最初に、図1〜図13を用いて、理論的な検討、実験結果を通して、本発明の根幹となる車両運動制御の概念について説明し、アクセル,ステア,ブレーキ操作についての具体的な制御タイミングの指針を明確化する。
先に記したように、自動車は、路面に対して運動することによって初めて生じる力を受け、この力を利用することによって車上のドライバの意思のもとに平面内を自由に運動できる。ここで重要なのは、ドライバの意思により実現されるべき運動が、ドライバが入力した運転操作量のみならず、車速、車両前後加速度、横加速度、横滑り角、タイヤ接地荷重などの運動状態に左右されるということである。例えば、タイヤに荷重が加わっていないタイミング(極端な例ではタイヤが浮いているとき)に舵角を入力しても、大きな横力は発生しないし、ブレーキ入力をしても当然のことながら大きな減速力は発生しない。また、いわゆるカウンターステアをあてている状態では、右側に舵角を与えているにも関わらず、左側に車がドリフトしていく場合もありうる。このように、車両の運動状態と、運転操作とのタイミング、操作量が適当なものでないと、ドライバの意思とは違う運動になることさえありうる。
さて、ドライバが意図する運動を定量的に扱うには、周囲環境要因の占める割合が大きく、困難である。しかしながら、駐車動作などのように位置の制御精度がとりわけ高い状態を除く、通常の状況に限定すれば定性的には把握可能である。例えば、加減速が少なく「滑らかな運動」という例が挙げられる。また、「タイヤ力を効率よく使う」「無駄の無い運転操作」というようにも表現ができる(本発明ではこの運動,および運転を「理想運動」、「理想運転」と呼ぶ)。
最初に、図1を用いて、本発明において検討する運転動作,車両運動について説明する。
図1は、本発明において検討する運転動作,車両運動の説明図である。
図1に示すように、本発明で検討する運転動作,車両運動は、「減速しながら旋回に進入して、定速旋回後、旋回中に加速し、直線上に脱出する」という基本的な状況であり、この状況を実現するブレーキ,ステア,アクセル制御操作についての指針を述べる。以下、上述の指標を具体化すべく、タイヤ特性,荷重移動物理モデル,車両運動力学から見た検討,サポートする実験結果について順次説明する。
<タイヤ力を運動状況に応じて効率よく使う方法(車両運動力学的アプローチ)>
タイヤの発生力は、粘着領域にて発生するタイヤ変形力と、すべり領域における摩擦力とに分類できる。タイヤを効率よく使うということは、単位横すべり角、あるいはスリップ率に対する横力、前後力(ゲイン)が大きいこと、発生する力の応答性が高い(位相遅れが少ない)こと、さらにはタイヤ磨耗を少なくすることと考えることができる。またゲインが高いということは、同じタイヤ力を発生するために舵角、ブレーキ踏力などの操作量が少なくても良いことを示しており、これは「無駄の無い運転操作」に直結することになる。
図2は、異なる垂直荷重毎の、横すべり角(deg)と、コーナリングフォース(kN)との関係の説明図である。
図2に示すように、タイヤのゲインを増加させるためには、接地面の接地圧を増加させることが肝要であり、タイヤに加わる垂直荷重を増加させる必要がある。
また、応答性はトレッドラバーの現在の変形から所望の定常値となる変形までの到達時間と考えられる。このため、不必要な変形を発生させず(回り道はせず)、所望の定常変形値まで直行するような履歴を形成することが重要である。例えば、ある垂直荷重のもとで、トレッドが所望の方向に向けて変形していく途中に、荷重が抜けてしまうと、トレッドは再びもとの状態に戻り、力の発生が遅れる。したがって、定常的な発生力となるまでのノイズのような力の変化を低減する必要がある。特に前述した粘着領域からすべり領域の変化点は接地面の接地圧の大きさにより変化し、タイヤトレッドラバーの変形形態も大きく変わる。したがって垂直荷重の変化率を小さくする必要がある。
また、タイヤ抵抗力,タイヤ磨耗を低減することをも考えると、粘着領域が拡大することが望ましい。これも垂直荷重が大きく、かつ横滑り角、スリップ率が小さい範囲でタイヤを使うことが望ましい。
以上をまとめると、効率よくタイヤ力を発生させるためには、接地荷重を高く、かつ変化率を小さくする必要があることがわかる。
さて、以上のタイヤ単体特性を把握したうえで、運動する車両においてタイヤを効率よく使う方法について説明する。
接地荷重は、重量配分で決定する固定部分(静止輪重)と、前後,横方向に加減速する際の慣性力に比例した部分(荷重移動分)がある。
ここで、図3を用いて、荷重移動の解析モデルについて説明する。
図3は、荷重移動の解析モデルの説明図である。
図3は、「自動車技術会,Vol.47、No.12(1993),PP.54〜60」に、芝端らが「ヨーモーメント制御による車両運動性能の向上について」として掲載したものの、図10にて示した荷重移動の解析モデルである。
これを基にして荷重移動の基本的な影響を調べる。旋回中に加減速を行ったときの4輪の荷重W1〜W4は、以下の式(1)〜式(4)により表せる。(ここで、ロール角・ピッチ角のsin成分により生じる重心点の前後・横移動量は無視している。)
ここで、各係数KOF,KOR,KHは、以下の式(5)〜式(7)で表せる。
なお、ここで、KF,KR:前後輪のロール剛性であり、K*F、K*R:前後輪のロール剛性配分である。前後輪のロール剛性配分K*F,K*Rは、以下の式(8),式(9)で表せる。
また、式(5)〜式(7)において、hG:重心高さ、h*G:重心〜ロール軸間距離である。重心高さhGと、重心〜ロール軸間距離h*Gとの関係は、以下の式(10)で表せる。
ここで、dF,dR:前後輪トレッド、WF,WR:前後輪荷重、Gx,Gy:車両前後加速度,横加速度である。
さらに、ここで各輪の荷重の単位時間あたりの変化率を考えると、以下の式(11)〜式(14)で表せる。
すなわち、各輪の荷重変化は、車両の前後加加速度(Jx)と横加加速度(Jy)の線形結合で表せることがわかる。「なめらかな運動」は、加加速度の少ない運動と換言できるが、このなめらかな運動が、「荷重変化が少ない運動」と関連性が高いものである。
さて、ここで車両前後加速度(加加速度),横加速度(加加速度)は、タイヤ力により発生する車両運動を示す状態量である。この状態量により、タイヤ垂直荷重が決まり、タイヤ力が決まる。したがって、運動を制御するためには、「垂直荷重発生(W or Fz)」と「運動を実現するタイヤ力(Fx,Fy)」の両立を考慮する必要がある。
例えば、車両が急減速する状況を考えた場合、前後輪それぞれに減速方向の縦力(-Fxf,-Fxr)が発生する。前輪について考えると、前輪の縦力(-Fxf)の増加に伴い、前後方向の減速度が増加し、垂直荷重が増加する。これに対し、後輪では縦力(-Fxr)の増加に伴い、前後方向の減速度が増加し、垂直荷重が減少してする。また、急旋回の場合は、外側のタイヤは横力を発生することにより、垂直荷重が増加するが、内側のタイヤは横力を出せば出すほど、垂直荷重が減少する。
