JP3997867B2 - 鋼線材とその製造法及び当該鋼線材を用いる鋼線の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば自動車のラジアルタイヤや各種産業用ベルトやホ−スの補強材として用いられるスチ−ルコ−ドあるいはソ−イングワイヤ等といった細径高強度鋼線の製造素材として好適な鋼線材並びにその製造方法、更には細径高強度鋼線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車のラジアルタイヤや各種のベルト,ホ−スの補強材として用いられるスチ−ルコ−ドあるいはソ−イングワイヤ等として用いられる細径高強度鋼線は、一般に、熱間圧延後に調整冷却した線径(直径)が5〜6mmの鋼線材(以降「鋼線材」を単に「線材」と称する)を一次伸線加工して線径を3〜4mmとなし、続いてパテンティング処理を施してから二次伸線加工により線径を1〜2mmとし、更に最終パテンティング処理とブラスメッキとを施してから最終湿式伸線加工によって線径を0.15〜0.40mmとする工程を経て製造されている。
そして、このようにして製造された細径高強度鋼線(極細鋼線)は、例えば撚り加工により複数本が撚り合わされて“撚り鋼線”とされスチ−ルコ−ドとなされる。
【0003】
ところで、上記細径高強度鋼線の製造に際し、鋼線材を鋼線に加工する工程で断線が生じると生産性と歩留りが大きく低下してしまうことから、鋼線の製造素材である鋼線材には「伸線加工時や撚り加工時に断線しないこと」が強く要求される。
【0004】
更に、スチ−ルコ−ドを製造する場合、熱間圧延した線径5〜6mmの線材を線径が1〜2mmの鋼線にするのに多くの中間熱処理工程を要し、これが製造コストの上昇を招いている。このため、最終製品の性能を低下させることなく製造工程を簡略化したいとする産業界からの要望が大きくなっている。
【0005】
そこで、Crなどの合金元素を含まないC含有量が0.90%未満(以降、 成分割合を表す%は重量%とする)の炭素鋼線材に対しては、中間熱処理を省略し、例えば線径 5.5mmから 1.5mmにまで直接的に伸線する技術が開発されている。この伸線技術における真歪量は2.60である。
なお、真歪(ε)は線材の直径(d0 )と伸線後の直径(d)を用いて下記式で表される。
ε=2log e (d0/d)
【0006】
一方、近年、種々の目的からスチ−ルコ−ド等を軽量化する気運も高まっている。このため、前記の各種製品(ラジアルタイヤや各種のベルト,ホ−スの補強材として用いられるスチ−ルコ−ドあるいはソ−イングワイヤ等)に対しては更なる高強度が要求されるようになり、上記のCr等の合金元素を含まずかつ含有量が0.90%未満の炭素鋼線材ではこの要求に応えられなくなってきている。
【0007】
このような事情から、C含有量を高め、かつCr等の合金元素をも添加して鋼線に高い強度が確保されるようにし、しかも前述した中間熱処理が省略できるような伸線加工性に優れた鋼線材が強く望まれるようになった。
【0008】
そして、上記要望に応えるべく、初析セメンタイトの生成を抑制し、また化学組成の調整や圧延後の冷却速度を含めた熱間圧延条件の工夫によりミクロ組織を制御して鋼線材の伸線加工性を高める手法が提案された。
【0009】
例えば、特許第2544867号公報には、「C:0.90〜1.10%,Si:0.15〜0.50%,Mn:0.30〜0.60%を含むと共に、 必要に応じて更にCr:0.10〜0.50%をも含む鋼を、 線材圧延後、 特定の温度域で巻取り、 更に巻取温度から550℃までの冷却速度を制御して“初析セメンタイトを含まない微細パ−ライト組織”とすることから成る、 熱間圧延のままの状態で高減面率の伸線加工が可能である過共析鋼線材の製造方法」に係る発明が提案されている。
しかしながら、この提案発明に係る過共析鋼線材の製造条件では初析セメンタイトやマルテンサイトの生成を安定して防止することが難しく、優れた伸線加工性を有する鋼線材を安定製造する手段としては満足できるものではなかった。
【0010】
また、特許第3221943号公報を見ると、「C:0.80〜1.10%,Si:0.10〜1.00%,Mn:0.10〜0.60%,Cr:0.10〜0.60%を含む鋼を、 熱間圧延した後、 特定の冷却速度で冷却することによってラメラ間隔が0.08〜0.12μmの完全パ−ライト組織とすることから成る、 伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材の製造方法」に係る発明が提案されている。
しかし、この提案発明に係る方法によっても初析セメンタイトやマルテンサイトの生成を安定して防止することは難しく、優れた伸線加工性を有する鋼線材の安定製造手段としては不満足なものであった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このようなことから、本発明が目的としたのは、高強度を示すスチ−ルコ−ドやソ−イングワイヤ等の製造素材として好適な“C含有量が0.90%以上でかつCr等の強化合金元素をも含む上に冷間加工性(伸線加工性等)にも優れた鋼線材”の安定した実現手段を確立すると共に、それを素材として高い生産性の下で歩留り良く廉価にスチ−ルコ−ドやソ−イングワイヤ等に適用する細径高強度鋼線を製造する方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、まず鋼線材の化学組成,ミクロ組織,機械的性質が伸線加工性等の冷間加工性(以降、 単に「伸線加工性」と称する)に及ぼす影響について調査・研究を重ね、その結果を仔細に解析して検討したところ、次のような知見を得ることができた。
