JP3820396B2 - 微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる構造体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工骨および人工歯根用途に適する多孔質構造体または表面粗造構造体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体または表面粗造構造体およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体における高度の外傷や骨腫瘍等による骨摘出に伴う広範囲の骨欠損部に対しては骨移植が行われており、骨を再生させるためには自家骨を用いるのが最も良いとされている。しかし、採骨量に限界があるばかりでなく、採骨部に対する侵襲はその量が多くなるほど大きくなる。
【0003】
多量の採骨を伴う自家骨に代わるものとして、生体適合性材料からなる人工骨が適用されているが、この人工骨に骨誘導能はなくその適用には限界がある。また、歯が喪失した後の治療法の一つとして人工歯根の適用が行われているが、顎骨の吸収や萎縮が進行している場合には人工歯根の適用は不可能で従来の可撤性義歯を装用せざるを得ない状況である。
【0004】
現在、骨誘導因子となりうる様々な細胞増殖因子の局所への適用、さらに骨髄の間葉系幹細胞を様々な因子を用い培養増殖して骨芽細胞に分化させた後、局所に移植する方法等が検討されている。
【0005】
細胞増殖因子を局所へ適用する研究は、Uristが1960年代に脱灰骨を筋肉内に移植し、骨形成が生ずることを認め、骨の基質内に異所性の新規骨誘導活性を示す蛋白質が含まれていることを見出したことに端を発する。以後、骨内に含まれる骨形成に関与する様々な増殖・分化因子の精製、部分アミノ酸配列の決定、そして遺伝子クローニング等へ発展してきた。特に骨形成に関与すると考えられる一群の増殖因子(BMPs)が明らかにされるとともに、代表的な組み換えBMP−2(rhBMP−2)が製品化され入手出来るようになった。ラット筋肉内に5mm立法程度の骨を作るのには数十マイクログラムのrhBMP−2が必要とされるが、現時点では非常に高価である。また、マウスやラットでは良好な骨形成が異所性に得られるものの大型の動物、特に霊長類のサルでは、良好な結果が得られず、ヒトにおける効果も疑問視されている(例えば、非特許文献1参照。)。このため、BMPを含浸させた徐放性材料の開発(例えば、非特許文献2を参照。)や、BMP以外の増殖因子の検討(例えば、非特許文献3および4を参照。)も行われているが、いずれも臨床的有効性は明らかにされていない。
【0006】
骨芽細胞に分化させた後、局所に移植する方法とは、まず骨髄液を採取しその中の幹細胞を培養系で増殖させるとともに骨芽細胞に分化させ、その細胞を移植するか(例えば、非特許文献5参照。)、細胞を人工骨に含浸または混和し、生体の局所に移植しようとする組織工学的手法を用いるものである(例えば、非特許文献6参照。)。
【0007】
しかしながら、幹細胞から骨芽細胞への増殖・分化には限界があり、骨髄液からいかに大量の幹細胞を確保するかがネックとなる。現段階では形成可能な骨の量が少なく、臨床応用は限定的な範囲でやっと始まった段階である。また、この方法では培養下の幹細胞に対し、各種の増殖因子やステロイドホルモンが加えられており、培養系で分化した骨芽細胞が生体内のものと同一なものか否かに疑問がある。最近では、成体幹細胞が既存の組織中の細胞と融合して遺伝的にごちゃ混ぜの細胞が出来るリスクのあることが報告され成体幹細胞の臨床応用に疑問が投じられた(例えば、非特許文献7、8参照。)。さらに培養液をして動物(ウシ)の血清が使われる場合には未知の感染の危険性がある。
【0008】
また、骨内に埋入される人工骨頭などの人工骨や人工歯根では、それらが埋入後早期に周囲の骨と一体化して強固な植率の得られることが望まれる。人工骨や人工歯根の表面を粗造にしたり多孔性にする試みがなされている(例えば、非特許文献9、10参照。)。この試みは人工骨や人工歯根埋入後におけるそれら周囲の骨形成活性が高い場合に有効である。しかし、周囲の骨の活性が低い場合にはこれらの方法もその効果に疑問がある(例えば、非特許文献11参照。)。
【0009】
【非特許文献1】
野田正樹、二藤彰、辻邦和、“骨の再生とBMP”、炎症・再生、21(4):425,2001
【0010】
【非特許文献2】
田畑泰彦、“細胞増殖因子による骨修復”、第23回日本バイオマテリアル学会予稿集、48, 2001
【0011】
【非特許文献3】
田中浩、脇坂敦彦、溝上士、他、“bFGF ( basic fibroblast growth factor )による骨髄間質細胞の分化・増殖に対する効果”、日整会誌、72(8):S1498、1998
【0012】
【非特許文献4】
岡崎賢、神宮司誠也、占部憲、他、“実験的関節症での骨棘形成におけるInsulin-like Growth Factor 1の発現”、日整会誌、72(8):S1484、1998
【0013】
【非特許文献5】
梅澤明広、“骨髄間質細胞を用いた臓器再生と細胞移植”、炎症・再生、21(4):437, 2001
【0014】
【非特許文献6】
大串始、三宅淳、立石哲也“骨髄幹細胞を用いた骨再生”、炎症・再生、21(4):434, 2001
【0015】
【非特許文献7】
Terada, N., Hamazaki, T., Oka, M., Hoki, M., Mastalerz, D..M., Nakano, Y.,Meyer, E.M., Morel, L., Petersen, B.E. & Scott, E.W.“Bone marrow cells adopt phenotype of other cells by spontaneous cell fusion.” Nature 416, 542-545 (2002).
