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JP4423006B2 - 肝幹細胞の検出又は分離方法 - Google Patents

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Description

本発明は、胎児肝臓又は再生中の成体肝臓中の細胞集団から、肝幹細胞を検出又は分離する方法に関する。本発明は、肝臓の再生医療や人工肝臓の開発等に有用である。
重度の肝臓疾患(劇症肝炎、肝硬変、肝癌など)などに対する根本治療は、肝臓移植しかないが、ドナー不足や免疫抑制療法を生涯行う必要性などの問題点があり、肝移植に代わる新しい治療法の開発が望まれている。その中の一つとして、肝幹細胞を利用した細胞移植療法がある。肝幹細胞とは、肝細胞と胆管上皮細胞の両者に分化する能力を持ち、かつ自己複製能をもつ増殖能に富む、肝臓の幹細胞と定義され、胎児期の肝臓、成体における肝臓にも極く少数存在するとされている。また、ここ数年の研究から、胚性幹細胞(ES細胞)や血液幹細胞、骨髄中の他の幹細胞からも肝幹細胞、あるいは肝細胞を誘導する試みが多数行われている。ここで、重要となってくる問題点の一つが、雑多な細胞集団の中から、肝幹細胞を同定し、それらを高純度で分離する方法である。肝幹細胞を特異的に認識し、それらを高純度で分離・回収する事ができれば、体外での肝幹細胞(未分化肝細胞)の増殖および分化誘導により、ハイブリッド型人工肝臓や細胞移植療法などの臨床応用に極めて有用であり、加えて薬物代謝や肝炎ウイルスの感染・増殖の試験管内におけるモデル実験系となりうる。肝幹細胞を同定し、高効率で分離するには、細胞表面抗原に対する抗体を利用する方法が最も適切であると考えられ、造血幹細胞の分離に頻用されている方法である。肝幹細胞の細胞表面抗原に関しては、これまでほとんど同定されていなかったが、近年、既知の5〜6種類の細胞表面抗原の発現を指標に、マウス胎児肝臓から肝幹細胞を濃縮する方法(非特許文献1)が報告された。しかしながら、この方法は複数の抗体を用いる為に、操作が複雑なことと、成体の肝臓から肝幹細胞を分離することは出来ない。本発明者らのグループは、シグナル配列を持った分子、すなわち細胞表面抗原や分泌性蛋白質をコードする遺伝子、を特異的にクローニングするシグナルトラップ法 (非特許文献2) を用いて、マウス胎生14.5日の肝臓に高発現する遺伝子であるdlkを同定し、抗dlkモノクローナル抗体を用いて、胎児肝臓より1ステップで肝幹細胞を高純度精製できる事を見いだした(特許文献1)。しかしながら、肝幹細胞の細胞表面抗原についての情報は、まだ極めて少なく、できるだけ多くの肝幹細胞の表面抗原を同定する事が重要である。
Suzuki, A. et al. (2000) Hepatology 32:1230-1239 Kojima, T. and Kitamura, T. (1999) Nat. Biotechnol. 17: 487- 490 Kirchner, J. et al. J. Exp. Med. 190:217-228 (1999) WO 02/103033A1
本発明の目的は、胎児肝臓又は再生中の成体肝臓中等の細胞集団から、肝幹細胞を検出又は分離する方法を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、胎児肝臓中及び再生中の成体肝臓中の肝幹細胞では、Itm2A(Integral membrane protein 2A)タンパクの遺伝子が特異的に高発現していることを見出し、これが2型膜蛋白質であることを確認し、Itm2Aタンパク又はこれをコードするmRNAを指標として肝幹細胞の検出又は分離を行うことが可能であることに想到し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、Itm2Aタンパク又はこれをコードするmRNAを指標として、生体外に分離された試料中の肝幹細胞の検出又は分離を行う、肝幹細胞の検出又は分離方法を提供する。
本発明により、胎児肝臓又は再生中の成体肝臓中等の細胞集団から、肝幹細胞を効率良く検出又は分離する方法が提供された。本発明の方法により、肝幹細胞を同定し、高純度で分離回収することが可能となった。このようにして分離した肝幹細胞は、臓器移植に替わる次世代の再生医療として期待がかかる肝細胞移植や、ハイブリッド型人工肝臓、in vitroにおける薬物代謝実験等に使用することが可能であるので、本発明はこれらの分野において大きく貢献するものと期待される。
下記実施例に具体的に記載するように、本願発明者らは、マウス胎生12.5日齢の未熟肝細胞と胎生17.5 日齢の出生前肝細胞のcDNAチップ解析による遺伝子発現比較より、膜蛋白質Integral membrane protein 2A (Itm2A: Genbank accession No. NM_008409)が、マウス胎児における未熟肝細胞に高発現していることを見出した。ノザンブロット、免疫染色、ホールマウントin situ ハイブリダイゼーションによるItm2A mRNAの発現解析の結果、マウス胎生10.5日から12.5日の胎児肝細胞に高発現しており、その後、急速に減弱していき、成体肝臓では全く発現していないことがわかった。 胎児肝臓は造血器官として働いており、おもに未熟肝細胞と血球から構成されているが、Itm2Aは血球には全く発現しておらず、未熟肝細胞に発現していた。この時期の未熟肝細胞は、肝芽細胞とも呼ばれ、将来、肝細胞と胆管上皮細胞の2種類の細胞に分化する能力をもつ、肝幹細胞であると考えられている。また、ヒト胎児肝臓の全RNAサンプルを用いて、ヒトItm2A (Genbank accession No. NM_004867のmRNAの発現を調べたところ、ヒトにおいても胎生6週目から12週目のヒト胎児肝臓においても発現が認められた。すなわち、Itm2Aはマウスだけでなく、ヒトにおいても胎児未熟肝細胞に発現している膜蛋白質であることが判明した。