【0013】
a) 従来から知られているように、鋼線材の製造過程においては硬質で脆いセメンタイトが断線起点となりやすく、そのため過共析鋼の冷却過程で初析セメンタイトが生成すると(初析セメンタイトは結晶粒界に沿って生成する)伸線加工性が大きく低下するが、この初析セメンタイトの生成には“冷却速度”だけでなく“旧オ−ステナイト粒径”も大きく影響する。即ち、旧オ−ステナイト粒径が大きければ大きいほど“初析セメンタイトが生成する臨界の冷却速度”が遅くなり、初析セメンタイトが生成しにくくなる。
なお、旧オ−ステナイト粒径を熱間圧延後の鋼線材から直接測定することは困難であるが、パ−ライトブロック径は旧オ−ステナイト粒径と相関が強く、そのためパ−ライトブロック径を旧オ−ステナイト粒径で代用することができる。
【0014】
b) また、過共析鋼においてオ−ステナイトから初析セメンタイトが生成する温度域はAcm温度以下であることは知られていたが、その中でも取り分け800〜700℃の温度域での初析セメンタイトの生成速度は速く、従ってこの温度域の冷却速度を速めることによって初析セメンタイトの生成を効果的に抑えることができる。
【0015】
c) セメンタイトは単体では極めて変形能が小さいもののパ−ライト中であればかなり変形できることが知られているが、パ−ライト中のセメンタイト厚さがある値以上になると変形能が著しく低下し、伸線加工性が低下する。
【0016】
d) 強化元素として有効なCrはフェライトよりもセメンタイトに濃化しやすい元素であり、セメンタイトの性質を変える作用を有していることが知られているが、セメンタイト中におけるCrの濃度は伸線加工性に大きく影響し、パ−ライトにおけるセメンタイト中のCr濃度が高くなると伸線加工性が低下する。
【0017】
e) 即ち、初析セメンタイトの生成量をも考慮してC含有量が過度に多くならないように成分調整したCr含有鋼を用い、これを熱間線材圧延するに際して、その加熱温度と圧延温度を制御することにより旧オ−ステナイト粒の大きさ(パ−ライトブロックの大きさ)が特定の範囲内となるように調整すると共に、熱間圧延を終えてから700℃に至るまでの800〜700℃の領域がカバ−される温度域を急速冷却して初析セメンタイトの生成量を極力抑制し、その後は“パ−ライト組織中のセメンタイトの厚さ”や“パ−ライトにおけるセメンタイト中のCr濃度”が抑えられつつパ−ライト変態が十分に進行する特定の冷却速度範囲で冷却すると、パ−ライトブロックの大きさ、初析セメンタイトの生成量、パ−ライト組織中のセメンタイトの厚さ、そしてパ−ライト組織中のセメンタイトにおけるCr濃度がそれぞれ特定の範囲内調整された鋼線材を得ることができ、このような鋼線材は、スチ−ルコ−ドやソ−イングワイヤ等といった細径高強度鋼線の製造素材として好適な、優れた冷間加工性(伸線加工性等)を示すということが分かった。
【0018】
f) そして、上記鋼線材を細径高強度鋼線の製造素材とした場合には、これに中間熱処理を行うことなく通常の冷間加工を施し、次いで通常の最終熱処理,メッキ処理,伸線加工をこの順に施すだけで、高い生産性,高い歩留りでもって廉価にスチ−ルコ−ドやソ−イングワイヤ等に適用する細径高強度鋼線が得られることも確認できた。
【0019】
本発明は、上記知見事項等を基に完成されたものであり、次の▲1▼〜▲3▼項に示す鋼線材及びその製造方法並びに当該鋼線材を用いた細径高強度鋼線の製造方法を提供するものである。
▲1▼ C:0.90〜1.10%,
Si:0.1 〜1.0 %,
Mn:0.1 〜1.0 %,
Cr:0.2 〜0.6 %,
Co:0〜 2.0%,
B:0〜 0.005%
を含有すると共に残部がFe及び不可避不純物から成り、かつ不純物中のAl,Ti,N,P,S及びOがそれぞれ
Al:0.002 %以下,
Ti:0.002 %以下,
N:0.005 %以下,
P:0.012 %以下,
S:0.01%以下,
O:0.0020%以下
であって、パ−ライトブロックの大きさが鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号の6〜8番に相当する範囲で、初析セメンタイトの生成量が体積率で 0.2%以下であり、かつパ−ライト組織中におけるセメンタイトの平均厚さが20nm以下、そのセメンタイト中に含まれるCr濃度が 1.5重量%以下であることを特徴とする、鋼線材。
▲2▼ C:0.90〜1.10%,
Si:0.1 〜1.0 %,
Mn:0.1 〜1.0 %,
Cr:0.2 〜0.6 %,
Co:0〜 2.0%,
B:0〜 0.005%
を含有すると共に残部がFe及び不可避不純物から成り、かつ不純物中のAl,Ti,N,P,S及びOがそれぞれ
Al:0.002 %以下,
Ti:0.002 %以下,
N:0.005 %以下,
P:0.012 %以下,
S:0.01%以下,
O:0.0020%以下
である鋼に対し、
ビレット加熱温度(X):1000〜1250℃,
仕上げ圧延温度(Y):1000〜800℃
であって、かつ
1160−0.30X < Y < 1300−0.30X
