以下、この発明の一実施の形態について図1〜図13の図面を参照しながら説明する。なお、図面が煩雑となるのを回避するため、図面中、被測定者14の外観、顎形状、歯形状等をデフォルメして描いている。また、図14及び図15で示した従来の3次元運動測定装置100の構成要素と同じ構成要素については、同じ参照符号を付けて説明する。
図1は、この発明の一実施の形態が適用された3次元顎運動測定装置及び3次元位置検出装置を含む3次元顎運動測定システム10の全体構成を示している。
図2は、図1の3次元顎運動測定システム10の一部が、被測定者14に対して近づけられた状態での拡大構成を模式的に示している。
図3は、図1の3次元顎運動測定システム10の電気回路ブロック図を示している。
図4は、3次元顎運動測定システム10に用いられる磁気発生器15の拡大構成を示している。
図1〜図3に示すように、3次元顎運動測定システム10は、基本的には、永久磁石等の磁気マーカ16a〜16dを固定部材13に固定して、この固定部材13を被測定者14の所定位置に接着剤等で取り付けた磁気発生器15(15a、15b)(図4参照)と、各磁気マーカ16a〜16dの磁界をそれぞれ6自由度運動測定用として非接触で検出する磁界センサである磁界センサアレイ(単に、磁界センサともいう。)18a(a=1〜4)、18b(b=1〜6)と、磁界センサアレイ18(18a、18b)を構成する各磁界センサ20i(図2及び図3に示すように、この実施の形態では、磁界センサ20i(i=1〜62)、磁界センサ201〜2020と磁界センサ2021〜2062との合計62個の磁界センサ)で検出した磁界から、各磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向を求め、求めた各磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向と、剛体である上顎22及び下顎(下顎骨)24の形状に基づき、前記上顎22及び下顎24の6自由度運動をリアルタイムに算出する信号処理手段としてのパーソナルコンピュータ(PC)26とを有する。
なお、磁界センサアレイ18a、18bは、個々の磁界センサ20iが一体化された磁界センサ組立体として構成されているので、個々の磁界センサ20i間の相対位置は、既知の位置としてパーソナルコンピュータ26に記憶しておくことができる。また、図1及び図2に示すように、4つの磁界センサアレイ18aは、それぞれ5つの磁界センサ20iを収容し、6つの磁界センサアレイ18bは、それぞれ7つの磁界センサ20iを収容している。
図1及び図3に示すように、パーソナルコンピュータ26は、図示しないCPU、ROM、RAM、ハードディスク等を有する信号処理手段としての本体部50と、この本体部50に接続されるCRTディスプレイ等のモニタディスプレイ52と、本体部50に接続される入力手段等として機能するキーボード54とマウス56とを有し、キャスター45により固定・移動自由なラック46の上段の棚上に収容されている。
ラック46には、パーソナルコンピュータ26以外にプリンタ60、AD変換器62、及び電源部64が収容されている。
このパーソナルコンピュータ26等が配されているラック46は、被測定者14に取り付けられている磁気発生器15の磁気マーカ16a〜16dと、磁界センサアレイ18及び後述する外部磁界検出センサ44が配されている測定用スタンド38とに対して、磁気的な相互作用を及ぼさない程度に離れた位置となるよう配線66を介して配置されている。配線66は、電磁シールド被覆がなされた多心電線を用いている。
図3に示すように、電源部64は、電源コード80を介して、図示していないAC100V等の交流電源に接続されており、電源部64により生成された直流電源がAD変換器62に供給されると共に、配線66bを介して磁界センサアレイ18a、18b及び外部磁界検出センサ44に供給される。
図1に示すように、ラック46の下側棚板上には、ポインタホルダ74が固定され、このポインタホルダ74には、測定者(不図示)等が手に持って任意に移動させることの自由な、内部に磁気マーカ72を有するポインタ70が、抜き差し自由な状態で挿入されている。
このポインタ70は、図2、図3に示すように、磁石である磁気マーカ72が内蔵されると共に、略円錐状の尖った先端部76を有する鉛筆状の棒体である。ポインタ70に内蔵される磁気マーカ72以外の部分の材質は、樹脂等の非磁性体とされている。この場合、ポインタ70の略円錐状の先端部76の位置と磁気マーカ72(の中心)間の距離は既知であり、本体部50のハードディスク内に記憶され格納されている。また、磁気マーカ72の磁化方向が、ポインタ70の軸心方向に一致するように磁気マーカ72が取り付けられている。測定誤差を最小限とするため、内蔵される磁気マーカ72は、なるべく先端部76に近い位置に配置固定することが好ましい。もちろん先端部76に配置することもできる。
図4Aにおいて、磁気発生器15は、剛体である固定部材13の上面に接着剤等で2つの磁気マーカ16を貼り付けることによって構成される。これにより、2つの磁気マーカ16間の距離dは、固定部材13によって固定された既知の距離となる。
また、2つの磁気マーカ16の磁界の方向が予め既知であれば、2つの磁気マーカ16を固定部材13で固定することにより、一方の磁気マーカ16の磁界の方向に対する、他方の磁気マーカ16の磁界の方向(以下、相対的な磁界発生方向という)も既知となる。
なお、2つの磁気マーカ16の相対的な磁界発生方向とは、磁気発生源である2つの磁気マーカ16について、2つの磁気発生源自体の磁界発生方向に関する相対的な方向である。具体的には、磁気マーカ16が磁性体である場合には、2つの磁性体の磁化の方向(着磁方向)Jに関する相対的な方向をいう。また、磁気マーカ16がコイルである場合には、2つのコイルの磁界発生方向に関する相対的な方向をいう。