次に、ラットに2−アセチルアミノフルオレン(2-AAF)を前投与して成熟肝細胞の増殖能を抑制した状態で、70%部分肝切除術を施してやると、門脈周囲にオーバル細胞(oval cell)と呼ばれる小型の細胞が出現する(Evarts, RP., et al (1989) Cancer Research, 49: 1541-1547)。オーバル細胞は増殖能の高い細胞で、未熟肝細胞と胆管上皮細胞の両者の性質を併せ持つ事から、成体肝臓における肝幹細胞と考えられている。このオーバル細胞は、重度の肝臓疾患などで、肝細胞の分裂・増殖が抑制された状態では、それに代わって肝再生を担うと考えられている。このオーバル細胞の起源は、不明な点が多いが、最近では骨髄中の造血幹細胞の分化転換によって生じるというデータが報告されている(Matsusaka, S. et al. (1999) Hepatology. 29(3):670-6 ; Petersen, BE., et al. (1999) Science 284: 1168-1170 ; Theise, ND., et al. (2000) Hepatology. 31: 235-240)。ラットにオーバル細胞が出現してくるモデルにおいて、肝臓でのItm2Aの発現を調べたところ、部分肝切除4日から発現が認められ、徐々に減弱しながら13日目まで発現しており、20日では消失した。この発現パターンは、成熟肝細胞には発現しておらず、オーバル細胞に発現しているアルファフェトプロテインの発現パターンと同様であることから(Pertersen, BE. Et al. (1989) Hepatology. 27: 1030-1038)、Itm2Aはオーバル細胞に発現している事が示唆された。
以上の結果から、Itm2Aは、胎児肝臓における肝幹細胞と成体肝臓における肝幹細胞の両者に発現している膜蛋白質であり、Itm2Aの遺伝子、またはタンパク質の発現を指標に肝幹細胞を同定する事が可能である。また、Itm2Aは細胞膜タンパク質であるので、Itm2Aの細胞外領域を認識するモノクローナル抗体を利用して、FACS (Fluorescein activated cell sorting)やMACS (Magnetic beads cell sorting)といった細胞分離装置を用いて、肝幹細胞を分離することが可能である。このようにして分離した肝幹細胞は、臓器移植に替わる次世代の再生医療として期待がかかる肝細胞移植や、ハイブリッド型人工肝臓、in vitroにおける薬物代謝実験等に使用することが可能である。
上記の通り、Itm2Aタンパク質及びそれをコードするcDNA配列は既に公知であり、マウスのItm2AのcDNA配列及びそれがコードするアミノ酸配列は、Genbank accession No. NM_008409に記載されており、ヒトのItm2AのcDNA配列及びそれがコードするアミノ酸配列は、Genbank accession No. XM_084285に記載されていた。これらの配列を配列表の配列番号1及び3にそれぞれ示す。
Itm2A遺伝子は、肝幹細胞において発現するので、Itm2A遺伝子の発現を調べることにより肝幹細胞を検出することができる。Itm2A遺伝子の発現は、細胞中のItm2Aタンパク又はこれをコードするmRNAを測定(検出、半定量又は定量)することにより調べることができる。細胞中のmRNAの測定は、常法により行うことができる。すなわち、例えば、下記実施例に記載の通り、ノーザンブロット法により行うこともできるし、逆転写PCR(RT-PCR)を行い、PCR産物を電気泳動することにより、さらに電気泳動バンドをサザンブロット法にかけることにより行うことができる。あるいは、RT-PCRをリアルタイム検出PCR(RTD-PCR)法により行うことにより、鋳型となるcDNA量、ひいてはmRNA量を正確に定量することができる。あるいは、NASBA法等により、mRNAを直接増幅し、電気泳動さらには電気泳動後のノーザンブロットにより測定することも可能である。これらの方法自体は、いずれも常法であり、必要な試薬キット及び装置は市販されている。また、Itm2AのcDNA配列が公知(配列番号1及び3に記載)であるので、これらの方法に必要なプローブやプライマーは容易に設計することができるし、下記実施例にも具体的にこれらの例が記載されている。したがって、Itm2AタンパクをコードするmRNAの測定は、当業者が容易に行うことができる。なお、Itm2AのmRNA(又はmRNAを鋳型として得られたcDNA)の検出や増幅に用いられるプローブやプライマーは、Itm2AのmRNA又はcDNAのいずれかの鎖に相補的な配列を有するものが好ましいが、プローブやプライマーのサイズの10%以下、好ましくは5%以下の塩基のミスマッチを有するものを用いることも可能である。このようなミスマッチを有するプライマーを用いることにより、増幅産物に所望の制限酵素部位を付与することができる。このような制限酵素部位は、増幅産物をベクターへ組み込む際に便利な場合がある。また、プローブやプライマーのサイズは、特に限定されないが、常法と同様、15塩基以上、好ましくは20塩基以上であり、サイズの上限は特にないが、プライマーの場合には、通常、50塩基以下、好ましくは40塩基以下であり、プローブの場合には全長以下が適当である。なお、本発明は、Itm2AのmRNA又はcDNAとハイブリダイズする、これらのプローブ及びプライマーのような、Itm2AのmRNA又はcDNA測定用核酸をも提供する。
