JP3925275B2 - 耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、地球的規模での環境問題に対して、自然環境の中で分解するポリマー素材の開発が切望されており、脂肪族ポリエステル等、様々なポリマーの研究・開発、また実用化の試みが活発化している。そして、微生物により分解されるポリマー、すなわち生分解性ポリマーに注目が集まっている。
【0003】
一方、従来のポリマーはほとんど石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するのではないかということ、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。しかし、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料としてポリマーが合成できれば、二酸化炭素循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため、植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマス利用ポリマーに注目が集まっている。
【0004】
上記2つの点から、バイオマス利用の生分解性ポリマーが大きな注目を集め、石油資源を原料とする従来のポリマーを代替していくことが期待されている。しかしながら、バイオマス利用の生分解性ポリマーは一般に力学特性、耐熱性が低く、また高コストとなるといった課題があった。これらを解決できるバイオマス利用の生分解性ポリマーとして、現在、最も注目されているのはポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した繊維の開発が急ピッチで行われている。
【0005】
ポリ乳酸繊維の開発としては、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途、車両内装用途、産業資材用途への応用も期待されている。これらの用途のためには、嵩高性やストレッチ性を付与するためポリ乳酸捲縮糸が必須である。
【0006】
しかし、ポリ乳酸繊維はポリマーのガラス転移温度(Tg)である60℃を超えると急激に強度が低下する問題があった。ポリ乳酸捲縮糸としては、例えば特開2000−290845号公報にポリ乳酸仮撚加工糸が記載されているが、これの90℃での強度を測定したところ0.4cN/dtex以下と実用に耐えない物であった。例えば、ポリ乳酸捲縮糸を織物の経糸に用いるときは、糸の集束性を高め製織性を向上させる目的で糸を糊付けするが、熱風乾燥を行うと経糸をぴんと張るためにかけている張力により、糸が伸びてしまう問題があった。また、ポリ乳酸捲縮糸を用いた布帛に機能性薬剤をコーティングした後の乾燥工程で張力をかけると布帛が伸びてしまう問題があった。このように、ポリ乳酸捲縮糸は90℃での強度に代表されるような高温力学特性が低いため、工程通過性に大きな問題があった。
【0007】
また、ポリ乳酸捲縮糸を一般衣料用途に展開するためにはアイロン掛けができることが必須であるが、ポリ乳酸の融点は約170℃と、従来の汎用合成繊維であるポリエチレンテレフタレート(PET)の255℃と比べるとはるかに低いため、アイロン掛けにより製品に穴が空くという問題があった。さらに、縫製前に織物をまとめて裁断するが、その際のセン断発熱により織物の切片が融着してしまうという致命的な問題があった。このため、ポリ乳酸繊維の融点を向上させることが求められていた。
【0008】
このように、ポリ乳酸捲縮糸は以上のような問題により、用途展開に大きな制限があった。このため、高温力学特性や融点を向上させた耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸が切望されていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、優れた耐熱性を有する従来には無かったポリ乳酸捲縮糸を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記特性を同時に満足する、下記特性を同時に満足する、耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸により達成される。
【0011】
90℃での強度≧0.5cN/dtex
CR≧10%
SC率≧15%
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明でいうポリ乳酸とは乳酸やその2量体、オリゴマーを重合したものを言い、L体あるいはD体の光学純度は90%以上であると、融点が高く好ましい。ポリL乳酸(PLLA)とはL体光学純度90%以上からなるポリ乳酸を指し、ポリD乳酸(PDLA)とはD体純度90%以上からなるポリ乳酸を示す。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有していても良い。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリマー中の乳酸モノマー量は好ましくは50重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。また、ポリ乳酸ポリマーの分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であると、力学特性と製糸性のバランスが良く好ましい。
