次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の適応ピークリミッタと、ピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路とを併用し、さらに、高精度な歪補償を行うハイブリッド歪補償回路を組み合わせたW−CDMA方式の無線送信装置(無線基地局装置)の全体構成を示すブロック図である。
図中、ベースバンド信号処理部(ベースバンド信号処理用LSI)600は、一点鎖線で囲まれて示されている。
また、適応ピークリミッタ400、ピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路500は共に、太い点線で囲まれて示されている。
また、ハイブリッド歪補償回路700は、図示されるように、適応プリディストーション歪補償部14と、フィードフォワード歪補償部30とを組み合わせた構成を有する(その他、構成要素として、D/A変換器20、A/D変換器28、スイッチ回路SW、高周波アンプ32を具備する)。
以下、アンテナから4つの周波数チャネルを同時に送信できるものとして、説明する。
図1の左上に記載されるように、周波数チャネルCH1には、送信データd1〜d3が多重され、同様に、周波数チャネルCH2〜CH4にはそれぞれ、送信データd4〜d6、d7〜d9、d10〜d12が多重される。
ユーザー信号の多重部200a〜200dは、各周波数チャネルに対応して設けられており、図示されるように、複数の拡散部2と、拡散後の各ユーザー信号を多重する多重回路4とを具備する。
適応ピークリミッタ400は、各周波数チャネル毎に設けられているハードリミッタ300と、リミット値出力回路350(アドレス変換回路352と、リミット値テーブル(ROM)354とを具備する)。
アドレス変換回路は、チップ単位で、上位レイヤー(例えば、基地局制御部のベースバンド処理ボード)から通知される、各周波数チャネル自体の使用/不使用を示すオン/オフ情報(F1〜F4)や、各周波数チャネルのチップデータに関するHSDPAの適用/不適用を示すオン/オフ情報(DP1〜DP4)をROM参照用のアドレスに変換し、リミット値テーブル(ROM)354にアクセスして、適応リミット値LIMを出力させる。
適応ピークリミッタ400については、図13〜図17を用いて、後に具体的に説明する。
ピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路500は、4つの周波数チャネルCH1〜CH4に対して、n倍補間(nは2以上の整数)ならびに直交変調(直交キャリアe1〜e4の乗算によるシングルキャリア信号化)を行い、各シングルキャリア信号を合成してマルチキャリア送信信号を生成すると共に、マルチキャリア送信信号とまったく同じマルチキャリア信号を正規の信号処理ルートとは別のルートで生成し、そのマルチキャリア信号に基づいて瞬時ピークを補正するための補正値を算出し、その補正値を正規の信号処理ルートに戻して、各周波数チャネルのベースバンド信号にピーク抑圧処理を施す、という動作を行う。
なお、各周波数チャネルCH1〜CH4のベースバンド信号は、I相(同相)、Q相(直交)の2つの信号からなるが、図面作成の便宜のため、図中、1つの信号線にて示している。
n倍補間ならびに直交変調を行う部分の回路構成は、どの周波数チャネルについても同じであるため、ここでは、周波数チャネルCH1について説明を行う。
n倍補間ならびに直交変調を行う部分の回路は、正規の信号処理ルート(図中、太い矢印で示される)の他に、ピーク補正値を算出するための基礎となるマルチキャリア信号を合成し、これに基づいて補正値を算出して、正規の信号ルートに戻すルートをもつ。
正規の信号処理ルート(図中、太い矢印で示される信号経路)は、第1の遅延回路508(補正値算出に要する時間およびLPF504の郡遅延分だけ信号を遅延させる働きをする)と、補正値を乗算するための乗算器512と、n倍補間回路514(所定の広い周波数帯域の信号処理を行えるようにするため、クロックの周波数を増大させる必要から補間を行う)と、信号の帯域を制限するためのローパスフィルタ(LPF)516と、直交変調用の乗算器518と、乗算器518を通過した各シングルキャリア信号を合成する合成器590と、を有する。
直交変調は、各チャネルのI,Qの各信号に、キャリアe1(〜e4)を乗算することで実現される。
例えば、直交変調は、使用する周波数チャネルがCH1(キャリア周波数f1)とCH2(キャリア周波数f2)で、ある場合、周波数シフトする周波数をfcとした場合、キャリア周波数f1で送信する信号については、f1−fcのキャリアを乗算し、キャリア周波数f2で送信する信号については、f2−fcのキャリアを乗算して直交変調する。
