本開示をより詳細に説明する前に、本開示は記載した特定の実施形態に限定されず、それ自体もちろん変化することができることを理解されたい。本明細書で使用した専門用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであって、限定を意味するものではなく、なぜならば、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるからであることも理解されたい。
他に規定しなければ、本明細書で使用した技術用語および科学用語は全て、本開示が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で記載したものと類似の、または同等のいかなる方法および材料も本開示の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料をここで説明する。
本明細書で引用した刊行物および特許は全て、それぞれ個々の刊行物または特許が具体的かつ個々に参考として組み込まれることが指示されているように参考として本明細書に組み込まれており、刊行物が引用されたものに関連して方法および/または材料を開示して記載するために、参考として本明細書に組み込まれている。いかなる刊行物の引用も、その開示が本出願日より前であるためであり、本開示は先行開示によりこのような刊行物に先行する権利がないことの承認と解釈されるべきではない。さらに、提供された刊行物の日付は、個別に確認する必要があり得る実際の刊行日とは異なっていてもよい。
本開示を読めば当業者には明らかなように、本明細書で記載し例示した個々の実施形態のそれぞれは、本開示の範囲または精神を逸脱することなく、その他のいくつかの実施形態のいずれかの特性から容易に分離するか、または一緒にすることができる別個の構成成分および特性を有する。任意の引用した方法は、引用した事象の順番で、または論理的に可能な任意のその他の順番で実施することができる。
定義
以下の定義は読者を支援するために提供される。他に規定しなければ、本明細書で使用した技術用語、表記およびその他の科学的用語または医学用語または専門用語は全て、化学および医学技術分野の当業者によって通常理解される意味を有するものとする。場合によっては、通常理解される意味を有する用語は、明瞭になるように、および/または容易に参照できるように本明細書で定義されており、本明細書にこのような定義を含めることは、当技術分野で一般的に理解されるような用語の定義をめぐる実質的な違いを表すためのものと必ずしも解釈されるべきではない。
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に他のことを指示していない限り、複数の参照物を含む。
用語「量」または「レベル」は、試料中に存在する目的のポリヌクレオチドまたは目的のポリペプチドの量を意味する。このような量は、絶対的に、すなわち、試料中のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの全量で表現されているか、あるいは相対的に、すなわち、試料中のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの濃度で表現されていてもよい。
本明細書で使用する場合、用語「投与〔administering〕」は、医薬剤または医薬組成物を対象に与えることを意味し、限定されるものではないが、医療従事者による投与および自己投与を含む。
本明細書で使用する場合、「抗体」には、例えば、単鎖抗体、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)および異種結合抗体〔heteroconjugate antibody〕(例えば、二重特異性抗体)を含めた、天然に存在する免疫グロブリンおよび天然に存在しない免疫グロブリンが包含される。抗体の断片には、抗原に結合するもの(例えば、Fab’、F(ab’)2、Fab、FvおよびrIgG)が含まれる。例えば、Pierce Catalog and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.)、Kuby,J.,Immunology,3rd Ed.,W.H.Freeman & Co.,New York(1998)も参照のこと。用語の抗体には、二価または二重特異性分子、ダイアボディ、トリアボディおよびテトラボディも含まれる。用語「抗体」にはさらに、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方が含まれる。
本明細書で使用する場合、用語「がん」は、異常な細胞増殖が関与する任意の疾患を意味し、体内の任意の組織、器官または細胞に影響を及ぼす疾患の全病期および全形態を含む。この用語には、悪性、良性、軟組織または固形物として特徴づけられる公知のがんおよび新生物状態の全て、ならびに転移前および転移後のがんを含む全病期およびグレードのがんが含まれる。全般的に、がんは、がんが位置する、またはがんが発生した組織または器官ならびに癌性組織および細胞の形態によって分類することができる。本明細書で使用する場合、がんの種類には、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、肛門がん、星状細胞腫、小児小脳または大脳基底細胞癌、胆管がん、膀胱がん、骨腫瘍、脳がん、乳がん、バーキットリンパ腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸がん、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、大腸がん〔colon cancer〕、肺気腫、子宮内膜がん、上衣腫、食道がん、ユーイングファミリーの腫瘍、ユーイング肉腫、胃〔gastric〕(胃〔stomach〕)がん、神経膠腫、頭部および頸部がん、心臓がん、ホジキンリンパ腫、膵島細胞癌(膵内分泌部)、カポジ肉腫、腎臓がん(腎細胞がん)、咽頭がん〔laryngeal cancer〕、白血病、肝臓がん、肺がん、髄芽腫、黒色腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、咽頭がん〔pharyngeal cancer〕、前立腺がん、直腸がん、腎細胞癌(腎臓がん)、網膜芽細胞腫、皮膚がん、胃〔stomach〕がん、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、精巣がん、咽頭がん〔throat cancer〕、甲状腺がん、膣がん、視覚路および視床下部神経膠腫が含まれる。
用語「がん試料」には、1つまたは複数のがん細胞を含有する生物学的試料または生物源からの試料が含まれる。生物学的試料には、体液、例えば、血液、血漿、血清もしくは尿の試料、または、例えば生検によって、細胞、組織もしくは器官、好ましくは、がん細胞を含むかもしくは本質的にはがん細胞からなることが疑われる腫瘍組織から得られた試料が含まれる。
本明細書で使用する「細胞」は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。原核細胞には、例えば、細菌が含まれる。真核細胞には、例えば、真菌、植物細胞および動物細胞が含まれる。動物細胞(例えば、哺乳類細胞またはヒト細胞)の種類には、例えば、循環/免疫系または器官の細胞、例えば、B細胞、T細胞(細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、制御性T細胞、ヘルパーT細胞)、ナチュラルキラー細胞、顆粒球(例えば、好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球および過分葉好中球)、単核球またはマクロファージ、赤血球細胞(例えば、網状赤血球)、肥満細胞、血小板または巨核球、および樹状細胞、内分泌系または器官の細胞、例えば、甲状腺細胞(例えば、甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞)、副甲状腺細胞(例えば、副甲状腺主細胞、好酸性細胞)、副腎細胞(例えば、クロム親和性細胞)および松果体の細胞(例えば、松果体細胞);神経系または器官の細胞、例えば、神経膠芽細胞(例えば、星状膠細胞および乏突起膠細胞)、小膠細胞、巨細胞性神経分泌細胞、星状細胞、ベッチェル細胞および下垂体細胞(例えば、性腺刺激ホルモン分泌細胞、副腎皮質刺激ホルモン分泌細胞、甲状腺刺激ホルモン分泌細胞、成長ホルモン分泌細胞および乳腺刺激ホルモン分泌細胞);呼吸系または器官の細胞、例えば、肺胞細胞(I型肺胞細胞およびII型肺胞細胞)、クララ細胞、杯状細胞、肺胞マクロファージ;循環系または器官の細胞、例えば、心筋細胞および周辺細胞;消化系または器官の細胞、例えば、胃主細胞、壁細胞、杯状細胞、パネート細胞、G細胞、D細胞、ECL細胞、I細胞、K細胞、S細胞、腸内分泌細胞、腸クロム親和性細胞、APUD細胞、肝臓の細胞(例えば、肝実質細胞およびクッパー細胞);外被系または器官の細胞、例えば、骨の細胞(例えば、骨芽細胞、骨細胞および破骨細胞)、歯の細胞(例えば、セメント芽細胞およびエナメル芽細胞)、軟骨の細胞(例えば、軟骨芽細胞および軟骨細胞)、皮膚/髪の細胞(例えば、毛胞、角化細胞およびメラニン形成細胞(母斑細胞)、筋肉細胞(例えば、筋細胞)、脂肪細胞、線維芽細胞および腱細胞)、泌尿器系または器官の細胞(例えば、有足細胞、傍糸球体細胞、糸球体内メサンギウム細胞、糸球体外メサンギウム細胞、腎臓近位尿細管刷子縁細胞および緻密斑細胞)ならびに生殖器系または器官の細胞(例えば、精子、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞、卵子、卵母細胞)が含まれる。細胞は、正常で健康な細胞であるか、または病的で不健康な細胞(例えば、がん細胞)であってもよい。
用語「相補性」は、伝統的なワトソン-クリックまたはその他の非伝統的な方法のいずれかによって、別の核酸配列と水素結合を形成する核酸の能力を意味する。パーセント相補性は、第2の核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対)を形成することができる核酸分子中の残基のパーセンテージを指し示す(例えば、10のうち5、6、7、8、9、10は50%、60%>、70%>、80%>、90%および100%相補性である)。
本開示では、「含む〔comprises〕」、「含んだ〔comprised〕」、「含んでいる〔comprising〕」、「含有する〔contains〕」、「含有している〔containing〕」などの用語は、米国特許法にある意味を有し、これらは包括的またはオープンエンドであり、追加的な、引用されていない要素または方法ステップを排除しないことに注意されたい。「から本質的になっている〔consisting essentially of〕」および「から本質的になる〔consists essentially of〕」などの用語は、米国特許法にある意味を有し、これらは請求された発明の基本的で新規な特質に著しい影響を及ぼさない追加的な成分またはステップを含むことを許可する。用語「からなる〔consists of〕」および「からなっている〔consisting of〕」は米国特許法にあるものと見なされる意味を有し、すなわち、これらの用語はクローズエンドである。
