本発明は、変速機構の変速段の切り換え中に新たな変速段切り換え要求(目標変速段の読み替え要求)が発生して目標変速段が他の変速段に読み替えられた(変更された)ときの変速制御を改善した自動変速機の制御装置に関するものである。
自動車用の自動変速機は、エンジンの動力をトルクコンバータを介して変速機構の入力軸に伝達し、この変速機構で変速して出力軸に伝達し、駆動輪を回転駆動するようにしている。最も一般的な変速機構は、入力軸と出力軸との間に複数の歯車を配列して、入力軸と出力軸との間に変速比の異なる複数の動力伝達経路を構成し、各動力伝達経路中にクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素を設けて、変速段切り換え要求に応じて各摩擦係合要素に作用させる油圧を個別に制御することで、所定の摩擦係合要素に作動油を充填する充填制御や所定の摩擦係合要素から作動油を排出する排出制御を行って各摩擦係合要素の係合と解放を選択的に切り換えて、入・出力軸間の動力伝達経路を切り換えて変速比を切り換えるようにしている。
このような自動変速機は、変速段の切り換え中に新たな変速段切り換え要求が発生して目標変速段が読み替えられると、変速機構の変速段を読み替え後の目標変速段に切り換える多重変速制御が実行されるが、例えば、クラッチ等のシリンダに作動油を充填する制御を行っている途中で、目標変速段の読み替えによって作動油を排出(ドレン)する制御に切り替えられ、その排出制御の途中で、再び目標変速段の読み替えによって充填制御に切り換えられた場合、読み替え前の排出制御によるシリンダからの作動油の抜け具合によっては、再充填時に過充填が発生してクラッチの係合力が急激に大きくなって、変速ショックが発生する可能性がある。
この多重変速制御による変速ショックを防止する技術として、例えば、特許文献1(特許第3291970号公報)に記載されているように、第1の変速段への切り換え中に第2の変速段への切り換え要求が発生した場合に、第1の変速段への切り換えが終了するまで第2の変速段への切り換えを遅らせるようにしたものがある。
しかし、上記特許文献1の技術では、第1の変速段への切り換えが終了するまで第2の変速段への切り換えを遅らせるため、第2の変速段への切り換え終了までの時間が長くかかってしまうという欠点がある。
そこで、特許文献2(特許第3301344号公報)に記載されているように、第1の変速段への切り換え中に第2の変速段への切り換え要求が発生したときに、その要求発生前の変速段である第1の変速段へ切り換える場合に係合される摩擦係合要素の油圧値に基づいて第1の変速段への切り換えの進行状況を判定し、その判定結果に基づいて、多重変速制御による変速ショックが少ないと予測される領域では、第2の変速段への切り換え要求に応じて直ちに第2の変速段へ切り換え、多重変速制御による変速ショックが大きいと予測される領域のみ、第1の変速段への切り換えが終了するまで第2の変速段へ切り換えを遅らせるようにしたものがある。
特許第3291970号公報(第1頁等)
特許第3301344号公報(第1頁、第4頁等)
上記特許文献2の変速制御では、第1の変速段への切り換え中に第2の変速段への切り換え要求が発生したときに、その要求発生前の変速段(第1の変速段)への切り換えの進行状況を、多重変速制御による変速ショックの有無を予測する情報として判定するようにしているが、読み替え後の変速段(第2の変速段)へ切り換える場合に係合される摩擦係合要素(読み替え後に充填制御される摩擦係合要素)の充填状態については全く考慮されていないため、多重変速制御による変速ショックの有無を精度良く予測できない。つまり、読み替え後の変速段(第2の変速段)へ切り換える場合に充填制御される摩擦係合要素の充填制御開始前の作動油の抜け具合によっては、当該摩擦係合要素に充填制御を行うと、過充填が発生して変速ショックが発生する可能性がある。要するに、読み替え前の変速段への切り換えの進行状況と、読み替え後の変速段へ切り換える場合に充填制御される摩擦係合要素の充填制御開始前の作動油の抜け具合とは、全く関係がないため、前者を判定しても、後者が原因となる変速ショックを予測することは不可能であり、多重変速制御時の変速ショックを未然に防止することができない。
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、多重変速制御時の変速ショックを未然に防止することができる自動変速機の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の自動変速機の制御装置は、充填制御を実施する際に、収束させたい油圧よりも高い油圧を指令し、摩擦係合要素への作動油の充填時間を短くする急速充填制御を行う急速充填制御手段と、急速充填制御手段と、変速機構の変速段の切り換え中に新たな変速段切り換え要求が発生して目標変速段が他の変速段に読み替えられたときに変速機構の変速段を読み替え後の目標変速段に切り換える多重変速制御を行う多重変速制御手段を備え、目標変速段の読み替え後に充填制御する予定の摩擦係合要素(以下、「読み替え時充填予定摩擦係合要素」という)に対する充填制御と排出制御の直前の指令履歴に、充填なしの状態から前記急速充填制御を行い、この急速充填制御が終了する前に排出制御に切り換えられたことが記憶されていて、現在、排出制御中であれば、前記読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定する充填状態判定手段と、前記読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であるか否かを充填状態判定手段により判定すると共に、前記読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段の読み替えを多重変速制限手段により制限するようにしたものである。
読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明なときに、新たな変速段切り換え要求に応じて目標変速段の読み替え(多重変速制御)を実行すると、作動油の充填状態が不明な摩擦係合要素に対して充填制御が行われて、過充填による変速ショックが発生する可能性があるため、当該摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明なときに、目標変速段の読み替えを制限(例えば禁止又は遅延)するものである。このようにすれば、多重変速制御時の変速ショックを未然に防止することができる。
また、摩擦係合要素の充填状態は、それまでに実施された充填制御や排出制御の履歴、作動油の温度(作動油の粘性)、作動油が配管内を流れる際の管路抵抗、摩擦係合要素のシリンダ等の容積、変速機構の個体差、運転状態等、種々の要因によって変化するため、摩擦係合要素の充填状態を定量的に推定することは困難であるが、本発明は、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であるか否かだけを判定すれば良く、読み替え時充填予定摩擦係合要素の充填状態を定量的に推定する必要が無いため、比較的簡単に実施することができる。
また、請求項1のように、読み替え時充填予定摩擦係合要素に対する充填制御と排出制御の指令履歴に基づいて読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態を判定するようにすると良い。充填制御と排出制御の履歴によって作動油の充填状態がある程度推定できるためである。
特に、読み替え時充填予定摩擦係合要素に対する直前の指令履歴に、充填なしの状態から前記急速充填制御を行い、この急速充填制御が終了する前に排出制御に切り換えられたことが記憶されていて、現在、排出制御中であれば、前記読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定する充填状態判定手段読み替え時充填予定摩擦係合要素の充填状態が不明であると判定するようにすると良い。充填制御の途中で排出制御に切り換えられるような場合は、その排出制御による作動油の抜け具合が不明である可能性が高いためである。
