以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書中、以下で例示する材料は、特に断らない限り、条件に該当する範囲で、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。潤滑油組成物中の各成分の含有量は、潤滑油組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、潤滑油組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、特に断らない限り、構成元素として窒素元素を含む成分における窒素元素の含有量は、JIS K 2609に準拠して化学発光法により測定された値を意味する。また、特に断らない限り、構成元素としてリン元素を含む成分におけるリン元素の含有量は、JIS K 0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定された値を意味する。
潤滑油組成物全量を基準としたときの、構成元素として窒素元素を含む成分の窒素元素換算での含有量は、上記の窒素元素の含有量と当該成分の仕込み量とから算出することができ、潤滑油組成物に対して、上記化学発光法を適用することによっても求めることができる。また、潤滑油組成物全量を基準としたときの、構成元素としてリン元素を含む成分のリン元素換算での含有量は、上記のリン元素の含有量と当該成分の仕込み量とから算出することができるし、潤滑油組成物に対して、上記誘導結合プラズマ発光分光分析法を適用することによっても求めることができる。
[潤滑油組成物]
潤滑油組成物は、所定の潤滑油基油と、2,2,6,6-テトラアルキル-4-ピペリジル基を有するヒンダードアミン化合物(以下、単に「ヒンダードアミン化合物」という場合がある。)と、一般式(1)で表されるジアルキルジチオリン酸銅(I)(以下、単に「ジアルキルジチオリン酸銅(I)」という場合がある。)とを含有する。潤滑油組成物は、一般式(4)で表される有機リン含有スルフィド化合物(以下、単に「有機リン含有スルフィド化合物」という場合がある。)をさらに含有していてもよい。
<潤滑油基油>
潤滑油基油は、水素化精製鉱油全量中の硫黄分の含有量が300質量ppm以下である水素化精製鉱油を含む。
本実施形態の水素化精製鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留又は減圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、少なくとも水素化精製の精製手段を適用することによって得られる、パラフィン系基油、ナフテン系基油等が挙げられる。精製手段は、水素化精製に加えて、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、接触脱ろう、硫酸洗浄、白土処理等の1種若しくは2種以上の精製手段をさらに組み合わせてもよい。
API基油分類のグループII基油(以下、「APIグループII基油」という場合がある。)及びグループIII基油(以下、「APIグループIII基油」という場合がある。)は、通常、水素化精製の精製手段を経て製造される。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%(300質量ppm)以下、飽和分が90質量%以上、かつ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%(300質量ppm)以下、飽和分が90質量%以上、かつ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。そのため、本実施形態の水素化精製鉱油は、APIグループII基油又はAPIグループIII基油であり得る。
本実施形態の水素化精製鉱油は、1種の水素化精製鉱油からなるものであってよく、2種以上の水素化精製鉱油からなる混合基油であってもよい。2種以上の水素化精製鉱油を含む混合基油は、同一のAPI分類の水素化精製鉱油を混合してなる混合基油であってよく、異なるAPI分類の水素化精製鉱油を混合してなる混合基油であってもよい。水素化精製鉱油は、より酸化安定性を高める観点から、好ましくは、1種のAPIグループIII基油又は2種以上のAPIグループIII基油を含む混合基油である。
本実施形態の水素化精製鉱油全量中の硫黄分の含有量は、酸化安定性を高める観点から、300質量ppm以下である。水素化精製鉱油中の硫黄分の含有量は、好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは50質量ppm以下、さらに好ましくは10質量ppm以下である。
本実施形態の水素化精製鉱油は、潤滑油基油の主成分である。該水素化精製鉱油の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。潤滑油基油は、水素化精製鉱油のみから構成されるものであってもよい。