下記実施例において具体的に記載されるように、Itm2Aタンパク質は、2型膜蛋白であることが確認された。2型膜蛋白質とは、N末端側が細胞内に存在し、C末端側が細胞外に出るタイプの膜蛋白質である。したがって、Itm2Aタンパク質のC末端側領域をエピトープとするモノクローナル抗体を作製し、該モノクローナル抗体と細胞とを接触させることにより、細胞表面に存在するItm2Aタンパクと該モノクローナル抗体とが、抗原抗体反応により結合するので、これを利用して肝幹細胞を検出し、また、分離することができる。細胞表面上の抗原と、該抗原に対するモノクローナル抗体との抗原抗体反応を利用して、該モノクローナル抗体と抗原抗体反応する細胞を検出し、又は分離する方法は、この分野において周知であり、細胞表面上のItm2Aと抗原抗体反応するモノクローナル抗体が得られれば容易に行うことができる。例えば、免疫組織化学、FACS(fluorescence activated cell sorting; 蛍光活性化細胞分離)、MACS(magnetic cell sorting; 磁気細胞分離)等を用いる方法等の公知の方法により検出又は分離することができる。本発明の検出方法および分離方法においては、Itm2Aタンパクを検出することによりItm2A遺伝子の発現を検出することが好ましい。細胞表面に発現するItm2Aタンパクの細胞外領域に結合可能な抗体やリガンドを用いてItm2Aの発現を検出することにより、細胞を固定したり溶解することなく、非侵襲的にItm2Aタンパクの発現を検出することが可能である。この場合、FACS や MACS等のセルソーターを用いることで、効率的に細胞を検出または分離することができる。FACS及びMACSは、この分野において周知であり、そのためのセルソーター等の装置も市販されているので、Itm2Aタンパクの細胞外領域(C末端側領域)をエピトープとするモノクローナル抗体が得られれば、肝幹細胞の検出及び分離を容易に行うことができる。
Itm2AのcDNAの塩基配列が公知(配列番号1及び3)であるので、Itm2Aタンパクの細胞外領域(C末端側領域)は、常法に基づき容易に調製することができる。配列番号1に示すマウスItm2AcDNAでは、およそ376ntよりも下流の領域、配列番号3に示すヒトItm2AcDNAでは、およそ368ntよりも下流の領域が細胞外領域である。したがって、この細胞外領域の全領域又はその中の一部の領域によりコードされるアミノ酸配列(アミノ酸残基数は5以上、好ましくは10以上)を有するペプチドを作製し、それを抗原として用いて常法によりモノクローナル抗体を作製することによりItm2Aタンパクの細胞外領域をエピトープとするモノクローナル抗体を作製することができる。免疫原として用いられるペプチドは、短いものであれば化学合成により合成することができるし、長いものであれば遺伝子工学的に調製することができる。下記実施例に具体的に記載されるように、Itm2AのcDNAは、胎児肝臓又は再生中の成体肝臓中の肝幹細胞からPCRにより大量に調製することができる。したがって、該cDNA中の細胞外領域部分又はその部分領域をPCRにより増幅し、それを適当なベクターに組み込み、宿主細胞に導入して大量に所望のペプチドを調製することができる。免疫原として用いられるペプチドは、化学合成による場合は、市販のペプチド合成機を用いて容易に調製できるし、遺伝子工学的手法により調製する場合も上記概説した方法により常法に基づき容易に調製できる。なお、免疫原として用いるペプチドが比較的短い場合(例えば10アミノ酸残基以下)には、免疫応答を効率的に誘起するために、ペプチドを他のタンパク質キャリア(例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)等)に結合したものを免疫原として用いることもできる。これも常法である。なお、本発明は、Itm2Aの細胞外領域と抗原抗体反応する、このような肝幹細胞検出又は分離用モノクローナル抗体をも提供する。
下記実施例に具体的に記載されるように、胎児肝臓及び再生中の成体肝臓中に肝幹細胞が存在することが確認された。したがって、本発明の方法を適用する試料となる対象組織としては、胎児肝臓及び再生中の成体肝臓を挙げることができる。胎児肝臓については、マウスでは胎生10.5日〜12.5日の胎児肝臓で、ヒトでは妊娠6週目〜12週目の胎児肝臓でItm2A遺伝子が高発現している。再生中の成体肝臓については、2−アセチルアミノフルオレン(2-AAF)などの肝臓毒を前投与して成熟肝細胞の増殖能を抑制した状態で、部分肝切除術を施してやると、門脈周囲にオーバル細胞と呼ばれる小型の細胞が出現するが、このオーバル細胞の集団の中に肝幹細胞が含まれるので、再生中の成体肝臓中のオーバル細胞群を対象として本発明の方法を行うこともできる。さらに、骨髄などの肝臓以外の組織や胚性幹細胞(ES細胞)にも肝幹細胞が存在している可能性があるので、これらの組織又は細胞集団も本発明の方法の対象とすることができる。
本願出願人は、先に、dlk(delta-like)という細胞膜蛋白質が、胎生肝細胞に高発現していることを見出し、抗dlkモノクローナル抗体を用いたMACSにより、効率的に胎生肝細胞を分離する方法を開発した。dlk自体は公知であり、そのアミノ酸配列及びcDNA配列は、例えば、ヒトdlkは、Genbank accession番号U15979およびNM_003836等に示されている。ラットdlkは、Genbank accession番号AB046763およびD84336等に示されている。ウシのdlkは、Genbank accession番号AB009278に示されている。また、dlkの細胞外領域をエピトープとするモノクローナル抗体も公知であり(Kaneta, M. et al. (2000) J. Immunol. 164:256-264)、この公知のモノクローナル抗体を用いたMACSにより胎生肝細胞を分離することができる(特許文献1)。Itm2Aを高発現する肝幹細胞は、このようなdlk陽性肝細胞中に多く含まれるので、試料から先ず、抗dlk抗体陽性細胞を選択し、選択された細胞集団を対象として本発明の方法を適用すると、効率良く肝幹細胞を検出又は分離することができる。下記実施例ではこの方法を採用している。