力を出すほど垂直荷重が増加するほうが、操作とともにゲインが上昇していくため、操作量も少なく無駄の無い運転操作が可能で、効率よくタイヤを使っているといえる。しかしながら、タイヤはひとつの車両に取り付けられているため、4本のタイヤをあらゆる運動条件において常に効率よく使うことは通常の2輪操舵,2輪駆動の車両では不可能である。本発明においては通常の車両を対象とし、アクセル,ブレーキ,ステアなどの運転操作により実現できる範囲内で、「滑らかな運動」、「タイヤ力を効率よく使う」,「無駄の無い運転操作」,すなわち「理想運動」について説明する。
概略すると、ドライバの減速→旋回→直線加速の動作は、以下の(1)〜(6)に示すとおりである。
(1)あるコーナーに進入する場合、想定される回転半径から旋回時の遠心力を勘案して、進入速度(Vc)を決定する。
(2)現在の速度(Vp)がVcよりも高ければ減速のためにブレーキングする。
(3)減速中のあるタイミングで操舵を開始する。
減速により後輪から前輪に荷重移動が発生し、前輪の接地荷重が増加し、後輪の荷重が減少する。操舵を開始するときに、回頭のための正のヨーモーメントとなる前輪横力は効率良く、大きく発生する。負のヨーモーメント(ヨーを止める方向)となる後輪横力を発生するポテンシャルは小さくなる。
(4)ブレーキを緩めながら操舵角を増加する。
これは、ヨーモーメントを過大とならないように調整しながら定常円旋回へ切り替えるための緩和動作であると考えられる。
(5)操舵角一定の定常円旋回
この状態が最も車両挙動が安定した状態である。
(6)旋回から加速をしながら直線運動へと脱出する
これは、前輪横力を減少させるとともに、加速により後輪に正の荷重移動を発生させ、後輪横力を増加させ、つりあい状態(定常円旋回)から見て負のモーメントを発生させることにより、旋回を終了させ、直線走行へと切り替えるための緩和動作であると考えられる。
このうち、(3),(4),(6)が、減速,操舵,加速が練成している部分であり、この部分のタイミングの具体化が本発明の課題となるところである。
前述の「効率よくタイヤ力を発生させる」ことを念頭におき最適なタイミングを考えると、(3)のステア開始タイミングは、減速開始後、減速度が最大となり、前輪荷重が最大、後輪荷重が最低となったところと考えられる。式(1)から式(4)および式(11)〜式(14)より、前後方向の加加速度がゼロとなるタイミングに操舵を開始するのが最適である。もちろん路面凹凸など、さまざまな外乱要因があるため、この一点を特定するのは困難であり、前後方向の加加速度がゼロとなる近傍と考えることができる。またブレーキが一定に高い値に保たれているのであれば、その間中加加速度はゼロとなり、操舵開始はその期間中の任意のタイミングで等価ということになる。このように、ステア開始タイミングを決定するためには、前後方向の加速度の最大値を知るための加加速度情報が必要である。
(4)のステア開始後、ブレーキを緩める緩和動作を検討するために、まず減速を伴わない旋回動作について述べ、つぎに減速を緩める状況を付加して考える。
ここで、図4を用いて、4輪の車両を等価的な前後2輪の車両の平面運動で考えた前後2輪モデルについて説明する。
図4は、4輪の車両を等価的な前後2輪の車両の平面運動で考えた前後2輪モデルの説明図である。
前後2輪モデルの運動は、以下の式(15),式(16)のように記述できる。
ここで、mは車両質量、Gyは車両の横加速度、Vは車両速度、βは車両横すべり角、Yf 、 Yrはそれぞれ、前後輪の1輪あたりの横力、Izはヨーイング慣性モーメント、rはヨーレイト、lf 、 lrは車両重心点と前後車軸間の距離である。
まず、ステア開始すると、前輪タイヤに横滑り角が発生し、前輪タイヤが横力を発生し、車両の重心点まわりの自転運動(ヨー応答)が開始する。これにより進行方向に対する車体の横滑り角が発生し、後輪タイヤに横力が発生し、結局前後輪が求心力を発生して旋回を開始する。そして、前後輪のタイヤ横力がそれぞれ定常値となり横方向の加速度が一定になった状態が(5)の定常円旋回と言われる最も安定した状態である。定常円旋回では重心点の横滑り角の変化は無く、ヨーレイトも一定である。式(16)からもわかるように、後輪のヨーイング運動を止めるのは後輪の横力と重心点から後輪車軸までの距離の積で表せる負のヨーイングモーメントである。
さて、式(1)〜式(4)より明らかなように、減速が加わった状態では、前輪荷重が大きく、減速の減少に伴い、後輪荷重が回復していく。さらに横加速度が増加すると、外側のタイヤの垂直荷重が増加する。この状況を組み合わせると、
(i)減速による前輪荷重増加(後輪荷重減少)
(ii)横加速度による旋回外側輪荷重の増加(内側輪荷重の減少)
(iii)減速緩めによる後輪荷重の回復(前輪荷重の減少)
を経て、定常円旋回に到達することになる。このときに「滑らか」かつ「効率よくタイヤを使う」理想的な運動について考えてみる。ここでは、旋回外側のタイヤについて注目する。(i)、(ii)を考えるために、まず前輪旋回外側について考えてみる。図1に示す右側旋回を考えると、前輪旋回外側は図3のインデックス1の左前輪となる。左前輪が(i)(ii)の間になすべき主たる仕事を考えると、自転運動(ヨー応答)の立ち上げである。このためには(図3のマイナス方向ではあるが)FY1を「効率よく」発生させることである。
次に、図5を用いて、減速→旋回時の車両の状態変数について説明する。
図5は、減速→旋回時の車両の状態変数の説明図である。
図5において、図5(A)は図5に減速→旋回時の前後・横加速度を示し、図5(B)は前後・横加加速度を示している。図5(C)は前輪外側荷重W1を示し、図5(D)は後輪外側荷重W3を示し、図5(E)はヨーレイトの微分値(ヨー角加速度)を示している。また、横軸は時間を示し、時刻(t1)のタイミングで操舵が開始され、(t2)のタイミングでブレーキリリースが完了される。また時刻(t2)の後は、横加速度一定の定常円旋回(5)となる。
先に示したとおり、前後加速度が最大,すなわち加加速度がゼロのタイミング(t1)で操舵が開始される。図5(A)に示すように、その後横加速度が増加するとともに、前後加速度が減少する。タイヤ力を効率よく使うためには、接地荷重を高く、かつ変化率を小さくする必要があるので、結局、図5(C)に示すように、前輪外側荷重が単調に増加するように各方向の加速度を制御することが最適となる。これは以下のような理由による。定常円旋回時の荷重移動(収束値)は横加速度により決まっており、ΔW1はあらかじめ決まっている。これを限られた時間内に接地荷重の変化率を最小にするつなぎ方は、接続部の不連続部を無視すると直線となるからである。
