以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
本実施の形態の車両10は、流体圧によって制動力を生じさせる制動システム40を有している。この制動システム40は、作動流体を供給する作動流体供給部を二系統有しており、とりわけ、二系統の作動流体供給部を切り替えた際に、制動力を迅速に発生させ得るよう工夫されている。この車両10は、特に限定されることなく鉄道車両等にも適用され得るが、典型的には油圧制動システムや空気圧制動システムを有した自動車に適用され得る。また、本実施の形態の車両10が適用される自動車は、図示された例のようにトラックやバス等の商用車、さらには人が乗るための乗用車であってもよい。
以下、図示された具体例を参照して一実施の形態について説明していく。
図1に示すように、車両10は、車体11と、車体11に回転可能に保持された車輪12と、を有している。また、車両10は、駆動システム20、操舵システム30及び制動システム40を有している。
駆動システム20は、車輪12に回転駆動力を供給する。図示された例において、駆動システム20は、駆動操作入力部21、駆動指令出力部23及び駆動力供給部25を有している。駆動操作入力部21は、車両10の操縦者が操作を入力する入力部であって、アクセルペダルを例示することができる。車両10の操縦者は、所望する回転駆動力の大きさに応じた操作量を駆動操作入力部21に入力する。より具体的には、所望する回転駆動力が大きい場合には、より大きな操作量を駆動操作入力部21に入力し、所望する回転駆動力が小さい場合には、より小さな操作量を駆動操作入力部21に入力する。
駆動指令出力部23は、駆動操作入力部21に入力された操作量の大きさに応じた駆動指令を出力する。駆動指令出力部23は、例えばプロセッサやメモリ等を含んでいる。駆動指令出力部23は、例えば予めメモリに記録されたテーブル等に基づき、駆動操作入力部21に入力された操作量に応じた駆動指令の電気信号を生成および出力する。駆動指令出力部23は、車両10全体の制御装置として機能するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)の一部であってもよいし、一部分の構成をECUと共有するようにしてもよい。また、駆動指令出力部23は、後述する操舵指令出力部33や制動指令出力部43と少なくとも一部分の構成を共有するようにしてもよい。
駆動力供給部25は、駆動指令出力部23から出力された駆動指令に応じて、車輪12を回転するための駆動力を生成し出力する。駆動力供給部25は、典型的には、エンジンやモータとなる。図示された例において、駆動力供給部25は、後輪をなす一対の車輪12を連結する車軸14に対して、当該車軸14を回転させる駆動力を出力する。
操舵システム30は、車輪12の向きを調整する駆動力を供給する。図示された例において、操舵システム30は、操舵操作入力部31、操舵指令出力部33及び操舵力供給部35を有している。操舵操作入力部31は、車両10の操縦者が操作を入力する入力部であって、ハンドルを例示することができる。車両10の操縦者は、所望する操舵量の大きさに応じた操作量を操舵操作入力部31に入力する。より具体的には、所望する操舵量が大きい場合には、より大きな操作量を操舵操作入力部31に入力し、所望する操舵量が小さい場合には、より小さな操作量を操舵操作入力部31に入力する。
操舵指令出力部33は、操舵操作入力部31に入力された操作量の大きさに応じた操舵指令を出力する。操舵指令出力部33は、例えばプロセッサやメモリ等を含んでいる。操舵指令出力部33は、例えば予めメモリに記録されたテーブル等に基づき、操舵操作入力部31に入力された操舵量に応じた操舵指令の電気信号を生成および出力する。操舵指令出力部33は、車両10全体の制御装置として機能するECUの一部であってもよいし、一部分の構成をECUと共有するようにしてもよい。
操舵力供給部35は、操舵指令出力部33から出力された駆動指令に応じて、車輪12の向きを変化させるための駆動力を生成し出力する。操舵力供給部35として、油圧回路等を用いて操舵力を増幅して出力する機構を用いることができる。図示された例において、操舵力供給部35は、前輪をなす一対の車輪12を連結するシャフト13に対して、車輪12の向きを変化させる駆動力を出力する。
次に、制動システム40について説明する。本実施の形態において、制動システム40は、制動指令を出力する制動指令出力部43と、制動指令出力部43から出力された制動指令に応じて制動力を出力する制動力供給部45と、を有している。
図示された例において、制動システム40は、ブレーキペダル等の車両10の操縦者が操作を入力する入力部として制動操作入力部41を有している。車両10の操縦者は、所望する制動力の大きさに応じた操作量を制動操作入力部41に入力する。より具体的には、所望する制動力が大きい場合には、より大きな操作量を制動操作入力部41に入力し、所望する制動力が小さい場合には、より小さな操作量を制動操作入力部41に入力する。