下記実施例において具体的に記載されるように、Itm2Aは、マウス及びヒトの両者の肝幹細胞中で高発現していた。配列番号1及び3からわかるように、マウスとヒトのItm2Aタンパクのアミノ酸配列の相同性は高い。マウスとヒトは、共に哺乳綱に属するが、目のレベルで異なっており、哺乳類の中では大きく異なる生物である。それにも拘らず、相同性の高いItm2Aが肝幹細胞中に高発現していることから、Itm2Aは、マウス及びヒト以外の他の動物、特に他の哺乳動物の肝幹細胞においても同様に高発現する、普遍的なタンパク質であると考えられる。したがって、本発明の方法は、マウス及びヒト以外の動物にも適用できる。
本発明の方法により分離された肝幹細胞は、上記のように、臓器移植に替わる次世代の再生医療として期待がかかる肝細胞移植や、ハイブリッド型人工肝臓、in vitroにおける薬物代謝実験等に使用することが可能である。とりわけ、再生中の成体肝臓から肝幹細胞を分離できるという知見は重要である。患者本人の肝臓から、肝幹細胞を分離すれば、その肝幹細胞を患者本人に細胞移植することができ、この場合には、移植される細胞が患者自身のものであるから移植に対する拒絶反応は起きない。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
1. 材料と方法
マウス胎生肝細胞の調製
すべての実験にはC57/BL6, slcマウス(日本エスエルシー)を用いた。胎生12.5日の胎児マウス200個体と、胎生17.5日の胎児マウス50個体から、それぞれ肝臓を摘出し、コラゲナーゼ処理によって肝臓を消化し、細胞懸濁液を調製した。次に細胞懸濁液をハムスター抗dlkモノクローナル抗体(Kaneta, M. et al. (2000) J. Immunol. 164:256-264)、ビオチン化抗ハムスター抗体、ストレプトアビジンビーズと順次反応させ、autoMACSを用いて、肝幹細胞、および出生前胎児肝細胞を調製した。この方法によって調製したdlk陽性細胞の純度は、胎生12.5日の細胞で95 %以上、胎生17.5日の細胞で85 %以上であった。
ラットオーバル細胞誘導モデル
8週令のオスのF344ラットに2−アセチルアミノフルオレン(和光純薬工業)を1.5 mg/kg(体重)の投与量で一日一回、4日間経口投与し、70%部分肝切除術を施した。部分肝切除術を施した日をday 0とし、翌日から5日間2−アセチルアミノフルオレンを等量、経口投与した。Day 0, 4, 7, 9, 11, 13, 20に肝臓を採取し、遺伝子発現解析に用いた。対照として、未処置の肝臓を用いた。また、Day 7において、2ステップコラゲナーゼ消化法と低速遠心(500 rpm, 1 min)を組み合わせて、肝臓組織から実質細胞と非実質細胞をそれぞれ調製し、遺伝子発現解析(後述)に用いた。なお、肝臓組織から実質細胞と非実質細胞の調製は、具体的には次のようにして行った。ラットをネンブタール麻酔下開腹し、肝下部下大静脈を結紮した後、門脈にカテーテルを刺入し前潅流液(Ca2+, Mg2+ freeハンクス液)を流し始めると同じ20mL/分の流速で10分間潅流し、次いで0.05%コラゲナーゼ溶液(collagenase type IA、シグマ社)で、同様に10分間潅流し、肝臓を消化した。肝臓を50 ml遠沈管に回収し、前潅流液を加えて、良く懸濁した後、500 rpm, 1 minの遠心分離を行った。上清を非実質細胞画分、沈澱を実質細胞画分としてそれぞれ回収し、4-5回の洗浄の後、RNAの調整を行った。
DNAチップ解析
胎生12.5日と胎生17.5日のマウス肝臓からそれぞれ調製したdlk陽性細胞 (上記)から、常法により、Trizol試薬(商品名、ニッポンジーン社製)、Oligotex dT30 (商品名、第一化学薬品社製)を用いてmRNAを調製した。調製したmRNAは、Incyte Genomics社(米国)製のマウスGEM2マイクロアレーで、9514クローンが搭載されているDNAチップを用いてDNAチップ解析を行った。
遺伝子発現解析
採取した肝臓、あるいは細胞からTrizol試薬(ニッポンジーン)を用いてRNAを抽出した。ノーザンブロットによる遺伝子発現解析は、1レーンあたり10マイクログラムの全RNAを、ホルムアルデヒド変性ゲルにて電気泳動し、ナイロン膜に転写した後、DIGラベルしたcDNAプローブ(後述)を用いてハイブリダイズを行った。プローブの検出は、CDP-starを基質とした化学発光により行った。RT-PCR法による遺伝子発現解析は、抽出したRNAより、First-strand cDNA synthesis kit (商品名、Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いてcDNAを合成した後、PCRを用いてItm2Aの発現を解析した。PCRプライマーは、フォワードプライマーが5'-att tac cat ggt gag atg tg-3'、リバースプライマーが5'-aag tgt cta atc ttc cag ca-3'であり、これらのプライマーを用いて500bpのPCR産物を増幅した。また、このPCR産物を鋳型として、マウスItm2Aに対するDIGラベルcDNAプローブを作製した。ヒトItm2Aに対するDIGラベルcDNAプローブは、下記のヒト全長Itm2A cDNAを組み込んだpCRII ベクターから、EcoRI/HindIIIでバンドを切り出したものを鋳型として作製した。
マウスおよびヒトItm2A全長cDNAの単離と発現ベクターの構築