【0016】
【非特許文献8】
Ying, Q-L., Nichols, J., Evans, E. & Smith, A. G. Changing potency by spontaneous fusion. Nature 416, 545-548 (2002).
【0017】
【非特許文献9】
Hall, J. & Lausmaa, J. "Properties of a new porous oxide surface on titanium implants" Applied Osseointegration Research 1(1), 5-8 (2000)
【0018】
【非特許文献10】
Wieland, M., Textor, M., Spencer, N. D. & Brunette, D. M. "Wavelength-dependent roughness: a quantitative approach to characterizing the topography of rough titanium surfaces" Int J oral Maxillofac Implants 16(2), 163-181 (2001)
【0019】
【非特許文献11】
Ogiso, M., Yamashita, Y., Tabata,T., Lee, R. & Borgese, A. D. "The delay method: a new surgical technique for enhancing the bone-binding capability of HAP implants to bone surrounding implant cavity preparations" J Biomed Mater Res 18, 805-812 (1994)
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、大きな骨欠損部に対する生体適合性材料からなる人工骨の適用には限界がある。また顎骨の吸収や萎縮が進行している症例に人工歯根を適用する場合にも多量の採骨を必要としない骨再生の技術が求められている。さらに骨内に埋入される人工骨頭などの人工骨や人工歯根の適用に際しては、埋入後速やかに周囲の骨と一体化し強固な植立が得られるための人工骨や人工歯根の確立が求められている。
【0021】
従って、本発明では従来技術における上記のような種々の問題点を解決し、臨床応用可能な自発的骨形成を誘導する人工骨および人工歯根に適する生体適合性材料からなる多孔質構造体または表面粗造構造体、ならびにそれらの製造方法の提供を目的とするものである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下に示す手段により上記課題を解決するものである。
【0024】
本発明の第1の態様は、サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体であって、平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を構造体の全体にわたって有し、該微細な連続気孔は、構造体の外部表面の50μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在していることを特徴とする。
【0025】
本発明の第2の態様は、サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体であって、構造体の外部表面とつながる平均孔径100〜1000μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体にマクロな気孔と連続する平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を有し、該マクロな連続気孔は構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在し、かつ該微細な連続気孔はマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面50μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在していることを特徴とする。
【0026】
本発明の第3の態様は、サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体であって、構造体の外部表面とつながる平均孔径100〜1000μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を表面の50μm平方の範囲内に少なくとも一つ以上有し、該マクロな連続気孔は多孔質構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在することを特徴とする。
【0027】
本発明の第4の態様は、本発明の第1から第3の態様の多孔質構造体であって、前記生体適合性材料は、セラミックス、金属、および高分子材料からなる群の少なくとも1つから選ばれることを特徴とする。
【0028】
本発明の第5の態様は、本発明の第4の態様の多孔質構造体であって、前記セラミックスは、リン酸カルシウム系セラミックスであることを特徴とする。
【0029】
本発明の第6の態様は、本発明の第1から第5の態様の多孔質構造体であって、前記骨粉が脱灰処理を施していない生の骨を粉砕して得た骨粉であることを特徴とする。
【0030】
本発明の第7の態様は、本発明の第1から第5の態様の多孔質構造体であって、前記骨粉が脱灰骨粉であることを特徴とする。
【0032】
本発明の第8の態様は、本発明の第1から第7の態様における多孔質構造体の製造方法であって、骨粉を作製する工程と、多孔質構造体に骨粉を含浸させる工程を含むことを特徴とする。
【0033】
本発明の第9の態様は、人工骨であって、本発明の第1から第7の態様の多孔質構造体であることを特徴とする。
【0034】