【0013】
本発明のポリ乳酸捲縮糸では、90℃での強度を0.5cN/dtex以上とすることが重要である。ここで、90℃での強度とは、90℃で捲縮糸の引っ張り試験を行い、強伸度曲線図において、最大点応力を読むことにより得ることができる。そして、90℃での強度が0.5cN/dtex以上であれば、繊維製品の加工工程での工程通過性を著しく向上できることを見いだしたものである。90℃での強度は好ましくは0.8cN/dtex以上である。
【0014】
本発明のポリ乳酸捲縮糸は、捲縮特性の指標であるCR値が10%以上であることが重要である。CR値が10%以上であると、最終製品において充分な嵩高性やストレッチ性が得られるのである。CR値は好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。
【0015】
ところで、ポリ乳酸の融点を向上させるためには、ポリ乳酸捲縮糸中でステレオコンプレックス結晶を形成していることが重要である。これにより、ポリ乳酸捲縮糸を繊維製品としてアイロン掛けを行っても製品に穴が空いたり、粗硬化することを避けることができるのである。また、布帛をまとめて裁断しても切片が融着することが無く、工程通過性が格段に向上するのである。
【0016】
ここで、ステレオコンプレックスとは、例えば Macromolecules,vol.20,904(1987).に記載されているようにPLLAユニットとPDLAユニットが1対となった結晶であり、これにより融点を約50℃向上できるものである。そしてステレオコンプレックス結晶の繊維全体に占める比率であるSC率が15%以上であることが重要である。これにより、アイロンの問題や布帛裁断の際の融着の問題を解決できるのである。SC率は好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上である。ここで、SC率は広角X線回折におけるステレオコンプレックス結晶の(100)面に由来するピーク強度(ISC)から下記式により求めることができる。
【0017】
SC率(%)=ISC/ISC 0×100(%)
ISC 0:ステレオコンプレックス100%の結晶を生成しているサンプルのピーク強度(ISC ref)を測定し、そのX線強度をサンプルの結晶化度(χref)で規格化した。
【0018】
ISC 0=ISC ref/χref
ここで、ステレオコンプレックスの形成度合いを広角X線回折から求めたSC率により判断するのは以下の理由からである。従来、示差走査熱量計(DSC)の測定を行い、その融解ピーク温度と融解熱量でステレオコンプレックスの形成を判断しているものもあるが、これではサンプルがステレオコンプレックスを形成しているかどうかを必ずしも確認できるわけではない。というのは、DSCはサンプルを融解するまで加熱する一種の破壊試験であり、DSCの昇温過程では一旦サンプルが融解し、それが再結晶化することが起こっており、それが最終的に融解するところが融解ピークとして観測されるものである。すなわち、DSC測定前のバージンサンプルにステレオコンプレックスが形成されていなくてもDSC昇温過程で、160〜170℃付近でPLLA単独および/またはPDLA単独の融解が起こり、それが再結晶化する際にステレオコンプレックスを形成し、最終的に210〜230℃で融解していると考えられる。このため、バージンサンプルのステレオコンプレックス量の定量にはDSCは不向きであり、非破壊試験である広角X線回折を利用することが重要なのである。
【0019】
実際、PLLAとPDLAのブレンド物を溶融紡糸、延伸、熱セットして得たポリ乳酸繊維のDSCと広角X線回折を測定してみたところ、DSCからは220℃付近に大きな融解ピークが観測されステレオコンプレックスが形成されているように見えるが、広角X線回折ではステレオコンプレックスに由来するピークはほとんど観測されなかった。これは、上記したようにDSC測定過程でステレオコンプレックスが形成されたのであって、実際には元の繊維(バージンサンプル)ではステレオコンプレックスはほとんど形成していなかったのである(参考例3を参照)。
【0020】
また、本発明のポリ乳酸捲縮糸では、沸収が0〜10%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良く好ましい。沸収は、より好ましくは2〜10%、さらに好ましくは2〜6%である。
【0021】
また、ポリ乳酸捲縮糸を繊維製品にする際の工程通過性や製品の力学的強度を充分高く保つためには、本発明のポリ乳酸捲縮糸の25℃での強度は好ましくは2.0cN/dtex以上、より好ましくは2.5cN/dtex以上である。また、ポリ乳酸繊維を繊維製品にする際の工程通過性を向上させるためには、本発明のポリ乳酸捲縮糸の25℃での伸度は好ましくは15〜50%、より好ましくは15〜30%である。
【0022】
本発明のポリ乳酸捲縮糸は仮撚加工糸であることが好ましいが、サイドバイサイド複合糸や機械捲縮糸、あるいは押し込み捲縮糸であってももちろん良い。また、長繊維のみならず短繊維およびそれを用いた紡績糸であっても良い。
【0023】
本発明の耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸は、織物、編物、不織布、カップ等の成形品等の様々な繊維製品の形態を採ることができる。
【0024】