潤滑油基油は、水素化精製鉱油に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の基油を含んでいてもよい。その他の基油としては、例えば、API基油分類のグループI基油(以下、「APIグループI基油」という場合がある。)、グループIV基油(以下、「APIグループIV基油」という場合がある。)、グループV基油(以下、「APIグループV基油」という場合がある。)等が挙げられる。APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%(300質量ppm)超及び/又は飽和分が90質量%未満であって、かつ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIV基油は、ポリα-オレフィン(PAO)基油である。APIグループV基油は、APIグループI基油、APIグループII基油、APIグループIII基油、及びAPIグループIV基油以外の基油であり、その好ましい例としては、エステル系基油が挙げられる。
APIグループIV基油としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、及びこれらの水素化物等が挙げられる。
APIグループV基油としては、例えば、モノエステル(例えば、ブチルステアレート、オクチルラウレート、2-エチルヘキシルオレート等)、ジエステル(例えばジトリデシルグルタレート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート等)、ポリエステル(例えば、トリメリット酸エステル等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)などが挙げられる。
潤滑油基油(全基油)の100℃における動粘度は、耐摩耗性および耐疲労性を高める観点から、好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは4.0mm2/s以上であり、ポンピングの抵抗を低減して省エネルギー性を高める観点から、好ましくは17.0mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下である。潤滑油基油(全基油)の100℃における動粘度は、一実施形態において、2.0~17.0mm2/s又は4.0~12.5mm2/sであり得る。
潤滑油基油(全基油)の40℃における動粘度は、耐摩耗性および耐疲労性を高める観点から、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上であり、ポンピングの抵抗を低減して省エネルギー性を高める観点から、好ましくは150mm2/s以下、より好ましくは100mm2/s以下である。潤滑油基油(全基油)の40℃における動粘度は、一実施形態において、10~150mm2/s又は20~100mm2/sであり得る。
潤滑油基油(全基油)の粘度指数は、低温流動性及び省エネルギー性の観点から、好ましくは80以上、より好ましくは90以上である。潤滑油基油(全基油)の粘度指数は、一実施形態において、100以上、110以上、又は120以上であってもよい。潤滑油基油(全基油)の粘度指数の上限は、特に制限されないが、通常、150以下であり、例えば、145以下であり得る。
なお、本明細書において、100℃又は40℃における動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定された100℃又は40℃での動粘度を意味する。また、粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
潤滑油基油(全基油)中の硫黄分の含有量は、酸化安定性をより高める観点から、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、さらに好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下である。
潤滑油基油(全基油)の流動点は、潤滑油組成物全体の低温流動性の観点から、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、さらに好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-17.5℃以下、最も好ましくは-20.0℃以下である。なお、本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987に準拠して測定された流動点を意味する。
潤滑油基油(全基油)は、潤滑油組成物の主成分であり、下記の添加剤の含有量の残部を構成する。潤滑油基油(全基油)の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
<ヒンダードアミン化合物>
ヒンダードアミン化合物は、母体骨格としてのアミンにおいて、アミンの隣接位の少なくとも一方に立体障害性(ヒンダード)置換基(例えば、炭化水素基)を有するアミン化合物である。ヒンダードアミン化合物は、HALS(Hindered Amine Light Stabilizers)と称される化合物を好ましく用いることができる。ヒンダードアミン化合物は、好ましくは、下記一般式(2A)で表される化合物又は下記一般式(2B)で表される化合物であり、より好ましくは下記一般式(2A)で表される化合物である。ヒンダードアミン化合物は、例えば、酸化防止剤として作用し得る。
[式(2A)中、R
11、R
12、R
13、及びR
