(第1の実施形態)
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の液体塗布装置100に係る実施形態の全体構成を示す斜視図である。
ここに示す液体塗布装置100は、概略、液体の塗布対象である媒体(以下、塗布媒体ともいう)に対し所定の塗布液を塗布する液体塗布手段と、この液体塗布手段に塗布液を供給する液体供給手段を有して構成されている。
液体塗布手段は、円筒状の塗布ローラ1001、この塗布ローラ1001に対向して配置された円筒状のカウンターローラ(媒体支持部材)1002、および塗布ローラ1001を駆動するローラ駆動機構1003などを有する。このローラ駆動機構1003は、ローラ駆動モータ1004と、このローラ駆動モータ1004の駆動力を塗布ローラ1001に伝達するギアトレインなどを有する動力伝達機構1005とによって構成されている。
また、液体供給手段は、塗布ローラ1001の周面との間で塗布液を保持する液体保持部材2001、およびこの液体保持部材2001に液体を供給する後述の液体流路3000(図1では不図示)などを有して構成される。塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002は、それぞれ、それらの両端が不図示のフレームに対して回動自在に取り付けられた、互いに平行な軸によって回動自在に支持されている。また、液体保持部材2001は、塗布ローラ1001の長手方向のほぼ全体にわたって延在するものであり、塗布ローラ1001の周面に対して接離動作を可能とする機構を介して上記のフレームに移動可能に取り付けられている。
本実施形態の液体塗布装置は、さらに、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002とのニップ部に塗布媒体を搬送するための、ピックアップローラなどからなる塗布媒体供給機構1006を備える。また、この塗布媒体の搬送路において、塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002の後流側には、塗布液が塗布された塗布媒体を排紙部(不図示)へ向けて搬送する、排紙ローラなどからなる排紙機構1007が設けられる。これらの給紙機構や排紙機構も、塗布ローラなどと同様、動力伝達機構1005を介して伝えられる駆動モータ1004の駆動力によって動作する。
なお、本実施形態で使用する塗布液は、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集の開始を早めることを目的とした液体である。
塗布液の成分の一例を以下に記述する。
硝酸カルシウム・4水和物 10%
グリセリン 42%
界面活性剤 1%
水 残量
また、前記塗布液の粘度は25℃で5〜6cP(センチポアズ)である。
なお、本発明の適用において塗布液は、上記のものに限られないことは勿論である。例えば、別の塗布液として、染料を不溶化あるいは凝集させる成分を含有する液体を用いることも可能である。また、別の塗布液として、塗布媒体のカール(媒体が湾曲形状となる現象)を抑制する成分を含有する液体を用いることも可能である。
塗布する液体に水を用いる場合、本発明の塗布ローラとの液体保持部材の当接部分での周動性は、表面張力を下げる成分を前記液体に含ませることで良好なものとなる。上述の塗布する液体の成分の一例では、グリセリン及び界面活性剤が水の表面張力を下げる成分である。
ここで、各部の構成をより詳細に説明する。
図2は、塗布ローラ1001、カウンターローラ1002および液体保持部材2001などの配置の一例を示す説明縦断側面図である。
カウンターローラ1002は、不図示の付勢手段によって塗布ローラ1001の周面に向けて付勢されており、塗布ローラ1001を図中、時計方向に回転させる。この回転により、両ローラの間に塗布液を塗布すべき塗布媒体Pを挟持し得ると共に、塗布媒体Pを図中の矢印方向に搬送し得るようになっている。
また、液体保持部材2001は、バネ部材(押圧手段)2006の付勢力によって塗布ローラ1001の周面に対して付勢されて当接するとき、塗布ローラ1001による液体塗布領域全体に亘って延在する長尺な液体保持空間Sを形成するようになっている。この液体保持空間S内には、後述の液体流路3000から液体保持部材2001を介して塗布液が供給される。ここで、液体保持部材2001が以下のように構成されているため、塗布ローラ1001の停止状態において、液体保持空間Sから外方へ不用意に塗布液が漏出するのを防止することができる。
この液体保持部材2001の構成を、図3ないし図8に示す。
図3に示すように、液体保持部材2001は、空間形成基材2002と、この空間形成基材2002の一方の面に突設された環状の当接部材2009とを有して構成されている。空間形成基材2002には、その中央部分における長手方向に沿って、底部の断面形が円弧状をなす凹部2003が形成される。そして、当接部材2009は、その直線部分がこの凹部2003の上縁部に沿って固着され、また、円周部分が上記上縁部から底部を経て反対側の上縁部に至るように固着される。これにより、液体保持部材2001の当接部2009が塗布ローラ1001に当接したとき、塗布ローラの周面形状に沿った当接が可能となり、均一な圧力の当接を実現することができる。
上記のようにこの実施形態における液体保持部材は、継ぎ目のない一体に形成された当接部材2009が、バネ部材2006の付勢力によって塗布ローラ1001の外周面に隙間なく連続した状態で当接する。その結果、液体保持空間Sは、この当接部材2009と、空間形成基材の一面と、塗布ローラ1001の外周面とによる実質的に閉塞した空間となり、この空間に液体が保持される。そして、塗布ローラ1001の回転が停止した状態では、当接部材2009と塗布ローラ1001の外周面とは液密状態を維持し、液体が外部へと漏出するのを確実に防止することができる。一方、塗布ローラ1001が回転するときは、後述されるように、塗布液は塗布ローラ1001の外周面と当接部材2009との間を摺り抜けるように通ることができる。ここで、塗布ローラ1001の停止状態において、その外周面と当接部材2009とが液密状態にあるとは、上記のとおり、上記空間の内と外の間で液体を通さないことである。この場合、当接部材2009の当接状態としては、それが塗布ローラ1001の外周面に対し直に接する状態の他、毛管力によって形成される液体の膜を介して上記外周面に当接する状態を含むものである。
また、当接部材2009の長手方向における左右両側部は、図3ないし図8に示すように、正面(図3)、平面(図6)および側面(図7、図8)のいずれの方向から見ても緩やかに湾曲する形状をなしている。このため、塗布ローラ1001に対し、比較的強い押圧力で当接部材2009を当接させても、当接部材2009の全体が略均一に弾性変形し、局所的に大きな歪みが生じることはない。このため、当接部材2009は図6ないし図8に示すように、隙間なく連続的に塗布ローラ1001の外周面に当接し、上記の実質的に閉塞した空間を形成することができる。
