本発明のガラスセラミック基板においては、結晶相およびガラス相を有するガラスセラミック層に、ガラスセラミック層の全量に対して50〜200重量ppm(0.005〜0.02重量%に相当)の酸化鉄が含まれている。ここで、酸化鉄の含有量が50重量ppm未満であると、結晶相の温度変化に伴う膨張あるいは収縮を十分に抑制することはできず、他方、酸化鉄の含有量が200重量ppmを超えると、ガラスセラミック層の絶縁性が低下する。なお、酸化鉄の含有量が200重量ppmを超えると、ガラスセラミック層における誘電率の温度変化率が大きくなる傾向があるが、その詳細なメカニズムは分かっていない。
本発明のガラスセラミック基板において、ガラスセラミック層に析出する結晶相は、ウォラストナイト(CaO・SiO2)、アノーサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)、タイタナイト(CaO・TiO2・SiO2)、スピネル(MgO・Al2O3)、フォルステライト(2MgO・SiO2)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。微量の酸化鉄の添加は、これらCaOやMgOを含む結晶相を有したガラスセラミック層における誘電率の温度変化率を小さくすることに対して、特に優れた効果を発揮する。
本発明のガラスセラミック基板において、酸化鉄は、ガラスセラミック層内に原子レベルで均一に含まれていることが好ましい。微量の酸化鉄がこの結晶相およびガラス相に均一に含まれていると、温度変化による結晶の格子間距離やガラスの格子間距離の変動を効果的に抑制することができる。
特に、温度変化による結晶格子間距離の変動を効果的に抑制できることから、酸化鉄は、主として、ガラスセラミック層の結晶相に含まれていることが好ましい。この場合、酸化鉄は、結晶相に対して50〜200重量ppmの割合で含まれていることが好ましい。なお、ガラスセラミック層に析出した結晶相は、原料であるセラミック粉末に基づく結晶相であってもよいし、原料であるガラス粉末が一部結晶化することにより析出した結晶相であってもよい。すなわち、ガラスセラミック層における結晶相中に酸化鉄を含ませるためには、酸化鉄を、あらかじめ原料であるセラミック粉末に含ませておくか、あるいは、原料として結晶化ガラス粉末(焼成によって結晶相を析出し得るガラス粉末)を用い、あらかじめこの結晶化ガラス粉末に含ませておく必要がある。
なお、本発明においては、酸化鉄がガラス相に存在していてもよい。ガラス相に酸化鉄を含ませるためには、酸化鉄を、あらかじめ原料であるガラス粉末に含ませておくか、あるいは、ガラス粉末、セラミック粉末とは別に酸化物粉末を添加する必要がある。ただし、酸化鉄粉末をガラス粉末およびセラミック粉末に添加する場合(ガラス粉末およびセラミック粉末に別添加する場合)に比べて、酸化鉄をガラス粉末にあらかじめ含ませておく場合のほうが、ガラス相における酸化鉄の分散性に優れ、すなわち、ガラス相において酸化鉄が均一に分散し易いため、誘電率の温度変化を効率良く抑制することができるので、好ましい。
本発明のガラスセラミック基板において、ガラスセラミック層を構成する原料は特に限定されることなく、たとえば、BaO−Al2O3−SiO2やAl2O3−CaO−SiO2−MgO−B2O3等の非ガラス系材料、アルミナやフォルステライトのセラミック粉末にホウ珪酸系ガラス等を加えたガラス複合系材料、ZnO−MgO−Al2O3−SiO2等の結晶化ガラス系材料を用いることができる。また、ガラスセラミック層は、いわゆる低誘電率系ガラスセラミック層であってもよいし、高誘電率系ガラスセラミック層であってもよい。
ただし、本発明においては、上述した理由から、特に、アルミナやフォルステライトのセラミック粉末に結晶化ガラス粉末を加えた原料を、ガラスセラミック層の原料とし、セラミック粉末および結晶化ガラス粉末の両者に、あらかじめ酸化鉄を含有させておくことが好ましい。
