JP3567717B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、油井またはガス井(以下、単に「油井」という)、各種プラント設備および建設用構造材料などに使用される鋼管、より詳しくは9〜15重量%のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼からなり、出荷前後の保管中や輸送中における耐候性(耐発錆性)に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管とその製造方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
主に用いられている鋼管には、継目無鋼管と溶接鋼管がある。そのうちの継目無鋼管の代表的な製造方法の一つに、マンネスマン−マンドレルミル方式がある。このマンネスマン−マンドレルミル方式は、寸法精度と生産性に優れているので、広く利用されている。
【0003】
その製管工程は、通常、素材ビレットを所定の加工温度に加熱する加熱工程、加熱された素材ビレットを穿孔圧延機(ピアサー)で中空素管に成形する穿孔圧延工程、中空素管をマンドレルミルで仕上げ用素管に成形する延伸圧延工程、仕上げ用素管を加熱する再加熱工程および再加熱された仕上げ用素管をストレッチレデューサーで所定の製品寸法に成形する仕上げ圧延工程からなっている。
【0004】
ここで、一般に、素材ビレットの加熱温度は1100〜1300℃、マンドレルミルによる延伸圧延後の管温度は800〜1000℃、仕上げ用素管の再加熱温度は850〜1100℃、ストレッチレデューサーによる仕上げ温度は800〜1000℃程度である。
【0005】
また、溶接鋼管は、帯鋼を素材とし、ERW(電縫溶接)製管法、TIG溶接製管法、レーザ溶接製管法などによって所定の製品寸法に仕上げられる。
【0006】
その後、9〜15重量%のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼の鋼管(以下、単に「マルテンサイト系ステンレス鋼管」という)の場合は、所定の強度を得るために、900℃以上から焼入れし、次いで600〜750℃で焼戻す熱処理が施される。
【0007】
このように、マルテンサイト系ステンレス鋼管の製造においては、継目無鋼管の場合では各工程で600〜1300℃、溶接鋼管の場合では熱処理工程で600〜1000℃の加熱を受けるため、管の内外表面には不可避的に酸化物スケール(以下、単に「ミルスケール」という)が生成付着する。
【0008】
通常、上記のミルスケールは、ショットブラスト処理後に酸洗処理を施すことにより完全に除去される。これは、一般に、ミルスケール直下の母材には脱Cr層が存在しており、この脱Cr層を除去しないと、所定の耐食性が確保できないので、この脱Cr層まで除去しているためである。また、ショットブラスト処理後に酸洗処理を施すのは、ショットブラスト処理または酸洗処理だけでは、上記のミルスケールと脱Cr層を完全に除去するのに長時間かかり、生産性が極めて悪いためである。
【0009】
ところが、上記のショットブラスト処理と酸洗処理は、いずれも多大な工数と費用のかかる方法で、生産性を低下させ、製品の製造コスト上昇を招くだけでなく、作業環境をも悪化させる。
【0010】
このため、近年、生産性の向上やより良好な作業環境を確保する一方、製品の製造コスト低減を図る観点から、ショットブラスト処理に比べてより多くの工数と費用がかかる酸洗処理の簡略化に留まらず、酸洗処理自体を省略することが強く望まれるようになってきた。
【0011】
ところで、ステンレス鋼のミルスケールを酸洗除去する方法としては、従来から種々の方法が検討されており、例えば酸洗薬液を調整するなどの方法(例えば、「鉄と鋼」’79−S1042、’83−S1102参照)がある。しかし、これらの方法は、処理時間を短縮することを目的としたものでしかない。
【0012】
また、ショットブラスト法も種々検討されており、ショット粒に被処理対象と同じ例えば13Cr系のマルテンサイトステンレス鋼製やアルミナ製のものを用いる方法がある。これは、鉄製のショット粒を用いるとステンレス鋼の表面に鉄製ショット粒の粉砕微細粒が残存し、酸洗を省略した場合、大気環境中で残存した鉄製ショット粒の粉砕微細粒を起点にして錆が発生し、いわゆるもらい錆となって外観が悪化する。また、もらい錆は孔食などの発生起点となり、実際の使用環境(例えば、油井管の場合は炭酸ガスや硫化水素を含む高温湿潤環境)下における腐食を助長するようになるためである。
【0013】
しかし、上記の13Cr系のマルテンサイトステンレス鋼製やアルミナ製のショット粒を用いても、9〜15重量%のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼管では、酸洗処理を省略した場合、大気環境中に放置すると若干の錆のが発生し、酸洗処理を省略することができないという問題があった。