本発明の第10の態様は、人工骨または人工歯根であって、本発明の1、4、5、6または7の態様の多孔質構造体を人工骨または人工歯根の外表面部に平均100μm未満の厚さで用いることを特徴とする。
【0035】
本発明の第11の態様は、人工骨または人工歯根であって、本発明の1、2、3、4、5、6または7の態様の多孔質構造体を人工骨または人工歯根の外表面部に平均100μm以上の厚さで用いることを特徴とする。
【0037】
本発明の第12の態様は、サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる表面粗造構造体であって、構造体の外部表面の50μm平方の範囲内に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を少なくとも一つ以上有することを特徴とする。
【0038】
本発明の第13の態様は、本発明の第12の態様の表面粗造構造体であって、前記生体適合性材料は、セラミックス、金属、および高分子材料からなる群の少なくとも1つから選ばれることを特徴とする。
【0039】
本発明の第14の態様は、本発明の第13の態様の表面粗造構造体であって、前記セラミックスは、リン酸カルシウム系セラミックスであることを特徴とする。
【0040】
本発明の第15の態様は、本発明の第12から第14の態様の表面粗造構造体であって、前記骨粉が脱灰処理を施していない生の骨を粉砕して得た骨粉であることを特徴とする。
【0041】
本発明の第16の態様は、本発明の第12から第14の態様の表面粗造構造体であって、前記骨粉は脱灰骨粉であることを特徴とする。
【0043】
本発明の第17の態様は、本発明の第12から第16の態様の表面粗造構造体の製造方法であって、骨粉を作製する工程と、構造体に骨粉を含浸させる工程を含むことを特徴とする。
【0044】
本発明の第18の態様は、人工骨または人工歯根であって、本発明の第12から第16の態様の表面粗造構造体を人工骨または人工歯根の外表面部に用いることを特徴とする。
【0045】
【発明の実施の形態】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0046】
健常な動物の骨ではリモデリングが繰り返されており、通常、骨吸収と骨再生のカップリングが成立している。しかし、吸収と再生は常にバランスが取れているわけではない。
【0047】
骨折に際して外傷部での骨吸収はわずかであるのに対し、形成される骨の量は多い。骨に穴を開けると骨切削面での骨吸収はわずかであるのに骨形成は穴を満たす程に生ずる。また、海綿骨域の黄色骨髄を洗浄除去するとその骨髄域に大量の骨が形成されるのに対し骨形成中心となる元来の骨表面での骨吸収は少ない。これらのことは、吸収を受けた量以上の骨を再生させる能力、つまり過剰な自己再生能力を骨自身が本来的に有していることを示している。
【0048】
骨基質内には骨形成に関係する様々な増殖因子が含まれている。BMPは骨形成プロセスの上流にあると考えられている増殖因子であるが、BMP単独の投与により骨形成を生じさせることは上述のようにヒトでは困難である。前述のような吸収以上の骨再生は、骨吸収に伴ってBMPを含む様々な骨増殖因子が骨から遊離・活性化され、それらが外傷部で増殖した間葉系幹細胞に複合的にかつ効率良く作用し、骨再生が可能な環境を骨吸収部の周囲に作り出すことに始まると考えられる。またこのような環境域での骨形成の直接的な開始は、骨面もしくは骨吸収を受けた骨面に沿って骨芽細胞が分化・出現することで始まり、骨から離れた部位で骨芽細胞がいきなり出現することは通常ない。
【0049】
また、骨芽細胞に分化し得る間葉系幹細胞は骨組織内にのみ存在するわけではない。骨の発生学的起源である間葉組織に由来する脂肪組織を含む結合組織また筋肉などの軟組織にも、骨芽細胞を含むさまざまな細胞に分化し得る未分化間葉細胞または間葉系幹細胞が残っていると考えられている。
【0050】
一方、健常な骨のリモデリングに際して吸収と再生はバランスが取れており、必要以上の骨が再生されない、また脂肪組織や筋肉内で通常骨が形成されないのは、骨形成に対する因子の欠如また阻止因子の作用によると考えられる。
【0051】
以上のことは、骨組織内のみならず脂肪組織、線維性結合組織また筋肉組織内においても、骨形成阻止因子を排除できる人為的なスペースを確保しそのスペースで骨をうまく使えば、大量の骨形成が可能になることを示唆している。その際、スペース内で骨から遊離する一連の骨増殖因子が豊富になりしかも骨の一部が残在する条件が満たされなければならない。
【0052】
よって、本発明は、骨の再生能力を最大限発揮させ得るような特殊な環境を設定することにより、わずかな骨から大量の骨を再生させることの可能な生体適合性材料からなる構造体を提供するものである。
【0053】
より具体的には、骨を増殖させるための上記構造体は、多孔質構造体のマクロな気孔内、およびマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体もしくは表面に分布する微細な気孔内または表面の微細な陥凹部に、少量の骨から調整された微細な骨粉を分散し含浸させた生体適合性材料からなる構造体である。該構造体は、軟組織内、骨内、または骨に接触させて移植することにより用いる。
【0054】
移植後早期に、マクロな気孔内で破骨細胞やマクロファージによって骨粉を効率良く吸収させ、骨形成に必須である骨増殖因子が豊富な環境を多孔質構造体内に作り出させるとともに、微細な気孔内もしくは陥凹部に含浸させた骨粉については破骨細胞やマクロファージの攻撃から身をかわさせ、マクロな気孔内で増殖した間葉系幹細胞に対して骨芽細胞への分化を誘導させようとするものである。つまり微細な気孔もしくは表面に微細な陥凹部を持つ生体適合性材料とそれらの気孔もしくは陥凹部に入り込んだ微細な骨粉の複合体を骨芽細胞分化のための足場(スカッフォールド)とする。またこれらの現象を多孔質構造体内で生じさせることで、多孔質構造体の外部組織にいると考えられる骨形成阻止因子の影響を排除し、多孔質構造体内での多量の骨形成を可能にする。
【0055】