用語「決定する」、「評価する」、「アッセイする」、「測定する」および「検出する」は同義に使用することができ、定量的および半定量的決定の両方を意味する。定量的および半定量的決定のいずれかを意味する場合、目的のポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの「レベルを決定する」または目的のポリヌクレオチドもしくはポリペプチドを「検出する」という語句を使用することができる。
用語「ハイブリダイジング」は、ストリンジェント条件下で特定のヌクレオチド配列に対して優先的な核酸分子の結合、二本鎖形成またはハイブリダイジングを意味する。用語「ストリンジェント条件」は、混合した集団(例えば、組織生検からの細胞溶解物またはDNA調製物)中において、プローブがその標的部分配列に優先的にハイブリダイズし、その他の配列に対しては比較的少ない程度でハイブリダイズするか、または全くハイブリダイズしないハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を意味する。核酸ハイブリダイゼーションの場合におけるストリンジェント条件は、配列に依存し、異なる環境パラメータ下では異なる。核酸のハイブリダイゼーションの広範な指針は、例えば、Tijssen Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Acid Probes part I,Ch.2,“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,”(1993)Elsevier,N.Y.に見いだされる。全般的に、高ストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列の融点(Tm)より約5℃低くなるように選択される。Tmは、(規定されたイオン強度およびpHで)標的配列の50%が完全に一致したプローブにハイブリダイズする温度である。非常にストリンジェントな条件は、特定のプローブのTmに等しくなるように選択される。サザンまたはノーザンブロットにおいてアレイまたはフィルター上に100個を上回る相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションのためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の一例は、標準的なハイブリダイゼーション溶液を使用して42℃である(例えば、Sambrook and Russell Molecular Cloning:A Laboratory Manual (3rd ed.)Vol.1-3(2001)Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Press,NYを参照のこと)。高ストリンジェント洗浄条件の一例は、NaCl 0.15Mで72℃で約15分間である。ストリンジェント洗浄条件の一例は、0.2×SSC洗浄で65℃で約15分間である。しばしば、バックグラウンドプローブシグナルを除去するために、高ストリンジェント洗浄に先行して低ストリンジェント洗浄を行う。例えば、100ヌクレオチドを上回る二本鎖のための中程度ストリンジェント洗浄の一例は、1×SSCで45℃で15分間である。例えば、100ヌクレオチドを上回る二本鎖のための低ストリンジェント洗浄の一例は、4×SSCから6×SSCで40℃で15分間である。
用語「核酸」および「ポリヌクレオチド」は同義に使用され、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれかの任意の長さのヌクレオチドの多量体型、またはそれらの類似体を意味する。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有することができ、公知のまたは公知ではない任意の機能を果たすことができる。ポリヌクレオチドの非限定的な例には、遺伝子、遺伝子断片、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、shRNA、一本鎖の短いかまたは長いRNA、組換えポリヌクレオチド、枝分かれポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、調節領域、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマーが含まれる。核酸分子は、直鎖状または環状であってもよい。
用語「患者由来異種移植(PDX)」は、免疫不全マウスまたはヒト化マウスに、患者の腫瘍由来の組織または細胞を移植した、がんのモデルを意味する。PDXモデルは、がんの自然な増殖、そのモニタリング、および元の患者のための対応する処置の評価を可能にする環境を構築するために使用される。
本明細書で使用した「プライマー」は、7~40ヌクレオチド、好ましくは10~38ヌクレオチド、好ましくは15~30ヌクレオチド、または15~25ヌクレオチド、または17~20ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチド分子を意味する。例えば、プライマーは、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドの長さを有するオリゴヌクレオチドであってもよい。プライマーは通常、当技術分野で周知のように、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA配列の増幅において使用される。増幅されるDNA鋳型配列に対して、その5’上流および3’下流の配列における1対のプライマー、すなわち5’プライマーおよび3’プライマーを設計することができ、そのそれぞれが、DNA二本鎖鋳型の分離した鎖に特異的にハイブリダイズすることができる。5’プライマーは、DNA二本鎖鋳型のアンチセンス鎖に相補的であり、3’プライマーは、DNA鋳型のセンス鎖に相補的である。当技術分野で公知のように、二本鎖DNA鋳型の「センス鎖」は、DNA鋳型から転写されたmRNA配列に一致する配列(RNAにおける「U」がDNAにおける「T」に対応することを除く)を含有する鎖であり、タンパク質産物をコードしている。センス鎖の相補的配列が、「アンチセンス鎖」である。本開示では、全ての配列番号はセンス鎖DNAであり、配列番号が相補的である配列がアンチセンス鎖DNAである。
がん療法に対する患者の応答の場合に使用したような用語「応答性の」、「臨床応答」、「陽性の臨床応答」などは同義に使用され、望ましくない応答、すなわち、有害事象とは対照的な、処置に対する望ましい患者の応答を意味する。患者において、有益な応答は、検出可能な腫瘍の消失(完全奏効、CR)、腫瘍サイズおよび/もしくはがん細胞数の減少(部分奏効、PR)、腫瘍増殖停止(安定、SD)、抗腫瘍免疫応答の増強、腫瘍の退縮もしくは排除を引き起こす可能性;腫瘍に関連した1つもしくは複数の症状のある程度までの軽減;処置後の生存の長さの延長;ならびに/または処置後の所与の時点での死亡率の減少を含む、いくつかの臨床パラメータを用いて表現することができる。腫瘍サイズおよび/またはがん細胞数および/または腫瘍転移の継続的な増加は、処置に対する有益な応答の欠如の指標である。集団において、薬物の臨床上の有益性、すなわち、その有効性は、1つまたは複数の評価項目に基づいて評価することができる。例えば、奏効率(ORR)の分析は、応答者として薬物処置後にCRまたはPRを経験した患者を分類する。疾患制御(DC)の分析は、応答者として薬物処置後にCR、PRまたはSDを経験した患者を分類する。陽性の臨床応答は、任意の評価項目を使用して評価することができ、限定されるものではないが、(1)腫瘍増殖に対して減速および完全な増殖停止を含むある程度までの阻害、(2)腫瘍細胞数の低減、(3)腫瘍サイズの低減、(4)隣接する周辺器官および/もしくは組織への腫瘍細胞浸潤の阻害(すなわち、低減、減速または完全停止)、(5)転移の阻害、(6)腫瘍の退縮もしくは排除を引き起こす可能性がある抗腫瘍免疫応答の増強、(7)腫瘍に関連した1つもしくは複数の症状のある程度までの軽減、(8)処置後の生存の長さの延長、ならびに/または(9)処置後の所与の時点での死亡率の減少を含む有益性を患者に対して示す。陽性の臨床応答はまた、臨床成績の様々な測定を用いて表現することができる。陽性の臨床成績はまた、同程度の臨床診断を有する患者集団の成績に対して個々の成績について考慮することができ、無再発期間(RFI)の延長、集団の全生存期間(OS)と比較した生存時間の延長、無病生存期間(DFS)の延長、無遠隔再発期間(DRFI)の延長などの様々な評価項目を使用して評価することができる。追加の評価項目には、無イベント(AE)生存の可能性、無転移性再発(MR)生存(MRFS)の可能性、無病生存(DFS)の可能性、無再発生存(RFS)の可能性、初回増悪(FP)の可能性および無遠隔転移生存(DMFS)の可能性が含まれる。陽性の臨床応答の可能性の増加は、がん再発または再燃の可能性の減少に対応する。
本明細書で使用した用語「標準対照」または「参照レベル」は、確立された参照、例えば、正常組織試料、健康な非がん性組織試料、または二倍体であり形質転換されておらず非癌性でゲノム的に安定で健康なヒト細胞株中に存在する、予め決定された量または濃度のポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列を意味する。標準対照値または参照値は、試験試料中に存在する特定のmRNAまたはタンパク質の量を比較するための基礎として役立てるために、本発明の方法で使用するのに適している。標準対照として役立つ確立された試料は、正常な組織試料中において典型的な特定のmRNAまたはタンパク質の平均量を提供する。標準対照値は、試料の性質ならびにこのような対照値を確立する基となった対象の性別、年齢、民族性などのその他の要素に応じて変化し得る。
本明細書で使用した用語「試料」は、目的の対象から得られた生物学的試料を意味する。試料の例には、限定されるものではないが、例えば、血液、血漿、血清、尿、膣液、子宮もしくは膣洗浄液、胸水〔plural fluid〕、腹水、脳脊髄液、唾液、汗、涙、痰、気管支肺胞上皮洗浄液などの体液、および例えば、生検組織(例えば、生検用に採取された骨組織、骨髄、乳房組織、消化管組織、肺組織、肝組織、前立腺組織、脳組織、神経組織、髄膜組織、腎組織、子宮内膜組織、子宮頸部組織〔cervical dittuse〕、リンパ節組織、筋肉組織または皮膚組織)、パラフィンで包埋された組織などの組織が含まれる。ある種の実施形態では、試料はがん細胞を含む生物学的試料であってもよい。一部の実施形態では、試料は、例えば、腫瘍生検または穿刺吸引によって腫瘍から得られた、新鮮なまたは保管された試料である。試料はまた、がん細胞を含有する任意の生体液であってもよい。対象からの試料の収集は、生検中などに、病院または診療所が一般的に従う標準プロトコルに従って実施される。