ここで、固定部材13は、非磁性体、例えばアクリル樹脂から形成されていることが好ましい。また、2つの磁気マーカ16の距離dについては、短い程、配置の制約は小さいが、位置精度は悪化するおそれがある。また、距離dが大きい程、位置精度は向上するが、配置の制約は大きくなる。予備実験の結果より、磁界センサ20iと磁気発生器15a、15bとの距離が5〜50[mm]程度である場合、d=5〜50[mm]程度とすることが望ましいことが確認されている。距離dが5[mm]よりも小さいと磁気マーカ16a〜16d同士で磁界の干渉が発生する。一方、距離dが50[mm]よりも大きいと、磁界センサ20iの測定精度が低下すると共に、磁気発生器15が大型化して、被測定者14の不快感が増大する。
また、固定部材13を非磁性体から構成すれば、磁界センサ20iで検出される磁界は、磁気マーカ16a〜16dから発生する磁界のみとなる。これにより、磁界センサ20iの測定精度をさらに向上させることができる。
また、図1〜図4において、磁気発生器15は、椅子30に腰掛けている被測定者14の額32と下顎歯(下顎歯列)34のうち、下顎切歯の歯冠部に、容易に取り外し可能な接着剤等を介してそれぞれ取り付けられる。
その際、図4Bに示すように、固定部材13の形状を、物体(被測定者14)の取付表面である額32及び前記歯冠部に沿った(対応する)形状としてもよい。これにより、磁気マーカ16a〜16dと額32及び前記歯冠部との距離がより近づくので、上顎22及び下顎24の6自由度運動の測定精度を向上させることができる。この他にも、例えば、被測定者14の前記歯冠部に磁気発生器15bを取り付けると、被測定者14の違和感が小さいという効果も得られる。この場合、距離dは、磁気マーカ16a(16c)の中心部分と磁気マーカ16b(16d)の中心部分とを結ぶ直線距離とすればよい。
この実施の形態において、磁気マーカ16及び磁気マーカ72は、大きさが、1[mm]×1[mm]×0.5[mm](厚み)程度、飽和磁束密度が1[T(テスラ)]程度の最大エネルギ積の大きいNdFeB(ネオジウム鉄ボロン)材質の焼結磁石の永久磁石を用いている。このような磁気マーカ16、72を用いることで、磁界センサ20iでは、0.1[mG(ミリガウス)]〜100[mG]程度の磁界を検出することができる。また、図3では、磁気マーカ16の磁化の方向(着磁方向)Jは、被測定者14から外向きの方向に向けられ、磁界センサ20iの磁界検出方向が、この磁化方向Jに一致するように設定されている。この場合、2つの磁気マーカ16間の相対的な磁界発生方向は、一方の磁気マーカ16の着磁方向Jに対する、他方の磁気マーカの着磁方向Jである。
なお、磁気マーカ16及び磁気マーカ72は、コイルを含む磁気発生手段で構成してもよい。この場合には、被測定者14への負担をできる限り軽減するために、電源(例えば、ボタン型の電池)と、前記電源から前記コイルに電力を供給する電源供給部と、前記コイルとを回路基板に実装して構成された小型の磁気発生回路とすることが望ましい。この場合、2つのコイル間の相対的な磁界発生方向は、一方のコイルの磁界発生方向に対する、他方のコイルの磁界発生方向である。
また、後述するように、この3次元顎運動測定システム10では、磁気マーカ16の磁化方向Jと磁界センサ20iの磁界検出方向とを一致させなくても、3次元顎運動を測定することができる。また、磁気マーカ16a〜16dの着磁方向Jはお互いに一致していなくてもよい。
磁界センサ20i及び外部磁界検出センサ44としては、ホール素子を利用したもの、磁気抵抗効果素子を利用したもの、高周波キャリア型薄膜磁界センサ(Magneto Impedance Sensor)を利用したもの、あるいは高周波励磁コイルを有するフラックスゲートセンサ等の1軸、2軸あるいは3軸の周知の磁界センサを用いることができる。
特に、高周波キャリア型薄膜磁界センサを用いた場合には、ヘッドの寸法が、1[mm]以下となり、この1[mm]以下の高周波キャリア薄膜磁界センサの検出感度は、ヘッドの寸法が10[mm]程度のフラックスゲートセンサと略同等以上の感度を有する。
顎運動の測定に関し、高周波キャリア型薄膜磁界センサを用いる場合には、ヘッド寸法を点として考えることが可能であり、フラックスゲートセンサを用いる場合には、必要に応じて、ヘッド寸法を有限と考えて処理を行う。
すなわち、磁界センサ20iは、できるだけヘッド寸法の小さいものを採用することが好ましい。ヘッド寸法が小さいほど磁気マーカ16の周辺の磁界を正確に測定でき、複数の磁気マーカ16の検出位置精度が向上するからである。
図1に示すように、被測定者14が腰掛ける椅子30の背もたれ部には、被測定者14の頭部を支えるヘッドレスト29が取り付けられている。ヘッドレスト29は、個々の被測定者14の顎部に磁界センサ20iの位置をできるだけ近づけるためと被測定者14の頭部の位置に対応するように、上下、左右、前後方向に移動させることが可能な構成になっている。
図2に示すように、磁界センサ20iを被測定者14に近接させ対向配置した測定時において、磁界センサ20iは、各磁気マーカ16a〜16dを顔面の正面から取り囲むようにそれぞれ配置され、磁界センサ20iから構成される磁界センサ組立体としての磁界センサアレイ18a、18bは、センサホルダ36に取り付けられている。磁界センサアレイ18aは、額32を取り囲むように上下方向で90°以上の円弧状に形成され、磁界センサアレイ18bは、下顎24を取り囲むように横方向で略円弧状に形成されている。
この磁界センサアレイ18a、18bが取り付けられたセンサホルダ36が、図1に示すように、固定用ねじ41により上下方向(垂直方向)の自由な位置に調節可能な測定用スタンド38の支柱40間に取り付けられている。各支柱40は、被測定者14の脚部を避けるために略U字状のベース42の両端に垂直方向に取り付けられ、このような構成の測定用スタンド38は、ベース42の床側に取り付けられている4個のキャスタ43により被測定者14の方向に対して移動及び固定自由である。
支柱40間には、さらに、地磁気等の外部磁界(外部不要磁界)を検出する3次元磁界センサである外部磁界検出センサ44が取付孔39(39a、39b、39c、39d)及びコ字状の枠37を介して配置固定されている。外部磁界検出センサ44は、ねじ35により、取付部39a、39b、39c、39dのいずれかの位置に配置固定することが可能である。
この外部磁界検出センサ44の最適な配置位置は、磁気マーカ16から作用する磁界が無視できるほど小さくなる位置(基本的には、磁気マーカ16から比較的に離れた位置)であって、且つ各磁界センサ20iに作用する磁気マーカ16以外の地磁気を含む外部磁界と同等の磁界を3軸成分で検出できる位置とされる。