一方、空間形成基材2002には、図3ないし図5に示すように、当接部材2009に囲繞された領域内に、それぞれ空間形成基材2002を貫通する孔を有して構成される液体供給口2004および液体回収口2005が設けられている。これらは空間形成基材の背面側に突設された円筒状の連結部20041,20051にそれぞれ連通している。また、この連結部20041,20051は、後述の液体流路3000に連結されている。なお、この実施形態では、液体供給口2004が当接部材2009に囲繞された領域の一端部(図3では左端部)近傍に形成され、液体回収口2005が同領域の他端部(図3では右端部)近傍に設けられる。なお、液体供給口および液体回収口は、上述に限らず空間形成基材上のいずれの場所にも形成することができる。また、液体供給口および液体回収口の数は、それぞれいずれの数であっても良い。この液体供給口2004は、液体流路3000から供給される塗布液を前述の液体保持空間Sに供給し、液体回収口2005は液体保持空間S内の液体を液体流路3000へと流出させるためのものである。この液体の供給、流出を行うことにより、液体保持空間S内において、塗布液は上記の左端部から右端部へと流動する。
(塗布液流路)
図11は、前記塗布液供給手段の液体保持部材2001に連結される液体流路3000の概略構成を示す説明図である。
この液体流路3000は、液体保持部材2001を構成する空間形成基材2002の液体供給口2004と塗布液を貯蔵する貯蔵タンク3003とを連結する第1流路3001を有する。また、液体流路3000は、空間形成基材2002の液体回収口2005と前記貯蔵タンク3003とを連結する第2流路3002を有する。この貯蔵タンク3003には、大気連通口3004が設けられており、また、この大気連通口には、大気との連通、遮断を切換える大気連通弁3005が設けられる。なお、大気連通口3004は、蒸発を抑制するために迷路構造であることが望ましい。また、第1流路3001内には切換弁3006が設けられており、この切換弁3006によって第1流路3001と大気との連通、遮断が切換え可能となっている。さらに第2流路3002内には、本液体流路3000内で塗布液および空気を所望の方向へと強制的に流動させるためのポンプ3007が連結されている。ここでは、液体保持空間Sを介して第1流路3001から第2流路3002へ向かう方向の液体の流れを発生させる。
この実施形態において、第1流路3001および第2の流路3002は円管状のチューブによって形成されている。各チューブの端部に形成される開口部は、貯蔵タンク3003の底部もしくは底部に近い位置に配置され、貯蔵タンク3003内の塗布液を完全に消費し得るようになっている。
また、この実施形態におけるポンプ3007は、図12に示すようなチューブポンプによって構成されている。このチューブポンプ3007は、ポンプ駆動モータ(ここでは図示せず)によって回転する回転体30071と、この回転体30071の外側に沿って弧状に配設された可撓性を有するポンプ構成チューブ30072とを有する。また、チューブポンプ3007は、上記回転体30071に回動自在に支持された2個のコロ30073,30074を有する。このチューブポンプでは、回転体30071が回転することにより、少なくとも一つのコロ30073,30074がポンプ構成チューブ30072を押し潰しながら転動する。この転動により、ポンプ構成チューブ30072内の塗布液または空気を下流側へと(図12では、貯蔵タンク側チューブ30022へと)送り出すと同時に、液体保持部材側チューブ30021から塗布液または空気を吸引する。また、このチューブポンプ3007は、駆動停止状態で必ずポンプ構成チューブを押し潰した状態で停止するため、チューブ30021とチューブ30022との連通は遮断される。
また、この実施形態における切換弁3006は、第1流路3001と大気との連通、遮断を切換え得るものであれば、種々のものが適用可能であるが、ここでは図11に示すような三方弁を使用している。この三方弁3006は、互いに連通する3つのポートを有する。三方弁3006は、このポートのうち2つのポートを、第1流路3001における貯蔵タンク側チューブ3011と、液体保持部材側チューブ3012と、大気連通口3013の中のいずれか二つに選択的に連通させ得るものとなっている。そして、この三方弁3006の切換えにより、チューブ3011とチューブ3012とを連通させる連結状態と、チューブ3012と大気連通口3013とを連通させる連結状態とが選択的に切り換えられる。これにより、液体保持部材2001と塗布ローラ1001とによって形成される液体保持空間Sに対し、貯蔵タンク3003内の塗布液あるいは大気連通口3013から取り込まれる空気の何れかを選択して供給することが可能となる。詳しくは、図13に示されるようにチューブ3011とチューブ3012とが連通している状態にあっては、貯蔵タンク3003内の塗布液が液体保持空間Sに供給される。一方、図14に示されるようにチューブ3012と大気連通口3013とが連通している状態にあっては、大気連通口3013から取り込まれる空気が液体保持空間Sに供給される。なお、三方弁3006の切換えは、後述の制御部4000からの制御信号によって行われ、塗布液の充填、供給などが行われる。
このように、本実施形態では、ポンプ3007を第2流路3002に設けているが、これに限らない。すなわち、ポンプ3007を第1流路に設けるようにしても良い。
(制御系)
図15は、本実施形態の液体塗布装置における制御系の概略構成を示すブロック図である。
図15において、制御部4000は液体塗布装置全体を制御する制御手段としての制御部である。この制御部4000は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU4001と、このCPU4001によって実行される、図16、20、21、23、24にて後述される処理などの制御プログラムなどを格納するROM4002とを有する。また、制御部4000は、CPU4001の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM4003などを有する。この制御部4000は、後述する塗布液の消費量に関する情報を取得する機能や、塗布液の消費量に関する情報に基づいて液体移動手段(ポンプ)による液体保持空間Sへの液体の供給動作を制御する機能を有する。
また、この制御部4000には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部4004、液体塗布装置の入力・設定状態などをはじめとする種々の表示を行う表示部4005が接続されている。また、制御部4000には、塗布媒体の位置や各部の動作状態などを検出するセンサなどを含む検出部4006が接続されている。さらに制御部4000には、上記ローラ駆動モータ1004、ポンプ駆動モータ4009、大気連通弁3005および切換弁3006などがそれぞれ駆動回路4007,4008,4010,4011を介して接続されている。なお、検出部4006を構成するセンサとしては、第1の実施形態における塗布媒体の検知センサ、第2の実施形態におけるサイズ検知センサ、第4の実施形態における温度センサ等が含まれる。