マウスItm2A (Genbank accetion No. NM_008409)、およびヒトItm2A (Genbank accetion No. XM_084285)の遺伝子配列情報より、PCRプライマーを設計した。方向性を維持した発現ベクターへの挿入の為、マウスに関しては、5' 端にEcoRI による制限酵素消化配列を付加したフォワードプライマーとXhoIによる制限酵素消化配列を付加したリバースプライマーを設計した。ヒトに関しては、ReverseプライマーのみHind IIIによる制限酵素消化配列を付加したものを設計した。マウスの場合は、胎生12.5日の肝臓より調製したcDNAを鋳型として、ヒトの場合は市販のヒト胎児より調製した全RNAから合成したcDNAを鋳型として、それぞれPCRによって、ほぼ全長をふくむItm2A cDNAを合成した(終了コドンの手前45bpまでの配列を含み、終了コドンをもたない)。プライマーの配列は、マウスが フォワード:5'-gga att cca gcc caa gat act gat tc-3', リバース:5'-ccg ctc gag cgg gtg tct aat ctt cca gca tt-3', ヒトがフォワード:5'-cga tct cct ctt gca gtc tgc-3'、リバース:5'-aag ctt ctc ttg aca gat ctt ggt c-3'であった。PCRによる増幅後、アガロースゲル電気泳動で展開した後、目的のバンドを切り出し抽出した後、マウスItm2A のPCR産物は、EcoRIとXhoIにて消化し、発現ベクター(pcDNA4/Myc-His: Invitrogen社製)のEcoRI/XhoI部位に挿入した。この発現ベクターにはC末端側に、MycタグとHisタグが付いているので、発現タンパク質は、Itm2AとMycタグ、His タグとの融合タンパクである。ヒトItm2AのPCR産物は、pCRII ベクター (Invitrogen)にT/A クローニングした。
培養細胞への遺伝子導入
マウスItm2A全長cDNAを組み込んだ発現ベクター(pcDNA4/Myc-His)は、リポフェクション法によって、マウス繊維芽細胞株NIH-3T3細胞に導入した。この操作は具体的には次のようにして行った。DNA 8μgとLIPOFECTAMINE PLUS reagent (Invitrogen社)16μLとを混和したものを500μLのOPTI-MEM培地に加え(A液)、室温で15分間放置した。ついで、LIPOFECTAMINE reagent (Invitorogen社) 24μLと500μLのOPTI-MEM培地を混和した溶液(B液)を作成し、A液とB液を混和して、室温で15分間放置した。次に、OPTI-MEM培地を4mL加えて全量5mLとした(C液)。前日に10 cm径の培養皿に播いておいたNIH-3T3細胞を1回OPTI-MEM培地で洗浄した後、C液を加えてCO2 インキュベーター内(37℃, 5% CO2, 95 % Air)で3時間培養し、5 mLのDMEM/20 % FBS培地を加え、更に培養を行った。翌日、DMEM/10 % FBS培地に交換した。遺伝子導入48時間後に、トリプシン処理によって、細胞を培養皿より剥がし、細胞懸濁液とし、FACSによる発現解析を行った(後述)。
FACS解析
マウスItm2A全長cDNAを組み込んだ発現ベクター(pcDNA4/Myc-His)を遺伝子導入したNIH3T3細胞の細胞懸濁液を抗Mycモノクローナル抗体、あるいは抗Hisモノクローナル抗体と反応させた(4℃、15分)。PBSで洗浄後、ビオチン化抗マウスIgGと反応させ(4℃、15分)、PBSで洗浄後、ストレプトアビジン-FITC , またはストレプトアビジン-APCと反応させた(4℃、15分)。Itm2Aの発現は、Mycタグ、あるいはHisタグの発現を指標にFACS Calibur (BECTON DICKINSON) で解析した。
抗Itm2Aポリクローナル抗体の作製
マウスItm2A cDNAの細胞内領域をPCRで増幅し、増幅産物をGST融合蛋白質発現ベクター(pGEX-5X-1: Amersham Pharmacia Biotech)のEcoRI/Sal I部位に挿入した。作製した発現ベクターを大腸菌に導入し、IPTG添加によって、GSTとItm2Aの融合蛋白質を誘導した後、グルタチオンカラムを用いて、アフィニテイー精製した。これを抗原としてウサギを免疫し、抗マウスItm2A抗体を作製した。Itm2Aの細胞内領域のクローニングに用いたPCRプライマーは、フォワード側が5'-gga att cca gcc caa gat act gat tc-3'、リバース側が5'-gtc gac ccc aga gag cca tct ttc t-3'であった。
免疫組織化学
クリオスタットを用いて、7 μmの凍結切片を作製し、4 %パラホルムアルデヒドで固定した。Itm2Aに対する免疫染色は、抗Itm2A抗体(ウサギIgG)、ビオチン化抗ウサギIgG を順次反応させ、DABを基質とした反応によって染色を行った。対比染色として、ヘマトキシリンによる核染色を行った。
ホールマウントin situ ハイブリダイゼーション
胎生10.5日と胎生11.5日のマウス胎児をまるごとDIGラベルしたItm2A RNAプローブを用いて、ハイブリダイズした。プローブの検出は、アルカリフォスファターゼ標識された抗DIG抗体と反応させた後、NBT/BCIPを基質とした化学発色により行った。
Itm2Aモノクローナル抗体の作製