外部磁界検出センサ44は、各磁界センサ20iの同相成分を相殺するために配置される。地磁気を含む外部磁界成分(直流磁界成分+変動磁界成分)中の変動(ふらつき)磁界成分をも相殺するために、磁気マーカ16からの磁界が磁界センサ20iのノイズレベル(この場合は0.1[mG:ミリガウス])以下となる位置が好ましい。
なお、この実施の形態においては、図1に示すように、外部磁界検出センサ44を、枠37を介して磁界センサ20iを有する磁界センサアレイ18と一体的に形成されているセンサホルダ36のパイプ部に一体的に固定するようにしている。このため、磁界センサアレイ18の位置が個々の被測定者14に対応するように支柱40を上下させてセンサホルダ36を上下させても、磁界センサ20iと外部磁界検出センサ44との空間上の位置関係が変化しない。この構成のため、各取付部39a〜39dにおいて、一旦、各磁界センサ20iの出力と、外部磁界検出センサ44の出力との相殺関係を調整して決定し、パーソナルコンピュータ26のハードディスク等に記憶格納しておけば、この相殺関係の再調整が不要となるという利点を有する。
図1に示す測定用スタンド38全体の材質は、磁気マーカ16からの磁界あるいは外部磁界を乱さないように、例えばプラスチック樹脂、木、アルミニウムあるいはステンレス等の非磁性体を用いることが好ましい。センサホルダ36及び枠37、ねじ35の材質も同様に非磁性体を用いることが好ましい。
図1及び図3に示すように、各磁界センサ20i及び外部磁界検出センサ44で検出された磁界は、アナログ信号として、配線66を介してAD変換器(アナログデジタル変換器)62に供給され、該AD変換器62によりデジタルデータとしての磁界強度の値に変換され、パーソナルコンピュータ26を構成する本体部50中のRAM及びハードディスクの所定領域に記憶される。
パーソナルコンピュータ26の本体部50は、上述したように、信号処理手段として機能し、この信号処理手段は、予め記録されているアプリケーションプログラムに基づき、後述するように、最尤度法等の繰り返し計算を利用し、AD変換器62を介して供給された磁界強度のデジタルデータから磁気マーカ16a〜16dの位置をリアルタイムに算出すると共に、外部磁界検出センサ44の出力に基づき外部磁界の大きさと方向を算出し、さらには、必要なときに、内部に磁気マーカ72を有する移動自由なポインタ70の先端の接触部位の位置を算出する。また、信号処理手段は、ポインタ70の先端の接触部位の位置を、磁気マーカ16を基準とする相対位置として記憶し登録し、必要なときに読み出す処理を行う。
このようにして、磁気マーカ16a〜16d等の3次元位置が測定される。本体部50は、測定した磁気マーカ16a〜16d等の位置をRAM及びハードディスクに記憶すると共に、これらの位置に基づき、モニタディスプレイ52上に、被測定者14に対応する人物の顎運動画像を動画としてリアルタイムに表示する。
この実施の形態に係る3次元顎運動測定システム10は、基本的には以上のように構成され、且つ動作するものであり、次に、図5に示す動作フローチャートを参照しながらその動作をさらに詳細に説明する。
まず、ステップS1では、各磁界センサ20iの出力値を、外部磁界検出センサ44の出力値で校正、いわゆるキャリブレーションしておく。この校正は、当該3次元顎運動測定システム10の製造業者(メーカー)の工場内の磁気シールドされた特定設備内等で行われる。
すなわち、平等磁界(地磁気程度の磁界)を外部磁界検出センサ44と各磁界センサ20iに、同時に、例えば、直交3軸であるX軸、Y軸、Z軸の順に順次作用させてゆき、各軸毎に、外部磁界検出センサ44と各磁界センサ20iの出力値との関係(例えば、外部磁界検出センサ44と各磁界センサ20iの出力の差)を、各磁界センサ20iの出力値が、0値あるいは無視できるほど小さい値となるような補正係数を決めておき、ルックアップテーブル(外部不要磁界相殺(校正)用ルックアップテーブル(表)という。)等を作成しておく。このルックアップテーブルは、パーソナルコンピュータ26の本体部50中の記憶媒体であるハードディスクに記憶しておく。なお、ルックアップテーブルに代替して計算式(外部不要磁界相殺(校正)用計算式)として、格納しておくこともできる。
すなわち、ルックアップテーブル(校正表あるいはキャリブレーションテーブル)又は計算式(校正用計算式)は、各平等磁界の外部磁界検出センサ44による検出磁界(ベクトル)をBreとし、各平等磁界の各磁界センサ20i(iはi番目の意味)による検出磁界(ベクトル)をBmeiとするとき、次の(1)式の値が0値あるいは最小となる値となるような補正係数kを、検出磁界Breを変数とする関数として決定しておく。
Bmei−kBre …(1)
このメーカ等でのキャリブレーションの後、3次元顎運動測定システム10は、例えば病院や診療所あるいは健康センター等の測定場所に納入される。
次に、ステップS2では、図1に示すような測定場所において、3次元顎運動測定システム10に電源が投入されると、該測定場所で磁界センサ20の出力が、外部磁界検出センサ44の出力で自動的に校正される。すなわち、測定場所において、外部磁界検出センサ44で検出される地磁気等外部磁界の減算割合である上記の補正係数kが、その測定場所での外部磁界(ベクトル)Brに基づいて、上記の校正表あるいは校正用計算式から自動的に算出される。
このように、実際の測定場所で磁界センサ20の出力を外部磁界検出センサ44の出力により補正するのは、地磁気等の外部磁界が時間の経過あるいは場所によって一定ではなく変化するからである。
従って、外部磁界検出センサ44を有する3次元顎運動測定システム10によれば、測定中に、たとえ、地磁気等の外部磁界が変化しても、そのような変動性のノイズ成分が自動的に除去される。
なお、測定場所において、電源が投入された時点では、磁気発生器15a、15bは、被測定者14に取り付けられていない。また、磁気発生器15a、15bは、磁界センサアレイ18及び外部磁界検出センサ44に影響を及ぼさないような十分離れた位置あるいは磁気シールド箱(不図示)内に置いてある。
次に、ステップS3では、椅子30に腰掛けている被測定者14に対して測定用スタンド38を対向配置することで磁界センサ20iを配置する。