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類)を意味する。ヒトには、出生前および出生後の形態が含まれる。多くの実施形態では、対象は人間である。対象は患者であってもよく、これは疾患の診断または処置のために医療機関に来院した人を意味する。用語「対象」は、本明細書では「個体」または「患者」と同義に使用される。対象は、疾患または障害に罹っているか、または罹りやすくてもよいが、疾患または障害の症状を表していてもいなくてもよい。
用語「処置」、「処置する」または「処置すること」は、がん(例えば、乳がん、肺がん、卵巣がんなど)の影響またはがんの症状を低減する方法を意味する。したがって、開示した方法では、処置はがんの重症度またはがんの症状の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%低減を意味することができる。例えば、疾患を処置する方法は、対照と比較して対象における疾患の1つまたは複数の症状の10%低減があるならば、処置であると見なされる。したがって、低減は、天然または対照レベルと比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%または10と100%の間の任意のパーセントの低減であってもよい。処置は、疾患、病気または疾患もしくは病気の症状の、治癒または完全な消失を必ずしも意味する必要はないと理解されたい。
用語「腫瘍試料」には、1つまたは複数の腫瘍細胞を含有する生物学的試料または生物源からの試料が含まれる。生物学的試料には、体液、例えば、血液、血漿、血清もしくは尿の試料、または、例えば生検によって、細胞、組織もしくは器官、好ましくは、がん細胞を含むかもしくは本質的にはがん細胞からなることが疑われる腫瘍組織から得られた試料が含まれる。
タンパク質キナーゼの発現レベル
本明細書で記載した方法および組成物は、がん試料中での発現レベルが、チロシンキナーゼ阻害剤に対するがん患者の応答性の指標になる、タンパク質キナーゼの発見に部分的に基づいている。
タンパク質キナーゼは、標的タンパク質にリン酸基を化学的に付加すること、すなわちリン酸化によって他のタンパク質を修飾する酵素群である。リン酸化は通常、酵素活性、細胞局在または他のタンパク質との会合を変化させることによって、標的タンパク質に機能変化をもたらす。キナーゼによるタンパク質のリン酸化は、細胞内部のシグナルの通信(シグナル伝達)および細胞分裂などの細胞活動の制御における、重要な機構である。結果的に、タンパク質キナーゼは、多くの細胞機能における「オン」または「オフ」スイッチとして機能する。タンパク質キナーゼは、変異を生じて「オン」の状態から抜け出せなくなり、制御されない細胞増殖をもたらす可能性があるが、これはがんの発症にとって必要なステップである。したがって、イマチニブのようなキナーゼ阻害剤がしばしば効果的ながんの処置となる。ヒトゲノムは、約500のタンパク質キナーゼ遺伝子を含有する。ほとんどのタンパク質キナーゼは、サブクラスであるセリン/スレオニンキナーゼとチロシンキナーゼに分類することができる。
セリン/スレオニンキナーゼは、標的タンパク質中のセリンまたはスレオニン残基のOH基をリン酸化する。セリン/スレオニンキナーゼの例には、MAPキナーゼ、ERKファミリー、ストレス活性化タンパク質キナーゼのJNKおよびp38が含まれる。
タンパク質キナーゼのサブクラスであるチロシンキナーゼは、細胞中でATPのリン酸基をタンパク質に転移することができる酵素群であり、そこではリン酸基は、タンパク質上のアミノ酸残基のチロシンに結合する。ほとんどのチロシンキナーゼには関連するタンパク質チロシンホスファターゼがあり、それがリン酸基を除去する。
ある種の実施形態では、キナーゼは、DDR1、CSF1R、CDKL2、cKit、c-RAF、Flt1、Flt4、KDR、MAP4K5、PDGFRα、PTK5、Ret、SAPK2bおよびZAKからなる群から選択される。ある種の実施形態では、キナーゼは変異を含有する。一実施形態では、変異は、cKit(V560G)またはPDGFRα(V561D)である。一実施形態では、タンパク質キナーゼはDDR1またはCSF1Rである。
本明細書で使用したDDR1は、CD167a(表面抗原分類167a)としても知られる、ヒト遺伝子ディスコイジンドメイン受容体ファミリーのメンバー1を意味する。DDR1は、正常および形質転換した上皮細胞中に広く発現し、各種のコラーゲンによって活性化されるチロシンキナーゼをコードする。DDR1タンパク質は、細胞外ドメインにDictyostelium discoideumのタンパク質であるディスコイジンIとの相同領域を有する、チロシンキナーゼ受容体のサブファミリーに属する。その自己リン酸化は、これまでに試験を行った全てのコラーゲン(タイプIからタイプVI)によってもたらされる。近縁のファミリーのメンバーは、DDR2タンパク質である(Fu HL et al.(Mar 2013)The Journal of Biological Chemistry 288(11):7430-7)。In situでの研究およびノーザンブロット分析によって、DDRの発現は、上皮細胞、特に腎臓、肺、消化管および脳に限定されることが明らかになった。さらに、DDR1は、乳房、卵巣、食道および小児脳のいくつかのヒトの腫瘍において顕著に過剰発現している。DDR1遺伝子は、染色体6p21.3上に、いくつかのHLAクラスI遺伝子に近接して位置する。この遺伝子の選択的スプライシングは、複数の転写バリアントをもたらす(“Entrez Gene:DDR1 discoidin domain receptor family,member 1”)。ある種の実施形態では、DDR1のmRNAは、配列番号1の配列を有し、DDR1のタンパク質は配列番号2の配列を有する。
本明細書で使用したCSF1Rは、マクロファージコロニー刺激因子受容体(M-CSFR)およびCD115(表面抗原分類115)としても知られるコロニー刺激因子1受容体を意味し、ヒトではCSF1R遺伝子(c-FMSとしても知られる)(EntrezGene 1436;Galland F,Stefanova M, Lafage M,Birnbaum D(1992)Cell Genet 60(2):114-6)がコードする細胞表面タンパク質である。CSF1Rタンパク質は972のアミノ酸を有し、予測分子量は108kDaである。CSF1Rタンパク質は、シングルパスI型膜タンパク質であり、マクロファージの産生、分化および機能を制御するサイトカインであるコロニー刺激因子1の受容体として働く。CSF1Rは、全てではないが、CSF1の生物学的効果のほとんどを媒介する。CSF1Rは、チロシンキナーゼ型膜貫通受容体であり、チロシン-タンパク質キナーゼのCSF1/PDGF受容体ファミリーのメンバーである(Xu Q et al.(2015)Science Signaling.8(405):rs13;Meyers MJ et al.(2010)Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters.20(5):1543-7.)。リガンドの結合により、CSF1Rは、多量体化およびトランス-リン酸化のプロセスを経て活性化する。多くのがんにおいて、および腫瘍関連マクロファージ(TAM)上でCSF1Rが過剰発現していることから、CSF1R阻害剤(およびCSF1阻害剤)が、がんまたは炎症性疾患の可能性のある処置として長年研究されてきた(Patel S,Player MR(2009)Curr Top Med Chem.9(7):599-610;Cannarile MA et al.(2017)Journal for Immunotherapy of Cancer.5(1):53)。ある種の実施形態では、CSF1RのmRNAは配列番号3の配列を有し、CSF1Rのタンパク質は配列番号4の配列を有する。
本明細書で使用したCDKL2は、サイクリン依存性キナーゼ様2を意味し、ヒトではCDKL2遺伝子(Taglienti CA,Wysk M,Davis RJ(Feb 1997)Oncogene.13(12):2563-74;“Entrez Gene:CDKL2 cyclin-dependent kinase-like 2(CDC2-related kinase)”)がコードする酵素である。CDKL2は、CDC-2関連セリン/スレオニンタンパク質キナーゼの大きなファミリーのメンバーである。それは主に細胞質に蓄積し、核内でのレベルはより低い(“Entrez Gene:CDKL2 cyclin-dependent kinase-like 2(CDC2関連キナーゼ)”)。
本明細書で使用したcKitは、チロシン-タンパク質キナーゼKIT、CD117(表面抗原分類117)または肥満/幹細胞成長因子受容体(SCFR)としても知られる、癌原遺伝子c-KITを意味し、ヒトではKIT遺伝子(Andre C et al.(January 1997)Genomics.39(2):216-26)がコードする受容体型チロシンキナーゼタンパク質である。異なるアイソフォームをコードする複数の転写バリアントが、この遺伝子に対して見いだされている(“Entrez Gene:KIT v-kit Hardy-Zuckerman 4 feline sarcoma viral oncogene homolog”;National Cancer Institute Dictionary of Cancer Terms.c-kit.Accessed October 13,2014.)。KITは、猫肉腫ウイルス癌遺伝子v-kitの細胞性ホモログとして、1987年に、ドイツの生化学者であるAxel Ullrichによって最初に記載された(Yarden Y et al.(November 1987)EMBO J.6(11):3341-51)。
cKitは、造血幹細胞および他の細胞種の表面に発現するサイトカイン受容体である。この受容体の変化形態が、一部の種類のがんに関連している可能性がある(Edling CE, Hallberg B(2007)Int.J.Biochem. Cell Biol.39(11):1995-8)。cKitは、受容体型チロシンキナーゼIII型であり、「造血幹細胞因子」〔steel factor〕または「c-kitリガンド」としても知られる幹細胞因子(ある特定の種類の細胞に成長をもたらす物質)に結合する。cKit受容体が幹細胞因子(SCF)に結合すると、c-Kit受容体は二量体を形成することで内在性のチロシンキナーゼ活性を活性化し、次いで細胞内にシグナルを伝播するシグナル伝達分子をリン酸化して活性化する(Blume-Jensen P et al.(1991-12-10)EMBO Journal.10(13):4121-4128)。活性化後、この受容体は、ユビキチン化されることによって、リソソームに輸送され最終的に分解されるための標識を付ける。cKitを介したシグナリングは、細胞の生存、増殖および分化における役割を担う。例えば、cKitシグナリングは、メラニン形成細胞の生存に必要であり、造血および配偶子形成にも関与する(Brooks,Samantha(2006),Studies of genetic variability at the KIT locus and white spotting patterns in the horse(Thesis),University of Kentucky Doctoral Dissertations.pp.13-16)。cKit遺伝子の活性化変異は、消化管間質腫瘍、精巣精上皮腫、肥満細胞症、黒色腫、急性骨髄性白血病に関連する一方、不活性化変異は、遺伝子欠陥型限局性白皮症に関連する(“Entrez Gene:KIT v-kit Hardy-Zuckerman 4 feline sarcoma viral oncogene homolog”)。
