JP3556457B2 - スピン依存伝導素子とそれを用いた電子部品および磁気部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強磁性体のトンネル効果を利用した磁気素子とその応用部品に係り、特に強磁性体中に形成された離散的なエネルギー準位を外部から制御するようにしたスピン依存伝導素子とそれを用いた電子部品および磁気部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
スピン依存伝導素子としては、これまでに巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)が知られている。磁気抵抗効果(MR)とは、ある種の磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。例えば、強磁性体を用いた磁気抵抗効果素子(MR素子)は温度安定性に優れ、かつ使用範囲が広いというような特徴を有している。
【0003】
従来より、磁性体を用いたMR素子にはパーマロイ合金などの薄膜が広く使用されてきた。これをハードディスクなどの再生ヘッドに使用することで高密度磁気記録が達成されている。しかし、パーマロイ薄膜の磁気抵抗変化率は 2〜3%程度と小さいため、さらなる高密度記録を達成しようとすると十分な感度が得られないという問題があった。
【0004】
一方、近年磁気抵抗効果を示す新しい材料として、磁性金属層と非磁性金属層とを数オングストロームから数十オングストロームのオーダーの周期で交互に積層した構造を有し、非磁性層を介して相対する磁性層の磁気モーメントが反平行状態で磁気的に結合した人工格子膜が、巨大磁気抵抗効果を示す材料として注目されている。例えば、Fe/Cr人工格子膜(Phys. Rev. Lett.61, 2472(1988))や、Co/Cu人工格子膜(J.Mag.Mag. Mater.94, L1(1991)、Phys. Rev. Lett.66, 2152(1991)) などが見出されている。
【0005】
このような金属人工格子膜は、数 10%という従来のパーマロイ合金薄膜よりも格段に大きな磁気抵抗変化率を示す。このような巨大磁気抵抗効果は、伝導を担う電子の散乱が磁性層のスピンの向きに依存することに起因している。しかしながら、このような金属人工格子膜は、大きな磁気抵抗効果を得るためには積層数を多くする必要があるという問題や、飽和磁界(抵抗値が飽和する磁界)が数テスラ(T) 以上と大きく、このままでは磁気ヘッドなどへの応用には不向きであるという問題を有している。
【0006】
飽和磁界を小さくする目的で、強磁性層/非磁性層/強磁性層のサンドイッチ構造の積層膜を有し、一方の強磁性層に交換バイアスを及ぼして磁化を固定し、他方の強磁性層を外部磁界により磁化反転させることにより、 2つの強磁性層の磁化方向の相対角度を変化させる、いわゆるスピンバルブ膜が開発されている。しかし、スピンバルブ膜は磁気抵抗変化率が 4〜8%程度とあまり大きくなく、また積層膜の比抵抗そのものが数10μΩcmと小さいため、外部磁界を検出するためには比較的大きな電流を流す必要があるという問題を有している。
【0007】
また、多層膜に対して電流を膜面に垂直方向に流す、いわゆる垂直磁気抵抗効果を利用すると、非常に大きな磁気抵抗効果か得られることが知られている (Phys. Rev. Lett.66, 3060(1991))。しかし、この場合には電流パスが小さく、また各層が金属であるために抵抗が小さく、サブミクロン以下に微細加工をしないと室温での磁気抵抗効果を測定できないという問題がある。
【0008】
さらに、以上述べたような人工格子膜とは異なり、非磁性金属マトリックス中に磁性超微粒子を分散させた、いわゆるグラニュラー磁性膜もスピンに依存した伝導に基づく巨大磁気抵抗効果を示すことが見出されている(Phys. Rev. Lett.68, 3745(1992))。このようなグラニュラー磁性膜は、磁界を加えない状態では磁性超微粒子の性質により、各磁性超微粒子のスピンは互いに不規則な方向を向いて抵抗が高く、磁界を加えて各スピンを磁界の方向に揃えると抵抗が低下し、その結果スピン依存散乱に基ずく磁気抵抗効果が発現する。しかし、この場合の磁性超微粒子は超常磁性を示すため、飽和磁界が本質的に非常に大きいという問題を有している。
【0009】
一方、スピン依存散乱とはメカニズムを異にする、強磁性トンネル効果に基づく巨大磁気抵抗効果が見出されている。これは強磁性層/絶縁層/強磁性層の 3層積層膜からなり、一方の強磁性層の保磁力が他方の強磁性層の保磁力よりも小さい構造において、両強磁性層間に電圧を印加してトンネル電流を発生させるものである。このとき、保磁力の小さい磁性層のスピンのみを反転させると、 2つの強磁性層のスピンが互いに平行なときと反平行なときでトンネル電流が大きく異なるため、巨大磁気抵抗効果が得られる。
【0010】
このような強磁性トンネル接合素子は構造が簡単であり、しかも室温で 20%程度の大きな磁気抵抗変化率が得られるという特徴がある。しかしながら、トンネル効果を発現させるためには絶縁層の厚さを数nm以下と薄くする必要があり、そのような薄い絶縁層を均質に、しかも安定して作製することは困難であるため、抵抗や磁気抵抗変化率のバラツキが大きくなってしまうという問題がある。また、絶縁層の抵抗が高すぎると、これを磁気ヘッドなどに用いるために微細化した場合、一般に素子の高速動作が得られず、また雑音が増大してS/N比の大きい素子が得られないなどの問題が予測されている。