キャリアe1(〜e4)の乗算は、補正値算出のための信号処理経路でも同様に行う必要がある。よって、図1の回路では、補正値算出のための信号処理経路にてキャリアe1(〜e4)を乗算した後、第2の遅延回路510にて、補正値算出に要する時間およびローパスフィルタ(LPF)516の群遅延分だけそのキャリアを遅延させた後、正規の信号処理経路における直交変調を行うようにしている。
一方、図1の回路では、補正値算出の基礎となるマルチキャリア信号を合成する信号経路が、正規の信号処理ルートとは別に設けられている。この信号経路の構成(n倍補間回路502、ローパスフィルタ(LPF)504、乗算器506、合成器550をもつ)や、その経路における信号処理タイミング等の条件は、正規の信号処理ルートとまったく同じである。
また、合成されたマルチキャリア信号に基づいてピーク補正値を算出する補正値算出部570は、ピーク検出部572と、相対比較/判定部574と、補正値算出部576と、を有する。
相対比較/判定部574には、ピーク抑圧制御パラメータが外部から与えられ、これにより、信号品質ならびにピーク抑圧のそれぞれの相対的な重要度に応じて、ピーク抑圧性能を微調整できる。
また、補正値算出部576には、外部からピークリミット値が与えられる。
補正値算出部576から出力される補正値は、正規の信号処理ルートの乗算器512にて、ベースバンド信号に乗算されて振幅の補正が行われる。
このようにして生成されたマルチキャリア信号は、ハイブリッド歪補償回路700にて歪補償された後、基地局装置のアンテナ(ATN)を介して多数の移動端末(不図示)に向けて送信される。
3GPP TS 25.104で規定されるスペクトラムエミッションマスクの帯域は、送信信号の帯域を中心として、その上側および下側に約1GHzまでカバーする極めて広い帯域となっている。このような広い帯域において発生する高次の歪成分を取り除くことは、通常のプリディストーション回路ではまったく不可能のであるが、ハイブリッド歪補償回路700を用いることにより、このような厳しい仕様にも応えることができるようになる。
これにより、HSDPAをサポートした3.5世代のW−CDMA方式の移動体通信が実現される。
以下、ピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路と、適応ピークリミッタと、ハイブリッド歪補償回路について、より具体的に、順次、説明する。
図2は、ピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路の構成を示すブロック図である(図1に示される回路と同じ構成である)。
図2において、参照符号530a〜530dはそれぞれ、振幅補正後のベースバンド信号を直交変調してシングルキャリア信号とする部分の回路である。
補正値算出部570は、正規の信号処理経路とまったく同じ処理を経て合成されるマルチキャリア信号に基づき、補正値を算出する。
シングルキャリア信号を実際に合成し、実際のマルチキャリア信号の瞬時ピークを検出して(ピーク検出部572)、そのピークを所望レベル内に抑える補正値を算出するため、確実に、マルチキャリア信号のピークを、所望のレベルに抑えることができる。
図3は、図2のピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路により生成されたマルチキャリア送信信号のピークパワーと平均値パワーの比(横軸)と、確率(縦軸)との関係を示すCCDFの図である。
図中、実線で示される特性線A(ピーク抑圧制御パラメータ(hold-num)=2の場合である)のように、かなり急峻なピークリミットが可能であることがわかる。
図中、特性線Bは、ピーク抑圧制御パラメータ(hold-num)が0の場合であり、特性線Cは、ピーク抑圧制御パラメータ(hold-num)=3の場合である。
相対比較/判定部574に、外部から与えられるピーク抑圧制御パラメータ(hold-num)により、ピーク抑圧特性を調整することができることがわかる。
図4は、図2のピーク抑圧機能をもつマルチキャリア信号生成回路における、マルチキャリア合成前における各シングルキャリア信号の特性を示す図である。
ここで、図7(b)は、図7(a)に示される、シングルキャリア信号のピーク抑圧を行う従来の回路におけるピーク抑圧後の信号の特性を示す図であるが、図4を、図7(b)と比較することにより、図2の回路では、シングルキャリア信号に関しては、それほど極端なキャリア抑圧が行われていないことがわかる。
