以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
従来、活物質として使用されているスピネル型マンガン酸リチウムは、強い酸化剤として作用するため、電解液や電解質塩と反応して水素ガスを発生することが知られている。また、コバルト酸リチウムなどのコバルト含有酸化物は、スピネル型マンガン酸リチウムの酸化剤作用に対する緩衝剤としての働きを有する。つまり、スピネル型マンガン酸リチウムとコバルト含有酸化物とを混合して使用した場合、コバルト含有酸化物は、スピネル型マンガン酸リチウムにより発生した水素ガスをプロトンに酸化させる作用を示す。
本発明者らは、コバルト含有酸化物を、4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位を有するリチウム複合酸化物と共に使用した場合には、水素ガスをプロトンに酸化させる作用が十分に得られないことを見出した。この原因について鋭意研究したところ、4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位ではコバルト含有酸化物の結晶構造が不安定となるため上記作用が得られない上に、逆にガス発生量が増加していることが分かった。
(第1実施形態)
第1実施形態によると、活物質が提供される。活物質は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を含む第1活物質粒子と、第1活物質粒子とは異なる第2活物質粒子とを含む。第2活物質粒子は、コバルト含有酸化物粒子と、コバルト含有酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを含む。被覆層は固体電解質を含む。
実施形態に係る活物質は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を含む第1活物質粒子と、固体電解質を含む被覆層で少なくとも一部が被覆されたコバルト含有酸化物粒子(第2活物質粒子)とを含む。コバルト含有酸化物粒子が被覆層で被覆されている場合、当該活物質が4.4V(vs.Li/Li+)以上の電位で使用された場合にも、コバルト含有酸化物の結晶構造を安定に維持することができる。この理由は詳細には明らかになってはいないが、第1活物質粒子表面が被覆層で被覆されているため、第1活物質粒子と電解質との接触が抑制され、金属の溶出が低減されるためと考えられる。
そして、安定に存在するコバルト含有酸化物を含む第2活物質粒子は、第1活物質粒子に起因して生じた水素ガスをプロトンに酸化させることができる。即ち、充放電を繰り返した場合であっても二次電池内に水素ガスが充満するのを抑制することができる。それ故、実施形態に係る活物質は、優れたサイクル寿命特性を達成することができる。加えて、第1活物質粒子の作動電位は4.4V(vs.Li/Li+)以上と高いため、高い作動電圧を示す二次電池を実現することができる。
以下、実施形態に係る活物質の詳細を説明する。
実施形態に係る活物質は、正極で使用される正極活物質であってもよく、負極で使用される負極活物質であってもよい。実施形態に係る活物質が正極活物質であるか負極活物質であるかは、対極に含まれる活物質の作動電位に応じて変化する。
第1活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を含む粒子である。第1活物質粒子の数は、1個又は複数個でありうる。第1活物質粒子のそれぞれは、4.4V(vs.Li/Li+)以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物のみからなっていてもよい。つまり、第1活物質粒子は、当該リチウム複合酸化物のみからなっていてもよい。この場合、第1活物質粒子全体の作動電位が高いため、高い電池容量を達成することができる。
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物の一例として、例えば、下記一般式(A)で表される酸化物が挙げられる。
LiuM1xMn2-xO4・・・(A)
一般式(A)において、M1は、Mn,Ni,Fe,Co,Cr,Mg,Zn,Al及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、uは0<u≦1を満たし、xは0<x≦1を満たす。
一般式(A)で表されるリチウム複合酸化物の具体例として、例えば、LiNi0.5Mn1.5O4及びLiCu0.5Mn1.5O4を挙げることができる。
第1活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を1種類のみ含んでいてもよく、複数種類の当該リチウム複合酸化物を含んでいてもよい。
金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムニッケルマンガン酸化物及びリチウムリン酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む。上記リチウム複合酸化物のうち、電子伝導性が高く、5V付近まで電圧を高くしても構造が安定している理由から、第1活物質粒子は、リチウムニッケルマンガン酸化物を含むことが好ましい。リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えばスピネル構造の結晶構造を有する。
リチウムニッケルマンガン酸化物は、例えば、下記一般式(I)で表される。この場合、上述の通り、電圧を高くしても構造が安定していることから、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性が得られやすい。
LiuNixMn2-xO4・・・(I)
一般式(I)において、uは0<u≦1を満たし、xは0<x≦1を満たす。
一般式(I)で表されるリチウムニッケルマンガン酸化物の具体例として、例えば、LiNi0.5Mn1.5O4を挙げることができる。
リチウムリン酸化合物は、例えば、下記一般式(II)で表される。
LiwM2yCo1-yPO4・・・(II)
一般式(II)において、M2は、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、wは0<w≦1を満たし、yは0≦y≦1を満たす。リチウムリン酸化合物は、例えばオリビン構造の結晶構造を有する。
一般式(II)で表されるリチウムリン酸化合物の具体例として、例えば、LiNiPO4及びLiCoPO4を挙げることができる。
第2活物質粒子は、少なくとも1つのコバルト含有酸化物粒子と、コバルト含有酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを含む。実施形態において、第2活物質粒子が含むコバルト含有酸化物粒子は、第1活物質粒子とは異なる活物質である。第2活物質粒子の数は、1個又は複数個でありうる。第2活物質粒子に含まれるコバルト含有酸化物粒子の一部が被覆層を有していてもよく、第2活物質粒子に含まれるコバルト含有酸化物粒子の全てが被覆層を有していてもよい。
コバルト含有酸化物粒子は、例えば、LixNiaCobMncM3dO2(0<x≦1.0、0.3≦a≦1.0、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.4であり、M3はMg、Fe、Ni、Co、W、Ta及びMoからなる群より選択される少なくとも1種である)、LiMxCo1-xPO4、Li2MxCo1-xPO4F、LiMxCo1-xO2、LiMxCo1-xBO3、及びLiMxCo1-xSiO4(これらの一般式中、xは0≦x0.8を満たし、MはMn、Ni、Fe、Mg、Zn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種である)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
