本発明は、車両に装備されるサスペンション装置に関し、詳しくは、ねじ機構とアクチュエータとを有する減衰力発生装置を備えたサスペンション装置に関する。
車両用サスペンション装置には、いわゆるショックアブソーバと呼ばれる減衰力発生装置が装備されている。この減衰力発生装置は、一般に、車体の一部と車輪との各々に設けられた車体側部材と車輪側部材とを備え、車体の一部と車輪との接近・離間に伴うそれら2つの部材の相対移動に対する抵抗を発生させることによって、その抵抗に依拠した減衰力を発生させるような構造とされている。近年では、上記車体側部材と車輪側部材とをねじ機構を含む構成とし、そのねじ機構にアクチュエータの駆動力を付与することによって、車体側部材と車輪側部材との相対移動に対する抵抗を発生させる構造の減衰力発生装置が検討されている。そのような減衰力発生装置が装備されたサスペンション装置として、例えば、下記特許文献に記載されたようなものが存在する。
特開2003−343648号公報
特開2001−180244号公報
特開平8−197931号公報
減衰力発生装置は、車体の一部と車輪との接近・離間に対する減衰力を発生させるものであり、上記接近・離間の範囲において作動する必要があることから、車体側部材と車輪側部材との相対移動のストローク、つまり、作動ストロークは、ある程度の長さが必要となる。上記特許文献に記載されているサスペンション装置では、車体の一部に設けられた支持部に車体側部材の上端部が支持され、車輪を保持するサスペンションロアアーム等の車輪保持部材に車輪側部材が連結される構造となっており、上記作動ストロークを確保する必要から、支持部と車輪保持部材との間隔がある程度大きくされている。支持部と車輪保持部材との間隔を大きくせざるを得ない構造のサスペンション装置は、車両設計という観点からすれば、制約の大きな装置となる。
また、車体側部材を支持する支持部は車体の一部に設けられ、その支持部の上方は、ボンネット等のフードによって覆われる。例えば、歩行者等に車両が接触し、その接触に起因して歩行者等がフードの上方からそのフードに当接することが考えられる。その当接に対する緩衝効果という観点からすれば、支持部とフードとの間隔を大きくすることが望ましい。したがって、そのような観点においても、支持部と車輪保持部材との間隔を大きくしなければならない構造のサスペンション装置は不利なものとなる。
さらに、上記緩衝効果という観点からすれば、上記支持部から上方に突出する物が存在する場合、その物は、緩衝効果を阻害する要因となる。上記特許文献に記載されているサスペンション装置は、減衰力発生装置を構成するアクチュエータであるモータや、あるいは、そのモータに関係する機能部品が、支持部から上方に突出する状態で固定的に配置されているため、緩衝効果という観点において、決して充分であるとはいい難い。
上述した問題は、上記構造の減衰力発生装置を備えた従来のサスペンション装置が抱える問題の一部に過ぎないが、従来のサスペンション装置には、そのような問題に対処することを始めとして、改善の余地が十分に残されており、種々の改善を施すことによって、種々の観点における実用性を向上させることが可能であると考える。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、上記構造の車両用サスペンション装置、つまり、ねじ機構とアクチュエータとを有する減衰力発生装置が装備されたサスペンション装置において、それの実用性を向上させることを課題とする。
本発明の第1の車両用サスペンション装置は、上記課題を解決するために、所定の構造の減衰力発生装置が装備されたサスペンション装置、つまり、(a)雄ねじが形成された車輪側部材としてのロッドと(b)その雄ねじと螺合する車体側部材としての雌ねじ部材とを含んで構成されるねじ機構と、それらロッドと雌ねじ部材とに相対回転トルクを付与するアクチュエータとを備えて、車輪と車体の一部との接近・離間に対する減衰力を発生させる構造の減衰力発生装置が装備されたサスペンション装置であって、車輪と車体の一部とが接近している状態において、上記ロッドの上端部が、車体の一部に設けられて雌ねじ部材を支持する支持部から上方に突出するように構成され、アクチュエータの作動制御を実行する制御装置が、ロッドの上端部の支持部からの上方への突出を許容しつつアクチュエータを作動させる制御である突出許容制御と、ロッドの上端部の支持部からの上方への突出を禁止するアクチュエータの作動制御である突出禁止制御とを選択的に実行するように構成されたことを特徴とする。
また、本発明の第2の車両用サスペンション装置は、ロッドに対して係合可能な位置と係合不能な位置とに変位させられる係合部材を有してその係合部材がロッドに係合する状態においてロッドの上端部の支持部からの上方への突出を制限するロッド突出制限機構を備えたことを特徴とする。
本発明の車両用サスペンション装置によれば、減衰力発生装置の車輪側部材としての上記ロッドの上端部が、車体側部材である雌ねじ部材を支持する上記支持部より上方に突出可能とされていることで、減衰力発生装置の作動ストロークを充分に確保しつつ、支持部が設けられた車体の一部とロッドが連結される車輪保持部材との間隔を小さくすることが可能である。また、ロッドの上端部の支持部からの突出が回避できるため、例えば、上述したフードへの当接に対する緩衝を阻害する要因を排除でき、緩衝効果を高めることが可能である。したがって、本発明のサスペンション装置は、そのような種々の利点を有することで、実用性の高いサスペンション装置となる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。本願発明を含む概念である。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項と(5)項とを合わせたものが請求項1に相当し、(6)項が請求項2に、(7)項が請求項3に、(8)項と(9)項とを合わせたものが請求項4に、それぞれ相当する。また、(1)項と(18)項とを合わせたものが請求項5に相当し、(19)項が請求項6に相当する。さらに、(11)項ないし(13)項を合わせたものが請求項7に、(11)項と(12)項と(14)項とを合わせたものが請求項8に、(15)項と(16)項とを合わせたものが請求項9に、(3)項と(4)項とを合わせたものが請求項10に、それぞれ相当する。
