次に、図面を参照して、本発明の第1〜第3の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
又、以下に示す第1〜第3の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
第1〜第3の実施の形態に係る滅菌装置において、滅菌対象である被処理物30としては、インプラント部材、メスやピンセットなどの医療用器具、衛生用品、消耗品、機器や食品材料、無菌包装用包装材料などが可能である。また、以下において、「電磁波」は、特にことわりのない限り、「マイクロ波」を意味する。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る滅菌装置は、図1に示すように、滅菌対象である被処理物30を収納し、被処理物30を囲む密閉空間を構成する滅菌処理室(23,53,54,62)と、この滅菌処理室(23,53,54,62)の内部にプラズマを発生させるプラズマ発生手段(11b,12,14)と、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に水蒸気を導入する水蒸気導入手段(1,71,44,72,45)と、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に処理ガスを導入する処理ガス導入手段(33,61,48)と、滅菌処理室(23,53,54,62)に収納された被処理物30に電磁波を照射する電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)とを備える。滅菌処理室(23,53,54,62)は、前面に設けられたドア(図示省略)が開かれた状態においては、内部への被処理物30の収容及び内部からの被処理物30の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、密閉状態を維持できるようになっている。
第1の実施の形態に係る滅菌装置を構成するプラズマ発生手段(11b,12,14)は、図1に示すように、滅菌対象である被処理物30を挟むように互いに対峙して配置され、全体として平行平板電極を構成する第1電極11b及び第2電極12と、被処理物30の表面を含む密閉空間にファインストリーマ放電を引き起こす電気パルス(主パルス)を第1電極11b及び第2電極12間に印加するパルス電源14とを備える。「全体として平行平板電極を構成する」と記載したのは、図1に示すように、陽極としての第1電極11bが平板構造ではなく、T型の凸部が周期的に配列され、それぞれのT型の先端を放電箇所としているからである。この場合は、陽極としての第1電極11bは複数の棒状(線状)の電極を並列に周期配置した梯子型の電極に等価であるが、第1電極11bと第2電極12とのなす全体の構造は、おおよそ「平行平板電極」と近似することができるという意味である。
滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に水蒸気を導入する水蒸気導入手段(1,71,44,72,45)は、水蒸気供給源1と、第1の水蒸気配管71、水蒸気制御バルブ44と、第2の水蒸気配管72と、第2の水蒸気配管72の先端に設けられたシャワー45とを備える。水蒸気供給源1としては、超音波気化器等の種々の、水蒸気のベーパライザが使用可能であり、酸素ガスと水素ガスとを一定比率で混合し、水素ガスを燃焼させ生成する方式でも良い。
被処理物30に電磁波を照射する電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)は、電磁波発生装置2aと、インピーダンスマッチング装置43aと、伝送線路42aと、アンテナ部41aとを備える。電磁波発生装置2aとしては、100MHz以上の高周波の電磁波を発生する装置が好ましく、マイクロ波帯でもテラヘルツ帯の電磁波を発生する装置でも構わない。マイクロ波帯の電磁波を用いる場合は、電磁波発生装置2aとしては、マグネトロン、進行波管、クライストロン、カルシノトロン等の電子管、ガンダイオード、インパットダイオード、タンネットダイオード、或いは、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ、理想型SIT等を用いたMMIC等の半導体発信素子、或いはジョセフソン励起素子等が使用可能である。更に、電磁波発生装置2aとしては、H2Oレーザ、O2Oレーザ、HCNレーザ、DCNレーザ等の気体レーザ等のミリ波帯から遠赤外領域における各種の電磁波発生装置でも良い。又、テラヘルツ帯の可変周波数電磁波を発生させる電磁波発生装置2aとして、光パラメトリック発信器(OPO)50を用いても良く、半導体や誘電体を利用したラマンレーザを用いても良い。アンテナ部(電磁波照射端子)41aとしては、パラボラアンテナ、ホーンアンテナ、ループアンテナ等が使用可能である。伝送線路42aには、図1に示した導波管の他、同軸ケーブル、マイクロストリップ線路、コプレーナ導波路などが採用可能であり、テラヘルツ帯の電磁波の場合であれば、導波管型の可とう性中空導光路を用いても良い。アンテナ部(電磁波照射端子)41aは、伝送線路42aの先端部を利用して、パラボラ形状、ホーン形状、ループ形状に加工すれば良い。アンテナ部(電磁波照射端子)41aは、プラズマ発生手段(11b,12,14)のプラズマ空間の電界を乱さないように配置するように留意すべきである。尚、導波管や中空導光路を用いる場合には、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部が密閉可能なように、導波管や中空導光路の内部に誘電体の圧力隔壁を設けるのが好ましい。テラヘルツ帯の電磁波用の中空導光路の内部に設ける圧力隔壁は、テラヘルツ帯の電磁波に透明な材料を選ぶのは勿論である。インピーダンスマッチング装置43aとしては、マイクロ波帯の立体回路であれば、スリースタブチューナやEHチューナ等を用いれば良い。尚、図示を省略しているが、電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)にはアイソレータやパワーモニタが含まれていて良いことは勿論である。
滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に処理ガスを導入する処理ガス導入手段(33,61,48)は、図1に示すように処理ガスを収納するガスボンベ等のガス源33と、このガス源33に接続された吸気側配管61と、吸気側配管61に接続された吸気側バルブ48とを備える。吸気側バルブ48には、ガスの流量調整が容易なニードルバルブ等を採用することが好ましい。第1の実施の形態に係る滅菌装置においては、処理ガスとして高純度窒素ガスが供給されるが、「処理ガス」は必ずしも窒素ガスに限定されるものではなく、被処理物30の表面に付着した細菌や微生物の殺菌、滅菌等の目的のためには、例えば、過酸化水素やハロゲン系の化合物ガス等の種々の活性なガス若しくは、これらの活性なガスのいずれかと窒素ガスの混合ガス等、種々の他のガスが採用可能である。
処理ガス導入手段(33,61,48)には、第1電極11b側から処理ガスを、陰極としての第2電極12側に向かってシャワー状に均一化した給気し、滅菌処理室(23,53,54,62)から処理ガスを排気させるように、処理ガスの流れを整流する整流手段(62,65、66b、25b)を更に備えることが好ましい。整流手段(62,65、66b、25b)は、図1に示すように吸気側調整室62、吸気側調整室62に接したガス供給層65、ガス供給層65の表面に設けられ、複数のガス供給穴66bを有する第1電極(第1電極)保護層25bを備える。ガス供給層65は、吸気側調整室62からの処理ガスを均一に分布させて透過させるように、多孔質セラミックからなる。吸気側調整室62は、扁平な直方体をなし、直方体の6面中の5面が金属で構成され、残る1面(図1の断面図において左側の面)をガス供給層65が閉じている。複数のガス供給穴66bは、第1電極(第1電極)保護層25bを貫通するテーパ状の貫通穴であり、図6に示すように、一定ピッチで2次元マトリクス状に配置されている。一方、第2電極12の上に、高純度石英ガラス等の第2電極被覆絶縁膜23が設けられている。
滅菌処理室(23,53,54,62)は、第2電極被覆絶縁膜23と、処理室底蓋53と、処理室上蓋54と、吸気側調整室62とで直方体の4面を構成し、図1の紙面の手前と奥にそれぞれ対向配置された側板(図示省略)が直方体の残る2面を構成している。即ち、処理室上蓋54及び処理室底蓋53が、それぞれ第2電極被覆絶縁膜23と吸気側調整室62と図1の紙面の手前と奥にそれぞれ対向配置された2枚の側板(図示省略)が構成する箱形の空間の上端と下端とに密着し、密閉空間を構成している。
本発明の第1の実施の形態に係る滅菌装置は、更に、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に導入された処理ガスを排気する処理ガス排気手段(63,49,31)を備えても良い。図1に示すように、処理ガス排気手段(63,49,31)は、滅菌処理室(23,53,54,62)の一部に設けられた排気側配管63と、排気側配管63に接続された排気側バルブ49と、排気側配管63及び排気側バルブ49を介して、滅菌処理室(23,53,54,62)を減圧する真空ポンプ31を備える。滅菌処理室(23,53,54,62)の設ける排気側配管63の位置は、図1に示す位置に限定されるものではなく、滅菌処理室(23,53,54,62)の他の箇所でも構わない。排気側バルブ49は、排気コンダクタンスが調整可能なバリアブルコンダクタンスバルブを用いるのが好ましい。図1では図示を省略しているが、詳細には圧力ゲージを処理ガス排気手段(63,49,31)において、真空ポンプ31の上流側に設けても良いことは、当業者に容易に理解できるであろう。又、圧力ゲージ及び流量を制御するマスフローコントローラを、処理ガス導入手段(33,61,48)を構成する吸気側配管61に設け、処理ガス排気手段(63,49,31)側において、バリアブルコンダクタンスバルブである排気側バルブ49で排気コンダクタンスを調整し、圧力を制御するようにしても良い。
但し、第1の実施の形態に係る滅菌装置を構成するプラズマ発生手段(11b,12,14)は、大気圧でもプラズマを発生可能であるので、大気圧におけるプラズマ放電を利用する場合は、処理ガス排気手段(63,49,31)の真空ポンプ31は、省略可能である。
図1では、第2電極12が接地され陰極として機能し、対応して第1電極11bに高圧が印加され陽極として機能している場合を例示している。パルス電源14の極性を逆にして、第2電極12を陽極、第1電極11bを陰極としても良い。第1電極11bを陰極とした場合は、第1電極11bを板状電極として接地され、第2電極12を梯子型電極として高圧が印加され、整流手段(62,65、66b、25b)は第2電極12側に設けられる。
パルス電源14には、静電誘導型サイリスタ(以下、「SIサイリスタ」と言う。)を用いた誘導エネルギ蓄積型電源回路を採用することが望ましい。誘導エネルギ蓄積型電源回路は、SIサイリスタのクロージングスイッチ機能の他、オープニングスイッチング機能を用いてターンオフを行い、当該ターンオフによりSIサイリスタのゲート・アノード間に高圧を発生させている。尚、誘導エネルギ蓄積型電源回路の詳細は、飯田克二、佐久間健:「誘導エネルギ蓄積型パルス電源」,第15回SIデバイスシンポジウム(2002)に記載されている。
先ず、図3を参照して、誘導エネルギ蓄積型電源回路の構成について説明する。誘導エネルギ蓄積型電源回路は、低電圧直流電源131を備える。低電圧直流電源131の電圧Eは、誘導エネルギ蓄積型電源回路が発生させる電気パルスの電圧のピーク値より著しく低いことが許容される。例えば、後述するインダクタ133の両端に発生させる電圧VLのピーク値VLPが数kVに達しても、低電圧直流電源131の電圧Eは数10Vであることが許容される。電圧Eの下限は後述するSIサイリスタ134のラッチング電圧以上で決定される。誘導エネルギ蓄積型電源回路は、低電圧直流電源131を電気エネルギ源として利用可能であるので、小型・低コストに構築可能である。誘導エネルギ蓄積型電源回路は、低電圧直流電源131に並列接続されるコンデンサ132を備える。コンデンサ132は、低電圧直流電源131のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低電圧直流電源131の放電能力を強化する。
更に、誘導エネルギ蓄積型電源回路は、インダクタ133、SIサイリスタ134、MOSFET135、ゲート駆動回路136及びダイオード137を備える。誘導エネルギ蓄積型電源回路では、低電圧直流電源131の正極とインダクタ133の一端とが接続され、インダクタ133の他端とSIサイリスタ134のアノードとが接続され、SIサイリスタ134のカソードとFET135のドレインとが接続され、FET135のソースと低電圧直流電源131の負極とが接続されている。又、誘導エネルギ蓄積型電源回路では、SIサイリスタ134のゲートとダイオード137のアノードとが接続され、ダイオード137のカソードとインダクタ133の一端(低電圧直流電源131の正極)とが接続される。FET135のゲート及びソースには、ゲート駆動回路136が接続される。