を満足する条件で熱間線材圧延を施した後、圧延を仕上げてから700℃までの間を15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却し、続いて700〜550℃の間を5℃/秒以上15℃/秒未満の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、鋼線材の製造方法。
▲3▼ 前記▲1▼項に記載の鋼線材に中間熱処理を行うことなく冷間加工を施し、次いで最終熱処理,メッキ処理,伸線加工をこの順に施すことを特徴とする、細径高強度鋼線の製造方法。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る鋼線材の化学組成や金属組織,鋼線材の製造条件,細径高強度鋼線の製造条件についてより詳細に説明する。
【0021】
[A] 化学成分
C: Cは鋼材の引張強度を高めるのに有効な成分である。しかし、その含有量が0.90%未満の場合には、例えば引張強さで4000MPaといった高い強度を安定して最終製品に付与させることが困難である。更に、高強度の最終製品を安定して得るためにはC含有量を高めることが有効で、4500MPa以上を得るためにはC含有量を1.00%以上にすることが望ましい。一方、C含有量が多すぎると鋼材が硬質化して伸線加工性の低下を招く。特に、C含有量が1.10%を超えると、後述するパ−ライトブロック径を制御しても初析セメンタイト(即ち旧オ−ステナイト粒界に沿って析出するセメンタイト)の生成を抑制するには仕上げ圧延後の冷却速度を極めて速くする必要があり、工業的に安定して製造することが困難になる。従って、C含有量は0.90〜1.10%と定めた。
【0022】
Si: Siも鋼材の強度を高めるのに有効な成分であり、また脱酸剤としても必要な成分である。しかし、Siの含有量が 0.1%未満ではSiの添加効果が十分でなく、一方、1.0 %を超えて含有させると伸線加工での限界加工度が低下する。従って、Siの含有量は 0.1〜 1.0%と定めた。
ただ、Siは鋼材の焼入れ性や初析セメンタイトの生成にも影響する元素であることから、鋼線材に安定して所望のミクロ組織を確保するとの観点からSi含有量は 0.2〜 0.5%に調整するのが望ましい。
【0023】
Mn: Mnは、鋼材の強度を高める作用に加えて、鋼中のSをMnSとして固定し熱間脆性を防止する作用を有する成分である。しかし、Mn含有量が 0.1%未満では前記作用による効果が十分でない。一方、Mnは偏析しやすい元素であり、1.0 %を超えて含有させると線材の特に中心部に偏析し、その偏析部にはマルテンサイトやベイナイトが生成するので伸線加工性が低下してしまう。従って、Mn含有量は0.1 〜1.0 %と定めた。
なお、Mnも鋼の焼入れ性や初析セメンタイトの生成に影響する元素であることから、鋼線材に安定して所望のミクロ組織を確保するとの観点からはMn含有量を0.2 〜0.5 %に調整するのが望ましい。
【0024】
Cr: Cr成分にはパ−ライトのラメラ間隔を小さくして最終製品の強度を高める作用がある。そして、最終製品の引張強さで4000MPa以上を安定して得るためには 0.2%以上のCr含有量が必要である。しかし、Cr含有量が 0.6%を越えるとパ−ライト組織中のセメンタイトにおけるCr濃度を安定して 1.5%以下にすることが困難になり、伸線加工性が低下する場合がある。従って、Cr含有量は 0.2〜0.6 %と定めた。
【0025】
Co: Coは不純物としても混入する元素であるが、本発明においては必要に応じて添加される成分である。即ち、Co成分にはパ−ライトを微細化して最終製品の強度を高める作用があるので、最終製品の強度がより重視される場合に含有せしめられるが、その効果を確実に得るためにはCo含有量を 0.2%以上とするのが望ましい。しかし、 2.0%を超えてCoを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりとなる。従って、Co含有量は0(無添加)〜 2.0%と定めた。
【0026】
B: Bも不純物としても混入する元素であるが、本発明においては必要に応じて添加される成分である。即ち、B成分には鋼中に固溶したNと結合してBNを形成し固溶Nを低減して伸線加工性を向上させると共に、最終伸線後の捻回試験での縦割れ発生を抑制する効果がある。そして、これらの効果を確実に得るためにはB含有量を0.0003%以上とするのが望ましい。しかし、 0.005%を超えてBを含有させると粗大なBNが生成して伸線加工性の低下を招く。従って、B含有量は0(無添加)〜 0.005%と定めた。
【0027】
本発明においては、更に、不純物であるAl,Ti,N,P,S,Oの含有量を下記の通りに規制する。
Alは、 Al2O3 を主成分とする酸化物系介在物を形成して伸線加工性を低下させる元素である。特に、Al含有量が 0.002%を超えると前記酸化物系介在物が粗大化して伸線加工中に断線が多発し、伸線加工性の低下が著しくなる。従って、Al含有量を 0.002%以下に規制することとした。
【0028】
Tiは、Nと結合してTiNを形成する。このTiNが粗大な場合、伸線加工中の断線起点となるので伸線加工性が低下してしまう。特に、Ti含有量が 0.002%を超えると伸線加工性の低下が著しくなる。従って、Ti含有量を 0.002%以下に規制することとした。
【0029】
Nは、冷間での伸線加工中に転位に固着して鋼線の強度を上昇させる反面、伸線加工性を低下させてしまう元素である。特に、N含有量が 0.005%を超えると伸線加工性の低下が著しくなる。従って、N含有量を 0.005%以下に規制することとした。
