JP3677782B2 - 高分子固体電解質 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はイオン導電性の高分子固体電解質に関する。さらに詳しくは、本発明はリチウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオン系の導電性キャリアを含有することにより高いイオン導電性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、可撓性もしくは柔軟性にも優れた高分子固体電解質に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体電解質を用いて全固体系の電池を構成した場合、従来型電池の問題点の一つである電池内の内容物の漏液がなくなり、電池の安全性および信頼性が向上する。また、電池の薄型化、積層化も可能になる。そのため、固体電解質は、電池やその他の電気化学的デバイス材料として注目されている。
【0003】
ところで、固体電解質として要求される特性としては、一般的に(a)イオン導電性が高く、電子導電性がないこと、(b)薄く成形できるように成膜性が優れていること、(c)可撓性に優れていること、等が挙げられる。
【0004】
また、固体電解質の種類としては、無機材料からなるものと有機材料からなるものとの大きく二種類に分けられる。このうち無機材料からなる固体電解質は比較的イオン導電性は高いが、結晶体であるために機械的強度が乏しく、可撓性を有する膜に加工することが困難であり、そのためにデバイスに応用する場合には著しく不利となっている。
【0005】
これに対して、有機高分子からなる高分子固体電解質は可撓性を有する薄膜に成膜することが可能であり、また成形した薄膜には高分子固有の可撓性により優れた機械的性質を付与することが可能となる。そのため、高分子固体電解質から成る薄膜は、電極−高分子固体電解質間のイオン電子交換反応過程で生じる体積変化にも柔軟に適応させることも可能となる。このような理由から、高分子固体電解質は高エネルギー密度電池、特に薄型電池の固体電解質材料として有望視されている。
【0006】
このような高分子固体電解質としては、ポリエーテル構造を有するポリエチレンオキサイド[(−CH2CH2O−)n:以下PEOと略す]とLi塩やNa塩等のアルカリ金属塩との複合体が高いアルカリ金属イオン導電性を示すことが知られており、この複合体をはじめとして種々の高分子固体電解質でのイオン導電機構や分子構造等の理論研究、あるいは電池等の電気化学デバイスへの応用研究が活発に進められている。
【0007】
ところで、高分子固体電解質におけるイオン導電は、高分子マトリックス中のアルカリ金属イオンが高分子マトリックス中の無定形部分において選択的にイオン化し、高分子中の配位性原子と相互作用しながらマトリックス内を電界に沿って拡散移動することによって達成されると考えられている。例えば、PEOとアルカリ金属塩からなる複合体膜においては、アルカリ金属イオンがPEO主鎖中の誘電率の高いエーテル結合部の酸素と相互作用しながら、熱による分子鎖のセグメント運動によってイオン導電すると考えられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高分子固体電解質は、一般的に無機材料からなる固体電解質に比べて室温近傍でのイオン導電率が小さいという問題点を有している。また、イオン導電率を向上させようとすると、逆に成膜性や可撓性が低下するという問題点を有している。
【0009】
例えば、PEOとアルカリ金属塩との複合体膜の場合、その構成有機高分子の分子量が10000程度のときは、成膜性に優れ、イオン導電率も100℃以上では10−3〜10−4Scm−1程度の比較的高い値を有する。しかし、この複合体膜は結晶性であるために60℃以下の温度では急激に導電率は低下し、室温では、10−7Scm−1程度以下という非常に低い値を示す。このため、室温を使用温度領域とする通常の電池の材料として組み入れることが不可能となってくる。そこで、式(i )
【0010】
【化11】
(式中、nは任意の整数である)
に示すようにPEOの末端水酸基にジイソシアネートを反応させてウレタン架橋を形成させたり、あるいはエステル架橋を形成させることによって複合体膜の結晶性を抑制させる試みがなされている。この架橋構造は無定形高分子のイオン導電率を大きく低下させることなく機械的特性を向上させるための手段として非常に有効である。しかしながら、このような手段でも十分な成果を得られるには至っていない。
【0011】
一方、複合体膜を構成する有機高分子であるPEOの分子量を10000以下にすることによって室温近傍でのイオン導電率を向上させることができるが、この場合には成膜性が著しく低下し、フィルム化が困難となる。
【0012】
また、イオン導電率を向上させるためにアルカリ金属塩の含有濃度を高くした場合には、複合体膜のガラス転移点Tgも上昇してしまい、そのためにイオン導電性が低下してしまう。このようにキャリア体の密度の増加と導電率の増加を同時に達成することはできない。
【0013】
他の高分子固体電解質の例としては、上述のPEOとアルカリ金属塩とから構成される複合体の類似化合物で、式(ii)
【0014】
【化12】
(式中、m及びnはそれぞれ任意の整数である)
で表されるように、側鎖にPEO構造を有するアクリル系又はメタクリル系の有機高分子が知られている。また、式(iii )
【0015】
【化13】
(式中、m及びnはそれぞれ任意の整数である)
で表されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖が -(-P=N-)m- からなるポリホスファゼン系の有機高分子や、式(iv)
【0016】
【化14】
(式中、m及びnはそれぞれ任意の整数である)
で表されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖が -(-SiO-)m- からなるシロキサン系の有機高分子が知られている。これらの有機高分子とアルカリ金属塩からなる高分子固体電解質のイオン導電率は〜10−5Scm−1程度であり、PEOとアルカリ金属塩からなる複合体膜に比べてやや改善されているが、実用上はまだ不十分であり、また、成膜性や可撓性も十分なものとはなっていない。
【0017】
本発明はこのような従来技術の課題を解決しようとするものであり、室温付近でも高いイオン導電性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、可撓性もしくは柔軟性にも優れた高分子固体電解質を得ることを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、カーボネート基を官能基として有する有機高分子が、キャリアイオンと適度な相互作用する官能基を含むために、従来に比べ高密度でキャリアイオンと複合体を形成することができ、更に低温状態でも結晶化しにくく、そのため無定形状態を保持することによる十分なセグメント運動を確保することができ、かつ電子伝導が生じることがないという特性を有することを知見した。そして、このカーボネート基を官能基として有する有機高分子を、高分子固体電解質を構成する有機高分子として使用することにより、上述の目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
即ち、本発明は、カーボネート基を官能基として有する有機高分子とアルカリ金属塩とを含有してなることを特徴とする高分子固体電解質を提供する。
【0021】
本発明において使用する有機高分子としては、主鎖あるいは側鎖にカーボネート基を官能基として有する高分子の中から適宜選択して使用することができる。主鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、例えば、次式(1)
【0022】
【化15】
(式中、R1 及びR2 は独立的に水素又は低級アルキルであり、nは任意の整数である)
で表される、ビニレンカーボネート系モノマーの単独重合体であるポリビニレンカーボネート(PVC)を使用することができる。ここで式(1)における置換基R1 及びR2 の低級アルキルとしては、炭素数1〜3の低級アルキルが好ましい。また低級アルキルは直鎖状でも分岐状でもよい。
【0023】
式(1)の有機高分子の平均分子量は、重合させたビニレンカーボネート系モノマーの種類により異なるが、平均分子量が低すぎると固体とならず、成膜性が低下してフィルム化しにくくなり、また高すぎても溶媒に溶けにくくなってフィルム化しにくくなり、更に可撓性が低下するので、好ましくは3×103〜5×105の範囲とする。
【0024】
また、本発明においては式(1)で表される有機高分子の物理的性質や化学的性質を更に改善させる目的で、例えば、高分子固体電解質の可撓性を更に改善し、金属塩濃度を更に増加できるようにする目的で、ビニレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットを式(1)の有機高分子に導入することができる。このような共重合体としては、例えば、式(2)
【0025】
【化16】
(式中、R1 及びR2 は独立的に水素又は低級アルキルであり、m及びnは独立的に任意の整数であり、Xはビニレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
で表される、ビニレンカーボネート系モノマーとそれと共重合可能なモノマーとの共重合体を使用することができる。ここで、式中のXとしては、ビニル系モノマーユニットであることが好ましい。このようなビニル系モノマーユニットを構成するビニル系モノマーとしては、一種類のモノマーを使用してもよいが、2種類以上のモノマーを併用してもよい。このようなビニル系モノマーの具体例としては、例えば、CH2=CHCOOH、CH2=CHCOOM(ここでMは金属イオンである)、CH2=CHCOOR(ここでRはアルキル基である)、CH2=CHCOO(CH2CH2O)nCH3(ここでnは1〜23の整数である)などのアクリル系モノマー、CH2=CCH3COOH、CH2=CCH3COOM(ここでMは金属イオンである)、CH2=CCH3COOR(ここでRはアルキル基である)、CH2=CCH3COO(CH2CH2O)nCH3(ここでnは1〜23の整数である)などのメタクリル系モノマー、CH2=C[COO(CH2CH2O)nCH3]2(ここでnは1〜23の整数である)、CH2=CH(C6H5)、CH2=CHCN、CH2=CHCONH2、ビニルピロリドンなどを好ましく例示することができる。
【0026】
式(2)の有機高分子は、有機高分子の物理的及び化学的性質をコントロールするために、ビニレンカーボネート系モノマーユニットに加えて一種以上の他のモノマーユニットを含有させたものであるが、この場合の物理的及び化学的性質のコントロール方法としては、これらのモノマーユニットの構成比を変えることにより各モノマーユニットの特性を所望の程度で発現させればよい。例えば、ビニレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(2)の有機高分子中に占めるビニレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。ビニレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0027】
式(1)又は式(2)の有機高分子のように、主鎖にカーボネート基を官能基として有する有機高分子は、ビニレンカーボネート系モノマーと、必要に応じて他の一種以上のモノマーとを、常法、例えばラジカル重合法や光重合法などにより重合させることにより容易に得ることができる。
【0028】
一方、本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、例えば、次式(3)
【0029】
【化17】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、jは0〜3の整数であり、kは任意の整数である)
で表される、エチレンカーボネート系モノマーの単独重合体(ポリビニルエチレンカーボネート:PVEC)を使用することができる。ここで、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。また、式(3)においてj=0とし、エチレンカーボネート基が直接主鎖に結合するようにしてもよく、あるいはj=1〜3とし、エチレンカーボネート基が低級アルキルを介して主鎖に結合するようにしてもよい。
【0030】
式(3)の有機高分子の平均分子量は、そのモノマーユニットの構造により異なるが、平均分子量が低すぎると固体とならずに成膜性が低下し、また高すぎると溶媒に溶け難くなり、さらに柔軟性も低下するので、通常は5×102〜5×105の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
式(3)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、ビニルエエチレンカーボネートをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0032】
本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、上述の次式(3)の有機高分子にその構成モノマーと共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体も使用することができる。
【0033】
このような共重合体としては、例えば、次式(4)
【0034】
【化18】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、jは0〜3の整数であり、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)で表される有機高分子を使用することができる。
【0035】
ここで、Xは、式(3)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(4)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(4)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0036】
式(4)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、エチレンカーボネート系モノマーと、その他のモノマーとを、例えばラジカル重合法や光重合法などにより共重合させることにより容易に得ることができる。
【0037】
本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、例えば、次式(5)
【0038】
【化19】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、kは任意の整数である)
で表される、側鎖のエステル構造の末端にエチレンカーボネートがついているエチレンカーボネート系モノマーの単独重合体も使用することができる。また、このような有機高分子に共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体である次式(6)
【0039】
【化20】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
の有機高分子も使用することができる。
【0040】
この式(5)及び式(6)の有機高分子において、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。また、式(6)の有機高分子において、Xは、式(5)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(6)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(6)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0041】
式(5)及び式(6)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、エチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)等のエチレンカーボネート系モノマー、あるいはそれと他のモノマーとをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0042】
本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、同一側鎖中にカーボネート基とエーテル基とを有するものも使用することができ、例えば、次式(7)
【0043】
【化21】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、i及びkは独立的に任意の整数である)
で表される、側鎖のポリエーテル構造R4 の末端にエチレンカーボネートがついているエチレンカーボネート系モノマーの単独重合体も使用することができる。また、このような有機高分子に共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体である次式(8)
【0044】
【化22】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、i、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
の有機高分子も使用することができる。
【0045】
この式(7)及び式(8)の有機高分子において、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。R4 は、−CH2O−、−CH2CH2O−、−CH2CH2CH2O−等の直鎖状エーテル基、又は−CH(CH3)O−、−CH(CH3)CH2O−、−CH(CH3)CH2CH2O−等の分岐状エーテル基のいずれとすることもできる。また、式(8)の有機高分子において、Xは、式(7)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(8)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(8)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0046】
式(7)及び式(8)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、エチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEMi )等のエチレンカーボネート系モノマー、あるいはそれと他のモノマーとをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0047】
本発明が使用する有機高分子のうち、同一側鎖中にカーボネート基とエーテル基とを有するものとしては、例えば、次式(9)
【0048】
【化23】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、g1 〜gx 、h1 〜hx 、i1 〜ix 及びkは独立的に任意の整数である)
で表される、エーテル構造とカーボネート構造とがそれぞれ任意の繰り返し数で繰り返されたブロックが複数結合している側鎖を有するエチレンカーボネート系モノマーの単独重合体も使用することができる。この場合、この側鎖の末端はエーテル構造でもカーボネート構造でもよい。
【0049】
また、このような有機高分子に共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体である次式(10)
【0050】
【化24】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、g1 〜gx 、h1 〜hx 、i1 〜ix 、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
の有機高分子も使用することができる。
【0051】
この式(9)及び式(10)の有機高分子において、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。R4 は、−CH2O−、−CH2CH2O−、−CH2CH2CH2O−等の直鎖状エーテル基、又は−CH(CH3)O−、−CH(CH3)CH2O−、−CH(CH3)CH2CH2O−等の分岐状エーテル基のいずれとすることもできる。また、式(10)の有機高分子において、Xは、式(9)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(10)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(10)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0052】
式(9)及び式(10)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、ポリエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECh PEMi )等のエチレンカーボネート系モノマー、あるいはそれと他のモノマーとをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0053】
また、本発明において使用するカーボネート基を官能基として有する有機高分子、例えば、上述の式(1)〜式(9)の有機高分子を単独で用いるだけでなく、それと相溶性を有する他の高分子をブレンドすることにより得られるポリマーブレンドも使用することもできる。このような他の高分子としては、PEOや式(ii)〜(iv)で表される高分子を使用することができる。ブレンドの割合としては、必要とする電導度などに応じて適宜選択することができる。
【0054】
本発明における高分子固体電解質を構成する金属塩としては、従来の高分子固体電解質に用いられているものを使用することが可能であり、例えばリチウム塩ではLiBr、LiI、LiSCN、LiBF4、LiAsF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiPF6、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などが挙げられる。また、これらのリチウム塩のアニオンと、リチウム以外のアルカリ金属、例えばカリウム、ナトリウムなどとの塩を使用することもできる。この場合、塩としては複数の塩を同時に使用してもよい。
【0055】
高分子固体電解質を構成する金属塩と有機高分子との比率は、使用する金属塩や有機高分子の種類などにより異なり、この比が低すぎると導電率が低下し、高すぎると成膜性が低下する。
【0056】
例えば、有機高分子として式(1)又は式(2)のように直鎖にカーボネート基を有する有機高分子を使用する場合、その有機高分子の全構成モノマー単位(即ち、有機高分子中のカーボネート基)当たりの金属塩の分子比(モル比)を、[金属塩分子]/[モノマーユニット]で表した場合に、この値を、式(1)の有機高分子では0.4〜0.8、式(2)の有機高分子では0.1〜0.8の範囲とすることが好ましい。また、式(3)のように側鎖にカーボネート基を有する有機高分子を使用する場合、[金属塩分子]/[モノマーユニット]を0.4〜0.7とすることが好ましく、式(3)の有機高分子にその構成モノマーと共重合可能な他のモノマーユニットを導入した式(4)の共重合体では[金属塩分子]/[モノマーユニット]を0.4〜0.9とすることが好ましい。また、式(9)及び式(10)のようにエーテル構造とカーボネート構造が繰り返し結合している側鎖を有するものは、[金属塩分子]/[エチレンカーボネート基]を0.2〜0.7とすることが好ましい。
【0057】
本発明の高分子固体電解質は、常法により製造することができるが、好ましくは、以上のような有機高分子と金属塩とを、溶媒に均一に溶解させることにより得られる。一般に、本発明の高分子固体電解質は膜の形態で使用するが、成膜する方法は常法によることができる。例えば、キャスト溶媒に有機高分子と金属塩とを溶解し、この溶液を平坦な基板に広げ、溶媒を蒸発させることにより複合体フィルムを得るというキャスト法により成膜することができる。この場合、キャスト溶媒としては、種々の極性溶媒、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラハイドロフラン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどを使用することができるが、中でも、ジメチルホルムアミドをキャスト溶媒として使用することが、高い導電率が得られるので好ましい。
【0058】
【作用】
本発明の高分子固体電解質は、カーボネート基を官能基として有する有機高分子を含有するので、キャリアイオンとなる金属塩を高濃度で電解質中に含有することが可能となる。また、成膜性の低下やガラス転位温度Tgの上昇にともなう導電率の急激な低下を防止することも可能となる。従って、高イオン導電性と良好な成膜性および可撓性を同時に実現することが可能となる。
【0059】
以下、本発明を実施例に基いて具体的に説明する。なお、実施例27〜49は、本発明で使用するカーボネート基を有する有機高分子ではないが、それに類似する有機高分子であって、式(5)、(6)、(7)又は(8)で表されるものを使用した参考例である。
【0060】
実施例1:ビニレンカーボネート系高分子固体電解質フィルム
(ビニレンカーボネートモノマー(VC)の単独重合体の合成)
約20ml用の封管用ガラス性アンプル中に、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)で還留処理することにより精製したビニレンカーボネート(VC)10mlと、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)4mgとを加えた。このアンプルを窒素置換装置につなぎ、内容物をドライアイス−メタノール浴で冷却固化した後、高真空下で脱気、窒素導入、融解の操作を三回繰り返し、最後に高真空下で封管した。