制動指令出力部43は、制動操作入力部41に入力された操作量の大きさに応じた制動指令を出力する。制動指令出力部43は、例えばプロセッサやメモリ等を含んでいる。制動指令出力部43は、例えば予めメモリに記録されたテーブル等に基づき、制動操作入力部41に入力された操作量に応じた制動指令の電気信号を生成および出力する。制動指令出力部43は、車両10全体の制御装置として機能するECUの一部であってもよいし、一部分の構成をECUと共有するようにしてもよい。
図1に示すように、制動力供給部45は、制動指令出力部43から出力された制動指令に応じて作動流体を供給する作動流体供給部50と、作動流体供給部50から供給された作動流体を用いて制動力を出力する制動力出力部70と、を有している。図示された制動力出力部70は、作動流体供給部50から供給される作動流体によって動作する制動アクチュエータ71と、制動アクチュエータ71に保持された摩擦部材72と、を含んでいる。制動アクチュエータ71及び摩擦部材72は、各車輪12に別個に設けられている。制動アクチュエータ71は、流体圧シリンダとすることができる。摩擦部材72は、例えばシューとして機能する。摩擦部材72は、回転する車輪12との間で摩擦力を生じさせ、車輪12の回転を制動する。
次に、作動流体供給部50について説明する。図2は、作動流体供給部50の詳細な構成を示している。
図2に示すように、作動流体供給部50は、第1作動流体供給部(供給部)51、第2作動流体供給部(別の供給部)56および通過流体制御部60を、主たる構成要素として含んでいる。第1作動流体供給部51は、制動指令出力部43から制動指令が出力された場合に第1流体(流体)を通過流体制御部60に供給する。第2作動流体供給部56は、制動指令出力部43から制動指令が出力された場合に第2流体(別の流体)を通過流体制御部60に供給する。
図示された例において、第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、電気配線81を介して制動指令出力部43と電気的に接続している。第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、電気配線81を介して制動指令出力部43から制動指令を受信する。
また、図示された例において、車両10は、流体の供給源として機能する流体源15を有している。第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、流体供給管82を介して流体源15に接続している。第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、流体供給管82を介して流体源15から流体、例えば空気等の気体や油等の液体を供給される。また、第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、流体供給管82を介して更に通過流体制御部60に接続している。第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、流体供給管82を介して通過流体制御部60に流体を供給可能となっている。
一例として、流体源15は、制動力出力部70に供給される作動流体が油等の液体である場合には、液体タンク及びポンプを有するようにすることができる。流体源15は、制動力出力部70に供給される作動流体が空気等の気体である場合には、コンプレッサを有するようにすることができる。
第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、制動指令出力部43から並行に制動指令を受信する。また、第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、流体源15から供給された流体を並行して通過流体制御部60に供給する。すなわち、第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56は、並行して設けられた2系統の作動流体供給部を構成している。したがって、第1作動流体供給部51から通過流体制御部60に供給される第1流体(流体)及び第2作動流体供給部56から通過流体制御部60に供給される第2流体(別の流体)は、共に制動力出力部70で制動力の生成に用いられ得る流体であって、典型的には同一である。
ただし、図示された例に限られず、流体源15も二系統準備されてもよい。例えば、第1作動流体供給部51が第1の流体源から流体の供給を受け、第2作動流体供給部56が第1の流体源(流体源)とは異なる第2の流体源(別の流体源)から流体の供給を受けるようにしてもよい。
第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56について更に詳述する。