つまり、図2の回路では、図3のように、マルチキャリア信号ではかなりのピークリミットを行う(これにより、どのような状況でも、マルチキャリアの瞬時ピークは所定の範囲内に収まることが保証される)が、その一方で、シングルキャリア信号で見た場合には、過度なピークリミットは行われず、よって、送信信号の品質にそれほど影響を与えないことがわかる。
図5(a)に示されるように、位相平面上で異なる位相,振幅をとる各シングルキャリア信号X、Y、Zについて、各シングルキャリア信号毎にピークリミットを行うと、図示されるように、リミット値の円からはみ出る部分は、すべてクランプされてしまうが、マルチキャリア信号についてピークリミットを行う場合には、各シングルキャリア信号X、Y、Zを合成して得られるベクトルR(各シングルキャリア信号のベクトル成分同士が相殺されて、振幅自体は小さくなっている)を基準としてピークリミット処理を行えばよいから、各シングルキャリア信号について見れば、過度の振幅リミットがなされないことになる。
そして、図2の回路では、マルチキャリア信号を実際に合成し、その瞬時ピークを検出して、その瞬時ピークを抑えるように補正値を算出するため、確実に瞬時ピークの抑圧が可能となる。このような、極めて信頼性の高いマルチキャリアのピークリミットが行われるので、HSDPA方式の適用時のように、厳しい条件が課される場合でも、所定の規格を満足させることができる。
さらに、本発明では、キャリア抑圧制御パラメータ(hold-num)の設定により、ピーク抑圧特性を微調整することができる。
なお、図6(a)は、シングルキャリアS1についてリミット処理を行う従来のピークリミット回路を示しており、図6(b)は、シングルキャリア信号S1につての特性を示す図である。
また、図7(a)は、図6(a)と同じ従来のピークリミット回路を示しており、図7(b)は、ピーク抑圧後、ローパスフィルタ(LPF)203を通過した信号の特性を示している。
シングルキャリア信号の段階でピークを抑圧しても、ローパスフィルタを通すことで、再びピークが発生し、ピーク抑圧の度合は、図3に示される本発明の回路におけるピーク抑圧特性に比べて、かなり悪いことがわかる。
また、図8(a)は、図6(a)の従来のピークリミット回路を並列に用いてマルチキャリア信号を合成する従来の回路を示しており、図8(b)は、図8(a)の回路から出力されるマルチキャリア信号S3の特性を示す図である。
次に、図2の下側に示される、補正値算出部570における、ピーク検出部572、相対比較/判定部574、補正値算出部576の各部の動作を、図9〜図12を用いて、説明する。
ピーク検出部572は、図9に示すように、16チップ毎に(16チップ分のベースバンド信号を、便宜上、A(n+1)〜A(n+2)とする)、ベースバンド信号の振幅のピーク値(M(n)〜M(n+2))を検出する。
相対比較/判定部574および補正値算出部576は、図10に示されるフローに基づき動作する。
すなわち、ピーク検出部572により検出された、今回測定のベースバンド信号の振幅のピーク値M(n)に関して(ステップ800)、相対比較/判定部574が、現在のピーク値よりも小さいか、および、ピーク抑圧制御パラメータ(hold-iter=0)が、設定値(hold-numであり、ここでは2とする)と等しくないかを判定する(ステップ802)。
ステップ802の判定結果がイエスならば(この場合は、今回のピーク値が現在のピーク値よりも下降しており、その連続下降回数が1回目であることを意味する)、ピーク抑圧制御パラメータ(hold-iter)をインクリメントして更新し(ステップ806)、そうでなければ(この場合は、今回のピーク値が現在のピーク値よりも上昇しているか、あるいは、連続して2回下降していることを意味する)、今回の検出ピーク値を現在値とし、かつ、ピーク抑圧制御パラメータ(hold-iter)を初期化してゼロに戻す。
続いて、補正値算出部576が、リミット値(limit-value)と現在のピーク値を比較し(ステップ808)、現在のピーク値の方が大きい場合には、ピーク抑圧のための補正値を、現在のピーク値を利用して算出し(ステップ810)、現在のピーク値の方が小さい場合には、ピーク抑圧の必要がないから、補正値を“1”とする(ステップ812)。
そして、ベースバンド信号に補正値を乗算し(ステップ814)、次のステップに進む(ステップ816)。
図11に、具体的な補正値の算出例を示す。
図示されるように、時刻t(n−1)からt(n+1)までピーク値が上昇し、その後、連続的に下降に転じ、時刻t(n+5)において、リミット値(limit-value)を切ることになる。
このような場合、各時刻において、図示されるような処理がなされる。ここで注目すべきは、時刻t(n+2)、t(n+3)において、ピーク値が減少しているにもかかわらず、ピーク値が減少に転じる直前の大きなピーク値に基づく補正値(つまり、補正値(n+1))がそのまま使用されており、この部分では、ピークの抑圧を重視した適応制御がなされている。