本発明のガラスセラミック基板において、ガラスセラミック層は、5〜17.5重量%のB2O3、28〜44重量%のSiO2、0〜20重量%のAl2O3、および、36〜50重量%のMO(ただし、MOは、CaO、MgOおよびBaOから選ばれた少なくとも1種)からなるホウ珪酸系ガラス粉末40〜50重量%と、アルミナを含むセラミック粉末60〜50重量%とを、それぞれ混合した混合粉末を焼結したものであることが好ましい(以下、この組成を第1組成と称することがある)。
この第1組成によるガラスセラミック層は、いわゆる低誘電率系のガラスセラミック層である。第1組成におけるホウ珪酸系ガラスは、特に、MOがCaOの場合、ウォラストナイト(CaO・SiO2)やアノーサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)を析出し得る結晶化ガラスであって、これを焼成した場合、ガラスセラミック層には、ウォラストナイトやアノーサイト等の高機械的強度かつ低損失の結晶相が析出し得る。
第1組成によるガラスセラミック層には、焼結後に結晶化し易い組成のホウ珪酸系ガラス粉末が焼結助剤として添加されており、かつガラスの割合がアルミナを含むセラミックの割合と同等かそれより少量とされているので、焼成後のガラスセラミック多層基板における結晶相の割合が高くなり、高機械的強度かつ6.0ppm/℃以上の高熱膨張係数を有し、低損失であって、低温焼成可能なガラスセラミック基板となり得る。
なお、焼成中のガラスの結晶化は、ガラスセラミック層に歪みを発生させ、得られるガラスセラミック多層基板の変形の原因となることがあるが、ここで添加されるガラス量は50重量%以下であり、セラミック添加量と同等かそれより少量とされているため、焼成中のガラスの結晶化に起因するガラスセラミック基板の変形を抑制することができる。また、ガラスは、焼成過程で起こる軟化・粘性流動により、ガラスセラミック基板を1000℃以下で焼結させるための焼結助剤として働く。この焼結助剤としての機能を確実に働かせるためには、ガラスの添加量は、40重量%以上であることが好ましい。
このガラスの構成成分は、ガラス網目形成酸化物であるB2O3およびSiO2、ガラス網目修飾酸化物であるMO(ただし、MOは、CaO、MgOおよびBaOから選ばれた少なくとも1種)、および網目修飾酸化物と協働して網目形成能を発現するガラス網目中間酸化物であるAl2O3からなる。これら酸化物の割合は、ガラスセラミック基板が1000℃以下で焼結するように焼結助剤として働き、かつ焼結過程で結晶相が析出し易いように調整される。
具体的には、ガラス網目形成酸化物であるB2O3、SiO2のうち、B2O3は軟化温度を下げて粘性流動を促進するための酸化物であり、その含有量は5〜17.5重量%であることが好ましい。その含有量が5重量%より少ないと、ガラスの軟化・流動性が低下し、17.5重量%より多くなると、ガラスの耐水性が十分でなく、高温・多湿等の環境下で使用すると、ガラスセラミック基板の変質を生じる恐れがあるとともに、ガラス自体のQ値が低くなるので、得られたガラスセラミック基板のQ値も低くなる傾向がある。また、SiO2の含有量は28〜44重量%であることが好ましい。その含有量が28重量%より少ないと、残存するガラス自体の誘電率が高くなり、ガラスセラミック層の誘電率が高くなる傾向にある。他方、その含有量が44重量%より多くなると、ガラスの軟化・流動性が悪くなり、ガラスセラミック基板を1000℃以下で焼結させることが難しくなり、また、ガラスの結晶化も阻害されて、高機械的強度かつ低損失といった特性を得ることは困難になる。
ガラス網目中間酸化物であるAl2O3の含有量は0〜20重量%であることが好ましい。Al2O3は、ガラス中間酸化物として働き、ガラス構造を安定化させる成分であるが、20重量%を超えると、ガラスの軟化・流動性が低下し、ガラスセラミック基板を1000℃以下で焼結させることが困難になり、ガラスの結晶化も阻害されて、高機械的強度かつ低損失といった特性が得られ難くなる。
ガラス網目修飾酸化物であるMOは、ガラスの軟化・流動性を促進する成分であり、その含有量は36〜50重量%であることが好ましい。MOの含有量が36重量%より少ないと、ガラスの軟化・流動性が低下する傾向にあり、他方、MOの含有量が50重量%を超えると、ガラス構造が不安定となって、品質の安定したガラスが得られ難くなる。