ところで、耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸の製造方法としては、高速紡糸による配向結晶化構造を利用することが好ましい。すなわち、PLLAとPDLAのブレンド物を溶融紡糸し、高速で引き取ることにより紡糸線上で結晶化させた繊維を仮撚りすることにより、耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸を工程安定性、生産性良く得ることができるのである。ここで、紡糸線上で結晶化とは、PLLAおよび/またはPDLA単独で結晶化していても良いし、PLLAとPDLAが対となるステレオコンプレックス結晶を形成していても良いのである。
【0025】
PLLAとPDLAのブレンド方法は特に制限は無いが、例えば、押し出し混練機等を使用して紡糸前にあらかじめブレンドチップを作製する方法(ブレンド法1)、紡糸機に接続された押し出し混練機でブレンドする方法(ブレンド法2)、ポリマー配管内やパック内に設けた静止混練器を用いてブレンドする方法(ブレンド法3)を挙げることができる。このうち、ブレンド法2および3の方法のような紡糸工程でPLLAとPDLAのブレンドを行うことが好ましい。また、ブレンドの際の温度は200〜250℃とするとポリ乳酸の分解を抑制でき好ましい。
【0026】
また、PLLAの重量平均分子量とPDLAの重量平均分子量は異なる方がステレオコンプレックスを形成しやすく、具体的には重量平均分子量の比(どちらが高分子量でも良い)は1.5〜20の範囲とすることが好ましい。重量平均分子量の比は1.5〜4の範囲とすることがより好ましい。また、PLLAとPDLAのブレンド比は30:70〜70:30であればステレオコンプレックスを効率的に形成するが、45:55〜55:45が好ましい。
【0027】
また、紡糸温度としては210〜250℃とするとポリ乳酸の分解を抑制でき好ましい。また、高速紡糸を行うことを考慮し、集束給油ガイドの位置は口金下1.4〜3.0mとすると冷却も充分進み、随伴気流による糸揺れも抑制できるため紡糸性が向上するのみならず、糸の均一性が向上し、最終的なポリ乳酸捲縮糸やそれを用いた繊維製品の染色斑等を抑制し品質を向上できるため好ましい。
【0028】
なお、ポリ乳酸繊維は摩擦係数が高いため、高速紡糸工程、仮撚加工や流体加工のような糸加工工程、ビーミング、製織、製編のような製布工程での毛羽が発生し易いという問題がある。このため、繊維用油剤としては、ポリエーテル主体のものを避け、脂肪酸エステルや鉱物油等の平滑剤を主体とするものを用いると、ポリ乳酸繊維の摩擦係数を低下させることができ、上記工程での毛羽を大幅に抑制でき、好ましい。
【0029】
また、本発明においては仮撚加工用原糸である未延伸糸が結晶化していると、仮撚温度を高くできるため、捲縮特性の指標であるCR値を高くすることができるのみならず、沸収も低下させることができ、好ましい。さらに、仮撚温度が高いと仮撚の熱セット工程でステレオコンプレックスも形成し易いのである。このため、結晶化した未延伸糸を得ることが重要であるが、ポリ乳酸を紡糸線上で結晶化させるためには、高速紡糸とすることが好ましい。具体的な紡糸速度はポリ乳酸の分子量や粘度、単糸繊度、フィラメント数、糸の横断面形状、紡糸温度、冷却条件等により調整が必要であるが、通常3500〜7000m/分程度とすることが好ましい。さらに、紡糸線上でステレオコンプレックスが形成された未延伸糸を用いると、さらに仮撚温度を高くできるため好ましい。SC率が20%以上の未延伸糸を用いると、接触式ヒーターを用いた場合でも仮撚温度を155℃以上とすることも可能であり、さらにCR値を高く、沸収を低下させることができ、ステレオコンプレックスも成長するため好ましい。なお、特開2000−290845号公報記載のように、低速紡糸した未延伸糸を延伸・熱セットしたポリ乳酸糸を用いた従来の仮撚加工では仮撚温度はたかだか120℃程度が上限であり、仮撚温度をそれ以上とするとヒーター上で融着、糸切れが発生し仮撚不能であった。なお、特開2000−290845号公報には非接触ヒーターである中空ヒーターを用いて150℃で仮撚している例もあるが、実際の糸温度は100℃程度までしか上昇しておらず、通常の接触式ヒーターの100℃に相当するものである。本発明では非接触式ヒーターを用いた場合には300℃以上とすることも可能である。
【0030】
仮撚温度は130℃以上とすると捲縮特性の指標であるCR値を高くすることができるのみならず、沸収も低下させることができ、好ましい。さらに、仮撚温度が高いとステレオコンプレックスも形成し易いのである。仮撚温度は好ましくは155℃以上である。また、必要に応じセカンドヒーターで熱処理を施すことも可能である。
【0031】
このように高速紡糸により紡糸線上で結晶化した未延伸糸を用いることにより、従来のポリ乳酸仮撚加工糸に比べ高温力学特性が大幅に向上するが、これは、高速紡糸により生成した繊維構造を再延伸により破壊しながら再構築することで、従来のポリ乳酸捲縮糸や高速紡糸ポリ乳酸未延伸糸とも異なる構造が発現していると考えられる。
【0032】
本発明の耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸は、シャツやブルゾン、パンツ、コートといった衣料用途、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター等の産業資材用途、車両内装用途にも好適に用いることができる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0034】