次に、時刻t(n+4)になると、ピーク抑圧制御パラメータの設定値(hold-num=2)を超えて連続的にピークが下降する(3回連続)ため、信号品質の低下を防止するために、現在のピーク値を用いて緩やかな補正値(つまり、補正値(n+4))を用いたピーク制限を行う。
そして、時刻t(n+5)では、ピーク制限の必要がないから、補正値は1となる。
ピーク抑圧制御パラメータの設定値(hold-num)を大きくすれば、図3に示すように、ピーク抑圧を重視した適応制御となり、微調整が可能である。
図12に、ピーク抑圧制御パラメータの設定値(hold-num)が“0”の場合と“2”の場合の、ベースバンド信号の振幅抑圧の程度の変化を示す。図中、実線で囲まれる部分A,Bを見れば明らかなように、ピーク抑圧制御パラメータの設定値(hold-num)が“2”の方が、ピーク抑圧の効果が大きいことがわかる。
ピーク抑圧制御パラメータの設定値(hold-num)を適切に設定すれば、どのような場合でも、マルチキャリア信号のピークを所望のレベル内に抑えることが可能となる。これにより、厳格な規格でも、確実に満足できるようになる。
次に、図13〜図17を用いて、適応ピークリミッタについて説明する。
図13は、適応ピークリミッタの構成を示すブロック図である。
上述したとおり、リミット値出力回路350は、チップ単位で、基地局(BTS)制御部900のベースバンド制御ボード910から通知される、各周波数チャネル自体の使用/不使用を示すオン/オフ情報(F1〜F4)や、各周波数チャネルのチップデータに関するHSDPAの適用/不適用を示すオン/オフ情報(DP1〜DP4)に基づき、リミット値テーブル(ルックアップテーブル)を参照して、リミット値LIMを出力させる。
ハードリミッタ300は、I、Qの各入力信号についての振幅Xnを算出する振幅算出部310と、算出された振幅とリミット値LIMとを比較する比較部320と、I、Qの各入力信号と、振幅Xnと、リミット値LIMとから補正値を算出する補正値算出部330と、スイッチ回路SWT1、SWT2と、を有する。
スイッチSWT1、SWT2は、比較部320の比較結果に応じてスイッチングされ、入力信号の振幅がリミット値LIMを超える場合には、a端子側に切り替えられ、入力信号の振幅がリミット値LIM未満の場合には、b端子側に切り替えられる。スイッチSWT1、SWT2がb端子側に切り替えられている場合には、入力信号が、補正されることなく、そのまま出力されることになる。
図14(a)は、リミット値をP0、P1、P2とした場合の、ハードリミッタの出力信号の特性を示す図であり、(b)は、リミット値と送信信号の品質の相対的な関係を示す図である。
次に、リミット値出力回路350における、アドレス変換回路352の動作と、リミット値テーブル(ROM)354の構成について、図15、図16を用いて、具体的に説明する。
図15は、4つの周波数チャネルCH1〜CH4(各チャネルにはI、Qの2系統の信号が含まれるため、合計で8系統の入力があることになる)のベースバンド信号の状態と、基地局(BTS)制御部900のベースバンド制御ボード910からチップ単位で通知される、各周波数チャネル自体の使用/不使用を示すオン/オフ情報(F1〜F4)、および、各周波数チャネルのチップデータに関するHSDPAの適用/不適用を示すオン/オフ情報(DP1〜DP4)の状態とを関連付けて示すタイミング図である。
図15では、便宜上、周波数チャネルCH2、CH3のデータは記載していない。また、図中、斜線を施したチップが、HSDPAを運用するチップである。
図示されるように、HSDPAが運用されるチップについては、HSDPA運用オン/オフ情報(DP1〜DP4)がハイレベルとなり、同様に、周波数チャネルが使用される場合には、周波数オン/オフ情報(F1〜F4)がハイレベルとなる。
そして、図16に示すように、HSDPA運用オン/オフ情報(DP1〜DP4)、周波数オン/オフ情報(F1〜F4)をまとめて8ビットのアドレス情報とする。この場合、各情報のオンを“1”に対応させ、オフを“0”に対応させる。
このようにすると、全部で256個のパターンが存在する。そして、各インデックス毎に、ROMアドレスとROMデータ(リミット値のデータ)を対応付けしてまとめておき、ROMデータ(リミット値のデータ)をROMに書き込んでルックアップテーブルを作成しておく。
図16に記載のように、例えば、1)〜7)のシチュエーションが想定される。