SIサイリスタ134は、ゲート信号に応答して、ターンオン及びターンオフが可能である。FET135は、ゲート駆動回路136から与えられるゲート信号Vcに応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。FET135のオン電圧又はオン抵抗は低いことが望ましい。又、FET135の耐圧は低電圧直流電源131の電圧Eより高いことを要する。ダイオード137は、SIサイリスタ134のゲートに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、即ち、SIサイリスタ134のゲートに正バイアスを与えた場合にSIサイリスタ134が電流駆動とならないようにするために設けられる。インダクタ133は、自己インダクタンスを有する誘導性素子として機能しており、その両端には、負荷139が並列接続される。負荷139は、図1の第2電極12と第1電極11bとの間が対応する。尚、昇圧トランスの1次側をインダクタ133として用いて、昇圧トランスの2次側の両端に負荷139を接続すれば、電圧のピーク値がより高い電気パルスを得ることができる。
パルス電源14は、アーク放電を引き起こさずにファインストリーマ放電を引き起こす電気パルスを、第2電極12と第1電極11bとの間に繰り返し印加する。具体的には、パルス電源14は、パルス幅が半値幅で10〜500nsの電気パルスを第2電極12と第1電極11bとの間に繰り返し印加する。パルス電源14が第2電極12と第1電極11bとの間に印加する電気パルスの電圧波形及び電流波形の一例を図4に示す。図4には、電気パルスの電圧V2及び電流I2(縦軸)の時間(横軸)に対する変化が示されており、パルス幅は、半値幅で約100nsとなっている。第1の実施の形態に係る滅菌装置においては、全体として平行平板電極を構成する第1電極11bと第2電極12間の距離を15mmとした場合、高電圧パルスの繰り返し周波数2kHz,電圧波高値24kV程度が、好適である。高電圧パルスの繰り返し周波数2kHzの場合は、繰り返し周期が500μsであので、パルス幅が100nsであれば、デューティ比は0.1/500=0.002となるので、高周波放電の場合のように、熱プラズマが生成されることなく、非熱平衡低温プラズマが安定且つ効率良く生成される。第1の実施の形態に係る滅菌装置においては、デューティ比がほぼ10−7〜10−1の範囲となるようなパルスを印加すれば、熱プラズマが生成されることなく、非熱平衡低温プラズマが安定且つ効率良く生成される。好ましくは、デューティ比0.0005〜0.04程度、より好ましくはデューティ比0.001〜0.02程度にすれば良い。パルス幅は陽極・陰極間の間隔と密接な適正関係を有する。放電電極間に電圧印加開始され、放電開始から電圧印加時間経過とともに放電はグロー放電からストリーマ放電、更にファインストリーマ放電を経てアーク放電に至る。電流と熱損失、電極磨耗を伴うアーク放電に至らずプラズマ入力パワーを最大にする放電はファインストリーマ放電と考える。そのためには適切なパルス幅が存在する。アーク放電に至る前にパルス電圧印加がなくなるよう、陽極・陰極間間隔、放電状態に合わせ設定されるのが理想的である。
図5を参照して、図3に示した誘導エネルギ蓄積型電源回路の動作について説明する。図5は、上から順に、(a)FET135に与えられるゲート信号Vcの時間(横軸)に対する変化、(b)SIサイリスタ134の導通状態の時間(横軸)に対する変化、(c)インダクタ133に流れる電流ILの時間(横軸)に対する変化、(d)インダクタ133の両端に発生する電圧VLの時間(横軸)に対する変化、(e)SIサイリスタ134のアノード・ゲート間の電圧VAG(縦軸)の時間(横軸)に対する変化を示している。
(イ)先ず、図5(a)に示すように、時刻t0にゲート信号VcがOFFからONに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間は導通状態となる。これにより、SIサイリスタ134のゲートがアノードに対して正バイアスされるので、図5(b)に示すように、SIサイリスタ134のアノード・カソード(A−K)間は導通状態となり、図5(c)に示すように、電流ILが増加し始める。
(ロ)電流ILがピーク値ILPに達するあたりの時刻t1に、図5(a)に示すように、ゲート信号VcがONからOFFに切り替わると、FET135のドレイン・ソース間が非導通状態となり、図5(b)に示すように、SIサイリスタ134のアノード・ゲート(A−G)間が導通状態となる。これにより、図5(b)に示すように、時刻t2から時刻t3にかけて、SIサイリスタ134における空乏層の拡大に同期して、図5(c)に示すように、電流ILが減少するとともに、図5(d)に示す電圧VL及び図5(e)に示す電圧VAGが急激に上昇する。
(ハ)そして、時刻t3において図5(d)に示す電圧VL及び図5(e)に示す電圧VAGがそれぞれピーク値VLp及びピーク値VAGpに達して、図5(c)に示すように、電流ILの向きが反転する。その後は、図5(b)に示すような時刻t3から時刻t4にかけて、SIサイリスタ134における空乏層の縮小に同期して、図5(c)に示すように、電流ILが増加するとともに、図5(d)に示す電圧VL及び図5(e)に示す電圧VAGが急激に低下する。
(ニ)そして、時刻t4において、図5(b)に示すように、SIサイリスタ134が非導通状態となると、図5(c)に示すように、時刻t5に向かって電流ILが減少するとともに、図5(d)に示す電圧VL及び図5(e)に示す電圧VAGは0になる。
図6は、図1に示す第1電極11bの凸部のいずれかを等価的な陽極81で表し、第2電極12を等価的な陰極82で表した場合において、等価陽極81及び等価陰極82間への電気パルスの印加によって引き起こされる放電の状態と電気パルスの電圧概略波形(無負荷時)とを模式的に示す図である。
