以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路を備えたエンジンの要部分解斜視図である。
図1に示すエンジン100は、ピストン102を進退自在に収納するシリンダ部106及びシリンダヘッド104を有するエンジン本体部110と、クランクケース112(図10参照)に収納されるクランク軸130と、可変バルブ駆動装置200とを有する。
なお、エンジン100は、クランク軸130と略平行に配置された可変バルブ駆動装置200によって、排気カム駒220と吸気カム駒240との回転に周期的な位相差を設け、それぞれの回転に対応して開閉するバルブタイミングを可変させる。これにより、エンジン回転数に対応してバルブオーバーラップ時間は可変となる。
本実施の形態では、エンジン100は、スクータ型自動二輪車500(図9参照)に搭載される単気筒SOHC(Single Over Head Camshaft)型のものとして説明する。なお、エンジン100は、単気筒SOHC型のものとして説明するが、これに限らず、可変バルブ駆動装置200を有するものであれば、どのようなエンジンとしてもよい。
図1に示すように、シリンダ部106内のピストン102は、シリンダ部106内でシリンダ軸方向に進退動(上下動)自在に配置され、ピストン102の基端部側で、コンロッド108を介してクランク軸130に接続される。なお、コンロッド108は、クランク軸130に設けられたクランクウェブ132間のクランクピン(図示省略)に回動自在に取り付けられる。これにより、ピストン102は、クランク軸130の回転駆動に伴いシリンダ部106内を進退動する。
また、クランク軸130上には、クランクウェブ132(詳細には、クランクジャーナル)に隣接してタイミングギア134が設けられている。このタイミングギア134には、駆動力伝達部材としてのカム駆動チェーン133が巻回されている。このカム駆動チェーン133は、タイミングギア134とともに、エンジン本体部110におけるシリンダヘッド104内に配置されるカムスプロケット211に巻回され、可変バルブ駆動装置200のカム駒220、240に回転駆動力を伝達する。
このカム駆動チェーン133の伝達ライン(この実施の形態では、チェーンライン)は、クランク軸130に対して略直交し、且つ、内部でピストン102が進退動するシリンダ部106のシリンダ軸に接近させた位置に配置されている。これは、エンジンの構造上、ピストン102を駆動するクランク部からカム駆動チェーン133が離間する程、カム駆動チェーン133に引っ張り力が加わり、クランク自体に加わる曲げ応力が大きくなるのを防ぐためである。
カム駆動チェーン133は、エンジン本体部110においてシリンダ部106に隣接して一体的に設けられたチェーンケース部116内に配置されている。なお、チェーンケース部116の上部(以下、「ケース上部」という)116aは、シリンダヘッド104に設けられ、このケース上部116aは、シリンダヘッド104において、クランク軸と平行な方向に開口している。これら開口のうち一方の開口部116bは、シリンダ部106上方の空間に連通し、他方の開口部116cには、環状のシリンダヘッドカバー(以下、「ヘッドカバー」という)105が取り付けられている。この環状のヘッドカバー105には、可変バルブ駆動装置200の一端部側が配置され、可変バルブ駆動装置200は、その一端部側でヘッドカバー105に支持されている。
可変バルブ駆動装置200は、カムスプロケット211、排気カム駒220、可変カム軸230、吸気カム駒240、偏心プレート(偏心部材)250、偏心ボス(部材移動部)260、偏心用モータ270を有し、シリンダヘッド104に、クランク軸130と平行に取り付けられる。
図2は、シリンダヘッド104に取り付けられた可変バルブ駆動装置200を示す要部断面図、図3は、同可変バルブ駆動装置200の分解斜視図である。
この可変バルブ駆動装置200では、カムスプロケット211、排気カム駒220、可変カム軸230、吸気カム駒240、偏心プレート250、偏心ボス260のそれぞれの回転軸は互いに平行となっている。
この可変バルブ駆動装置200では、図1から図3に示すように、吸気カム駒240及び排気カム駒220は、可変カム軸230が挿通された状態で、シリンダヘッド104内におけるシリンダ部106の上部に配置されている。また、可変カム軸230は、カムスプロケット211に挿通され、このカムスプロケット211及び偏心プレート250はケース上部116a内に配置されている。
そして、偏心ボス260は、環状のヘッドカバー105内に回動自在に取り付けられ、このヘッドカバー105がシリンダヘッド104に固定されることにより、可変バルブ駆動装置200はシリンダヘッド104に固定されている。
図1から図3に示すように、カムスプロケット211は、同一軸心を有し、回転することによりバルブ(ここでは、排気バルブ)を開閉する排気カム駒220と筒状部224を介して一体的に形成されている。つまり、これらカムスプロケット211、筒状部224及び排気カム駒220とで、クランク軸130の駆動力を直接受けて回転するカム駆動体210を形成している。
カムスプロケット211は、タイミングギア134(図1参照)及びカム駆動チェーン133(図1参照)を介してクランク軸130の駆動に従動し、クランク軸130の回転数に対して一定の減速比で回転する。ここでは、カムスプロケット211は、クランク軸130の回転の1/2の速度で回転している。
カムスプロケット211及び排気カム駒220の軸心は、カムシャフト軸心であり、カムシャフト軸心は、シリンダ部106の上部でクランク軸130(図1参照)と平行に配置されている。
また、カムスプロケット211には、図1から図3に示すように、カムスプロケット211の回転軸方向と平行に、且つ、排気カム駒220に対して逆側に向かって突出し、偏心プレート250を回転駆動させる駆動ピン212が設けられている。なお、駆動ピン212は、偏心プレート250の中心側から半径方向に切り欠かれたスロット252に遊嵌されている。
駆動ピン212の軸心は、カムスプロケット211の軸心に対して偏心しており、カムスプロケット211が回転すると、カムスプロケット211の軸心の回りを周回し、スロット252を介して、回転軸が平行な偏心プレート250を回転駆動する。なお、このカムスプロケット211には、半径方向に突出する突起片114が取り付けられている。
この突起片114は、その回転位置をシリンダヘッド104に取り付けられたセンサ114aにより検知される。