各状況を考慮し、HSDPAを運用する周波数チャネルに対しては、運用しない周波数チャネルよりも大きいリミット値を適用し(これにより、信号品質の低下を防ぐ)、また、不使用の周波数チャネルがある場合には、その不使用の周波数チャネルの数が増えるに従って、使用される他の周波数チャネルについてのリミット値が大きくなるようにリミット値を設定する(これにより、信号品質の低下を防ぐ)ようにする。
図16中に示されるように、リミット値L1、L2に関しては、L2>L1の関係がある。また、L3は、周波数オン/オフビットがオンしている周波数チャネルの個数だけ“1”を加算し、この加算した数値を分母とし、分子を4とした分数を求め、これを(1/2)乗したものに、L1を乗算して求められる。同様に、L4は、周波数オン/オフビットがオンしている周波数チャネルの個数だけ“1”を加算し、この加算した数値を分母とし、分子を4とした分数を求め、これを(1/2)乗したものに、L2を乗算して求められる。
図17(a)、(b)は、適応ピークリミッタを適用した場合の効果の一例を示す図である。
図17(a)は、信号品質を評価する指標であるエラーベクトルマグニュチュードを、HSDPAを運用しない場合のサンプル(白丸でプロットされている)と、HSDPAを運用するサンプル(半分が黒く塗りつぶされたひし形でプロットされている)の双方について、測定(シミュレーションによる測定)した結果を示す図である。
図中、基準Aは、HSDPAを運用しない場合の、3GPPのR99による基準(白丸でプロットされているサンプルの評価基準となる)であり、基準Bは、HSDPAを運用する場合の、3GPPのR5による基準(半分が黒く塗りつぶされたひし形でプロットされているサンプルの評価基準となる)である。
同様に、図17(b)は、ピークコードドメインエラーについての測定サンプルを示しており、基準Cが、3GPPのR99による基準であり、基準Dが3GPPのR5による基準である。
図17(a)、(b)のいずれにおいても、信号品質の規格をクリアしていることがわかる。
また、図18(a)、(b)はそれぞれ、3GPPのテストモデル1およびテストモデル3を用いて、図1に示されるベースバンド信号処理LSIから出力されるマルチキャリア送信信号のピーク抑圧の度合を測定した図である。
両図から明らかなように、テストモデルを変更しても、ピーク抑圧特性の特性線の形状はほとんど変化せず、常に、所望のピーク抑圧が実現されていることがわかる。
したがって、本発明によれば、マルチキャリア送信信号全体の瞬時ピークを、どのような場合でも所望の範囲に抑えつつ、各周波数チャネルの状況に応じて、送信信号の振幅を適応的に微調整して、ピーク抑圧と信号品質の確保とを両立させることができる。
次に、図19(および図1)に示されるハイブリッド歪補償回路(高周波パワーアンプを含む)について、具体的に説明する。
上述のとおり、CDMA方式のマルチキャリア通信では、他の方式の移動体通信に比較して高周波電力増幅器(パワーアンプ)に対する線形性がより高く要求される。このため、適応プリディストーションなどの歪補償技術により、パワーアンプの線形性を補償しないと電力効率が極端に悪化する。
パワーアンプの入力信号は、例えば、15〜20MHzの帯域幅をもつ。よって、歪成分の帯域も、100〜200MHz程度にまで広がる。
この歪成分を適応プリディストーションだけで補償するためには、プリディストーション処理を施したデジタル信号を、少なくとも歪成分の帯域と同じ100〜200MHz程度のサンプリング周波数でD/A変換する必要がある。
また、適応プリディストーション処理を行おうとすると、パワーアンプの出力信号をデジタル信号処理系に帰還させる必要があるため、同様に、少なくとも歪成分の帯域と同じ100〜200MHz程度のサンプリング周波数でA/D変換を行う必要がある。
そして、更に、CDMA通信方式の規格によると、D/A変換器やA/D変換器には、12ビット〜16ビットにも及ぶ分解能が要求される。
現在の半導体技術では、高分解能(12〜16ビット)を確保しつつ、100〜200MHzで動作可能なD/A変換器やA/D変換器を製造することは非常に困難である。
また、仮に、そのようなD/A変換器やA/D変換器が製造できたとしても、動作時の電源消費量は莫大なものとなる。このことは、電力効率を向上させようとする歪補償とは逆行することになる。
このため、図19のハイブリッド歪補償回路では、適応プリディストーション処理を適用する信号(ベースバンド入力信号)の帯域は、D/A変換器やA/D変換器における12〜16ビットの分解能を達成できる周波数に限定する。
そして、それ以上の高い周波数の帯域に発生する歪(高次歪)を、デジタル信号処理により正確に特性調整をなされたフィードフォワード歪補償回路によって、効果的に取り除く。
これにより、既存のLSI技術を用いて、従来不可能であった極めて高精度の歪補償が可能となる。
以下、具体的に説明する。