14は、それぞれ独立に、炭素原子数1~4のアルキル基を示し、X
1は、1価の有機基を示す。]
R11、R12、R13、及びR14は、直鎖状のアルキル基であってもよく、分岐状のアルキル基であってもよい。R11、R12、R13、及びR14は、好ましくは同一のアルキル基である。R11、R12、R13、及びR14は、好ましくはメチル基である。すなわち、ヒンダードアミン化合物は、一実施形態において、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル基を有する化合物であり得る。
X1としての1価の有機基としては、例えば、アシロキシ基(R15COO-)、アルコキシ基(R15O-)、アルキルアミノ基(R15NH-)、アシルアミノ基(R15CONH-)等が挙げられる。R15は、炭素原子数1~25のアルキル基を示す。R15は、直鎖状のアルキル基であってもよく、分岐状のアルキル基であってもよい。アルキル基の炭素原子数は、1~25であり、2以上、5以上、8以上、又は10以上であってもよく、22以下、20以下、18以下、又は16以下であってもよい。
一般式(2A)で表される化合物は、一実施形態において、下記一般式(3)で表される化合物であり得る。
[式(3)中、R
11、R
12、R
13、R
14、及びR
15は、上記と同義である。]
一般式(3)で表される化合物は、例えば、下記一般式(3a)で表されるアルコールと下記一般式(3b)で表されるカルボン酸とを反応させることによって得ることができる。
[式(2B)中、R
11、R
12、R
13、及びR
14は、上記と同義である。X
2は、2価の有機基を示す。]
X2としての2価の有機基としては、例えば、ヒドロカルビレンビス(カルボニルオキシ)基(-OOC-R16-COO-)、ヒドロカルビレンジアミノ基(-HN-R16-NH-)、ヒドロカルビレンビス(カルボニルアミノ)基(-HNCO-R16-CONH-)等が挙げられる。R16は、炭素原子数1~30のヒドロカルビレン基を示し、ヒドロカルビレン基はアルキレン基であってよい。ヒドロカルビレン基の炭素原子数は、1~24又は1~20であってよい。
ヒンダードアミン化合物の含有量は、酸化安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量を基準として、窒素元素換算で、好ましくは10~400質量ppmである。ヒンダードアミン化合物の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、窒素元素換算で、より好ましくは20質量ppm以上、さらに好ましくは30質量ppm以上、特に好ましくは40質量ppm以上であり、より好ましくは300質量ppm以下、さらに好ましくは250質量ppm以下、特に好ましくは200質量ppm以下である。ヒンダードアミン化合物の含有量は、一実施形態において、潤滑油組成物全量を基準として、窒素元素換算で、より好ましくは20~300質量ppm、さらに好ましくは30~250質量ppm、特に好ましくは40~200質量ppmである。
<ジアルキルジチオリン酸銅(I)>
ジアルキルジチオリン酸銅(I)は、下記一般式(1)で表される化合物である。ジアルキルジチオリン酸銅(I)は、例えば、酸化防止剤、摩耗防止剤等として作用し得る。
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~18のアルキル基を示す。]
R1及びR2は、直鎖状のアルキル基であってもよく、分岐状のアルキル基であってもよい。アルキル基の炭素原子数は、2~18であり、溶解性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、低温流動性の観点から、好ましくは15以下、より好ましくは12以下である。
一般式(1)で表される化合物は、例えば、下記一般式(1a)で表される化合物(ジアルキルジチオリン酸化合物)と銅化合物とを反応させることによって得ることができる。
[式(1a)中、R
1及びR
2は、上記と同義である。]
一般式(1a)で表される化合物は、例えば、R1及びR2に対応するアルキル基を有するアルコールと五硫化二リン(P2S5)との反応によって合成することができる。
銅化合物としては、例えば、銅(I)化合物、銅(II)化合物等が挙げられる。銅(I)化合物としては、例えば、銅(I)の有機酸塩(銅の酢酸等の一価脂肪酸塩等)、銅(I)の無機塩(酸化銅(I)、水酸化銅(I)、塩化銅(I)等)などが挙げられる。銅(II)化合物としては、例えば、銅(II)の有機酸塩(銅の酢酸等の一価脂肪酸塩等)、銅(II)の無機塩(酸化銅(II)、水酸化銅(II)、塩化銅(II)等)などが挙げられる。これらの銅化合物は水和水を含んでいてもよい。これらの銅化合物は市販品を用いることができる。
一般式(1a)で表される化合物と銅化合物との反応は、一般式(1a)で表される化合物の有機溶媒溶液と、銅化合物とを混合することにより行うことができる。有機溶媒は、一般式(1a)で表される化合物を溶解可能であれば特に制限されず、一般的に使用される有機溶媒を使用することができる。有機溶媒は、1種の有機溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いることができる。