これらの中でも、LixNiaCobMncM3dO2(NCMとも呼ぶ)、及び、LiMxCo1-xPO4(LCPとも呼ぶ)は、構造安定性が高いため水素ガスをプロトンに酸化させる効果が高いため好ましい。第2活物質粒子に含まれるコバルト含有酸化物粒子の全てがNCMであってもよく、LCPであってもよい。或いは、第2活物質粒子に含まれるコバルト含有酸化物粒子は、NCM及びLCPの混合物であってもよい。
コバルト含有酸化物粒子は、また、酸化コバルト、酸化コバルト鉄、コバルト(II)炭酸塩、コバルト(II)ホスフェート、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)チオシアネート、リン酸コバルトリチウム、水酸化コバルト、ニッケルコバルト酸化物、硝酸コバルト、酢酸コバルト、酸化アルミニウムコバルト、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含み得る。
第2活物質粒子の質量に占める被覆層の質量の割合は、0.1質量%~10質量%の範囲内にあり、好ましくは1.0質量%~5.0質量%の範囲内にあり、より好ましくは2.0質量%~5.0質量%の範囲内にある。当該割合が過度に小さいと、被覆層による副反応抑制の効果が十分に得られない可能性がある。当該割合が過度に大きいと、電極を構成する活物質含有層に占める、被覆層の質量又は体積が大き過ぎて、電池の重量当たり又は体積当たりのエネルギー密度が低下するため好ましくない。第2活物質粒子の質量に占める被覆層の質量の割合は、後述する誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)分光分析により分析することができる。
被覆層は、固体電解質を含む。被覆層は固体電解質からなっていてもよい。固体電解質のリチウムイオン伝導率は、25℃において1×10-10S/cm以上であることが好ましい。固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導率が1×10-10S/cm以上であることで、固体電解質表面近傍のリチウムイオン濃度が高くなりやすいため、レート性能及び寿命特性を高めることができる。固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、1×10-6S/cm以上であることがより好ましい。固体電解質のリチウムイオン伝導率の上限値は、一例によれば2×10-2S/cmである。
固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。固体電解質は、具体的には、硫化物系のLi2SeP2S5系ガラスセラミックス、ペロブスカイト型構造を有する無機化合物であるリチウムランタンチタン複合酸化物(例えば、Li0.5La0.5TiO3)、LISICON型構造を有する無機化合物(例えば、Li3.6Si0.6P0.4O4)、NASICON型骨格を有する無機化合物、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.3N0.46)、リチウムカルシウムジルコニウム酸化物(Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO4)3)、及び、ガーネット型構造を有する無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。被覆層は、1種類の固体電解質を含んでいてもよく、2種類以上の固体電解質を含んでいてもよい。
NASICON型骨格を有する無機化合物としては、一般式LiM2(PO4)3(Mは、Ti、Ge、Sr、Zr、Sn及びAlから選ばれる一種以上である)で表される無機化合物であることが好ましい。中でも、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(LATP)は、イオン伝導性が高く、水に対する電気化学的安定性が高いため好ましい。上記において、xは0≦x≦0.5を満たすことが好ましい。
ガーネット型構造を有する無機化合物としては、例えば、Li5+xAyLa3-yM2O12(AはCa,Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、MはNb及びTaからなる群より選ばれる少なくとも1つである)、Li3M2-xZr2O12(MはTa及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1つである)、Li7-3xAlxLa3Zr3O12、及びLi7La3Zr2O12が挙げられる。上記において、xは、例えば0≦x<0.8であり、好ましくは、0≦x≦0.5である。yは、例えば0≦y<2である。ガーネット型構造を有する酸化物は、これら化合物のうちの1種からなっていてもよく、これら化合物の2種以上を混合して含んでいてもよい。これらの中でもLi6.25Al0.25La3Zr3O12及びLi7La3Zr2O12はイオン伝導性が高く、電気化学的に安定なため、放電性能とサイクル寿命性能に優れる。
固体電解質が硫黄元素を含んでいると、硫黄成分が後述する有機電解質に溶解するため好ましくない。固体電解質は硫黄元素を含まないことが好ましい。
好ましい固体電解質は、NASICON型骨格を有するLATP(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)、アモルファス状のLIPON、ガーネット型のリチウムランタンジルコニウム含有酸化物(例えば、Li7La3Zr2O12:LLZ)などの酸化物である。
NASICON型骨格を有するLiM2(PO4)3で表される無機化合物の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、例えば1×10-3S/cm~1×10-5S/cmの範囲内にある。LIPON(Li2.9PO3.3N0.46)の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、3×10-6S/cmである。ガーネット型のLLZ(Li7La3Zr2O12)の25℃におけるリチウムイオン伝導率は、3×10-4S/cmである。
固体電解質は、これらの中でも、NASICON型骨格を有するLATPであることが好ましい。LATPは、リチウムイオン伝導率が高く、水で分解することがないため、空気中においても安定に存在することができる。
なお、上述した第1活物質粒子は、その表面上が上記被覆層により被覆されていないことが好ましい。即ち、第1活物質粒子は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物のみからなることが好ましい。第1活物質粒子及び第2活物質粒子のうち、第2活物質粒子のみが被覆層を有することが好ましい。第1活物質粒子の表面が被覆層で覆われていない場合、過度な抵抗上昇や、電池容量の低下を防ぐことができる。
第1活物質粒子の質量(MP1)と、第2活物質粒子の質量(MP2)との比の値(MP1/MP2)は、例えば2~20の範囲内にあり、好ましくは3~10の範囲内にあり、より好ましくは5~10の範囲内にある。質量比がこの範囲内にあると、第1活物質粒子に起因した高い作動電圧及び入出力特性を維持しつつ、ガス発生を低減することができる効果がある。
実施形態に係る活物質は、第1活物質粒子とも第2活物質粒子とも異なる他の活物質を含んでいてもよい。活物質全体に占める他の活物質の割合は、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