また骨内に埋入される人工骨頭などの人工骨や人工歯根ではそれらが埋入後早期に周囲の骨と癒合することが望まれる。最も有効な手段は、人工骨や人工歯根に自発的な骨形成能を持たせておくことであり、周囲の骨組織や骨切削面から始まる骨形成が人工骨や人工歯根に達し両者が結合するのを待つことではない。自発的な骨形成能を持たない人工骨や人工歯根が骨形活性が低い骨に埋入された場合、埋入後に元来の骨からの骨形成が人工骨や人工歯根に達する前に人工骨や人工歯根の周囲に繊維性結合組織が形成されてしまい、その後の骨結合は困難になる(非特許文献11参照。)。しかし、人工骨や人工歯根の表面を多孔性や粗造にし、その微細な気孔内や陥凹部に骨粉を含浸させ、骨芽細胞が分化・出現する足場をあらかじめ設定しておくことで人工骨や人工歯根に自発的骨形成能を持たせることが出来、その結果繊維性結合組織による被包化を防ぐことが出来る。人工骨や人工歯根の内部にも太い骨の形成を図る場合には、それらの表面部に、マクロな気孔およびマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に微細な気孔もしくは微細な陥凹のある多孔質構造の厚い層を設け、その多孔質構造内に骨粉を含浸させる。
【0056】
また、骨形成を誘導するものは骨だけではない。骨と発生学的に近いとともに、組織構造的にも類似した歯の大部分を占める象牙質やセメント質も有効である。実際、脱灰歯根が骨誘導能を有することがすでに報告されている(Monica, F. G., Mario, S. A. & Terezinha O N,“Histologic evaluation of the osteoinductive property of autogeneous demineralized dentin matrix on surgical bone defects in rabbit skulls using human amniotic membrane for guided bone regeneration”, Int J Maxillofac Implants, 16:563-571、2001)。したがって、本発明において歯の粉砕体を人工骨および人工歯根用生体材料に含浸させてもよい。
【0057】
A.粉砕体用の生体由来の硬組織
本発明の粉砕体用の生体由来の硬組織には、骨または歯を用いることができる。
【0058】
1)粉砕体用の骨:
骨はヒトの骨以外にも、ウシなどの哺乳類はもとより魚なども含め脊椎動物全般の広範囲な動物の骨も抗原性の減弱化処理により利用することが出来る。好ましくは、ヒトの骨を用いる。ヒトの骨は、米国等より商業的に入手することもできるが、自己由来の骨が最も好ましい。
【0059】
また、骨の採取部位としては、腸骨、顎骨、脛骨、大腿骨が含まれるが、特にこれらの部位に限定されない。
【0060】
一般に、自家骨の移植には、活性の高い骨髄を含む海綿骨もしくは海綿骨を含む骨が好まれ、皮質骨は細胞成分が少ないため移植に適さない。しかしながら、本発明に用いる骨は、海綿骨に限られず、皮質骨を用いることもできる。
【0061】
本発明において粉砕体用の骨には、生の状態に限られず、それを化学処理したもの、例えば脱灰骨等をも含むことを意図する。
【0062】
脱灰骨とは、酸処理した骨をいう。脱灰処理をすると、抗原性が減弱化すること、骨基質中の分化増殖因子が活性化すること等の理由から移植したときに良い結果を生むと考えられている。具体的には、0.5〜0.6モル程度の濃度の塩酸を用い温度4℃の条件で脱灰する。脱灰時間は骨片の大きさ、量により異なるが、直径0.5mmの骨粉1キログラムを完全に脱灰するには、攪拌機でよく攪拌しながら10リットルの塩酸を1度交換し合計20リットル用いた場合に2日位である。脱灰後、大量の生理的食塩水で洗浄、もしくは大量の水道水でpHが中性になるまで洗浄し最後に蒸留水で洗浄することにより中和する。さらに、アセトンで水を置換すると同時に脱脂し乾燥させる。アセトンの脱脂処理は行ったほうが好ましい。その後の保管はフリーザーを用いる。滅菌処理としてエチレンオキサイドガスを用いることも可能である。
【0063】
2)粉砕体用の歯:
歯の場合には、象牙質を有する動物のものならばいずれの動物の歯も利用できる。
【0064】
B.骨粉の作製
本明細書においては、骨粉という場合には、骨の粉砕体に限られず、歯の粉砕体をも含むことを意味する。
【0065】
メス、トレパンバー等を用いて生体の骨から骨片を摘出する。歯は顎からヘーベル、鉗子等で抜歯する。粉砕には乳鉢もしくは粉砕機等を用いる。乳鉢・粉砕機の容器はいずれも、骨や歯の無機質成分であるアパタイトより硬い材質のものが好ましい。また粉砕に先立ちペンチ等で細片化しておき、粉砕機を用いる場合には容器を低温にするとともに骨や歯の細片を凍結させた後に行うと効率が良い。骨粉のサイズはそれが大きいことによるメリットは特にない。少量の骨からの骨粉を広範囲にかつ分布密度が高い状態で分散させられ、しかも多孔質構造体の内部にまで容易に含浸させられるサイズでなければならない。また、多孔質構造体のマクロな気孔内に含浸された骨粉が破骨細胞やマクロファージによって速やかに吸収されるサイズであり、かつ骨粉の一部はマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体もしくは表面に分布する微細な気孔あるいは陥凹部に入り込み細胞攻撃から身をかわすことの出来るようなサイズでなければならない。したがって、粉砕は粉体のサイズが平均50μm以下、好ましくはサブミクロンサイズを含む20μm以下になるまで行う。化学処理した脱灰骨の粉砕体を使用する場合は、大き目のサイズの骨を脱灰した後に微粉化させるのが微粉の採取の観点から好ましい。
【0066】
本明細書においては、骨の粉砕体という場合には、生の状態の粉体に限られず、それを化学処理して抽出されたもの、例えば脱灰骨粉等をも含むことを意味する。
【0067】
C.多孔質構造体および表面粗造構造体
1)人工骨の全体が多孔性をなす多孔質構造体:
骨再生を目的としたもので、多孔質構造体の内部の全体に骨形成を促すことを目的とした比較的大きなブロック状のものと、骨欠損部や骨陥凹部に比較的小さな顆粒状の多孔質構造体を補填して補填域全体に骨形成を促そうとする顆粒状多孔質骨補填材の双方を含むことを意図する。本発明の多孔質構造体は、生体適合性材料からなる。