第1作動流体供給部51は、制動指令出力部43から制動指令を受ける第1制動制御部52と、第1制動制御部52によって操作される第1流体制御弁53と、を有している。第1制動制御部52は、電気配線81を介して制動指令出力部43と電気的に接続している。第1制動制御部52は、電気配線81を介して制動指令出力部43から制動指令を受信する。第1制動制御部52は、電気配線81を介して第1流体制御弁53と電気的に接続している。第1制動制御部52は、電気配線81を介して第1流体制御弁53を操作するための操作指令を第1流体制御弁53に送信する。第1制動制御部52から第1流体制御弁53に送信される操作指令は、電気信号であって制動指令に基づいて生成される。
第1制動制御部52は、例えばプロセッサやメモリ等を含むようにして構成され得る。第1制動制御部52は、第1流体制御弁53に組み込まれた制御部によって構成されていてもよい。第1制動制御部52は、例えば予め用意されたテーブル等に基づき、制動指令出力部43からの制動指令に応じた操作指令の電気信号を生成および出力する。したがって、第1制動制御部52によって生成される操作指令は、図示された例において制動操作入力部41へ入力された操作量を反映するようになる。すなわち、第1制動制御部52は、制動操作入力部41に入力された操作量の大きさに応じた制動指令を出力する。
第1流体制御弁53は、第1制動制御部52からの操作指令に応じて動作する電磁弁である。第1流体制御弁53は、操作指令に応じて開閉する電磁開閉弁であってもよいし、或いは、操作指令に応じて開度を調節可能な電磁比例弁であってもよい。第1流体制御弁53は、流体源15から通過流体制御部60まで延びる流体供給管82上に位置している。第1流体制御弁53は、流体供給管82を開放することで、流体源15から通過流体制御部60への第1流体の流入を許容する。第1流体制御弁53は、流体供給管82を閉鎖することで、流体源15から通過流体制御部60への流体の第1流入を遮断する。
第2作動流体供給部56は、制動指令出力部43から制動指令を受ける第2制動制御部57と、第2制動制御部57によって操作される第2流体制御弁58と、を有している。第2制動制御部57は、電気配線81を介して制動指令出力部43と電気的に接続している。第2制動制御部57は、電気配線81を介して制動指令出力部43から制動指令を受信する。第2制動制御部57は、電気配線81を介して第2流体制御弁58と電気的に接続している。第2制動制御部57は、電気配線81を介して第2流体制御弁58を操作するための操作指令を第2流体制御弁58に送信する。第2制動制御部57から第2流体制御弁58に送信される操作指令は、電気信号であって制動指令に基づいて生成される。
第2制動制御部57は、第1制動制御部52と同様に構成され得る。すなわち、第2制動制御部57は、例えばプロセッサやメモリ等を含むようにして構成され得る。第2制動制御部57は、第2流体制御弁58に組み込まれた制御部によって構成されていてもよい。第2制動制御部57は、例えば予め用意されたテーブル等に基づき、制動指令出力部43からの制動指令に応じた操作指令の電気信号を生成および出力する。したがって、第2制動制御部57によって生成される操作指令は、図示された例において制動操作入力部41へ入力された操作量を反映するようになる。すなわち、第2制動制御部57は、制動操作入力部41に入力された操作量の大きさに応じた制動指令を出力する。
第2流体制御弁58は、第2制動制御部57からの操作指令に応じて動作する電磁弁である。第2流体制御弁58は、第1流体制御弁53と同様に構成され得る。すなわち、第2流体制御弁58は、操作指令に応じて開閉する電磁開閉弁であってもよいし、或いは、操作指令に応じて開度を調節可能な電磁比例弁であってもよい。第2流体制御弁58は、流体源15から通過流体制御部60まで延びる流体供給管82上に位置している。第2流体制御弁58は、流体供給管82を開放することで、流体源15から通過流体制御部60への第2流体の流入を許容する。第2流体制御弁58は、流体供給管82を閉鎖することで、流体源15から通過流体制御部60への第2流体の流入を遮断する。
次に、通過流体制御部60について説明する。通過流体制御部60は、第1作動流体供給部51から供給される第1流体と、第2作動流体供給部56から供給される第2流体と、の合流部を構成している。言い換えると、通過流体制御部60は、第1作動流体供給部51に接続して第1流体を供給する流体供給管82と、第2作動流体供給部56に接続して第2流体を供給する流体供給管82と、の合流部を形成している。通過流体制御部60は、第1流体及び第2流体の少なくとも一方を通過させる。
図示された例において、通過流体制御部60は、ダブルチェックバルブ61によって構成されている。図3に示すように、ダブルチェックバルブ61は、供給された流体が制動力出力部70に向けて流れることを許容する。その一方で、ダブルチェックバルブ61は、その内部に流入した流体が第1作動流体供給部51(第1流体制御弁53)や第2作動流体供給部56(第2流体制御弁58)に流れることを規制する。