また、多重変速制御の制限方法としては、請求項2のように、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段の読み替えを禁止するようにしても良い。このようにすれば、変速段の切り換え中に新たな変速段切り換え要求(目標変速段の読み替え要求)が発生しても、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であれば、目標変速段の読み替えが中止されるため、過充填による変速ショックを確実に防止することができる。
また、請求項3のように、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、その充填状態が判明するまで目標変速段の読み替えを遅延させるようにしても良い。このようにすれば、変速段の切り換え中に新たな変速段切り換え要求(目標変速段の読み替え要求)が発生したときに、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であった場合に、その充填状態が判明するまで待って目標変速段の読み替えを行うことができるため、変速ショックを回避しながら目標変速段の読み替えを遅らせて多重変速制御を実行することができる。
また、請求項4のように、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、前記目標変速段を、現在の目標変速段と当初読み替えようとした変速段との間の変速段のなかで充填制御しようとする摩擦係合要素の作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしても良い。このようにすれば、当初読み替えようとした変速段に読み替えると、変速ショックが発生する可能性がある場合に、変速ショックを防止しながら、当初読み替えようとした変速段に近い変速段に読み替えることができる。
或は、請求項5のように、読み替え時充填予定摩擦係合要素の作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段を、当初読み替えようとした変速段に隣接する変速段のなかで充填制御しようとする摩擦係合要素の作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしても良い。このようにしても、上記請求項4と同様の効果を得ることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、次の4つの実施例1〜4を用いて説明する。
本発明の実施例1を図1乃至図11に基づいて説明する。
まず、図1及び図2に基づいて自動変速機11の概略構成を説明する。図2に示すように、エンジン(図示せず)の出力軸には、トルクコンバータ12の入力軸13が連結され、このトルクコンバータ12の出力軸14に、油圧駆動式の変速歯車機構15(変速機構)が連結されている。トルクコンバータ12の内部には、流体継手を構成するポンプインペラ31とタービンランナ32が対向して設けられ、ポンプインペラ31とタービンランナ32との間には、オイルの流れを整流するステータ33が設けられている。ポンプインペラ31は、トルクコンバータ12の入力軸13に連結され、タービンランナ32は、トルクコンバータ12の出力軸14に連結されている。
また、トルクコンバータ12には、入力軸13側と出力軸14側との間を係合又は切り離しするためのロックアップクラッチ16が設けられている。エンジンの出力トルクは、トルクコンバータ12を介して変速歯車機構15に伝達され、変速歯車機構15の複数のギヤ(遊星歯車等)で変速されて、車両の駆動輪(前輪又は後輪)に伝達される。
変速歯車機構15には、複数の変速段を切り換えるための摩擦係合要素である複数のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1が設けられ、図3に示すように、これら各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を油圧で切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることによって変速比を切り換えるようになっている。尚、図3は4速自動変速機のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1の係合の組合せを示すもので、○印はその変速段で係合状態(トルク伝達状態)に保持されるクラッチとブレーキを示し、無印は解放状態を示している。例えば、3速から2速にダウンシフトする場合は、3速で係合状態に保持されていた2つのクラッチC0,C2のうちの片方のクラッチC2を解放し、その代わりに、ブレーキB1を係合することで、2速にダウンシフトする。また、3速から4速にアップシフトする場合は、3速で係合状態に保持されていた2つのクラッチC0,C2のうちの片方のクラッチC0を解放し、その代わりに、ブレーキB1を係合することで、4速にアップシフトする。
図1に示すように、変速歯車機構15には、エンジン動力で駆動される油圧ポンプ18が設けられ、作動油(オイル)を貯溜するオイルパン(図示せず)内には、油圧制御回路17が設けられている。この油圧制御回路17は、ライン圧制御回路19、自動変速制御回路20、ロックアップ制御回路21、手動切換弁26等から構成され、オイルパンから油圧ポンプ18で汲み上げられた作動油がライン圧制御回路19を介して自動変速制御回路20とロックアップ制御回路21に供給される。ライン圧制御回路19には、油圧ポンプ18からの油圧を所定のライン圧に制御するライン圧制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられ、自動変速制御回路20には、変速歯車機構15の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に供給する油圧を制御する複数の変速用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。また、ロックアップ制御回路21には、ロックアップクラッチ16に供給する油圧を制御するロックアップ制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。
また、ライン圧制御回路19と自動変速制御回路20との間には、シフトレバー25の操作に連動して切り換えられる手動切換弁26が設けられている。シフトレバー25がニュートラルレンジ(Nレンジ)又はパーキングレンジ(Pレンジ)に操作されているときには、自動変速制御回路20の油圧制御弁への通電が停止(OFF)された状態になっていても、手動切換弁26によって変速歯車機構15に供給する油圧が変速歯車機構15をニュートラル状態とするように切り換えられる。
一方、エンジンには、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ27が設けられ、変速歯車機構15には、変速歯車機構15の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ12の出力軸回転速度)を検出する入力軸回転速度センサ28と、変速歯車機構15の出力軸回転速度Noを検出する出力軸回転速度センサ29が設けられている。