また、カムスプロケット211には、カム駆動チェーン133(図1参照)を介してクランク軸130の駆動力が直接伝達されるため、カムスプロケット211の回転位置は、クランクの行程に連動する。つまり、回転位置には、クランクの行程(4サイクルの場合、吸入行程、圧縮行程、爆発行程及び排気行程)の情報が含まれる。このため、センサ114aがカムスプロケット211の突起片114の位置を検出することによって、クランク行程を判別できる。
また、カムスプロケット211、排気カム駒220及び筒状部224のそれぞれの同一の軸心部分、つまり、カム駆動体210の軸心部分には、軸方向に貫通する挿通孔215が設けられている。なお、この挿通孔215は、排気カム駒220のベースサークル面に開口する孔部223と連通している(図2参照)。
挿通孔215には、可変カム軸230の軸部230aが軸方向に回転自在に挿通されている。
可変カム軸230の軸部230aは、挿通されるカム駆動体210から軸方向に両側で突出し、排気カム駒220側で突出する部分には、排気カム駒220と隣り合う吸気カム駒240が一体的に取り付けられている。
また、可変カム軸230は、軸部230aにおいて、カム駆動体210のカムスプロケット211側で突出する部分に従動ピン232を有する。
可変カム軸230は、カム駆動体210に挿通された状態で、シリンダ部106の上方を横切るように配置されている。そして、可変カム軸230は、ベアリング104a及びベアリング113により回動自在に支持されている。
また、可変カム軸230は、軸部230a内に軸方向に貫通する貫通孔238を有し、この貫通孔238は、可変バルブ駆動装置200における部材同士の摺動部分に供給される潤滑油の潤滑路となっている。以下では、貫通孔238を潤滑路238として説明する。
詳細には、この潤滑路238は、カム駆動体210(特に、カムスプロケット211)の回転軸を貫通して設けられ、カム駆動体210の他端部側における吸気カム駒240の摺動部分に潤滑油を供給する。また潤滑路238は、カム駆動体210の一端部側における偏心プレート250の摺動部分に潤滑油を供給する。
また、潤滑路238は、分岐油路239a、239b、239cにより軸部230aの外周面と連通するとともに、軸部230a内のチェーンライン側に設けられた絞り235を介して一端面側に開口されている。
潤滑路238は、分岐油路239a、239b、239cとともに、可変バルブ駆動装置200における潤滑油路290を形成している。
分岐油路239a、239b、239cは、軸部230aに、それぞれ潤滑路238から直交するように形成され、それぞれ軸部230aの外面部分に開口している。
分岐油路239a、239bが開口する外面部分には、軸部230aの円周方向に窪み状に形成された油だまり溝236、237が設けられ、分岐油路239a、239bは、油だまり溝236、237に連通している。
これら油だまり溝236、237は、筒状部224及び排気カム駒220の内周面部分を構成する挿通孔215の内周面に接触して摺動する部分に形成され、分岐油路239a、239bに案内される潤滑油により潤滑される。
また、分岐油路239cは、軸部230aに、潤滑路238から直交するように形成され、吸気カム駒240の孔部245に連通する外面部分に開口している。
これにより、分岐油路239cにより案内される潤滑油は、軸部230aと吸気カム駒240との摺動部分に供給され、この摺動部分を潤滑する。なお、吸気カム駒240において軸部230aの外周面上を摺動する部分には、吸気カム駒240の開口部の内周面に沿って油だまり溝246が形成されている。
また、可変カム軸230の一端部は、シリンダヘッド104において、シリンダヘッド104に取り付けられたベアリング113に挿入されている。ベアリング113から突出する部位には、オイルシールキャップ115が被せられ、オイルシール部117によりシリンダヘッド104外部に潤滑油が漏れないようにしている。
なお、シリンダヘッド104の一端部側には、オイルポンプの吐出口118が設けられている。この吐出口118を介して潤滑油は、軸部230aの一端部の開口230cと連通するオイル溜まり119に圧入され、このオイル溜まり119を介して、潤滑路238内に案内される。
吸気カム駒240は、軸部230aの一端部側に外嵌されるとともに、ピン241を吸気カム駒240に形成された切欠部243(図3参照)に嵌合することにより固定されている。なお、吸気カム駒240は、排気カム駒220とともに、シリンダ部の上方に配置されている。
この吸気カム駒240は、可変カム軸230の軸心を中心に回転した際に、同軸心を中心に回転駆動する。また、吸気カム駒240には、図2に示すように、ベースサークル面と、軸部230aの一端部に外嵌する開口部内面とを貫通する孔部245が形成されている。なお、この孔部245は、軸部230a内の潤滑路238と連通している。
この構成により、吐出口118から潤滑油が吐出されると、シリンダヘッド104内において、潤滑油は、分岐油路239c、239b、239aを介して、吸気カム駒240、排気カム駒220のそれぞれの摺動部分及びそれぞれのカムプロファイル部分に供給される。
つまり、この潤滑路238は、他端部側で偏心プレート250に隣接し、一端部に吸気カム駒240が取り付けられた可変カム軸230の軸部230a内を、軸方向に貫通して形成されている。言い換えれば、潤滑路238は、吸気カム駒240、排気カム駒220を貫通するとともに、排気カム駒220に隣り合うカムスプロケット211を貫通して、偏心プレート250に至る。
さらに、言い換えれば、潤滑路238は、一端部側から順に吸気カム駒240、排気カム駒220、カムスプロケット211が外嵌された可変カム軸230において、一端側からカムスプロケット211を貫通して、他端部側で絞り235を介して開口している。
絞り235は、バルブ駆動部分(排気カム駒220、吸気カム駒240)側と、可変機構部分(偏心プレート250、駆動ピン212、従動ピン232、スロット252、254等)側とに供給する潤滑油量を最適に分配する。
このように、潤滑路238は、シリンダヘッド104内をシリンダ部106の上部で横断している。これにより、軸部230aの一端部側から供給される潤滑油は、クランク軸130により直接駆動するカムスプロケット211を超えて、絞り235を介して軸部230aの他端部側の偏心プレート250まで流れる。
この軸部230aの他端部側には、軸部230aの軸心と直交して張り出したプレート234が取り付けられている。このプレート234は、軸部230aの回転に伴い、カムスプロケット211に隣接する位置で回転する。