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、優れた耐候性(耐発錆性)を発揮するマルテンサイト系ステンレス鋼管と、この鋼管を安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要旨は、下記(1)の耐候性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管および下記(2)の耐候性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法にある。
【0016】
(1)Cr含有量が9〜15重量%のマルテンサイト系ステンレス鋼からなり、ショットブラスト法のみで脱スケール処理された後の表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下である耐候性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管。
【0017】
(2)製管工程と熱処理工程を経た後の鋼管表面に、アルミナ製または被処理鋼管と実質同一の鋼製のショット粒を吹き付けることにより、その製造中に鋼管表面に生成付着したミルスケールを、除去後の鋼管表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下になるように除去し、その後酸洗処理を施すことなく製品とする上記(1)に記載の耐候性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【0018】
本発明者らは、上記の目的を達成すべくショットブラスト処理後の鋼管表面性状が大気環境中での耐候性(耐発錆性)に及ぼす影響を詳細に調査し、その結果得られた以下の知見に基に上記の発明を完成させた。
【0019】
(1)ミルスケール直下に存在する脱Cr層は、耐食性に影響するだけでなく、耐候性(耐発錆性)にも大きく影響する。特に、9〜15重量%のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼では、脱Cr層のCr濃度がステンレス鋼の不働態皮膜形成に必要な9%を下回っており、十分な不働態皮膜を形成し得ないために、大気環境中に曝露した場合、この脱Cr層が錆の発生起点となっている。
【0020】
(2)酸洗処理での負荷軽減のために、例えば13Cr系のマルテンサイトステンレス鋼製やアルミナ製のショット粒を用いてショットブラスト処理を施すことで上記の脱Cr層は除去可能である。しかし、従来のショットブラスト処理では、ミルスケールが多く残っいるだけでなく、処理後の鋼管表面の凹凸が極めて激しく、大気環境中に曝露すると凹凸部分に塩分や水分が吸着して錆が発生しやすい。
【0021】
(3)ところが、ショットブラスト処理を施す際、13Cr系のマルテンサイトステンレス鋼製やアルミナ製のショット粒を用い、鋼管の表面粗さをJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下にするともに、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率を2%以下にした場合には、酸洗処理を施さずに大気暴露しても錆は発生しておらず、実用上問題のないレベルにまで錆の発生を低減させ得ることを知見した。
【0022】
すなわち、上記のミルスケール残存面積率が2%以下の試験材を対象に電気化学的な検討を行った結果、1000ppmのCl−イオンを含む脱気液環境下におけるアノード分極挙動から十分な不働態保持電流が観察されるようになり、表面を単に目視観察しただけでは錆の存在を明確に確認することができず、実用上何ら問題ないレベルにまで錆の成長が抑制されることが確認された。
【0023】
また、表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下の場合、耐食性と耐候性に大きく影響を及ぼす孔食電位が飛躍的に向上し、十分な耐食性が得られることが確認された。
【0024】
図1は、後述する実施例で用いたのと同じ鋼種aを対象に、鋼管の表面粗さ(最大高さRy)が1000ppmのCl−イオンを含む脱気液環境下での孔食電位に及ぼす影響を調べた結果の一例を示す図である。この図から明らかなように、ミルスケールの残存面積率が2%以下で、かつ表面粗さが最大高さRyで50μm以下の場合、その孔食電位がショットブラスト処理後に酸洗処理を施してミルスケールを完全除去したものと同じレベルにまで急激に向上していることがわかる。
【発明の実施の形態】
【0025】
次に、本発明を上記のように限定した理由について説明する。なお、合金元素の含有率の「%」は、「重量%」を表示するものとする。
【0026】
《母材鋼について》