本明細書で使用したc-RAFは、癌原遺伝子c-RAFまたは単にRaf-1としても知られる、RAF癌原遺伝子セリン/スレオニン-タンパク質キナーゼを意味し、ヒトではRAF1遺伝子(Rapp UR et al.(1983).Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80(14):4218-22;Bonner T et al.(1984)Science 223(4631):71-4)がコードする酵素(Li P et al.(1991)Cell.64(3):479-82.)である。c-Rafタンパク質は、膜結合性GTPアーゼのRasサブファミリーの下流で機能するMAPキナーゼ(MAP3K)として、ERK1/2経路の一部を構成する(“Entrez Gene:RAF1 v-raf-1 murine leukemia viral oncogene homolog 1”)。
本明細書で使用したFlt1は、血管内皮成長因子受容体1(VEGFR1)を意味し、ヒトではFLT1遺伝子(Shibuya M et al.(April 1990)Oncogene 5(4):519-24)がコードするタンパク質である。Flt1は、src遺伝子ファミリーに属し、癌遺伝子ROS(MIM 165020)に関連する。このファミリーの他のメンバーのように、Flt1は、細胞増殖および分化の制御に重要なチロシンタンパク質キナーゼ活性を示す。化学的および遺伝学的手段によってFlt1を消失させると、マウスにおいて、白色脂肪組織の褐色脂肪組織への変換を増加させるとともに、褐色脂肪の血管新生も増進させることが最近見いだされた(Seki T et al.(2018)The Journal of Experimental Medicine.215(2):611-626)。FLT1の機能的遺伝的変異(rs9582036)は、非小細胞肺がん生存率に影響を及ぼすことが見いだされた(Glubb DM et al.(2015)Journal of Thoracic Oncology.10(7):1067-75.)。
本明細書で使用したFlt4は、Fms関連チロシンキナーゼ4を意味し、ヒトではFLT4遺伝子(“Entrez Gene:FLT4 fms-related tyrosine kinase 4”;Galland F et al.(1992)Genomics 13(2):475-8.)がコードするタンパク質である。Flt4遺伝子は、血管内皮成長因子CおよびDのチロシンキナーゼ受容体をコードする。Flt4タンパク質は、リンパ管内皮のリンパ管新生および維持に関与すると考えられている。Flt4遺伝子の変異は、遺伝性リンパ浮腫IA型(“Entrez Gene: FLT4 fms-related tyrosine kinase 4”)の原因となる。
本明細書で使用したKDRは、血管内皮成長因子受容体2(VEGFR-2)、CD309(表面抗原分類309)およびFlk1(胎児肝キナーゼ1〔Fetal Liver Kinase 1〕)としても知られる、キナーゼ挿入ドメイン受容体(KDR、IV型受容体型チロシンキナーゼ)を意味する。Q472Hの生殖系列KDRの遺伝学的バリアントは、VEGFR-2のリン酸化に影響を及ぼしており、NSCLC中の微小血管密度に関連することが見いだされた(Glubb DM et al.(August 2011)Clinical Cancer Research.17(16):5257-67)。KDRは、SHC2、アネキシンA5およびSHC1と相互作用することが示された(Warner AJ et al.(April 2000)The Biochemical Journal 347(Pt 2):501-9;Wen Y et al.(May 1999)Biochemical and Biophysical Research Communications.258(3):713-21;Zanetti A et al.(April 2002)Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology 22(4):617-22;D’Angelo G et al.(May 1999)Molecular Endocrinology 13(5):692-704)。
本明細書で使用したMAP4Kは、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ5を意味し、ヒトではMAP4K5遺伝子(Tung RM,Blenis J(1997)Oncogene 14(6):653-9;Schultz SJ,Nigg EA (1994)Cell Growth Differ 4(10):821-30;“Entrez Gene:MAP4K5 mitogen-activated protein kinase kinase kinase kinase 5”)がコードする酵素である。MAP4Kは、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼファミリーのメンバーであり、酵母のSPS1/STE20キナーゼに高度に類似している。酵母のSPS1/STE20は、酵母のフェロモン応答に必須のMAPキナーゼシグナルカスケードの開始近傍で機能する。MAP4Kは、哺乳類細胞においてJunキナーゼを活性化することが示され、ストレス応答における役割が示唆された。同じタンパク質をコードする、2つの選択的にスプライシングされた転写バリアントが、この遺伝子に対して記載されている(“Entrez Gene:MAP4K5 mitogen-activated protein kinase kinase kinase kinase 5”)。MAP4K5は、CRKLおよびTRAF2に相互作用することが示された(Shi,C S;Tuscano J;Kehrl J H(2000)Blood 95(3):776-82;Shi,C S et al.(1999)J.Immunol.163(6):3279-85)。
本明細書で使用したPDGFRαは、血小板由来成長因子受容体αを意味し、様々な種類の細胞の表面に位置する受容体である。PDGFRαは、血小板由来成長因子(PDGF)のある特定のアイソフォームに結合することによって、細胞増殖および分化などの応答を惹起する細胞シグナリング経路の刺激における活性をもつようになる。PDGFRαは、胚形成の間のある特定の組織および器官の発達、ならびにこれらの組織および器官、特に血液組織を、一生を通じて維持することにおいて極めて重要である。PDGFRαをコードする遺伝子、すなわちPDGFRα遺伝子における変異は、多くの臨床的に重要な新生物と関連している。成熟した、グリコシル化されたPDGFRαタンパク質の分子量は、約170kDである。
本明細書で使用したPTK5は、fyn関連キナーゼ(FRK)としても知られる、チロシンタンパク質キナーゼ5を意味し、FRK遺伝子がコードする(Lee J et al.(April 1994)Gene.138(1-2):247-51;“Entrez Gene:FRK fyn-related kinase”)。この遺伝子がコードするタンパク質は、タンパク質キナーゼのチロシンキナーゼファミリーに属する。このチロシンキナーゼは核タンパク質であり、細胞周期のG1およびS期の間に機能して増殖を抑制する可能性がある(“Entrez Gene:FRK fyn-related kinase”)。FRKは、網膜芽細胞腫タンパク質と相互作用することが示されている(RJ Craven,WG Cance,ET Liu(1995)Cancer Res 55(18):3969-72)。
本明細書で使用したRetは、細胞外シグナリング分子のグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)ファミリーのメンバーに対する受容体型チロシンキナーゼをコードする、RET癌原遺伝子を意味する(Knowles PP,Murray-Rust J,Kjaer S,et al.(2006)J.Biol.Chem.281(44):33577-87)。RET機能喪失型変異は、ヒルシュスプルング病の発症に関連する一方、機能獲得型変異は、甲状腺髄様癌、多発性内分泌腫瘍症2A型および2B型、褐色細胞腫ならびに副甲状腺過形成を含む、各種のヒトがんの発症に関連している。
「MAPK11」としても知られる、SAPK2bは、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ11を意味し、ヒトではMAPK11遺伝子(Goedert M et al.(Aug 1997)EMBO J.16(12):3563-71;“Entrez Gene:MAPK11 mitogen-activated protein kinase 11”)がコードする酵素である。SAPK2bタンパク質は、MAPキナーゼファミリーのメンバーである。MAPキナーゼは、複数の生化学的シグナルの統合点〔integration point〕として働き、増殖、分化、転写制御および発達などの幅広い細胞プロセスに関与する。SAPK2bは、p38MAPキナーゼに最も近縁であり、その両方が炎症性サイトカインおよび環境ストレスによって活性化され得る。このキナーゼは、MAPキナーゼキナーゼ(MKK)、好ましくはMKK6によるリン酸化を介して活性化される。転写因子ATF2/CREB2が、このキナーゼの基質であることが示された。(“Entrez Gene:MAPK11 mitogen-activated protein kinase 11”)MAPK11は、HDAC3および前骨髄球性白血病タンパク質と相互作用することが示された(Mahlknecht U et al.(2004)J.Immunol.173(6):3979-90;Shin J et al.(2004)J.Biol.Chem.279(39):40994-1003)。
本明細書で使用したZAKは、ステライルαモチーフおよびロイシンジッパー含有キナーゼ〔sterile alpha motif and leucine zipper containing kinase〕AZKを意味し、シグナル伝達分子のMAPKKKファミリーのメンバーである。ZAKタンパク質は、N末端にキナーゼ触媒ドメインを有し、ロイシンジッパーモチーフおよびステライル-αモチーフ(SAM)がそれに続く。このマグネシウム結合タンパク質はホモ二量体を形成し、細胞質に位置する。ZAKタンパク質は、細胞周期停止をもたらすガンマ線照射シグナリングを媒介し、このタンパク質の活性は、細胞内の細胞周期チェックポイント制御における役割を担う。ZAKタンパク質はまた、アポトーシス促進活性も有する。異なるアイソフォームをコードする、選択的転写スプライスバリアントが特徴づけられた(“Entrez Gene:ZAK sterile alpha motif and leucine zipper containing kinase AZK”;Liu et al.(2000)Biochemical and Biophysical Research Communications 274(3):811-816.)。ZAKは、ZNF33Aと相互作用することが示された(Yang,Jaw-Ji(Jan 2003)Biochem.Biophys.Res.Commun.301(1):71-7)。