以上の第1組成におけるガラスの作製において、軟化・流動性をより促進させたい場合は、Li2O、K2O、およびNa2Oから選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を、上述したB2O3、SiO2、Al2O3およびMOの合計量100重量部に対して5重量部以下の含有量をもって含有させてもよい。なお、これらアルカリ金属の酸化物の含有量が5重量部を超えると、ガラスの電気絶縁性が低下するため、得られるガラスセラミック基板の絶縁抵抗が低下することがある。
また、焼成過程でのガラスの結晶化をより促進して、得られるガラスセラミック基板の高機械的強度化や低損失化を進めるため、TiO2、ZrO2、Cr2O3、CaF2、およびCuOから選ばれた少なくとも1種の化合物を、前述したB2O3、SiO2、Al2O3およびMOの合計量100重量部に対して5重量部以下の含有量をもって含有させてもよい。なお、これらの化合物の含有量が5重量部を超えると、ガラスの誘電率が高くなるため、焼結後のガラスセラミック層の誘電率が高くなりすぎることがある。
第1組成によるガラスセラミック層は、さらに、酸化セリウム、酸化ビスマスおよび酸化アンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属酸化物を、前記ホウ珪酸系ガラス粉末と前記セラミック粉末からなる主成分に対して0.005〜5重量%含有することが好ましい。これらの金属酸化物が含まれていると、得られるガラスセラミック層が変色するのを防止できる。そして、これら金属酸化物の含有量を、ホウ珪酸ガラス粉末とセラミック粉末との重量の和に対して0.005〜5重量%とすれば、焼結後のガラスセラミック層の密度が低くなったり、焼結性が低下したりするといった問題をより効果的に防止することができる。
本発明のガラスセラミック基板において、ガラスセラミック層は、TiO2からなるセラミック粉末5〜75重量%と、CaTiSiO5からなるセラミック粉末5〜75重量%と、ガラス粉末15〜50重量%とを、それぞれ混合した混合粉末を焼成したものであってもよい(以下、この組成を第2組成と称することがある)。
この第2組成によるガラスセラミック層は、いわゆる高誘電率系のガラスセラミック層であって、TiO2からなるセラミック粉末、CaTiSiO5からなるセラミック粉末およびガラス粉末からなる主成分100重量部に対して、Ta2O5またはNb2O5のうち少なくとも一方からなる副成分を4重量部以下含有することが好ましく、また、ガラス粉末は、SiO2を5〜50重量%、B2O3を5〜60重量%、ZnOを5〜65重量%、アルカリ土類金属酸化物を5〜50重量%含有することが好ましい。
第2組成によるガラスセラミック層は、ガラスを含有するため、1000℃以下の低温焼成が可能である。また、比誘電率120であるTiO2と、比誘電率45であるCaTiSiO5とを含有するため、誘電率の高いガラスセラミック層が形成される。そして、TiO2の誘電率の温度変化率が負に大きい(約−900ppmK-1)のに対して、CaTiSiO5の誘電率の温度変化率は正に大きい(約+1500ppmK-1)ため、得られるガラスセラミック層の誘電率の温度変化率をコントロールし易い。また、CaTiSiO5の熱膨張係数は約6ppmK-1であるため、得られるガラスセラミック層の熱膨張係数を、たとえば上述した第1組成によるガラスセラミック層の熱膨張係数(約7〜8ppmK-1)に近づけることが可能である。
第2組成によるガラスセラミック層において、TiO2の含有量が5重量%未満である場合、あるいは、CaTiSiO5の含有量が75重量%を超える場合、ガラスセラミック層の熱膨張係数が小さくなる傾向にある。したがって、たとえば、得られるガラスセラミック層を高誘電率層とし、第1組成によるガラスセラミック層を低誘電率層として、高誘電率層と低誘電率層とを積層した複合型のガラスセラミック多層基板を作製しようとすると、熱膨張係数の差に基づく割れがガラスセラミック多層基板に生じることがある。一方、TiO2の含有量が75重量%を超える場合、あるいは、CaTiSiO5の含有量が5重量%未満である場合、ガラスセラミック層の熱膨張係数が大きくなる傾向にある。したがって、前述した場合と同様に、複合型のガラスセラミック多層基板を作製しようとすると、熱膨張係数の差に基づく割れがガラスセラミック多層基板に生じることがある。