他の活物質として、例えば酸化物及びポリマー等が挙げられる。酸化物としては、例えば、リチウムを吸蔵した二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、及び、バナジウム酸化物(例えばV2O5)が挙げられる。上記xは0<x≦1を満たし、yは0≦y≦1であることが好ましい。
ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、又は、ジスルフィド系ポリマー材料を用いることができる。イオウ(S)、フッ化カーボンもまた活物質として使用できる。
第1活物質粒子のメジアン径(D50、以下「MD1」という。)は、例えば0.1μm~100μmの範囲内にあり、好ましくは1μm~10μmの範囲内にある。第1活物質粒子のメジアン径が過度に小さいと、副反応が多くなりガスが増える傾向にあるため好ましくない。また、第1活物質粒子のメジアン径が過度に大きいと、比表面積が小さいために電解液との接触界面が減り、入出力特性が落ちる傾向にあるため好ましくない。
第1活物質粒子は、一次粒子、一次粒子が凝集した二次粒子、及び、これらの混合物であり得る。
第2活物質粒子のメジアン径(D50、以下「MD2」という。)は、例えば0.01μm~100μmの範囲内にあり、好ましくは0.05μm~10μmの範囲内にある。第2活物質粒子のメジアン径が好ましい範囲内にあると、副反応を抑えつつ、第1活物質粒子から発生したガスを処理するのに適度な表面積を確保することができる。なお、コバルト含有酸化物粒子がLCP(LiMxCo1-xPO4)などの導電性が低い粒子の場合には、第2活物質粒子のメジアン径は0.05μm~5μmの範囲内にあることが好ましい。第2活物質粒子のメジアン径を比較的小さくすることにより電極密度を高めることができるため、活物質含有層内における電子導電パスを良好に形成することができる。
第2活物質粒子は、一次粒子、一次粒子が凝集した二次粒子、及び、これらの混合物であり得る。
第1活物質粒子のメジアン径MD1と第2活物質粒子のメジアン径MD2との比の値(MD1/MD2)は、例えば1.0以上である。比(MD1/MD2)が1.0以上である場合、第1活物質粒子の間に第2活物質粒子が分散しやすいため、第1活物質粒子から発生した水素ガスをプロトンに酸化するのに有利である。比(MD1/MD2)は、1.0以上5.0以下の範囲内にあってもよく、2.0以上5.0以下の範囲内にあってもよい。比(MD1/MD2)がこの範囲内にある場合、活物質含有層内における、第1及び第2活物質粒子の分散性が良好である傾向がある。即ち、活物質含有層内において、両者が偏ることなく分布している。それ故、第1活物質粒子から発生した水素ガスを、第2活物質粒子が酸化させ易い。その結果、優れたサイクル寿命特性を達成できる。また、第1活物質粒子の間に第2活物質粒子が分散しやすいため、電極密度を高め、高い容量を実現できる。
<X線回折(X-ray Diffraction;XRD)及びリートベルト解析>
第1活物質粒子と第2活物質粒子との質量比は、XRD及びリートベルト解析を実施することで測定できる。まず、電池を完全放電した後、不活性雰囲気下で解体し、実施形態に係る活物質を含む電極を切り出す。この電極は、例えば正極である。切り出した電極は、まず環状溶媒であるプロピレンカーボネート及び鎖状溶媒であるジエチルエーテルの体積比1:1混合溶媒に10分間含浸させて、活物質含有層内に残るリチウム塩を溶解させる。更に、ジエチルエーテル溶媒に10分間含浸させて、電極活物質層から溶媒を除去する。洗浄した電極を例えば14mmφに打ち抜き、測定ホルダーに設置する。不活性雰囲気を維持した状態でX線回折測定を実施することが好ましい。測定には、例えばBRUKER 卓上型X線回折装置 D2 PHASERのようなXRD測定装置、又はこれと同等の機能を有する装置を用いる。測定条件は下記の通りとする。即ち、X線源としてCu‐Kα線源を用い、回折角2θを10度から80度まで、ステップ幅を0.02度、積算時間を2.0秒とする。得られた回折ピークに対してリートベルト解析を行うことで第1活物質粒子と第2活物質粒子との質量比を同定する。
リートベルト解析は、例えばTOPAS(BRUKER社)により以下のように行うことができる 。まず、電極に含まれる活物質の結晶構造を仮定し、バックグラウンド関数を規定し、フィッティングを行う。試料は完全放電しているため、Liサイトの占有率の初期値は1とするが、占有率は固定せずにフィッティングを行う。遷移金属の組成比が異なるが同一の結晶構造をとるような固溶体を形成する化合物系については、同一のサイトについて該当する複数の遷移金属を与えて、占有率をパラメータとしてフィッティングを行う。S値(Goodness-of-fit)が1.3以下に収束した際にフィッティングを完了とみなす。解析の結果から与えられる活物質の組成比から第1活物質粒子と第2活物質粒子との質量比を求める。
<ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光法>
上述のXRD及びリートベルト解析により得られる第1活物質粒子及び第2活物質粒子の質量比と、以下に説明するICP分析の結果とから、第2活物質粒子に占める被覆層の割合を測定することができる。
分析対象としての活物質に含まれる各元素の存在比(モル比)は、使用する分析装置の感度に依存する。従って、測定されるモル比が、実際のモル比から測定装置の誤差分だけ数値がずれることがある。しかしながら、分析装置の誤差範囲で数値が逸脱したとしても、実施形態に係る活物質の性能を十分に発揮することができる。
電池に組み込まれている活物質を分析する場合には、後述するレーザー回折散乱法の項で説明する手順で活物質粉末を準備する。この粉末を酸で溶解することで、活物質を含む液体サンプルを作成できる。このとき、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸などを使用できる。この液体サンプルをICP分析に供することで、活物質中の元素組成を知ることができる。
<レーザー回折散乱法による粒度分布測定>
第1活物質粒子のメジアン径(MD1)及び第2活物質粒子のメジアン径(MD2)は、例えば、下記の方法で測定できる。
実施形態に係る活物質が二次電池に組み込まれている場合には、以下の手順で測定を行う。
まず、二次電池内から電極を取り出す。この際、電極内の活物質からリチウムイオンが完全に離脱した状態に近い状態にする。例えば、活物質が負極に含まれている場合、電池を完全に放電した状態にする。例えば、電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧又は電池電圧が1.0Vに到達するまで放電させることを複数回繰り返し、放電時の電流値が定格容量の1/100以下となるようにすることで、電池を放電状態にすることができる。
次に、アルゴンを充填したグローブボックスなどのドライ雰囲気中で電池を分解して電極を取り出す。取り出した電極を、適切な溶媒で洗浄して減圧乾燥に供する。溶媒としては、例えば、エチルメチルカーボネートなどを用いる。洗浄乾燥後の電極について、その表面にリチウム塩などの白色析出物がないことを確認する。このようにして電極試料を得る。
得られた電極試料から、活物質含有層などの活物質が含まれている部分を剥離する。例えば、超音波を照射することにより活物質が含まれている部分を剥離することができる。具体例として、例えば、ガラスビーカー中に入れたエチルメチルカーボネートに電極を入れ、超音波洗浄機中で振動させることで、集電体から活物質を含む活物質含有層を剥離させることができる。次に、剥離した部分を大気中で短時間加熱して(例えば、500℃で1時間程度)、バインダ成分やカーボンなど不要な成分を焼失させて活物質粉末を得る。その後、遠心分離によって、得られた活物質粉末を第1活物質粒子と第2活物質粒子とに分離する。なお、測定対象の活物質粉末自体を入手できる場合は、これを遠心分離によって第1活物質粒子と第2活物質粒子とに分離する。