【0011】
一方、スピンバルブ膜や強磁性トンネル接合を利用した磁気記憶素子も知られている。この場合、 2つの磁性層のうち一方を記録層とし、他方を読出し層としている。従って、記録、再生のいずれの場合にもスピンを反転させる必要があり、そのための磁界印加用電流源が必要になる。
【0012】
さらに、強磁性体を用いた 3端子素子、いわゆるスピントランジスタと称するものが知られている。これは金属磁性体/金属非磁性体/金属磁性体の 3層構造を有している。第1の金属磁性体と金属非磁性体との間に電圧を印加すると、第2の金属磁性体と金属非磁性体との間に出力電圧が発生し、かつその出力電圧は第1および第2の金属磁性体のスピンが互いに平行なときと反平行なときとで大きさが同じで符号が逆になるというものである(J.Appl. Phys.79. 4727(1996))。しかし、このスピントランジスタは全て金属でできているため、出力電圧がナノボルト程度と非常に小さく、また電流増幅作用は有していない。
【0013】
また、最近クーロンブロッケード効果により磁気抵抗効果が増大することが見出されている(J.Phys. Soc. Jpn. 66, 1261(1997))。小さな容量をもつ 2重トンネル接合において、電子を 1個トンネルさせるとEc =e2 /2Cだけエネルギーが増大し、Cが小さければEc は非常に大きくなり、電子 1個と言えどもトンネルできない。これをクーロンブロッケードと言う。しかし、このようなクーロンブロッケード状態でも高次のトンネル電流は流れ、これは協同トンネルと呼ばれる。この状態では、抵抗は 2つのトンネル接合抵抗の積に比例するので、磁気抵抗効果は増大する。
【0014】
従来から、電子あるいはホールの伝導を利用した素子としては半導体素子が知られており、種々の電子回路やメモリ素子など、非常に多くの分野で利用されている。しかし、半導体素子は電子の電荷のみを利用したものであり、電子のスピンは利用していない。
【0015】
また、金属層と誘電体層、あるいは異なる半導体のへテロエピタキシャル層からなる積層膜において、金属層あるいは半導体層に離散的なエネルギー準位が形成され、そのエネルギー準位を経由してトンネル伝導する、いわゆる共鳴トンネル効果を利用した素子も知られている。しかし、これらの素子も電子の電荷のみを利用したものであり、電子のスピンは利用していない。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、これまでの電子伝導を利用した半導体素子や共鳴トンネル効果素子は、いずれも電子の電荷のみを利用したものであり、電子のスピンは利用していない。
【0017】
一方、電子のスピンを利用した伝導素子としては、巨大磁気抵抗効果を示すスピンバルブ素子、それを利用した磁気センサ、磁気ヘッド、磁気記憶素子、あるいは強磁性トンネル接合を利用した磁気ヘッドや磁気記憶素子などが知られている。これらは磁気抵抗変化率が 10%未満と小さいために再生感度に限界があり、また出力電圧が小さいという問題を有している。特に、磁気記憶素子では記録、再生のいずれの場合にもスピンを反転させる必要があり、そのための磁界印加用の電流源が必要になるという煩雑さがある。
【0018】
また、金属磁性体/金属非磁性体/金属磁性体の 3層構造を有する従来の 3端子素子(スピントランジスタ素子)は、出力電圧が極端に小さく実用化が困難であり、また電流増幅作用も有していない。
【0019】
本発明は、従来の電子伝導素子とは全く異なる電子のスピンを利用した電子伝導素子を提供するものであり、しかも磁性体中に形成された離散的エネルギー準位を利用することで、極めて大きな磁気抵抗変化率が室温で得られ、さらにその離散的エネルギー準位を電圧によって制御することによって、増幅機能を持たせたスピン依存伝導素子を提供することを目的としている。さらには、そのようなスピン依存伝導素子を用いた電子部品および磁気部品を提供することを目的としている。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、強磁性微粒子を誘電体マトリックス中に分散させたグラニュラー磁性層と、このグラニュラー磁性層に近接配置された強磁性層との間にトンネル電流を流す磁気素子に関する研究を進めた結果、トンネル電流を制御することにより磁気抵抗を大幅に制御できることを見出した。さらに、これはスピン依存共鳴トンネル効果を起源とするものであることを検証した。本発明はこのような知見および検証結果に基づくものである。
【0021】
上記したスピン依存共鳴トンネル効果は、 2重以上の多重トンネル接合によるものである。従って、グラニュラー磁性層を用いた場合以外の、強磁性層と誘電体層あるいは強磁性層と半導体層からなる多重トンネル接合においても、同様の効果が得られる。スピン依存共鳴トンネル効果が発現するためには、多重トンネル接合における強磁性体の少なくとも一つに、離散的エネルギー準位が形成されなければならない。
【0022】
本発明は上記したような新たな知見に基づくものであり、強磁性層(あるいはグラニュラー磁性層)内に生じた離散的エネルギー準泣を外部電圧により制御する電極を設けたスピン依存伝導素子と、それを用いた応用部品、応用装置を提供するものである。
【0023】