(1)(a)雄ねじが形成された雄ねじ部を有し、下端部において車輪を保持する車輪保持部材に連結されたロッドと、(b)前記雄ねじ部と螺合し、車輪の上方に位置する車体の一部に設けられた支持部に支持された雌ねじ部材とを含んで構成され、それらロッドと雌ねじ部材とが車輪と車体の一部との接近・離間に伴って相対回転しつつ軸方向に相対移動するように構成されたねじ機構と、
前記ロッドと前記雌ねじ部材とに相対回転トルクを加えて、それらの軸方向の相対移動に対する抵抗を付与するアクチュエータと
を備えて車輪と車体の一部との接近・離間に対する減衰力を発生させる減衰力発生装置を含んで構成されたサスペンション装置であって、
車輪と車体の一部とが接近している状態において前記ロッドの上端部が前記支持部から上方に突出するようにされたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
本項に記載のサスペンション装置は、それが備える減衰力発生装置の構造に特徴を有する。前述の特許文献に記載された従来のサスペンション装置と異なり、車輪側部材として雄ねじが形成された雄ねじ部を有するロッドを採用し、車体側部材としてその雄ねじ部と螺合する雌ねじ部材を採用する。雌ねじ部材は車体の一部に設けられた支持部に支持されており、車輪と車体の一部とが接近・離間する場合、ロッドが車体に対して上下に動作することになる。このような構造であるが故、車輪と車体の一部とが接近する状態では、ロッドの上端部を支持部より上方に突出させることが可能となるのである。そして、車輪と車体の一部との接近状態においてロッドの上端部を支持部より上方に突出するように減衰力発生装置を配備すれば、減衰力発生装置の作動ストロークを長く確保しつつ、支持部が設けられている車体の一部と、ロッドが連結されている車輪保持部材との間隔を小さくすることが可能である。したがって、本項に記載のサスペンション装置によれば、車両設計における自由度が向上することになり、実用的な車両用サスペンション装置が実現する。
また、本項に記載のサスペンション装置によれば、支持部を車体の比較的低い位置に設けることが可能であり、例えば、支持部の上方がボンネット等のフードによって覆われるような場合、そのフードと支持部との間隔を大きくとることが可能となる。したがって、車両と歩行者等との接触に起因して歩行者等がフードに上方から当接するような場合、その当接に対する緩衝効果を高めることが可能となる。特に、その当接時に、ロッドの上端部の支持部からの突出量が少ない状態、あるいは、ロッドの上端部が支持部から突出しない状態となるように構成すれば、ロッドの上端部が上記緩衝を阻害することを回避することができ、その緩衝効果は優れたものとなる。本項に記載のサスペンション装置によれば、その点において、実用的な車両用サスペンション装置が実現する。
本項に記載の態様において、「ロッド」は、減衰力発生装置の車輪側部材として機能するものであり、例えば、下端部が、直接、あるいは、上記アクチュエータ等の機能部品を介して、サスペンションロアアーム等の車輪保持部材に、その車輪保持部材に対して連結されるような態様のものとすることができる。また、「雌ねじ部材」は、減衰力発生装置の車体側部材として機能するものであり、例えば、タイヤハウジングの上部を支持部として、上下方向の移動が制限された状態で支持されるような態様のものとすることができる。雌ねじ部材は、支持部に直接支持されてもよく、また、何らかの支持部材等を介して支持されてもよい。雌ねじ部材の支持部からの突出を回避するためには、支持部の下部あるいは下方において、支持部に支持されることが望ましい。
ロッドと雌ねじ部材とを含んで構成される「ねじ機構」は、その具体的な構成が特に限定されるものではないが、ロッドと雌ねじ部材との軸方向(特に断わりのない限り、ロッドの軸方向を意味する)の相対移動の円滑性に鑑みれば、ボールねじ機構とすることが望ましい。また、ロッドと車輪保持部材とがロッドの軸線回りに相対回転不能に連結され、雌ねじ部材が支持部に対して回転可能に支持されるような態様であってもよく、また逆に、ロッドと車輪保持部材とがロッドの軸線回りに相対回転可能に連結され、雌ねじ部材が支持部に対して回転不能に支持されるような態様であってもよい。
「アクチュエータ」は、ロッドと雌ねじ部材との軸線方向の相対移動に対する抵抗を発生させるための駆動源として、つまり、当該減衰力発生装置の駆動源として機能するものであり、種々の駆動源装置を採用することができる。具体的には、後に説明する電動モータを始め、油圧モータ,空気圧モータ等の各種のモータを採用することが可能である。アクチュエータは「ロッドと雌ねじ部材とに相対回転トルクを加える」ものであるが、その態様は、ロッドが車輪保持部材に対して回転可能とされている場合において、そのロッドに回転トルクを加えるような態様のものであってもよく、雌ねじ部材が支持部に対して回転可能とされている場合にその雌ねじ部材に回転トルクを加えるような態様のものであってもよい。また、本項における減衰力発生装置は、アクチュエータが直接的に雄ねじ部と雌ねじ部とに相対回転トルクを加えるように構成されてもよく、減速機構等の何らかの機構,装置等を介して、間接的に相対回転トルクを加えるように構成されてもよい。
(2)前記アクチュエータが、そのアクチュエータが前記支持部より上方に突出しない状態とされた位置に配置された(1)項に記載の車両用サスペンション装置。
先に説明したように、支持部がフードに覆われるような車両の場合、フードへの当接に対する衝撃緩和に鑑みれば、支持部から突出して設けられた物が存在しないことが望ましい。本項に記載の態様では、アクチュエータが支持部から突出しないように構成されており、また、アクチュエータに付帯する機能部品をも支持部から突出させないように構成することが可能であり、アクチュエータ等が上記緩衝を阻害する要因とならないため、本項の態様によれば、衝撃緩和の観点において優れたサスペンション装置が実現する。
(3)前記アクチュエータが電動モータである(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、いわゆる電磁式サスペンション装置としての態様である。電動モータは、作動制御の制御性が良好であるため、アクチュエータとして電動モータを用いれば減衰力のアクティブな調整が容易に可能となる。したがって、本項に記載のサスペンション装置を採用すれば、車両の乗り心地、車体姿勢の安定性、車両の走行安定性の良好な車両が実現する。