本実施形態では、以上の構成により、塗布液の塗布媒体への塗布動作(液体塗布動作)時において、所定のタイミングに応じて、ポンプ3007の停止および作動(駆動)を制御する。
(液体塗布動作シーケンス)
図16は、本実施形態の液体塗布装置の液体塗布に係わる処理手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照して、液体塗布にかかる各工程を説明する。すなわち、液体塗布装置に電源が投入されると、制御部4000は、図16に示すフローチャートに従って以下の塗布動作シーケンスを実行する。
ステップS201では、液体保持空間Sに対する塗布液の充填工程を実行する。この充填工程では、まず、貯蔵タンク3003の大気連通弁3005を大気に開放させると共に、ポンプ3007を一定時間駆動する。これにより、液体保持空間Sおよび各流路3001,3002内に塗布液が充填されていない場合には、ポンプによって内部の空気が貯留タンク3003へと送られて大気へと排出されると共に各部に塗布液が充填される。また、既に各部に塗布液が充填されている場合(後述の所定量の塗布液を消費したと判断した後)には、各部の塗布液が流動して適正な濃度および粘度の塗布液が適切な量(液体塗布動作で消費された塗布液に略相当する量など)だけ供給される。この動作によって、塗布ローラ1001に対し塗布液が供給された状態となり、塗布媒体への塗布が可能となる。次いで、塗布ローラ1000による塗布液の消費量である液体消費量に対応した情報(例えば、後述する塗布媒体のカウント値)がRAM4003に記憶されている場合は、該情報をゼロにリセットする(ステップS202)。次いで、ポンプ3007の駆動を停止させる(ステップS203)。
このように、液体保持空間Sに塗布液が充填されると、ステップS204〜ステップS206に示される塗布工程を行う。すなわち、塗布ローラ1001が図9の矢印に示すように、時計周りに回転を開始する(ステップS204)。なお、ステップS204において、すでに塗布ローラ1001が回転している場合は、その回転を維持する。この塗布ローラ1001の回転により、液体保持空間Sに充填された塗布液Lは、塗布ローラ1001に対する液体保持部材2001の当接部材2009の押圧力に抗して、塗布ローラ1001と当接部材2009の下縁部2011との間を摺り抜ける。この擦り抜けた塗布液Lが、塗布ローラ1001の外周に層状態となって付着する。塗布ローラ1001に付着した塗布液Lは、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との当接部に送られる。
次いで、塗布媒体供給機構1006によって塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体が搬送され、これらのローラの間に塗布媒体が挿入される。これと共に、挿入された塗布媒体は、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002の回転に伴い排紙部へ向けて搬送される(ステップS205)。このとき、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との上流側に設けられた検出部4006のセンサによって搬送された塗布媒体は検知される。この検知により上記センサによって送られた検知信号に基づいてRAM4003にカウント1を記憶する。本実施形態において、“カウントN”とは、N枚の塗布媒体に塗布を行うことに対応している。また、上記センサによって塗布媒体を1枚検知する毎にカウント値を1ずつ累積し、該累積されたカウント値をRAM4003に記憶する。
なお、本実施形態では、上記センサを、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002の下流側に設けて塗布媒体の検知を行うようにしても良い。
上記搬送の間に、塗布ローラの周面に塗布された塗布液が、図9に示すように塗布ローラ1001から塗布媒体Pに転写される。なお、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体を供給する手段としては、上記の送給機構に限られないことはもちろんである。例えば、所定のガイド部材を補助的に用いる手差しによる手段を併せて用いてもよく、また、手差し手段を単独で用いる構成などどのような手段を用いてもよい。
図9において、交差する斜線で表現した部分が塗布液Lを示している。なお、ここでは、塗布ローラ1001及び塗布媒体Pにおける塗布液の層の厚みは、塗布時における塗布液Lの様子を明確に図示する上で、実際の厚みよりもかなり過大に表している。
上記のようにして、塗布媒体Pの塗布された部分は塗布ローラ1001の搬送力により矢印方向に搬送されると共に、塗布媒体Pと塗布ローラ1001の接触部に塗布媒体Pの未塗布部分が搬送される。この動作を連続もしくは間欠的に行うことで塗布媒体全体に塗布液を塗布していく。
ところで、図9においては、当接部材2009から摺り抜けて塗布ローラ1001に付着した塗布液Lの全てが塗布媒体Pに転写された理想的な塗布状態を示している。しかしながら、実際には、塗布ローラ1001に付着した塗布液Lの全てが塗布媒体Pに転写されるとは限らない。つまり、搬送される塗布媒体Pが塗布ローラ1001から離間する際、塗布液Lは、塗布ローラ1001にも付着し、塗布ローラ1001に塗布液Lが残留することが多い。この塗布ローラ1001における塗布液Lの残留量は、塗布媒体Pの材質及び表面の微小な凹凸の状態によっても異なるが、塗布媒体Pが普通紙の場合、塗布動作後も塗布ローラ1001の周面には塗布液Lが残留する。
図17、図18、図19は、媒体Pが普通紙である場合における媒体の表面と塗布面での塗布過程を説明する説明図である。本図では液体を黒く塗りつぶしてある。
図17は塗布ローラ1001とカウンタローラ1002とのニップ部より上流側での状態を示している。同図において塗布ローラ1001の塗布面には液体が塗布面の表面の微細な凹凸をわずかに被うように液体が付着している。
図18は塗布ローラ1001とカウンタローラ1002とのニップ部での、媒体Pである普通紙の表面と塗布ローラ1001の塗布面の状態を示している。同図において媒体Pである普通紙の表面の凸部は塗布ローラ1001の塗布面と接触し、接触した部分より液体が瞬時に媒体Pである普通紙の表面の繊維に浸透ないし吸着する。また塗布ローラ1001の塗布面には普通紙の表面の凸部と接触しない部分に付着した液体が残留する。