図1に示されるように、このハイブリッド歪補償回路は、適応プリディストーション部(デジタル信号処理部)14と、高周波電力増幅器32と、2つの入力端TA1、TA2をもつフィードフォワード歪補償回路(高周波パワーアナログ回路)30と、このフィードフォワード歪補償回路30の2つの入力信号、出力信号、あるいはフィードフォワードループの信号のいずれかを選択的に取り出すための高周波スイッチ回路(以下、単にスイッチ回路という)SWと、制御・監視部(デジタル信号処理系に属する)と、フィードフォワード歪補償回路30の入力端TA2に与えられる基準信号(歪補償回路自体の入力信号(IN)である)の振幅(利得)・位相・遅延を調整するための振幅・位相・遅延調整器51と、スイッチ回路SWの切替を制御すると共に、各部をシーケンシャルに動作させるために必要な情報(P1、P2)を各部に与えるシーケンサ80と、を主要な構成要素として有する。
そして、デジタル信号処理系とアナログ信号処理系との間で信号の授受を行うための信号経路には、D/A変換器20、56と、A/D変換器28と、周波数変換回路(RFキャリア発振器24、ミキサ22、26、58を構成要素とする)が介在している。
フィードフォワード歪補償回路30は、図示されるように、歪成分(プリディストーション歪補償で除去できずに残留している線形歪成分)を含む信号をメインパスに入力するための入力端TA1と、歪を含まない基準信号をフィードフォワードループに入力するための入力端TA2を有する。なお、メインパスとは、入力端TA1と結合器38とを結ぶ線路のことである。
また、フィードフォワードループは、信号振幅を調整するためのアッテネータ(減衰器)42と、メインパスの信号から歪成分を分離するための結合器46と、歪成分の信号を増幅するエラーアンプ48と、エラーアンプ46の出力信号の位相を反転するための移相器50と、移相器50の出力信号をメインパスに帰還させるための結合器38と、を具備する。
本ハイブリッド歪補償装置は、ベースバンドデジタル信号に対して適応プリディストーション処理を行う適応プリディストーション部14と、フィードフォワード歪補償回路30とを複合したハイブリッド構成を有する。
ただし、これらを単純に組み合わせることは不可能である。
そこで、図19の回路では、フィードフォワード歪補償回路30に、2つの入力端TA1、TA2を設け、各々に、高周波電力増幅器32の出力信号(プリディストーション歪補償では除去することができなかった残留歪成分を含む信号)と、歪を含まない基準信号をそれぞれ独立に入力する新規な構成を採用し、タイプの異なる歪補償回路の複合化を可能とした。
ハイブリッド歪補償方法における歪補償処理は、2つの処理に大別される。
つまり、フルデジタル制御の適応プリディストーション歪補償にて、D/A変換器20、56やA/D変換器28のサンプリング周波数帯域内の、高レベルの歪成分である高周波電力増幅器の低次の歪成分を高い安定性を持って取り除く。
そして、残留する低レベルの高次IM歪成分(サンプリング周波数帯域の外の成分)を、フィードフォワード歪補償処理で取り除く。これにより、従来にない、高精度の広帯域歪補償が実現する。
ここで、問題となるのは、アナログ回路を用いたフィードフォワード歪補償の精度が高くないと、適応プリディストーション歪補償で取り除くことができなかった低レベルの高次IM歪成分の除去が不十分となり、本発明がめざす、歪除去精度の飛躍的な向上を達成できないことである。
フィードフォワード歪補償回路30における高精度の歪除去は、2つの入力端TA1、TA2に入力される2つの信号の入力レベル(振幅)、位相、遅延が完全に一致していることを前提として実現される。
そこで、図19の歪補償回路(ハイブリッド歪補償回路)には、フィードフォワード歪補償回路30に入力される2つの信号の振幅等を完全に一致させるための調整を行う調整機構が設けられており、この点は、本発明の歪補償回路の極めて重要な特徴である。
つまり、図19の歪補償回路では、適応プリディストーション処理においては、フィードバックパス(フィードフォワード歪補償処理後の信号を適応プリディストーション部14に戻すための信号経路)が必須であることに着目し、このフィードバックパスを活用して、フィードフォワード歪補償回路30の2つの入力信号(図19の信号A1、A2)や、フィードフォワードループの信号(図19の信号A3)を、デジタル信号処理系に戻す。
そして、制御・監視部60にて、高精度なデジタル信号処理を用いて、フィードフォワード歪補償回路30の2つの入力信号間の、振幅(利得)、初期位相、伝送遅延の差分(少なくとも、いずれかの特性についての差分)を厳密に測定する。