キナーゼ発現の検出試薬
一態様では、本開示は、本明細書で開示したキナーゼの発現を検出するための検出試薬を提供する。
ある種の実施形態では、検出試薬には、タンパク質キナーゼ遺伝子またはタンパク質キナーゼmRNAのポリヌクレオチドにハイブリダイズすることが可能なプライマーまたはプローブが含まれる。
本明細書で使用した用語「プライマー」は、標的ポリヌクレオチド配列の配列内部に、そのプライマーの少なくとも一部の配列相補性があるために、その標的ポリヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズすることが可能なオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは、少なくとも8ヌクレオチド、典型的には8から70ヌクレオチド、通常は18から26ヌクレオチドの長さを有することができる。標的配列への正確なハイブリダイゼーションのために、プライマーは、標的ポリヌクレオチド配列のハイブリダイズする部分に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列相補性を有することができる。プライマーとして有用なオリゴヌクレオチドは、Beaucage and Caruthers,Tetrahedron Letts.(1981)22:1859-1862によって最初に記載された固相ホスホロアミダイトトリエステル法によって、Needham-Van Devanter et al,Nucleic Acids Res.(1984)12:6159-6168に記載されているように、自動合成機を使用して化学合成することができる。
プライマーは、プライマーを伸長させて新たなポリヌクレオチド鎖を生成する、核酸の増幅反応において有用である。プライマーは、本明細書で提供したタンパク質キナーゼ遺伝子の標的ヌクレオチド配列のヌクレオチド配列に特異的にアニーリングすることができるように、当技術分野で公知の一般知識を使用して、当業者が容易に設計することができる。通常、プライマーの3’ヌクレオチドは、ポリメラーゼによって最適なプライマーの伸張がもたらされるように、対応するヌクレオチドの位置で標的配列に相補的であるように設計される。
本明細書で使用した用語「プローブ」は、標的ポリヌクレオチド配列の配列内部に、そのプローブの少なくとも一部の配列相補性があるために、その標的ポリヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズすることが可能なオリゴヌクレオチドまたはその類似体を意味する。プローブの例には、例えば、DNAプローブ、RNAプローブまたはタンパク質核酸(PNA)プローブがあり得る。プローブは、少なくとも8ヌクレオチド、典型的には8から70ヌクレオチド、通常は18から26ヌクレオチドの長さを有することができる。標的配列への正確なハイブリダイゼーションのために、プローブは、標的ポリヌクレオチド配列のハイブリダイズする部分に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列相補性を有することができる。プローブはまた、前述の固相ホスホロアミダイトトリエステル法によって化学的に合成することができる。DNAおよびRNAプローブの調製方法および標的ヌクレオチド配列へのそれらのハイブリダイゼーションの条件は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook et al.,eds.,2nd edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989,Chapters 10 and 11に記載されている。
ある種の実施形態では、本明細書で提供したプライマーおよびプローブは、検出可能なように標識される。プライマーおよびプローブを標識するのに適した検出可能な標識の例には、例えば、発色団、放射性同位元素、蛍光色素分子、化学発光部分、粒子(可視または蛍光性)、核酸、リガンド、または酵素などの触媒が含まれる。
ある種の実施形態では、検出試薬には、タンパク質キナーゼタンパク質に特異的に結合する抗体が含まれる。
本明細書で使用した用語「抗体」は、免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片を意味し、それは標的タンパク質抗原に特異的に結合することができる。抗体は、ファージまたは類似のベクター中の組換え抗体のライブラリーからの抗体の選択、ならびにウサギまたはマウスなどの免疫した動物によるポリクローナルおよびモノクローナル抗体の調製によって、同定および調製することができる(例えば、Huse et al.,Science(1989)246:1275-1281;Ward et al,Nature(1989)341:544-546を参照のこと)。
ある種の実施形態では、抗体は、修飾または標識されることによって、様々な検出アッセイにおいて適切に使用されることを理解することができる。ある種の実施形態では、抗体は検出可能なように標識される。
試料調製
本明細書で提供した方法を実施するのに適したいかなる生物学的試料も、対象から得ることができる。ある種の実施形態では、タンパク質キナーゼ発現の検出を実施するための所望の方法によって、試料はさらに処理することができる。
ある種の実施形態では、その方法はさらに、対象から得られた生体液試料(末梢血試料など)または組織サンプルから、がん細胞(循環腫瘍細胞など)を単離または抽出することを含む。がん細胞は、Immunicon社(Huntingdon Valley,Pa.)から入手可能であるような免疫磁気分離技術によって分離することができる。
ある種の実施形態では、組織試料は、インサイツハイブリダイゼーションを実施するために処理することができる。例えば、組織試料は、顕微鏡スライドガラス上に固定する前にパラフィンで包埋することができ、その後溶媒、典型的にはキシレンで脱パラフィン化することができる。
ある種の実施形態では、その方法はさらに、核酸、例えばDNAまたはRNAを、試料から単離することを含む。様々な抽出方法が、DNAまたはRNAを細胞または組織から単離するのに適しており、例えば、フェノールおよびクロロホルム抽出、ならびに例えば、Ausubel et al.,Current Protocols of Molecular Biology(1997)John Wiley & Sons,and Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.(2001)に記載されているような他の様々な方法がある。
例えば、NucliSens抽出キット(Biomerieux社,Marcy l’Etoile,France)、QIAamp(商標)ミニ血液キット、Agencourt Genfind(商標)、Rneasy(登録商標)ミニカラム(Qiagen社)、PureLink(登録商標)RNAミニキット(Thermo Fisher Scientific社)およびEppendorf社のPhase Lock Gels(商標)を含む市販のキットも、DNAおよび/またはRNAを単離するために使用することができる。当業者は、メーカーのプロトコルに従って、RNAまたはDNAを容易に抽出または単離することができる。
タンパク質キナーゼの発現レベルの検出方法
本開示の方法は、がんを有するまたはがんを有することが疑われる対象から得られた試料における、本明細書で記載したタンパク質キナーゼの発現レベルを検出することを含む。増幅アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、シークエンシングアッセイおよび免疫アッセイを含むがそれらに限定されない、当技術分野で公知の適切な方法を使用して、タンパク質キナーゼの発現レベルを、RNA(例えば、mRNA)レベル、タンパク質レベルまたはタンパク質活性化レベルにおいて検出することができる。
増幅アッセイ
核酸増幅アッセイには、標的核酸(例えば、DNAまたはRNA)のコピーが含まれ、それによって、増幅された核酸配列のコピーの数を増加させる。増幅は、指数関数的または線形であってもよい。核酸増幅法の例には、限定されるものではないが、ポリメラーゼ連鎖反応(“PCR”、米国特許第4,683,195号および4,683,202号、PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications(Innis et al.,eds,1990)を参照のこと)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)、TaqMan(登録商標)などの定量的PCR、ネステッドPCR、リガーゼ連鎖反応(Abravaya,K.,et al.,Nucleic Acids Research,23:675-682,(1995)を参照のこと)、分岐DNAシグナル増幅(Urdea,M.S.,et al.,AIDS,7(suppl 2):S11-S14,(1993)を参照のこと)、増幅可能なRNAリポーター〔amplifiable RNA reporter〕、Q-beta複製〔Q-beta replication〕(Lizardi et al.,Biotechnology(1988)6:1197を参照のこと)、転写ベース増幅〔transcription-based amplification〕(Kwoh et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1989)86:1173-1177を参照のこと)、ブーメランDNA増幅〔boomerang DNA amplification〕、鎖置換活性化〔strand displacement activation〕、サイクリングプローブ技術、自家持続配列複製(Guatelli et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1990)87:1874-1878)、ローリングサークル複製(米国特許第5,854,033号)、等温核酸配列に基づく増幅〔isothermal nucleic acid sequence based amplification〕(NASBA)、および遺伝子発現の連続分析〔serial analysis of gene expression〕(SAGE)が含まれる。
ある種の実施形態では、核酸増幅アッセイは、PCRをベースにした方法である。増幅される標的核酸配列にハイブリダイズするプライマー対を用いてPCRを開始した後、標的核酸配列を鋳型としてかつdNTPをビルディングブロックとして使用しながら新たな鎖を合成するポリメラーゼによって、プライマーが伸長する。次いで、新たな鎖および標的の鎖を変性させて、次の伸張および合成サイクルのために、プライマーが結合することを可能にする。複数回の増幅サイクルの後、標的核酸配列のコピーの総数は指数関数的に増加し得る。
