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JP2021117117A - 前立腺癌のバイオマーカー及び該バイオマーカーを用いた前立腺癌を検出するための方法並びに診断キット - Google Patents

前立腺癌のバイオマーカー及び該バイオマーカーを用いた前立腺癌を検出するための方法並びに診断キット Download PDF

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JP2021117117A
JP2021117117A JP2020010954A JP2020010954A JP2021117117A JP 2021117117 A JP2021117117 A JP 2021117117A JP 2020010954 A JP2020010954 A JP 2020010954A JP 2020010954 A JP2020010954 A JP 2020010954A JP 2021117117 A JP2021117117 A JP 2021117117A
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lipocalin
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JP2020010954A
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譲 池原
Yuzuru Ikehara
譲 池原
信善 竹内
Nobuyoshi Takeuchi
信善 竹内
健 若井
Takeshi Wakai
健 若井
健一 大澤
Kenichi Osawa
健一 大澤
富郎 永野
Tomio Nagano
富郎 永野
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Chiba University NUC
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DRC CO Ltd
Chiba University NUC
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Abstract

【課題】前立腺癌を検出するための新たなバイオマーカーを提供すること及びそれを用いて前立腺癌を検出する方法を提供する。
【解決手段】被験体であるヒトに由来するサンプル中のリポカリン2を検出することにより、前立腺癌が発症している又は前立腺癌が発症するリスクがあると判断する方法であって、リポカリン2の検出が、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を検出することを特徴とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、前立腺癌特異的マーカー及び該バイオマーカーを検出することによる前立腺癌を検出する方法に関する。
前立腺癌は男性において最も一般的な悪性腫瘍であり、罹患率及び死亡率ともに上位に位置する癌である。前立腺癌は、男性の前立腺に生じる癌であり、多くはゆっくりと増殖する。しかし、侵襲性の前立腺癌の事例もあり、癌細胞は前立腺から身体の他の部分、特に、骨およびリンパ節に転移し得る。前立腺癌は疼痛、排尿困難、性交の不具合、または勃起不全を引き起こし得る。他の症状は、疾患のより後の段階に生じ得る。
前立腺癌の検出比率は世界の地域によって大きく異なり、東南アジアにおける検出率は、欧州や米国におけるそれよりも低い。前立腺癌は50歳を超える年齢の男性において発症しやすく、男性において高頻度にみられる癌である。前立腺癌に罹患した患者は、多くの場合無症状であり前立腺癌のための療法を受けていないことが多い。
前立腺癌の早期検出及び診断は現在、直腸指診(DRE)、前立腺特異抗原(PSA)測定、経直腸的超音波測定法(TRUS)及び経直腸的針生検(TRNB)に頼っている。主要な診断アプローチはDREと血清PSAの測定の組合せが使用されている。しかしながら、PSAレベルの上昇の検出は、高感度で検出できる一方、特異性が低いという問題がある。PASレベルは、前立腺肥大症や前立腺炎でも高い値になることがあるため、基準値以上の数値が検出されると、専門医を受診し、前立腺癌であるかを確認するための詳しい検査、例えば、生検検査を受けることになる。そのため、PSAスクリーニングにより無駄に針生検を受けているという結果を生じている。PSAスクリーニングは、約25〜40%の陽性予測値と言われており、その限界にもかかわらず、依然として唯一の広範囲に用いられている前立腺癌のバイオマーカーである。
前立腺癌は、手術により根治可能な早期癌と、ホルモン治療が選択される進行癌に分かれる。外科治療後の5年生存率は95%を超え脅威は消失したと言っても過言ではないが、依然として進行癌を中心に年間17000人を超える前立腺癌死の原因となっている。
アンドロゲン受容体(AR)シグナル伝達は、前立腺癌細胞にとって必須の生存経路である。ホルモン療法であるアンドロゲン除去療法(ADT)は、循環アンドロゲンレベルを低下させてそれによってAR活性を阻害し、ホルモン感受性でアンドロゲン依存性の前立腺癌を除去する治療法であり、進行性の前立腺癌に対する第一選択の治療戦略である。大多数の患者が初めはADTへ応答するが、ほとんどの患者が結局は、テストステロンが去勢レベルであっても疾患が進行する去勢抵抗性を発現する。ADTの平均的な効果持続期間は約3〜4年と言われている。抗アンドロゲン剤での治療への抵抗性を発現したか又は抵抗性になった前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)と呼ばれる。CRPCとは、血清テストステロンが50ng/dL未満であるにもかかわらず病勢の憎悪、PSAの上昇が見られる場合と定義されている。
PSA有効率(PSA値の50%以上の低下)は、ADTの開始時は100%程度であるが、CRPCが出現し抗アンドロゲン剤の治療を中止するころには、その有効率は約30〜約40%へと低下している。このようにCRPCの出現は予後不良と密接に関連している。
CRPCが出現し、さらに内服薬の変更等でも癌の増殖を抑えることができなくなった場合は、化学療法(抗癌剤治療)が次の治療戦略の候補となる。ホルモン療法に抵抗性となった前立腺癌には、ドセタキセルなど一般的な化学療法薬が投与されるが、アンドロゲン受容体をより強く阻害する新規ホルモン剤を順次使用した後のために、病勢が進行してしまっており奏功率も低い。故に、前立腺癌の3次予防は、ホルモン療法抵抗性の獲得による再発を早期に発見することである。