銅化合物として銅(I)化合物を使用する場合、一般式(1a)で表される化合物と銅(I)化合物との反応によって、一般式(1)で表される化合物(ジアルキルジチオリン酸銅(I))を得ることができる。一般式(1a)で表される化合物と銅(I)イオンとのモル比(一般式(1a)で表される化合物:銅(I)イオン)は、例えば、約1:1とすることができる。反応温度は、例えば、25~80℃であってよい。反応時間は、例えば、1~4時間であってよい。反応雰囲気は、特に制限されず、大気雰囲気であってよい。
一方、銅化合物として銅(II)化合物を使用する場合、本発明者らの検討によると、一般式(1a)で表される化合物と銅(II)化合物との反応によって、一般式(1)で表される化合物(ジアルキルジチオリン酸銅(I))と一般式(1A)で表される化合物(ジアルキルホスホノチオイルスルフィド化合物、後述の一般式(4)で表される化合物に相当する化合物)との混合物が主に得られることが見出された。
[式(1A)中、R
1及びR
2は、上記と同義である。n1は、1~4を示す。]
n1は、1~4であり、好ましくは2である。有機リン含有スルフィド化合物は、n1が1~4のいずれかの化合物を単独で使用してもよく、n1が1である化合物、n1が2である化合物、n1が3である化合物、及びn1が4である化合物からなる群より選ばれる少なくとも2種を含む混合物として使用してもよい。混合物においては、n1が2である化合物が主成分であり得る。
銅化合物として銅(II)化合物を使用する場合、一般式(1a)で表される化合物と銅(II)イオンとのモル比(一般式(1a)で表される化合物:銅(II)イオン)は、例えば、約2:1とすることができる。銅(II)化合物は、一般式(1a)で表される化合物に対して小過剰量用いてもよく、一般式(1a)で表される化合物と銅(II)イオンとのモル比は、例えば、1.5~1.9:1であってもよい。反応温度は、例えば、25~80℃であってよい。反応時間は、例えば、1~4時間であってよい。反応雰囲気は、特に制限されず、大気雰囲気であってよい。
一般式(1)で表される化合物と一般式(1A)で表される化合物との混合物の生成プロセスにおいては、下記一般式(1X)で表される化合物である、ジアルキルジチオリン酸銅(II)を経由する反応機構も想定される。そのため、当該混合物は、一般式(1X)で表される化合物(ジアルキルジチオリン酸銅(II))を含み得る。
[式(1X)中、R
1及びR
2は、上記と同義である。]
ジアルキルジチオリン酸銅(I)は、一般式(1)で表される化合物と一般式(1A)で表される化合物との混合物をそのまま使用してもよい。ジアルキルジチオリン酸銅(I)は、混合物から通常の精製操作(例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等)により、一般式(1)で表される化合物を混合物から分離して単離したものを使用してもよい。なお、分離された一般式(1A)で表される化合物は、後述の有機リン含有スルフィド化合物として使用することができる。
ジアルキルジチオリン酸銅(I)の含有量は、ヒンダードアミン化合物との組み合わせによって酸化安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、好ましくは50~500質量ppmである。ジアルキルジチオリン酸銅(I)の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、より好ましくは100質量ppm以上、さらに好ましくは150質量ppm以上、特に好ましくは200質量ppm以上であり、より好ましくは400質量ppm以下、さらに好ましくは300質量ppm以下、特に好ましくは250質量ppm以下である。ジアルキルジチオリン酸銅(I)の含有量は、一実施形態において、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、より好ましくは50~400質量ppm、さらに好ましくは100~250質量ppm、特に好ましくは150~200質量ppmである。
<有機リン含有スルフィド化合物>
有機リン含有スルフィド化合物は、下記一般式(4)で表される化合物であり、ジアルキルホスホノチオイルスルフィド化合物である。有機リン含有スルフィド化合物は、例えば、酸化防止剤、摩耗防止剤等として作用し得る。
[式(4)中、R
41、R
42、R
43、及びR
44は、それぞれ独立に、炭素原子数2~18のアルキル基を示し、n4は、1~4を示す。]
R41、R42、R43、及びR44のアルキル基としては、R1及びR2で例示したアルキル基が挙げられる。R41、R42、R43、及びR44のアルキル基の好ましい例は、R1及びR2のアルキル基の好ましい例と同様であってよい。
n4は、1~4であり、好ましくは2である。有機リン含有スルフィド化合物は、n4が1~4のいずれかの化合物を単独で使用してもよく、n4が1である化合物、n4が2である化合物、n4が3である化合物、及びn4が4である化合物からなる群より選ばれる少なくとも2種を含む混合物として使用してもよい。混合物においては、n4が2である化合物が主成分であり得る。
一般式(4)で表される化合物は、例えば、下記一般式(4A)で表される化合物であり得る。一般式(4A)で表される化合物は、下記一般式(4a)で表される化合物(ジアルキルジチオリン酸化合物)を過酸化水素、ヨウ素等の酸化剤と反応させることによって得ることができる。
