規定したマップである。
次に、図7(c)に示されるように、制御手段の制御下で、この第4トルクを発生可能な、所定空気量が、所定角度に対応されつつ、第4所定マップに基づいて算出される。ここに、本実施形態に係る「第4所定マップ」とは、上述した所定マップのうち、所定角度に対応される所定空気量と、第4トルクとの関係を規定したマップである。次に、制御手段の制御下で、(i)算出された所定角度に基づいて、点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、(ii)算出された所定空気量に基づいて、空気量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、空気の供給が行われる。
具体的には、図8(a)に示されるように、最初に、制御手段の制御下で、時刻「t1」において、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差「d1」が算出される。この偏差「d1」に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R1」(図7(a)を参照)が算出され、この発生トルク「R1」のうち、点火時期の変化によって、発生可能な第3トルク「r3−1」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定空気量の空気の供給によって、発生可能な第4トルク「r4−1」が算出される。
続いて、点火時期の変化によって、第3トルク「r3−1」を発生可能な、点火時期の所定角度「θ1」が、第3所定マップに基づいて算出される(図7(b)を参照)。次に、制御手段の制御下で、所定空気量「f1」が、第4所定マップに基づいて、所定角度「θ1」に対応されつつ、算出される(図7(c)を参照)。次に、図8(c)に示されるように、制御手段による協調的な制御下で、(i)算出された所定角度「θ1」に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、図8(b)に示されるように、(ii)算出された所定空気量「f1」に基づいて、供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、空気の供給が行われる。
概ね同様にして、制御手段の制御下で、時刻「t2」において、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差「d2」が算出される。この偏差「d2」に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R2」(図7(a)を参照)が算出され、この発生トルク「R2」のうち、点火時期の変化によって、発生可能な第3トルク「r3−2」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定空気量の空気の供給によって、発生可能な第4トルク「r4−2」が算出される。
続いて、点火時期の変化によって、第3トルク「r3−2」を発生可能な、点火時期の所定角度「θ2」が、第3所定マップに基づいて算出される(図7(b)を参照)。次に、制御手段の制御下で、所定空気量「f2」が、第4所定マップに基づいて、所定角度「θ2」に対応されつつ、算出される(図7(c)を参照)。次に、図8(c)に示されるように、制御手段による協調的な制御下で、(i)算出された所定角度「θ2」に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、図8(b)に示されるように、(ii)算出された所定空気量「f2」に基づいて、供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、空気の供給が行われる。
更に、概ね同様にして、制御手段の制御下で、時刻「t3」において、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差「d3」が算出される。この偏差「d3」に対応されるフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R3」(図7(a)を参照)が算出され、この発生トルク「R3」のうち、点火時期の変化によって、発生可能な第3トルク「r3−3」が算出されると共に、この偏差に対応され、所定空気量の空気の供給によって、発生可能な第4トルク「r4−3」が算出される。
続いて、点火時期の変化によって、第3トルク「r3−3」を発生可能な、点火時期の所定角度「θ3」が、第3所定マップに基づいて算出される(図7(b)を参照)。次に、制御手段の制御下で、所定空気量「f3」が、第4所定マップに基づいて、所定角度「θ3」に対応されつつ、算出される(図7(c)を参照)。次に、図8(c)に示されるように、制御手段による協調的な制御下で、(i)算出された所定角度「θ3」に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われると共に、図8(b)に示されるように、(ii)算出された所定空気量「f3」に基づいて、供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、空気の供給が行われる。
仮に、フィードバック制御において、点火時期、及び、空気の供給量のうち少なくとも一方を制御対象としない場合、即ち、図8(c)及び図8(b)に示された、点火時期、又は、空気の供給量が補正されない場合、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に影響されてしまい、図8(a)の細線(補正なし)に示されるように、フィードバック制御は、発散してしまう可能性もあり、目標回転数に到達することが技術的に困難となってしまう。
これに対して、本実施形態によれば、制御手段による協調的な制御下で、(i)内燃機関の目標となる目標回転数と、実測回転数との偏差を入力情報とするフィードバック制御を適切に実現するために、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルク「R」に基づいて、所定角度に点火時期が変化(補正)されつつ、点火手段によって、点火が行われる。と共に、制御手段による協調的な制御下で、(ii)所定角度に対応される所定空気量に空気の供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、当該空気が供給される。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、空気の供給量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を、実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティを実現することが可能である。