さて、このような状況においては、式(11)の前輪外側荷重W1の時間変化率が一定となるため、以下の式(17)に示す、
の関係が成立する。ここで、KOFとKHは車両の重量,ディメンジョン,重心高さなどの車両パラメータで決定される。また、変化率KはΔW1と(A)-(B)間の時間で決定する。さらに、ΔW1がゼロのときも当然存在し、このときKはゼロとなる。この制御は、ステアリングで進路を決定し、ブレーキ踏力にて、微調整を加えていくことが現実的である。このときには、前後方向と横方向の加加速度を検出する必要がある。
ここで、式(17)を参照しながら前述のステア開始タイミングについて再考すると、減速時からのKを一定に保つためには、前後加加速度がゼロのポイントで、横加加速度を発生させないと、式(17)の関係を保てないことになる。したがってJxがゼロの瞬間に操舵を開始し、式(17)の関係を保っていると考えることができる。
式(17)を唯一の拘束条件とすると、例えば、ブレーキを早急に解除して、横加加速度を大きくして、Kを一定に保つという選択肢も考えられる。しかしながら、ブレーキリリースは、上述の(iii)の理由により、(t2)まで時間をかけて実施されることになる。以下、後輪外側について説明する。
ブレーキをリリースすると、式(3)により後輪外側へ荷重が移動する。後輪は、もともと制動により荷重が減少している状態で、横加速度が増加してきているので、ここで、制動分が急激になくなると横加速度による荷重移動のライン上に遷移し、ΔW3の荷重移動が急激に訪れることになる。このようになれば、後輪のタイヤ横力は急激に大きくなり、式(16)にあるように急激にヨーイング運動を止めることになる。従って必然的にブレーキリリースは滑らかなものとなり、ヨー角加速度がゼロとなり定常円旋回となるタイミング(t2)となるまで継続される。タイミング(t2)とは、横加速度が一定となるタイミングであり、即ち横加加速度ゼロとなるタイミングである。
以上のように、旋回時にブレーキを制御するためには、横方向の加加速度を検出する必要があり、かつブレーキをリリースするタイミングは、横加加速度がゼロとなるタイミングである。
次に、図6を用いて、(6)の状態である旋回から加速をしながら直線運動へと脱出する際の車両の状態変数について説明する。
図6は、(6)の状態である旋回から加速をしながら直線運動へと脱出する際の車両の状態変数の説明図である。
図6において、図6(A)〜図6(E)は、図5(A)〜図5(E)と同様である。時刻(t3)のタイミングで加速が開始され、時刻(t4)のタイミングでステアの操舵がゼロ位置に戻される。また、時刻(t4)の後は、等加速度直線運動となる。
さて、式(1)〜式(4)より明らかなように、旋回状態では、外側の荷重が大きく、直線運動に復帰するための横加速度の減少に伴い、内側の荷重が回復していく。さらにアクセルによる前後加速度が増加すると、後輪のタイヤの垂直荷重が増加する。この状況を組み合わせると、
(iv) 横加速度による外輪荷重増加(内輪荷重減少)から、
(v) 加速による後輪荷重の増加(前輪荷重の減少)
(vi)舵角緩めによる横加速度減少による外輪荷重の減少(内輪荷重増加)
を経て、等加速度直線運動に到達することになる。このときに「滑らか」かつ「効率よくタイヤを使う」理想の運動について説明する。
定常円旋回から直線運動へと脱出するためには、遠心力に抗するためにタイヤが発生していた横力を消滅させるとともに、定常円旋回時に保持している、ヨーイング運動を終焉させるため、それまで発生していた時計廻りのヨーイングモーメントを減少させなければならない。すなわち具体的には、式(16)にあるように、前後輪の横力のバランスを取りヨーイングモーメントを調整しながら、4輪の横力をゼロまで低下させていく必要がある。
ここでも、旋回外側のタイヤについて注目する。図1に示すような右側旋回からの脱出を考えると、前輪旋回外側は図3のインデックス1の左前輪となる。
先に示したとおり、定常円旋回状態なので、図6(A)に示すように、横加速度は一定、すなわち横加加速度がゼロのタイミング(t3)で加速が開始される。その後、前後加速度が増加するとともに、横加速度が減少する。外側前輪は、図6(C)に示すように、横加速度低下による荷重減少と、加速による荷重減少でΔW’1も大きくなる。これにより前輪の横力は可及的に減少し、時計回りのヨーイングモーメントも大幅に低下する。これに対し外側後輪においては、図6(D)に示すように、加速分は加重増加となるため、ΔW’3は小さくなる。これにより、後輪の横力減少は前輪に比べて相対的に少なくなり、反時計回りのヨーイングモーメントの減少分を少なくする。これにより、安定した旋回からの脱出が可能となる。
ここでは、横力を低下していくので、タイヤ力を効率よく使うということは、接地荷重の変化率を小さくしながら、減少させる必要がある。結局、図6の前輪外側荷重が単調に減少するように各方向の加速度を制御することが最適となる。これは図5の減速→旋回と同じ理由による。このためには、式(17)でK<0としてこれを一定とする制御を行う必要がある。この制御は、アクセルを一定(全開を含む)にして、ステアリングで微調整を加えていくことが現実的である。このときには、前後方向と横方向の加加速度を検出する必要がある。
以上までで、前述の(3),(4),(6)の具体的なタイミング,制御手法について説明したが、これを再度まとめると、以下のようになる。
(3)減速中操舵を開始するタイミング
これは、前後方向の加加速度がゼロとなるタイミングである。
(4)ブレーキを緩めながら操舵角を増加する。
前輪外側荷重が単調に増加するように制御する必要がある。具体的には、式(11)(右旋回時)あるいは式(12)(左旋回時)が正で一定となるように、操舵角、ブレーキを制御する必要がある。また、ブレーキをリリースするタイミングは、横加加速度がゼロとなるタイミングである。
(6)加速をしながら操舵角を戻す。
横加加速度がゼロのタイミング(t3)で加速が開始される。前輪外側荷重が単調に減少するように制御する必要がある。具体的には、式(11)(右旋回時)あるいは式(12)(左旋回時)が負で一定となるように、操舵角、アクセルを制御する必要がある。また、(4)のブレーキを緩め終わるタイミングは横加加速度がゼロのタイミングである。したがって、(5)定常円旋回の状態を飛ばして(4)と(6)のタイミングが重なる場合もありうる。
<ドライバの運転ストラテジの抽出(実験的アプローチ)>
次に、図7を用いて、アクセル,ステア,ブレーキ操作について上述の力学的検討の正当性を検証するための実車試験の結果について説明する。
図7は、実車試験の説明図である。
実験に用いた車両は、排気量2000ccのエンジン前置きで、前輪駆動で、前輪2輪操舵車として用いている。このため、前輪荷重は後輪よりも大きい。