[式(1A)中、R
41、R
42、及びn4は、上記と同義である。]
[式(4a)中、R
41及びR
42は、上記と同義である。]
一般式(4a)で表される化合物は、例えば、上記一般式(1a)で表される化合物の製造方法と同様にして、R41及びR42に対応するアルキル基を有するアルコールと五硫化二リン(P2S5)との反応によって合成することができる。
一般式(4a)で表される化合物と酸化剤との反応は、一般式(4a)で表される化合物の有機溶媒溶液に対して、酸化剤を添加することにより行うことができる。有機溶媒は、一般式(4a)で表される化合物を溶解可能であれば特に制限されず、一般的に使用される有機溶媒を使用することができる。有機溶媒は、1種の有機溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いることができる。
一般式(4a)で表される化合物と酸化剤とを反応させる場合、一般式(4a)で表される化合物と酸化剤とのモル比は、例えば、約2:1とすることができる。酸化剤は、一般式(4a)で表される化合物に対して小過剰量用いてもよく、一般式(4a)で表される化合物と酸化剤とのモル比は、例えば、1.5~1.9:1であってもよい。反応温度は、例えば、25~80℃であってよい。反応時間は、例えば、1~4時間であってよい。反応雰囲気は、特に制限されず、大気雰囲気であってよい。
ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び有機リン含有スルフィド化合物を組み合わせて使用する場合、有機リン含有スルフィド化合物の含有量は、酸化安定性を高める観点から、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、好ましくは50~300質量である。有機リン含有スルフィド化合物の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、より好ましくは70質量ppm以上、さらに好ましくは90質量ppm以上であり、より好ましくは200質量ppm以下、さらに好ましくは150質量ppm以下である。有機リン含有スルフィド化合物の含有量は、一実施形態において、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、より好ましくは50~250質量ppm、さらに好ましくは90~150質量ppmである。
ジアルキルジチオリン酸銅(I)の含有量に対する有機リン含有スルフィド化合物の含有量の比(リン元素換算)(有機リン含有スルフィド化合物のリン元素換算での含有量/ジアルキルジチオリン酸銅(I)のリン元素換算での含有量)は、好ましくは0.5~3であり、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.9以上であり、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1.5以下である。ジアルキルジチオリン酸銅(I)の含有量に対する有機リン含有スルフィド化合物の含有量の比(リン元素換算)は、一実施形態において、より好ましくは0.5~2、さらに好ましくは0.9~1.5である。
<その他の添加剤>
潤滑油組成物は、その他の添加剤をさらに含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、金属不活性化剤、腐食防止剤、摩耗防止剤又は極圧剤(ただし、ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び有機リン含有スルフィド化合物を除く。)、摩擦調整剤、酸化防止剤(ただし、ヒンダードアミン化合物、ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び有機リン含有スルフィド化合物を除く。)、金属系清浄剤、粘度指数調整剤(流動点降下剤)、防錆剤、消泡剤、抗乳化剤、着色剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を例示することができる。潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.005~1質量%であり得る。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を例示することができる。潤滑油組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.005~5質量%であり得る。