(4)前記電動モータが前記車輪保持部材に連結され、前記ロッドが、その電動モータの出力軸を延長する状態で設けられることで、前記車輪保持部材に連結されるとともにその電動モータによって回転させられるように構成された(3)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、上記いわゆる電磁式サスペンション装置としての態様においてモータの配設位置を限定した態様である。本項の態様のように、モータをロッドの下端部に配置して、ロッドを回転させるようにすれば、単純な構成のサスペンション装置が実現する。また、そのモータは、雌ねじ部材が支持される上記支持部を突出することがなく、前述したように、モータがフードへの当接に対する緩衝を阻害する要因とならないため、本項の態様によれば、衝撃緩和の観点において優れたサスペンション装置が実現する。
(5)当該サスペンション装置が、前記アクチュエータの作動制御を実行する制御装置を備え、その制御装置が、前記ロッドの上端部の前記支持部からの上方への突出を許容しつつ前記アクチュエータを作動させる制御である突出許容制御と、前記ロッドの上端部の前記支持部からの上方への突出を禁止する前記アクチュエータの作動制御である突出禁止制御とを選択的に実行するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、平たく言えば、減衰力発生装置が制御装置によって制御される一態様である。「制御装置」は、例えば、コンピュータを主体とするような構成のものとすることが可能である。その制御装置が実行する「突出許容制御」では、ロッドと雌ねじ部材との軸方向の相対移動の範囲、つまり、減衰力発生装置の作動ストロークを長く取れるという利点があり、また、「突出禁止制御」では、ロッドの上端部の支持部からの突出が回避できるため、例えば、上述したフードへの当接に対する緩衝を阻害する要因を排除でき、緩衝効果を高めることができるという利点を有する。したがって、それら2つの制御を選択的に実行できる本項の態様のサスペンション装置は、上記2つの利点を選択的に享受できる実用的なサスペンション装置となる。具体的には、通常時には、突出許容制御を実行し、歩行者等がフードに上方から当接する場合、あるいは、その虞がある場合に、突出禁止制御を実行させることが可能である。
(6)前記突出禁止制御が、前記ロッドの上端部が前記支持部から上方に突出している場合に、前記ロッドの上端部を前記支持部から突出しない位置に退避させるように前記アクチュエータを作動させる退避制御を含むように構成された(5)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、上記突出禁止制御を、具体的に限定した態様である。本項における「退避制御」は、例えば、ロッドの上端部が支持部から上方に突出しない状態となるロッドと雌ねじ部材との相対位置を任意に設定し、アクチュエータによって、ロッドと雌ねじ部材とを上記設定した相対位置まで相対移動させるような制御とすることができる。この退避制御は、先に説明したように、歩行者等がフードに上方から当接する場合、あるいは、その虞がある場合において好適な制御となる。
(7)前記突出禁止制御が、前記ロッドの上端部が前記支持部から突出しない範囲内において前記アクチュエータを作動させる制御である非突出範囲内制御を含むように構成された(5)項または(6)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、上記突出禁止制御を、具体的に限定した態様である。本項における「非突出範囲内制御」は、例えば、ロッドの上端部が支持部から上方に突出しない状態となるロッドと雄ねじ部材との相対位置を任意に設定し、その相対位置を限界位置とする範囲を減衰力発生装置の作動ストローク範囲として、その作動ストローク範囲をはみ出すことのないように、アクチュエータを作動させる制御とすることができる。この「非突出範囲内制御」を実行すれば、作動ストロークが短くなるものの、ロッドの上端部が支持部から上方に突出しない範囲において、十分に減衰力を発揮させることができ、前述の緩衝の阻害となる要因を排除しつつ、車両の乗り心地等を良好なものとすることが可能である。なお、この非突出範囲内制御は、先に説明したように、歩行者等がフードに上方から当接する場合、あるいは、その虞がある場合において好適な制御となる。
(8)前記制御装置が、車両の衝突が検知された場合に前記突出禁止制御を実行するように構成された(5)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様によれば、例えば、車両が歩行者等に接触した時点で突出禁止制御が実行可能となるため、そのようにすれば、その接触に起因して歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、その当接による衝撃の緩和効果を確実なものとすることが可能である。車両の衝突は、例えば、バンパ等への接触を検知するようなセンサ、車両の減速度を検知するようなセンサ等によって検知することが可能である。
(9)前記制御装置が、車両の衝突が予測された場合に前記突出禁止制御を実行するように構成された(5)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様によれば、例えば、車両が歩行者等に接触する可能性の高い段階で突出禁止制御が実行可能となるため、そのようにすれば、その接触に起因して歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、その当接による衝撃の緩和効果を確実なものとすることが可能である。車両の衝突の予測は、例えば、カメラ等によって認識された画像に基づいて行われるようなものであってもよく、また、レーダ,距離センサ等から得られる接触対象との距離の変化等に基づいて行われるようなものであってもよい。
(10)当該サスペンション装置が、前記支持部が前記ロッドの上端部が挿通可能な開口を有する車両に装備され、前記ロッドの上端部が前記開口を挿通して前記支持部から上方に突出するように構成された(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、ロッドの上端部を支持部から上方に突出させるための具体的手段を限定した態様である。本項の態様は、一般的な車両に広く適用可能な態様である。
(11)当該サスペンション装置が、前記雌ねじ部材を内周部において保持するとともに前記支持部に支持された概して筒状のハウジングを備えた(1)項ないし(10)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、平たく言えば、減衰力発生装置の車体側部材をシリンダ形状のものとした態様である。本項に記載の態様によれば、一般的な車両において配備されるショックアブソーバに近い形状の減衰力発生装置となる。上記ハウジングにより、雌ねじ部材より上方に位置するロッドの部分に対する保護効果が得られる。