本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼管の提供が目的であるので、その母材鋼は少なくとも9〜15%のCrを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼とする。これは、Cr含有量が9%未満では所望の耐食性、具体的には耐炭酸ガス腐食性が確保できず、逆に15%を超えるとδ−フェライト相の生成を招いて耐食性(耐SSC性)および熱間加工性が低下するだけでなく、コスト高になる。
【0027】
なお、上記の母材鋼は、Cr以外に、0.5%以下のC、1%以下のSi、5%以下のMn、8%以下のNi、7%以下のMo、0.1%以下のTi、0.1%以下のZr、0.1%以下のNb、0.1%以下のsol.Alなどの元素を含むものであってもよい。
【0028】
《表面粗さとミルスケール残存面積率について》
本発明になるマルテンサイト系ステンレス鋼管は、上記の母材鋼からなり、ショットブラスト法のみで脱スケール処理された後の表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下でなければならない。その理由は、以下に述べる通りである。
【0029】
前述したように、ミルスケール直下の母材表層部には脱Cr層が存在しているので、大気環境下においてその周囲に錆が発生する。従って、大きな面積のミルスケールが残存する表面や、小さな面積のミルスケールでもこれらが数多く集まって残存する表面では、錆の発生起点が多いために錆の成長が著しく、目視観察で明確に識別できる錆になる。
【0030】
すなわち、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下でも、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%を超えると、1000ppmのCl−イオンを含む脱気液環境下におけるアノード分極挙動からは明確な不働態保持電流が観察されず、いわゆる活性溶解型の分極曲線となる。その結果、残存したミルスケールの周囲の錆の成長が著しくなり、目視観察で明確に確認できる錆が発生するようになる。
【0031】
これに対し、大きさが面積で0.01mm2以下のミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下の場合には、アノード分極挙動からは明確な不働態保持電流が観察され、残存したミルスケールの周りに不働態皮膜が形成されるので、錆の発生起点が少ないのと相俟ってその成長が抑制される。その結果、目視観察で明確に確認できる錆が発生しなくなるのである。
【0032】
また、その表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μmを超えると、前述の図1に示したように、1000ppmのCl−イオンを含む脱気液環境下における孔食電位が著しく低くなって耐食性が低下し、残存したミルスケールの周りの錆の成長が著しくなって目視観察で明確に確認できる錆が発生するようになる。
【0033】
これに対し、最大高さRyが50μm以下の表面粗さにすると、孔食電位が著しく高くなって耐食性が向上し、目視観察で明確に確認できる錆が発生しなくなるのである。
【0034】
ここで、表面粗さが最大高さRyで50μmを超える場合、目視観察で明確に確認できる錆が発生するのは、大気中に浮遊する塩分や水分が凹部に多く残存するようになり、これが錆の発生起点になるためと考えられる。
【0035】
また、電気化学的な測定結果が上記のようになるのは、アノード方向に電位を掃引すると鋼の溶解反応が加速される。その時に溶出したFe2+などの金属イオンが凹部に滞留し、これが加水分解してH+が生成し、pHが低下することによって孔食が発生しやすくなるものと考えられる。
【0036】
以上のことから、本発明においては、その表面粗さをJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、1mm2視野内におけるミルスケールの残存面積率を2%以下と限定した。
【0037】
また、表面に残存する個々のミルスケールの大きさを面積で0.01mm2以下と限定したが、これは次の理由による。すなわち、ショットブラスト処理によって上記の表面性状に脱スケールを行うと、面積が0.01mm2を超えるようなミルスケールが事実上存在しなくなるだけでなく、面積が0.01mm2を超えるミルスケールは、1mm2視野内におけるミルスケールの残存面積率が2%以下でも、仮にこれが存在すると、そのミルスケールの周りでの錆の成長が進行し、これが起点になって他のミルスケールの周りでの錆の成長を促進させ、最終的に目視観察で明確に確認できる錆が発生するようになるためである。
【0038】
ところで、面積が0.01mm2以下のミルスケールは、例えばショットブラスト処理後の鋼管表面を75倍程度に拡大して顕微鏡観察した場合、ミルスケールの除去された部分が灰色であるのに対し、ミルスケールは黒色であるので、容易に識別可能である。