また、第2組成によるガラスセラミック層において、ガラスの含有量が15重量%未満である場合、焼成温度1000℃以下での焼結性が低下することがある。一方、ガラスの含有量が50重量%を超える場合、得られるガラスセラミック層の誘電率が低下することがある。
また、第2組成によるガラスセラミック組成物は、TiO2を20〜60重量%含有することが好ましい。TiO2の含有量が20重量%未満であると、得られるガラスセラミック層の誘電率の温度変化率が正に大きくなりすぎることがある。一方、TiO2の含有量が60重量%を超えると、ガラスセラミック層の誘電率の温度変化率が負に大きくなりすぎることがある。また、CaTiSiO5を20〜60重量%含有することが好ましい。CaTiSiO5の含有量が20重量%未満であると、得られるガラスセラミック層の誘電率の温度変化率が負に大きくなりすぎることがある。一方、CaTiSiO5の含有量が60重量%を超えると、ガラスセラミック層の誘電率の温度変化率が正に大きくなりすぎることがある。
また、第2組成によるガラスセラミック層は、副成分として、Ta2O5またはNb2O5のうち少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。これらの副成分を含有することにより、得られるガラスセラミック層における誘電率の温度変化率の絶対値を小さくすることができる。これは、焼成時にTa2O5やNb2O5の一部が主成分に拡散、固溶して、ガラスセラミック焼結体全体の誘電率の温度変化率に何らかの影響を与えることによるものと推測される。前記副成分は、TiO2、CaTiSiO5、およびガラスからなる主成分100重量部に対して4重量部以下することが特に好ましい。この場合、得られるガラスセラミック層の誘電率をほとんど低下させることなく、誘電率の温度変化率を小さく調整することができる。ただし、副成分の含有量が4重量部を超えると、ガラスセラミック層の誘電率が低下することがある。
また、第2組成によるガラスセラミック層に含有されるガラスとしては、SiO2−B2O3系等のガラスを用いることができるが、中でも、熱膨張係数の小さいSiO2−B2O3−ZnO系のガラスを用いることが好ましい。このガラスは、SiO2を5〜50重量%含有することが好ましい。SiO2の含有量が5重量%未満であると、得られるガラスセラミック層の耐湿性が低下することがある。一方、SiO2の含有量が50重量%を超えると、ガラスの溶融温度が高くなりガラス作製が困難になることがある。また、このガラスは、B2O3を5〜60重量%含有することが好ましい。B2O3の含有量が5重量%未満であると、1000℃以下におけるガラスセラミック層の焼結性が低下することがある。一方、B2O3の含有量が60重量%を超えると、得られるガラスセラミック焼結体の耐湿性が低下することがある。また、このガラスは、ZnOを5〜65重量%含有することが好ましい。ZnOの含有量が5重量%未満であると、得られるガラスセラミック層の熱膨張係数を小さくする効果があまり得られない。一方、ZnOの含有量が65重量%を超えると、ガラスセラミック層の耐湿性が低下することがある。さらに、このガラスは、アルカリ土類金属酸化物をさらに含有することが好ましい。MgO、CaO、SrO等のアルカリ土類金属酸化物は熱膨張係数が小さいため、得られるガラスセラミック層の熱膨張係数を小さくすることができる。ここで、アルカリ土類金属酸化物の含有量は、5〜50重量%であることが好ましい。アルカリ土類金属酸化物の含有量が5重量%未満であると、得られるガラスセラミック層の熱膨張係数を小さくする効果があまり得られない。一方、アルカリ土類金属酸化物の含有量が50重量%を超えると、ガラスセラミック層の耐湿性が低下することがある。