【0030】
Pは、粒界に偏析して伸線加工性を低下させてしまう元素である。特に、P含有量が 0.012%を超えると伸線加工性の低下が著しくなる。従って、P含有量は0.012 %以下に規制することとした。
Sも伸線加工性を低下させてしまう元素である。そして、S含有量が特に0.01%を超えると伸線加工性の低下が著しくなることから、S含有量は0.01%以下に規制することとした。
【0031】
Oは、酸化物系介在物を形成して伸線加工性を低下させてしまう元素である。特に、O含有量が 0.002%を超えると酸化物系介在物が粗大化するので伸線加工性の低下が著しくなって、伸線加工中に断線が多発する。従って、O含有量については 0.002%以下に規制することとした。
【0032】
[B]“初析セメンタイトの量”及び“パ−ライトブロックの大きさ”
〔初析セメンタイトの量〕
初析セメンタイトの生成量が体積率で 0.2%を上回ると、例え他の要件を満たしているとしても鋼線材に所望とする伸線加工性を確保できず、伸線加工中に断線が多発するようになる。従って、鋼線材における初析セメンタイトの生成量を体積率で 0.2%以下に制限することとした。
【0033】
ところで、鋼線材において初析セメンタイトの生成量を定量的に測定するためには多大な労力を要する。従って、鋼線材における初析セメンタイト生成量の定量的測定は工業的には採用が困難である。
そこで、実際には、初析セメンタイトの生成量が例えば4段階等に等級分けされた標準組織写真を準備し、鋼線材の金属組織をこの標準組織写真と対比して初析セメンタイトの生成量を評価する手法を採用するのが良い。
【0034】
例えば、図1は初析セメンタイトの生成量が4段階の等級(0級,1級,2級及び3級)に区分された標準組織写真図であり、0〜3級のそれぞれは初析セメンタイトの生成量が次の範囲となっている。
0級: 初析セメンタイトの体積率が0.05%以下,
1級: 初析セメンタイトの体積率が 0.2%以下,
2級: 初析セメンタイトの体積率が 0.4%以下,
3級: 初析セメンタイトの体積率が 0.4%超。
ここで、上記図1に示した標準組織における初析セメンタイトの体積率は次の方法によって測定したものである。
即ち、まず、鋼線材の横断面を鏡面研磨した後、ナイタ−ルで腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い任意な位置において倍率5000倍で15箇所を写真撮影する。次いで、その写真を用いて通常の画像解析により初析セメンタイトの面積率を求める。この面積率は体積率と同じであるため、その面積率の値を体積率とする。
上記標準組織写真図と鋼線材の金属組織を対比することにより、鋼線材における初析セメンタイトの生成量を迅速に評価することができる(初析セメンタイト観察用の腐食液はアルカリ性ピクリン酸ソ−ダが適当である)。
【0035】
なお、図2は、鋼線材における初析セメンタイトの生成量と伸線加工中の断線回数との関係を整理して示したものである(なお、 この関係は、 後述する実施例中の表2及び表3に示された“初析セメンタイトの生成量以外の条件が本発明の規定範囲を満たす鋼線材に係る調査結果”を基に導き出されている)。
この図2から明らかなように、初析セメンタイトの生成量が前述した等級の1級(初析セメンタイトの体積率が 0.2%以下)を上回ると、例え他の要件を満たしていても優れた伸線加工性を確保できない。
【0036】
〔パ−ライトブロックの大きさ〕
パ−ライトブロックの大きさが鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号(JIS G 0551に規定されるもの)の8番に相当する大きさを下回ると、工業的に初析セメンタイトの生成量を所定範囲内に安定して抑えることが困難となって鋼線材の伸線加工性が低下する。一方、パ−ライトブロックの大きさが鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号の6番に相当する大きさを上回ると鋼線材の延性が低下し、この点から伸線加工性が低下する。従って、パ−ライトブロックの大きさを、鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号の6〜8番に相当する範囲内に調整することと規定した。
【0037】
図3は、パ−ライトブロックの大きさが各種の鋼線材(鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号に準拠した各種粒度番号の鋼線材)について、冷却速度と初析セメンタイト生成量の前記等級についての関係を示した図である。
なお、上記図3に示す関係は次のように求めたものである。即ち、後述する実施例中の表1に示された“鋼C”より成る“線径が 5.5mmの熱間圧延材”の横断面中心部から直径が3mmで長さが10mmの試験片を採取し、これを真空雰囲気中にて高周波加熱により温度,保持時間を変えてオ−ステナイト化した後、窒素ガス乃至はヘリウムガスを用いて200℃までを平均冷却速度50〜5℃/秒で冷却した試験片につき、そのパ−ライトブロックの大きさ(鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号に準拠した粒度番号:以降は“パ−ライトブロックの粒度番号”と称する)と初析セメンタイト生成量とを観察して得たデ−タを整理した。ここで、パ−ライトブロックの観察には腐食液として修正カ−リング液を用い、初析セメンタイトの観察には腐食液としてアルカリ性ピクリン酸ソ−ダを用いた。