【0068】
生体適合性材料は、セラミックス、高分子材料、および金属からなる群の少なくとも一つから選ばれる。
【0069】
セラミックスは、ヒドロキシアパタイトおよび三リン酸カルシウムなどリン酸カルシウム系セラミックスや動物の焼成骨を用いることができるが、これに限定されない。
【0070】
高分子材料は、キチンやキトサン、コラーゲンやゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等を主成分とする生分解性高分子材料が好ましいが、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とする重合体等これに限定されない。
【0071】
金属は、チタン、チタン合金等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0072】
ブロック状の多孔質構造体は、構造体の外部表面とつながる平均孔径100〜1000μm、好ましくは100〜500μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、かつマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体にマクロな気孔と連続する平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を有し、そのマクロな連続気孔は構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在し、かつその微細な連続気孔は該生体適合性材料の表面の50μm平方に少なくとも1個以上存在していることが好ましい。またはマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を表面の50μm平方の範囲内に少なくとも一つ以上有するものであっても良い。
【0073】
マクロな気孔の孔径が100μm以下では多孔質構造体深部への栄養血管の侵入形成が遅れ、骨粉を含浸させても多孔質構造体内での良好な骨形成が得られない。多孔質構造体の肉厚が5mm以上の場合には、マクロな気孔の孔径は100μmより大きい方が好ましい。一方、このような構造の多孔質構造体内での骨形成は主としてマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に沿って形成され、マクロな気孔の中央部分では骨髄が形成される。従って、マクロな気孔の孔径が1000μm以上の場合、多孔質構造体内での実質的な骨の形成量が少なくなり、また1000μm以上では周囲軟組織の骨形成阻止因子の影響が多孔質構造体内に及ぶリスクがある。よって、多孔質構造体の肉厚が10mm以下の場合には500μmを上限にすることが望ましい。またマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面の微細な気孔もしくは陥凹部では微細な骨粉が含浸するとともに、その骨粉が破骨細胞やマクロファージの攻撃にさらされてもそれらの攻撃が不十分で一部残ることが肝要であるため、気孔径もしくは陥凹部の大きさが50μm以下であることが望ましい。気孔径もしくは陥凹部の大きさが0.005μm以下では骨の最小の有形物である骨結晶の含浸が不可能であるばかりか、そのような気孔もしくは陥凹部には細胞突起も入れず、骨芽細胞の分化が不可能となる。
【0074】
リン酸カルシウム系セラミックスによる多孔質構造体の場合、多孔質構造体内での骨形成量を多くすることに重点を置き、多孔質構造体そのものの強度をそれほど必要としない用い方の場合には高気孔率のものが良く、気孔率が60〜95パーセントが好ましい。また多孔質構造体の強度が必要な場合には気孔率が40〜60パーセントが好ましい。
【0075】
顆粒状多孔質骨補填材では補填域において、顆粒内や顆粒相互間の間隙で良好な骨形成が生ずることが望まれる。顆粒状多孔質骨補填材の構造は、平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を構造体の全体にわたって有し、その微細な連続気孔を表面の50μm平方に少なくとも1つ以上有しているもの、または前述のマクロな気孔を有する多孔質構造体を粉砕して得られたものいずれでも良い。
【0076】
前者の構造の場合、顆粒のサイズは骨形成が主として顆粒の表面に形成され内部での骨形成がそれほど期待されないこと、また顆粒が補填された場合の顆粒相互間隙の広さおよび補填域全体における骨形成から考えて、1mm以上のものは間隙が広くなることで骨形成量が少なくなるとともに骨が形成されない顆粒部分が広くなり好ましくない。一方100μm以下のものは間隙が狭くなり過ぎ栄養血管の侵入形成が遅れる危険性がある。両者の間のサイズが好ましい。しかし、顆粒がマクロな気孔を有する多孔質構造体を粉砕して得られたものの場合、1mm以上のものでも顆粒内で骨が形成されるため、1mm以上のものと1mm以下のものとを混在させて補填することで、補填域全体における良好な骨形成が得られる。したがって、100μm以上、数mmまでのサイズが可能である。
【0077】
2)人工骨または人工歯根の表面部が多孔性の多孔質構造体:
これには多孔質部分の厚みが外部表面から平均100μm未満のものと、平均100μm以上のものがあり、いずれも骨内に埋入される人工骨頭などの人工骨や人工歯根として用いられる。本発明の多孔質構造体は金属、セラミックス、高分子材料、およびこれらの複合体から選ばれる。
【0078】
セラミックスは、ヒドロキシアパタイトおよび三リン酸カルシウムなどリン酸カルシウム系セラミックス、アルミナ、ジルコニア等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0079】
金属は、チタン、チタン合金等を用いることができるが、多孔質層を形成できる生体適合性金属であれば、これらに限定されない。
【0080】