この場合、測定用スタンド38を、図1の位置から被測定者14に向けて近づけ、磁界センサアレイ18のセンサホルダ36が所定位置、例えば、図6に示すように、横から見て、センサホルダ36の被測定者14側の先端が、被測定者14の顔の前面と略一致する位置として、測定用スタンド38のキャスタ43を固定する。
このステップS3では、さらに、被測定者14に対して磁界センサアレイ18を所定高さに配置調整する。具体的には、例えば、被測定者14の下顎(下顎骨)24中の下顎歯のうち、2本の中切歯Tiの位置(後に磁気発生器15bを取り付ける位置)と下側の磁界センサアレイ18bの高さが一致するようにセンサホルダ36を上下させ、一致した状態で固定用ねじ41によりセンサホルダ36を支柱40に固定する。
図7は、被測定者14に対して測定用スタンド38、換言すれば磁界センサ20iが配置された状態を示している。測定用スタンド38の幅L2(図1参照)は、被測定者14の最大幅である両上腕間の間隔を超える間隔に設定している椅子30の横幅L3よりも広くしてあるので、磁界センサ20iを有するセンサホルダ36を被測定者14に対し所望の位置に配置することができる。
この場合、外部磁界検出センサ44の高さ方向の位置は、被測定者14の太股に載せた腕の上側となるように設定しているので、被測定者14に接触することがない。
さらに、被測定者14の後頭部には、ヘッドレスト29を配置しているので、被測定者14は、自己の頭部をこのヘッドレスト29により圧迫なく自然に支えることができると共に、ヘッドレスト29が上下、左右、前後方向に移動できるようになっているので、磁気マーカ16の取付位置をできるだけ磁界センサアレイ18に近づけることができる。
このように、測定中において、被測定者14は、後述するように、きわめて小さい磁気発生器15だけが取り付けられただけの状態、換言すれば、身体的に直接圧迫のないきわめて自由な状態で、顎運動測定あるいは診査を受けることが可能である。図6及び図7に示すように、この測定中には、被測定者14の視界も測定装置によりほとんど制限されることがない。
従って、この実施の形態による3次元顎運動測定システム10を用いることで、ベルト固定磁界センサ組立体あるいは光源装置等により被測定者の頭部を固定するという不自由さが一掃される。そのため、従来装置では困難であった小児や高齢者に対しても適用が可能になる。
次に、ステップS4においては、図7に示すように被測定者14の顔面に対し、磁界センサアレイ18が対向配置された状態において、ねじ35を取り外して外部磁界検出センサ44が取り付けられた枠37を上下することで、上記(1)式の値が最小値となるように、当該測定位置における外部磁界検出センサ44の最適な高さを決定し、決定した高さ位置に最も近い位置にある取付孔39に、ねじ35により枠37、すなわち外部磁界検出センサ44を取付固定する。
3次元顎運動測定システム10による測定中に、外部磁界検出センサ44に関連してパーソナルコンピュータ26の本体部50で行われる演算は、各磁界センサ20i(iはi番目の意味)の校正前の出力値(測定磁界:ベクトル)をBmi0、外部磁界検出センサ44による検出磁界(ベクトル)をBrとし、上記補正表あるいは補正式に基づく定数をkとし、補正後の各磁界センサ20iの測定磁界をBmiとすれば、測定磁界(ベクトル)Bmiは、次の(2)式で表すことができる。
Bmi=Bmi0−kBr …(2)
この(2)式により、外部磁界の時間変動性のノイズを除くことができることが分かる。
この測定中には、被測定者14に取り付けられる磁気発生器15a、15bの1個に対して、少なくとも6個の成分(6軸成分)を有する磁界センサ20iが配置されるようにする。すなわち、磁気発生器15aを構成する磁気マーカ16a、16bに対しては、磁界センサアレイ18a内に磁界センサ201〜206を配置し、磁気発生器15bを構成する磁気マーカ16c、16dに対しては、磁界センサアレイ18bに磁界センサ2021〜2027を配置する。このようにすれば、6自由度(x,y,z,θ,φ,Ψ)の顎運動を観察することができる。
ただし、角度φと角度θとは、図8に示すように、原点Oからの座標(x,y,z)で定まるベクトルPのz軸からの傾き(方向角)φ、及びベクトルPをxy平面へ射影したときのx軸からの傾き(方向角)θを表す。また、角度Ψとは、図9に示すように、磁気マーカ16a〜16dの着磁方向Jを中心軸とする回転角Ψを示す。
次に、ステップS5では、磁気発生器15a、15bの配置と上下顎の特徴点のマーキング処理を行う。なお、図1に示す測定場所において、ステップS2〜S4の処理過程では、実際には、磁気発生器15a、15bは、被測定者14に取り付けられていない状態にある。
ここで、上下顎の特徴点のマーキング処理とは、上顎22あるいは下顎24の表面上の任意点、例えば下顎24でいえば下顎左右第一大臼歯中心窩の点や左右下顎頭近傍の点等の特徴点を、磁気発生器15bに対する相対座標として設定する処理である。
さらに詳しく説明すると、上下顎の特徴点のマーキング処理とは、被測定者14の顎に取り付けられる磁気発生器15a、15bにおける磁気マーカ16a〜16dの位置に対する、上下顎上の任意点の相対位置(相対的3次元位置)を認識させ、登録(記憶)する処理である。
そのため、まず、ステップS5aでは、下顎24の正面の1箇所、この場合、図6に示すように、被測定者14の下顎(下顎骨)24中の下顎歯のうち、2本の中切歯Tiに跨って、それらの歯冠の中央に、上述した磁気シールド箱等から取り出した磁気発生器15bを取り付ける。歯に取り付けるのは、歯は硬組織であり、下顎骨と略一体であると考えられるので、下唇等の軟組織に付けた場合に比較して、歯に取り付けることで下顎24の運動を正確に再現することができるからである。
次に、ステップS5bでは、下顎の任意点(所望点、特徴点、あるいは代表点)を設定するために、測定者等は、ラック46のポインタホルダ74からポインタ70を取り外し、ポインタ70の先端部76を、下顎歯列中の所定位置、例えば第2大臼歯Tm(図6参照)の咬合面中心窩に接触させ、取り付けられた磁気発生器15bの位置を基準とした第2大臼歯Tmの咬合面中心窩に対する3次元座標位置を、磁界センサアレイ18bの磁界センサ20iの出力により後述する最尤度法等により求める。