図19は塗布ローラ1001とカウンタローラ1002とのニップ部より下流側での状態を示している。同図は媒体と塗布ローラ1001の塗布面が完全に離脱した状態である。塗布ローラ1001の塗布面には普通紙の表面の凸部と接触しない部分に残留した液体と接触部における液体も極微量ながら塗布面に残留する。
この塗布ローラ1001に残留した塗布液は、塗布ローラ1001に対する液体保持部材2001の当接部材2009の押圧力に抗して、塗布ローラ1001と当接部材2009の上縁部2010との間を摺り抜けて液体保持空間S内に戻る。この戻った塗布液は、同空間S内に充填されている塗布液と混合される。
また、この塗布液の戻し動作は、図10に示すように塗布媒体が存在しない状態で塗布ローラ1001を回転させた場合にも同様に行われる。すなわち、塗布ローラ1001を回転することで塗布ローラ1001の外周に付着した塗布液は、カウンターローラ1002との当接部の間をすり抜ける。すり抜けた後は塗布ローラ1001側とカウンターローラ1002側とに塗布液が分離し、塗布ローラ1001に塗布液が残留する。そして、塗布ローラ1001側に付着した塗布液Lは当接部材2009の上縁部2010と塗布ローラ1001との間をすり抜けて液体保持空間S内に侵入し、同空間S内に充填されている塗布液に混合する。
上記のようにして、塗布媒体への塗布動作が実行されると、次に塗布媒体への塗布が完了したか否かの判断を行う(ステップS206)。塗布が完了していない場合は、塗布媒体への塗布が必要な部分全体に行われるまで本ステップを繰り返し、塗布動作を繰り返す。
上記のようにして、塗布媒体への塗布動作が実行されると、ステップ207にて、塗布工程を終了して良いか否かの判断、つまり、後続の塗布媒体が存在するか否か判断を行う。本ステップに係る塗布が終了か否かの判断は、上記センサ(または上記センサとは別個のセンサであって、塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002の上流側に設けられたセンサ)の検知信号によって行う。所定時間の間に上記センサから検知信号が送られてくる場合、すなわち、次の塗布媒体が供給されている場合は、塗布工程を継続する必要があると判断し、ステップS208に進む。一方、所定時間の間に上記センサから検知信号が送られてこない場合、つまり、次の塗布媒体が供給されていない場合は、塗布工程を終了してよいと判断し、ステップS209へ進み、後処理を行う。
本ステップにおける塗布工程を終了して良いか否かの判断は、上記に限定されるものではない。例えば、塗布対象となる塗布媒体の枚数を示す情報を含む塗布開始指令に基づいて判断する形態等、次の塗布媒体への塗布動作が必要か否かを判断するものであればいずれの手段によって行っても良い。
ステップS208では、液体保持空間S内に適切な量の塗布液が保持されており、塗布ローラにより塗布液が塗布可能か否かを判断する。すなわち、本ステップにより、上記塗布動作で消費された塗布液が、所定の消費量を超えていないか否かを判断する。この判断は、ステップS205でRAM4003に記憶されたカウント値と、ROM4002に予め記憶された規定塗布可能枚数とを比較することにより行われる。上記カウント値が規定塗布可能枚数よりも大きい場合は、塗布可能ではないと判断し、ステップS201へと戻る。ステップS201では、上述のようにポンプ3007を駆動して塗布液を循環させることで、液体保持空間Sに対して再度充填動作を行う。上記カウントが規定塗布可能枚数以下である場合は、塗布可能であると判断し、ステップS205へと進み、次の塗布媒体への塗布動作を行う。このように、ステップ208によって、液体保持空間Sに塗布液の充填が必要か否かの判断を行うのである。
このように、実際の塗布動作の前に上記カウントを行うが、塗布ローラに塗布液を塗布可能か否かの判断は、カウントに寄与した塗布媒体への塗布液の塗布完了後に行っているので、累積カウント値は、塗布動作による塗布液の消費量に実質的に相当している。
本実施形態において、「規定塗布可能枚数」とは、液体保持空間Sへの塗布液の充填を必要とする閾値であり、予め数値が設定されてROM4002に記憶されている。例えば、規定塗布可能枚数10とは、塗布媒体への塗布が累積10枚までなら、液体保持空間Sに塗布液を充填しなくても、塗布可能であることを示す。従って、塗布媒体への塗布液の塗布を累積5枚まで行った場合、すなわち、RAM4003に記憶されている累積カウントが5である場合は、その累積カウントは規定塗布可能枚数10よりも小さい。よって、塗布動作を続行する。一方、累積カウントが10である場合は、ステップS201に戻って、充填工程を行うことになる。
なお、ここでは、塗布可能と想定される最大の枚数を「規定塗布可能枚数」と定めているが、これには限られない。上記最大の枚数よりも少ない枚数を「規定塗布可能枚数」と定めてもよい。例えば、塗布可能と想定される最大の枚数が10であったとしても、「規定塗布可能枚数」を7に定めておき、7枚を超えたら塗布液を充填する制御を行うのである。このような設計によれば、塗布媒体への塗布量が想定以上となるような不具合が生じたとしても、塗布液が塗布媒体に付与されないような事態を避けることができる。
次に、ステップS209に示される後処理としての塗布液回収動作について図20を参照しながら説明する。なお、この回収動作では、大気連通弁3005および大気連通弁3013を開放し、ポンプ3007を駆動する。この駆動により、第1流路3001のチューブ3012、液体保持空間Sおよび第2流路3002内の塗布液を液体貯留タンク3003へと流入させる。この回収動作について以下詳細に説明する。
回収動作の開始直前においては、ポンプ3007は停止状態となっている。また、大気連通弁3005は開状態にあり、大気連通口3004は大気に開放されている。
回収動作が開始されると、図20のステップS901において、塗布ローラ1001を停止する。次いで、ステップ902にて、ポンプ3007を動作させ、液体流路3000内において塗布液の流れを生じさせる。例えば、第2流路3002における塗布液の流れ方向は、図11の矢印で示される方向である。
次に、ステップS903において、三方弁3006を図14の状態にして大気連通口3013と液体保持部材側チューブ3012を連通させる。すると、既にポンプ3007の動作で図11の矢印で示される方向へ塗布液の流れが発生しているため、この塗布液の流れに伴って大気連通口3013から空気が流入する。そして、液体保持空間Sを含む液体保持部材側チューブ3012から第2流路3002に至る経路(以下、液体経路Aともいう)に存在する塗布液は貯蔵タンク3003へと回収され、また、液体経路Aには空気が充満される。また、三方弁3006が図14のような状態となるため、貯蔵タンク側チューブ3011は外気と遮断された状態となる。
次に、ステップS904において、ポンプ3007の動作を停止すると共に、このポンプ3007により第2流路3002を外気と遮断する。最後に、ステップS905において、大気連通弁3005を閉じる。