まず、図7(A)に示す実験Iとして、X点で時速80(km/h)から60(km/h)に減速し、ドライバに任せた任意のタイミングで半径40(m)のコーナーに進入し、(1)そのまま速度を保つ場合と(2)加速する場合を実施した。また、図7(B)に示す実験IIについては、さらに制動→旋回後の進路に差異を持たせた場合に、ブレーキ,ステア,アクセル操作のタイミング,操作ストラテジに変化が生じるかを検証した。
次に、図8を用いて、実車試験の実験Iの結果について説明する。
図8は、実車試験の実験Iの結果の説明図である。
図8は、実験Iの(2)の制動→旋回→加速の結果を、先の図5、図6と同様に時系列として示した図である。図8(A)は前後および横加速度である。また、図8(B)は前後、および横加加速度とステアリングの操舵角度を示す図である。図8(C)は、各輪の垂直荷重を示した図である。
図8(B)より、操舵開始のタイミングは、前後加加速度がゼロのタイミング(0。2(s)の時点)である。また、ブレーキを緩め終わるタイミング(前後加加速度が再びゼロ)は横加加速度がゼロのタイミング(1。15(s)の時点)である。さらに加速を開始するタイミングも横加加速度がゼロのタイミング(1。15(s)の時点)である。この場合、定常円旋回期間は無く、ブレーキを緩め終わるとともに、加速している。
図8(C)より、前輪外側である、左前輪の荷重は、前後加速度,横加速度が練成して発生しているにも関わらず、直線的に増加している。
次に、図9を用いて、実験I、II両方の結果として、操舵開始のタイミングを取り出した結果について説明する。
図9は、実験I、II両方の結果として、操舵開始のタイミングを取り出した結果の説明図である。
図9(A)〜(H)において、○で示した時点が操舵開始のタイミングを示している。
次に、図10を用いて、実験I、II両方の結果として、ブレーキを緩め終わるタイミング、加速を開始するタイミングを取り出した結果について説明する。
図10は、実験I、II両方の結果として、ブレーキを緩め終わるタイミング、加速を開始するタイミングを取り出した結果の説明図である。
図10(A)〜(H)において、○で示した時点がブレーキを緩め終わるタイミングを示し、△で示した時点が加速を開始するタイミングを示している。
次に、図11を用いて、実験I、II両方の結果として、各輪の垂直荷重について説明する。
図11は、実験I、II両方の結果として、各輪の垂直荷重の説明図である。
図9〜図11に示す結果でも、図8と同等な結果が得られている。
次に、図12を用いて、実車試験の車両と同等に定数を調整されたモデルを用いた車両運動シミュレーションの結果について説明する。
図12は、実車試験の車両と同等に定数を調整されたモデルを用いた車両運動シミュレーションの結果の説明図である。
モデルは、実車試験の車両と同等に定数を調整された10自由度(タイヤ4、車体6自由度)モデルを用いている。一定速度60(Km/h)で操舵角を一定の速度(実舵で1.5(deg/s))で増加していった際の、図12(A)に示す操舵角sterr及び、ヨーレイトr、図12(B)に示す横加速度Gy、図12(C)に示す横滑り角Beta、図12(D)に示す重心点の軌跡、そして、図12(E)に示す各輪の垂直荷重Fz1, Fz2, Fz3,Fz4を示している。
このような運動をする車両は、クロソイド曲線を描くことが良く知られている。クロソイド曲線は高速道路などで直線から円弧形状を結ぶ際に、車両の安定を保つための緩和曲線として用いられている。換言すれば、クロソイド曲線を定速でトレースする車両挙動は安定していると考えられる。
図12(E)に示す各輪の垂直荷重を見ると、その変化率が一定で、これまで開示してきた、「滑らかな運動」、「タイヤ力を効率よく使う」ための輪荷重の変化率を一定と保つ指針に合致している。以上のことより、本発明の指針は過渡的な安定度を保つための指針となっていると考えることができる。
本発明者らは、自車の運動と、タイヤ力の発生が好適な関係になっているか否かの観点から、操舵,制動,加速のタイミング決定、および垂直荷重の変化率を最小化するという考えから導出した。そして、実車試験を通じて実際のドライバも同様な運転ストラテジに基づいて運転しているということが確認できた。これらの実験結果より、力学的検討の正当性が検証できた。
前述したようにタイヤは通常は荷重に対しゲインが増大する範囲で使用されているが、運動状況においては、この限界を超える範囲まで垂直荷重が到達する場合もありうる。このような場合は、舵角,アクセル,ブレーキなどで発生している加速度と逆方向の加加速度が発生するので、これを検出し、舵角,アクセル,ブレーキを少し戻すように制御すればよいものである。これらの制御方法については、例えば、特許第3733929号公報に記載のものを用いることができる。
さて、ここまで開示してきた知見を元に、車両の運動制御装置の構成について考える。ドライバは、目標コースに応じたハンドル操作を行い、車両の軌跡が目標コースに合うように位置フィードバック制御を行っていると考えられる。全自動で制駆動,操舵を行う自動運転装置は、現在では高速道路などのレーンキープシステムとして実現されており、今後は前方車両が急激に停止した場合に自動的に回避するシステムなどが提案されると思われる。
これらのシステムは、外界からの情報を用いて位置を制御するシステムである。
次に、図13を用いて、本発明の車両の運動制御装置の概念について説明する。
図13は、本発明の車両の運動制御装置の概念説明図である。
本発明の制御装置は、ドライバあるいは、レーンキープシステムなどのコントローラで構成される位置決めクローズドループ内のマイナーループに入り、ドライバあるいはコントローラからの位置決めのための操舵,制動,加速指令に加えて、これまで述べてきた「滑らかな運動」、「タイヤ力を効率よく使う」理想運動実現のための指令を加算する構成となっている。ここで、本発明の制御装置は位置決めクローズドループシステムが発散しないような範囲で作動する。
具体的には、全自動で制駆動,操舵を行うもの、ドライバが一部の操作を行い、制御装置が「バイワイヤ」の利点を生かし、それを補う「直接制御」と、ドライバにサポート情報を提示し、ドライバの運転操作をアシストする「間接制御」が考えられる。クローズドループ内のドライバをコントローラとしてみなすと、「情報」により制御性能を向上させ、系全体の性能を向上させるものである。
次に、図14〜図19を用いて、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図14を用いて、本実施形態による車両の運動制御装置を用いる車両システムのシステム構成について説明する。
図14は、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置を用いる車両システムのシステム構成を示すシステムブロック図である。