実際上、ポインタ70の先端部76を、被測定者14の第2大臼歯Tmの咬合面中心窩に接触させているとき、入力装置であるマウス56により、モニタディスプレイ52上の表示に従い、所定の箇所、例えば、画面中の「磁気マーカ付きポインタの接触中」と表示されている箇所をクリックすることで、そのときの磁界センサ20iの磁界からポインタ内部の磁気マーカ72の位置を求め、ポインタ70の先端部76の位置を求める。先端部76の位置が、第2大臼歯Tmの咬合面中心窩の位置である。
このようにして、中切歯Tiに跨って取り付けられた磁気発生器15bに対する下顎歯列中、左右の両第2大臼歯Tmの咬合面中心窩の相対位置を求め、パーソナルコンピュータ26の本体部50内のハードディスクに記憶して登録しておく。同様な手順で、下顎24のその他の特徴点、例えば下顎左右第一大臼歯中心窩の点や左右下顎頭近傍の点等の数点をマーキングし、磁気発生器15bの位置に対する相対位置を記憶して登録しておくことにより、磁気発生器15bの運動と同時にマーキングした数点の運動も測定することができる。
なお、被測定者14が、下顎24の任意点(特徴点、例えば下顎左右第一大臼歯中心窩の点や左右下顎頭近傍の点)のマーキング中に、頭部や顎部を動かさなければ、磁気マーカ16c、16dは必要とせずに、ポインタ70のみで下顎24の任意点のマーキングを行うことができるが、磁気発生器15bが取り付けられている場合には、ポインタ70の先端部76を被測定者14に接触させたときに頭部や顎部が動いてしまった場合においても、取り付けられている磁気発生器15bの磁気マーカ16c、16dに対する相対的位置として記憶できるため、下顎24の任意点に対して正確にマーキングを行うことが可能である。
また、ポインタ70による下顎任意点のマーキング(相対位置把握)では、ポインタ70の先端部76を所望点に接触させることによりその任意点を所望点として座標位置を記憶して登録するため、被測定者14の表面に出ている点のみしか座標位置を登録することができない。
しかし、実際には、被測定者14の内部の点の運動を計測する必要もあり、そのような場合には、その位置をパーソナルコンピュータ26により算出した上で登録することも可能である。例えば、左右下顎頭の近傍の点(耳珠のやや前方)を皮膚の上からポインタ70で指し示し、ポインタ70で指示し記憶した左右の点を結んだ直線に対し、内側へそれぞれ、例えば20[mm]動かした点をパーソナルコンピュータ26により算出することで、その点(左右顆頭点に対応する。)を登録することが可能である。
ステップS5bにおける下顎形状の特徴点の相対位置(磁気発生器15bの位置を基準とする位置)の登録処理が終了したとき、ステップS5cでは、ポインタ70をポインタホルダ74に返却しておく。
次に、ステップS5dでは、図2、図6等に示しているように、上顎22の側に磁気発生器15aを接着剤で取り付ける。
磁気発生器15aは、例えば、顔の中心線上で、且つ図6に示すように、額32中、磁界センサアレイ18aに取り囲まれるような高さの水平線上に取り付ける。なお、後述するように、上顎22の側に磁気発生器15aを取り付ける理由は、測定中に上顎22が動いてしまった場合においても、下顎24の運動から上顎22の運動を差し引きすることにより、下顎24のみの純粋な運動を検出して測定することを可能とするためである。
このようにして、額32側の磁気発生器15aの正面に磁界センサアレイ18aが対向配置され、下顎24側の磁気発生器15bの正面に磁界センサアレイ18bが対向配置されることになる。
なお、磁気発生器15aの取付箇所として、硬組織である上顎歯等を選定しないで、額32を選定したのは、前記額32が、上顎と一体的に形成されている前頭骨の前頭鱗上の軟組織(皮膚組織)であり厳密には剛体とはいえないが、下顎歯列に取り付けた磁気発生器15bとの距離が、例えば上顎22を構成する上顎歯に取り付けられた場合に比較して、5倍以上の距離となり、磁気マーカ16a〜16d同士の磁界の相互作用が軽減され、磁界センサアレイ18a、18bで磁気マーカ16a〜16d個々の磁界をより正確に検出できるからである。なお、磁気マーカ16a〜16dの磁化の方向(着磁方向J)は、図3、図6に示すように、被測定者14の正面を向くようにしているが、後述するように、正面を向かなくてもよい。また、磁気マーカ16a〜16dのそれぞれの着磁方向Jは、異なる方向に向いていても構わない。ここで、図6中、磁化の方向J及びこの磁界の方向Jを示す矢印を囲む長方形は、模式的なものであり、実際に存在するものではない。
次に、ステップS5eでは、上顎22の任意点(所望点、特徴点、あるいは代表点)を設定するために、測定者等は、ラック46のポインタホルダ74からポインタ70を再度取り外し、ポインタ70の先端部76を、上顎歯列中の所定位置、例えば第1大臼歯近心頬側咬頭頂に接触させ、取り付けられた磁気発生器15aの位置を基準とした3次元座標位置を、磁界センサアレイ18aの磁界センサ20iの出力により後述する最尤度法等により求める。
ここで、ポインタ70の先端部76を、被測定者14の上顎22の任意位置に接触させているとき、入力装置であるマウス56により、モニタディスプレイ52上の表示に従い、所定の箇所、例えば、画面中の「磁気マーカ付きポインタの接触中」と表示されている箇所をクリックすることで、そのときの磁界センサ20iの磁界からポインタ内部の磁気マーカ72の位置を求め、ポインタ70の先端部76の位置を求める。
このようにして、額32に取り付けられた磁気発生器15aに対する上顎左右第1大臼歯近心頬側咬頭頂の相対位置を求め、パーソナルコンピュータ26の本体部50内のハードディスクに記憶して登録しておく。同様な手順で、上顎22のその他の特徴点、例えば上顎左右犬歯尖頭や上顎左右中切歯の中点等の数点をマーキングし、磁気発生器15aの位置に対する相対位置を記憶して登録しておくことにより、磁気発生器15aの運動と同時にマーキングした数点の運動も測定することができる。