A.ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にTHF(テトロヒドロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0035】
B.25℃での強度および伸度
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0036】
C.90℃での強度
測定温度90℃で、上記Dと同様に強伸度曲線を求め、最大点荷重値を初期の繊度で割り90℃での強度とした。
【0037】
D.沸収
沸収(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし、初荷重0.09cN/dtex下で測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長
E.融点(Tm)
PERKIN ELMER社製DSC-7を用いて1st runで融点(Tm)を測定した。
【0038】
装置 : PERKIN ELMER社製DSC-7
測定範囲 : 25〜250℃
温度較正 : 純水、高純度スズの融点
熱量較正 : インジウムの融点
昇温速度 : 16℃/分
試料重量 : 10mg
参照側試料 : 空容器
試料容器 : アルミニウム製開放型容器
F.SC率
理学電機社製4036A2型X線回折装置を用い、以下の条件で赤道線方向の回折強度を測定した。
【0039】
X線源 : Cu−Kα線(Niフィルター)
出力 : 40kV×20mA
スリット : 2mmφ−1゜−1゜
検出器 : シンチレーションカウンター
計数記録装置 : 理学電機社製RAD−C型
ステップスキャン : 0.05゜ステップ
積算時間 : 2秒
サンプルプレパレーション : 長さ4cm、重量20mgに調整し、コロジオン・エタノール溶液で固めた
そして、赤道線においてθ=12.0°付近に観測されるステレオコンプレックス結晶の(100)面に由来するピーク強度(ISC)から下記式によりSC率を求めた。なお、ISCは図2に示すように、バックグラウンドや非晶による散漫散乱を差し引いた後のX線強度とした。
【0040】
SC率(%)=ISC/ISC 0×100(%)
ISC 0:ステレオコンプレックス100%の結晶を生成しているサンプルのピーク強度(ISC ref)を測定し、そのX線強度をサンプルの結晶化度(χref)で規格化した。
【0041】
ISC 0=ISC ref/χref
実際のISC 0の見積もりは参考例1,2および図2に詳述したが、ISC ref=18000cps、χref=0.60よりISC 0=30000cpsとした。
【0042】
G.結晶化度(χ)
TA Instruments社製DSC2920により1st runで通常のDSCサーモグラムを測定し、融解熱量と冷結晶化熱量の差(ΔH)を求め、平衡融解熱量(H0)を93.6J/gとして、下記式から結晶化度(χ)を求めた。
【0043】
また、ガラス転移、エンタルピー緩和、冷結晶化ピークが重なっている場合は、温度変調DSCを併用してDSCサーモグラムのベースラインを適切に決めた。
【0044】
χ=ΔH/H0
通常のDSCサーモグラム測定条件
装置 : TA Instruments社製DSC2920
測定範囲 : 0〜250℃
温度較正 : 純水、高純度スズの融点
熱量較正 : インジウムの融点
昇温速度 : 10℃/分
試料重量 : 10mg
参照側試料 : 空容器
試料容器 : アルミニウム製開放型容器
温度変調DSC測定条件
装置 : TA Instruments社製DSC2920
測定範囲 : 0〜200℃
温度較正 : 純水、高純度スズの融点
昇温速度 : 2℃/分
温度変調振幅: ±1℃
温度変調周期: 60秒
試料重量 : 5mg
参照側試料 : 空容器
試料容器 : アルミニウム製開放型容器
H.CR値
捲縮糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当のかせを除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
【0045】
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)
参考例1
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で180分間重合を行った。得られたPLLAの重量平均分子量は19万、光学純度は99%L乳酸であった。このチップをホッパー1に投入し、2軸押し出し混練機2で240℃で溶融した後、紡糸機に導き、240℃で溶融紡糸し、チムニー6により25℃の冷却風で糸を冷却固化させた後、集束給油ガイド8により脂肪酸エステルを主体とする繊維用油剤を塗布し、交絡ガイド9により糸に交絡を付与した(図5)。そして非加熱の第1引き取りローラー10で3000m/分で引き取った後、やはり非加熱の第2引き取りローラー11を介して未延伸糸を巻き取った。これを第1ホットローラー14温度(延伸温度)90℃、第2ホットローラー15温度(熱セット温度)130℃、第1ホットローラーと第2ホットローラーの周速比(延伸倍率)1.45倍として延伸・熱処理を行い(図6)、122dtex、36フィラメントの延伸糸17を得た。
【0046】
この糸の広角X線回折(WAXD)を測定したところ、θ=16.6°付近のホモPLLAのα晶に起因する大きなピークが観測されたが、ステレオコンプレックス結晶に起因するθ=12.0°付近のピークは全く観測されなかった(図2)。これをSC率=0%の標準サンプルとした。