すなわち、本発明における第1のスピン依存伝導素子は、請求項1に記載したように、厚さが 5nm 以下の1層以上の強磁性層と、少なくとも1層が強磁性体からなる2層以上の電極層と、前記強磁性層および電極層間に2重以上の多重トンネル接合が形成されるように、前記強磁性層および電極層と交互に積層配置された誘電体または半導体からなる2層以上のトンネル層と、前記強磁性層にバイアス電圧を印加する電極とを有する 3 端子素子構造を具備し、前記強磁性層に離散的なエネルギー準位が形成されており、かつ前記電極層間に電圧を印加して前記多重トンネル接合にトンネル電流を流すと共に、前記電極に印加するバイアス電圧で前記強磁性層の離散的なエネルギー準位を制御することを特徴としている。
【0024】
本発明における第2のスピン依存伝導素子は、請求項2に記載したように、誘電体マトリックス中に分散させた強磁性微粒子を有し、かつ保磁力を持つ 1層以上のグラニュラー磁性層と、前記グラニュラー磁性層との間に 2重以上の多重トンネル接合が形成されるように、前記グラニュラー磁性層と近接配置された少なくとも 1層が強磁性体からなる 2層以上の電極層とを具備し、前記グラニュラー磁性層に静電エネルギーに基づく離散的なエネルギー準位が形成されており、かつ前記エネルギー準位を制御するための電極を有することを特徴としている。
【0025】
本発明のスピン依存伝導素子は、請求項3に記載したように、前記多重トンネル接合がスピン依存共鳴トンネル効果を示すことを特徴とするものである。さらに、請求項4および請求項5に記載したように、前記強磁性層(あるいはグラニュラー磁性層)と前記強磁性体からなる電極層のうち、一方のスピンの方向を変化させることにより、スピン依存共鳴トンネル効果に基づく磁気抵抗効果を発現させるものである。本発明のスピン依存伝導素子は3端子素子構造を具備する。
【0026】
また、本発明の電子部品および磁気部品は、上述した本発明スピン依存伝導素子を具備することを特徴としている。同様に、本発明の磁気ヘッドおよび磁気記憶素子は、上述した本発明スピン依存伝導素子を具備することを特徴としている。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0028】
まず、本発明のスピン依存伝導素子の基本構成および本発明の基本となるスピン依存共鳴トンネル効果について説明する。なお、以下では簡単のために 2重トンネル接合について、しかも誘電体を用いた場合について示す。この結果は多重トンネル接合および半導体を用いた場合に拡張できることは容易に考察できる。図1(a)は本発明の第1のスピン依存伝導素子の基本構成を示す図である。図1(a)に示すスピン依存伝導素子は、第1の強磁性層1/誘電体層2/第2の強磁性層3/誘電体層4/第3の強磁性層5からなる積層膜を有している。この積層膜においては、誘電体層2、4を介して、 3層の強磁性層1、3、5間に2重トンネル接合が形成されている。
【0029】
3層の強磁性層1、3、5のうち、第1および第3の強磁性層1、5は電極層である。なお、後述するように、トンネル電流の出口側に当る電極層(5)は強磁性体に限らず、非磁性金属などで構成してもよい。また、第2の強磁性層3は2つの薄い誘電体層2、4、すなわち 2つのトンネル層によって挟まれており、各誘電体層2、4を介して第1の強磁性層1と第3の強磁性層5との間にそれぞれトンネル電流が流れるように構成されている。なお、図中6は電極である。
【0030】
このような構造において、第2の強磁性層3が十分に薄い場合には、図1(b)に示すように、量子効果により第2の強磁性層3にスピンに依存した離散的なエネルギー準位が形成される。すなわち、第2の強磁性層3の離散的なエネルギー準位は交換相互作用のためにスピン分裂しており、上向きスピン(↑)と下向きスピン(↓)ではエネルギーが交換エネルギーγの分だけ異なっている。
【0031】
今、図1(a)に示したように、第1の強磁性層1と第2の強磁性層3との間に電圧を印加すると共に、第2の強磁性層3と第3の強磁性層5との間に逆符号の電圧を印加する。すると、薄い誘電体層(トンネル層)2を介して第1の強磁性層1と第2の強磁性層3との間にトンネル電流が流れる。そして、第1の強磁性層1と第3の強磁性層5に加えた電圧Vが適当な値のとき、第2の強磁性層3内の上向きスピン(↑)または下向きスピン(↓)の離散的エネルギー準位のうちの 1つ(図1(b)では↑スピン)が第1の強磁性層1の伝導電子のエネルギーと同じレベル(共鳴状態)になる。
【0032】
そうすると、共鳴状態にある離散的エネルギー準位のスピンと同じ向きのスピンを持つ第1の強磁性層1中の伝導電子は、誘電体層2、4により反射されることなく、100%の透過率をもって第1の強磁性層1から第3の強磁性層5へトンネル伝導することができる。一方、それとは反対のスピンを持つ伝導電子は、トンネル伝導することができない。これがスピン依存共鳴トンネル効果である。
【0033】
強磁性体ではフェルミ準位近傍の電子のみが伝導に寄与し、しかもその伝導電子の数はスピンによって異なる。従って、第1の強磁性層1と第2の強磁性層3の磁化が互いに平行なときと反平行なときでは、共鳴準位を経てトンネルする電子の数が異なる。それゆえ、例えば第2の強磁性層3の磁化を固定し、第1の強磁性層1の磁化を反転させれば、両者でトンネル電流が大きく異なるため、スピン依存共鳴トンネル効果に基づく非常に大きな磁気抵抗効果が得られる。第3の強磁性層5からなる電極層はトンネル電流が流れ得るものであればよく、強磁性体に限らず非磁性金属などからなる電極層を使用することができる。
【0034】