具体的な構成として、ダブルチェックバルブ61は、ケーシング62と、ケーシング62内に収容された弁移動体63と、を有している。ケーシング62は、第1流体制御弁53に通じる流体供給管82が接続した第1開口62aと、第2流体制御弁58に通じる流体供給管82が接続した第2開口62bと、制動力出力部70に通じる流体供給管82が接続した第3開口62cと、を有している。第1開口62a及び第2開口62bは、ケーシング62の長手方向に対向して配置されている。弁移動体63は、例えば球体からなりケーシング62内をケーシング62の長手方向に移動可能となっている。弁移動体63は、第1開口62aに向けて押し付けられることで、第1開口62aを閉鎖することができる。同様に、弁移動体63は、第2開口62bに向けて押し付けられることで、第2開口62bを閉鎖することができる。一方、第3開口62cは、弁移動体63によって閉鎖されないように構成されている。
図3に示された通過流体制御部60では、第1作動流体供給部51から供給される第1流体と第2作動流体供給部56から供給される第2流体とのうち、圧力の高い流体のみが第3開口62cを介して制動力出力部70に供給されるようになる。例えば、第1流体の圧力が第2流体の圧力よりも高い場合には、図3に二点鎖線で示すように、第1流体によって弁移動体63が第2開口62b上に押し付けられ、第2開口62bが弁移動体63によって閉鎖される。このとき、作動流体供給部50から通過流体制御部60に第1流体が供給され、この第1流体が制動力出力部70へ供給される。一方、第2流体の圧力が第1流体の圧力よりも高い場合には、第2流体によって弁移動体63が第1開口62a上に押し付けられ、第1開口62aが弁移動体63によって閉鎖される。このとき、作動流体供給部50から通過流体制御部60に第2流体が供給され、この第2流体が制動力出力部70へ供給される。
なお、図3に示された例において、第1流体の圧力と第2流体の圧力が同一である場合、弁移動体63は、ケーシング62内において第1開口62aと第2開口62bとの間に位置する。このとき、第1流体および第2流体の両方が、ケーシング62内に流入し、第3開口62cを介して制動力出力部70に供給されるようになる。
なお、以上の通過流体制御部60を用いる場合、第1流体制御弁53及び第2流体制御弁58の少なくとも一方を調節することや絞りを設置すること等により、通過流体制御部60に供給される第1流体及び第2流体のうちの一方の圧力が、通過流体制御部60に供給される第1流体及び第2流体の他方の圧力よりも低くなるようにしてもよい。このような例によれば、ケーシング62内における弁移動体63の動作を抑制することができ、作動流体供給部50から制動力出力部70へ流体供給を安定させることができる。
また、図6に示すように、ダブルチェックバルブ61が、第1開口62a及び第2開口62bの一方へ向けて弁移動体63を押す押し部材64を有するようにしてもよい。図示された例において、押し部材64は、第2開口62bに向けて弁移動体63を押している。したがって、通過流体制御部60に流体が供給されていない場合や、供給される第1流体及び第2流体の圧力が同一の場合、第2開口62bは弁移動体63によって閉鎖される。したがって、第1流体の供給が、第2流体の供給よりも優先される。通過流体制御部60は、第1流体の圧力と第2流体の圧力とが同一の場合、第1流体のみを制動力出力部70に流入させる。この例では、第2流体の圧力が、押し部材64によって弁移動体63を押す力に対応した値以上、第1流体の圧力より大きくなった場合、第2流体が通過流体制御部60を通過して制動力出力部70に供給される。このような例においても、ケーシング62内における弁移動体63の動作を抑制することができ、作動流体供給部50から制動力出力部70へ流体供給を安定させることができる。
ところで、図2に示すように、制動システム40は、異常検出部75を有している。異常検出部75は、第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56の異常を検出する。さらには、異常検出部75は、制動システム40の異常を検出し得るようになっていることが好ましい。図示された例において、異常検出部75は、第1作動流体供給部51に関する異常の有無を検出する第1異常検出部76と、第2作動流体供給部56に関する異常の有無を検出する第2異常検出部77と、を有している。第1異常検出部76及び第2異常検出部77は、それぞれ、検出器78と電気的に接続している、或いは、検出器78と無線で通信可能となっている。第1異常検出部76及び第2異常検出部77は、検出器78によって検出される異常の有無に関する情報に基づき、異常の有無を判断する。