得られた第1及び第2活物質粒子のそれぞれを、下記の手順で粒度分布測定に供することで、各粒子のメジアン径を測定できる。活物質粒子を純水に分散させて、超音波処理を施して、粒度分布測定用サンプルとしての分散液を得る。この分散液について、レーザー回折式分布測定装置を用いて構成粒子の粒度分布測定を実施する。測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製 マイクロトラックMT3100IIを使用することができる。上記分散溶媒を得る際の超音波処理は、レーザー回折式分布測定装置に付随する試料供給システムにより実施する。超音波処理は、40kHz、30Wの出力で、180秒に亘って実施する。
<走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)>
また、上述の手順で分離した第1活物質粒子及び第2活物質粒子に対してSEM-EDX(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を実施することにより、第2活物質粒子にのみ被覆層が形成されていることを確認できる。まず、分析対象の粉末をSEM試料台に貼り付ける。このとき、対象の粉末が試料台から剥がれないように、導電性テープなどを用いて処理を施してもよい。SEM試料台に貼り付けた粉末を、SEMで観察してSEM画像を得る。SEM測定時には10,000倍の倍率で観察する。なお、粉末を試料室に導入する際には、不活性雰囲気を維持することが好ましい。
更に、EDXによって、上記SEM画像に対応した元素マッピング画像を得る。第1活物質粒子及び第2活物質粒子のそれぞれについて元素マッピング画像を観察することにより、第2活物質粒子にのみ被覆層が形成されていることを確認することができる。感度の問題でEDXにて観察できない場合は、蛍光X線分析(X-ray Fluorescence:XRF)を代わりに行うことで、被覆層に含まれる元素を検出及びマッピングすることができる。
続いて、第2活物質粒子の製造方法、即ち、コバルト含有酸化物粒子の表面上に被覆層を形成する方法を説明する。
被覆層の形成方法は特に限定されないが、例えば、ゾルゲル法又は熱固溶法を採用することができる。被覆層を粒子表面状に均一に形成する観点から、固体電解質を含む溶液が得られるゾルゲル法が好ましい。
ゾルゲル法などで得られた溶液を、コバルト含有酸化物粒子粉末の表面上に塗布(コート)し、乾燥させることで被覆層を形成することができる。粒子表面上への溶液の塗布は、具体的には、スプレードライ法、転動流動装置を用いた吹き付け法、含浸法、エバポレータなどを利用した真空含浸法などで実施することができる。また、スパッタ法により被覆層を形成してもよい。
なお、ゾルゲル液の濃度が高すぎると粒度分布が広くなりやすく、また低すぎると焼成の際に水が蒸発するまでに時間がかかるため、ゾルゲル液の固形分濃度は1%~60%の範囲内にあることが望ましい。ゾルゲル液における固形分濃度を高めることにより、第2活物質粒子が備える被覆層の質量が増大する傾向にある。
こうして、第2活物質粒子が得られる。得られた第2活物質粒子を、所望の組成を有する第1活物質粒子と任意の割合で混合することで、実施形態に係る活物質を製造することができる。
第1実施形態によると、活物質が提供される。活物質は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を含む第1活物質粒子と、第1活物質粒子とは異なる第2活物質粒子とを含む。第2活物質粒子は、コバルト含有酸化物粒子と、コバルト含有酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを含む。被覆層は固体電解質を含む。この活物質は、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を実現できる。
(第2実施形態)
第2実施形態によると、電極が提供される。第2実施形態に係る電極は、第1実施形態に係る活物質を含む。実施形態に係る電極は、負極であってもよく、正極であってもよい。実施形態に係る電極は、例えば電池用電極、二次電池用電極又はリチウム二次電池用電極である。電極は、第1実施形態に係る活物質を正極活物質として含む正極であり得る。
第2実施形態に係る電極は、集電体と、第1実施形態に係る活物質を含む活物質含有層とを含むことができる。活物質含有層は、集電体の片面又は両面に形成され得る。活物質含有層は、活物質と、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
活物質含有層は、第1実施形態に係る活物質を単独で含んでもよく、第1実施形態に係る活物質を2種以上含んでもよい。活物質含有層は、第1実施形態に係る活物質を1種又は2種以上と、1種又は2種以上の他の活物質とを混合した混合物を含んでもよい。
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。これらのうちの1つを導電剤として用いてもよく、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂又はその共重合体、ポリアクリル酸及びポリアクリロニトリルが含まれる。これらのうちの1つを結着剤として用いてもよく、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
活物質含有層中の活物質の総量、導電剤及び結着剤は、それぞれ80質量%以上95質量%以下、3質量%以上18質量%以下、及び2質量%以上17質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、18質量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な電極強度が得られる。絶縁材料である結着剤の配合量を17質量%以下の量にすることにより、内部抵抗を減少できる。
集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。 アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
また、集電体は、その表面に活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、集電タブとして働くことができる。
電極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、実施形態に係る活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、電極を作製する。
或いは、電極は、次の方法により作製してもよい。まず、活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、電極を得ることができる。
第2実施形態に係る電極は、第1実施形態に係る活物質を含んでいる。それ故、この電極は、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を達成することができる。
(第3実施形態)
第3実施形態によると、負極と、正極と、電解質とを含む二次電池が提供される。この二次電池は、第2実施形態に係る電極を正極として含む。
実施形態に係る二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。負極、正極及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
更に、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
二次電池は、例えばリチウムイオン二次電池であり得る。また、二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池であり得る。