図6において、電気パルスの電圧概略波形は、電圧V(縦軸)の時間t(横軸)に対する変化を示すグラフによって表されている。図6に示すように、電気パルスのパルス幅Δtが概ね100nsに達すると、正イオンが等価陰極82に衝突する際に放出された2次電子が処理ガス分子を電離させて新たな正イオンを発生させるグロー放電が引き起こされる。一方、電気パルスの立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtが概ね30〜50kV/μsである場合、パルス幅Δtが概ね100nsに達すると、等価陽極81から等価陰極82へ向かうストリーマ83の成長が始まる。そして、パルス幅Δtが概ね100〜400nsである場合、ストリーマ83の成長は、等価陽極81と等価陰極82との間に短いストリーマ83が散点する初期段階で終了する。一方、パルス幅Δtが概ね500〜1000nsである場合、ストリーマ83が本格的に成長し、等価陽極81と等価陰極82との間に枝分かれした長いストリーマ83が存在する状態となる。本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置では、ストリーマ83の成長が進んで等価陽極81と等価陰極82とが導通してしまわないように、ストリーマ83の成長の初期段階で放電を停止するファインストリーマ放電を用いる。
放電の均一性に優れるファインストリーマ放電を用いれば、滅菌処理を均一に実施することができるからである。更に、パルス幅Δtが概ね1000nsに達すると、局部的な電流集中がおき、最終的にアーク放電が引き起こされる。
上述の説明で、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtの範囲について「概ね」としているのは、これらは、等価陽極81及び等価陰極82間の間隔、等価陽極81及び等価陰極82の構造ならびに窒素雰囲気の圧力等のプラズマ処理装置の具体的構成に依存して変化するためである。したがって、ファインストリーマ放電となっているか否かは、パルス幅Δtや立ち上がり時の電圧Vの時間上昇率dV/dtだけでなく、実際の放電を観察して判断すべきであるが、より一般的には、パルスの電圧の最大立ち上がり率dV/dtが10kV/μs〜1000kV/μs程度の範囲内で選択すれば良い。
又、電気パルスの電圧概略波形について「無負荷時」としているのは、同じ条件でパルス電源を動作させても、等価陽極81及び等価陰極82間の間隔ならびに等価陽極81及び等価陰極82の構造等のプラズマ処理装置の具体的構成が変化すれば、等価陽極81及び等価陰極82間に実際に印加される電気パルスの電圧概略波形が異なってくるからである。
図7を用いて、図1を参照しながら、本発明の第1の実施の形態に係る滅菌方法を説明する。尚、以下に述べる滅菌方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。以下の説明では、被処理物30を手術室の床に落下等して、図7(a)に示すように、被処理物30の表面にゴミ301が付着したものとする。そして、このゴミ301の内部には細菌や微生物(以下において、細菌や微生物を単に「菌」と呼ぶこととする。)302aが含まれているものとする。更に、被処理物30の表面にも菌302aが付着したとする。
(イ)先ず、図1に示す滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に被処理物30を収納する。この際、滅菌状態をモニタするために、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部には、被処理物30と同時に周知の滅菌検知インジケータを併置しておくのが好ましい。そして、水蒸気導入手段(1,71,44,72,45)の水蒸気制御バルブ44を開け、シャワー45からは、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に水蒸気を噴霧し、図7(b)に示すように、被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに水粒子303を吸着させる。
(ロ)水蒸気制御バルブ44を閉じ、水蒸気の噴霧を停止後、電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)の電磁波発生装置2aを起動し、インピーダンスマッチング装置43aを用いて、出力を調整しながら、アンテナ部41aから被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに向けて電磁波hνを1〜3分程度、照射する。電磁波発生装置2aの電源側のオン・オフの切り換えにより、電磁波hνの照射のオン・オフを切り換えても良く、或いは、電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)に図示を省略した可変アッテネータやサーキュレータを挿入し、電磁波hνの照射のオン・オフを切り換えても良い。2.45GHz帯のマイクロ波を用いれば、被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに吸着した水粒子303が有効に加熱されるため、これにより被処理物30の表面に付着したゴミ301や菌302aが加熱される。被処理物30の表面に付着したゴミ301が加熱されることにより、図7(c)に示すように、ゴミ301の内部に含まれている菌302aが加熱され、菌302aが衰弱若しくは死滅する。同時に、被処理物30の表面に付着した菌302aも、水粒子303の電磁波hνによる加熱により、衰弱若しくは死滅する。図7(c)において、符号302bは衰弱した菌を示し、符号302cは瀕死状態の菌を示す。2.45GHz帯のマイクロ波は、水の吸収帯の波長であるので、被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに吸着した水粒子303の加熱に有効であるが、テラヘルツ帯の電磁波を用いて、菌302aの分子レベルの固有振動の電磁波を印加し、共鳴振動により菌302aを機械的に破壊しても良い。或いは、2.45GHz帯のマイクロ波とテラヘルツ帯の電磁波を交互、又は同時に供給可能なように、電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)を2系統設けても良い。