車両0は、エンジン1により、左前輪63,右前輪64を駆動する後輪駆動車(Rear Engine Rear Drive: RR車)である。なお、駆動方式は、FR車でも、FF車でもよいものである。車両0は、いわゆるバイワイヤシステムで構成され、ドライバが操作するステアリング,アクセルペダル,ブレーキペダルと、操舵機構,加速機構,減速機構の間に機械的な結合はないものである。
左前輪61,右前輪62,左後輪63,右後輪64には、それぞれブレーキロータと、車輪速検出用ロータと、車両側に車輪速ピックアップとが搭載され、各輪の車輪速が検出できる。
ドライバのアクセルペダル10の踏み込み量は、アクセルポジションセンサ31により検出され、ペダルコントローラ48を経て、中央コントローラ40で演算処理される。パワートレインコントローラ46は、アクセルペダル10の踏み込み量に応じて、エンジン1の図示しないスロットル,燃料噴射装置等を制御する。また、エンジン1の出力は、パワートレインコントローラ46により制御される電子制御トランスミッション2を経由し、左後輪63,右後輪64に伝達される。また、アクセルペダル10には、アクセル反力モータ51が接続され、中央コントローラ40の演算指令に基づき、ペダルコントローラ48により、反力制御される。
車両0の操舵系は、前輪操舵装置となっており、ドライバの舵角とタイヤ切れ角の間に機械的な結合の無い、ステアバイワイヤ構造となっている。操舵系は、内部に舵角センサ(図示せず)を含むパワーステアリング7と、ステアリング16と、ドライバ舵角センサ33と、ステアリングコントローラ44とで構成されている。ドライバのステアリング16の操舵量は、ドライバ舵角センサ33により検出され、ステアリングコントローラ44を経て、中央コントローラ40で演算処理される。ステアリングコントローラ44は、ステアリング16の操舵量に応じて、パワーステアリング7を制御する。また、ステアリング16には、ステア反力モータ53が接続され、中央コントローラ40の演算指令に基づき、ステアリングコントローラ44により、反力制御される。
ドライバのブレーキペダル11の踏み込み量は、ブレーキペダルポジションセンサ32により検出され、ペダルコントローラ48を経て、中央コントローラ40で演算処理される。
左前輪61,右前輪62,左後輪63,右後輪64には、それぞれブレーキロータが配備され、車体側にはこのブレーキロータをパッド(図示せず)で挟み込むことにより車輪を減速させるキャリパーが搭載されている。キャリパーは油圧式、あるいはキャリパー毎に電機モータを有する電機式である。それぞれのキャリパーは、基本的には中央コントローラ40の演算指令に基づき、ブレーキコントローラ451(前輪用),452(後輪用)により制御される。また、このブレーキコントローラ451,452には、前出したように各輪の車輪速が入力され、車速Vが計算される。これらの信号は、中央コントローラ40にて、共有情報として、常にモニタリングされている。また、ブレーキペダル11には、ブレーキ反力モータ52が接続され、中央コントローラ40の演算指令に基づき、ペダルコントローラ48により、反力制御される。
つぎに、本実施形態の運動センサ群について述べる。図14に示すように、横加速度センサ21と前後加速度センサ22は、重心点近辺に配置されている。また夫々の加速度センサ21,22の出力を微分して加加速度情報を得る、微分回路23,24が搭載されている。本実施形態では微分回路の存在を明確化するために各センサに設置しているように図示したが、実際は中央コトローラ40に直接加速度信号を入力して各種演算処理をしてから微分処理をしてもよいものである。
また、車両0は、ドライバへ、理想運動制御部42が発信する、「間接制御」に用いられるアシスト情報を伝えるHVI(Human Vehicle Interface)55が搭載されている。
車両0には、主としてドライバからの入力に基づいて運動する「ドライバモード」と、詳細は省略するが「自動運転モード」が存在する。中央コントローラ40は、自動運転制御部41と、ドライバ運転制御部43と、本実施形態の理想運動制御部42とが相互に信号をやり取りできるように構成されている。自動運転制御部41は、「自動運転モード」のときアクティブとなり、外界センサ群39で取り込まれるGPSからの絶対位置信号,レーダーによる測距信号,ビーコンからの各種情報,サムネイルからの位置信号などと、車載のヨーレートセンサ38,車輪速センサあるいは加速度センサの信号をもとに、自車の位置を目標となる経路の位置となるように制御する。理想運動制御部42は、自動運転制御部41やドライバ運転制御部43と相互に通信を行い、自動運転制御部41あるいはドライバ入力に基づく位置決め操作に加え、「直接制御」、あるいはドライバを介在した「間接制御」を行う。
次に、図15を用いて、本実施形態による車両の運動制御装置における制御入出力の関係について説明する。
図15は、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置における制御入出力の関係を示すシステムブロック図である。
図15は、中央コントローラ40の内部の理想運動制御部42と位置決めコントロールドライバ、あるいは自動運転制御部41との制御入出力の関係を示している。
従来の運動制御装置では、目標コース,あるいは車速,ドライバ舵角などを運動規範モデルに入力することにより得られた横滑り角,ヨーレイト応答に追従するという制御を行っていた。
それに対して、本実施形態においては、これに加え、式(17)で表せるタイヤの垂直荷重の変化率Kを目標荷重移動変化率Kdに追従させるという部分が付加されており、理想運動制御部44はこの制御動作を行う。なお、図15では、目標コース追従のみ記載しており、また、運動の積分的記述においてヨーレート分は省略している。
目標コースとの偏差に応じて、自動運転制御部41やドライバ運転制御部43は、車両0に対して、各輪のタイヤスリップ率s,各輪の横滑り角βを、ブレーキ,アクセル,ステアリング舵角により調整する(MDC(s、β))。理想運動制御部44は、「直接制御」においては修正操作(MIC(s、β))を加える。また、「間接制御」においては、この量を基にして、サポート情報が決定され、ドライバに提示される。
この制御は常に行っているものではなく、主として旋回時あるいは、図13に示すような外乱が加わり、荷重変化が発生するときのみである。
ここで、本実施形態において、制御の開始時点および終了時点を以下のように設定している。先に述べた、運動制御の概念より、
制御開始時:ブレーキ、あるいは加速を開始した時点(前後加加速度発生)
制御終了時:定常旋回、あるいは直進となったとき(横加加速度ゼロ)
よって、加加速度の各成分を検出しておき、任意の規定値と比較することにより制御開始、終了を自動的に決定する構成となっている。