リポカリン2は、ヒトではLCN2遺伝子にコードされるタンパク質である、オンコジーン24p3又は好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)としても知られている。NGALは、鉄イオンを封鎖することにより細菌の成長を阻害する先天性免疫にかかわっている。NGALは、好中球で発現している。NGALはその他、腎臓や前立腺でも低いレベルで発現している。
NGALは腎臓損傷のバイオマーカーであり、急性腎障害を起こすと、血中及び尿中レベルが上昇する。それ故、尿中のNGALを測定することによる、腎障害のバイオマーカーとしての利用が提案されている。その他、血中及び尿中のリポカリン2を測定することによる、心臓及び脳卒中のリスクのための予後診断及び診断マーカーとしての使用が提案されている(特許文献1:特表2011−519037)。前立腺癌におけるLCN2の発現はリンパ節転移の進展と相関することが報告されている(非特許文献1:Dingら、Prostate 75:957-968, 2015)。また、前立腺癌細胞株PC−3やDU145にLCN2が発現していることが報告されている(非特許文献2:Chappellら、Advances in Biological Regulation 69, 2018 43-62)。さらに、CXCL1とLCN2の発現が、細胞生物学的な悪性度と関係することが報告されている(非特許文献3:Luら、Cell Comm. Signal. 2019, 17: 118)。
Dingら、Prostate 75:957-968, 2015 Chappellら、Advances in Biological Regulation 69, 2018 43-62 Luら、Cell Comm. Signal. 2019, 17: 118
特表2011−519037
本発明は、前立腺癌を検出するための新たなバイオマーカーを提供すること及びそれを用いて前立腺癌を検出する方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、去勢抵抗性の前立腺癌を検出するバイオマーカーを提供すること、及びそれを用いて去勢抵抗性の前立腺癌を検出する方法を提供することを目的とする。
本発明はさらには、去勢抵抗性の前立腺癌を早期に検出することにより、化学療法の開始の時期を決定する方法を提供することを目的とする。
前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSAは、アンドロゲン受容体により発現調節される分子であるためにホルモン療法ではその発現自体が著しく抑制される。このようなPSA分子の特性を鑑みると、去勢抵抗性を獲得して再発増殖している前立腺癌が存在しているにもかかわらず、これに気づくことなくホルモン療法を継続し、病勢が進行してしまう状況にあると本発明者らは考えた。
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、前立腺癌を発症した患者では、特異的な糖鎖構造をもつリポカリン2が発現していることを発見し、本発明を完成した。本発明は、以下の態様を含むものである。
[1]被験体であるヒトに由来するサンプル中のリポカリン2を検出することにより、前立腺癌が発症している又は前立腺癌が発症するリスクがあると判断する方法であって、リポカリン2の検出が、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を検出しその量を測定することを特徴とする方法。
[2]前記前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2は、好中球において発現する好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリンである上記[1]に記載の方法。
[3]検出対象である前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体を用いて前記リポカリン2を検出する上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記レクチンが、ナツフジレクチン(WJA)である上記[4]に記載の方法。
[6]前記リポカリン2を、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体及びLacdiNAcに特異的に結合するレクチン(好ましくは、WJA)を用いたサンドイッチ法により検出することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7]前記サンドイッチ法において、WJAとリポカリン2との反応を行い、次いで、WJAに結合したリポカリン2と抗リポカリン2抗体との反応を行う、上記[6]に記載の方法。
[8]前記サンプルが、血液又は尿である上記[1]〜[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]前記前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌である上記[1]〜[8]のいずれか一つに記載の方法。
[10]正常な前立腺と前立腺癌、アンドロゲン依存的前立腺癌とアンドロゲン非依存的前立腺癌、進行性前立腺癌と非進行性前立腺癌、及び転移性前立腺癌と非転移性前立腺癌から成る群より選択される2つの状態の間を区別すること又はそのための情報を提供することをさらに含む、上記[1]〜[8]のいずれか一つに記載の方法。
[11]前記リポカリン2の測定された量に基づいて被験体のための処置レジメンを選択する又は選択するための情報を提供することをさらに含む、上記[1]〜[8]のいずれか一つに項記載の方法。
[12]前記処置レジメンが、針生検による再評価、手術療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法、放射線医薬品投与(好ましくはラジウム)、抗体療法、増殖因子療法、及びサイトカイン療法から成る群より選択される1種以上の処置である、上記[11]に記載の方法。
[13]以下の工程:
工程a.ホルモン療法を受けた又は受けている前立腺癌患者から採取されたサンプル中のリポカリン2を検出しその量を測定する工程、ここで、リポカリン2の検出は、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を検出することである;及び
工程b.前記測定値に基づき、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを判定する工程、
を含む、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを判断する方法。