このプレート234には、軸部230aが延びる方向とは逆方向に突出して従動ピン232が設けられている(図1から図3参照)。
この従動ピン232は、軸部230aの軸心と平行で、且つ、軸部230aの軸心に対して偏心した位置に位置し、軸部230aを挟んで、駆動ピン212と対向配置される。
そして、この従動ピン232は、偏心プレート250において、偏心プレート250の中心から半径方向に切り欠かれたスロット254に遊嵌し、偏心プレート250の回転によって、軸部230aの軸心の回りを周回する。つまり、カムスプロケット211の回転とともに回転する駆動ピン212が偏心プレート250を回転駆動させると、従動ピン232を介して、偏心プレート250の回転により従動する可変カム軸230の回転に伴い、吸気カム駒240も回転する。
偏心プレート250は、可変カム軸230のプレート234に隣接配置される板状のプレート本体部256の中央部にプレート軸部258が設けられ、プレート本体部256には、プレート軸部258を挟んで、駆動ピン212及び従動ピン232がそれぞれ遊嵌するスロット252及びスロット254が同一直線上に形成されている。
プレート軸部258は、プレート本体部256に対して垂直に、且つ、プレート234とは逆側に突出して設けられ、偏心ボス260に形成された偏心孔262に、回動自在に挿入されている。
偏心孔262は、シリンダヘッド104に取り付けられるヘッドカバー105内部に回転自在に配置される偏心ボス本体部264に、その回転中心R(図3参照)に対して偏心した位置に形成されている。そして、このボス本体部264の外周の一部に設けられたラック266が、ヘッドカバー105に取り付けられる偏心用モータ270のウォームギア272に歯合されている。よって、偏心用モータ270の駆動により、偏心孔262の位置は、ボス本体部264の回転中心R(図3参照)に対して偏心した位置を移動可能となる。
つまり、偏心ボス260は、偏心プレート250に、カムスプロケット210とは逆側で隣接して配置され、偏心プレート250のプレート軸部252を、カムスプロケット211の回転軸に対して同軸位置から偏心位置に移動させる、
図4は、偏心ボス260の回転中心Rと、可変カム軸230の軸心Cと、偏心プレート250の軸心Eとの位置関係を示す図である。
図4に示すように、偏心ボス260は、ヘッドカバー105に回動自在に内嵌され、偏心用モータ270(図1〜図3参照)により、回転中心(ボス中心)Rを中心に回転する。なお、回転中心Rは、エンジン側に固定されており、可変カム軸230や排気カム駒220及び吸気カム駒240の回転軸心Cに対する軸心(偏心中心)Eの回転する回転中心となっている。
偏心ボス260の偏心孔262に、プレート軸部258、つまり、偏心プレート250の軸心Eが回動自在に挿入されているため、偏心ボス260の回転により、偏心プレート250の軸心(偏心中心)Eは、回転中心(ボス中心)Rを中心に円弧状に移動する。また、この軸心Eの移動線上に、可変カム軸230の軸心C、つまり、排気カム駒220及び吸気カム駒240の軸心Cが配置されている。
この偏心ボス260のボス中心Rを中心とする回動により、偏心プレート250の軸心Eを、可変カム軸230の軸心Cと偏心させて、カムスプロケット211と一体の排気カム駒220の回転に対して、可変カム駆動軸と一体の吸気カム駒240の回転に位相差を設けることができる。
また、この偏心ボス260の回動によって、軸心Eと、軸心Cとを一致させることができる。これら軸心Eと軸心Cとが一致した位置、つまり、偏心ボス260における偏心孔262の軸心Eの位置と可変カム軸230における軸心Cの位置とが重なる位置で偏心ボス260を固定できる。これにより、偏心プレート250と可変カム軸230とを、同一軸心を中心に回転させることができる。
偏心ボス260のヘッドカバー105内における回転角度位置は、図2に示すように、偏心ボス260に設けられた角度センサ部26、27により検出する。このように検出された情報と、エンジン回転及びエンジン負荷等のエンジン側から得られる情報と、図示しない操作部を介してユーザから入力される情報などを用いて、偏心孔262の偏心位置は、図示しない制御部により、予め設定された位置に制御される。
ここで、偏心ボス260の構造について説明する。
図5は偏心ボスの分解斜視図である。
図5に示すように、偏心ボス260の偏心ボス本体部264は、有底円筒状をなし、内部に偏心孔262が形成された本体ケース264aに、蓋部264bを取り付けることにより構成される。
本体ケース264aには、偏心孔262の周囲に隔壁265a、265b、265cにより仕切られた隔室267a、267b、267cが設けられている。
隔室267aの底面部分には、隔室267と、偏心ボスの裏面側、つまり、偏心プレート250側とを連通する空気穴268が設けられている。また、この隔室267aの周壁部には、偏心ボス本体部264の外部と連通するオイル戻り穴268aが形成されている。
また、隔壁265a、265bには、切欠部269が設けられ、隔室267aと隔室267b、隔室267bと隔室267cとを連通させている。
蓋部264bは、隔室267a、267b、267cを覆う。この蓋部264bには隔室267cの天井部分に開口部264cが形成されている。
このように、偏心ボス260は、空気穴268、隔室267a、267b、267c、切欠部269及び開口部264cを介して、軸方向、つまり、表裏面側に連通した構成となっている。言い換えれば、偏心ボス260内には、カムスプロケット211の回転軸方向に連通する中空部としての隔室267a、267b、267cが設けられている。
つまり、偏心ボス260は、ヘッドカバー105を介してシリンダヘッド104に取り付けられた状態で、ヘッドシリンダ内外を連通させている。
またヘッドカバー105内部には、偏心ボス260の回転軸心と平行に、オイル戻り穴105aが形成されている。これにより、偏心ボス260内に偏心プレート250側からの潤滑油が流入した場合、隔室267a内部と連通するオイル戻り穴268aとともに、エンジン100内部に潤滑油を戻す。つまり、隔室267a、267b、267cは、エンジン100内で生じたブローバイガス中の潤滑油をエンジン100外に排出することを防止するブリーザ室として機能している。
次に、本実施の形態における可変バルブ駆動装置200の動作について説明する。
