以下、本発明の実施の形態を、作業車両としての農作業用トラクタに適用した場合の図面について説明する。図1はトラクタの側面図、図2は同後方斜視図、図3は側面説明図、図4はトラクタ機体の斜視図、図5は動力伝達のスケルトン図、図23は制御手段の機能ブロック図、図24は変速ペダルの踏込み量と変速比の関係を示す変速比パターン図、図25は変速比適応制御のフローチャート、図26は停止制御のフローチャート、図27は前後進切換制御のフローチャート、図28は副変速高速切換制御のフローチャート、図29は副変速低速切換制御のフローチャートである。
図1乃至4に示す如く、作業車両としてのトラクタ1は、走行機体2を左右一対の前車輪3と同じく左右一対の後車輪4とで支持し、前記走行機体2の前部に搭載したエンジン5にて後車輪4及び前車輪3を駆動することにより、前後進走行するように構成される。エンジン5はボンネット6にて覆われる。また、前記走行機体2の上面にはキャビン7が設置され、該キャビン7の内部には、操縦座席8と、かじ取りすることによって前車輪3を左右に動かすようにした操縦ハンドル(丸ハンドル)9とが設置される。キャビン7の外側部には、オペレータが乗降するステップ10が設けられ、該ステップ10より内側で且つキャビン7の底部より下側には、エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。
また、前記走行機体2は、前バンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部にボルト15にて着脱自在に固定する左右の機体フレーム16とにより構成される。機体フレーム16の後部には、前記エンジン5の回転を適宜変速して後車輪4及び前車輪3に伝達するためのミッションケース17が連結されている。この場合、後車輪4は、前記ミッションケース17に対して、当該ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18、及びこの後車軸ケース18の外側端に後方に延びるように装着されたギヤケース19を介して取付けられている。
前記ミッションケース17の後部における上面には、耕うん機等の作業機(図示せず)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構20が着脱可能に取付けられている。耕うん機等の作業機は、ミッションケース17の後部にロワーリンク21及びトップリンク22を介して連結される。さらに、ミッションケース17の後側面に、前記耕うん機等の作業機に対するPTO軸23が後向きに突出するように設けられている。
図15は本実施形態のトラクタ1の油圧回路200を示し、後述するように、エンジン5の回転力により作動する作業機用油圧ポンプ94及び走行用油圧ポンプ95を備える。走行用油圧ポンプ95は、パワーステアリング用のコントロール弁202を介して丸ハンドル9によるパワーステアリング用の油圧シリンダ93に接続する一方、左右後車輪4を制動するための左右一対のオートブレーキ65用のブレーキシリンダ68をそれぞれ作動させる切換弁である左右オートブレーキ電磁弁67a,67bに接続する。さらに走行用油圧ポンプ95は、PTOクラッチ100のためのPTOクラッチ油圧電磁弁(比例制御弁)104と、ミッションケース17の各変速部、すなわち後述する主変速のための油圧無段変速機29に対する比例制御弁203とそれによって作動する切換弁204と、走行副変速用油圧シリンダ55の変速シフト電磁弁666と、走行の前進、後進の切換えのための油圧クラッチ40、42を作動させる前進用クラッチ電磁弁46、後進用クラッチ電磁弁48と、前車輪3及び後車輪4を同時に駆動するための四駆用の油圧クラッチ74に対する四駆油圧電磁弁80と、前車輪3を倍速駆動に切換えるための倍速用の油圧クラッチ76に対する倍速油圧電磁弁82とに接続する。また、作業機用油圧ポンプ94は、作業機用昇降機構20における単動式油圧シリンダ205に作動油を供給するための制御電磁弁201に接続している。この油圧回路200には、図15に示すように、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等を備えている。
図5乃至図7は前記ミッションケース17を示す。ミッションケース17は、この内部を仕切り壁31にて前後に仕切られる。ミッションケース17の前側及び後側には、それぞれ前側壁部材32、後側壁部材33がボルトにて着脱自在に固定される。ミッションケース17は箱形に構成され、ミッションケース17の内部には、前室34と後室35とが形成される。前室34と後室35は、これらの内部の作動油(潤滑油)が相互に移動するように連通されている。
図5に示されるように、前側壁部材32には、後述する前車輪駆動ケース69が備えられる。前室34には、後述する走行副変速ギヤ機構30と、PTO変速ギヤ機構96とが配置される。後室35には、後述する走行主変速機構である油圧無段変速機29と、差動ギヤ機構58とが配置される。
前記エンジン5の後側面には、エンジン出力軸24が後ろ向きに突出するように設けられる。エンジン出力軸24には、フライホイール25が直結するように取付けられている。フライホイール25から後ろ向きに突出する主動軸26と、ミッションケース17の前面から前向きに突出する主変速入力軸27との間を、両端に自在軸継ぎ手を備えた伸縮式の動力伝達軸28を介して連結する。前記エンジン5の回転を、ミッションケース17における主変速入力軸27に伝達し、次いで、油圧無段変速機29と、走行副変速ギヤ機構30にて適宜変速して、差動ギヤ機構58を介して後車輪4にこの駆動力を伝達するように構成している。また、走行副変速ギヤ機構30にて適宜変速したエンジン5の回転を、前車輪駆動ケース69と前車軸ケース13の差動ギヤ機構86とを介して前車輪3に伝達するように構成している。
次に、図8は、主変速入力軸27に主変速出力軸36が同心状に配置されたインライン式油圧無段変速機29を示す。後室35の内部には、主変速入力軸27を介して油圧無段変速機29が設置される。主変速入力軸27の入力側(前端側)に対して反対側になる主変速入力軸27の後端側は、後側壁部材33に玉軸受504にて回転自在に軸支される。
油圧無段変速機29の前側、即ち主変速入力軸27の入力側には、円筒形の主変速出力軸36が被嵌される。油圧無段変速機29から主変速出力を取出すための主変速出力ギヤ37が主変速出力軸36に設けられる。主変速出力軸36は、この中間が仕切り壁31に貫通され、前端と後端とが前室34と後室35とにそれぞれ突出する。主変速出力軸36の中間は、二組の玉軸受502にて仕切り壁31に回転自在に軸支される。主変速出力軸36の前端部には、主変速出力ギヤ37が設けられる。主変速入力軸27の入力側(前端側)が、主変速出力軸36前端より前方に突出するように、主変速入力軸27の入力側がころ軸受503を介して主変速出力軸36の軸孔に回転自在に軸支される(図8参照)。
油圧無段変速機29は、以下に述べるように、可変容量形の変速用油圧ポンプ部500と、この油圧ポンプ部500から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部501とを備える。前記仕切り壁31と後側壁部材33との略中間の主変速入力軸27には、油圧ポンプ部500及び油圧モータ部501のためのシリンダブロック505が被嵌される。主変速入力軸27とシリンダブロック505とはスプライン525にて連結される。主変速入力軸27の入力側と反対側でシリンダブロック505を挟んでこの一側部に油圧ポンプ部500が配置される。主変速入力軸27の入力側であるシリンダブロック505他側部に油圧モータ部501が配置される。
前記油圧ポンプ部500には、シリンダブロック505の側面に対向するようにミッションケース17の内側面に固定する第1ホルダ510と、主変速入力軸27の軸線に対して傾斜角を変更可能に第1ホルダ510に配置するポンプ斜板509と、該ポンプ斜板509に摺動自在に設けるシュー508と、該シュー508に球体自在継手を介して連結するポンププランジャ506と、ポンププランジャ506をシリンダブロック505に出入自在に配置する第1プランジャ孔507とが備えられる。ポンププランジャ506の一端側は、シリンダブロック505の側面からポンプ斜板509方向(図8右側)に突出する。前記油圧ポンプ部500は、シリンダブロック505と、ポンププランジャ506と、シュー508と、ポンプ斜板509と、第1ホルダ510とにより構成される。
主変速入力軸27と第1ホルダ510との間には、主変速入力軸27に被嵌するスリーブ511と、ローラ軸受512と、ラジアル及びスラスト荷重用ころ軸受513とを介在させる。主変速入力軸27の後方にころ軸受513が抜け出るのを防ぐナット514を備える。
前記シリンダブロック505には、ポンププランジャ506と同数の第1スプール弁536が設けられる。また、第1ホルダ510には、第1ラジアル軸受537が配置される。第1ラジアル軸受537は、主変速入力軸27の軸線に対して一定の傾斜角で傾斜させて第1ホルダ510に設けられる。図8において、ポンプ斜板509に対して約90度回転した位置(図8の図面の手前側)がシリンダブロック505の側面から離れるように、約180度反対側(図8の図面の奥側)がシリンダブロック505の側面に近くなるように、第1ラジアル軸受537が傾斜されて支持されるように構成している。
他方、前記油圧モータ部501には、シリンダブロック505の側面に対向させて配置する第2ホルダ519と、主変速入力軸27の軸線に対して傾斜角を一定に保つように第2ホルダ519に固定するモータ斜板518と、モータ斜板518に摺動自在に設けるシュー517と、該シュー517に球体自在継手を介して連結するモータプランジャ515と、モータプランジャ515をシリンダブロック505に出入自在に配置する第2プランジャ孔516とが備えられる。モータプランジャ515の一端側は、シリンダブロック505の側面からモータ斜板518方向(図8左側)に突出する。
第2ホルダ519には、継ぎ手部材526がボルト527にて固定される。前記出力軸36と継ぎ手部材526とがスプライン528にて連結される。
主変速入力軸27と第2ホルダ519との間には、ラジアル荷重用のローラ軸受520,521と、主変速入力軸27に被嵌するスリーブ522と、ラジアル及びスラスト荷重用のころ軸受523とが介在する。主変速入力軸27からころ軸受523が抜け出るのを防ぐナット524を備える。
前記シリンダブロック505には、モータプランジャ515と同数の第2スプール弁540が設けられる。また、第2ホルダ519には、第2ラジアル軸受541が配置される。第2ラジアル軸受541は、主変速入力軸27の軸線に対して一定の傾斜角で傾斜させて第2ホルダ519に設けられる。図8において、モータ斜板518に対して約90度回転した位置(図8手前側)がシリンダブロック505の側面に近くなるように、約180度反対側(図8奥側)がシリンダブロック505の側面から離れるように、第2ラジアル軸受541が傾斜されて支持されるように構成している。ポンププランジャ506と、該ポンププランジャ506と同数のモータプランジャ515とは、シリンダブロック505の回転中心の同一円周上に交互に配列される。
さらに、主変速入力軸27が挿入されるシリンダブロック505の軸孔には、輪溝形の第1油室530と、輪溝形の第2油室531とがそれぞれ形成される。シリンダブロック505には、この回転中心の同一円周上に略等間隔に配列する第1弁孔532と第2弁孔533とが形成される。第1弁孔532及び第2弁孔533は、第1油室530及び第2油室531とそれぞれ連通している。第1プランジャ孔507は第1油路534を介して第1弁孔532と連通され、第2プランジャ孔516は第2油室531を介して第2弁孔533と連通されている。
第1弁孔532には、第1スプール弁536が挿入される。第1スプール弁536は、シリンダブロック505の回転中心の同一円周上に略等間隔に配列される。第1弁孔532から背圧バネ力の弾圧にて第1スプール弁536の先端が第1ホルダ510の方向に突出し、第1スプール弁536の先端が第1ラジアル軸受537の外輪538側面に当接される。そして、シリンダブロック505の1回転で第1スプール弁536が1往復し、第1プランジャ孔507が、第1弁孔532と第1油路534とを介して第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるように構成する。
また、第2弁孔533には、第2スプール弁540が挿入される。第2スプール弁540は、シリンダブロック505の回転中心の同一円周上に略等間隔に配列される。第2弁孔533から背圧バネ力の弾圧にて第2スプール弁540の先端が第2ホルダ519の方向に突出し、第2スプール弁540の先端が第2ラジアル軸受541の外輪542側面に当接される。そして、シリンダブロック505の1回転で第2スプール弁540が1往復し、第2プランジャ孔516が、第2弁孔533と第2油路535とを介し、第1油室530又は第2油室531に交互に連通されるように構成する。
さらに、前記主変速入力軸27の中心部には、この軸線方向に作動油供給油路543が形成される。該供給油路543は、主変速入力軸27の後端面に開口され、上記した走行用油圧ポンプ95の吐出口に連通される。また、作動油供給油路543の作動油を第1油室530に補給する第1チャージ弁544と、作動油供給油路543の作動油を第2油室531に補給する第2チャージ弁545とが備えられる。
そして、第1及び第2プランジャ孔507,516と、第1及び第2油室530,531との間に形成される油圧閉回路に対し、第1及び第2チャージ弁544,545を介し、作動油供給油路543から作動油が補給されるように構成する。なお、油圧ポンプ部500及びモータ部501のそれぞれの回転部分にも、それぞれ逆止弁を介して、作動油供給油路543から作動油が潤滑油として供給されるように構成している。