なお、被測定者14が、上顎22の任意点(特徴点、例えば上顎左右犬歯尖頭や上顎左右中切歯の中点)のマーキング中に、頭部を動かさなければ、磁気マーカ16a、16bは必要とせずに、ポインタ70のみで上顎22の任意点のマーキングを行うことができるが、磁気発生器15aが取り付けられている場合には、ポインタ70の先端部76を被測定者14に接触させたときに頭部が動いてしまった場合においても、取り付けられている磁気発生器15aの磁気マーカ16a、16bに対する相対的位置として記憶できるため、上顎22の任意点に対して正確にマーキングを行うことが可能である。
次いで、ステップS5eにおける上顎形状の特徴点の相対位置(磁気発生器15aの位置を基準とする位置)の登録処理が終了したとき、ステップS5fでは、ポインタ70をポインタホルダ74に再び返却しておく。
次に、ステップS6では、磁界センサアレイ18a内の磁界センサ20iの出力により、2個の双極子磁場(磁気マーカ16a、16bによるダイポール磁界)の分布から上顎に取り付けられた磁気マーカ16a、16bの位置・方向を求めると共に、磁界センサアレイ18b内の磁界センサ20iの出力により、2個の双極子磁場(磁気マーカ16c、16dによるダイポール磁界)の分布から上顎に取り付けられた磁気マーカ16c、16dの位置・方向を求める。ここでは、磁気マーカ16c、16dの位置・方向を求める方法について説明するが、磁気マーカ16a、16bの位置・方向についても、以下で説明する記号の添字を変更するだけで求めることができる。
まず、図9に示すように、固定点である絶対座標系X0Y0Z0の原点位置から、磁気マーカ16cの位置を示す下顎座標系XbYbZbの原点位置までの位置ベクトルp1と磁気マーカ16dの位置ベクトルp2を求める。
この場合、下顎座標系XbYbZbの原点は、上顎22あるいは下顎24中のどの位置でもよいが、ここでは、簡単のために、磁気マーカ16cの中心位置に一致しているものとする。また、絶対座標系X0Y0Z0の原点位置は、例えば、磁界センサアレイ18bを構成する左右の磁界センサ2021と2027を結んだ中点とする。
この仮定のもとで磁気マーカ16aの原点座標、換言すれば、下顎座標系XbYbZbの原点座標を、位置及び方向角(姿勢角、回転角)のパラメータ(6自由度情報)で表して、P(x,y,z,θ,φ,Ψ)とする。
この場合、磁界センサアレイ18bの各磁界センサ20iで検出される測定磁界Bmiと、それぞれ磁気モーメントが既知である各磁気マーカ16c、16dの各双極子磁界(ダイポールフィールド)の各磁界センサ20iの位置での計算値である計算磁界をBciとするとき、測定磁界Bmiと計算磁界Bciとから、次の(3)式により最尤度法等により、前記ベクトルP(x,y,z,θ,φ,Ψ)の各パラメータを求める。図2の磁界センサ20iの配置例の場合、(3)式中、Σの範囲は、i=21〜62である。
Σ(Bmi−Bci)2=0又は極小値 …(3)
この場合、マーカ数及び磁気モーメントが既知であるので、最尤度法のパラメータが減少し、且つ収束性及び精度を向上させることができる。
この(3)式の最小自乗法による最尤度法で、複数のダイポールの位置及び方向を求める計算を詳しく説明する。
まず、上記(3)式を、以下の(3−1)式の評価関数S(p)と置く。
S(p)=S(p1、p2)=Σ(Bmi−Bci)2=0
又は最小値 …(3−1)
ただし、(3−1)式において、各値は以下の通りである。
Bci=(1/4πμ)×
[{(−M1/p1 3)+(3(M1・p1)p1/p1 5)}
+{(−M2/p2 3)+(3(M2・p2)p2/p2 5)}] …(3−2)
(M1・r1)と(M2・r2)における「・」はベクトルの内積
ベクトルp1=(xi−x,yi−y,zi−z)
ベクトルp2=(xi−x,yi−y,zi−z)−d(−sinθcosΨ,cosφcosθcosΨ−sinφsinΨ,sinφcosθcosΨ+cosφsinΨ)
ベクトルp1:磁気マーカ16cの位置ベクトル、方向
ベクトルp2:磁気マーカ16dの位置ベクトル、方向
(xi,yi,zi):i番目の磁界センサ20iの位置ベクトル
n:磁界センサ20iの成分数
ベクトルM1、M2:それぞれ磁気マーカ16c、16dの磁気モーメント(既知)
上記のように定義される(3)式において、評価関数S(p)が、ベクトルp=qにおいて極小値をとれば、mを後述するパラメータの数として下記(3−3)式が成立する。
(∂S(p)/∂pj)|p=q=0(j=1,2…m) …(3−3)
上記(3−1)式を、この(3−3)式に代入して展開すれば、Σの範囲をk=1〜mとして、次の(3−4)式が得られる。
Σ(∂2S/∂pj∂pk)Δpk=−(∂2S/∂pj),(j=1,2,…m) …(3−4)
この(3−4)式は、m行m列の行列式による連立方程式であり、これを解いてベクトルΔpkを求め、ベクトルp(i+1)=ベクトルpi+ベクトルΔpkから最適解であるベクトルqを求めることができる。
なお、磁界Bmi、Bciの距離による一階微分値を求め、この一階微分値と測定磁界Bmiのみに対して最尤度法を適用することで、磁界が距離の3乗に比例することを考慮すると、精度を向上させることができる。
全ての磁界センサ20iの測定磁界Bmiを用いることで、精度を向上させることができる。なお、所定以上の磁界強度の得られる磁界センサ20iの測定磁界Bmiを用いることで、精度の悪化を小さく保持しながら、計測時間を大幅に短縮することができる。
上記の(3)式のように、磁気モーメントを用いて計算する場合に、磁気マーカ16c、16dの相互作用が小さい場合には、そのまま用いてよいが、相互作用が無視できない場合には、実効的な磁気モーメントを算出する必要がある。
さらに、磁界を検出するサンプリング間隔を、顎の動きが10〜20[mm]以内となる時間に設定することで、収束性が向上し、顎の動きを円滑に追跡することができる。
このようにしても、(3)式の演算が収束しなかった場合、あるいは収束した場合においても、パラメータの解が前後の軌跡から不自然な場合には、その点における解を除いて、その前の時刻の解を初期値として演算を繰り返せばよい。
上述したステップS6において、磁気マーカ16c、16dの着磁方向Jが、図10に示すように、異なる着磁方向Jc(磁気マーカ16cの着磁方向)、Jd(磁気マーカ16dの着磁方向)である場合の収束計算について説明する。この場合、着磁方向Jcに対して、着磁方向Jdが角度φd、角度θdだけ傾いている。すなわち、着磁方向Jcに対する着磁方向Jdの相対的な磁界発生方向は、角度φd、角度θdで示される方向である。