Itm2Aタンパク質のC末端側領域をエピトープとするモノクローナル抗体を作製する為に、実施例1の「材料と方法」の「マウスおよびヒトItm2A全長cDNAの単離と発現ベクターの構築」の項に記載したマウスItm2A全長cDNAを組み込んだ発現ベクター(pcDNA4/Myc-His)を遺伝子導入したCOS-7細胞の細胞懸濁液を、免疫助成剤(完全フロイントアジュバント:和光純薬工業)と1:1で混合したエマルジョンを6週令のウイスターラット(メス)の両足蹠に1X10細胞ずつ注射し、免疫を行った。初回免疫から3日後、10日後にそれぞれ追加免疫を行い、最終免疫の翌日に、ラットをネンブタール麻酔下、両足のリンパ節を採取し、リンパ球を調整した。ついで、マウスのミエローマ細胞株(P3X)とポリエチレングリコール法で細胞融合を行った。96穴プレートでHAT(アミノプテリン、ヒポキサンチン、チミジン)を含むRMPI1640/10 % FBS培地でCO2インキュベーター内(37℃, 5% CO2, 95%空気)で培養を行った。
抗Itm2Aモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
培養開始から9日後以降、増殖しコロニーを形成してきた約150のハイブリドーマの培養上清について、マウスItm2A遺伝子を発現させたHEK293細胞(実施例1の「材料と方法」の「マウスおよびヒトItm2A全長cDNAの単離と発現ベクターの構築」の項に記載したマウスItm2A全長cDNAを組み込んだ発現ベクタ(pcDNA4/Myc-His)を、「培養細胞への遺伝子導入」に記載した方法でHEK293細胞に遺伝子導入した細胞懸濁液)を用いたFACS解析よりスクリーニングを行った。細胞懸濁液を培養上清と反応させた(4℃、15分)。PBSで洗浄後、ビオチン化抗ラットIgGと反応させ(4℃、15分)、PBSで洗浄後、ストレプトアビジン-PEと反応させ(4℃、15分)。FACS Calibur (BECTON DICKINSON) で解析した。FACSによるスクリーニングで陽性であった培養上清を、次いでマウス胎児肝細胞を用いた免疫染色によりスクリーニングを行った。この操作は具体的には次のようにして行なった。胎生12.5日の胎児マウスから上記「材料と方法」の「マウス胎生肝細胞の調製」の項に記載した方法で肝細胞を含む全ての細胞を調整した。細胞を1X10細胞の細胞数で集細胞遠心装置(サイトスピン3;SHANDON)を用いてスライドグラス上に塗沫した(室温、800rpm, 3分)。塗沫標本を4 %パラホルムアルデヒドで固定した後、1.5% 正常ヤギ血清を含むPBSで処理した(室温、30分)。次いで、上記培養上清、ビオチン化抗ラット抗体と順次反応させ、DABを基質とした反応によって染色を行った。対比染色として、ヘマトキシリンによる核染色を行った。その結果、Itm2Aを認識する2種類のハイブリドーマ細胞株を樹立した(クローン3A2, 8B1)。
磁気ビーズを用いた細胞分離
胎生13.5日の胎児マウスから上記「材料と方法」の「マウス胎生肝細胞の調製」の項に記載した方法で肝細胞を含む全ての細胞を調整した。細胞をFACS用細胞膜浸透化試薬(BECTON DICKINSON)で処理した(室温、5分)。遠心後(1000rpm、5分)、細胞を、上記した抗Itm2Aモノクローナル抗体を含む培養上清、ビオチン化抗ラット抗体、ストレプトアビジンビーズと順次反応させた(各反応条件は、それぞれ、4℃、15分)。次いで、autoMACSを用いて、Itm2A陽性細胞を分離した。この操作は具体的には次のようにして行なった。上記の一連の反応を終えた細胞懸濁液を遠心後(1000rpm, 5分)、3mLの0.5% BSAを含むフローサイトメトリー・シース液(BIOSURE)に懸濁した。細胞懸濁液をautoMACS(MILTENYI BIOTEC)にセットし、同装置の分離プログラムPOSSELD2を用いて、Itm2A陽性細胞をポジテイブセレクションによって分離した。
結果
1.cDNAチップ解析
上記の通り、dlk (delta-like)は、胎生肝細胞に高発現している細胞膜蛋白質であり、抗dlkモノクローナル抗体とMACS (Magnetic beads cell sorting)を組み合わせる事によって、胎児肝臓から、肝細胞のみを高純度で回収する事ができる(特許文献1)。胎生12.5日の胎生肝臓のdlk発現細胞と胎生17.5日のdlk発現細胞の遺伝子発現比較をDNAチップ解析により行った。解析に使用したDNAチップは、Incyte Genomics (米国)製のマウスGEM2 マイクロアレーで、9514クローンが搭載されているDNA チップである。胎生12.5日の胎生肝細胞は(dlk発現細胞)、肝芽細胞と呼ばれ肝細胞と胆管上皮細胞へと両方向に分化しうる能力をもっている。この中に、更に自己複製能も併せ持つ肝幹細胞が含まれていると考えられる。一方、胎生17.5日の胎生肝細胞は出生直前であり、その大部分は肝細胞に運命決定されており、グルコース6フォスファターゼやチロシンアミノトランスフェラーゼといった肝臓特有の代謝酵素の遺伝子を発現し始める時期である。したがって、この両者の遺伝子発現を比較することによって、肝芽細胞特異的な遺伝子、ひいては肝幹細胞特異的な遺伝子や、発生に伴い発現が誘導される遺伝子を同定することが期待できる。解析の結果、全9514クローンの内、218 クローンが発現増強されており、133クローンが発現減少していた。肝幹細胞に特異的に発現している遺伝子を同定する事を目的に、発生にともない発現が減少した133クローンに着目した結果、減少率が大きく(2倍以上)、その一次構造上、2型膜蛋白質である事が予想されているIntegral membrane protein 2A (Itm2A: Genbank accetion No. NM_008409 )に着目した。
2.胎生肝臓におけるItm2Aの遺伝子発現解析