以下、正極、負極、電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
(1)正極
正極は、第2実施形態で説明した電極でありうる。正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極集電体及び正極活物質含有層は、それぞれ、第2実施形態に係る電極が含むことのできる集電体及び活物質含有層であり得る。正極活物質含有層は、第1実施形態に係る活物質を正極活物質として含む。
正極の詳細のうち、第1実施形態及び第2実施形態において説明したのと重複する部分は省略する。
正極の電極密度(集電体を含まず)は、2.0g/cm3以上4.0g/cm3以下であることが好ましい。正極活物質含有層の密度がこの範囲内にある正極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。正極の電極密度は、2.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であることがより好ましい。
正極は、例えば、第2実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
(2)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極活物質含有層は、負極集電体の片面又は両面に形成され得る。負極活物質含有層は、負極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
負極活物質は、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種のチタン含有酸化物を含む。チタン含有酸化物としては、具体的には、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi3O7、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi5O12、0≦x≦3)、単斜晶型二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物、及び直方晶型(orthorhombic)チタン含有複合酸化物が挙げられる。中でも、高い容量と高いレート性能を両立できる観点から、負極活物質は、リチウムチタン複合酸化物及びニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。リチウムチタン複合酸化物は、スピネル型の結晶構造を有し得る。ニオブチタン複合酸化物は、単斜晶型の結晶構造を有し得る。
上記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の例として、LixTi1-yM1yNb2-zM2zO7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LixNb2TiO7(0≦x≦5)が挙げられる。
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の他の例として、Ti1-yM3y+zNb2-zO7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦y<1、0≦z≦2、-0.3≦δ≦0.3である。
上記斜方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM(I)2-bTi6-cM(II)dO14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M(I)は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つでる。M(II)はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。斜方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti6O14(0≦a≦6)が挙げられる。
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と負極集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシルメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
負極活物質含有層中の負極活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、負極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、負極活物質、導電剤及び結着剤を、それぞれ、70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下及び2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、負極活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
負極集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位、例えば、1.0V(vs.Li/Li+)よりも貴である電位において、電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
負極は、例えば、負極活物質を用いることを除いて、第2実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
(3)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5mol/L以上2.5mol/L以下であることが好ましい。
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、アクリルポリマー、ポリアミド及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を使用することができる。電解質としてゲル状電解質を使用することにより、正極からの金属溶出を抑えると共に水素等のガス発生を抑制することができる。その結果、優れたサイクル寿命特性が得られる。
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
電解質は、水を含んだ水系電解質であってもよい。
水系電解質は、水系溶媒と電解質塩とを含む。水系電解質は、例えば、液状である。液状水系電解質は、溶質としての電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水系溶媒は、例えば、水を50体積%以上含む溶媒である。水系溶媒は、純水であってもよい。
水系電解質は、水系電解液と、上述した高分子材料とを複合化したゲル状の水系電解質であってもよい。電解質が水系電解質であるか非水電解質であるかに関わらず、ゲル状電解質である場合には、上述した効果、即ちサイクル寿命特性向上の効果が得られる。
水系電解質は、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましい。さらに好ましい形態は、溶質となる塩1molに対する水系溶媒量が3.5mol以上である。
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量の算出は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