さらに、前記ポンプ斜板509は、後述するように、傾斜角調節支点555を介して第1ホルダ510の小径部の外周に配置される(図13参照)。ポンプ斜板509はその傾斜角が主変速入力軸27の軸線に対して調節自在となるように設けられている。主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509の傾斜角を変更する変速用アクチュエータである主変速操作用の主変速油圧シリンダ556を備える(図13参照)。主変速油圧シリンダ556にてポンプ斜板509の傾斜角が変更されて、無段変速機29の主変速動作が行われるように構成する。なお、主変速入力軸27に対して、ポンプ斜板509が回転しないように、ミッションケース17の非回転部である後側壁部材33に、ホルダ連結部材690を介して第1ホルダ510を連結する(図13参照)。
前記したインライン式油圧無段変速機29の主変速動作を、以下に説明する。後述する変速ペダルである前進ペダル232または後進ペダル233の踏込み量に比例して作動する比例制御電磁弁203からの作動油で切換え弁204が作動して油圧シリンダ556が制御され、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509の傾斜角が変更される。
先ず、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509が略直交するように、ポンプ斜板509の傾斜角を略零に保つとき、シリンダブロック505が回転しても、第1プランジャ孔507にポンププランジャ506が進退動しない略一定姿勢で支持され、ポンププランジャ506の吐出行程で第1プランジャ孔507の作動油が第1油路534から第1弁孔532の方向に吐出されないから、第1プランジャ孔507から第2プランジャ孔516に作動油が供給されず、モータプランジャ515が進出しない。また、ポンププランジャ506の吸入行程でも第1プランジャ孔507に作動油が吸入されないから、第1プランジャ孔507に第2プランジャ孔516から作動油が排出されず、モータプランジャ515が退入しない。
即ち、ポンプ斜板509の傾斜角が略零(変速比1)のとき、変速ポンプ部500にて変速モータ501部が駆動されない。そのため、モータプランジャ515を介してシリンダブロック505にモータ斜板518が固定された状態となり、シリンダブロック505とモータ斜板518とが同一方向に略同一回転数で回転し、主変速入力軸27と略同一回転数で主変速出力軸36が回転され、主変速入力軸27の回転速度が変更されることなく主変速出力ギヤ37に伝えられる。
次に、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を傾斜させたときには、主変速入力軸27と一体回転するシリンダブロック505の回転により、第1ラジアル軸受537の外輪538にて第1スプール弁536が往復摺動し、シリンダブロック505の半回転毎に第1プランジャ孔507に第1油室530または第2油室531が交互に連通される。また、第2ラジアル軸受541の外輪542にて第2スプール弁540が往復摺動し、シリンダブロック505の半回転毎に第2プランジャ孔516に第1油室530または第2油室531が交互に連通される。そして、第1プランジャ孔507と第2プランジャ孔516の間に閉油圧回路が形成され、ポンププランジャ506の吐出行程で第1プランジャ孔507から第2プランジャ孔516に作動油が圧送される一方、ポンププランジャ506の吸入行程で第1プランジャ孔507に第2プランジャ孔516から作動油が戻され、アキシャルピストンポンプ及びモータの動作が行われる。
そして、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロック505と同一方向にモータ斜板518が回転され、変速モータ501を増速(正転)動作させ、主変速入力軸27より高い回転数で主変速出力軸36が回転され、主変速入力軸27の回転速度が増速されて主変速出力ギヤ37に伝えられる。即ち、主変速入力軸27の回転数に、変速ポンプ500にて駆動される変速モータ501の回転数が加算されて、主変速出力ギヤ37に伝えられる。そのため、主変速入力軸27の回転数よりも高い回転数の範囲で、ポンプ斜板509の傾斜(正の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ37からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板509の最大傾斜(正の傾斜角、変速比2)で最大走行速度になる。
さらに、主変速入力軸27の軸線に対してポンプ斜板509を他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロック505と逆の方向にモータ斜板518が回転され、変速モータ501を減速(逆転)動作させ、主変速入力軸27より低い回転数で主変速出力軸36が回転され、主変速入力軸27の回転速度が減速されて主変速出力ギヤ37に伝えられる。
即ち、主変速入力軸27の回転数に、変速ポンプ500にて駆動される変速モータ501の回転数が減算されて、主変速出力ギヤ37に伝えられる。そのため、主変速入力軸27の回転数よりも低い回転数の範囲で、ポンプ斜板509の傾斜(負の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ37からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板509の最大傾斜(負の傾斜角、変速比0)で最低走行速度になる。なお、実施形態では、ポンプ斜板509の負の傾斜角が略11度のとき、変速比が零となる。また、後述の変速比パターンに応じて若干相違するが、正の傾斜角が略11度のとき、変速比が最大となるように設定されている。
次に、図5、図6に示されるように、前記ミッションケース17の前室34には、前進と後進の切換を行う前進ギヤ41及び後進ギヤ43と、低速と高速の切換を行う走行副変速ギヤ機構30とが配置される。
前進ギヤ41及び後進ギヤ43を介して行う前進と後進の切換を説明する。図6に示されるように、主変速出力ギヤ37が配置される前室34の内部には、走行カウンタ軸38と逆転軸39とが配設される。前記走行カウンタ軸38には、前進用の湿式多板型油圧クラッチ40にて連結される前進ギヤ41と、後進用の湿式多板型油圧クラッチ42にて連結される後進ギヤ43とが被嵌される。主変速出力ギヤ37に前進ギヤ41が噛合される。主変速出力ギヤ37には、逆転軸39に設けられた逆転ギヤ44が噛合される。前記後進ギヤ43には、逆転軸39に設けられた逆転出力ギヤ45が噛合される。
そして、後述する前進ペダル232の踏込み操作により、前進クラッチ電磁弁46にてクラッチシリンダ47が作動して前進用の油圧クラッチ40が継続され、主変速出力ギヤ37と走行カウンタ軸38が前進ギヤ41にて連結されるように構成する(図5、図6参照)。
一方、後述する後進ペダル233の踏込み操作により、後進クラッチ電磁弁48にてクラッチシリンダ49が作動して後進用の油圧クラッチ42が継続され、主変速出力ギヤ37と走行カウンタ軸38が後進ギヤ43にて連結されるように構成する(図5、図6参照)。
なお、前進ペダル232及び後進ペダル233のいずれも踏み込んでいない、中立位置のときには、前進用及び後進用の湿式多板型の各油圧クラッチ40,42の両方がともに切断され、前車輪3及び後車輪4に対して出力される主変速出力ギヤ37からの走行駆動力が略零(主クラッチ切の状態)になるように構成している。
次に、走行副変速ギヤ機構30を介して行う低速と高速との切換を説明する。図5、図6に示されるように、前記ミッションケース17の前室34には、走行副変速ギヤ機構30と、副変速軸50が配置される。走行カウンタ軸38と副変速軸50の間には、副変速用の低速ギヤ51,52と、副変速用の高速ギヤ53,54とが設けられる。また、副変速油圧シリンダ55にて継続または切断される低速クラッチ56及び高速クラッチ57が備えられる。そして、後述する副変速用の高速・低速切換スイッチ222の手動操作、またはエンジン5の回転数検出などにより、副変速油圧シリンダ55にて低速クラッチ56または高速クラッチ57が継続されて、副変速軸50に低速ギヤ52または高速ギヤ54が連結され、副変速軸50から前車輪3及び後車輪4に対して走行駆動力が出力されるように構成する。
前記副変速軸50は、この後端部が仕切り壁31を貫通してミッションケース17の後室35内部に延設される(図5参照)。副変速軸50の後端部にはピニオン59が設けられる。また、後室35の内部には、左右の後車輪4に走行駆動力を伝える差動ギヤ機構58が配置される。差動ギヤ機構58には、副変速軸50後端のピニオン59に噛合させるリングギヤ60と、該リングギヤ60に設ける差動ギヤケース61と、左右の差動出力軸62とが備えられる。差動出力軸62がファイナルギヤ63等にて後車軸64に連結され、後車軸64に設ける後車輪4を駆動するように構成している(図5参照)。
また、左右差動出力軸62には左右ブレーキ65がそれぞれ設置され、後述する左右ブレーキペダル230の操作にて左右ブレーキ65が制動動作されるように構成している。左右ブレーキペダル230は、一つのペダルからなり、左右ブレーキペダル230と左右ブレーキ65とは、左右一対のブレーキロッド250及びリンク機構251などを介して機械的に連結する(図17、図25参照)。左右ブレーキペダル230を制動位置に駐車レバー252及びフック253を介して係止して、エンジン5停止時など、左右ブレーキ65を駐車ブレーキとして作動できる(図25参照)。一方、ハンドル9の操舵角検出などにより、左右オートブレーキ電磁弁67a,67bにてブレーキシリンダ68が作動して、左右いずれか一方または両方のブレーキ65(図5参照、但し、一方のみ示す)が自動的に制動動作され、Uターンなどの旋回走行が行われるように構成している。
次に、前後車輪3,4の二駆と四駆との切換を説明する。図5,図6に示されるように、ミッションケース17の前側壁部材32には、前車輪駆動ケース69が設けられる。前車輪駆動ケース69には、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが備えられている。前車輪入力軸72は、ギヤ70,71にて副変速軸50に連結される。また、前車輪出力軸73には、四駆用の油圧クラッチ74にて連結される四駆ギヤ75と、倍速用の油圧クラッチ76にて連結される倍速ギヤ77とが被嵌される。四駆ギヤ75と倍速ギヤ77は、各ギヤ78,79にて前車輪入力軸72にそれぞれ連結される。
そして、二駆と四駆との切換レバー(図示省略)の四駆操作により、四駆油圧電磁弁80にてクラッチシリンダ81が作動して四駆用の油圧クラッチ74が継続され、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが四駆ギヤ75にて連結され、後車輪4とともに前車輪3が駆動されるように構成する。
次に、前車輪3の倍速駆動の切換を説明する。図5,図6に示されるように、操縦ハンドル9のUターン(圃場の枕地での方向転換)操作の検出により、倍速油圧電磁弁82にてクラッチシリンダ83が作動して倍速用の油圧クラッチ76が継続され、前車輪入力軸72と前車輪出力軸73とが倍速ギヤ77にて連結され、四駆ギヤ75にて前車輪3が駆動されるときの速度に比べて約2倍の高速度で前車輪3が駆動されるように構成する。
図5に示されるように、前車軸ケース13から後ろ向きに突出する前車輪入力軸84と、前記ミッションケース17の前面から前向きに突出する前車輪出力軸73との間を、前車輪3に動力を伝達する前車輪駆動軸85を介して連結する。また、前車軸ケース13の内部には、左右の前車輪3に走行駆動力を伝える差動ギヤ機構86が配置される。
差動ギヤ機構86には、前車輪入力軸84前端のピニオン87に噛合させるリングギヤ88と、該リングギヤ88に設ける差動ギヤケース89と、左右の差動出力軸90とが備えられる。差動出力軸90にはファイナルギヤ91等にて前車軸92が連結され、前車軸92に設ける前車輪3が駆動されるように構成している。また、前車軸ケース13の外側面には、操縦ハンドル9の操舵操作にて前車輪の走行方向を左右に変更するパワーステアリング用の油圧シリンダ93が配設される。
図5、図7に示されるように、ミッションケース17の前側壁部材32の前面側には、作業機用昇降機構20に作動油を供給するための作業機用油圧ポンプ94と、ミッションケース17の各変速部およびパワーステアリング用の油圧シリンダ93に作動油を供給するための走行用油圧ポンプ95とを備える。油タンクとしてミッションケース17が併用されて該ケース17内部の作動油が各油圧ポンプ94,95に供給されるように構成する。
次に、図5、図7を参照して、PTO軸23の駆動速度の切換(正転4段と、逆転1段)を説明する。ミッションケース17の前室34には、エンジン5からの動力をPTO軸23に伝えるPTO変速ギヤ機構96と、エンジン5からの動力を各油圧ポンプ94,95に伝えるポンプ駆動軸97とを設ける(図7参照)。
図7に示されるように、後に詳述するPTO変速ギヤ機構96には、PTOカウンタ軸98と、PTO変速出力軸99を備える。PTO用の油圧クラッチ100にて連結されるPTO入力ギヤ101をPTOカウンタ軸98に被嵌させる。PTO入力ギヤ101には、前記主変速入力軸27に設ける入力側ギヤ102と、ポンプ駆動軸97の出力側ギヤ103とが噛合され、主変速入力軸27にポンプ駆動軸97が連結される。
そして、PTOクラッチレバー(図示省略)の継続操作により、PTOクラッチ油圧電磁弁104(図5参照)にてクラッチシリンダ105が作動してPTO用の油圧クラッチ100が継続され、主変速入力軸27とPTOカウンタ軸98とがPTO入力ギヤ101にて連結されるように構成する。
また、前記PTO変速出力軸99には、PTO出力用として、1速ギヤ106と、2速ギヤ107と、3速ギヤ108と、4速ギヤ109と、逆転ギヤ110とを被嵌する(図5、図7参照)。