【0061】
このアンプルを60℃に設定した振盪式恒温槽中で24時間重合反応させた。この重合反応の間、反応液の粘度は増加し全体が固化した。
【0062】
反応物を室温まで冷却後、アンプルを開封し、得られた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れた。これにより、白色の繊維状の固体が得られた。この固体を濾別し、メタノールで十分に洗浄した。得られた白色の固体をDMF−メタノール混合溶媒を用いて再沈操作を2〜3回繰り返し行うことにより精製し、生成ポリマーを減圧下において乾燥させた。その結果、30〜40%の収率で所期の有機高分子を得た。
【0063】
この有機高分子はCDCl3中で1H−NMRによりポリビニレンカーボネートであることが同定できた。また、この有機高分子の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、その結果5×103〜1×105程度であった。
【0064】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られた有機高分子を、十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一な溶液とし、さらに撹拌しながらLiClO4を有機高分子の全構成モノマーに対して、[Li+]/[VC ユニット]=0.5となるように加え、更に完全に溶解するまでしばらく撹拌を続けた。その後、孔径0.45μmのフィルターを通過させて不溶物を除去した。得られた溶液を、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、60℃に設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、さらに真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させることにより高分子固体電解質フィルムを得た(実施例1-1 )。
【0065】
また、[Li+]/[VC ユニット]の値を表2に示すように0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように変え、同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例1-2 〜1-10)。
【0066】
さらに、キャスト溶媒としてDMFの代わりにNMP(N−メチル−ピロリドン)またはTHF(テトラヒドロフラン)を使用し、実施例1-1 と同様にして高分子電解質フィルムを作成した(実施例1-11〜1-12)。
【0067】
さらにまた、LiClO4の代わりに表4に示したようなリチウム塩およびナトリウム塩等のアルカリ金属塩を使用し、実施例1-1 と同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例1-13〜1-19)。
【0068】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムは、いずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0069】
(イオン導電率の評価)
高分子固体電解質フィルムのイオン導電率を次のように測定し評価した。即ち、高分子固体電解質フィルムを白金電極またはリチウム金属電極で挾み、電極/フィルム/電極の各接触が十分に保たれるように圧着し、定電圧複素インピーダンス法により得られた半円弧部から解析的にイオン導電率を算出した。なお、これらの測定は温度可変式の恒温装置の中に評価セルを入れ、所定の温度で約1時間保持して定常状態となった後に行った。この場合、得られる複数個の疑似半円弧成分の電極を白金、リチウム金属と変え、また、それらの電極面積を変えることにより高分子固体電解質中のイオン導電に寄与する抵抗部を帰属した。このとき測定で用いた交流振幅電圧を30〜100mVに設定し、交流の周波数帯域を10−2〜107Hzで行った。
【0070】
(i) イオン導電率の温度依存性
上述のようなイオン導電率の評価を、実施例1-1 の高分子固体電解質フィルムについて、表1に示した種々の温度で行った。得られた結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
表1の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムは、従来のPEOもしくは他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域における導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度及び可撓性も十分なものであった。
【0072】
(ii)イオン導電率と[Li+]/[VC ユニット]
また、[Li+]/[VC ユニット]の値が異なる実施例1-2 〜1-10の高分子固体電解質フィルムについて、イオン導電率(25℃)を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
表2から明らかなように、これらの実施例の高分子固体電解質は、LiClO4の添加量が[Li+]/[VC ユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合には導電率が低いという傾向がある。また、得られる高分子固体電解質フィルムがもろいガラス性となる傾向があり、可撓性に欠けるものであった。
【0074】
しかし、[Li+]/[VC ユニット]=0.4〜0.6では導電率は著しく増加し、得られる高分子固体電解質フィルムは可撓性に富むものとなった。
【0075】
更に、LiClO4の添加量が、[Li+]/[VC ユニット]=0.8よりも多くなるとキャスト溶媒を完全に除去することにより得られたフィルムは懸濁してしまい、金属塩と有機高分子が相溶したものが得られなかった。このように懸濁した状態のフィルムは、導電率が低下してしまうだけではなく、引っ張りに対する機械的強度が著しく低下していた。したがって、これらの実施例の高分子固体電解質の系では[Li+]/[VC ユニット]が0.02〜0.8が好ましく、特に0.4〜0.6の範囲が好ましいことがわかった。
【0076】
(iii) イオン導電率とキャスト溶媒
キャスト溶媒を変えた実施例1-11及び1-12の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率を求めた。この結果を表3に示す。なお、参考のために実施例1-1 の高分子固体電解質フィルムの結果も併せて表3に示した。
【0077】
【表3】
表3から、キャスト溶媒として特にDMFを用いることが好ましいことがわかった。
【0078】
(iv)イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類を変えた実施例1-13〜1-19の高分子固体電解質フィルムについて、同様にそのイオン導電率を求めた。この結果を表4に示す。なお、参考のため、実施例1-1 の結果も併せて表4に示した。
【0079】
【表4】
表4から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比べ、室温においても著しく高い導電性を示した。また、これらの実施例では、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0080】
実施例2及び実施例3
実施例1に示したVCの重合反応の際、表5に示すように重合開始剤であるAlBNの添加量と重合温度とを変化させた以外は実施例1-1 と同様に高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、LiClO4は、[Li+]/[VC ユニット]=0.5となるように添加した。
【0081】
得られた高分子固体電解質フィルムについて実施例1と同様に導電率を求め、更に平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により計測した。それらの結果を表5に示す。なお、参考のために実施例1-1 の高分子固体電解質フィルムの結果も併せて表5に示した。
【0082】
【表5】
表5から、これらの実施例の系ではポリビニレンカーボネートの平均分子量は小さいほど導電率は増加する傾向があることがわかった。しかし、小さくなると成膜性が低下し、フィルム化が困難となる傾向があるため、平均分子量としては約1×104前後のものが好ましいことがわかった。また、重合温度やAIBNの添加量を変化させることにより有機高分子の平均分子量が制御可能であることも確認できた。
【0083】
実施例4〜11:ビニレンカーボネート(共重合)系高分子固体電解質フィルム
(ビニレンカーボネート(VC)共重合体の合成)
約20ml用の封管用ガラス性アンプル中に、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)で還留処理することにより精製したビニレンカーボネート(VC)10mlと、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリレート系モノマーとしてメトキシポリエチレングリコールメタクリレート[CH2=CCH3COO(CH2CH2O)4CH3(以下、PEM4と略す)、CH2=CCH3COO(CH2CH2O)9CH3(以下、PEM9と略す)]とを表6に示したモノマー構成比(モル%)で仕込み、更にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を仕込んだモノマーの総モル数に対して0.2〜1.0モル%の割合で仕込み、撹拌して均一溶液とした。このアンプルを窒素置換装置につなぎ、内容物をドライアイス−メタノール浴で冷却固化した後、高真空下で脱気、窒素導入、融解の操作を三回繰り返し、最後に高真空下で封管した。
【0084】
このアンプルを60℃に設定した振盪式恒温槽中で24時間重合反応させた。この重合反応の間、反応液の粘度は増加し全体が固化した。
【0085】
反応物を室温まで冷却後、アンプルを開封し、得られた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れた。これにより、白色の繊維状の固体が得られた。この固体を濾別し、メタノールで十分に洗浄した。得られた白色の固体をDMF−メタノール混合溶媒を用いて再沈操作を2〜3回繰り返し行うことにより精製し、生成ポリマーを減圧下において乾燥させた。その結果、30〜40%の収率で所期の有機高分子を得た。
【0086】
この有機高分子をCDCl3中で1H−NMRにより構造解析したところ、仕込みモノマー組成に準じたモノマーユニットから構成されていることが確認できた。
【0087】
【表6】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られた有機高分子を、十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一な溶液とし、さらに撹拌しながらLiClO4を有機高分子の全構成モノマーに対して、[Li+]/[モノマーユニット]=0.02〜1.00の範囲で所定の値となるように加え、それぞれのモノマー比のものについて更に完全に溶解するまでしばらく撹拌を続けた。この場合、実施例4及び実施例7としては、[Li+]/[モノマーユニット]の値を上述の範囲内で8通りに変化させた(実施例4-1 〜4-8 、7-1 〜7-8 )。また、実施例5、6、8及び9としては、[Li+]/[モノマーユニット]の値を上述の範囲内で6通りに変化させた(実施例5-1 〜5-6 、6-1 〜6-6 、8-1 〜8-6 、9-1 〜9-6 )。
【0088】
その後、孔径0.45μmのフィルターを通過させて不溶物を除去した。得られた溶液を、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、60℃に設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、さらに真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させることにより種々のモノマー比の高分子固体電解質フィルムを得た。
【0089】
また、キャスト溶媒としてDMFの代わりにNMP(N−メチル−ピロリドン)またはTHF(テトラヒドロフラン)を使用する以外は実施例4と同様にして[Li+]/[モノマーユニット]=0.5の高分子電解質フィルムを作成した(実施例4-9 〜4-10)。
【0090】
さらに、LiClO4の代わりに図3に示したようにアルカリ金属塩を使用し、実施例4と同様にして[M+]/[モノマーユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例4-11〜4-17)。
【0091】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0092】
(イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と共重合体モノマー比
上記で得られた高分子固体電解質フィルム(実施例4-1 〜4-8 、5-1 〜5-6 、6-1 〜6-6 、7-1 〜7-8 、8-1 〜8-6 、9-1 〜9-6 )について、有機高分子の全構成モノマー単位当たりの金属塩の分子比(モル比;[Li+]/[モノマーユニット])に対するイオン導電率(25℃)を実施例1と同様に測定し評価した。得られた結果を図1及び図2に示す。これらの図から明らかなように、従来のPEOもしくは他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度及び可撓性も十分なものであった。
【0093】
(ii)イオン導電率とキャスト溶媒
キャスト溶媒を変えた実施例4-9 及び4-10の高分子固体電解質フィルム([Li+]/[モノマーユニット]=0.5)について、同様にイオン導電率を求めた。この結果を表7に示す。なお、参考のために実施例4-6 の高分子固体電解質フィルム([Li+]/[モノマーユニット]=0.5)の結果も併せて表7に示した。
【0094】
【表7】
表7から、キャスト溶媒として特にDMFを用いることが好ましいことがわかった。
【0095】
(iv)イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例4-6 、実施例4-11〜4-17の高分子固体電解質フィルムについて、同様にそのイオン導電率を求めた。この結果を図3に示す。同図から明らかなように、これらの実施例の高分子固体電解質フィルムにおいては、アルカリ金属塩を変えても導電率が極度に低下することがなかった。また、既存の高分子固体電解質の室温でのイオン導電率と比較しても著しく高い導電率を示した。なお、いずれも成膜性、機械的強度、可撓性が低下せず、優れた特性を示した。
【0096】
(高分子固体電解質のフィルム特性)
共重合体モノマー比が異なる実施例4〜6の高分子固体電解質フィルムの可撓性と透明性とを以下のように評価した。その結果を表9に示す。
【0097】
可撓性
高分子固体電解質フィルムを、厚さ0.10〜0.15mm、幅5mm、長さ20mmの短冊状に切り出し、この一方の末端部の2mmの位置を固定し、他端に荷重をかけ、割ることなく曲げることができた角度を調べ、表8に示す基準に従って評価した。この場合、割れた角度が大きいほど高い可撓性を有していることを示している。
【0098】
【表8】
透明性
高分子固体電解質フィルムに対して、可視部(500nm〜700nm)の吸収スペクトルを調べた。この場合、対照として金属塩を溶解させていない有機高分子フィルムを用いた。吸光度が0.2未満を「A」、0.2以上〜1.0未満「B」、1.0以上を「C」と3段階で評価した。この場合、吸光度が低いほど透明性が高く、金属塩が有機高分子に相溶している状態を示している。
【0099】
【表9】
図1、図2及び表9に示した結果より、PEM4又はPEM9を3モル%含有した実施例4及び実施例7の高分子固体電解質フィルムの場合、まず、図1からわかるように、LiClO4の添加量が[Li+]/[モノマーユニット]=0.02以下の低濃度のときには導電率が低くなる傾向があった。また、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は低下し、電極界面での抵抗が大きくなる傾向があった。
【0100】
また、[Li+]/[モノマーユニット]=0.1〜0.6の範囲では、[Li+]濃度の増加に伴って導電率も大きく増加する傾向にある。また、得られた高分子固体電解質フィルムも十分な可撓性を有していた。
【0101】
なお、[Li+]/[モノマーユニット]=0.6〜0.8の範囲では、導電率の急激な低下はなく、また、高キャリヤイオン濃度領域で〜10−5Scm−1以上の高導電率を維持することができた。
【0102】
[Li+]濃度を[Li+]/[モノマーユニット]=0.8より大きくしたときには、キャスト溶媒を完全に除去した後に得られたフィルムは混濁し、金属塩と有機高分子が完全に相溶したものが得られにくい傾向があった。即ち、LiClO4の析出が生じ、導電率が低下し、また、可撓性も低下する傾向があった。
【0103】
従って、実施例4及び実施例7の高分子固体電解質フィルムの場合には、導電性、成膜性などを考慮すると[Li+]濃度を[Li+]/[モノマーユニット]=0.02〜0.8、特に0.4〜0.6の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0104】
また、PEM4もしくはPEM9をそれぞれ6もしくは10モル%含有した実施例5、6、8もしくは9の高分子固体電解質フィルムの場合に、図2からわかるように、最適[Li+]濃度域における導電率は実施例4及び7の場合よりもわずかに低いという傾向があった。
【0105】
しかし、PEM4もしくはPEM9のモノマー構成比が増加すると、あるいは側鎖のポリエーテル基が長くなるほど、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加し、更に、相溶できるLiClO4濃度が増加し、その結果[Li+]/[モノマーユニット]=1.0でも、LiClO4の析出を防止でき成膜性の低下は見られなかった。更に、高導電率領域における金属塩濃度は増加する傾向があった。また、金属塩濃度に対する導電率の依存性は小さくなり、[Li+]/[モノマーユニット]=0.4〜1.0の範囲で10−5〜10−4Scm−1の高導電率を維持することができた。
【0106】
実施例12:VEC系高分子固体電解質フィルム
(ビニルエチレンカーボネート(VEC)の合成)
ジクロロメタン500ml中にm-クロロ過安息香酸を190g溶解させ、これを氷で冷却し、さらに溶液を撹拌しながら、1,3−ブタジエンを2時間程度かけてバブリングし、溶液中に溶解し反応させた。その後さらに室温で終夜撹拌させることにより、3,4−エポキシ−1−ブテンを得た。次いで、これに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行った。そして、水層を分離した後、有機層を水で抽出し、濃縮した。得られた残留オイル状のものを減圧下で蒸留し、1−ブテン−3,4−ジオールを得た。これをジクロロメタン中でクロロ炭酸エチルとエステル交換反応をさせることにより、所期のビニルエチレンカーボネート(VEC)を得た。この生成物は沸点(106℃/6.5mmHg)であり、FT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。
【0107】
(ビニルエチレンカーボネートの単独重合体(PVEC)の合成)
約20ml用の封管用ガラス性アンプル中に、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gとアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)4mgを加えた。これを窒素置換装置につなぎ、ドライアイス−メタノール浴で固化し、高真空下に脱気、窒素導入、融解の操作を三回繰り返し、最後に高真空下で封管した。次いで、この容器を振盪式恒温槽中80℃で24時間重合反応させた。この間、重合系は粘度が増し、全体が固化した。室温まで冷却後、開封して、得られた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れた。これにより、白色の繊維状の固体が得られた。これをろ過した後、メタノールを用いて十分に洗浄した。この得られた白色の固体をDMF−メタノール系にて再沈操作を2〜3回繰り返し行なって精製し、その後、生成ポリマーを減圧下において乾燥させた。その結果、収率は20〜40%で所期の有機高分子であるポリビニルエチレンカーボネートを得た。この有機高分子はFT−IRおよびCDCl3中1H−NMRで同定し、確認した。また、融点は140〜150℃であり、平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、1 ×103〜1 ×105程度であった。
【0108】
なお、上記重合法で用いたラジカル重合開始剤AIBNに代えて、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0109】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られた有機高分子PVECを十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一溶液とし、さらに撹拌しながらLiClO4を有機高分子の全構成モノマーに対して、[Li+]/[VECユニット]=0.5となるように加え、さらに完全に溶解するまでしばらく撹拌を続けた。その後、孔径0.45μmのフィルターを通し、不溶物を除去し、キャスト法により成膜した。すなわち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、40〜60℃の温度範囲で設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、さらに真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させ、高分子固体電解質フィルムを得た(実施例12-1)。
【0110】
また、[Li+]/[VECユニット]の値を図5に示すように0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように変え、同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例12-2〜12-9)
さらに、LiClO4に代えて、図6に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、実施例12-1と同様にして[M+]/[VECユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例12-10 〜12-16 )。
【0111】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
(イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率の温度依存性
上記で得られた高分子固体電解質フィルム(実施例12-1)について、イオン導電率を種々の温度で実施例1と同様に測定した。この結果を図4に示す。
【0112】
図4の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムのうち側鎖にカーボネート基を有するものも従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域における導電率が著しく高いことが確認できた。なお、この高分子固体電解質フィルム(実施例12-1)は、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0113】
(ii) イオン導電率と[Li+]/[VECユニット]
[Li+]/[VECユニット]が異なる実施例12-1〜12-9の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図5に示す。
【0114】
図5から明らかなように、LiClO4の添加量が、[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合、イオン導電率は低いという傾向がある。なおこの場合、得られる高分子固体電解質フィルムはもろいガラス性となる傾向があり、柔軟性に欠けるものであった。このため、電極と高分子電解質とが十分に接触がとれずに、実際の電極との接触面積が計算上の電極面積よりも小さくなり、イオン導電率の結果としては過少に見積もられた可能性がある。
【0115】
一方、[Li+]/[VECユニット]=0.4〜0.6では得られた高分子固体電解質フィルムは柔軟性に富んだ、良好なフィルムであり、イオン導電率も著しく増加する傾向を示していた。
【0116】
また、[Li+]/[VECユニット]=0.7よりも多くなるとイオン導電率は低下傾向を示した。さらにこの場合、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出により、金属塩と有機高分子とが相溶したものではなく懸濁状態であり、柔軟性および機械的強度が低下していた。
【0117】
したがって、この系では[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.8の範囲であることが好ましく、特に0.4〜0.6の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0118】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ塩の種類が異なる実施例12-1、実施例12-10 〜12-16 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率を求めた。この結果を図6に示した。
【0119】
図6から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25℃)においても著しく高い値を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0120】