このような構成によれば、塗布動作が所定期間以上行われない場合に液体経路Aから塗布液を回収するようにしているので、仮に、塗布動作が長期間行われない場合であっても、液体経路A内の液体保持空間Sで塗布液が蒸発し固着するようなことはない。その結果、当接部材2009に塗布液が固着することで生じる塗布不良を発生させずに済む。
また、この回収動作を行うことにより、液体保持空間Sからの塗布液の蒸発を軽減することができる。また、回収動作後は大気連通弁3005を閉じ、切換弁3006を切換えて貯蔵タンク側チューブ3011と大気連通口3013との連通を遮断することにより、貯蔵タンク3003を大気から遮断している。これにより、貯蔵タンク3003からの塗布液の蒸発を軽減することができる。更に先に述べたように、大気と連通状態にある液体経路A内の塗布液は貯蔵タンク3003内に回収され、その貯蔵タンク3003内にも外気と遮断されている。よって、移動、運搬などにおいて装置の姿勢が傾いた場合にも塗布液が外部へ流出するのを防止することができる。
なお、本実施形態では、ステップS208とステップS201との間に、塗布ローラ1001を停止するステップを設けても良い。
また、本実施形態では、塗布液が塗布される塗布媒体の枚数を示す情報に基づいて、塗布動作における塗布液の消費量に関する情報を取得しているが、これに限定されない。例えば、(第2の実施形態にて説明する)塗布媒体のサイズを示す情報や、(第3の実施形態にて説明する)塗布媒体に対する塗布液の塗布面積を示す情報に基づいて、上記消費量に関連する情報を所得しても良い。更には、塗布媒体に塗布が行われている間の塗布ローラの回転数を示す情報や該塗布の際の経過時間を示す情報等に基づいて、上記消費量に関連する情報を取得しても良い。または、液体保持部材にセンサを設け、該センサによって液体保持空間の液面の高さ等を検知することにより、塗布液の消費量に関する情報を取得するようにしても良い。すなわち、ポンプによる充填動作を制御するために、塗布動作における塗布液の消費量に関する情報を取得できれば良いのである。
本実施形態は、ジョブが複数枚の画像データで構成されている場合でも適用できる。すなわち、本実施形態では、1枚毎にカウント値を累積させ、かつ1枚毎に累積カウント値と規定塗布可能枚数との比較を行っているので、ジョブ内のページ間はもちろん、ジョブ間のページ間でも適切に塗布液の充填工程が必要か否かの判断を行うことができる。
また、ステップS207にて、所定時間待って次の塗布媒体が供給されないと判断する場合は、ステップS209の後処理にて塗布液は貯蔵タンク3003に回収される。そして、次の塗布開始指令が入力されると、ステップS201にて塗布液を液体保持空間Sに充填し、ステップS202にて、RAM4003のカウントはリセットされる。よって、ジョブとジョブとの間が所定時間以上ある場合でも、液体保持空間S内に適切な量の塗布液が保持されているか否かの判断を適切に行うことができる。
以上のように、本実施形態に係る液体塗布装置では、塗布液を塗布媒体に塗布する際に、液体移動手段としてのポンプを必要なときのみ作動させ、それ以外のときには停止させている。よって、塗布時にポンプを常時作動させる場合に比べて、ポンプの作動に伴う騒音や消費電力を低減させることが可能となる。
なお、本実施形態では、塗布液の消費量に関連する情報に基づいてポンプを駆動し、液体保持空間Sに塗布液を充填させる処理を行っているが、ここでの目的は、塗布ローラによる塗布を可能とするべく、液体保持空間Sに塗布液を補充することである。従って、液体保持空間Sを塗布液で完全に満なさなくとも、液体保持空間Sに塗布液が供給されれば上記目的は達成される。つまり、液体保持空間の一部に空気が残存する程度に塗布液を補充する形態であってもよく、充填処理は必須ではない。以上のように本実施形態は、液体保持空間Sを塗布液で完全に満すように塗布液を供給する形態(充填処理の形態)のみならず、液体保持空間の一部に空気が残存する程度に塗布液を供給する形態も含むものである。そして、塗布液の消費量に関連する情報に基づいて液体保持空間への塗布液の供給動作を制御するものである。
また、後述する第2、第3、第4、その他の実施形態においても充填処理を例にとって説明していくが、充填処理の形態に限定されないことは以下の実施形態においても同様に当て嵌まる事項である。
(第2の実施形態)
本実施形態は、塗布動作における塗布液の消費量に関する情報の取得を、塗布媒体のサイズを示す情報を基に行うものである。
図21は、本実施形態の液体塗布装置の液体塗布に係わる処理手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照して、液体塗布にかかる各工程を説明する。すなわち、液体塗布装置に電源が投入されると、制御部4000は、図21に示すフローチャートに従って以下の塗布動作シーケンスを実行する。
ステップS301〜S304では、第1の実施形態にて説明したステップS201〜S204と同様の処理を行うので、その説明は省略する。
次いで、ステップS305にて、塗布動作を終了して良いか否かの判断を行う。本ステップに係る塗布が終了か否かの判断は、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との上流側に設けられたセンサの検知信号によって行う。所定時間の間に上記センサから検知信号が送られてくる場合、すなわち、次の塗布媒体が供給されている場合は、塗布が終了していないと判断し、ステップS306に進む。所定時間の間に上記センサから検知信号が送られてこない場合、すなわち、次の塗布媒体が供給されていない場合は、塗布が終了していると判断し、ステップS311へ進み、後処理を行う。
本ステップにおける塗布工程が終了か否かの判断は、上記に限定されるものではない。例えば、塗布対象となる塗布媒体の枚数を示す情報を含む塗布開始指令に基づいて判断する等、次の塗布動作が必要か否かを判断するものであればいずれの手段によって行っても良い。
ステップS306では、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との上流側に設けられたサイズ検知センサによって、次に塗布すべき塗布媒体のサイズを検知する。そして、検知されたサイズを示す情報に基づいて、次に塗布すべき塗布媒体のサイズに必要な塗布液の量(液体消費量とも呼ぶ)に関する情報を取得する。
ここで、液体消費量に関する情報の一例を図22に示す。例えば、A3の紙に塗布する場合は、液体消費量を8、A4の紙の時は4と言ったように定義する。すなわち、図22のように定義されたテーブルを参照して、サイズ検知センサより送られたサイズを示す情報から、次に塗布すべき塗布媒体のサイズに対する液体消費量に関する情報を得るのである。