高分子材料は、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とする重合体が好ましいが、キチンやキトサン、コラーゲンやゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等を主成分とする生分解性高分子材料等これに限定されない。
【0081】
▲1▼多孔質部分の厚みが外部表面から平均100μm未満の人工歯根・人工骨:多孔質部分の厚みが外部表面から平均100μm未満の多孔質構造体は平均孔径が0.005〜50μmの微細な連続気孔を多孔質部分の全体にわたって有し、その微細な連続気孔が表面の50μm平方に少なくとも1つ以上存在していることが好ましい。本発明の人工骨・人工歯根では表面に骨粉を含浸させることで、埋入後に人工歯根・人工骨の表面で骨芽細胞の分化・出現を自発的に生じさせ、周囲骨との結合をより早期にまた確実に得させようとするものである。
全体が多孔性である多孔質構造体での良好な骨形成のためには、前述の通り、マクロな気孔に含浸した骨粉を吸収させて多孔質体内に骨増殖因子の高濃度な環境を作り出すことが重要である。しかし、人工歯根・人工骨は骨内に埋入されるもので、それらの周囲は基本的に骨形成環境である。したがって、人工歯根・人工骨の周囲に骨増殖因子の高濃度な環境を人為的に作り出す必要は特にない。
【0082】
▲2▼多孔質部分の厚みが外部表面から平均100μm以上の人工歯根・人工骨:多孔質部分の厚みが外部表面から平均100μm以上の多孔質構造体は、構造体の外部表面とつながる平均孔径100〜1000μm、好ましくは100〜500μmのマクロな連続気孔を多孔質部分の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体にマクロな気孔と連続する平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を有し、そのマクロな連続気孔は構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在し、かつその微細な連続気孔はマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面50μm平方の範囲内に少なくとも1個以上存在していることが好ましい。またはマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を表面の50μm平方の範囲内に少なくとも一つ以上有するものであっても良い。本発明の人工骨・人工歯根では、表面の厚い多孔質部分に骨粉を含浸させることで多孔質部分の内部及び表面に強い骨を自発的に形成させ、その骨と人工骨・人工歯根周囲の骨が結合することによって、骨内での強固な植立を得ようとするものである。
【0083】
3)表面粗造構造体:
骨内に埋入される人工骨頭などの人工骨や人工歯根の外表面部に用いられる。本発明の表面粗造構造体は生体適合性材料からなる。
【0084】
生体適合性材料は、金属、セラミックス、高分子材料、およびこれらの複合体から選ばれる。
【0085】
セラミックスは、ヒドロキシアパタイトおよび三リン酸カルシウムなどリン酸カルシウム系セラミックス、アルミナ、ジルコニア等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0086】
金属は、チタン、チタン合金等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0087】
高分子材料は、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とする重合体が好ましいが、キチンやキトサン、コラーゲンやゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等を主成分とする生分解性高分子材料等これに限定されない。
【0088】
表面構造は表面に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を少なくとも表面の50μm平方の範囲内に一つ以上有する粗造面であることが好ましい。これは表面の陥凹部に骨粉を含浸させることで、埋入後に人工歯根・人工骨の表面で自発的な骨芽細胞の分化・出現を生じさせるための足場を提供する。
【0089】
金属の場合、具体的には、金属表面の王水処理や陽極酸化処理、またこれらとグリットブラスト処理の併用により、表面に平均0.005〜50μmの大きさの微細な陥凹部を作成することができ、またリン酸カルシウム系セラミックスの場合グリットブラスト処理、酸処理及び両者の併用で作成できるが、これに限定されない。
【0090】
D.多孔質構造体および表面粗造構造体への骨粉の含浸
多孔質構造体および表面粗造構造体への骨粉の含浸には、骨粉の浮遊液を含浸させることで行うのが適切で以下にその方法を説明する。
【0091】
1)骨粉浮遊液の調整:粉砕機もしくは乳鉢で粉砕された骨粉または脱灰骨粉に生理食塩水もしくは移植対象者の血漿、血清を加えた後、撹拌機および超音波を用い骨粉を拡散させる。この際、骨形成に関わる特定の増殖・分化因子、抗ウィルス性薬剤、抗菌剤及び抗生物質、免疫抑制剤を添加することも出来る。
【0092】
2)骨粉の含浸:骨粉の浮遊液を多孔質構造体および表面粗造構造体へ含浸させるためには、単なる浸漬のみならずバイブレーター、減圧装置、撹拌機及び超音波を用いる。まず多孔質構造体および表面粗造構造体の入った容器をバイブレーターにあてがい骨粉浮遊液を少しずつ滴下する。肉厚5mm以上の多孔質構造体の場合には多孔質構造体に貫通性の穴を設けるのが良い。また肉厚10mm以上の場合には一端が閉鎖系の穴を開け穴の開放部に注射針もしくはチュウブを取り付けておき、滴下後注射筒などの減圧装置で骨粉浮遊液を多孔質構造体内に誘導することが好ましい。その後オイルレス真空ポンプ等の減圧機で構造体から残る気泡を脱泡し大気圧に戻すことで骨粉浮遊液の含浸を促進する。この際、撹拌機の併用は骨粉の凝集、沈殿を防ぐ。さらに容器を超音波槽に浸し多孔質構造体および表面粗造構造体に含浸した骨粉を分散させ、微細な骨粉が多孔質構造体および表面粗造構造体の微細な気孔内または陥凹部へ含浸するのを促進する。