次に、振幅等の調整器51にて、測定された差分がなくなるように、基準信号(歪補償回路の入力信号(IN))の振幅,位相,遅延の少なくとも一つ(実際には、これらの特性すべてを調整するのが好ましい)を調整する。
これにより、フィードフォワード歪補償回路30の2つの入力信号間の、振幅(利得)、初期位相、伝送遅延といった特性が完全に一致し、高精度のフィードフォワード歪補償を行うための条件が整う。
また、フィードフォワード歪補償回路30に入力される高周波電力増幅器32の出力信号は、プリディストーション歪補償によって高レベルの歪が除去された信号である。
したがって、フィードフォワードループ中に介在するエラーアンプ48には、高レベルの歪成分が入力されないことになる。よって、エラーアンプの電力増幅率を低めに設定することができる。このことは、消費電力の低減に貢献する。
プリディストーション処理およびフィードフォワード歪補償回路30の2つの入力信号の特性調整が終了すると、スイッチ回路SWからは、フィードフォワード歪補償回路30の出力信号(図1の信号A4)が出力され、デジタル信号処理系に戻される。
そして、制御・監視部60は、この帰還信号の特性を監視し、所望の歪補償精度が確保できなくなったとき、プリディストーション処理およびフィードフォワード歪補償回路30の2つの入力信号の特性調整を再度、順次、実行する。信号処理の順序は、シーケンサ80により制御される。
以上の主要な動作(および回路の主要な状態)をまとめると、図20に示すようになる。
すなわち、まず、スイッチ回路(SW)をd端子側に切り替え、適応プリディストーション処理を行う(状態1、ステップ100)。
次に、スイッチ回路(SW)をa端子側に切り替える。
そして、フィードフォワード歪補償回路における2つの入力信号(メインパスへの入力信号と基準信号)間の利得(振幅)、遅延、位相のインバランスを測定し、そのインバランスを解消するべく、基準信号の特性の調整を行う(状態2、ステップ102)。
次に、スイッチ回路(SW)をb端子側に切り替え、状態2における調整の結果をチェックするための状態3に移行する。
この状態3では、フィードフォワードループにおける歪信号以外の基準信号の成分の電力値(基準信号の漏れ(リーク)量)を測定する(ステップ104)。そして、そのリーク量がしきい値を超えているか否かを判定し、NGならばステップ102に戻り、OKならば、状態4に移行する(ステップ106)。
状態4では、スイッチ回路(SW)はc端子側に切り替えられる。そして、歪補償回路の最終出力信号を周波数スペクトル測定し、所定の基準マスクパターン(スペクトルエミッションマスクパターン)と比較し、周波数軸上での歪の抑圧状態を判定する(ステップ108)。
その判定の結果、周波数スペクトルが許容範囲内に抑圧されているならば(ステップ110)、そのまま監視を続行し、そうでなければ(ステップ110)、ステップ100に戻って、上述の処理をシーケンシャルに実行する。
図21(a)〜(d)はそれぞれ、図19の回路における入力信号(キャリア数3)、プリディストーション信号、フィードフォワード歪補償における基準信号、出力信号の周波数スペクトルを示している。
この図から明らかなように、本発明によると、広い帯域に渡って、精度の高い歪補償を行うことができる。
このように、図19のハイブリッド歪補償回路は、入力デジタル信号に対して、電力増幅器の非線形特性とは逆特性の歪を予め与える適応プリディストーション回路と、この適応プリディストーション回路が歪補償することができない歪成分をフィードフォワードループによって補償するフィードフォワード歪補償回路と、を有し、フィードフォワード歪補償回路には、2つの信号を個別に入力できるような2つの信号入力点が存在して、一方の信号入力点には、前記プリディストーション回路による適応プリディストーション処理を経た信号を入力し、他方の信号入力点には、前記適応プリディストーション回路による適応プリディストーション処理を経る前の前記入力デジタル信号に対応する基準信号を入力するようにして、両回路を、各々の回路の特性を最大限に引き出すことができる形態で接続したものである。
つまり、図19の歪補償回路は、デジタル信号処理回路と高周波パワーアナログ回路をD/A変換器およびA/D変換器を含む信号経路を介して接続した回路構成をもつ、フルデジタル制御方式の新規な歪補償回路である。
そして、この歪補償回路は、好ましくは、以下の(1)〜(5)の処理を行い、下記の効果を得る。
(1)適応プリディストーション処理を、デジタル信号処理にて行う。
デジタル信号処理によって、プリディストーションを実現するため、アナログ方式のプリディストーションに比べて高い精度の処理が可能である。