次に、目標となる荷重移動変化率Kdの設定方法について説明する。これは、「自動運転モード」と「ドライバモード」によってその獲得方法が異なる。以下、それぞれのモードについて具体的内容を述べる。
1)自動運転モード
最初に、図16を用いて、本実施形態による車両の運動制御装置における自動運転モード時の制御内容について説明する。
図16は、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置における自動運転モード時の制御内容の説明図である。
自動運転モードでは、基本的な位置決め制御、および車両のヨー角などの車両姿勢制御は、自動運転制御部41により達成される。現在の車速(V0)は車輪速、あるいはGPS情報などから計測可能である。また、図16(A)に示すコーナーまでの距離(X0),コーナーの半径(R),コーナー内の設定車速(VR)は、各種センサ,マップから得られる地形情報より既知である。これだけの情報では、自動運転制御部41では、いつどのようにブレーキ、ステアを操作するのかという「統合制御」の指針は未知である。図16(B)は、このときの加速度を示し、図16(C)は速度(車速)を示し、図16(D)は目標コース上の位置を示し、図16(E)は前輪外側の荷重W1を示している。ここでは、簡略化のために、ブレーキ,ステアにより発生する加加速度が一定となるようなタイヤスリップ率s,各輪の横滑り角βの制御方法が既知であると考え、車両の前後,横加加速度は、所定の期間中は一定となるように制御する。
図16(A),(B)に示すように、コーナー進入手前X0から、加加速度Jx1で減速し、時間T1後に、減速を緩める(前後加加速度はゼロ)と同時にステアを開始する。このあと、横加速度は加加速度Jyで減少し、前後加速度は加加速度Jx2で増加する。そして、それから時間T2経過後に、車両は、半径R,速度VRの定常円旋回となる。この時点で横加加速度はゼロとなり、ブレーキの緩め動作も完結し、前後加加速度もゼロとなる。ここで、具体化したいものは、加加速度Jx1,Jx2,時間T1,T2の4つの変数である。なお、Jyは、(Jx1−Jx2)として求められる。このとき、以下のような4つの関係式(18),(19),(20),(21)が成立する。
未知数4つで関係式4つであるので、Jx1,Jx2,T1,T2は具体化され、このとき目標となるKdは、以下の式(22)のように決定できる。
以上のように、自動運転モードでは、任意のブレーキ開始ポイントからの目標Kdが算出可能である。また、車速(V0)が最初からコーナー内の設定車速(VR)である場合には、前後方向の加加速度はゼロとなり位置X0から加加速度Jy一定の旋回を開始し、その後定常円旋回することになる。定常円旋回までの軌跡は、図12で述べたようなクロソイド曲線となる。
2)ドライバモード
次に、図17を用いて、本実施形態による車両の運動制御装置におけるドライバモード時の制御内容について説明する。
図17は、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置におけるドライバモード時の制御内容の説明図である。
ここで、ドライバモードについての目標Kdの獲得方法について説明する。前項で検討した式(22)より、以下のことがわかる。
・目標Kdは、Jx1(初期制動前後加加速度)で決まっている。
・ブレーキングが不要の場合、Kdは、Jy(初期操舵横加加速度)で決定される。
さらに、先に示した実験結果を示す図11(E),(F)の結果を見ると、以下のような現象が確認できる。
・ブレーキングがある程度長時間にわたる場合には、直線制動と分けて考え、この部分はDC成分のオフセットとして捉え、新たに操舵によるJyでKdが決定される。
このように考えると、ドライバモードにおいては、結局、図17(A),(B)のようにJx(初期制動前後加加速度)、(C)のようにJy(初期操舵横加加速度)で決まっている場合が考えられる。
したがっていずれの場合も、目標Kdは、動作開始時の最初の加加速度Jx_start,Jy_startを計測しておくことにより、以下の式(23)として、
のように獲得可能である。
以上のように、「自動運転モード」,「ドライバモード」でも目標荷重移動変化率Kdを獲得することが可能である。特に、「自動運転モード」では、ドライバからの入力が無いため、制御装置単体で各輪のタイヤスリップ率s、各輪の横滑り角βを、ブレーキ,アクセル,ステアリング舵角により自由に調整することができ、本発明の車両の前後加加速度、横加加速度を検出し、前後加加速度はゼロと同時にステアを開始、横加加速度がゼロとなった時点でブレーキの緩め動作を終了するという構成が実現できる。
また、ここでは省略するが、図5と図6に示した、減速→旋回、旋回→直線加速の関係から明らかなように、同等な方法で、車両の前後加加速度,横加加速度を検出し、横加加速度はゼロと同時に加速を開始し、前後加加速度がゼロとなった時点で操舵を戻す動作を終了するという構成も実現できる。
次に、図18を用いて、本実施形態による車両の運動制御装置におけるドライバモード時の制御内容について説明する。
図18は、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置におけるドライバモード時の制御内容を示すフローチャートである。
ドライバモードの場合は、理想運動制御部44による修正操作(MIC(s,β))とドライバによる運転操作(MDC(s,β))がインタラクティブに関わりあうことになる。ドライバの機能的側面については、本来必ずしも一律,一様な扱いですべてが記述できるものではない。したがって、すべてのドライバにとって確定的に最適となる修正操作は存在せず、いたずらに複雑化しても意味が無い。ここでは、図18は、制御アルゴリズムの最低限の一例を示している。
ステップS00)処理スタート
ステップS01)車両の前後加加速度Jx[i]、横加加速度Jy[i]とを計測する。このとき、前後加加速度Jx[i-1],横加加速度Jy[i-1]と比較して、加加速度がゼロに近づいているか否かを判定する。
ステップS02)加加速度J[i](i番目の加加速度ベクトルの大きさ)を求める。
ステップS03)加加速度の前後,横成分比率Ix[i],Iy[i]を求める。
ステップS04)加加速度J[i]とスレッシュホールドレベルIgshと比較し、
J[i]<Igshの場合:定常状態→ステップS01に)
J[i]>Igshの場合:減速or操舵開始→ステップS05に)。
ステップS05)i番目の荷重移動変化率を計算する。
ステップS06)目標荷重移動変化率Kdは設定されているか判定し、
設定されていない場合→ステップS07に)
すでに設定されている場合→ステップS10に)。
ステップS07)加加速度の前後,横成分比率Ix[i]とIy[i]と比較し、