このような相対的な磁界発生方向が存在する場合には、(3−2)式に示すθを(θ+θd)に置き換え、φを(φ+φd)を置き換えた上で収束計算を行う。これにより、磁気マーカ16c、16dの着磁方向Jc、Jdが被測定者14の正面を向いていなくても、磁気マーカ16c、16dの位置・方向を求めることができる。
また、上述したステップS6の説明は、磁気マーカ16c、16dの位置・方向を求める方法であったが、磁気マーカ16a、16bの位置・方向を求める場合には、座標系XbYbZbを図11に示す上顎座標系XuYuZuに置き換え、さらに、磁界センサ20i(図2、図3等参照)のiを、i=1〜20に設定することにより、磁気マーカ16a、16bの位置・方向を求めることができる。
なお、この計算は、顎関節を介する顎運動で説明しているが、顎運動に限らず、磁気マーカ16a〜16dが取り付けられる運動する物体として、人体中、手指、上肢、下肢等、各関節を介して運動する物体に対しても同様に適用することができる。
次に、ステップS7では、磁気マーカ16a〜16dの位置・方向から上顎22及び下顎24の物体のパラメータ(6つの位置及び相対的方向から構成される6自由度情報)を求める。具体的には、ステップS5のマーキング処理によってパーソナルコンピュータに記憶された上顎22及び下顎24の特徴点間の相対的な位置関係と、ステップS6から得られた磁気マーカ16a〜16dの位置・方向を用いて、上顎22及び下顎24の相対的運動を算出する。
この相対的運動を、ステップS8では、下顎24の動きとしてモニタディスプレイ52上の画像に変換して表示させることができる。すなわち、額32の磁気発生器15a及び磁気マーカ16a、16bに移動が発生していても、それが画面上では固定点となるように処理し、且つ顎運動に伴う磁気マーカ16c、16dの位置の移動と共に、ステップS5bで登録してある複数の特徴点の位置を読み出して同時に移動させて表示させることができる。
この下顎24の動きは、ハードディスクあるいはデジタルビデオディスク等に記録することが可能であるので、何回でも再生することが可能となり、また、スロー再生、スチル再生、高速再生も可能となることから、さまざまな視点から顎運動を診断することが可能となる。
また、本実施の形態に係る3次元顎運動測定システム10は、上述した上顎22に対する下顎24の相対的な運動の計測に加え、絶対座標系X0Y0Z0(図9参照)に対する上顎22の運動及び下顎24の運動をそれぞれ算出して、これらの運動をモニタディスプレイ52上の画像に変換し、一括して表示させることも可能である。
この場合には、ステップS7、S8の代わりに、ステップS6の後のステップ9において、磁気マーカ16a、16bの位置・方向から上顎22の物体のパラメータ(6自由度情報)を求め、磁気マーカ16c、16dの位置・方向から下顎24の物体のパラメータを求める。
具体的には、ステップS5のマーキング処理によってパーソナルコンピュータに記憶された上顎22及び下顎24の特徴点間の相対的な位置関係と、ステップS6から得られた磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向とを用いて、上顎22及び下顎24の特徴点(代表点)の位置座標をそれぞれ求める。この場合、ステップS5において、磁気発生器15a、15bの配置と上下顎の特徴点とが、それぞれマーキング処理されているので、前記代表点の位置座標を容易に求めることができる。これにより、上顎22の運動と下顎24の運動とをそれぞれ算出することができる。
次いで、ステップS10において、算出された上顎22及び下顎24のそれぞれの運動を、絶対座標系X0Y0Z0の原点Oを基準とする上顎22及び下顎24の動きとしてモニタディスプレイ52上の画像に変換して一括して表示させる。この場合も、上顎22の運動及び下顎24の運動に伴う磁気マーカ16a〜16dの位置の移動と共に、ステップS5で登録してある複数の特徴点の位置を読み出して同時に移動させて表示させることができる。
なお、上述した絶対座標系X0Y0Z0の原点位置は、図9に示すように、例えば、磁界センサアレイ18bを構成する左右の磁界センサ2021と2027を結んだ中点としてもよいし、あるいは、磁界センサアレイ18aを構成する上下の磁界センサ201と205を結んだ中点としてもよい。本実施の形態に係る3次元顎運動測定システム10は、いずれの中点を選択して、上顎22及び下顎24のそれぞれの運動を計測しても、絶対座標系X0Y0Z0に対する上顎22の運動及び下顎24の運動を一括してモニタディスプレイ52上に表示させることができる。
上顎22及び下顎24のそれぞれの動きは、ハードディスクあるいはデジタルビデオディスク等に記録することが可能であるので、何回でも再生することが可能となり、また、スロー再生、スチル再生、高速再生も可能となることから、さまざまな視点から顎運動を診断することが可能となる。
ここで、1つの実験結果を図12に示す。この実験結果は、3次元顎運動測定システム10を用いて、上顎22に対する下顎24の相対的運動を測定した結果である。なお、図12では、絶対座標xyzの原点Oを、図13に示すように、右下顎頭の近傍の点(耳珠のやや前方)に設定しているが、この絶対座標xyzの原点Oは、前記右下顎頭の近傍の点に限定されることはなく、下顎24の左右中切歯(磁気発生器15bの貼付位置)のような硬組織上に設定することもできる。
この場合、y=0[mm]においてz=−2[mm]程度であり、yの増加に伴ってzは減少し、y=55[mm](被測定者14の正面の中央部分)においてz=−40[mm]となる。つまり、図12において座標zの変化は、被測定者14の口腔(図13参照)が開いていることを示している。
図12に示すように、y=0〜55[mm]の変化に対して、座標xはx=10〜15[mm]の範囲で変化する。
一方、y=0〜55[mm]の範囲で変化すると、角度θは5°程度変化し、角度φは40°程度変化し、角度Ψは5°程度変化している。これらの結果より、3次元顎運動測定システム10を用いれば、上顎22に対して下顎24が6自由度の相対的運動を行っていることを容易に理解することができる。なお、角度Ψの変化は下顎24の顎関節部での運動によって発生する。