[14]前記前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2は、好中球において発現する好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリンである上記[13]に記載の方法。
[15]検出対象である前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする上記[13]又は[14]に記載の方法。
[16]LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体を用いて前記リポカリン2を検出する上記[13]〜[15]のいずれか一つに記載の方法。
[17]前記レクチンが、ナツフジレクチン(WJA)である上記[16]に記載の方法。
[18]前記リポカリン2を、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体及びWJAを用いたサンドイッチ法により検出することを特徴とする上記[13]〜[17]のいずれか一つに記載の方法。
[19]前記サンドイッチ法において、WJAとリポカリン2との反応を行い、次いで、WJAに結合したリポカリン2と抗リポカリン2抗体との反応を行う、上記[18]に記載の方法
[20]前記サンプルが、血液又は尿である上記[13]〜[19]のいずれか一つに記載の方法。
[21]前記リポカリン2の測定された量に基づいて前記患者のための処置レジメンを選択する又は選択するための情報を提供することをさらに含む、上記[13]〜[20]にいずれか一つに項記載の方法。
[22]前記処置レジメンが、針生検による再評価、手術療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法、放射線医薬品投与(好ましくはラジウム)、抗体療法、増殖因子療法、及びサイトカイン療法から成る群より選択される1種以上の処置である、上記[21]に記載の方法。
[23]被験体における前立腺癌の病勢をモニタリングする方法であって、
(1)前立腺癌に罹患した被験体に由来する第1の時間に得られた第1のサンプル中のリポカリン2を検出しその量を測定する工程;
(2)第1の時間より後である第2の時間に得られた第2のサンプル中のリポカリン2を検出しその量を測定する工程;及び
(3)第2のサンプル中のリポカリン2の測定された量と、第1のサンプル中のリポカリン2の測定された量を比較する工程;
ここで、前記リポカリン2の検出は、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を検出することである、
を含み、リポカリン2の測定量が、第1のサンプルに比べ第2のサンプルで増加している場合は前立腺癌の病勢が増していることを示し、一方、第1のサンプルに比べ第2のサンプルで減少している場合は前立腺癌の病勢が減少していることを示す方法。
[24]検出対象である前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする上記[23]に記載の方法。
[25]LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体を用いて前記リポカリン2を検出する上記[23]又は[24]に記載の方法。
[26]前記レクチンが、ナツフジレクチン(WJA)である上記[25]に記載の方法。
[27]前記リポカリン2を、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体及びWJAを用いたサンドイッチ法により検出することを特徴とする上記[23]〜[26]のいずれか一つに記載の方法。
[28]前記サンプルが、血液又は尿である上記[23]〜[27]のいずれか一つに記載の方法。
[29]前立腺癌の検出、去勢抵抗性前立腺癌の検出、又は前立腺癌の進行のモニタリングのためのキットであって、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を特異的に検出するための試薬を含むキット。
[30]前記リポカリン2を特異的に検出するための試薬が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されている糖鎖を認識する試薬である上記[29]に記載のキット。
[31]記前記リポカリン2を特異的に検出するための試薬が、LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体である上記[29]に記載のキット。
[32]記前記リポカリン2を特異的に検出するための試薬が、ナツフジレクチン(WJA)である上記[29]に記載のキット。
[33]さらに、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体を含む上記[29]〜[32]のいずれか一つに記載のキット。
[34]被験体であるヒトが前立腺癌に罹患しているか否かを判定するためのバイオマーカーであって、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2である前立腺癌バイオマーカー。
[35]前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする上記[34]に記載のバイオマーカー。
[36]前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌である上記[34]又は[35]に記載のバイオマーカー。
本発明は、新たな前立腺癌の検出のためのバイオマーカーを提供するものである。本発明はまた、該前立腺癌バイオマーカーを用いた前立腺癌の検出方法を提供するものである。
本発明はまた、去勢抵抗性前立腺癌を検出するバイオマーカーを提供すること、及びそれを用いて去勢抵抗性前立腺癌を検出する方法を提供することである。
本発明はさらには、去勢抵抗性前立腺癌を早期に検出することにより、ホルモン療法以外の治療レジメン(例えば、化学療法)の開始の時期を決定する方法を提供することである。
図1は、前立腺癌に対するホルモン療法の治療中における、PSA及び本発明の異常糖鎖リポカリン2の発現の経時変化を示す。 図2は、C4−2細胞株及びLNCap細胞株をそれぞれ、通常培地(FBSのみ添加:非去勢環境)及びCSS添加培地(去勢環境)で培養し、去勢環境下で発現が亢進する遺伝子を確認した結果を示す。 図3は、前立腺癌由来のアンドロゲン非依存性細胞株C4−2及びアンドロゲン依存性細胞株LNCapの細胞溶解液を用い、リポカリン2(LCN2)タンパク質の発現をウエスタンブロットにより確認した結果である。WJAはLacdiNAcを特異的に認識するレクチンである。抗LCN2抗体(Cloud-clone社、MAB388Hu21)は、リポカリン2(LCN2)のN末端と反応するモノクローナル抗体である。レーン1及び3は通常培地で培養した細胞、レーン2及び4はCSS培地(アンドロゲン除去環境)で培養した細胞を用いた結果である。 図4は、病理解剖により得られた患者からの前立腺癌組織をWFA又はWJAを用いてリポカリン2を組織染色した結果である。 図5は、去勢抵抗性細胞株であるC4−2細胞株を去勢環境(CSS添加培地)で継代培養し、リポカリン2の発現の変化を確認した結果である。