実施例13〜16
実施例12に示したビニルエチレンカーボネート(VEC)の重合化反応の際、表10に示すようにラジカル重合開始剤の種類(AIBN又はPBO)及びその添加量を変化させ、また重合温度を変える以外は実施例12-1と同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した。
【0121】
得られた高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率を求め、さらに平均分子量をGPCにより求めた。この結果を表10及び図7に示す。なお参考のため、図7には実施例12-1の結果も合わせて示した。
【0122】
【表10】
図7から、この系では有機高分子の平均分子量が小さいほどイオン導電率は増加する傾向があることがわかった。しかし、実施例14の有機高分子の分子量程度以下まで小さくなると成膜性が低下し、フィルム化が困難になる傾向があるため、平均分子量としては〜104程度のものが最も好ましいことがわかった。また、重合温度やラジカル開始剤の種類あるいはその添加量を変化させることにより、有機高分子の平均分子量が制御可能であることも確認できた。
【0123】
実施例17〜26:VEC(共重合)系高分子固体電解質フィルム
( ビニルエチレンカーボネート(VEC)の合成)
実施例12と同様にしてビニルエチレンカーボネート(VEC)を得、生成物の沸点(106℃/6.5mmHg)、IR、1H−NMRによりその構造を確認した。
【0124】
(ビニルエチレンカーボネート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて上述のビニルエチレンカーボネート(VEC)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表11に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4、PEM9)又は無水マレイン酸(MAL)を使用する以外は実施例4と同様にしてビニルエチレンカーボネートと他のモノマーとの共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCl3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0125】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0126】
【表11】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたVEC共重合体を使用して、実施例12-1と同様に、[Li+]/[VECユニット]=0.5となるようにLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。
【0127】
また、実施例17、19〜22については、[Li+]/[VECユニット]の値を図9及び図10に示すように0.02〜1.0の範囲で所定の値となるように変え、同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例17-2〜17-10 、実施例19-2〜19-11 、実施例20-2〜20-10 、実施例21-2〜21-11 、実施例22-2〜22-10 )。
【0128】
さらに、実施例17及び実施例22については、LiClO4に代えて、図11に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、実施例12-1と同様にして[M+]/[VECユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例17-11 〜17-17 、実施例22-11 〜22-17 )。
【0129】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0130】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率の温度依存性
上記で得られた[Li+]/[VECユニット]=0.5の高分子固体電解質フィルム(実施例17-1、22-1、25)について、イオン導電率を種々の温度で実施例1と同様に測定した。この結果を図8に示す。
【0131】
図8の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムのうち側鎖にカーボネート基を有するものも従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域における導電率が著しく高いことが確認できた。なお、この高分子固体電解質フィルム(12-1)は、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0132】
(ii) イオン導電率と[Li+]/[VECユニット]
[Li+]/[VECユニット]が異なる実施例17-1〜17-11 及び実施例22-1〜22-10 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図9に示す。また、同様に、実施例19〜20の高分子固体電解質フィルムについてもイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図10に示す。
【0133】
図9から明らかなように、LiClO4の添加量が[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合、イオン導電率は、従来のPEO又は他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べると優れているが、比較的低いという傾向がある。なおこの場合、得られる高分子固体電解質フィルムはもろいガラス性となる傾向があり、柔軟性に欠けるものであった。このため、電極と高分子電解質とが十分に接触がとれずに、実際の電極との接触面積が計算上の電極面積よりも小さくなり、結果的にイオン導電率が過少に見積もられた可能性がある。
【0134】
一方、[Li+]/[VECユニット]=0.4〜0.8では導電率は著しく増加する傾向を示し、また得られた高分子固体電解質フィルムは柔軟性に富んだ、良好なフィルムであった。
【0135】
また、[Li+]/[VECユニット]=0.9よりも多くなるとイオン導電率は低下傾向を示した。さらにこの場合、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出により、金属塩と有機高分子とが相溶したものではなく懸濁状態であり、柔軟性および機械的強度が低下していた。
【0136】
したがって、この系では[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.8の範囲とすることが好ましく、特に0.4〜0.7の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0137】
一方、図10に示した実施例は、従来のPEO又は他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べると優れているが、図9に示した実施例に対していずれも最高導電率が低下している。また、PEM4の構成比が大きくなるほど、その最大の導電率を与えるLiClO4濃度は増加すること、含有できる金属塩の濃度が増加することがわかる。なおこの場合、PEM4の構成比が大きくなるほどフィルムの柔軟性も増加していた。
【0138】
この共重合体の場合、VECに共重合させるPEM4、PEM9の構成比が多くなるほど、あるいは側鎖のポリエーテル構造が長くなるほど、フィルム内に相溶できる金属塩の濃度が増加し、さらにフィルムの柔軟性も低濃度領域で確保できる傾向があった。しかしながら、室温近傍における導電率は低下する傾向があった。
【0139】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例17-1、実施例17-11 〜17-17 、実施例22-1、実施例22-11 〜22-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率を求めた。この結果を図11に示した。
【0140】
図11から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25℃)におけるイオン導電率も著しく高い値を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0141】
実施例27:ECMA系高分子固体電解質フィルム
( エチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)の合成)
エポキシメタクリレートに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行なった。次いで、水層を分離し、有機層を水で抽出し、濃縮し、得られたオイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレン- ジオールメタクリレートを得た。これをジクロロメタン200ml中に溶解させ、激しく攪拌しながら3倍当量のトリホスゲン(Cl3CO)2COを少量ずつ加え、その後さらに96時間20℃で攪拌した。次いでエバポレーターで濃縮し、オイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)を得た。得られた生成物はFT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。収率は50%であった。
【0142】
以上のECMA合成スキームを次式に示す。
【0143】
【化25】
(エチレンカーボネートメタクリレート単独重合体(PECMA)の合成)
実施例12のビニルエチレンカーボネート重合体(PVEC)の合成において、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gに代えて上述のエチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)10gを使用する以外は実施例12と同様にしてポリエチレンカーボネートメタクリレート(PECMA)を合成した。この重合体はFT−IR、CDCl3中1H−NMRにより所期の有機高分子であることが確認された。収率は20〜40%であった。
【0144】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の有機高分子を得ることができた。
【0145】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECMA重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、[Li+]/[ECMAユニット]の値が表12に示すように0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例27-1〜27-9)。
【0146】
【表12】
また、LiClO4に代えて、表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、実施例12-1と同様にして[M+]/[ECMAユニット]=0.4(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例27-10 〜27-17 )。
【0147】
【表13】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECMAユニット]
[Li+]/[ECMAユニット]が異なる実施例27-1〜27-9の高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図12に示す。
【0148】
図12から明らかなように、LiClO4の添加量が[Li+]/[ECMAユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合、イオン導電率は、従来のPEO又は他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べると優れているが、比較的低いという傾向がある。なおこの場合、得られる高分子固体電解質フィルムはもろいガラス性となる傾向があり、柔軟性に欠けるものであった。このため、電極と高分子電解質とが十分に接触がとれずに、実際の電極との接触面積が計算上の電極面積よりも小さくなり、結果的にイオン導電率が過少に見積もられた可能性がある。
【0149】
一方、[Li+]/[ECMAユニット]=0.2〜0.6ではイオン導電率は著しく増加する傾向を示し、また得られた高分子固体電解質フィルムは柔軟性に富んだ、良好なフィルムであった。
【0150】
また、[Li+]/[VECユニット]=0.7よりも多くなるとイオン導電率は低下傾向を示した。さらにこの場合、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出により、金属塩と有機高分子とが相溶したものではなく懸濁状態であり、柔軟性および機械的強度が低下していた。
【0151】
したがって、この系では[Li+]/[ECMAユニット]=0.02〜0.8の範囲でとすることが好ましく、特に0.2〜0.6の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0152】
(ii)イオン導電率の温度依存性
上記で得られた[Li+]/[ECMAユニット]=0.4の高分子固体電解質フィルム(実施例27-5)について、イオン導電率を表14に示したように温度10〜60℃で実施例1と同様に測定した。この結果を図13に示す。
【0153】
図13の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムのうち側鎖にカーボネート基を有するこの実施例のフィルムも、従来のPEO及び他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域におけるイオン導電率が著しく高いことが確認できた。また、低温でも比較的高いイオン導電率を得られることがわかった。
【0154】
【表14】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例27-5,27-10〜27-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図14に示した。
【0155】
図14から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0156】
実施例28〜34:ECMA(共重合)系高分子固体電解質フィルム
(エチレンカーボネートメタクリレート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて実施例27で合成したエチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表15に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4、PEM9)、メタクリル酸メチル(MMA)及び無水マレイン酸(MAL)を使用する以外は実施例4と同様にしてエチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)と他のモノマーとの共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCl3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0157】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0158】
【表15】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECMA共重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、実施例27と同様に、[Li+]/[ECMAユニット]の値が0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例28-1〜28-9、実施例29-1〜29-9、実施例30-1〜30-9、実施例31-1〜31-9、32-1〜32-9、実施例33-1〜33-9、実施例34-1〜34-9)。
【0159】
また、ECMAとPEM4(5mol%) からなる共重合体(実施例28)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECMAユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例28-6、 28-10〜28-17 )。
【0160】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200 μm であった。
【0161】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECMAユニット]
ECMAとPEM4からなる共重合体であって、[Li+]/[ECMAユニット]が異なる実施例28-1〜28-9、実施例29-1〜29-9、実施例30-1〜30-9、実施例31-1〜31-9の高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図15に示す。
【0162】
図15から、共重合体のPEM4構成比を増加させると、最高の導電率を与えるLiClO4の濃度が減少し、またその導電率は低下する傾向があるが、塩濃度によるイオン導電率の依存性が小さくなる傾向があることがわかった。なお、PEM4構成比の増加にともなって、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加していた。
【0163】
したがって、この共重合体においては、ECMA構成比を50mol%以上とすることが好ましく、さらに90mol%以上がより好ましいことがわかった。
【0164】
ECMAとPEM9又はMALとからなる共重合体についても、[Li+]/[ECMAユニット]が異なる実施例32-1〜32-9、実施例33-1〜33-9、実施例34-1〜34-9の高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図16に示す。
【0165】
図16から、共重合体のPEM9構成比を増加させると、最高の導電率を与えるLiClO4の濃度が減少し、またその導電率は低下する傾向があるが、塩濃度によるイオン導電率の依存性が小さくなる傾向があることがわかった。なお、PEM9構成比の増加にともなって、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加していた。
【0166】
さらに、ECMAとPEM9からなる共重合体を使用した実施例28〜31のイオン導電率(図15)と比較することにより、共重合させるPEMの側鎖のポリエーテル構造が長くなるほど上述の傾向が大きくなること、また、この系では[Li+]/[ECMAユニット]が0.02〜0.8の範囲が好ましく、さらに0.2〜0.7がより好ましいことがわかった。
【0167】
また、ECMAと無水マレイン酸(MAL)からなる共重合を使用すると、ECMAをPEMと共重合させた系のものに対してイオン導電率が10分の1程度まで低下するが、塩の濃度がかなり高いものであっても有機高分子中に塩が相溶したフィルムが得られ、比較的高いイオン導電率を確保できることがわかった。なお、このフィルムの柔軟性は、ECMAをPEMと共重合させた系のものに対して減少していた。
【0168】
(ii)イオン導電率の温度依存性
上記で得た高分子固体電解質フィルムのうち、表16に示したようにECMAとその他のモノマー5mol%とからなる共重合体(実施例28-6、32-5、34-4)について、イオン導電率を実施例27と同様に温度10〜60℃で測定した。この結果を図17に示す。
【0169】
【表16】
図17の結果を、ECMAの単独重合体である実施例27(27-5)の結果(図13)と比較することにより、ECMAを共重合させることによって高温での導電率は増加するが、低温での導電率は減少すること、すなわち、温度による導電率の変化が大きくなることがわかった。また、この傾向は共重合させたPEMの側鎖ポリエーテル構造が長くなるほど顕著になることがわかった。
【0170】
また、ECMAと無水マレイン酸(MAL)を共重合させたもの(実施例34)は、ECMAを単独重合させたもの(実施例27)及びECMAとPEMとを共重合させたもの(実施例28、34)と比較して、全温度範囲でイオン導電率が低く、その変化が小さいことがわかった。
【0171】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例28-6,28-10〜28-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図18に示した。
【0172】
図18から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することがなく、従来の高分子固体電解質のものと比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0173】
実施例35:ECPEMi(i=4)系高分子固体電解質フィルム
((エチレンカーボネートポリエチレングリコール)メタクリレート(ECPEMi(i=4)の合成)
(エポキシポリエチレングリコール)メタクリレートに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行なった。次いで、水層を分離し、有機層を水で抽出し、濃縮し、得られたオイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレンジオールポリエチレングリコールメタクリレートを得た。これをジクロロメタン200ml中に溶解させ、激しく攪拌しながら3倍当量のトリホスゲン(Cl3CO)2COを少量ずつ加え、その後さらに96時間20℃で攪拌した。次いでエバポレーターで濃縮し、オイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM)を得た。得られた生成物はFT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。収率は50%であった。
【0174】
以上のECPEM合成スキームを次式に示す。
【0175】
【化26】
(( エチレンカーボネートポリエチレングリコール) メタクリレート単独重合体(PECPEM4)の合成)
実施例12のビニルエチレンカーボネート重合体(PVEC)の合成において、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gに代えて上述のエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM4)10gを使用する以外は実施例12と同様にしてエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート重合体を合成した。この重合体はFT−IR、CDCl3中1H−NMRにより所期の有機高分子であることが確認された。収率は20〜40%であった。
【0176】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の有機高分子を得ることができた。
【0177】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECPEM4重合体を使用し、実施例12-1と同様にして、表17に示したようにLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。 こうして得られた高分子固体電解質フィルムは可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μm であった。
【0178】
実施例36及び実施例37
実施例35のECPEMの合成において、対応する(エポキシポリエチレングリコール)メタクリレートを使用する他は実施例35と同様にして、前述した式(7)
【0179】
【化27】
のi=1または9のECPEM1又はECPEM9を合成し、これを使用して高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、表17に示したようにLiClO4の添加量を変えた。
【0180】
【表17】
また、ECPEM4の重合体(実施例35)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECPEMユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例35-10 〜35-17 )。
【0181】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECPEMユニット]
実施例35〜37の高分子固体電解質フィルムのうち、表17に示した[Li+]/[ECPEMユニット]が異なるものについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図19に示す。
【0182】
図19から、LiClO4の添加量が[Li+]/[ECPEMユニット]=0.1以下の低濃度領域、及び0.6以上の高濃度領域では、従来の高分子固体電解質フィルムに比べると優れているが、若干イオン導電率が低いことがわかる。一方、その間の[Li+]/[ECPEMユニット]=0.2〜0.6の濃度領域では著しく高いイオン導電率を示し、0.3〜0.4付近で最大値を示すことがわかる。また、[Li+]/[ECPEMユニット]が0.8よりも高くなると、イオン導電率の低下傾向が大きくなるが、この場合には成膜時にキャスト溶媒を除去して得られたフィルムに金属塩の析出による懸濁がおこり、金属塩と有機高分子が相溶した状態となっておらず、柔軟性および機械的強度も低下していた。
【0183】