図1は半導体を用いたトランジスタに相当し、第1の強磁性層1がエミッタ、第2の強磁性層3がベース、第3の強磁性層(あるいは非磁性電極層)5がコレクタに対応する。すなわち、エミッタ(1)とベース(3)に電圧VEBを印加するとベース電流IB が流れ,ベース(3)とコレクタ(5)に逆電圧VCBを印加するとコレクタ電流IC が流れる。コレクタ電流IC はベース電流IB よりも大きくなり、電流増幅作用を示す。
【0035】
これまでは第2の強磁性層3のスピンが第1の強磁性層1のスピンに対して平行および反平行の場合について説明したが、一般に角度θをなす場合には cosθに比例したトンネル電流が得られるので、電流値によってスピンの相対角度θを検出することができる。このように、バイアス電圧VCBを制御することによって、スピンの向きを決定することができ、また電流増幅作用を得ることができる。これらの機能によって、本発明のスピン依存伝導素子は真の意味でのスピントランジスタということができる。
【0036】
本発明の第1のスピン依存伝導素子は、例えば半導体素子における電界効果型トランジスタ(FET)のように、第2の強磁性層3にバイアス電圧を印加するための電極を有する。図2はそのような構成の一例を示している。第2の強磁性層3には、バイアス電圧を印加するための電極7が設けられている。このような構成において、第1の強磁性層(第1の電極層)1と第3の強磁性層(第2の電極層/非磁性層であってもよい)との間に電圧を印加してトンネル電流を流し、電極7から第2の強磁性層3にバイアス電圧を印加して第2の強磁性層3の離散的エネルギー準位を制御(シフト)することによって、スピン依存共鳴状態を生じさせることができる。
【0037】
さらに、本発明の第1のスピン依存伝導素子において、離散的エネルギー準位を形成する強磁性層(図1では第2の強磁性層3)は 1層に限られるものではなく、例えば図3に示すように中間の強磁性層3を多層構造(3a、3b、…3n)とすると共に、これら各強磁性層3a、3b、…3nを誘電体層9と交互に積層配置して、 3重以上の多重トンネル接合を有する構成とすることもできる。このような構成においても、中間の強磁性層3の離散的エネルギー準位を制御することとよって、スピン依存共鳴状態を生じさせることができる。
【0038】
図1〜3に示したスピン依存伝導素子において、強磁性層1、3、5の構成材料は特に限定されるものではなく、パーマロイに代表されるFe−Ni合金、強磁性を示すFe、Co、Niおよびそれらを含む合金、NiMnSb、PtMnSbのようなホイスラー合金などのハーフメタル、CrO2 、マグネタイト、 Mnペロブスカイトなどの酸化物系のハーフメタル、アモルファス合金などの種々の軟磁性材料から、Co−Pt合金、Fe−Pt合金、遷移金属−希士類合金などの硬磁性材料まで、種々の強磁性材料を使用することができる。
【0039】
また、第1および第2の強磁性層1、3のうち、例えば第1の強磁性層1のスピンの方向のみを変化させるためには、例えば強磁性体の保磁力の差を利用してもよいし、また反強磁性膜を積層配置して交換結合により強磁性層の磁化を固定するようにしてもよい。第2の強磁性層3の厚さは、上述したように量子効果によりスピンに依存した離散的なエネルギー準位が形成されるような厚さ、具体的には5nm以下とする。第1および第3の強磁性層1、5の厚さは特に限定されるものではなく、例えば0.1〜100mm程度とすることが好ましい。
【0040】
さらに、上述した実施形態ではトンネル層として誘電体層2、4を用いた場合について説明したが、この誘電体層2、4に代えて半導体層をトンネル層として使用しても同様なスピン依存伝導素子を構成することができ、また同様な作用・効果が得られる。トンネル層として用いる誘電体および半導体は特に限定されるものではなく、種々の誘電体材料および半導体材料を使用することができる。また、トンネル層の厚さは 0.5〜 5nm程度とすることが好ましい。
【0041】
上述した実施形態では、強磁性体と誘電体(または半導体)との 2重以上の多重トンネル接合を有するスピン依存伝導素子について説明したが、非磁性の誘電体マトリックス中に強磁性微粒子を分散させたグラニュラー磁性層を用いた場合においても、同様なスピン依存共鳴トンネル効果を室温で得ることができる。これが本発明の第2のスピン依存伝導素子である。
【0042】
すなわち、図4(a)に示すスピン依存伝導素子は、強磁性体からなる第1の電極層11/グラニュラー磁性層12/非磁性体からなる第2の電極層13からなる積層膜を有している。この積層膜において、グラニュラー磁性層12は誘電体マトリックス14中に強磁性微粒子15を分散させたものであり、このグラニュラー磁性層12は超常磁性を示さず、有限の保磁力を持つ強磁性体である。このグラニュラー磁性層12を挟んで、第1の電極層11と第2の電極層13とが近接配置されており、第1の電極層11とグラニュラー磁性層12およびグラニュラー磁性層12と第2の電極層13との間に、それぞれトンネル電流が流れるように構成されている。すなわち、グラニュラー磁性層12と電極層11、13との間には 2重トンネル接合が形成されている。
【0043】
なお、第2の電極層13は非磁性体に限らず強磁性体で構成してもよい。すなわち、第1および第2の電極層11、13のうち、少なくとも第1の電極層11を強磁性体で構成すればよい。また、電極層11、13とグラニュラー磁性層12とは直接積層配置することに限らず、それらの間にトンネル電流が流れる程度の厚さの絶縁膜を介在させてもよい。
【0044】