(ハ)電磁波hνの照射を停止後、処理ガス導入手段(33,61,48)の吸気側バルブ48を開き、整流手段(62,65、66b、25b)を介して、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に処理ガスを均一に分布するように導入する。処理ガスとしては例えば窒素(N2)ガスを導入する。被処理物30を囲む密閉空間で放電を起こさせるためには,滅菌処理室(23,53,54,62)の内部の気体圧力P2を、大気圧P3=101kPaと等しいか80〜90kPa程度に大気圧P3よりも極く僅か低い値に下げるようにすれば良い。滅菌処理室(23,53,54,62)の内部の気体圧力P2=80〜90kPa程度にする場合は、処理ガス排気手段(63,49,31)の真空ポンプ31を用いて減圧すれば良いが、気体圧力P2を、大気圧P3=101kPaとする場合は、真空ポンプ31を動作させる必要はない。そして、滅菌処理室(23,53,54,62)に、整流手段(62,65、66b、25b)から処理ガスがシャワー状に供給された状態で、第1電極11b及び第2電極12間には、図4に示すような高繰り返しの高電圧パルスを印加すれば、ファインストリーマ放電により、非熱平衡低温プラズマが、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部に形成され、図7(d)に示すように、ゴミ301の内部に含まれている衰弱した菌302bや瀕死状態の菌302cが非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により、更に衰弱若しくは死滅する。同時に、被処理物30の表面に付着した衰弱した菌302aも、非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により、衰弱若しくは死滅する。図7(d)において、符号302dは死滅した菌を示す。図7(d)に示す状態においては、図7(c)において導入した水粒子303が残留しているので、非熱平衡低温プラズマにより窒素ラジカル(N2 *)の他OHラジカル(OH*)、及びオゾン(N3)が生成され、これらの集合的な効果により、衰弱した菌302bや瀕死状態の菌302cが更に衰弱若しくは死滅する。
(ニ)更に、ファインストリーマ放電による非熱平衡低温プラズマを用いた滅菌を継続すると、図7(e)に示すように、ゴミ301の内部に含まれている瀕死状態の菌302cも非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により死滅する。図7(d)の状態と図7(e)の状態とを合わせて、3〜10分程度、ファインストリーマ放電による非熱平衡低温プラズマを用いた滅菌を継続すれば良い。3〜10分程度のファインストリーマ放電により、被処理物30の表面に付着した瀕死状態の菌302cも非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により死滅する。図7(e)に示す状態においては、図7(c)において導入した水粒子303は、蒸発しており、OHラジカル(OH*)やオゾン(N3)の効果はもはや期待されず、主に、窒素ラジカル(N2 *)が瀕死状態の菌302cを死滅させる。滅菌状態のモニタは、被処理物30に併置した滅菌検知インジケータで確認すれば良い。
以上説明したとおり、本発明の第1の実施の形態に係る滅菌方法によれば、被処理物の表面にゴミ(付着物質)301が付着した場合でも、滅菌が可能となる。又、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部の気体圧力P2を大気圧P3=101kPaにしたまま、非熱平衡低温プラズマを生成できるので、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部を減圧にするための時間が不要であり、短時間で滅菌可能である。又、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部を減圧にする場合でも、大気圧P3=101kPaに近い80〜90kPa程度で良いので、減圧にするための時間は、滅菌処理室全体の圧力を67Pa〜1.3kPa程度まで減圧する従来のガスプラズマ法に比し、遙かに短時間であり、効率的な滅菌が可能である。又、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部を80〜90kPa程度まで減圧すれば良いので、簡易な真空ポンプ31で対応可能であり、装置コストや維持コストが安くなる利点を有する。但し、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部の圧力を更に減圧して、20kPa〜100kPaの範囲の処理圧力に調整しても構わない。
尚、ゴミ(付着物質)301の付着量が多い場合や、菌302aの付着数が高い場合は、滅菌検知インジケータで確認しながら、上記(ロ)〜(ニ)までの工程を、完全に滅菌されるまで繰り返せば良い。
7953による測定では、10
4個の菌が塗布された被処理物30の場合、(ロ)の電磁波hνを2分照射し、その後、(ハ)と(ニ)を合わせて5分の非熱平衡低温プラズマの照射する、合計7分間の処理で、ゴミがなければ100%の滅菌率であるが、ゴミがある場合は、75%程度となる場合がある。ここで滅菌率η(%)は滅菌成功数をA、処理数をBとして、
η=(A/B)×100
で定義される。このような場合であっても、(ロ)〜(ニ)までの工程を2回繰り返す、合計14分間の処理で、ほぼ100%の滅菌率となる。又、(ロ)〜(ニ)までの工程を2回繰り返せば、10
5個の菌が塗布された被処理物30でも、ほぼ100%の滅菌率が期待できる。更に、(ロ)〜(ニ)までの工程を3回繰り返す、合計21分間の処理で、10
6個の菌が塗布された被処理物30でも、ほぼ100%の滅菌率となるが、具体的な処理時間と繰り返し回数は、菌の種類、菌やゴミの付着の状況等に依存するので、滅菌検知インジケータで確認しながら決めれば良い。
なお、図7では、図示を省略しているが、被処理物30に菌302aが付着している場合で、その菌302aを覆いつくす大きさのゴミが菌302aの上をカバーしている場合でも同様な効果が得られる。
上記のように、本発明の第1の実施の形態に係る滅菌方法の一つの特徴は、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部を減圧にするための時間が不要、若しくは、滅菌処理室(23,53,54,62)の内部を減圧にするための時間が非常に短いことであるが、例えば、上記(ロ)の工程の前、或いは、上記(ニ)の工程等の前に、滅菌処理室全体の圧力を67Pa〜1.3kPa程度まで減圧する工程を加えることを禁止するものではない。上記(ロ)の工程の前、或いは、上記(ニ)の工程の前に、滅菌処理室全体の圧力を67Pa〜1.3kPa程度まで、或いは更に低圧に減圧する工程を加えれば、短時間で処理できるという特徴が失われ、装置コストや維持コストが安くなる利点が薄らぐが、反面、より安定した非熱平衡低温プラズマが、より清浄な環境で生成可能となる利点もあるので、滅菌の目的により使い分ければ良い。
いずれにせよ、従来のガスプラズマ法に比し高い効率で滅菌可能であり、又、2.45GHz帯のマイクロ波を用いた加熱滅菌に比しても、高い効率で滅菌可能であり、特に、被処理物の表面にゴミ(付着物質)301が付着した場合その効果が顕著となる。