この第2組成によるガラスセラミック層においては、TiO2結晶、CaTiSiO5結晶、およびガラス結晶が析出し得る。
次に、図1を参照に、本発明に係るガラスセラミック基板を複合型のガラスセラミック多層基板を例にとって説明する。
図1に示したガラスセラミック多層基板10は、少なくとも1つの50〜200重量ppmの酸化鉄が含まれているガラスセラミック層を含んだ複数のガラスセラミック層からなる多層構造を有するガラスセラミック多層基板であって、より具体的に言うと、誘電率の異なる第1のガラスセラミック層11と第2のガラスセラミック層12とを積層してなる複合型のガラスセラミック多層基板である。
ここで、ガラスセラミック多層基板10の主面上および各ガラスセラミック層の間には配線導体13が形成されている。また、各ガラスセラミック層には配線導体13同士を三次元的に接続するビア導体14が形成されている。また、第1のガラスセラミック層11を挟んで配線導体13が対向することにより、キャパシタCが形成されている。すなわち、ガラスセラミック多層基板10においては、配線導体13、ビア導体14によって、所定の回路パターンが形成されている。
第1のガラスセラミック層11は、上述した第2組成によるガラスセラミック層からなる。このガラスセラミック層11は、TiO2結晶を含むため誘電率が高い。したがって、第1のガラスセラミック層11において容量値の大きなキャパシタを形成することができる。さらに、このガラスセラミック層は、微量の酸化鉄を含んでいるため、誘電率の温度変化率が小さく、周囲の温度変化によるキャパシタCの容量特性のばらつきがほとんどない。また、このガラスセラミック層はCaTiSiO5結晶を含むため、熱膨張係数が6.5〜8.5ppmK-1程度と比較的小さい。
第2のガラスセラミック層12は、上述した第1組成によるガラスセラミック層からなる。このガラスセラミック層12は誘電率が低いため、第2のガラスセラミック層12に形成された配線導体13やビア導体14等の伝送線路において、遅延なく高周波信号を伝搬させることができ、特に、このガラスセラミック層は、微量の酸化鉄を含んでいるため、誘電率の温度変化率が小さく、周囲の温度変化による伝送線路の伝送特性のばらつきがほとんどない。なお、このガラスセラミック層の熱膨張係数は約7〜8ppmK-1である。
このように、第1のガラスセラミック層11の熱膨張係数と第2のガラスセラミック層12の熱膨張係数とはほぼ同等、すなわち、熱膨張係数6.5〜8.5ppmK-1程度であり、ガラスセラミック多層基板10の製造工程のうち焼成工程において、両者の熱膨張係数の違いにより基板に割れや反りが生じるのを防ぐことができる。そして、各ガラスセラミック層には、微量の酸化鉄が含まれているため、温度変化によるキャパシタCの容量特性のばらつきや伝送線路の伝送特性のばらつきがほとんどなく、電気特性に優れたガラスセラミック多層基板が得られる。
ガラスセラミック多層基板10は、たとえば以下のような方法により作製される。
まず、SiO2−B2O3−ZnO系のガラス粉末、TiO2粉末、およびCaTiSiO5粉末を準備し、これらを所定の重量比となるように混合する。次に、得られた混合粉末に、適当量の溶剤、バインダ、可塑剤を加えて混練し、スラリーを作製する。次に、このスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形して、焼成後に第1のガラスセラミック層11となる第1のグリーンシートを作製する。なお、たとえば、溶剤は、混合粉末100重量部に対して1〜30重量部、バインダは、混合粉末100重量部に対して3〜30重量部、をそれぞれ加えることができる。
次に、SiO2−B2O3系のガラス粉末およびAl2O3粉末を準備し、これらを所定の重量比となるように混合する。次に、得られた混合粉末に、適当量の溶剤、バインダ、可塑剤を加えて混練し、スラリーを作製する。次に、このスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形して、焼成後に第2のガラスセラミック層12となる第2のグリーンシートを作製する。なお、たとえば、溶剤は、混合粉末100重量部に対して1〜30重量部、バインダは、混合粉末100重量部に対して3〜30重量部、をそれぞれ加えることができる。