図1〜図3に示す可変バルブ駆動装置200では、クランク軸130の回転より、カム駆動チェーン133を介してカムスプロケット211がクランク軸130回転の1/2の回転で駆動する。カムスプロケット211に、筒状部224を介して一体的に設けられた排気カム駒220は回転駆動する。つまり、排気カム駒220は、クランク軸130の回転に同期して回転する。
また、カムスプロケット211の回転により、偏心プレート250のスロット252に遊嵌された駆動ピン212が、スロット252を介して、偏心プレート250を、プレート軸部258を中心に押圧し、偏心プレート250を回転させる。この偏心プレート250の回転中心、つまり、プレート軸部258の位置は、偏心用モータ270の駆動により偏心させているため、カムスプロケット211が等速回転している場合でも、偏心プレート250は不等速回転する。
図6は、本可変バルブ駆動装置において、カム軸に対して偏心プレートの中心を偏心させた状態の駆動ピンと従動ピンの位置関係の一例を示す図である。図6(a)〜図(i)は、クランク軸を所定の回転で回転させた場合の駆動ピン212及び従動ピン232の相対的な位置関係を段階的に示す。なお、駆動ピン212及び従動ピン232が遊嵌するスロット252、254(図1及び図3参照)は同一直線上に形成されているため、概略的に直線SLとして示す。
駆動ピン212がカムスプロケット211の軸心Cに対して偏心プレート250の中心(回転軸心)E側にある場合、偏心プレート250中心と駆動ピン212中心間の距離が、カムスプロケット211中心と駆動ピン中心間の距離より小さくなる。よって、カムスプロケット211の回転角より、偏心プレート250の回転角の方が大きくなる。
一方、駆動ピン212がその反対側、つまり、カムスプロケット211の軸心Cに対して偏心プレート250の中心から離間する側にある場合、偏心プレート250中心と駆動ピン212中心間の距離が、カムスプロケット軸心Cと駆動ピン中心間の距離より大きくなる。よって、カムスプロケット211の回転角より、偏心プレート250の回転角の方が小さくなる。
また、偏心プレート250のプレート本体部256に形成されたスロット254は、偏心プレート250同様に、不等速回転する。このスロット254に遊嵌された従動ピン232は、カムスプロケット211及び吸気カム駒240と同心であるため、スロット254を介して不等速運動が従動ピン232に伝達される。不等速運動が伝達される従動ピン232を介して、軸部230aは不等速な回転を行い、これに伴い吸気カム駒240は不等速な回転を行う。
例えば、吸気カム駒240が開いているクランク角付近で、吸気カム駒240がクランクの1/2のより速い角速度で駆動しているとする。このとき、クランクが作用角分(例えば、268度)回転する場合に、カムは作用角より多く回転するため、吸気弁はそれよりも短い時間で開閉される。つまり、作用角は狭くなる。一方、吸気カムが遅く回転する場合には作用角を広くとることができる。
このように可変バルブ駆動装置200では、カムスプロケット211と一体的に設けられた排気カム駒220に対して、偏心プレート250を介して駆動する可変カム軸230により回転する吸気カム駒240の回転位相差が周期的に変動する。つまり、吸気カム駒240の作用角は周期的に可変、言い換えれば、吸気カム駒240は不等速に回転し、この回転により開閉する吸気バルブ(可変バルブ)の作用角及び開閉タイミングは可変する。
なお、吸気カム駒240を排気カム駒220に対し、どのタイミングで速く回転させ、どのタイミングで遅く回転させるかは、カムスプロケット211中心に対する、偏心プレート250中心と、カムノーズ及び各スロット252、254との位置関係で決定する。
図7は、本実施の形態に係る可変バルブ駆動装置によるバルブリフトの一例を示す図である。なお、図7では、吸気バルブのリフト量をリフトカーブK、排気バルブのリフト量をリフトカーブHで示す。また、可変バルブ(ここでは、吸気バルブ)の開タイミングをOT、OT1、OT2、閉じタイミングをTT、TT1、TT2で示す。また、図7では、吸気カム駒の作用角(Duration:「作動角」ともいう。)D1、バルブオーバーラップD2、最大リフト角D3、D4を図示する。
図7に示すように、可変バルブ駆動装置200では、偏心ボス260の回転駆動により、偏心孔262の位置、つまりは、偏心プレート250の回転中心をカム軸に対して偏心させると、リフトカーブKは、リフトカーブK1、K2に示すように可変する。
具体的には、リフトカーブK1のように、カムの作用角(開タイミングOT1から閉じタイミングTT1の長さ)を大きくした場合、バルブが開いている間はカムの回転速度を落とし、バルブが閉じられるとカムの回転速度があがる。
また、リフトカーブK2のようにカムの作用角(開タイミングOT2から閉じタイミングTT2の長さ)を小さくした場合、バルブが開いている間はカムの回転速度が上がり、バルブが閉じられるとカムの回転速度は落ちる。
このように、吸気カム駒240を、排気カム駒220に対して周期的な回転位相差を設けた状態で回転させることができるとともに、この回転位相差を適宜変更できるため、バルブオーバーラップD2の長さを、エンジン行程に伴い可変させることができる。
よって、オーバーラップをコントロールして、アイドリング時には、吸気カム駒240によるバルブの開閉を早めに行うことでオーバーラップを小さくするまたは無くことによって、残留ガス(燃焼ガス)の混入を抑え、ガスの燃焼を安定させることができる。また、排気脈動の効果による残留ガスの掃気及び吹き返しの低減化を図ることができ、さらに、混合気の吸入効果を向上させて、十分な混合気を吸入して、アイドリングの安定化、始動性の向上を図ることができる。
また、吹き抜けを防止し、排ガスを減少させることができるとともに、エンジン低回転時でのエンジン出力を上げて、燃費の向上を図ることができる。
特にエンジン低回転時には、ピストン102が下死点に位置した時に吸気バルブが全閉するように吸気カム駒240を回転させる。
また、エンジン中速回転時(中負荷域)では、吸気バルブを早くから大きく開いてオーバーラップを大きくとることによりポンピングロスを少なくして、燃焼効率を上げることができるとともに、燃費向上を図ることができる。
ところで、可変バルブ駆動装置200では、部材の摺動部分に、効率よく潤滑油が供給されている。
図8は、本発明の一実施の形態に係る可変バルブ駆動装置200の潤滑油路における潤滑油の流れを示す図である。
図8に示すように、シリンダヘッド104の前後方向に、且つ略水平に配置された軸部230aの一端部において、図示しないポンプによりオイルパン620(図9参照)から汲み上げられた潤滑油は、吐出口118から吐出される。