【0038】
上記図3からも、初析セメンタイトの生成量は、冷却速度だけでなくパ−ライトブロックの大きさに大きく影響されることが分かる。
ところで、工業的には冷却速度が速いほど安定した冷却速度の制御が難しくなり、熱間圧延線材として一般的な線径である 5.5mmのものでは空冷に水冷を組み合わせたとしても40℃/秒を超える冷却速度に安定して制御することは極めて難しい。しかるに、前記図3からは、パ−ライトブロックの粒度番号を8番以下にすれば冷却速度が40℃/秒以下の場合でも初析セメンタイトの生成量を1級以下(体積率で 0.2%以下)に抑え得ることが分かる。
【0039】
一方、パ−ライトブロックを大きくすると、延性が低下し、この延性低下によって伸線加工性が低下することは前述した通りである。例えば、後述する実施例中の表2及び表3に示されるように、パ−ライトブロックの粒度番号が6番を下回ると例え他の要件を満たしていても優れた伸線加工性を確保することができなくなる。
【0040】
[C]“パ−ライト組織中のセメンタイトの平均厚さ”及び“パ−ライト組織中の
セメンタイトに含まれるCr濃度”
セメンタイトは、単体では極めて変形能が小さいもののパ−ライト組織中に存在する場合にはかなり変形できることが知られている。しかし、パ−ライト組織中のセメンタイトであっても、その平均厚さが20nmを超えると変形能が著しく低下し、鋼線材の伸線加工性を目立って劣化させる。
また、強化元素として有効なCrはフェライトよりもセメンタイトに濃化しやすい元素であることが知られているが、セメンタイト中におけるCrはセメンタイトを安定化させたりその硬度を上げたりするのでその濃度は伸線加工性に大きく影響し、パ−ライト組織におけるセメンタイト中のCr濃度が 1.5%を超えると鋼線材の伸線加工性は目立って劣化する。
従って、優れた伸線加工性を確保するためにはパ−ライト組織中のセメンタイトの平均厚さを20nm以下に、そしてパ−ライト組織中のセメンタイトに含まれるCr濃度を 1.5%以下に調整する必要がある。
【0041】
図4は、伸線加工で生じる断線の有無に及ぼす“パ−ライト組織中のセメンタイト厚さ”と“セメンタイト中のCr濃度”の影響を整理して示した図である。
なお、図4に示す関係は、後述する実施例中の表2及び表3に示された“化学成分,パ−ライトブロックの粒度番号,初析セメンタイトの生成量が本発明の規定範囲を満たす鋼線材についての調査結果”を基に導き出されたものである。
【0042】
なお、パ−ライト組織中のセメンタイト厚さは、鋼中のC元素は全てセメンタイト中にあると仮定し、従来から知られているセメンタイトの比重等から次式によって求めた。
セメンタイト厚さ=パ−ライトラメラ間隔×0.16×C量(%)
ここで、上記式中のパ−ライトラメラ間隔は、鋼線材の横断面を鏡面に研磨したしてからナイタ−ルで腐食したものを走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することによって測定した。具体的には、各試験材について倍率5000倍で任意の箇所を10視野観察し、この10視野の写真に各5本の切断線を引き、次式に示すように、切片法によりパ−ライトラメラ間隔を求めた。
ラメラ間隔=平均切片長/2
【0043】
また、パ−ライト組織中のセメンタイトに含まれるCr濃度は、常法に従い電解抽出によってセメンタイトを分離した後、通常の溶液分析により決定した。
【0044】
図4からも明らかなうように、セメンタイトの厚さが20nm以下で、かつセメンタイト中のCr濃度が 1.5%以下の場合にのみ、鋼線材に優れた伸線加工性が付与されることが分かる。
【0045】
なお、パ−ライト組織中におけるセメンタイトの平均厚さの下限については特に規定しないが、ラメラ間隔が小さくなると鋼線材の強度が上がってダイス寿命を低減し生産性を低下させることから、セメンタイトの平均厚さは13nm以上に調整することが好ましい。また、セメンタイト中のCr濃度の下限についても特に規定しないが、Cr元素の平均含有量を上回ることが好ましい。
【0046】
[D] 鋼線材の製造条件
先にも述べたように、鋼線材に優れた伸線加工性を確保するためにはパ−ライトブロックの粒度番号を6〜8番に制御する必要があるが、パ−ライトブロックの粒度番号を制御するためには、熱間加工に際しての加熱温度と加工温度を制御してオ−ステナイト粒径(旧オ−ステナイト粒径)を調整する必要がある。
熱間線材圧延においては、ビレットの加熱温度と圧延温度の制御がパ−ライトブロックの粒度番号調整につながる。
そして、パ−ライトブロックの粒度番号を6〜8番に制御するためには、ビレット加熱温度(X)と仕上げ圧延温度(Y)とが
1160−0.30X < Y < 1300−0.30X
なる関係を満足する条件で熱間線材圧延を施す必要がある。
【0047】
なお、図5は、パ−ライトブロックの粒度番号に与えるビレット加熱温度と圧延仕上げ温度の影響を示した図であり、後述する実施例の表2及び表3に示されている結果を基にその“ビレット加熱温度”と“仕上げ圧延温度(仕上げ圧延機に入る際の温度)”をそれぞれ横軸,縦軸に採って整理したものである。
この図5からも、ビレット加熱温度(X)と仕上げ圧延温度(Y)とが
1160−0.30X < Y < 1300−0.30X
なる関係を満たしているとパ−ライトブロックの粒度番号が6〜8番になることが分かる。