このように上述した実施の形態によれば、運動する2つの物体である上顎22と下顎24に対して、それぞれ少なくとも2つの磁気マーカ16a〜16dを有する磁気発生器15a、15bを取り付けて、各磁気マーカ16a〜16dから発生する磁界を、これらに対向して配置した磁界センサアレイ18a、18bを構成する磁界センサ20iにより非接触で検出している。
そして、磁界センサ20iにより検出した磁界から、各磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向を求め、求めた各磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向と、上顎22及び下顎24の位置情報とに基づき、上顎22に対する下顎24の相対的運動が行われているときの、上顎22及び下顎24の任意の位置及び方向の6自由度情報を算出するようにしている。
この場合、非磁性体からなる固定部材13の上面に2つの磁気マーカ16a〜16dを接着剤等で固定されることにより磁気発生器15a、15bが構成される。そして、磁気発生器15a、15bの側面を接着剤等で上顎22と下顎24とに取り付けるようにしている。これにより、2つの磁気マーカ16a、16b間及び2つの磁気マーカ16c、16d間の相対距離である距離dが固定部材13によって固定されることになる。
下顎24が上顎22に対して相対的な運動を行った場合に、磁気マーカ16a〜16dにより発生した磁界には、磁気マーカ16a〜16dの着磁方向Jを軸とする角度Ψの成分が含まれてくる。そのため、磁界センサ20iで前記磁界を検出し、前記磁界の検出結果から磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向を求めると、前記位置及び方向には前記角度Ψが含まれてくる。すなわち、磁気マーカ16a〜16dの位置及び方向は、角度Ψを含む6つの位置及び方向(6自由度情報)(x、y、z、θ、φ、Ψ)で記述される。従って、上顎22に対する下顎24のような相対的な運動(6自由度運動)の測定を容易に行うことができる。
また、磁気マーカ16a〜16dの磁界の方向が予め既知であれば、2つの磁気マーカ16a、16bを固定部材13で固定して磁気発生器15aを構成し、2つの磁気マーカ16c、16dを別の固定部材13で固定して磁気発生器15bを構成することにより、一方の磁気マーカ16a、16cの磁界の方向に対する、他方の磁気マーカ16b、16dの磁界の方向(相対的な磁界発生方向)も既知となる。これにより、例えば、磁気マーカ16c、16dが異なる着磁方向Jc、Jdを有し、磁気マーカ16c、16d間に相対的な磁界発生方向が存在する場合であっても、角度φd、角度θdを考慮することにより、被測定者14の上顎22及び下顎24に関する6自由度運動の計測を容易に行うことができる。
また、上顎22に取り付けられた磁気発生器15aの磁気マーカ16a、16bで発生する磁界を、磁界センサアレイ18aの磁界センサ20iで検出し、下顎24に取り付けられた磁気発生器15bの磁気マーカ16c、16dで発生する磁界を、磁界センサアレイ18bの磁界センサ20iで検出している。すなわち、磁気マーカ16a、16bの磁界と、磁気マーカ16c、16dの磁界とを、異なる磁界センサ20iで独立して検出することができる。
そのため、従来の3次元運動測定装置100のように、発生する磁界が干渉し合って、磁界センサ20iの測定精度が低下するという問題を回避することができる。これにより、磁界センサ20iの測定精度が向上し、小さな磁界しか発生できないような小型の磁気マーカ16a〜16dを磁気発生器15a、15bに用いることができる。従って、磁気発生器15a、15b及び3次元顎運動測定システム10の小型化を図ることができる。
また、磁気マーカ16a、16bの磁界と、磁気マーカ16c、16dの磁界とを、異なる磁界センサ20iで独立して検出しているので、上顎22の運動と下顎24の運動とを別々に調べることも可能である。このように、3次元顎運動測定システム10は、上顎22及び下顎24の相対的運動の測定に限定されることはなく、それぞれの物体の運動を測定することも可能である。
また、固定部材13を上顎22及び下顎24に沿った形状に形成してから、磁気発生器15a、15bを被測定者14に対して取り付ければ、磁界センサ20iで検出される磁界の検出精度がさらに向上して、3次元顎運動測定システム10の測定精度をより一層向上させることができる。また、被測定者14の負担を軽減することも可能である。
また、磁気発生器15a、15b、特に磁気マーカ16a〜16dは、比較的小さく軽く、且つ配線の必要がなく、さらには口腔内など遮蔽された空間でも使用が可能なため、被測定者14、特に小児や高齢者に対しては、ほとんど不自由なく、より自然な状態での運動を測定することが可能である。
また、磁界センサ20iは、CCDカメラに比較して廉価であるので、大幅に廉価な3次元運動測定装置を提供することができる。さらに、図2に示すように、被測定者14の視界をできるだけ妨げないように設計されているため、被測定者14に圧迫感を感じさせず、その点においても被測定者14に優しい測定装置であるということができる。
また、上述した実施の形態によれば、顎運動を測定中において、磁界センサ20iによる測定領域(磁界検出領域)内の磁気マーカ16の数は2個としている。一般に、磁界検出領域内の磁界の数が少ないほど位置検出精度が高まるので、2個のみの磁気マーカ16a、16b(16c、16d)を測定するようにした上述の実施の形態によれば、きわめて高精度に磁気マーカ16a、16b(16c、16d)の位置を検出することができる。なお、額32に取り付けられている磁気発生器15aの磁気マーカ16a、16bは、上顎22に対する下顎24(磁気マーカ16c、16d)の相対的運動を測定するために(下顎24の純粋な運動を抽出するために)用いている。従って、顎運動中に、上顎22が少々移動しても、その移動を除去することができる。
なお、本発明に係る3次元運動測定装置及びその方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。