次に、Cu粉末やAg粉末等の導電性粉末、適当量のバインダ、ガラス粉末、分散剤からなる導電性ペーストを作製する。次に、この導体ペーストを、スクリーン印刷により第1、第2のグリーンシート上に印刷する。また、第1、第2のグリーンシートにビアホールを形成し、このビアホールに上記導電性ペーストを充填する。
次に、第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートを積層して、配線導体、およびビアホール導体が形成されたセラミック積層体を作製する。次に、プレス機によりセラミック積層体を圧着し、セラミック積層体を、空気中等の酸化性雰囲気中、780〜1000℃、特に具体的に言えば900℃、で焼成する。これにより、図1に示すセラミック多層基板10が作製される。
以上、本発明のガラスセラミック多層基板を具体的な構成に基づいて説明したが、本発明のガラスセラミック基板は、上述の構成に限定されるものではない。
たとえば、本発明のガラスセラミック基板は、複数のガラスセラミック層のうち少なくとも1層のガラスセラミック層に50〜200重量ppmの酸化鉄が含まれていればよく、すべてのガラスセラミック層に酸化鉄が含まれている必要はない。また、酸化鉄はFe2O3であることが好ましいが、FeOであってもよい。
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
まず、SiO2−B2O3−CaO−Al2O3系ガラス粉末を作製するために、出発原料となるSiO2、B2O3、CaO、Al2O3の各酸化物粉末を所定の割合で調合した。次いで、調合した粉末を、表1に示す割合のFe2O3粉末(ただし、表1に示した量は、ガラス量に対する添加量)とともに、Ptルツボに投入し、1300〜1700℃の温度で1時間溶融させた。次いで、このガラス融液を急冷ロールに流し出し、ガラスカレットとした。さらに、このガラスカレットを粗粉砕した後、エタノールを加えて直径1〜10mmのアルミナボールが入ったボールミル中で粉砕することによって、所定量のFe2O3を含むSiO2−B2O3−CaO−Al2O3系ガラス粉末を得た。
なお、表1において、「ガラス組成1F」は、SiO2:40重量%、B2O3:10重量%、CaO:40重量%、Al2O3:10重量%からなるガラス組成であることを示し、同様に、「ガラス組成1G」は、SiO2:30重量%、B2O3:15重量%、CaO:50重量%、Al2O3:5重量%からなるガラス組成、「ガラス組成1H」は、SiO2:30重量%、B2O3:5重量%、CaO:45重量%、Al2O3:19重量%、CeO2:1重量%からなるガラス組成であることを示す。
次いで、表1に示す割合のFe2O3(ただし、表1に示した量は、セラミック量に対する添加量)を含有するAl2O3系セラミック粉末を準備した。なお、表1において、このセラミック粉末を「セラミック組成1A」と示した。
次いで、表1に示す割合でAl2O3系セラミック粉末とSiO2−B2O3−CaO−Al2O3系ガラス粉末とを混合し、得られた混合粉末に、必要に応じて、表1に示す割合のFe2O3(別添加Fe2O3:表1に示した量は、セラミックおよびガラスの合計量に対する添加量)とともに、適量の溶剤、バインダおよび可塑剤を加え、これを十分に混合し、ドクターブレード法によって、厚さ50μmのグリーンシートを作製した。
次に、上述のようにして得られたグリーンシート上にスクリーン印刷によりAgペーストを印刷し、このグリーンシートを10mm×10mmの方形状にカットした。そして、この方形状のグリーンシートを10枚積層してプレス機により圧着し、空気中、900℃で20分間焼成した。さらに、得られたセラミック焼結体の両主面にAgからなる外部電極を焼き付け、表1に示される組成のガラスセラミック層を有するガラスセラミック多層基板を得た。