(12)前記ハウジングが、前記支持部から上方に突出する突出部を有する(11)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様によれば、ロッドが支持部から上方に突出した状態においても、ロッドを効果的に保護することが可能となる。なお、突出部は、ハウジングの支持部より下方に位置する部分と一体的に形成されたものであってもよく、また、その下方に位置する部分とは別体をなすものであってもよい。後者の場合、突出部は、上記支持部の下方に位置する部分に装着,組付等され、その部分を介して間接的に支持部に支持されるものであってもよく、また、直接的に支持部に支持されて、上記支持部の下方に位置する部分を支持するものであってもよい。さらには、上記支持部の下方に位置する部分の支持部における支持とは別に、単独で支持部に支持されるようなものであってもよい。
(13)前記突出部が、上端部が閉塞された形状をなす(12)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様によれば、支持部の上方からのダスト等に対する防塵効果の高いサスペンション装置が得られることになる。
(14)前記ハウジングが、前記突出部に上方から加わる衝撃を吸収するように構成された(12)項または(13)項に記載の車両用サスペンション装置。
先に説明したように、支持部から上方に突出する物は、フードに加わる衝撃の緩和を阻害する要因となる。本項に記載の態様によれば、ハウジングが上記突出部を有するものである場合であっても、上記衝撃緩和効果を高く維持できることになる。衝撃吸収のための具体的な機能は、その構成が特に限定されるものではない。例えば、突出部を変形,破損等が可能な部材によって形成し、その変形,破損等に対する抵抗を利用して衝撃吸収可能に構成することが可能であり、また、突出部を支持部より下方に位置する部分に対して下方移動可能とし、その移動に対する抵抗を付与する手段を設けることで衝撃吸収可能に構成することが可能である。
(15)当該サスペンション装置が、前記支持部の上方にその支持部から離間した位置に配設されたフードを備える車両に搭載されるものであり、そのフードと前記支持部が設けられた車体の一部との間に配設されてフードに加わる衝撃を吸収するための衝撃吸収部材を備えた(1)項ないし(14)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、平たく言えば、支持部とフードとの間の空間に衝撃吸収部材(「緩衝部材」ということもできる)を設けた態様である。先に説明したように、ロッドを支持部より上方に突出可能とすることによって、支持部とフードとの間隔を大きくすることが可能である。そのため、本項に記載の態様によれば、上記衝撃吸収部材による衝撃吸収のためのストロークを長くすることが可能であり、フードに加わる衝撃をより効果的に吸収することが可能である。つまり、その衝撃が歩行者等がフードへの当接に起因するものである場合には、歩行者等が受ける衝撃をより効果的に緩和することが可能となる。
本項の態様において、「衝撃吸収部材」は、その具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、ゴム,ばね等の弾性部材を始めとして、ウレタン,スチレン等の樹脂発泡材等の一般的な緩衝材料を広く採用することが可能である。また、フードあるいは車体の一部との少なくとも一方に、フードの変形に伴って塑性変形可能なリブを設けたり、塑性変形可能な構造物等を付設したりすることによって、それらリブ,構造物等の塑性変形に要する荷重を利用して、衝撃を吸収することも可能である。その場合、それらリブ,構造物が、衝撃吸収部材となる。なお、ハウジングの突出部が変形,破損等可能とされた前述の態様は、本項に記載の態様の一態様と考えることもでき、その態様では、ハウジングの突出部自体が衝撃吸収部材となる。
(16)前記衝撃吸収部材が、前記ロッドの上端部が前記支持部から上方に突出する場合においてそのロッドの上端部の突出を阻害しない構造とされた(15)項に記載の車両用サスペンション装置。
ロッドの上端部が支持部から上方に突出する場合、上記衝撃吸収部材の構成によっては、その突出を阻害することも考えられる。本項に記載の態様によれば、ロッドの上端部の突出が阻害されず、減衰力発生装置の作動ストロークを充分な状態で確保することが可能となる。上記「突出を阻害しない構造」は、その具体的な態様が特に限定されるものではなく、例えば、衝撃吸収部材にロッドの上端部が挿通可能な穴,あるいは欠損部を設けるような態様とすることが可能である。
(17)前記衝撃吸収部材が、前記支持部を覆う状態で配設された(15)項または(16)項に記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様によれば、支持部の上方からのダスト等に対する防塵効果の高いサスペンション装置が得られることになる。
(18)当該サスペンション装置が、
前記ロッドに対して係合可能な位置と係合不能な位置とに変位させられる係合部材を有し、その係合部材が前記ロッドに係合する状態において前記ロッドの上端部の前記支持部からの上方への突出を制限するロッド突出制限機構を備えた(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
本項に記載の態様は、平たく言えば、ロッドの上端部の支持部から上方への突出を制限するための機械的手段を設けた態様である。そのような機械的手段を設ければ、ロッドの上端部の突出をより確実に防止可能となる。「ロッド突出制限機構」は、その具体的構成が特に限定されるものではない。例えば、支持部の下部あるいは下方に、ロッド軸線と交差する方向に進退可能な係止部材(ストッパ板のようなものが含まれる)を係合部材として設け、それが進出した状態においてロッドの上端を係止するようにし、その係止状態においてロッドの上端部の上方への移動を禁止あるいは制限するような構成とすることが可能である。また、例えば、ロッド軸線と交差する方向に進退可能なガイド部材(傾斜面等を有する部材のようなものが含まれる)を係合部材として設け、それが進出した状態においてロッドの上端が当接するようにし、その当接状態においてロッドがさらに上方に移動する場合にロッドの上端部を軸方向と交差する方向に案内してロッドを変形させ、支持部が設けられた車体の一部にロッドの上端を係止させてロッドの突出を防止するような構成とすることが可能である。また、ロッドの一部を把持する把持部材を係合部材として設け、その把持部材がロッドを把持する状態において、その把持部材の把持力によってロッドの軸方向の移動を制限するような構成とすることも可能である。