PTO変速出力軸99には、変速シフタ111が移動自在にスプラインにて軸支される。前記の各ギヤ106,107,108,109,110がPTO変速出力軸99に変速シフタ111にて択一的に連結されるように構成する。変速シフタ111には、PTO変速レバー259に連結する変速アーム112が係合される。そして、PTO変速レバー259の変速操作により、変速アーム112にてPTO変速出力軸99の軸線に沿って変速シフタ111が直線的に移動して、各ギヤ106,107,108,109,110のいずれかが、択一的に選択されてPTO変速出力軸99に連結される(図5、図7参照)。従って、1速、2速、3速、4速、逆転の各PTO変速出力が、PTO変速出力軸99からPTO軸23にギヤ113,114を介して伝えられるように構成する。
なお、図6において、逆転軸39に設けた回転検出ギヤ115と、主変速出力ギヤ37の回転を検出する電磁ピックアップ型の主変速出力部回転センサ116とを対向させて設置し、主変速機構29の出力回転数を主変速出力部回転センサ116にて検出するように構成する。また、前車輪入力軸72のギヤ78の回転を検出する電磁ピックアップ型の車速センサ117が設置され、前車輪入力軸72及び副変速軸50の回転に基づき、走行速度(車速)が車速センサ117にて検出されるように構成する。
上記の記載及び図8などから明らかなように、エンジン5から動力が伝達されるミッションケース17を備え、前記エンジン5から動力を伝える入力軸27と、左右の車輪3,4に油圧変速出力を伝える出力軸36とが、同一の軸線上に配置されたインライン式無段変速機29をミッションケース17に配設し、該無段変速機29を構成するシリンダブロック505を挟んで一側に油圧ポンプ部500を、他側に油圧モータ部501をそれぞれ配置し、前記入力軸27に出力軸36を被嵌させて二重軸構成にした作業車において、入力軸27の入力側とシリンダブロック505との間に油圧モータ501部を配置し、入力軸27の入力側と出力軸36の出力側を同一側に配置した。そのため、例えば、トラクタ1の伝動構造のように、走行副変速ギヤ及び差動ギヤ及びPTO変速ギヤなどをミッションケース17の内部に設置するものであっても、ミッションケース17の後部に無段変速機29の設置スペースを容易に確保できる。入力軸27の入力側であるミッションケース17の前部にPTO変速ギヤまたは走行副変速ギヤなどの設置スペースが確保され、例えばトラクタ1のミッションケース17などを小型化または軽量化でき、製造コストを低減できる。
なお、差動ギヤ機構58には、この差動の動作を停止(左右の差動出力軸62を常時等速で駆動)するデフロック機構(図示せず)が備えられる。そして、差動ギヤケースに出入自在に設けられたロックピンが図示しないデフロックレバー(又はペダル)の操作にて差動ギヤに係合したとき、差動ギヤが差動ギヤケースに固定され、差動ギヤの差動機能が停止し、左右の差動出力軸62が等速にて駆動されるように構成する。
次に、図9、図11、図13、図14を参照して、無段変速機29を変速動作する主変速油圧シリンダ556の構造を詳述する。主変速油圧シリンダ556のシリンダ室691を後側壁部材33に形成する。主変速油圧シリンダ556のピストン557は、主変速油圧シリンダ556のシリンダ室691内に上下方向に摺動自在に配置されている。ピストン557中間の外周に形成された窪み部692に四角柱形基端ピン693を係合する。四角柱形基端ピン693を主変速アーム558の一端側に回転自在に配置する。主変速アーム558の中間を、ホルダ連結部材690にアーム軸694を介して回転自在に軸支する。主変速アーム558の他端側のアーム溝695に、四角柱形先端ピン696を摺動自在に係合する。四角柱形先端ピン696を、ポンプ斜板509の半円板形の傾斜角調節支点部555に回転自在に軸支する。傾斜角調節支点部555を支持するための回転ガイド697を、第1ホルダ510に配置する。回転ガイド697は、ポンプ斜板509の回転中心と同心状の半円筒面を形成する。回転ガイド697の案内にてポンプ斜板509の傾斜角を変更するように構成する。
図11及び図12に示されるように、ミッションケース17(トラクタ1機体)の左右幅中央にPTO軸23を配置する。進行方向に向かってPTO軸23の右側に差動ギヤ機構58を配置する(図10)。進行方向に向かってPTO軸23の左側の斜上方に無段変速機29を配置する。進行方向に向かって無段変速機29の左側にピストン557を配置する(図14)。進行方向に向かって後側壁部材33の左側斜上方の角隅部に主変速油圧シリンダ556を配置する(図14)。
図13に示されるように、主変速アーム558及びアーム軸694は、無段変速機29の軸線と略同一の高さ位置に配置する。図14に示されるように、主変速アーム558は、進行方向に向かって無段変速機29の左側で、この軸線と略平行に配置する。ピストン557は、上下方向に摺動するように、後側壁部材33内に略垂直に設置する。後側壁部材33の主変速油圧シリンダ556形成部の厚み幅を、ピストン557径よりも若干大きく形成するだけで、ピストン557を設置できることになる。
主変速油圧シリンダ556の変速操作を説明する。後述する前進ペダル232または後進ペダル233の踏込み操作により、対応する前進クラッチ電磁弁46または後進クラッチ電磁弁48(図5、図6及び図23参照)を切換えると、主変速油圧シリンダ556が作動する。そして、ピストン557が上昇または下降動作したときに、主変速アーム558がアーム軸694回りに回転し、傾斜角調節支点部555と回転ガイド697とがポンプ斜板509を回転案内し、ポンプ斜板509の傾斜角が変更されて、無段変速機29の主変速動作が行われるように構成する。なお、主変速入力軸27に対して、ポンプ斜板509が回転しないように、ポンプ斜板509と第1ホルダ510とが連結され、第1ホルダ510とホルダ連結部材690とが連結される。
次に、図5、図10、図11、図12を参照して、上記前進クラッチ電磁弁46、後進クラッチ電磁弁48、左右のオートブレーキ電磁弁67a,67b、四駆油圧電磁弁80、倍速油圧電磁弁82、PTOクラッチ油圧電磁弁104の取付け構造を詳述する。
図10乃至図12に示されるように、前側壁部材32の後側面には、副変速軸50及び差動出力軸62及び作動油566油面よりも低い位置にベース部材650が配置され、ボルトを介して着脱自在に固定される。ベース部材650の後面には、後方に突出する姿勢で前記各電磁弁46,48,67a,67b,80,82,104が設置される。各電磁弁46,48,67a,67b,80,82,104の後面を平板蓋651が覆う。平板蓋651は、ベース部材650にボルトにて着脱自在に固定される。
図10及び図11に示されるように、作動油をろ過するオイルフィルタ652は、各電磁弁46,48,67a,67b,80,82,104に対して平板蓋651を挟んでその後方のミッションケース17内に配置される。オイルフィルタ652は、フィルタ蓋653に着脱自在に固定される。フィルタ蓋653は、締結部材654に一体的に形成される。ミッションケース17の外側面に締結部材654がボルト655を介して着脱自在に固定される。作業機用油圧ポンプ94及び走行用油圧ポンプ95の給油管656が、フィルタ蓋653に油路管657を介して連通される。
図5に示される各クラッチシリンダ47,49,81,83,105に、各電磁弁46,48,80,82,104が、前側壁部材32及びベース部材650に形成される穿孔形油路(図示省略)を介して連通される。各電磁弁46,48,80,82,104が適宜手段によって制御されたとき、各クラッチシリンダ47,49,81,83,105がそれぞれ作動し、図5に示される各クラッチ40,42,74,76,100がそれぞれ切換えられる。
次に、図5、図6、図9を参照して、上記副変速ギヤ機構30の変速構造を詳述する。図9に示されるように、副変速油圧シリンダ55は、ピストン660の片側にピストンロッド661を備えた複動構造に構成される。副変速油圧シリンダ55には、ピストンロッド661が内設される第1シリンダ室662と、他方の第2シリンダ室663とが形成される。ピストンロッド661先端部には、シフトアーム664を介して副変速シフタ665が連結される。副変速シフタによって低速クラッチ56または高速クラッチ57を継続し、副変速軸50を低速または高速駆動するように構成する。
第1シリンダ室662は、走行用油圧ポンプ95の吐出側に直接連通される。第2シリンダ室663は、2位置3ポート型の変速シフト切換弁666を介して、走行用油圧ポンプ95の吐出側に連通される。変速シフト切換弁666は、変速ソレノイド667を備える。変速シフト切換弁666が変速ソレノイド667によって切換えられ、第2シリンダ室663が変速シフト切換弁666を介して走行用油圧ポンプ95の吐出側に連通されたときに、ピストン660両側の受圧力の差により、ピストンロッド661を突出する方向にピストン660が移動し、高速クラッチ57を継続して副変速軸50を高速駆動するように構成する(図9参照)。
次に、本実施形態の作業車両(走行車両)の走行制御(変速制御)について説明する。図23は、走行制御手段の機能ブロック図であり、制御プログラムを記憶したROMと各種データを記憶したRAMとを備えたマイクロコンピュータ等の走行コントローラ210は、電源印加用キースイッチ211を介してバッテリ254に接続される。キースイッチ211は、エンジン5を始動するためのスタータ212に接続される。
また、走行コントローラ210には、エンジン5の回転を制御する電子ガバナコントローラ213が接続されている。電子ガバナコントローラ213には、エンジン5の燃料を調節するガバナ214と、エンジン5の回転数を検出するエンジン回転センサ215とが接続される。ガバナ214に設けた燃料調節ラック(図示省略)が、手動操作するスロットルレバー206の回動位置をスロットルポテンショメータ217にて検出し、その検出値に基づいて、エンジン5の回転数が設定されたとき、電子ガバナコントローラ213からの信号にてスロットルレバー206の設定回転数とエンジン5の回転数が一致するように、燃料調節ラック駆動用の電磁ソレノイド(図示省略)を介して燃料調節ラックが自動的に位置調節され、負荷変動などによってエンジン5の回転が変化するのを防ぐ、換言すると、負荷の変動に拘らずエンジン5の回転数が略一定回転を保持するように構成されている。
さらに、走行コントローラ210には、図23に示すように、入力系の各種センサ及びスイッチ類、即ち、丸ハンドル(操縦ハンドル)9の左方向の回動量(左操舵角度)を検出するための左操舵スイッチとしての左操舵センサ218と、丸ハンドル9の右方向の回動量(右操舵角度)を検出するための右操舵スイッチとしての右操舵センサ219と、オペレータが走行速度を変速させるための前進ポテンショメータ及び後進ポテンショメータとしての変速ポテンショメータ220と、変速比設定ダイヤル221と、副変速ギヤ機構30を高速と低速とに切換えするための高速・低速切換スイッチ222と、主変速出力部の回転数を検出するための主変速出力部回転センサ116と、前後車輪3,4の回転速度(走行速度)を検出するための車速センサ117と、PTOクラッチ100を入り切りしてPTO軸23への出力を遮断するためのPTO遮断スイッチ223と、ブレーキペダル230を踏み込むとそれを検知するためのブレーキペダルスイッチ231と、左右ブレーキ電磁弁67a,67bを自動制御可能にするオートブレーキスイッチ245と、四駆油圧電磁弁80を自動制御可能にする四駆モードスイッチ246と、倍速油圧電磁弁82を自動制御可能にする倍速モードスイッチ247と、前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁47を他の制御に対して最も優先してオフにするクラッチスイッチ248とが接続されている。なお、変速ポテンショメータ219は変速ペダルとしての前進ペダル232または後進ペダル233の踏込み量を換算して検知するペダル踏込み位置センサである。
走行コントローラ210には、図23に示すように、出力系の各種電磁弁、即ち、主変速機構の前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48を強制作動ボタン226の操作にて強制的にOFF作動させるための強制作動スイッチ227と、副変速を高速と低速とに切り換える高速クラッチ電磁弁666と、主変速油圧シリンダ556を後述する変速ペダル(前進ペダル232及び後進ペダル233)の踏込み量に比例させて作動させる比例制御電磁弁203と、左右ブレーキ電磁弁67a,67bと、四駆油圧電磁弁80と、倍速油圧電磁弁82とが接続されている。
本実施形態では図16に示す運転部(キャビン)7内の操縦座席8の前方の床板235から突出する操縦コラム234上に丸ハンドル(操縦ハンドル)9が配置され、操縦コラム234の下方側にブレーキペダル230が配置されている。操縦コラム234より右方にスロットルレバー206が配置されている。また、操縦コラム234の右方には前進ペダル232及び後進ペダル233が並列状に配置されている。操縦座席8の右側コラム上には車速設定ダイヤル211と、作業機昇降レバー259と、副変速切換スイッチ222と、PTO遮断スイッチ223とが配置され、操縦座席8の左側コラム上にはPTO変速レバー224が配置されている。操縦座席8の左側コラムの前にはデフロックペダル225が配置されている。なお、床板235は、この上面の略全体を平坦面に形成する。
図17乃至図21を参照して、上記前進ペダル232、後進ペダル233の取付け構造を説明する。
図19及び図21に示すように、前進ペダル232及び後進ペダル233は、そのペダルアーム232a,233a基端の回動支軸部237a,237bを、ブレーキペダル軸255に回動可能に被嵌する。前進ペダル232及び後進ペダル233の踏み板236a,236b(またはペダルアーム232a,233a)は、回動支軸部237a,237bを中心に床板235の上面にて初期(中立)位置から斜め下方に回動可能に装着されている。前進ペダル及び後進ペダルのペダル踏み込み量を、変速センサである変速ポテンショ220に伝える伝達リンク機構275を備える。