ある種の実施形態では、二本鎖DNAに挿入されるとシグナルを生成する挿入剤を使用することができる。薬剤の例には、SYBR GREEN(商標)およびSYBR GOLD(商標)が含まれる。これらの薬剤は鋳型特異的ではないので、シグナルは鋳型特異的増幅に基づいて生成されるものと考えられる。これは、鋳型配列の融点が全般的に、例えば、プライマー-ダイマーなどよりもずっと高いので、温度に応じてシグナルをモニターすることによって確認することができる。
ハイブリダイゼーションアッセイ
核酸ハイブリダイゼーションアッセイでは、標的核酸にハイブリダイズするプローブが使用され、それによって標的核酸の検出が可能になる。ハイブリダイゼーションアッセイの非限定的な例には、ノザンブロッティング、サザンブロッティング、インサイツハイブリダイゼーション、マイクロアレイ分析、および多重ハイブリダイゼーションをベースにしたアッセイが含まれる。
ある種の実施形態では、ハイブリダイゼーションアッセイのためのプローブは、検出可能なように標識される。ある種の実施形態では、ハイブリダイゼーションアッセイのための核酸をベースにしたプローブは非標識である。このような非標識のプローブは、マイクロアレイなどの固相支持体に固定することができ、検出可能なように標識された標的核酸分子にハイブリダイズすることができる。
ある種の実施形態では、ハイブリダイゼーションアッセイは、核酸(例えばRNAまたはDNA)を単離し、(例えばゲル電気泳動によって)それらの核酸を分離した後、分離した核酸を適した膜フィルター(例えばニトロセルロースフィルター)上に移行させ、そこでプローブを標的核酸にハイブリダイズさせて検出を可能にすることによって実施することができる。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook et al.,eds.,2nd edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989,Chapter 7を参照のこと。プローブと標的核酸のハイブリダイゼーションは、当技術分野で公知の方法によって検出または測定することができる。例えば、ハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィー検出は、ハイブリダイズされたフィルターを写真フィルムに露光することによって実施することができる。
ある種の実施形態では、ハイブリダイゼーションアッセイはマイクロアレイ上で実施することができる。マイクロアレイは、多数の標的核酸分子のレベルを、同時測定するための方法を提供する。標的核酸は、RNA、DNA、mRNAから逆転写されたcDNA、または染色体DNAであってもよい。基材表面1平方センチメートル当たり、数百万プローブまでの密度で多数の固定された核酸プローブを配列させた基材を備えるマイクロアレイに、標的核酸をハイブリダイズさせることが可能である。試料中のRNAまたはDNAは、アレイ上の相補的プローブにハイブリダイズし、その後レーザースキャンによって検出される。アレイ上の各プローブについてハイブリダイゼーション強度が決定され、RNAまたはDNAの相対的レベルを表す定量値に変換される。米国特許第6,040,138号、第5,800,992号および第6,020,135号、第6,033,860号および第6,344,316号を参照のこと。
機械的合成法を使用したこれらのアレイの合成技術は、例えば、米国特許第5,384,261号に記載されている。平面アレイ表面が使用されることが多いが、アレイは実際にはいかなる形状の表面に製造されていてもよく、多重の表面に製造されてもよい。アレイは、ビーズ、ゲル、ポリマー表面、光ファイバーなどの繊維、ガラスまたは任意のその他の適切な基材上の、ペプチドまたは核酸であってもよく、米国特許第5,770,358号、第5,789,162号、第5,708,153号、第6,040,193号および第5,800,992号を参照のこと。アレイは、診断法または包括的装置のその他の操作を可能にするような方法で包装されていてもよい。有用なマイクロアレイは市販もされており、例えば、Affymetrix社、Nano String Technologies社のマイクロアレイ、Panomics社のQuantiGene2.0 Multiplex Assayなどである。
シークエンシング法
チロシンの発現レベルの測定に有用なシークエンシング法には、標的核酸のシークエンシングが含まれる。当技術分野で公知のいかなるシークエンシングも、目的のタンパク質キナーゼの発現レベルを検出するのに使用することができる。全般的に、シークエンシング法は、伝統的すなわち古典的な方法と、ハイスループットシークエンシング(次世代シークエンシング)に分類することができる。伝統的なシークエンシング法には、マクサム-ギルバートシークエンシング(化学的シークエンシングとしても知られる)およびサンガーシークエンシング(鎖終結法としても知られる)が含まれる。
ハイスループットシークエンシング、すなわち次世代シークエンシングは、伝統的な方法、例えばサンガーシークエンシングなどとは区別される方法を使用することにより、非常に拡張性が高く、一度に全ゲノムまたは全トランスクリプトームを配列決定することが可能である。ハイスループットシークエンシングには、合成によるシークエンシング〔sequencing-by-synthesis〕、ライゲーションによるシークエンシング〔sequencing-by-ligation〕およびウルトラディープシークエンシング〔ultra-deep sequencing〕(Marguiles et al.,Nature 437(7057):376-80(2005)に記載されているものなど)が含まれる。合成によるシークエンスには、ポリメラーゼ増幅の際に標識されたヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を取り込ませることによる、標識核酸の相補鎖の合成が含まれる。標識ヌクレオチドの取り込みに成功した直後に、または取り込みに成功すると同時に、標識のシグナルを測定し、ヌクレオチドの識別情報を記録する。取り込んだヌクレオチド上の検出可能な標識は、取り込み、検出および同定のステップを繰り返す前に除去される。合成によるシークエンス法の例は当技術分野で公知であって、例えば米国特許第7,056,676号、米国特許第8,802,368号および米国特許第7,169,560号に記載されており、その内容を本明細書に参考として組み込む。合成によるシークエンシングは、フォールドバックPCR〔fold-back PCR〕および固定されたプライマーを使用して、固相表面(またはマイクロアレイもしくはチップ)上で実施してもよい。標的核酸断片は、固定されたプライマーにハイブリダイズさせることによって固相表面に結合させ、ブリッジ増幅させることができる。この技術は、例えば、ILLUMINA社のシークエンシングプラットフォームにおいて使用されている。
パイロシークエンシングでは、標的核酸領域をプライマーにハイブリダイズし、ポリメラーゼ存在下で、塩基のA、C、GおよびT(U)に対応するデオキシヌクレオチド三リン酸を順次取り込ませることによって新たな鎖を伸張させることが含まれる。各塩基の取り込みはピロリン酸の放出を伴い、ピロリン酸はスルフリラーゼによってATPに変換され、そのATPがオキシルシフェリンの合成および可視光の放出を誘発する。ピロリン酸の放出は取り込まれた塩基の数と等モルであるため、発せられる光は、各1ステップにおいて加えられたたヌクレオチドの数と比例する。このプロセスは、全配列が決定されるまで繰り返される。
ある種の実施形態では、本明細書で記載したタンパク質キナーゼの発現レベルは、全トランスクリプトームショットガンシークエンシング(RNAシークエンシング)によって検出される。RNAシークエンシングの方法は記載されたことがある(Wang Z, Gerstein M and Snyder M,Nature Review Genetics(2009)10:57-63;Maher CA et al.,Nature(2009)458:97-101;Kukurba K & Montgomery SB,Cold Spring Harbor Protocols(2015)2015(11):951-969を参照のこと)。
免疫アッセイ
本明細書で使用した免疫アッセイは、典型的にはタンパク質キナーゼタンパク質に特異的に結合する抗体を使用することを必要とする。このような抗体は、当技術分野で公知の方法(例えば、Huse et al.,Science(1989)246:1275-1281;Ward et al,Nature(1989)341:544-546)を参照のこと)を使用して得ることができるか、または市販の供給元から得ることができる。免疫アッセイの例には、限定されるものではないが、ウェスタンブロッティング、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA)、免疫沈降法、サンドイッチアッセイ、競合アッセイ、免疫蛍光染色およびイメージング、免疫組織化学(IHC)、ならびに蛍光活性化セルソーティング(FACS)が含まれる。免疫学的手法および免疫アッセイの手法の総括については、Basic and Clinical Immunology(Stites & Terr eds.,7th ed.1991)を参照のこと。さらに、免疫アッセイはいくつかの形態のいずれかで実施することができ、それらはEnzyme Immunoassay(Maggio,ed.,1980)およびHarlow & Lane、上記において詳細に総括されている。全般的な免疫アッセイの総括については、Methods in Cell Biology:Antibodies in Cell Biology,volume 37(Asai,ed.1993);Basic and Clinical Immunology(Stites & Terr,eds.,7th ed.1991)も参照のこと。
キナーゼの発現レベルの測定のための、本明細書で提供したいかなるアッセイおよび方法も、自動化および半自動化システム、またはポイントオブケアアッセイシステムにおける使用に適合または最適化することができる。
本明細書で記載したキナーゼの発現レベルは、当技術分野で公知の適切な方法を使用して正規化することができる。例えば、キナーゼの発現レベルは、標準マーカーの標準レベルに正規化することができ、それは予め決定するか、同時に決定するか、または対象から試料を得た後に決定することができる。標準マーカーは同じアレイで操作してもよく、または以前のアッセイの公知の標準マーカーであってもよい。別の例では、タンパク質キナーゼの発現レベルは、内部マーカーであってもよく、または複数の内部マーカーの平均レベルもしくは全レベルであってもよい、内部対照に正規化することができる。ハイスループットシークエンシングを使用して、mRNAレベルによってタンパク質キナーゼの発現が測定されるさらに別の例では、タンパク質キナーゼの発現レベルを、シークエンシングアッセイの全ヒットに正規化することができる。
参照レベルとの比較
ある種の実施形態では、本明細書で開示した方法には、検出されたタンパク質キナーゼの発現レベルを、参照タンパク質キナーゼレベルと比較するステップが含まれる。