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法及び材料とともに説明する。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料及び方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物及び特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本発明は、前立腺癌(PC)の診断及び治療において有用な分子として、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2(以下、「正常リポカリン2」という)とは異なる糖鎖を有するリポカリン2(以下、「異常糖鎖リポカリン2」という場合がある)を検出することに関する。正常リポカリン2は、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)とも呼ばれ、炎症マーカーとして知られており、急性腎障害などの各種腎疾患の初期マーカーとして尿検査において用いられている。本発明は、異常糖鎖リポカリン2を特異的に検出することを特徴とする。
本発明の一つの態様は、血液や尿、又は前立腺組織などの対象に由来するサンプルを用い、異常糖鎖リポカリン2の存在を検出することにより、対象が前立腺癌を発症しているか又は発症のリスクを有しているかを判定するための方法である。対象において異常糖鎖リポカリン2が検出された場合、その対象が、前立腺癌を発症しているか、又は、前立腺癌を発症するリスクがあることが示される。
本発明の別の態様は、上記方法によって異常糖鎖リポカリン2を検出した結果に基づいて、正常な前立腺と前立腺癌、アンドロゲン依存的前立腺癌とアンドロゲン非依存的前立腺癌、進行性前立腺癌と非進行性前立腺癌、又は転移性前立腺癌と非転移性前立腺癌の状態の間を区別すること又はそのための情報を提供するための方法である。対象において異常糖鎖リポカリン2が検出された場合、その対象が、いずれの状態であるかが示される。
本発明の他の態様は、血液や尿、又は前立腺組織などの対象に由来するサンプルを用い、異常糖鎖リポカリン2の存在を検出することにより、対象が去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)を発症しているか又は発症するリスクを有しているかを判定するための方法である。対象において異常糖鎖リポカリン2が検出された場合、その対象が、CRPCを発症している又は将来CRPCを発症するリスクがあることが示される。
本発明の他の態様は、前立腺癌を発症し、ホルモン治療を受けている対象において、血液や尿、又は前立腺組織などの該対象に由来するサンプルを用い、異常糖鎖リポカリン2の存在を検出することにより、対象がCRPCを発症しているか又は発症するリスクを有しているかを判定するための方法である。異常糖鎖リポカリン2が検出された場合は、対象がCRPCを発症しているか又はCRPCを発症するリスクがあると示される。また、異常糖鎖リポカイン2が高いレベルで検出された場合は、CRPCの発症が疑われるか又はCRPCを発症するリスクが高いと判断される。
本発明の別の一つの態様は、前立腺癌を発症した対象において、血液や尿、又は前立腺組織などの該対象に由来するサンプルを用い、異常糖鎖リポカリン2のレベルを経時的に測定することにより、前立腺癌が進行性であるか非進行性であるかを判定するための方法である。リポカリン2のレベルが、経時的に増加している場合は前立腺癌の進行が示され、一方、減少している場合は前立腺癌の非進行又は縮小が示される。
本発明の他の一つの態様は、上記何れかの方法によって異常糖鎖リポカリン2を検出又はそのレベルを測定した結果に基づいて、対象の処置レジメンを選択する又は選択するための情報を提供することをさらに含む方法である。処置レジメンとしては、これに限定されないが、例えば、針生検による再評価、手術療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法、抗体療法、増殖因子療法、又はサイトカイン療法があげられる。
本発明のさらに別の態様は、異常糖鎖リポカリン2を特異的に検出するための試薬を含む、前立腺癌の検出、去勢抵抗性前立腺癌の検出、又は前立腺癌の進行のモニタリングのためのキットである。
対象に由来するサンプルとは、例えば、対象に由来する体液サンプルや組織サンプルをあげることができる。体液サンプルは、これに限定されないが、血液(例えば、血清、血漿)、尿、唾液、涙などを含み、好ましくは、血液、特に末梢血をあげることができる。組織サンプルは、好ましくは前立腺組織である。
異常糖鎖リポカリン2は、正常リポカリン2には見られない糖鎖構造を有する。正常リポカリン2とは、オンコジーン24p3又は好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)としても知られている。正常リポカイン2の糖鎖構造の詳細についての報告はないが、全タンパクの配列構造からNVT配列の存在が確認されるので、N型糖鎖が1箇所存在する可能性が確認できている。異常糖鎖リポカリン2に見られる糖鎖構造としては、例えばこれに限定されないが、、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されている糖鎖構造をあげることができる。LacdiNAcは、以下の構造で示される2糖であり、LacdiNAcは、leuropin(LH)とthyrotropin(TSH)のαサブユニットに見いだされた糖鎖構造で、β4GalNAc−T3(Satoら、J.Biol. Chem. 2003, 28; 278(48), 47534-44)もしくはT4(Gotoh, FEBS Lett, 562(2004) 134-40)によって合成される。
Figure 2021117117
正常リポカリン2である好中球で発現される好中球リポカリン2は血中にも多く存在する。そのため、糖鎖構造以外のエピトープにおいてリポカリン2を認識する抗体を用いて血中のリポカリン2を検出すると、異常糖鎖リポカリン2の検出が困難となる。だが、血中リポカリン2の供給源とされている好中球は、上記構造の糖鎖の合成酵素を発現しておらず、好中球リポカリン2はLacdiNAc修飾を持たない。従って、前立腺癌に発現する異常糖鎖リポカリン2(すなわち、LacdiNAc構造で修飾されたリポカリン2)は好中球リポカリン2と識別可能である。前立腺癌に発現する異常糖鎖リポカリン2がLacdiNAc構造で修飾された糖鎖を有することは本発明者らにより初めて確認されたことである。