本項に記載の態様は、例えば、ロッドと雌ねじ部材との相対位置が中立位置(車両が平地において静止状態にある場合の位置)となる場合にロッドの上端部が支持部より下方に位置するような構成の減衰力発生装置を備える態様においては、上記相対位置が上記中立位置あるいは中立位置付近にある場合にロッド突出制限機構を機能させれば、容易に、ロッドの上端部の突出を制限することが可能である。これに対し、例えば、ロッドと雌ねじ部材との相対位置が中立位置となる場合にロッドの上端部が支持部より上方に位置するような構成の減衰力発生装置を備える態様においては、中立位置にある場合にロッド突出制限機構を作動させてもロッドの上端部の突出を制限不能となることや、ロッド突出制限機構を作動させ得ないことも考えられる。その場合は、例えば、前述の制御装置によって突出禁止制御を実行し、ロッドの上端部が支持部から突出しない相対位置にまでロッドを下方へ移動させ、その後に上記ロッド突出制限機構を作動させることも可能である。
(19)前記ロッド突出制限機構が、前記アクチュエータの失陥時に前記係合部材が前記ロッドに係合可能な位置に変位するように構成された(18)項に記載の車両用サスペンション装置,
アクチュエータが失陥した場合、減衰力発生装置は適切な減衰力を発生し得ない状態となる。その状態では、容易に、ロッドの上端部が支持部から上方へ突出する状態となる。また、アクチュエータが失陥した場合、そのアクチュエータの駆動力によって、ロッドの上端部が支持部から突出しないような状態とすることは困難である。本項に記載の態様によれば、そのような場合においても、ロッド突出制限機構によってロッドの突出を制限できるため、例えば、前述したフードへの衝撃を緩和する効果を充分な状態に維持できることとなる。
以下、本発明のいくつかの実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<第1実施例>
図1に、本発明の一実施例である車両用サスペンション装置10を示す。この車両用サスペンション装置10は、減衰力発生装置12とサスペンションスプリングとしてのコイルスプリング14とを含んで構成されるものである。減衰力発生装置12は、車輪を保持する車輪保持部材としてのサスペンションロアアーム(以下、単に「ロアアーム」と略す場合がある)16と、車輪の上方に位置する車体の一部(タイヤハウジングの上部)に設けられたマウント部18とに連結され、スプリング14の伸縮によって生じた車体の振動を減衰させるものである。
減衰力発生装置12は、主に、雄ねじが螺設された雄ねじ部を有するロッド20と、そのロッド20と螺合する雌ねじ部材としてのナット22(ベアリングボールを保持している)と、アクチュエータとしてのモータ24(電動モータである)とを含んで構成されている。モータ24は、モータケース26に固定して収容された状態でロアアーム16に連結され、そのモータ24の出力軸であるモータ軸28は、それの端部がロッド20の下端部と一体的に接続されている。つまり、ロッド20は、モータ軸28を延長する状態で設けられることでロアアーム16に連結されるとともに、モータ24によって回転させられるように構成されている。ナット22は、上方に向かって拡がる筒状のハウジングとしてのナット保持部材30の底部内壁面に上下方向に移動不能に固定され、そのナット保持部材30が支持部材としてのアッパサポート32を介してマウント部18に支持されている。詳しく言えば、アッパサポート32は、マウント部18の下部に固着される環状の防振ゴム34を含んで構成されるものであり、上記ナット保持部材30は、防振ゴム34の中央の穴に固着されている。以上のような構成から、この減衰力発生装置12においては、ロッド20が車輪側部材として、ナット22が車体側部材として機能するものとされるとともに、ロッド20およびナット22によって構成されるボールねじ機構を含んだ構造となっており、また、アッパサポート32およびナット保持部材30を介してナット22を支持するマウント部18が、雌ねじ部材を支持する支持部とされているのである。
モータケース26とナット保持部材30との間には、ロッド20を覆う蛇腹状のブーツ40が、両端部の各々がモータケース26とナット保持部材30の各々に接続される状態で設けられており、そのブーツ40によって、外部からの土砂,水等のロッド20への付着等を阻止するようにされている。また、コイルスプリング14は、アッパサポート32の外周部に付設された環状の上部リテーナ42と、モータケース26の外周部に固定して設けられた下部リテーナ44とによって、それらに挟まれる状態で支持されている。
上記のような構造により、車輪と車体の一部とが相対移動する場合には、ロッド20のナット22に対する回転を伴いつつ(モータ軸28も回転する)、ロッド20とナット22とは、軸方向への相対移動が可能とされている。モータ24を駆動させてロッド20に回転トルクを付与することによって、ロッド20とナット22とに相対回転トルクを付与することが可能であり、この相対回転トルクの向きおよび大きさを適切化することによって、ロッド20とナット22との相対移動に対して、その相対移動を阻止する方向の適切な抵抗力を発生させることが可能である。この抵抗が、車輪と車体の一部との相対移動に対する減衰力となるのである。このような減衰力発生装置12の減衰力発生機能は受動的な機能と考えることができるが、本減衰力発生装置12は、能動的に機能させることも可能である。つまり、モータ24を回転させることによって、積極的にロッド20とナット22とを相対移動させて、車体の姿勢を安定化させるような機能,車高を調節するような機能を発揮させることも可能なのである。それらについての詳しい説明は省略する。ちなみに、このような減衰力発生装置12が配備された本実施例のサスペンション装置10は、電磁式サスペンション装置と呼ぶことができる。