【0039】
また、ミルスケールの残存面積率は、上記のように顕微鏡観察するなどし、1mm2視野内に残存している全てのミルスケールの総面積を求め、この総面積を1mm2で除した値を100倍することにより求められる値である。
【0040】
なお、1mm2視野内に残存している全てのミルスケールとその総面積、およびミルスケールの残存面積率は、人手により求めることができるが、顕微鏡観察結果を画像処理して自動的に求めるようにするのが好ましい。
【0041】
《製造方法について》
継目無鋼管の場合の製管法は、製造された鋼管の寸法精度が大幅な機械切削加工を必要としな程度の精度が得られればどのような製管法であってもよく、前述のマンネスマン−マンドレルミル方式の他に、マンネスマン−プラグミル方式、マンネスマン−アッセルミル方式、マンネスマン−ディシャミル方式およびマンネスマン−ピルガーミル方式などを挙げることができ、これらの方式であればいずれの方式であってもよい。
【0042】
しかし、通常は、寸法精度と生産性が最も優れることから、マンネスマン−マンドレルミル方式が多く採用されており、本発明においても上記の本発明になるマルテンサイト系ステンレス鋼管は、このマンネスマン−マンドレルミル方式により製造するのがよい。
【0043】
すなわち、前述した化学組成のマテンサイト系ステンレス鋼からなり、連続鋳造法などによって製造された素材ビレットは、1100〜1300℃に加熱された後、ピアサーにより穿孔圧延されて中空素管とされ、さらにマンドレルミルにより延伸圧延されて温度が800〜1150℃の仕上げ圧延用素管とされる。
【0044】
次いで、上記の仕上げ圧延用素管は、850〜1100℃に再加熱された後またはそのままストレッチレデューサーにより所定寸法の継目無鋼管に仕上げられた後、通常は焼入れ炉で900℃以上に加熱後急冷する焼入れ処理が施され、引き続いて焼戻し炉で600℃〜750℃に加熱する焼戻し処理が施される。
【0045】
また、溶接鋼管の場合は、通常、前述したERW(電縫溶接)製管法、TIG溶接製管法、レーザ溶接製管法のうちいずれの方法によって所定寸法の溶接鋼管に仕上げられた後、上記と同様の焼入れ処理と焼戻し処理が施される。
【0046】
焼入れ−焼戻し処理された鋼管の表面には、通常、外表面で70〜150μm程度、内面で50〜80μm程度のミルスケールが生成付着しており、しかも母材の表層部はCr濃度が9%未満の脱Cr層になっている。
【0047】
そこで、本発明においては、焼入れ−焼戻し処理後の鋼管を脱スケール工程に送り、その表面にショットブラスト処理を施して表面に生成付着したミルスケールを除去すると同時に脱Cr層をも除去し、その後に酸洗処理を施すことなく製品とする。
【0048】
上記のショットブラスト処理は、処理後の鋼管の表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下になるように行う必要があることは前述した通りである。
【0049】
また、本発明の製造方法は、ショットブラスト処理後の鋼管に酸洗処理を施すことなく製品とする点が特徴である。このため、ショットブラスト処理には、アルミナ製または被処理鋼管と実質同一の鋼製のショット粒を用いる必要がある。これは、前述したように、通常用いられる鉄製のショット粒を用た場合、処理後の表面に不可避的に残留する鉄製ショット粒の粉砕微細粒を起点としてもらい錆が発生するだけでなく、このもらい錆を起点とした孔食が発生するからである。
【0050】
ここで、処理後の鋼管の表面粗さが最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が%以下の表面性状は、例えば同一個所に対するショット粒の吹き付け時間を従来よりも長くするなどすることで得ることができ、その具体的な処理条件は何ら限定する必要はない。その理由は、ショットブラスト処理の処理条件には、除去対象のミルスケールの性状と厚さ、ショット粒の大きさ、吹き付け密度、吹き付け圧力、吹き付け時間、および吹き付け角度などがあるが、これらは相互に密接不可分の関係にあり、いずれか一つが変わると他の条件が同じでも処理結果が変化するからである。
【0051】
なお、ショット粒がアルミナ製または被処理鋼管と実質同一の鋼製でも、鉄製のショット粒を用いた場合と同様に、ミルスケールと同時に母材表面近傍の脱Cr層も研削される。また、上記のように、同一個所に対するショット粒の吹き付け時間を従来よりも長くするなどする場合は、脱Cr層が従来以上に多く研削除去され、その相乗効果により錆の発生がより一層抑制される。
【実施例】
【0052】
表1に示す化学組成を有する5種類のマルテンサイト系ステンレス鋼製で、外径192mmの中実丸ビレットを準備した。そして、これらの中実丸ビレットを回転炉床式の加熱炉で1100〜1200℃に加熱してからピアサーに供して外径192mm、肉厚16mm、長さ6650mmの中空素管に成形し、引き続いてこの中空素管をマンドレルミルにより外径151mm、肉厚6.5mmの仕上げ圧延用素管に成形した。次いで、仕上げ圧延用素管を1100℃に再加熱してからストレッチレデューサーに供して外径63.5mm、肉厚5.5mmに仕上げた後切断し、長さ12mの継目無鋼管を得た。