本実施形態では、一例として、図22のように液体の消費量を定義したが、一回の塗布における塗布量は、塗布液の組成や塗布媒体の液体吸収特性、塗布時の周囲環境(温度・湿度)等の種々の条件によっても変化してくる。従って、このような条件に応じて最適な液体の消費量を対応付けておく事が望ましい。
次いで、ステップS307にて、RAM4003に記憶されている、前回までの塗布による液体消費量に関する情報に、ステップS306にて得られた、今回の液体消費量に関する情報を加算し、累積の液体消費量に関する情報をRAM4003に記憶する。
ステップS308では、液体保持空間Sに塗布液を充填するか否かの判断を行う。本ステップでは、ROM4002に予め設定されて記憶されている、液体保持空間Sへの塗布液の充填を必要とする閾値と、RAM4003に記憶されている累積の液体消費量に関する情報とを比較する。累積の液体消費量に関する情報が閾値よりも大きい場合は、液体保持空間Sへの塗布液の充填が必要であると判断し、ステップS301へと戻る。ステップS301では、上述のようにポンプ3007を駆動して塗布液を循環させることで、液体保持空間Sに対して再度充填動作を行う。累積の液体消費量に関する情報が閾値よりも小さい場合は、塗布液の充填が必要ではないと判断し、ステップS309へと進む。
本ステップによる判断について、塗布液を循環させていない状態で塗布を行える条件として、例えば、閾値を16に設定する場合を説明する。このとき、例えば、A3用紙1枚、A4用紙1枚、B5用紙1枚にそれぞれ塗布を行うと、液体消費量の合計は、図22より、8+4+3=15となる。次に、A5用紙を一枚塗布しようとすると、液体消費量の合計は15+2=17となり、「閾値(16)」<「液体消費量に関する情報(17)」という状態になるため、A5の用紙への塗布を行う前に、液体保持部材への充填処理を行う必要が出てくる。このように、液体消費量に関する情報が閾値よりも大きくなると判断すると、充填処理を行うために、ステップS301に進むのである。
ステップS309では、塗布媒体供給機構1006によって塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体が搬送され、これらのローラの間に塗布媒体が挿入される。これと共に、挿入された塗布媒体は塗布ローラ1001とカウンターローラ1002の回転に伴い排紙部へ向けて搬送される。本ステップにより、第1の実施形態で説明したように、塗布媒体への塗布液の塗布が行われる。
上記のようにして、塗布媒体への塗布動作が実行されると、次に塗布媒体への塗布が完了したか否かの判断を行う(ステップS310)。この判断により、塗布が完了していない場合は、塗布媒体の塗布が必要な部分全体に行われるまで、本ステップを繰り返し、塗布動作を繰り返す。ステップS310にて、塗布媒体への塗布が完了したと判断すると、ステップS305に進み、塗布動作を終了するか否かの判断を行い、塗布動作を終了すると判断するまで、ステップS305〜S309を繰り返す。
ステップS311では、図20で説明した後処理を行って本処理を終了する。
以上のように、本実施形態に係る液体塗布装置では、塗布液を塗布媒体に塗布する際に、液体移動手段としてのポンプを必要なときだけ作動させ、それ以外のときには停止させている。よって、塗布時にポンプを常時作動させる場合に比べ、ポンプの作動に伴う騒音や消費電力を低減させることが可能となる。
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態では、塗布動作が終わった後に、液体保持空間Sへの塗布液の充填を行っているが、本実施形態では、塗布動作中に、塗布液の充填を行うことについて説明する。
本実施形態は、塗布動作における塗布液の消費量に関する情報の取得を、塗布媒体へ塗布された塗布液の面積を示す情報に基づいて行うものである。塗布ローラの面積と回転数とにより、塗布媒体への塗布面積が求められる。塗布ローラの面積は予め設定することができるので、本実施形態では、塗布液の塗布面積の判断として、塗布ローラの回転数に基づいて行っている。
図23は、本実施形態の液体塗布装置の液体塗布に係わる処理手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照して、液体塗布にかかる各工程を説明する。すなわち、液体塗布装置に電源が投入されると、制御部4000は、図23に示すフローチャートに従って以下の塗布動作シーケンスを実行する。
ステップS401〜S404では、第1の実施形態にて説明したステップS201〜S204と同様の処理を行うので、その説明は省略する。
次いで、第1の実施形態と同様にして、塗布媒体供給機構1006によって塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との間に塗布媒体が搬送され、これらのローラの間に塗布媒体が挿入される。これと共に、挿入された塗布媒体は塗布ローラ1001とカウンターローラ1002の回転に伴い排紙部へ向けて搬送される(ステップS405)。このとき、塗布ローラ1001とカウンターローラ1002との上流側に設けられたセンサによって搬送された塗布媒体が検知されると、塗布ローラ1001の回転数をカウントする。そして、該カウント結果を随時加算し、その累積カウント値をRAM4003に記憶する。
ステップS406では、液体保持空間Sに塗布液を充填するか否かの判断を行う。本ステップでは、ROM4002に予め設定されて記憶されている、液体保持空間Sへの塗布液の充填を必要とする閾値と、RAM4003に記憶されている塗布ローラ回転数の累積カウント値とを比較する。累積カウント値が閾値よりも大きい場合は、液体保持空間Sへの塗布液の充填が必要であると判断し、ステップS407へと進む。このように、本ステップにより液体保持空間Sへの塗布液の充填が必要と判断された場合は、塗布動作中ではあるが、塗布液の充填を行うことになる。累積カウント値が閾値よりも小さい場合は、塗布液の充填が必要ではないと判断し、ステップS408へと進む。
ステップS407では、ポンプ3007を駆動して貯蔵タンク3003から液体保持空間Sへと塗布液の充填を行う。この充填と共に、RAM4003に記憶されている、塗布ローラ回転数の累積カウント値をゼロにリセットする。所定の時間だけポンプ3007を回転させて上記充填が了すると、ポンプ3007の駆動を停止する。本ステップにおける充填の際には、塗布ローラ1001の回転を継続させておいても良いが、塗布ローラ1001の回転を停止するようにしても良い。このように、本ステップにおいて、塗布ローラ1001により塗布された塗布液の量に相当する量を、液体保持空間Sへと補充することができる。
ステップS408では、塗布媒体への塗布が完了したか否かの判断を行う。塗布媒体への塗布が完了していない場合は、塗布媒体への塗布が必要な部分全体に行われるまで塗布動作を繰り返す。