吐出口118からの潤滑油は、密閉されたシリンダヘッド104の一端部111(シリンダ部106側の端部)側に配置されたガスケット111内のオイル溜まり119に流入(図8における矢印S1方向)する。流入した潤滑油は、このオイル溜まり119内で、回転する軸部230aの一端部開口230cから軸部230a内の潤滑路238に流入する(図8における矢印S2方向)。
潤滑路238内に流入した潤滑油は、軸部230aのチェーンライン側に向かって流れる。この潤滑油は、分岐油路239cを通り、孔部245から吸気カム駒240の外部に流出(図8における矢印S3方向)して、吸気カム駒240の摺動部分における摩擦を減少する。
また、潤滑路238内の潤滑油は、分岐油路239bから油だまり溝237に流入し、排気カム駒220との摺動部分を潤滑する(図8における矢印S4方向)。また、分岐油路239cからの潤滑油(図8における矢印S4方向)は、孔部223から排気カム駒220のベースサークル面を潤滑する。
さらに、潤滑路238内の潤滑油は、分岐油路239aから油だまり溝236に流入し、筒状部224とシリンダヘッド104内に設けられたベアリング104aとの摺動部分を潤滑する(図8における矢印S5方向)。
そして、潤滑路238内の潤滑油は、さらに軸部230aのチェーンライン側に流れ、軸部230aの一端面、詳細には、プレート234表面の軸心部分から絞り235を介して外部に流出する(図8における矢印S6参照)。
このプレート234は、シリンダヘッド104のチェーンケース部116内において、偏心プレート250に対向配置されるため、潤滑路238からの潤滑油は、偏心プレート250に係る他の部材との摺動部分を潤滑する。例えば、可変カム軸230から吐出される潤滑油は、プレート本体部256(スロット252、254)と駆動ピン212及び従動ピン232の摺動部分(図8における矢印S7、S8方向)等を潤滑する。
また、潤滑油は、カムスプロケット211とカム駆動チェーン133(図1参照)との摺動部分を潤滑する(図8における矢印S9、S10方向)。
潤滑路238により、排気カム駒220、吸気カム駒240及び偏心プレート250の摺動部分のそれぞれに潤滑油をパラレルで効率よく潤滑できる。つまり、搭載されるエンジンの始動時においても、排気カム駒220、吸気カム駒240及び偏心プレート250の摺動部分への潤滑油の供給をタイムラグが少ない状態で効率よく行うことができる。
また、可変バルブ駆動装置200は、可変バルブ駆動機構、所謂、可変バブルタイミング機構が無いカムシャフトと比べて、カム軸線上において、排気及び吸気カム駒220、240と、カムスプロケット211との位置関係は変わらない。
よって、可変バルブ駆動機構がない従来の自動二輪車、特にスクータのエンジン構造において、カムシャフト部分を可変バルブ駆動装置200に変更するのみで、可変バルブ駆動装置200を搭載することができる。
詳細には、可変バルブ駆動装置200を搭載するために、クランク軸、エンジン本体のシリンダ部及びシリンダヘッド、タイミングギア等のカム軸を駆動するために各部材の寸法、配置位置などを変更することがない。
よって、エンジン100において、排気カム駒220に対して吸気カム駒240に周期的な回転位相差による回転を必要としない構造のものにしたい場合には、まず、可変バルブ駆動装置200及びヘッドカバー105をエンジン本体110から取り外す。そして、偏心プレート250等の可変機構部分がなく、カムスプロケット、排気カム駒及び吸気カム駒などを有するクランクシャフトをシリンダヘッドに挿入し、このクランクシャフトに対応して形成されたヘッドカバーを取り付ける。これにより、可変バルブ駆動装置200を備える自動二輪車を、可変バルブ駆動装置200を備えない自動二輪車に容易に変更することができる。
次に、本発明の一実施の形態に係るエンジン100が搭載された車両について説明する。
ここでは、エンジン100を搭載する車両を、スクータ型の自動二輪車として説明するが、これに限らず、エンジン100が搭載される車両であればどのような車両でもよい。
図9は、本発明の一実施の形態に係るエンジンの可変バルブ駆動装置を備える自動二輪車の要部構成を示す概略側面図である。なお、本実施の形態において前、後、左、右とは、上記自動二輪車のシートに着座した状態で見た場合の前、後、左、右を意味する。また、本実施の形態にける自動二輪車は、スクータ型二輪車として説明するが、これに限らず、バルブ駆動装置付きの車両であれば、どのような車両でも良い。
図9に示す自動二輪車500は、タンデム型スクータタイプであり、前側でハンドル502を回動自在に支持する車両本体503の後側にタンデムシート504を備える。このタンデムシート504は、下部に配置されたトランクスペース505に対し開閉自在に取り付けられている。このトランクスペース505の下方には、駆動ユニット600が配置されている。
この駆動ユニット600の前端部は、ハンドル502の下方から後方に向けてタンデムシート504の下方まで延びる前側本体503aの後端部に、車幅方向に水平配置されたピボット軸(図示せず)を介して上下に揺動自在に取り付けられている。
また、駆動ユニット600の後端部には、後輪508が車軸510を介して取り付けられ、その後端部と、トランクスペース505の後端部を支持するフレームピボットとの間にはリアサスペンション512が懸架されている。なお、駆動ユニット600の前端部の上部前方には、トランクスペース505の前端部が配置されている。
図10は、図9の駆動ユニットの要部を示す概略平面図である。
図10に示すように、駆動ユニット600では、車両の前側にエンジン100が搭載され、エンジン100の駆動力を、駆動ユニット600の後端部に配置された車軸510に、CVT機構部610を介して回転駆動することによって後輪508を回転させる。
エンジン100は、そのシリンダ部106の軸線を略水平にし、且つ、クランク軸130を車幅方向と略平行にして、トランクスペース505の下方で車両前後方向の略中央部分に位置されている。
クランク軸130の他端部側、ここでは、車両の左側の端部には、車両後方に延びるCVT機構部610が配置されている。CVT機構部610は、シリンダ軸と平行に配置され、クランク軸130に取り付けられるプーリ611と、車軸510に取り付けられるプーリ612と、これらプーリ611、612とに掛け渡されたベルト613と、遠心クラッチ614とを有する。