図18乃至図21に示されるように、伝達リンク機構275は、前進ペダル232及び後進ペダル233を後述するカム板258にそれぞれ連結する一対の牽制リンク238a,238bと、前進ペダル232及び後進ペダル233を中立位置(変速出力が略零の位置)に戻す中立位置復元手段241(第1バネ手段)と、踏み板236a,236bのペダル踏込み量(または踏込み角度θ)が所定以上になったときにペダル踏力を増大させる踏み込み抵抗変更手段242(第2バネ手段)とを備える。なお、中立位置復元手段241及び踏み込み抵抗変更手段242を設置するための変速フレーム266を、操縦コラム234の取付け部に配置する。
図19及び図20に示されるように、各回動支軸部237a,237bにリンクアーム239a,239bをそれぞれ設置し、各牽制リンク238a,238bの一端部をリンク軸268a,268bを介して各リンクアーム239a,239bに回動可能にそれぞれ連結する。牽制リンク238a,238bの他端部を支軸269を介して後述するカム板258の中間部に回動可能に連結する。前進用及び後進用の両方の踏み板236a,236bが初期(中立)位置に支持されているときに、前進用の牽制リンク238a及びリンクアーム239aと、後進用の牽制リンク238b及びリンクアーム239bとが、ブレーキペダル軸255と支軸269とを結ぶ直線を挟んで略対称になる位置(シーソー構造)に、それらリンク238a,238b及びリンクアーム239a,239bをそれぞれ配置する。なお、上述した初期(中立)位置とは、ペダル踏込み量が略零の変速中立位置、即ち、無段変速機29からの変速駆動出力が略零の変速中立位置のことである。
従って、前進ペダル232または後進ペダル233のいずれか一方の踏み板236a(236b)をオペレータが踏み込んだ場合、踏み込んだ側の踏み板236a(236b)は、踏み込み方向(前方斜め下方)に移動する一方、踏み込んでいない他方の踏み板236b(236a)が、踏み込んだ側の踏み板236a(236b)の踏み込み方向(前方斜め下方)とは逆の方向(後方斜め上方)に移動することになる。
一方、前進用及び後進用の両方のペダル232,233の踏み板236a,236bをオペレータが同時に踏み込んだ場合、各ペダル232,233の踏み込み動作が、各牽制リンク238a,238b及びカム板258などの連結にて互いに牽制されるから、板両方の踏み板236a,236bを踏み込み方向に同時に移動させることができない。このように、両方の踏み板236a,236bをオペレータが同時に踏み込んでも、両方の踏み板236a,236bが同時に踏み込み方向(前方斜め下方)に移動することがなく、いずれか一方の踏み板236a(236b)をオペレータが踏み込んだ場合だけ、踏み板236a,236bを踏み込んだ側のペダル232,233だけを作動させることになる。
図19及び図20に示されるように、中立位置復元手段241は、踏み板236a,236bを初期(中立)位置に戻すための戻しバネ256と、カム溝257を先端部に形成したT形状のカム板258と、カム溝257に移動可能に内設するカムローラ265とからなる。カム板258の基端部をカム軸270を介して変速フレーム266の一端部に回動可能に連結する。カム軸270を変速フレーム266に配置する。戻しバネ256の一端側をカム軸270に係止する。戻しバネ256の他端側は、カムローラ265を回動可能に被嵌するためのローラ軸267に係止する。カムローラ265がカム溝257の略中間部に位置しているときに、ローラ軸267と、支軸269と、カム軸270とが、同一直線上に配置されて、戻しバネ256が最も縮小して、前進ペダル232及び後進ペダル233の踏み板236a,236bを、初期(中立)位置にそれぞれ保持するように構成している。
一方、前進用または後進用のいずれか一方の踏み板236a,236bをオペレータが踏み込んだ場合、カム板258が戻しバネ256力に抗して正転または逆転方向に回動し、カムローラ265がカム溝257の略中間部からこの両端方向に移動し、カムローラ265の移動量に比例して戻しバネ256が伸張されることになる。その戻しバネ256を伸張する力が、前進または後進ペダル232,233を踏み込んで低速移動するときの低速操作域のペダル踏力と略等しくなる。
図20及び図21に示されるように、踏み込み抵抗変更手段242は、踏み板236a,236bの踏力を増大するための踏力増大バネ260と、踏力増大バネ260を押しバネ座261と引きバネ座262との間に配置するバネシリンダ263と、押しバネ座261及び引きバネ座262に一端側を連結する押し引きロッド264と、押し引きロッド264の他端側にローラ軸267を介して回動可能に軸支するカムローラ265とからなる。バネシリンダ263は支持アーム272を備える。支持アーム272をアーム軸273を介して変速フレーム266に回動可能に連結する。バネシリンダ263を変速フレーム266に連結する。この場合、オペレータが各踏み板236a,236bのいずれか一方を踏み込んで、カム板258を回転させて、カムローラ265をカム溝257の端部に移動し、その踏み板236a,236bをさらに踏み込んで、カム板258をさらに同一方向に連続して回転させたときに、押し引きロッド264が押し方向または引き方向のいずれか一方に移動し、押しばね座261または引きバネ座262のいずれか一方が踏力増大バネ260を圧縮するように移動することになる。
その踏力増大バネ260を圧縮する力(ペダル踏込み反力)が、前進または後進ペダル232,233ののいずれか一方を踏み込んで高速移動するときの高速操作域のペダル踏力と略等しくなる。従って、前進ペダル232及び後進ペダル233は、それらの踏込み量の中途部で踏込み抵抗力が急激に増大することになる。即ち、低速移動域の踏込み量(カムローラ265をカム溝257の端部に移動させるまでの踏み込み量)を越えて踏み板236a,236bを踏み込むと、そのペダル232(233)の踏込み反力(ペダル踏力)が踏み込み抵抗変更手段242により段階的に増大して、所定値以上の加速を意図することをオペレータが容易に感得できるように構成されている。
図19及び図20に示されるように、ブラケット240とセンサリンク271との間には、各踏み板236a,236bのペダル踏込み量(または踏込み角度)を検出するための踏込み検出センサとしての直線ポテンショメータ等の変速ポテンショ220が設けられている。なお、ブラケット240は変速フレーム266に一体的に連結する。センサリンク271はカム板258に一体的に連結する。変速ポテンショ220のセンサアーム220aは、変速ポテンショ220に内臓したバネ(図示省略)のバネ力にてセンサリンク271に常に弾圧されている。センサアーム220aはセンサリンク271と連動して回転することになる。変速ポテンショ220とカム板258の両者を変速フレーム266に設置し、変速ポテンショ220とカム板258との相対位置を高精度に決定可能に構成する。
図18乃至図20を参照して、前進ペダル232または後進ペダル233をオペレータが足踏み操作し、トラクタ1を前進または後進させて、前方または後方に移動させる動作を説明する。
先ず、前進ペダル232を足踏み操作したときの動作を説明する。前進用の踏み板236aをオペレータが踏み込んだときに、カム板258が牽制リンク238aを介して押し下げられて図19における反時計方向に回転する。このカム板258の回転により、カム溝257内をカムローラ265が移動して、戻しバネ256を伸張する一方、変速ポテンショ220をセンサリンク271を介して作動して、前進ペダル232の踏込み量(または踏込み角度)を検出し、無段変速機29からの変速駆動出力(前進速度)を、前進ペダル232の踏込み量に比例させて増速することになる。
前進用の踏み板236aが踏み込まれて、カムローラ265がカム溝257の端部に移動した状態において、前進用の踏み板236aをオペレータがさらに踏み込んで、変速駆動出力(前進速度)を増速するように操作した場合、押し引きロッド264がカム板258を介して引き下げられ、踏力増大バネ260が引きバネ座262を介して圧縮され、前進ペダル232の踏力が増大される。前進ペダル232の踏力をオペレータが感じながら、前進ペダル232を低速操作域から高速操作域に移動できることになる。
なお、オペレータが足を前進ペダル232から離すことにより、引きバネ座262が踏力増大バネ260力にて初期位置に戻り、かつカム板258が戻しバネ256力にて中立(初期)位置に戻り、前進ペダル232を初期位置に戻す。また、前進ペダル232を踏み込んだときに、後進ペダル233は踏み込み方向とは逆の方向に移動する一方、オペレータが足を前進ペダル232から離したときには、後進ペダル233も初期位置に戻る。
一方、後進ペダル233を足踏み操作したときの動作を説明する。後進用の踏み板236bをオペレータが踏み込んだときに、カム板258が牽制リンク238bを介して引き上げられて図19における時計方向に回転する。このカム板258の回転により、カム溝257内をカムローラ265が移動して、戻しバネ256を伸張する一方、変速ポテンショ220をセンサリンク271を介して作動して、後進ペダル233の踏込み量(または踏込み角度)を検出し、無段変速機29からの変速駆動出力(後進速度)を、後進ペダル233の踏込み量に比例させて増速することになる。
後進用の踏み板236bが踏み込まれて、カムローラ265がカム溝257の端部に移動した状態において、後進用の踏み板236bをオペレータがさらに踏み込んで、変速駆動出力(後進速度)を増速するように操作した場合、押し引きロッド264がカム板258を介して押し上げられ、踏力増大バネ260が押しバネ座261を介して圧縮され、後進ペダル233の踏力が増大される。後進ペダル233の踏力をオペレータが感じながら、後進ペダル233を低速操作域から高速操作域に移動できることになる。
なお、オペレータが足を後進ペダル233から離すことにより、押しバネ座261が踏力増大バネ260力にて初期位置に戻り、かつカム板258が戻しバネ256力にて初期(中立)位置に戻り、後進ペダル233を初期位置に戻す。また、後進ペダル233を踏み込んだときに、前進ペダル232は踏み込み方向とは逆の方向に移動する一方、オペレータが足を後進ペダル233から離したときには、前進ペダル232も初期位置に戻る。
また、前進ペダル232を踏み込んだときに、後進ペダル233は、カム板258及び牽制リンク238bを介して踏み込み方向とは逆の方向に移動し、オペレータが足を前進ペダル232から離したときには、後進ペダル233も中立(初期)位置に戻る。一方、後進ペダル233を踏み込んだときに、前進ペダル232はカム板258及び牽制リンク238aを介して踏み込み方向とは逆の方向に移動し、オペレータが足を後進ペダル233から離したときには、前進ペダル232も初期(中立)位置に戻ることになる。
上記の記載及び図18などから明らかなように、前記変速ペダルは前進ペダル232と後進ペダル233とからなり、前記前進ペダル232または後進ペダル233の踏込み量を検出する変速センサである変速ポテンショ220と、前記油圧式無段変速機29の変速駆動出力回転数を検出する変速出力部回転センサ116と、前記油圧式無段変速機29を変速制御する制御手段である走行コントローラ210とを備えたものであるから、前記前進ペダル232または後進ペダル233を足踏み操作し、前記油圧式無段変速機29の変速駆動出力回転数を変更し、前記油圧式無段変速機29を変速制御できる。前進または後進のいずれの場合でも、前記油圧式無段変速機29の変速出力をスムーズに切換えることができ、トラクタ1またはホイルローダなどにおいて、例えば前進と後進の切換を繰返し行う作業などを、至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできることになる。
上記の記載及び図19などから明らかなように、前記前進ペダル232及び後進ペダル233のペダル踏み込み量を前記変速センサである変速ポテンショ220に伝える伝達リンク機構275と、前記伝達リンク機構275中に設ける中立位置復元手段241とを備えたものであるから、前記前進ペダル232及び後進ペダル233を中立位置に簡単に保持でき、前記前進ペダル232及び後進ペダル233の組立て作業のときに必要なそれらの中立(初期)位置調整を簡単にすることができることになる。
上記の記載及び図19などから明らかなように、前記前進ペダル232及び後進ペダル233は、それぞれの少なくとも低速操作域の踏力を、前記中立位置復元手段241にて決定するように構成するものであるから、例えば前記前進ペダル232の踏力と後進ペダル233の踏力とを略一致させて、前記前進ペダル232及び後進ペダル233をオペレータが略同一感覚にて踏み込むことができ、前記前進ペダル232及び後進ペダル233の足踏み操作性などを向上できる。
上記の記載及び図20などから明らかなように、前記前進ペダル232または後進ペダル233の少なくともいずれか一方を連結するための踏み込み抵抗変更手段242を備え、前記前進ペダル232または後進ペダル233の少なくともいずれか一方の高速操作域の踏力を、前記踏み込み抵抗変更手段242にて決定するように構成したものであるから、前記前進ペダル232または後進ペダル233の踏力を低速操作域と高速操作域とに区別して段階的に変更できる。作業車両1の低速移動と高速移動との境界をオペレータが簡単に認知でき、前記前進ペダル232または後進ペダル233の足踏み操作性などを向上できることになる。
上記の記載及び図20などから明らかなように、前記前進ペダル232及び後進ペダル233を前記踏み込み抵抗変更手段242にそれぞれ連結するための押し引き操作機構である押し引きロッド264を備えたものであるから、前記踏み込み抵抗変更手段242を前記前進ペダル232と後進ペダル233の両方の復帰手段(初期位置方向に戻す手段)として利用できる。前記前進ペダル232及び後進ペダル233を前記踏み込み抵抗変更手段242を介して前記中立位置復元手段241に連結するための構造などをコンパクトかつ低コストに構成できることになる。
上記の記載及び図19などから明らかなように、前記前進ペダル232および後進ペダル233がオペレータの足踏み操作などにて同時に作動するのを防止する牽制機構であるカム板258を備え、前記前進ペダル232及び後進ペダル233を前記牽制機構258を介して前記中立位置復元手段241に連結したものであるから、例えば前記前進ペダル232と後進ペダル233とをオペレータが同時に踏み込んでも、その踏み込み操作を前記牽制機構258にて阻止でき、変速センサ220または制御手段210などが誤動作するを簡単に防止できる。前記前進ペダル232及び後進ペダル233の取付け構造、または変速センサ220の設置構造などをコンパクトにかつ低コストに構成できることになる。