【0048】
ところで、ビレットの加熱温度が1250℃を上回ると脱炭やスケ−ル生成が急激に進行することに加えて加熱炉の損傷も激しくなり、一方、ビレットの加熱温度が1000℃を下回ると圧延機への負担が大きくなって生産性が低下することから、ビレット加熱温度の上限を1250℃に、そしてビレット加熱温度の下限を1000℃にそれぞれ定めた。
【0049】
また、仕上げ圧延温度が1000℃を上回っても脱炭やスケ−ル生成が急激に進行し、一方、仕上げ圧延温度が800℃を下回ると仕上げ圧延機への負担が大きくなって表面キズが増加するため、仕上げ圧延温度の上限を1000℃に、そして仕上げ圧延温度の下限を800℃にそれぞれ定めた。
なお、仕上げ圧延温度とは、鋼材が仕上げ圧延機に入る際の温度である。
【0050】
圧延仕上げ後は、700℃に達するまでの温度区間は15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却し、続いて700〜550℃の温度区間は5℃/秒以上15℃/秒未満の平均冷却速度で冷却すべきである。
なぜなら、初析セメンタイトが主に生成する温度域は熱間線材圧延の仕上げ温度から700℃までの温度区間であり、またパ−ライト変態は通常範囲の冷却速度であれば700℃未満でも進行するから、圧延仕上げ後から700℃までの温度区間は平均冷却速度15℃/秒以上で急速冷却して初析セメンタイトの生成を抑える必要がある。即ち、圧延仕上げ後から700℃までの平均冷却速度が15℃/秒以上であれば、初析セメンタイトの生成量を前述した1級以下(体積率で 0.2%以下)とすることができる。
仕上げ圧延後から700℃までの冷却速度の上限については特に規定はしないが、平均冷却速度が40℃/秒以下であれば安定した量産体制を維持しやすいと言える。
【0051】
一方、引き続く700〜550℃の温度区間では、平均冷却速度が15℃/秒以上であると、冷却中にパ−ライト変態が終了せずにマルテンサイトが生成し、伸線加工性が大きく低下する。
また、この温度区間の平均冷却速度が遅すぎるとパ−ライト組織中のセメンタイト厚さが厚くなる上、セメンタイト中のCr濃度も高くなって伸線加工性が劣化することから、700〜550℃の温度区間では5℃/秒以上15℃/秒未満の平均冷却速度で冷却する必要がある。
【0052】
なお、図6は、鋼線材の急冷開始温度と初析セメンタイト生成量との関係を示した図である。
即ち、図6は、後述する実施例の表1における鋼Cから成る線径 5.5mmの熱間圧延材の横断面中心部から直径が3mmで長さが10mmの試験片を採取し、これを真空雰囲気中で高周波加熱によってオ−ステナイト化した後、900℃,850℃,800℃,750℃,700℃,650℃,600℃,550℃の各温度まで10℃/秒で冷却し、その後平均冷却速度200℃/秒で200℃まで冷却した試料における相対的な初析セメンタイトの生成量(10℃/秒で550℃まで冷却した場合を 1.0とした場合の相対的な値)を示している。ここで、初析セメンタイトの生成量は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したが、200℃/秒での冷却中に初析セメンタイトは殆ど生成しないと考えられるので、急冷前の初析セメンタイトの生成量を測定することができる。
この図6からは、初析セメンタイトが主に生成する温度域は800〜700℃(即ち仕上げ圧延後から700℃までの温度区間)であることが分かる。
【0053】
また、図7は、初析セメンタイトの生成量(前述した初析セメンタイト生成量の等級)に及ぼす圧延仕上げ温度から700℃までの冷却速度(平均冷却速度)とパ−ライトブロック粒度番号の影響を示した図であり、後述する実施例の表2及び表3に示されている結果を基に整理したものである。
この図7からは、パ−ライトパケットの粒度番号が8番以下で、かつ圧延仕上げ温度から700℃までの冷却速度が15℃/秒以上であるならば、初析セメンタイトの生成量を1級以下(体積率で 0.2%以下)に抑え得ることが分かる。
【0054】
更に、図8は、700〜550℃間の冷却速度(平均冷却速度)とパ−ライト中のセメンタイト厚さとの関係を示した図であり、後述する実施例の表2及び表3に示される結果のうちの化学組成,ビレット加熱温度,仕上げ圧延温度が本発明の規定値を満たしているものを基に整理したものである。
この図8からは、700〜550℃の平均冷却速度が3℃/秒以上であればパ−ライト中のセメンタイト厚さが20nm以下になることが分かる。
【0055】
そして、図9は、700〜550℃間の冷却速度(平均冷却速度)とパ−ライト組織におけるセメンタイト中のCr濃度との関係を示した図であり、やはり、後述する実施例の表2及び表3に示される結果のうちの化学組成,ビレット加熱温度,仕上げ圧延温度が本発明の規定値を満たしているものを基に整理したものである。
この図9からは、700〜550℃の平均冷却速度が5℃/秒以上であればセメンタイト中のCr濃度が常に 1.5%以下になることが分かる。
【0056】
[E] 細径高強度鋼線の製造条件
本発明に係るスチ−ルコ−ド用やソ−イングワイヤ用等の細径高強度鋼線の製造方法では、先に説明した本発明鋼線材に中間熱処理を行うことなく冷間加工を施し、次いで最終熱処理(パテンティング処理),メッキ処理(ブラスメッキ,銅メッキ,ニッケルメッキ等),伸線加工(湿式伸線加工)がこの順に施されて細径高強度鋼線となされる。