【0047】
参考例2
光学純度99.5%のD乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で100分間重合を行った。得られたPDLAの重量平均分子量は10万、光学純度は99%D乳酸であった。これと参考例1で得たPLLAチップとをホッパー1に投入し、2軸押し出し混練機2で240℃でブレンドした。これを直接紡糸機に導き、紡糸パック3内に設けた静止混練器4(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)でPLLAとPDLAをさらに細かく分散させた。このPLLAとPDLAのブレンド物を240℃で溶融紡糸し、チムニー6により25℃の冷却風で糸を冷却固化させた後、集束給油ガイド8により脂肪酸エステルを主体とする繊維用油剤を付与し、交絡ガイド9により糸に交絡を付与した(図5)。そして非加熱の第1引き取りローラー10で3000m/分で引き取った後、やはり非加熱の第2引き取りローラー11を介して未延伸糸を巻き取った。これを第1ホットローラー14温度90℃、第2ホットローラー15温度130℃、第3ホットローラー18温度180℃、第1ホットローラーと第2ホットローラーの周速比を1.45倍、第2ホットローラーと第3ホットローラーの周速比を1.20倍として延伸・熱処理を行い(図7)、92dtex、36フィラメントの延伸糸17を得た。
【0048】
この糸のWAXDを測定したところ、θ=16.6°付近のホモポリ乳酸のα晶に起因するピークがほぼ消失し、ステレオコンプレックス結晶に起因するθ=12.0°付近のピークが大きく成長していた。これより、この糸ではポリ乳酸結晶は、ほぼ100%ステレオコンプレックス化していると判断できる。これをSC率=100%の標準サンプルとした。そして、図2に示したように散漫散乱を差し引いた後のステレオコンプレックス結晶に起因するθ=12.0°付近のピーク強度(ISC ref)は18000cpsであった。
また、これの結晶化度(χref)は0.60であり、これらより、ISC 0は30000cpsとした。
【0049】
なお、この糸は第3ホットローラー18温度がホモポリ乳酸の融点以上であったため、顕著な糸の融着が発生し、25℃での強度も1.4cN/dtexと低いものであった。
【0050】
参考例3
静止混練器を使用しないで参考例2と同様に溶融紡糸を行い、未延伸糸を得た。これに参考例1と同様に延伸温度90℃、熱セット温度130℃、延伸倍率1.45倍で延伸・熱処理を施し、122dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。これのWAXD測定を行ったところ、θ=16.6°付近のホモポリ乳酸のα晶に起因する大きなピークが観測されたが、ステレオコンプレックス結晶に起因するθ=12.0°付近のピークは小さく(図3)、SC率はわずか3%と見積もられた。これより、この糸ではステレオコンプレックスはほとんど形成されていないと判断できる。次に、これのDSC測定を行ったところ1st runで、170℃付近に観測される通常のホモポリ乳酸の融解ピークは小さいものであったが、220℃付近にステレオコンプレックスの大きな融解ピークが観測された(図4)。すなわち、DSCからは見かけ上、延伸糸にステレオコンプレックスが大量に形成されているように見えるが、実際には、これはDSC昇温過程でホモポリ乳酸結晶(α晶)が融解、再結晶する際にステレオコンプレックス化したと解釈できる。
【0051】
実施例1
参考例1で得たPLLAチップと参考例2で得たPDLAチップとをホッパー1に投入し、2軸押し出し混練機2で240℃でブレンドした(分子量比=1.9)。これを直接紡糸機に導き、紡糸パック3内に設けた静止混練器4(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)でPLLAとPDLAをさらに細かく分散させた。このPLLAとPDLAのブレンド物を240℃で溶融紡糸し、チムニー6により25℃の冷却風で糸を冷却固化させた後、集束給油ガイド8により脂肪酸エステルを主体とする繊維用油剤を塗布し、交絡ガイド9により糸に交絡を付与した(図5)。その後、紡糸速度を6000m/分として非加熱の第1引き取りローラー10で糸条を引き取った後、非加熱の第2引き取りローラー11を介して未延伸糸12を巻き取った。この時、巻き取った繊維に毛羽は見られなかった。また、未延伸糸はステレオコンプレックスを形成していることがWAXD測定により確認された(SC率=35%)。この未延伸糸10に図8に示す装置で延伸仮撚を施した。この時、ヒーター20としては接触式ヒーター用い、これの温度(仮撚温度)は160℃、フィードローラー19と延伸ローラー23の間の延伸倍率は1.60倍、延伸ローラー23の速度は400m/分、セカンドヒーター24は使用しなかった。仮撚回転子22としては3軸ツイスターを用いた。これの糸物性は表1に示すが、84dtex、36フィラメントの捲縮特性、収縮特性とも良好な仮撚加工糸を得た。また、ヒーター温度が高いにも関わらず加工性は良好であり、100kgの加工において糸切れは発生しなかった。これの90℃での強度は1.1cN/dtexであり、充分な高温力学特性を示した(図1)。また、これのWAXDパターンを図9に示すが、θ=12.0°付近に大きなピークが観察され、ステレオコンプレックスの形成を確認することができた。さらに、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れ、粗硬化とも無く充分な耐熱性を示した。