水系電解質は、例えば電解質塩を1-12mol/Lの濃度で水系溶媒に溶解することにより調製される。
水系電解質の電気分解を抑制するために、LiOH又はLi2SO4などを添加し、pHを調整することができる。pHは、3-13であることが好ましく、4-12であることがより好ましい。
(4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
セパレータとして、固体電解質粒子を含む固体電解質層を使用することもできる。固体電解質層は、1種類の固体電解質粒子を含んでいても良く、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む固体電解質複合膜であってもよい。固体電解質複合膜は、例えば、固体電解質粒子を、高分子材料を用いて膜状に成形したものである。固体電解質層は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいても良い。固体電解質層が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質層のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
高分子材料の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系を含む。
固体電解質としては、例えば、第1実施形態において示したものを使用することができる。
(5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
(6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
(7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上5V以下の電位範囲(vs.Li/Li+)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
次に、第3実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
図1は、第3実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
図1及び図2に示す二次電池100は、図1及び図2に示す袋状外装部材2と、図2に示す電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
図1に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、図2に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、図2に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
図1に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
第3実施形態に係る二次電池は、図1及び図2に示す構成の二次電池に限らず、例えば図3及び図4に示す構成の電池であってもよい。
図3は、第3実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。図4は、図3に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
図3及び図4に示す二次電池100は、図3及び図4に示す電極群1と、図3に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
電極群1は、図4に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図4に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
第3実施形態に係る二次電池は、第2実施形態に係る電極を正極として含む。それ故、この二次電池は、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を達成することができる。
(第4実施形態)
第4実施形態によると、組電池が提供される。第4実施形態に係る組電池は、第3実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
第4実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
次に、第4実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
図5は、第4実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図5に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第3実施形態に係る二次電池である。
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図5の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
5つの単電池100a-100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a-100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
第4実施形態に係る組電池は、第3実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を達成することができる。
(第5実施形態)
第5実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第4実施形態に係る組電池を具備している。電池パックは、第4実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第3実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
第5実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
また、第5実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
次に、第5実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
図6は、第5実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図7は、図6に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
図6及び図7に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
図6に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
複数の単電池100の少なくとも1つは、第3実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、図7に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
第5実施形態に係る電池パックは、第3実施形態に係る二次電池又は第4実施形態に係る組電池を備えている。従って、この電池パックは、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を達成することができる。
(第6実施形態)
第6実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第5実施形態に係る電池パックを搭載している。