上記のようにして、塗布媒体への塗布動作が実行されると、ステップ409にて、塗布工程を終了して良いか否かの判断を行う。本ステップに係る塗布が終了か否かの判断は、上記センサ(または上記センサとは別個のセンサであって、塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002の上流側に設けられたセンサ)の検知信号によって行う。所定時間の間に上記センサから検知信号が送られてくる場合、すなわち、次の塗布媒体が供給されている場合は、塗布が終了していないと判断し、塗布ローラの回転数のカウントを停止して、ステップS405に進む。所定時間の間に上記センサから検知信号が送られてこない場合は、塗布が終了していると判断し、ステップS410へ進み、後処理を行う。
ステップS410では、図20で説明した後処理を行って本処理を終了する。
以上に示すように、本実施形態では、塗布動作中に塗布液の消費量に関する情報を取得し、該取得した情報に基づいて塗布液の充填を行っているので、塗布液の充填をより適切に行うことができる。よって、塗布媒体のサイズが特に大きい場合や、ロール紙等に塗布液を塗布する際に特に有効である。また、本実施形態に係る液体塗布装置では、塗布液を塗布媒体に塗布する際に、液体消費量に関する情報が閾値よりも大きくなるまで、液体移動手段としてのポンプを停止させる。よって、塗布液を塗布媒体に塗布する際にポンプを作動さることによって発生する騒音や、消費される電力を極力低減させることが可能となる。
なお、本実施形態では、塗布液の塗布面積の判断として、塗布ローラの回転数を用いているが、これに限定されない。例えば、塗布動作を行っている経過時間と塗布ローラの回転の速さ(角速度)と塗布ローラの長手方向の長さとにより、塗布液の塗布面積を求めることができる。塗布ローラの回転の速さや塗布ローラの長手方向の長さは予め設定することができるので、上記経過時間を用いて、塗布液の塗布面積の判断を行っても良い。
また、塗布液の充填が必要か否かの判断も、塗布媒体へ塗布された塗布液の面積に基づいて行うことに限らず、液体保持空間S内の塗布液の消費量を塗布動作中常に監視し、該監視結果に基づいて塗布液の充填を行うようにしても良い。このような監視は、液体保持部材2001内に設けられたセンサにより、液体保持空間S内の塗布液の液面の位置を検知することによって行うようにすれば良い。
(第4の実施形態)
塗布可能条件を判定するための閾値は一定の値でも良いが、液体保持部材(液体保持空間)の環境温度(単に「環境温度」とも呼ぶ)によって塗布液の粘度が変化してくるので、それに伴って塗布媒体に塗布される塗布液の塗布量も変化してくる。例えば、低温環境では、塗布量が常温より多くなってしまい、高温環境では、塗布量は、常温環境よりも少なくなる。よって、環境温度によって閾値を変化させても良い。
このように環境温度によって閾値を変化させる場合は、環境温度を計測する手段としての温度センサを液体塗布装置の内部に設け、該温度センサの検知信号に基づいて閾値を設定する。なお、粘度等、塗布液の塗布量に関る物性値を閾値により正確に反映させるために、温度センサは液体保持部材に直接設けることが好ましい。
図24は、本実施形態の閾値決定に係わる処理手順を示すフローチャートである。制御部4000は、図24に示すフローチャートに従って以下の閾値決定シーケンスを実行する。
まずステップS501において、温度センサによって環境温度Tを取得する。次にステップS502において、環境温度Tが属する温度範囲を判定する。判定された環境温度Tが30度以上であれば、ステップS503に進み、10度以上30度未満であれば、ステップS504に進み、10度未満であれば、ステップS505に進み、それぞれの環境温度に対応する閾値を閾値Tableより取得する。閾値Tableの一例を図25に示す。次に、ステップS506に進んで、ステップS503〜S505によって取得された閾値を基に、環境温度に応じた閾値を設定する。そして、こうして設定された閾値と、第1〜第3の実施形態で説明したような塗布液の消費量に関する情報とを比較し、ポンプによる充填動作の可否を制御する。
このように本実施形態によれば、環境温度に応じた適切な閾値を設定することが可能となる。
なお、図25に示した環境温度とそれに対応した閾値との関係は一例に過ぎず、温度範囲を区切る数や区切られた温度範囲は所望に応じて設定すればよい。また、それに対応する閾値も、塗布する物質の性質によっても異なるので、塗布液の材料に応じて適宜設定すればよい。
(第5の実施形態)
上述の実施形態では、貯蔵タンクから液体保持空間への間欠的な液体供給動作を、塗布液の消費量に関連する情報に基づいて行っているが、本発明はこれに限定されない。本実施形態のように、液体保持空間S内に存在する塗布液が所定量以下になる前に(たとえば、無くなる前に)、前述の液体供給動作(充填工程)を実行できれば良い。この場合、前述の液体供給動作の開始制御は、液体保持空間S内に液体が無くなる前に実行され、一方、前述の液体供給動作の停止制御は、液体供給動作が所定時間継続された後あるいは液体保持空間S内の液体量が規定量に達した後に実行される。
例えば、液体保持空間S内の液面を検知するセンサを設け、該センサにより液面が所定値以下になった場合に、液体保持空間S内への塗布液の充填工程を行うようにしても良い。すなわち、液面検知センサにより、液体保持空間S内の塗布液の残存量を検知し、液体保持空間S内の塗布液が無くなる前に上記充填工程を行うようにしても良い。
また、印刷ジョブに含まれる出力すべき塗布媒体の枚数に関係なく、印刷ジョブの印刷が終了する毎に上記充填工程を行うようにしても良い。このように充填工程を行えば、液体保持空間S内に塗布液が無くなる前に塗布液を充填することができる。
このとき、1つの印刷ジョブの印刷を終了するまで、液体保持空間S内の塗布液が無くならないようにするために、液体保持空間Sの容積を十分大きく設定することは有効である。例えば、100枚の記録媒体に塗布するのに必要な塗布液の量は経験則により大体分かっている。よって、想定される最大記録枚数をカバーできるような容積に液体保持空間Sを設定することは望ましい。
それでも、印刷ジョブに含まれる出力枚数が膨大な場合、この印刷ジョブの印刷を終了する前に、液体保持空間S内の塗布液が無くなる場合がある。そのときは、塗布動作を開始する前に、印刷ジョブに含まれている枚数情報から、出力すべき枚数が、上記想定された最大枚数を超えるか否かを判断する。超える場合は、印刷ジョブの全ての印刷が終了する前に、例えば、最大枚数への塗布が終了する毎に、また所定の塗布時間毎に、適切な回数だけ充填工程を行うようにすれば良い。このように充填工程を行えば、液体保持空間S内の塗布液が無くなる前に、塗布液を充填することができる。なお、上記出力枚数の比較は、最大枚数を超えるか否かに限らず、最大枚数以下の枚数であればいずれの枚数であっても良い。この場合も、液体保持空間S内には、所定量の塗布液が残ることになる。よって、液体保持空間S内に存在する塗布液が所定量以下になる前に(無くなる前に)、充填工程を行うことができる。