LacdiNAcは、前立腺癌特的抗原(PSA)の分子上に検出される糖鎖構造としても知られている。前立腺癌においては、PSA分子上の糖鎖構造変化、すなわち、LacdiNAcが増加することが知られている。そのため、LacdiNAc−PSAを感度良く検出する方法が試みられている。
(異常糖鎖リポカリン2の検出及び測定)
異常糖鎖リポカリン2は、正常リポカリン2には存在しない上記した糖鎖構造を有している。異常糖鎖リポカリン2は、上記糖鎖構造に特異的に結合するレクチン又は抗体を用いて検出することができる。
特異的に結合するレクチンとしては、例えば、ノダフジレクチン(WFA:Wisteria Floribunda Agglutinin)やナツフジレクチン(WJA:Wisteria Japonica lectin)をあげることができるが、好ましくはWJAである。
WFAは、非還元末端のGalNacを認識するレクチンの一つとして知られており、市販もされている。しかしながら、糖鎖認識特性が広く、結合力が弱いなどの問題がある。WFAは、本発明において用いることができるが、LacdiNAc構造以外の糖鎖構造、例えば、コンドロイチン硫酸の末端GalNAcを認識するなど非特異的な反応を起こすため、LacdiNAcで修飾されたリポカリン2を検出するためのレクチンとしては利用することは可能であるが好ましくない。そのため、LacdiNAcへの特異性を改善したWFAが報告されている(例えば、WO2914/098112)。これらの改変WFAもまた、本発明において用いることができる。
WJAは、Sogaらによりに報告されている(PLOS ONE Vol. 8, Issue 12, e83886, 2013)。WJAは、GalNAcβ1−3GlcNAc、及びGalNAcβ1−4GlcNAc(LacdiNAc)構造を持つ糖鎖に特異的に結合する。WJAは、LacdiNAc構造を特異的に認識し、糖鎖認識特性が狭く、また、LacdiNAcへの結合性はWFAより高いので、本発明において好ましく用いられる。加えて、WJA及びその改変体も、LacdiNAc構造に対して十分な特異性及び結合性を示す限り本発明において用いることができる。例えばこれに限定されないが、LacdiNAc構造を有する糖への結合性についてみた場合に、WJAに比べてその改変が少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%を超える結合活性を示す改変体をあげることができ、また、LacdiNAc構造を有する糖への結合特異性をみた場合に、WFAに比べてその結合特異性が優れている改変体をあげることができる。本発明で用いるWJA改変体は、公知の遺伝子工学手法を用いて作成できる。例えば、WJAの単離した遺伝子に、公知の技術を用いて変異を挿入し、その後、微生物に発現させた後、タンパク質を回収し、精製することにより調製できる。LacdiNAcへの特異性及び結合性は、LacdiNAcを固定したプレートを用い、それに対する改変レクチンの結合を公知の方法を用いて検出することにより確認できる。
異常糖鎖リポカリン2に特異的に結合する抗体としては、例えば、LacdiNAc構造を認識する抗体をあげることができる。LacdiNAc構造を認識する抗体は市販されているので、本発明においてそれを用いることができるが、他の糖鎖構造に交叉反応性を示さない抗体が好ましい。
異常糖鎖リポカリン2の検出は、例えば、免疫学的方法により行うことができる。免疫学的方法としては、例えば、固相免疫測定法(RIA、EIA、FIA、CLIA等)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(LA:Latex Agglutination−Turbidimetric Immunoassay)、イムノクロマト法などが挙げられる。この中でも、定量性の観点からEIA法の1種であるELISA法が好ましい。また、アビジン・ビオチンシステムを用いて検出することができる。
以下、酵素抗体法によるサンドイッチELISA法や免疫組織染色法を用いた例を説明するが、異常糖鎖リポカリン2の検出はこれらに限定されず、公知の技術を適宜用いて行うこができる。
異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を特異的に認識する抗体を用いたサンドイッチELISA法による検出は、これに限定されないが、例えば以下のようにして行うことができる。異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を認識する抗体(抗体Aとする)、及び糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体(抗体Bとする)を準備する。それぞれの抗体は、市販のものを用いてもよく、あるいは、公知の抗体作成方法を用いて作成してもよい。抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよいが、異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を認識する抗体はモノクローナル抗体が好ましい。抗体Bを固定化したマイクロタイタープレートにサンプル(例えば被験体の血液、好ましくは血清)を添加し、抗原・抗体反応を行わせる。洗浄後、酵素標識した抗体Aを添加し、抗原・抗体反応をさせ、洗浄後、酵素基質と反応・発色させ、吸光度を測定してサンプル中の異常糖鎖リポカリン2を検出すると共に、その測定値からサンプル中の異常糖鎖リポカリン2の量を算出することができる。固定化する抗体と酵素標識する抗体は逆であってもよいが、ノイズを少なくする観点より、標識していない抗体Aを固定化(一次抗体として使用)し、二次抗体として標識した抗体Bを用いるのが好ましい。2つの抗体の由来種が別である場合は、抗体A及び抗体Bはいずれも酵素標識せずに、後から用いる(二次)抗体に結合する酵素標識した抗体(例えば、二次抗体がマウス由来なら標識抗マウスIgG抗体)を用いてもよい。