遠心クラッチ614は、車軸510に取り付けられている。また、この車軸510には、減速ギア615が取り付けられ、プーリ611及びベルト613を介して伝達されるクランク軸130の駆動力を減速する。
モータサイクルでは、排ガス規制問題等により、可変バルブタイミング機構を搭載することが考えられ、特に、スクータ型の車両(以下、「スクータ」という)等においては、車両寸法の制限上、エンジン構造は、より簡略化されることが望ましい。
本実施の形態に係るエンジン100は、従来エンジン構成におけるカム駆動軸に相当するカム駆動体210と、シリンダ部106の上部に配置される排気及び吸気カム駒220、240との間には、偏心部材に相当する偏心プレート250を配置していない。
エンジン100では、カム駆動体210を挟んで、カム軸線上に、偏心プレート250と、排気及び吸気カム駒220、240とを配置している。
すなわち、カム駆動チェーン133のチェーンライン上に配置されるカムスプロケット211を挟んで、カム軸線上に、偏心プレート250と、排気及び吸気カム駒220、240とが配置されている。
排気及び吸気カム駒220、240は、エンジン構造上、シリンダ部106の上部に、シリンダ軸線CLに沿って配置されるため、従来構成と異なり、シリンダ軸線と、カムチェーンラインは隣り合う位置に配設された構造となっている。
このため、図10に示すように、エンジン100のチェーンラインLは、カムスプロケット211と排気及び吸気カム駒220、240との間に偏心部材が配置された従来構成の場合のチェーンラインLAと比べて、シリンダ軸線CLに接近した位置に配置される。
これにより、チェーンラインLの外側で、チェーンラインLと平行に配置されるCVT機構610のベルト613ラインは、従来構造の場合より、シリンダ軸線CLに近くなる。
よって、駆動ユニット600自体の横幅が小さくなる。詳細には、駆動ユニット600において、左側端面600aが、チェーンラインLがシリンダ軸線CLに接近する分、従来構成の可変バルブ駆動装置装備のエンジンを搭載した場合の左側側面600bよりも、右側側面に接近する。
つまり、スクータ型の自動二輪車500は、構造上、CVT(Continuously Variable Transmission:無段階変速装置)用のシーブなどクランク軸上においてカム駆動チェーン133より外側に設けられる部品を備える。
このような自動二輪車500に搭載されるエンジン100では、カム軸上において、カム駆動チェーン133のチェーンラインLと、シリンダ軸線CLとの間に可変バルブ駆動のための部材を設けることがない。これにより、クランク軸130上でも、その部材と対応する分のスペースを設ける必要がなく、従来の可変バルブタイミング機構を備えたエンジンと比べて、カムスプロケット211と各カム駒220、240とが離間しない。
言い換えれば、クランク軸130に対して略直交配置されるカム駆動チェーン133のチェーンラインLが、シリンダ軸線CLから離間することがない。
これにより、自動二輪車500は、可変バルブタイミング機構を搭載しない構造と同様のクランクケース112幅を有するものとなる。
よって、自動二輪車500における十分なバンク角を取ることが出来、車両の運動特性の低下を防ぎ、車両の運動性を確保することができる。
さらに、可変バルブ駆動装置200では、偏心プレート250等の偏心機構部分は、排気及び吸気カム駒220、240とカムスプロケット211との間に配置されていない。 このため、エンジン100において、可変バルブ駆動装置200以外の構造は、可変バルブ駆動装置200を備えないエンジンと略同様の構成部材を用いることができる。つまり、エンジン本体部110のシリンダヘッド104から可変バルブ駆動装置200を抜いて、偏心プレート250、可変カム軸230、偏心ボス260及び、ヘッドカバー105を変更するだけで、可変バルブ駆動装置200を備えないエンジンとして用いることができる。
よって、自動二輪車に搭載する場合でも、従来のエンジンに対して大幅に構造を変更する必要は生じることがなく、従来のエンジンと非可変仕様のエンジンでシリンダヘッドなどの主なエンジン構成部品を共通にすることができる。
また、エンジンに、カムスプロケットと、カム軸との間に偏心プレート等の偏心機構が配置されていないため、カムスプロケットがシリンダ軸から離間するために生じるクランクの曲げ強度の低下が低下することがない。
また、カム駆動軸そのものを軸方向に移動させる構造と異なり、簡易な構成でオーバラップ期間の可変を実現することができる。
このように、本実施の形態では、エンジン構成を大幅に変更することなく、簡易な構成でカムの作用角を可変して、エンジンにおける高レスポンス、低燃費を実現することができる。
本実施の形態では、エンジン100は、単気筒SOHC(Single Over Head Camshaft)型のものとしているが、これに限らず、多気筒のSOHC型、DOHC(Double Over Head Camshaft)でも適用可能である。
なお、本可変バルブ駆動装置200では、吸気弁の作用角を可変させるべく、排気カム駒220に対して、吸気カム駒240の回転位相差を周期的に変動するものとしたが、これに限らない。つまり、吸気カム駒240に対して、排気カム駒220の回転位相差を周期的に変動するものとしてもよい。この場合、上記可変バルブ駆動装置200において、カムスプロケット211と一体に、回転することにより、吸気弁を駆動する吸気カム駒を設け、可変カム軸230に、排気弁を駆動する排気カム駒を設けた構成とする。この構成により、排気弁の作用角を可変させることで、オーバーラップを変更することができ、上記と同様の作用効果を有することができる。
本発明の第1の態様に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路は、クランク軸から伝達される駆動力により回転駆動するカム駆動部材と、前記カム駆動部材の回転軸の一端部側に隣接配置され、前記カム駆動部材の駆動によって、前記カム駆動部材の回転軸と同方向の軸を中心に回転するとともに、前記軸が前記回転軸の軸心位置から偏心位置に移動可能に設けられる偏心部材と、前記回転軸と同軸上に配置され、前記偏心部材により前記回転軸を中心に回転駆動されるとともに、前記偏心部材が前記偏心位置で回転駆動する際に、前記カム駆動部材に対する回転位相差が周期的に変動するカム軸と、前記カム駆動部材の回転軸の他端部側に配置され、前記カム軸により前記カム軸と同じ回転位相で回転駆動され、排気または吸気弁を駆動するカム駒とを備える可変バルブ駆動装置の潤滑油路であって、前記カム駆動部材の回転軸を貫通して設けられ、前記カム駆動部材の他端部側における前記カム駒の摺動部分に潤滑油を供給するとともに、前記カム駆動部材の一端部側における前記偏心部材の摺動部分に潤滑油を供給する潤滑路を備える構成を採る。