次に、一定変速比制御(変速比適応制御)について説明する。ここで、変速比とは、エンジン5回転数に対する前記油圧式無段変速機29の出力軸36の回転数の比率をいう。以下同じ。
走行機体2に搭載されたミッションケース17内に、エンジン5からの動力が伝達される入力軸27を配置し、入力軸27と変速用の油圧ポンプ部500と油圧モータ部501と出力軸36とが同一軸線上に配置された油圧式無段変速機29を備え、油圧モータ部501を介して出力軸36から少なくとも走行駆動力を伝達するように構成してなる作業車両において、予め設定した目標変速比に対して、環境変化や外乱(主として、走行に係る負荷)によって、実際(現実)の変速比が一致しないことがある。そこで、実際(現実)のエンジン5回転数及び前記出力軸36の回転数を電子ガバナコントローラ213にフィードバックさせて、目標変速比に近接若しくは一致させる制御を、一定変速比制御(変速比適応制御)という。換言すると、エンジン5の回転数を、負荷の変動に拘らず、略一定値に保持するように制御する一方、実際(現実)の変速比が目標変速比の所定値%以内となるように、油圧式無段変速機29の変速比を制御するための比例電磁弁203を制御するものである。そのため、エンジン5の回転数に対する油圧式無段変速機29における出力軸36の回転数の変速比の変速比パターンを走行コントローラ210におけるパターン記憶手段としてのRAM(随時読み書き可能メモリ)に記憶させる。
この変速比パターンは、変速ペダル(前進ペダル232及び後進ペダル233)の踏込み量が増大するのに比例して、変速比が大きくなるパターンであり、その比例関数は一次関数であっても良いし、2次曲線の関数であっても良い。パターン記憶手段には複数の変速比パターンが関数表形式またはマップ形式(図24に示すような変速比線図を参照)にて記憶されている。農作業の種類や圃場の条件(土壌の質や水田、畑土地等)に応じて、図24の実施形態では15種類の変速比パターン(変速比線)を準備して、予めパターン記憶手段に記憶させている。オペレータが変速比設定器(設定ダイヤル)221の目盛を選択すると、複数種類の変速比パターンのうちから任意の1つのパターンを設定(指示)することができる。換言すると、変速比設定器(設定ダイヤル)221は、変速ペダル(前進ペダル232、後進ペダル233)の踏込み量に対応する変速比の変化率を変える(調節設定)ためのものである。
なお、図24に示す実施形態では、横軸にペダル踏込み量(最大踏込み量に対する%で示し、右向きは前進ペダルのもの、左向きは後進ペダルのもの)を採り、縦軸(左縦軸参照)にはエンジン5の回転数に対する油圧式無段変速機29における出力軸36の回転数の変速比[(出力軸36の回転数/エンジン5の回転数)=0〜2]を採って変速比パターンの線図を示す。図24において下の線から順にNo. 1〜No. 15とし、前進用変速比パターンと後進用変速比パターンは同じ(左右対称)に設定されている。さらに、図24には、ペダル踏込み量に対するペダル踏力の変化を示す線図(破線で示す)が記載されている。すなわち、右縦軸にはペダル踏力(最大値に対する%で示す)を採る。
本実施形態では、前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込み量の中途部(例えば全踏込み量の約70%の位置)で、そのペダルの踏力が前述の構成の第2バネ手段242により急増するようになっている。即ち、ペダル踏込み量が0%から約70%までは、第1バネ手段241の付勢力に抗することで、ペダル踏力が低い勾配で直線的に比例して増加する。ペダル踏込み量が約70%の位置では、第2バネ手段242による抵抗力が付加されるのでペダル踏力が最大値の約20%から約50%に急変し、その後のペダル踏込み量が約70%から100%までは、ペダル踏力が高い勾配で略直線的に比例して増加するのである。
そして、各変速比パターン(変速比線)も上述のペダル踏込み量が約70%の位置より少ない領域とそれより大きい領域とで異なるようにしている。図24の実施形態において、No.1〜No.11の線(図24において下の線から数えて順にNo.1〜No.11とする)では、ペダル踏込み量が約70%の位置より少ない領域で変速比線の勾配が低く、約70%の位置を越える領域では変速比線の勾配が高くなるように設定されている。変速比線を採用するときには、オペレータが加速を意図して、オペレータが通常のペダル踏込み量の範囲(約70%内)を越えてペダル232,233を踏み込む時に、そのペダル踏力の急激な増大で感得できる。また、後述するように、環境変化や外乱等に対応してオペレータが変速比設定ダイヤル221で設定した以上の速度に上昇させたいとき、オペレータが変速比設定ダイヤル221の設定変更を実行する煩わしさを回避して、ペダル232,233を所定量以上踏み込むだけで、簡単に増速させることができる。
No.12の線(図24において下の線から12番目の線)では、ペダル踏込み量が0%
〜100%まで変速比線はほぼ一直線に設定されている。
No.13及びNo.14の線(図24において下の線から数えてNo.13及びNo.14とする)では、ペダル踏込み量が約70%の位置を越える領域での変速比線の勾配が、約70%の位置より少ない領域での勾配より低く設定されている。No.15の変速比線は、ペダル
踏込み量が約70%の位置(第2バネ手段242にペダルが接する直前)で変速比2となる直線である。
次に、変速比制御のフローチャート(図25)を参照しながら変速比適応制御態様を説明する。上述のように、前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込み量に比例させて比例制御電磁弁203を作動し、これからの作動油で主変速油圧シリンダ556を駆動させて主変速機構である油圧無段変速機29の油圧ポンプ部500の圧油吐出量を制御する。その場合、設定ダイヤル221で設定した変速比の終局目標値または維持目標を環境の変化に適応して遂行する自動制御であり、より詳しくは、変速ペダル232,233の踏込み量を自己監視し、その踏込み量の変化に応じて変速比設定ダイヤル221で設定した変速比の目標線に追従するように自動制御するものである。これにて主変速出力軸36の回転数を無段階に変更調節できるものである。
従って、変速比適応制御では、エンジンを始動させ(S1)、続いて変速比設定ダイヤル221にて、作業種類等に応じてオペレータが所望の変速比パターンを選択・決定する(S2)と、走行コントローラ210のRAM(随時読み書き可能メモリ)に記憶された所定の変速比パターンを読み出す。
次に、オペレータがトラクタ1を前進(後進)させるために前進ペダル232(後進ペダル233)を踏み込むことにより、前進ポテンショメータ219(後進ポテンショメータ220)からペダル踏込み量を走行コントローラ210に読み込む(S3)。この読み込み数値に基づいて、走行コントローラ210の演算部では、上記の選択された変速比パターン上のペダル踏込み量に対応する目標変速比値を算出する(S4)。
他方、走行コントローラ210では、走行中に常時一定時間間隔(サンプリング時間間隔)毎に、エンジン回転センサ206からエンジン回転数を読み込み、主変速出力部回転センサ116により、主変速出力部回転数を検出して読み込む(S5)。サンプリング時間(現在)でのエンジン回転数(分母)と主変速出力部回転数(分子)との比率から現在変速比値を演算し、現在変速比値が目標変速比値に略等しいか否かを判別する(S6)。
現在変速比値が目標変速比値から大小の所定%以上離しているときは(S6:no)、走行コントローラ210が比例制御電磁弁203の印加電圧値を補正することにより、油圧ポンプ部500の斜板角度を変更調節し、油圧モータ部501への作動油吐出量を制御して主変速出力軸36の回転数を増加または減少させるという主変速操作を実行する(S7)。現在変速比値が目標変速比値に略等しければ(目標変速比値に対して現在変速比値が±所定%以内の場合)(S6:yes )、主変速出力軸36の回転数を維持させる(S8)。
このように現在変速比値が目標変速比値に近づく(または一致させる)ようにフィードバック制御を行う。これらの場合、例えば、トラクタが乾いた土の区域から水を多く含む土の区域に進入したときのように走行の負荷が増大するなどの外乱のために、エンジン5の出力トルク変動が不足した場合や環境変化によりエンジン5回転数が所定値から外れた場合には、電子ガバナーコントローラ213を作動させて、エンジン5回転数を所定の値に維持するように制御することは勿論である。
このような変速比適応制御を採用すれば、オペレータは一旦変速比設定ダイヤル221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速ペダルである前進ペダル232または後進ペダル233を操作するだけで、環境の変化や作業車両の走行負荷の変動により、現実の変速比の値が目標変速比の値からずれた時に、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御でき、作業車両の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
また、比例制御電磁弁203の動作を補正することにより、上記自動制御を実行するので、きめ細かく且つ迅速に制御できるという効果を奏する。さらに、エンジン5の回転数を負荷によって制御するための電子ガバナー214を備えたものであるから、オペレータがエンジンスロットルを手操作で調節する必要がなく、エンジン5の回転数及び油圧式無段変速機29の出力を共に高効率に保持するように、エンジン回転数の制御とポンプ斜板509角度の制御とを実行でき、且つ作業車両の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。なお、主変速部の回転数の検出に代えて、車速(車輪の回転数)を検出して、変速比を算出することも等価の意義として採用できる。
本発明のエンジン5の回転数マップの1実施形態として、前進及び後進ペダル232,233のペダル踏み込み量に対するエンジン5の回転数の回転数パターンを走行コントローラ210におけるパターン記憶手段としてのRAM(随時読み書き可能メモリ)に記憶させる。
この回転数パターンは、変速ペダル(前進ペダル232及び後進ペダル233)の踏込み量が増大するのに比例して、エンジン5の回転数が大きくなるパターンであり、その比例関数は一次関数であっても良いし、2次曲線の関数であっても良い。パターン記憶手段には回転数パターンが関数表形式またはマップ形式(図31に示すような回転数線図を参照)にて記憶されている。
図31に示す実施形態では、横軸に前進及び後進ペダル232,233のペダル踏み込み量(最大踏み込み量に対する%)を採り、縦軸にはエンジン5の回転数を採って回転数パターンの線図を示す。回転数パターンは、ペダル踏み込み量が約80%の位置より少ない領域とそれより大きい領域とで異なるようにしている。即ち、ペダル踏み込み量が0%から約80%までは、エンジン5の回転数が直線的に比例して、低速アイドル回転数(例えば約750回転)から高速アイドル回転数(例えば約2700回転)に増加する。ペダル踏み込み量が約80%から100%の位置では、エンジン5の回転数が、高速アイドル回転数(例えば約2700回転)にて略一定回転に維持される。エンジン5の回転数が高速アイドル回転数のときに、エンジン5の出力トルクが略最大になる。
次に、図31の変速ペダル232,233踏み込み量とエンジン5回転数の関係を示す線図と、図32に示すアクセル連動変速比制御のフローチャートとを参照しながら、走行機体のアクセル連動変速比制御について説明する。上述のように、前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込み量に比例させて、油圧無段変速機29の油圧ポンプ部500の圧油吐出量を制御する。その場合、変速ペダル232,233の踏込み量を自己監視し、その踏込み量の変化に応じて、エンジン5の回転数を、設定した回転数の目標線に追従するように自動制御するものである。これにて車速(主変速出力軸36の回転数)とエンジン5回転数とを無段階に変更調節できるものである。
本実施形態のアクセル連動変速比制御は、上述した変速比適応制御と同様に、エンジンを始動し(S1)、変速比設定ダイヤルにて変速比を設定し(S2)、前進ペダル232(後進ペダル233)の踏み込み量を読み込み(S3)、目標変速比値を算出し(S4)、エンジン回転数と主変速出力部回転数と車速回転数とを読み込む(S5)。次に、副変速ギヤ機構30からの出力が高速か低速かを判別する(S101)。
この走行作業中において、副変速ギヤ機構30からの出力が低速の場合(S101:no)、現在変速比値が目標変速比値に略等しいか否かを判別し(S6)、現在変速比値が目標変速比値に略等しいときには(S6:yes)、主変速出力軸36の回転数を維持する(S8)。一方、現在変速比値が目標変速比値と略等しくないときには(S6:no)、主変速出力軸36の回転数を増加または減少させるという上述した変速比適応制御を実行する(S7)。
一方、前記ステップS5において、エンジン回転数と主変速出力部回転数と車速とを読み込んだときに、副変速ギヤ機構30からの出力が高速の場合(S101:yes)、スロットルレバー206が自動制御位置にあるスロットルレバー自動オンであるか否かを判別する(S102)。スロットルレバー自動オンの場合(S102:yes)、エンジン回転数適応制御の動作を実行する(S103)。続いて、現在変速比値が目標変速比値に略等しいか否かを判別し(S6)、上述した変速比適応制御(S7)等が実行される。
本実施形態のエンジン回転数適応制御は、副変速ギヤ機構30からの出力が高速のときに(S101:yes)、走行コントローラ210からのエンジン回転数指令信号を電子ガバナコントローラ213にCAN通信にて出力し、電子ガバナコントローラ213の回転数制御の動作にてエンジンガバナ214を自動制御する。