ここでの冷間加工,最終熱処理,メッキ処理及びその後の伸線加工としては、細径高強度鋼線の製造において通常に行われているもので良い。
【0057】
即ち、まず、鋼線材には、穴ダイスを用いた伸線加工、ロ−ラダイスを用いた伸線加工、所謂「2ロ−ル圧延機」,「3ロ−ル圧延機」や「4ロ−ル圧延機」を用いた冷間圧延加工など、通常の冷間加工が施されて線径が縮められる。
この冷間における加工量を例えば真歪で少なくとも 2.6とすれば、スチ−ルコ−ド用鋼線やソ−イングワイヤ用鋼線の素材として現在常用されている直径 5.5mmの線材を直径 1.5mm鋼線に加工することができるので、中間熱処理工程の省略が可能となる。
更に、冷間加工量が真歪で 3.0になると、常用されている直径 5.5mmの線材を直接 1.2mmの鋼線に加工することができるので、真歪は 3.0以上とするのが好ましい。
【0058】
なお、前記最終熱処理(パテンティング処理)や、ブラスメッキ,銅メッキ,ニッケルメッキ等のメッキ処理は、次の湿式伸線の過程における引抜き抵抗の低減や、ゴムとの密着性の向上等を目的として実施されるものであることは言うまでもない。
このようにして得られた細径高強度鋼線は、この後所定の最終製品へと加工される。例えば、極細鋼線を更に撚り加工で複数本撚り合わせて撚鋼線とすることでスチ−ルコ−ドが成形される。
【0059】
次いで、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。
【実施例】
まず、表1に示す化学組成の鋼A〜Mを溶製した。ここで、鋼Cは70トンを転炉で溶製し、残りの鋼は3トンの電気炉で溶製した。
【0060】
【表1】
【0061】
そして、これらの鋼を通常の方法で熱間鍛造して140mm角のビレットとし、更に表2及び表3に示す条件の熱間線材圧延を施して線径 5.5mmの鋼線材を製造した。
【0062】
このようにして得られた各鋼線材の横断面(つまり長さ方向に直角な切断面)を鏡面研磨した後、その研磨面において初析セメンタイトの生成量,パ−ライトブロックの大きさ,パ−ライト組織中のセメンタイト厚さ,パ−ライト組織におけるセメンタイト中のCr濃度をそれぞれ調査した。
【0063】
なお、初析セメンタイトの観察用にはアルカリ性ピクリン酸ソ−ダで腐食した試料を用い、パ−ライトブロックの観察用には修正カ−リング液で腐食した試料を用いた。
そして、初析セメンタイトは、倍率500倍で4視野観察し、そのうちの“初析セメンタイトの生成量が最も多かった写真”と“図1に示した標準組織写真”とを比較して初析セメンタイトの生成量の等級を決定した(初析セメンタイト生成量の等級は先に説明した0級,1級,2級及び3級の4段階に区分されたものである)。
パ−ライトブロックの大きさについては、倍率100倍で2視野観察し、JIS G 0551に規定されている鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号に準拠してパ−ライトブロックの粒度番号を決定した。
【0064】
また、パ−ライト組織中のセメンタイト厚さは次の方法で決定した。
まず、熱間圧延して得られた各鋼線材の横断面を鏡面研磨したものにつき、この研磨面をナイタ−ルで腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率5000倍で任意の箇所を10視野観察した。次いで、この10視野の写真に各5本の切断線を引き、次式に示すように切片法によりパ−ライトラメラ間隔を求めた。
ラメラ間隔=平均切片長/2
そして、このようにして求めたラメラ間隔から次式によってパ−ライト組織中のセメンタイト厚さを決定した。
セメンタイト厚さ=パ−ライトラメラ間隔×0.16×C量(%)
【0065】
パ−ライト組織におけるセメンタイトに含まれるCr濃度については、通常方法の電解抽出によってセメンタイトを分離した後、通常の溶液分析によって決定した。
【0066】
次に、熱間線材圧延を施して得られた前記各鋼線材を、中間熱処理を施すことなく酸洗し、リン酸塩皮膜処理を施した後、それぞれの線材100kgについて、各ダイスでの減面率が平均で20%となるパススケジュ−ルにて直径 1.5mmまで伸線加工(乾式伸線)を行った。
この際、直径 1.5mmまで伸線加工を行っても1回も断線しない場合に「伸線加工性が良好である」と評価した。また、6回断線した場合には、その試験材の伸線作業を中止した。
因みに、直径 5.5mmから直径 1.5mmまで伸線すると、真歪で 2.6である。
【0067】
表2及び表3に、熱間線材圧延の条件、得られた鋼線材についてのミクロ組織の観察結果,伸線加工性及び引張強さの調査結果をまとめて示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表2及び表3に示される結果から明らかなように、鋼線材の製造条件が本発明の規定要件を満たす場合には、パ−ライトブロックの大きさが鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号の6〜8番に相当する範囲で、初析セメンタイトの生成量が体積率で 0.2%以下であり、かつパ−ライト組織中におけるセメンタイトの平均厚さが20nm以下、そのセメンタイト中に含まれるCr濃度が 1.5重量%以下である鋼線材を安定して得られることが分かる。
【0071】