摩耗防止剤又は極圧剤としては、例えば、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類(ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び有機リン含有スルフィド化合物を除く。)、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩(ジアルキルジチオリン酸銅(I)を除く。)、これらの誘導体(有機リン含有スルフィド化合物を除く。)、チアジアゾール化合物、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイド、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物、硫化鉱油、亜鉛ジチオカーバメート等の公知のリン系、硫黄系、若しくはリン-硫黄系の公知の摩耗防止剤又は極圧剤を例示することができる。摩耗防止剤又は極圧剤としては、例えば、ジチオリン酸エステル類の亜鉛塩である、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物(ZnDTP)等を例示することもできる。潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び有機リン含有スルフィド化合物以外の摩耗防止剤又は極圧剤を含有していてもよく、含有していなくてもよい。ジアルキルジチオリン酸銅(I)、有機リン含有スルフィド化合物、及びこれら以外の摩耗防止剤又は極圧剤の合計の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、リン元素換算で、30~500質量ppmであり得る。
摩擦調整剤としては、例えば、エステル系、アミン系、アミド系、グリコール系等の無灰系摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)等の金属系摩擦調整剤などの公知の摩擦調整剤を例示することができる。潤滑油組成物が摩擦調整剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.015~5質量%であり得る。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系(ヒンダードフェノール系)化合物、アミン系化合物等の無灰酸化防止剤、銅系化合物、モリブデン系化合物等の金属系酸化防止剤などの公知の酸化防止剤を例示することができる。なお、ヒンダードフェノール系化合物は、母体骨格としてのフェノールにおいて、水酸基の隣接位の少なくとも一方の炭素原子上に立体障害性(ヒンダード)置換基(例えば、t-ブチル基等)を有するフェノール化合物である。フェノール系(ヒンダードフェノール系)化合物としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルクレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。アミン系化合物としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。潤滑油組成物は、ヒンダードアミン化合物、ジアルキルジチオリン酸銅(I)、及び有機リン含有スルフィド化合物以外の酸化防止剤を含有していてもよく、含有していなくてもよい。潤滑油組成物がヒンダードアミン化合物、ジアルキルジチオリン酸銅(I)、及び有機リン含有スルフィド化合物以外の酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.01~3質量%であり得る。
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等の中性塩、中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等を水の存在下で加熱することによって得られる塩基性塩、中性塩を炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下でアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。潤滑油組成物が金属系清浄剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素(アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素)換算で、0.01~0.50質量%であり得る。
粘度指数調整剤(流動点降下剤)としては、例えば、非分散型若しくは分散型ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート-オレフィン共重合体、非分散型若しくは分散型エチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、、ポリアルキルスチレン等の公知の粘度指数調整剤(流動点降下剤)を例示することができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。その他の類似表現についても同様である。潤滑油組成物が粘度指数調整剤(流動点降下剤)を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.005~2質量%であり得る。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等の公知の防錆剤を例示することができる。潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.005~5質量%であり得る。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を例示することができる。潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.0005~0.02質量%であり得る。