例えば異常検出部75は、制動指令出力部43から制動指令が出力された場合に、通過流体制御部60への第1流体の流入の有無および通過流体制御部60への第2流体の流入の有無を監視するようにしてもよい。このとき、流体の流入の有無は、一例として、流体供給管82に設けた圧力センサ(検出器)を用いて監視することができる。
また、異常検出部75は、制動操作入力部41が操作された際に、制動指令出力部43から第1制動制御部52及び第2制動制御部57の両方への制動指令の有無を監視するようにしてもよい。さらに、異常検出部75は、制動操作入力部41が操作された際に、第1流体制御弁53及び第2流体制御弁58の両方への操作指令の有無を監視するようにしてもよい。さらに、異常検出部75は、第1制動制御部52及び第2制動制御部57の稼働状態を監視するようにしてもよい。指令の有無や稼働状況の確認は、例えば、電流の変化に基づいて判断することができる。
異常検出部75は、第1制動制御部52及び第2制動制御部57と電気的に接続している。異常検出部75は、異常を検出した場合、第1制動制御部52及び第2制動制御部57に異常の存在を知らせ、異常を有する作動流体供給部から通過流体制御部60への流体供給を停止させるようにしてもよい。また、異常検出部75は、異常を検出した際に、制動システム40よりも上位の制御系、例えば車両10全体の制御装置として機能するECUに異常の発生を通知し、さらに異常の存在が警告灯によって表示されるようにしてもよい。
次に、以上の構成からなる制動システム40の動作について説明する。
まず、車両10の操縦者が、制動操作入力部41に操作を入力する。このとき、操縦者は、車両10の車輪12に作用させたい制動力の大きさに応じた操作量を制動操作入力部41に入力する。制動指令出力部43は、制動操作入力部41への操作を検出する。制動指令出力部43は、制動操作入力部41に加えられた操作量に応じた制動指令を生成し、制動力供給部45の作動流体供給部50に制動指令を送信する。このとき、制動指令出力部43は、作動流体供給部50の第1作動流体供給部51及び第2作動流体供給部56の両方に制動指令を並行して送信する。
また、制動指令の有無によらず、流体源15から第1作動流体供給部51の第1流体制御弁53及び第2作動流体供給部56の第2流体制御弁58に向けて流体が並行して供給されている。
そして、第1作動流体供給部51の第1制動制御部52は、制動指令出力部43から送信された制動指令に応じた流量、圧力で第1流体を通過流体制御部60に供給し得るよう、第1流体制御弁53に操作指令を送信する。第1流体制御弁53は、第1制動制御部52からの操作指令に応じて流体供給管82を開放する。このようにして、第1作動流体供給部51は、流体源15から供給された流体を第1流体として通過流体制御部60に供給する。
同様に、第2作動流体供給部56の第2制動制御部57は、第1制動制御部52と同様の制動指令を制動指令出力部43から受信している。第2制動制御部57は、制動指令出力部43から送信された制動指令に応じた流量、圧力で第2流体を通過流体制御部60に供給し得るよう、第2流体制御弁58に操作指令を送信する。第2流体制御弁58は、第2制動制御部57からの操作指令に応じて流体供給管82を開放する。これにより、第2作動流体供給部56は、流体源15から供給された流体を第2流体として通過流体制御部60に供給する。
通過流体制御部60は、第1作動流体供給部51から供給される第1流体および2作動流体供給部56から供給される第2流体のうちの少なくとも一方を制動力出力部70に供給する。図4に示された例では、通過流体制御部60内において、弁移動体63によって第2流体の流路が閉鎖されている。結果として、第1作動流体供給部51から供給された第1流体が、通過流体制御部60を通過し、作動流体供給部50から制動力出力部70へと流体供給管82を介して供給されている。
制動力出力部70は、作動流体供給部50から供給された作動流体を用いて、制動力を生成し出力する。図示された例において、制動力出力部70は、作動流体によって動作する制動アクチュエータ71によって、摩擦部材72を車輪12に押し付ける。摩擦部材72と車輪12との接触により、車輪12の回転を制動する摩擦力が生じる。
次に、図5を参照して、作動流体供給部50に異常が生じた際の動作について説明する。以下の説明においては、図4を参照して上述した第1作動流体供給部51から通過流体制御部60に供給された第1流体が制動力出力部70に供給されている状態において、第1作動流体供給部51に異常が発生した場合を想定している。