したがって、この系では[Li+]/[ECPEMユニット]=0.02〜0.8とすることが好ましく、特に0.2〜0.6とすることが好ましいことがわかった。
【0184】
また、側鎖のポリエーテル構造の繰り返し数(式(7)におけるi)を1、4、9と増加させるとイオン導電率の塩濃度依存が小さくなっていることがわかる。この場合、フィルムの柔軟性も増加していた。また、最大のイオン導電率は、i=4の時に[Li+]/[ECPEMユニット]=0.3付近で示されていることがわかる。これらのことは、カーボネート基よりもポリエーテル基の特性が大きく反映されたことによると考えられ、i=4付近で双方の官能基の特性が最も発揮されたものと考えられる。
【0185】
(ii)イオン導電率の温度依存性
実施例35〜37で得られた高分子固体電解質フィルムのうち、[Li+]/[ECPEMユニット]=0.4のもの(実施例35-5、36-5、37-5)について、イオン導電率を表18に示したように温度10〜60℃で実施例1と同様に測定した。この結果を図20に示す。
【0186】
図20の結果から、本発明の高分子固体電解質は、従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩とからなる高分子固体電解質に比べて、室温近傍における温度領域で、著しく高いイオン導電率を示すことがわかった。また、低温でも比較的高いイオン導電率を確保できることがわかった。
【0187】
また、式(7)のiが1、4、9となり側鎖のポリエーテル構造の繰り返し数が大きくなるほど、イオン導電率の温度依存性が大きくなることがわかった。
【0188】
【表18】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
ECPEM4重合体を使用した実施例35のうち、アルカリ金属塩の種類が異なる実施例35-4,35-10〜35-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図21に示した。
【0189】
図21から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0190】
実施例38〜49:ECPEMi(共重合)系高分子固体電解質フィルム
(エチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて実施例35〜37で合成したエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM4、ECPEM1又はECPEM9)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表19〜21に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4、PEM9)、メタクリル酸メチル(MMA)及び無水マレイン酸(MAL)を使用する以外は実施例4と同様にしてエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM)と他のモノマーとの共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCl3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0191】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0192】
【表19】
【0193】
【表20】
【0194】
【表21】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECPEM共重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、実施例35と同様に、[Li+]/[ECMAユニット]の値が0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例38-1〜38-9、実施例39-1〜39-9、実施例40-1〜40-9、実施例41-1〜41-9、42-1〜42-9、実施例43-1〜43-9、実施例44-1〜44-9、実施例45-1〜45-9、実施例46-1〜46-9、47-1〜47-9、実施例48-1〜48-9、実施例49-1〜49-9)。
【0195】
また、表20に示すようにECPEM4とPEM4(5mol%) からなる共重合体(実施例42)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECPEMユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例42-4、 42-10〜42-17 )。
【0196】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0197】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECPEMユニット]
表19に示した、ECPEM1とPEM4からなる共重合体であって、[Li+]/[ECPEMユニット]が異なる高分子固体電解質フィルム(実施例38-1〜38-9、実施例39-1〜39-9、実施例40-1〜40-9、実施例41-1〜41-9)について、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図22に示す。
【0198】
また、同様に、表20及び表21に示したECPEM4又はECPEM9の共重合体についても、[Li+]/[ECPEMユニット]が異なる高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図23及び図24に示す。
【0199】
図22〜図24から、ECPEMに側鎖にポリエーテル構造を有するPEM系モノマー(PEM4、PEM9)を共重合させると、最適塩濃度における最高イオン導電率が同程度に保持されるか、あるいは若干低下し、また塩濃度によるイオン導電率の依存性が小さくなる傾向のあることがわかった。なおこの場合、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加していた。
【0200】
これに対して、MMAあるいはMALを共重合させると、PEM系モノマーを共重合させた場合よりもイオン導電率は10分の1程度まで低下し、またフィルムの柔軟性も低下していた。しかし、MMAを共重合させると、フィルムの吸湿性は低下していた。
【0201】
(ii)イオン導電率の温度依存性
上記で得た高分子固体電解質フィルムのうち、表22に示したようにECPEM1、ECPEM4又はECPEM9とPEM4(5mol%)とからなる共重合体(実施例38-6、42-4、46-4)について、イオン導電率を実施例35〜37と同様に温度10〜60℃で測定した。この結果を図25に示す。
【0202】
【表22】
図25の結果を、ECPEM1、ECPEM4又はECPEM9の単独重合体である実施例36〜37の結果(図19)と比較することにより、ECPEMを共重合させることによって高温での導電率は増加するが、低温での導電率は減少すること、すなわち、温度による導電率の変化が大きくなることがわかった。また、この傾向は共重合させたPEMの側鎖ポリエーテル構造が長くなるほど顕著になることがわかった。
【0203】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
ECPEM4とPEM4(5mol%)を共重合させた実施例42の高分子固体電解質フィルムのうち、[M+]/[ECPEMユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)であってアルカリ金属塩の種類が異なるもの(実施例42-4,42-10〜42-17 )について、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図26に示した。
【0204】
図26から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することがなく、従来の高分子固体電解質のものと比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0205】
実施例50:EChPEMi系高分子固体電解質フィルム
((ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EChPEMi:h=2、i=4)の合成)
(ポリエポキシポリエチレングリコール)メタクリレートに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行なった。次いで、水層を分離し、有機層を水で抽出し、濃縮し、得られたオイル状の残留物を減圧下で蒸留しエポキシが開環したジオール体を得た。これをジクロロメタン200ml中に溶解させ、激しく攪拌しながら3倍当量のトリホスゲン(Cl3CO)2COを少量ずつ加え、その後さらに96時間20℃で攪拌した。次いでエバポレーターで濃縮し、オイル状の残留物を減圧下で蒸留し、前述した式(9)
【0206】
【化28】
でg=1、h=2、i=4の(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EC2PEM4)を得た。得られた生成物はFT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。収率は50%であった。
【0207】
以上のEC2PEM4合成スキームを次式に示す。
【0208】
【化29】
(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート単独重合体(PEChPEMi:h=2、i=4)の合成)
実施例12のビニルエチレンカーボネート重合体(PVEC)の合成において、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gに代えて上述のポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコールメタクリレート(EC2PEM4)10gを使用する以外は実施例12と同様にして( (ポリエチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート重合体を合成した。この重合体はFT−IR、CDCl3中1H−NMRにより所期の有機高分子であることが確認された。収率は20〜40%であった。
【0209】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の有機高分子を得ることができた。
【0210】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたEC2PEM4重合体を使用し、エチレンカーボネート基に対するLi塩のモル比([Li+]/[ECユニット])が表23に示したようになるようにLiClO4を添加し、実施例12-1と同様にして、高分子固体電解質フィルムを作成した。
【0211】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムは可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0212】
実施例51及び実施例52
実施例50のEChPEMiの合成において、対応する(ポリエポキシポリエチレングリコール)メタクリレートを使用する他は実施例50と同様にして、前述した式(9)でg=1、h=4、i=4のEC4PEM4、及びh=3、i=9のEC3PEM9を合成し、これを使用して高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、表23に示したようにLiClO4の添加量を変えた。
【0213】
【表23】
また、EC4PEM4の重合体(実施例51について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECユニット]=0.4(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例51-10 〜51-17 )。
【0214】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECユニット]
実施例50〜52の高分子固体電解質フィルムのうち、表23に示した[Li+]/[ECユニット]が異なるものについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図27に示す。
【0215】
図27から、LiClO4の添加量が[Li+]/[ECユニット]=0.2〜0.6の領域で著しくイオン導電率が高いことがわかる。この領域ではフィルムの柔軟性も優れていた。一方、[Li+]/[ECユニット]が0.2よりも小さい低濃度領域ではイオン導電率が低く、フィルムのガラス性も増大していた。また、0.8以上の高濃度領域では、従来の高分子固体電解質フィルムに比べると優れているが、イオン導電率が低下していることがわかる。さらにこの高濃度領域では、成膜時にキャスト溶媒を除去して得られたフィルムに金属塩の析出による懸濁がおこり、金属塩と有機高分子が相溶した状態となっておらず、柔軟性および機械的強度も低下していた。
【0216】
したがって、この系では[Li+]/[ECユニット]=0.02〜0.8とすることが好ましく、特に0.2〜0.6とすることが好ましいことがわかった。
【0217】
また、側鎖のポリエーテル構造に対するポリカーボネート構造の構成比を増加させると、(1) 最高導電率の値が増加し、これを与える最適LiClO4濃度が高くなり、(2) 導電率の塩濃度による依存性が大きくなり、(3) LiClO4の低濃度領域においてフィルムのガラス性が増大する傾向が見られた。
【0218】
(ii)イオン導電率の温度依存性
実施例50〜52で得られた高分子固体電解質フィルムのうち、[Li+]/[ECPEMユニット]=0.4のもの(実施例50-5、51-5、52-5)について、イオン導電率を表24に示したように温度10〜60℃で実施例1と同様に測定した。この結果を図28に示す。
【0219】
図28の結果から、本発明の高分子固体電解質は、従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩とからなる高分子固体電解質に比べて、室温近傍における温度領域で、著しく高いイオン導電率を示すことがわかった。また、低温でも比較的高いイオン導電率を確保できることがわかった。
【0220】
【表24】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
EC4PEM4重合体を使用した実施例51のうち、アルカリ金属塩の種類が異なる実施例51-5,51-10〜51-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図29に示した。
【0221】
図29から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25℃)におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0222】
実施例53〜56:EChPEMi(共重合)系高分子固体電解質フィルム
((ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて実施例51で合成した(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EC4PEM4)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表25に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4)を使用する以外は実施例4と同様にして(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EC4PEM4)とPEM4との共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCL3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0223】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0224】
【表25】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたEC4PEM4共重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、実施例50と同様に、[Li+]/[ECMAユニット]の値が0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例53-1、54-1〜54-9、実施例55-1〜55-9、実施例56-1〜56-9)。
【0225】
また、上記で得られた共重合体のうち、EC4PEM4とPEM4(5mol%) からなる共重合体(実施例53)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例53-2〜53-9)。
【0226】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0227】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECユニット]
表25に示した、EC4PEM4共重合体であって、[Li+]/[ECユニット]が異なる高分子固体電解質フィルム(実施例54-1〜54-9、実施例55-1〜55-9、実施例56-1〜56-9)について、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図30に示す。
【0228】
図30から、この共重合体系の高分子固体電解質は、EC4PEM4に共重合させるPEM4の比率を高めると、(1) EC4PEM4の単独重合体(実施例51)に比べて最高イオン導電率の値が減少すること、(2) 最高導電率を与える塩濃度が減少すること、(3) イオン導電率の塩濃度依存性が小さくなることがわかる。また、(4) LiClO4の低濃度領域で高分子固体電解質フィルムの柔軟性が増加していた。
【0229】
(ii)イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
EC4PEM4とPEM4(5mol%)を共重合させた実施例53の高分子固体電解質フィルムのうち、[M+]/[ECユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)であってアルカリ金属塩の種類が異なるもの(実施例53-1〜53-9)について、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図31に示した。
【0230】
図31から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することがなく、従来の高分子固体電解質のものと比較して、室温(25℃)におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0231】
【発明の効果】
この発明によれば、従来の高分子固体電解質と比較して、室温付近でも高いイオン導電性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、可撓性もしくは柔軟性にも優れた高分子固体電解質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高分子固体電解質フィルム(VC共重合体)における、[Li+]/[モノマーユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図2】高分子固体電解質フィルム(VC共重合体)における、[Li+]/[モノマーユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図3】高分子固体電解質フィルム(VC共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図4】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図5】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、[Li+]/[VECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図6】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図7】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、平均分子量と導電率との関係図である。
【図8】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図9】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、[Li+]/[VECユニット]の比率アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図10】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、[Li+]/[VECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図11】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図12】高分子固体電解質フィルム(ECMA単独重合体)における、[Li+]/[ECMAユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図13】高分子固体電解質フィルム(ECMA単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図14】高分子固体電解質フィルム(ECMA単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図15】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、[Li+]/[ECMAユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図16】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、[Li+]/[ECMAユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図17】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図18】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図19】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi単独重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図20】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図21】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図22】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図23】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図24】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図25】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図26】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図27】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi単独重合体)における、[Li+]/[ECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図28】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図29】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図30】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図31】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【産業上の利用分野】
本発明はイオン導電性の高分子固体電解質に関する。さらに詳しくは、本発明はリチウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオン系の導電性キャリアを含有することにより高いイオン導電性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、可撓性もしくは柔軟性にも優れた高分子固体電解質に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体電解質を用いて全固体系の電池を構成した場合、従来型電池の問題点の一つである電池内の内容物の漏液がなくなり、電池の安全性および信頼性が向上する。また、電池の薄型化、積層化も可能になる。そのため、固体電解質は、電池やその他の電気化学的デバイス材料として注目されている。
【0003】
ところで、固体電解質として要求される特性としては、一般的に(a)イオン導電性が高く、電子導電性がないこと、(b)薄く成形できるように成膜性が優れていること、(c)可撓性に優れていること、等が挙げられる。
【0004】