Ix[i]>Iy[i]の場合→ステップS08に)
Ix[i]<Iy[i]の場合→ステップS09に)。
ステップS08)目標荷重移動変化率Kdを前後加加速度により決定する。
ステップS09)目標荷重移動変化率Kdを横加加速度により決定する。
ステップS10)タイヤ力補正量の決定演算をする。力の補正量は、目標荷重移動変化率Kdとi番目の荷重移動変化率の差分に応じて算出する。
ステップS11)タイヤ力補正量の振り分け計算する。ステップS010で決定されたタイヤ力補正量を現在の前後加加速度と横加加速度の構成比率に基づいて、横すべり角度βと縦すべり率(スリップ率)sに分配する。それぞれの補正量を実現するために、横すべり角度βについては、舵角で、縦すべり率(スリップ率)sについてはブレーキ制動力にて補正することになる。この比率については、例えば、Ix[i]が大きいときには、ドライバが積極的に制動力を制御している状況として、補正は舵角のみとしたり、Iy[i]が大きいときには、ドライバが積極的に操舵角を制御している状況として、補正は制動力のみとしたり変化をもたせるべきである。
ステップS12)定常円旋回への到達度の判断する。横加加速度の絶対値から定常円旋回への到達度を判断する。このときには、i番目以前の加加速度情報を用いても良い。
Jy[i]>Jsth:減速旋回中である。→ステップS01に)
Jy[i]<Jsth:定常円旋回に達している。→ステップS13に)。
ステップS13)目標荷重移動変化率Kdをリセット→ステップS01に戻る。
以上により、
・ブレーキング→コーナリング状況を検出し、前後加加速度から目標荷重移動変化率を設定するか、横加加速度から設定するかを決定する、
・その後の車両挙動を補正するためのタイヤ力補正量を決定し、車両運動に補正を加える、
・旋回初期の緩和動作が終了し、定常円旋回となると目標加重変化率をゼロに戻す、
が繰り返され、理想的な運動が実現されることになる。
次に、図19を用いて、本実施形態による車両の運動制御装置における「間接制御」であるドライバアシスト時の制御内容について説明する。
図19は、本発明の一実施形態による車両の運動制御装置における「間接制御」であるドライバアシスト時の制御内容を示すフローチャートである。
図19(A)は、実際の前後方向の加加速度(Jx)と横方向の加加速度(Jy)を示している。図示するように、操舵開始推奨範囲は、前後加加速度がゼロである約0.3(s)から1.1(s)の範囲である。今回の例ではドライバは操舵推奨範囲内の0.8(s)近辺で操舵を開始している。定常円旋回に入るのは、横加加速度がゼロとなる1.8(s)以降であるが、操舵開始から、この時点までが、制動力微調整範囲である。また、横加加速度がゼロになった後(1.8(s)以降)は、いつでも加速できる加速開始推奨範囲であるが、今回の例では2.5(s)からの加速となっている。
さて、上述のような推奨範囲をドライバに提示するためには、視覚情報,聴覚情報、あるいはブレーキペダル,ステアリング,アクセルペダルへの反力変化のいずれか、あるいはそのうちのいくつかを組み合わせて発信する必要がある。
図19(B)は、表示の例として、「色」による提示が示されている。これらの“アイコン”は、「間接制御」に用いられるアシスト情報を伝えるHVI(Human Vehicle Interface)55に提示されており、タイミングを伝えるために、色が変化したり、消灯したりする。たとえばブレーキペダル(図中Bと記載されたペダル)のアイコンは、本例では0秒からすでにブレーキが踏まれているため、通常ブレーキ状態である“青”で開始する。そして操舵が開始された時点で、制動力を微調整する必要が生じるために、色は青から“黄”に変化する。そして、制動が終了した後は消灯する。
同様に、ステアリングのアイコン表示については、最初は制動により減速度が増加中で前後方向の加加速度が負であるため、操舵は禁止状態の“赤”である。ここから、操舵開始推奨タイミング範囲に入ると表示は“青”に変わる。本例では0.8(s)時にドライバによる操舵が入ったため、「ブレーキとの連携制御」を示唆する“黄”に変化するように設定している。また、操舵近辺の部分を中間色としても良い。連携制御が終わり定常円旋回になると“青”に変化し、加速が開始する時点から、徐々にステアリングを戻すように表示がフェードアウトするように消灯させる。
アクセルペダル(図中Aと記載されたペダル)のアイコンは、定常円旋回が始まる1.8(s)までは、消灯している。それ以降は青色に点灯するようにして、定常円旋回すなわち、横加加速度がゼロとなっている範囲で加速開始ができるようにアシスト情報を視覚的に発信している。
以上のようにHVI55を用い、アイコンの色をドライバに提示することにした。操舵を開始するタイミング,減速を緩め終わるタイミング,加速を開始するタイミングを「推奨範囲内」から決定するためのサポート情報を視覚から与えることができる。これにより、本発明の「間接制御」が実現可能となる。
また、図19(C)は、反力,あるいはHVI55から発せられるアラームによるサポート情報の提示の概念を示している。減速動作に入った段階ではブレーキ反力は一定となっている。さて、操舵が開始された(0.8(s)近辺)以降では、減速度を低下させる必要がある。ここでは反力を増加させてドライバのペダル踏力を低下させようということを狙っている(押し戻し動作)。
さらに、ステア反力については、操舵を促すように、トルクを加えていくような構成としている。さらに、そのトルクに変動成分を重畳させ、「タクタイル信号」としても良い。また、その周波数、振幅を時間経過とともに変化させることにより、操舵開始を促すようにしても良い。
また、アクセル反力に関しても、定常円旋回状態となった段階で、タクタイル信号を加え、加速開始推奨範囲に入っていることを促すようにしても良い。また、この反力と同様に、HIV55より、反力指令と同様に音の大きさ、周波数、発信音としての間隔等を「変化」させることにした。操舵を開始するタイミング、減速を緩め終わるタイミング、加速を開始するタイミングを「推奨範囲内」から決定するためのサポート情報を視覚から与えることができる。これにより、本実施形態の「間接制御」が実現可能となる。
本実施形態の「間接制御」においては、ドライバが体感情報である加加速度を感じながら、タイミングの提示を受けることができる。換言するとドライバは加加速度という「入力」と、正しいタイミング、すなわち「教師信号」を得ることができる。これは、ニューラルネットワークの学習法として議論される、いわゆる「教師あり学習」である。本発明によると、ドライバに運転操作への洞察・示唆を与え、制御依存による運転能力の退化を防ぐ、新しいシステムを構築することができる。