なお、表1中、「Fe2O3総量」は、ガラスセラミック多層基板のガラスセラミック層全体量に対するFe2O3の含有量である。
次に、各サンプルNoのガラスセラミック多層基板について、誘電率(比誘電率εr)、誘電率の温度変化率、絶縁抵抗値(LogIR)を評価した。なお、誘電率および絶縁抵抗値については、10mm×10mm×0.5mmの試料の両面に、8mm×8mmのAg系電極を塗布および焼き付けによって形成し、これら両面の電極を介して、LCRメータにて、周波数1MHz、電圧1Vrms、温度25℃の条件で静電容量を測定し、この測定された静電容量から比誘電率を算出し、また、50Vの直流電圧を印加して60秒後に、絶縁抵抗値を測定した。また、誘電率の温度変化率については、10mm×10mm×0.5mm両面にInGa電極を塗布した試料を用い、LCRメーターにて周波数1MHz、電圧1Vrms、基準温度20℃で−25〜85℃にて評価した。その測定結果を表1に示す。
なお、X線回折(XRD)によって、得られたガラスセラミック多層基板の析出結晶相を観察したところ、いずれもサンプルにおいても、ウォラストナイト、アノーサイトの結晶相が観察された。
表1から分かるように、サンプルNo.1−3〜1−8、1−13、1−14、1−16、1−17、1−19、1−20、1−22〜1−24のガラスセラミック多層基板は、ガラスセラミック層に50〜200重量ppmのFe2O3を含んでいるので、Fe2O3を含んでいないサンプルNo.1−1のガラスセラミック多層基板に比べて、誘電率の温度変化を小さくすることができた。
一方、サンプルNo.1−2のガラスセラミック多層基板のように、Fe2O3の含有量が50重量ppm未満であると、誘電率の温度変化率を十分に小さくすることができなかった。また、サンプルNo.1−9〜1−12、1−15、1−18、1−21のガラスセラミック多層基板のように、Fe2O3の含有量が200重量ppmを超えると、誘電率の温度変化率がかえって大きくなる傾向にあり、特に、その含有量が1000重量ppmを超えると、ガラスセラミック層の絶縁性が低下した。
また、サンプルNo.1−13、1−16、1−19の比較、ならびに、サンプルNo.1−14、1−17、1−20の比較から分かるように、Fe2O3は、セラミック粉末およびガラス粉末に別添加するよりも、セラミック粉末およびガラス粉末、特にセラミック粉末にあらかじめ添加しておいたほうが、誘電率の温度変化をより効果的に改善することができる。
また、サンプルNo.1−22〜1−24のガラスセラミック多層基板のように、セラミックとガラスの配合比、あるいは、ガラスの組成比を適宜変更した場合であっても、誘電率の温度特性について、Fe2O3添加による一定の効果が認められた。
(実施例2)
まず、SiO2−B2O3−CaO−ZnO系ガラス粉末を作製するために、SiO2、B2O3、CaO、ZnOの各酸化物粉末を所定の割合で調合した。次いで、調合した粉末を、表2に示す割合のFe2O3粉末(ただし、表2に示した量は、ガラス量に対する添加量)とともに、Ptルツボに投入し、1100〜1500℃で30分間溶融させた。次いで、得られたガラス融液を急冷ロールに流し出し、ガラスカレットとした。次に、このガラスカレットを粗粉砕し、さらにエタノールを加えて直径1〜10mmのアルミナボールが入ったボールミル中で粉砕することによって、所定量のFe2O3を含むSiO2−B2O3−CaO−ZnO系ガラス粉末を得た。
なお、表2において、「ガラス組成2F」は、SiO2:10重量%、B2O3:50重量%、CaO:30重量%、ZnO:10重量%からなるガラス組成であることを示し、同様に、「ガラス組成2G」は、SiO2:20重量%、B2O3:40重量%、CaO:30重量%、ZnO:10重量%からなるガラス組成、「ガラス組成2H」は、SiO2:20重量%、B2O3:20重量%、CaO:10重量%、ZnO:50重量%からなるガラス組成であることを示す。