また、固体電解質の種類としては、無機材料からなるものと有機材料からなるものとの大きく二種類に分けられる。このうち無機材料からなる固体電解質は比較的イオン導電性は高いが、結晶体であるために機械的強度が乏しく、可撓性を有する膜に加工することが困難であり、そのためにデバイスに応用する場合には著しく不利となっている。
【0005】
これに対して、有機高分子からなる高分子固体電解質は可撓性を有する薄膜に成膜することが可能であり、また成形した薄膜には高分子固有の可撓性により優れた機械的性質を付与することが可能となる。そのため、高分子固体電解質から成る薄膜は、電極−高分子固体電解質間のイオン電子交換反応過程で生じる体積変化にも柔軟に適応させることも可能となる。このような理由から、高分子固体電解質は高エネルギー密度電池、特に薄型電池の固体電解質材料として有望視されている。
【0006】
このような高分子固体電解質としては、ポリエーテル構造を有するポリエチレンオキサイド[(−CH2CH2O−)n:以下PEOと略す]とLi塩やNa塩等のアルカリ金属塩との複合体が高いアルカリ金属イオン導電性を示すことが知られており、この複合体をはじめとして種々の高分子固体電解質でのイオン導電機構や分子構造等の理論研究、あるいは電池等の電気化学デバイスへの応用研究が活発に進められている。
【0007】
ところで、高分子固体電解質におけるイオン導電は、高分子マトリックス中のアルカリ金属イオンが高分子マトリックス中の無定形部分において選択的にイオン化し、高分子中の配位性原子と相互作用しながらマトリックス内を電界に沿って拡散移動することによって達成されると考えられている。例えば、PEOとアルカリ金属塩からなる複合体膜においては、アルカリ金属イオンがPEO主鎖中の誘電率の高いエーテル結合部の酸素と相互作用しながら、熱による分子鎖のセグメント運動によってイオン導電すると考えられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高分子固体電解質は、一般的に無機材料からなる固体電解質に比べて室温近傍でのイオン導電率が小さいという問題点を有している。また、イオン導電率を向上させようとすると、逆に成膜性や可撓性が低下するという問題点を有している。
【0009】
例えば、PEOとアルカリ金属塩との複合体膜の場合、その構成有機高分子の分子量が10000程度のときは、成膜性に優れ、イオン導電率も100℃以上では10−3〜10−4Scm−1程度の比較的高い値を有する。しかし、この複合体膜は結晶性であるために60℃以下の温度では急激に導電率は低下し、室温では、10−7Scm−1程度以下という非常に低い値を示す。このため、室温を使用温度領域とする通常の電池の材料として組み入れることが不可能となってくる。そこで、式(i )
【0010】
【化11】
(式中、nは任意の整数である)
に示すようにPEOの末端水酸基にジイソシアネートを反応させてウレタン架橋を形成させたり、あるいはエステル架橋を形成させることによって複合体膜の結晶性を抑制させる試みがなされている。この架橋構造は無定形高分子のイオン導電率を大きく低下させることなく機械的特性を向上させるための手段として非常に有効である。しかしながら、このような手段でも十分な成果を得られるには至っていない。
【0011】
一方、複合体膜を構成する有機高分子であるPEOの分子量を10000以下にすることによって室温近傍でのイオン導電率を向上させることができるが、この場合には成膜性が著しく低下し、フィルム化が困難となる。
【0012】
また、イオン導電率を向上させるためにアルカリ金属塩の含有濃度を高くした場合には、複合体膜のガラス転移点Tgも上昇してしまい、そのためにイオン導電性が低下してしまう。このようにキャリア体の密度の増加と導電率の増加を同時に達成することはできない。
【0013】
他の高分子固体電解質の例としては、上述のPEOとアルカリ金属塩とから構成される複合体の類似化合物で、式(ii)
【0014】
【化12】
(式中、m及びnはそれぞれ任意の整数である)
で表されるように、側鎖にPEO構造を有するアクリル系又はメタクリル系の有機高分子が知られている。また、式(iii )
【0015】
【化13】
(式中、m及びnはそれぞれ任意の整数である)
で表されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖が -(-P=N-)m- からなるポリホスファゼン系の有機高分子や、式(iv)
【0016】
【化14】
(式中、m及びnはそれぞれ任意の整数である)
で表されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖が -(-SiO-)m- からなるシロキサン系の有機高分子が知られている。これらの有機高分子とアルカリ金属塩からなる高分子固体電解質のイオン導電率は〜10−5Scm−1程度であり、PEOとアルカリ金属塩からなる複合体膜に比べてやや改善されているが、実用上はまだ不十分であり、また、成膜性や可撓性も十分なものとはなっていない。
【0017】
本発明はこのような従来技術の課題を解決しようとするものであり、室温付近でも高いイオン導電性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、可撓性もしくは柔軟性にも優れた高分子固体電解質を得ることを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、カーボネート基を官能基として有する有機高分子が、キャリアイオンと適度な相互作用する官能基を含むために、従来に比べ高密度でキャリアイオンと複合体を形成することができ、更に低温状態でも結晶化しにくく、そのため無定形状態を保持することによる十分なセグメント運動を確保することができ、かつ電子伝導が生じることがないという特性を有することを知見した。そして、このカーボネート基を官能基として有する有機高分子を、高分子固体電解質を構成する有機高分子として使用することにより、上述の目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
即ち、本発明は、カーボネート基を官能基として有する有機高分子とアルカリ金属塩とを含有してなることを特徴とする高分子固体電解質を提供する。
【0021】
本発明において使用する有機高分子としては、主鎖あるいは側鎖にカーボネート基を官能基として有する高分子の中から適宜選択して使用することができる。主鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、例えば、次式(1)
【0022】
【化15】
(式中、R1 及びR2 は独立的に水素又は低級アルキルであり、nは任意の整数である)
で表される、ビニレンカーボネート系モノマーの単独重合体であるポリビニレンカーボネート(PVC)を使用することができる。ここで式(1)における置換基R1 及びR2 の低級アルキルとしては、炭素数1〜3の低級アルキルが好ましい。また低級アルキルは直鎖状でも分岐状でもよい。
【0023】
式(1)の有機高分子の平均分子量は、重合させたビニレンカーボネート系モノマーの種類により異なるが、平均分子量が低すぎると固体とならず、成膜性が低下してフィルム化しにくくなり、また高すぎても溶媒に溶けにくくなってフィルム化しにくくなり、更に可撓性が低下するので、好ましくは3×103〜5×105の範囲とする。
【0024】
また、本発明においては式(1)で表される有機高分子の物理的性質や化学的性質を更に改善させる目的で、例えば、高分子固体電解質の可撓性を更に改善し、金属塩濃度を更に増加できるようにする目的で、ビニレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットを式(1)の有機高分子に導入することができる。このような共重合体としては、例えば、式(2)
【0025】
【化16】
(式中、R1 及びR2 は独立的に水素又は低級アルキルであり、m及びnは独立的に任意の整数であり、Xはビニレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
で表される、ビニレンカーボネート系モノマーとそれと共重合可能なモノマーとの共重合体を使用することができる。ここで、式中のXとしては、ビニル系モノマーユニットであることが好ましい。このようなビニル系モノマーユニットを構成するビニル系モノマーとしては、一種類のモノマーを使用してもよいが、2種類以上のモノマーを併用してもよい。このようなビニル系モノマーの具体例としては、例えば、CH2=CHCOOH、CH2=CHCOOM(ここでMは金属イオンである)、CH2=CHCOOR(ここでRはアルキル基である)、CH2=CHCOO(CH2CH2O)nCH3(ここでnは1〜23の整数である)などのアクリル系モノマー、CH2=CCH3COOH、CH2=CCH3COOM(ここでMは金属イオンである)、CH2=CCH3COOR(ここでRはアルキル基である)、CH2=CCH3COO(CH2CH2O)nCH3(ここでnは1〜23の整数である)などのメタクリル系モノマー、CH2=C[COO(CH2CH2O)nCH3]2(ここでnは1〜23の整数である)、CH2=CH(C6H5)、CH2=CHCN、CH2=CHCONH2、ビニルピロリドンなどを好ましく例示することができる。
【0026】
式(2)の有機高分子は、有機高分子の物理的及び化学的性質をコントロールするために、ビニレンカーボネート系モノマーユニットに加えて一種以上の他のモノマーユニットを含有させたものであるが、この場合の物理的及び化学的性質のコントロール方法としては、これらのモノマーユニットの構成比を変えることにより各モノマーユニットの特性を所望の程度で発現させればよい。例えば、ビニレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(2)の有機高分子中に占めるビニレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。ビニレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0027】
式(1)又は式(2)の有機高分子のように、主鎖にカーボネート基を官能基として有する有機高分子は、ビニレンカーボネート系モノマーと、必要に応じて他の一種以上のモノマーとを、常法、例えばラジカル重合法や光重合法などにより重合させることにより容易に得ることができる。
【0028】
一方、本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、例えば、次式(3)
【0029】
【化17】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、jは0〜3の整数であり、kは任意の整数である)
で表される、エチレンカーボネート系モノマーの単独重合体(ポリビニルエチレンカーボネート:PVEC)を使用することができる。ここで、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。また、式(3)においてj=0とし、エチレンカーボネート基が直接主鎖に結合するようにしてもよく、あるいはj=1〜3とし、エチレンカーボネート基が低級アルキルを介して主鎖に結合するようにしてもよい。
【0030】
式(3)の有機高分子の平均分子量は、そのモノマーユニットの構造により異なるが、平均分子量が低すぎると固体とならずに成膜性が低下し、また高すぎると溶媒に溶け難くなり、さらに柔軟性も低下するので、通常は5×102〜5×105の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
式(3)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、ビニルエエチレンカーボネートをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0032】
本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、上述の次式(3)の有機高分子にその構成モノマーと共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体も使用することができる。
【0033】
このような共重合体としては、例えば、次式(4)
【0034】
【化18】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、jは0〜3の整数であり、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)で表される有機高分子を使用することができる。
【0035】
ここで、Xは、式(3)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(4)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(4)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0036】
式(4)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、エチレンカーボネート系モノマーと、その他のモノマーとを、例えばラジカル重合法や光重合法などにより共重合させることにより容易に得ることができる。
【0037】
本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、例えば、次式(5)
【0038】
【化19】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、kは任意の整数である)
で表される、側鎖のエステル構造の末端にエチレンカーボネートがついているエチレンカーボネート系モノマーの単独重合体も使用することができる。また、このような有機高分子に共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体である次式(6)
【0039】
【化20】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
の有機高分子も使用することができる。
【0040】
この式(5)及び式(6)の有機高分子において、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。また、式(6)の有機高分子において、Xは、式(5)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(6)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(6)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0041】
式(5)及び式(6)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、エチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)等のエチレンカーボネート系モノマー、あるいはそれと他のモノマーとをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0042】
本発明が使用する有機高分子のうち側鎖にカーボネート基を有する有機高分子としては、同一側鎖中にカーボネート基とエーテル基とを有するものも使用することができ、例えば、次式(7)
【0043】
【化21】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、i及びkは独立的に任意の整数である)
で表される、側鎖のポリエーテル構造R4 の末端にエチレンカーボネートがついているエチレンカーボネート系モノマーの単独重合体も使用することができる。また、このような有機高分子に共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体である次式(8)
【0044】
【化22】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、i、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
の有機高分子も使用することができる。
【0045】
この式(7)及び式(8)の有機高分子において、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。R4 は、−CH2O−、−CH2CH2O−、−CH2CH2CH2O−等の直鎖状エーテル基、又は−CH(CH3)O−、−CH(CH3)CH2O−、−CH(CH3)CH2CH2O−等の分岐状エーテル基のいずれとすることもできる。また、式(8)の有機高分子において、Xは、式(7)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(8)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(8)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0046】
式(7)及び式(8)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、エチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEMi )等のエチレンカーボネート系モノマー、あるいはそれと他のモノマーとをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0047】
本発明が使用する有機高分子のうち、同一側鎖中にカーボネート基とエーテル基とを有するものとしては、例えば、次式(9)
【0048】
【化23】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、g1 〜gx 、h1 〜hx 、i1 〜ix 及びkは独立的に任意の整数である)
で表される、エーテル構造とカーボネート構造とがそれぞれ任意の繰り返し数で繰り返されたブロックが複数結合している側鎖を有するエチレンカーボネート系モノマーの単独重合体も使用することができる。この場合、この側鎖の末端はエーテル構造でもカーボネート構造でもよい。
【0049】
また、このような有機高分子に共重合可能な他のモノマーユニットを導入した共重合体である次式(10)
【0050】
【化24】
(式中、R1 、R2 及びR3 は独立的に水素又は置換もしくは非置換のアルキルであり、R4 は直鎖状又は分岐状のエーテル基であり、g1 〜gx 、h1 〜hx 、i1 〜ix 、k及びmは独立的に任意の整数であり、Xはエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーからなるモノマーユニットである)
の有機高分子も使用することができる。
【0051】
この式(9)及び式(10)の有機高分子において、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ水素又は置換もしくは非置換のアルキル基とすることができるが、このアルキル基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボン酸基、水酸基等を有することができる。R4 は、−CH2O−、−CH2CH2O−、−CH2CH2CH2O−等の直鎖状エーテル基、又は−CH(CH3)O−、−CH(CH3)CH2O−、−CH(CH3)CH2CH2O−等の分岐状エーテル基のいずれとすることもできる。また、式(10)の有機高分子において、Xは、式(9)のエチレンカーボネート系モノマーと共重合可能なモノマーユニットから構成されるが、このようなモノマーユニットとしては前述の式(2)の共重合体と同様の種々のビニル系モノマーをあげることができる。また、各モノマーユニットの構成比も式(2)の共重合体と同様に、所望の物理的及び化学的性質にしたがい、各モノマーユニットの特性の発現させるべき程度に応じて定める。例えばこの式(10)の共重合体においても、エチレンカーボネート系モノマーユニット以外のモノマーとして、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には、有機高分子の結晶性が低下し、逆に可撓性が増し、その結果、高分子固体電解質に好ましい成膜性を付与することができる。また、高分子固体電解質中に含有させることのできる金属塩濃度、即ちキャリアイオン濃度を増大させることができる。ただし、通常、式(10)の共重合体の中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは90モル%以上とする。エチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が50モル%を下回るとイオン導電性が大きく低下し、また、有機溶剤に溶解しにくくなり、成膜性が低下する。
【0052】
式(9)及び式(10)の有機高分子の製造方法は常法によることができ、例えば、ポリエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECh PEMi )等のエチレンカーボネート系モノマー、あるいはそれと他のモノマーとをラジカル重合法、光重合法等で重合させることにより容易に得ることができる。
【0053】
また、本発明において使用するカーボネート基を官能基として有する有機高分子、例えば、上述の式(1)〜式(9)の有機高分子を単独で用いるだけでなく、それと相溶性を有する他の高分子をブレンドすることにより得られるポリマーブレンドも使用することもできる。このような他の高分子としては、PEOや式(ii)〜(iv)で表される高分子を使用することができる。ブレンドの割合としては、必要とする電導度などに応じて適宜選択することができる。
【0054】
本発明における高分子固体電解質を構成する金属塩としては、従来の高分子固体電解質に用いられているものを使用することが可能であり、例えばリチウム塩ではLiBr、LiI、LiSCN、LiBF4、LiAsF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiPF6、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などが挙げられる。また、これらのリチウム塩のアニオンと、リチウム以外のアルカリ金属、例えばカリウム、ナトリウムなどとの塩を使用することもできる。この場合、塩としては複数の塩を同時に使用してもよい。
【0055】
高分子固体電解質を構成する金属塩と有機高分子との比率は、使用する金属塩や有機高分子の種類などにより異なり、この比が低すぎると導電率が低下し、高すぎると成膜性が低下する。
【0056】
例えば、有機高分子として式(1)又は式(2)のように直鎖にカーボネート基を有する有機高分子を使用する場合、その有機高分子の全構成モノマー単位(即ち、有機高分子中のカーボネート基)当たりの金属塩の分子比(モル比)を、[金属塩分子]/[モノマーユニット]で表した場合に、この値を、式(1)の有機高分子では0.4〜0.8、式(2)の有機高分子では0.1〜0.8の範囲とすることが好ましい。また、式(3)のように側鎖にカーボネート基を有する有機高分子を使用する場合、[金属塩分子]/[モノマーユニット]を0.4〜0.7とすることが好ましく、式(3)の有機高分子にその構成モノマーと共重合可能な他のモノマーユニットを導入した式(4)の共重合体では[金属塩分子]/[モノマーユニット]を0.4〜0.9とすることが好ましい。また、式(9)及び式(10)のようにエーテル構造とカーボネート構造が繰り返し結合している側鎖を有するものは、[金属塩分子]/[エチレンカーボネート基]を0.2〜0.7とすることが好ましい。
【0057】
本発明の高分子固体電解質は、常法により製造することができるが、好ましくは、以上のような有機高分子と金属塩とを、溶媒に均一に溶解させることにより得られる。一般に、本発明の高分子固体電解質は膜の形態で使用するが、成膜する方法は常法によることができる。例えば、キャスト溶媒に有機高分子と金属塩とを溶解し、この溶液を平坦な基板に広げ、溶媒を蒸発させることにより複合体フィルムを得るというキャスト法により成膜することができる。この場合、キャスト溶媒としては、種々の極性溶媒、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラハイドロフラン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどを使用することができるが、中でも、ジメチルホルムアミドをキャスト溶媒として使用することが、高い導電率が得られるので好ましい。
【0058】
【作用】
本発明の高分子固体電解質は、カーボネート基を官能基として有する有機高分子を含有するので、キャリアイオンとなる金属塩を高濃度で電解質中に含有することが可能となる。また、成膜性の低下やガラス転位温度Tgの上昇にともなう導電率の急激な低下を防止することも可能となる。従って、高イオン導電性と良好な成膜性および可撓性を同時に実現することが可能となる。
【0059】
以下、本発明を実施例に基いて具体的に説明する。なお、実施例27〜49は、本発明で使用するカーボネート基を有する有機高分子ではないが、それに類似する有機高分子であって、式(5)、(6)、(7)又は(8)で表されるものを使用した参考例である。
【0060】
実施例1:ビニレンカーボネート系高分子固体電解質フィルム
(ビニレンカーボネートモノマー(VC)の単独重合体の合成)
約20ml用の封管用ガラス性アンプル中に、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)で還留処理することにより精製したビニレンカーボネート(VC)10mlと、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)4mgとを加えた。このアンプルを窒素置換装置につなぎ、内容物をドライアイス−メタノール浴で冷却固化した後、高真空下で脱気、窒素導入、融解の操作を三回繰り返し、最後に高真空下で封管した。
【0061】
このアンプルを60℃に設定した振盪式恒温槽中で24時間重合反応させた。この重合反応の間、反応液の粘度は増加し全体が固化した。
【0062】