用語「参照タンパク質キナーゼレベル」は、参照試料の代表である、目的のタンパク質キナーゼの発現レベルを意味する。ある種の実施形態では、参照試料は、健康な対象または組織から得られる。ある種の実施形態では、参照試料はがんまたは腫瘍組織である。ある種の実施形態では、参照タンパク質キナーゼレベルは、試験試料中のタンパク質キナーゼの発現レベルの検出に使用したものと同じ測定法もしくはアッセイか、または比較可能な測定法もしくはアッセイを使用して得られる。
ある種の実施形態では、参照タンパク質キナーゼレベルは予め決定することができる。例えば、同種の腫瘍または血液がんからの、全般的ながんまたは腫瘍の試料またはそれらの組織の収集物中でのタンパク質キナーゼレベルの測定値に基づいて、参照タンパク質キナーゼレベルを計算または一般化することができる。別の例では、参照タンパク質キナーゼレベルは、全般的ながんまたは腫瘍集団からの、平均的ながんまたは腫瘍の試料中で一般に観察される、タンパク質キナーゼのレベルの統計値に基づかせることができる。
ある種の実施形態では、本明細書で提供した方法における比較ステップには、検出されたタンパク質キナーゼの発現レベルと参照タンパク質キナーゼレベルとの間の差を決定することが含まれる。参照タンパク質キナーゼレベルとの差は、増加または低減であり得る。
ある種の実施形態では、参照タンパク質キナーゼレベルとの差は、さらに閾値と比較される。ある種の実施形態では、参照タンパク質キナーゼレベルとの差が閾値に達すれば、このような差を統計学的に有意と見なすことができるように、統計学的方法によって閾値を設定することができる。有用な統計分析法は、L.D.Fisher & G.vanBelle,Biostatistics:A Methodology for the Health Sciences(Wiley-Interscience,NY,1993)に記載されている。統計学的な有意性は、信頼(「p」)値に基づいて決定することができ、それは対応のない両側t検定を使用して計算することができる。例えば、0.1、0.05、0.025、または0.01以下のp値を、通常、統計学的な有意性を示すのに使用することができる。信頼区間およびp値は、当技術分野で周知の方法によって決定することができる。例えば、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley & Sons,New York,1983を参照のこと。
タンパク質キナーゼ阻害剤を用いた処理
一態様では、本開示は、チロシンキナーゼ阻害剤を用いて、患者におけるがんを処置するための方法を提供する。ある種の実施形態では、この方法は、a)患者から得られた試料中の第1のタンパク質キナーゼの発現レベルを測定することと、b)第1のタンパク質キナーゼの発現レベルを、対応する参照の発現レベルと比較することと、c)患者がチロシンキナーゼ阻害剤に応答性である可能性を決定することと、d)第1のタンパク質キナーゼの発現レベルによって応答性であろうことが示された患者を、チロシンキナーゼ阻害剤を用いて処置することと、を含む。
ある種の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は多標的チロシンキナーゼ阻害剤である。多標的チロシンキナーゼ阻害剤の例には、ポナチニブ、セジラニブ、スニチニブ、パゾパニブ、イマチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、アンロチニブ、リニファニブ、ドビチニブ、ボスチニブなどが含まれる。
一部の実施形態では、多標的チロシンキナーゼ阻害剤は、第1のチロシンキナーゼとは異なる第2のチロシンキナーゼを優先的に阻害する。さらに別の実施形態では、第2のタンパク質キナーゼはKDRである。
ある種の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは化合物である。一部の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
式中、
R
1は水素、C
1~6アルキル、C
1~6ハロアルキル、ハロまたはシアノであり、
MはCHまたはNであり、
LはO、NHまたはN(CH
3)であり、
AはCR
5またはNであり、
WはCR
6またはNであり、
R
2、R
5およびR
6はそれぞれ独立に水素、C
1~6アルキル、C
1~6ハロアルキル、ハロ、C
3~7シクロアルキルまたはシアノであり、
X、YおよびZはそれぞれ独立にCHまたはNであり、
R
3およびR
4はそれぞれ独立に水素、ハロ、シアノ、C
1~6アルキル、C
1~6ハロアルキル、C
2~6アルケニル、ヒドロキシル-C
1~6アルキル、ジ-(C
1~6アルキルアミノ)-C
1~6アルキル、アミノ、C
1~6アルキルアミノ、C
3~7シクロアルキルアミノ、ジ-(C
1~6アルキル)アミノ、アミノ-C
1~6アルキルアミノ、C
1~6アルコキシ-C
1~6アルキルアミノ、C
1~6アルコキシカルボニル-C
1~6アルキルアミノ、ジ-(C
1~6アルコキシ-C
1~6アルキル)アミノ、アミノカルボニル、C
1~6アルキルアミノカルボニル、ジ-(C
1~6アルキル)アミノカルボニル、C
3~7シクロアルキルアミノカルボニル、C
1~6アルコキシ、C
3~7シクロアルコキシ、ヒドロキシル-C
1~6アルコキシ、C
1~6ハロアルコキシ、アミノ-C
1~6アルキル、アミノ-C
1~6アルコキシ、C
1~6アルキルスルホニル、C
2~6アルケニルスルホニル、C
3~7シクロアルキルスルホニル、場合によりBで置換されているヘテロシクリル、場合によりBで置換されているアリール、場合によりBで置換されているヘテロアリール、C
1~6アルキルスルホニルアミノ、C
2~6アルケニルスルホニルアミノ、C
3~7シクロオアルキルスルホニルアミノ〔cyclooalkylsulfonylamino〕、アミド、C
1~6アルキルカルボニルアミノ、C
2~6アルケニルカルボニルアミノ、C
3~7シクロオアルキルカルボニルアミノ〔cyclooalkylcarbonylamino〕、C
1~6アルコキシカルボニルアミノ、C
3~7シクロアルコキシカルボニルアミノ、ウレイド、C
3~7シクロアルキル、C
3~7ハロシクロアルキル、ヘテロシクリル-オキシ、ピペリジニルアミノ、N-メチル-ピペリジニル-4-カルボニル、ピペラジニル-C
1~6アルキル、ピロリルカルボニルアミノ、N-メチル-ピペリジニルカルボニルアミノ、もしくはヘテロシクリル-C
1~6アルコキシであるか、または
R
3およびR
4は共に、それらが結合する芳香環中の原子と3から8員環を形成しており、
Bは水素、C
1~6アルキル、C
1~6ハロアルキル、ハロ、ヒドロキシル、アリール、アミノ、C
1~6アルキルアミノ、C
3~7シクロアルキルアミノ、ジ-(C
1~6アルキル)アミノ、シアノ、またはC
3~7シクロアルキルである。
ある種の実施形態では、
R1は水素であり、
MはNであり、
LはOであり、
AはCR5であり、
WはCR6であり、
R2、R5およびR6はそれぞれ独立に水素、C1~6アルキル、またはハロであり、
X、YおよびZはCHであり、
R3およびR4はそれぞれ独立に水素、ハロ、C1~6ハロアルキル、またはC1~6ハロアルコキシである。
一実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、以下の群から選択される構造を有する。
一実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤はCBT-102であり、以下の構造を有する。
ある種の実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、薬学的に許容される担体を用いて製剤化されてもよい。担体が存在する場合、チロシンキナーゼ阻害剤および担体の総体積または総重量に対して、例えば5重量%から95重量%の担体の量などの、任意の適した量で、担体をチロシンキナーゼ阻害剤と混合することができる。一部の実施形態では、担体の量は、5%、10%、12%、15%、20%、25%、28%。30%、40%、50%、60%、70%または75%のいずれかの下限値と、20%、22%、25%、28%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%および95%のいずれかの、下限値よりも高い上限値とを有する範囲内であることができる。特定の実施形態における担体の量は、製剤技術分野の当業者には公知のように、特定の投与形態、チロシンキナーゼ阻害剤の相対量、担体を含めた組成物の総重量、担体の物理的および化学的性質、ならびに他の要素の検討に基づいて決定することができる。
チロシンキナーゼ阻害剤は、任意の所望の効果的な方法において投与することができ、それは、経口摂取のための方法、または眼球への局所投与のための軟膏剤もしくは点滴薬としての方法、または腹腔内、皮下、外用、皮内、吸入、肺内、直腸、膣、舌下、筋肉内、静脈内、動脈内、髄腔内もしくはリンパ内などの任意の適切な方法での非経口もしくはその他の投与のための方法である。さらに、チロシンキナーゼ阻害剤は、他の処置と併せて投与してもよい。チロシンキナーゼ阻害剤は、必要に応じて、カプセル化するかまたは別の方法で、胃またはその他の分泌物に対して保護することができる。
本明細書で開示したチロシンキナーゼ阻害剤の適した投与量の非限定的な例は、1日あたり約1mg/kgから約2400mg/kgであり、例えば、1日あたり約1mg/kgから約1200mg/kg、1日あたり75mg/kgから1日あたり約300mg/kgなどであり、1日あたり約1mg/kgから約100mg/kgを含む。このような薬剤の他の代表的な投与量には、1日あたり、約1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、125mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kg、250mg/kg、300mg/kg、400mg/kg、500mg/kg、600mg/kg、700mg/kg、800mg/kg、900mg/kg、1000mg/kg、1100mg/kg、1200mg/kg、1300mg/kg、1400mg/kg、1500mg/kg、1600mg/kg、1700mg/kg、1800mg/kg、1900mg/kg、2000mg/kg、2100mg/kg、2200mg/kg、および2300mg/kgが含まれる。一部の実施形態では、ヒトにおけるチロシンキナーゼ阻害剤の投与量は約400mg/日であり、12時間ごとに与えられる。一部の実施形態では、ヒトにおけるチロシンキナーゼ阻害剤の投与量は、300~500mg/日、100~600mg/日または25~1000mg/日の範囲を有する。本明細書で開示したチロシンキナーゼ阻害剤の有効用量は、2回、3回、4回、5回、6回、またはより多くのサブ用量〔sub-dose〕として投与することができ、一日を通して適切な間隔で分けて投与することができる。