図5に示された例において、第1作動流体供給部51に異常が発生し、第1作動流体供給部51から通過流体制御部60へ所望の圧力や所望の流量で第1流体を通過流体制御部60に供給することができなくなっている。ただし、通過流体制御部60には、第1作動流体供給部51からの第1流体だけでなく、第2作動流体供給部56から第2流体が供給されている。第1作動流体供給部51の異常にともなって、第1流体の圧力が低下すると、第2流体が押し部材64を第1開口62aに向けて押す。これにより、第1開口62aが閉鎖されるとともに第2開口62bが開放され、第1流体に代えて、第2流体が通過流体制御部60を通過する。すなわち、作動流体供給部50は、第1流体に代えて、第2流体が制動力出力部70に供給されるようになる。第1流体から第2流体への切り替えは、第1流体の圧力が維持され得なくなった瞬間に実施される。つまり、第1作動流体供給部51からの第1流体の供給が停止した後、第2作動流体供給部56の第2制動制御部57の電気的な立ち上がりや第2流体制御弁58に流体が充填されることを待つ必要がない。
とりわけ図示された例において、通過流体制御部60は機械的な構造で流路を変化させることができる。つまり、異常検出部75による異常の検出、及び、異常検出部75からの信号に基づく第1作動流体供給部51からの第1流体の供給停止を待つことなく、第1流体に代えて第2流体の供給を開始することができる。
以上に説明してきた一実施の形態において、制動システム40は、制動指令を出力する制動指令出力部43と、制動指令が出力された場合に流体を供給する供給部(第1作動流体供給部)51と、制動指令が出力された場合に供給部51から供給される流体とは別の流体を供給する別の供給部(第2作動流体供給部)56と、供給部51及び別の供給部56に接続し、流体及び別の流体が供給された際に流体及び別の流体の少なくとも一方の流体を通過させる通過流体制御部60と、通過流体制御部60に接続し、通過流体制御部60から供給される少なくとも一方の流体を用いて制動力を出力する制動力出力部70と、を有している。このような一実施の形態によれば、制動指令の出力にともなって、供給部(第1作動流体供給部)51から流体が通過流体制御部60に供給され、供給部51とは別の経路で別の供給部56から別の流体が通過流体制御部60に供給される。すなわち、制動指令が出力されると、制動力出力部70に接続した通過流体制御部60に二経路で流体が並行して供給される。供給部51及び別の供給部56の両方が同一の制御指令に基づいて動作を開始するので、供給部51及び別の供給部56の一方の異常が検出された後に他方の動作を開始させるシステムと比較すると、電気的切り替えにともなった遅れ及び流体の流動にともなった遅れを効果的に低減することができる。これにより、供給部51及び別の供給部56の切り替え時に、制動力出力部70から制動力の発生が遅れてしまうことを効果的に防止することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、通過流体制御部60は、流体及び別の流体のうち高圧の流体のみを制動力出力部70に流入させるようにした。この例によれば、供給部51、別の供給部56および通過流体制御部60における流体の流れや流体量を安定させることができ、制動システム40の信頼性を向上させることができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、通過流体制御部60に供給される別の流体の圧力は、通過流体制御部60に供給される流体の圧力よりも低く設定することができる。この例によれば、通過流体制御部60の動作を安定させることができ、制動システム40の信頼性を向上させることができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、通過流体制御部60は、流体の圧力と別の流体の圧力とが同一の場合、供給部51からの流体のみを制動力出力部70に流入させるようにした。この例によれば、通過流体制御部60の動作を安定させることができる。また、このような通過流体制御部60は、押し部材64により定位置を有するダブルチェックバルブ61(図6参照)を用いて、簡易且つ安価に実現することが可能である。また、制動力出力部70に流入する流体量を安定させることができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、通過流体制御部60はダブルチェックバルブ61を含むようにした。この例によれば、通過流体制御部60を簡易な構成とすることができ、且つ、供給部51、別の供給部56および通過流体制御部60における流体の流れを安定させることができる。また、制動指令やその他の電気信号から独立して機械的に動作するので、供給部51及び別の供給部56を順次動作させる場合と比較して電気的切り替えにともなった遅れを効果的に解消することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、制動システム40が供給部51および別の供給部56の異常を検出する異常検出部75を有し、異常が検出された供給部51,56から通過流体制御部60への流体の供給が停止するようにした。このような例によれば、流体源15から供給される流体を有効に活用することができ、制動を安定して実施することができる。また、異常を生じさせた供給部51,56に起因した意図しない不具合の拡大を効果的に防止することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、異常検出部75は、制動指令が出力された場合に、通過流体制御部60への供給部51からの流体の供給の有無および通過流体制御部60への別の供給部56からの別の流体の供給の有無を監視する。このような例によれば、いずれか一方の供給部から液体を供給している間に、他方の供給部の異常の有無を監視することができる。したがって、異常検出部75を用いて供給部51及び別の供給部56に生じた異常を迅速に検出することが可能となる。