反応物を室温まで冷却後、アンプルを開封し、得られた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れた。これにより、白色の繊維状の固体が得られた。この固体を濾別し、メタノールで十分に洗浄した。得られた白色の固体をDMF−メタノール混合溶媒を用いて再沈操作を2〜3回繰り返し行うことにより精製し、生成ポリマーを減圧下において乾燥させた。その結果、30〜40%の収率で所期の有機高分子を得た。
【0063】
この有機高分子はCDCl3中で1H−NMRによりポリビニレンカーボネートであることが同定できた。また、この有機高分子の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、その結果5×103〜1×105程度であった。
【0064】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られた有機高分子を、十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一な溶液とし、さらに撹拌しながらLiClO4を有機高分子の全構成モノマーに対して、[Li+]/[VC ユニット]=0.5となるように加え、更に完全に溶解するまでしばらく撹拌を続けた。その後、孔径0.45μmのフィルターを通過させて不溶物を除去した。得られた溶液を、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、60℃に設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、さらに真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させることにより高分子固体電解質フィルムを得た(実施例1-1 )。
【0065】
また、[Li+]/[VC ユニット]の値を表2に示すように0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように変え、同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例1-2 〜1-10)。
【0066】
さらに、キャスト溶媒としてDMFの代わりにNMP(N−メチル−ピロリドン)またはTHF(テトラヒドロフラン)を使用し、実施例1-1 と同様にして高分子電解質フィルムを作成した(実施例1-11〜1-12)。
【0067】
さらにまた、LiClO4の代わりに表4に示したようなリチウム塩およびナトリウム塩等のアルカリ金属塩を使用し、実施例1-1 と同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例1-13〜1-19)。
【0068】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムは、いずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0069】
(イオン導電率の評価)
高分子固体電解質フィルムのイオン導電率を次のように測定し評価した。即ち、高分子固体電解質フィルムを白金電極またはリチウム金属電極で挾み、電極/フィルム/電極の各接触が十分に保たれるように圧着し、定電圧複素インピーダンス法により得られた半円弧部から解析的にイオン導電率を算出した。なお、これらの測定は温度可変式の恒温装置の中に評価セルを入れ、所定の温度で約1時間保持して定常状態となった後に行った。この場合、得られる複数個の疑似半円弧成分の電極を白金、リチウム金属と変え、また、それらの電極面積を変えることにより高分子固体電解質中のイオン導電に寄与する抵抗部を帰属した。このとき測定で用いた交流振幅電圧を30〜100mVに設定し、交流の周波数帯域を10−2〜107Hzで行った。
【0070】
(i) イオン導電率の温度依存性
上述のようなイオン導電率の評価を、実施例1-1 の高分子固体電解質フィルムについて、表1に示した種々の温度で行った。得られた結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
表1の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムは、従来のPEOもしくは他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域における導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度及び可撓性も十分なものであった。
【0072】
(ii)イオン導電率と[Li+]/[VC ユニット]
また、[Li+]/[VC ユニット]の値が異なる実施例1-2 〜1-10の高分子固体電解質フィルムについて、イオン導電率(25℃)を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
表2から明らかなように、これらの実施例の高分子固体電解質は、LiClO4の添加量が[Li+]/[VC ユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合には導電率が低いという傾向がある。また、得られる高分子固体電解質フィルムがもろいガラス性となる傾向があり、可撓性に欠けるものであった。
【0074】
しかし、[Li+]/[VC ユニット]=0.4〜0.6では導電率は著しく増加し、得られる高分子固体電解質フィルムは可撓性に富むものとなった。
【0075】
更に、LiClO4の添加量が、[Li+]/[VC ユニット]=0.8よりも多くなるとキャスト溶媒を完全に除去することにより得られたフィルムは懸濁してしまい、金属塩と有機高分子が相溶したものが得られなかった。このように懸濁した状態のフィルムは、導電率が低下してしまうだけではなく、引っ張りに対する機械的強度が著しく低下していた。したがって、これらの実施例の高分子固体電解質の系では[Li+]/[VC ユニット]が0.02〜0.8が好ましく、特に0.4〜0.6の範囲が好ましいことがわかった。
【0076】
(iii) イオン導電率とキャスト溶媒
キャスト溶媒を変えた実施例1-11及び1-12の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率を求めた。この結果を表3に示す。なお、参考のために実施例1-1 の高分子固体電解質フィルムの結果も併せて表3に示した。
【0077】
【表3】
表3から、キャスト溶媒として特にDMFを用いることが好ましいことがわかった。
【0078】
(iv)イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類を変えた実施例1-13〜1-19の高分子固体電解質フィルムについて、同様にそのイオン導電率を求めた。この結果を表4に示す。なお、参考のため、実施例1-1 の結果も併せて表4に示した。
【0079】
【表4】
表4から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比べ、室温においても著しく高い導電性を示した。また、これらの実施例では、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0080】
実施例2及び実施例3
実施例1に示したVCの重合反応の際、表5に示すように重合開始剤であるAlBNの添加量と重合温度とを変化させた以外は実施例1-1 と同様に高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、LiClO4は、[Li+]/[VC ユニット]=0.5となるように添加した。
【0081】
得られた高分子固体電解質フィルムについて実施例1と同様に導電率を求め、更に平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により計測した。それらの結果を表5に示す。なお、参考のために実施例1-1 の高分子固体電解質フィルムの結果も併せて表5に示した。
【0082】
【表5】
表5から、これらの実施例の系ではポリビニレンカーボネートの平均分子量は小さいほど導電率は増加する傾向があることがわかった。しかし、小さくなると成膜性が低下し、フィルム化が困難となる傾向があるため、平均分子量としては約1×104前後のものが好ましいことがわかった。また、重合温度やAIBNの添加量を変化させることにより有機高分子の平均分子量が制御可能であることも確認できた。
【0083】
実施例4〜11:ビニレンカーボネート(共重合)系高分子固体電解質フィルム
(ビニレンカーボネート(VC)共重合体の合成)
約20ml用の封管用ガラス性アンプル中に、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)で還留処理することにより精製したビニレンカーボネート(VC)10mlと、ポリエーテル構造を側鎖として有するメタクリレート系モノマーとしてメトキシポリエチレングリコールメタクリレート[CH2=CCH3COO(CH2CH2O)4CH3(以下、PEM4と略す)、CH2=CCH3COO(CH2CH2O)9CH3(以下、PEM9と略す)]とを表6に示したモノマー構成比(モル%)で仕込み、更にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を仕込んだモノマーの総モル数に対して0.2〜1.0モル%の割合で仕込み、撹拌して均一溶液とした。このアンプルを窒素置換装置につなぎ、内容物をドライアイス−メタノール浴で冷却固化した後、高真空下で脱気、窒素導入、融解の操作を三回繰り返し、最後に高真空下で封管した。
【0084】
このアンプルを60℃に設定した振盪式恒温槽中で24時間重合反応させた。この重合反応の間、反応液の粘度は増加し全体が固化した。
【0085】
反応物を室温まで冷却後、アンプルを開封し、得られた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れた。これにより、白色の繊維状の固体が得られた。この固体を濾別し、メタノールで十分に洗浄した。得られた白色の固体をDMF−メタノール混合溶媒を用いて再沈操作を2〜3回繰り返し行うことにより精製し、生成ポリマーを減圧下において乾燥させた。その結果、30〜40%の収率で所期の有機高分子を得た。
【0086】
この有機高分子をCDCl3中で1H−NMRにより構造解析したところ、仕込みモノマー組成に準じたモノマーユニットから構成されていることが確認できた。
【0087】
【表6】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られた有機高分子を、十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一な溶液とし、さらに撹拌しながらLiClO4を有機高分子の全構成モノマーに対して、[Li+]/[モノマーユニット]=0.02〜1.00の範囲で所定の値となるように加え、それぞれのモノマー比のものについて更に完全に溶解するまでしばらく撹拌を続けた。この場合、実施例4及び実施例7としては、[Li+]/[モノマーユニット]の値を上述の範囲内で8通りに変化させた(実施例4-1 〜4-8 、7-1 〜7-8 )。また、実施例5、6、8及び9としては、[Li+]/[モノマーユニット]の値を上述の範囲内で6通りに変化させた(実施例5-1 〜5-6 、6-1 〜6-6 、8-1 〜8-6 、9-1 〜9-6 )。
【0088】
その後、孔径0.45μmのフィルターを通過させて不溶物を除去した。得られた溶液を、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、60℃に設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、さらに真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させることにより種々のモノマー比の高分子固体電解質フィルムを得た。
【0089】
また、キャスト溶媒としてDMFの代わりにNMP(N−メチル−ピロリドン)またはTHF(テトラヒドロフラン)を使用する以外は実施例4と同様にして[Li+]/[モノマーユニット]=0.5の高分子電解質フィルムを作成した(実施例4-9 〜4-10)。
【0090】
さらに、LiClO4の代わりに図3に示したようにアルカリ金属塩を使用し、実施例4と同様にして[M+]/[モノマーユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例4-11〜4-17)。
【0091】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0092】
(イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と共重合体モノマー比
上記で得られた高分子固体電解質フィルム(実施例4-1 〜4-8 、5-1 〜5-6 、6-1 〜6-6 、7-1 〜7-8 、8-1 〜8-6 、9-1 〜9-6 )について、有機高分子の全構成モノマー単位当たりの金属塩の分子比(モル比;[Li+]/[モノマーユニット])に対するイオン導電率(25℃)を実施例1と同様に測定し評価した。得られた結果を図1及び図2に示す。これらの図から明らかなように、従来のPEOもしくは他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度及び可撓性も十分なものであった。
【0093】
(ii)イオン導電率とキャスト溶媒
キャスト溶媒を変えた実施例4-9 及び4-10の高分子固体電解質フィルム([Li+]/[モノマーユニット]=0.5)について、同様にイオン導電率を求めた。この結果を表7に示す。なお、参考のために実施例4-6 の高分子固体電解質フィルム([Li+]/[モノマーユニット]=0.5)の結果も併せて表7に示した。
【0094】
【表7】
表7から、キャスト溶媒として特にDMFを用いることが好ましいことがわかった。
【0095】
(iv)イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例4-6 、実施例4-11〜4-17の高分子固体電解質フィルムについて、同様にそのイオン導電率を求めた。この結果を図3に示す。同図から明らかなように、これらの実施例の高分子固体電解質フィルムにおいては、アルカリ金属塩を変えても導電率が極度に低下することがなかった。また、既存の高分子固体電解質の室温でのイオン導電率と比較しても著しく高い導電率を示した。なお、いずれも成膜性、機械的強度、可撓性が低下せず、優れた特性を示した。
【0096】
(高分子固体電解質のフィルム特性)
共重合体モノマー比が異なる実施例4〜6の高分子固体電解質フィルムの可撓性と透明性とを以下のように評価した。その結果を表9に示す。
【0097】
可撓性
高分子固体電解質フィルムを、厚さ0.10〜0.15mm、幅5mm、長さ20mmの短冊状に切り出し、この一方の末端部の2mmの位置を固定し、他端に荷重をかけ、割ることなく曲げることができた角度を調べ、表8に示す基準に従って評価した。この場合、割れた角度が大きいほど高い可撓性を有していることを示している。
【0098】
【表8】
透明性
高分子固体電解質フィルムに対して、可視部(500nm〜700nm)の吸収スペクトルを調べた。この場合、対照として金属塩を溶解させていない有機高分子フィルムを用いた。吸光度が0.2未満を「A」、0.2以上〜1.0未満「B」、1.0以上を「C」と3段階で評価した。この場合、吸光度が低いほど透明性が高く、金属塩が有機高分子に相溶している状態を示している。
【0099】
【表9】
図1、図2及び表9に示した結果より、PEM4又はPEM9を3モル%含有した実施例4及び実施例7の高分子固体電解質フィルムの場合、まず、図1からわかるように、LiClO4の添加量が[Li+]/[モノマーユニット]=0.02以下の低濃度のときには導電率が低くなる傾向があった。また、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は低下し、電極界面での抵抗が大きくなる傾向があった。
【0100】
また、[Li+]/[モノマーユニット]=0.1〜0.6の範囲では、[Li+]濃度の増加に伴って導電率も大きく増加する傾向にある。また、得られた高分子固体電解質フィルムも十分な可撓性を有していた。
【0101】
なお、[Li+]/[モノマーユニット]=0.6〜0.8の範囲では、導電率の急激な低下はなく、また、高キャリヤイオン濃度領域で〜10−5Scm−1以上の高導電率を維持することができた。
【0102】
[Li+]濃度を[Li+]/[モノマーユニット]=0.8より大きくしたときには、キャスト溶媒を完全に除去した後に得られたフィルムは混濁し、金属塩と有機高分子が完全に相溶したものが得られにくい傾向があった。即ち、LiClO4の析出が生じ、導電率が低下し、また、可撓性も低下する傾向があった。
【0103】
従って、実施例4及び実施例7の高分子固体電解質フィルムの場合には、導電性、成膜性などを考慮すると[Li+]濃度を[Li+]/[モノマーユニット]=0.02〜0.8、特に0.4〜0.6の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0104】
また、PEM4もしくはPEM9をそれぞれ6もしくは10モル%含有した実施例5、6、8もしくは9の高分子固体電解質フィルムの場合に、図2からわかるように、最適[Li+]濃度域における導電率は実施例4及び7の場合よりもわずかに低いという傾向があった。
【0105】
しかし、PEM4もしくはPEM9のモノマー構成比が増加すると、あるいは側鎖のポリエーテル基が長くなるほど、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加し、更に、相溶できるLiClO4濃度が増加し、その結果[Li+]/[モノマーユニット]=1.0でも、LiClO4の析出を防止でき成膜性の低下は見られなかった。更に、高導電率領域における金属塩濃度は増加する傾向があった。また、金属塩濃度に対する導電率の依存性は小さくなり、[Li+]/[モノマーユニット]=0.4〜1.0の範囲で10−5〜10−4Scm−1の高導電率を維持することができた。
【0106】
実施例12:VEC系高分子固体電解質フィルム
(ビニルエチレンカーボネート(VEC)の合成)
ジクロロメタン500ml中にm-クロロ過安息香酸を190g溶解させ、これを氷で冷却し、さらに溶液を撹拌しながら、1,3−ブタジエンを2時間程度かけてバブリングし、溶液中に溶解し反応させた。その後さらに室温で終夜撹拌させることにより、3,4−エポキシ−1−ブテンを得た。次いで、これに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行った。そして、水層を分離した後、有機層を水で抽出し、濃縮した。得られた残留オイル状のものを減圧下で蒸留し、1−ブテン−3,4−ジオールを得た。これをジクロロメタン中でクロロ炭酸エチルとエステル交換反応をさせることにより、所期のビニルエチレンカーボネート(VEC)を得た。この生成物は沸点(106℃/6.5mmHg)であり、FT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。
【0107】
(ビニルエチレンカーボネートの単独重合体(PVEC)の合成)
約20ml用の封管用ガラス性アンプル中に、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gとアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)4mgを加えた。これを窒素置換装置につなぎ、ドライアイス−メタノール浴で固化し、高真空下に脱気、窒素導入、融解の操作を三回繰り返し、最後に高真空下で封管した。次いで、この容器を振盪式恒温槽中80℃で24時間重合反応させた。この間、重合系は粘度が増し、全体が固化した。室温まで冷却後、開封して、得られた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、その溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れた。これにより、白色の繊維状の固体が得られた。これをろ過した後、メタノールを用いて十分に洗浄した。この得られた白色の固体をDMF−メタノール系にて再沈操作を2〜3回繰り返し行なって精製し、その後、生成ポリマーを減圧下において乾燥させた。その結果、収率は20〜40%で所期の有機高分子であるポリビニルエチレンカーボネートを得た。この有機高分子はFT−IRおよびCDCl3中1H−NMRで同定し、確認した。また、融点は140〜150℃であり、平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、1 ×103〜1 ×105程度であった。
【0108】
なお、上記重合法で用いたラジカル重合開始剤AIBNに代えて、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0109】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られた有機高分子PVECを十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一溶液とし、さらに撹拌しながらLiClO4を有機高分子の全構成モノマーに対して、[Li+]/[VECユニット]=0.5となるように加え、さらに完全に溶解するまでしばらく撹拌を続けた。その後、孔径0.45μmのフィルターを通し、不溶物を除去し、キャスト法により成膜した。すなわち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、40〜60℃の温度範囲で設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、さらに真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させ、高分子固体電解質フィルムを得た(実施例12-1)。
【0110】
また、[Li+]/[VECユニット]の値を図5に示すように0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように変え、同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例12-2〜12-9)
さらに、LiClO4に代えて、図6に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、実施例12-1と同様にして[M+]/[VECユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例12-10 〜12-16 )。
【0111】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
(イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率の温度依存性
上記で得られた高分子固体電解質フィルム(実施例12-1)について、イオン導電率を種々の温度で実施例1と同様に測定した。この結果を図4に示す。
【0112】
図4の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムのうち側鎖にカーボネート基を有するものも従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域における導電率が著しく高いことが確認できた。なお、この高分子固体電解質フィルム(実施例12-1)は、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0113】
(ii) イオン導電率と[Li+]/[VECユニット]
[Li+]/[VECユニット]が異なる実施例12-1〜12-9の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図5に示す。
【0114】
図5から明らかなように、LiClO4の添加量が、[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合、イオン導電率は低いという傾向がある。なおこの場合、得られる高分子固体電解質フィルムはもろいガラス性となる傾向があり、柔軟性に欠けるものであった。このため、電極と高分子電解質とが十分に接触がとれずに、実際の電極との接触面積が計算上の電極面積よりも小さくなり、イオン導電率の結果としては過少に見積もられた可能性がある。
【0115】
一方、[Li+]/[VECユニット]=0.4〜0.6では得られた高分子固体電解質フィルムは柔軟性に富んだ、良好なフィルムであり、イオン導電率も著しく増加する傾向を示していた。
【0116】
また、[Li+]/[VECユニット]=0.7よりも多くなるとイオン導電率は低下傾向を示した。さらにこの場合、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出により、金属塩と有機高分子とが相溶したものではなく懸濁状態であり、柔軟性および機械的強度が低下していた。
【0117】
したがって、この系では[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.8の範囲であることが好ましく、特に0.4〜0.6の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0118】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ塩の種類が異なる実施例12-1、実施例12-10 〜12-16 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率を求めた。この結果を図6に示した。
【0119】
図6から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25℃)においても著しく高い値を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0120】
実施例13〜16