(3−2)動作原理
次に、図9から図11を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御における動作原理について説明する。
(3−2−1)第3のフィードバック制御処理
先ず、図9を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における第3のフィードバック制御処理について説明する。ここに、図9は、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である第3のフィードバック制御処理の流れを示したフローチャートである。尚、このフィードバック制御処理は、ECUによって、例えば、数十μ秒、又は数μ秒等の所定の周期で繰り返し実行される。尚、前述した図4中の第1のフィードバック制御処理と概ね同様の処理には、同様の符号番号を付し、それらの説明は適宜省略する。
図9に示されるように、前述したステップS110aからS120を経て、ECUの制御下で、発生トルクのうち、点火時期の変化によって、発生可能な第3トルクが算出され、この第3トルクに対応される、点火時期の補正量である、所定角度が、第3所定マップに基づいて算出される(ステップS410)。
次に、ECUの制御下で、この発生トルクのうち、所定空気量の空気の供給によって、発生可能な第4トルクが算出され、この第4トルクに対応されると共に、所定角度「θ1」に対応される、所定空気量が、第4所定マップに基づいて算出される(ステップS420)。
次に、ECUによる協調的な制御下で、(i)算出された所定角度に基づいて、点火時期が補正されつつ、点火手段によって、点火が行われる(ステップS430a)。と共に、ECUによる協調的な制御下で、(ii)算出された所定空気量に基づいて、供給量が変化(補正)されつつ、供給手段によって、空気の供給が行われる(ステップS430b)。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関の低回転の駆動状態や、回転数の大きな変動に殆ど又は完全に影響されない、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、空気の供給量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を、実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティを実現することが可能である。
(3−2−2)第4のフィードバック制御処理
次に、図10を参照して、本実施形態に係る、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における第4のフィードバック制御処理について説明する。ここに、図10は、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である第4のフィードバック制御処理の流れを示したフローチャートである。尚、このフィードバック制御処理は、ECUによって、例えば、数十μ秒、又は数μ秒等の所定の周期で繰り返し実行される。尚、前述した第3のフィードバック制御処理と概ね同様の処理には、同様の符号番号を付し、それらの説明は適宜省略する。
図10に示されるように、第4のフィードバック制御処理においては、ステップS110a及び110bを経て、ECUの制御下で、目標回転数と、実測回転数(rpm)との偏差が算出され、この偏差の積分量に基づいて、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルクが算出される(ステップS200)。具体的には、前述した図8中の斜線部分に対応される偏差の積分量に基づいて、内燃機関の気筒内において発生すべき発生トルクが算出される。
以上の結果、例えば、内燃機関の始動時や、始動直後や、暖機過程における、内燃機関で燃焼される、多種多様な燃料の燃料性状に殆ど又は完全に影響されない、適切な空燃比の制御を実現しつつ、最適なフィードバック制御を、迅速且つ高精度に実現することが可能である。従って、上述した点火時期の変化、及び、空気の供給量の変化に基づいて、内燃機関の高精度な制御を実現可能であり、ひいては、迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、燃費の顕著な向上を同時に実現することが可能である。ここに、本実施形態に係る「燃費」とは、燃料の消費率を意味し、具体的には、1時間に1馬力当たりに消費する燃料の質量を意味するようにしてもよい。
(3−2−3)第3及び第4のフィードバック制御の切り替え処理
次に、図11を参照して、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である第3及び第4のフィードバック制御の切り替え処理について説明する。ここに、図11は、本実施形態に係る、所定マップに基づくフィードバック制御の動作原理における、点火時期、及び、空気の供給量が制御対象である第3及び第4のフィードバック制御の切り替え処理の流れを示したフローチャートである。尚、この切り替え処理は、ECUによって、例えば、数十μ秒、又は数μ秒等の所定の周期で繰り返し実行される。
図11に示されるように、第3及び第4のフィードバック制御の切り替え処理においては、ECUの制御下で、燃費補償を行うが否かが判定される(ステップS610)。具体的には、ECUは、(i)実測回転数に対応される角加速度が、所定閾値より大きい場合、燃費補償を行わないと判定してもよい。或いは、ECUは、(ii)実測回転数が、所定範囲の回転数に含まれる場合、燃費補償を行うと判定するようにしてもよい。
この結果、(i)迅速且つ適切なドライバビリティ、及び、(ii)燃費の顕著な向上の両立を、実測回転数、又は、当該実測回転数に対応される角加速度に基づく適切、迅速且つ高精度な判定によって、実現することが可能である。
尚、上述した、所定マップでは、点火時期と、発生トルクとの2次元のマップを適用しているが、本実施形態では、これら点火時期と、発生トルクとに加えて、水温や、空気温度等の、内燃機関の出力を決定可能な、燃料、空気、又は、点火時期に影響を与える因子をパラメータとする、複数次元のマップを適用してもよい。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。