具体例を参照しながら一実施の形態を説明してきたが、具体例が一実施の形態を限定することを意図していない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施されることが可能であり、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加等を行うことができる。
以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した具体例と同様に構成され得る部分について、上述の具体例における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いるとともに、重複する説明を省略する。
上述した具体例において、車両10は、操縦者によって操縦される例を示したが、これに限られない。車両10は、自動制御による自動運転が可能な車両であってもよい。また、車両10は、自動制御による自動運転及び操縦者による通常運転の両方が可能な車両であってもよい。上述した制動システム40は、作動流体供給部を二系統有し、且つ、作動流体供給部の切り替えを迅速に実施し得ることができることから、自動制御による自動運転が可能な車両10に対して好適である。
ここで、本明細書において「自動制御」とは、車両に乗車した人間による逐次の操作入力ではなく、外部から通信機器92を通じて受信した情報やセンサ91から受信した情報、及び、予め入力された情報に基づいた制御を意味する。
図7は、自動運転及び通常運転の両方を可能とした車両10の一例を示している。図7に示された車両10は、車両10の各構成を自動制御する自動制御部90を有している。図7に示された車両10において、自動制御部90は、駆動システム20、操舵システム30及び制動システム40と電気的に接続している。自動制御部90は、駆動システム20の駆動指令出力部23、操舵システム30の操舵指令出力部33、制動システム40の制動指令出力部43に対して、操作量に関する信号を送信するようになっている。
自動制御部90は、演算部90a及び記録部90bを有している。記録部90bは、出発地、目標地、予定経路、目標速度、天候等の、自動制御による自動運転に利用され得る種々の情報を記録している。演算部90aは、センサ91や通信機器92から取得した逐次入手される情報や、記録部90bに予め記録された情報等に基づいて、駆動システム20、操舵システム30及び制動システム40等を制御する。
自動制御部90の演算部90aは、プロセッサやメモリを含んで構成される。自動制御部90は、車両10全体の制御装置として機能するECUの一部であってもよいし、一部分の構成をECUと共有するようにしてもよい。また、自動制御部90は、駆動指令出力部23、操舵指令出力部33及び制動指令出力部43と少なくとも一部分の構成を共有するようにしてもよい。あるいは、自動制御部90は、駆動指令出力部23、操舵指令出力部33及び制動指令出力部43とは別途に、これらの対応する構成を有するようにしてもよい。
また、上述した車両10は、図8に示すように、他の車両とともに隊列走行する車両群100を構成するようにしてもよい。隊列走行する車両群100の先頭車両10Aは、操縦者による通常運転で走行する車両であってもよいし、自動制御による自動運転で走行する車両であってもよい。一方、先頭車両10Aに後続する後続車両10Bは、自動運転する車両であることが好ましい。上述してきた車両10を、先頭車両10A及び後続車両10Bのいずれとしても用いることができる。隊列走行する各車両10A,10Bは、他の車両の走行に関する情報を通信機器92を介して取得しながら、例えば一定の車間距離を維持しながら走行する。このとき、自動制御部90は、車両10と隊列を編成する他の隊列車両の走行に関する情報に基づいて制動システム40を制御する。上述した制動システム40は、作動流体供給部を二系統有し、且つ、作動流体供給部の切り替えを迅速に実施し得ることができることから、自動制御による自動運転を前提とした隊列走行を行う車両群100に対して好適である。
さらに、既に説明したように、制動システム40に使用される作動流体は、空気等の気体であってもよいし、油等の液体であってもよい。これに対応して、制動力出力部70として、空圧等の気圧アクチュエータを用いることができ、また油圧等の液圧アクチュエータを用いることもできる。