これら各種センサの出力信号は、自動変速機電子制御回路(以下「AT−ECU」と表記する)30に入力される。このAT−ECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された図6乃至図8のプログラムを実行することで、予め設定した図4の変速パターンに従って変速歯車機構15の変速が行われるように、シフトレバー25の操作位置や運転条件(スロットル開度、車速等)に応じて発生する変速段切り換え要求(目標変速段の読み替え要求)に応じて自動変速制御回路20の各油圧制御弁への通電を制御して、変速歯車機構15の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に作用させる油圧を制御することによって、図3に示すように、各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることで、変速歯車機構15の変速比を切り換える。また、変速歯車機構15の変速段の切り換え中に新たな変速段切り換え要求が発生して目標変速段が読み替えられた(変更された)ときには、変速歯車機構15の変速段を読み替え後の目標変速段に切り換える多重変速制御を行う。
以下の説明では、クラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1を総称して単に「クラッチ」と簡略化して表記する。また、解放状態から係合状態に切り換えるクラッチを「係合側クラッチ」と表記し、係合状態から解放状態に切り換えるクラッチを「解放側クラッチ」と表記する。AT−ECU30は、変速歯車機構15の変速段を切り換える際の油圧制御において、係合側クラッチに対して該係合側クラッチに作動油を充填する充填制御を行い、解放側クラッチに対して該解放側クラッチから作動油を排出する排出制御を行う。
以下、図5を用いて変速歯車機構15の変速段を切り換える際のクラッチの油圧制御を、変速段を2速から3速に切り換える場合を例に挙げて説明する。
図5の上側部に示すように、通常、変速段を2速から3速へ切り換える場合には、まず、要求変速段が2速から3速に更新されて変速中フラグがONにセットされた時点t0 で、急速充填制御(Phase1)を実行して、一時的に係合側クラッチC2の油圧指令値を収束させたい油圧よりも高い値に設定することにより、係合側クラッチC2の作動油の充填時間を短くする。この急速充填制御の時間及び油圧指令値は、係合側クラッチC2に作動油が充填されていない状態からの充填を想定して、係合側クラッチC2に作用する油圧がトルク相開始時期(係合側クラッチC2がトルク容量を持ち始める時期)付近で応答良く安定して収束するように、作動油の温度等に応じて予め設定されている。
この後、定圧制御(Phase2)を実行して、油圧指令値を所定油圧まで低下させて一定時間保持することで、係合側クラッチC2に作用する油圧をトルク相開始時期付近で安定的に収束させた後、スイープ制御(Phase3)を実行して、油圧指令値を徐々に増加させることで、係合側クラッチC2のトルク容量が変速に必要なトルク容量となるまで係合側クラッチC2に作用する油圧を徐々に増加させる。
この後、フィードバック制御(Phase4)を実行して、変速中の入力軸回転速度変化を所定値に保持するように係合側クラッチC2に作用する油圧をフィードバック制御し、変速終期にはショック無く変速を完了させるための終了時制御(Phase5)を実行して、変速段の切り換えを終了する。
ところで、図5の下側部に示すように、変速段を2速から3速へ切り換える途中の急速充填制御中に、要求変速段が3速から2速に変更された時点t1 で、目標変速段が2速に読み替えられて多重変速制御を開始されると、それまで充填制御されていた係合側クラッチC2の油圧制御が排出制御に切り換えられる(油圧指令値が0に切り換えられる)。
この排出制御中のクラッチC2の作動油の充填量は、それまでに実施された充填制御や排出制御の履歴、作動油の温度(作動油の粘性)、作動油が配管内を流れる際の管路抵抗、クラッチC2のシリンダ等の容積、変速歯車機構15の個体差、運転状態等、種々の要因によって変化するため、クラッチC2の作動油の充填量を定量的に推定することは困難であり、クラッチC2の作動油の充填量が不明となる。
このようにクラッチC2の作動油の充填量が不明な期間に、図5に破線で示すように、再び、要求変速段が2速から3速に変更されたときに、目標変速段を3速に読み替えて、クラッチC2の油圧制御を排出制御の途中で再び急速充填制御に切り換えると、その時点t2 の係合側クラッチC2の充填状態によっては、急速充填制御によって係合側クラッチC2に作動油が過充填されてしまう可能性がある。このため、多重変速制御中に作動油の過充填により係合側クラッチC2の係合力が急激に大きくなって変速ショックが発生する可能性がある。この対策として、排出制御の途中で急速充填制御に切り換える場合に、急速充填時間や指令油圧を変更することが考えられるが、作動油の充填量が不明であるため、急速充填時間や指令油圧をその時点の充填量に応じて適正に変更することは困難である。また、急速充填時間や指令油圧を不正確に変更すると、充填不足になって、充填直後に油圧が急変してショックを発生させる可能性がある。
そこで、AT−ECU30は、要求変速段が2速から3速に変更されて目標変速段が3速に読み替えられた時点t0 で、その読み替え後に充填制御が実施される係合側クラッチC2に関する充填カウンタCountC2の初期値を所定値kにセットし、その後、要求変速段が3速から2速に変更されて目標変速段が2速に読み替えられた時点t1 で、その読み替え後に排出制御が実施されるクラッチC2に関する充填カウンタCountC2のカウント値を所定時間毎又は所定クランク角毎にカウントダウンする処理を開始する。尚、この充填カウンタCountC2の下限値は0である。
この充填カウンタCountC2は、クラッチC2の作動油の充填状態が不明な期間を推定するためのもので、所定値kは、満充填状態のクラッチC2に対して排出制御が開始されてから作動油がほぼ完全に排出されて作動油の充填量がほぼ0となるのに必要な期間に相当する値に設定されている。つまり、排出制御開始後に充填カウンタCountC2が0となるタイミングとクラッチC2の作動油の充填量がほぼ0となるタイミングが一致するか、又は充填カウンタCountC2が0となるタイミングの方がクラッチC2の作動油の充填量がほぼ0となるタイミングよりも少し遅れるように設定されている。
一般に、作動油の温度に応じて作動油の粘性(流動性)が変化するため、クラッチC2に対して排出制御が開始されてから作動油がほぼ完全に排出されるのに必要な期間が変化する。このため、所定値kは、作動油の温度に応じて設定することが好ましい。また、排出制御の直前の充填制御の継続時間に応じて所定値kを補正するようにしても良い。
その後、図5に破線で示すように、再び、要求変速段が2速から3速に変更されると、その時点t2 で、その後に充填制御が実施される予定の係合側クラッチC2に関する充填カウンタCountC2がカウントダウン中(CountC2>0)であるか否かを判定する。その結果、係合側クラッチC2に関する充填カウンタCountC2がカウントダウン中(CountC2>0)であると判定された場合、つまり、今回の変速段切り換え中に係合側クラッチC2の排出制御の途中で充填制御が開始されようとした場合には、係合側クラッチC2の作動油の充填状態が不明であると判断して、2速から3速への多重変速制御(目標変速段の読み替え)を禁止する。これにより、排出制御中の係合側クラッチC2の作動油の充填状態が不明である場合に、当該係合側クラッチC2の充填制御への切り換えによる過充填を防止することができて、当該係合側クラッチC2の過充填による変速ショックを未然に防止することができる。
その後、充填カウンタCountC2が0になった時点t3 、つまり、係合側クラッチC2の作動油がほぼ完全に排出されるのに必要な所定期間(所定値kに相当する期間)が経過したときに、係合側クラッチC2の作動油の充填状態が判明した(係合側クラッチC2の作動油の充填量がほぼ0になった)と判定する。この後は、目標変速段の読み替え(多重変速制御)が許可される。
以上説明した本実施例1の変速制御は、AT−ECU30によって図6乃至図8の各プログラムに従って実行される。以下、これらの各プログラムの処理内容を説明する。
[変速制御]