このカム軸と同じ回転位相で回転するカム駒は、カム駆動部材に対する回転位相差が周期的に変動して駆動する。つまり、カム駒の作用角が可変し、これにより、排気弁または吸気弁を駆動し、排気弁または吸気弁の作用角は可変となる。この排気弁または吸気弁の作用角を可変にすることにより、バルブオーバーラップが可変となる。
これにより、同一の排気量を持つエンジンに用いて、エンジンの低回転時(アイドリング時を含む)及び高回転時には、オーバーラップを短くすることができる。詳細には、アイドリング時を含む低回転時には、バルブの開閉を早めに行い、オーバーラップを小さくするまたは無くことにより、残留ガス(燃焼ガス)の混入を抑え、ガスの燃焼を安定する。
また、排気脈動の効果による残留ガスの掃気及び吹き返しの低減化を図ることができるとともに、アイドリングの安定化、始動性の向上を図ることができる。さらに、吹き抜けを防止し、排ガスを減少させることができるとともに、エンジン低回転時でのエンジン出力を上げて、燃費の向上を図ることができる。
また、エンジン中速回転時では、オーバーラップを大きくとることによりポンピングロスを少なくして、燃焼向上を図ることができる。このように本可変バルブ駆動装置を用いて、排気量を変えることなく、エンジン性能を向上させることができる。
また、偏心部材は、カム駆動部材とカム駒との間に配置されておらず、排気または吸気弁とカム駆動部材の位置関係は、従来エンジンと同様、互いに隣り合う位置関係となっている。
このため、本潤滑油路を有する可変バルブ駆動装置は、従来のエンジン構成を大幅に変えることなく搭載させることができる。つまり、可変バルブ機構有りのエンジンと可変バルブ機構無しのエンジンで、主たるエンジン構成部品を共通とすることができる。よって、自動二輪車に搭載される可変バルブ機構の無いエンジンに、本可変バルブ駆動装置を搭載する際に、シリンダ、クランク軸等の他のエンジン構成部品を変更する必要が無く、コストを大幅に削減できる。
また、自動二輪車、特にスクータに、本可変バルブ駆動装置を備えたエンジンを、クランク軸を車幅方向に配置して搭載した場合でも、カム駆動部材とカム駒との間に偏心部材が配置されないため、それに対応してクランク軸幅が大きくならない。詳細には、カム駆動部材とカム駒との間に偏心部材を設けた場合、それに伴い、クランク軸からカム駆動部材への駆動力伝達ラインが、カム駒が配置されるシリンダ軸線から離間することになる。
これにより、駆動力伝達ラインの外側に、クランク軸から、車軸に駆動力を伝達する伝達手段が設けられている場合でも、伝達手段が外側に張り出して、エンジン自体の幅が大きくなることがなく、バンク角の減少を防ぎ、車両の運動性能の減少を防ぐことができる。
そして、回転軸方向の一端側に偏心部材が配置され、他端側にカム駒が配置されるカム駆動部材の回転軸を貫通して、カム駒の摺動部分と、前記偏心部材の摺動部分とに潤滑油を供給する潤滑路が設けられている。
このため、エンジン構成を大幅に変更することなく搭載でき、簡易な構成でカムの作用角を可変できる可変バルブ駆動装置において、潤滑路により、カム駒及び偏心部材の摺動部分のそれぞれに潤滑油をパラレルで効率よく潤滑できる。つまり、搭載されるエンジンの始動時においても、カム駒及び偏心部材の摺動部分への潤滑油の供給をタイムラグが少ない状態で効率よく行うことができる。
本発明の第2の態様に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路は、上記構成において、前記潤滑路には、前記カム駆動部材の他端部側に設けられる給油ポンプの吐出口から潤滑油が供給される構成を採る。
この構成によれば、潤滑路には、カム駆動部材の他端部側に設けられる給油ポンプの吐出口から潤滑油が供給されるため、吐出口から供給される潤滑油は、潤滑路内をカム駆動部材の他端部側から一端部側に流れる。よって、潤滑路に潤滑油を供給するだけで、カム駒の摺動部分、偏心部材の摺動部分の双方を潤滑できる。
本発明の第3の態様に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路は、上記構成において、前記潤滑路は、前記カム駆動部材の一端部側に開口し、前記カム駆動部材の他端部側から前記偏心部材の摺動部分に供給される潤滑油量を調整する絞り部を有する構成を採る。
この構成によれば、潤滑路は、カム駆動部材の一端部側に開口し、カム駆動部材の他端部側から偏心部材の摺動部分に供給される潤滑油量を調整する絞り部を有するため、絞り部により潤滑路内を流動する潤滑油量を調整して、各摺動部分(部材同士の摺動部分)に好適な潤滑油を供給し摩耗を防ぎ、円滑に動作させることができる。
本発明の第4の態様に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路は、上記構成において、前記カム駆動部材により前記カム駆動部材と同じ回転位相で回転するとともに、前記カム駒と隣り合う位置に配置される別のカム駒が設けられ、前記潤滑路は、前記別のカム駒の回転軸を貫通して形成され、前記潤滑路から分岐して、前記別のカム駒の摺動部分に潤滑油を供給する分岐油路が設けられている構成を採る。
この構成によれば、潤滑路から分岐する分岐油路が、カム駒と隣り合う位置に配置される別のカム駒の摺動部分に潤滑油を供給する。このため、カム駆動部材と同じ回転位相で回転するカム駒に対して、別のカム駒における回転位相差を周期的に変動させる可変バルブ駆動装置において、カム駒及び別のカム駒における摺動部分の摩耗を防ぎ、円滑に行わせることができる。
本発明の第5の態様に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路は、上記構成において、前記カム軸は、前記カム駆動部材の回転軸を回転自在に挿通され、前記潤滑路は、前記カム軸内に、前記回転軸と同軸心を有するカム軸の軸心を貫通して形成され、前記カム軸の周壁には、内部の前記主通路から分岐して、前記カム駆動部材に摺動する外面に潤滑油を供給する分岐路が形成されている構成を採る。
この構成によれば、潤滑路は、カム駆動部材の回転軸を回転自在に挿通されたカム軸内に貫通して形成され、カム軸の周壁には、主通路から分岐する分岐路が形成されている。このため、潤滑路内を一方向に流れる潤滑油が、分岐路を介して、カム駆動部材に摺動する外面に供給され、回転の際に摺動する部分を潤滑して、摩耗を防ぐことができる。