また、表2及び表3に示される結果からは、化学組成,パ−ライトブロックの大きさ,初析セメンタイトの生成量,パ−ライト組織中におけるセメンタイトの平均厚さ,パ−ライト組織におけるセメンタイト中のCr濃度が本発明の規定要件を満たす鋼線材は、線径 5.5mmから線径 1.5mmまで伸線しても断線が生ぜず、良好な伸線加工性を有していることが分かる。
【0072】
一方、鋼線材の製造条件が本発明の規定要件を満たしていない場合には本発明の規定要件を満たす鋼線材を安定して製造することが難しく、また化学組成,パ−ライトブロックの大きさ,初析セメンタイトの生成量,パ−ライト組織中におけるセメンタイトの平均厚さ,パ−ライト組織におけるセメンタイト中のCr濃度が本発明の規定要件を満たさない鋼線材では線径 1.5mmまで伸線するときに1回以上破断し、伸線加工性が悪いことも、表2及び表3に示される結果から明らかである。
【0073】
なお、表2及び表3に示された本発明例に係る各線材を前記条件で乾式伸線加工したもの(線径 1.5mm)について、常法通りに最終熱処理(パテンティング処理)と銅メッキを施し、更に常法通りの湿式伸線加工を施して線径0.20mmの極細鋼線を製造したが、何れの場合も断線等の作業トラブルを生じることがなく、スチ−ルコ−ド用として十分に満足できる引張強さ4200〜4800MPaの細径高強度鋼線が安定して得られることを確認した。
【0074】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本発明によれば、強度が高くかつ優れた冷間加工性(伸線加工性等)を有した鋼線材を安定提供することができる上、この鋼線材を用いることによってスチ−ルコ−ド用やソ−イングワイヤ用等として好適な細径高強度鋼線を高い生産性の下で歩留り良く廉価に製造することも可能になるなど、産業上極めて有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼破線材における初析セメンタイトの生成量が4段階の等級(0級,1級,2級及び3級)に区分された標準組織写真図である。
【図2】鋼線材における初析セメンタイトの生成量と伸線加工中の断線回数との関係を示した図である。
【図3】パ−ライトブロックの大きさが各種の鋼線材について、冷却速度と初析セメンタイト生成量の前記等級についての関係を示した図である。
【図4】“伸線加工で生じる断線の有無”に及ぼす“パ−ライト組織中のセメンタイト厚さ”と“セメンタイト中のCr濃度”の影響を整理して示した図である。
【図5】パ−ライトブロックの粒度番号に与えるビレット加熱温度と圧延仕上げ温度の影響を示した図である。
【図6】鋼線材の急冷開始温度と初析セメンタイト生成量との関係を示す図である。
【図7】初析セメンタイトの生成量(初析セメンタイト生成量の等級)に及ぼす圧延仕上げ温度から700℃までの冷却速度(平均冷却速度)とパ−ライトブロック粒度番号の影響を示した図である。
【図8】700〜550℃間の冷却速度(平均冷却速度)とパ−ライト中のセメンタイト厚さとの関係を示した図である。
【図9】700〜550℃間の冷却速度(平均冷却速度)とパ−ライト組織におけるセメンタイト中のCr濃度との関係を示した図である。
Claims (3)
- 重量%で、
C:0.90〜1.10%,
Si:0.1 〜1.0 %,
Mn:0.1 〜1.0 %,
Cr:0.2 〜0.6 %,
Co:0〜 2.0%,
B:0〜 0.005%
を含有すると共に残部がFe及び不可避不純物から成り、かつ不純物中のAl,Ti,N,P,S及びOがそれぞれ
Al:0.002 %以下,
Ti:0.002 %以下,
N:0.005 %以下,
P:0.012 %以下,
S:0.01%以下,
O:0.0020%以下
であって、パ−ライトブロックの大きさが鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号の6〜8番に相当する範囲で、初析セメンタイトの生成量が体積率で 0.2%以下であり、かつパ−ライト組織中におけるセメンタイトの平均厚さが20nm以下、そのセメンタイト中に含まれるCr濃度が 1.5重量%以下であることを特徴とする、鋼線材。 - 重量%で、
C:0.90〜1.10%,
Si:0.1 〜1.0 %,
Mn:0.1 〜1.0 %,
Cr:0.2 〜0.6 %,
Co:0〜 2.0%,
B:0〜 0.005%
を含有すると共に残部がFe及び不可避不純物から成り、かつ不純物中のAl,Ti,N,P,S及びOがそれぞれ
Al:0.002 %以下,
Ti:0.002 %以下,
N:0.005 %以下,
P:0.012 %以下,
S:0.01%以下,
O:0.0020%以下
である鋼に対し、
ビレット加熱温度(X):1000〜1250℃,
仕上げ圧延温度(Y):1000〜800℃
であって、かつ
1160−0.30X < Y < 1300−0.30X
を満足する条件で熱間線材圧延を施した後、圧延を仕上げてから700℃までの間を15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却し、続いて700〜550℃の間を5℃/秒以上15℃/秒未満の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、鋼線材の製造方法。 - 請求項1に記載の鋼線材に中間熱処理を行うことなく冷間加工を施し、次いで最終熱処理,メッキ処理,伸線加工をこの順に施すことを特徴とする、細径高強度鋼線の製造方法。
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