例えば、前進または後進ペダル233,233の踏み込み量が0〜約80%の領域のときに、エンジン5の回転数を、前進または後進ペダル233,233の踏み込み量に比例して、電子ガバナコントローラ213の回転数制御にて増加または減少させる。この場合、低速アイドル回転数(例えば約750回転)以上であって、高速アイドル回転数(例えば約2700回転)以下である回転数パターン上の目標回転数と略等しくなるように、エンジン5の回転数が、電子ガバナコントローラ213の回転数制御にて変化する。
このようにエンジン回転数適応制御を実行すると、オペレータが変速ペダル(前進ペダル232または後進ペダル233)を操作するだけで、作業車両の走行負荷の変化や環境の変動により、現実のエンジン5回転数の値が目標回転数の値からずれた時に、自動的に目標回転数の値に近づくように自動制御できる。従って、一般の自動車のアクセル操作と同様のエンジン回転数適応制御と、一般の自動車の無段変速動作と同様の変速比適応制御とが、略同時に連続して実行されるものであるから、作業車両の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、副変速ギヤ機構30を高速に切換えて高速移動するときに、エンジン5を低燃費及び低騒音にて運転できることになる。
一方、前進または後進ペダル233,233の踏み込み量が約80%以上の領域のときは、電子ガバナコントローラ213の回転数一定維持制御の動作にてエンジンガバナ214を自動制御し、エンジン5の出力負荷の増加または減少などに関係なく、エンジン5の回転数を高速アイドル回転数(略2700回転)にて略一定回転に維持する。このようにエンジン回転適応制御を実行すると、登坂など走行負荷が高いとき、または最高速度付近の高速走行などに適応させるべく、エンジン5の出力トルクを略最大に保持する。その場合、高負荷走行または高速走行を、従来の一般的なトラクタまたはホイルローダ等の作業車両における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、一般の自動車のエンジンに比べて馬力が小さいエンジンを搭載した作業車両であっても、過負荷が原因で発生するエンジントラブル等を防止できることになる。
上記の記載及び図23、図32などから明らかなように、走行機体に搭載されたエンジン5からの動力を変速する油圧式無段変速機29と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を伝達する副変速機構30と、前記油圧式無段変速機29の変速比を変更する変速ペダルである前進ペダル232及び後進ペダル233と、前記変速ペダル232,233の踏込み量を検出する変速センサである変速ポテンショメータ220と、前記油圧式無段変速機29の変速駆動出力回転数を検出する変速出力部回転センサ116とを備えてなる作業車両において、前記エンジン5の回転数をスロットルレバー206にて設定した回転数に維持するエンジン制御手段である電子ガバナコントローラ213と、前記変速ペダル232,233の踏込み量に基づき前記エンジン5の回転数と前記油圧式無段変速機29の変速比とを制御する走行制御手段である走行コントローラ210とを備えたものであるから、トラクタ1またはホイルローダなどにおいて、前記操縦ハンドル9をオペレータが両手で握りながら前記変速ペダル232,233を足踏み操作して作業車両1を方向転換でき、発進時の増速及び停止時の減速等の動作を、無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできることになる。
上記の記載及び図23、図32などから明らかなように、前記走行制御手段221は、前記副変速機構30を高速側に切換えたときに、前記変速ペダル232,233の踏込み量に基づき前記エンジン5の回転数を制御するものであるから、路上走行等の低負荷作業では走行機動性を向上できる一方、前記副変速機構30を低速側に切換える圃場作業等の高負荷作業は、前記エンジン5の回転数を略一定に維持でき、エンジントラブル等を防止できるという効果を奏する。
上記の記載及び図23、図32などから明らかなように、前記走行制御手段210は、前記エンジン5の回転数を設定するスロットルレバー206が自動制御位置のときに、前記変速ペダル232,233の踏込み量に基づき前記エンジン5の回転数を制御するものであるから、例えばスリップし易い圃場またはスリップしにくいアスファルト路面など走行条件に対応して、前記エンジン5の回転数制御のオンオフ切換を至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできることになる。
上記の記載及び図23、図31、図32などから明らかなように、前記走行制御手段210は、前記変速ペダル232,233を踏み込んでいないときにはエンジン5回転数を低速一定回転数に維持する一方、前記変速ペダル232,233を踏み込んだときにはエンジン5回転数を高速一定回転数に維持するように制御するものであるから、アイドリング運転時のエンジン5の騒音及び燃費を低減できる一方、高速(高負荷)作業のときのエンジントラブル等を防止できることになる。
上記の記載及び図23、図24、図25などから明らかなように、前記走行制御手段210は、変速ペダル232,233の踏み込み量に応じて、変速比設定器である変速比設定ダイヤル221にて予め設定された変速比パターンに沿って前記油圧式無段変速機29の出力回転数を制御するものであるから、オペレータは一旦変速比設定器221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速ペダル232,233を操作するだけで、環境の変化や作業車両1の走行負荷の変動により、現実の変速比の値が目標値からずれたときに、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御できるという効果を奏する。
次に、図26に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の走行停止制御について説明する。本実施形態のトラクタ1の始動時には、まず、オペレータはキースイッチ211をON位置に回動させて、走行コントローラ210等に電源が入り電気系統を立ち上がらせる。ブレーキペダル230を踏込みながら、キースイッチ(キーSW)211をスタータ212の作動位置に回動させて(S11)、エンジン5を始動させる(S12)。次に、キースイッチ211をON位置に戻すと(S13:yes )、油圧ポンプ部500の斜板角度を例えば略−11度に変更して変速比0に移動させる(S14)。この状態では、油圧ポンプ部500からの作動油が油圧モータ部501に供給されて、当該油圧モータ部501の相対的回転方向が入力軸27(油圧ポンプ部500)と逆になり、油圧ポンプ部500に連結されている主変速出力ギヤ37は絶対的に停止し、エンジン5の出力回転数の如何に拘らず、主変速出力部の回転数は略零となる。
この変速比0に移動した時点から、T1時間経過したか否かを判別し(S15)、T1時間経過していない間は(S15:no)、走行コントローラ210は、前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48の両者をOFFにして走行部への駆動力を遮断する(S16)。さらに、後車輪4のブレーキシリンダ68に対するオートブレーキ電磁弁67をONにして制動を掛けるというオートブレーキ作動を実行する(S17)。これにより、トラクタ1の走行は停止する(S18)から、オペレータがエンジン5始動時に、誤って、先に変速比設定ダイヤル221で変速比を設定したり、先に変速ペダル(前進ペダル232または後進ペダル233)を踏み込んでも、発進しないから安全である。
そして、前記ステップS18の走行停止からさらにT2時間経過したか否かを判別し(S19)、T2時間経過していれば(S19:yes )、油圧ポンプ部500の斜板角度を略0度に移行させて変速比1となるようにする(S20)。この状態では油圧ポンプ部500からの作動油が油圧モータ部501に供給されず、油圧式無段変速機29の作動油の無駄な循環による油漏れが少なくなり、エンジン5の無駄な燃料消費が無くなるという効果を奏する。つまり、T2時間経過してオペレータが作業のための変速比設定ダイヤル221による変速比設定や走行開始のための変速ペダル232,233の踏込み等の動作を実行しない状態では、エンジン5に負荷を掛けないようにし、無駄な燃料消費を回避することができる。
前記ステップS15において、T1時間経過していれば(S15:yes )、上述した変速比適応制御等の走行作業を実行する(S21)。この走行作業中において、変速ペダル232,233の踏込みがあるか否かを判別し(S22)。変速ペダル232,233の踏込みがなかった場合(S22:no)、エンジン回転センサ215からのエンジン回転数、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速を読取り(S23)、車速が所定の微小速度V1(例えば、0.1km/時間程度)以下になると(S24:yes )、オペレータが走行停止させる意図があるものと見做して上述のステップS16に移行する。これにより、オペレータはブレーキペダル230を踏むことなく、安全に停止できるのであり、その後のT2時間経過経過により、油圧式無段変速機構の作動油の無駄な循環による油漏れがなく、燃費も向上できるという効果を奏する。
そして、車速が所定の微小速度V1より大きい場合には(S24:no)、オペレータは走行作業を続行する意思があるものと見做して、ステップS21の変速比適応制御等の走行作業を実行する。
なお、例えば電気系統の故障などにより、エンジン5の回転中に走行作業や農作業機に異常が発生した場合には、オペレータが強制作動ボタン226(図23参照)を押すと、オートブレーキが作動すると共に、強制作動スイッチ227が切りになって、走行コントローラ210の出力に関係なく、前進クラッチ電磁弁46及び後進クラッチ電磁弁48をオフ作動させて、走行系への動力伝達を強制的、且つ緊急的に遮断し、安全を図ることができる。
次に、図27に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の前後進切換制御について説明する。まず、エンジン5を始動させ(S31)、続いて変速比設定ダイヤル221にて、作業種類等に応じてオペレータが所望の変速比パターンを選択・決定する(S32)と、走行コントローラ210のRAM(随時読み書き可能メモリ)に記憶された所定の変速比パターンを読み出す。このとき、左右ブレーキ65が作動して左右後車輪4を制動して走行機体が停止しているか否かを判別する(S33)。
左右ブレーキ65が作動して左右後車輪4を制動しているときは(S33:yes)、図26の走行停止制御にて走行機体が停止した状態から前進(または後進)する発進制御モードになる。オペレータがトラクタ1を前進(後進)させるために前進ペダル232(後進ペダル233)を踏み込むことにより、前進ポテンショメータ219(後進ポテンショメータ220)からペダル踏込み量を走行コントローラ210に読み込む(S34)。図26の走行停止制御にて走行機体が停止し、油圧ポンプ部500の斜板角度を略0度に移行させて変速比1に保たれているときは(S35:yes)、油圧ポンプ部500の斜板角度を略−11度に移行させて変速比0に移動させる(S36)。
油圧ポンプ部500の斜板角度が変速比0のとき(S37:yes)、即ち主変速出力ギヤ37を絶対的に停止した状態のときは、前進クラッチ電磁弁46(後進クラッチ電磁弁48)を作動し、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を入りにし(S38)、左右ブレーキ65による後車輪4の制動を解除し(S39)、上述した図25の変速比適応制御が行われる(S46)。前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込み量と、変速比設定ダイヤル221の設定値とにより算出される速度にて、走行機体が停止した状態から前進(後進)走行する。前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込みによりスムーズに発進できる。
他方、左右ブレーキ65の少なくとも一方が非作動状態で左右後車輪4の少なくとも一方を制動していないときは(S33:no)、図25の変速比適応制御にて走行機体が前進(または後進)しているものと判断され、走行機体が前進(または後進)している状態から後進(または前進)する往復走行制御モードになる。このとき、エンジン回転センサ215からのエンジン回転数、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速を読み込む(S40)。走行機体が前進(または後進)走行しているときに(S41:yes )、走行方向とは逆側の後進ペダル233(または前進ペダル232)の踏込みがあるか否かを判別する(S42)。
走行方向とは逆側の後進ペダル233(または前進ペダル232)の踏込みがあった場合(S42:yes)、走行方向の前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込み
中止にて、車速が所定の微小速度V1(例えば、0.1km/時間程度)以下に減速すると(S43:yes )、前進クラッチ電磁弁46(後進クラッチ電磁弁48)をオフにして、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を切りにする(S44)。略同時に、後進クラッチ電磁弁48(前進クラッチ電磁弁46)をオンにして、後進クラッチ42(前進クラッチ40)を入りにし(S45)、上述した図25の変速比適応制御が行われる(S46)。前進ペダル232(または後進ペダル233)の踏込み量と、変速比設定ダイヤル221の設定値とにより算出される速度にて、走行機体が前進(後進)走行から一時的な停止状態を経て後進(前進)走行に移行する。前進ペダル232と後進ペダル233とを交互に踏込むことにより、走行機体の走行方向を前進走行と後進走行とに交互に切換え、走行機体をスムーズに往復移動できる。