このような構造において、グラニュラー磁性層12に設けた電極16を通して、第1の電極層(強磁性体)11とグラニュラー磁性層12との間に電圧VEBを印加する。そして、グラニュラー磁性層12と第2の電極層(非磁性体)13との間に逆符号の電圧VCBを印加する。ここで、グラニュラー磁性層12中の強磁性微粒子15の大きさは十分に小さく、また周囲を誘電体マトリックス14によって囲まれているため、クーロンブロッケード効果によって強磁性微粒子15のエネルギー準位は、静電エネルギーEc =e2 /2C(eは電子の電荷、Cは粒子の容量)のために、図4(b)に示すように量子化されて離散的になる。
【0045】
従って、前述した第1の実施形態と同様に、適当な値のバイアス電圧VCBを印加すると、グラニュラー磁性層と第1の電極層(強磁性層)11との間に共鳴トンネル準位が形成される。そして、共鳴状態にあるときは磁気抵抗が小さく、共鳴から外れるとクーロンブロッケード効果により大きな磁気抵抗効果が得られる。よって、電極16により磁性粒子の静電エネルギー準位を共鳴状態からはずすように制御し、例えばグラニュラー磁性層12の磁化を固定し、強磁性層11の磁化を反転させれば、両者でトンネル電流が大きく異なるため、非常に大きな磁気抵抗効果が得られる。
【0046】
一方、電極16により磁性粒子の静電エネルギー準位を共鳴状態によるように制御するとクーロンブロッケード効果が消失し、磁気抵抗効果は減少する。このように、電極16に加える電圧を制御することで、磁気抵抗効果を制御できるという新しい機能を持たせることができる。
【0047】
第2のスピン依存伝導素子においても、前述した第1のスピン依存伝導素子と同様に、強磁性層11とグラニュラー磁性層12とのスピンの相対角度を検出することができる。また、図5に示すように、表面に絶縁層19を有する基板18上に形成したグラニュラー磁性層12にバイアス電圧を印加するための電極17を設けた構造とすることもできる。すなわち、第1の電極層11と第2の電極層13との間に電圧を印加してトンネル電流を流し、電極17からグラニュラー磁性層12にバイアス電圧を印加してグラニュラー磁性層12中の離散的エネルギー準位を制御することにより、共鳴状態を生じさせることができる。この際、グラニュラー磁性層12は図6に示すように、単一の強磁性微粒子で量子ドットを形成しているものであってもよい。図4に示した素子についても同様である。
【0048】
さらに、本発明の第2のスピン依存伝導素子において、グラニュラー磁性層は1層に限られるものではなく、グラニュラー磁性層と強磁性層とをさらに多層積層した積層膜を適用することも可能である。このような構成においても、グラニュラー磁性層の離散的エネルギー準位を制御することとよって、スピン依存共鳴状態を生じさせることができる。
【0049】
図4〜図6に示したスピン依存伝導素子において、グラニュラー磁性層12は超常磁性を示さず、有限の保磁力を有する強磁性体であるため、従来のグラニュラーGMR材料のような飽和磁界が大きいという問題はない。また、グラニュラー磁性層12は誘電体マトリックス14中に磁性微粒子15を分散させているため、誘電体層をもつ強磁性トンネル接合に比べて電気抵抗が小さく、さらにグラニュラー磁性層12の電流パス方向(膜厚方向あるいは膜面内方向)の長さ、磁性微粒子15の体積充填率、大きさ、分散状態などを制御することによって、電気抵抗を適当な値に制御できるという特徴を有してる。このため、応用に応じてスピン依存伝導素子の電気抵抗を容易に調整することができる。
【0050】
グラニュラー磁性層12は、上述したように超常磁性体でなく、有限の保磁力を持つ必要がある。誘電体マトリックス中に磁性微粒子を分散させたグラニュラー磁性材料では、バルクに比べて一般に保磁力がかなり小さくなるので、それを防ぐために、磁性微粒子15には特に磁気異方性の大きいCo、Co−Pt合金、Fe−Pt合金、遷移金属一希土類合金などを用いることが望ましい。また、トンネル障壁を一定にする意味から、これらの磁性微粒子15は層状に配列していることが望ましい。これらは 2層以上に配列させてもよい。
【0051】
また、保磁力があまり大きくないグラニュラー磁性材料を使用する場合には、グラニュラー磁性層の両端部に一対の硬磁性膜を隣接配置し、この硬磁性膜からバイアス磁界を印加することによりスピンを固定してもよい。バイアス磁界印加膜としては硬磁性膜に限らず、FeMnやIrMnなどの反強磁性膜を使用することもできる。
【0052】
グラニュラー磁性層12における磁性微粒子15の粒径は、超常磁性にならない程度の大きさ、具体的には 1nm以上とすることが望ましい。ただし、あまり磁性微粒子15が大きいと粒子間隔が増大するため、磁性微粒子7の粒径は10nm以下程度とすることが好ましい。磁性微粒子15の間隔は、それらの間でトンネル電流が流れるように 5nm以下程度とすることが好ましい。
【0053】
また、誘電体マトリックス14としては、Al2 O3 、SiO2 、MgO、 ΜgF2 、Bi2 O3 、AlN、CaF2 などの種々の誘電体材料を使用することができ、このような誘電体膜中に上記したような磁性微粒子15を分散させることでグラニュラー磁性層12が得られる。なお、上記した酸化膜、窒化膜、フッ化膜などでは、それぞれの元素の欠損が一般的に存在するが、そのような誘電体膜であっても何等問題はない。
【0054】
一方、強磁性層11としてはグラニュラー磁性層12との間で保磁力に大小関係を有していればよく、例えばパーマロイに代表されるFe−Ni合金、強磁性を示すFe、Co、Niおよびそれらを含む合金、NiMnSb、PtMnSbのようなホイスラー合金などのハーフメタル、CrO2 、マグネタイト、Mnペロブスカイトなどの酸化物系のハーフメタル、アモルファス合金などの種々の軟磁性材料から、Co−Pt合金、Fe−Pt合金、遷移金属−希士類合金などの硬磁性材料まで、種々の強磁性材料を使用することができる。