【0052】
実施例2
紡糸速度を4000m/分として実施例1と同様に未延伸糸を得た。未延伸糸はステレオコンプレックスを形成していることがWAXD測定により確認された(SC率=20%)。これを延伸倍率を1.80倍として実施例1と同様にして165dtex、48フィラメントの捲縮特性、収縮特性とも良好な仮撚加工糸を得た。また、ヒーター温度が高いにも関わらず加工性は良好であり、100kgの加工において糸切れは発生しなかった。これの90℃での強度は1.1cN/dtexであり、充分な高温力学特性を示した。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れ、粗硬化とも無く充分な耐熱性を示した。
【0053】
実施例3
仮撚温度を190℃、仮撚時の延伸倍率を1.80として、実施例1と同様に84dtex、36フィラメントの捲縮特性、収縮特性とも良好な仮撚加工糸を得た。また、ヒーター温度が高いにも関わらず加工性は良好であり、100kgの加工において糸切れは発生しなかった。これの90℃での強度は1.6cN/dtexであり、充分な高温力学特性を示した。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れ、粗硬化とも無く充分な耐熱性を示した。
【0054】
実施例4
仮撚温度を140℃、仮撚時の延伸倍率を1.35として、実施例1と同様に84dtex、144フィラメントの捲縮特性、収縮特性とも良好な仮撚加工糸を得た。また、ヒーター温度が高いにも関わらず加工性は良好であり、100kgの加工において糸切れは発生しなかった。これの90℃での強度は0.8cN/dtexであり、充分な高温力学特性を示した。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れ、粗硬化とも無く充分な耐熱性を示した。
【0055】
実施例5
延伸倍率を1.35として実施例2と同様に165dtex、48フィラメントの捲縮特性、収縮特性とも良好な仮撚加工糸を得た。また、ヒーター温度が高いにも関わらず加工性は良好であり、100kgの加工において糸切れは発生しなかった。これの90℃での強度は0.6cN/dtexであり、充分な高温力学特性を示した。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れ、粗硬化とも無く充分な耐熱性を示した。
【0056】
比較例1
参考例3で得た延伸糸に、仮撚温度110℃、延伸倍率1.30として実施例1と同様に延伸仮撚加工を施した。しかし、得られた94dtex、36フィラメントの仮撚加工糸にはステレオコンプレックスがほとんど形成されておらず、また90℃強度も低いものであった。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の穴あき、粗硬化が発生し耐熱性不良であった。
【0057】
比較例2
参考例3で得た延伸糸を用い、仮撚温度160℃、延伸倍率を1.30倍として実施例1と同様に延伸仮撚加工を行った。しかし、延伸仮撚加工に供した延伸糸はステレオコンプレックスがほとんど形成されていなかったため、ヒーター上で糸が融着、脆化し、糸切れが頻発し、延伸仮撚不能であった。
【0058】
比較例3
紡糸速度を3000m/分として実施例1と同様に溶融紡糸を行い、未延伸糸を得た。これに、仮撚温度110℃、延伸倍率1.45として実施例1と同様に延伸仮撚加工を施した。しかし、得られた84dtex、36フィラメントの仮撚加工糸にはステレオコンプレックスがほとんど形成されておらず、また90℃強度も低いものであった。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の穴あき、粗硬化が発生し耐熱性不良であった。
【0059】
比較例4
仮撚温度を160℃、延伸倍率を1.50倍として比較例3と同様に溶融紡糸、延伸仮撚加工を行った。しかし、延伸仮撚加工に供した紡糸速度3000m/分の未延伸糸は結晶化していなかったため、ヒーター上で糸が融着、脆化し、糸切れが頻発し、延伸仮撚不能であった。
【0060】
【表1】
比較例5
特開2000−290845号公報の実施例1に準じてPLLA仮撚加工糸を作製した。乾燥したPLLA((株)島津製作所製ラクティ5000、L体比率95%%、D体比率5%)を、紡糸温度260℃、紡糸速度1200m/分として実施例1と同様に未延伸糸12を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度80℃、熱セット温度120℃、延伸倍率2.30倍として延伸・熱処理を行い(図6)、33dtex、36フィラメントの延伸糸を得た。次いで、ダブルツイスターを用いてこの延伸糸に5300T/mのS撚を施し、ボビンに巻き取った。次に、スチームセッターを用いて一旦真空状態にした後にスチームを供給してボビンごと120℃に加圧・加熱した。熱セットした撚糸を再びZ方向に5300T/mの撚糸を行い、捲縮糸を得た。これの90℃での強度は0.3cN/dtexと不充分なものであった。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の穴あき、粗硬化が発生し耐熱性不良であった。
【0061】
比較例6