図6に示す変速制御プログラムは、AT−ECU30の電源オン中に所定周期(例えば8〜32msec周期)で実行される。本プログラムが起動されると、まず、ステップ101で、要求変速段が更新された直後(更新直後の最初の本プログラムの起動時)であるか否かを判定し、要求変速段が更新された直後であれば、ステップ102に進み、変速中フラグが変速中(変速段の切り換え中)を意味するONにセットされているか否かによって、変速中であるか否かを判定する。
上記ステップ101で要求変速段≠目標変速段と判定され、且つ、ステップ102で変速中ではないと判定された場合には、多重変速制御ではない通常の変速段切り換え要求であると判断して、ステップ103に進み、温度条件、制御システムのフェール状況等を考慮に入れて、現在の要求変速段に応じて目標変速段を設定する。この後、ステップ104に進み、後述する図7に示す変速種類判定プログラムを実行して、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、ステップ105に進み、現在(変速前)の変速段から目標変速段に変速する場合に充填制御が実施されるクラッチXX、つまり、解放状態から係合状態に切り換えるクラッチXX(図9において×→○と表記されたクラッチ)に関する充填カウンタCountXXの初期値を所定値kにセットする。この所定値kは、満充填状態のクラッチXXに対して排出制御が開始されてから作動油がほぼ完全に排出されるのに必要な期間に相当する値に設定されている。
この後、ステップ106に進み、変速中フラグをONにセットした後、ステップ114に進み、後述する図8に示す変速油圧制御プログラムを実行して、変速歯車機構15の変速段を目標変速段に変速するように油圧を制御する。
この後、ステップ115に進み、現在(変速前)の変速段から目標変速段に変速する場合に排出制御が実施されるクラッチYY、つまり、係合状態から解放状態に切り換えるか又は解放状態が維持されるクラッチYY(図9において○→×又は×と表記されたクラッチ)に関する充填カウンタCountYYのカウント値をカウントダウンする。従って、充填カウンタCountYYは、本プログラムの実行周期で(つまり、所定時間毎に)カウントダウンされる。但し、充填カウンタCountYYの下限値は0である。尚、充填カウンタCountYYを所定クランク角毎にカウントダウンするようにしても良い。
また、上記ステップ101で、要求変速段=目標変速段と判定された場合は、ステップ113に進み、変速中(変速中フラグ=ON)であるか否かを判定する。このステップ113で、変速中であると判定された場合は、変速油圧制御(ステップ114)と充填カウンタCountYYのカウントダウン(ステップ115)を実行する。その後、ステップ113で、変速中ではないと判定された場合は、充填カウンタCountYYのカウントダウン(ステップ115)のみを実行する。
以上説明した処理が、多重変速制御ではない通常の変速制御に関する処理である。
一方、上記ステップ101で要求変速段≠目標変速段と判定され、且つ、ステップ102で変速中であると判定された場合には、変速中に要求変速段が更新されて多重変速要求(目標変速段の読み替え要求)が発生したと判断して、ステップ107に進み、更新後の要求変速段に応じた目標変速段を仮設定する。
この後、ステップ108に進み、現在の変速制御の進行状況がPhase3以前か否かによってイナーシャ相開始前であるか否かを判定する。現在の変速制御の進行状況がイナーシャ相開始前であると判定された場合には、ステップ109に進み、目標変速段を上記ステップ107で仮設定した目標変速段に読み替える場合に充填制御が実施される予定のクラッチXX(以下「読み替え時充填予定クラッチXX」という)に関する充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かによって、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が不明であるか否かを判定する。このステップ109の処理が特許請求の範囲でいう充填状態判定手段としての役割を果たす。
その結果、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が判明していると判定された場合には、ステップ110に進み、上記ステップ107で仮設定した目標変速段を正式に目標変速段として設定した後、ステップ111に進み、後述する図7に示す変速種類判定プログラムを実行して、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、ステップ112に進み、現在の変速段から目標変速段に変速する場合に充填制御が実施されるクラッチXXに関する充填カウンタCountXXの初期値を所定値kにセットする。
この後、変速油圧制御(ステップ114)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え後の目標変速段に変速する多重変速制御を行う。この場合のステップ114の処理(図8の変速油圧制御プログラム)が特許請求の範囲でいう多重変速制御手段としての役割を果たす。
一方、上記ステップ109で、読み替え時充填予定クラッチXXに関する充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であると判定された場合、つまり、今回の変速段切り換え中に読み替え時充填予定クラッチXXの排出制御の途中で充填制御が開始されようとした場合には、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が不明であるため、読み替え後の目標変速段に変速する多重変速制御を実行すると、読み替え時充填予定クラッチXXに作動油が過充填されて変速ショックが発生する可能性があると判断して、目標変速段の読み替え(多重変速制御)を禁止して、ステップ110〜112の処理を実行することなく、変速油圧制御(ステップ114)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え前の目標変速段に変速する制御を継続する。これらの機能が特許請求の範囲でいう多重変速制限手段としての役割を果たす。
また、上記ステップ108で、現在の変速制御の進行状況がイナーシャ相開始以降と判定された場合には、ステップ109〜112の処理を実行することなく、変速油圧制御(ステップ114)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え前の目標変速段に変速する制御を継続する。
その後、上記ステップ101で、要求変速段=目標変速段と判定された場合は、ステップ113に進み、変速中である(変速中フラグがONにセットされている)か否かを判定する。このステップ113で、変速中である判定された場合は、変速油圧制御(ステップ114)と充填カウンタCountYYのカウントダウン(ステップ115)を実行し、その後、ステップ113で、変速中ではないと判定された場合は、充填カウンタCountYYのカウントダウン(ステップ115)のみを実行する。
以上の処理が、変速中に要求変速段が更新される読み替えが発生した(多重変速要求が発生した)場合の変速制御に関する処理である。
[変速種類判定]
次に、図6の変速制御プログラムのステップ104及びステップ111で実行される図7の変速種類判定プログラムの処理内容を説明する。本プログラムが起動されると、まずステップ201で、現在の目標変速段がアップシフトかダウンシフトかを判定し、次のステップ202又は203で、自動変速機11に加わる負荷状態がパワーオン(エンジン側から自動変速機11が駆動される状態)かパワーオフ(駆動輪側から自動変速機11が駆動される状態)かを判定する。そして、この判定結果に応じて、現在の目標変速段に応じた変速種類がパワーオンアップシフト(ステップ204)、パワーオフアップシフト(ステップ205)、パワーオンダウンシフト(ステップ206)、パワーオフダウンシフト(ステップ207)のいずれに該当するかを判別して、本プログラムを終了する。