【0093】
3)骨粉含浸多孔質構造体および表面粗造構造体の保管:骨粉含浸多孔質構造体および表面粗造構造体は、原則として含浸後直ちに移植もしくは埋入するのが好ましいが、数日以内であれば通常の冷蔵庫で保管可能である。それ以上の期間の保管に際しては−80℃以下のフリーザーで保管するのが好ましく、この場合数ヶ月程度の保管が可能である。なお、骨粉浮遊液の調整に際し生理的食塩水で行った場合には使用時に生理的食塩水を移植対象者の全血、血漿もしくは血清と置換するのが好ましい。
【0094】
また、骨粉浮遊液の調整に際し用いる液を生理的食塩水で行い、骨粉含浸後に凍結乾燥してフリーザーで保管し、使用時に対象者の全血、血漿や血清を気孔内や粗造面に浸透させる方法もある。この方法は、不特定多数の症例に対し前もって製造し保管するのに適している。
【0095】
さらに本発明を具体的に説明するが、以下の実施例に限定されるものでない。
【0096】
【実施例】
(実施例1)
成犬の脛骨から歯科用電気エンジンに取り付けたトレパンバーを用い骨片を摘出し、これを無菌的環境下、生理的食塩水中でアルミナ製乳鉢を用い粉砕した。生理的食塩水中で撹拌した骨粉入り生理的食塩水14ccを15ccコニカルチューブに入れ、これを遠心分離機で3000回転(約1000g)に達するまで回転させた。3000回転に達した時点でブレーキをかけ、生理的食塩水を除去した。この条件で沈殿した骨粉体積の10〜30倍(骨粉作製以前の緻密骨の体積に対し約80倍〜240倍)になるまで血漿を加えて骨粉を拡散させ骨粉浮遊液を調整した。骨粉浮遊液を、マクロな気孔および微細な気孔を有するハイドロキシアパタイトを成分とする大きさ約6mm立法で気孔率約85パーセントの多孔質構造体の入った容器にバイブレーター使用下で滴下し、その後100W、28khzの超音波および撹拌機を併用し、10℃以下の冷却下で10分間の含浸操作を行った。多孔質構造体に貫通性の穴は設けなかった。骨粉の含浸後血漿1ccあたりヒト由来のトロンビンを1単位加え、凝血させた。その後多孔質構造体のみを同一犬の背部皮下の脂肪組織内に移植した。移植後2週、4週、6週、8週で多孔質構造体を周囲脂肪組織とともに摘出して多孔質構造体内の組織形成の状態を観察した。
【0097】
その結果、移植後2週では多孔質構造体内部の広範な領域に未だ血液成分が残存し周辺部においても骨形成は見られない。しかし、4週になると多孔質構造体内部の各所でマクロな気孔内に含浸した骨粉はすでにほとんどが吸収・消失し、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面を基盤として骨形成が見られるようになる(図1)。8週になると多孔質構造体内の全域で骨が形成されるとともに、マクロな気孔の中央部では洞様毛細血管、造血を伴う骨髄も形成され、多孔質構造体が正常な骨組織で満たされた状態となった。また、多孔質構造体の周囲には移植床である通常の脂肪組織が見られる(図2)。
【0098】
(実施例2)
表面粗造構造体を外表面部に有する緻密質アパタイト人工歯根と、厚さ100μm未満の多孔質構造体を外表面部に有するチタン人工歯根に、実施例1と同様な方法でそれらの粗造面または多孔質内へ骨粉の含浸を行った。前者アパタイト人工歯根はペンタックス社製人工歯根アパセラム(登録商標)の表面を50μmアルミナビーズを用い2気圧でブラスト処理を行い、さらに100W、28khzの超音波下でpH約2.5の塩酸テトラサイクリン水溶液中で5分間エッチング処理を行ったものである。ブラスト処理による大きさ約10μm、深さ約5μmの陥凹が全面に生じている(図3)とともにエッチング処理により焼結体を構成する約0.5μmの一次粒子の相互間に陥凹が生じ(図4)、2相性の粗造面が形成されている。また後者チタン人工歯根はスウェーデン、ノーベルバイオケア−社製のチタン人工歯根タイユナイト(登録商標)で、表面部に陽極酸化方式によるTiO2の多孔質層を有し、多孔質層の厚さは10〜1μm、気孔のサイズは10μm以下でピークが1〜2μm、表面粗さが平均1.2μmのものである。2種人工歯根への骨粉含浸後、採骨した成犬の坐骨にそれらを埋入した。4週後人工歯根を含む坐骨を摘出し、人工歯根の表面周囲における骨形成状態を観察した。
【0099】
その結果、表面粗造のアパタイト人工歯根ではそのほぼ全表面に骨が添加形成され(図5)、またその骨はアパタイトの粗造な面に直接結合している(図6)。また表面多孔質のチタン人工歯根においても、その広範な表面に骨が形成され(図7)、しかもその骨と粗造な表面を持つ酸化チタン層は直接接しており両者間に未石灰化層の存在は光学顕微鏡レベルでは認められない部分が多い(図8)。
【0100】
上記アパタイト人工歯根の骨形成状態は無処理のものに比べ勝るとも劣らない所見で、またチタン人工歯根の骨形成状態も骨粉を含浸させていないものの骨接着率が5割程度とされているのに比べかなり優れている。
【0101】
【発明の効果】
本発明の骨粉含浸多孔質構造体によれば、わずかな骨を骨粉化し、その潜在的骨形成能を最大限有効に生かす環境を設定することにより、多量の骨再生が可能となる。付加的侵襲を伴う自家骨を用いたとしても、採取する骨の何十倍か以上の骨を形成させられることにより、画期的な骨再生法として利用できる。しかも骨再生のプロセスを生体内の骨内または骨面などの局所で進行させられるばかりでなく、皮下の脂肪組織などの異所性でも進行させられるため、方法的に安全であるとともに応用範囲が非常に広い。
【0102】
さらに、本発明の生体由来の骨粉を含浸させた多孔質構造体や表面粗造構造体は人工骨頭などの人工骨や人工歯根の外表面部として用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】移植4週間後における多孔質構造体のマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に沿った骨形成を示す顕微鏡写真である(倍率:200倍)。
【図2】移植8週間後における多孔質構造体の全域での骨形成を示す顕微鏡写真である(倍率:16倍)。