上記の記載及び図23、図27などから明らかなように、走行前後車輪3,4を備えたトラクタ1走行機体に搭載されたミッションケース17と、エンジン5からの動力が伝達される入力軸27及び油圧ポンプ500及び油圧モータ501及び出力軸36とからなる油圧式無段変速機29と、前記油圧式無段変速機29の変速比を変更する変速ペダルである前進ペダル232及び後進ペダル233と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を前記走行車輪3,4に伝達する前進用クラッチ40及び後進用クラッチ42と、前記走行車輪3,4を制動するブレーキ65とを備え、前記走行車輪3,4を前進または後進用クラッチ40,42を介して駆動し、前記変速ペダル232,233の踏み込み量に応じて車速を変更するように構成してなる作業車両において、前記変速ペダル232,233の踏込み量を検出する変速センサである前進及び後進ポテンショメータ219,220と、前記変速センサ219,220の検出値に基づいて前記油圧ポンプ500の斜板角度を調節するアクチュエータである主変速油圧シリンダ556と、前記出力軸36の回転数を検出する変速出力部回転センサ116と、前記変速ペダル232,233を踏み込まない状態では、前記走行車輪3,4にブレーキ65を掛け、且つ前進クラッチ40及び後進クラッチ42の両方を切るように制御する制御手段210とを備える。
そして、前記変速出力部回転センサ116にて検出する変速駆動出力が前後進切換速度V1以下のときには、前記変速ペダル232,233の踏み込みに応じて前進クラッチ40または後進クラッチ42のいずれかを入れるように制御する。前記前進クラッチ40または後進クラッチ42のいずれかの入を確認したときに、前記走行車輪3,4のブレーキ65を解除する。したがって、交互に繰り返す前進と後進の切換、走行停止と発進の各操作を頻繁に行う必要があるトラクタ1またはホイルローダなどの各作業を、至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
また、前進と後進の切換途中での逆走を防止できる。前記前進及び後進用クラッチ40,42は、前記油圧式無段変速機29における出力軸36より伝動下流側に配置されているものであるから、従来のようなエンジン5と油圧式無段変速機29との間に配置する主クラッチなどを省略することができ、構造を簡単にすることができる。走行車輪として、左右前後車輪3,4に代えて左右一対の走行クローラ(図示省略)を設けてもよく、左右後車輪4に代えて左右一対の走行クローラを設けてもよい。
また、前記油圧式無段変速機29の変速比パターンを設定する変速比設定器である変速比設定ダイヤル221と、複数の変速比パターンを記憶するパターン記憶手段210とを備え、前記変速ペダル232,233の踏込み量に応じて、前記変速比設定器221にて予め設定された変速比パターンに沿って前記油圧式無段変速機29の出力回転数を制御するものであるから、オペレータは一旦変速比設定器221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速ペダル232,233を操作するだけで、環境の変化や作業車両であるトラクタ1の走行または作業負荷の変動により、現実の変速比の値が目標変速比の値からずれた時に、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御でき、作業車両1の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
また、前記変速ペダルは、前進ペダル232と、後進ペダル233とからなり、前進時に、前記後進ペダル233を踏み込んだときには、車速が一定以下になるとき、前進クラッチ40を切り、これと略同時に後進クラッチ42を入れるように制御するものであるから、例えば、往復走行作業などにおいて、前記油圧式無段変速機29の超低速出力(低効率出力域)をカットし、前記油圧式無段変速機29が低効率出力になる前に、前進から後進に切換えることができる。前進から後進に切換えたときに走行加速性能などが低下するのを阻止でき、走行機動力を適正に維持できる。
また、前記変速ペダルは、前進ペダル232と、後進ペダル233とからなり、後進時に、前記前進ペダル232を踏み込んだときには、車速が一定以下になるとき、後進クラッチ42を切り、これと略同時に前進クラッチ40を入れるように制御するものであるから、例えば、往復走行作業などにおいて、前記油圧式無段変速機29の超低速出力(低効率出力域)をカットし、前記油圧式無段変速機29が低効率出力になる前に、後進から前進に切換えることができる。後進から前進に切換えたときに走行加速性能などが低下するのを阻止でき、走行機動力を適正に維持できる。
なお、前進ペダル232と、後進ペダル233とを、1つのペダル(またはレバー)にて形成して、ペダルの踏込み方向を前進と後進とで異ならせたり、1つのペダル(またはレバー)の前進と後進の変速出力(同じ踏込み方向)をスイッチなどにて切換え、同じペダル(またはレバー)にて前進及び後進の変速を操作することも行える。また、前進及び後進ペダル232,233を、前進及び後進レバーにて形成してもよく、ペダルとレバーとを併用してもよい。
次に、図28に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の副変速高速切換制御について説明する。まず、エンジン5が回転しているエンジン回転中に(S50:yes)、高速・低速切換スイッチ222を、副変速高速スイッチオンにして、副変速を低速側から高速側に切換えたときは(S51:yes)、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速をそれぞれ読み込み(S53)、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を切り(S54)、車速が所定の速度V1以上であるか否かを判別する(S55)。
続いて、車速が所定の速度V1(例えば、0.1Km/時間程度)以下ではなく(S55:no)、走行作業を続行可能な状態(車速が所定の速度V1以上に維持)では、高速クラッチ電磁弁666をオンにし(S56)、副変速油圧シリンダ55を高速側に作動し、副変速用の低速クラッチ56を切って高速クラッチ57を継続する。これと略同時に、比例制御電磁弁203を作動して、油圧ポンプ部500の斜板角を、変速比下げ方向に移行する(S57)。
そして、主変速出力部回転センサ116にて検出する主変速出力部回転数(主変速出力軸36の回転数)と、車速センサ117にて検出する副変速出力部回転数(副変速軸50の回転数)とが一致したか否かを判別する(S58)。主変速出力軸36の回転数と、副変速軸50の回転数とが略一致したときに(S58:yes)、高速・低速切換スイッチ222を低速側から高速側に切換える直前に入りになっていた前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにし(S59)、上述した図20の変速比適応制御が行われる(S60)。 このように、主変速出力軸36の回転数と、副変速軸50の回転数とを略一致させた後、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにするから、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにしたときに、主変速出力軸36と副変速軸50の回転数の差が原因で、車速が急激に変化するのを防止できる。
他方、車速センサ117にて検出する車速が所定の速度V1以上であるか否かを判別したとき(S55)、車速が所定の速度V1(例えば、0.1Km/時間程度)以下になった場合は(S55:yes)、左右ブレーキ65を入り作動し(S61)、登坂または下坂などでの逆行を防止する。これと略同時に、高速クラッチ電磁弁666をオンにして高速クラッチ57を継続する(S62)。次いで、高速・低速切換スイッチ222を低速側から高速側に切換える直前に入りになっていた前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにし(S63)、左右ブレーキ65を切り作動して左右後車輪4の制動を解除し(S64)、上述した図20の変速比適応制御が行われる(S60)。
上記の記載及び図23、図28などから明らかなように、走行前後車輪3,4を備えたトラクタ1に搭載されたミッションケース17と、エンジン5からの動力が伝達される入力軸27及び油圧ポンプ500及び油圧モータ501及び出力軸36とからなる油圧式無段変速機29と、前記油圧式無段変速機29の変速比を変更する変速ペダルである前進ペダル232及び後進ペダル233と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を前記走行車輪3,4に伝達する前進用クラッチ40及び後進用クラッチ42と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を多段変速する副変速ギヤ機構30と、前記走行車輪3,4を制動するブレーキ65とを備え、前記変速ペダル232,233の踏み込み量に応じて車速を変更するように構成してなる作業車両において、前記変速ペダル232,233の踏込み量を検出する変速センサである前進及び後進ポテンショメータ219,220と、前記変速センサ219,220の検出値に基づいて前記油圧ポンプ500の斜板角度を調節するアクチュエータである主変速油圧シリンダ556と、前記出力軸36の回転数を検出する変速出力部回転センサ116と、前記副変速機構30を切換える副変速切換手段である副変速油圧シリンダ55と、制御手段である走行コントローラ210とを備え、前記制御手段210は、前記副変速切換手段55の高速側操作を確認したときに、前進クラッチ40及び後進クラッチ42の両方を切り、前記副変速機構30を高速側に切換えるように制御し、前記副変速機構30を高速側に切換えると略同時に、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を減速するように制御し、前進クラッチ40及び後進クラッチ42の入力側と出力側の回転数が略一致したときに、前記副変速切換手段55を高速側操作したときに入りになっていた前進クラッチ40または後進クラッチ42のいずれかを再び入りにするように制御する。
したがって、例えば走行機体1を停止することなく、または前記油圧式無段変速機29の変速駆動出力を中立(略零回転)にすることなく、副変速機構30の変速出力を低速から高速に切換えるように操作でき、トラクタ1またはホイルローダなどの各作業を、至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできる。また、副変速切換途中での逆走を防止できるという効果を奏する。例えば、前記前後進用クラッチ40,42及び副変速機構30は、前記油圧式無段変速機29における出力軸36より伝動下流側に配置されているものであるから、従来のようなエンジン5と油圧式無段変速機29との間に配置する主クラッチなどを省略することができ、構造を簡単にすることができることになる。
また、前記副変速切換手段55の高速側操作を確認して、前進クラッチ40及び後進クラッチ42の両方を切りにしたときに、前進クラッチ40または後進クラッチ42のいずれかを再び入りにするまでに、車速が一定以下になるとき、走行車輪4にブレーキ65を掛けるように制御するものであるから、前記副変速切換手段55の高速側操作にて前進クラッチ40及び後進クラッチ42の両方を切りにしても、前進クラッチ40または後進クラッチ42を切りにする前の走行方向とは逆の方向に移動する逆走を阻止でき、例えば登坂走行時または下坂走行時などに走行機体の逆走を防いで走行副変速を低速から高速に変速できる。
次に、図29に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の副変速低速切換制御について説明する。まず、エンジン5が回転していて副変速ギヤ機構30の高速クラッチ57が入りのときに(S70:yes)、高速・低速切換スイッチ222を、副変速低速スイッチオンにしていないときは(S71:no)、副変速高速にて走行する(S72)。一方、高速・低速切換スイッチ222を、副変速低速スイッチオンにして、副変速を高速側から低速側に切換えるように操作することにより(S71:yes)、油圧ポンプ部500の斜板角度が一定変速比(C1=0.7)以上の場合(S73:yes)、油圧ポンプ部500の斜板角度が一定変速比(C1=0.7)以下になるように比例制御電磁弁203を制御し、無段変速機29からの主変速出力を一定変速比(C1=0.7)以下に減速する(S74)。
即ち、副変速が高速のときに油圧ポンプ部500の斜板角度が変速比(C1=0.7)以上の場合、副変速が低速のときの最高速度(油圧ポンプ部500の斜板角度が変速比2)と略同じかそれ以下になるように、油圧ポンプ部500の斜板角度を変速比(C1=0.7)以下に変更する。このように、副変速が低速のときの最高速度以下になるように、副変速が高速のときの走行速度を減速し、副変速を高速から低速に切換える前に、副変速低速の最高速度以下で前後車輪3,4を駆動し、無段変速機29の出力負荷が急激に増大するのを未然に防止している。
なお、副変速が高速のときの油圧ポンプ部500の斜板角度が変速比C1=0.7のときの走行速度と、副変速が低速のときの最高速度である油圧ポンプ部500の斜板角度が変速比2のときの走行速度とが、略同じ走行速度になる。
上述のように、無段変速機29からの主変速出力を一定変速比(C1=0.7)以下に減速したときは(S74)、主変速出力部回転センサ116からの主変速出力部回転数、及び車速センサ117からの車速をそれぞれ読み込み(S75)、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を切り(S76)、車速が所定の速度V1以上であるか否かを判別する(S77)。