抗乳化剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を例示することができる。潤滑油組成物が抗乳化剤を含有する場合、その含有量は、例えば、潤滑油組成物全量を基準として、0.001~5質量%であり得る。
着色剤としては、例えば、アゾ化合物等の公知の着色剤を例示することができる。
<潤滑油組成物>
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、耐摩耗性を高める観点から、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上、さらに好ましくは30mm2/s以上であり、省エネルギー性を高める観点から、好ましくは150mm2/s以下、より好ましくは100mm2/s以下、さらに好ましくは50mm2/s以下である。潤滑油組成物の40℃における動粘度は、一実施形態において、10~150mm2/s、20~100mm2/s、又は30~50mm2/sであり得る。
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、耐摩耗性を高める観点から、好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは4.0mm2/s以上、さらに好ましくは5.0mm2/s以上であり、省エネルギー性を高める観点から、好ましくは17.0mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下、さらに好ましくは8.0mm2/s以下である。潤滑油組成物の100℃における動粘度は、一実施形態において、2.0~17.0mm2/s、4.0~12.5mm2/s、又は5.0~8.0mm2/sであり得る。
潤滑油組成物の粘度指数は、省エネルギー性を高める観点から、好ましくは80以上、より好ましくは100以上である。潤滑油組成物の粘度指数の上限は、特に制限されないが、通常300以下である。
潤滑油組成物は、例えば、油圧作動油であり得る。油圧作動油の使用環境における酸化のメカニズムは、エンジン油又は変速機油の使用環境における酸化のメカニズムとは異なっている。エンジン油の温度は、最も高温になるピストン及びシリンダでも170~180℃程度であり、エンジン油の酸化劣化は、燃焼に伴ってペルオキシドラジカルが生成することによるものであることが知られている。これに対して、油圧作動油は、一般にベーンポンプ、ピストンポンプ等の油圧ポンプによって加圧されて油圧装置(例えば、油圧シリンダ等)に供給される。内燃機関又は変速機にオイルを供給するギヤポンプの吐出圧力は最大でも1.5MPa程度であるが、油圧装置において用いられる油圧ポンプの吐出圧力は、ベーンポンプの場合で例えば5MPa以上、最大で20MPa程度に及ぶことがあり、より高圧の用途に用いられるピストンポンプの場合では、例えば、10MPa以上、最大で35MPa程度にも及ぶこともある。このような高圧に加圧される油圧作動油は、バルクの温度が比較的低温であっても酸化劣化が進行し易い傾向にある。本実施形態の潤滑油組成物は、このような高圧、例えば、5MPa以上、15MPa以上、又は35MPa以上の高い吐出圧力でポンピングされる条件下においても、高い酸化安定性を示し、このような高圧の条件下においても潤滑油組成物の長寿命化を図ることが可能になる。油圧ポンプの吐出圧力の上限値は、特に制限されないが、例えば、50MPa以下又は40MPa以下であり得る。
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1~6及び比較例1~6)
[潤滑油組成物の調製]
以下に示す潤滑油基油及び添加剤を用いて、表1及び表2に示す組成を有する実施例1~6及び比較例1~6の潤滑油組成物を調製した。表中、各成分の含有量は、いずれも潤滑油組成物全量を基準(100質量%)としたものである。表中、質量ppm(N)は、ヒンダードアミン化合物の潤滑油組成物全量を基準としたときの窒素元素換算での含有量を意味し、質量ppm(P)は、ジアルキルジチオリン酸銅(I)、有機リン含有スルフィド化合物、及びリン-硫黄系摩耗防止剤(ZnDTP)の潤滑油組成物全量を基準としたときのリン元素換算での含有量を意味する。
表中、油中N濃度は、潤滑油組成物全量を基準としたときの潤滑油組成物中の窒素元素の含有量を意味し、構成元素として窒素元素を含む成分における窒素元素の含有量と仕込み量とから算出することができる。油中N濃度は、主に、ヒンダードアミン化合物及び腐食防止剤に由来する。
表中、油中P濃度は、潤滑油組成物全量を基準としたときの潤滑油組成物中のリン元素の含有量を意味し、構成元素としてリン元素を含む成分におけるリン元素の含有量と仕込み量とから算出することができる。油中P濃度は、主に、ジアルキルジチオリン酸銅(I)、有機リン含有スルフィド化合物、及びZnDTPに由来する。
<(A)成分:潤滑油基油>
・A-1:APIグループIII基油(動粘度(40℃):46.07mm2/s、動粘度(100℃):7.54mm2/s、粘度指数:120、硫黄分:10質量ppm未満、芳香族分:0.0質量%)