次に、CaO、TiO2、SiO2の各酸化物粉末を準備し、それぞれのモル比が1:1:1となるように調合し、1250℃で1時間仮焼した。次に、得られた仮焼物を粗粉砕し、さらにエタノールを加えて直径1〜10mmのアルミナボールが入ったボールミル中で粉砕して、CaTiSiO5粉末を作製した。そして、CaTiSiO5−TiO2系セラミック粉末を作製するために、このCaTiSiO5粉末にTiO2粉末を加え、さらに表2に示す割合のFe2O3粉末(ただし、表2に示した量は、CaTiSiO5粉末にTiO2粉末の合計量に対する添加量)を加えて、これをボールミルで混合することによって、所定量のFe2O3を含むCaTiSiO5−TiO2系セラミック粉末を得た。
なお、表2において、「セラミック組成2A」は、CaTiSiO5:60重量%、TiO2:40重量%からなるセラミック組成であって、同様に、「セラミック組成2B」は、CaTiSiO5:65重量%、TiO2:35重量%からなるセラミック組成、「セラミック組成2C」は、CaTiSiO5:70重量%、TiO2:30重量%からなるセラミック組成である。
次いで、表2に示す割合でCaTiSiO5−TiO2系セラミック粉末とSiO2−B2O3−CaO−ZnO系ガラス粉末とを混合し、得られた混合粉末に、必要に応じて、表1に示す割合のFe2O3(別添加Fe2O3:表1に示した量は、セラミックおよびガラスの合計量に対する添加量)とともに、適量の溶剤、バインダおよび可塑剤を加え、これを十分に混合し、ドクターブレード法によって、厚さ50μmのグリーンシートを作製した。なお、サンプルNo.2−24の組成には、Ta2O5、Nb2O5の各酸化物粉末を、それぞれ1重量部、2重量部の割合で添加した。
次に、グリーンシート上にスクリーン印刷によりAgペーストを印刷し、このグリーンシートを10mm×10mmの方形状にカットした。次に、方形状のグリーンシートを10枚積層してプレス機により圧着し、空気中、900℃で20分間焼成した。次に、得られたセラミック焼結体の両主面にAgからなる外部電極を焼き付け、表2に示される組成のガラスセラミック層を有するガラスセラミック多層基板を得た。
なお、表2中、「Fe2O3総量」は、ガラスセラミック多層基板のガラスセラミック層全体量に対するFe2O3の含有量である。
次に、実施例1と同様にして、各サンプルNoのガラスセラミック多層基板について、誘電率(比誘電率εr)、誘電率の温度変化率、絶縁抵抗値(LogIR)を評価した。その測定結果を表2に示す。
なお、X線回折(XRD)によって、得られたガラスセラミック多層基板の析出結晶相を観察したところ、いずれもサンプルにおいても、タイタナイトの結晶相が確認できた。
表2から分かるように、サンプルNo.2−3〜2−8、2−13、2−14、2−16、2−17、2−19、2−20、2−22〜2−24のガラスセラミック多層基板は、ガラスセラミック層に50〜200重量ppmのFe2O3を含んでいるので、Fe2O3を含んでいないサンプルNo.2−1のガラスセラミック多層基板に比べて、誘電率の温度変化の絶対値を小さくすることができた。
一方、サンプルNo.2−2のガラスセラミック多層基板のように、Fe2O3の含有量が50重量ppm未満であると、誘電率の温度変化率の絶対値を十分に小さくすることができなかった。また、サンプルNo.2−9〜2−12、2−15、2−18、2−21のガラスセラミック多層基板のように、Fe2O3の含有量が200重量ppmを超えると、誘電率の温度変化率の絶対値がかえって大きくなる傾向にあり、特に、その含有量が1000重量ppmを超えると、ガラスセラミック層の絶縁性が低下した。
また、サンプルNo.2−13、2−16、2−19の比較、ならびに、サンプルNo.2−14、2−17、2−20の比較から分かるように、Fe2O3は、セラミック粉末およびガラス粉末に別添加するよりも、セラミック粉末およびガラス粉末、特にセラミック粉末にあらかじめ添加しておいたほうが、誘電率の温度変化をより効果的に改善することができる。
また、サンプルNo.2−22〜2−24のガラスセラミック多層基板のように、セラミックとガラスの配合比、あるいは、ガラスの組成比を適宜変更した場合であっても、誘電率の温度特性について、Fe2O3添加による一定の効果が認められた。