本実施例の車両用サスペンション装置10においては、マウント部18は、それから上方に離間した位置に設けられたボンネット50(フードの一種である)によって覆われている。また、ボンネット50の下部にはリブ52が付設されており、このリブ52は、ボンネット50とマウント部18が設けられている車体の一部との間に配設される状態となっている。このリブ52は、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット50に上方から当接する場合等において、ボンネット50の変形とともに変形し、歩行者が受ける衝撃を緩和する緩衝材として機能するものとなっている。
本実施例の車両用サスペンション装置10は、図に示す位置が車体が静止状態にある中立位置であり、車輪と車体の一部とが接近する状態において、ロッド20の上端部が、マウント部18に設けられた開口54を挿通して、上方に突出するような構造とされている。ちなみに、上記リブ52には、ロッド20が挿通可能な開口部56が設けられており、ロッド20の上端部がマウント部18から上方に突出する場合において、その突出を阻害しない構造とされている。そのため、減衰力発生装置12の作動ストロークを長く確保しつつ、車体の一部とロアアーム16との間隔を小さくすることができ、また、マウント部18が設けられた車体の一部を比較的低い位置とすることが可能となっている。つまり、本サスペンション装置10を備える車両は、マウント部18とボンネット50との間隔を大きくとることが可能となり、上記歩行者等が受ける衝撃の緩和効果が高いものとなっているのである。上記衝撃のより効果的な緩和という観点からすれば、ロッド20の上端部のマウント部18から上方へ突出しないことが望ましい。そこで、本サスペンション装置10では、後に詳しく説明するが、通常時においては、ロッド20の上端部の突出を許容しつつモータ24を作動させ、車両の衝突が検知された場合や、車両の衝突が予測された場合に、ロッド20の上端部の突出を禁止するように、モータ24の作動が制御される。
また、本実施例の車両用サスペンション装置10には、機械的に上記ロッド20の突出を制限するためのロッド突出制限機構60も設けられている。ロッド突出制限機構60は、係止部材(係合部材の一種である)としてのストッパ板62と、アクチュエータとしてのソレノイド64とを含んで構成されている。ソレノイド64は、それが有するピン66の先端がマウント部18の下方においてロッド20に向けられた姿勢でマウント部18に固定されており、励磁されることによってピン66がロッド20に向かう方向に突出する構造とされている。そのピン66の先端には、ストッパ板62が固定されており、ソレノイド64の励磁によってピン66が突出させられれば、ストッパ板62は、マウント部18の開口54を塞ぐ位置まで進出し、ロッド20の先端を係止する状態となる。その係止状態において、ロッド20の上端部のマウント部18から上方への移動は禁止されることになる。
上記減衰力発生装置12およびロッド突出制限機構60の作動の制御、詳しくは、モータ24とソレノイド64との制御は、サスペンション電子制御ユニット(以下、「サスペンションECU」あるいは単に「ECU」という場合がある)80によって行われる。ECU80は、CPU,ROM,RAM,バス,I/O(入出力インタフェース)等を含んで構成されるコンピュータを主体とするものであり、モータ24およびソレノイド64等の駆動回路(ドライバ)をも含んで構成されている。上記モータ24およびソレノイド64は、コンピュータのI/Oに、それぞれの駆動回路を介して接続されている。また、I/Oには、車両の衝突を予測する車両衝突予測システム(PCS)82,当接センサ84,ロッド20のマウント部18に対する上下方向の位置を検知する位置センサ86等も接続され、ECU80は、下記の制御を行う際に、それらからの各種情報を入手可能とされている。なお、当接センサ84は、バンパに設けられ、車両と何らかの物体とが当接した場合に、ECU80に、車両が衝突した旨の信号を送信するようにされている。また、車両衝突予測システム82は、レーダ,コンピュータ等を含んで構成され、車両の前方に存在する物体を特定し、その特定された物体との衝突の可能性を推認するシステムであり、特定された物体の衝突の可能性が高くなった場合に、ECU80に衝突の可能性がある旨の信号を送るようにされている。
減衰力発生装置12は、上記位置センサ86によって検出されたロッド20の位置情報等を基に、車輪と車体の一部との相対挙動を認識し、その認識した挙動に依拠して、モータ24が制御作動されることによって制御される。その制御には2つのモードがあり、ECU80は、そのいずれかを選択的に実行する。2つの制御モードの各々は、ロッド20とナット22との軸方向の相対移動の範囲、つまり、減衰力発生装置12の作動ストロークを長くとれるように、ロッド20の上端部のマウント部18からの上方への突出を許容する状態でモータ24を制御作動させる突出許容制御モードと、ロッド20の上端部がマウント部18の開口54から上方へ突出しない状態となるロッド20とナット22との相対位置を、車輪と車体の一部とが最接近した限界位置とし、それによって決まる範囲を減衰力発生装置12の作動ストローク範囲としてモータ24を制御作動させる非突出範囲内制御モードとである。ECU80は、車両のイグニッションスイッチがON状態とされた後、通常状態の場合には、突出許容制御モードにおいて、減衰力発生装置12のモータ24を制御作動させている。
また、上記減衰力発生装置12の2つの制御モードの切り換えを行うモード切換制御も減衰力発生装置12の制御と並行して実行される。ECU80によるモード切換制御は、図2にフローチャートを示すモード切換制御プログラムが実行されることによって行われる。その制御プログラムは、ECU80が有するコンピュータのROMに格納されており、車両のイグニッションスイッチがON状態とされた後、短い時間間隔(例えば、十〜数十msec)をおいて繰り返し実行される。以下、図2のフローチャートに従って、本サスペンション装置10における制御の内容を、順次説明する。
モード切換制御では、まず、S1において、衝突予測フラグがONにセットされているか否かが判定される。衝突予測フラグは、初期設定においてOFFとされているものであり、その内容については、後に説明する。S1において、衝突予測フラグがOFFである場合には、S2において、当接センサ84により何らかの物体が車両に衝突した旨の信号が発せられているか否かが判定される。衝突が発生していないと判定された場合には、S3において、車両衝突予測システム82からの信号に基づく判定がなされる。車両衝突予測システム82から衝突の可能性がある旨の信号が発せられている場合には、S4において、上記の衝突予測フラグがONにセットされる。