[変速油圧制御]
次に、図6の変速制御プログラムのステップ114で実行される図8の変速油圧制御プログラムの処理内容を説明する。本プログラムが起動されると、まず、ステップ301で、図示しない解放側クラッチ油圧制御プログラムを実行して、変速歯車機構15を目標変速段に変速する際の解放側クラッチの油圧を制御した後、ステップ302に進み、図示しない係合側クラッチ油圧制御プログラムを実行して、変速歯車機構15を目標変速段に変速する際の係合側クラッチの油圧を制御する。
この後、ステップ303に進み、変速が終了したか否かを判定し、変速が終了していなければ、そのまま、本プログラムを終了する。その後、ステップ303で、変速が終了したた判定された時点で、ステップ304に進み、変速中フラグをOFFにリセットする等の変速終了時処理を実行して、本プログラムを終了する。
以上説明した本実施例1では、変速中に要求変速段が更新されたときに、読み替え時充填予定クラッチ(読み替え後の目標変速段に切り換える場合に充填制御が実施される予定のクラッチ)の作動油の充填状態が不明であるか否かを充填カウンタのカウント値に基づいて判定し、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段の読み替え(多重変速制御)を禁止する。これにより、変速中に要求変速段が更新されたときに、作動油の充填状態が不明なクラッチに対して充填制御が行われることを未然に防止できて、当該クラッチへの過充填による変速ショックが発生することを未然に防止することができる。また、読み替え時充填予定クラッチの充填状態を定量的に推定することは困難であるが、本実施例1は、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であるか否かだけを判定すれば良く、読み替え時充填予定クラッチの充填状態を定量的に推定する必要が無いため、比較的簡単に実施することができる。
このようにすれば、変速ショックを回避しながら目標変速段の読み替えを遅らせて多重変速制御を実行することができる。
また、本実施例1は、図10又は図11のテーブルに示すように、予め、変速パターンや目標変速段に応じて各クラッチの充填制御、排出制御に伴って操作する充填カウンタを設定しておき、変速パターンや目標変速段に応じて充填カウンタの選択、カウントダウン、判定を実施しても同様の制御を行うことができる。
例えば、図10のテーブルを用いる場合は、図6のステップ105及びステップ112では、図10(a) のテーブルを用いて、現在の変速段から目標変速段に変速する場合の変速パターンに応じて充填カウンタCountXXを選択し、その充填カウンタCountXXの初期値を所定値kにセットする。また、図6のステップ115では、図10(b) のテーブルを用いて、目標変速段に応じて充填カウンタCountYYを選択し、その充填カウンタCountYYをカウントダウンする。更に、図6のステップ109では、図10(c) のテーブルを用いて、仮設定した目標変速段に応じて充填カウンタCountXXを選択し、そのカウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かを判定する。
一方、図11のテーブルを用いる場合は、図6のステップ105及びステップ112では、図11(a) のテーブルを用いて、現在の変速段から目標変速段に変速する場合の変速パターンに応じて充填カウンタCountXXを選択し、その充填カウンタCountXXの初期値を所定値kにセットする。また、図6のステップ115では、図11(b) のテーブルを用いて、目標変速段に応じて充填カウンタCountYYを選択し、その充填カウンタCountYYをカウントダウンする。更に、図6のステップ109では、図11(c) のテーブルを用いて、仮設定した目標変速段に変速する場合の変速パターンに応じて充填カウンタCountXXを選択し、そのカウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かを判定する。
次に、図12を用いて本発明の実施例2を説明する。本実施例2では、図12の変速制御プログラムを実行することで、読み替え時充填予定クラッチに対する充填制御と排出制御の指令履歴を充填フラグFapXXと排出フラグFdrYYで記憶し、その指令履歴に基づいて読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態を判定するようにしている。
本実施例2で実行する図12の変速制御プログラムは、前記実施例1で説明した図6のプログラムのステップ105,109,115の処理をそれぞれステップ105a,109a,115aの処理に変更すると共に、図6のプログラムのステップ112の処理を省略したものであり、それ以外の各ステップの処理は図6と同じである。
本プログラムでは、ステップ101で要求変速段≠目標変速段と判定され、且つ、ステップ102で変速中ではないと判定された場合には、多重変速要求ではない通常の変速要求であると判断して、ステップ103に進み、現在の要求変速段に応じて目標変速段を設定する。この後、ステップ104に進み、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、ステップ105aに進み、現在の変速段から目標変速段に変速する場合に充填制御が実施されるクラッチXXに関する充填フラグFapXXをONにセットする。この充填フラグFapXXは、例えば、図8のステップ304で変速が終了したときにOFFにリセットされる。
この後、ステップ106に進み、変速中フラグをONにセットした後、ステップ114に進み、変速歯車機構15の変速段を目標変速段に変速する制御を行う。
この後、ステップ115aに進み、現在の変速段から目標変速段に変速する場合に排出制御が実施されるクラッチYYに関する排出フラグFdrYYをONにセットする。この排出フラグFdrYYは、例えば、図8のステップ304で変速が終了したときにOFFにリセットされる。
一方、上記ステップ101で要求変速段≠目標変速段と判定され、且つ、ステップ102で変速中であると判定された場合には、変速中に要求変速段が更新されたと判断して、ステップ107に進み、現在の要求変速段に応じた目標変速段を仮設定する。
この後、ステップ108に進み、現在の変速制御の進行状況がPhase3以前か否かによってイナーシャ相開始前であるか否かを判定する。現在の変速制御の進行状況がイナーシャ相開始前であると判定された場合は、ステップ109aに進み、目標変速段を上記ステップ107で仮設定した目標変速段に読み替える場合に充填制御が実施される予定のクラッチXX(読み替え時充填予定クラッチXX)に関する充填フラグFapXXがONで且つ排出フラグFdrXXがONであるか否かによって、読み替え時充填予定クラッチXXに対する油圧制御が充填なし状態→充填制御→排出制御の順に実行されて、現在、排出制御中であるか否かを判定する。
このステップ109aで、充填フラグFapXXと排出フラグFdrXXのいずれか一方又は両方がONではないと判定された場合、つまり、読み替え時充填予定クラッチXXに対して充填制御と排出制御のいずれか一方又は両方が実行されていないか既に終了している場合は、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が判明していると判断して、ステップ110に進み、上記ステップ107で仮設定した目標変速段を正式に目標変速段として設定した後、ステップ111に進み、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、変速油圧制御(ステップ114)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え後の目標変速段に変速する多重変速制御を行う。