(他の実施形態)
上述の第1〜第5の実施形態で示した液体塗布装置はインクジェット記録装置に適用するのが有効である。以下、上述の液体塗布装置をインクジェット記録装置に適用した場合について説明する。但し、第1〜第4の実施形態で示した塗布動作制御は同様に適用されるため、ここでは説明を省略する。
図26は、上述の液体塗布装置とほぼ同様の構成を有した塗布機構を備えたインクジェット記録装置1の概略構成を示す図である。
このインクジェット記録装置1には、複数枚の記録媒体Pを積載する給送トレイ2が設けられており、半月形状の分離ローラ3が、給送トレイに積載された記録媒体Pを1枚づつ分離して搬送経路に給送する。搬送経路中には、上記液体塗布機構の液体塗布手段を構成する塗布ローラ1001およびカウンターローラ1002が配置されている。給送トレイ2から給送された記録媒体Pは、両ローラ1001,1002の間に送られる。塗布ローラ1001はローラ駆動モータの回転によって図26において時計周り方向に回転し、記録媒体Pを搬送しながら塗布液を記録媒体Pの記録面に塗布する。塗布液が塗布された記録媒体Pは、搬送ローラ4とピンチローラ5との間に送られる。次いで、搬送ローラ4が、図中、反時計周り方向へと回転することによって、記録媒体Pはプラテン6の上を搬送され、記録手段を構成する記録ヘッド7に対向する位置へと移動する。記録ヘッド7は所定数のインク吐出用のノズルを配設したインクジェット記録ヘッドである。この記録ヘッド7が図の紙面と垂直方向に走査する間に、記録データに従ってノズルから記録媒体Pの記録面に対してインク滴を吐出して記録を行う。この記録動作と搬送ローラ4による所定量の搬送動作とを交互に繰り返しながら、記録媒体に画像を形成してゆく。この画像形成動作とともに、記録媒体の搬送路において記録ヘッドの走査領域の後流側に設けられた、排紙ローラ8と排紙拍車9とによって記録媒体Pが挟持され、排紙ローラ8の回転によって排紙トレイ10上に排紙される。
なお、このインクジェット記録装置としては、インクを吐出するノズルを記録媒体の最大幅に亘って配設した長尺な記録ヘッドを用いて記録動作を行う、いわゆるフルライン型のインクジェット記録装置を構成することも可能である。
また、本実施形態で用いる塗布液は、顔料を色材とするインクで記録した際に顔料の凝集を促進させる処理液である。
本実施形態では、塗布液として処理液を用いることにより、この処理液とこの処理液が塗布された記録媒体に吐出されるインクの色材である顔料を反応させて顔料の凝集を促進させる。そして、顔料の凝集を促進させることにより、記録濃度の向上を図ることができる。さらに、ブリーディングの軽減または防止することも可能となる。なお、インクジェット記録装置において用いる塗布液としては、上記の例に限られないことはもちろんである。
図27は、上述したインクジェット記録装置の要部を示す斜視図である。同図に示すように、給送トレイ2の一端の上方に塗布機構100が設けられ、この塗布機構より上部で、給送トレイ2の中央部上方に記録ヘッド7などを備えた記録機構が設けられる。
図28は、上述したインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。同図において、液体塗布機構の要素であるローラ駆動モータ1004、ポンプ駆動モータ4009、および大気連通弁のアクチュエータ3005は、前述した液体塗布装置とで説明したものと同様の要素である。
CPU5001は、図29にて後述する処理手順のプログラムに従い、塗布機構の各要素の駆動を制御する。これと共にCPU5001は、記録機構にかかるLFモータ5013、CRモータ5015、および記録ヘッド7の駆動を、それぞれの駆動回路5012、5014、5016を介して制御する。すなわち、LFモータ5013の駆動によって搬送ローラ4などを回転させ、また、CRモータの駆動によって記録ヘッド7を搭載したキャリッジを移動させる。さらに、記録ヘッドのノズルからインクを吐出させる制御を行う。
図29は、本実施形態のインクジェット記録装置における液体塗布およびそれに伴う記録動作の手順を示すフローチャートである。同図において、ステップS101〜S105の処理、およびステップS107、ステップS109〜S111の処理は、図16に示した、それぞれ、ステップS201〜S205、ステップ206〜S209の処理と同様である。
図29に示すように、本実施形態では、記録開始の指令があると、液体保持空間Sに塗布液を充填し、ポンプの作動を停止して一連の液体塗布動作を行う(ステップS101〜S105)。この塗布工程の後、必要な部分に塗布液が塗布された記録媒体に対して、記録動作を行う(ステップS106)。すなわち、搬送ローラ4によって所定量ずつ搬送される記録媒体Pに対して記録ヘッド7を走査させ、この走査の間に記録データに応じてノズルからインクを吐出することにより記録媒体にインクを付着させてドットを形成する。この付着するインクは塗布液と反応するため、濃度向上や滲みの防止が可能となる。以上の記録媒体の搬送と記録ヘッドの走査とを繰り返すことにより、記録媒体Pに対して記録がなされる。次いで、塗布液の塗布の完了の判断を行い(ステップS107)、記録動作の完了の判断を行う(ステップS108)。記録を終了した記録媒体は排紙トレイ10上に排紙される。
なお、本実施形態では、記録媒体に対する液体塗布に伴い、その塗布が終了した部分に対して順次記録を行うものである。すなわち、塗布ローラから記録ヘッドへ至る搬送路の長さが記録媒体の長さよりも短く、記録媒体上の液体の塗布がなされた部分が記録ヘッドによる走査領域に至るときに、記録媒体の他の部分に塗布機構によって塗布が行われる形態である。記録媒体の所定量の搬送ごとに、記録媒体の異なる部分で、順次、液体塗布と記録がなされていく。しかし、本発明の適用する上で、別の形態として、特許文献5に記載されるように、1つの記録媒体に対する塗布が完了してから記録を行うものであってもよい。
ステップS108で記録が終了したと判断すると、ステップS109で塗布が終了か否かの判断を行う。塗布が終了と判断されるとステップS111に進み処理を行い、本処理を終了する。塗布が終了していないと判断すると、ステップS110に進む。
ステップS110では、塗布が可能か否かの判断を行い、塗布が可能と判断されるとステップS105に進み次の塗布を開始する。塗布が可能ではないと判断すると、ステップS101に進み、液体保持空間Sに塗布液の充填を行う。
また、上述した実施形態では、インクジェット記録方式の記録装置において液体を塗布する例について説明したが、本発明は他の方式の記録装置に適用することもできる。例えば、塗布液として、蛍光増白剤を含有する液体を用いることにより、媒体の白色度を向上させることが可能である。前記液体塗布後の記録手段は、インクジェット記録方式に限られず、熱転写方式、電子写真方式などの記録方式でも効果を得ることができる。また、銀塩写真方式の記録装置において、塗布液として、記録前に感光剤を塗布してもよい。