(2)フィードフォワード歪補償回路から高周波アナログ信号を取り出し、取り出したアナログ信号をデジタル信号に変換し、周波数スペクトル分析などの高度なデジタル信号処理を用いて、そのデジタル信号の所望の特性を極めて高精度に測定し、その測定結果を全体の回路の制御、監視の基礎とする。
つまり、アナログ信号処理とは比較にならない、高精度なデータを基礎として制御、監視を行うため、適応プリディストーション処理機能およびフィードフォワード歪補償処理機能のそれぞれが格段に向上し、歪補償能力が飛躍的に向上する。
(3)歪補償処理を複数のステージに分け、各ステージを、シーケンシャルに制御する。
通信環境は刻々と変化するものの、短時間でみれば、ある期間内では信号の特性は変化しないと見ることができる。この点に着目し、複数のステージを、所定の手順に従ってシーケンシャルに実行することで、歪補償処理を、デジタル制御によって無理なく行えるようになる。
(4)複数のステージは、例えば、適応プリディストーション処理を行う第1のステージと、フィードフォワード歪補償回路に独立に入力される2つの信号、すなわち非線形歪を含むメインパスへの入力信号と、非線形歪を含まない基準信号(フィードフォワードループに入力される信号である)の振幅、位相、遅延量といった特性を揃えるべく調整を行う第2のステージと、第2のステージによる調整の成果を確認する第3のステージと、フィードフォワード歪補償後の信号の特性を監視する第4のステージを含む。
フィードフォワード歪補償回路の2つの独立した入力信号の特性を厳密に揃える調整を必ず実行するため、前段のプリディストーション回路の存在に起因するフィードフォワード歪補償への悪影響を排除することができる。よって、適応プリディストーションとフィードフォワード歪補償の各々の精度が確保され、両処理の相乗効果によって、飛躍的に歪補償性能を向上することが可能となる。
すなわち、デジタル制御の適応プリディストーション歪補償回路は、A/D変換器やD/A変換器のサンプリング周波数の帯域の外に広がる低レベルの高次IM歪成分(相互変調歪成分)については、取り除くことはできない。
しかし、サンプリング周波数の帯域内であれば、高レベルの歪成分である、電力増幅器の低次の歪成分を高い安定性をもって取り除くことができる。そして、残留する低レベルの高次IM歪成分を、高精度のフィードフォワード歪補償処理にて効果的に取り除けば、広帯域の信号についての安定した高精度の歪補償が実現される。
また、歪が精度よく抑圧されているため、フィードフォワード歪補償回路内のフィードフォワードループに設けられているエラーアンプの利得を下げることができ、消費電力の低減に役立つ。
(5)上述のような第1〜第3のステージを経て、歪補償回路の全体の調整が一通り終了すると、監視ステージ(第4のステージ)に移行するが、歪が所定の範囲に抑圧されている限り、プリディストーション特性の適応的な調整やフィードフォワード歪補償回路の入力信号の特性調整は行われず、この期間では、各回路の特性が固定である。したがって、常時、適応制御を行うアナログ回路と異なり、この点でも、消費電力の削減が可能である。
(6)また、近年の移動体通信機器が、通常備えているデジタル信号処理機能(相関検出、電力測定といった機能)を利用することができるため、本発明の歪補償方法を実施することは比較的容易であり、実用価値が高い。
図1に示すように、以上説明した、本発明の各技術を組み合わせることで、従来にない、優れた効果を得ることができる。
すなわち、マルチキャリア送信信号のピーク抑圧技術によって、マルチキャリア送信信号全体で見た瞬時ピークを、どのような場合でも規格内に抑えることができ、これによって、後段の高周波パワーアンプの電力効率の低下を防ぐことができる。
すなわち、マルチキャリア信号のピーク抑圧が不十分な場合には、大きな余裕を確保する必要から、図22(高周波アンプの入出力特性を示す図)における領域A2付近を動作域(ダイナミックレンジ)とする必要があるが、マルチキャリア信号のピーク抑圧が常に十分であるならば、高周波アンプをA1付近で動作させることができ、これによって、高周波アンプの電力効率の低下を防ぐことができる。
また、適応ピークリミッタ技術により、W−CDMAにおけるHSDPAを運用する場合(すなわち、変調方式が適応的に切り換わるため、より厳しい制御が求められる場合)であっても、ピークリミットと信号品質とを両立させることが可能となる。さらに、ハイブリッド歪補償回路により高精度な歪補償を行うことで、送信信号の所望の水準の品質を確保することができる。
これにより、3GPPの規格を遵守した、次世代の移動体通信を実現することが可能となる。
以上の説明では、W−CDMA方式の通信を例にとって説明したが、本発明は、他の通信方式にも適用可能である。例えば、本発明のピークリミッタは、高速なパケット伝送をサポートする他のCDMA通信方式においても、適用することができる。