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態に係る滅菌装置とほぼ同様であるが、本発明の第2の実施の形態に係る滅菌装置は、図8に示すように、滅菌対象である被処理物30を収納し、被処理物30を囲む密閉空間を構成する滅菌処理室(22,39)と、この滅菌処理室(22,39)の内部にプラズマを発生させるプラズマ発生手段(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3,12,14)と、滅菌処理室(22,39)の内部に水蒸気を導入する水蒸気導入手段(1,71,44,72,45)と、滅菌処理室(22,39)の内部に処理ガスを導入する処理ガス導入手段(61,48)と、滅菌処理室(22,39)に収納された被処理物30に電磁波を照射する電磁波照射手段(2b,43b,42b,41b)とを備える。滅菌処理室(22,39)は、図8に示すように、箱形のケース22とケース22の下方に位置する底板39とで、バッチ式の容器として構成されている。
図1に示した第1の実施の形態に係る滅菌装置の構造とは異なり、第2の実施の形態に係る滅菌装置においては、滅菌処理室(22,39)を構成している底板39の上には、断熱材32が配置され、この断熱材32の上に、電気的に絶縁されたヒータ38が設けられ、被処理物加熱手段(32,38)を更に備える。被処理物30は、被処理物加熱手段(32,38)により所望の温度まで加熱されることが可能である。滅菌処理室(22,39)は、第1の実施の形態に係る滅菌装置と同様に、前面に設けられたドアが開かれた状態においては、滅菌処理室(22,39)の内部への被処理物30の収容及び内部からの被処理物30の取り出しが可能な状態となり、ドアが閉じられた状態においては、滅菌処理室(22,39)の内部は、密閉された状態となる。
第2の実施の形態に係る滅菌装置を構成するプラズマ発生手段(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3,12,14)は、図8に示すように、滅菌対象である被処理物30を挟むように互いに対峙して配置され、全体として平行平板電極を構成する分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)及び第2電極12と、被処理物30の表面を含む密閉空間にファインストリーマ放電を引き起こす電気パルス(主パルス)を分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)及び第2電極12間に印加するパルス電源14とを備える。パルス電源14には、第1の実施の形態に係る滅菌装置と同様にSIサイリスタを用いた誘導エネルギ蓄積型電源回路を採用することが望ましい。分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)は、複数の板状(ブレード状)のアノード埋込ブレードの並列配置から構成されている。図8では、第1のアノード埋込ブレード(9l-1,;11l-1)、 第2のアノード埋込ブレード(9l-2,;11l-2)及び第3のアノード埋込ブレード(9l-3,;11l-3)の3枚の板状のアノード埋込ブレードが並列に等間隔で配置された構造が示されているが、例示であり、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置のアノード埋込ブレードの枚数が3枚に限定される理由はなく、4枚以上等、適宜増やすことが可能である。「全体として平行平板電極を構成する」と記載したのは、図8に示すように、陽極が平板構造ではなく、複数の板状(ブレード状)のアノード埋込ブレードの並列配置から構成され、それぞれのアノード埋込ブレーの先端を放電箇所としているからである。この場合は、分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)は複数の線状の電極を並列に周期配置した梯子型の電極に等価であるが、分割型アノード電極(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3)と第2電極12とのなす全体の構造は、おおよそ「平行平板電極」と近似することができるという意味である。第2電極12の上に、高純度石英ガラス等の第2電極被覆絶縁膜23が設けられている。
滅菌処理室(22,39)の内部に水蒸気を導入する水蒸気導入手段(1,71,44,72,45)は、第1の実施の形態に係る滅菌装置と同様に、水蒸気供給源1と、第1の水蒸気配管71、水蒸気制御バルブ44と、第2の水蒸気配管72と、第2の水蒸気配管72の先端に設けられたシャワー45とを備える。
被処理物30に電磁波を照射する電磁波照射手段(2b,43b,42b,41b)も第1の実施の形態に係る滅菌装置と同様に、電磁波発生装置2bと、インピーダンスマッチング装置43bと、伝送線路42bと、アンテナ部41bとを備える。電磁波発生装置2bとしては、100MHz以上の高周波の電磁波を発生する装置が好ましく、マイクロ波帯でもテラヘルツ帯の電磁波を発生する装置でも構わない。アンテナ部(電磁波照射端子)41bとしては、パラボラアンテナ、ホーンアンテナ、ループアンテナ等が使用可能であるが、図8ではループアンテナを用いた場合を例示している。
周知のように、ループアンテナでは電磁波の波長λより十分離れた遠方界領域では、ループ面の方向に最大の電力が放射され、ループ面に垂直方向の電力は最小となるので、アンテナの指向性を考慮してループ面の方向を選択すれば良い。ループアンテナの大きさは、放射効率を高めるために、ループ長を電磁波の共振波長λに近づけることが良い。30GHz〜300GHzのミリ波(EHF)帯以上の高周波にすることにより、ループ径を簡単に1mm以下にできる。但し、ループアンテナの形状は、特に限定はなく、同軸線と結合した円形、楕円形、扁平円形、矩形、三角(デルタ)形、五角形以上の多角形等の種々の形状のループアンテナが使用できる(多角形は正多角形である必要はない。)。ループアンテナが小型化した場合は、高周波伝送線路を構成する信号線の先端をフォトリソグラフィの技術で、円形、楕円形、扁平円形、矩形、三角形、五角形以上の多角形等の種々の形状にパターニングすれば良い。ループアンテナの外径だけでなく、高周波伝送線路の寸法も、伝搬する電磁波の波長の影響を受ける場合があるので、ミリ波(EHF)帯以上の高周波の電磁波を用いることにより、プラズマ発生手段(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3,12,14)のプラズマ空間の電界を乱さないような構成が可能になる。伝送線路42bには、図8では同軸ケーブルを示しているが、同軸ケーブルの他、導波管、マイクロストリップ線路、コプレーナ導波路などの周知の高周波伝送線路が採用可能である。