以下の実施例は、特許請求した発明をよりよく例示するために提供され、本発明の範囲を限定しないものと解釈される。以下に記載した特定の組成物、材料および方法は全て、全体または一部が本発明の範囲内にある。これらの特定の組成物、材料および方法は、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内にある特定の実施形態を例示するに過ぎない。当業者は、創作能力を発揮することなく、かつ本発明の範囲を逸脱することなく、同等の組成物、材料および方法を開発することができる。本発明の範囲内にありながら、記載した本明細書の手法において多くの変更を行うことができることを理解されたい。このような変更が本発明の範囲内に含まれることは、本発明者等の意図である。
[実施例1]
材料および方法
1.キナーゼプロファイリング
ほとんどのアッセイのために、キナーゼタグ付きT7ファージ株を、BL21株由来の大腸菌〔E.coli〕宿主内で、24ウェルブロックにおいて同時に増殖させた。大腸菌を対数期まで増殖させ、凍結ストックからのT7ファージに感染させ(感染多重度=0.4)、溶菌するまで振とうしながら32℃でインキュベートした(90~150分)。溶菌液を遠心分離(6,000×g)し、フィルター(0.2μm)にかけて細胞片を除去した。別法として、いくつかのキナーゼをHEK-293細胞で産生した。ストレプトアビジンがコーティングされた磁気ビーズを、ビオチン化したキナーゼの低分子リガンドで、室温で30分間処理し、キナーゼアッセイのためのアフィニティー樹脂を作製した。リガンドが結合したビーズを過剰のビオチンでブロックし、非結合リガンドを除去しかつ非特異的なファージの結合を低減するために、ブロッキングバッファー(SeaBlock(Pierce)、1%BSA、0.05%Tween20、1mM DTT)で洗浄した。キナーゼ、リガンドが結合したアフィニティビーズおよび試験化合物を、1×結合バッファー(20%SeaBlock、0.17×PBS、0.05%Tween 20、6mM DTT)中に混合することによって、結合反応を組み立てた。試験化合物は、100%DMSOにおける40×ストックとして調製し、アッセイに直接希釈した。全反応は、ポリプロピレンの384ウェルプレート中で、0.04mlの最終容量において実施した。アッセイプレートを、振とうしながら室温で1時間インキュベートし、アフィニティビーズを洗浄バッファー(1×PBS、0.05%Tween 20)で洗浄した。次いでビーズを溶出バッファー(1×PBS、0.05%Tween 20、0.5μM非ビオチン化アフィニティーリガンド)中に再懸濁し、振とうしながら室温で30分間インキュベートした。溶出液中のキナーゼ濃度は、qPCRによって測定した。
化合物は要求された濃度でスクリーニングした。1次スクリーニングの結合相互作用の結果をパーセント対照「%Ctrl」として報告する。その報告では、以下のページのマトリックス中で、より低い数値がより強いヒットを示す。
選択性のスコアすなわちS-スコアは、化合物の選択性の定量的な基準である。それは、化合物が結合するキナーゼの数を、試験した別個のキナーゼから変異体バリアント〔mutant variant〕を除いたものの総数で割ることによって計算される。
S=ヒット数/アッセイ数
この値は、効力閾値(未満)として%Ctrlを使用することによって計算することができ、異なる化合物との比較を容易にするための、化合物の選択性を説明する定量的な方法を提供する。
S(35)=(%Ctrl<35を有する非変異体キナーゼの数)/(試験した非変異体キナーゼの数)
S(10)=(%Ctrl<10を有する非変異体キナーゼの数)/(試験した非変異体キナーゼの数)
S(1)=(%Ctrl<1を有する非変異体キナーゼの数)/(試験した非変異体キナーゼの数)
2.CBT-102のキナーゼIC50値
Eurofins社の標準的なKinaseProfilerアッセイを使用し、かつ適切な標準操作手順に従って、選択した各キナーゼに対し、CBT-102を試験した。酵素および基質を含有する反応混合物を添加する前に、試験化合物(CBT-102)の50×ストックの所要の容量をアッセイウェルに添加した。選択した濃度でATPを添加することによって、反応を開始した。ATP添加前に、化合物と、酵素/基質混合物とのプレインキュベーションは行わなかった。
データは、特注の社内分析ソフトウェアを使用して処理する。結果は、DMSO対照のパーセンテージとして、残存キナーゼ活性として表す。これは、以下の式を使用して計算される。
IC50の決定のために、データは、XLFitバージョン5.3(ID Business Solutions社)を使用して分析する。
3.PDXモデルにおける、インビボでのCBT-102の有効性
腫瘍を発症させるために、ドナーのマウスから採取したPDX腫瘍断片を、雌のBALB/cヌードマウスの右上背部側腹部〔upper right dorsal flank〕に皮下接種した。平均の腫瘍サイズが約150(100~200)mm3に達した時点で、ランダム化を開始した。グループ分けの日を0日目と表すことにし、投薬開始を1日目とした。腫瘍体積は、ノギスを使用して二次元で週に2回測定し、式:V=(L×W×W)/2(式中、Vは腫瘍の体積であり、Lは腫瘍の長さ(最長の腫瘍の寸法)であり、Wは腫瘍の幅(Lに垂直な最長の腫瘍の寸法)であった)を使用して、体積をmm3で表した。PDXモデルには、胃がんモデル、肺がんモデル、結腸直腸がんモデル、肝臓がん、食道がん、乳がんなどが含まれた。
4.PDX腫瘍中でのタンパク質キナーゼの発現
腫瘍をPDXモデルから採取し、タンパク質キナーゼの発現レベルを、RNAseqによって検出した。
5.M-NFS-60およびRAW264.7同系細胞株ならびに操作されたBaF3 hCSF1R細胞株の増殖における、CBT-102の効果の評価
2つの同系細胞株M-NFS-60およびRAW264.7ならびに操作されたBaF3 hCSF1R細胞株を飢餓にさせ、次いでCBT-102および他の試験物質を用いて、37℃の温度、5%のCO2および95%の湿度において3日間試験した。次いで、細胞の生存率を、CTGアッセイを使用して検出した。ソフトウェアのGraphPad Prismを使用して、IC50を計算した。
6.皮下MC-38マウス大腸がんモデルにおけるインビボでのCBT-102の有効性
MC-38腫瘍細胞を、10%のウシ胎仔血清を補ったRPMI1640培地を用いて、インビトロで、37℃で、空気中に5%のCO2を含む環境において維持した。腫瘍を発症させるために、各マウスに、0.1mLのPBS中のMC-38腫瘍細胞(1×10e6)を、剃毛後、右側腹部領域に皮下接種した。平均の腫瘍サイズが約100mm3に達した時点で、ランダム化を開始した。グループ1のマウスはビヒクルで処置し、グループ2のマウスは、最初の11日間は20mg/kgのCBT-102で処置し、その後10mg/kgに減少した。
7.MC-38腫瘍における、CD3/CD4/CD8/F4-80のIHC試験
MC38腫瘍組織を、インビボでの有効性試験の終わりに収集した。次いで、その腫瘍組織をパラフィンで包埋した。CD3/CD4/CD8/F4-80の発現を、免疫組織化学染色によって試験した。
[実施例2]
本実施例は、CBT-102によって効果的に阻害することができるタンパク質キナーゼのスクリーニングを例示する。
1.CBT-102は独特なキナーゼプロファイラーを有する。
スクリーニングアッセイでは、403個の候補タンパク質キナーゼに対してCBT-102の阻害有効性を試験した。表1に示されるように、CBT-102は、タンパク質キナーゼ群の阻害において様々な有効性(%対照として示される)を明示した。具体的には、表2に示されるように、試験した403個のタンパク質キナーゼの中で、CBT-102は、13個のタンパク質キナーゼに対して強い阻害を明示し(S(1)として示される)、36個のタンパク質キナーゼに対して中等度の阻害を明示した(S(10)として示される)。
2.CBT-102のキナーゼIC50値
以下の表3に示されるように、以下のタンパク質キナーゼは、100nMより低いCBT-102のIC50を示した:CDKL2、cKit、c-RAF、DDR1、Flt1、Flt4、CSF1R、KDR、MAP4K5、PDGFRα、PTK5、Ret、SAPK2b、ZAK。
[実施例3]
本実施例は、DDR1の発現レベルが、CBT-102の有効性と相関することを例示する。
図1に示されるように、CBT-102は、PDXモデル群において、異なるインビボでの有効性を明示した。次いで、DDR1の発現レベルを、これらのPDXモデルにおいて測定した。これらのPDXモデルにおける、DDR1の発現レベルとCBT-102の有効性との間の関係を分析した。図2Aおよび2Bに示されるように、PDXモデルにおいて、DDR1の発現レベルは、CBT-102の有効性と有意な相関を有する。
全PDXモデルの中で、肺がんモデルにおけるDDR1の発現とCBT-102の有効性との間の関係も分析した。図3Aおよび3Bに示されるように、肺がんPDXモデルにおいて、DDR1の発現レベルは、CBT-102の有効性と有意な相関を有する。
[実施例4]
本実施例は、CBT-102が、CSF-1/CSF-1R経路を介してがん細胞増殖を阻害することを例示する。
CSF-1依存性マウス骨髄性M-NFS-60細胞を標的細胞として使用する一方で、CSF-1非依存性細胞株Raw264.7を陰性対照として使用した。CBT-102に加えて、検討には3つのCSF-1R阻害剤、GW2580、BLZ945およびペキシダルチニブも含めた。表4ならびに図4Aおよび4Bに示されるように、CBT-102、GW2580、BLZ945およびペキシダルチニブは、M-NFS-60の増殖を効果的に阻害した。CBT-102、GW2580、BLZ945およびペキシダルチニブは、それぞれ0.631/0.343、1.145、3.015および0.348μMのIC50を有する。対照的に、CSF-1非依存性RAW264.7細胞は、22.85μMのIC50でCBT-102に対して抵抗性を示し、同様に他の2化合物、BLC945(IC50>30μM)およびペキシダルチニブ(IC50=16.36μM)に対しても抵抗性を示した。操作されたBaF3 hCSF1R細胞株においては、類似の多キナーゼ阻害剤であるスルファチニブの1.333μM、およびより特異的なCSF1Rキナーゼ阻害剤のGW2580の0.279μMに対して、CBT-102のIC50値は0.588μMであった。これらの結果は、CBT-102が、CSF1-CSF1R経路を妨害することによって、がん細胞増殖アッセイを阻害することを示している。
2.CBT-102は、MC-38腫瘍の増殖を阻害した。
処置は14日目に実施した。20mg/kg(10mg/kg)でのCBT-102を用いた処置は、抗腫瘍有効性をもたらし、腫瘍接種後の34日目(PG-D21)での腫瘍サイズは、454.63mm3であった(ビヒクル処置群に対して、TGI:79.91%、p<0.001)(図5)。
3.CBT-102は、MC-38腫瘍におけるF4-80のIHCスコアを低減した。
CBT-102での処置後、MC-38腫瘍組織におけるF4-80のIHCスコア(%)は顕著に減少した。F4-80はマクロファージの表面マーカーである。この結果は、CBT-102が腫瘍組織中のマクロファージに影響を及ぼすことを示した。CBT-102は、MC-38腫瘍中のT細胞表面マーカー、CD3、CD4およびCD8には、ビヒクル群と比べて顕著な影響を及ぼさなかった(図6および7)。