DNAチップ解析において、Itm2Aは胎生12.5日で高発現しており、胎生17.5日では発現強度が半分以下になるという結果であったので、実際にノーザンブロットで発生肝におけるItm2Aの発現を確認した。その結果、胎生12.5日の肝臓で高発現しており、その後、急速に発現が減弱し、胎生16.5 日では若干の発現が認められるものの、成体肝臓では発現は検出できなかった。胎生12.5日の肝臓は、造血器官として機能しており、多数の血球が混在している。Itm2Aが胎生肝細胞に発現しているのか、血球に発現しているのかを調べる為に、胎生12.5日の肝臓から、dlk陽性細胞と陰性細胞をautoMACSを用いて分画化して、それぞれの画分におけるItm2Aの発現をRT-PCRで調べたところ、Itm2Aはdlk陽性細胞に特異的であった。胎生肝臓において、dlkの発現は胎生肝細胞に特異的であり、血球には発現していないことから、Itm2Aも胎生肝細胞に特異的に発現している事が示唆された。更に発現の時期を遡る為に、胎生10.5日と11.5日の胎児のホールマウントin situハイブリダイゼーションを行った結果、両者の肝臓原基にその発現が認められた。マウスにおいては、胎生9.5日頃、肝臓原基が腸管の一部から形成されるが、Itm2Aはその直後からすでに発現している事がわかった。Itm2A遺伝子はマウスだけでなく、ヒトにおいても非常に高い相同性が保たれている(Genbank accetion No. XM_084285)。ヒトの胎児肝臓においても、マウスと同様に発現が認められるかを、市販のヒト胎児肝臓全RNAサンプル(TAKARA)を用いてノーザンブロットにより調べたところ、妊娠6週目から12週目の胎児肝臓においてItm2Aの発現が認められた。
3.マウス胎生肝臓における免疫組織化学
ノーザンブロットとRT-PCRによる遺伝子発現解析から、Itm2Aは胎生肝細胞に発現している事が示唆されたが、更に確認の為、作製した抗Itm2A抗体(ウサギIgG)を用いて、胎生12.5日の肝臓切片を免疫染色した。その結果、Itm2Aは胎生肝細胞に発現しているアルファフェトプロテインやdlkと同様に、胎生肝細胞で染まり、血球では染まらなかった。また、胎生肝臓をコラゲナーゼ処理して得られた細胞懸濁液のサイトスピン標本をもちいて、dlkとItm2Aの二重染色を行った結果、dlkとItm2Aの染色が完全に一致した。
4.FACS解析
Itm2Aは、その一次構造から、一回膜貫通型の2型膜蛋白質であると予想されているが、実際に細胞膜に出ている事を証明した論文はない。Itm2Aの細胞外領域に対するモノクローナル抗体を作製し、Itm2Aを発現している肝幹細胞を分離しようとする為には、まず、Itm2Aが本当に2型膜蛋白質であるということを確認する必要がある。2型膜蛋白質とは、N末端側が細胞内に存在し、C末端側が細胞外に出るタイプの膜蛋白質である。PCRによってクローニングしたマウスItm2A cDNA は、C末端にMyc タグとHis タグとの融合タンパク質となるように発現ベクター(pcDNA4/Myc-His: Invitrogen)にクローニングされているので、Itm2Aが構造上の予測通りに2型膜蛋白質であれば、細胞に発現させた時に、C末端側に付加されているMycタグ、His タグが細胞外に出てくるので、抗Myc抗体、抗His抗体によって、FACS解析が可能である。NIH3T3細胞にこのItm2A-Myc-His融合タンパク質を強制発現させ、抗Myc抗体と抗His抗体によってFACS解析したところ、抗Myc抗体で4.3 %, 抗His抗体で16.5 %の細胞が、シフトが見られた。すなわち、Itm2Aは確かに2型膜蛋白質であることが確認された。両者間での値の差は、実験ごとの遺伝子導入効率の差であると考えられる。
5. ラットオーバル細胞(成体肝臓における肝幹細胞)におけるItm2Aの遺伝子発現解析
肝臓は、非常に再生力の強い臓器であり、肝臓毒や部分肝切除によって、その一部を失っても速やかに再生が起こり、約1週間で元の肝重量に復元する。この場合の肝再生は、成熟肝細胞が増殖するが、2−アセチルアミノフルオレン(2-AAF)などの肝臓毒を前投与して成熟肝細胞の増殖能を抑制した状態で、70%部分肝切除術を施してやると、門脈周囲にオーバル細胞と呼ばれる小型の細胞が出現する。オーバル細胞は増殖能の高い細胞で、未熟肝細胞と胆管上皮細胞の両者の性質を併せ持つ事から、成体肝臓における肝幹細胞と考えられている。そこで、発生過程における胎児肝幹細胞に発現していることが示唆されたItm2Aが、オーバル細胞、すなわち肝再生過程において出現してくる成体肝臓における肝幹細胞でも発現しているかを検討した。通常の70%部分肝切除ではItm2Aの発現は、全く検出されなかったが、2-AAF投与と70%部分肝切除を組み合わせてオーバル細胞の出現を誘導した場合にのみ、Itm2Aの遺伝子発現が、部分肝切除4日後から誘導され、徐々に減弱しながら13日目まで発現が続き、20日後には消失した。この発現パターンは、オーバル細胞に出現時期、オーバル細胞マーカーであるアルファフェトプロテインの発現パターンと酷似しており、Itm2Aがオーバル細胞に発現していることが示唆された。
6. 抗Itm2Aモノクローナル抗体(クローン3A2)を用いた、胎児肝細胞のFACS解析
Itm2Aは、アミノ酸配列から2型膜タンパク質であることが推定され、「結果」の「4.FACS解析」の項で示した通り、マウスまたはヒトのItm2A遺伝子を外来性に動物細胞に遺伝子導入した場合、2型膜タンパク質として細胞表面に発現されることが実験的に確認された。作製した抗Itm2Aモノクローナル抗体を用いて、常法に従い、マウス胎生12.5日の肝臓細胞のFACS解析を行った結果、Itm2Aの発現を検出できなかった。Kirchnerらは、2種類のT細胞由来細胞株において、Itm2Aは通常、細胞表面にも発現しているものの、大部分は細胞内オルガネラの膜に発現しており、T細胞活性化にともない細胞表面に移行するということを報告している(非特許文献3)。そこで、胎児肝臓細胞を細胞膜浸透化試薬(BECTON DICKINSON)で処理したのち、抗Itm2Aモノクローナル抗体、ビオチン化抗ラットIgG, ストレプトアビジンPEと順次反応させ、FACSしたところ, 約19%の細胞がItm2Aを強く発現していることが確認できた。この結果は、胎児肝臓細胞において、通常Itm2Aは細胞内オルガネラに局在していることを示唆している。そこで、以下の実験では、細胞を細胞膜浸透化試薬で処理した後、FACSまた磁気ビーズによる細胞分離を行った。