一方、上記ステップ109aで、読み替え時充填予定クラッチXXに関する充填フラグFapXXがONで且つ排出フラグFdrXXがONであると判定された場合、つまり、 読み替え時充填予定クラッチXXに対する油圧制御が充填なし状態→充填制御→排出制御の順に実行されて、現在、排出制御中である場合には、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が不明であると判断して、目標変速段の読み替え(多重変速制御)を禁止して、ステップ110,111の処理を実行することなく、変速油圧制御(ステップ114)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え前の目標変速段に変速する制御を継続する。
以上説明した本実施例2では、読み替え時充填予定クラッチに対する充填制御と排出制御の指令履歴を充填フラグFapXXと排出フラグFdrYYで記憶し、その指令履歴に基づいて読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であるか否かを判定し、充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段の読み替え(多重変速制御)を禁止するようにしたので、変速中に要求変速段が更新されたときに、作動油の充填状態が不明なクラッチに対して充填制御が行われることを未然に防止できて、当該クラッチへの過充填による変速ショックが発生することを未然に防止することができる。
尚、目標変速段の履歴に基づいて読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態を判定するようにしても良い。例えば、目標変速段が第1の変速段→第2の変速段→第1の変速段の順に読み替えられ、該第1の変速段への切り換え中に再び前記第2の変速段への読み替えの要求があったときに、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であると判定するようにしても良い。このようなパターンで目標変速段が連続的に読み替えられた場合には、読み替え時充填予定クラッチの充填状態が不明である可能性が高いためである。
次に、図13乃至図15を用いて本発明の実施例3を説明する。
本実施例3では、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段を、現在の変速段と当初読み替えようとした変速段との間の変速段のなかで充填制御しようとするクラッチの作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしている。例えば、現在の変速段が1速で、当初読み替えようとした変速段が4速であって、そのクラッチの作動油の充填状態が不明である場合は、目標変速段を2速又は3速に読み替えるものである(但しクラッチの作動油の充填状態が判明していることが条件である)。
以下、本実施例3で実行する図13乃至図15の各プログラムの処理内容を説明する。
図13及び図14に示す変速制御プログラムでは、ステップ401で要求変速段≠目標変速段と判定され、且つ、ステップ402で変速中ではないと判定された場合には、多重変速要求ではない通常の変速要求であると判断して、ステップ403に進み、現在の要求変速段に応じた目標変速段を設定する。この後、ステップ404に進み、前述した図7に示す変速種類判定プログラムを実行して、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、ステップ405に進み、現在の変速段から目標変速段に変速する場合に充填制御が実施されるクラッチXXに関する充填カウンタCountXXの初期値を所定値kにセットする。
この後、ステップ406に進み、変速中フラグをONにセットした後、ステップ417に進み、前述した図8に示す変速油圧制御プログラムを実行して、変速歯車機構15の変速段を目標変速段に変速する制御を行う。
この後、ステップ418に進み、現在の変速段から目標変速段に変速する場合に排出制御が実施されるクラッチYYに関する充填カウンタCountYYのカウント値をカウントダウンする。
一方、上記ステップ401で要求変速段≠目標変速段と判定され、且つ、ステップ402で変速中であると判定された場合には、変速中に要求変速段が更新されて多重変速要求(目標変速段の読み替え要求)が発生したと判断して、図14のステップ407に進み、現在の要求変速段に応じた目標変速段を仮設定する。
この後、ステップ408に進み、現在の変速制御の進行状況がPhase3以前か否かによってイナーシャ相開始前であるか否かを判定する。現在の変速制御の進行状況がイナーシャ相開始前であると判定された場合は、ステップ409に進み、目標変速段を上記ステップ407で仮設定した目標変速段に読み替える場合に充填制御が実施される予定のクラッチXX(読み替え時充填予定クラッチXX)に関する充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かによって、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が不明であるか否かを判定する。
その結果、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が判明していると判定された場合(CountXX=0)には、ステップ410に進み、上記ステップ407で仮設定した目標変速段を正式に目標変速段として設定した後、ステップ411に進み、前述した図7に示す変速種類判定プログラムを実行して、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、変速油圧制御(ステップ417)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え後の目標変速段に変速する多重変速制御を行う。
一方、上記ステップ409で、読み替え時充填予定クラッチXXに関する充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であると判定された場合は、読み替え時充填予定クラッチXXの作動油の充填状態が不明であるため、ステップ412に進み、後述する図15に示す読み替え可能変速段判定プログラムを実行して、読み替え可能な変速段が存在するか否かを判定する。
本実施例3では、読み替え可能な変速段は、現在の目標変速段と当初読み替えようとした目標変速段(上記ステップ407で仮設定した目標変速段)との間の変速段のなかで充填制御しようとするクラッチの作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしている。
この後、ステップ413に進み、上記ステップ412の判定結果に基づいて読み替え可能な変速段が存在するか否かを判定し、読み替え可能な変速段が存在すると判定された場合は、ステップ414に進み、目標変速段を読み替え可能な変速段に設定(読み替え)する。この後、ステップ415に進み、前述した図7に示す変速種類判定プログラムを実行して、目標変速段に対応する変速種類を判定する。
この後、変速油圧制御(ステップ417)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え後の目標変速段に変速する多重変速制御を行う。
これに対して、上記ステップ413で、読み替え可能な変速段が存在しないと判定された場合は、目標変速段の読み替えを禁止して、ステップ414,415の処理を実行することなく、変速油圧制御(ステップ417)を実行して、変速歯車機構15の変速段を読み替え前の目標変速段に変速する制御を継続する。
次に、図14の変速制御プログラムのステップ412で実行される図15の読み替え可能変速段判定プログラムの処理内容を説明する。本プログラムは、例えば4速自動変速機に適用されるプログラムである。本プログラムが起動されると、まず、ステップ501で、図14のステップ407で仮設定した目標変速段(以下「仮設定目標変速段」という)が現在の目標変速段よりも大きいか否かを判定する。