【0053】
その後、得られた継目無鋼管に、950℃に60分間加熱保持後空冷する焼入れ処理を施し、次いで650℃に30分間加熱保持後空冷する焼戻し処理を施してミルスケール付きの継目無鋼管を得た。なお、鋼No. cとdの鋼管については加熱保持後水冷する焼入れ処理を施すことができるが、本実施例では加熱保持後空冷する焼入れ処理を施した。
【0054】
そして、得られたミルスケール付きの継目無鋼管の内外面に、アルミナ製のショット粒を用いたショットブラスト処理を施してその表面に付着したミルスケールを除去するとともに、その表面性状を種々調整した後、下記の耐食性試験に供した。
【0055】
また、比較のために、ショットブラスト処理後の鋼管に、体積%で「5%沸酸+10%硝酸」の温度が室温の混酸水溶液中に3分間浸漬する酸洗処理を施すことにより、従来と同じ酸洗処理材を製造し、耐食性試験に供した。
【0056】
《耐食性試験・・・海上輸送中における発錆模擬試験》
人工海水を100倍の水で希釈した水溶液中に供試鋼管を浸漬後取り出して乾燥処理し、その内外表面に塩分を付着させた後、温度が50℃、相対湿度が98%の雰囲気中に1週間暴露し、この暴露後の鋼管表面を目視観察して目視で明確に確認できる変色部、すなわち錆(赤錆)の発生の有無とその発生面積率を調べた。
【0057】
なお、評価は、比較のために試験に供した従来と同じ酸洗処理材を基準とし、錆(赤錆)の発生面積率が酸洗処理材よりも大きい場合を不芳「×」、小さい場合を良好「○」とした。
【0058】
その結果を、表2に示した。また、表2には、ショットブラスト処理後の表面粗さ(最大高さRy)と1mm2視野内におけるミルスケールの残存面積率とを併せて示した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
表2から明らかなように、表面粗さがRyで50μm以下、かつ個々のミルスケールの大きさが面積0.01mm2以下で、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下である本発明例の鋼管(試番1〜4、6、8および10)は、従来例の酸洗処理材(試番5、7、9および11)と同等以上の耐候性を示した。
【0061】
これに対し、ミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下でも、表面粗さがRyで50μm超、および表面粗さがRyで50μm以下でも、ミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%超である比較例の鋼管(試番12〜17)は、いずれも目視で明確に確認できる錆の発生面積率が5%以上と多く、従来例の酸洗処理材(試番5、7、9および11)よりも耐候性が劣っていた。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、耐候性(耐発錆性)に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管を提供することができる。また、その鋼管はショットブラスト処理後に酸洗処理を施すことなく製造できるので、生産性が向上し、製品の製造コスト低減が図れるだけでなく、作業環境をも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】孔食電位と表面粗さとの関係の一例を示す図である。
Claims (2)
- Cr含有量が9〜15重量%のマルテンサイト系ステンレス鋼からなり、ショットブラスト法のみで脱スケール処理された後の表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下であることを特徴とする耐候性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管。
- 製管工程と熱処理工程を経た後の鋼管表面に、アルミナ製または被処理鋼管と実質同一の鋼製のショット粒を吹き付けることにより、その製造中に鋼管表面に生成付着したミルスケールを、除去後の鋼管表面粗さがJIS B 0601に規定される最大高さRyで50μm以下、表面に残存する個々のミルスケールの大きさが面積で0.01mm2以下、そのミルスケールの1mm2視野内における残存面積率が2%以下になるように除去し、その後酸洗処理を施すことなく製品とすることを特徴とする請求項1に記載の耐候性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼管の製造方法。
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