【0055】
例えば、ハーフメタルは一方のスピンバンドにエネルギーギャップが存在するので、一方向のスピンを持つ電子しか伝導に寄与しない。従って、このような材料を強磁性層11として使用することで、より大きな磁気抵抗効果を得ることができる。なお、第2の電極層13に強磁性体を使用する場合、第1の電極層(強磁性体)11と必ずしも同じ材料である必要はなく、グラニュラー磁性層12と保磁力の違いがあればよい。
【0056】
強磁性層11は単層構造に限らず、非磁性層を介して配置した 2つの強磁性層を有し、これら強磁性層の磁化を互いに反平行となるように結合させた積層膜であってもよい。このような反平行に結合させた積層膜によれば、強磁性層から磁束が外部に漏れることを防ぐことができ、好ましい形態ということができる。このような反平行に結合した強磁性層を得るためには、強磁性層と非磁性層とを交互に積層し、交換結合や静磁結合を利用すればよい。
【0057】
さらに、強磁性層と半導体層とを交互に積層した積層膜を、強磁性層11として用いることもできる。この場合には、熱や光照射によりスピンを反転させることができるため、磁界が不要になるという特徴がある。すなわち、例えば光や熱で記録し、バイアス電圧を印加することで読み出す、新しいメモリなどが実現できる。このような積層膜に用いる半導体としては、B20構造のFeSi合金や β−FeSi2 、GaAsなどを用いることができる。
【0058】
グラニュラー磁性層12および強磁性層11は、それぞれ膜面内に一軸磁気異方性を有することが望ましい。これによって、急峻な磁化反転を起こすことができると共に、磁化状態を安定して保持することができる。これらは特に磁気記憶素子に適用する場合に有効である。また、グラニュラー磁性層12および強磁性層11の膜厚は 0.5〜 100nmの範囲とすることが好ましい。このうち、グラニュラー磁性層12の膜厚はできるだけ薄い方が好ましいが、作製上均一な膜厚を維持することができ、またトンネル電流に対して悪影響を及ぼさない膜厚であればよく、例えば50nm以下であればよい。
【0060】
以上説明したように、本発明のスピン依存伝導素子は電流増幅作用を有し、かつバイアス電圧が半導体トランジスタに比べて非常に小さく、従って省電力化できる。また、基本的に金属を用いているので、伝導電子の数が半導体に比べて圧倒的に多い。よって、素子サイズが微細化してもキャリアの数が多いので問題ないというような特徴を有する。本発明のスピン依存伝導素子は、磁気抵抗効果型磁気ヘッド、磁界センサ、磁気記憶素子などの磁気抵抗効果を利用した磁気部品および電子部品に限らず、半導体を用いたトランジスタと同様の機能を有することから、半導体が用いられてきた種々の電子部品や電子装置に適用することが可能である。また、半導体トランジスタなどの従来の半導体素子と組み合わせて使用することも可能である。
【0061】
次に、本発明のスピン依存伝導電子の具体的な素子構造について、図7および図8を参照して、 3端子素子を例として説明する。なお、図7および図8ではグラニュラー磁性層を用いたスピン依存伝導素子を示したが、強磁性層に離散的エネルギー準位が形成されるスピン依存伝導素子も同様な素子構造とすることができる。
【0062】
まず、図7に示す 3端子構造のスピン依存伝導電子は、基板21上に導体層22、強磁性層23(23a、23b)、グラニュラー磁性層24および金属層25が順に積層されている。すなわち、グラニュラー磁性層24が強磁性層23aとゲート電極25とにより挟まれた構造を有している。
【0063】
ここで、強磁性層23bは強磁性層23aにバイアス磁界を印加し、その保磁力を小さくする機能をもたせたものであり、特に形成しなくてもよい。導体層22はそれに流す電流の向きを変えることによって、強磁性層23のスピンの向きを制御する役割を有する。グラニュラー磁性層24には2つの電極26、27によりトンネル電流が流れるようになっている。なお、図中28は絶縁膜、29は保護膜を兼ねた絶縁膜である。なお、電極26、26′および電極27、27′はそれぞれ一方のみであってもよい。
【0064】
グラニュラー磁性層24中の磁性微粒子はサイズが小さく、そのためクーロンブロッケード効果によって静電エネルギーに基づく離散的エネルギー準位が形成されている。このような構造において、電極27と電極26の間(または電極27′と電極26′の間)に電圧を印加するとトンネル電流が流れる。そして、ゲート電極25にバイアス電圧を印加すると、グラニュラー磁性層24の離散的エネルギー準位を制御することができる。
【0065】
この際、バイアス電圧を適当な値に制御すると、前述したようにグラニュラー磁性層24に形成された離散的エネルギー準位がシフトし、強磁性層23の伝導電子のエネルギーと異なるように設定できる。そして、強磁性層23のスピンを反転させることによって、大きな磁気抵抗効果が得られる。一方、離散的エネルギー準位を強磁性層23の伝道電子のエネルギーと同レベルに制御すると共鳴トンネル効果が生じ、このとき磁気抵抗は大きく減少する。すなわち、外部磁界を印加することなく、バイアス電圧を印加するだけで、トンネル電流の大きさからスピンの向きを判定することができる。
【0066】