また、本実施形態においては、前後および横加加速度情報を用いて、自動的に操舵、制動・加速制御する方法・装置、あるいは、最適なタイミングをドライバに提示することにより、ドライバが最適な制御することを支援する装置についての発明を開示してきた。実際に重要な情報は、式(11)〜式(14)のタイヤ各輪の垂直加重の変化率情報である。これは、前後加加速度と横加加速度に、車両緒元から決定される固定値を掛け合わせたものの線形結合となっている。したがって、各輪の垂直荷重を直接計測し、例えば、前輪の垂直荷重が最大となっているときに、操舵開始のためのアシスト情報を提示したり、旋回外輪の垂直荷重の増加率が一定となるように制御をしても良い。現在のところ、大きな荷重を精度よく扱う荷重計は高価であるために、本実施形態では前後加加速度と横加加速度を検出し、制御,支援に用いている。したがって何らかの手段で荷重、あるいはそれを反映する物理量(例えば、懸架装置のばね変位など)を計測し、本実施形態と同等なタイミング、あるいは、制御目標にしたがって、制御あるいはドライバの支援は可能であり、そのような制御および制御装置は本発明の範囲内である。
また、加速度を検出して、さらにその最大値を検出することは、陽には現れていなくても、結果としては加加速度がゼロの時点を検出していることと同値であり、このタイミングで操舵、制動、駆動の制御を開始することは本発明の範囲内である。
本実施形態で、前後あるいは横加加速度がゼロとなるタイミングに操舵,あるいは制動,駆動のタイミングが一致することについて言及してきた。ところが加加速度信号に限らず、すべての信号にはノイズが混入することが不可避であり、本発明の特許請求の範囲における「加加速度がゼロの近傍」とはノイズ分が混入された場合も含まれることを意味している。
最後に、本発明の学術的な位置づけを説明する。本発明においては垂直加重の変化率Kを一定にする制御を行っている。ところで、垂直加重の変化率Kを一定にするということは、変分法の概念を用いると実は以下の命題と同値である。
「図5における、ΔW1をtfの期間で変化させる場合に、前後加加速度と横加加速度の二乗平均の、期間tfにわたる積分値(J)がミニマムとなるような加速度変化を実現する」
一方、人間の手先の運動軌跡の計画が、加加速度がミニマムとなるようになされていると、”T.Flash,N. Hogan: The Coordination of Arm Movements -An Experimentally Confirmed Mathematical Model,Journal of Neuroscience,Vol.5,No.7,p.1688-1703 (1985)”に記載されている。
「人間が運転している車両」においても「車両」の加加速度がミニマムとなるように制御されているということは、新たな発見である。
前後加加速度と横加加速度の二乗平均和がミニマムとなるように制御されているため、横方向を専ら制御する操舵制御であっても前後方向の加加速度情報が必要であり、前後方向を専ら制御する減速・加速制御であっても前後方向の加加速度情報が必要であるということである。
以上説明したように、本実施形態によれば、アクセル,ステア,ブレーキ操作についての具体的な制御タイミングの指針を明確化し、これに基づいた運動制御装置を提供するという本発明の第一の目的が達成される。また、これと同時に具体的な制御指針をドライバに提示することにより、ドライバが自己の運転操作に対する指針を得られるようなシステムを提供するという本発明の第二の目的が達成される。
車両の運動を司る力は、空気抵抗などを除けば、車両に取り付けられたタイヤと地面の相対運動によってタイヤが地面から受ける力である。またその力によって車両が運動を行ない、それによって新たな力を受けるというように、原因と結果がつぎつぎと繰り返されるような連成現象が形成されている。
このような車両の運動を車上のドライバが制御するためには、タイヤが地面から受ける力(以下、タイヤ力と呼ぶ)により運動を実現するとともに、その運動により初めて発生するタイヤ力が、希望する運動を実現するうえで好適となるように制御されなければならない。このような関係が満たされなければ、運動が破綻するか、タイヤが破綻する。例えば、直進状態において前輪が制動し、後輪が駆動している状態というのが端的な例である。また、旋回中に前輪と後輪の発生する力のバランスが荷重移動により不適当となれば、ドリフトアウト、スピンなどの不適切な運動となる。
すべての車両について最適な運動制御方法を導き出すことは困難ではある。しかしながら、減速から旋回開始、あるいは旋回から直線加速開始というように状況を限れば、工学的に価値のある以下のような適切な制御方法が見出せた。
すなわち、本発明の第1および第2の目的を達成するために、本発明の車両の運動制御装置においては、車両の操舵を制御する装置を備え、(少なくとも車両の前後方向の加加速度を検出する手段を有し、)少なくとも車両の前後方向の加加速度情報を用いて、車両の操舵を制御する。具体的には、車両が減速しながら操舵を行う際に、前後方向の加加速度の値がゼロ近傍にある期間中に操舵を開始するように制御する。また、本発明の車両の運動制御装置は、運転者と独立した自動操舵機構を有し、この操舵開始タイミングを制御する。また、本発明の車両の運動制御装置は、運転者に操舵を開始するタイミング決定のための情報を提示する情報提示手段を有し、運転者により操舵開始タイミングを制御するように構成し、情報提示手段が、視覚情報、聴覚情報、あるいは操舵装置へのトルク入力の少なくとも一つを提示する。
また、本発明の車両の運動制御装置においては、車両の加減速を制御する装置を備え、(少なくとも車両の横方向の加加速度を検出する手段を有し、)少なくとも車両の横方向の加加速度情報を用いて、車両の加減速を制御する。具体的には、減速しながら操舵を行っている際に、横方向の加加速度の値がゼロ近傍にある期間中に減速を終了する。また、本発明の車両の運動制御装置は、運転者と独立した自動減速機構を有し、減速を終了するタイミングを制御する。また、本発明の車両の運動制御装置は、運転者に減速を止めるタイミング決定のための情報を提示する情報提示手段を備え、運転者により減速を止めるタイミングを制御するように構成し、情報提示手段が、視覚情報、聴覚情報、あるいはブレーキペダルなどの減速装置への反力入力の少なくとも一つを提示する。
また、操舵を行っている際に、少なくとも横方向の加加速度の値がゼロ近傍にある期間中に加速を開始するように制御する。そして本発明の車両の運動制御装置は、運転者と独立した自動加速機構を有し、加速を開始するタイミングを制御する。また本発明の車両の運動制御装置は、運転者に加速を開始するタイミング決定のための情報を提示する情報提示手段を備え、運転者により加速するタイミングを制御するように構成し、情報提示手段が、視覚情報、聴覚情報、あるいはアクセルペダルなどの加速装置への反力入力の少なくとも一つを提示する。