異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を特異的に認識するレクチンを用いたサンドイッチELISA法による検出は、これに限定されないが、例えば以下のようにして行うことができる。リポカリン2の糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体、及び異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を特異的に認識するレクチンを準備する。抗体は、市販のものを用いてもよく、あるいは、公知の抗体作成方法を用いて作成してもよい。抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよい。抗体を固定化したマイクロタイタープレートにサンプル(例えば被験体の血液、好ましくは血清)を添加し、抗原・抗体反応を行わせる。洗浄後、ビオチン化したレクチンを添加し反応させ、洗浄後、ビオチン・アビジンシステムを用いてサンプル中の異常糖鎖リポカリン2を検出すると共に、その測定値からサンプル中の異常糖鎖リポカリン2の量を算出することができる。ビオチン・アビジンシステムは、種々の方法が報告されており、また市販されており、それらを適宜用いることができる。あるいは、レクチンと抗体を用いる順を逆にしてもよい。かかる場合は、例えば、レクチンを公知の方法によりマイクロタイタープレートに固定する。レクチンを固定化したマイクロタイタープレートにサンプル(例えば被験体の血液、好ましくは血清)を添加し、レクチンと糖鎖の反応を行わせる。洗浄後、抗リポカリン2抗体を添加し反応させる。洗浄後、抗リポカリン抗体に反応する標識した抗IgG抗体を添加し反応させ、洗浄後、酵素基質と反応・発色させ、吸光度を測定して検体中の異常糖鎖リポカリン2を検出すると共に、その測定値から検体中の異常糖鎖リポカリン2の量を算出することができる。標識した抗リポカリン2抗体を用いてもよい。かかる場合は、抗体を添加し洗浄した後、発色反応を行い検出することができる。ノイズを少なくする観点より、レクチンを固定化する方法が好ましい。
異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を特異的に認識する抗体やレクチンを用いた組織における検出は、組織切片を調製した後、公知の組織免疫染色法を用いて行うことができる。異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を特異的に認識する抗体(一次抗体)を用いる場合は、抗体を組織と反応させ、洗浄後、一次抗体を認識する二次抗体を用いて特異的な染色を行う。特異的な染色は、例えば、蛍光標識した二次抗体を用いる蛍光抗体多重染色法、酵素標識した二次抗体を用いる酵素抗体多重染色法をあげることができる。あるいは、異常糖鎖リポカリン2の糖鎖構造を特異的に認識するレクチンを用いる場合は、例えばビオチン化したレクチン(好ましくはWJA)を組織と反応させ、洗浄後、ビオチン・アビジンシステムを用いて組織中の異常糖鎖リポカイン2を検出する。
また、本発明の方法における異常糖鎖リポカリン2の検出は、その他の公知の方法を用いて行うことができる。これに限定されないが、例えば、蛍光抗体法、放射標識した抗体等を用いる方法をあげることができる。
本発明の方法を用いてサンプル中に異常糖鎖リポカリン2が検出又は測定された場合、サンプルが由来する対象(ヒト)が、前立腺癌を発症しているか又はそのリスクがあるかが判断できる。比較は、被験対象由来のサンプル中の異常糖鎖リポカリン2量を測定するとともに、正常人由来のサンプル中の異常糖鎖リポカリン2量を合わせて測定し、両者を比較することにより行うことができ、その結果に基づいて、被験対象が、前立腺癌に罹患している又は前立腺癌を発症するリスクがあると判断できる。あるいは、正常人においては、サンプル中、例えば血清中には異常糖鎖リポカリン2は通常は存在しないので、測定対象由来のサンプル中の異常糖鎖リポカリン2の量を測定することにより、前立腺癌に罹患している又が前立腺癌を発症するリスクがあると判断できる。
また、測定された異常糖鎖リポカリン2の量の情報に基づいて、測定対象が、去勢抵抗性前立腺癌に罹患しているか罹患の恐れがあると判断できる。また、判断のために測定対象が既に前立腺癌に罹患しておりホルモン療法を受けているか否かの情報も利用できる。
加えて、測定された異常糖鎖リポカリン2の量に基づいてその後の測定対象(患者)の治療処置レジメンが決定される。また、判断のために測定対象が既に前立腺癌に罹患しておりホルモン療法を受けているか否かの情報も利用できる。治療処置レジメンは、これに限定されないが、例えば、針生検による再評価、手術療法、放射線療法、ホルモン療法、化学療法、抗体療法、増殖因子療法、又はサイトカイン療法をあげることができる。
本発明による異常糖鎖リポカリン2の量の測定は、複数回、さらには経時的に行うこともできる。これにより、被験体における前立腺癌の病勢をモニターすることができ、さらには、治療効果を確認できる。これに限定されないが、前立腺癌に罹患した又は罹患した恐れがある被験体から、第1の時間及び第1の時間より後である第2の時間にサンプルを得る。第1の時間に得たサンプル(サンプル−1)と第2の時間に得たサンプル(サンプル−2)のそれぞれについて、本発明により異常糖鎖リポカリン2の量を測定し、それらを比較することにより、第1の時間に比べ第2の時間で病勢が進行したかが確認できる。第1の時間と第2の時間の間に治療を行っていた場合には、第2の時間で異常糖鎖リポカリン2の量が減少していた場合は、病勢が減弱したあるいは治療効果があったと判定できる。
第1の時間と第2の時間の間隔は、特に制限がなく、例えば、数日、数週間、数ヶ月、1年あるいはそれ以上であってもよいが、病勢の進行をモニターする意味では数ヶ月から1年、治療の効果を確認する意味では数週間から1年が好ましい。このようにすることにより、病状のモニター及び治療効果の確認が容易となり、治療方針の決定にも有用な情報を提供できる。
本発明の方法の測定対象である異常糖鎖リポカリン2は、前立腺癌のバイオマーカーでもある。前立腺癌の腫瘍マーカーとしては、PSAが知られており、実際に前立腺癌の診断領域で用いられている。しかしながら、PSAはアンドロゲン受容体により発現調節される分子であるため、前立腺癌と診断されホルモン療法が行われている場合は、その発現自体が著しく抑制されている。去勢抵抗性前立腺癌の発症もPSAをマーカーとして診断しているが、ホルモン療法を行っている間はPSAの発現は抑制されているため、去勢抵抗性前立腺癌の発症を早期に検出できないという問題が存在する。一方、本発明の方法において用いる異常糖鎖リポカリン2は、その発現に関しホルモン療法による影響は考慮する必要がないか少ないので、前立腺癌の腫瘍マーカーとしてより適したものであり、去勢抵抗性前立腺癌の発症をより早期に検出することができる。前立腺癌の腫瘍マーカーである異常糖鎖リポカリン2及びその利用も本発明の態様の一つである。図1に、前立腺癌に対するホルモン療法の治療中における、PSA及び本願発明の異常糖鎖リポカリン2の発現の経時変化を示す。