図7は強磁性層とグラニュラー磁性層とを基板面に対して垂直方向に積層した素子構造であるが、図8に示すように、グラニュラー磁性層24を少なくとも一方が強磁性体からなる電極(30a、30b)で挟み、それらが基板面に対してプラーナ型に配置された構造とすることも可能である。この場合、基板21表面には絶縁層31を形成し、この絶縁層31を介してグラニュラー磁性層24を形成する。このグラニュラー磁性層24上には薄い絶縁層32を介して電極33を形成し、電極33と基板21との間にバイアス電圧を印加する。これは半導体トランジスタでいうところのFETに相当する。
【0067】
図8に示すような素子構造においても、適当なバイアス電圧を印加するとグラニュラー磁性層24に形成された離散的エネルギー準位がシフトし、上述したように強磁性層(30a)の伝導電子のエネルギーと異なるとき大きくスピンに依存したトンネル電流が流れる。そして、強磁性層30aとグラニュラー磁性層24のうち、保磁力の小さい方のスピンを反転させることによって大きな磁気抵抗効果が得られる。なお、図8では導体34に電流を流して、強磁性層30aのスピンを反転させる構造になっている。図中35は絶縁層である。すなわち、外部磁場を印加することなく、電極33にバイアス電圧を印加するだけで、トンネル電流の大きさからスピンの向きを判定することができる。
【0068】
上述した素子によるスピンの向きの判定は、従来の磁気抵抗効果素子と同様に、磁気ヘッドや磁気センサとして利用することができ、さらには磁気記憶素子の記憶情報(スピン情報)読み出しに利用することができる。また、本発明のスピン依存伝導素子を磁気記憶素子に用いる場合には、強磁性層(あるいはグラニュラー磁性膜)に書き込みを行う必要があるが、それは強磁性層(あるいはグラニュラー磁性層)に対して絶縁層を介して導体を近接させ、それに流す電流の向きによりスピンの向きを制御し、それを1,0とすればよい。このようにして、本発明の磁気部品が構成される。また同様に、本発明のスピン依存伝導素子を用いて、従来半導体が用いられてきた種々の電子部品を構成することができる。
【0069】
なお、本発明のスピン依存伝導素子では、磁性材料または非磁性材料からなる下地層、または非磁性体のオーバーコー卜層などを設けてもよい。また、本発明のスピン依存伝導素子は典型的には薄膜状であり、分子線エピタキシー(MBE)法、各種スパッタ法、蒸着法など通常の薄膜形成装置を用いて作製することができる。さらに、本発明に係わる積層膜を成膜するための基板としては、ガラス、セラミックス、金属、半導体などの単結晶体および多結晶体など、任意のものを用いることができる。特に、Si基板を用いれば、例えばゲート電極を形成し易いなど、従来の半導体技術を利用することができる。
【0070】
【実施例】
次に,本発明の具体的な実施例およびその評価結果について説明する。
【0071】
実施例1
図7に示した構造の 3端子素子(スピントランジスタ)を作製した。薄膜は全てスパッタ法を用い成膜した。まず、熱酸化Si基板21上に導体層22としてCu膜を成膜し、引き続き強磁性層23b、23a膜としてそれぞれ20nm厚の Feおよび10nm厚のCo80Pt20を形成した。次に、この強磁性層23上に膜厚10nmのグラニュラー磁性層24を形成し、さらに電極27、27′としてAu膜、アルミナ絶縁膜28、電極26、26′としてAu膜、ゲート電極25としてCo9 Fe合金膜、保護膜29としてアルミナ絶縁膜をそれぞれ成膜した。なお、図7に示した素子構造はリフトオフ法を用いて作製した。
【0072】
グラニュラー磁性層は、Co80Pt20合金とSiO2 をターゲットとして、 Arガス圧2mTorr、基板バイアス400Wの条件下で、Co80Pt20とSiO2 を同時スパッタして作製した。得られた膜は、SiO2 中にCo80Pt20合金粒子が約 50%の割合で層状に分散したグラニュラー構造になっていることを、膜断面の透過型電子顕微鏡観察により確認した。Co80Pt20合金粒子の粒径は約 5nm、粒子間距離は約 1.5nmであった。また、試料振動型磁力計を用いて磁化測定を行った結果、保磁力は 600Oe と大きく、また明瞭なヒステリシスが得られ、超常磁性的挙動は観測されなかった。
【0073】
このようにして作製した3端子素子(スピントランジスタ)を以下のようにして評価した。まず、2つの電極26、27間に電圧を印加してグラニュラー磁性層24を流れる電流Icを測定し、同時にゲート電極25にバイアス電圧VGを印加し、グラニュラー磁性層24をトンネルして電極26に流れる電流ICをバイアス電圧の関数として測定した。また、その際に導体層22に電流を流し、その向きを変えることによって、強磁性層23のスピンの向きを変えた。
【0074】
図9に、VG に対するIC の変化を示す。なお、ここでは強磁性層23とグラニュラー磁性層24のスピンは互いに平行である。VG が適当な値に達したときIC が急増しており、共鳴トンネル電流が流れたことを示している。
【0075】
図10は、VG = 0の場合の外部磁場によるIC の変化を抵抗変化として表したものである。外部磁界により抵抗が大きく変化し、その変化率すなわち磁気抵抗変化率(飽和磁場下における抵抗に対する抵抗変化の比)△R/Rs は、 45%と非常に大きいことが分かる。一方、VG =11mVのときの磁気抵抗変化率は 15%であった。これは本発明のスピン依存伝導素子を磁気ヘッド、磁気センサ、磁気記憶素子などに適用できることを示していると共に、ゲート電圧によって磁気抵抗を制御できることを示している。