第6実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含んでいてもよい。
第6実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
次に、第6実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
図8は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
図8に示す車両400は、車両本体40と、実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図8に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
図8では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
次に、図9を参照しながら、第6実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
図9は、第6実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。図9に示す車両400は、電気自動車である。
図9に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図9に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a-300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a-200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a-200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
組電池200a-200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。組電池200a-200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
電池管理装置411は、組電池監視装置301a-301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a-200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
電池管理装置411と組電池監視装置301a-301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a-301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
組電池監視装置301a-301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a-200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば図9に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a-200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a-200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
第6実施形態に係る車両は、第5実施形態に係る電池パックを具備している。それ故、本実施形態によれば、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を示すことができる電池パックを搭載した車両を提供することができる。
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
以下の手順で二次電池を作製した。
<第2活物質粒子の被膜層作製>
以下に説明にするゾルゲル法でLATPを調製した。クエン酸16.09gを水に溶解し、チタンイソプロポキシド5.95gを加え、4時間還流した。更に水を加えたのち、予め水に溶解させた、クエン酸4.55g、硝酸リチウム1.25g及び2水素リン酸アンモニウム4.55gを加え、室温で5分攪拌した。更に、水に溶解させたクエン酸2.00g及び硝酸アルミニウム9水和物1.93gを加え、室温で30分攪拌した。反応終了後の溶液に対してジエチレングリコール9.95gを加え、アンモニウム水でpH7に調整した。得られた分散液をLATP液と呼ぶ。LATPの組成式はLi1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3であった。
続いて、下記の通り、含浸法によってコバルト含有酸化物粒子としてのNCM523粒子(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2:NCM523)の表面上に、LATPからなる被覆層を形成した。被覆層形成後に得られる第2活物質粒子粉末の質量に占めるLATPの質量の割合が3質量%となるように、LATP液にNCM523粒子を加え、15分間に亘って超音波処理に供した。その後、得られた分散液を蒸発皿に移した。この蒸発皿を、酸素及びアルゴンガスをそれぞれ1.0L/min(nor)でフローした状態の小型雰囲気炉内において、150℃で3時間保持し、次いで500℃で8時間焼成し、NCM523粒子表面上にLATPがコートされた第2活物質粒子粉末を得た。得られた第2活物質粒子のメジアン径は5μmであった。
<正極の作製>
第1活物質粒子として、メジアン径が5μmのスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi0.5Mn1.5O4:LNMO)粉末90重量部、第2活物質粒子として、先に作製した第2活物質粒子粉末を10重量部、導電剤として、アセチレンブラック5重量部、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)2重量部をN-メチルピロリドン(NMP)に加えて混合し、スラリーを調製した。厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、120℃の恒温槽内で乾燥してプレスすることにより正極を得た。
<負極の作製>
負極活物質としてニオブチタン複合酸化物(Nb2TiO7)粉末100重量部と、導電剤としてアセチレンブラック4重量部と、結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)2重量部と、スチレンブタジエンコポリマ(SBR)2重量部と、純水とを混合しスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、120℃の恒温槽内で乾燥してプレスすることにより、負極を得た。
<電極群の作製>
正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順で積層し、積層体を得た。次いで、この積層体を渦巻き状に捲回した。これを80℃で加熱プレスすることにより偏平状電極群を作製した。得られた電極群を、ナイロン層/アルミニウム層/ポリエチレン層の3層構造を有し、厚さが0.1mmであるラミネートフィルムからなるパックに収納し、120℃で16時間、真空中で乾燥した。
<非水電解質の調製及び二次電池の作製>
プロピレンカーボネート(PC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(体積比率1:2)に、電解質としてLiPF6を1mol/L溶解させることで非水電解質を得た。電解質の調整は、アルゴンボックス内で実施した。