特開2000−290845号公報の実施例2に準じてPLLA仮撚加工糸を作製した。紡糸口金のみ12ホールのものに交換して比較例5と同じ条件で紡糸した未延伸糸を用いて、図10に示す装置において、加熱ローラー27の温度80℃にて加熱した後、延伸ローラー31との間で2.30倍の延伸および仮撚を加工速度300m/分にて行った。ヒーター20は、長さ200mmであり、温度は120℃に設定した。仮撚回転子22としては3軸ツイスターを用いた。得られた捲縮糸は33dtex、12フィラメントであった。これの90℃での強度は0.3cN/dtexと不充分なものであった。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の穴あき、粗硬化が発生し耐熱性不良であった。
【0062】
比較例7
特開2000−290845号公報の実施例3に準じてPLLA仮撚加工糸を作製した。比較例5で作製した延伸糸を用いて、図11に示す装置にて仮撚加工を行った。延伸ローラ31とフィードローラー19の速度を100m/分に設定し、ヒーター20の温度を120℃、仮撚回転子22としては中空スピンドルを用いた。得られた捲縮糸の90での℃強度は0.4cN/dtexと不充分なものであった。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の穴あき、粗硬化が発生し耐熱性不良であった。
【0063】
比較例8
特開2000−290845号公報の実施例4に準じてPLLA仮撚加工糸を作製した。36ホールの口金に換え、ポリマーの吐出量を変えた以外は比較例5と同様にして未延伸糸を得た後、図12に示す装置にて仮撚加工した。加工条件は延伸ローラー31の表面速度300m/分、延伸倍率を2.30倍、ヒーター20として1mの中空ヒーターを用い、150℃で加熱した。仮撚回転子22としてはベルトニップツイスターを用いた。得られた84dtex、36フィラメントの仮撚加工糸の90℃での強度は0.3cN/dtexと不充分なものであった。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の穴あき、粗硬化が発生し耐熱性不良であった。
【0064】
実施例6〜9
重合時間を変更して参考例1、2と同様にポリ乳酸の重合を行い、表2記載のようなPLLAおよびPDLAを得た。そして、ブレンド比(チップの仕込量比)、混練温度、紡糸温度を表2のように変更し、静止混練器を使用して実施例1と同様に紡糸速度5000m/分で溶融紡糸を行い、未延伸糸を得た。これらに仮撚温度160℃、延伸倍率1.70で実施例1と同様に延伸仮撚加工を施した。得られた84dtex、36フィラメントの仮撚加工糸は表2に示すように優れた糸物性を示した。また、これらの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れ、粗硬化とも無く充分な耐熱性を示した。
【0065】
実施例10
紡糸の際、静止混練器を使用しないで実施例9と同様に溶融紡糸、延伸仮撚加工を行った。これでは、紡糸時に静止混練器を用いなかったためPLLAとPDLAのブレンドが甘くなり、未延伸糸のSC率が実施例9に比べると低くなった。このため、仮撚温度160℃では脆化し易くなったため、仮撚温度を140℃に下げて実施例9と同様に延伸仮撚加工を行った。得られた84dtex、36フィラメントの仮撚加工糸は表2に示すように充分な糸物性を示した。また、これの筒編みを作製し170℃でアイロンを当てたが、編み地の破れは無かったが、問題となるほどではないが若干粗硬化した。
【0066】
【表2】
実施例11
参考例1で得たPLLAチップと参考例2で得たPDLAチップとを2軸押し出し混練機で240℃でブレンドし、一旦チップ化した。このブレンドポリマーチップは見かけ上、融点が218℃になったため、押し出し混練機温度、紡糸温度とも265℃として実施例1と同様に溶融紡糸を行い、未延伸糸を得た。しかし、紡糸温度が高すぎるため、ポリ乳酸の分解が著しく、分解ガスが多量に発生した。これに実施例1と同様に延伸仮撚加工を施したところ、得られた84dtex、36フィラメントの仮撚加工糸は、SC率=38%、CR=28%、90℃強度=0.5cN/dtex、25℃での強度=1.9cN/dtexと充分な物性を示した。しかし、紡糸時の分解によりポリ乳酸が低分子量化したためか若干強度が低くなった。
【0067】
実施例12
実施例1の未延伸糸を用い、セカンドヒーター24の温度を180℃、延伸ローラー23とデリバリーローラー25の間のリラックス率を6%とし、実施例1と同様に仮撚加工糸を得た。これは、SC率=50%、CR=25%、90℃での強度は0.8cN/dtexであり、充分な物性を示した。また、セカンドヒーターの効果により沸収を1%まで低収縮化することができた。
【0068】
実施例13
実施例1で得た未延伸糸に、延伸温度140℃、熱セット温度180℃、延伸倍率1.60で参考例1と同様に延伸を施した。この延伸糸のSC率は50%であった。これに仮撚温度190℃、延伸倍率1.10として実施例1と同様に延伸仮撚加工を施した。得られた76dtex、36フィラメントの仮撚加工糸は、SC率=62%、CR=36%、90℃での強度=1.4cN/dtex、25℃での強度=3.4cN/dtex、沸収=2%であり、優れた物性を示した。
【0069】
実施例14
実施例1で得た未延伸糸に図12の装置を用いて、中空ヒーター温度350℃、延伸倍率1.60で延伸仮撚を施した。得られた84dtex、36フィラメントの仮撚加工糸は、SC率=45%、CR=36%、90℃での強度=1.2cN/dtex、25℃での強度=3.3cN/dtex、沸収=1%であり、優れた物性を示した。