滅菌処理室(22,39)の内部に処理ガスを導入する処理ガス導入手段(61,48)は、図8では図示を省略したガス源と、このガス源に接続された吸気側配管61と、吸気側配管61に接続された吸気側バルブ48とを備える。吸気側バルブ48には、ガスの流量調整が容易なニードルバルブ等を採用することが好ましい。処理ガスとしては、第1の実施の形態に係る滅菌装置で説明したとおり、窒素ガス、過酸化水素やハロゲン系の化合物ガス等の種々の活性なガス、若しくは、これらの活性なガスのいずれかと窒素ガスの混合ガス等、種々の他のガスが採用可能である。
処理ガス導入手段(61,48)には、分割型アノード電極(9l−1,9l−2,9l−3;11l−1,11l−2,11l−3)側から処理ガスを、陰極としての第2電極12側に向かってシャワー状に均一化した給気し、滅菌処理室(22,39)から処理ガスを排気させるように、処理ガスの流れを整流する整流板21を更に備えることが好ましい。整流板21は、第1の実施の形態に係る滅菌装置の整流手段(62,65、66b、25b)に対応するものであるが、図2に示したのと同様な、一定ピッチで2次元マトリクス状の貫通孔が整流板21に開口されている。
本発明の第2の実施の形態に係る滅菌装置も第1の実施の形態に係る滅菌装置と同様に、更に、滅菌処理室(22,39)の内部に導入された処理ガスを排気する処理ガス排気手段(63,49,31)を備えても良い。図8に示すように、処理ガス排気手段(63,49,31)は、滅菌処理室(22,39)の一部に設けられた排気側配管63と、排気側配管63に接続された排気側バルブ49と、排気側配管63及び排気側バルブ49を介して、滅菌処理室(22,39)を減圧する真空ポンプ31を備える。但し、第2の実施の形態に係る滅菌装置を構成するプラズマ発生手段(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3,12,14)は、大気圧でもプラズマを発生可能であるので、大気圧におけるプラズマ放電を利用する場合は、処理ガス排気手段(63,49,31)の真空ポンプ31は、省略可能である。
本発明の第2の実施の形態に係る滅菌方法によれば、被処理物30を被処理物加熱手段(32,38)により75℃〜100℃等の所望の温度まで加熱した状態で、電磁波の照射及び非熱平衡低温プラズマによる活性粒子の照射が可能となるので、より確実な滅菌が可能となる。特に、被処理物の表面にゴミ(付着物質)301が付着した場合でも、被処理物30を所望の温度まで加熱した状態で、電磁波及び活性粒子を菌302a〜302cに照射できるので、より確実且つ効率的な滅菌が可能となる。
又、第1の実施の形態に係る滅菌装置で説明したように、滅菌処理室(22,39)の内部の気体圧力P2を大気圧P3=101kPbにしたまま、非熱平衡低温プラズマを生成できるので、滅菌処理室(22,39)の内部を減圧にするための時間が不要であり、短時間で滅菌可能である。又、滅菌処理室(22,39)の内部を減圧にする場合でも、大気圧P3=101kPbに近い80〜90kPb程度で良いので、減圧にするための時間は、滅菌処理室全体の圧力を67Pb〜1.3kPb程度まで減圧する従来のガスプラズマ法に比し、遙かに短時間であり、効率的な滅菌が可能である。又、滅菌処理室(22,39)の内部を80〜90kPb程度まで減圧すれば良いので、簡易な真空ポンプ31で対応可能であり、装置コストや維持コストが安くなる利点を有する。
(第3の実施の形態)
第2の実施の形態に係る滅菌装置とほぼ同様であるが、本発明の第3の実施の形態に係る滅菌装置は、図9に示すように、滅菌対象である被処理物30を収納し、被処理物30を囲む密閉空間を構成する滅菌処理室(22,39)と、この滅菌処理室(22,39)の内部にプラズマを発生させるプラズマ発生手段(9l-1,9l-2,9l-3;11l-1,11l-2,11l-3,12,14)と、滅菌処理室(22,39)の内部に水蒸気を導入する水蒸気導入手段(1,71,44,73)と、滅菌処理室(22,39)の内部に処理ガスを導入する処理ガス導入手段(61,48)と、滅菌処理室(22,39)に収納された被処理物30に電磁波を照射する電磁波照射手段(2b,43b,42b,41b)とを備える。滅菌処理室(22,39)は、図9に示すように、箱形のケース22とケース22の下方に位置する底板39とで、バッチ式の容器として構成されている。図8に示した第2の実施の形態に係る滅菌装置の構造と同様に、第3の実施の形態に係る滅菌装置においては、滅菌処理室(22,39)を構成している底板39の上には、断熱材32が配置され、この断熱材32の上に、電気的に絶縁されたヒータ38が設けられ、被処理物加熱手段(32,38)を更に備える。被処理物30は、被処理物加熱手段(32,38)により所望の温度まで加熱されることが可能である。
滅菌処理室(22,39)の内部に水蒸気を導入する水蒸気導入手段(1,71,44,73)は、第2の実施の形態に係る滅菌装置と同様に、水蒸気供給源1と、第1の水蒸気配管71、水蒸気制御バルブ44と、第2の水蒸気配管72と、第2の水蒸気配管72を備えるが、第2の水蒸気配管72は、処理ガス導入手段(61,48)の吸気側バルブ48が接続された箱形のケース22の天井部に接続されている。このため、処理ガス導入手段(61,48)から整流板21を介して、第2電極12側に向かって処理ガスがシャワー状に均一化して導入されると同様に、水蒸気導入手段(1,71,44,73)から供給される水蒸気も、整流板21を介してシャワー状に導入される。
他の構成は、第2の実施の形態に係る滅菌装置と実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。
第1の実施の形態に係る滅菌方法で説明した図7を転用して、図9を参照しながら、本発明の第3の実施の形態に係る滅菌方法を説明する。尚、以下に述べる滅菌方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。第1の実施の形態に係る滅菌方法と同様に、以下の説明では、被処理物30を手術室の床に落下等して、図7(a)に示すように、被処理物30の表面にゴミ301が付着したものとする。そして、このゴミ301の内部には菌302aが含まれているものとする。更に、被処理物30の表面にも菌302aが付着したとする。