【0076】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のスピン依存伝導素子によれば、電気抵抗を広い範囲で制御することができ、かつ小さな磁場で大きい磁気抵抗変化率を容易に得ることができる。従って、本発明のスピン依存伝導素子を用いることによって、出力電圧の大きい高感度の磁気ヘッドや磁界センサなどを構成することが可能になる。また、磁気記憶素子として利用すれば、外部磁界を印加することなく記憶情報を読み出すことができ、かつ高速で出力の大きい不揮発性の固体磁気メモリを提供することができる。さらに、本発明のスピン依存伝導素子は電流増幅機能を有することから、従来の半導体を用いた種々の電子部品や電子装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1のスピン依存伝導素子の基本構成および強磁性 2重トンネル接合のスピン依存共鳴トンネル効果を説明するための図である。
【図2】本発明の第1のスピン依存伝導素子の他の構成を模式的に示す図である。
【図3】図1に示すスピン依存伝導素子の変形例を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第2のスピン依存伝導素子の基本構成およびグラニュラー磁性層と強磁性層とからなる 2重共鳴トンネル接合のスピン依存共鳴トンネル効果を説明するための図である。
【図5】本発明の第2のスピン依存伝導素子の他の構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2のスピン依存伝導素子のさらに他の構成を模式的に示す図である。
【図7】本発明のスピン依存伝導素子を適用した 3端子素子(スピントランジスタ)の一構成例を示す断面図である。
【図8】本発明のスピン依存伝導素子を適用した 3端子素子(スピントランジスタ)の他の構成例を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例による 3端子素子(スピントランジスタ)のバイアス電圧VG に対するトンネル電流IC の変化の測定結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例による 3端子素子(スピントランジスタ)の磁気抵抗変化率の磁界依存性を示す図である。
【符号の説明】
1……第1の強磁性層(第1の電極層)
2、4……誘電体層(トンネル層)
3……第2の強磁性層
5……第3の強磁性層(第2の電極層)
6、7、8、16、17、18……電極
11……強磁性層(第1の電極層)
12……グラニュラー磁性層
13……非磁性金属層(第2の電極層)
Claims (10)
- 厚さが 5nm 以下の1層以上の強磁性層と、少なくとも1層が強磁性体からなる2層以上の電極層と、前記強磁性層および電極層間に2重以上の多重トンネル接合が形成されるように、前記強磁性層および電極層と交互に積層配置された誘電体または半導体からなる2層以上のトンネル層と、前記強磁性層にバイアス電圧を印加する電極とを有する 3 端子素子構造を具備し、
前記強磁性層に離散的なエネルギー準位が形成されており、かつ前記電極層間に電圧を印加して前記多重トンネル接合にトンネル電流を流すと共に、前記電極に印加するバイアス電圧で前記強磁性層の離散的なエネルギー準位を制御することを特徴とするスピン依存伝導素子。 - 誘電体マトリックス中に分散させた強磁性微粒子を有し、かつ保磁力を持つ1層以上のグラニュラー磁性層と、前記グラニュラー磁性層との間に2重以上の多重トンネル接合が形成されるように、前記グラニュラー磁性層と近接配置された少なくとも1層が強磁性体からなる2層以上の電極層とを具備し、
前記グラニュラー磁性層に静電エネルギーに基づく離散的なエネルギー準位が形成されており、かつ前記エネルギー準位を制御するための電極を有することを特徴とするスピン依存伝導素子。 - 請求項1または請求項2記載のスピン依存伝導素子において、
前記多重トンネル接合はスピン依存共鳴トンネル効果を示すことを特徴とするスピン依存伝導素子。 - 請求項3記載のスピン依存伝導素子において、
前記強磁性層と前記強磁性体からなる電極層のうち、一方のスピンの方向を変化させることにより、前記スピン依存共鳴トンネル効果に基づく磁気抵抗効果を発現させることを特徴とするスピン依存伝導素子。 - 請求項3記載のスピン依存伝導素子において、
前記グラニュラー磁性層と前記強磁性体からなる電極層のうち、一方のスピンの方向を変化させることにより、前記スピン依存共鳴トンネル効果に基づく磁気抵抗効果を発現させることを特徴とするスピン依存伝導素子。 - 請求項1または請求項3記載のスピン依存伝導素子において、
前記多重トンネル接合は電流増幅作用を有することを特徴とするスピン依存伝導素子。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載のスピン依存伝導素子を具備することを特徴とする電子部品。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載のスピン依存伝導素子を具備することを特徴とする磁気部品。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載のスピン依存伝導素子を具備することを特徴とする磁気ヘッド。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載のスピン依存伝導素子を具備することを特徴とする磁気記憶素子。
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