本発明の一つの態様は、前立腺癌の検出のためのキットであって、異常糖鎖リポカリン2を特異的に検出するための試薬を含むキットである。異常糖鎖リポカリン2を特異的に検出するための試薬としては、LacdiNAcに特異的に結合する試薬があげられ、例えば、LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体をあげることができる。キットに用いられるレクチンは、これに限定されないが、WFA又はその改変体、あるいはWJA又はその改変体、好ましくはWJA又はその改変体をあげることができる。前立腺癌の検出のためのキットは、LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体に加えて、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体を含むことができる。
本発明の検出方法は、別の前立腺癌の検出方法と組み合わせて用いてもよい。例えば、PASの検出を利用する前立腺癌の検出方法を組み合わせて用い、PAS検出で陽性とされた検体に本発明を適用して、前立腺癌の検出を行うこともできる。かかる手法により、PAS検出で擬陽性であった検体につき、より精度の高い判断が可能となる。しかしながら本発明の方法によれば、PAS検出に比べより精度高く前立腺癌の検出が可能であるので、本発明の検出方法を一次スクリーニングとするのが好ましい。
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)去勢抵抗性前立腺癌における発現遺伝子の同定
去勢抵抗性を獲得した前立腺癌由来の細胞株(C4−2)及びリンパ節転移をもつ患者のヒト前立腺癌由来の細胞株(LNCap)を用い、遺伝子発現解析を行い、発現が亢進している遺伝子を以下のようにして同定した。C4−2細胞株はアンドロゲン非依存性であり、LNCap細胞株はアンドロゲン依存性である。
C4−2細胞及びLNCap細胞を、FBSを含む細胞培養液(RPMI-1640, FUJIFILM)及びそれにチャコールを添加した細胞培養液(チャコール添加細胞培養液:CSS)で培養した。CSSでの培養は、チャコールによりステロイドが吸着されるため、培養液中のアンドロゲンも減少し、アンドロゲン非依存的な細胞の生存・増殖が確認できる。従って、CSSでの培養では、C4−2細胞の方がLNCap細胞より増殖が早くなると考えられる。
それぞれの細胞株を、通常培地(FBSのみ添加:以下、非去勢環境という場合がある)及びCSS添加培地(以下、去勢環境という場合がある)で培養し、それぞれの環境下での遺伝子の発現を確認し、アンドロゲンがなくなることで、発現が減らない遺伝子を検索した。遺伝子発現は、全RNAを抽出し、各遺伝子のRNA量を測定した。その結果、LNCap細胞株においては、遺伝子発現が、去勢環境下で非去勢環境下に比べて増えているものが138遺伝子同定され、一方、C4−2細胞株においては、遺伝子発現が、去勢環境下で非去勢環境下に比べて3倍を超えて増えているものが37遺伝子同定された。また、それぞれの細胞株においてそれらの条件をみたす共通の遺伝子として、21遺伝子が同定された。結果を図2に示す。21遺伝子中、リポカリン2に注目し、以下の実験を行った。リポカリン2は、好中球において発現しているタンパク質であり、急性腎不全のマーカーとして知られていたが、前立腺での発現は少ないと報告されている。リポカリン2のアミノ酸配列を検討したところ、NVT配列(85番〜87番)をもち、N型糖鎖修飾が可能な部位を1箇所もつタンパク質であると判った。
(実施例2)前立腺癌由来細胞におけるリポカリン2の検出
上記したアンドロゲン非依存性細胞株C4−2を及びアンドロゲン依存性細胞株LNCapを用い、リポカリン2(LCN2)タンパク質の発現を確認した。実験は以下のようにして行った。
C4−2細胞株、LNCap細胞株を通常培地又はCSS培地で培養した。通常培地ではいずれの細胞株も10日間培養し細胞を回収した。CSS培地においては、LNCap細胞株はほぼ生育せず、3日で死滅するので、2日間培養してから細胞を回収した。一方、C4−2細胞株は10日間で2代継代してから細胞を回収した。Lysis緩衝液(20mM This-HCl、40mM NaCl、5mM EDTA、1% Triton X100、プロテアーゼインヒビター(complete Mini, EDTA-free、Roche社)を用いて回収した細胞を溶解した。細胞溶解液を、protein G Sepharose に対する非特異的な結合を除去したのちに、次の免疫沈降の操作に使用した。細胞溶解液に特異的抗体(抗LCN2ポリクローナルIgG抗体:Cloud-Cone社、製品番号PAB388Hu01)を加え、4℃、1晩、反応させた。protein G Sepharose に細胞溶解液と抗体の混合液を加え、室温で3時間ローテーターにて反応した後、遠心し、Sepharose beads と上清を分けた。免疫沈降サンプルは、Wash buffer を加えて混和したのち、
SDS−PAGEサンプルバッファーを加え熱処理変性したサンプルを、SDS−PAGEゲルにアプライし泳動した。定法に従いPVDFメンブレンに転写しLCN2のN末端と反応する抗LCN2モノクローナル抗体(Cloud-clone社、製品番号:MAB388Hu21)又はビオチン化したWJA(東京大学 山本教授より供与を受けた。)を使用し、定法に従い、化学発光試薬を用いてリポカリン2を検出した。結果を図3に示す。30KD付近のバンドはWJAに結合したLCN2、65KD付近のバンドはIP抗体バンド(抗LCN2抗体のバンド)である。この結果より、前立腺癌細胞株由来のリポカリン2はWJAに反応することが示された。
以上の結果より、前立腺癌の細胞株において発現しているリポカリン2の糖鎖構造は、LacdiNAc構造を有していることが判った。
(実施例3)前立腺癌患者由来組織におけるリポカリン2の検出
千葉大学医学部附属病院の倫理規定に従って前立腺癌患者の病理解剖を行い得られた組織を用いて、前立腺癌組織のおけるLacdiNAcの糖鎖構造を有するリポカリン2の発現を以下のようにして確認した。
前立腺癌患者の病理解剖標本より、前立腺癌組織の薄切標本を作製した。これにVentana Benchmark Ultra(ロシュダイアグノスティックス社)にて脱パラフィン処理、抗原賦活化、ブロッキングを行い、WFA(東京大学 山本教授より供与を受けた。)およびWJAを反応させ、ビオチン-アクチン結合液(A+B液:VECTASTAIN社)にて染色を行った。
結果を図4に示す。LacdiNAcの糖鎖構造の検出効率は、WFAを用いた場合に比べWJAを用いた場合の方が顕著に良好であった。
(実施例4)去勢抵抗性前立腺癌細胞株C4−2の去勢環境での継代培養