S2において、衝突した旨の信号が送られてきている場合、あるいは、S3において、衝突の可能性がある旨の信号が発せられている場合には、ボンネット50への当接に対する衝撃緩和を阻害しないよう、ロッド20の上端部のマウント部18からの突出を回避する必要がある。そのため、まず、S5において、位置センサ86の検知情報に基づいて、ロッド20の上端部がマウント部18の開口54から上方へ突出しているか否かが判定される。ロッド20が突出している場合は、速やかにロッド20を上方に突出しない状態とする必要があり、S6において、ロッド20上端部をマウント部18から突出しない位置に退避させる退避制御が実行される。この退避制御は、図示を省略するルーチンが、モード切換制御プログラムの実行と並行して実行されるものであり、ロッド20とナット22との相対位置が、ロッド20が突出しない状態となる設定位置まで、モータ24を回転させてロッド20とナット22とを相対移動させるような制御である。
S5においてロッド20が突出していないと判定された場合、あるいは、S6において、退避制御が実行された場合には、S7において、減衰力発生装置12の制御モードが、突出許容制御モードから非突出範囲内制御モードに切り換えられる。それにより、ロッド20のマウント部18からの突出が回避される。また、それに併せて、ロッド突出制限機構60の有するソレノイド64が励磁され、ストッパ板62は、マウント部18の開口54を塞ぐ位置まで進出した状態となる。つまり、機械的にも、ロッド20は、マウント部18から上方への移動が禁止されて、上述の緩衝の阻害となる要因は確実に排除されることになる。
また、S1において、衝突予測フラグがONである場合は、既に、S5〜S7の処理が実行されている場合であり、この場合には、S8において、車両衝突予測システム82からの信号に基づく判定がなされる。このS8において、衝突の可能性がある旨の信号が発せられていない場合は、衝突の可能性が高くはなくなったものと、つまり、衝突が起きないものとみなされ、この場合は、S9において、減衰力発生装置12の制御モードが、非突出範囲内制御モードから突出許容制御モードに戻され、それに併せて、ソレノイド64が消磁され、ロッド突出制限機構60も通常状態に戻される。また、S10において、衝突予測フラグがOFFにリセットされる。ちなみに、一旦何らかの物体が車両に衝突した場合には、当該プログラムによって突出許容制御モードに戻されることはなく、手動操作によって、突出許容制御モードに切り換え可能とされている。
以上説明した一連の処理を終了して、1回のモード切換制御プログラムの実行が終了する。本実施例においては、ECU80によって実行される非突出範囲内制御モードにおける制御である非突出範囲内制御と、モード切換制御プラグラムのS5,6の処理である退避制御とを含んで突出禁止制御が構成されている。先に説明したように、モード切換制御プログラムは、イグニッションスイッチがOFFとされるまで、短い時間間隔をおいて連続して繰り返される。上記モード切換制御によって、突出許容制御と突出禁止制御とが選択的に実行され、通常時には、突出許容制御によって、減衰力発生装置12の作動ストロークを長くとることができ、歩行者がボンネット50に上方から当接する場合、あるいは、その虞がある場合に、突出禁止制御によって、その当接に対する緩衝を阻害する要因を排除でき、緩衝効果を高めることができる。また、突出禁止制御の非突出範囲内制御によって、上記衝撃緩和を阻害しない状態となることに加え、作動ストロークは短くなるものの、十分に減衰力を発揮させて車両の乗り心地等を良好な状態に維持することが可能となる。さらに、衝突の可能性が高くはなくなった場合には、通常の突出許容制御に、容易に戻すことも可能とされており、本サスペンション装置10は、利便性に優れたサスペンション装置となっている。
本実施例の車両用サスペンション装置10では、モータ24が、断線や短絡等によって失陥した場合に、適切な減衰力を発生し得ない状態となる。その状態では、容易に、ロッド20の上端部がマウント部18から上方へ突出する状態となり、モータ24の駆動力によってロッド20の上端部の突出を禁止することは困難である。そこで、本サスペンション装置10は、モータ24の失陥時においてもロッドの突出を制限するために、上記ロッド突出制限機構60が作動させられるようになっている。
なお、ロッド突出制限機構60に代えて、それの変形例としての図3に示すロッド突出制限機構を採用することが可能である。図に示すロッド突出制限機構90は、上記ストッパ板62に代えて、傾斜面が設けられたガイド部材92を、係合部材として採用した機構である。この機構では、ソレノイド64が励磁され、ピン66が突出させられれば、ガイド部材92が、マウント部18の開口54を塞ぐ位置まで進出するようにされており、ロッド20の上端部がマウント部18から突出しようとする場合において、ロッド部材92の上端がガイド部材92に当接し、ガイド部材92に設けられた傾斜面の作用によって、ロッド20の上端部は、軸方向と交差する方向に変形させられることになる。それにより、ロッド20の上端は、マウント部18の下面に係止され、ロッド20の突出が制限されることとなるのである。ただし、本変形例のロッド突出制限機構90は、衝突の可能性が高くはなくなった場合に通常の突出許容制御に戻すことを考慮すれば、モータ24の失陥時等の装置が異常である場合にのみ作動させることが望ましい。
<第2実施例>
図4に、第2実施例の車両用サスペンション装置100を示す。なお、本実施例のサスペンション装置100は、第1実施例と同様の減衰力発生装置12を備えた電磁式サスペンション装置であり、ロッド突出制限機構,ボンネットに加わる衝撃を吸収するための衝撃吸収部材を除き、第1実施例の装置と略同様の構成であるため、本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
本実施例の車両用サスペンション装置100においては、マウント部18の上部には、上端部が閉塞したカップ状のカバー102が、開口54を覆う状態で付設されている。このカバー102は、ボンネット50とマウント部18が設けられている車体の一部との間に配設される状態となっており、歩行者がボンネット50に上方から当接する場合等においてボンネット50が変形する場合に変形し、歩行者が受ける衝撃を緩和する緩衝材として機能するものとなっている。また、このカバー102によって、本サスペンション装置100は、マウント部18の上方からのダスト等に対する防塵効果が高いものとなっている。なお、カバー102は、ナット保持部材30とともに、ロッド20を収容するハウジングを構成するものと考えることもできる。そのように考えた場合は、カバー102はハウジングにおけるマウント部18から突出する突出部となり、変形することで自身に加わる衝撃を吸収する機能を有するものであると考えることができる。