本発明の第6の態様に係る可変バルブ駆動装置の潤滑油路は、上記構成において、前記偏心部材に、前記カム駆動部材とは逆側で隣接して配置され、前記偏心部材の軸を、前記カム駆動部材の回転軸に対して同軸位置から偏心位置に移動させる部材移動部を備え、前記部材移動部内には、前記回転軸方向に連通する中空部が設けられている構成を採る。
この構成によれば、偏心部材に、カム駆動部材とは逆側で隣接して配置される部材移動部内に、前記回転軸方向に連通する中空部が設けられているため、中空部をブリーザ室として機能させることができる。また、部材移動部をシリンダヘッドに固定して、可変バルブ駆動装置をシリンダヘッド内に取り付ける際に、シリンダヘッド内外を連通させることができる。これにより、中空部に連通する部分はオイル戻り穴として機能させることができる。
本発明の第7の態様に係る可変バルブ駆動装置は、クランク軸から伝達される駆動力により回転駆動するカム駆動部材と、前記カム駆動部材の回転軸の一端部側に隣接配置され、前記カム駆動部材の駆動によって、前記カム駆動部材の回転軸と同方向の軸を中心に回転するとともに、前記軸が前記回転軸の軸心位置から偏心位置に移動可能に設けられる偏心部材と、前記回転軸と同軸上に配置され、前記偏心部材により前記回転軸を中心に回転駆動されるとともに、前記偏心部材が前記偏心位置で回転駆動する際に、前記カム駆動部材に対する回転位相差が周期的に変動するカム軸と、前記カム駆動部材の回転軸の他端部側に配置され、前記カム軸により前記カム軸と同じ回転位相で回転駆動され、排気または吸気弁を駆動するカム駒と、前記カム駆動部材の回転軸を貫通して配置され、前記カム駆動部材の他端部側における前記カム駒の摺動部分に潤滑油を供給するとともに、前記カム駆動部材の一端部側における前記偏心部材の摺動部分に潤滑油を供給する潤滑路とを備える構成を採る。
カム駒は、カム駆動部材に対する回転位相差が周期的に変動して駆動するカム軸の駆動によって、排気弁または吸気弁を駆動し、排気弁または吸気弁の作用角を可変する。この排気弁または吸気弁の作用角の可変により、バルブオーバーラップを可変することができる。
これにより、同一の排気量を持つエンジンに用いて、エンジンの低回転時(アイドリング時を含む)及び高回転時には、オーバーラップを短くすることができる。詳細には、アイドリング時を含む低回転時には、バルブの開閉を早めに行い、オーバーラップを小さくするまたは無くことにより、残留ガス(燃焼ガス)の混入を抑え、ガスの燃焼を安定する。
また、排気脈動の効果による残留ガスの掃気及び吹き返しの低減化を図ることができるとともに、アイドリングの安定化、始動性の向上を図ることができる。さらに、吹き抜けを防止し、排ガスを減少させることができるとともに、エンジン低回転時でのエンジン出力を上げて、燃費の向上を図ることができる。
さらに、エンジン中速回転時では、オーバーラップを大きくとることによりポンピングロスを少なくして、燃焼向上を図ることができる。このように排気量を変えることなく、エンジン性能を向上させる効果を有する。
このような作用を有する偏心部材は、本可変バルブ駆動装置では、カム駆動部材とカム駒との間に配置されておらず、排気または吸気弁とカム駆動部材の位置関係は、従来エンジンと同様の位置関係となっている。
このため、本可変バルブ駆動装置は、従来のエンジン構成を大幅に変えることなく搭載させることができる。つまり、可変バルブ機構有りのエンジンと可変バルブ機構無しのエンジンで、主たるエンジン構成部品を共通とすることができる。
よって、自動二輪車に搭載される可変バルブ機構の無いエンジンに、本可変バルブ駆動装置を搭載する場合、シリンダ、クランク軸等の他のエンジン構成部品を変更する必要が無く、コストを大幅に削減できる。
また、自動二輪車、特にスクータに、本可変バルブ駆動装置を備えたエンジンを、クランク軸を車幅方向に配置して搭載した場合でも、カム駆動部材とカム駒との間に偏心部材が配置されないため、それに対応してクランク軸幅が大きくならない。詳細には、カム駆動部材とカム駒との間に偏心部材を設けた場合、それに伴い、クランク軸からカム駆動部材への駆動力伝達ラインが、カム駒が配置されるシリンダ軸線から離間することになる。
これにより、駆動力伝達ラインの外側に、クランク軸から、車軸に駆動力を伝達する伝達手段が設けられている場合でも、伝達手段が外側に張り出して、エンジン自体の幅が大きくなることがなく、バンク角の減少を防ぎ、車両の運動性能の減少を防ぐことができる。
そして、回転軸方向の一端側に偏心部材が配置され、他端側にカム駒が配置されるカム駆動部材の回転軸を貫通して、カム駒の摺動部分と、前記偏心部材の摺動部分とに潤滑油を供給する潤滑路が設けられている。
このため、エンジン構成を大幅に変更することなく搭載でき、簡易な構成でカムの作用角を可変できる可変バルブ駆動装置において、潤滑路により、部材の摺動部分を効率よく潤滑できる。
本発明の第8の態様に係るエンジンは、上記構成の可変バルブ駆動装置が、前記カム駆動部材の回転軸をクランク軸と平行にして取り付けられ、前記カム駒の駆動により、排気または吸気弁が開閉される構成を採る。 この構成によれば、上記構成の可変バルブ駆動装置と同様の効果を有するエンジンとなる。
本発明の第9の態様に係る自動二輪車は、上記構成のエンジンが、前記クランク軸を車幅方向に配置して搭載される構成を採る。
この構成によれば、カム駆動部材とカム駒との間に偏心部材が配置されない可変バルブ駆動装置を備えたエンジンがクランク軸を車幅方向に配置して搭載されているため、それに対応してクランク軸幅が大きくならない。詳細には、カム駆動部材とカム駒との間に偏心部材を設けた場合、それに伴い、クランク軸からカム駆動部材への駆動力伝達ラインが、カム駒が配置されるシリンダ軸線から離間することになる。これにより、駆動力伝達ラインの外側に、クランク軸から、車軸に駆動力を伝達する伝達手段が設けられている場合でも、伝達手段が外側に張り出して、エンジン自体の幅が大きくなることがなく、バンク角の減少を防ぎ、車両の運動性能の減少を防ぐことができる。
また、自動二輪車が備える可変バルブ駆動装置では、回転軸方向の一端側に偏心部材が配置され、他端側にカム駒が配置されるカム駆動部材の回転軸を貫通して、カム駒の摺動部分と、前記偏心部材の摺動部分とに潤滑油を供給する潤滑路が設けられている。このため、エンジン構成を大幅に変更することなく搭載でき、簡易な構成でカムの作用角を可変できる可変バルブ駆動装置において、潤滑路により、部材の摺動部分を効率よく潤滑できる。