去勢抵抗性前立腺癌細胞株であるC4−2細胞株を、CSS添加培地で継代培養し、リポカリン2の発現を、抗LCN抗体を用いた免疫染色を行い確認した。結果を図5に示す。免疫染色の結果を左図に、それをグラフに示したものを右図に示す。継代を重ねる毎に、リポカリン2を発現している細胞の割合が増加していることが確認できた。
(実施例5)サンドイッチELISAによる血清中のLDN修飾リポカリン2の検出
前立腺癌に罹患した患者血清中の異常糖鎖リポカリン2を、WJA及び抗リポカリン抗体を用い、サンドイッチELISA法にて測定した。去勢抵抗性前立腺癌の患者(患者1−11)の血清、及び、ポジティブコントロールとしてC4−2細胞株を4代継代したものの培養上清を、ネガティブコントロールとして健常研究者4名の血清を用い、以下のようにして行った。
CircuLex Human NGAL/Lipocalin-2 ELISA Kitに付属している抗LCN2抗体(polyclonal)が付着したwellを用意した。これに各血清を追加しインキュベーションし、付属のwash bufferにて洗浄後、WJAを反応させた。洗浄後に標識抗体として付属のHRP−SA(ストレプトアビジン)を反応させ、洗浄後にTMBにて遮光下に染色した。インキュベート後にStop solutionを追加し、micro plate readerにて450nmの波長で吸光度測定を行った。
結果、患者血清及びC4−2細胞株において有意な発色が確認でき、患者血清中及びポジティブコントロールであるC4−2細胞の去勢環境培養上清中において、異常糖鎖リポカリン2の存在が確認できた。
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
新たな前立腺癌のバイオマーカーを利用する本発明の検出方法は、前立腺癌の検出において有用である。

Claims (21)

  1. 被験体であるヒトに由来するサンプル中のリポカリン2を検出することにより、前立腺癌が発症している又は前立腺癌が発症するリスクがあると判断する方法であって、リポカリン2の検出が、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を検出することを特徴とする方法。
  2. 検出対象である前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体を用いて前記リポカリン2を検出する請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記レクチンが、ナツフジレクチン(WJA)である請求項3に記載の方法。
  5. 前記リポカリン2を、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体及びLacdiNAcに特異的に結合するレクチンを用いたサンドイッチ法により検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
  6. 前記サンプルが、血液である請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
  7. 前記前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌である請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
  8. 前記リポカリン2の測定された量に基づいて被験体のための処置レジメンを選択する又は選択するための情報を提供することをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一つに項記載の方法。
  9. 前記処置レジメンが、外科手術、放射線療法、ホルモン療法、抗体療法、増殖因子療法、サイトカイン療法、及び化学療法から成る群より選択される1種以上の処置である、請求項8に記載の方法。
  10. 以下の工程:
    工程a.ホルモン療法を受けた又は受けている前立腺癌患者から採取されたサンプル中のリポカリン2を検出しその量を測定する工程、ここで、リポカリン2の検出は、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有する;及び
    工程b.測定値に基づき、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを判定する工程、
    を含む、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを判断する方法。
  11. 検出対象である前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする請求項10に記載の方法。
  12. LacdiNAcに特異的に結合するレクチン又は抗体を用いて前記リポカリン2を検出する請求項10又は11に記載の方法。
  13. 前記レクチンが、ナツフジレクチン(WJA)である請求項12に記載の方法。
  14. 前記リポカリン2を、糖鎖以外のエピトープを認識する抗リポカリン2抗体及びLacdiNAcに特異的に結合するレクチンを用いたサンドイッチ法により検出することを特徴とする請求項10〜13のいずれか一つに記載の方法。
  15. 前記サンプルが、血液である請求項10〜14のいずれか一つに記載の方法。
  16. 前記リポカリン2の測定された量に基づいて被験体のための処置レジメンを選択する又は選択するための情報を提供することをさらに含む、請求項10〜15のいずれか一つに項記載の方法。
  17. 前記処置レジメンが、外科手術、放射線療法、ホルモン療法、抗体療法、増殖因子療法、サイトカイン療法、及び化学療法から成る群より選択される1種以上の処置である、請求項16に記載の方法。
  18. 前立腺癌の検出、去勢抵抗性前立腺癌の検出、又は前立腺癌の進行のモニタリングのためのキットであって、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2を特異的に検出するための試薬を含むキット。
  19. 前記リポカリン2を特異的に検出するための試薬が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されている糖鎖を認識する試薬である請求項18に記載のキット。
  20. 被験体であるヒトが前立腺癌に罹患しているか否かを判定するためのバイオマーカーであって、前立腺癌に罹患していない正常なヒトにおいて検出されるリポカリン2とは異なる糖鎖を有するリポカリン2である前立腺癌バイオマーカー。
  21. 前記リポカリン2の糖鎖が、GalNAcβ1,4GlcNAc(LacdiNAc)で修飾されていることを特徴とする請求項20に記載のバイオマーカー。
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