【図3】表面粗造のアパタイト人工歯根の表面性状を示す弱拡大の電子顕微鏡写真である(倍率:360倍)。
【図4】表面粗造のアパタイト人工歯根の表面にアパタイトの一次粒子が浮き出ている状態を示す強拡大の電子顕微鏡写真である(倍率:5170倍)。
【図5】埋入4週後における表面粗造のアパタイト人工歯根の全表面に骨が添加形成されていることを示す顕微鏡写真である(倍率:40倍)。
【図6】埋入4週後における表面粗造のアパタイト人工歯根の微細な凹凸に一致して骨が形成されていることを示す顕微鏡写真である(倍率:200倍)。
【図7】埋入4週後における多孔質構造体を表面部に有するチタン人工歯根で、広範な表面に沿って骨が形成されていることを示す顕微鏡写真である(倍率:53倍)。
【図8】埋入4週後における多孔質構造体を表面部に有するチタン人工歯根で、TiO2からなる多孔質構造体の表面の微細な凹凸に一致して骨が形成されていることを示す顕微鏡写真である(倍率:200倍)。
Claims (18)
- サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体であって、平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を構造体の全体にわたって有し、該微細な連続気孔は、構造体の外部表面の50μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在していることを特徴とする多孔質構造体。
- サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体であって、構造体の外部表面とつながる平均孔径100〜1000μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体にマクロな気孔と連続する平均孔径0.005〜50μmの微細な連続気孔を有し、該マクロな連続気孔は構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在し、かつ該微細な連続気孔はマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面50μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在していることを特徴とする多孔質構造体。
- サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の微細骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる多孔質構造体であって、構造体の外部表面とつながる平均孔径100〜1000μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を表面の50μm平方の範囲内に少なくとも一つ以上有し、該マクロな連続気孔は多孔質構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在することを特徴とする多孔質構造体。
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔質構造体であって、前記生体適合性材料は、セラミックス、金属、および高分子材料からなる群の少なくとも1つから選ばれることを特徴とする多孔質構造体。
- 請求項4に記載の多孔質構造体であって、前記セラミックスは、リン酸カルシウム系セラミックスであることを特徴とする多孔質構造体。
- 請求項1から5のいずれか一項に記載の多孔質構造体であって、前記骨粉が脱灰処理を施していない生の骨を粉砕して得た骨粉であることを特徴とする多孔質構造体。
- 請求項1から5のいずれか一項に記載の多孔質構造体であって、前記骨粉が脱灰骨粉であることを特徴とする多孔質構造体。
- 請求項1から7のいずれか一項に記載の多孔質構造体の製造方法であって、骨粉を作製する工程と、多孔質構造体に骨粉を含浸させる工程を含むことを特徴とする製造方法。
- 請求項1から7のいずれか一項に記載の多孔質構造体であることを特徴とする人工骨。
- 請求項1、4、5、6または7のいずれか一項に記載の多孔質構造体を人工骨または人工歯根の外表面部に平均100μm未満の厚さで用いることを特徴とする人工骨または人工歯根。
- 請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか一項に記載の多孔質構造体を人工骨または人工歯根の外表面部に平均100μm以上の厚さで用いることを特徴とする人工骨または人工歯根。
- サブミクロンサイズを含む平均20μm以下の骨粉を含浸させた生体適合性材料からなる表面粗造構造体であって、構造体の外部表面の50μm平方の範囲内に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmの微細な陥凹部を少なくとも一つ以上有することを特徴とする表面粗造構造体。
- 請求項12に記載の表面粗造構造体であって、前記生体適合性材料は、セラミックス、金属、および高分子材料からなる群の少なくとも1つから選ばれることを特徴とする表面粗造構造体。
- 請求項13に記載の表面粗造構造体であって、前記セラミックスは、リン酸カルシウム系セラミックスであることを特徴とする表面粗造構造体。
- 請求項12から14のいずれか一項に記載の表面粗造構造体であって、前記骨粉が脱灰処理を施していない生の骨を粉砕して得た骨粉であることを特徴とする表面粗造構造体。
- 請求項12から14のいずれか一項に記載の表面粗造構造体であって、前記骨粉は脱灰骨粉であることを特徴とする表面粗造構造体。
- 請求項12から16のいずれか一項に記載の表面粗造構造体の製造方法であって、骨粉を作製する工程と、構造体に骨粉を含浸させる工程を含むことを特徴とする製造方法。
- 請求項12から16のいずれか一項に記載の表面粗造構造体を人工骨または人工歯根の外表面部に用いることを特徴とする人工骨または人工歯根。
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