仮設定目標ギヤ段が現在の目標変速段よりも小さいと判定された場合には、ステップ502に進み、読み替え変速段を仮設定目標変速段よりも1段だけ大きい変速段(仮設定目標変速段+1)に設定した後、ステップ503に進み、この読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が現在の目標変速段と同じ変速段であるか否かを判定する。
その結果、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が現在の目標変速段と同じ変速段であると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在しないと判断して、読み替えフラグFlag1を、読み替え可能な変速段が存在しないことを意味するOFFにリセット又は維持して、本プログラムを終了する。
これに対して、上記ステップ503で、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が現在の目標変速段と同じ変速段ではないと判定された場合には、ステップ504に進み、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXに関する充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かによって、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であるか否かを判定する。
その結果、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が判明していると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在すると判断して、ステップ514に進み、読み替えフラグFlag1を、読み替え可能な変速段が存在することを意味するONにセットにして、本プログラムを終了する。
一方、上記ステップ504で、充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であると判定された場合は、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であるため、ステップ505に進み、読み替え変速段を仮設定目標変速段よりも2段だけ大きい変速段(仮設定目標変速段+2)に設定する。
この後、ステップ506で読み替え変速段(仮設定目標変速段+2)が現在の目標変速段と同じ変速段ではないと判定され、且つ、ステップ507で充填カウンタCountXXがカウントダウン中でない(CountXX=0)と判定された場合は、読み替え変速段(仮設定目標変速段+2)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が判明しているため、読み替え可能な変速段が存在すると判断して、ステップ514に進み、読み替えフラグFlag1をONにセットにして、本プログラムを終了する。
これに対して、ステップ506で読み替え変速段(仮設定目標変速段+2)が現在の目標変速段と同じ変速段であると判定された場合、又は、ステップ507で充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であって、読み替え変速段(仮設定目標変速段+2)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であると判定された場合は、読み替え可能な変速段が存在しないと判断して、読み替えフラグFlag1をOFFにリセット又は維持して、本プログラムを終了する。
また、上記ステップ501で、仮設定目標ギヤ段が現在の目標変速段よりも大きいと判定された場合には、ステップ508に進み、読み替え変速段を仮設定目標変速段よりも1段だけ小さい変速段(仮設定目標変速段−1)に設定する。
この後、ステップ509で読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が現在の目標変速段と同じ変速段ではないと判定され、且つ、ステップ510で充填カウンタCountXXがカウントダウン中でない(CountXX=0)と判定された場合は、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が判明しているため、読み替え可能な変速段が存在すると判断して、ステップ514に進み、読み替えフラグFlag1をONにセットにして、本プログラムを終了する。
これに対して、ステップ509で読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が現在の目標変速段と同じ変速段であると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在しないと判断して、読み替えフラグFlag1をOFFにリセット又は維持して、本プログラムを終了する。
一方、ステップ510で、充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であると判定された場合は、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であると判断して、ステップ511に進み、読み替え変速段を仮設定目標変速段よりも2段だけ小さい変速段(仮設定目標変速段−2)に設定する。
この後、ステップ512で読み替え変速段(仮設定目標変速段−2)が現在の目標変速段と同じ変速段ではないと判定され、且つ、ステップ513で充填カウンタCountXXがカウントダウン中でない(CountXX=0)と判定された場合は、読み替え変速段(仮設定目標変速段−2)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が判明しているため、読み替え可能な変速段が存在すると判断して、ステップ514に進み、読み替えフラグFlag1をONにセットにして、本プログラムを終了する。
これに対して、ステップ512で読み替え変速段(仮設定目標変速段−2)が現在の目標変速段と同じ変速段であると判定された場合、又は、ステップ513で充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であって、読み替え変速段(仮設定目標変速段−2)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であると判定された場合は、読み替え可能な変速段が存在しないと判断して、読み替えフラグFlag1をOFFにリセット又は維持して、本プログラムを終了する。
以上説明した本実施例3では、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段を、現在の変速段と当初読み替えようとした変速段との間の変速段のなかで充填制御しようとするクラッチの作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしたので、当初読み替えようとした変速段に読み替えると、変速ショックが発生する可能性がある場合に、変速ショックを防止しながら、当初読み替えようとした変速段に近い変速段に読み替えることができる。
次に、図16を用いて本発明の実施例4を説明する。
本実施例4では、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、図16に示す変速制御プログラムによって、目標変速段を、当初読み替えようとした変速段に隣接する変速段のなかで充填制御しようとするクラッチの作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしている。例えば、現在の変速段が1速で、当初読み替えようとした変速段が2速であって、そのクラッチの作動油の充填状態が不明である場合は、目標変速段を3速に読み替えるものである(但しクラッチの作動油の充填状態が判明していることが条件である)。