(イ)先ず、図9に示す滅菌処理室(22,39)の内部に被処理物30を収納する。この際、滅菌状態をモニタするために、滅菌処理室(22,39)の内部には、被処理物30と同時に周知の滅菌検知インジケータを併置しておくのが好ましい。そして、被処理物加熱手段(32,38)により、被処理物30を75℃〜100℃に加熱した状態で、水蒸気導入手段(1,71,44,73)の水蒸気制御バルブ44を開け、整流板21を介して、滅菌処理室(22,39)の内部に水蒸気を噴霧し、図7(b)に示すように、被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに水粒子303を吸着させる。
(ロ)被処理物加熱手段(32,38)による被処理物30の加熱を維持しつつ、水蒸気制御バルブ44を閉じ、水蒸気の噴霧を停止後、電磁波照射手段(2a,43a,42a,41a)の電磁波発生装置2aを起動し、インピーダンスマッチング装置43aを用いて、出力を調整しながら、アンテナ部41aから被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに向けて電磁波hνを照射する。2.45GHz帯のマイクロ波を用いれば、被処理物30の表面のゴミ301や菌302aに吸着した水粒子303が有効に加熱されるため、これにより被処理物30の表面に付着したゴミ301や菌302aが加熱される。被処理物30の表面に付着したゴミ301が加熱されることにより、図7(c)に示すように、ゴミ301の内部に含まれている菌302aが加熱され、菌302aが衰弱若しくは死滅する。同時に、被処理物30の表面に付着した菌302aも、水粒子303の電磁波hνによる加熱により、衰弱若しくは死滅する。
(ハ)被処理物加熱手段(32,38)による被処理物30の加熱を維持したまま、電磁波hνの照射を停止後、処理ガス導入手段(61,48)の吸気側バルブ48を開き、整流板21を介して、滅菌処理室(22,39)の内部に処理ガスを均一に分布するように導入する。処理ガスとしては例えば窒素(N2)ガスを導入する。同時に、水蒸気導入手段(1,71,44,73)の水蒸気制御バルブ44を開け、整流板21を介して、滅菌処理室(22,39)の内部に水蒸気を噴霧する。被処理物30を囲む密閉空間で放電を起こさせるためには,滅菌処理室(22,39)の内部の気体圧力P2を、大気圧P3=101kPaと等しいか80〜90kPa程度に大気圧P3よりも極く僅か低い値に下げるようにすれば良い。そして、滅菌処理室(22,39)に、整流板21から処理ガスがシャワー状に供給された状態で、第1電極11b及び第2電極12間には、図4に示すような高繰り返しの高電圧パルスを印加すれば、ファインストリーマ放電により、非熱平衡低温プラズマが、滅菌処理室(22,39)の内部に形成され、図7(d)に示すように、ゴミ301の内部に含まれている衰弱した菌302bや瀕死状態の菌302cが非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により、更に衰弱若しくは死滅する。同時に、被処理物30の表面に付着した衰弱した菌302aも、非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により、衰弱若しくは死滅する。図7(d)において、符号302dは死滅した菌を示す。図7(d)に示す状態においては、水蒸気導入手段(1,71,44,73)から導入された水粒子303も存在しているので、非熱平衡低温プラズマにより窒素ラジカル(N2 *)の他OHラジカル(OH*)、及びオゾン(N3)が生成され、これらの集合的な効果により、衰弱した菌302bや瀕死状態の菌302cが更に衰弱若しくは死滅する。
(ニ)更に、被処理物加熱手段(32,38)による被処理物30の加熱、及び処理ガスと水蒸気の導入を維持しながら、ファインストリーマ放電による非熱平衡低温プラズマを用いた滅菌を継続する。この場合、図7(e)では、窒素ラジカル(N2 *)のみが活性である図になっているが、第3の実施の形態に係る滅菌方法では、窒素ラジカル(N2 *)と共に、OHラジカル(OH*)及びオゾン(N3)が継続的に生成され、ゴミ301の内部に含まれている瀕死状態の菌302cも非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により死滅する。同時に、被処理物30の表面に付着した瀕死状態の菌302cも非熱平衡低温プラズマに含まれる活性粒子により死滅する。
なお、菌302aを覆いつくす大きさのゴミの下に、菌302aが下敷きになっている場合であっても、同様な効果が得られることは、第1の実施の形態に係る滅菌方法と同様である。
以上説明したとおり、本発明の第3の実施の形態に係る滅菌方法によれば、窒素ラジカル(N2 *)、OHラジカル(OH*)及びオゾン(N3)が長時間継続的に生成されるので、被処理物の表面にゴミ(付着物質)301が付着した場合でも、十分な滅菌が可能となる。又、滅菌処理室(22,39)の内部の気体圧力P2を大気圧P3=101kPaにしたまま、非熱平衡低温プラズマを生成できるので、滅菌処理室(22,39)の内部を減圧にするための時間が不要であり、短時間で滅菌可能である。又、滅菌処理室(22,39)の内部を減圧にする場合でも、大気圧P3=101kPaに近い80〜90kPa程度で良いので、減圧にするための時間は、滅菌処理室全体の圧力を67Pa〜1.3kPa程度まで減圧する従来のガスプラズマ法に比し、遙かに短時間であり、効率的な滅菌が可能である。又、滅菌処理室(22,39)の内部を80〜90kPa程度まで減圧すれば良いので、簡易な真空ポンプ31で対応可能であり、装置コストや維持コストが安くなる利点を有する。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第3の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、第1〜第3の実施の形態で説明したそれぞれの技術的思想を互いに組み合わせることも可能である。例えば、第1の実施の形態で説明した構造に、第2及び第3の実施の形態で説明した被処理物加熱手段(32,38)を更に付加しても構わない。又、第1及び第2の実施の形態で説明した構造において、第3の実施の形態で説明したような箱形のケース22の天井部に接続された水蒸気導入手段(1,71,44,73)と、シャワー45を備えた水蒸気導入手段(1,71,44,72,45)との2系統の水蒸気導入手段を設けるようにしても良い。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。