実施例12に示したビニルエチレンカーボネート(VEC)の重合化反応の際、表10に示すようにラジカル重合開始剤の種類(AIBN又はPBO)及びその添加量を変化させ、また重合温度を変える以外は実施例12-1と同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した。
【0121】
得られた高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率を求め、さらに平均分子量をGPCにより求めた。この結果を表10及び図7に示す。なお参考のため、図7には実施例12-1の結果も合わせて示した。
【0122】
【表10】
図7から、この系では有機高分子の平均分子量が小さいほどイオン導電率は増加する傾向があることがわかった。しかし、実施例14の有機高分子の分子量程度以下まで小さくなると成膜性が低下し、フィルム化が困難になる傾向があるため、平均分子量としては〜104程度のものが最も好ましいことがわかった。また、重合温度やラジカル開始剤の種類あるいはその添加量を変化させることにより、有機高分子の平均分子量が制御可能であることも確認できた。
【0123】
実施例17〜26:VEC(共重合)系高分子固体電解質フィルム
( ビニルエチレンカーボネート(VEC)の合成)
実施例12と同様にしてビニルエチレンカーボネート(VEC)を得、生成物の沸点(106℃/6.5mmHg)、IR、1H−NMRによりその構造を確認した。
【0124】
(ビニルエチレンカーボネート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて上述のビニルエチレンカーボネート(VEC)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表11に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4、PEM9)又は無水マレイン酸(MAL)を使用する以外は実施例4と同様にしてビニルエチレンカーボネートと他のモノマーとの共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCl3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0125】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0126】
【表11】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたVEC共重合体を使用して、実施例12-1と同様に、[Li+]/[VECユニット]=0.5となるようにLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。
【0127】
また、実施例17、19〜22については、[Li+]/[VECユニット]の値を図9及び図10に示すように0.02〜1.0の範囲で所定の値となるように変え、同様にして高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例17-2〜17-10 、実施例19-2〜19-11 、実施例20-2〜20-10 、実施例21-2〜21-11 、実施例22-2〜22-10 )。
【0128】
さらに、実施例17及び実施例22については、LiClO4に代えて、図11に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、実施例12-1と同様にして[M+]/[VECユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例17-11 〜17-17 、実施例22-11 〜22-17 )。
【0129】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0130】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率の温度依存性
上記で得られた[Li+]/[VECユニット]=0.5の高分子固体電解質フィルム(実施例17-1、22-1、25)について、イオン導電率を種々の温度で実施例1と同様に測定した。この結果を図8に示す。
【0131】
図8の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムのうち側鎖にカーボネート基を有するものも従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域における導電率が著しく高いことが確認できた。なお、この高分子固体電解質フィルム(12-1)は、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0132】
(ii) イオン導電率と[Li+]/[VECユニット]
[Li+]/[VECユニット]が異なる実施例17-1〜17-11 及び実施例22-1〜22-10 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図9に示す。また、同様に、実施例19〜20の高分子固体電解質フィルムについてもイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図10に示す。
【0133】
図9から明らかなように、LiClO4の添加量が[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合、イオン導電率は、従来のPEO又は他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べると優れているが、比較的低いという傾向がある。なおこの場合、得られる高分子固体電解質フィルムはもろいガラス性となる傾向があり、柔軟性に欠けるものであった。このため、電極と高分子電解質とが十分に接触がとれずに、実際の電極との接触面積が計算上の電極面積よりも小さくなり、結果的にイオン導電率が過少に見積もられた可能性がある。
【0134】
一方、[Li+]/[VECユニット]=0.4〜0.8では導電率は著しく増加する傾向を示し、また得られた高分子固体電解質フィルムは柔軟性に富んだ、良好なフィルムであった。
【0135】
また、[Li+]/[VECユニット]=0.9よりも多くなるとイオン導電率は低下傾向を示した。さらにこの場合、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出により、金属塩と有機高分子とが相溶したものではなく懸濁状態であり、柔軟性および機械的強度が低下していた。
【0136】
したがって、この系では[Li+]/[VECユニット]=0.02〜0.8の範囲とすることが好ましく、特に0.4〜0.7の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0137】
一方、図10に示した実施例は、従来のPEO又は他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べると優れているが、図9に示した実施例に対していずれも最高導電率が低下している。また、PEM4の構成比が大きくなるほど、その最大の導電率を与えるLiClO4濃度は増加すること、含有できる金属塩の濃度が増加することがわかる。なおこの場合、PEM4の構成比が大きくなるほどフィルムの柔軟性も増加していた。
【0138】
この共重合体の場合、VECに共重合させるPEM4、PEM9の構成比が多くなるほど、あるいは側鎖のポリエーテル構造が長くなるほど、フィルム内に相溶できる金属塩の濃度が増加し、さらにフィルムの柔軟性も低濃度領域で確保できる傾向があった。しかしながら、室温近傍における導電率は低下する傾向があった。
【0139】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例17-1、実施例17-11 〜17-17 、実施例22-1、実施例22-11 〜22-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率を求めた。この結果を図11に示した。
【0140】
図11から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25℃)におけるイオン導電率も著しく高い値を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0141】
実施例27:ECMA系高分子固体電解質フィルム
( エチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)の合成)
エポキシメタクリレートに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行なった。次いで、水層を分離し、有機層を水で抽出し、濃縮し、得られたオイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレン- ジオールメタクリレートを得た。これをジクロロメタン200ml中に溶解させ、激しく攪拌しながら3倍当量のトリホスゲン(Cl3CO)2COを少量ずつ加え、その後さらに96時間20℃で攪拌した。次いでエバポレーターで濃縮し、オイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)を得た。得られた生成物はFT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。収率は50%であった。
【0142】
以上のECMA合成スキームを次式に示す。
【0143】
【化25】
(エチレンカーボネートメタクリレート単独重合体(PECMA)の合成)
実施例12のビニルエチレンカーボネート重合体(PVEC)の合成において、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gに代えて上述のエチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)10gを使用する以外は実施例12と同様にしてポリエチレンカーボネートメタクリレート(PECMA)を合成した。この重合体はFT−IR、CDCl3中1H−NMRにより所期の有機高分子であることが確認された。収率は20〜40%であった。
【0144】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の有機高分子を得ることができた。
【0145】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECMA重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、[Li+]/[ECMAユニット]の値が表12に示すように0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例27-1〜27-9)。
【0146】
【表12】
また、LiClO4に代えて、表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、実施例12-1と同様にして[M+]/[ECMAユニット]=0.4(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを作成した(実施例27-10 〜27-17 )。
【0147】
【表13】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECMAユニット]
[Li+]/[ECMAユニット]が異なる実施例27-1〜27-9の高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図12に示す。
【0148】
図12から明らかなように、LiClO4の添加量が[Li+]/[ECMAユニット]=0.02〜0.2の低濃度の場合、イオン導電率は、従来のPEO又は他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べると優れているが、比較的低いという傾向がある。なおこの場合、得られる高分子固体電解質フィルムはもろいガラス性となる傾向があり、柔軟性に欠けるものであった。このため、電極と高分子電解質とが十分に接触がとれずに、実際の電極との接触面積が計算上の電極面積よりも小さくなり、結果的にイオン導電率が過少に見積もられた可能性がある。
【0149】
一方、[Li+]/[ECMAユニット]=0.2〜0.6ではイオン導電率は著しく増加する傾向を示し、また得られた高分子固体電解質フィルムは柔軟性に富んだ、良好なフィルムであった。
【0150】
また、[Li+]/[VECユニット]=0.7よりも多くなるとイオン導電率は低下傾向を示した。さらにこの場合、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出により、金属塩と有機高分子とが相溶したものではなく懸濁状態であり、柔軟性および機械的強度が低下していた。
【0151】
したがって、この系では[Li+]/[ECMAユニット]=0.02〜0.8の範囲でとすることが好ましく、特に0.2〜0.6の範囲とすることが好ましいことがわかった。
【0152】
(ii)イオン導電率の温度依存性
上記で得られた[Li+]/[ECMAユニット]=0.4の高分子固体電解質フィルム(実施例27-5)について、イオン導電率を表14に示したように温度10〜60℃で実施例1と同様に測定した。この結果を図13に示す。
【0153】
図13の結果から、本発明の高分子固体電解質フィルムのうち側鎖にカーボネート基を有するこの実施例のフィルムも、従来のPEO及び他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域におけるイオン導電率が著しく高いことが確認できた。また、低温でも比較的高いイオン導電率を得られることがわかった。
【0154】
【表14】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例27-5,27-10〜27-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図14に示した。
【0155】
図14から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0156】
実施例28〜34:ECMA(共重合)系高分子固体電解質フィルム
(エチレンカーボネートメタクリレート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて実施例27で合成したエチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表15に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4、PEM9)、メタクリル酸メチル(MMA)及び無水マレイン酸(MAL)を使用する以外は実施例4と同様にしてエチレンカーボネートメタクリレート(ECMA)と他のモノマーとの共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCl3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0157】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0158】
【表15】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECMA共重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、実施例27と同様に、[Li+]/[ECMAユニット]の値が0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例28-1〜28-9、実施例29-1〜29-9、実施例30-1〜30-9、実施例31-1〜31-9、32-1〜32-9、実施例33-1〜33-9、実施例34-1〜34-9)。
【0159】
また、ECMAとPEM4(5mol%) からなる共重合体(実施例28)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECMAユニット]=0.5(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例28-6、 28-10〜28-17 )。
【0160】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200 μm であった。
【0161】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECMAユニット]
ECMAとPEM4からなる共重合体であって、[Li+]/[ECMAユニット]が異なる実施例28-1〜28-9、実施例29-1〜29-9、実施例30-1〜30-9、実施例31-1〜31-9の高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図15に示す。
【0162】
図15から、共重合体のPEM4構成比を増加させると、最高の導電率を与えるLiClO4の濃度が減少し、またその導電率は低下する傾向があるが、塩濃度によるイオン導電率の依存性が小さくなる傾向があることがわかった。なお、PEM4構成比の増加にともなって、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加していた。
【0163】
したがって、この共重合体においては、ECMA構成比を50mol%以上とすることが好ましく、さらに90mol%以上がより好ましいことがわかった。
【0164】
ECMAとPEM9又はMALとからなる共重合体についても、[Li+]/[ECMAユニット]が異なる実施例32-1〜32-9、実施例33-1〜33-9、実施例34-1〜34-9の高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図16に示す。
【0165】
図16から、共重合体のPEM9構成比を増加させると、最高の導電率を与えるLiClO4の濃度が減少し、またその導電率は低下する傾向があるが、塩濃度によるイオン導電率の依存性が小さくなる傾向があることがわかった。なお、PEM9構成比の増加にともなって、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加していた。
【0166】
さらに、ECMAとPEM9からなる共重合体を使用した実施例28〜31のイオン導電率(図15)と比較することにより、共重合させるPEMの側鎖のポリエーテル構造が長くなるほど上述の傾向が大きくなること、また、この系では[Li+]/[ECMAユニット]が0.02〜0.8の範囲が好ましく、さらに0.2〜0.7がより好ましいことがわかった。
【0167】
また、ECMAと無水マレイン酸(MAL)からなる共重合を使用すると、ECMAをPEMと共重合させた系のものに対してイオン導電率が10分の1程度まで低下するが、塩の濃度がかなり高いものであっても有機高分子中に塩が相溶したフィルムが得られ、比較的高いイオン導電率を確保できることがわかった。なお、このフィルムの柔軟性は、ECMAをPEMと共重合させた系のものに対して減少していた。
【0168】
(ii)イオン導電率の温度依存性
上記で得た高分子固体電解質フィルムのうち、表16に示したようにECMAとその他のモノマー5mol%とからなる共重合体(実施例28-6、32-5、34-4)について、イオン導電率を実施例27と同様に温度10〜60℃で測定した。この結果を図17に示す。
【0169】
【表16】
図17の結果を、ECMAの単独重合体である実施例27(27-5)の結果(図13)と比較することにより、ECMAを共重合させることによって高温での導電率は増加するが、低温での導電率は減少すること、すなわち、温度による導電率の変化が大きくなることがわかった。また、この傾向は共重合させたPEMの側鎖ポリエーテル構造が長くなるほど顕著になることがわかった。
【0170】
また、ECMAと無水マレイン酸(MAL)を共重合させたもの(実施例34)は、ECMAを単独重合させたもの(実施例27)及びECMAとPEMとを共重合させたもの(実施例28、34)と比較して、全温度範囲でイオン導電率が低く、その変化が小さいことがわかった。
【0171】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
アルカリ金属塩の種類が異なる実施例28-6,28-10〜28-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図18に示した。
【0172】
図18から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することがなく、従来の高分子固体電解質のものと比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0173】
実施例35:ECPEMi(i=4)系高分子固体電解質フィルム
((エチレンカーボネートポリエチレングリコール)メタクリレート(ECPEMi(i=4)の合成)
(エポキシポリエチレングリコール)メタクリレートに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行なった。次いで、水層を分離し、有機層を水で抽出し、濃縮し、得られたオイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレンジオールポリエチレングリコールメタクリレートを得た。これをジクロロメタン200ml中に溶解させ、激しく攪拌しながら3倍当量のトリホスゲン(Cl3CO)2COを少量ずつ加え、その後さらに96時間20℃で攪拌した。次いでエバポレーターで濃縮し、オイル状の残留物を減圧下で蒸留し、エチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM)を得た。得られた生成物はFT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。収率は50%であった。
【0174】
以上のECPEM合成スキームを次式に示す。
【0175】
【化26】
(( エチレンカーボネートポリエチレングリコール) メタクリレート単独重合体(PECPEM4)の合成)
実施例12のビニルエチレンカーボネート重合体(PVEC)の合成において、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gに代えて上述のエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM4)10gを使用する以外は実施例12と同様にしてエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート重合体を合成した。この重合体はFT−IR、CDCl3中1H−NMRにより所期の有機高分子であることが確認された。収率は20〜40%であった。
【0176】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の有機高分子を得ることができた。
【0177】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECPEM4重合体を使用し、実施例12-1と同様にして、表17に示したようにLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。 こうして得られた高分子固体電解質フィルムは可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μm であった。
【0178】
実施例36及び実施例37
実施例35のECPEMの合成において、対応する(エポキシポリエチレングリコール)メタクリレートを使用する他は実施例35と同様にして、前述した式(7)
【0179】
【化27】
のi=1または9のECPEM1又はECPEM9を合成し、これを使用して高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、表17に示したようにLiClO4の添加量を変えた。
【0180】
【表17】
また、ECPEM4の重合体(実施例35)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECPEMユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例35-10 〜35-17 )。
【0181】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECPEMユニット]
実施例35〜37の高分子固体電解質フィルムのうち、表17に示した[Li+]/[ECPEMユニット]が異なるものについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図19に示す。
【0182】
図19から、LiClO4の添加量が[Li+]/[ECPEMユニット]=0.1以下の低濃度領域、及び0.6以上の高濃度領域では、従来の高分子固体電解質フィルムに比べると優れているが、若干イオン導電率が低いことがわかる。一方、その間の[Li+]/[ECPEMユニット]=0.2〜0.6の濃度領域では著しく高いイオン導電率を示し、0.3〜0.4付近で最大値を示すことがわかる。また、[Li+]/[ECPEMユニット]が0.8よりも高くなると、イオン導電率の低下傾向が大きくなるが、この場合には成膜時にキャスト溶媒を除去して得られたフィルムに金属塩の析出による懸濁がおこり、金属塩と有機高分子が相溶した状態となっておらず、柔軟性および機械的強度も低下していた。
【0183】
したがって、この系では[Li+]/[ECPEMユニット]=0.02〜0.8とすることが好ましく、特に0.2〜0.6とすることが好ましいことがわかった。
【0184】
また、側鎖のポリエーテル構造の繰り返し数(式(7)におけるi)を1、4、9と増加させるとイオン導電率の塩濃度依存が小さくなっていることがわかる。この場合、フィルムの柔軟性も増加していた。また、最大のイオン導電率は、i=4の時に[Li+]/[ECPEMユニット]=0.3付近で示されていることがわかる。これらのことは、カーボネート基よりもポリエーテル基の特性が大きく反映されたことによると考えられ、i=4付近で双方の官能基の特性が最も発揮されたものと考えられる。