【0070】
実施例15
実施例1〜5で得られた仮撚加工糸を経糸および緯糸に用い、平織りを作製した。経糸の糊付け乾燥を110℃で行ったが、糸が伸びるトラブルや毛羽は発生しなかった。得られた平織りを常法にしたがい60℃で精練した後、140℃で中間セットを施した。さらに常法にしたがい110℃で染色した。得られた布帛は、きしみ感、ソフト感があり、衣料用として優れた風合いを有していた。
【0071】
比較例9
比較例1で得られた糸を経糸および緯糸に用い、平織りを作製した。経糸の糊付け乾燥を110℃で行ったが、糸が伸びてしまい乾燥が不可能であった。
【0072】
実施例16
実施例2で得られた仮撚加工糸を経糸および緯糸に用いて2/2ツイルを製織し、常法にしたがい布帛を染色および仕上げ加工して目付150g/m2の生地を得た。そしてこの生地を縫製し、カーテンレールを用いる片開きカーテンを作製した。これを1年間使用したが、毛玉の発生等は無く優れた耐久性を示した。
【0073】
比較例10
吐出量、口金ホール数を変更した以外は比較例1と同様に溶融紡糸、延伸、仮撚加工を行い、90℃での強度=0.4cN/dtexで165dtex、48フィラメントの仮撚加工糸を得た。これを用い、実施例16と同様にカーテンを作製し1年間使用したが、毛玉が発生し耐久性に劣るものであった。
【0074】
【発明の効果】
本発明の耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸を使用することにより、最終製品や加工工程での耐熱性の問題点を解決でき、ポリ乳酸繊維の用途展開を大きく拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明(実施例1)および比較例1のポリ乳酸捲縮糸の90℃での強伸度曲線を示す図である。
【図2】参考例1および2の広角X線回折パターン(赤道線方向)を示す図である。
【図3】参考例3の広角X線回折パターン(赤道線方向)を示す図である。
【図4】参考例3のDSCサーモグラムを示す図である。
【図5】紡糸装置を示す図である。
【図6】延伸装置を示す図である。
【図7】延伸装置を示す図である。
【図8】仮撚装置を示す図である。
【図9】実施例1の広角X線回折パターン(赤道線方向)を示す図である。
【図10】仮撚装置を示す図である。
【図11】仮撚装置を示す図である。
【図12】仮撚装置を示す図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:押し出し混練機
3:紡糸パック
4:静止混練器
5:口金
6:チムニー
7:糸条
8:集束給油ガイド
9:交絡ガイド
10:第1引き取りローラー
11:第2引き取りローラー
12:未延伸糸
13:フィードローラー
14:第1ホットローラー
15:第2ホットローラー
16:デリバリーーローラー
17:延伸糸
18:第3ホットローラー
19:フィードローラー
20:ヒーター
21:冷却板
22:仮撚回転子
23:延伸ローラー
24:セカンドヒーター
25:デリバリーローラー
26:仮撚加工糸
27:加熱ローラー
28:セパレートローラー
29:ニップローラー
30:交絡ノズル
31:延伸ローラー
32:リラックスローラー
Claims (10)
- 下記特性を同時に満足する、耐熱性に優れたポリ乳酸捲縮糸。
90℃での強度≧0.5cN/dtex
CR≧10%
SC率≧15% - 沸収が10%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸捲縮糸。
- 25℃での強度≧2.0cN/dtexであることを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸捲縮糸。
- 捲縮糸が仮撚加工糸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリ乳酸捲縮糸。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載のポリ乳酸捲縮糸を少なくとも一部に用いることを特徴とする繊維製品。
- ポリL乳酸とポリD乳酸のブレンド物を3500m/分以上の紡糸速度で溶融紡糸し、紡糸線上でポリ乳酸を結晶化させた繊維を仮撚りすることを特徴とするポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
- 紡糸線上でステレオコンプレックスを形成させることを特徴とする請求項6記載のポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
- ポリL乳酸の重量平均分子量とポリD乳酸の重量平均分子量の比が1.5〜20であることを特徴とする請求項6または7記載のポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
- ポリL乳酸とポリD乳酸を紡糸工程でブレンドすることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載のポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
- 仮撚温度を155℃以上とすることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載のポリ乳酸捲縮糸の製造方法。
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