図16の変速制御プログラムは、例えば4速自動変速機に適用されるプログラムである。本プログラムが起動されると、まず、ステップ501で、読み替え変速段を仮設定目標変速段よりも1段だけ小さい変速段(仮設定目標変速段−1)に設定した後、ステップ602に進み、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が1よりも小さいか否かを判定する。
その結果、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が1以上であると判定された場合には、ステップ603に進み、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が現在の目標変速段と同じ変速段であるか否かを判定する。
読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が現在の目標変速段と同じ変速段であると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在しないと判断して、読み替えフラグFlag1をOFFにリセット又は維持して、本プログラムを終了する。
これに対して、上記ステップ603で、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が現在の目標変速段と同じ変速段ではないと判定された場合には、ステップ604に進み、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXに関する充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かによって、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であるか否かを判定する。
その結果、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が判明していると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在すると判断して、ステップ609に進み、読み替えフラグFlag1をONにセットにして、本プログラムを終了する。
一方、上記ステップ602で読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)が1よりも小さいと判定された場合(つまり仮設定目標変速段が1stである場合)、又は、上記ステップ604で充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であって、読み替え変速段(仮設定目標変速段−1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であると判定された場合は、ステップ605に進み、読み替え変速段を仮設定目標変速段よりも1段だけ大きい変速段(仮設定目標変速段+1)に設定する。
この後、ステップ606で読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が4以下であると判定され、且つ、ステップ607で読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が現在の目標変速段と同じ変速段ではないと判定された場合には、ステップ608に進み、充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であるか否かによって、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であるか否かを判定する。
その結果、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が判明していると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在すると判断して、ステップ609に進み、読み替えフラグFlag1をONにセットにして、本プログラムを終了する。
これに対して、上記ステップ606で読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が4よりも大きいと判定された場合(仮設定目標変速段が4thである場合)、又は、上記ステップ607で読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)が現在の目標変速段と同じ変速段であると判定された場合、又は、上記ステップ608で、充填カウンタCountXXがカウントダウン中(かつCountXX>0)であって、読み替え変速段(仮設定目標変速段+1)に変速する場合に充填制御が実施される予定のクラッチXXの作動油の充填状態が不明であると判定された場合には、読み替え可能な変速段が存在しないと判断して、読み替えフラグFlag1をOFFにリセット又は維持して、本プログラムを終了する。
以上説明した本実施例4では、読み替え時充填予定クラッチの作動油の充填状態が不明であると判定されたときに、目標変速段を、当初読み替えようとした変速段に隣接する変速段のなかで充填制御しようとするクラッチの作動油の充填状態が判明している変速段に読み替えるようにしたので、当初読み替えようとした変速段に読み替えると、変速ショックが発生する可能性がある場合に、変速ショックを防止しながら、当初読み替えようとした変速段に近い変速段に読み替えることができる。
尚、本発明は、4速自動変速機に限定されず、3速以下又は5速以上の自動変速機にも適用できることは言うまでもない。
本発明の実施例1における自動変速機全体の概略構成図である。
自動変速機の機械的構成を模式的に示す図である。
各変速段のクラッチC0〜C2とブレーキB0,B1の係合/解放の組み合わせを示す図である。
変速パターンの一例を示す図である。
実施例1の変速制御を説明するためのタイムチャートである。
実施例1の変速制御プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例1の変速種類判定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例1の変速油圧制御プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例1の充填カウンタの設定方法を説明するための図である。
実施例1の充填カウンタの設定方法の変形例(その1)を説明するための図である。
実施例1の充填カウンタの設定方法の変形例(その2)を説明するための図である。
実施例2の変速制御プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例3の変速制御プログラムの処理の流れを示すフローチャート(その1)である。
実施例3の変速制御プログラムの処理の流れを示すフローチャート(その2)である。
実施例3の読み替え可能変速段判定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
実施例4の読み替え可能変速段判定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
符号の説明
11…自動変速機、12…トルクコンバータ、15…変速歯車機構(変速機構)、17…油圧制御回路、18…油圧ポンプ、19…ライン圧制御回路、20…自動変速制御回路、21…ロックアップ制御回路、30…AT−ECU(多重変速制御手段,充填状態判定手段,多重変速制限手段)、C0〜C2…クラッチ(摩擦係合要素)、B0,B1…ブレーキ(摩擦係合要素)