【0185】
(ii)イオン導電率の温度依存性
実施例35〜37で得られた高分子固体電解質フィルムのうち、[Li+]/[ECPEMユニット]=0.4のもの(実施例35-5、36-5、37-5)について、イオン導電率を表18に示したように温度10〜60℃で実施例1と同様に測定した。この結果を図20に示す。
【0186】
図20の結果から、本発明の高分子固体電解質は、従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩とからなる高分子固体電解質に比べて、室温近傍における温度領域で、著しく高いイオン導電率を示すことがわかった。また、低温でも比較的高いイオン導電率を確保できることがわかった。
【0187】
また、式(7)のiが1、4、9となり側鎖のポリエーテル構造の繰り返し数が大きくなるほど、イオン導電率の温度依存性が大きくなることがわかった。
【0188】
【表18】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
ECPEM4重合体を使用した実施例35のうち、アルカリ金属塩の種類が異なる実施例35-4,35-10〜35-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図21に示した。
【0189】
図21から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0190】
実施例38〜49:ECPEMi(共重合)系高分子固体電解質フィルム
(エチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて実施例35〜37で合成したエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM4、ECPEM1又はECPEM9)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表19〜21に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4、PEM9)、メタクリル酸メチル(MMA)及び無水マレイン酸(MAL)を使用する以外は実施例4と同様にしてエチレンカーボネートポリエチレングリコールメタクリレート(ECPEM)と他のモノマーとの共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCl3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0191】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0192】
【表19】
【0193】
【表20】
【0194】
【表21】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたECPEM共重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、実施例35と同様に、[Li+]/[ECMAユニット]の値が0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例38-1〜38-9、実施例39-1〜39-9、実施例40-1〜40-9、実施例41-1〜41-9、42-1〜42-9、実施例43-1〜43-9、実施例44-1〜44-9、実施例45-1〜45-9、実施例46-1〜46-9、47-1〜47-9、実施例48-1〜48-9、実施例49-1〜49-9)。
【0195】
また、表20に示すようにECPEM4とPEM4(5mol%) からなる共重合体(実施例42)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECPEMユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例42-4、 42-10〜42-17 )。
【0196】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0197】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECPEMユニット]
表19に示した、ECPEM1とPEM4からなる共重合体であって、[Li+]/[ECPEMユニット]が異なる高分子固体電解質フィルム(実施例38-1〜38-9、実施例39-1〜39-9、実施例40-1〜40-9、実施例41-1〜41-9)について、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図22に示す。
【0198】
また、同様に、表20及び表21に示したECPEM4又はECPEM9の共重合体についても、[Li+]/[ECPEMユニット]が異なる高分子固体電解質フィルムについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図23及び図24に示す。
【0199】
図22〜図24から、ECPEMに側鎖にポリエーテル構造を有するPEM系モノマー(PEM4、PEM9)を共重合させると、最適塩濃度における最高イオン導電率が同程度に保持されるか、あるいは若干低下し、また塩濃度によるイオン導電率の依存性が小さくなる傾向のあることがわかった。なおこの場合、高分子固体電解質フィルムの柔軟性は増加していた。
【0200】
これに対して、MMAあるいはMALを共重合させると、PEM系モノマーを共重合させた場合よりもイオン導電率は10分の1程度まで低下し、またフィルムの柔軟性も低下していた。しかし、MMAを共重合させると、フィルムの吸湿性は低下していた。
【0201】
(ii)イオン導電率の温度依存性
上記で得た高分子固体電解質フィルムのうち、表22に示したようにECPEM1、ECPEM4又はECPEM9とPEM4(5mol%)とからなる共重合体(実施例38-6、42-4、46-4)について、イオン導電率を実施例35〜37と同様に温度10〜60℃で測定した。この結果を図25に示す。
【0202】
【表22】
図25の結果を、ECPEM1、ECPEM4又はECPEM9の単独重合体である実施例36〜37の結果(図19)と比較することにより、ECPEMを共重合させることによって高温での導電率は増加するが、低温での導電率は減少すること、すなわち、温度による導電率の変化が大きくなることがわかった。また、この傾向は共重合させたPEMの側鎖ポリエーテル構造が長くなるほど顕著になることがわかった。
【0203】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
ECPEM4とPEM4(5mol%)を共重合させた実施例42の高分子固体電解質フィルムのうち、[M+]/[ECPEMユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)であってアルカリ金属塩の種類が異なるもの(実施例42-4,42-10〜42-17 )について、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図26に示した。
【0204】
図26から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することがなく、従来の高分子固体電解質のものと比較して、室温(25 ℃) におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0205】
実施例50:EChPEMi系高分子固体電解質フィルム
((ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EChPEMi:h=2、i=4)の合成)
(ポリエポキシポリエチレングリコール)メタクリレートに炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、激しく撹拌し、加水分解を行なった。次いで、水層を分離し、有機層を水で抽出し、濃縮し、得られたオイル状の残留物を減圧下で蒸留しエポキシが開環したジオール体を得た。これをジクロロメタン200ml中に溶解させ、激しく攪拌しながら3倍当量のトリホスゲン(Cl3CO)2COを少量ずつ加え、その後さらに96時間20℃で攪拌した。次いでエバポレーターで濃縮し、オイル状の残留物を減圧下で蒸留し、前述した式(9)
【0206】
【化28】
でg=1、h=2、i=4の(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EC2PEM4)を得た。得られた生成物はFT−IR、1H−NMRによりその構造を確認した。収率は50%であった。
【0207】
以上のEC2PEM4合成スキームを次式に示す。
【0208】
【化29】
(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート単独重合体(PEChPEMi:h=2、i=4)の合成)
実施例12のビニルエチレンカーボネート重合体(PVEC)の合成において、ビニルエチレンカーボネート(VEC)10gに代えて上述のポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコールメタクリレート(EC2PEM4)10gを使用する以外は実施例12と同様にして( (ポリエチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート重合体を合成した。この重合体はFT−IR、CDCl3中1H−NMRにより所期の有機高分子であることが確認された。収率は20〜40%であった。
【0209】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の有機高分子を得ることができた。
【0210】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたEC2PEM4重合体を使用し、エチレンカーボネート基に対するLi塩のモル比([Li+]/[ECユニット])が表23に示したようになるようにLiClO4を添加し、実施例12-1と同様にして、高分子固体電解質フィルムを作成した。
【0211】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムは可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0212】
実施例51及び実施例52
実施例50のEChPEMiの合成において、対応する(ポリエポキシポリエチレングリコール)メタクリレートを使用する他は実施例50と同様にして、前述した式(9)でg=1、h=4、i=4のEC4PEM4、及びh=3、i=9のEC3PEM9を合成し、これを使用して高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、表23に示したようにLiClO4の添加量を変えた。
【0213】
【表23】
また、EC4PEM4の重合体(実施例51について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECユニット]=0.4(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例51-10 〜51-17 )。
【0214】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECユニット]
実施例50〜52の高分子固体電解質フィルムのうち、表23に示した[Li+]/[ECユニット]が異なるものについて、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図27に示す。
【0215】
図27から、LiClO4の添加量が[Li+]/[ECユニット]=0.2〜0.6の領域で著しくイオン導電率が高いことがわかる。この領域ではフィルムの柔軟性も優れていた。一方、[Li+]/[ECユニット]が0.2よりも小さい低濃度領域ではイオン導電率が低く、フィルムのガラス性も増大していた。また、0.8以上の高濃度領域では、従来の高分子固体電解質フィルムに比べると優れているが、イオン導電率が低下していることがわかる。さらにこの高濃度領域では、成膜時にキャスト溶媒を除去して得られたフィルムに金属塩の析出による懸濁がおこり、金属塩と有機高分子が相溶した状態となっておらず、柔軟性および機械的強度も低下していた。
【0216】
したがって、この系では[Li+]/[ECユニット]=0.02〜0.8とすることが好ましく、特に0.2〜0.6とすることが好ましいことがわかった。
【0217】
また、側鎖のポリエーテル構造に対するポリカーボネート構造の構成比を増加させると、(1) 最高導電率の値が増加し、これを与える最適LiClO4濃度が高くなり、(2) 導電率の塩濃度による依存性が大きくなり、(3) LiClO4の低濃度領域においてフィルムのガラス性が増大する傾向が見られた。
【0218】
(ii)イオン導電率の温度依存性
実施例50〜52で得られた高分子固体電解質フィルムのうち、[Li+]/[ECPEMユニット]=0.4のもの(実施例50-5、51-5、52-5)について、イオン導電率を表24に示したように温度10〜60℃で実施例1と同様に測定した。この結果を図28に示す。
【0219】
図28の結果から、本発明の高分子固体電解質は、従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩とからなる高分子固体電解質に比べて、室温近傍における温度領域で、著しく高いイオン導電率を示すことがわかった。また、低温でも比較的高いイオン導電率を確保できることがわかった。
【0220】
【表24】
(iii) イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
EC4PEM4重合体を使用した実施例51のうち、アルカリ金属塩の種類が異なる実施例51-5,51-10〜51-17 の高分子固体電解質フィルムについて、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図29に示した。
【0221】
図29から明らかなように、この高分子固体電解質フィルムはアルカリ金属塩を変えてもイオン導電率が極度に低下することなく、従来の高分子固体電解質のイオン導電率と比較して、室温(25℃)におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0222】
実施例53〜56:EChPEMi(共重合)系高分子固体電解質フィルム
((ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート共重合体の合成)
実施例4のビニレンカーボネート共重合体の合成において、ビニレンカーボネート(VC)10mlに代えて実施例51で合成した(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EC4PEM4)10mlを使用し、共重合させる他のモノマーとして、表25に示したようにメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEM4)を使用する以外は実施例4と同様にして(ポリ (エチレンカーボネート) ポリエチレングリコール)メタクリレート(EC4PEM4)とPEM4との共重合体を合成した。その結果、収率30〜40%で所期の共重合体を得ることができた。また、この共重合体のモノマー組成をCDCL3中1H−NMRで同定したところ、合成時の各モノマーの仕込み量に準じていることが確認できた。
【0223】
なお、上記重合で用いたラジカル重合開始剤AIBNにかわり、過酸化ベンゾイル(PBO)を用いても同様に所期の高分子を得ることができた。
【0224】
【表25】
(高分子固体電解質フィルムの作成)
上記で得られたEC4PEM4共重合体を使用し、実施例12-1と同様にしてLiClO4を添加した高分子固体電解質フィルムを作成した。この場合、実施例50と同様に、[Li+]/[ECMAユニット]の値が0.02〜0.8の範囲で所定の値となるように、LiClO4の添加量を変えた(実施例53-1、54-1〜54-9、実施例55-1〜55-9、実施例56-1〜56-9)。
【0225】
また、上記で得られた共重合体のうち、EC4PEM4とPEM4(5mol%) からなる共重合体(実施例53)について、LiClO4に代えて、実施例27と同様に表13に示した種々のアルカリ金属塩を使用し、[M+]/[ECユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)の高分子固体電解質フィルムを実施例12-1と同様にして作成した(実施例53-2〜53-9)。
【0226】
こうして得られた高分子固体電解質フィルムはいずれも可撓性に富んだ無色〜淡黄色のフィルムであり、その膜厚は50〜200μmであった。
【0227】
( イオン導電率の評価)
(i) イオン導電率と[Li+]/[ECユニット]
表25に示した、EC4PEM4共重合体であって、[Li+]/[ECユニット]が異なる高分子固体電解質フィルム(実施例54-1〜54-9、実施例55-1〜55-9、実施例56-1〜56-9)について、実施例1と同様にイオン導電率(25℃)を測定した。この結果を図30に示す。
【0228】
図30から、この共重合体系の高分子固体電解質は、EC4PEM4に共重合させるPEM4の比率を高めると、(1) EC4PEM4の単独重合体(実施例51)に比べて最高イオン導電率の値が減少すること、(2) 最高導電率を与える塩濃度が減少すること、(3) イオン導電率の塩濃度依存性が小さくなることがわかる。また、(4) LiClO4の低濃度領域で高分子固体電解質フィルムの柔軟性が増加していた。
【0229】
(ii)イオン導電率とアルカリ金属塩の種類
EC4PEM4とPEM4(5mol%)を共重合させた実施例53の高分子固体電解質フィルムのうち、[M+]/[ECユニット]=0.3(MはLi、Na又はKである)であってアルカリ金属塩の種類が異なるもの(実施例53-1〜53-9)について、同様にイオン導電率(25℃)を求めた。この結果を図31に示した。
【0230】
図31から明らかなように、アルカリ金属塩を変化させても導電率が極度に低下することがなく、従来の高分子固体電解質のものと比較して、室温(25℃)におけるイオン導電率が著しく高い値を示した。特に、リチウム塩ではLiN(CF3CO2)2を用いた場合に最も高いイオン導電性を示した。なおこの場合、いずれも成膜性の低下はみられなかった。
【0231】
【発明の効果】
この発明によれば、従来の高分子固体電解質と比較して、室温付近でも高いイオン導電性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、可撓性もしくは柔軟性にも優れた高分子固体電解質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高分子固体電解質フィルム(VC共重合体)における、[Li+]/[モノマーユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図2】高分子固体電解質フィルム(VC共重合体)における、[Li+]/[モノマーユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図3】高分子固体電解質フィルム(VC共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図4】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図5】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、[Li+]/[VECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図6】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図7】高分子固体電解質フィルム(VEC単独重合体)における、平均分子量と導電率との関係図である。
【図8】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図9】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、[Li+]/[VECユニット]の比率アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図10】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、[Li+]/[VECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図11】高分子固体電解質フィルム(VEC共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図12】高分子固体電解質フィルム(ECMA単独重合体)における、[Li+]/[ECMAユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図13】高分子固体電解質フィルム(ECMA単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図14】高分子固体電解質フィルム(ECMA単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図15】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、[Li+]/[ECMAユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図16】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、[Li+]/[ECMAユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図17】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図18】高分子固体電解質フィルム(ECMA共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図19】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi単独重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図20】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図21】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図22】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図23】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図24】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECPEMユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図25】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図26】高分子固体電解質フィルム(ECPEMi共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図27】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi単独重合体)における、[Li+]/[ECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図28】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi単独重合体)における、温度と導電率との関係図である。
【図29】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi単独重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
【図30】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi共重合体)における、[Li+]/[ECユニット]の比率と導電率との関係図である。
【図31】高分子固体電解質フィルム(EChPEMi共重合体)における、アルカリ金属塩の種類と導電率との関係図である。
Claims (12)
- 有機高分子の平均分子量が3×103〜5×105の範囲内である請求項1記載の高分子固体電解質。
- 有機高分子中に占めるビニレンカーボネート系モノマーユニットの割合が、50モル%以上である請求項3記載の高分子固体電解質。
- 有機高分子の平均分子量が5×102〜5×105の範囲内である請求項5記載の高分子固体電解質。
- カーボネート基を官能基として有する有機高分子とアルカリ金属塩とを含有する高分子固体電解質であって、該有機高分子が、カーボネート基を側鎖の一部として有する式(4)
- 有機高分子中に占めるエチレンカーボネート系モノマーユニットの割合が、50モル%以上である請求項7記載の高分子固体電解質。
- カーボネート基を官能基として有する有機高分子とアルカリ金属塩とを含有する高分子固体電解質であって、該有機高分子が、同一側鎖中にカーボネート基とエーテル基とを有する式(10)
- エチレンカーボネート基とエーテル基とを同一側鎖に有するエチレンカーボネート系モノマーユニットの有機高分子中に占める割合が、50モル%以上である請求項10に記載の高分子固体電解質。
- 式中のXがビニル系モノマーユニットである請求項3、7又は10記載の高分子固体電解質。
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