7. FACS解析によるItm2Aとdlkの発現比較
dlk (delta-like)は、胎生肝細胞に高発現している細胞膜蛋白質であり、抗dlkモノクローナル抗体とMACS (Magnetic beads cell sorting)を組み合わせる事によって、胎児肝臓から肝細胞のみを高純度で回収する事ができる(特許文献1)。肝臓における遺伝子発現のパターンから、Itm2A遺伝子は、dlk遺伝子よりも早く発現消失する為、より未熟な細胞マーカーである可能性が高い。FACSにより、抗dlkモノクローナル抗体と抗Itm2Aモノクローナル抗体で2次元解析を行ったところ、胎生12.5日と13.5日の肝臓では、dlk陽性細胞のうち、それぞれ94 %と89 %がItm2A陽性であった。一方、肝臓の発生が進んだ胎生15.5日の肝臓では、dlk陽性細胞のうち45 %がItm2A陽性であった。この結果は、Itm2Aがより未熟な肝幹細胞に発現しているマーカーである事を示している。
8. Itm2Aモノクローナル抗体(クローン3A2)と磁気ビーズを用いた肝幹細胞分離
マウス胎生13.5日の肝臓細胞(4.2X107細胞)を上記のとおり、AutoMACSを用いてItm2A陽性細胞とItm2A陰性細胞とに分離した結果、Itm2A陽性細胞(1.3 X106細胞; 分離後の11 %)とItm2A陰性細胞(1.21 X107細胞; 分離後89 %)とに分離できた。分離後のそれぞれの細胞画分のサイトスピン標本を作製し、肝細胞マーカーであるアルブミンとdlkで二重染色した結果、Itm2A陽性細胞の93 %がアルブミン/dlk陽性の肝細胞であり、一方、Itm2A陰性細胞の89 %がアルブミン/dlk陰性の血球系の細胞であった。
考察
2型膜蛋白質であるItm2Aは、元々未熟な軟骨・骨の前駆細胞に発現している分子として同定されたが、肝臓における発現は全く知られていなかった(Deleersnijder, W. et al (1996) Journal of Biological Chemistry 271 (32): 19475-82)。今回、胎生12.5日と胎生17.5 日の胎生肝細胞での遺伝子発現比較により、胎生10.5日から12.5日の胎生肝細胞に高発現していることを明らかにした。この時期の肝細胞は肝芽細胞とよばれ、肝細胞と胆管上皮細胞の両者に分化しうる能力をもっている。さらに、この肝芽細胞の中に自己複製能もあわせもつ肝幹細胞が含まれていると考えられる。また、成体の肝臓においても、ある種の病的な状態(重篤な肝臓疾患)で、成熟肝細胞の分裂、増殖能が抑制されている状態では、オーバル細胞という肝幹細胞が出現してくる。このオーバル細胞の起源については、不明な点が多いが、骨髄由来であることを示唆する報告が複数だされている。すなわち、骨髄細胞の肝細胞への分化転換によって生じる事が示唆されている。Itm2Aは通常の肝再生過程では、全く発現誘導されず、オーバル細胞が出現してくる肝再生モデルにおいて、その出現時期と合わせて発現が誘導された。この結果は、Itm2Aが発生過程における胎児肝幹細胞のみならず、骨髄由来ともいわれる成体肝臓における肝幹細胞にも発現している新規の細胞表面抗原であることが分かった。以上の結果から、Itm2Aは、発生過程の肝幹細胞、成体における肝幹細胞、骨髄やES 細胞からの分化転換によって生じる肝幹細胞における良いマーカーであり、Itm2Aの遺伝子やタンパク質の発現を指標に、肝幹細胞を同定し、高純度で分離回収することが可能となる。このようにして分離した肝幹細胞は、臓器移植に替わる次世代の再生医療として期待がかかる肝細胞移植や、ハイブリッド型人工肝臓、in vitroにおける薬物代謝実験等に使用することが可能である。

Claims (9)

  1. Itm2Aタンパク又はこれをコードするmRNAを指標として、生体外に分離された試料中の肝幹細胞の検出又は分離を行う、肝幹細胞の検出又は分離方法。
  2. Itm2Aタンパクの細胞外領域と抗原抗体反応するモノクローナル抗体を細胞と反応させ、細胞表面上に結合された該モノクローナル抗体を指標とする請求項1記載の方法。
  3. 細胞中のItm2AタンパクのmRNAの存在又は生産量を指標とする請求項1記載の方法。
  4. 胎児肝臓中の細胞集団に含まれる肝幹細胞を検出又は分離する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 再生中の成体肝臓中の細胞集団に含まれる肝幹細胞を検出又は分離する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記再生中の成体肝臓は、肝臓毒を投与し、かつ、肝臓の一部を切除した成体の肝臓である請求項5記載の方法。
  7. 肝臓以外の組織又は胚性幹細胞中の細胞集団に含まれる肝幹細胞を検出又は分離する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記Itm2Aは、ヒトItm2Aである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 細胞集団の中から肝幹細胞を分離する方法である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
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