電極群を収納したラミネートフィルムパック内に非水電解質を注入した後、パックをヒートシールにより完全密閉した。これにより、二次電池を得た。
(実施例2)
第1活物質粒子として、LNMOの代わりに、メジアン径が2μmのLiFeMnO4粉末を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
(実施例3)
第1活物質粒子と第2活物質粒子との質量比を80:20に変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
(実施例4)
第2活物質粒子に含まれるコバルト含有酸化物粒子として、NCM523粉末の代わりにLiCoPO4(LCP)粉末を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。なお、LCPを含む第2活物質粒子のメジアン径は1μmであった。
(実施例5)
第2活物質粒子作製の際に、第2活物質粒子粉末の質量に占める被覆層の質量の割合が1質量%となるように変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
(実施例6)
第2活物質粒子作製の際に、第2活物質粒子粉末の質量に占める被覆層の質量の割合が5質量%となるように変更したことを除いて、実施例4と同様の方法で二次電池を作製した。
(実施例7)
第2活物質粒子作製の際に、第2活物質粒子粉末の質量に占める被覆層の質量の割合が0.1質量%となるように変更したことを除いて、実施例4と同様の方法で二次電池を作製した。
(実施例8)
第2活物質粒子作製の際に、LATPからなる被覆層の代わりに、LiTi2(PO4)3からなる被覆層を形成したことを除いて、実施例4と同様の方法で二次電池を作製した。
(実施例9)
電解液の代わりに以下のように作製したゲル状電解質を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法により二次電池を作製した。
LiPF6を1Mの濃度で溶解させたプロピレンカーボネート(PC)及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:2)と、メチルメタクリレート-オキセタニルメタクリレート共重合体の高分子体(2重量%)の溶液との混合液を正極活物質含有層、負極活物質含有層及びセパレータに含浸させた。その後、水分の侵入を防ぐためセルを封止し、60℃で25時間に亘って加熱することで、混合液をゲル化させた。
(比較例1)
正極活物質として、第1活物質粒子のみを使用したことを除いて、実施例1と同様の方法により二次電池を作製した。
(比較例2)
第2活物質粒子として、被覆層を有さないNCM523粒子を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法により二次電池を作製した。
(比較例3)
第2活物質粒子として、被覆層を有さないLCP粒子を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法により二次電池を作製した。
(比較例4)
正極活物質として、第2活物質粒子のみを使用したことを除いて、実施例1と同様の方法により二次電池を作製した。
(比較例5)
第1活物質粒子として、リチウムマンガン複合酸化物(LixMn2O4:LMO)を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法により二次電池を作製した。LMOの作動電位は、金属リチウム基準で3.6Vである。即ち、LMOの作動電位は、金属リチウム基準で4.4V未満である。
<サイクル寿命特性評価>
各例において作製した二次電池を、45℃環境下で試験に供した。充放電では、まず、電池を3.7Vまで100mAで充電し、その後2.3Vまで20mAで放電して電池の容量を確認した後、100mAでの充放電を100サイクル繰り返した。
以上の結果を下記表1にまとめる。表1中、「質量比」の列には、活物質含有層における第1活物質粒子の質量(MP1)と第2活物質粒子の質量(MP2)との比の値(MP1/MP2)を表示すると共に、括弧内には、これら質量の比を表示している。「比(MD1/MD2)」「ガス発生量」の列には、上記サイクル寿命特性評価における100サイクル後のガス発生量を示している。「容量維持率」の列には、上記サイクル寿命特性評価における100サイクル後の容量維持率を示している。
表1から以下のことが分かる。
実施例1~9に示しているように、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を使用した場合であっても、第2活物質粒子として、被覆層を有するコバルト含有酸化物粒子を併用することにより、ガス発生量が低減し、容量維持率は向上した。
第2活物質粒子を含まない比較例1、被覆層を有さないコバルト含有酸化物を含む比較例2及び3、並びに、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を含まない比較例4及び5は、何れも実施例と比較して容量維持率が低く、ガス発生量が多い傾向にあった。
実施例1及び3の対比から、第2活物質粒子の含有割合は比較的少ない方が好ましいことが読み取れる。これは、以下の理由によるものと考えられる。まず、第1活物質粒子の作動電位範囲(4.4V以上)では、第2活物質粒子は、電池の充放電にあまり関与しない。また、活物質に占める第2活物質粒子の質量比を大きくすると、第1活物質粒子の質量比は相対的に減少する。それ故、この場合には、充放電(電池容量)に関与する第1活物質粒子の割合が減ることとなる。その結果、正負極間での活物質バランスが変化し、充放電時において相対的に減少した第1活物質粒子への負荷が大きくなり、第1活物質粒子の劣化が促進されたと考えられる。
第2活物質粒子のメジアン径が1μmであるLCPを用いた実施例4及び6-8は、第2活物質粒子のメジアン径が5μmであるNCM523を用いた実施例1-3及び5と比較して優れたサイクル寿命特性を示す傾向があった。これは、前者の場合、第1活物質粒子の間に第2活物質粒子が分散しやすいため、第2活物質粒子水素ガスをプロトンに酸化させる作用が得られやすかったと考えられる。
第2活物質粒子が備える被覆層の質量割合が1質量%の実施例5と比較して、同質量割合が3質量%の実施例1は、ガス発生量が少なく、容量維持率も高い傾向にあった。また、第2活物質粒子が備える被覆層の質量割合が0.1質量%の実施例7と比較して、同質量割合が3質量%の実施例4は、ガス発生量が少なく、容量維持率も高い傾向にあった。このことから、第2活物質粒子の質量に占める被覆層の質量の割合は、1質量%よりも多い方が好ましいことが分かる。但し、実施例7と比較例1~5との対比から読み取れるように、同質量割合が0.1質量%であっても、ガス発生量を低減でき且つ容量維持率に優れる傾向にある。
実施例2及び8に示しているように、第1活物質粒子として用いる活物質、又は、被覆層が含む固体電解質組成を変更しても、優れたサイクル寿命特性を達成することができた。
以上に述べた少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、活物質が提供される。活物質は、金属リチウム基準で4.4V以上の作動電位を示すリチウム複合酸化物を含む第1活物質粒子と、第1活物質粒子とは異なる第2活物質粒子とを含む。第2活物質粒子は、コバルト含有酸化物粒子と、コバルト含有酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを含む。被覆層は固体電解質を含む。この活物質は、高い作動電圧を維持しつつ優れたサイクル寿命特性を実現できる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。