また、本車両用サスペンション装置100は、第1実施例と同様に、ロッド突出制限機構110を備えている。ロッド突出制限機構110は、第1実施例と同様に、アクチュエータとしてソレノイド64を備えるものであるが、第1実施例において採用しているストッパ板62に代えて、ロッド20の先端部を把持する把持部材(係合部材の一種である)としてのクランプ112を採用した機構である。クランプ112は、ナット支持部材30の内周面上端部に固定された固定部材114と、ソレノイド64の有するピン66の先端に固定された可動部材116とから構成されている。それら固定部材114と可動部材116との各々には、互いに対向する把持面118,120が設けられており、その把持面118,120がロッド20から僅かに離間された状態とされている。ソレノイド64が励磁され、ピン66が突出させられれば、可動部材116が固定部材114に向かって進出し、固定部材114と可動部材116とが有するそれぞれの把持面118,120によって、ロッド20の先端部が把持されることになる。この把持状態において、ロッド20は、ロッド20の軸方向の移動が制限されることとなる。なお、本実施例のロッド突出制限機構110は、モータ24の失陥時にのみ作動させられるものとされている。
<第3実施例>
図5に、第3実施例のサスペンション装置130を示す。なお、本実施例のサスペンション装置130は、第1実施例と類似する減衰力発生装置を備えているため、本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
本実施例の車両用サスペンション装置130は、減衰力発生装置132を主体として構成されるものであり、その減衰力発生装置132が備えるロッド20は、第1実施例と同様に、モータ24のモータ軸28を延長する状態で設けられることでロアアーム16に連結されるとともに、モータ24によって回転させられるように構成されている。そのロッド20と螺合するナット22は、筒状のシリンダ134の内周面の下端部に固定され、そのシリンダ134がアッパサポート136に支持されることで、マウント部18に取り付けられている。詳しく言えば、アッパサポート136は、マウント部18の下部に固着される環状の防振ゴム138を含んで構成されるものであり、シリンダ134は、防振ゴム138の中央の穴に固着され支持されている。以上のような構成から、本減衰力発生装置132においても、第1実施例と同様に、ロッド20が車輪側部材として機能するものとされ、ナット22が車体側部材として機能するものとされ、ロッド20およびナット22によって構成されるボールねじ機構を含んだ構造となっているのである。
シリンダ134の上端部には、有底円筒状のカップ140が伏せられた姿勢で取り付けられている。カップ140は、その内径がシリンダ134の外径より僅かに大きいものであり、下部がシリンダ134と嵌め合う状態とされている。カップ140には、1対の軸方向に延びる長孔142が設けられており、その長孔142の下方の端部は、その端部を除くスロット部144の幅より僅かに大きい円孔部146とされている(図6参照)。また、シリンダ134には、1対の取付孔118が設けられている。カップ140とシリンダ134とは、1対の円孔部146および取付孔148を貫通するところの、カラー150が嵌められた1対のボルト152と、それら各々のボルト152と螺合するナット154とによって締結されるている。以上のような構造から、シリンダ134とカップ140とは、ロッド22を内包するハウジングとして機能するものとされ、ロッド22の防塵が担保されている。なお、カップ140は、マウント部18から上方に突出する状態で取り付けられており、ハウジングにおける突出部となっている。
上述したように、長孔142のスロット部144の幅は、カラー150の外径より僅かに小さくされている。そのため、例えば、歩行者がボンネット50を介して突出部であるカップ140の上端部に上方から当接する場合等において、カップ140は、スロット部144が押し広げられる状態で下方へ移動させられることになる。つまり、このハウジングは、スロット部144の変形に要する力によって、上方からの衝撃を吸収可能な構成とされているのである。
本実施例の車両用サスペンション装置130は、車輪と車体の一部とが接近する状態において、ロッド20の上端部が、ハウジングの内部において、マウント部18から上方に突出可能な構造とされている。また、本車両用サスペンション装置130においても、第1実施例の場合と同様、減衰力発生装置132は、制御装置であるECUによって作動させられ、突出許容制御と突出禁止制御とが選択的に実行される。
第1実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
図1に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行されるモード切換制御プログラムを表すフローチャートである。
第1実施例の変形例としての車両用サスペンション装置の正面断面図である。
第2実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
第3実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
図5に示すシリンダとカップとの取付部を拡大して示す図である。
符号の説明
10:車両用サスペンション装置 12:減衰力発生装置 14:コイルスプリング 16:ロアアーム(車輪保持部材) 18:マウント部(支持部) 20:ロッド(雄ねじ部) 22:ナット(雌ねじ部材) 24:モータ 50:ボンネット 52:リブ(衝撃吸収部材) 54:開口 56:開口部 60:ロッド突出制限機構 62:ストッパ板(係合部材) 64:ソレノイド 80:サスペンション電子制御ユニット(制御装置) 82:車両衝突予測システム 84:当接センサ 86:位置センサ 90:ロッド突出制限機構 92:ガイド部材(係合部材) 100:車両用サスペンション装置 102:カバー(衝撃吸収部材) 110:ロッド突出制限機構 112:クランプ(係合部材) 130:車両用サスペンション装置 132:減衰力発生装置 134:シリンダ 140:カップ