続いて、車速が所定の速度V1(例えば、0.1Km/時間程度)以下ではなく(S77:no)、走行作業を続行可能な状態(車速が所定の速度V1以上に維持)では、高速クラッチ電磁弁666をオフにし(S78)、副変速油圧シリンダ55を低速側に作動し、副変速用の高速クラッチ57を切って低速クラッチ56を継続する。これと略同時に、比例制御電磁弁203を作動して、油圧ポンプ部500の斜板角を、変速比上げ方向に移行する(S79)。
そして、主変速出力部回転センサ116にて検出する主変速出力部回転数(主変速出力軸36の回転数)と、車速センサ117にて検出する副変速出力部回転数(副変速軸50の回転数)とが一致したか否かを判別する(S80)。主変速出力軸36の回転数と、副変速軸50の回転数とが略一致したときに(S80:yes)、高速・低速切換スイッチ222を高速側から低速側に切換える直前に入りになっていた前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにし(S81)、上述した図20の変速比適応制御が行われる(S82)。 このように、主変速出力軸36の回転数と、副変速軸50の回転数とを略一致させた後、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにするから、前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにしたときに、主変速出力軸36と副変速軸50の回転数の差が原因で、車速が急激に変化するのを防止できることになる。
他方、車速センサ117にて検出する車速が所定の速度V1以上であるか否かを判別したとき(S77)、車速が所定の速度V1(例えば、0.1km/時間程度)以下になった場合は(S77:yes)、左右ブレーキ65を入り作動し(S83)、登坂または下坂などでの逆行を防止する。これと略同時に、高速クラッチ電磁弁666をオフにして低速クラッチ56を継続する(S84)。次いで、高速・低速切換スイッチ222を高速側から低速側に切換える直前に入りになっていた前進クラッチ40(後進クラッチ42)を再び入りにし(S85)、左右ブレーキ65を切り作動して左右後車輪4の制動を解除し(S86)、上述した図20の変速比適応制御が行われる(S82)。
上記の記載及び図23、図29などから明らかなように、前記変速ペダル232,233の踏込み量を検出する変速センサ219,220と、前記変速センサ219,220の検出値に基づいて前記油圧ポンプ500の斜板角度を調節するアクチュエータ556と、前記出力軸36の回転数を検出する変速出力部回転センサ116と、前記副変速機構30を切換える副変速切換手段55と、制御手段210とを備え、前記制御手段210は、前記副変速切換手段55の低速側操作を確認したときに、前記油圧式無段変速機29の変速比を一定以下に下げ、入り状態の前進クラッチ40または後進クラッチ42を切るように制御し、入り状態の前記前進クラッチ40または後進クラッチ42を切ると略同時に、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を増速するように制御し、前記前進クラッチ40または後進クラッチ42の入力側と出力側の回転数が略一致したときに、前記副変速切換手段55を低速側操作する直前に入りになっていた前進クラッチ40または後進クラッチ42のいずれかを再び入りにするように制御する。
したがって、例えば走行機体1を停止することなく、または前記油圧式無段変速機29の変速駆動出力を中立(略零回転)にすることなく、また副変速の切換により生じるショックを低減し、副変速機構30の変速出力を高速から低速にスムーズに切換えるように操作でき、副変速高速の走行から副変速低速の走行に低ショックにて移行でき、トラクタ1またはホイルローダなどの各作業を、至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできる。また、副変速切換途中での逆走を防止できるという効果を奏する。例えば、前記前後進用クラッチ40,42及び副変速機構30は、前記油圧式無段変速機29における出力軸36より伝動下流側に配置されているものであるから、従来のようなエンジン5と油圧式無段変速機29との間に配置する主クラッチなどを省略することができ、構造を簡単にすることができることになる。
また、前記副変速切換手段55の低速側操作を確認して、入り状態の前進クラッチ40または後進クラッチ42を切りにしたときに、前記副変速切換手段55を低速側操作する直前に入りになっていた前進クラッチ40または後進クラッチ42のいずれかが再び入りになるまでに、車速が一定以下になるとき、走行車輪3,4にブレーキ65を掛けるように制御するものであるから、前記副変速切換手段55の低速側操作にて前進クラッチ40及び後進クラッチ42の両方を切りにしても、前進クラッチ40または後進クラッチ42を切りにする直前の走行方向とは逆の方向に移動する逆走を阻止でき、例えば登坂走行時または下坂走行時などに走行機体1の逆走を防いで走行副変速を高速から低速に変速できる。
次に、図30に示すフローチャートを参照しながら、走行機体の旋回(スピンターン)制御について説明する。まず、エンジン5が回転していて、オートブレーキスイッチ245と、倍速モードスイッチ247とをオンにしたときは(S90:yes)、四駆モードスイッチ246をオンにしたときと同様に、四駆油圧電磁弁80を励磁して四駆用油圧クラッチ74を入りにし、左右の前車輪3及び後車輪4の全てを駆動する四輪駆動オン(前輪倍速駆動オフ、左右ブレーキオフ)にて走行する(S91)。例えばトラクタ1を、略四角形の圃場の対向する枕地の間を往復するように移動して、耕耘作業などの往復走行作業を行う。圃場枕地などにおいて、オペレータが操縦ハンドル9を操作してトラクタ1を方向転換する場合、操縦ハンドル9を左方向に設定切角以上に回転すると、左操舵センサ218がオンになる(S92:yes)。一方、操縦ハンドル9を右方向に設定切角以上に回転すると、右操舵センサ219がオンになる(S95:yes)。
左操舵センサ218がオンになった場合は(S92:yes)、副変速が低速(副変速ギヤ機構30の低速クラッチ56が入り)のときに(S93:yes)、四駆油圧電磁弁80をオフにして四駆用油圧クラッチ74を切にし、四輪駆動オフ(S94)になる。かつ倍速油圧電磁弁82を励磁して倍速用油圧クラッチ76を入りにし、前輪倍速駆動オン(S94)になる。かつ左ブレーキ電磁弁67aを励磁して左ブレーキシリンダ68を作動し、左ブレーキオン(S94)になる。従って、前車輪3が四輪駆動オンのときよりも高速回転し、かつ進行方向に向かって左側の後車輪4が左ブレーキ65にて制動され、左側の後車輪4を中心とした旋回半径にてトラクタ1が旋回して、約180度方向転換(スピンターン)し、次工程の往復走行作業の開始位置などに移動できることになる。
一方、右操舵センサ219がオンになった場合は(S95:yes)、副変速が低速(副変速ギヤ機構30の低速クラッチ56が入り)のときに(S96:yes)、四駆油圧電磁弁80をオフにして四駆用油圧クラッチ74を切にし、四輪駆動オフ(S94)になる。かつ倍速油圧電磁弁82を励磁して倍速用油圧クラッチ76を入りにし、前輪倍速駆動オン(S94)になる。かつ右ブレーキ電磁弁67bを励磁して右ブレーキシリンダ68を作動し、右ブレーキオン(S94)になる。従って、前車輪3が四輪駆動オンのときよりも高速回転し、かつ進行方向に向かって右側の後車輪4が右ブレーキ65にて制動され、右側の後車輪4を中心とした旋回半径にてトラクタ1が旋回して、約180度方向転換(スピンターン)し、次工程の往復走行作業の開始位置などに移動できることになる。
他方、操縦ハンドル9の切角を設定切角(直進走行における進路修正のための切角)以下に戻すように、操縦ハンドル9をオペレータが操作し、左右操舵センサ218,219の両方がオフになった場合(S98:yes)、または左右操舵センサ218,219のいずれかがオンであっても高速クラッチ57をオペレータが入りにして高速走行した場合(S99:yes)、四駆油圧電磁弁80を励磁して四駆用油圧クラッチ74を入りにし、四輪駆動オンにする(S100)。このときには、倍速油圧電磁弁82及び左右ブレーキ電磁弁67a,67bをオフにして前輪倍速駆動オフ及び左右ブレーキオフにする(S100)。このように、左右操舵センサ218,219の両方がオフに維持される直進走行範囲内(進路修正のための切角以下)にて操縦ハンドル9をオペレータが操作して、トラクタ1の進路を修正しながら、副変速が低速または高速のいずれかの速度にて略直進移動して、耕耘作業などを行うことになる。
なお、四駆モードスイッチ246をオンにして四輪駆動オンにしている四輪駆動制御に対して、オートブレーキスイッチ245及び倍速モードスイッチ247をオンにする図30の旋回制御を優先して行うように、走行コントローラ210を構成する。また、左右操舵センサ218,219のいずれかがオンになった場合、副変速が高速のときには、副変速を低速側に自動的に切換えるように、図29の副変速低速切換制御を実行させてもよい。オートブレーキスイッチ245及び倍速モードスイッチ247の両方をオンにした場合にも、副変速が高速のときには、副変速を低速側に自動的に切換えるように、図29の副変速低速切換制御を実行させてもよい。
上記の記載及び図23、図30などから明らかなように、走行機体に搭載されたエンジン5からの動力を変速する油圧式無段変速機29と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を伝達する副変速機構である副変速ギヤ機構30と、前記副変速機構30からの変速駆動出力を前車輪3に伝達する四輪駆動用クラッチ74及び倍速駆動用クラッチ76と、左右後車輪4を制動する左右ブレーキ65と、操縦ハンドル9とを備えてなる作業車両において、前記操縦ハンドル9の操舵角を検出する左右操舵センサである左右操舵センサ218,219と、車速を検出する車速センサ117と、前記四輪駆動用クラッチ74及び倍速駆動用クラッチ76及び左右ブレーキ65を制御する制御手段である走行コントローラ210とを備えたものであるから、トラクタ1またはホイルローダなどにおいて、例えば直進と旋回の切換を繰返し行う作業などを、至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできる。
上記の記載及び図23、図30などから明らかなように、前記制御手段210は、前後車輪3,4を駆動して作業車速にて移動しているときに、前記左右操舵センサ128,219の検出結果に基づき、前記四輪駆動用クラッチ74と、倍速駆動用クラッチ76と、左右ブレーキ65とを制御するものであるから、例えば後車輪4に比べて前車輪3のホイール径が小さい車両1もスムーズに方向転換(スピンターン)でき、走行面が泥土であっても前車輪3の横すべりを低減でき、旋回内側の後車輪4を中心にして小さい旋回半径にて方向転換でき、走行機動性を向上できるという効果を奏する。
上記の記載及び図23、図30などから明らかなように、前記制御手段210は、前記副変速機構30を低速側に切換えた状態で、前記左右操舵センサ218,219のいずれか一方がオンになったときに、前記四輪駆動用クラッチ74をオフにし、かつ倍速駆動用クラッチ76をオンにし、オンになった操舵センサ218,219と同じ側のブレーキ65をオンにするように制御するものであるから、例えばスリップし易い圃場などにおいても小さい旋回半径にて方向転換作業を至極簡単にすることができ、走行機動性を向上でき、長時間の作業での疲労を少なくできる。
上記の記載及び図23などから明らかなように、前記エンジン5の回転数を設定した回転数に維持するエンジン制御手段である電子ガバナコントローラ213を備えたものであるから、エンジントラブル等を防止でき、操縦ハンドル9の操舵(方向転換操作)を至極簡単にすることができる。
上記の記載及び図23、図24、図25などから明らかなように、前記油圧式無段変速機29の変速比を変更する変速ペダルである前進ペダル232及び後進ペダル233と、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を伝達する走行用クラッチである前進用クラッチ40及び後進用クラッチ42と、前記変速ペダル232,233の踏込み量を検出する変速センサである変速ポテンショメータ220と、前記油圧式無段変速機29の変速駆動出力回転数を検出する主変速出力部回転センサ116とを備え、前記制御手段210は、前記油圧式無段変速機29を変速制御するものであるから、前記操縦ハンドル9をオペレータが両手で握りながら前記変速ペダル232,233を足踏み操作して作業車両1を方向転換でき、作業車両の走行操作を無段変速機構付きの自動車における走行操作に近似させて至極簡単にすることができ、長時間の作業を疲労が少なくできるという効果を奏する。
上記の記載及び図23、図24、図25などから明らかなように、変速ペダル232,233の踏み込み量に応じて、変速比設定器221にて予め設定された変速比パターンに沿って前記油圧式無段変速機29の出力回転数を制御するものであるから、オペレータは一旦変速比設定器221にて変速比の変速比パターンを設定した後は、変速ペダル232,233を操作するだけで、環境の変化や作業車両1の走行負荷の変動により、現実の変速比の値が目標値からずれたときに、自動的に目標変速比の値に近づくように自動制御できるという効果を奏する。
上記の記載及び図23、図27、図28、図29などから明らかなように、前記油圧式無段変速機29からの変速駆動出力を前記車輪3,4に伝達する前進用クラッチ40及び後進用クラッチ42と、前記副変速機構30を低速側または高速側のいずれかに切換える切換手段である高速・低速切換スイッチ222とを備えたものであるから、前記切換手段222を操作するときに、前記前進用クラッチ40または後進用クラッチ42をオンオフ制御することにより、エンジントラブル等を防止でき、作業車両1の副変速切換操作を至極簡単にすることができる。