・A-2:APIグループII基油(動粘度(40℃):45.99mm2/s、動粘度(100℃):6.93mm2/s、粘度指数:100、硫黄分:10質量ppm未満、芳香族分:0.0質量%)
・A-3:APIグループI基油(動粘度(40℃):46.87mm2/s、動粘度(100℃):6.90mm2/s、粘度指数:104、硫黄分:0.15質量%、芳香族分:26.8質量%)
<(B)成分:ヒンダードアミン化合物>
・B-1:上記一般式(3)において、R11、R12、R13、及びR14がメチル基であり、R15が炭素原子数11の直鎖状のアルキル基(ドデカン酸からカルボン酸基を除いた基)である化合物(分子量:339、窒素元素含有量:4.1質量%)
<(b)成分:フェノール系化合物(無灰酸化防止剤)>
・b-1:2,6-ジ-tert-ブチルクレゾール
<(C1)成分:ジアルキルジチオリン酸銅(I)>
・C1-1:上記一般式(1)において、R1及びR2が2-エチルヘキシル基であるジアルキルジチオリン酸銅(I)(リン元素含有量:7.4質量%)
五硫化リン(P2S5)0.1mol(38.2g)及び2-エチルヘキシルアルコール(C8H17OH)0.4mol(52.0g)をフラスコに採取し、70℃で15時間撹拌した。撹拌終了後、反応生成物である、0.2mol(70.8g)のジ-2-エチルヘキシルジチオリン酸を得た。続いて、ジ-2-エチルヘキシルジチオリン酸0.1mol(35.4g)をビーカーに採取し、ヘキサン150mLに溶解させた。この溶液に酢酸銅(I)0.1mol(12.3g)を水150mLに溶解させてなる酢酸銅(I)水溶液を添加し、70℃で1時間撹拌した。分液漏斗でヘキサン層及び水層を分離し、ヘキサン層を水150mLで2度洗浄した。ヘキサンをエバポレータで留去することにより目的物を得た。目的物を31PNMRで分析したところ、主成分は題記の化合物であった。
<(C2)成分:有機リン含有スルフィド化合物>
・C2-1:上記一般式(4)において、R41、R42、R43、及びR44が2-エチルヘキシル基であり、n4が1~4である化合物(リン元素含有量:8.8質量%)
上記と同様にして、ジ-2-エチルヘキシルジチオリン酸を得た。ジ-2-エチルヘキシルジチオリン酸0.1mol(35.4g)をビーカーに採取し、ヘキサン150mLに溶解させた。この溶液に過酸化水素水(30%)を7g添加し、室温(25℃)で2時間撹拌した。撹拌終了後、分液ロートでヘキサン層及び水層を分離し、ヘキサン層を150mLの水で2度洗浄した。ヘキサンをエバポレータで留去して目的物を得た。目的物を31PNMRで分析したところ、主成分は題記の化合物であった。
<(C3)成分:ジアルキルジチオリン酸銅(I)及び有機リン含有スルフィド化合物の混合物>
・C3-1:上記C1-1及び上記C2-1の混合物
上記と同様にして、ジ-2-エチルヘキシルジチオリン酸を得た。ジ-2-エチルヘキシルジチオリン酸0.1mol(35.4g)をビーカーに採取し、ヘキサン150mLに溶解させた。この溶液に酢酸銅(II)一水和物0.05mol(9.1g)を水150mLに溶解させてなる酢酸銅(II)水溶液を添加し、70℃で1時間撹拌した。分液漏斗でヘキサン層及び水層を分離し、ヘキサン層を水150mLで2度洗浄した。ヘキサンをエバポレータで留去することにより目的物を得た。目的物を31PNMRで分析したところ、主成分は題記の混合物であった。混合物C3-1中のC1-1の割合は、55質量%であり、混合物中のC2-1の割合は、45質量%であった。
<(c)成分:リン-硫黄系摩耗防止剤(ZnDTP)>
・c-1:下記一般式(5)において、R51、R52、R53、及びR54が2-エチルヘキシル基である化合物(リン元素含有量:8.0質量%)
<(E)成分:腐食防止剤>
・D-1:トリルトリアゾール誘導体(窒素元素含有量:14.5質量%)
[潤滑油組成物の評価]
<RPVOT試験>
JIS K 2514-3:2013における「回転圧力容器式酸化安定度試験法」に準拠して、実施例1~6及び比較例1~6の潤滑油組成物について、RPVOT試験を行った。結果を表1に示す。
表1及び表2に示すとおり、ヒンダードアミン化合物とジアルキルジチオリン酸銅(I)との組み合わせである実施例1~6の潤滑油組成物は、RPVOT試験の結果に優れていた。
一方で、水素化精製鉱油全量中の硫黄分の含有量が300質量ppmを超える水素化精製鉱油を含む潤滑油基油を含有する比較例1は、RPVOT試験の結果が劣っていた。
また、ジアルキルジチオリン酸銅(I)のみを含有し、ヒンダードアミン化合物を含有しない比較例2、3は、RPVOT試験の結果が劣っていた。また、ヒンダードアミン化合物のみを含有し、ジアルキルジチオリン酸銅(I)を含有しない比較例4も、RPVOT試験の結果が劣っていた。
一般的な酸化防止剤として用いられるフェノール系化合物とジアルキルジチオリン酸銅(I)との組み合わせである比較例5もRPVOT試験の結果が劣っていた。また、このようなフェノール系化合物とZnDTPとの組み合わせである比較例6もRPVOT試験の結果が劣っていた。
以上より、所定の構造を有する有機リン含有スルフィド化合物と所定の基を有するヒンダードアミン化合物とを組み合わせることによって、酸化安定性が向上することが判明した。これらの結果から、本発明の潤滑油組成物が酸化安定性に優れることが確認された。